Coolier - 新生・東方創想話

魔女二名の大魔法研究(賢者つき)

2013/02/13 20:53:49
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※過去10作品の最後のお話で、「変装異変」~「不良天人の汚名返上(?)」の流れと、そのIF展開を繋げる、という意味合い上、当たり前のように「あの時に違う選択をした、別の世界が存在する」という事になっています。


 八雲紫の家を訪ねてくる者は少ない。
何かあれば、概ね紫の方から出向いている、という事情もあるが、どこなのか知っている者が少ないという理由もある。
故に、訪れた客人は意外な相手だった。
「魔女が二人で、何の用?」
「ちょっと貴女に許可をもらいたくてね……幽々子にお願いして、連れてきてもらったのよ」
 アリス・マーガトロイドと、パチュリー・ノーレッジ……二人はそれぞれ一冊ずつ、魔導書を携えている。
 そして二人の後ろに、隠れるようにしていた幽々子が、ひょこっと顔を出した。
「許可、ねぇ……とりあえず、立ち話も難だし、あがって頂戴」

 居間に通し、藍がお茶を用意してきて、一礼して退出してから……
「私はもう、どういった用件かは聞いてるから、黙って見てるわね。 ……と、その前に、藍ー、お願いがあるのー」
 幽々子は藍を呼びながら、部屋を出て行った。
(来てすぐだというのに、慌しいわね……どうせお茶請けを、増やしてもらいに行ったのでしょうけど)
 頬を緩め、その背を見送る。
「で、許可、とはどういう事かしら?」
 紫はアリスとパチュリーを見やると、アリスが答えた。
「この間の大宴会……あれの準備で、私達が協力すると凄い事が出来る、と解ったでしょ?」
「そうね、ああいった経験は無かった事だし、みんな驚いたんじゃないかしら」
 紫がそう言うと、続く言葉はパチュリーが述べた。
「だから私達も、魔法使いとして興味を持ったのよ。 私達がそれぞれの持つ能力を用いて協力したら、どれ程の魔法が用意できるのか、と」
「私達の能力を用いる、というのであれば、それは危険を伴う効果の魔法になる……」
 紫が言うと、アリスもパチュリーも、頷いてみせた。
 例えば幽々子の死を操る能力を、魔法化し、誰でも使えるとしたら……
そういった重大な例に限らず、更に、こいしの能力を同様に出来た場合、大図書館から本が失われていく事だろう。
「……当然ながら、おいそれと許可を出せるものではないけれど、それでも来たからには、既に妥協するつもりがあるのね」
「ええ、私達は飽くまで「みんなの能力を使って、どこまでの事を魔法で出来るか」を「知りたい」だけ。 作って、完成して、使える事が解ったら、研究の一切を封印したっていいわ。 この事が危険だとは、解っているし」
「とはいえ、指標もなしに「どこまでの事を」と追求するのも愚かな行為。 私とアリスで相談して、貴女に許可を得て、ひいては頼る上で、向いてそうなものはと考えたのよ」
 アリスとパチュリーは、それぞれ持っていた本を、紫にむけて差し出し、開いた。
「私達の目指す魔法、それは……「時を超える魔法」よ。 いかにも大魔法って感じでしょ?」
 開いて差し出された本を、それぞれパラパラと眺める紫。
 パチュリーが組み立てた理論を、アリスが実用に向けて、どのようにしていくか、それぞれ考えて協力した事が、所々にあるメモから読み取れた。
「まだ全く手をつけていない、というわけではないのね」
「ええ、出だしの一歩程度は、既にやってるわね。 ここじゃ見せられないし、外に出てもらえる?」


「あれ? みんな……あ、外ね」


「これに、魔法が込めてある」
 と、言ってパチュリーが取り出したのは、小瓶に入った小石が二種類。
「こっちがパチュリーの水魔法で、こっちが白蓮の身体強化魔法ね」
 両方の石は光っていて、その色は違う……しかしそれで見分けるのは危険なのか、小瓶にはどちらのものか、名前のラベルが貼ってあった。
「まず、普通に私の魔法を解放すると……」
 水流を噴き上げる魔法が発動し、水柱が立った。
 誰かの近寄る気配を察し、紫がその方向を見やると、幽々子がやってきて隣に立った。
「これに、例の理論……構成済みの魔法に対する、要素の整列と……そこから特定部分を、抜き出して使用する干渉を用いて、白蓮の魔法を私の魔法に向けて組み込む。 ちまちま魔法陣描いてもいられないし、こっちもこれで」
 更に取り出した小瓶から、小石を取り出す。
新たに取り出した小石から、光が伸びて白蓮の魔法の石と繋がった。
そこから更に、パチュリーの石と光が繋がる。
「こうして開放すると……」
 先程より大きな水柱が噴き上がった。
「白蓮の魔法から、「強化する」という意味を持った魔力を抽出し、私の魔法に影響させて、こうなる」
「能力同士を重ね合わせて、過去や未来と繋ぐ魔法を作ろうというのね」
 紫の言葉に、アリスは頷く。
「ええ、でも、そんなものをこういう形で、魔法を開放すれば使える、という状態まで持って行くのは、当然駄目でしょ? だから、最終的には「貴女の許可が要るんだから、貴女にしか扱えない、或いは貴女が居なければ実現出来ない形にする」という結論に至ったの。 そうすれば、危険は減るしね」
「どういった形を考えているの?」
 問いかけると、アリスは難しい顔をした。
「魔法化した能力で、って考えてるから……なんとかして、貴女の能力を鍵とし、それがなければ機能しないようにしたいわね」
 いまいちはっきりしない答え、どうやらそこまではまだ、考えていなかったようだ。
「実演は終了した事だし、突っ立ってないで部屋に戻るわよ」
 パチュリーが仕切って、一同は室内に戻った。

 開いた魔法書を前に話を再開、しようとして。
「上手く言いくるめたのね」
 幽々子のお茶菓子が増えていた。
「一応お客さんだし、妖夢より与し易かったわ」
「まぁ……この、あわよくばお菓子を食べにと、ついてきた亡霊は置いておく事にして、続きといきましょうか」
「魔法ではなく能力を込めるというのは、まだ試していないから、出来るかどうかは解ってないわ。 私や白蓮のは魔法だから、こうして難なく魔法石に出来たけど……」
アリスもパチュリーも魔女であり、そのアプローチの仕方は魔法の観点だ。
幻想郷の面々の能力は、むしろ「魔法」で行っていない者が多い。
「目処は立っているの?」
「うーん、一応はね……でも、今の所は能力そのものを込める、ってだけなのよ。 組み合わせて影響させるんだから、魔力的な定義に再構築する必要があるわね……」
 アリスの言葉を受け、紫はその意味を考える。
「能力そのものに対しては、さっきの干渉の魔法とやらは効果がなく、擬似的にでも、魔法と同じ仕組みにしなくてはならないのね」
「効果が無い、というよりは、どうなるかまだ解らない、という方が正しい。 思いも拠らぬ影響が出る可能性もあるわ。 だから、能力自体を魔法石にしたものを使う線は捨てて、なんとか「能力を魔法に転換した上で、魔法石に込める」方を追求しなくてはならない」
 如何に賢者といえども、管轄外の知識はパチュリーが上を行くようだ。
「で、そっちの目処は?」
「難しいわね……誰かに協力してもらって、出来たとしても、杓子定規にその方法を当てはめて、成功する保証は無いし」
 アリスは腕組をして考える、紫は少し考えてから提案した。
「霖之助を頼れば、なんとかなるんじゃないかしら?」
「……!? そ、そうね、彼なら魔法でないものを利用したマジックアイテムも……って、助言をくれるって事は、いいの?」
「ええ、私の監視つきを条件に、ね。 とりあえず先に行ってて頂戴、後から追いかけるわ」
 後から、という言を聞いて、アリスが怪訝そうにしたのを見て、紫はすぐに言葉を続けた。
「珍しくお客さんなんて来たから、お菓子が一気になくなったのよ。 藍に他に買う物がないか聞いて、ついでに買い物してから行くわ」

 嬉しそうに帰っていくアリスとパチュリーを見送り……
「無断でやられるより、見ていられる方が良いものね……連れてきてくれて、有難う」
 居座って、ややぬるくなったお茶と、増えたお茶請けを、ゆっくり堪能している幽々子にそう告げた。
「あの子達なら、貴女に駄目と言われれば、やめてたでしょうけど」
「あの子達は、聞き分けの良い部類だけどね……最初から一つも許さずに抑えていては、知られぬようにと事を進め、それでいて危険な何かが……出てくるかもしれないでしょう?」
 幽々子はお茶を啜って、小さく息をつく。
「失敗させるつもりなの?」
「いいえ、意図的にそうはしないわね。 失敗なら、それはそれで利用させてもらうけれど、成功に至るようなら、危険を訴える方向で行くわ。 そういう意味では、あの子らの目標は、向いているわね」

 その後紫は、同行したがった幽々子を連れ、里でお菓子や、食材・調味料の類を少し買ってから、香霖堂へと向かった。

 香霖堂では、アリスとパチュリーがそれぞれ、店の品物を眺めていた。
「あ、来たわね」
「それじゃ、本題に入るわよ」
 用件は既に聞いていたのか、霖之助は紫と幽々子の登場にも、別段変わった反応は示さなかった。
幽々子が会釈をし、紫と霖之助もそれに倣う。
「僕のマジックアイテムについてだが……君達なら魔理沙のミニ八卦炉、あれには炉の一角から風が吹く機能がある事も、知っているだろう?」
「ええ、知っているわ」
 アリスは頷きつつも答えた。
対してパチュリーは、特に反応しない。
「その機能を搭載するのに、外の世界のそういう用途のアイテムを、溶かして混ぜ込んでいるんだ」
「すると、能力をそのまま封じ込めた魔法石も、結界の中で高圧にかけながら、溶かして未定義の魔力と混ぜ込めば……」
 早速パチュリーは方法を思いついたようだ。
「ああ、出来るんじゃないかな。 でも、よく馴染ませないと、暴発の危険性もあるだろうね」
「まずは、失敗しても危険の少ない能力からにして、計測出来る環境を整える必要があるわね……」
 早くもパチュリーの独壇場だ。
「少しの取っ掛かりで、すぐさま方法を見つけたのね、流石は大図書館と評されるパチュリーだわ」
 幽々子がアリスに向け、そう言った。
「そうね、ほんとに頼りになるわ」
 アリスは涼しい顔でそう答える。
「先を行かれてるようで焦ってしまう……などという事はないの?」
 紫の意地の悪い質問にも、表情は崩れない。
「焦る程の事ではないわ。 それに今回は協力だし、むしろ有り難いくらいよ」

 香霖堂での会話を終えて、外に出てから……
「危険のない能力、貴女達は誰に白羽の矢を立てるのかしら?」
 紫はアリスとパチュリーに尋ねる。
「危険でなく、魔法以外の力となると……」
「竹林ね」
 今度はアリスの答えが早い、その回答から浮かんだ人物の元へ、紫はスキマを開いた。

「精が出ているわね」
「のぉっ!? 大物が引っかかりに来た!?」
 永遠亭ではなく、竹林の中。
落とし穴を掘り終えたようで、スコップ片手に辺りを見渡していたてゐの元へ、一行は現れた。
「ありゃ、凄い面子だね。 賢者に、亡霊に、魔女二人。 なんか凄い魔法でも作るの?」
 それぞれを指さしながら、尋ねるてゐ。
「それ程大仰なものではないわ」
「この間の宴会の件に触発されて、私達が協力して研究したらどこまで出来るか、と、追及してるのよ。 それで目標は、能力を込めた魔法石を作る事」
 実際よりも、スケールダウンした目標を、アリスは語る。
「そんな扱いやすい物を完成させるのは、危険だからと、賢者の監視つきを条件に、やらせてもらってる」
「ほー」
 次いだパチュリーの説明に、てゐはスコップに乗せた手の甲に、顎を乗せつつ一行を見やった。
「亡霊は、ただの暇つぶし?」
「ええ、紫の家までの案内役兼、観客よ」
「ふむふむ」
 てゐは少し考えてから言葉を続けた。
「それってさ、成功したらやっぱり、なかった事にすんの?」
「そのつもりよ。 私達はただ「知りたい」だけだもの。 こんな危険な研究は残せないわ」
「ありゃ、残念。 ブン屋のをちょっと、分けてもらいたかった所だけど……うーん……スキマ妖怪まで出てきてる事だしねぇ……大人しく協力するし、報酬にその成果を、というのも諦めるけどさ……代わりになんかくれない? ただ働きは、姫様やお師匠様でお腹いっぱいだよ」
 いつもの調子なら、目的の魔法石について、食い下がって交渉している所だろう、しかし今回のてゐにはそれがない。
危険性はてゐも察しているようだ。
「じゃあ、これはどう?」
 先程の実演に用いた魔法石を、てゐに手渡すパチュリー。
「能力じゃなくて、普通の魔法を込めた石。 水脈を操って、水柱を噴き上げる魔法が入ってるわ」
「ふんふん、どう使うの?」
「魔法の心得がない場合は、投げて叩きつけ、壊すしかない」
 てゐは小瓶を手に、少し考えたが……
「まぁ、ごねても良い事はないね、もらえるだけ有り難いと思う事にするよ」

 てゐからは、協力の意をもらったのみで別れ、一行は魔法の森・アリスの家へと移動した。
早速パチュリーが、香霖堂で思いついた方法をまとめだしたが、静かにやりたいという希望により、一室を借りて篭っている。
 アリス・紫・幽々子の三人は、お茶を飲みながら、その完成を待っていた。
「美味しいお茶とお菓子を、二度も頂けるなんて」
 あからさまに目的が、他の面々とは違う幽々子、御満悦といった表情だ。
「悪いわね、アリス」
「いいえ、パチュリーがああいう状況だし、ただ待ってなきゃいけないのに比べれば、貴女達が居てくれた方が助かるわ」
 方法を模索する段階では、アリスよりパチュリーの方が得手とする分野であり、その上、「基本的に、一人で考えてる方が捗る」らしい。
 現時点でのアリスの出番は、実践段階について、時折パチュリーが行き詰った場合に補助する程度、となる。
「ところで、魔理沙は関わらせないの?」
 お菓子を頬張りつつ、幽々子が尋ねた。
「こうも複雑な事だと、手伝ってもらえる部分も少ない事だしね」
「机に向かって、ああでもないこうでもない、ってするのは嫌がりそうねぇ」
 笑いながら言う幽々子、アリスは肩をすくめて続ける。
「落ち着きがないのよねぇ」
「でも、貴女達二人だけで、出来そうなの?」
 紫はアリスへ助け舟を出した。
「というよりも、二人で駄目だったら諦めるつもりよ。 他の魔法使いと言っても、研究熱心なのはいないし……それに、規模を大きくすると、紫も抑えにくいでしょ?」
「そうね、許可を出したのは貴女達だけだから。 最初からもっと大規模であったなら、危険であるという事を理由に、やめさせていたわね」

 ……夕方頃になっても、パチュリーは――アリスへの質問を除いて――部屋から出て来る事はなかった。
一旦解散となり、翌日……

 朝、珍しく早くから、幽々子が紫の元を訪ねてきた。
「管理と、妖夢の事は大丈夫なの?」
 どちらについても、おろそかにしているなどという事は当然無い、そう確信しつつも、紫は社交辞令として尋ねる。
「管理は夜のうちに、急ぎの件から済ませてるわよ。 妖夢は自由なお仕事の時間」
「問題無しね」
 紫が確認すると、アリスとパチュリーは同じ場所に居た。
「まだ行かない方が良さそうだけど、ちょっと見てみようかしらね」

スキマを開いて移動すると、アリスの家と似ているようで、違う場所。
(自宅で扱うに向かない作業をする小屋、といった所かしら……)
「……寝てるわね」
 幽々子が囁く、部屋の隅で縮こまるようにして、アリスが眠っていた。
一方パチュリーは、対角の隅っこで、本を読んでいるようだ、紫と幽々子に気付いて片手を上げた。
机や本棚等があるが、部屋の隅の方に極力寄せられている。
 出来るだけ広く取られたスペースを、目一杯使うようにして、いくつもの魔法陣があった。
「パチュリーが出した結論を、明け方まで頑張って完成させた、って所でしょうね」
 紫はスキマでパチュリーのそばまで行き……
「アリスが寝てる事だし、一旦帰って、少し経ったらまた来るわ」
 一声かけると、パチュリーは本から視線をあげた。
「貴女達が来たら、起こして構わないと言っていたわよ?」
「ちょっと驚かせようと思ったのよ」
「ふーん、まぁ、何するつもりなんだか知らないけど、待ってるわ」

スキマで移動した紫と幽々子、出た先は紫の家の台所だった。
「頑張ったみたいだし、ちょっと労ってあげましょ」
「紫お手製の朝ごはんね、羨ましいわ」
 笑みを浮かべる幽々子、紫はその頭を軽くはたいた。
「他人事みたいに言わないの、貴女も作るのよ」
「えー、パチュリーには必要ないんだから、貴女が一人分作れば足りるでしょう?」
 紫が言い聞かせるように言って、幽々子は不満げな声を漏らす。
「そう言わないの、きっと貴女好みの展開になるわよ?」
「……たまには素直にしてみたら?」
 焚き付けるような言葉も、面倒臭がっている今の幽々子には効果がなく、逆に反撃されてしまった。
「さて、何の事でしょうね」

 紫から藍に事情を説明し、二人で朝食を作る事になった。
「そういった事なら、私が用意しましょうか?」
 と、藍は言ったものの……
「私達が彼女らを労うのだから、貴女に作ってもらうわけにはいかないわ」
 そう言って、断った。
 三角巾と割烹着姿になって、準備を済ませる。
紫はお粥を、幽々子は味噌汁・卵焼き・漬物・海苔――但し漬物は紫宅の藍製で、海苔は里で買った外の世界の品――を用意した。
「……」
「どうしたの?」
 紫は幽々子の用意した朝食のお盆を、まじまじと見つめる。
「ずるいわよ幽々子、藍が丹精込めて作った漬物と、市販品で二品も追加するなんて」
「そうは言っても、味噌汁と卵焼きだけだなんて寂しいじゃない。 それに、使っていいって、藍も言ってたんでしょう?」
 そこを突かれては、紫も反論し辛い所。
「さっきまで不満そうにしてたし、もっと簡単に済ませるかと思ったわ……」
「やる事になったんだから、折角だし、美味しく食べて欲しいもの」
 然しもの賢者も、気分次第で事を楽しみ・面倒臭がるこの友人の振る舞いに対しては、往々にして読みを外すようだ。

再びアリス・パチュリーの元へと移動。
「……成程、貴女達がそんな事をするなんて、確かに驚きね」
 言葉に反して冷静に言うパチュリー、アリスに近寄り、体を揺さぶる。
「アリス、起きて、朝食宅配サービスが来たわよ」
「ん……? 朝食宅配? 何そ……」
 上体を起こしたアリスは、床に手をついたまま固まった。
呆気に取られた表情のまま、片手で頬をつねる。
「夢じゃない? え? あれ? さっき何か失敗……? いえ、これは完成しただけで試してな……あれ?」
「ほら、楽しいものが見られたでしょう?」
 珍しく本気で混乱するアリスを見て、紫と幽々子は笑い合った。
「えーっと……どういう風の吹き回し?」
「夜を徹して頑張ったようだから、ちょっと労おうと思ったのよ、私達は監視と観客なんて言って、見てるだけ……それでは冷たいもの」
 混乱が尾を引いている様子のアリスへ、紫はそのように答える。
「……悪いけど、貴女にそう言われても、何か裏がありそうに思えてしまうわね」
「紫ったら、いつも何か企んでるせいで、疑われてしまうのねー」
 幽々子が軽い声音で茶化した。
「貴女がそう言っても、説得力無いと思うわよ?」
「あら、心外ね」
「そんな事より、貴女達、どっちがいい?」
 紫は、お粥の入った土鍋を差し出すようにした。
それに倣って幽々子も、お盆を差し出す。
「アリス、貴女から選んでいいわよ。 貴女は魔法使いらしからぬ過ごし方も、楽しんでいるんだし」
「え? そう? じゃあ……幽々子の方で」

「……ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
 手を合わせて頭を下げるアリス、幽々子はにこやかに返事を返した。
「どうだった?」
「美味しかったわ、特にお漬物」
「幽々子が作ったものより、藍の漬物の方がお気に入りだったわけね」
 ニヤニヤしながらの紫の言葉、アリスはばつが悪そうな顔をする。
「そうだったの? 言われてみれば、冥界じゃ漬物は作りにくいんだし……ごめんなさいね」
「いいのよ、藍の漬物が美味しいのは確かだし」
 二人のやり取りをよそに、紫はパチュリーの方へ向き直った。
「貴女はどうだった?」
「体の内側から温まって、活力が湧いた心地ね。 おかげで作業も捗りそうよ」
 味については触れられなかった。
「……そ、そう、ならいいんだけど」

 紫が食器を自宅へと戻し、作業の進捗の説明が始まった。
「昨日パチュリーがまとめた理論に基づいて、能力を魔法石に封じ込めるための、魔術回路を構築したの」
「まぁ大雑把に言うと……能力そのものを、魔力でコーティングして、閉じ込めた形の魔法石……それを溶かして、魔力と混ぜ合わせて、魔法にするっていう仕組みね」
 既に用意されている魔法陣、それらは淡く光を放っている。
「魔法石は壊すと、その効果が発動するんだったわね。 その対応は?」
「中央の魔法陣に、石を入れて作業する事になるけど、ここには強固な結界を張るわ」
 中央の魔法陣は、壁のように薄い光の幕を発生させている。
更に、他の魔法陣よりも光が少し強い。
「結界の崩壊がありうるとしたら、今の所は、能力がもたらす影響力に対して……結界強度が脆い場合・注ぐ魔力が弱すぎた場合と見ているわ。 これについては……正直、未知数。 一応は、内部が安定しているか、危険か、解るように測定機構をつけてはいるけど……」
 パチュリーの表情は暗い、そこへアリスが補足した。
「結局それも、やってみないと解らないのよ。 何たって、こういう事は経験がないんだから」
「つまり、試験作動が必要、と……彼女の能力を、何段階かの強さで、魔法石に出来ると良さそうね」
 方針が決まり、一行はてゐの元へと移動する……

てゐは竹林を歩いていた。
スコップなど、荷物は持たずに、てぶらで悠々と歩いている。
「散歩中に悪いけど、お邪魔するわ」
「ん? もう出来るようになったの?」
「出来るかどうか、試しに来たの」
 パチュリーがそう告げると、てゐは「大」の字のようなポーズを取った。
「さぁ、煮るなり焼くなり好きにしろー」
「煮もしないし、焼きもしないわよ」
 アリスが魔法陣を手早く描いて行く一方、パチュリーは土属性魔法の宝石で、テーブル状の物を作り、その上に魔法石の素材を並べだした。
「よく解らないけれど、見てて綺麗で楽しいわねー」
 話についていけない幽々子が、趣旨を外れた感想を漏らす。
アリスは二つの魔法陣を描き終えた。
「ここに立ってくれる?」
「あいよー」
 アリスの指し示した魔法陣の中央、そこにてゐが立つ。
「まずはこの辺で」
「え? いきなりそれ?」
 パチュリーが大き目の石を取りあげ、アリスは確認するように問う。
「まずは確実な成功が要るわ。 ちょっともったいないけど」
「そうね、上手く行ったら、もうちょっとコストを下げましょうか」
 パチュリーは更に小瓶を取り出した。
中の石をアリスに手渡し、そしてまた小瓶を取り出すと、その中身は自分で手に取る。
 パチュリーが石を手に、少し呪文を囁くと、素材の石が立方体状の結界に囲われた。
 それをてゐの正面の空中に設置する。
「おお?」
 おっかなびっくりといった様子を見せるてゐを尻目に、アリスが呪文を囁く……
すると、魔法陣が光を放ち、てゐの体を覆っていく。
光が全身に行き渡ると、てゐから伸びるようにして、空中に設置された石と繋がった。
「色々するのねぇ」
「まだ増えるわよ」
 幽々子の緩い声音に短く答えるパチュリー、アリスが更に呪文を唱える。
 すると、アリスの描いた魔法陣、残る一つが光を発し、更に空中に設置した石へと光を伸ばした。
アリスが人形を二体、光の中に浮かばせる。
僅かな間を置いて、人形がぴっと手を挙げた。
「あらかわいい」
「準備OKね」
「何がどうなってんのさ、これ」
 てゐはやや戸惑い気味に尋ねる。
「大丈夫、危険はないわ。 説明は……してもいいけど、ちょっと長くなるわよ?」
 アリスがそう言うと、てゐは片手を上げて主張した。
「実験台になるんだから、わかんないだろうけど一応聞いておきたいね。 こうも色々されるのを説明もなしは、ちょっと不安だよ」
「だそうよ、紫、いいの?」
 パチュリーに問われ、紫は頷いて見せる。
「まず貴女を覆っている光は、この伸びた光を通して、石に能力を向かわせるためのもの。 魔力で全身を覆っている形になるけど、悪影響を及ぼすものではないわ」
 てゐの足元から頭上へ、指し示した指を上になぞって、パチュリーが説明していく。
「ふむふむ」
「石は結界に閉じ込めてあって、石自体も魔力によって、込められたものを外に出さないようにしてある。 ただし、あまり強固にすると、能力を注ぎにくくなるから、その力は弱め」
 パチュリーの指がてゐの頭から、光る線を伝い、浮かんだ石を示す。
「入りきらずに溢れちゃうかもしれないから、でっかいのを選んだんだね」
「そう、貴女の力は幸運を招く……だから失敗しても危険はないけど、勿論失敗していいという心構えで、挑むものではない。 ……説明に戻るわ。 この人形は、結界の中の状態を、教えてくれるようにしてある。 少し間違いだけど、解りやすい例えをするなら、お風呂を焚いていて、熱くなりすぎたら教えてくれる人形と、お湯がないのに火をくべてしまったら教えてくれる人形」
 アリスが操作したのか、それぞれの人形は示されると共に、手をあげた。
「解りやすくなく、例えないとどうなんの?」
「結界内部に留まった能力が、空間や人物、物質など、ひいては世界に向かおうとする影響力、それが結界を超えようと……」
「あー、うん、やっぱいいや、魔法使いになる気はないし、そこは飛ばしちゃって」
 説明を途中で遮られ、パチュリーは少し不満そうな表情を見せたが、咳払いをして再度続ける。
「じゃあ、最後に、貴女は弱めに能力を使ってくれればそれでいいわ。 アリスにさっき渡した石は、能力をコーティングするための魔力が入っていて、仕上げに使うもの」
「ふーん、ちょっとした幸運を、って感じでいつも通りに、やっちゃっていいんだね?」
「そういう事、じゃあ早速お願いするわ」
 てゐは頷くと、足を肩幅に開いて、腰を低く構え、親指だけ開いた手を横に重ねて、三角形のような形を作った。
「とぉぉぉりゃぁぁぁ!!」
「おちゃらけて見せるのはいいけど、力みすぎて急に力を強めないように」
 パチュリーから、冷静に突っ込まれるてゐ。
「おおー!?」
 てゐから石へと伸びる光が、その輝きを増す。
 人形がすぐに反応する事態には、至らないようだ。
「安定しているようね」
「なんだか……妙な感覚だね、いつもは意識いしたらパッと出来ちゃうのが、時間をかけてゆっくりやらされてる感じ」
「一気に注ぐと崩壊する恐れがあるから、そういう形に調整したのよ」
 三分程かかって、光は穏やかな輝きに戻った。
「終わったのかな?」
「ええ……成功よ!」
 結界を解いて、アリスが完成した石を取り出した。
パチュリーが宝石のテーブルを、もう一つ用意して、そこに乗せる。
「おめでとー」
 パチパチと控えめに拍手する幽々子。
「へぇ、成功ね。 おめでとう、それじゃ私は……」
「まだよ」
 帰りたがる素振りを見せたてゐを、パチュリーが強い声音で制止した。
「へ?」
「まだたった一回成功しただけ、能力の強さや、素材の大きさを変えたり、実験しないといけない」
「それに、この魔法一式って、起動するのが結構労力要るのよね……繊細だから」
 そう説明する割に、アリスの所作には疲れが見えない。
「下準備せずにこの場で設置してすぐだし、使えるのはあと四、五回かしらね、それまで付き合ってもらうわ」
「へいへい、解りましたよー。 こりゃ落ち着いたら、お茶会にでも招いてもらわないと、割に合わないね」

 結局、魔法陣が持ったのは計五回分。
その間に弱いものを二回、少し強めたものを二回、更に強めたものを一回、という結果で……
「全部成功ね」
 幽々子が我が事のように、嬉しそうに言った。
しかしパチュリーは、首を横に振る。
「良い素材を惜しみなく使ったから……と、言いたい所ではあるけど、多分最後の、一番強いのは半分成功・半分失敗よ。 一応はこうして、石に収まっているけど、人形も崩壊しそうだと、知らせていたでしょ? だから、少し置いておくと、能力が発現しようとする作用に負けて、勝手に崩壊する可能性が高い」
「じゃあこれは、どうするの?」
 魔法によって、空中に浮かべたままのその石を、紫は指さして問いかける。
「このまま使用せず、更に衝撃を与えなかった場合、いつ自壊するのかを調べて資料にするわ。 ずっと見張ってるわけにもいかないし……後で、放っておいていつ壊れたかを、調べられる仕組みを用意しておく」
「で、私はもう帰っていいの?」
 てゐは、精も根も尽き果てたと言いたげに、手近な竹にもたれかかっている。
 能力を強めれば、その分込めるのも時間がかかり、計二十分強。
「今回はね」
「一回だけじゃないのー……?」
 不満そうな様子を隠さぬてゐ、すっかり嫌気が指してしまったようだ。
「勿論、もっと早く済ませられるよう、改良していくわよ」
「お茶会へのお誘いを要求してたけど、それだけじゃ悪い気がしてきたわね……まずは今回手伝ってもらった分の研究が済んだら、何か作って持って行くわ」
「おおぉぉ……流石はアリス、期待して待ってるよ!」
 アリスの言を受け、てゐは一変して軽い足取り……どころか、やけに素早く帰っていった。
「……気が変わらないうちにと、逃げたわね」
「脱兎の勢いとはこの事だわー」

 作業小屋に移動すると、パチュリーは早速魔法を準備して、強い能力を込めた魔法石に、仕掛けを施した。
「今はこうして、石の形を保っているけど、壊れて能力が発動するというのは即ち、構成する魔力が散っていく事でもある。 それを私が感知出来るようにしたわ」
「それはいいんだけど、その石はどうするの? 壊れるのを待つのなら……それって「ちょっとした幸運」を、二回り程強くした幸運が訪れるのよね?」
 幽々子が質問する。
「何か問題でもあるかしら?」
 それに対して、紫は然も疑問だといいたげな声音で言った。
「個人的には、意図的にそれを享受するのは、どうかと思うわ」
 真っ先にアリスがそう述べ……
「同感ね、例えば幸運を得る魔法を作る……そう努力しての結果ならまだしも、失敗から敢えて、というのは気に食わないわ」
 パチュリーも同調した。
「あら、真面目ね」
「その真面目であるかどうかを、本人の口から聞こうとしたんでしょう? 意地悪な質問ね」
「……もし、これ幸いとばかりに、恩恵に預かろうというつもりだったら、どうしようと思ってたのかは、聞かないでおくわ」
 嫌な想像でもしたのか、アリスは眉間を抑える。
「知ってて敢えて、自ら利用する……という心構えが問題なら、誰かにあげるのはどう?」
 幽々子が笑みを浮かべて提案した。
「どうしろと?」
 パチュリーが問うと、幽々子は閉じた扇子をパチュリーに向ける。
「貴女の親友へ、こっそり贈り物するの」
「亡霊はこう言ってるけど、賢者の意見は?」
「露見しなければ、問題無いと思うわ」

 紫によって、パチュリー一人が、紅魔館のそばに移動した。
「あ、お帰りなさいませ、パチュリー様」
「お疲れ様、美鈴」
 門で美鈴と挨拶のみ交わし、屋内へ入ると、真っ直ぐにレミリアの寝室へと向かう。

勝手に入り、設置する場所を探して、辺りを見回すと……
「パチュリー様、如何なさいました?」
 すぐに咲夜がやってきた。
「ちょっと、今やってる研究について、実験のため。 この不安定な魔法石が、普段通りに過ごしてるレミィの影響を受けると、どれだけ崩壊が早まるものか、確認したいのよ」
 件の石を見せると、咲夜は覗き込むようにして眺める。
「大きい石ですね……どういった魔法が、込められているのですか?」
「魔法ではないわね、ただ魔力で不安定な状態を作り出しただけ。 すぐそばで壊れても、レミィに何か悪影響が及ぶ事はないわよ」
 その答えを聞いて、咲夜は微かに安堵の色を示す。
「解りました。 お嬢様がこちらに来ようとする事があれば、適当に引き止めると致しましょう」
「助かるわ」

 パチュリーが外に出てから、紫はスキマで呼び戻した。
「レミィの寝室に置いたわ。 寝てる頃合いに壊れると予想しているけど、本当にそうなる保証はない」
「幸運を掴むかどうかは、運次第というわけねー」
 楽しそうに、幽々子は言う。
「そう言葉にすると、至って当たり前ね……」

 残った四つの石での実験が始まった。
「仕組みはさっきの、能力を込めてもらった時とほぼ同様」
 紫と幽々子へ向け、パチュリーが解説する。
「でも失敗のリスクは、こっちの方が高い。 石に込めるのは、結界と石という、いわば二重の檻の中に入れる行為。 今回は石を溶かす事になるから、檻は一つとなる」
 結界と、設置した石を交互に指さす。
「更に、高温にかけて、石を溶かしてから、魔力と馴染ませるという行程が入る。 その分制御が難しいし、時間もかかる事になる、つまり……さっきみたいに、あっさりと成功する事は恐らくない、それどころか、今回の四つで、光明が見えてくるかどうかくらい……それが私の予想」
「一気に難しくなるという事ね、よく解らないけど」
 よく解らないと、はっきり口にしつつも、神妙な顔で頷く幽々子。
「石の中に入れるのであれば、物質に内包される形だから、幾分か安定するんだけど、溶かしてしまうと、影響を及ぼそうとする力の広がる強さが、段違いなのよ」
「ちょっと待ってね……うーん、水につけた昆布から、出汁が出るまでは時間がかかるけど、お湯に垂らした醤油は、すぐに散って混ざってしまうようなもの?」
 アリスの追加した説明に、幽々子は少し考えてから、食べ物で例えた。
「違うけど、そういう感覚と思ってもらって構わない。 だから、幽々子の例えで言うなら、湯に醤油を垂らしても、それが混ざってしまう事なく、しばらく湯の中を、漂っていてくれるように、どれだけ長くしていられるかが鍵となるわ」
「漂っているお醤油……ではなく、てゐの能力が、魔力と馴染んで魔法化してくれれば後は、火の魔法を解除して、溶けた石を固めながら、その中に入れるってだけになるけど、そこまでが難しそうなのよ」
「それを上手く調整するためにも、まずは実験をしないと。 始めるわよ」

石を空中に設置し、結界を張る。
その下には結界用の魔法陣があり、石と結界を覆うように、もう一つ結界を張っている。
別の魔法陣から石に向けて伸びる光、ここには人形が二体、先程も用いていた測定用の機構。
 そして三つ目の魔法陣から、既に設置された石(+結界)と同程度の大きさの結界が発生し、石の下にくっついた。
「この中に火の魔法が入っていて、これで熱して、溶かす。 周りの一回り大きい結界は、熱を遮断するものと、物質を遮断するものとの二重構造。 石が壊れた際の効果で、結界が壊れてしまわないように、熱と物質、それぞれを通さない効果に特化しているから、一番内側の結界が壊れると、高熱や溶けた石は防ぐけど、中身の効果は、私達が浴びる事になる」
 四つ目の魔法陣が光を発し、石に接続される。
「これは中央の結界に、魔力を供給するためのもの」
 五つ目の魔法陣、これも石へと光を繋いだ。
「これは中央の結界強度の操作、あまり強くすると熱する魔法が効きにくくなる。 能力が散ってしまわないよう、魔法が通るよう、上手く調整しなくてはいけない……説明はこんな所、じゃあアリス、始めて」
「解ったわ」
 アリスが作業を始めると、高熱を発する魔法の効果か、ごうごうと音が響き始めた。
「因みに、今度は私が補助側。 実際に色々動かすのは、アリスの方が得意だから」
 ふぅと息をついて、パチュリーは隅の方へ移動させてある椅子へ腰かける。
「お疲れ様、後は任せて」
「任せっきりでいられれば、いいんだけど」

 始めてすぐに、人形が慌ただしく危険を知らせだしたが、アリスの尽力によって、崩壊には至らずにいた。
「なんだか、主の人形にあれこれと指示されて、駆けずり回るメイドアリス、みたいな光景ね」
 幽々子が、至って気楽な感想を漏らす。
「言われてみれば、あの必死でぴこぴこ訴えてくる様、小さい子の我侭みたいだわ」
 紫もそれに同調した。
「うちのご主人はほんとに我侭ね、最初だから仕方ないけど」
 各種魔法陣の調整をこなしつつ、アリスは冗談に乗って軽い声音を返す。
余裕があるように思われた、その次の瞬間、アリスが小さく声をあげ……
「あ」
ガシャン と、音がした。
「……結界、壊れちゃった……」
「え? 大丈夫そうだったのに……駄目な時は一瞬なのね」
「ええ、大丈夫そうだからって、早めようとして強度を緩めたのが、駄目だったみたいね」
 そう言いながらも、アリスはきょろきょろと辺りを見渡し……
「……もしかしたら、と思ってみればやっぱり……」
 隅に寄せた本棚、その横に落ちていた紙片を取り上げるアリス。
「無くしたと思ってた押し花のしおり……こんな所にあったのね」
 早速アリスの身に、幸運が招かれたようだ。

 結局四つの石は、全て失敗に終わった。
「毎回、まだ大丈夫に見えて、その後すぐ……難しいものなのねぇ」
 幽々子が軽い声音でそう言う。
「みんな、提案なんだけど……一旦帰らない?」
 紫の提案に、幽々子は首を傾げる。
「あら? どうして?」
「四つ分の幸運が、毎回全員に行き渡っているのか、それとも一つにつき一人なのか、いずれにせよ、一旦効果が起こるのを待った方がいいと思うわ。 立て続けに石を用意しても、すぐに上手くは行かないと見ていいのなら、私達の身に引き起こされる幸運が、どんどん溜まって行く事になるもの」
「そういう事なら、私は賛成ね」
 紫の説明を受け、幽々子は頷く。
アリスとパチュリーも、同様に頷いた。
「それなら私は、図書館に戻って結果をまとめる事にするわ。 騒がしくなるんだろうけど」

 紫は皆をスキマで送りだし、自らも帰宅すると、すぐにスキマで皆の様子を確認しだした。
しばらくして……
「おや? 紫様、今日はもう、直接彼女らにつくのは終わりなのですか?」
 割烹着姿で、はたき・雑巾の入ったバケツを手にした藍がやってきた。
「ああ、それはね……」
 紫は藍に、てゐの能力の効果を、皆で浴びた事を説明した。
「成程、残る三つの効果を見てみようと」
「そういう事、貴女も見る?」
「では、御一緒させて頂きましょうか」

 パチュリーは図書館の奥、パチュリー自身か小悪魔でもなければ、ここまで入り込めば出るのも苦労するような場所……そこに侵入を防ぐ結界を張りつつ、作業していた。
「やっぱり、誰か来るのね」
 図書館の入口付近で控えているよう、小悪魔に頼み、自分に用がある訪問があれば、ここに設置した発光する魔法を、起動するようにと指示してあった。
館の面々は、パチュリーが何か研究を始めていると知っている……敢えて訪ねてくるとすれば、幸運の効果だろうか?
部屋が青く染まった事に、パチュリーは一つ溜息をついて席を立つ。
「普通に、魔理沙が本を借りに来ただけも、有り得るわね……」
 魔法を解除すると、赤が基調の色彩へと戻った。

訪ねてきたのは、魔理沙だった。
特に後ろめたい様子も見られない……それならば、小悪魔が知らせてきた以上は、きちんと用があっての訪問という事になるが……
「おっす、パチュリー。 差し入れに来たぜ」
「差し入れ?」
「ここには入れられないからな、ちょっと外に来てくれ」
 一体どういう事だろう、疑問に思いつつも、パチュリーは魔理沙についていった。

中庭に、どうやって運んで来たのかと、疑問に思う程の、大きな風呂敷が置いてある。
「これだ、開けてみてくれ」
 開いてみると……
「これは……」
 きのこ。
 どっさりと入っている、魔法に用いるものだ。
きのこの山の中に、瓶が見えた。
手を突っ込んで取ってみると……
「薬もあるのね」
「ああ、きのこから作ったものも入ってる、魔力を高めるものが殆どだな。 爆発するものとか、あってもお前使わないだろうし」
 これは有効活用できそうだ……パチュリーは喜色を隠し、魔理沙に問う。
「何故急に、これ程の量の差し入れを?」
「いや、いつも本借りてばかりなのも、アレだしな」
 そういう理由で何かをしてくれる、という事も普段無いわけではないが、この量は今までになかった。
「丁度必要な所だったから、助かったわ」
「お? そうか? そいつはよかった」

 アリスは里を訪れていた。
ゆったりとした歩調で、あちらに曲がり、こちらに曲がりと、目的地があるというよりも、散歩といった風情だ。
 ふらふらと歩きまわっているうちに……
「あら?」
 墓地に出てしまった。
「ここじゃ、幸運なんてないわよね……」
 呟き、引き返そうとした所で……
「……誰かしら」
 奥から、弾幕ごっこの音が聞こえる……アリスは墓地の奥へと、入っていった。

「効かぬ! 効かぬぞー!」
「ええーい! 堅すぎる! あんたの体、鉄で出来てんの!?」
「けつ?」
「違う!」
 命蓮寺に出入りしている唐傘お化け・小傘と、見慣れない者が闘っている。
アリスは祭りの際に、里で人形劇を披露する事から、小傘とも多少話した事はあるが、小傘の相手については、面識がない。
しかし魔理沙に聞いた話から、見慣れない者は、キョンシーの宮古芳香であると、アリスは思い至った。
(あんまり関わりたくはないわね……)
 アリスの知る限り、その主の評判はよろしくない。
「ふはははは! 私の勝ちだー!」
 この二名に対してどう出るかを考えている間に、芳香が勝利を宣言した。
小傘は撃墜されていない、制限時間を過ぎたようだ。
「ぐぬぬ……次こそ追い払ってやるぅー!」
 悔しさをにじませながらも、小傘は退散する。
アリスは、小傘の後を追う事にした。

墓地から離れ、里の外に出て、道から外れた木の下……小傘は木にもたれかかって座り、いじけだした。
「うらめしやー」
「わぁ!」
 背後から声をかけると、小傘は驚いた様子を見せたが、アリスの顔を見てすぐに落ち着いた。
「あ、人形遣いのお姉さん」
「こんにちは、散歩してたら、貴女達の弾幕ごっこを見かけたものだから、ついてきちゃったわ」
「負けるとこ、見られたんだね」
 小傘は再びいじけてしまう。
「時間切れで負けたの?」
「うん、あいついくら撃ち込んでも、全然倒れないんだ……」
 先程、少しだけ見た対戦風景から、アリスは考え……そして質問した。
「傘のお化けだけあって、雨のイメージかしら……広範囲に散らせる撃ち方をしていたわよね?」
「あ、うん、そうだね」
「彼女はまだ動きも硬いようだし、散らせるよりも……そうね、閉じた傘のイメージの弾幕でも作って、密集した弾を撃ち込むのはどうかしら? 勿論、形振り構わず、ひたすら真っ直ぐ撃つのも、よくないでしょうけどね」
 そう聞いて、小傘は表情を明るくする。
「そうか、そういう方法も……有難う、お姉さん! 考えて、やってみるよ! お礼にこれあげる!」
 まくしたてるように言って、アリスの手に何か握らせると、寺の方へと飛んでいった。
「……あんなに喜ぶなんて」
 頬を緩ませながら、アリスは手を開いて、握らされたものを見た。
「……石?」
 一見すると、ただ、形が滑らかで綺麗な石。
「……凄い魔法石の素材、ってオチの幸運でも来たのかしら……」

 幽々子が帰宅すると、妖夢は出かけていた。
居間に残っていたメモによると、昼食の準備をしていた幽霊に頼まれ、急ぎみりんを買いに里へ出たらしい。
幽々子の身にも、幸運が訪れるのであれば……
(これは期待できるわね……)

「あれ? 幽々子様、戻られていたのですか」
「ええ、実験が失敗したのだけど……」
 幽々子はアリス・パチュリーの、実験失敗の顛末を語った。
「はぁ、それでしたら……幽々子様にも来てますね、幸運……ほら」
 妖夢が買ってきたもの、それはみりんだけではなかった。
 取り出されたのは、色とりどりの団子。
「花見のお供にと、売られてたのを見ていたら、つい幽々子様へというつもりで……」
「有難う、妖夢」

 その後もそれぞれの様子を、窺っていた紫だったが……
「三つ、それらしい件があって以降は、特にありませんね……」
「それぞれ、一人に向けての幸運だったと思って良さそうね」
(とすると……パチュリーが、レミリアの寝室に隠した魔法石、あれは誰に向けた幸運なのかしらね)
もしかしたら、集まっていた面々の誰かを指定したもので、壊れてもレミリアに幸運が訪れはしない……その可能性もあるのではないか、紫はそう考える。
「どうしたの?」
「難しい顔をなさっておいででしたから、幸運が来なさそうなのが、多少は悔しいのかと思いまして」
 実際の所は魔法石について、考えを巡らせていた紫だが……
「まぁ、多少はね」
 少し不満そうな表情で、そう答える。
「では、団子でも買ってまいりましょうか?」
「そうね、お願いするわ」

 昼を過ぎてしばらく、紫が仲介して連絡を取り、紫・アリス・パチュリー・幽々子、四人が作業小屋に集まった。
「紫だけ幸運が来なかったのね」
 そんな事も、幽々子は楽しそうに言う。
「それよりもアリス、さっきもらっていた石は使えそうなの?」
「それが、調べてみたら、魔法と相性が良いものではなかったのよ……」
「その辺に転がっている石に、なんでも魔法を入れられるわけではない。 材質によって、魔法との……」
 説明を始めようとしたパチュリーが、途中で言葉を止めた。
「どうしたの?」
「……アリス、魔法と馴染ませる魔力に、あらかじめ親和性を持たせるのはどう? 古道具屋のやり方に倣って、てゐの能力なら開運のお守り、目標の、時を超える魔法に向けてなら、時計辺りを溶かして混ぜて、近い性質があれば……」
「……そうね、もしかしたら、馴染ませる工程が、短縮化出来るかもしれない……!」
「結界内の安定も、期待できるかもしれないわね……」
 表情を明るくするアリス・パチュリー。
 そんな二人を見て……
「研究が上手く行くようになる幸運、だったのかしら」
 幽々子が笑みを浮かべて、そう言った。
「きっと、そうでしょうね」

 その後は、新しい方法の構築・四回の実験の結果のまとめ・作成済み魔法陣のメンテナンスが行われ、それ以上実験を進める事はなかった。

翌日、紫はしばらく待っていたが、今朝は幽々子が現れない。
(仕事が片付かなかったのかしら……?)
 そうだとしても、放っておいては機嫌を損ねるかもしれない……紫は幽々子の元へ向かった。

「待ってたわよー」
「あ、おはようございます、紫様」
 幽々子は妖夢と共に、縁側に腰掛けて庭を眺めていた。
「……要するに、来るのが面倒になっただけなのね」
 紫は、ふぅと小さくため息をついた。

アリスとパチュリーは、作業小屋ではなく、アリスの家の方にいた。
「おはよう、二人共」
 一旦家の外にスキマで移動し、きちんと扉から迎え入れてもらうと、入るなり甘い香りが漂っている。
「お菓子を作っていたの?」
「ええ、昨日てゐに言ったから、待ってる間の暇潰しも兼ねて、作ってたんだけど……ちょっと作りすぎたから、貴女達もどう?」
「ええ、是非頂くわ」
 とても良い笑顔で、幽々子が頷いた。

 早速てゐに連絡を取る事になり、永遠亭の一室で一人で居たてゐの元に、紫が上半身だけを出した。
「おはよう」
「ああ、今日もまた、私の優雅な朝の時間が潰れるわけだね」
 うなだれるてゐに、紫は身を乗り出すようにして言った。
「昨日アリスが言っていたでしょう? 何か作って持って行くって」
「ん? もう作ったの?」
「ええ、だから貴女へもお誘いがてら、とね」
 うーん、と唸りつつ、てゐは頬を掻く。
「おやつの時間には早すぎるけど、ま、仕方ないか……どの道手伝う事になるんだしね」
「じゃ、行くわよ」
「あいあいさー」

 アリスの自宅の一室、既に魔法陣が描かれているが、作業小屋のものよりは少ない。
元々作業部屋なのか、家具は然程なく、魔法陣を描いてなお、少し余裕があった。
「昨日竹林でやった事を、小型化も含めて、改良して設置したのよ……さ、ここに座って」
「おー、昨日は立ちっぱなしだったけど、座ってていいようになったんだね」
 てゐは指し示された椅子に腰かける。
小さい机が前にあり、一人用といったスペース……そして紫達は、隅に寄せた大き目の机の前に座る。
「……なんか隔離されてるみたいで、ちょっと落ち着かないね」
「悪いけど、それは我慢して」

 アリスが、作ったケーキと紅茶を用意し、魔法陣を起動し、てゐに能力の使用を頼んだ。
「……で、これって後はもう、お菓子を頂きながら喋ってたりしてていいの?」
「ええ、魔法陣から出さえしなければ、大丈夫よ」
「へぇ、こんなのでいいなら、悪くは無いねぇ」
 先程の落ち込みから一変、てゐは上機嫌になったようだ。
「ところで、昨日の五回の実験の時、「特定の誰かに、幸運が訪れるように」と意識していたの?」
 紫が尋ねると、てゐはにやりと笑う。
「どっちか、幸運を受け取り損ねたかな?」
「私よ」
 平静な声音で、紫が答える。
「ついてなかったね。 実はあれ、最初の二回は深く考えてなかったんだ。 適当に「誰でもいいや」って感じだったね。 それで、次の二回は、アリスとパチュリーに、「研究が上手く行くようになる幸運を」とやってみたんだよ」
「やけに都合の良いものをもらえたのは、そういう事だったのね……」
 パチュリーが呟き、瓶を取り出した。
「魔理沙が、いつも本を借りてるからと、差し入れに来て、きのこと薬を置いていった。 今回の実験に使えるものが多くあったわ」
「アリスの方は?」
 てゐに問われ、アリスは小傘からもらった石を取りだし、てゐの机に置く。
「たまたま、知り合いの妖怪からこれをもらって、この石の事を話してる時に、パチュリーが改善案を思いついたの」
「へぇ、役に立ったようだね」
 てゐは石を手に取りつつ、笑みを見せる。
「それで、もう一つの石は?」
「実験できるのが五回か六回、みたいに聞いてたし、アリスとパチュリー、スキマ妖怪と亡霊、どっちかだけになっちゃうかなと思って、これも「誰でもいい」ってパターンにしたね」
 紫の問いに、てゐはそう答えた。
 すると、レミリアの寝室に隠した石は、恐らく効果をもたらす事だろう。
(アリスとパチュリーの幸運、かなり良いものよね……それよりも更に、となると……恐らく、明日辺り、実験は半日お休みね)

 弱め・普通・強めと三段階に分けた能力を、それぞれ三つ・三つ・四つと用意して……
「昨日よりも早いんだね」
 今回も二十分強、しかし一つ一つの石への注入作業が終わるのは、今回の方が早い。
「おかげで、実際にやってみるとどうなるか、って解ったから、改良出来たのよ」
「素材の魔法石、その内部の魔力構成を、一部薄く、他を濃くするように加工する事で……」
 パチュリーの説明が始まり、てゐは慌てた素振りを見せて制止する。
「いやいや、魔法使いにはならないから、いいってば!」
「ところで、能力を込めた魔法石に、という目標は、もう出来てると思っていいの?」
 幽々子の質問に、パチュリーは首を横に振る。
「まだよ。 石に込める、という事自体は出来ているけど……こうして石に込めるという行為は、手軽に扱えるようにというのも、目的の一つだけど、更に長期保存という目的もある。 後者に対して、昨日今日と作った石は、問題外」
 パチュリーは、強い能力を込めた石を指し示す。
作成中には、人形の警告も少なかったが……
「昨日の程ではないとは言っても、強い能力を込めた石は不安定。 崩壊のデータを取るための、あの石が今晩壊れると想定すると、今日のは五、六日と考えられ、それは品質を満たしているとは、到底言えない」
「つまり、まだまだ実験が必要なのね」
 紫が言うと、パチュリーが頷き、そして……
「つまり、これからもアリスのお菓子を、頂けるわけだね」
 てゐが付け加えた。
「残念だけど、実験の結果次第では、他の誰かに声をかけるかもしれないわ。 貴女の能力を石に込める事、それだけが目的ではない」
 パチュリーに否定され、てゐはがっくりと肩を落とした。
「因みに今回は数も多いし、それに幸運での手助けも、あんまり良くないだろうから、「誰でもいいから適当に幸運を」ってやったよー」
 しかしすぐ様気を取り直したように、今回込めた能力について、補足説明するてゐ。
「まぁ、確かに、壁に当たる度に幸運でなんとかしてもらう、っていう結果になっちゃ、共同研究の意味もないわね」
 てゐの気遣いに、同調するアリス。
それを聞いててゐは、アリスへ向けて親指を立てて見せた。

 てゐを送り返してから、作業小屋へと移動した一同。
「ところで、他の誰かに、って言ってたけれど……「時を超える魔法」を目指すにあたって、誰の能力を組み合わせるかは、考えているの?」
 幽々子の問いに、アリスの作業の補助をしていたパチュリーが、手を止めた。
「ちょっと待って、パチュリー」
それをアリスが制止して、答える。
「多少は考えているけど、今答えていいの?」
「……それもそうね、先に聞いてしまっては、楽しみも減るわ」
 幽々子は質問をあっさり撤回した。
「一応、出来るかもしれない、という組み合わせの仮説は、浮かんでいる……でも、それだと紫の能力も石にして、はっきり干渉が出来る形にしないといけない」
 アリスに止められた事もあって、パチュリーの説明は、どう組み合わせるかを避けるものだった。
「そうすると、予め「どこへのスキマを開く」って決めた能力を石にする、って事になるから、多分自由度が下がるのよね」
 アリスは小さく嘆息する。
「いずれにせよ、その段階の実験はまだ先ね、まずは能力の魔法石を、安定して作れるようにならないと」
 紫が言うと、アリスとパチュリーは頷いた。

一通りの準備が出来た所で……
「幸運の能力に馴染みやすい魔力にするため、これを使うわ」
 アリスが――厳密に言えば、人形が小さい棒を用いて――取り出したのは、うち捨てられていたであろう、すっかり汚れ、錆びついている馬の蹄鉄。
「丁度アリスが、寺の唐傘お化けに助言したっていうから……寺を通して、無縁塚の鼠に手伝ってもらった」
「でも、なんで馬の蹄鉄なの?」
 幽々子は首を傾げる。
「西洋ではこれが幸運のアイテム」
「守矢神社に声をかければ、楽しそうだって言って、お守りを提供してくれそうとも思ったんだけど……溶かすのにちょっと抵抗があって、こっちにしたのよ」
 魔力供給の魔法陣と、魔法石の魔法陣との間に置かれ、魔法石と同じような溶かす仕組みと、結界が設置された。
「へぇ、成程ねー」
「じゃあ、始めるわよ」

「……流石に全く違うわね」
 作業をしているアリスが呟く。
初回の実験では、始めてすぐに人形が警告していたが、今回は大人しい。
「人形のおかげで、上手く行ってる事が、解りやすいわね」
「あの可愛い動きが見られないのは、ちょっと残念だわ」
 紫と幽々子がそれぞれ感想を漏らす。
「こっちはその残念な方が、楽でいいんだけどねぇ」
「この分なら、任せっきりで大丈夫そうね」
 アリスは小さく息をつき、パチュリーは仮説が上手く機能し、上機嫌そうだ。

「……これ程上手く行くなんて」
 一つ目は上手く行き、直後にまだ勝手を掴み損ねていた段階で、弱めの石を二つ崩壊させてしまったが、それ以降は全て成功させた。
「パチュリーのおかげで、良い結果に至ったわね。 これなら他へも手を出せそうだわ」
「これは勝手に壊れたりはするの?」
 幽々子が出来上がった石を、つんつんと指でつつく。
紫もそれに倣って真似をしてみるが、アリスもパチュリーも止めはしない。
「こうなると、さっきまでと比べて格段に安定する。 元々魔法を込めておくために、材質を選び・加工しているものだから、魔力と馴染んで擬似的に魔法となった今、意図的に壊そうとしなければ、すぐさま自壊する事はない」
「それで、これは何かに利用するつもりはあるの?」
 紫は問いつつ、完成した石を指さす。
「作る事自体が目的の通過点、これをどうしようとは思っていない」
「成功例ではあるけど、私達が使うのもね……既に幸運はもらっちゃった事だし」
 パチュリー、アリス、両名の答えは使用について、前向きなものではなかった。
「強い能力は破棄するとしても、それ以外は取っておいたら? てゐみたいに、食べ物で簡単に釣られてくれるとは、限らないわ」
「そうね、じゃあ協力を求める際の、交渉の材料にしようかしら」
 アリスは、机から空き瓶を取り出し、石をしまった。
「次は誰の能力で実験するの?」
「咲夜」
 幽々子の問いに、パチュリーが一言で答える。
そしてパチュリーが一人で、紅魔館へと向かった。

今回も館の外へのスキマ移動、門までパチュリー自身が移動し……
「お帰りなさいませ、パチュリー様」
「ただいま、美鈴」
 美鈴と挨拶を交わす。
が、今回はこれだけでは終わらなかった。
「研究は順調ですか?」
 問われてパチュリーは歩を止め、美鈴に向き直る。
「目標の割には、順調すぎる程ね」
「……いつ頃終わるかは、目途は立っていますか?」
 何かあったのだろうか、パチュリーは疑問符を浮かべ、すぐに言葉を返さない様子を見て美鈴が続けた。
「いえ、個人的な話で、しかも我侭なんですけど……ふと図書館の事を考えて、パチュリー様は今いないんだなぁ、って思うと、ちょっと寂しく思える事がありまして……」
 美鈴はばつが悪そうな顔をして、尻すぼみに消え入るような声音で、心情を吐き出す。
「別に、あそこにいたって、ここまで出てきて話す事も、頻繁にあるわけじゃないんだから、いてもいなくても同じじゃ?」
「確かに、そうも言えますが……でもやっぱり、いるのといないのでは、なんだか違いますねぇ」
「そういうものかしら……まぁ、それ程長くはかからないと思うわよ」
 少し早口気味にそう言うと、パチュリーはやや急いで屋内へと向かった。

「レミィ、咲夜貸して」
「何に使うの?」
 パチュリー、レミリア、前者はまだしも、後者はあんまりな表現ではあるが、当の咲夜は気に留めた様子もなく、レミリアのそばに控えている。
「研究の手伝いをしてもらいたいのよ。 手伝いといっても、身の回りの事という意味ではなく、咲夜の力が要るの」
「ふーん、ま、ちょっとくらいならいいけど」
「とりあえずは、一時間もあれば十分よ」

 こうして話がまとまって、紫達がアリスの自宅へ移動後、パチュリー・咲夜が呼び寄せられた。
「私は何をすればよろしいので?」
 部屋に描かれた魔法陣・パチュリーのみならず、アリスも居る事・そして紫や幽々子が来て、成り行きを見ている事……
気になるであろうそれらよりも前に、咲夜は自らのすべき事を、パチュリーへと尋ねた。
「そこの魔法陣の中の椅子に座って、指示をしたら、時間を止める能力を使ってくれればいいわ」
「かしこまりました」
 咲夜は一礼し、椅子に腰かける。
アリスが準備を始め、整った所で……
「じゃあ、この部屋を範囲として、十分くらい止まったら、解除されるような感じで、やってみてくれる?」
「はい」
 光が輝きを増し、石へと能力が注がれ出す。
その間に、パチュリーは紫の許可の元、説明を行った。
「時間を超える……私の能力は、時間を加速させる事は出来ても、過去に戻るような事は出来ませんね」
「でも、閉じた空間の中の時間を止めれば、それは即ち、空間の中に過去、外のこちら側に現在と、境界が出来る事になるわ」
 パチュリーの説明を受けて、咲夜は紫を見やる。
「そうなれば、賢者の得意分野というわけですか」
「それだけでは、恐らく時を止めた時点と、現在との時間の差のみで固定された状態……だから、色んな時間と接続出来るよう、他の能力と組み合わせる必要があるの」
 続く説明、咲夜は考える素振りを見せた。
「お二人は助言等されているので?」
 紫と幽々子への質問、それに対し……
「いいえ、飽くまでパチュリーとアリスの共同研究だし、私達はただ見て楽しんでるだけよ」
「それにもし助言したいと思ったとしても、魔法の事は解らないもの」
 両名共否定する。
「成程……話は変わりますが、お嬢様の寝室に置いた魔法石、あれは本当に、何でもないただの石だったのですか?」
「多分明日には解るわ」
 パチュリーの短い答えに、咲夜はそれ以上尋ねようとはしなかった。

まずは能力をそのまま込めただけの石を、十分・三十分・一時間でそれぞれ三個ずつ用意した。
「今回は人形のお知らせも、もっと少なかったわね」
 幽々子が少し残念そうに言う。
「咲夜の場合、広く空間に影響するような使い方だったから、誰かに向けてという場合よりも、結界を超えようとする力が弱かった。 ナイフの刃は突き刺さるけど、柄で押しても刺さらないようなもの」
 咲夜の能力故か、例えにナイフを用いて説明するパチュリー。
「ところで、これを使って実験をされるのでしたら、私も居た方が良いのでは?」
「レミリアの方はいいの?」
 咲夜の申し出に、アリスが問い返す。
「妹様や、美鈴に頼んでおけば多少は……」
「レミリアを放っておくような事を、自分から言うなんて、意外ね」
「どの口が意地悪な質問だなんて、言ってたのかしらねぇ」
 幽々子が茶々を入れ、紫が指摘をするも、幽々子は悪びれた様子もなく、また、咲夜も気を悪くした素振りはなかった。
「パチュリー様が館を出て過ごされていると、お嬢様や私も含めて皆、落ち着きませんからね、少しでも早く済ませるために、手伝いが出来るのであれば、しておきたいものですよ」
「ああ、貴女も……」
「?」
「なんでもないわ」
 ふとしたパチュリーの呟きに、疑問符を浮かべる咲夜。
しかしその意味を、パチュリーが答える事はなかった。

 一旦パチュリーと咲夜が、紅魔館へ戻ってレミリアへと、咲夜の発言に準じた説明を行った。
パチュリーが早く戻れるようにするためならばと、レミリアもやや渋った様子ながら、二人を送り出した。

「咲夜の石が壊れた場合って……」
 作業小屋での準備中、不意に幽々子が呟き……室内をゆっくりと見渡してから、続ける。
「この小屋一帯の時間が止まるのよね?」
「家のあの部屋よりは広いから、隅に寄ってたら大丈夫かも知れないわよ?」
 アリスが壁を指差す。
「じゃあ、避難しておかないといけないわね」
 幽々子が壁にぴったりと寄った。
「……と、気になるのはそこではなくて、咲夜が居れば、自分の能力だから影響範囲でも無事でいて、すぐに解除が出来る、という事でいいのかしら?」
「ええ、それで早く終わらせるための手伝い、というわけですね」
 壁に寄ったままの幽々子、咲夜は涼しい顔で答える。
こっちへ戻れとばかりに、紫が目を向けたが、幽々子は壁際から戻らない。
 結局そのままで、作業が始まった。

十分の石は順調に、三十分の石は少し危ういながらも、擬似魔法へと転換できた。
「てゐの時とは違うようね」
「同じ様に考えてはいけない、より慎重にしないと……」
そして、一時間と指定した能力の石の実験で……
「あ」
 ガシャン と、音がした……
「……?」
 思わず身を強張らせるアリス……しかし僅かに間を置いて、きょろきょろと辺りを見回す。
 紫が幽々子を見ると、何やらニコニコしている、つまり……
「既に……止まって、解除した後なのね」
「新鮮な光景だったわー」
「因みに、強く頼まれてしまいましたので、一分程そのままにしておりました」
 一体どう頼んだのだろう、紫の胸中に興味が湧いたが、事実かどうかは別として、帰って来るのは当たり障りのない答えだろう、問うのはやめる事にした。

「魔力に親和性を持たせているし、もうちょっと時間をかけてもいいんじゃない?」
「時間をかけると言うと、結界強度を増すのね。 それなら一気に崩壊する危険も減るわ」
「能力の強さをあげたら、途端に崩壊しやすくなったみたいね」
「能力の強さによる、結界への影響度の増加を、てゐの場合と類似と見てはいけないわね。 恐らく咲夜の場合はより大きい、増加の傾向を測る必要が……」

 ……

 その後は、咲夜の能力での実験結果から、改良を施すという事になり、解散となった。

 翌日、紫はまず幽々子を迎えに行こうと、スキマに上半身だけを突っ込み、様子を窺ったが……
(あら、珍しい……)
 どうやら朝から仕事をしているらしい、机に向かって、筆を執っている。
紫は声をかけずに、体を戻して、今度はスキマに完全に入って移動し……
「おはよう、妖夢」
「おはようございます、紫様」
 庭で、木の剪定をしている妖夢の元に出た。
「幽々子の様子を見て来たけれど、お仕事中?」
「はい、そろそろ夜にちょっとやっておく、というだけでは、追いつかなくなるそうで……なるべく早く終わらせるから、適当に様子を見て拾って欲しい、と言付かっています」
「ええ、解ったわ」
(レミリアに幸運が訪れていたら……多分、悔しがるわねぇ)
 そんな事を思いながら、紫は一人、自宅へと戻った。

しばらく過ぎ……頃合いと見て、目指した先は「アリスの居場所」……そして出た場所は、紅魔館の図書館だった。
(へぇ……やっぱり)
 図書館の一角の長机に、ここで見るのは珍しい面子が揃っている。
霊夢・魔理沙・アリス、座り方からして、魔理沙を霊夢とアリスが、監視しているらしい。
向かいに輝夜とてゐ、両名共パチュリーか小悪魔に、出してもらったと思しき本を読んでいる。
そして機嫌の良さそうなレミリアと、席についている咲夜、フランドールの読む本を指し示して、何か教えているらしい美鈴。
「大所帯ねぇ、どういう経緯でこうなったの?」
紫が問うと、一同の視線が集中した。
まず輝夜とてゐが……互いに向き合い、頷くと、「どうぞ」とばかりに、霊夢へ手の平を差し出した。
「私から? ……うちに来た魔理沙が、やけに上機嫌だったのよ。 話してたら、何かよくない事考えてるみたいに思えて、こっそり後を追ってみたの。 ……はい、続きあんたね」
 霊夢はアリスを指さす、それを受けてアリスが続けた。
「魔理沙がうちに寄って、私も霊夢と同じくこれは何か企んでると思って、問いただしたんだけど……歯切れが悪くてね、それでちょっと、言い合いみたいになっちゃって……それを見た霊夢が、魔理沙を引っぱたきに来たのよ。 で、その後弾幕でもって魔理沙を制して……」
 アリスは魔理沙の肩をぽん、と叩いた。
「あー……その、な。 パチュリーが出かけてるらしいと知って、この際だから本を借りていこうと思ったんだ。 ごっそりと。 んで二人に止められて、借りてくなその場で読め、って言われて……この有様だ」
 紫が知りたがっているとあってか、魔理沙は反発せず、自ら事の次第を話し、そして机に突っ伏してしまう。
「くそー、ついてないぜ……」
「あんた解りやすいのよ」
「そうそう、思いっきり顔に出てたわね」
 頬を緩めつつ、そのやり取りを眺め、紫は輝夜達へと視線を送った。
「なんだか似てるといえば似てる経緯ね、昨日てゐが機嫌良さそうにしてて、問い詰めてみたら、魔法研究の手伝いをして、お菓子食べさせてもらって、こんなのまでもらったって言うのよ」
 輝夜が瓶を取り出す、パチュリーがてゐに譲った魔法石だ。
「ただ、何を手伝ったのかって、内容自体は頑なに口を割らなかったから、この石がどういうものかを代わりに教えてもらって、水の魔法が入ってる、って知ってね。 それならパチュリーかなって思って、いざ調査! と、思ったら……」
 説明の途中で肩を落とす輝夜、てゐが後を続ける。
「お師匠様に見つかったんだ。 私がしゃべろうとしないんだから、無理に突きとめようとしたって迷惑だろうって、拳骨を御馳走になってたんだよ。 でも姫様ってば諦めきってなくて、それならばと、お師匠様から尋ねて差し障りのない範囲で、教えてもらおうって事になったんだ。 鈴仙の勉強用に資料見せてもらうのも兼ねて、ね」
 永琳・鈴仙も来ているらしいが、この場にはいない……丁度今、尋ねているのだろうか。
「最後は私達ね!」
 何故か胸を張るレミリア。
「霊夢達と輝夜達が来て、珍しく人が多くて、みんな図書館が目的みたいだから、それならうちもみんなで、図書館に集まろうって事にしたのよ」
「そして友人達による千客万来に、喜ぶお嬢様というわけです」
「一言多い!!」
 さらっと余計な一言を付け加える咲夜。
「パチェが出かけてて、なんかしっくり来ないって言ってたもんね、お姉様」
「だから一言多い!!」
 フランドールも付け加えた。
「皆さんが来た時は、何事かと思いましたが、おかげでお嬢様が楽しく過ごせる事になって、よかったですよ」
 美鈴も思いを述べ……
「だから一……うん、そうでもないか」
 そのまま勢いで強く言いそうになった所を、既の所で飲み込むレミリア。
「ここの主は?」
「奥で作業してたけど、小悪魔が呼んでたし、今は永琳達と話でもしてんじゃない?」
「研究をしていたいのでしょうに、パチュリーには災難ね」
(……どうやら、広まってはいないようね)
 パチュリーとアリスが「時を超える魔法」を目指して、研究しているのだという所までは、新たに伝わってはいないようだ。
てゐも、「能力を石に込める」とした目標すら、頑なに話そうとしなかったと輝夜は言う、恐らく輝夜は知れば首を突っ込みたがる、それを危惧したのだろう。
(利害が一致した、といった所かしら)

 紫は「レミリアに訪れる幸運」が「館に友人達が訪れる事」と読み、故に半日は研究が止まると予想していた。
訪れた面々が帰って行ったのは、昼を過ぎてしばらくした頃だった。

 皆が帰る少し前に、幽々子が図書館に呼びだされ……
そして帰った後、紫と示し合せていたアリスが、魔理沙を送って別れた後に、図書館へ呼び戻された。
「あー、どっと疲れたわー……」
「私も疲れたわー……」
 そして机に突っ伏す両名。
「幽々子は仕事だったわね、それで?」
「ええ、そうよー。 あんな面白そうな事になってたなら、もうちょっと粘っておくんだったわ……」
 突っ伏したままアリスが幽々子を指さし、幽々子も突っ伏したまま答える。
(この二人が、こういう姿で話してるのも、なかなか面白いわね)
 胸中で呟くが、面白いので口にはしない紫。
「そっちは?」
「共同研究なんてしてないって顔して、とぼけてないといけなかったしね……それ自体はまだいいとしても、魔理沙にバレないように、って気を遣うのが面倒だったわ……」
 そこへすっとパチュリーが現れ、何食わぬ顔で空いている席に着いた。
「お疲れ様、パチュリー」
 相変わらずぐったりとしながら、アリスが片手を上げる。
「永琳にはどう話したの?」
「正直に話したわ。 と、言っても内容は、アリスがてゐに話したのと同じ事。 危険な研究だから紫が見てると話して、事情を知る者は少ない方がいい、と付け加えて、鈴仙に協力してもらう約束を取り付けた。 彼女の能力はこれから必要になるから、丁度良かった」
 実験の一環として、というよりも、時を超える魔法を目指す上で必要になるらしい。
「波長を操る力が必要……」
 紫が呟き、考えようとした所で……
「窓の開け閉めのような役目」
 すぐにパチュリーの追加説明が入った。

鈴仙向けの資料を、永琳に貸した事もあり、早速鈴仙に協力をしてもらうとも行かず……その日は次の段階へと進まずに、翌日を待った。

翌日、紫が幽々子の元を訪れると……
「あの子達に差し入れ?」
 妖夢と一緒に、団子を作っていた。
「そうよー、食べさせてもらってばかりじゃ、悪いもの」
「勿論しっかり、自分で食べる分もと、お考えでいらっしゃいます」
 妖夢の態度が少し刺々しい。
「ふーん」
 気の無い返事、といった声を返しつつも、紫は考える……
(どっちを選ぼうかしら)
 小言などを抜きにして、楽しんでいたいと思惑を持った友人か。
それとも、いじけてしまっている、可愛らしい従者か。
「妖夢も事情を知っているんだし、つれていってもいいんじゃないかしら?」
 そして、後者を選んだ。
「え? いいんですか?」
「……そうね、じゃあ、妖夢も一緒に行ってみる?」
「はい!」
 紫がこう動いては、幽々子にとって分が悪い……あっさりと決定して、団子作りを終えてから、三人はパチュリーとアリスの元へ向かった。

 団子と共に、白玉楼から持ち出したお茶を、妖夢が用意している間に、紫は永遠亭の様子を伺い、そして移動した。

「いらっしゃい、鈴仙のお迎えご苦労様」
「おはようございます」
 鈴仙は永琳と共に居た。
二人は向かい合って卓を囲っている、特に作業中といった体ではない。
「あまり長話は出来ないわよ?」
「急ぐ必要のあるもの、とは思えないけれど、何故?」
 永琳が話したいのだろうと読み、紫は釘を刺す。
「幽々子と妖夢からの、団子とお茶の差し入れがあるのよ。 鈴仙の分もね」
「てゐも鈴仙も、そんな待遇だなんて、私も立ち合いたいものだわ」
 冗談めかして、永琳はそう言う。
「何か確認しておきたい事でもあるの?」
「そう……でもその前に、鈴仙を送ってあげて。 お団子が待っているんでしょう?」
 紫は立ち上がり、スキマを開いた。
「これに入れば、アリスの家に着くわ」
「解りました。 では、お師匠様、行ってまいります」
 立ち上がってぺこりと頭を下げ、鈴仙はスキマへと入っていく。
スキマを閉じ、紫は永琳に向き直り、座った。
「能力を込めた石を作る、と言ったわね。 そんな危険なものを、監視の下でとはいえ、何故貴女は許すのか、どう意図しているのかを、確認したかったの」
「こういった事が、後に続かないようにするためよ。 幸いにもあの子達は、ただ「知る事」を目的としていて、成果を見届けた後は、放棄してもいいと話していたわ。 終えた後に、詳細を明らかにして、禁ずるよう告知するつもりよ」
 紫の言葉に、永琳は顎に手をあて、少し考えた。
「当然それで、全て抑えこめはしないわね、その場合は?」
「状況と内容に応じて、適当に」
 開いた扇子で口元を隠し、明後日の方向を向いて胡散臭く答える紫。
「……解ったわ。 その「適当」に協力が必要な時は、言って頂戴」
「手伝ってくれるのね、有り難いわ」
「貴女の気持ちと比べれば、足元にも及ばないけれど、私もこの場所が気に入っているもの」
 一つ頷き、紫は立ち上がる。
「私はそろそろ向こうに戻るわね、団子とお茶が待っているし」

 紫が戻ると、既に鈴仙が席につき、能力を石に込める作業が行われていた。
一人だけ離れた場所に座る鈴仙……てゐも言っていたが、落ち着かないらしく、一目で居心地が悪そうだと見て取れる。
 とりあえず口を出さずに眺めていると、皆あまり喋っていないのだと、紫は気付いた。
アリスと幽々子辺りは、何か鈴仙に話しかけそうなものだが……
アリスは、会話がない事から、魔法陣操作に専念し、幽々子は、魔術回路に見入っている妖夢を眺めている。
「……お客さんが居心地悪そうよ?」
 紫は鈴仙を指さしながら、ぽつりと言った。
「え? お客さん?」
「協力してもらってる、って形だし、きちんともてなさないといけないわね」
 戸惑う鈴仙、幽々子が煽り立てるような事を言う。
「そんな風にしたら、それこそ居心地が悪いんじゃない? まぁ、気楽にして、別にむずかしい事でもないしね」
「……てゐはどうしてたの?」
 アリスにフォローされたが、言われたからとて、すぐ切り替えられるものでもなかったようだ。
 まだ落ち着かない様子を残しながら、鈴仙はてゐの事を尋ねた。
「落ち着かない、とは言ってたけど、すぐに慣れて、お菓子をバクバク食べて、雑談してたわね」
「……たまにちょっと、羨ましくなるわ」
 眉間を抑える鈴仙。
「それ程図太く構える、でないにせよ、もうちょっと楽にしていいと思うわよ、知らない仲でもないもの」
「うーん、でも、あまりこういう事に慣れてなくて……」
 幽々子が今度はきちんと助言をするも、鈴仙はまだ戸惑っているようだ。
「気持ちは解る気がしますね、私も一人で永遠亭に行って、皆さんの居る中でじっとしてたら、ちょっと落ち着かなさそうです」
「あら、それじゃあ妖夢に、永遠亭に頻繁に出かけてもらって、慣れてもらわないといけないわね」
 妖夢の発言に、幽々子が笑ってそう言い……
「え? あ、そうはおっしゃいますが、用事はあるんですか?」
 一瞬慌てたような素振りを見せた妖夢だったが、鈴仙を意識してか、平静を取り戻して質問した。
「無ければ無いで、遊びに行くだけでもいいじゃない」
「もし来る事になったら、落とし穴に気を付けてね」

 今回は、今までとは違う趣旨での能力使用を石に込めた。
 必要になる能力であり、依頼しやすい咲夜と違う点もあって、今から本番を見据えて、十個ずつ用意してもらった二種類の石、その内容は……
「こっちが波長を短くする石で、こっちが長くする石、と……」
 アリスが瓶にラベルを貼る。
能力の強弱ではなく、どちらの効果であるかの違い。
 そしてその効果は、緩やかに発揮されるようにと、注文をしている。
 パチュリーとアリスが共に考えても、この効果と馴染みやすくなるような、溶かすべきものが浮かばなかった。
そのため、補助する品物がなくても、魔法石化できるようにと意図しての結果、そのような処置としていた。
(変声機でもあれば……? 香霖堂と無縁塚で手に入ったでしょうけれど、まとまった量は、恐らく無理ね……)
 教えようとすれば、答えそのものを言う他無いと紫は考え、故にこれを助言する事はやめている。
「ん?」
 不意に、パチュリーが呟き、宙を見やった。
「どうしたの?」
「これも、ああすれば良かったのね、失敗したわ……」
 どうやら何か、方法があったようだが……
「え? 何それ、私教えてもらってないわよね?」
 アリスも知らないらしい。
「肝心な所をビシッと決めるつもりだから、今はまだ教えないわ」
「どういう事?」
「もうしばらく、研究が進んだら解るわよ」
しばらく先の、肝心な所……補助として溶かすべき品物がない能力……
(どうするつもりかと思ったけれど、石にする目処が立っているわけね……)

 緩やかに、と、依頼しておいた点が功を奏してか、やや安定性に欠けるものの、全ての石を魔法石化に成功した。
「二週間程持つかどうか……でも、研究に使うだけなら十分」
「てゐ達に言った「能力を魔法石にする」って目標だったら、これじゃ駄目だったわね」

 一旦休憩して、昼過ぎの頃合に……
「次は誰かしら?」
 そろそろ再開、という雰囲気になって、紫は尋ねた。
「あまり働かない死神」
 パチュリーの短い答えを聞き、紫はスキマを開いた。
「みんなで行くの? 大勢で行く事もないと思うけど」
「それなら、私と妖夢は残るわ。 私達だけでここに居るわけにもいかないし、アリスも残ってくれる?」
 アリスの質問に、幽々子が続き、紫とパチュリーだけが行く事になった。

 三途の川の此岸で、大の字になって寝転がって居る小町。
そこへ紫とパチュリーが現れる。
「サボってるんなら、ちょっと手伝ってくれない?」
「んあ? 胡散臭い賢者と、歩く百科事典の二人が、あたいに手伝えってどういう事だい?」
 パチュリーに声をかけられて、小町は起き上がった、が、座ったままだ。
 パチュリーから、「能力を石に込める」研究をしている、という線で事情を説明した。
「面白い事してるねぇ。 でも、それで何故あたいを? 単に能力を石に込めるってだけなら、もっと近しい奴を、頼る方がいいだろう? あたいだって、いくらサボりが多いといっても、いつだって協力出来るわけじゃないよ」
 自らを頼った理由を問う小町、パチュリーはすぐさま答える。
「レミィの運命操作は軽々しく扱うわけにいかない、フランの破壊は危険だから却下、咲夜の時間操作は傍目に効果が解りにくい、美鈴の気は魔法で実現出来る範囲と大差ない」
 一気にまくしたて、一息ついてから更に続ける。
「共同研究してるアリスの方も、魔理沙は魔法使いだから趣旨にそぐわない、霊夢は効果の解りにくさに加え、協力を渋る事が明白……というわけで、都合さえ合えば協力してくれそうで、尚且つ効果の解りやすい貴女に、白羽の矢が立った」
(そういう理由なら、「小町である必要」はないとも言えるけれど……)
 胸中で呟き、紫は小町の反応を見た。
「成程ね、まぁ面白そうだし、手伝うよ。 でも流石に、大胆にここを離れてサボれはしないから、休日にやるって事でいいかい?」
「勿論」
「じゃあ明後日だね、その時はよろしく頼むよ」
 よろしく、と、そう言って小町は紫の肩を叩いた。
「自分の能力でなんとかしなさいと、言いたい所だけれど……仕方ないわね」
「ありゃ? 自分でなんとか、って来るかと思ったけど、そうなの?」
 小町は意外そうな顔をして、紫を見る。
「アリスの家と、別の作業小屋と、二か所でやってるの。 どっちも知らないでしょ、貴女」
「そうなのか、楽させてもらえるってわけだね、有り難い」

「小町が協力してくれるのは、明後日だそうよ」
 戻って紫が報告すると、パチュリーが言葉を次いだ。
「それまでは次の段階も見据えて、改良や調整をしておくわ」

 幽々子と妖夢を送り返した後、紫はある相手へと向かうスキマを開いた。
 出た場所は紅魔館……の、屋根の上。
「こんな場所で、取材内容を整理しているの?」
 目的の相手は文……ペンを片手に、開いた手帳を眺めながら、渋い顔をしていた。
「ええ、そうなんですよ。 不十分な材料でもって、どういう角度から行こうかと思いましてねぇ……核心については、貴女がそばに居る以上、触れさせてはもらえないでしょうし、図書館の主の、珍しい長期の不在をどう料理するか……」
「私が居るからと近づかず、どこまで調べられた?」
 文は、んー、と唸りつつ顎にペンの頭を当て、宙を見た。
「パチュリーさんとアリスさんが、二人で何かをしているらしい。 貴女と幽々子さんがそれを見ている。 紅魔館は敢えて詳細に踏み込んでおらず、永遠亭が協力した。 ……といった程度で、中身は解ってないですね」
「概ね抑えているのね」
「貴女達がそばにつき、そして永遠亭は語ろうとせずに暗に釘を刺す、特ダネの匂いがプンプンするというのに、口惜しいばかりですよ全く」
 はぁ、と大きく息をついて、肩を落とす文。
「二つ条件を飲んでくれたら、連れて行って、詳しく教えてあげてもいいわよ?」
「え? どんな条件で?」
「新聞にするのは事が済んでから、それに私から載せてもらいたい事があるの」
「解りました、約束致しましょう」
 提示された条件を聞いて即、文は答える。
「……やはり何か、とてつもない事をしているのですね」
「来れば解るわ」

 作業小屋では、パチュリーとアリスが、それぞれ魔導書を手に、魔法陣のチェックを行っていた。
「おおー、これは凄い」
「文? 新聞にされちゃっていいの?」
 紫へ向けて、アリスが問う。
「終わってからにする事、という条件で、ね。 紅魔館や永遠亭に、聞き込みに行っていたようだけれど、万一、真相に辿りついては大変だもの」
「それなら……お望みとあらば、どういうものか説明するわよ?」
 パチュリーが作業の手を止め、文へそういった。
「いいんですか? 是非お願いします」
「長くなるけど、最後まできっちり行くわ」
「メンテナンスを中断してまで? 作業を止めるのを嫌うのに、珍しいわね」
 やけに前向きなパチュリーに、アリスが横槍を入れる。
「一から見直す事で、改善点が浮かび上がってくるかもしれない」
「ふーん……じゃ、私はお茶の用意でもしておくわ。 紫、貴女もどう?」
「頂こうかしら。 送りついでに、何かあれば手伝うわ」
 紫はスキマを開き、アリスと共に移動した。

「あれってやっぱり……」
「ちょっと時間をおいて戻るのはどう? パチュリーにとって、良い気分転換になりそうだわ」
「そうね、しっかり用意して行きましょうか」

 少し長めに時間をとり、紅茶とケーキを携えて、紫とアリスが戻ると……
「この工程では、触媒として対象に関連した要素を、物品を溶かす事によって魔力に馴染ませて……」
 まだ続いていたパチュリーの説明と、やや疲れた様子の文。
「まだかかりそう?」
 紫が問いかけ、パチュリーは一旦説明を止めた。
「ん……興が乗って、熱心になりすぎて説明してたけど、なんだかもううんざりしてるようね」
「流石に疲れました……」
「じゃあ休憩して、後は軽く流すわ」
 文はあからさまに、ほっとした様子を見せた。

二日後。
 アリスの自宅の作業部屋、ここに紫・アリス・パチュリー・小町・文の五名が揃った。
幽々子と妖夢については、紫が妖夢から「人数が多いなら遠慮すべき」といった言葉を、引き出すように動いた事により、幽々子は渋々といった様子ながら、諦めている。
「へぇ、こりゃすごい」
 準備された魔法陣を見渡すように、小町はゆっくりと部屋の内を見やった。
「ここに座ってくれる?」
 アリスが椅子を指し示し、小町はそこに座る。
 アリスとパチュリーが、協力して準備を整え……
「まずは、緩やかに近づいていくようにという意識で、能力を使って」
「あいよー」
 能力をそのまま石に込める作業が始まった。

「座ってるだけでいいだなんて、随分楽だね」
 頭の後ろで手を組み、椅子を傾けて、隔離気味の場所である事も一切気にせずに、小町は気楽そうにくつろいでいる。
「数を多く用意してもらうから、そのうちだるくなってくるわよ」
「どれくらい用意するんだい?」
 パチュリーは宙を見やってから、答えた。
「十五個ずつ」
 鈴仙の時は十個ずつだったが、それより増やしている。
「うへぇ……で、これ、どれくらいかかる?」
「多分二分程度あれば、かしらね……だから一時間程?」
「その間座ってろ、と……成程確かにかったるくなりそうだ」
 机に突っ伏してしまう小町。
「まぁ、合間に休憩するのも構わないし、何も一時間ぶっ通しで座ってろ、ってわけじゃないから」
「そうそう、それにしばらくしたらお茶くらい出すわ」
「お、そいつはいいね、励みになるってもんだ」
 そこへシャッター音が響く。
「魔導書でも開いて、勉強させられてるようにしてみるのはどうです?」
「いや、どうって言われてもねぇ、別にそういう風に新聞にされても、構やしないけど、魔法の勉強なんてする気はないよ?」
「じゃあ、アリスさん、何か適当にそれらしい本をお願い出来ます?」
「それはいいけど……」
 少し戸惑ったような素振りを見せつつも、アリスは部屋の隅の本棚から、本を取り出して机に置いた。
 小町はそれを適当に開き……
「こんなんでいいかい?」
「ええ、では失礼して」
 再び響くシャッター音。
「本人は魔法の勉強なんて、しないって言っているのに、新聞の記事に採用するの?」
 紫が尋ねてみると、文はうーん、と声をあげた。
「まだ解りませんね、状況次第ですよ。 今後もこうして、近くで見させて頂く上で、面白い事があるようなら、そちらを採用するでしょうし」
「要は人目を引くような何かが、欲しいって事?」
 アリスの問いに、今度はすぐ頷く文。
「ええ、ただ単に凄い魔法研究、というだけでは、魔法に興味がない方に対しては、掴みが弱そうですからね」
「だからって、やってもいない魔法の勉強みたいな光景を、採用していいもんなのかい?」
 勉強などしない、と、言ってはいたが、手持ち無沙汰なのか、小町は机に置かれた魔導書のページをめくる。
「多少の誇張くらい、新聞では当たり前ですよ」
「まぁ、いずれにせよ、あんたの新聞は嘘だらけって評判だしねぇ……」
「嘘だらけ、ね……」
 嘘だらけ、と聞いて、アリスが思わせぶりに小さく呟いた。
「何か引っかかる事でも?」
「いえ、大した事じゃないわ」
 文が問いかけるも、アリスはそう言って、それ以上取り合わないと言いたげに、魔法陣を調整し出す。
「ところで、新聞はいつ出来そうなんだい? こうして取材されるのなら、出来上がったらすぐ見てみたいね」
「それはアリスさんとパチュリーさん次第ですね」
「?」
 小町は疑問符を浮かべる。
「紫さんとの約束で、新聞にしても構わないが、それは研究が済んだ後、という事になっているのですよ」
「あー、じゃあこっちの二人に訊いた方がいい、と……研究終了の目処は立ってるのかい?」
 小町はアリスに向けて訊ねたが、答えはパチュリーが述べた。
「今回の貴女の協力の後、追加で行う実験が、上手く行ってくれたら、目標の半分まで成功」
「そいつは……まだかかりそうだね」

 十五個ずつの石を用意し、パチュリーとアリスから、小町に礼を述べ、送り返した後。
 魔法化を行い、全ての石を成功させた。
「随分とあっさり、成功させているように見えるわねぇ……」
 石の入った瓶を手に、紫は呟く。
「本来はこの時点で「成功」と呼ぶものではない、前にも言ったけど、魔法石の品質という意味では、日持ちしなさすぎて問題外」
「ま、今回はこれを使って、別の事をするのが目的だし、この様子を見て「成功」って思っちゃうわよね」
 パチュリーもアリスも、この魔法石を前にして「成功」という意識は、薄いようだ。
「折角だから、魔法石としても合格を、目指したくはならないの?」
 その様子から、紫は思った事を問う。
「それは目的から外れた事、今回は関係無い」
「脇道に逸れて行くと、どんどん不足が見つかって、あれもこれも完璧にしたい、って形になって行っちゃうし、余計な事を考えないで先に進まないと」
「飽くまで「時を超える」事を実現し、それを目の当たりにするのが目標、というわけね」
 紫の言葉に、頷く二人。
「そう……で、次の段階だけど、今度は貴女」
 パチュリーは紫を指差す。
「私、ね……パチュリーの言っていた、肝心な所をビシッと決める、というのは、このタイミングの事かしら?」
「そうよ、貴女の能力は、魔力に親和性を持たせるために、一緒に溶かす物品はあるとは思えなかった。 だから最初から、代用品を使う方向で考えて……これ」
「魔法石?」
 パチュリーが取り出したのは、瓶に入った魔法石だった。
「能力ではなく、魔法が入っている。 ワープの魔法、つまり、言い換えると、二箇所の空間を繋げて瞬時に移動するもの……」
「余談だけど、これ、私達がやれるって言っても、準備が要るものだからね。 紫みたいに、パッとやって移動するなんて無理よ。 ワープなんて扱えるなら、自分で移動しろって言われても、結局飛んで行くしかないわ」
 今回は移動に関して、パチュリーもアリスも紫のスキマに頼りきりだ。
それが無くては大変という事か、魔法についての補足説明をするアリス。
「そんな一生懸命主張しなくても、送り迎えくらいやってあげるわ……それはさておき、確かにその魔法、スキマと似ているとも言えるわね」
「ちょっと強引過ぎやしません?」
 文が少し胡散臭そうに、そう言った。
パチュリーが何か言おうとした所で、アリスが横からそれを制止する。
「パチュリーに言わせると長くなるから、凄く乱暴に言ってしまうと、多少性質が似ていたら、それに近づけるようにする事も出来るのよ」
 パチュリーは、邪魔をするなと言いたげな素振りを見せたが、アリスが文の方を見ると、困ったように頭を掻いた。
「本来はそれ程、融通の利くものではない。 その融通の幅を広げたのが、今回の私の理論」
 とても長い説明に、辟易とさせてしまった事を反省してか、シンプルにそう言う。
「都合のいい所を抜き出して、くっつけて、意味をちょっと変えてしまうもの、ね」
「都合の良くない部分はどうなるんです?」
 一方文の方は、新聞記者としての性か、長い説明になりかねない事も、平気で質問してくる。
「分解すれば、それは人や世界に影響を及ぼすものではなくなる。 ただの意味を成さない魔力として、散らしてしまえば、危険はない」
 パチュリーが、そこに魔力が漂っているかのように、空中から天井を指差すようにし、文がそれを目で追う。
「まぁ、厳密に言うと、そうやって色々分解して、散らしていって、周囲の魔力濃度が高すぎるようになれば、魔法使いじゃなければ、体調を崩す事も考えられるわね」
「私達の魔力回路は、全てその辺に散らしてしまうのではなく、少しは再利用出来るようにしてるから、半日程連続で起動するのでもなければ、問題ない」
「時折換気しないといけない、と」
 そう言いつつ、文は窓辺に歩こうとして、ぴたりと足を止めた。
「ああ、開けても別に問題ない。 意味もあまりないけど」
 パチュリーに、冷静に突っ込まれて、文は頭を掻いた。

アリスの自宅へと移動し、紫の能力を石に込める作業が始まった。
「それで、私の能力はどう使えばいいのかしら?」
「最初は、自分の近く……そうね、この家の外辺りの距離に、開くように意識して。 その後は、今回の場合、上手く行けば過去を見る事になる。 だから、見たい相手の場所を、意識してくれればいい」
「自分や相手を意識……大丈夫かしら」
 パチュリーの指定に、アリスは不安そうな様子を見せる。
「特定の場所が対象となるから……対象を大雑把にしてもらった、鈴仙や小町の例より、てゐの例に近い可能性が高いはず」
「より一層、慎重に行かないといけなさそうね」
「じゃ、始めて」
 指示を受け、紫は能力を使用した。

……作った石は十個、まず能力をそのまま込める段階は、成功した。

「ここからが問題ね」
 作業小屋へと移動……今から既に、アリスの表情は険しい。
「……あら? 少し増えてる?」
 魔法陣の機能が増えている事に、紫は気付いた。
「今回、貴女の能力を扱うにあたって、危険があると予測した」
「えーっと、上手く行きそうでも、ぎりぎりの所でわざと失敗、だったわね……」
 パチュリーからアリスに、そういった妙な注文がされているらしい。
「わざと失敗? その危険を防ぐための仕組みが、上手く機能するか見るという事?」
「そう、貴女の能力の魔法石化に失敗した場合、その場でスキマが開く事になり、それはつまり……」
 パチュリーは中央の魔法陣を指差す。
魔法石化するために、魔力と能力の石を、溶かして混ぜ合わせる場所……
「スキマを開いた相手の場所に、高温でドロドロに溶けた石が送られる……行き先では結界は機能しないのね?」
「飽くまでここでだけ、という使い方だから、そのままでは、行った先で溶岩が垂れ落ちる。 それを避けるために、魔法陣の外でも、機能するタイプの結界を用意した」
 パチュリーが、追加された魔法陣を起動すると、炎の魔法等を包むものと、同じような小さな結界が現れた。
「更にもう一つ」
 同じく追加された魔法陣から、現れた結界に向けて光が繋がる。
「これまでの応用で、結界の中に結界を作る魔法を入れた」
「なんだかややこしいですね……魔法陣から作る結界に入った結界、だから、スキマで飛ばされると外の結界が無くなり、中身の結界が機能する、という事ですか?」
「そういう事」
 文の言葉に、頷くパチュリー、そして紫を見やった。
「じゃ、紫、この結界をスキマで魔法陣の外に動かしてみて」
「解ったわ」
 スキマに飲み込まれた結界は、少し離れた宙に現れ……
キィン と甲高い音を立てて、元よりも僅かに大きい結界が現れた。
「こんな具合に、熱と物質を遮断する結界で即座に覆う。 これが、きちんと溶けた石を防いでくれるかどうか、確認しなければならない」
「……てゐに、例の魔法石をあげたのは、失敗だったんじゃないかしら?」
 あの石があれば、もし外が燃えてもすぐに鎮火できたであろう、しかしパチュリーは表情を変えずに答えた。
「あれくらい、すぐ撃てる。 失敗したらすぐに、小屋の上空に送ってもらうわよ」
 どうやら消防体勢は万全らしい。

 魔法石化の作業が始まった。
流石に今回はやや難しいらしく、安定を見せた鈴仙・小町の場合と比べると、人形の警告も多いが……
「この分ならなんとかなりそうね……」
 アリスは険しい表情ながらも、その口角は少し持ち上がっている。
 これまでの積み重ねが、難しさを上回ったようだ。
「じゃあ適当な所で、結界を緩めて」
「了解よ」
 ……それから数十秒程。
 人形が警告をすると共に……
ガシャン と音がした。
すぐ様紫は、パチュリー共々スキマで、小屋の上空へと移動する。
 二人共に、あたりを見渡し……
「あったわ」
 パチュリーが指差す方向、少し離れた草の上に、結界に包まれた石が宙に浮いていた。
「大丈夫そうね、もし他の誰かの所のもので失敗したら、回収は頼むわよ」

 屋内に戻り、作業を再開し……結局その後は、全ての石を魔法化する事に成功した。

そして、次の工程にすぐに進む事はなく、一旦解散となった。
 咲夜・鈴仙・小町・紫の能力で、過去へと繋ぐ目処が立ったが、今の所は方法を想定しているだけで、実際の魔術回路の構築は、まだ行っていなかったためだ。
 アリスの自宅・作業小屋を使用しているため、これについては図書館の奥に、設置する事になり、スペースの確保を、紫も手伝った。

二日後。
図書館の奥に、紫・幽々子・妖夢・パチュリー・アリス・文の六名――アリス宅よりも、広めに場所を確保しているため、幽々子達も入る事が出来た――が揃った。
「石がたくさんあるわね」
 紫・小町の石は一つずつだが、咲夜・鈴仙の石は複数が接続されている。
「……アリス、説明は貴女に譲るわ」
「え? 別に説明したい、ってわけじゃないけど……?」
「こんな肝心な部分を、長話にしないで居られるとは思えないから」
 パチュリーは残念そうな、申し訳なさそうな、複雑な心境といった様子だ。
お鉢が回ってきたアリスは、パチュリーが説明するだろうと思っていたのか、困ったように頬を掻いた。
少しの間設置された魔法陣や、浮かんだ石を指差し、確認するような仕草をしてから、説明を始める。
「えーっと、まず肝になるのは咲夜の能力、これで中央の結界魔法陣の中の時を止めて……そうすると、結界の中はこっちから見ると、過去って事になるわよね?」
 そこまで言って、アリスは一同を見やる。
「時間が止まっている分、外の私達からは何秒、何分、過去の世界と言う事が出来る」
 文が合いの手を入れ、アリスは頷く。
「そう、だから内部と外部の間には、過去と現在という「境界」がある。 でも、そのままで紫の能力を使っても、繋がるのは時間を止めたそのタイミングに、限定されるはず。 と、これはパチュリーも言っていたわね、そこで……」
 アリスは、浮かべた石を指さした。
「小町の距離を操る能力に、咲夜の能力から抽出と干渉を加えて、「現在と過去の時間の距離」を変更出来るようにしたの。 動かしだしたら止められないから、伸ばす方と縮める方、両方を鈴仙の能力で弱めたり強めたりしながら、調整する事になるけど」
「止めた時点に限らず、もっと過去へも行けるようになるんですか?」
 妖夢の問い、アリスはうーん、と、一声唸って答えを続ける。
「一応そうなるはず、なんだけど、試すのは今が初めてだから、まだ解らないわね……で、紫の能力で、誰か、或いはどこかへスキマを開く事で、過去の地点と繋がるというわけ」
「その繋がった向こう側へは、行き来したりは出来るんですか?」
 文が問うと、アリスが答えるより先に、紫が口を挟んだ。
「出来るとしても、行くべきではないわね。 確実に、過去を大きく変える事になるわ」
「すると、見るだけで、過去に干渉はしないので?」
 紫は考える、当然ながら、すべきではないが……
「貴女達はどう思う? 何かをするか、しないか、どちらを選択するのか……」
「折角の機会ですし、どうなるか、と、興味はありますね」
 問いかけに、文が真っ先に答えた。
「そういう意味では、私も気にはなるけど……」
 アリスははっきりとは答えない。
「同じく気になるわね、でも、個人的には反対よ。 どう今に影響してくるか、解ったものじゃない」
 パチュリーは反対を明言する。
「それなら、ちょっとした事とか、悪い影響を及ぼさないと思える事なら、いいんじゃない?」
 ニコニコと、緩い声音で、幽々子は干渉する派に回った。
「そんなあっさりと……大丈夫だと、確信されているのですか?」
「うってつけの場面があるじゃない。 ちょっとくらいここから弄っても、問題の無さそうな所が」
 妖夢が尋ね、幽々子は自信ありげに答える。
 幽々子は何かをさせたがっている、紫はそう感じた。
そして、このような言い方をする場面と言えば……
「前向きな意見が多いようね、ま、賢者が問題無いと思うようなものがあれば、やってみて」
 皆の意見に好奇心が煽られたのか、パチュリーがそんな言葉を付け足した。

最初の実験で用いるのは、幽々子へと向けたスキマの石と決まった。
どれにするかと、話題に挙がった時点で……
「見られても別に構わないわよ?」
 と、幽々子があっさり許可したため、選択される運びとなった。

スキマが開き、その向こうには図書館の奥に集まった、紫達の姿が見えたが……
「これじゃまだ解らないわね、もっと過去に行かないと」
「それじゃ、一旦鈴仙の能力を使って、と……」
 アリスが呟くと、魔法陣の中のスキマは、視認が難しい程度の大きさまで、縮小していった。
「あのままじゃ、幽々子のそばにいつもスキマがあった、って事になっちゃうしね。 ……小町の能力を使うわよ」
 視認の難しい大きさ、当然ながら、その向こうがどうなっているか、こちらからも見えない。
 少しの沈黙……やがて、小町の石・距離を広げる側からの光が弱まっていった。
「強めにかけたけど……加減が解らないわね、ちょっと開いてみるわ」
 再びスキマが大きくなっていき、向こうの様子が見える程度になった。
目まぐるしい速度で光景が逆再生されている、アリスが距離を広げる石を弱めつつ、距離を縮める石を強め、時間の流れを調整すると、そこには……
「あら? ここまで戻ったの?」
「もしかしてこれは……秋頃の?」
 幽々子が一人で里に出ている。
一気に半年弱も戻ったようだ。
「うわ……あれだけでそんなに……? 繊細な動作は難しそうね」
「加速度的に、だんだん遡る早さが増した可能性もあるわ。 まぁ、とりあえずはもっと慎重に」
 パチュリーの指摘通りに、という事か、だんだんスキマの向こうの光景が、早く過ぎるようになっている。
「これは……うーん、時間の流れ方を一致させるのは、慣れが必要ね……」
「……え?」
 幽々子が小さく声を上げた。
「どうされました?」
「これ、あの時とは違うわ」

 スキマの向こうの幽々子が、香霖堂に立ち寄っている場面。
こちらの幽々子の体験との間に、違いがあった。
魔理沙と鉢合わせたか、そうでないか。
 どういう事なのか、それを論じるのは後回しにし、どう違うのかを、一同固唾をのんで見守り……
結果として、魔理沙と会わなかった幽々子は、守矢神社と関わりを持ち、魔理沙と会った幽々子は、命蓮寺と関わりを持った事が判明した。

「これは……どういう事なんでしょう」
 もう一つの幽々子の行動の顛末を、駆け足で眺め終えてから、妖夢が呟いた。
「咲夜の能力は時間を止めるだけ……だから、紫の能力に、鈴仙か、小町か……どちらかの能力が思わぬ干渉をしたと、考えられる」
 パチュリーが仮説を延べる。
「波長の操作に、距離の操作……一歩何か違えば、こことは違う時間に繋がる事も、あり得そうには思えますね」
「ただ時間を超えるだけでなく、世界まで超えちゃったのね、凄いじゃない」
 納得した様子を見せる文と、あっけらかんと褒める幽々子。
「これは意図しない結果、凄い事とはまだ言い難い。 原因を特定出来て、尚且つ操作出来るのなら、目指す大魔法に箔がついたとも言えるけど」
 しかしパチュリーは否定する。
「それで、どうするの? このまま、別の選択を辿った時間を見るか、原因を見つけて、私達の時間を見られるように、調整するか……」
「それは勿論、こうして見てしまったら、残りも気になるというものでしょう?」
 紫が問うと、またも真っ先に文が答えた。
「そうね、私も見てみたいわー」
「見るだけなら、向こうの時間に影響を及ぼさないはず。 であれば、私もうちの連中が何をしたのか、見てみたいわね」
 幽々子・パチュリーも文の言に同意する。
「遠慮する必要はなさそうね、気になるわ」
「私も見てみたいですね」
 アリス・妖夢が続いて、このまま別の時間を見てみる事になった。

過ぎゆく時間の速度の調整に、アリスはなかなか慣れる事が出来なかった。
「大体早すぎるのよね、もうちょっとかしら……」
「まぁ、等速でじっくり見ている余裕もないでしょうし、早めのままで操作に慣れるようにすれば、いいんじゃないですか?」
 気楽な調子で文が提案する。
「それもそうね」
 幽々子の例のように、永遠亭や紅魔館も、数日がかりの出来事だった可能性がある。
早い時間の流れのままに、大雑把に把握する程度にしなくてはならないだろう。
作った魔法石はいずれも、品質が良いとはいえず、自壊してしまう恐れがあるのだから。

永遠亭は、鈴仙がきっかけを作って地霊殿・てゐがきっかけを作って守矢神社……
紅魔館は、美鈴が命蓮寺・レミリアとフランドールが地霊殿……
 スキマの向こうの時間と併せ、一同はその経緯を知り、その日はそこまでで一旦終了とした。

翌日。
「次は焼き鳥屋台? それとも宴会?」
 至って上機嫌に尋ねる幽々子。
「順を追っての方が、いいんじゃないかしら……どこかで、全く違う結果に向けて、動いているかも知れないわ」
 アリスがそう提案すると、紫は魔法石――込めた回数順に並べてあった――を手に取る。
「これが妹紅に向けたスキマの石ね」
「……十個の内訳が、気になるわ」
 アリスが胡散臭そうに、紫へ視線を向けると、紫は立てた人差し指を宙に向け、答える。
「家の外、私、幽々子、レミリア、咲夜、美鈴、てゐ、鈴仙、妹紅、天子」
「一連の出来事を、追いかけられそうな人選にした、ってわけね」
 石を受け取ると、アリスはそれを定位置に設置した。

妹紅の焼き鳥屋台は、こちらの時間とは大差ない展開を見せた。
「一か所ずつ挨拶して回っていたようだし、違いは殆どないわね」
 幽々子が感想を漏らす。
紫が文を見ると、苦い顔をしていた。
 視線に気づいた文は、紫を見つめる。
「これを知っていたから、あの二人に私を押し付けたんですね」
「さて、何の事かしら」

 石を天子へのスキマに切り替え、宴会準備の段階までを終え……
「幽々子さんの仰っていた、弄っても問題のなさそうな場面は、この宴会ですか?」
 文が質問を投げかける、その表情は先程と打って変わって、楽しそうなものだ。
「そうよ、ここなら少しくらい変わっても、どうせみんなで宴会してるんだから、大きく変わりはしないでしょ?」
「幽々子様、まさか……お酒をちょっと拝借して、一杯楽しみながら見ていたいとお思いで?」
 バレた、と言うかのように、幽々子がぷいっとそっぽを向いた。
「幽々子様?」
 そこはかとなく力の篭った妖夢の声、しかし幽々子はそっぽを向いたままだ。
「まぁまぁ、いいじゃないの。 確かに、お酒をちょっともらう程度なら、それこそみんなで宴会してるんだから、問題ないわ」
 紫がそう言うと、幽々子がパッと明るい表情でこちらを向いた。
「全くもう……」

 会場の上部に設えた場所、霊夢達が開幕の挨拶をした後、そこに皆で留まっていた場面……
「ここかしら、ね。 アリス、上手くやれる?」
「任せなさい……とは、言えないけど、頑張ってみるわ」
 紫は目を閉じ、スキマの向こうからの声を聞く事に専念した。
時間の流れ方は、正常なそれより早く、その音声は高い。
だんだんと低くなり……
「それよ、今の状態を維持して」
「維持ったって……こうかしら?」
 距離を広げる石・縮める石の光が拮抗した。
「……良さそうよ、それじゃ……」
 紫は手元に別のスキマを開き、そこに手を突っ込んだ。

「わ!」
 不意に天子が声をあげ、周囲の皆が天子の方を見やった。
スキマから伸びた手、すぐに紫の仕業と気付き、大半はすぐに歓談に戻る。
「え? ちょっと!」
 天子の手から、酒の入ったコップが取り上げられ、スキマが閉じていく。

「はい、幽々子。 パチュリ……よりも、文ね、ちょっと、手帳を一ページ分けて、それとペンを貸してくれないかしら?」
 天子から取り上げた酒を、幽々子に手渡すと、紫は矢継ぎ早に文へと頼む。
「メモで何か知らせるのですか?」
「流石に、顔を出して話すわけにはいかないもの」
 紫はちらりと幽々子を見やると、受け取った酒を口にした所で……
「わぁ……あの子、鬼の酒を割らずに飲んでるわ、これじゃしばらくしたら、酔いつぶれちゃうわよ」
 そう聞いて、紫は手帳のページにペンを走らせた。

 再び開いたスキマから、紙片が落ちてきた。
 天子がそれを受け取ると、そこには……
(鬼の酒をそのまま飲むな、最後まで参加したければ節度を守る事……)
 天子は紙片の落ちてきた方を見上げる。
そこにあったであろうスキマは、既に閉じていた。

とはいえ、これで見る事をやめたわけではない。
大きく行動したため、向こうの時間の面々に注意を払われている、そう予測されたからだ。
一旦、気付かれない程度にスキマを縮小し、少し時間を進めてから、再びスキマを広げた。

……

紫に会場の方へと下ろしてもらってから、天子はまず最初に衣玖を探した。
「衣玖ー!」
 見つけた衣玖へと駆け寄る天子。
「おや、総領娘様」
 衣玖はまず真っ先に、怪訝そうな顔を天子に向ける。
どういう事だろうと考える天子をよそに、衣玖は顔を近づけてきた。
「な、何?」
「まだ大丈夫そうですね、上では止めてくれる者も居なさそうですし、早々に潰れる程、飲んでくるかと思いましたが」
「あー、そういう事ね、今の」
 纏う酒の匂いで判別したらしい。
「なんでそんなので判断してんのよ……」
「それなりに長い付き合いですし、大体それでわかるんですよ」
 何故か衣玖は少し得意気だ。
「……そっちこそ、酔ってるんじゃないの?」
「まぁ多少は。 ですが、調整すれば問題ありませんよ。 鬼のお二人のような方は、ちょっと避けて通りましょうか」
 所作こそ普段通りだが、余計な言葉がついている。
「ああ、確かに酔ってはいるのね……さて、どうしようかしら」
「何か迷うような事でも?」
「誰の所に行こうかな、ってね」
 天子と衣玖、二人は辺りを見渡した。
「折角のこの宴会で、立って迷ってるだけというのも、勿体無いですね。 適当に歩いて、見知った顔が居たら、立ち止まってみてはどうです?」
「そうしようかしらね」

 最初は衣玖の提案通り、適当に歩いていた天子だったが、途中から明確に誰かを探すような確認の仕方に変わっていた。
「どなたを探しておられるので?」
「霊夢」
 短く答えて、天子は再び辺りを確認する。
「何故彼女を?」
「こういう宴会の時、何してるんだろうって思ったのよ」
「成程、では……」
 衣玖が立ち止まった事を受け、天子もその足を止める。
程なくして、衣玖はある方向を見やると……
「多分、あちらですね。 人の行き来が多い場所があるようです」
 天子の手を引いて、歩きだした。

「さっき別れたばっかなのに、なんでいきなり、私んとこ来てんのよ」
 見つけた霊夢のそばで立ち止まると、不機嫌そうにこう言われてしまった。
「別に、ただ貴女がどうしてるか、気になっただけ」
「見世物じゃないってのよ、全く」
 見世物、と、妙なフレーズに、天子は疑問符を浮かべる。
「どういう事?」
「ああ、知らないのね、まぁ……見てりゃ解るわ」
 霊夢の不機嫌は少し鳴りを潜めたように、天子は感じた。
一体何なのか……好奇心を煽られつつ、天子は「見てりゃ解る」というその答えを待った。

しかし、それもやがて後悔に変わった。
 今回の宴会は、里の面々には「霊夢の提案」として伝わっている。
それ故に、ひっきりなしに里の人間がやってきては、霊夢にお礼を言いたがっていた。
そして天子がそばに来て以降、霊夢はその都度……
「それはこの天人と竜宮の使い、両名の頑張りもあっての事よ、なんたってあの署名は、この二人が集めたんだから」
 といった趣旨の事を説明し、天子と衣玖がお礼を言われる形になってしまった。
しばらくして、やや落ち着き気味になった頃に……
「なんで霊夢が、こいつを持ち上げてるんだ?」
 魔理沙がやってきて、問いかけた。
正しくは、少し前から見ていたが、割って入る事を避けて、離れていたようだ。
「だって、私何もしてないのよ? それなのに有難う有難うって、どんどんお礼言われたって、落ち着かないわよ。 ちゃんとこの天……?」
 天子は俯いてしまっている。
「どうしたのよ、飲みすぎた?」
「ち、違うわよ」
 霊夢に顔を覗き込まれ、天子はぷいっとそっぽを向く。
「褒められ慣れていないので、ああしてたくさんの人に感謝されて、これ以上ない程照れてるんですよ」
「ああ、不良天人とか呼ばれてる、って言うしなぁ」
 衣玖が説明して、魔理沙はうんうんと頷き納得した。
「衣玖! 言わないでよそんな事!」
「へぇ、褒められ慣れてない、ねぇ……」
 霊夢がにやっと笑って……何か言うのかと思えば、それきり、言葉は続かない。
「……なんだ? 何か言おうとしたんじゃないのか?」
 魔理沙がそれを指摘するも……
「なんでもないわよ」
 霊夢はぶっきらぼうに返す。
「お礼を言おうとして、照れくさくさせてやろうとして、自分が照れくさくなって、やめたんですよ」
 再び衣玖が説明した。
「ちょ! なんであんたが! さとりじゃあるまいし!」
「いえ、照れくさそうだといった空気を読みまして」
 涼しい顔をして衣玖は答える。
「うるさい! 勝手に付け足すな!」
「では総領娘様、逃げましょうか」
「え?」
 先日の天子よろしく、衣玖は親指を立てて見せると、脱兎の勢いで逃げ出した。
「あ、じゃ、じゃあ、そういう事だから!」
「どういう事よ!」
 激昂する霊夢、魔理沙が気付かれないように、天子へ向けて「早く行け」と身振りで示す。
「まぁまぁ霊夢、こんな時にカリカリしたってだな……」
 なだめる魔理沙の声を背に受け、天子は胸中でお礼を言いつつ、その場を離れた。

「衣玖……」
「何ですか?」
「貴女、酔ってるでしょ……多少じゃなく、かなり」
「多少は」

 なんとか霊夢の元を脱して、気がつくと……
「あら、これは……」
 プリズムリバー三姉妹の演奏が行われていた。
 主に冥界で活動している彼女ら、ルナサ・メルランの単独での演奏は、精神への作用から人間には危険とされるが、姉妹揃っているため、人も妖も入り混じって、演奏に聴きいっている。
「丁度いいわね、逃げて疲れたし、ちょっと休んでいきましょ」
 天子が衣玖へ小声で囁く。
 しかし、適当に空いている場所に座ってすぐ、天子は立ち上がった。
「どうされました?」
「ちょっと水でも、もらってくるわ」

 あの様子の衣玖をつれていては、霊夢に限らず他の相手にも、何か痛い所を突いて、怒らせたりしかねない……天子はそう判断し、少し酔いを醒ましてもらうためにも、と、そういう意図の提案だったが……
「水をもらってくる、なんて……あからさま過ぎたかなぁ……? それにしても、こう広いと、どうしたものか……」
 探しているうちに、不意に天子の目に、気になるものが飛び込んできた。
里の人間に、お礼を言われている、見覚えの無い少女の姿。
先程の霊夢の件もあって、なんとなく眺めていると、どうやら多くの人に歓迎されているらしい。
しかし、宴会の準備の時点では、顔を合わせていなかった相手だ。
 それとなく近づいて聞き耳を立て、挨拶をする人の切れ目を狙って話しかけた。
「こんにちは、貴女達、神様なんですって?」
「そうよ、私は豊穣を司る穣子、こっちは姉で、えーっと、紅葉を司る静葉」
 姉というのに、何故か少し言葉を濁した。
だが、天子はそれよりも気になる点があった。
「それなら……っと、その前に、私は天子、天人よ。 で、話を戻すけど、豊穣を司るなら、永遠亭がやってた事の準備を手伝えたんじゃ?」
「秋の神だから、春の今はそれ程活発に動いていないのよ。 だから準備の事、知らなかったの」
 穣子は少しばつが悪そうだ。
「永遠亭がやってた事って?」
 続けてざまに穣子は、天子へ質問した。
「ああ、それは……」
 天子は永遠亭の面々が、農場を用意してもらって、野菜を作っていた事を話した。
「それなら、私の出番は無かったでしょうねぇ……秋に実るものにしか効果が無いのと、もう一つが問題で、一つ一つ育ててるから、そんな時間を早めて収穫するなんてもの、間に合わないわ」
「へぇ、頑張ってるのねぇ……里の人にも感謝されるわけだわ」
 作物の世話で、ぐったりしていたてゐや鈴仙を思うと、そんな言葉が口を突いて出た。
「それはそうと、何かきょろきょろしながら、近づいてきてなかった?」
 不審がられないようにと、意識していたが、しっかりバレていたようだ。
「実は……」
 天子は、酔っ払った衣玖のために、水をもらいに行こうとしていた事を、説明した。
「だったら、そこらじゅうにある、妖怪の賢者のスキマに入るといいわ。 その先で食べ物や飲み物を、配ってるそうよ」
「あ、そうだったのね」
 やけにスキマが多く、配置されているとは思っていたが、その意味を天子は知らなかったため、入る事は避けていた。
実の所、高座から下ろしてもらった後に、説明があったのだが、すぐに衣玖を探しに行っていた天子は、それを知らなかった。

水をもらって、衣玖の所へ戻った天子。
「有難うございます」
 衣玖は水を受け取って、すぐに飲み干した。
「大丈夫?」
「……申し訳ありません、総領娘様」
 天子が心配する様子を見せると、衣玖は詫びて、頭を下げた。
「別にいいわよー、たまにはこういうのだってね。 それにしても、貴女がこんな風になるなんて珍しいわね」
「その、実は、ちょっと……」
 妙に歯切れが悪い、天子は首を傾げて言葉の続きを待つ。
「私のいつもの苦労を、解って頂きたい、というような気分が起こりまして、酔いの勢いで……」
「あー……どことなく、身に覚えがあると思ったら」
 衣玖はすっかり委縮してしまっている。
「まー、ちょっとびっくりしたけど、気にしないで」
 天子は、先程までいた高座の方を見やった。
あそこにいる間に、誰かと「うちの主が我侭で」「うちの総領娘様だって」といった具合に、くだを巻いて、飲み過ぎていたのかもしれない……そう考えると、天子の胸に、少しの罪悪感がよぎった。

しばらく休憩して……
「ねぇ、衣玖」
「?」
「誰かと苦労話で盛り上がって、飲み過ぎたの?」
 先程思った事を、天子は尋ねてみた。
「ええ……妖夢さんと」
 やや歯切れ悪く帰ってきた答えに、天子は納得すると共に……
「貴女も結構酔ってたみたいだけど、大丈夫かしら……」
「見ていて、酔ってるなぁ、と思いましたね」
衣玖自身も、それなりのものだったが、その衣玖から見てそう思えるとは……
「なんだか妙に心配に……」
「では、行ってみましょうか」

 衣玖の先導で、料理や酒等をもらいに行くための、スキマへと入った。
そこから更に進み……

「紫さん、少々よろしいですか?」
「うわ、凄っ」
 紫が酒と料理を傍らに、数多くのスキマで会場の様子を監視していた。
「あら? 何の用かしら」
「さ、総領娘様」
 衣玖は天子の背を押し、紫の前に立たせる。
「あー、その……衣玖が妖夢と一緒に飲んでたらしいじゃない? で、衣玖が結構酔ってたものだから、妖夢の方は大丈夫かな、って」
「あの子の事を心配してくれたのね……見に行ってみる?」
 紫はやけに優しい声音で言った。
「え、ええ、お願い」
 戸惑ってしまう天子、すぐに衣玖と共に、妖夢の元へと送られた。

 妖夢は酔い潰れて、眠ってしまっている。
幽々子が膝枕をし、妖夢の頭を撫でていた。
「あー、潰れちゃってたのね」
 天子がそう言うと、気付いた幽々子が顔を向ける。
「この子の様子を、見に来てくれたの?」
「うちの衣玖が一緒に飲んでたらしくて、ちょっとお茶目な事するくらいに、酔ってたからね。 ちょっと心配で」
「有難う、この通り眠ってはいるけど、大丈夫よ」
 確かに、穏やかに眠っている。
と、不意に妖夢の寝顔に……
「んん?」
 右の頬に、三本、線が描かれた。
次いで、左にも。
「あら、猫髭妖夢。 可愛いわね」
「いや、何これ。 それは否定しないけど、なんでいきなり?」
 筆やペンの類で描いたようだが、勿論誰もそんな事はしていない。
「む、そこですね」
 衣玖が呟くと、バチッと電気が走った。
「ぎゃん!」
 姿や音を消していた、サニーミルク・ルナチャイド・スターサファイアが現れた。
「お、おのれ、二十三連勝止まり……」
 そんな事を呟くサニーミルクの手には、マジックが握られている。
どう見ても主犯格、衣玖が素早く羽衣を巻き付け、捕獲した。
残る両名はサニーミルクが捕まったのを見ても、逃げだしはせず、諦めた様子で大人しくなった。
「捕まえたけど、どうする?」
「別にどうもしないわ、可愛いし」
 天子が問い、幽々子は妖夢の顔に視線を下げる。
「じゃあ放してよ」
「この通り、サニーも反省していますから」
「いや、どう見ても反省してないわよね」
 どうもしないと聞いて、解放を要求するサニーミルクに、スターサファイアが言葉を次いだが、冷静に突っ込む天子。
「音も姿も消したのに、何故気付いたの?」
 ルナチャイルドに問われて、天子は胸を張る。
「ふふふ……うちの衣玖は、空気を読むのよ! 見えなくても聞こえなくても、誰か居る事くらい解るわ!」
「なんで貴女が得意げなのさ」
 逆にサニーミルクに突っ込まれてしまった。
「そんな事より、相手は慎重に選んだ方がいいですよ。 もし幽々子さんが怒ったら、きっと大変ですからね」
 衣玖は諭すように、光の三妖精へとそう告げ、サニーミルクを解放した。
「そうね……普通の人間でも狙おうか」

「相手を選べ、なのね。 やめるように、ではなく」
「さっき自分でやった後なので、こんな時だから、怒らせるような事はするなとは、言えませんでした」

 妖夢と幽々子の元を後にして、少しあてもなく移動していると、天子が遠くに妙なものを見つけた。
「あれ、何かしら……」
「何か浮かんで……?」
 もう少し近づいて行くと、天子にはその姿が解った。
「えーっと、逆さになってぶら下がってる誰かと、ぶら下がってる桶」
「訳が分かりませんね」

 例のぶら下がっている者と、桶……その近くまで来る間に何度か、落ちてはまた空中に制止する様が見えていた。
「何やってんの? あれ」
 見知った者を見つけ、天子は声をかける。
声をかけられた勇儀が、振り返って片手をあげた。
「やあ天人の、お疲れさん」
「ああ、どうも、貴女も準備お疲れ様。 で、あれ何?」
 ヤマメが糸を出して空中にぶら下がり、キスメが縄を経て空中にぶら下がり、同時に落下して、地面ぎりぎりで止まり、また登る。
両者を吊り下げるための、糸や縄を括り付けておくものは、ここには無い。
しかし、もやもやと景色を揺らがせる何かが、糸や縄をピンと張りつめさせ、支えていた。
「まぁ余興だね、特に意味のあるこっちゃないよ」
「丁度良い木やなんかもないってのに、どうやってぶら下がってんの?」
 勇儀がもやもやした何かを指さした。
「私の能力でああやって、固定してる」
「怪しさ抜群ね、突っ込みたくて仕方ないわ。 なんでもやっとしてんのよ、なんであれで固定なんて出来んのよ」
 遠慮なく突っ込みを入れる天子。
「言葉に出来ないような事を出来るのが、私の力さ」
 しかし勇儀は事も無げに、いまいち答えにならない答えを返す。
「図書館の魔女なんか、内心実験対象にしたがってんじゃない?」
「ま、出来やしないね」
「でしょうねぇ、そういうまどろっこしいの嫌でしょ」
 あれこれ能力を使えと、指示するパチュリーと、嫌気がさして、図書館に風穴を開けて脱出する勇儀、そんなシーンが天子の脳裏によぎった。
「そんな話をしに来たのかい?」
「いいえ、遠目にあのぶら下がってる姿が見えて、確認しに来ただけ」
 天子が指差し、またヤマメとキスメが落下した。
「そうか、見ての通り……いや、見ただけじゃわからないか。 ここは地底から来た奴が集まってるから、用がないなら、他へ行くといい」
 確かに、元々天界で退屈していた天子には、見ただけでは地上の者か、地底の者か、判別は難しい。
「そうなの? 余所者がいるとまずいとか?」
「どうだろうね、一応は希望者を募って来てるから、余所の奴らに悪い感情ばかりでない奴も多いけど、やっぱ地底者だ。 あんたらから見るとちょっと傾いてて、良くない思いをするかもしれないしね」
「へぇ、こんな時だってのに、気を遣ってんのねぇ、お疲れ様」
 天子が労うと、勇儀は手を振って否定した。
「あんたの発言があったからこそさ」
「? 私なんか言ったっけ?」
 特別な事を言った覚えは、天子自身にはなかった。
「名前出しておかないと、意識に壁が出来かねない」
 天子が発現した内容を、暗誦する勇儀。
自分の言葉をすっかり忘れていた天子は、頭を掻いた。
「あー、言ったわね……なんかつい、アドリブで」
「さとりがその言葉に乗ったのさ。 あんたはそれ程、意識してなかったようだけど。 地底は地底、地上は地上、と割り切ってるばかりでなく、機会があればお互い恩を売って、いざという時に利用し合える方が、得だってね。 宴会準備の協力も、今、一部の奴だけ来てるのも、その一環さ」
「実も蓋もないわね……」
 ヤマメとキスメのぶら下がり芸は、ただ落ちて登ってを繰り返すだけでなく、高くあがって、縦横無尽に動くものに変わっている。
それを肴に盛り上がっている地底の面々を、天子は見やった。
「それでも地上がああなってたのを、ざまぁみろって言ってるばかりよりは、実のある話さ」
「まぁね。 じゃ、私は邪魔にならないよう、退散するわ」
「そうか、機会があったらそのうち、飲むとしよう」
 萃香と一緒に、天界に来るつもりなのだろうか。
鬼が二人揃っては、大変そうだ……そんな事を考えつつ、天子はその場を離れる。

しばらく、ぶらぶらしながら、見知った者と話しつつ飲み食いしていると……
「や、お邪魔するよ」
 小町が現れた。
一人、連れがいる。
「こんにちは、天子さん、衣玖さん」
「貴女は……」
「うちのボス、四季映姫様。 今回、二人が頑張った事を知って、まず真っ先に挨拶したいって言うから、連れてきたんだ」
 天子は思い返す、そういえば先程、高座に各地のトップが揃っていたが、映姫の姿はなかった。
「おかげさまで助かりました。 もうしばらくあの様子のままでいては、死者が増えていた事でしょうし」
 ぺこりと頭を下げると、映姫は後ろを向いた。
「たまたまああなっただけ、大した事はしてないわよ」
 照れ隠しもあって、天子は謙遜する。
「ふらっと姿を現すなり、里の面々へと反省を促し、その後は事態の収束へと尽力した……そうそう出来る事ではありません」
 しかし映姫は立て続けに褒める、天子は横を向いて頭を掻いた。
「しかし」
「へ?」
 不意に語調が強まった。
「直前まで、何か楽しい事があれば、混ざろうとしていた事は、頂けませんね。 天界でなら、それも許されましょう。 地上に出て、地上の者と共にだなど、これでは不良天人の烙印も、致し方ない事です」
「う……」
 閻魔様から突きつけられる事実、であるだけに、さしもの天子も反論出来ない。
「そして衣玖さん」
「え? あ、はい」
 映姫が衣玖の方に背を向け、それにより天子から、何をしているのかが見えた。
浄玻璃の鏡で写している……それで見て来たように言い当てたのだろう、天子は納得し、続けて責められるであろう衣玖に、視線を向ける。
「天子さんを追いかける役目を、出し抜かれたからとて、すぐに諦めるとは何事ですか。 もし反省を促す行動をせず、皆に混じる事を選んでいたら、穏便に止められたのは貴女だけなのですよ?」
 そうなのだろうか、疑問がよぎり、天子は考える。
もしあの時、里で遊んでいたら、誰かに止められ……と、そこまで考えて、やめる。
(衣玖じゃないとしたら、最終的に紫にやられるとしか、思えないわね……)
 何人か、止めに来た者を撃破しても、あの状況とあっては、紫が出ないはずがない。
「そう言われると……」
 衣玖も反論し辛いようだ。
「映姫様、映姫様」
 とんとん、と、小町が映姫の肩を叩く。
「なんですか」
「今日はみんなでやる宴会の日ですし、説教はそれくらいにしましょう。 ほら、誘ってくれた賢者の所へも、行くんでしょう?」
「そうですね、これくらいにしておきましょうか」
 小町の助け舟により、天子と衣玖は解放され、ほっと胸を撫で下ろした。

移動しているうちに、いつの間にか盆地状の会場、使用されている端の辺りまで、来てしまったようだ。
これ以上、向こうへと登って行っても人の姿は……と、思いきや
「ん? 誰か居る?」
 見て取れる姿は、アリス・永琳・諏訪子……変わった組み合わせ、それと、天子の知らない者が二名。
「行くんですね?」
「勿論よ!」
 少し諦めたような声音の衣玖に、天子は力強く答えた。

「何やってんのー?」
「アリスが妖怪と神様の体を、丹念に撫でまわしてるよ」
 諏訪子がニヤッと笑って、そんな事を言う。
「何それ」
 諏訪子の表現と、天子の知るアリス像が結びつかず、天子はアリスのしている事へと、目をやるが……
「元人形の妖怪・メディスンと、元人形の神様・雛。 というわけだから、人形の事よく知ってる私が、具合を見てるのよ」
「永琳さんが人間や妖怪を、診断するようなものですか?」
 衣玖は永琳を見やり、尋ねた。
「そんな所かしらね」
「まぁ、メンテナンスはおまけね」
「どういう事?」
 おまけ、と言うアリスに天子が問い返すと、雛が答えを返した。
「私もメディスンも、あの中には入って行き辛いのよね。 私は人間の厄を引き受ける神だから、近づくだけで不幸になるの」
「不幸、ねぇ。 もう今しがた、ちょっとした不幸があったわ」
 普段なら、呻いて後ずさりでもしていそうな天子だが、映姫に説教された事で、不幸を先取りしたとばかりに、開き直っている。
「私は毒を使う力があるのと、あと、人間が好きじゃないから」
 メディスンは、あまり機嫌がよくないように、天子には見えた。
「じゃあなんでここに?」
「前に、閻魔様に視野が狭すぎるって言われて……いつもは永遠亭に、毒をお土産に行くくらいだから……たまには色んなものを見た方がいいって……」
「私が誘ったのよ」
 たどたどしい説明に、永琳が付け足す。
「毒に、厄……永琳と諏訪子は、それを抑える補助を?」
「ま、どっちかって言ったら、折角だしこっちに居てみようかな、って気持ちの方が強いけどね」
 明るい声音で諏訪子は答える。
「因みに私は勧められてとかじゃなく、自分で望んで来てるわ」
「うーん……」
 雛は自らここへ来たという、それを聞いて天子は考える。
 人間が好きじゃないと明言する、幼い妖怪。
厄を溜めこむ、どこかフランクな神。
クールな魔女にして人形遣い。
輪をかけてクールな天才薬師。
やたらと軽く、時に恐ろしい祟り神。
「すごい組み合わせなのに、何か、見てて楽しいよりも、気が休まらないのは、なんでだろう……」
「会場から外れて、喧騒から遠い事も、影響しているでしょうね」
 衣玖ならば、天子の「なんで」という疑問には答えを出せる。
しかし、核心を避けたような言葉、この場では言いにくい内容があるようだ。
「少なくとも、楽しい事を期待する貴女には、あんまり良いものではないと思うわよ。 話が弾む、という面子でもないし、結構静かに楽しんでるから」
 アリスがそう言って、離れやすい空気を作った。
「じゃあ、私達はこれで……」

「衣玖、なんでさっきはっきり言わなかったの?」
 離れてから、天子は衣玖に質問する。
「どこか刺々しさがある、とは言い辛かったですしね。 メディスンさんの不機嫌と、落ち着きすぎている永琳さんに、起因するようでしたが。 彼女らは私達が居ない方が、上手く行くでしょう」
「はー、成程ね。 じゃ、端っこまで来ちゃったし、どっかで落ち着く事にしようか」
 天子と衣玖は、会場の中央の方向へと移動し始めた。

天子と衣玖が、会場の中央辺りへと到着すると……
「え?」
 辺りがじわじわと暗くなっていき、やがて完全な暗闇に包まれた。
「な、何これ……衣玖!?」
「ここに居ます」
 衣玖が天子の手を握る、思わず取り乱しそうになった天子だが、それだけで落ち着きを取り戻すのを実感した。
「私も全く周りが見えていませんね」
 周囲からもどよめきが聞こえる、天子と衣玖に限った現象ではないらしい。
「これでいいのか?」
「ええ、上出来よ」
 すぐ近くに居るかのように、誰かと紫が話す声が聞こえた。
 紫へと問いただそうとした天子、辺りからちらほらと、紫を呼ぶ声がする。
「どうやら、敢えて皆に聞こえるようにしたようです」
「成程、紫がやった事だから、何か危険な事じゃないって、思わせようってのね」
 急に真っ暗になっては、その意図に気付かない者も多そうだが、すぐに……

「春ですよーーーー!!!」

 大音声が響くと共に、視界が明るくなっていった。
「わ、すご……!」
「こ、これは……!?」
 会場の周囲にあった、まだつぼみの花……それらが、春告精、リリーホワイトによって、満開の花に変わっていた。
「はい、ちょっとした演出よ。 騒がせて悪かったわね、でも、綺麗でしょ?」
 姿の見えない紫の声が響く。
「何も知らせずに真っ暗に、だなんて、人が悪いわよ全く……」
 天子のぼやきに、衣玖も小さく頷いた。

 ……

天子のそばからの視点で、宴会の件を眺め終えた。
「あっちも大体同じだったのね」
 紫が呟き、確認するように一同の顔を見やる。
 面白かった、と言いたげな妖夢を除いて、皆神妙な顔をしていた。
紫につられて、皆の様子を見た妖夢が、自分以外の全員が、真面目な顔をしているのを見て、固まってしまった。
それは指摘せずに、誰かが口を開くのを待つ紫。
「大体同じ……こちらの紫さんが、あちらの天子さんを、制止するような事をした上で、ですよね……?」
 文の言葉に、妖夢がハッとした表情を浮かべる。
「こっちの時間も、干渉された可能性がある。 紫、貴女はあの時、天人を止めた?」
「あの子を紫が止めたのは確かよ。 スキマから手だけだして、ね」
 あの場に居合わせたのは、この面子では幽々子のみ。
そして幽々子の語る内容は、先程紫がした事と同じものだ。
「それって……ここにいる紫がやったの? それとも、あっちの……?」
 呟くように、アリスが言う。
それを知るのは、紫のみ……一同の視線が紫へ集まる。
「答えは……」

「私ではないわ」

 ……一同、沈黙し、神妙な顔をしている。
「幽々子は、おかしいと思ってたみたいね」
「もしかしたら、と、思っただけよ。 スキマから、あの子のお酒を取り上げていた時、紫は料理を取りに行っていたわね」
 紫は頷く。
今しがたまで見ていた、向こうの時間でもそうだ。
こちらからのスキマ、そして干渉に、向こうの紫が気付いては騒ぎになる。
「それで何故、顔を出さずに手だけを出して取ったのか、それにわざわざメモで知らせたのか……普段の貴女なら、腰から上だけ出て来て、直接話してるでしょう? それで今回、過去に干渉するか否か、って話になったから……」
「干渉すべきと判断して、そのように動かしたというわけね」
 ニコリと幽々子は笑う。
妖夢が呆気に取られた表情をして、幽々子を見た。
「ただお酒を欲しがった、というだけではなかったのですね」
「勿論よー、こんな事を、それだけのために提案なんて、流石にしないわ」
(どうだか……)
 紫は胸中で突っ込み、口にする事は避ける。
「さて、これで、今回の実験はますますもって、危険なものになってしまったと、はっきり形になったわね」
 紫が言うと、パチュリーもアリスも、異論は無いといった様子を見せる。
「向こうの時間と照らし合わせ、今回の件は
互いの時間が、干渉しあうべきものだったとしても、他はそうとは思えない。 即刻、封印すべきと、私も思う」
「同意見よ。 他にも無数に違う選択をした時間があって、中には封印を選ばない私達も、居るかもしれないけど、少なくとも今ここに居る私は、こんな事になっては、扱いたくないわね」
 二人の答えに、紫は頷く。
「と、いうわけだから、文……「時間を超える魔法」の研究の顛末と、それに、私から……「能力を組み合わせて、大きな事を為そうとする事を禁ずる」旨を、新聞にしてもらえるかしら?」
「ええ、勿論ですよ。 こんな展開を新聞にしろとは、頼まれずとも夜を徹して作りたいくらいです!」
「じゃ、告知の所を、もうちょっと練るとしましょうか」

 ……

斯くして、文々。新聞によって、今回の件は世間に知れ渡る事となった。


新聞が出回った翌日の朝、紫は幽々子の元を訪れた。
 いつも通りに勝手にお茶を用意し、一口すする。
それを待っていたように、幽々子が口を開いた。
「あの時、違う時間に繋がったのは、貴女がそうしたのよね?」
「ええ、そうよ」
「簡単に答えるわねぇ……」
 事も無げに答える紫、幽々子は頬を掻いて呟く。
「私達のこの時間と、違う道を歩んだ時間との間にだって「境界」があるわ。 そうである以上、繋げる事は可能。 ま、危険だから普段はやらないわよ?」
「むしろ最初から、貴女自身が「時を超えるスキマ」を作れたんじゃないかしら? 危険だからやらないだけで」
 両者共に扇子で口元を隠し、胡散臭く言い合う。
少しそのまま、牽制するように見つめあい、紫から扇子をおろした。
「そこはご想像にお任せするわ……それはさておき、違う時間を選んだ理由、だけれど……私達の過去を、変えてみようという事になれば、矛盾が生じかねなかったのよ」
「矛盾? 過去が変わって、今がおかしくなるような事?」
 幽々子は首を傾げる。
どう説明するのかを、聞いてみたいだけなのでは……そんな想像も紫の脳裏によぎったが、素直に続けた。
「例えば今回は……不良天人が明らかに酔い潰れそうな行動をしていた。 貴女はこれを何とかするように、動かそうとしていたみたいだから、そこに干渉したけれど、もしこれが、私達の過去と現在の関係だったら、どうなったと思う?」
「そうねぇ、あの子が酔い潰れたものとして、それから後になってきちんと、宴会に参加出来るようにと変更したら……あ、そうすると、紫が弄る場面がなくなるわね」
「そういう事、だから他の時間にしたの」
 紫は紙とペンを取りだし、さっと何か書き込むと、スキマを開いてそこに紙を差し出した。
 全く同じタイミングで、紫の横に開いたスキマから、紙を持った手が出て来る。
「何をしてるの?」
 紫が紙を受け取り、ひらひらと振って言葉を返す。
「あっちの私に、不良天人の件を弄ったとしら……せ?」
「え? 何? 珍しい反応しちゃって」
 紫は受け取った紙を、幽々子に差し出した。
受け取ると、幽々子はそれを読み上げる。
「……不良天人が酔いつぶれた過去を修正したわ 幽々子がアリスと出会った時間の紫より……!?」
「あっちから、ではなくて、更に別の時間が弄っていたとは、ね……お互いにやったものかと思ったから、ちょっとびっくりしたわ」
 幽々子から返された紙を、光に透かすようにして眺める紫。
それをポケットにしまうと、紫は腰を上げた。
「ちょっと湯のみを借りていくわ」
「あら、とりあえず一通り片付いて、ゆっくりするのはここでじゃないのね」
「もう一つ、個人的に気になる事を確認して、それで終わりよ。 行ってくるわ」
 紫はスキマを開き、入っていった。

「何しに来たの?」
 いつもの調子で、霊夢は面倒臭そうに尋ねて来る。
「新聞、見たでしょう? あれが片付いたから、ちょっとゆっくりしに来たのよ」
「自分とこなり、幽々子のとこなりで、いいじゃないの。 なんでわざわざうちなのよ」
 言葉こそ手厳しいが、物理的な手段で追い出そうとはしない。
それを受けて、紫は縁側に座る。
「いわば、あれは例の宴会の延長……里の件に始まった出来事が、ようやく本当に一段落ついたと言えるわ」
 白玉楼から借りてきた湯のみのお茶を、一口すする。
「で、それが何か?」
「あの宴会が無事開催出来たのは、貴女が名前を出してくれた事だって一つの要因よ。 改めて、有難う」
 珍しく真っ直ぐにお礼を言われ、霊夢は逃げるようにしてどすどす足音を立てて、どこかへ行った。
すぐに戻ってくると……
「そう言われちゃ、無碍にも出来ないじゃない。 ほら、煎餅くらいあげるわ」
「頂くわ」
 少しの沈黙。
そして、ぱりぱり、ずずず……と、煎餅を食べる音と、お茶をすする音が響く。
「……ねえ紫」
 不意に、霊夢が呟くように言った。
「なぁに? 霊夢」
 軽い調子で、紫は言葉を返す。
「あんたさぁ、あの宴会を毎年やろうって言い出してたけど」
「それが何か?」
 とぼけるように言うと、霊夢は宙を見やった。
「なんかその日って拘る理由あったかしら? まだ花見って時期でもないのに」
 言って、考える様子を見せるものの、浮かばないらしい。
少し間を空けて、紫は返す。
「あら? おめでたい日よ? 知らなかった?」
「全然知らないわよ、何の日?」
 ピンと来ないらしい霊夢に、紫は微笑みを浮かべ……
「それは秘密」
 そう返した。



「……と、言いたい所だけれど」
「あん?」
 秘密、とだけ言われて終わりと思ったのか、霊夢は肩透かしを食ったような表情を浮かべる。
「部分的に、教えてあげるわ」
「全部じゃないのね……」
 結局それか、と言うかのように、霊夢は肩を落とす。
「神や妖怪は、人間にはない死の形がある、それは何?」
「教えるって言っといて質問? そりゃ、否定されたり、忘れられたりする事でしょ?」
 霊夢の答えに紫は頷く。
「そう、そして、それは……完全に、ではないけれど、この幻想郷の面々に心配はなくなったのよ」
「は? 何それ、幻想郷の……じゃない、博麗大結界の存在を否定するような事じゃないの」
 霊夢に詰め寄られるも、紫は首を横に振った。
「いいえ、勿論、博麗大結界は必要だし、幻想郷は幻想郷として、あるべきよ」
「どういう事なのよ……」
「私達が、居やすくなった、とだけ思っておけばいいわ」
 煮え切らない答えに、霊夢はすっきりしなさそうだが、紫は続ける。
「あの宴会の日は、それに関わるというわけ」
「えー……? 色々と解らないわよ。 幻想郷がある事に感謝を、とかなんとか言ってた意味は、解ったけど……これなら聞くんじゃなかったかも……
 これ以上の事は教えない、といわんばかりの紫に、霊夢も敢えてそれ以上尋ねる事はしなかった。
「んー……? 三月十八日って、何の日……?」
 霊夢の呟きを聞きつつ、紫はスキマで博麗神社を後にした。
頂いたコメントの内容を噛み締め、きちんと技量を高める事をまず行うべき所だったのかも、とも思いますが……
「次で最後」を、途中のまま投げ出す事にも抵抗があり、まず一連の話を仕上げたいと、現状のまま進めました。

どちらの展開を歩んだ紫達なのか、はっきり答えが出ないようにと狙ったつもりでいますが、「こっちと考えるとしっくり来る」部分が出てしまっているような……

2013/02/13 21:20
一つ入れ忘れてたシーンがあったので、追加しました。
それ程の効果を出せないはずのあれは、裏で誰かがサポートしてます。

2015/06/28加筆
「不良天人の汚名返上(?)」を書いていた時点で、「もし各地の面々が、これまで書いたのとは他の面子と関係を持ち、宴会をしたら?」という構想が浮かび、結果、「不良天人の汚名返上(?)」のラストは天子さんがリバースして宴会が途中で終わる展開としました。
2周目のラストで宴会シーンを描く事によって締めとし、また、何故紫がぎりぎりまで引っ張った挙句に大宴会というオチに持っていったのかを、もうちょっと詳しく描いて終わらせよう、と、そこまでは想定していました。
1周目に倣い「当時神霊廟までだった面々がそれぞれ宴会をする」→「4つ目でラストとの間を描く」→「5つ目で宴会を描く」が規定路線でした。
そのため、2周目の4つ目で宴会シーンを豪快すぎる省略をし、このお話で「天子さんがリバースしていなかったら?」を最後に据えようというのがまず最初にあり
「同時期に別の展開をした世界が並列に存在する事」をこのお話でもって説明して2つのお話は大きく見て1つの出来事だったと示す、と考えたのですが……
2周目紅魔・地霊の評価がああなった事ですっかり取り乱し、その中で「どうにかして隣の世界を感知する事」そして「とんでもない能力を持つ幻想郷の面々のそれを有効活用しながらも、読んで下さる皆さんが「隣の世界~」の部分を可能であると思える形に描かねばならない」
その2点を、最早自信の無い中、なんとか描かなければ……その結果終盤までぱっちぇさんがノリノリで仕組みを長々と語るに至りました。
別々のタイトルで違うお話のようにしてしまうのでなく、前後編形式にしたらちょっとだけ違ったかも、と投稿当時は思いましたが
いずれにせよどちらも描き方に難がありすぎたので似たようなものだったかもしれませんね。
なお、蛇足であろう余談ですがラストでちらりと触れているように、書くかどうかは別として3周目も、それぞれが「何をきっかけとして誰がどうやって残る場所に行く事になるのか」までは考えていました。
HYN
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コメント



0.170簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
うむ?うん。だ。
思ったこと並べてみた。
2.10名前が無い程度の能力削除
最後の博麗神社だけはたのしめました
5%くらいなので5点にしたかったです
3.10名前が無い程度の能力削除
地の文・セリフともに説明的過ぎて、全体的に無機質な印象を抱きました。
読み手の思考を奪うような文章がひたすらに苦痛でした。
5.無評価名前が無い程度の能力削除
民謡でも校歌でもラブソングでも何でもいいです。
演歌だろうがテクノだろうが、ジャンルも問いません。
歌詞を読んでみて下さい。
曲は聴いても聴かなくてもどっちでもいいです。
できるだけ日本語で展開しているものをお勧めします。
長々と説明できないという制約の中、
メッセージを伝えることに成功しているものにいつか出会えると思います。
その歌詞を研究してみて下さい。
なぜそれに成功したのかを考えてみて下さい。
明喩や暗喩についての理解が深まると思います。
ちょっと使い処がずれているように感じられました。
まさか説明のためのツールにされるとは…。
説明をしないためのツールにしていただきたかったです。
8.10名前が無い程度の能力削除
ひたすらに目が滑る
読むのが苦行と感じるほどに構成や表現がガタガタ

発想はとても良かったけど、文章化に絶望的に失敗した例と感じた
発想は良いんだから、わざと短く纏める練習をしてみては?
短く纏めると、濃く描写しなきゃならない部分と削って問題ない部分がわかるようになるかも
9.無評価名前が無い程度の能力削除
書きたい事を書きたい所から書きたいように書いた気配が、ものすごくします。
非常に読みづらい。そして果てしなく冗長。
読み易さは考えましたか? 設定が独りよがりになっていませんか?
一度立ち止まって、よく考えてみてはどうでしょう。
12.70名前が無い程度の能力削除
設定は面白かったかな
読み難さは感じた