「ほら、起きなさい」
「ふぇ?」
強すぎない日差し。
雲は時折太陽を包み込み。
少しばかりの風も手伝って、殆ど肌に暑さ寒さを感じないような、そんな天気。
「あなたはもう、わざとやってるとしか思えないわ」
「え、い、いやーそんなことはありませんよ!」
「じゃあ、やっぱりあなたの気が緩みすぎってだけね」
「はは……」
咲夜がその手のナイフを、隠そうとすらしていないことを美鈴はとっくに気付いているので、それ以上の言い訳は胸にしまうことにした。
「……ねぇ美鈴」
「はい?」
「あなた、頑丈だけが取り柄なんだっけ」
「えぇ! こればっかりは、咲夜さんにも負けませんよ!」
「――そ」
「突然どうしたんです?」
俯く咲夜の顔を、美鈴は背中を曲げて覗きこむ。
咲夜は、つれなくぷいと顔を逸らした。
「別に。まぁとりあえず、仕事は真面目にやりなさいよ。仕事をサボる人間は嘘吐きと一緒なんだから」
「はい……あ、ねぇ咲夜さん」
「何よ」
「咲夜さんは、嘘を吐いた者について、どう思います?」
笑顔で美鈴はそう訊いた。
咲夜は、豆鉄砲を食らったかのような顔を美鈴に見せた。
「はぁ?」
「……あれ、いやなんか、気になって」
「まぁ、いいけど――そうね、嘘にもよるとは思うわ」
「でしょうねぇ」
「とりあえずは……おしおき、かしらね」
ふっと肩を竦めて咲夜は答える。
「おしおき、ですか」
「えぇ。例えば仕事をサボるあなたにこのナイフを……」
「あいや、それはご勘弁くださいよ」
「はいはい、質問に答えたんだから、さっさと仕事に戻りなさい」
「……了解です」
じゅっと、美鈴の手の平に何かが当たった気がした。
咲夜かと思ったが、彼女はもう館の方へ向かっていて、時を止めたのでなければ美鈴に触れられはしないだろう。
しかし美鈴は、その何かの正体が、どうしてか咲夜のものであると思った。
それを疑うことも、他の可能性を考えることも、美鈴はしなかった。
美鈴は、その何かが当たった場所に、そっと唇で触れてみる。
満たされたような気がした。