Coolier - 新生・東方創想話

へたれいか

2013/02/02 16:01:37
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けたたましく蝉が鳴く中、霊夢はいつも通り縁側に腰掛けて、出がらしのお茶を啜っていた

「…暑いわね」

これだから夏は…。
何か冷たいものでも飲みたいと思っても何もなく、冬は寒さを防ぐために炬燵が使えるが夏にはそんな便利な道具は無い。
そう思っている間も、湯飲みに注がれたお茶も気だるそうに湯気をあげていた。

「あーあ」

現状を打開する手段の無いことに嫌気がさして、団扇で風を送る。
炬燵を開発した人間なら、夏も涼しく過ごせる便利な文明の利器を発明してもいいのではないかと思わざるを得ない。

「外の世界でお役御免になった何かでも入ってこないのかしらね」

外の世界の文明は進んでいるはずだからそろそろ旧世代の冷房器具が幻想郷に入ってきてもいいはずなのだが、いまだにその兆しは無い。香霖堂でもそのような道具は見ることができない辺り、外の人間は冷房器具に関しては現状に甘んじて発展することを躊躇しているのだろう。
縁側につるされた風鈴は、その涼しげな音を立てるそぶりもなく、そうであるのが自然であるかのように不動であった。


「はぁ…」
ごろりと縁側に寝転がった。そうだ、昼寝をしよう。暑いときは何もしないことに限る。
寝ているうちに今注いだお茶も冷めるだろう―――
神社を取り囲むように鳴く蝉の声を無視しても肌に張り付く服の不快感があったがそれも我慢して、霊夢は目を閉じた





――――

「―――む」

蝉の声じゃない声が聞こえる

「れ――――む、―――――さい」

誰…?ああ、この声は
「霊夢、起きなさい」
目を開けると顔の真上に見慣れた桃色の髪の毛にシニョンキャップを付けた仙人の顔があった。
「やっぱあんたか」
「なんでそんな残念そうに言うのですか?」
「あんたが来ても暑いのは何も変わらないでしょ。あとそこどきなさい、ただでさえ暑苦しいのに目の前に他人の顔があったら暑さも倍増よ」
「まあ、それもそうですね」
あっさりと言い分を認めつつも、華仙は霊夢の隣に座った。
「暑いからあっち行ってなさいってば」
「いいじゃありませんか」
「人肌恋しくなるのは冬だけにしておきなさい」
「折角差し入れを持ってきたというのにそういう扱いをされるとは思いませんでした」
「…そんなものあるならさっさと出してなさいよ」
「巫女が現金なことを知っていながら失態だったわね」
華仙はごそごそと前掛けに右腕を突っ込んで差し入れを取り出した。
「って、何かしらそれは」
「見てわかりませんか?肉まんですよ」
「…ねえ、今って夏よね?」
「ええ、そうですが」
「じゃあなんで気を利かせて氷菓子とか持ってこないのよ!」
「暑いときに熱いものに耐える。これも修行の一環です」
華仙は胸を張って答える
「さあ霊夢、肉まんの時間ですよ」
「ちょ、あんた」
華仙は右腕で肉まんを近づけてくる
「いらないって言ってるでしょ!」
霊夢は逃げようと立ち上がった。と思った。
「あれ、動けない」
「だから、修行の一環だって言ってるじゃないですか」
「えっ、ちょっ」
ぐいぐいと肉まんは霊夢に近づいてくる。
「霊夢~、あーん」
ニコニコと笑いながら華仙は肉まんを遂に口まで運んできた
「やっやめ」
「あーん」
「やめてーーー!!」




ごずん、と頭がぶつかりあった。
「い、痛たたた」
「なんですか、急に起きだして」
霊夢の目の前にはおでこを抑える華仙の顔があった。
「に、肉まん!!」
「はい?」
霊夢は上半身をばねにして下半身から起き上がった。ジャックナイフの要領である。今はスカートであったがはしたないとかは気にできる余裕が彼女には無かった。
「あ、あんた、肉まん持ってきてないでしょうねっ!」
指差して霊夢は声をあげた。
「?」
「だから、肉まん!」
「霊夢?寝ぼけてます?」
「へ?」
華仙はすっと立ち上がり左手で霊夢のほおを抓った。
霊夢は真っ赤になってしまった
「どういう夢を見たのでしょう?」
華仙は相変わらずの笑顔で霊夢に問うた。

――――――
「クスクス」
「なっ、何よ。笑うことなんてないじゃない」
霊夢は洗いざらい自分が見ていた夢について話した。結果笑われてしまった。
「いくら私でもこんなに暑いのに肉まんなんて持ってきやしませんよ」
「この前は暑いのに鍋をしようなんて言ってたじゃない」
「ぐっ」
「あんたは仙人だから冷や汗くらいしか出ないのかもしれないけど、人間は暑いと汗をかいて不快なの」
「せッ仙人も汗はかきますよ。…多分」
華仙の額に汗が滲む。目線もあらぬ方向へ向き始めた。
「霞食って生きてるような奴のどこにそんな水があるのかしらねえ?」
「まあ、いいいじゃないですか」
「いが一つ多いわ。そんなに汗ばっかりかいてたら干物になるわよ」
「くっ」
「そんなに汗も出してて、ほんとに仙人様なのかしらねえあなた」
「そ、そ、そうだわ。霊夢。今日は差し入れを持ってきました」
「チッ」
露骨に話題をそらされて霊夢は舌打ちした。
「……まさか、肉まんじゃないでしょうね」
念のために霊夢は聞いた。華仙はころころと笑う。
「まさかそんなはずありませんよ」
「じゃあだして貰おうかしら。丁度冷たそうなお茶もあることだし」
「フフフ、見て驚かないでくださいよ。夢の中の私と同じ轍は踏みません」
華仙は自信ありげにまたもや前掛けに右腕を突っ込んでごそごそし始めた。
「…あんたのその前掛けの下にはスキマでも広がってるの?」
「?、なんのことでしょうか?」
「なんでもないわ」
「ならいいのですが。あ、霊夢、出てきましたよ」
じゃーん、と華仙が取り出したのは
「せんべい…?」
達筆な文字で激辛せんべいと書かれた真っ赤な紙袋であった。
「そうです!」
「…寝ても覚めても、あんたは気を利かせてくれないのね」
「はて?」
「もっと、こう、なんか無いの?涼しくなりそうなものは?」
「この激辛せんべいで汗をかいて気化熱であなたの体を冷やそうと思ったのに」
「…寝ても覚めてもあんたはあんただってわかったわ」

「……気に入りませんでしたか」
華仙は縁側に座った。

「いいんですよ。どうせ喜んでもらえると期待してた私が悪いんです。洋菓子とかは焼いたことが無いし夏に氷菓子を作るような便利な道具もありませんし、暑いこの時期に汗をかいて涼しくなろうなんていう発想自体が間違ってたのですよ。手作りにするんじゃなくて里で大人しく氷菓子でも買ってくれば良かったのですね。人間一人満足させられないとは仙人失格です。このせんべいは教訓として全部私が食べて処分しておきます。」
色素が抜け落ちた顔で、華仙は膝の上に袋を置いた。

「お茶、頂きます」

前掛けから今度は湯飲みを取り出し、こぽこぽと湯気の出なくなったお茶を注いで、せんべいを齧り始めた。
両手でせんべいを持って齧るその姿は、まるでげっ歯類のようである。

「はーー」
霊夢はすとんと、間に急須の乗ったお盆を挟んで、華仙の隣に腰を下ろした。

「あんたがそんな調子だと暑さは妖怪にも人間にも、仙人にも害ってことね」
「霊…夢?」
「貸しなさい」

霊夢は華仙の膝の上から紙袋をひったくった。
中から紙袋と同じ程に真っ赤なせんべいを取り出し、一口齧った。

「やっぱり辛いわ」
「あの、無理して食べなくても…」
「いつものあんたなら『人様から頂いたものにケチを付けるなど言語道断!失礼な事極まりないわ!』とか言って説教をするとこでしょう」
「うっ」
「さては仙人様も暑さで頭をやられたのかしら?」
霊夢は更にせんべいを齧った。
「ええと」
「そうでしょう?」

「…暑さでさっきまでうなされながら寝ていた人に説教をするほど分別が無いような仙人でしたか私は」

「あー、もう!」
霊夢はバリバリとせんべいを食べきって、立ち上がって華仙の目の前に仁王立ちになった。
「シャキッとしなさい!」
「うう」
「どうしてそんななの?」

「だって、霊夢が嫌そうな顔するじゃないですか」

「はい?」
霊夢にとっては完全に虚を突いた内容であった。
「いつもいつも説教ばかりで、霊夢に嫌われてしまったらどうしようかと…」
「あ、あんた酒でも飲んでるの?!」
「素面ですっ!」
「しっ素面でなんてことを」
「いけませんか?」
「いけないことは…無いけど」
丁度普段と顔の位置が逆なので華仙が霊夢を見上げるような形になる。
華仙には霊夢の顔が赤くなるのがありありと見えた。
「霊夢…?」

「あ゛―、調子狂う!仙人はおかしいし、せんべいは辛いし、夏は暑い!」
「?!」

霊夢は華仙のとなりに座りなおした。
「私は夏が嫌いよ」
「…?」
「…なんか言いなさいよ」
「急にそんな無茶な、ええと」
「私は冬が好きよ。暑いのが全部悪いの。」
華仙が何かを言う前に霊夢は続けた。
「冬だったら、夏と違って冬だったら熱いお茶もおいしいし、炬燵もあったかいし、蜜柑もあるし、辛いせんべいだっておいしくいただけるわ。雪かきは面倒だけどね。それに…」
「それに?」
「こうやってくっついても暑くなくて、暖かいでしょう?」
霊夢はせんべい袋が置いてあった華仙の膝に頭を預けた。膝に乗せられた霊夢の顔は、やはり熱かった。


「フフフ」
「な、何よ」
「霊夢もいつも通りじゃありませんね」
「…暑くて私もおかしくなってるの!」
霊夢の顔が更に赤くなった。この角度では顔が見れないのが、華仙は酷く残念がっている様子だった。

「時に霊夢、いつまでこのままのつもりですか?」
「どいて欲しいって言うならどくわよ」
膝の上からすっと重さが喪失した。が、華仙は霊夢の頭をそのまま右手で押さえつけた
「?」
「あ…いえ、暑くないならまだ…このままで」
「じゃ、じゃあこのままが、我慢してやろうじゃないの」
華仙の膝の上にまた重さが戻ってきた。
そのまま右手で霊夢の黒髪を撫でる。びくりと霊夢の頭が動いたがすぐに大人しくなった。ふわりと、汗のにおい混じりに霊夢の髪の匂いが鼻に届く。

「霊夢、暑いですね」
「冬に出直してきなさい」

蝉は相変わらずけたたましく鳴く。太陽はぎらりと輝く。夏はまだまだ続きそうである。
霊「竜の子は呼べるのかしら?」
華「どうしたのですか?」
霊「呼べるならあれで雨を降らせなさい。打ち水も面倒だわ」
華「そんなことに龍を使役するなんてできません」
霊「あんまり晴れだと魔理沙が来るわよ」
華「っく、来なさい!子龍!」

どうも五作目といっていいか微妙なので五回目の投稿になります。会話ばかりで縦に長くなってしまいました。
無性に何か書いてみたくなったので短いですが書いてみました。昨年の6月に出だし800文字を書いていたのをサルベージしたのでそれを流用。季節はずれですいません。
誤字、脱字がありましたら教えていただけると幸いです。確認次第訂正します
みすたーせぶん
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コメント



0.840簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
れいかは夏の風物詩
3.80奇声を発する程度の能力削除
雰囲気良く素晴らしかったです
12.100ヤタガラス魅波削除
最初から最後まで甘く、長さもちょうど読みやすい長さで、後書きも楽しめるいい作品だと思います。
15.80名前が無い程度の能力削除
れいかってなにかと思ったら、霊夢華扇なんですね。
そういえば、茨木華扇ってあんまりSSに出てこないなぁ。やっぱり本編に出てこないと、影薄いんですかね。
16.90名前が無い程度の能力削除
ああ、華扇ちゃんだ
24.603削除
甘々。
ただ個人的にはそれ以上の何かを読んでみたかったな。