「ねえ、美鈴は何がいいと思う?」
悩むんだよねー、と唸りながら妹様は考えている。
「そういわれましても私もあまりあの人に関してよく知りませんからねぇ…」
今年最初の霜柱を庭先で発見し、より一層寒さが増してきたことを目でも肌でも感じていた頃。
またもや突然の呼び出しを受け、何事かと駆けつけてみればどうにもプレゼントで
思い悩んでいるとのことであった。
「うーん。ケーキがいいかな?それともクッキー?お茶もいいかも!」
そういいつつ口元には滴がだらり。おなかからかわいらしい鳴き声まで上げている始末。
「…只今お茶のご用意をいたしますので、ゆっくり考えましょう」
「わーい!」
意図的なのかそうでないのかはわからないが、まあこういう気遣いもメイドのうち…らしい。
あの一件以来、完全にお付きのメイドとなった私であるが、兼任とは形だけでどうにも
最近はこっちのほうに多く時間を割いている。
『できることなら門番よりフランの相手をお願いね』
あの喜びようを見たお嬢様からの直々命令である。以来余した時間等は咲夜さんに簡単な
手ほどきを受けつつこうやって会話を行うのが完全に日常となった。
「しかし、アリスさんの喜ぶもの…ですか」
関わりが全くない訳ではないものの、これといって親しくもない。
喜ぶもの、といわれても特に思い当たる節がないのだ。
「…ふむ」
どうしたものか。
もう手慣れてきた紅茶の準備と用意してあったケーキを持って部屋へ向かう。
「はい。お待たせしました」
これも主の命ならば、できる限りは答えたい。そう思いつつ配膳を行う。
「詳しい人が近くにいればいいんですけどねぇ…」
と、ここまで口に出してようやく気付く。
「?、どうしたの?」
「あー、いや。私だと確かにちょっと思いつかないんですけど。そういえば適任者がいました
ことを思い出しまして」
魔法使いのことは、同じ魔法使いに聞けばいいのだ。
†
上も下も右も左も、文字通り本に囲まれている。
紅魔館の一角であるこの大図書館に、妹様と足を踏み入れていた。
「成程。同業者のことは同業者に聞けばいいと」
「ええ。パチュリー様なら何か御存じかと思いまして」
ここの主、何万冊もの本の中心に鎮座するパチュリーノーレッジにアリスのプレゼントについて
ヒントを貰いに来たのだ。
「ふむ。彼女は人形遣いだから着せるための布とかなら重宝しそうではあるけど」
「布地ですか。ですがそれは本人なりのこだわりが強いのでは?」
「そうね。趣向がわからないと難しいと思うわ」
「んー。じゃあお人形とか?」
「その辺の人形なんかじゃ、アリスの人形と比べるとお粗末だから…」
それもナシとのこと。
「うーん…ますますわかんないよぉ」
ついには頭を抱える始末。
どうにかせねばならないと思いここへ来たのにかえって悩ませてしまっていることに対して
大変申し訳ない気持ちになる。
「あの、その、パチュリー様でしたら何がほしいと思います?」
「本ね。ジャンルは問わない」
もしかしたら何かいい答えが返ってくるかもしれないかと期待したが、やはり思った通りの
答えしか返ってこない。
「失礼します。お紅茶の用意ができましたのでどうぞ。
あ、妹様と美鈴さんの分もあるのでどうぞ」
そんな空気の中、話を切るように小悪魔がお茶を持て来てくれた。
「あらありがとう。……あれ?いつものティーカップじゃないみたいだけど?」
「あのー、そのいつものティーカップなのですが…先ほど用意しようとした際にひびが入っているのを
見つけまして…」
なんでも普段から好んで使用している愛用のティーカップが壊れてしまったらしい。
毎日毎回使っているので恐らく寿命が来たのだろう。
「そう。あれ気に入ってたんだけどね残念だけど次のを見繕うしかないか」
よほど大切にしていたのだろう。そのこだわりが見える。
「――それだよ!」
ずっと頭を抱えていた妹様がいきなり立ち上がる。
「それとは?」
「だからティーカップだよ!ティーカップをアリスのプレゼントにする!」
確かにパチュリー様のこだわりようを見ると、案外いいのかもしれない。
「そうですね。パチュリー様と一緒にアリスさんや魔理沙さんとお茶会などもしているみたいですし。
良い案だと思いますよ?」
「そうね。茶器だったらあっても困ることはないんじゃないかしら?」
「じゃあけってー!さっそく買いに行こうよ!」
そういってぐいぐい引っ張ってくる。軽くデジャヴ。
「…かしこまりました。すぐに支度をしますので、少々お待ちください」
主の命令は絶対である。
ましてやこんなまぶしい笑顔を見せられてしまっては、断ることなど誰にできようか。
†
外は晴天だが、日差しの暖かさよりも時折吹き抜ける風のほうがやや強い。
今回も森のほうへ向かうのだが、用があるのはその入り口付近。
「こんなところにお店なんてあるの?」
「うーん。私も初めていきますからねぇ」
何とも無責任だが、妹様と一緒に買い物をするとなると人里では少々不都合がある。
ということで咲夜さんから以前より聞いていた香霖堂へ行くことにしたのだ。
「でもいろんなものがあるそうなので、気に入るものがあると思いますよ?」
なんでも珍しいものばかりだとか。
「ふーん。…あ、あれかな?」
ちょうど魔法の森の手前、大量のものに囲まれた家屋を発見。
一見するとゴミ屋敷のようだ。
「みたいですね」
扉には“春夏冬中”とある。一応はやっているのだろう。
そんな扉を開けると
「ん、お客さんかな?」
カウンターの奥に店主らしき人物。そしてその前にもう一人。
どうやら先客がいたようで、何やら話している最中のようだった。
「ええ、ちょっと欲しいものがありまして」
「ティーカップを買いにきたの!」
私のうしろから妹様が飛び出す。
「ふむ。ちょっと待ってくれないか?いくつかあったと思うから出してくるよ。
ああ、鈴仙は待たせると悪いからもう帰ってもいいよ。長話が過ぎたみたいだ」
鈴仙と呼ばれた彼女は確か永遠亭の兎だったと思う。
薬でも売りに来たのだろうか。
「そうですね。あんまりお邪魔するのも悪いですし」
「じゃあ僕はティーカップを取ってくるから。君たちはそのあたりにでもかけて待っていてくれ」
簡潔に、それだけいって店の奥に消えてしまった。愛想はあまりよくないのだろうか。
「あの、ちなみに鈴仙さんはここには薬を売りに?」
「ええ、そうですね。常用の傷薬とかをよく使うようですので」
なんでも魔理沙さんや霊夢さんがよく傷をつくってくるのでよく使うのだそうだ。
なので定期的に薬の補充に来るのだとか。
「薬?じゃあさー、日焼け止めとかってあるの?」
最近はよく日中外に出られるので、日差しが当たってちょっと痛いとは聞いていた。
こちらではどうしようもないことだったので、今までは我慢して頂くほかなかったのだが。
「日焼け止め、ですか。なくはないとは思いますが、今のはちょっと持ち合わせてないですね」
なんでしたらそちらのほうへお持ちしましょうか?と商談。
こうやって個人相手に薬を売っているらしい。
「んー。あ、じゃあさ。今度買いに行くからその時お願い!」
これをいい外出のきっかけができたと思ったのか、自分で後で買いに行くと仰る。
もちろん私もついていくのだろう。
「はぁ、わかりました。一応用意はしておきますね」
永遠亭は竹林の奥にあるらしいが、一応外来もやっているらしい。
たどり着くには案内人が必須らしいが、はたしてそこまでしてわざわざ赴く人がいるのだろうか。
「お待たせ。あれ、鈴仙も結局帰らずに待っていてくれたのか」
一通り話を終えた後に、店主がちょうど品物を持ってきてくれた。
「いえ、ちょっとお話してただけですよ」
「そうかい。なんなら君も見ていくかい?」
そう言っていくつかのティーカップをカウンターに並べていく。
普通のスタンダードの白いティーカップから、細かい意匠が施されたものなど様々だ。
「結構ありますね。妹様はどれがいいと思います?」
「うーん。これがいい…かな?」
並べられた中でも一際目立つそれは、透明のティーカップだった。
「それはガラスでできたティーカップだね。ソーサーから何まで全部ガラスなんだけど、
ちょっと面白い部分があってね」
ティーカップを持って、その取っ手部分を日の光に当たるように窓際に置くと
「わぁ…」
「へぇ、綺麗ですね」
ティーカップの取っ手を通過した光が七色に分かれて輝いている。
「なるほど。可視光の分散ですか」
「プリズムといってね、この取っ手の形が光を分散させてこの七色を見せているのさ」
よく見ると取っ手の部分が三角柱になっているのがわかる。
「まあでもガラスだからね。これはティーカップ用に少しは熱に強いみたいだけど
それでもガラスは熱にあまり強くはないし、衝撃にも弱い。
十分に使える一品ではあるけど、どちらかといえば観賞用だね」
実用品というよりかは美術品の面のほうが強いらしい。
「でもこれがいいな。ぴったりだと思うし」
「そうかい。じゃあこれでいいね。包みは何かいるかい?」
「あー、プレゼントなのでその包装をお願いします」
「はい、かしこまりました。じゃあ包装するからちょっと待ってね」
そのティーカップが入っていた木箱に手際よく丁寧にラッピングを施し、リボンまでつけてくれた。
「はいどうぞ。一応割れ物だから扱いには注意してね」
「ありがとうございます。お代のほうはいくらぐらいでしょうか?」
「そうだね。…ざっとこんなものかな」
パパっとそろばんを弾いて額面を提示する。意外と良心的な値段だ。
「まあ初めてのお客様だからね。ちょっと安くしておくよ」
ちょっとがどれくらいかはわからないが、安くしてくれる分にはありがたい。
「はい。じゃあこれで失礼しますね。機会があればまた来ますので」
「じゃあね!」
「またのお越しをお待ちしてるよ」
「あ、鈴仙さんも後日お伺いすると思いますので、その際はどうかよろしくお願いします」
「はい。こちらもお待ちしております」
店主と鈴仙さんにあいさつを軽くかわし、ここでの用事を済ませてこの店から帰ろうとしたその時
「えーっと、美鈴」
「なんでしょうか?」
「ちょっとここでもう少し見ていたいから、先に外で待っててくれる?」
「?、それぐらいなら付き添いますが?」
「うーん。そうじゃなくて…」
なにやらわけがあるようだが、うまく言葉に表せないようで、もじもじとこちらの顔を窺っている。
「はあ、何をするのかは存じませんが。わかりました。用が済みましたらお声をかけてくださいね?」
こうやって主の意をくむのもまた従者の仕事。咲夜さんがよく言うセリフだ。
そうやって一足先に私は店を出たのだった。
「…で、君の従者を追い出して、いったい何をするんだい?」
「うんとね、ちょっとお願いがあって――」
†
あの日、香霖堂を後にしてから数日たったある日のこと。
パチュリー様に取り繕っていただいてアリスさんの家に遊びに行くことと相成った。
当の本人も快く了承して頂いたようで、楽しみにしているとのこと。もちろん本日はあのマフラーも一緒だ。
「♪~」
あの日に購入したティーカップを丁寧にバックへ入れて持ってご機嫌な様子でアリスさんの家へ向かう
姿はこちらとしてもうれしい限りである。
「楽しみにしているとのことなので、早く届けてあげましょうか」
「うん!」
なんでも、このティーカップでお茶会をするのだとか。そのためにわざわざお茶請けまで持ってきたのだ。
そんな甘い気分で歩いているうちに目的地に到着する。最近はこの森の付近によく縁がある。
「すいません。いらっしゃいますか?」
チリンチリン、と玄関扉にあった呼び出し鈴を鳴らす。
ほぼ鳴らすと同時にすぐさまドアが開いたのだが、
「これは…」
かわいらしい人形がお出迎えしてくれていた。
「どうぞ。上がってきて頂戴。その子についてきて」
家の奥のほうからアリスさんらしき声が聞こえる。どうやらこの子が案内人らしい。
「わぁ。お人形さんがお出迎えするんだ」
「そうですね。ちょっとびっくりしましたけど」
そういいつつ案内されるがままに家の奥へと進んでいく。
外観からするとそこそこ大きい家であるので、当然内部も広い。半分ほどは工房を兼ねているのでは
あるのだろうが、それでも一人で住むにはやや広い印象を受ける。
そして、家の奥のリビングに当たるところまで案内されると
「ようこそ。私の家へ」
歓迎するわ。とそばに侍っていた人形たちが一斉にお辞儀をする。
「すごいですねぇ。これをすべて一人で?」
「ええ。半自立だからほとんど操作していないようなものだけれどね」
「すごーい!」
その人形たちを見て妹様も興味津々。目を輝かせて一体ずつ眺めている。
「気に入ってくれて何よりだわ。立ち話もなんでしょ?お茶でも入れるからテーブルにかけて頂戴」
パチン、と指を鳴らすと人形たちが一斉に動き出す。
一体はティーポットの準備を。
もう一体は食器棚からティーカップを。
もう一体は角砂糖などを取り出す。
それぞれが個々に作業しお茶会の準備をし始める。
「まあ、ちょっと時間がかかるから少しお話でもしましょうか」
「そうですね。ああ、それはそうとこれをどうぞ」
持ってきたバスケットに入った包みを取り出す。
先日妹様と一緒に焼いたクッキーだ。
「それとね、これ、この前のおかえし!」
そして丁寧に包まれているあのティーカップを差し出す。
「あらありがとう。開けてみてもいいかしら?」
「いいよ!」
包装のリボンを解き、包装紙を綺麗に開けていく。
「これはこれは、ずいぶん素敵なプレゼントね」
「私が選んだんだよ!」
中の箱を開けて、まじまじとティーカップを見るアリスさん。
「それでね、このティーカップを日の光に当てると……」
以前、これを買った際にお店で見せてもらったように、あの七色の光を見てもらう。
「へぇ。プリズム…七色の光、まるで小さな虹が掛かったみたい」
「ぴったりでしょ?」
「ええ、とっても」
ずいぶん気に入っていただけたようで、やさしく妹様に微笑んでいた。
それに合わせて、妹様も明るくなる。
「そうね、折角だから早速これを使わせていただこうかしら」
準備をしていた人形を呼び止め、ティーカップを渡す。
「あとクッキーを頂くのなら、あなた達は手を洗ってきたほうがいいかもね。
人形に案内させるから、いってらっしゃいな」
「うんわかった。美鈴は?」
「妹様が行った後に行きますよ」
「そっか。じゃあ行ってくるね」
人形に案内されて家の奥へと進んでいく。こんなことでも嬉々としていらっしゃるので
はしゃいで何か壊さなければいいが。
「…ところでアリスさん」
その妹様が行ったのを確認してから、この前思った疑問を少し聞いてみることにした。
「あのマフラー、最初から妹様の為に作ってました?」
最初から、というのはやや語弊があるかもしれないが、あの店に入った直後はあのような
マフラーではなかったと思う。
とすれば、妹様にあわせてあの形にしたという事になるのだが。
「さて、どうでしょうね」
はぐらかすつもりはないのだろうが、あえて言葉にはしないといったところだろうか。
「ただ、そうね。贈り物をするなら相手を思いやらないとね」
相手を思いやるからこそのプレゼント、なのだそうだ。
「そうですか。では妹様の思いやりは届いたのでしょうか?」
「ええ。プレゼントの包装はただ着飾るためじゃなく自分の想いを物に込めて贈るためなのよ?
だから――
あの子の想い、確かに私に届いたもの」
世辞ではない、本心からの言葉。
礼には礼を、贈り物には贈り物を、そして想いには想いで答えてくれている。
「そういう割には、アリスさんは包装してなかったようですが」
「私のは温かいうちに渡してるからいいのよ」
「成程、そうですか」
確かに、その温かみは十分に伝わっているとは思う。
「ただいまー。いろいろあったから迷っちゃった」
人形に案内されていたはずなのに、いつの間にか一人になってしまっている。
おそらく壁にある絵画や点在する調度品などをあちこち見て回っているうちにはぐれたのだろう。
「それで、何かお話でもしてたの?」
「そうですね、ちょっとした雑談を」
「ええ、ちょっとした小話ね」
隠すつもりはないが、あの言葉はやはり当人の口から伝えて頂きたい。
「さて私も行ってきますので、あとはお二人でごゆるりとお話しなさってください」
聞きたいことは聞けた。あとはお二人でゆっくりと楽しくお話されるのがいいだろうと
手を洗いに行くことを口実に席をはずそうとしたが
「ダメだよ!美鈴も一緒のほうがいいもん」
読まれていたのか、あるいはただの偶然か。どちらにしても私がいないとだめらしい。
だから早く帰ってきてね、という言葉がとてもうれしく感じてしまう。
「…わかりました。すぐに戻りますので、しばしお待ちを」
この太陽のような温かみに、アリスさんは触れたのだろう。
もちろん、私自身も。
†
小さなお茶会は楽しくも短く、あっという間に終わってしまった。
楽しいことほど時間が早く感じるというが、まさにその通りだと思う。
「今日は楽しかったですね」
「うん!今日も楽しかった!」
あまり他の人と接したことのない妹様にとって、こういうことはかくも新鮮で輝かしいことで
あったと思う。
そのせいかここ最近は特に笑顔が多い気がする。
「毎日楽しんでいただけているようで何よりです」
この帰り道の夕日を共に見るのもこれで数回目。
今後ももっと増えていくのだろう。
「……あのね、美鈴」
「はい。何でしょうか?」
妹様が突然立ち止まって空のバックを探り始めた。
あれはアリスさんのプレゼントを入れていたバックだが、なぜか自分で持つといって
聞かなかったものだ。
てっきり大切なプレゼントだからなのだろうと思っていたのだが、何かあるらしい。
「これ、美鈴へのプレゼント!」
取り出したのは手のひらほどの大きさの箱だった。
「私に、ですか?」
「うん。早く開けてみて!」
それを受け取り、促されるままにこの紙箱を開ける。
「これは…」
中に入っていたのは少し小さめのマグカップだった。
全体が紺色で、側面に黄色の星が描かれている。シンプルなデザインのものだ。
「ありがとうございます。でも一体いつこれを?」
「この前に買い物行ったときに買ったの」
なんでもあの後、店主に頼んで買ったのだとか。
「成程。あの時中でこれを買っていたんですね」
「うん。美鈴とおそろいのがほしくて」
そう言ってもう一つ箱を取り出して開けてみせる。まったく同じデザインだ。
「おなじの二つちょうだい。っていったらこれをくれたの。そしたら“これで二人で一つ
の星座になったね”っていってたよ」
「二つで一つ……ああ、成程」
星を結んで星座ができる。
二つで一つ、この描かれた星が隣り合って一つの星座とは、中々洒落たことをしてくれたと思う。
「?、どういうこと?」
「いえ、素敵なプレゼントだなと」
「よかった!」
意味として、形として、とても素敵なプレゼント。
確かに思いが詰まってる。
「……ねえ、美鈴」
「はい、何でしょうか?」
「寒いから、手をつないでもいい?」
「……喜んで」
しっかりと凍えないように。
優しく温めるように。
小さなその手を離すことのないように手をつなぐ。
「あったかいね」
「はい、とっても」
外の寒さなんて気にならないほど、温かい気持ちになる。
次も、その次もこうしていられたらどれだけ幸せなことだろうか。
星を結んで星座を作るように、二人で手をつないで家路についたのだった。
悩むんだよねー、と唸りながら妹様は考えている。
「そういわれましても私もあまりあの人に関してよく知りませんからねぇ…」
今年最初の霜柱を庭先で発見し、より一層寒さが増してきたことを目でも肌でも感じていた頃。
またもや突然の呼び出しを受け、何事かと駆けつけてみればどうにもプレゼントで
思い悩んでいるとのことであった。
「うーん。ケーキがいいかな?それともクッキー?お茶もいいかも!」
そういいつつ口元には滴がだらり。おなかからかわいらしい鳴き声まで上げている始末。
「…只今お茶のご用意をいたしますので、ゆっくり考えましょう」
「わーい!」
意図的なのかそうでないのかはわからないが、まあこういう気遣いもメイドのうち…らしい。
あの一件以来、完全にお付きのメイドとなった私であるが、兼任とは形だけでどうにも
最近はこっちのほうに多く時間を割いている。
『できることなら門番よりフランの相手をお願いね』
あの喜びようを見たお嬢様からの直々命令である。以来余した時間等は咲夜さんに簡単な
手ほどきを受けつつこうやって会話を行うのが完全に日常となった。
「しかし、アリスさんの喜ぶもの…ですか」
関わりが全くない訳ではないものの、これといって親しくもない。
喜ぶもの、といわれても特に思い当たる節がないのだ。
「…ふむ」
どうしたものか。
もう手慣れてきた紅茶の準備と用意してあったケーキを持って部屋へ向かう。
「はい。お待たせしました」
これも主の命ならば、できる限りは答えたい。そう思いつつ配膳を行う。
「詳しい人が近くにいればいいんですけどねぇ…」
と、ここまで口に出してようやく気付く。
「?、どうしたの?」
「あー、いや。私だと確かにちょっと思いつかないんですけど。そういえば適任者がいました
ことを思い出しまして」
魔法使いのことは、同じ魔法使いに聞けばいいのだ。
†
上も下も右も左も、文字通り本に囲まれている。
紅魔館の一角であるこの大図書館に、妹様と足を踏み入れていた。
「成程。同業者のことは同業者に聞けばいいと」
「ええ。パチュリー様なら何か御存じかと思いまして」
ここの主、何万冊もの本の中心に鎮座するパチュリーノーレッジにアリスのプレゼントについて
ヒントを貰いに来たのだ。
「ふむ。彼女は人形遣いだから着せるための布とかなら重宝しそうではあるけど」
「布地ですか。ですがそれは本人なりのこだわりが強いのでは?」
「そうね。趣向がわからないと難しいと思うわ」
「んー。じゃあお人形とか?」
「その辺の人形なんかじゃ、アリスの人形と比べるとお粗末だから…」
それもナシとのこと。
「うーん…ますますわかんないよぉ」
ついには頭を抱える始末。
どうにかせねばならないと思いここへ来たのにかえって悩ませてしまっていることに対して
大変申し訳ない気持ちになる。
「あの、その、パチュリー様でしたら何がほしいと思います?」
「本ね。ジャンルは問わない」
もしかしたら何かいい答えが返ってくるかもしれないかと期待したが、やはり思った通りの
答えしか返ってこない。
「失礼します。お紅茶の用意ができましたのでどうぞ。
あ、妹様と美鈴さんの分もあるのでどうぞ」
そんな空気の中、話を切るように小悪魔がお茶を持て来てくれた。
「あらありがとう。……あれ?いつものティーカップじゃないみたいだけど?」
「あのー、そのいつものティーカップなのですが…先ほど用意しようとした際にひびが入っているのを
見つけまして…」
なんでも普段から好んで使用している愛用のティーカップが壊れてしまったらしい。
毎日毎回使っているので恐らく寿命が来たのだろう。
「そう。あれ気に入ってたんだけどね残念だけど次のを見繕うしかないか」
よほど大切にしていたのだろう。そのこだわりが見える。
「――それだよ!」
ずっと頭を抱えていた妹様がいきなり立ち上がる。
「それとは?」
「だからティーカップだよ!ティーカップをアリスのプレゼントにする!」
確かにパチュリー様のこだわりようを見ると、案外いいのかもしれない。
「そうですね。パチュリー様と一緒にアリスさんや魔理沙さんとお茶会などもしているみたいですし。
良い案だと思いますよ?」
「そうね。茶器だったらあっても困ることはないんじゃないかしら?」
「じゃあけってー!さっそく買いに行こうよ!」
そういってぐいぐい引っ張ってくる。軽くデジャヴ。
「…かしこまりました。すぐに支度をしますので、少々お待ちください」
主の命令は絶対である。
ましてやこんなまぶしい笑顔を見せられてしまっては、断ることなど誰にできようか。
†
外は晴天だが、日差しの暖かさよりも時折吹き抜ける風のほうがやや強い。
今回も森のほうへ向かうのだが、用があるのはその入り口付近。
「こんなところにお店なんてあるの?」
「うーん。私も初めていきますからねぇ」
何とも無責任だが、妹様と一緒に買い物をするとなると人里では少々不都合がある。
ということで咲夜さんから以前より聞いていた香霖堂へ行くことにしたのだ。
「でもいろんなものがあるそうなので、気に入るものがあると思いますよ?」
なんでも珍しいものばかりだとか。
「ふーん。…あ、あれかな?」
ちょうど魔法の森の手前、大量のものに囲まれた家屋を発見。
一見するとゴミ屋敷のようだ。
「みたいですね」
扉には“春夏冬中”とある。一応はやっているのだろう。
そんな扉を開けると
「ん、お客さんかな?」
カウンターの奥に店主らしき人物。そしてその前にもう一人。
どうやら先客がいたようで、何やら話している最中のようだった。
「ええ、ちょっと欲しいものがありまして」
「ティーカップを買いにきたの!」
私のうしろから妹様が飛び出す。
「ふむ。ちょっと待ってくれないか?いくつかあったと思うから出してくるよ。
ああ、鈴仙は待たせると悪いからもう帰ってもいいよ。長話が過ぎたみたいだ」
鈴仙と呼ばれた彼女は確か永遠亭の兎だったと思う。
薬でも売りに来たのだろうか。
「そうですね。あんまりお邪魔するのも悪いですし」
「じゃあ僕はティーカップを取ってくるから。君たちはそのあたりにでもかけて待っていてくれ」
簡潔に、それだけいって店の奥に消えてしまった。愛想はあまりよくないのだろうか。
「あの、ちなみに鈴仙さんはここには薬を売りに?」
「ええ、そうですね。常用の傷薬とかをよく使うようですので」
なんでも魔理沙さんや霊夢さんがよく傷をつくってくるのでよく使うのだそうだ。
なので定期的に薬の補充に来るのだとか。
「薬?じゃあさー、日焼け止めとかってあるの?」
最近はよく日中外に出られるので、日差しが当たってちょっと痛いとは聞いていた。
こちらではどうしようもないことだったので、今までは我慢して頂くほかなかったのだが。
「日焼け止め、ですか。なくはないとは思いますが、今のはちょっと持ち合わせてないですね」
なんでしたらそちらのほうへお持ちしましょうか?と商談。
こうやって個人相手に薬を売っているらしい。
「んー。あ、じゃあさ。今度買いに行くからその時お願い!」
これをいい外出のきっかけができたと思ったのか、自分で後で買いに行くと仰る。
もちろん私もついていくのだろう。
「はぁ、わかりました。一応用意はしておきますね」
永遠亭は竹林の奥にあるらしいが、一応外来もやっているらしい。
たどり着くには案内人が必須らしいが、はたしてそこまでしてわざわざ赴く人がいるのだろうか。
「お待たせ。あれ、鈴仙も結局帰らずに待っていてくれたのか」
一通り話を終えた後に、店主がちょうど品物を持ってきてくれた。
「いえ、ちょっとお話してただけですよ」
「そうかい。なんなら君も見ていくかい?」
そう言っていくつかのティーカップをカウンターに並べていく。
普通のスタンダードの白いティーカップから、細かい意匠が施されたものなど様々だ。
「結構ありますね。妹様はどれがいいと思います?」
「うーん。これがいい…かな?」
並べられた中でも一際目立つそれは、透明のティーカップだった。
「それはガラスでできたティーカップだね。ソーサーから何まで全部ガラスなんだけど、
ちょっと面白い部分があってね」
ティーカップを持って、その取っ手部分を日の光に当たるように窓際に置くと
「わぁ…」
「へぇ、綺麗ですね」
ティーカップの取っ手を通過した光が七色に分かれて輝いている。
「なるほど。可視光の分散ですか」
「プリズムといってね、この取っ手の形が光を分散させてこの七色を見せているのさ」
よく見ると取っ手の部分が三角柱になっているのがわかる。
「まあでもガラスだからね。これはティーカップ用に少しは熱に強いみたいだけど
それでもガラスは熱にあまり強くはないし、衝撃にも弱い。
十分に使える一品ではあるけど、どちらかといえば観賞用だね」
実用品というよりかは美術品の面のほうが強いらしい。
「でもこれがいいな。ぴったりだと思うし」
「そうかい。じゃあこれでいいね。包みは何かいるかい?」
「あー、プレゼントなのでその包装をお願いします」
「はい、かしこまりました。じゃあ包装するからちょっと待ってね」
そのティーカップが入っていた木箱に手際よく丁寧にラッピングを施し、リボンまでつけてくれた。
「はいどうぞ。一応割れ物だから扱いには注意してね」
「ありがとうございます。お代のほうはいくらぐらいでしょうか?」
「そうだね。…ざっとこんなものかな」
パパっとそろばんを弾いて額面を提示する。意外と良心的な値段だ。
「まあ初めてのお客様だからね。ちょっと安くしておくよ」
ちょっとがどれくらいかはわからないが、安くしてくれる分にはありがたい。
「はい。じゃあこれで失礼しますね。機会があればまた来ますので」
「じゃあね!」
「またのお越しをお待ちしてるよ」
「あ、鈴仙さんも後日お伺いすると思いますので、その際はどうかよろしくお願いします」
「はい。こちらもお待ちしております」
店主と鈴仙さんにあいさつを軽くかわし、ここでの用事を済ませてこの店から帰ろうとしたその時
「えーっと、美鈴」
「なんでしょうか?」
「ちょっとここでもう少し見ていたいから、先に外で待っててくれる?」
「?、それぐらいなら付き添いますが?」
「うーん。そうじゃなくて…」
なにやらわけがあるようだが、うまく言葉に表せないようで、もじもじとこちらの顔を窺っている。
「はあ、何をするのかは存じませんが。わかりました。用が済みましたらお声をかけてくださいね?」
こうやって主の意をくむのもまた従者の仕事。咲夜さんがよく言うセリフだ。
そうやって一足先に私は店を出たのだった。
「…で、君の従者を追い出して、いったい何をするんだい?」
「うんとね、ちょっとお願いがあって――」
†
あの日、香霖堂を後にしてから数日たったある日のこと。
パチュリー様に取り繕っていただいてアリスさんの家に遊びに行くことと相成った。
当の本人も快く了承して頂いたようで、楽しみにしているとのこと。もちろん本日はあのマフラーも一緒だ。
「♪~」
あの日に購入したティーカップを丁寧にバックへ入れて持ってご機嫌な様子でアリスさんの家へ向かう
姿はこちらとしてもうれしい限りである。
「楽しみにしているとのことなので、早く届けてあげましょうか」
「うん!」
なんでも、このティーカップでお茶会をするのだとか。そのためにわざわざお茶請けまで持ってきたのだ。
そんな甘い気分で歩いているうちに目的地に到着する。最近はこの森の付近によく縁がある。
「すいません。いらっしゃいますか?」
チリンチリン、と玄関扉にあった呼び出し鈴を鳴らす。
ほぼ鳴らすと同時にすぐさまドアが開いたのだが、
「これは…」
かわいらしい人形がお出迎えしてくれていた。
「どうぞ。上がってきて頂戴。その子についてきて」
家の奥のほうからアリスさんらしき声が聞こえる。どうやらこの子が案内人らしい。
「わぁ。お人形さんがお出迎えするんだ」
「そうですね。ちょっとびっくりしましたけど」
そういいつつ案内されるがままに家の奥へと進んでいく。
外観からするとそこそこ大きい家であるので、当然内部も広い。半分ほどは工房を兼ねているのでは
あるのだろうが、それでも一人で住むにはやや広い印象を受ける。
そして、家の奥のリビングに当たるところまで案内されると
「ようこそ。私の家へ」
歓迎するわ。とそばに侍っていた人形たちが一斉にお辞儀をする。
「すごいですねぇ。これをすべて一人で?」
「ええ。半自立だからほとんど操作していないようなものだけれどね」
「すごーい!」
その人形たちを見て妹様も興味津々。目を輝かせて一体ずつ眺めている。
「気に入ってくれて何よりだわ。立ち話もなんでしょ?お茶でも入れるからテーブルにかけて頂戴」
パチン、と指を鳴らすと人形たちが一斉に動き出す。
一体はティーポットの準備を。
もう一体は食器棚からティーカップを。
もう一体は角砂糖などを取り出す。
それぞれが個々に作業しお茶会の準備をし始める。
「まあ、ちょっと時間がかかるから少しお話でもしましょうか」
「そうですね。ああ、それはそうとこれをどうぞ」
持ってきたバスケットに入った包みを取り出す。
先日妹様と一緒に焼いたクッキーだ。
「それとね、これ、この前のおかえし!」
そして丁寧に包まれているあのティーカップを差し出す。
「あらありがとう。開けてみてもいいかしら?」
「いいよ!」
包装のリボンを解き、包装紙を綺麗に開けていく。
「これはこれは、ずいぶん素敵なプレゼントね」
「私が選んだんだよ!」
中の箱を開けて、まじまじとティーカップを見るアリスさん。
「それでね、このティーカップを日の光に当てると……」
以前、これを買った際にお店で見せてもらったように、あの七色の光を見てもらう。
「へぇ。プリズム…七色の光、まるで小さな虹が掛かったみたい」
「ぴったりでしょ?」
「ええ、とっても」
ずいぶん気に入っていただけたようで、やさしく妹様に微笑んでいた。
それに合わせて、妹様も明るくなる。
「そうね、折角だから早速これを使わせていただこうかしら」
準備をしていた人形を呼び止め、ティーカップを渡す。
「あとクッキーを頂くのなら、あなた達は手を洗ってきたほうがいいかもね。
人形に案内させるから、いってらっしゃいな」
「うんわかった。美鈴は?」
「妹様が行った後に行きますよ」
「そっか。じゃあ行ってくるね」
人形に案内されて家の奥へと進んでいく。こんなことでも嬉々としていらっしゃるので
はしゃいで何か壊さなければいいが。
「…ところでアリスさん」
その妹様が行ったのを確認してから、この前思った疑問を少し聞いてみることにした。
「あのマフラー、最初から妹様の為に作ってました?」
最初から、というのはやや語弊があるかもしれないが、あの店に入った直後はあのような
マフラーではなかったと思う。
とすれば、妹様にあわせてあの形にしたという事になるのだが。
「さて、どうでしょうね」
はぐらかすつもりはないのだろうが、あえて言葉にはしないといったところだろうか。
「ただ、そうね。贈り物をするなら相手を思いやらないとね」
相手を思いやるからこそのプレゼント、なのだそうだ。
「そうですか。では妹様の思いやりは届いたのでしょうか?」
「ええ。プレゼントの包装はただ着飾るためじゃなく自分の想いを物に込めて贈るためなのよ?
だから――
あの子の想い、確かに私に届いたもの」
世辞ではない、本心からの言葉。
礼には礼を、贈り物には贈り物を、そして想いには想いで答えてくれている。
「そういう割には、アリスさんは包装してなかったようですが」
「私のは温かいうちに渡してるからいいのよ」
「成程、そうですか」
確かに、その温かみは十分に伝わっているとは思う。
「ただいまー。いろいろあったから迷っちゃった」
人形に案内されていたはずなのに、いつの間にか一人になってしまっている。
おそらく壁にある絵画や点在する調度品などをあちこち見て回っているうちにはぐれたのだろう。
「それで、何かお話でもしてたの?」
「そうですね、ちょっとした雑談を」
「ええ、ちょっとした小話ね」
隠すつもりはないが、あの言葉はやはり当人の口から伝えて頂きたい。
「さて私も行ってきますので、あとはお二人でごゆるりとお話しなさってください」
聞きたいことは聞けた。あとはお二人でゆっくりと楽しくお話されるのがいいだろうと
手を洗いに行くことを口実に席をはずそうとしたが
「ダメだよ!美鈴も一緒のほうがいいもん」
読まれていたのか、あるいはただの偶然か。どちらにしても私がいないとだめらしい。
だから早く帰ってきてね、という言葉がとてもうれしく感じてしまう。
「…わかりました。すぐに戻りますので、しばしお待ちを」
この太陽のような温かみに、アリスさんは触れたのだろう。
もちろん、私自身も。
†
小さなお茶会は楽しくも短く、あっという間に終わってしまった。
楽しいことほど時間が早く感じるというが、まさにその通りだと思う。
「今日は楽しかったですね」
「うん!今日も楽しかった!」
あまり他の人と接したことのない妹様にとって、こういうことはかくも新鮮で輝かしいことで
あったと思う。
そのせいかここ最近は特に笑顔が多い気がする。
「毎日楽しんでいただけているようで何よりです」
この帰り道の夕日を共に見るのもこれで数回目。
今後ももっと増えていくのだろう。
「……あのね、美鈴」
「はい。何でしょうか?」
妹様が突然立ち止まって空のバックを探り始めた。
あれはアリスさんのプレゼントを入れていたバックだが、なぜか自分で持つといって
聞かなかったものだ。
てっきり大切なプレゼントだからなのだろうと思っていたのだが、何かあるらしい。
「これ、美鈴へのプレゼント!」
取り出したのは手のひらほどの大きさの箱だった。
「私に、ですか?」
「うん。早く開けてみて!」
それを受け取り、促されるままにこの紙箱を開ける。
「これは…」
中に入っていたのは少し小さめのマグカップだった。
全体が紺色で、側面に黄色の星が描かれている。シンプルなデザインのものだ。
「ありがとうございます。でも一体いつこれを?」
「この前に買い物行ったときに買ったの」
なんでもあの後、店主に頼んで買ったのだとか。
「成程。あの時中でこれを買っていたんですね」
「うん。美鈴とおそろいのがほしくて」
そう言ってもう一つ箱を取り出して開けてみせる。まったく同じデザインだ。
「おなじの二つちょうだい。っていったらこれをくれたの。そしたら“これで二人で一つ
の星座になったね”っていってたよ」
「二つで一つ……ああ、成程」
星を結んで星座ができる。
二つで一つ、この描かれた星が隣り合って一つの星座とは、中々洒落たことをしてくれたと思う。
「?、どういうこと?」
「いえ、素敵なプレゼントだなと」
「よかった!」
意味として、形として、とても素敵なプレゼント。
確かに思いが詰まってる。
「……ねえ、美鈴」
「はい、何でしょうか?」
「寒いから、手をつないでもいい?」
「……喜んで」
しっかりと凍えないように。
優しく温めるように。
小さなその手を離すことのないように手をつなぐ。
「あったかいね」
「はい、とっても」
外の寒さなんて気にならないほど、温かい気持ちになる。
次も、その次もこうしていられたらどれだけ幸せなことだろうか。
星を結んで星座を作るように、二人で手をつないで家路についたのだった。
ぜひシリーズ化希望!
次回も楽しみにさせていただきます。
暖かい雰囲気が大好きです
続きが楽しみです
パチュリー様に取り繕っていただいてアリスさんの家に
取り繕う、というのは
破れたところをちょっと直す。修繕をする。過失などを、その場だけなんとかうまくごまかす。 という意味で、どちらかというとマイナスな意味合いを持つ言葉なので、この場合は掛け合っていただいて、といった表現の方が適切かと思われます。
長々と失礼いたしました。
暖かいメイフラもっと流行れ!!