Coolier - 新生・東方創想話

失せ物

2013/01/22 18:29:08
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 博麗神社の境内で、伊吹萃香は神社の巫女である博麗霊夢に困った様子で話しかけていた。霊夢は縁側に腰掛けて、萃香の話を半分聞き流しながら相槌を打っている。萃香が霊夢の姿勢に不満を見せず、ただただ霊夢に心当たりはないか尋ねているとき、神社の上空から箒にまたがった霧雨魔理沙が下りてきた。魔理沙は二人に気付くと、話題に構わずに割り込んで、口を開いた。
「よう、霊夢、今日も神社の仕事はサボりか」
「あんたが客ならその心配も必要ないわ」
「客だぜ。神社じゃなくてお前の、だけどな」
「ならお呼びじゃないわね。鳥居の外から出直しなさい」
 霊夢が萃香との話を中断し、魔理沙に調子を合わせると、萃香は呆れて「話を聞いておくれよお」と悲しげに呟く。それを聞き逃さない魔理沙は、不思議そうな面持ちで萃香に尋ねた。
「なんだ、萃香じゃないか。今日は霧にはならないのか」
「いつもいつも霧になってるわけじゃないさ。お酒が飲めないし」
「酒ね、酒。そうだ、酒で思い出したが、なんでも早苗の奴が大酒飲みになってるらしい」
「早苗が? 確か早苗って、ほとんどお酒が飲めなかったんじゃないかしら」
 魔理沙の話に興味を示し、霊夢が話に参加する。
「お酒が飲めないなんて、人生を損してるね。飲めるようになって良かったじゃないか」
「私も飲めないよりは飲めた方が良いとは思ったがな、どうも様子が違うらしい。大酒飲みになった早苗と、神奈子も最初は嬉々として酒盛りをしていたらしいが、とうとう神奈子の方が潰れちまったんだと」
 霊夢と萃香の二人は守谷神社の一柱である八坂神奈子を頭に浮かべ、それが酔い潰れてしまう光景を想像しようと試みた。しかし、どうにもそんな姿が浮かばない。神様というのは、それほど酒に強いものなのである。それゆえに神様として半人前である東風谷早苗が、神奈子との飲み比べに打ち勝つことなど、到底信じることはできなかった。
 ところが、萃香はその話を聞いて明朗な笑顔で喜んでいた。霊夢が萃香の笑顔に気付き、「ああ」と一言漏らして合点がいったという風な表情をした。魔理沙は二人の顔を交互に見て、妙な疎外感からか不満そうに唇を尖らした。
「なんだよ、二人して変な顔をしやがって。私にも説明してくれよ」
「私の探し物が見つかっただけさね」
「お前の?」
「さっそく行ってくるよ。あれがいなきゃ、私が困るから」
 そう言って萃香は体を霧散させ、さっさと妖怪の山の方へ飛んで行ってしまった。霊夢はぼんやりと萃香を見送ってから、興味を無くしたのか魔理沙に視線を向けた。
「で、どうする? お茶でも飲んでいくの」
「ああ、そうするよ。あいつについて行っても、面白くなさそうだしな」
 霊夢はお茶を淹れるために台所に向かい、魔理沙はつまらなそうに山の方を眺めた。


 萃香が守谷神社の境内に下りると、ちょうど神社周りの掃除をしている早苗の姿があった。霧散していた体を元の鬼のものに戻し、萃香は早苗に近寄って挨拶をする。早苗は驚きつつも挨拶を返した。
「萃香さんではないですか。今日はどのようなご用件で? もしや神奈子様のご信仰ですか」
「馬鹿を言っちゃあいけないよ。私が神様なんて信仰する理由が、一片でもあるはずがない」
「そんなことを言っても、信仰とは気持ちですから。力の有無に限らず、心の支えとなるものですよ」
「私の支えはお酒さ、信仰するならお酒の神様だね。それはそうとして、なんでもお酒が飲めるようになったんだって?」
 萃香が尋ねると、早苗はそれを肯定してから、饒舌にそのことを語りだした。内容は酒が飲めるようになったのが三日前であること、酒を飲まずにはいられないこと、酒を飲んでもまったく酔わないこと、昨日は神奈子との飲み比べに勝ったこと、これはきっと奇跡によるものだ、などなど、後半からは語りに熱が入り、妄想と推測の混じった怪しい話になり始めたため、萃香は顔をしかめながら早苗の語りに割り込んだ。
「もしかしたら、それは私の失せ物が原因かもしれないんだ。お礼もするから、すまないけど協力してもらいたい」
 萃香の真摯な態度に、早苗は渋りつつも許諾した。萃香は下戸に戻り酒を飲めなくなる早苗に、酷く申し訳なく思った。
 まず萃香は早苗を縄で縛りつけ、自力では動けないようにした。早苗は困惑しながらも萃香に身を任せ、大人しくしている。次に桶を一つ用意し、早苗に許可を貰ってから、神社内の高級な酒を一升ほど用意した桶に注いだ。途中、守谷神社のもう一柱である洩矢諏訪子が早苗の前を通りかかり、縛られた姿を見てからかったせいか、早苗は頬を薄く朱で染めて恥じていた。萃香はまた早苗に申し訳なく思い、作業の速度を上げたのだった。


 作業が終わると、縛られた早苗の前に、酒で満たされた桶が一つ置かれているだけだった。
「萃香さん、私がなにかすることはないので?」
「うん、別にないよ。あんたはそこで縛られてくれていれば、それでいい」
「とても恥ずかしいんですけど」
「私しか見てないからさ」
「諏訪子さまに見られてますよ。ほら、そこの神社の陰」
 萃香が早苗の示す方を見ると、確かに神社の陰から顔半分を出して、こちらの様子をうかがう諏訪子の姿があった。諏訪子はいやらしい笑みを浮かべて、とても楽しそうにしている。
「気になるなら追い払ってくるけど」
「いえ、いいですよ。後で私が奇跡を起こしますので」
 萃香の提案を、早苗は諏訪子に呆れながら断った。
 萃香との会話が途切れてからしばらくして、早苗は喉が渇いてきた。しかし縛られているために水を飲みにすら行けない。たまらず萃香に声をかける。
「あの、喉が渇いたので水を一杯欲しいのですが」
「すまないけど、水をあげるわけにはいかないんだ。そろそろ終わるから、もう少しだけ辛抱して」
 決まりの悪そうな萃香の言い方に、早苗はどうとも返せない。喉の渇きが段々と強くなっていくと、突然喉に違和感を感じた。まるで何かが喉の中を這い上がってような、嘔吐に近い感じだ。その違和感が消えると同時に、口から何かが飛び出して行く。何かは酒で満たされた桶に飛び込み、ぽちゃりと水飛沫をあげた。
「な、なんですか、これは」
 咳き込んでいる早苗の視線の先には、酒の中を泳ぐ気味の悪い物体がいた。見た目は三寸ほどの肉の塊のようで、器用に泳ぐ姿がとても印象的な物体だった。
 萃香は懐から紫色の瓢箪『伊吹瓢』を取り出すと、桶の中で泳いでいる物体を躊躇なく摘み上げて、伊吹瓢の中に滑り込ませた。
「ありがとう。こいつを失くしたときは、どうしようかと思ったよ。なんせ、いつでもお酒が飲めなくなるからね」
「いや、それよりも今のおぞましい物体はなんですか。寄生虫か何か?」
 青ざめた顔で訊いてくる早苗に、萃香は笑って伊吹瓢をかかげた。
「こいつは酒虫だよ。水の中に入れておくと、その水をお酒に変えてくれるのさ」
「話には聞いたことがありましたが、あんなにも気持ちの悪いものなんですね」
「そうかい? 可愛いもんだと思うんだけど」
「若い子のセンスとずれてますよ」
「もう何百と生きてるからね。半人前とは感覚が違うよ」
「もう半分は神様ですもん。馬鹿にしないでください」
 萃香は「おっと失礼」と一言詫びて、持っている伊吹瓢に愛おしそうに頬擦りした。早苗が酒虫を捕まえたわけを訊くと、萃香は機嫌良く答えた。
 萃香曰く、三日前に幻想郷を霧となって漂っていると、気が緩んだ拍子に伊吹瓢を落としてしまった。幸い落とした場所は分かったので取りに行くと、栓が抜けて中身がなくなっている。試しに水を注いでみても、酒にならず水のまま。酒虫が逃げ出したことに気付き、今の今まで探していた、という話だった。
「あんたの腹の中にいるとはね、見つからないはずだ」
「あんなものがお腹の中にいたなんて……。やっぱり私、お酒なんて飲めなくていい」
「おやおや、それは気の毒だ。お酒ほど美味い飲み物は、この世だろうとあの世だろうと、存在しないっていうのに」
「常識に囚われた考えですね。きっとお酒よりも美味しい飲み物が、世の中にはあるはずですよ」
「見つかったら教えておくれよ。飲み比べてみるからさ。ところで、お礼がしたいんだけど、なにをすれば良い?」
 お礼、という単語に早苗は目を輝かせ、すぐに答えた。
「もちろん、守谷神社の信仰です。確か萃香さんは、萃めることが能力でしたよね」
「ああ、そうだね。でも、それってなんだかズルくさいような」
「えー、でもお礼ですよ、そこをなんとかお願いしますよ」
 早苗の不満げな様子に、萃香はどうしたものかと腕を組んだ。少し間を空けてから、萃香は朗らかな笑みで浮かべて口を開く。
「じゃあ、私の知り合いたちに色々言っておいてあげるよ。それでいいでしょ?」
「それって、私の布教活動と同じような……。まあ、いいです。お願いしますね」
「任しておいて。さっそく行ってくるよ」
 萃香は言うやいなや体を霧散させ、早苗が引き止める間もなく姿を消した。後には縛られて動けない早苗が一人、残されている。神社の陰から諏訪子が早苗に小走りで寄ってきて、にやにやと口元を緩めながら見つめてくる。
 早苗は赤面しながら、縄を解いてくれるよう、諏訪子に頼むのだった。

初投稿作です。風邪をひいて暇になってガシガシ書きました。
キャラの口調がさっぱりと掴めていないのが気になる、今日この頃であります。
h5w
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コメント



0.310簡易評価
6.80名前が無い程度の能力削除
初めてでこれだけ形になれば十分かと、細かい事は後々詰めればいいんです
キャラの口調は衣玖のような敬語系やチルノのように普段から大きな特徴があるキャラ以外はあまり気にしすぎる必要はありません
萃香原作で出番無いけどそろそろ出てこないかなー
7.無評価h5w削除
>>6
気にし過ぎないで良いのか・・・
・・・萃香は新作できっと
9.70名前が無い程度の能力削除
文章は普通に読めるので後は同じようにガシガシ書くと良いと思います
口調とかは二次創作では極端でない限り割と自由が効くので、そこら辺は自分の中の幻想郷に従えばOKかと
ただストーリーとしては、早苗が「何故」「どうやって」酒虫を飲み込んだのかが描かれていない為にちょっと消化不良かなと思いました
10.70名前が無い程度の能力削除
よくある誤字ですが、守谷ではなく守矢ですよー。
酒虫が出てくる珍しい話で面白かったです。やり取りも各々のキャラらしくてとても良かったですよ。
ただ、酒虫は少量の水を大量の酒に変えるだけの生物だから、体の中にいても大酒飲みにはならないような…?
水を飲んだら胃の中でどんどん酒を量産して、下戸の早苗はヤバい事になりそうですw
11.無評価h5w削除
>>9
暇なときにガシガシ書きます。
早苗さんはきっと・・・うん、ついつい拾って口に

>>10
誤字指摘どもです。今後とも気を付けます
この酒虫は・・・早苗さんの奇跡的な作用で奇跡的に大酒飲みにする酒虫だった、ということにしましょう
14.703削除
文章は特に問題無いのですが、描写がやや足りないかもしれません。
今のままだと事実を並べただけ、のように少し見えてしまうかも。