Coolier - 新生・東方創想話

トモシビ

2013/01/22 22:42:45
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 誰かの手が、あたいに触れた。
 小さい手。だけどもとっても暖かくて、包み込んでくれるような優しい手。

「そう。あなた寂しかったのね」

 初めて自分の想いを汲んでくれる人に出会った。
 誰も知らない、わかってくれない寂しい心を。
 今でもはっきり思い出せる。あたいのはじまり。


 その時確かに、あたいの中で明かりが灯った。


                    †


 熱い。
 暑いじゃなくて熱い。
 文字通り灼熱。季節も何もあったものじゃない。
 かつての灼熱地獄は今でもその熱を、炎を灯している。というのに

「む。火力が足りない」

 これだけの大火を前にして、なにをほざくかこのカラスは。

「きっとあれだな。燃料が足りない」

 炎の中心、灼熱の元凶。霊烏路空があたいを呼ぶ。

「燃料が足りない。もっと持ってきて」

「これだけ熱ければもういらないでしょ」

「何を言う。こんなんじゃちっとも足りない足りない」

 むしろ寒いぐらいだ、と。

「残念だけどこれ以上は今はダメだね。本当に足りなくなっちゃう」

「さとり様が凍えてもいいの?」

「凍えそうなのはアンタだけだから大丈夫だよ」

 あたいもさとり様も熱すぎるのはゴメンだ。

「なにさぁ。お燐は火車ってやつのくせに熱いのダメなのか?」

「暖かいのは好きだけど熱いのはやだよ」

 こんなところで平気な顔をしていられるのはコイツだけだ。

「だから今はこれでいいの。本当に足りなくなったら呼んでよ」

 だからさっさと帰りたかった。

「あー、うん。りょーかい」

 コレをあまり好き勝手させないようにするのもあたいの仕事だ。

 お空はめんどくさくてほっとくと大変なやつだから、なんかほっとけないやつだ。
 友情?愛情?わかんないけどそんなかんじ。
 とりあえず暴走は未然に防げたので、さっさと帰ろう。


                    †


 帰る途中、ちょっといいにおいがしたのでふらっと街中へ。
 ここはいつでも明るいし、おいしいものがいっぱいあるから結構好きだ。

「ん?そこにいるのは…あいつんとこのネコか?」

 呼び止められた先にいたのは、たまにうちに来る酒臭い鬼だった。

「どうしたこんなところで。なんか用事か?」

 いつにもまして酒臭い。どこかで一杯ひっかけてきた後なのだろう。

「なんもないよ。お空のところいった帰りでちょっと寄り道しただけ」

 お姉さんはどうなの?と聞けば

「いやなに。一杯ひっかけてハシゴの最中さね」

 当たり。

「そっか。鬼だからってあんまり飲みすぎないほうがいいよ?」

 じゃあね、と帰ろうとしたら

「まあ待てって」

「にゃい!?」

 首根っこつかまれて止められた。
 結構いたい。

「折角だ。ついでにお前も付き合え」

 なんと、お酒のお供に来いという。
 鬼の。大酒飲みの。
 …ヘタしたらしんじゃう。

「さとり様にすぐ帰るって言ったから無理だよ」

「そんなもん後で私がどうとでもしてやる」

 さぁいくぞー、とこのまま引きずられていくあたい。拒否権ナシ。
 …おいしいものを貰うだけ貰ったらさっさと帰ろう。

 帰れたら、だけど。


                    †


「おーっす。やってるかー?やってるよなー」

 もう発言が完全に酔っ払いだ。

「お姉さんお姉さん。あたいは大丈夫だからもう離しておくれ」

 もうこれ以上ひっぱられたらちぎれちゃう。

「おっとわりぃ。まあ着いたからいいだろ。きにすんな」

 違う。そうじゃない。お空とは違う感じでこのお姉さんとは話がかみ合わない。
 だれかたすけて。

「もう離してあげたら?痛がってるじゃない」

 そんなとき座敷の奥にいたちょっと暗めなお姉さんが助けてくれた。

「んー?あーはいはい」

 ようやく解放されるあたい。暗めなお姉さんありがとう。

「まったくすぐに行くから先にいっとけなんて言っておいて、何猫なんか拾ってるのよ」

「いやさー。いく途中でふらついてるコイツを見っけてな。ついでだついで」

 何がついでかよくわからない。

「あっそ。まぁいいわ。私も早く済ませて帰りたいし」

「つれないこと言うなよー」

 あのお姉さんも無理やりだったみたい。
 うまくすればすぐ帰れるかも。

「というわけであなた。これあげるからさっさと帰りなさい。これ以上あれに好き勝手されると
困るでしょ?」

 そういて、お饅頭が入った包みをくれた。
 このお姉さんいい人だ。

「なんだーパルスィ。妬いてんのかー?」

「うっさい酔っ払い。あんたの相手は私だけで十分よ」

 これ以上被害をふやすな。とおさえつけてた。

「勇儀は私が押えておくから、さっさとお帰り」

「あ、ありがとうお姉さん。きっとあとでお礼するよ!」

 お饅頭の包みを持って飛び出すように店を出た。
 なんか後ろからうめき声みたいなのが聞こえたような気がしたけど、聞こえなかったことにした。


                    †


 さっきはひどい目にあったけど、お饅頭を貰えたからまあおあいこぐらい。
 結構くれたから、あまったのはさとり様にあげよう。
 街を外れた小道で、貰ったお饅頭を一つ頬張りながら帰ることにする。

 すんごい甘くておいしかった。
 
 きっとさとり様も喜ぶに違いない。
 と、ふわふわと考え事をしていたら


 ヒュン


 眼前ギリギリ鼻にグレイズ。上から桶が降ってきた。
 もちろん食べていたお饅頭は落とした。

「むぅ。ちょっとずれた」

 中には不機嫌そうな女の子。

「ちょいと何すんのさ!お饅頭落としちゃったじゃないか!」

 包みのほうはどうにか死守。
 鼻を掠めたことよりも落としてしまったお饅頭のほうが大事だ。

「そこにいたのが悪い」

 頑として譲らず謝らず。眉間にしわ寄せご機嫌ナナメ。
 

あ、コイツ話通じないタイプだ。

「あっそ。そりゃ悪かったね。あたいは急いでるからもういいよ」

 宙ぶらりんの桶を横目にこの場を脱出。
 ああいうのはほっとくに限る。

「おっと、またキスメの桶に誰かひっかかったな」

 今度は眼前にもう一人。あたいを阻むように居座っている誰かを発見。
 今日は厄日だ。

「そう気を悪くしないで。あれはキスメなりのあいさつだって……たぶん」

 そんなこと知るわけがないし、お饅頭の恨みはあるけどどうでもいい。

「ああそうかい。じゃああたいは先を急ぐから――」

「お。なにそれきびだんご?あ、さっきお饅頭って言ってたからそれか」

 こいつもか。

「…あげないよ?」

「流石にそこまでは求めてないよ!あ、でもくれるんならうれしいかなー?」

 そういう割には退く気無し。目線はずっと包みを見ている。

「はぁ。いいよ。あげるよ一個くらい」

「おー。わるいねありがと。あーでももうひとつ欲しいかなー?」

 ちらちらと私とキスメとかいうやつを交互に見る。
 うざい。

「わかった。わかったよもう。あげるよ二個くらい」

「やった♪」

 これ以上絡まれても疲れちゃうだけだからおとなしくなるならこれぐらいいいか。

「この恩は忘れないよ!ねぇキスメ?」

「ヤマメうっさい」

 ひどい!とオーバーリアクション。鬱陶しい。

「まあいいか。ネコさんも何かあったらこの地底のアイドルヤマメにいってね!」

 ヤマメとかいうのが何か言ってるけど気にしない。

「あー、うん。そうだね。そうするよ」

 今日はほんと疲れる日だなぁ。もぅ。


                    †



 道中ものすごくいろいろあったがなんとか帰ってこれた。
 はやくゆっくりしたい気持ちでいっぱいだ。

「ただいま帰りました」

「あらお帰り。ずいぶん遅かったわね」

「いろいろありまして」

 それはもうたくさん。

「ああ…そう。なるほどね。それは大変だったわね」

 くすくすと笑うさとり様。あたいとしては笑い事じゃなかったんですけど。

「でもよかった。最近はとっても楽しそうだもの」

 どこをどうとったらアレが楽しそうに思えるのか。
 あたいにゃちっともわからない。

「怒ったり喜んだり、相手を思いやったり感謝したり。
心を読めるからよくわかる。あなたの心の動きがね」

 それはもう重々承知していますが。

「心が動くというのは楽しんでいる証拠。生きている証。
覚えているかしら?あなたがここに来たばかりのころを」

 忘れるわけがない大恩の記憶。

 見てくれより淘汰され、種族故に忌避される。
 誰もがあたいを避けてたあの時。
 誰もわかってくれないなら、見てくれないのならもう何もする必要がない。
 いっそ止まってしまえばいいのだとある意味で心を閉ざしていた。
 例外は心の読めるさとり様だけ。この人がわかってくれるならそれだけでいいやと思っていた。

 そんなあたいに熱心に話しかけてきたのがお空だ。
 最初に会った日からずっと

「あんた誰?わたしはお空!」

 もうほぼ毎日。ひどいと一日数回。
 いい加減鬱陶しくなってきちんと答えてもすぐに忘れてまた聞いてくる。
 たぶん覚えてくれるまでだいぶかかったと思う。
 今じゃもう親友だ。

「そうね。あの子が一番熱心に話しかけてあげたからあなたは心を開いたのかもね」
 
 心に明かりをつけたのが私なら、その心の扉を開けたのはきっとお空ね。
 さとり様はそんなことを仰ってる。

「そんなあなたを知っているからこそ、今はとっても楽しそうに見えるのよ」

 ちょっと嫉妬しちゃうくらい。とのこと。
 どこがいいのだろうか。

「私は心が読めるけど、心を通わせるのは苦手なの。だから人づきあいが下手でね」

 あんなに暗く閉ざされていた心の部屋がたくさんの明かりに囲まれている。
 だからとっても楽しそう。だそうだ。

「最初にあなたの心読んだとき、寂しいって気持ちでいっぱいだった。
でも今はそれがない。それが楽しそうに見えないわけがないわ」

 言われてみればそうかもしれない。

「そんなものですかね」

「そんなものなのよ」

 まぁさとり様がすごい嬉しそうだから、まあいいか。

「あー、何これ。お饅頭?んー、でももう少し甘さ控えめのほうが好きかも」

 あたいの包みからいつの間にかお饅頭を都手勝手に食べて吟味していた。
 こいし様だ。

「こら。ちゃんとお燐からもらってからにしなさい」

「えー。いいじゃない別に」

 ねー?と同意を求めてくる。まあいいですけど。

「はぁ、もともと私つもりでしたから」

 ほらねー、ともう一個とって食べてた。評価の割にはよく手が伸びてる。

 もう、とあきれ顔のさとり様。
 喜んでいるのなら、あたいは別にいいのだけど。

「うにゅ?なにそれおいしそういっこちょうだい」

 ひょいぱくと後ろから手が伸びて口の中へ。お空か。

「はぁ。あ、さとり様もどうぞ」

 遅れちゃったけどもともとこうするつもりだった。

「あらありがとう。でもこういう甘いものを食べてるとお茶もほしくなるわね」

「そうだねー。ちょっとお空、核熱ぱわーとかいうやつでパパッとお湯を沸かしてよ」

「わかりましたこいし様!」

「ちょっと待って」

 アンタだとこの館が消し炭になる。
 いやもしかしたらなにも何もなくなるかもしれない。

「そうねー、お空のはちょっと強すぎるかしら?」

 くすくすと笑うさとり様。笑ってないで止めてください。

「えー。そうなの?それはこまっちゃうなー。じゃあいまのナシ」

「うにゅ…」

 出番がなくなって落ち込むお空。あぶなかった。

「あーはいはい。これあげるから元気出しなさい」

 そういってさとり様がお饅頭をお空にあげてた。
 両手を上げて一瞬で復活。単純だ。

 でもなんかうるさくて賑やかで、ちょっと大変だけどちょっと楽しい。

 ――ああそうか。

 さっき言ってたことが、なんとなくわかった気がした。



 心の中に灯が燈る。豪華絢爛燭台いっぱい。



 この時確かに、あたいの中が明かりで満たされた。
おりんりんの日常のお話。
見てくれる誰かがいるだけで、頑張ろうって気になれるものです。
お饅頭なのは、うちの猫が好きだったから。

あとヤマメはあんな奴だったか・・・書いておいてあれですが。
羊丸
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コメント



0.370簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
平和な地底もいいですね
位置関係に疑問を感じたので点数はこちらで
8.80奇声を発する程度の能力削除
雰囲気の良い地底のお話でした
9.80名前が無い程度の能力削除
熱すぎず冷たすぎず、ほんのり温かい雰囲気が良かったです。
何だかキスメがいい性格してる…!
12.603削除
暖かいお話でした。