Coolier - 新生・東方創想話

魔理沙の世界

2013/01/28 02:33:03
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 澄み切った冬の青空に、黒い点が現れた。その点はだんだん大きくなり、一人の人間をかたどった。
 普通の魔法使い、霧雨魔理沙。種族、人間。
 紅魔館の門番、紅美鈴はその存在を嫌というほど知っていた。
 人間というにはあまりにも大きな力を持っていること。わりと傍若無人なこと。その振る舞いの割に、けっこう好かれていること。
「よ、美鈴」
「魔理沙……?」
 それだけ知っているからか。いきなり挨拶された美鈴は驚きを隠せなかった。
 美鈴の知っている魔理沙の挨拶は「よ」などという言葉ではなく、弾幕だ。もしくはいきなりのマスタースパークとか。門といっしょに飛ばされた回数は、両手で数えても数え切れないほどである。
「なにかあったんですか?」
 美鈴は尋ねた。
「いや、ちょっと研究、というか実験に失敗してな。さすがに弾幕をする気も起きないぜ」
 魔理沙は肩を落としながら言った。よく見れば、目にわずかながらクマができている。それなりの規模の実験だったのだろう。
「まぁ、わたしとしては、吹き飛ばされなくて大助かりですけど」
「そうかもな。あ、パチュリーの図書館、行ってもいいか?」
「また盗むんですか?」
「人聞きの悪い。死ぬまで借りるだけだぜ。今日は本よりも、パチュリーに聞くほうがメインだけどな。そしたら、また実験だ」
「まだ実験するんですか!?」
「おう。魔法使いの本分だからな」
 魔理沙は疲れきった顔で、元気いっぱいに言った。
「ねぇ、魔理沙。ここに来たってことは、それなりに時間があるわけよね?」
 美鈴は少しばかり言葉に感情をこめた。
 人間なんて、弱いものだ。
 そのくせ、いつもいつも大丈夫って言ってくる。
 本当は、心も体もボロボロなのに。
「まぁ、それなりにはあるな。でも長話は勘弁だぜ?」
「そ。それならちょっとつき合いなさい。今日はパチュリー様に、鼠を絶対に入れるなって言われてるのよ」
 そう言うと、美鈴は魔理沙の体をお姫様抱っこにした。
 魔理沙の体は、驚くほど軽い。
 そのことが、美鈴をさらに苛立たせた。
「おい、何するんだ!」
「あんた、わたしの手をふりほどけないほど疲れきってるじゃない」
「それはお前が妖怪だからだろ」
「ふりほどけないなら、妖怪になにをされても文句は言えないわよね」
 思いっきり魔理沙に顔を近づけると、魔理沙の瞳がわずかに恐怖の色を帯びる。
 その様子に満足して美鈴は微笑むと、美鈴はふわりと空に浮かんだ。

☆☆☆


「魔理沙? どっちが似合うと思う?」
「ん? 美鈴は黒しか見たことがないからなぁ」
 二人がやってきたのは、人里のお洒落な小物屋。
 その中で、美鈴は二本のリボンを手にしていた。一本はいつもつけているような黒いリボン。もう一つは、春のような桜色のリボンだ。
「いつもなら黒にするんだけどねぇ。春も近いし、桜色もありな気がするのよね」
「でも、ちょっと幼くないか? 美鈴には」
「うーん、そう言われると、そういう気もしてきますねぇ。魔理沙なら問題なさそうだけど」
「ひあっ! やめろ!」
 美鈴が魔理沙の三つ編みに桜色のリボンを合わせようとすると、魔理沙は小さな悲鳴をあげて顔を背けた。
「何よ? リボン嫌いなの?」
「リボンは嫌いじゃないが、そういう色は勘弁だぜ」
「えー、魔理沙がつけたら、可愛いのに」
「だから嫌なんだぜ」
「なに? あんた可愛いって言われるの嫌いなの!?」
 美鈴は思わず甲高い声をあげてしまった。
 比較的小柄な容姿に、ふわふわした金色の髪。それに、フリルがたくさんついたエプロンドレス……。
 エプロンドレスなんて、可愛いって言って欲しい人が着るような服だ。
「でもあんた、ちゃんと化粧とかはしてるわよね?」
「乙女のたしなみだぜ」
「可愛いじゃなくて、なんて言われたいのよ?」
「綺麗とかかな。そっちを言われるのは、霊夢とかアリスばっかりだからな」
「綺麗ねぇ……」
 魔理沙が綺麗なんて、ありえるだろうか?
 いや、別に魔理沙の容姿が悪いわけではない。むしろかなり良いほうだと思う。でも、その容姿の良さを言葉で表すなら、どうなるだろうか?
 たぶん「可愛い」がもっともふさわしい言葉になると思う。
 まして、霊夢やアリスが隣にいる場合ならなおさらだ。
 霊夢は巫女服を着ているし、髪も真っ黒なストレートなので、それだけで比較的大人びた印象がある。しかも、可愛いと言うにはあまりにも似付かない行為が多すぎるのだ。縁側でお茶を飲んだりとか。
 ならアリスはどうだろうか? やっぱりアリスも可愛いではない。そう美鈴は思う。アリスの場合は、身長があるし、物腰も落ち着いているので、可愛いという感じはしないのだ。クールビューティーという言葉が、しっくりくる。
 この二人に比べて、魔理沙はどうだろうか?
 まず、背がちっちゃい。おそらく、美鈴の周囲にいる人間や妖怪の中では、妖精を除いて一番小さいだろう。
 次に雰囲気。言うまでもなく子供っぽい。表情がコロコロ変わるし、常に楽しいことを期待しているような感じがある。
 それに加えて、フリフリのエプロンドレスに、「可愛いよりも綺麗って思われたい」という乙女思想。
 これだけの可愛い要素を持っていて、可愛いと思われないことがあるだろうか? いやない。
「魔理沙?」
「なんだ? そんな難しい顔をして」
 美鈴は、自分のリボンを探していたらしい魔理沙に声をかけた。魔理沙の手に握られているのは、濃い緑色にレースがついた乙女チックなものだ。
「あんたの友達として、はっきり言わせてもらうわ。あんたに可愛い以外は無理よ」
 その後、小物屋には「どうやったら可愛いでなく綺麗になれるか」を美鈴に尋ねる魔理沙の姿があったという。


☆☆☆


「はぁー。こんなにのんびりしていていいんだか……」
 魔理沙がフルーツタルトを口に運びながら言った。
 二人は人里にある喫茶店に来ていた。
「別にいいじゃない。研究なんて、いくらでもできるんだから」
「そう言ってもなぁ。今日は失敗した日だし……」
「そういうことを言われると、つくづく無理矢理連れだして、良かったと思うわ」
「本当に無理矢理だったよな。門番がいなくなって大丈夫なのか?」
「もう危ない輩なんて来ないから。お嬢様は博麗神社だし、咲夜さんもいつの間にかいなくなってたし」
「お前、本当にサボり魔だな……。そんなんでいいのか?」
「むしろ魔理沙が真面目すぎるのよ」
「まぁ、真面目に努力しないと、まわりに追いつけないからな……」
 魔理沙がため息まじりに言った。
「まわりに追いつくねぇ……」
 まわり……、というのは、霊夢や他の魔法使いのことだろう。たしかに霊夢は類希な天才であるし、アリスやパチュリーも、優れた魔法使いではあるだろう。けれども。
「あんただって、十分じゃない」
 普通に妖怪と弾幕ができて、天狗と肩を張り合うほど速く空を飛べて。満足できないという気持ちは、わからないでもないが。
「でも、まだまだなんだぜ。霊夢たちは本当にすごいから。それに比べたら、わたしなんてまだまだだぜ……」
 そう言って、魔理沙は遠くを見つめる。
 不安。
 それが魔理沙の言葉に感じられた気持ちだった。
 たくさんの天才と普通な自分。魔理沙が感じているのは、いつか天才たちの隣にいられなくなる不安なのかもしれない。
 別に、魔理沙に力があるから霊夢たちは隣にいるわけではないのに。
「魔理沙さ……」
 美鈴は紅茶の水面を眺めながら喋りはじめた。
「別に、そんなに努力しなくてもいいと思うな……」
「でも、わたしは普通の魔法使いだから……」
 魔理沙は外を眺めたまま呟く。
「でも、今の魔理沙は違うと思う。たしかに、魔法の研究は大事だと思うし、必要だとも思う」
「うん……」
「けれどもね、今の魔理沙は、焦ってるだけ。それも、もの凄く……」
「焦ってる?」
「焦ってるわよ。それも、自分のことも無頓着になるくらい」
「仕方がないじゃないか。わたしは才能が無いんだからな」
「でも、そのままだと、霊夢たちを傷つけることになるわよ?」
「わたしがか!? 霊夢たちを?」
 魔理沙が大きく目を見開いて言った。
 魔理沙の声に、周囲の客たちが一瞬こちらのテーブルを見る。
「だって、あんた、無理をしてるじゃない」
「だからそれは」
「それは才能がないから? たしかにそうかもしれないわね」
 美鈴はそこで言葉を切った。
 一口紅茶を飲んでから、真っ直ぐに魔理沙の目を見る。
「でもね、もし無理をして魔理沙が倒れたら、魔理沙を看病するのは誰?」
「そんなの、寝てれば直るじゃないか」
「例えが悪かったかしらね。じゃあ、もし今日、わたしよりも強い妖怪に襲われてたら、どうするつもりだったのよ? 確実に食われるわよ? その妖怪を退治しに行くときの、霊夢の気持ちを考えてみなさいよ」
 美鈴の言葉に、魔理沙はうつむいただけだった。
 少し言い方がキツかったかもしれない。けれども、ここだけは美鈴にとって譲れない一線だった。
「努力することはいいことだけど、無茶することは違うのよ。無茶すると危ないし、他の人にも迷惑をかける。正直、今日の魔理沙を見たときは、少しショックだった」
「ごめん」
 魔理沙が震えた声で言う。僅かに目には涙が浮かんでいた。
「だから、嘘ついてでもパチュリー様には会わせなかったし、追い返したところで素直に寝るわけもないから、無理矢理つれ回したのよ」
 そこまで言って、美鈴は優しく魔理沙の頭を撫でた。
 ここまで感情に任せて話をしたのは、咲夜に話をしたとき以来かもしれない。あのときも、似たような話だった。人間は、本当に無自覚に無茶をするものだと思う。
「本当にごめん。美鈴」
 紅茶が完全に冷めてしまうほどの時間が経ったあと、魔理沙はポツリと言った。
「そう思うなら、もっと自分を大事にしないとね」
「自分を大切にか……。考えたこともなかったな」
「だから、今後はちゃんと考えなさいよ。たまには自分にご褒美をあげたりとかね」
「そうすると自分に甘い気がするんだよなぁ……」
「わたしなんか、しょっちゅう自分にプレゼントしてるわよ?」
「おまえは寝すぎ」
 魔理沙が少し笑う。それは小さいけれども冬の太陽のように暖かい笑顔だった。
「でもさ、不幸なんていくらでもやってくるでしょ? 研究なんて、いくら努力して準備をしても、失敗するときの方が多いだろうし」
「失敗した研究のノートの量を考えると、軽く落ち込むな」
「そんなにあるの?」
「レミリアの歳と同じくらいあるんじゃないか?」
「お嬢様、何歳だっけ?」
「500歳だろ? おまえが忘れてどうすんだよ」
「妖怪は年齢に疎いのよ。自分の歳すら怪しいし」
「おいおい」
 アハハハ、と二人して笑う。
「でも、そのお嬢様の年齢と同じくらいのノートも、無駄ではないんでしょ?」
「失敗は成功の母だからな」
「なら、失敗した実験のあとも、成功にむけた一歩だと思って自分にご褒美をあげないと」
「そうしたら、ご褒美ばっかりにならないか?」
「いいじゃない。自分へのご褒美でも、もらえたら幸せでしょ?」
「それはそうだけどさ」
「だいたい、不幸なんて放っておいたっていくらでも起きるんだから。それと同じくらいの幸せは、無理矢理でも捕まえないと合わないわよ」
「美鈴の幸せは、シエスタか?」
「そうね。しょっちゅう咲夜さんにナイフ投げられるから」
「そりゃ不幸じゃなくて自業自得だろ!」
 やっぱり魔理沙とはこういうテンポで話をしている方が楽しい。
 疲れきった顔で、静かにやってくる魔理沙なんて、魔理沙じゃない。 凄い人間だけど、ちょっと傍若無人で、まわりにいる人間や妖怪が楽しくなってしまう人間が霧雨魔理沙だ。
 美鈴は魔理沙にツッコミを入れられながら、そんなことを思うのだった。


☆☆☆


「今日はいろいろ悪かったな」
 夜。紅魔館の美鈴の部屋で、魔理沙は言った。
 美鈴は魔理沙を誘って、自分の部屋に泊めさせたのだ。
「別にいいわよ。わたしが好きでやったことだから。灯り、消すわね」
 そう言って、美鈴は部屋の灯りを落とすと、既に魔理沙がいるベッドに潜り込む。魔理沙が着ているネグリジェが軽く当たって、少しくすぐったい。
「まったく、美鈴には迷惑をかけてばっかりだな」
 暗くなった部屋で、魔理沙がポツリと言った。
「別にいいんじゃない? 友達なんてそんなもんだし」
「おまえ、よくそんなに恥ずかしげもなく友達って言えるな」
「だって友達じゃない。お互いに迷惑をかけても関わっていたいと思える。友達ってそんなものでしょ?」
「それって、恋人じゃないのか?」
「何? それ、告白?」
「ばっ、馬鹿!! そんなわけないだろ!!」
「あはははは! 魔理沙、可愛い! ちょっとからかっただけなのに」
「可愛いって言うな!」
「魔理沙、顔真っ赤でしょ。冬なのに、もう布団も暖まったみたい」
「うるさい。だまれ。寝る」
 それだけ言うと、魔理沙は壁に向けて寝返りを打ってしまう。
 美鈴は一瞬背中をくすぐってやろうと思ったが、今日はやめておくことにした。魔理沙も疲れてるし。
「美鈴?」
 壁に顔を向けたまま、魔理沙が言った。
「なに?」
「今日は、本当にありがとな」
「どういたしまして」
「でも、本当にわたしばっかり迷惑をかけてていいのか?」
「別にわたしも魔理沙には、それなりに迷惑かけてるし」
「そうか?」
「魔理沙、その咲夜さんが昔着ていたネグリジェ、子供っぽくて可愛いわよ?」
「だから、可愛いって言うなって!」
「そ。そうやって派手に反応してくれると、わたしのストレス解消に凄くなるから」
「お前なぁ」
「別にこれくらいなら、わたしが受けてるマスタースパークよりはマシじゃない」
「それもそうか」
「なんか、素直に退かれるとそれはそれで落ち着かないわね」
「ふふふ、一本取ってやったぜ」
「このやろう」
「ひあっ! やっ、やめろ! わき腹くすぐんな! あはは!」
 後ろからわき腹をくすぐってやると、魔理沙の体はおもしろいように跳ねた。そのまま10秒ほどくすぐって、手を離してやる。
「くそっ。次は絶対ファイナルスパークを打ち込んでやる」
「じゃあ、こっちも妹様にでもお迎えしていただこうかしらね」
「それだけは勘弁してくれ」
「参りましたは?」
「参りました」
「よろしい」
 美鈴は満足して微笑んだ。今日みたいに来られるのも困るが、さすがにファイナルスパークは受けたくない。
「それじゃあ、そろそろ寝ましょうか?」
「なんか、子供を寝かしつけるみたいだな」
「まだ子供じゃない」
「うるせぇ」
「ほら、おやすみなさいは?」
「おやすみ、美鈴」
「おやすみ、魔理沙」
 二人は静かに言葉を交わすと、幸せな夢の世界に向かっていった。

レ「ねぇパチェ? 美鈴ってわたしの門番なのかな?」
パ「なんで?」
レ「だって、完全に存在を忘れられてない? 歳とか」
パ「これだけ一緒に住んでいれば、忘れられるでしょ」
レ「わたし、魔理沙よりも背が低いんだけど……」
パ「仕方ないじゃない。アンタ、この作者に書きにくいからって書かれないし」
レ「グスン」
霊「パチュリー? 来たわよ?」
パ「あ、霊夢来たからレミィは出てって」
レ「絶対に明日の作者が乗る電車を信号トラブルで止めてやる……」

琴森ありすです。
途中で、「少し、頭冷やそうか」と言って、魔理沙にマスタースパークを撃たせようと思ったり。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
琴森ありす
http://yaplog.jp/vitalsign/
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コメント



0.840簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
妹系の魔理沙は可愛いですなぁ。
美鈴〉咲夜〉魔理沙の姉妹的な関係は大好物です。
4.100こーろぎ削除
美鈴マジお姉さん!
6.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙は可愛い!
これだけは譲れんな。
7.80奇声を発する程度の能力削除
可愛くて良かったです
16.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙はかわいいなー
作者の最後のがなければお嬢様の袖を引く魔理沙を想像してたぜ
22.803削除
美鈴いいキャラしてるね。
魔理沙はやっぱり可愛い系だよなぁ。