Coolier - 新生・東方創想話

長くない道

2012/12/30 15:06:54
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「ほら、起きなさい」
「ふぇ?」
 
 強すぎない日差し。
 雲は時折太陽を包み込み。
 少しばかりの風も手伝って、殆ど肌に暑さ寒さを感じないような、そんな天気。

「あなたはもう、わざとやってるとしか思えないわ」
「え、い、いやーそんなことはありませんよ!」
「じゃあ、やっぱりあなたの気が緩みすぎってだけね」
「はは……」

 咲夜がその手のナイフを、隠そうとすらしていないことを美鈴はとっくに気付いているので、それ以上の言い訳は胸にしまうことにした。

「……ねぇ美鈴」
「はい?」
「あなた、頑丈だけが取り柄なんだっけ」
「えぇ! こればっかりは、咲夜さんにも負けませんよ!」
「――そ」
「突然どうしたんです?」
 
 俯く咲夜の顔を、美鈴は背中を曲げて覗きこむ。
 咲夜は、つれなくぷいと顔を逸らした。

「別に。まぁとりあえず、仕事は真面目にやりなさいよ。仕事をサボる人間は嘘吐きと一緒なんだから」
「はい……あ、ねぇ咲夜さん」
「何よ」
「咲夜さんは、嘘を吐いた者について、どう思います?」

 笑顔で美鈴はそう訊いた。
 咲夜は、豆鉄砲を食らったかのような顔を美鈴に見せた。

「はぁ?」
「……あれ、いやなんか、気になって」
「まぁ、いいけど――そうね、嘘にもよるとは思うわ」
「でしょうねぇ」
「とりあえずは……おしおき、かしらね」

 ふっと肩を竦めて咲夜は答える。

「おしおき、ですか」
「えぇ。例えば仕事をサボるあなたにこのナイフを……」
「あいや、それはご勘弁くださいよ」
「はいはい、質問に答えたんだから、さっさと仕事に戻りなさい」
「……了解です」

 じゅっと、美鈴の手の平に何かが当たった気がした。
 咲夜かと思ったが、彼女はもう館の方へ向かっていて、時を止めたのでなければ美鈴に触れられはしないだろう。
 しかし美鈴は、その何かの正体が、どうしてか咲夜のものであると思った。
 それを疑うことも、他の可能性を考えることも、美鈴はしなかった。
 美鈴は、その何かが当たった場所に、そっと唇で触れてみる。
 満たされたような気がした。



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