Coolier - 新生・東方創想話

虹色主従・青竹

2013/02/08 04:05:38
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「ねえ、美鈴」

「はい、何でしょうか」

 もはや日常の門前での会話。最近はよく出かけるようになったからか、日傘などにも
気をつかうようになっている妹様を見るとちょっと微笑ましい。

「今度は永遠亭に行こうと思うんだけど、いつがいい?」

 いつもなら突然思い立ったように出かけるのに今回は珍しい。何かあったのだろうか。

「いつでもいいですよ?妹様の好きな時に呼んでください」

 何でしたら今からでも、と付け加える。実際に普段から突発的なので、いつだって
出かけられる準備はしているのが最近の私である。

「でもそうですね。案内人の方にご連絡するのでしたら、数日は欲しいところですね」

 最低でも一日。一応はあの人に連絡をしておいたほうがまあいいだろう。

「うーん。じゃあ、明後日ぐらいにしようかな」

「かしこまりました。それでは一応案内の方と、向こうのほうにも連絡しておきますので」

 ひとっ走りして人里にいるあの人に言伝でもしておけば、まあ伝わるだろう。
 妹様にそう伝えた後ちらちらと降る新雪の中、人里へと下準備に行ったのだった。


                     †


 曇天の空の元、煌びやかに雪が舞う。
 積もっていく雪と青々とした竹林。何とも幻想的な雰囲気の小道を妹様ともう一人、
案内人の妹紅さんと歩く。

「しっかりついてきな。はぐれたらたぶん抜け出せないからな」

 ここは迷いの竹林。ましてやこんな雪の中だ。遭難なんてしたら凍えてしまうだろう。

「はい。しっかりとついていきますので」

 妹様の手を握り、妹紅さんの後をついていく。そんなに遠くはないらしいが、通る道が
積雪で埋もれていて、進むのに一苦労という有様だ。

「しっかしまあ、こんな天気の中であんなとこ行くとは。いったい何を患ってるんだ?」

「いえ、病気ではなくちょっとしたお出かけですよ?」

「日焼け止めを買いに行くの!」

「日焼け止め一個のために?わざわざ?変わってるねえ」

 まあ、普通はそう思うだろうなぁ。

「ま、行くってんなら止めはしないけどな」

 これも仕事だし。と妹紅さん。あまり深くは聞いてこないらしい。

「まあ、帰り道も案内してやってもいいが、一体いつまであそこにいるんだ?」

「うーん。ちょっとわからないですねぇ」

 なにせ、妹様の気分でいくらでも変わるので。

「そっか。なら私は先に帰るぞ?帰り道はあそこの兎にでも頼むんだな」

「ええ、そうさせてもらいます」

 そんな雑談をしているうちに、敷石の小道が見えてくる。
 おそらく、この先にあるのだろう。

「ついたな。じゃあ私が案内するのはここまでだ。こっから先は二人で行ってくれ」

 後はまっすぐ進むだけだそうなので、ここで妹紅さんとはお別れだ。

「どうもありがとうございました」

「じゃーねー!」

「おう。気をつけて行けよ」

 まあ、さすがにこの人に門前まで案内してくれっていうのはさすがに酷だろう。
ここまで案内していただいただけでも感謝している。

 ここで妹紅さんに手を振ってお別れし、いよいよ永遠亭へ向かう。
 綺麗に整備された石畳の上を歩いていくと、すぐにその屋敷の門前が見えてくる。

「鈴仙いるかな?」

「まあこの雪の中ですし、外に出てることはないんじゃないでしょうか」

 そういって大きな扉を開けてくぐる。

「うん?こんな雪の中こりゃ珍しい」

 永遠亭に入って真っ先に出会ったのはここの兎だった。

「はい。ちょっとお薬を貰いに」

「ねえねえ、鈴仙いる?」

「鈴仙?師匠じゃなくて?」

「うん。だって鈴仙と約束したんだもん」

 香霖堂での約束を覚えてくれていたら、の話だが。

「ふぅん。ま、お客みたいだし一応呼んでくるよ」

 それだけ言うとどこかへ行ってしまった。
 紅魔館のような屋敷なら構造はある程度分かるのだが、こういった和風の屋敷には
縁がないのでどこに何があるのかが想像つかない。いったいどこで待っていればいいのか。

「ねえ美鈴」

 妹様も珍しいものばかりできょろきょろそわそわしている。目を離した隙に今にも
いなくなってしまいそうだ。

「はい、何でしょうか」

「ウサギって寒さに強いのかな?」

 さっきのウサギ、確か因幡てゐだったか。なんでも長寿のウサギだとかで健康に
気を使っているらしく、なぜかは知らないが年中半袖素足でいるらしい。関係があるかどうか
はわかりかねるが。
 それがどうにも不思議に思った様子だった。

「さぁどうでしょうか。あの人だけが特別なんじゃないかと思いますが」

 ちらっとほかのウサギを見てみるとなんてことはない、普通に厚着をしている。

「?、半袖で暮らしてるから長生きなのかな?」

「どうでしょうかねぇ…」

 気功の類…なのだろうか。ちょっと興味が出てきた。

「ああ、お待たせしました」

 とかなんとか考えているうちに鈴仙さんがやってきた。

「あ、れーせん!」

「どうも、お久しぶりです」

「はい、こちらこそ。あ、用意はできているのでどうぞ中へ」

 先頭を行く鈴仙についていく。
 引き戸を開けて長い廊下を通り、行燈の明かりだけがぼんやりと灯る薄暗い道の中を
歩いていく。

「なんでも、師匠が貴方たちとお話がしたいそうで」

「それは、なんでまた」

「さぁ?私も小耳に挟んだ程度のことなので詳しくは知りませんが」

 何かあるかもしれませんよ、と忠告なのか予告なのか不思議な言葉を投げかけられる。
 正直言ってあまり接点がないのでなぜそうしたいのかがまったくもってわからないのが
ちょっと怖い。

「はい、着きました。一応診察室も兼ねてますので、何か不調な点がありましたら
診てもらえますよ?」

 そういって、最後の扉を開けた。

「いらっしゃい。ようこそ永遠亭へ。うどんげから話は聞いてるわ」

 所狭しと棚に置かれた薬剤の類であろう小瓶の数々におびただしい書物。
 その中心の椅子に座する医者、八意永琳がそこにいた。

「はい。まあモノがモノですし、ここならなんとかなるのではないか、と」

 普通の日焼け止めぐらいはあるのかもしれないが、妹様に合わせたものとなると
普通の薬師ではちょっと難しいかもしれない。
 まあ、この方は普通の薬師ではないことは重々承知しているのだが。

「そうね。まあ単刀直入に言えばできるわね。吸血鬼用の日光遮断の日焼け止め」

 何ともあっさりな回答。この方には作れない薬などないとでもいうのだろうか。

「はあ、それでしたらそれはもうあるのでしょうか?」

「あるわ。――うどんげ」

 横で侍っていた鈴仙さんが指示を受けてあの棚の中から一つ小瓶を抜き取る。
 一見するとただの塗り薬にしか見えないのだが、あれがその薬なのだろう。

「これですか。それでお代のほうはいくらぐらいでしょうか?」

 まあおそらくは専用で作っていただいたものだと思うので、それなりのお代を
取られることは覚悟していた。

「いや、お代はいらないわ」

 が、出たのは意外な答えだった。

「と、申しますと?」

 なにもただで上げる、というわけでもあるまい。先ほどもなにやら鈴仙さんが
おっしゃっていたのでそのことであろうか。

「いやなに、ちょっとしたお話に付き合ってくれればいいだけよ」

 まあ、何かしらありますよね。

「八意先生とお話、ですか」

「ええ、私――とうちの姫様。ぞれぞれでお話しましょう」

 それだけだという。交換条件としてはなんとも安い話ではあるが。

「それぞれ、とは?」

「あなたと私、姫様とそこのお嬢さん。それぞれでお話がしたい」

 何故それぞれで話したがるのかがわからないが、これはどうにもその姫様の希望らしい。
それさえ聞いてくれるのなら、お代はいらないらしい。

「だそうですが。妹様はどうなさいますか?」

「え?お話ぐらいだったらいいよ?」

 本人は乗り気のようで、ちょっとそわそわしている。元々お話し好きなほうなので
これはいい機会かもしれない。

「わかりました。では八意先生。こちらはそれで構いません」

「交渉成立ね。じゃあこれをどうぞ」

 鈴仙さんから薬を手渡される。その際に服用の注意事項、切れたら鈴仙さんにいえば
補充してくれることなどを聞いた。

「これ一回きりではなく補充までしてくれるんですか」

「ま、ちょとしたサービスね。こちらのわがままを聞いていただけるのですもの」

 なんとも手厚いサービスである。それだけの価値があるのだろうか。

「長い時を生きていると暇つぶしの材料探しに躍起になるのよ。まあその一つだとでも
思えばいいわ」

「そういうものなんでしょうか」

「そういうものよ」

 さて、と八意先生が鈴仙さんに指示を出す。どうやら別室にいる姫様のところまで
案内するらしい。

「じゃあいってくるねー」

「はい、楽しんできてください」

 ちょっと不安ではあるが、まあ本人が楽しそうならそれでいいか。

「それで八意先生。私と一体何のお話をするのでしょうか?」

「先生なんて堅苦しいから永琳でいいわよ?」

「それでは永琳さんと呼ばせていただきますね」

「どうぞ。――それで、まああなたと話したいことというのは別に他愛もないことなのよ」

 姫様が妹様と話したいといったことに対するおまけ、とまあなんとも包み隠さず
話してくださったが、なんでも一応は聞きたいことがあるのだそうだ。

「いやなに。最近貴方たちがいろいろなところを出歩いている、ということを聞いていてね。
なんでもあの赤い館の主からあのお嬢さんにあなたが鞍替えしたとか」

「まあ、そうですね。その主であったお嬢様の指示で今はこうなっていますが」

 事の発端はまあなんともあいまいで適当な話ではあるのだが。

「そんな新米の主従にちょっと質問があってね。ずばり――従者とは何か?と」

 何を思い何を考え、何を成すために主のもとにあるのかと。その根本を訪ねたいと仰っている。

「と申されましても……まあ、付き従うもの、ではないでしょうか」

「へぇ、貴女はあの子に対してもそう思ってるのかしら?」

 …ふむ、そういわれるとちょっと困る。

「そうですねぇ…ちょっと違うかもしれませんね」

「違う、か。それじゃあ家族のように思っているのかしら?」

「いやぁ、まあ。妹様曰く私はあの人のメイドらしいのでそれはどうだか」

 どういう意味でその言葉を使っているのかはわからないが。今のところ仲良くはさせて
もらってはいるが。

「ただまあ、そうですね」

 私は従者たる者何たるか、などという心構えはあまり知らない。専属でお付きになったことなど
これが初めてで何も知らない。

「私は門番です。主を守り、館を守り、その誇りを守る者です」

 最初はただの命令だったかもしれない。言われるがままの付き添いだったというのが正しい。
義務で責務として行っていただけかもしれない。

「だからまあ、強いてあげるのでしたら守る者、でしょうか」

 あの笑顔が曇ることがないように。私はただただ守り続ける。
 今は命令じゃなくて、一個人の意志として。

「……成程」

 なんともまぶしい言葉である。
 幻想郷のあちこちを主の興味に振り回されつつも駆け回るこの主従にかつての自分たちの
面影を見たのだが。
 あの時の自分を動かしていたのはたして責務だったか、義務であったか。

「なんとも微笑ましい関係ね」

 自分たちが鎖のような断ち切れない強く固い絆とすれば、これはまるで毛糸を紡いだような
温かみがある。それでいて断ち切れぬ強い意志も感じ取れる。
 かつての私たちが夢見た関係は、あるいはこうだったか。
 それとも現状のような形でよかったのだろうか。
 珍しく揺れる。この幻想のような関係に。

「どうかしましたか?」

「いえ、とてもいい言葉だったわ」

 相互の信頼以上に思いやりという温かみを感じる。主従というより家族という言葉がよく似合う。
 どうして姫様が彼女らが気になったのかがわかった気がした。


                     †


「ねえ、姫様ってどんな人?」

 美鈴と別れて鈴仙についていきながら姫様がいる部屋まで向かっている。永琳の部屋まででも
長かったのにこっちはもっと奥のほうにあるみたいでとても長い廊下をまだ歩く。

「どんな人、ですか。そうですねえ……陳腐な言い方しますけど高貴な方、でしょうか」

 娯楽に飢えていて、それを求めてやまない。暇を嫌い何か面白いことはないかと探っている感じだ。
上流階級らしい性格だと思う。

「?お姉さまみたいな人ってこと?」

 ちょっとよくわかんないけど、姫様もここの主ならきっとそうだ。

「あー、まあ。そんな感じかもしれませんね」

 まあ実際会ってみたほうが早いかと思いますが。

「この奥です。このあたりで待っていますので、用が済みましたら声をかけてください」

「わかった!」

 案内された最奥、その襖を開けた。

「あら?あなたがフランちゃん?」

 広い部屋。調度品は自分の部屋みたいにあんまりない。
 その中心あたり、布団だけがぽつんとあってそこに姫様がいた。

「あなたが姫様?」

「そうよ?ってことはあなたがフランちゃんね」

 はじめまして、と軽く会釈。釣られてこっちも会釈をした。

「噂はかねがね、っていうかそれを聞いて機会があったからこうやってお話ししようと
思ったんだけど」

「うん。永琳と鈴仙からきいてるよ?」

「そう、じゃあ本題に入っちゃいましょうか」

 どうやらお話というより質問があるみたい。何なんだろ。

「ずばり、主とはなにか」

 従えるものとして、上に立つものとして。貴女は何が必要であると答えるのか。
 そんな単純なことがこの子に聞きたかった。

「どういうこと?」

「いやいや、貴女にとって主ってなんだと思うってことよ」

「うーん……」

 そんなこといわれても、わかんない。

「メイドがいれば主じゃないの?」

「ちょっと聞きたいのとは違うかな?んー、じゃあ言い方を変えましょう」

 あんまりこういうことを考えてない子なのかもしれない。いや、そもそもとしてそんな
疑問すら持たないのだろう。

「あの子…美鈴っていってたっけ。あの子が貴女に何を望んでいるのかってところ、かな?」

「美鈴が?私に?」

「そうよ?貴女の元に何故いるのかって、考えたことない?」

「え?ないよ?だって美鈴は私のメイドだもん」

 こりゃまた純粋な子だ。一遍も疑問に思ってない。

「そりゃあ今はそうなんだろうけど、あの子だってあなたに対して何か望んでいるものが
あるはずよ?」

「たとえばどんなの?」

「んー、そうねぇ…単純に主の身を守ることが我が喜び!みたいな」

 ちょっと堅物すぎるか。まあそんな感じだと思うけど。

「えー?美鈴が?うーん……」

 ちょっと想像しづらい。いっつもニコニコしてるだけだから。

「まあたとえ話だからね。主のカリスマにひれ伏してこうなった!みたいな」

「えーそれはないなぁ。だって私がお姉さまにお願いしてメイドになったんだもん」

 これは意外だ。てっきりその姉からお目付け役に回されたものだと思ったのだけど。

「へぇ、その時は何て言ったの?」

「わかりましたってだけいってたよ」

 なんとも微笑ましいうわさ話聞いていたので結構な固い絆かと思っていたが、
案外向こうのほうは義務的な感じで動いているだけかもしれない。

「そっか。じゃあもう一つ質問ね。その美鈴に愛想つかされない為には何が必要だと思う?」

「え?愛想つかすって?」

「まあそうね。あの子が貴女を見限ってどっかいっちゃうってこと、かな?」

「そんなことないもん!」

 いきなりの激昂。これは逆鱗に触れたか。

「あら、それはどうして?」

「だって美鈴と指切りしたもん!いっしょにいろんなところにいこうねって!」

 あの時に約束した。この前も言った。美鈴は私のメイドで、いつだって一緒にいるんだ。

「成程成程、よくわかったわ。無粋な質問をして御免なさいね」

 これは、この子がどうこうというよりかはあっち側がたぶん惚れたか何かした感じか。
 こんなにも純粋に自分のことを思って信じ切ってくれる主がいたら、そりゃもう太陽のように
輝かしく見えてがんばっちゃうか。

「え?うん。わかったなら許してあげる!」

「それは光栄ですわ」

 ちょっと、この関係は自分たちにはまぶしすぎるかもしれない。
 自分自身、永琳とは長いがこんなほんわかした関係じゃなかったし。

「ま、これで私の質問は終わり!このあとはちょっといろいろおしゃべりしましょうか」

「え?姫様と?じゃあ何のお話ししようかなぁ」

「その姫様っていうのよしてよ。輝夜でいいわ」

「んー、じゃあカグヤはさ、永琳についてどう思ってるの?」

「そうね……」

 ああ、こんな感じで会話するのも久しぶりだ。
 今日はじっくり、あの子の太陽とお話しするとしましょうか。


                     †


 ずいぶんと長居をしたようで、永遠亭を発つ頃にはいつもの夕日が見えた。
いつのまにやら雪がやんでいたらしい。

「それだけあればしばらくもつとは思うわ。まあ他に異常とかがあったら連絡を頂戴ね」

「ああ、はい。わかりました」

「じゃあねーカグヤ!」

「はいはい。またねフランちゃん」

 そしてあまり出張らないという姫様がわざわざ見送りに来てくれているという大変ありがたい
光景である。どうやらいつのまにやら妹様と名前で呼び合うような仲になったらしい。

「それでは失礼します。またいつかお会いする機会があれば是非」

「そうね。今度はお酒でも飲みながらゆっくりとお話でもしましょうか」

「それじゃあてゐ、お願いね?」

「はいはい、わかりましたよっと」

 案内してくれるてゐさんは渋々といった感じ。まあ機嫌を損ねて帰り道がわからなくなるのも
困るのでちょっとここは黙っておく。
 そんな感じでここで別れを告げた。なんだかここ最近は妹様を通じて交友関係が一気に
深くなっていく気がする。

「……で、姫様。ここまで出張るなんてずいぶんと気に入ったみたいですね」

 見送って姿が見えなくなったのを確認し、上機嫌の姫様に尋ねてみた。

「そりゃあもう。あの子とってもかわいらしいじゃない?」

「それはずいぶんお気に召したようで」

 どうやら今回の件は結構楽しんでいただけたみたいで何よりである。

「ねぇ、永琳」

「何でしょうか?」

 あの子と話して、ふと思ったこと。

「私は、貴女にとって太陽のようになっていたのかしら」

 眩しく、温かく、なくてはならない存在なのかと。
 あんな質問しちゃったけど、愛想つかされないかとひやひやしていたのは案外
自分のほうだったり。

「そうですね。そこまでは眩しくないかと」

「あらひどい。じゃあ私はどうでもいい存在ってこと?」

「いえ、そういうわけじゃありませんよ」

「じゃあなんだっていうのよ」

 こんな無駄口も最近全然していない。こんなやりとりがちょっと楽しかったり。

「太陽だとしたら、こんなにも長い間見ていられないですからね」

「へぇ、ってことは何?月あたりってこと?」

「あら、それは素敵なたとえですね。じゃあそういうことにしておきます」

 月だったら、ずっと見ていられることですし。
 燦然と輝き、空に浮かぶ月輪。届きそうで届かぬ高貴な存在。
 故に守ると誓ったもの。いやはや、いいたとえである。

「そっか。じゃあこれからもよろしくね」

「ええ、こちらこそ」

 あの眩しい太陽に負けないように、こちらも輝く月になろう。
 そう、お互いに思えたのだった。


                     †


「ねえ美鈴」

 竹林を抜けててゐさんと別れた後の帰り道、大量の日焼け止めを抱えて
帰る途中のこと。

「美鈴は、私に何かを求めているの?」

 不安げに、妹様がぼそっとつぶやいた。

「どうしたんですか突然?」

「あのね、カグヤが美鈴が私に求めてるものがあるから付き従ってるんだよって
言ってたから」

 その時はどうにもうまく答えられなかったらしい。妹様はそんなことをおそらく今まで
考えていなかったので不安になったのだろう。

「へえ、そんなことを仰ってたんですか」

「うん。で、実際何かあるの?」

「そうですねー……」

 あなたの笑顔を守りたいから、なんてちょっと恥ずかしくて言いづらい。

「妹様と一緒にいるだけで楽しいから……じゃ、ダメですか?」

 あなたと一緒にいることが、私の求めていることですよ。とちょっとお茶を濁す。
 あ、これでも結構こっぱずかしい。

「……そっか!よかった!」

 不安が解消されたようで、一気に表情が明るくなる。よかった。

「それでね、美鈴」

 そういって妹様が私の前に小指を出す。

「今ここで、ちゃんと指切りしようよ」

 ずっと一緒にいようね、って。

「……」

 ちょっと、いや結構うれしかった。そのせいで一瞬固まってしまうくらい。
 あまり個人としてこのように必要とされたことがなかったので。

「はい、それじゃあしましょうか」

 以前も言ったあの言葉そのまま、またこうやって指切りをする。

「約束だよ?」

「ええ、約束です」

 今度はもう、絶対に破れそうにない。
 いやまあ、破る気なんてさらさらないのだけれども。
 さて、次はどこに妹様と一緒にいこうか。なんてことを考えながら帰路についたのだった。
フランちゃんと美鈴のとある一日、これで3回目ですね。
今回は絆についてちょっと書いてみました。古株主従と新米主従の対談のようなものといった具合に。
少しずつ心境が変わってるんだと思います。お互いに。

あと私がフランちゃんを書くとどうにも笑顔いっぱいの純粋無垢な感じになっちゃう。ぜんぜん気がふれてない。まあいいんですけど。

そんなわけで、少しでもメイフラの温かみが伝わればいいと思います。
羊丸
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コメント



0.710簡易評価
1.60名前が無い程度の能力削除
内容は良かったんですが、後半の地の文がフラン視点だったり輝夜視点だったり……
はたまた美鈴視点かと思いきや永琳視点になっていたり。
† の区切りで視点が変わるのは良いんですが、セリフ毎に変わるので少し気になりました。
2.80名前が無い程度の能力削除
確かに視点が移動し過ぎています。
ここで全部説明しても長くなり過ぎてしまうので、「文章」「視点の移動」とか「人称」「視点の移動」等で検索してそれっぽいサイトの説明を読んでみて下さい。
この文章は判りやすいので混乱はしませんでしたが、強烈に違和感を覚えましたので。
偉そうに指摘してしまってごめんなさい。
内容や書きたい事の方向性は好きなので次回作を楽しみにしています。
3.70奇声を発する程度の能力削除
視点がちょくちょく変わるのが気になりました
4.80名前が無い程度の能力削除
視点の移動に関しては確かに少し動きすぎだったかなと。
個人的にはこのシリーズは好きなので、続編も楽しみにしています。
5.無評価羊丸削除
コメントありがとうございます。
成程、ちょっと視点が動きすぎか。以後気を付けてみます。

こういう自分で気づかないことを指摘して頂けるのは大変ありがたいので、どんどん言っていただけると助かります。
6.90こーろぎ削除
うわああああメイフラすごく良かったです!!
14.100名前が無い程度の能力削除
確かに視点の移り変わりがわかりにくいかな。
でもメイフラがとても良い感じです。
フランの成長にも期待しておりますよ。
20.90名前が無い程度の能力削除
いつもこのシリーズ楽しみにしてます。
これから二人がどこにいってどう成長するのか・・・せっかくなのでもう幻想郷中を制覇してほしいですw