「年の瀬だね、お姉さま」
「そうね、フラン」
「だからさ、お年玉頂戴」
「そこはお正月まで待ちなさいよ」
えー。
えーじゃありません。
レミリアと対面のソファーに座るフランは、不満そうに頬杖をついて言う。
「あと2時間もしないうちに来年だよ? だったら今もらってもいいじゃん」
「駄目よ、こういうのはタイミングが大事なんだから」
「タイミングって?」
「今あげたら、お年玉じゃなくてお小遣いになるでしょう? そしたら、フランは『お小遣いは貰ったけどお年玉は貰ってない』って言うでしょ」
「まっさかー。私はそんなことしないよ」
あはは、と無邪気に笑うフラン。
ちょっと考えすぎだったかな、とレミリアが思ったのも束の間、
「私だったら『いいから出せ。答えは、はいかYESだ』って言うもの」
「外道だー」
「だから、お姉さま……ねっ?」
「そんな事言った後に潤んだ上目づかいされても、脅迫されてるようにしか思えないんだけど」
「駄目?」
「だ、駄目絶対……このレミリアに甘えは通じないわ」
「そう……」
フランは悲しそうに言うと、しゅんと顔を俯かせる。そして、その姿にシスコげふんげふん妹思いであるレミリアが心動かされないはずはない。
どうするのよションボリしちゃったじゃないいやしかし妹を甘やかすのは如何なものかだがそれがいい――僅か0.2秒で繰り広げられる脳内会議。
その結論は、
「ま、まぁね? 今はあげれないけど、ちょっとくらいお年玉の額を増やすくらいなら構わないわよ?」
「本当! お姉さまって優しいね!」
「そ、そりゃあ私はお姉さんだし? 偉大な吸血鬼だし? このくらいは当然っていうか、出来て当たり前みたいな?」
「かっこいい! さすが私のお姉さま!」
「うへへ……そんなに褒めないでよ、まったく調子いいんだから」
口とは裏腹に、レミリアの顔は盛大に緩みまくっていた。でへでへという擬音が聞こえそうなくらいに。
そして、財布の紐もこの時期になると緩むこと、年々フランのお年玉の額が増えていることには本人は気がついていない。
世の中知らなくてもいいことがあるんだよね、とはフランの弁である。
「ねえ、お姉さま。今年が終わるまで私と遊んでよ。年の瀬はお姉さまと過ごしたいの」
追撃の無邪気なお願いで、深慮させる時間を奪う高等技術。この妹、策士であった。
それにレミリアが気がつくわけもなく、
「勿論いいわよ。可愛い妹の頼みだもの」
「ありがとうお姉さま。嬉しいわ」
『妹の我儘にも涼しい顔で付き合う私かっこいい!』な空気を漂わせた足組みポーズで応える。
格好いいときは格好いいが、基本的に残念なのがレミリアという吸血鬼であった。
「それで? 何して遊ぶのかしら? チェス、ビリヤード、ダーツ?」
「う~ん……棒倒し!」
「いや、大晦日にやることじゃないから。気が滅入るわ」
何が悲しくて、大晦日の夜に棒を倒さず砂をかき分けることに神経を使わねばならないのか。
じゃあ、とフラン。
「ダイ大ごっこはどう?」
「チョイスが渋いわねフラン。別にいいけど」
「それじゃあ、私がバランやるから、お姉さまはクロコダインね」
「いやそれはおかしい」
ねえ、この槍見てよ。もっと適任のキャラクターいるでしょ? ブラッディスクライド使う人とかいるじゃん。なんでワニのオッサン役を割り振られるの。
レミリアがグングニルを持って細やかな抗議をするも、フランは鮮やかにスルーし、レーヴァテインを振りかざす。
「喰らえ! ギガブレイク!」
「ぐわああああああ!」
振りぬかれたレーヴァテインの剣圧により、ソファーは切り裂かれシーツは舞い上がり、吹き飛んだレミリアは壁にたたきつけられる。
ここ私の部屋なんだけど、という抗議よりも先に、自らのキャラクターを演じるレミリアの姿はまさしく芸人ゴホンゴホン偉大な姉であった。
「ク、クロコダイーン!」
「いや、あなたはどっから湧いた」
「やはり必要かと思いまして」
音もなく現れた咲夜は、失礼しました、と一礼し部屋から立ち去る。
瀟洒なメイドはサブカルチャーの守備範囲も広いのである。
「お姉さま大丈夫ー?」
「大丈夫よ。これくらいなんとも無いわ」
派手に吹き飛んだレミリアを心配するフラン。レミリアは、ふふん、と余裕の笑みを浮かべ応えた。
やっべよー今のかなり本気だったんじゃん『遊び』の意味わかってるよね? わかっててよマジで、と内心冷や汗が川を作っていたが、それはおくびにも出さない。
それに気がついているのかいないのか、フランは良かった、と安心したように笑う。それにつられてレミリアも笑う。
そうだ、妹の笑顔が見れたんだからいいじゃないか。この程度の事ならいくらでもやってやろう。妹のためならなんだって――
「そう? じゃあ、今度はギガブレイクを2回連続で耐えるシーンを」
「ごめんなさい勘弁して下さい」
命は惜しいですすいません。まだ死にたくないです、はい。
平謝りするレミリアに、フランは不満気な声を漏らす。
「えー、なんでさー」
「いや、普通大体の命あるものはそう思ってると思うけど。それに、フランを一人ぼっちにするわけにはいかないわ」
「えっ?」
不意に自分の名前が出てきたことに驚き、きょとんとするフラン。
その反応に、何かおかしなことを言ったかしら、と不思議に思いつつもレミリアは続ける。
「私はフランがいなくなるのは嫌だからさ、フランも同じかなって。だから、今死ぬのは嫌よ」
裏の意味も思惑もない、額面通りの純粋な気持ち。妹を守りたい、笑っていて欲しい、共に時間を過ごしたい。
それ故に、鐘のようにフランの心によく響きわたる。
「んー、『同じだったらいいな』ってとこか。姉妹なんだし、つまらない理由で離れ離れなんて面白くないわ」
フランは違う?
飾り気のないレミリアの問に、フランは何も言わず頬をかく。
そして、壊れたソファーを飛び越えレミリアの隣にしゃがみこんだ。
「フラン?」
「やっぱりお姉さまは格好いいね」
「え、な、なによ急に?」
「別に? そう思っただけだよ」
「そうなの?」
「そうだよっ」
フランは楽しそうに笑って、レミリアの手を取る。
急にご機嫌になった妹に戸惑いながらも、レミリアも手を握り返す。
「お姉さま」
「なに?」
「来年もよろしくね」
「……ええ、よろしく。フラン」
離れ離れにならないように、新年もあなたと過ごせますように。
そう願いを込めて二人は見つめ合い微笑んだ。
「そうね、フラン」
「だからさ、お年玉頂戴」
「そこはお正月まで待ちなさいよ」
えー。
えーじゃありません。
レミリアと対面のソファーに座るフランは、不満そうに頬杖をついて言う。
「あと2時間もしないうちに来年だよ? だったら今もらってもいいじゃん」
「駄目よ、こういうのはタイミングが大事なんだから」
「タイミングって?」
「今あげたら、お年玉じゃなくてお小遣いになるでしょう? そしたら、フランは『お小遣いは貰ったけどお年玉は貰ってない』って言うでしょ」
「まっさかー。私はそんなことしないよ」
あはは、と無邪気に笑うフラン。
ちょっと考えすぎだったかな、とレミリアが思ったのも束の間、
「私だったら『いいから出せ。答えは、はいかYESだ』って言うもの」
「外道だー」
「だから、お姉さま……ねっ?」
「そんな事言った後に潤んだ上目づかいされても、脅迫されてるようにしか思えないんだけど」
「駄目?」
「だ、駄目絶対……このレミリアに甘えは通じないわ」
「そう……」
フランは悲しそうに言うと、しゅんと顔を俯かせる。そして、その姿にシスコげふんげふん妹思いであるレミリアが心動かされないはずはない。
どうするのよションボリしちゃったじゃないいやしかし妹を甘やかすのは如何なものかだがそれがいい――僅か0.2秒で繰り広げられる脳内会議。
その結論は、
「ま、まぁね? 今はあげれないけど、ちょっとくらいお年玉の額を増やすくらいなら構わないわよ?」
「本当! お姉さまって優しいね!」
「そ、そりゃあ私はお姉さんだし? 偉大な吸血鬼だし? このくらいは当然っていうか、出来て当たり前みたいな?」
「かっこいい! さすが私のお姉さま!」
「うへへ……そんなに褒めないでよ、まったく調子いいんだから」
口とは裏腹に、レミリアの顔は盛大に緩みまくっていた。でへでへという擬音が聞こえそうなくらいに。
そして、財布の紐もこの時期になると緩むこと、年々フランのお年玉の額が増えていることには本人は気がついていない。
世の中知らなくてもいいことがあるんだよね、とはフランの弁である。
「ねえ、お姉さま。今年が終わるまで私と遊んでよ。年の瀬はお姉さまと過ごしたいの」
追撃の無邪気なお願いで、深慮させる時間を奪う高等技術。この妹、策士であった。
それにレミリアが気がつくわけもなく、
「勿論いいわよ。可愛い妹の頼みだもの」
「ありがとうお姉さま。嬉しいわ」
『妹の我儘にも涼しい顔で付き合う私かっこいい!』な空気を漂わせた足組みポーズで応える。
格好いいときは格好いいが、基本的に残念なのがレミリアという吸血鬼であった。
「それで? 何して遊ぶのかしら? チェス、ビリヤード、ダーツ?」
「う~ん……棒倒し!」
「いや、大晦日にやることじゃないから。気が滅入るわ」
何が悲しくて、大晦日の夜に棒を倒さず砂をかき分けることに神経を使わねばならないのか。
じゃあ、とフラン。
「ダイ大ごっこはどう?」
「チョイスが渋いわねフラン。別にいいけど」
「それじゃあ、私がバランやるから、お姉さまはクロコダインね」
「いやそれはおかしい」
ねえ、この槍見てよ。もっと適任のキャラクターいるでしょ? ブラッディスクライド使う人とかいるじゃん。なんでワニのオッサン役を割り振られるの。
レミリアがグングニルを持って細やかな抗議をするも、フランは鮮やかにスルーし、レーヴァテインを振りかざす。
「喰らえ! ギガブレイク!」
「ぐわああああああ!」
振りぬかれたレーヴァテインの剣圧により、ソファーは切り裂かれシーツは舞い上がり、吹き飛んだレミリアは壁にたたきつけられる。
ここ私の部屋なんだけど、という抗議よりも先に、自らのキャラクターを演じるレミリアの姿はまさしく芸人ゴホンゴホン偉大な姉であった。
「ク、クロコダイーン!」
「いや、あなたはどっから湧いた」
「やはり必要かと思いまして」
音もなく現れた咲夜は、失礼しました、と一礼し部屋から立ち去る。
瀟洒なメイドはサブカルチャーの守備範囲も広いのである。
「お姉さま大丈夫ー?」
「大丈夫よ。これくらいなんとも無いわ」
派手に吹き飛んだレミリアを心配するフラン。レミリアは、ふふん、と余裕の笑みを浮かべ応えた。
やっべよー今のかなり本気だったんじゃん『遊び』の意味わかってるよね? わかっててよマジで、と内心冷や汗が川を作っていたが、それはおくびにも出さない。
それに気がついているのかいないのか、フランは良かった、と安心したように笑う。それにつられてレミリアも笑う。
そうだ、妹の笑顔が見れたんだからいいじゃないか。この程度の事ならいくらでもやってやろう。妹のためならなんだって――
「そう? じゃあ、今度はギガブレイクを2回連続で耐えるシーンを」
「ごめんなさい勘弁して下さい」
命は惜しいですすいません。まだ死にたくないです、はい。
平謝りするレミリアに、フランは不満気な声を漏らす。
「えー、なんでさー」
「いや、普通大体の命あるものはそう思ってると思うけど。それに、フランを一人ぼっちにするわけにはいかないわ」
「えっ?」
不意に自分の名前が出てきたことに驚き、きょとんとするフラン。
その反応に、何かおかしなことを言ったかしら、と不思議に思いつつもレミリアは続ける。
「私はフランがいなくなるのは嫌だからさ、フランも同じかなって。だから、今死ぬのは嫌よ」
裏の意味も思惑もない、額面通りの純粋な気持ち。妹を守りたい、笑っていて欲しい、共に時間を過ごしたい。
それ故に、鐘のようにフランの心によく響きわたる。
「んー、『同じだったらいいな』ってとこか。姉妹なんだし、つまらない理由で離れ離れなんて面白くないわ」
フランは違う?
飾り気のないレミリアの問に、フランは何も言わず頬をかく。
そして、壊れたソファーを飛び越えレミリアの隣にしゃがみこんだ。
「フラン?」
「やっぱりお姉さまは格好いいね」
「え、な、なによ急に?」
「別に? そう思っただけだよ」
「そうなの?」
「そうだよっ」
フランは楽しそうに笑って、レミリアの手を取る。
急にご機嫌になった妹に戸惑いながらも、レミリアも手を握り返す。
「お姉さま」
「なに?」
「来年もよろしくね」
「……ええ、よろしく。フラン」
離れ離れにならないように、新年もあなたと過ごせますように。
そう願いを込めて二人は見つめ合い微笑んだ。
パ「大魔導士というより賢者かしら。場面的に」
小「」
タイトル通り残念格好良くて面白かったです
音もなく現れた咲夜さん分かってますね。