Coolier - 新生・東方創想話

キノコ屋台と魔理沙の秋

2012/12/23 14:02:57
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 秋の夜は柔らかい風が吹く。
 空に浮かぶのは魔女が腰掛けているような三日月。
 その月を見上げながら、僕は夜の散歩をしていた。
 不完全で仄かな光だけが、僕を照らしていた。

  ◇

 いつからだろう、夜中の散歩が僕の新しい日課になったのは。
 店を訪れた誰かに、慢性的な運動不足を指摘された時だろうか。あるいは御阿礼の子でさえも、取材であちらこちらへ出向くのだと知った時? 無縁塚への仕入れ行脚……もとい彼岸供養のついでに足を延ばすことにした時かもしれないし、ただ理由もなくぼんやりと歩きたくなった時かもしれない。あるいはあまりに昔のことで忘れてしまったのか。どれもが正しく、そして間違っているように思えた。茫漠とした記憶を辿ってみても、それ以上の答えは用意できそうにない。
 ここはどこだろう。僕の目の前には、月の光を受けなお白い、ススキの野原が広がっている。昔から変わらない秋の原風景、食べられないほうの七草の一。薄、あるいは芒と言う字が宛てられるこの植物は、字義の通りに広く敷きつめられ、その穂先をかすかに揺らしていた。そして景色の右手、やや遠くには巨大な影が聳え立っている。影の高さは比類なく、影の広さは限りなく、歩けば歩くほどその大きさは増していく。そんな巨大な影の正体は山以外にはあり得ない。森、と言えば魔法の森を指すように、幻想郷で山、と言えば妖怪の山である。山一面の鮮やかな紅葉はそろそろ見頃を迎えるはずだけれど、今は夜の帳が全てを黒く塗りつぶし、その彩りを覆い隠していた。昔の歌人が詠んで曰く、『見る人もなくてちりぬるおく山の紅葉はよるのにしきなりけり』。天狗たちは、今夜楓を見上げるだろうか?
 月はようやく天辺を過ぎるかどうかである。満月の二割しかない不完全な月。それが僕の頭上、つまり山よりは確実に左側に浮かんでいる。そのことから考えるに、今僕がいるのは魔法の森の奥、無縁塚よりは妖怪の山に近いあたりだろう。しかしなぜ僕はそんな所をうろついているのか、それがどうも判然としない。明確にどこへ行こうと思っていたわけではないはずだ。はじめのうちは魔法の森をただぶらりと、考え事をしながら歩いていたように思う。考え事。僕がいつも考えていること。取り留めのないこと、自分の中では整理がついていること、謎のまま放置できなかった疑問のこと……例えば先ほどまで僕は、以前無縁塚で拾った奇怪な服について新しい仮説を考えていた。
 実に奇妙な服だった。製作者のセンスを疑う全身銀の配色に、ひとりで着脱するには難のあるデザイン。密閉された構造で全身を覆うことから、能力を使うまでは遭難時の寝袋だろうと思っていたのだが、僕の眼はその用途を『生命維持及び遊泳』と見出した。しかし生命維持と言う割には密閉されていて呼吸が長続きしない。顔の部分だけ別の透明な素材で出来ている理由は、遊泳ということで納得できるのだが……そこで僕は考えた。これは新手の水着なのだと。息継ぎができないかわりに、一定時間の呼吸が安全であることを保障してくれる。これを着れば深い所へ潜っての活動も可能になるだろう。外の人間が未知の領域に挑むために発明した新装備ではないだろうか? ちなみに名を『宇宙服』と言う。水底を宇宙に見立てた粋な命名だと僕は感心してしまった。あいにく幻想郷の川底には河童しかいないけれど、霧の湖の底には聖剣くらい眠っているかもしれない。だけどこの服、どこかで見たことがあったような……新聞の写真だったかな?
木々の間を歩きながら、そういった考え事が浮かんでは消えまた浮かび、そしてすべて消えた時にはこの場所にたどり着いていた。今日はずいぶんと暖かい夜だ。冬にはまだまだ遠いこの季節、森の奥といえば再思の道の彼岸花が真っ先に思い浮かぶ。しかしここから見える景色には、その紅は見当たらない。代わりにあるものと言えば、月と、星と、大きな影と――
  風が吹くたび、僕の目の前でススキがざあと波打った。

 帰り道はわからなかった。幸い漠然とした景色の変化だけは、朧気ながら記憶に残っていた。深い森、月光と木々が生み出す光陰、闇夜に呑まれそうな彼岸花の紅。つまり歩いているうちに魔法の森を抜け、再思の道を脇目にどこかへ進んでしまった、ということになるだろうか。考え事に熱中していたため、どこをどう通ってきたかはさっぱり覚えていなかった。よく木に頭をぶつけなかったものだ。……少なくとも僕にはぶつけた記憶がないが、例えばショックで短期の記憶喪失になっているなんてこともあり得る。なぜなら、僕が記憶喪失ではないということは証明できないからだ。
 つまりは記憶喪失のパラドックス。『僕が頭をぶつけ記憶喪失になった』とこの場で証明するためには、『頭をぶつけた』という記憶か、さもなくばたんこぶなどの物証、第三者の目撃証言のいずれかが必要である。そして僕には頭痛もたんこぶもなく、目撃者も(少なくともこの場には)いない。つまり記憶だけが頼りで、僕にはその記憶がない。するとどうなるか。『頭をぶつけていない』『頭をぶつけ記憶喪失になった』、どちらでも説明は付くがどちらとも確定できない。確たる証拠がない以上、QEDはお預けである。そして証明が不可能な以上、僕は自分の名誉のためにもぶつけていないという結論を選ぶ。
 しかし……僕はふと思う。散歩と言いつつ、これはもしかすると迷子に近いのではないだろうか。いい歳した大人が迷子と言うのも変な話だが、幻想郷の奥地は基本的に危険区域である。縁起にもそう書いてある。危険度は総じて"高”。そんなところで迷うことは、人間であれば死を意味するわけで――つまりは遭難、それとも失踪? 縁起でもない。
 もちろん、僕は失踪なんてことにはならない。月の位置を頼りに、ススキに背を向け歩いていけば、そのうち彼岸花を見つけることができるだろう。花の密度が濃い場所を目指せば、いずれは再思の道に出るはずだ。そこまで戻れればこちらのものである。予想外の遠出になってしまったのだから、引き返すのは早いに越したことはない。だけれどそこまでわかっていながら、なぜ僕はここに立ち尽くしているのだろう?
 危険でないから。半分正解だ。僕は妖怪に襲われにくい。ハーフの肉はまずい、のだろうか。それなりに長く生きている方だが、身の危険を感じたことは数えるくらいしかない。妖怪は人間を襲い、人間は妖怪を退治する。襲えば妖怪で、襲われれば人間で、だけど襲われないからと言って妖怪とは限らない。僕は人間を襲わないし、妖怪を退治もしない。人間でも妖怪でもなく――退治もされない僕の立場は、だから元々気楽なものだ。どことも敵対しないから顔見知りは増えていく。そのくせ常連客が増えないのはおかしいと思うのだが、増えて店内が騒がしくなるのも煩わしい。閑話休題。危険でないと言うだけでは、立ち止まっている理由にはならない。なぜ僕は立ち止まっているのか? 残りの半分は、つまりこういうことになる。
 見上げれば、雲ひとつない夜空を満天の星と三日月が彩っていた。野原一面に広がったススキは風に揺れ、三日月の光に揺れ、白い海原のようにざわめいていた。こんな夜空は滅多に見られないだろう。こんな景色を見る機会だって、そうはあるまい。
 僕はしばらくの間、そうして風の作り出す波を眺めていた。――折角だし、もう少しだけここに居ようか。そんな事を考えながら。


 黒い一本の影が海原を流れていく。風に靡くススキの海原。月明りに照らされて初めて、そこに波があるのだと僕は知ることができる。影は風に乗って走る。一方向に、なだらかに、海面に沿って進む。ざあ。波は音とともにある。音は続く。海原を飛ぶ。風だけでも、ススキだけでもなく、その両方があるからこそ波ができ、音が生まれる。どこまでもどこまでも広がっている白い海原を自在に駆け、聖者によって海が割れるように途切れ、再びざあと波が生まれ――途切れるだって?
 違和感の萌芽。僕は思わず、波の辿り着いた場所を見た。波とは別種の黒い線が、白をふたつに分けている。影を呑み込んだ滝壺は、自然には決して生じないだろう裂け目である。
 訝しがって近付くと、それが道であるとはっきり分かった。やもすれば見落としかねない、ちょうど大人がひとり通れるくらいの空間が、奥へと細く長く続いている。獣道だろうか。それにしては幅が整いすぎている。ススキをかき分け出来た道ではなさそうだ。まるで絶え間なく人が行き来しているような印象を受ける。こんな奥地なのに……
 どこへ続く道だろう。奇妙なことに、道がその形を成しているのは入り口からで、それより手前には何一つ不自然な点がないのだ。つまりは人工の道ということになるが、こんな辺鄙な場所にわざわざ人が住むとも思えない。とすれば妖怪の仕業か。しかし、化かすにしては随分と適当なやり方だ。不自然な現象は見た者を警戒させるし、誘い込むのならもっとうまい方法は幾らでもある。可能性としては、それを気にしない程に実力のある妖怪か、さもなくば気にできないくらい頭が回らない妖怪か。そのどちらとも、出会いたくない類の厄介な脅威だ。前者は何をされるか分かったものではないし、後者は何をしだすか分からない。
 僕はここで引き返すべきだ。少なくとも僕の半分はそう思っている。危険な場所でさらに奥を目指すなんて正気の沙汰ではない、と。だけれどもう半分は、見てみるべきだと告げている。この奥に何が潜んでいるのか、秘匿されているのか、それとも何もありはしないのか、確かめるべきだと。……僕の理性は退けと言っている。そして僕の本能は、理屈でなく進めと言っている。
 僕はもう一度道を見る。草ひとつ生えていない整然とした道だ。草ひとつ、とは比喩表現ではなく事実である。道の外、僕の足元には名も無き草が茂っている。あるいは。脳裏にもう一つの仮説が浮かぶ。あるいは、この不自然さは――神聖なものだろうか。神は穢れを嫌う。こんな辺境にも神が祀られているのだとすれば、例えば秋の神であるとか野分の神であるとか、そういった社が奥にあるのならば、この不自然な……不自然に清潔な道は、参道の類になるのかもしれない。
 しかしいずれにせよ、これは人ならざるものの仕業だろう。神か妖か。そこに大した違いはない。どちらも僕にはなす術がないからだ。今の僕が提供できるものと言えば、推定美味しくない肉と、眼鏡と小銭くらいである。眼鏡は確かに珍しいものだが……無縁塚へ行けばある程度拾えるので、いざとなったら差し出すことにしよう。外の世界の人間は眼鏡を使わなくなったのだろうか。代用品が普及したのか、それとも視力の回復方法が確立されたのか……なんにしろ、こんな便利な物を手放すなんて勿体ない。
 この道の奥に何があるのか。僕の立てたふたつの仮説は、記憶喪失の逆説に似ている。確たる証拠がないのなら、好きな方を選べばいい。どちらを選んでも同じなら、あとは進むか戻るかである。不確定な答えは観測されることで確定する。観測されなければ、永遠に続く推測が残るだけなのだ。それはちょっと、精神衛生上よろしくない。
 そして僕は決心する。行ってみよう。この道の行先を見届けよう、と。

  ◇

 足を踏み入れると、僅かに空気が変わった気がした。いや、変わったのだ。風の通り方がこれまでと違うのだろう。一度だけ振り返る。森の端と思わしき木々と、僅かに遠く彼岸花の紅が見えた。なんだ、と僕は思う。帰り道は意外と近くにあったのか。だけれど僕は前を向き、道をたどって歩き出す。ススキの揺らぐ音を間近で聴きながら、僕は一本道を行く。
 草ひとつ無い地面を踏みしめる。意外なことに、足元はよく見えた。夜空に浮かんだ不完全な月が、それでも充分な量の光を降らせてくれたからだ。月明りだけを頼りに歩くのは酷く妖怪的な気分だった。人間的な気分だとどうなるか? 明かりの生み出す昏さに怯えるのがそれらしいかもしれない。恐れる心を持つことが、幻想郷の人間であるための必要条件だ。あらゆるものを恐れなくなった人間なんて、妖怪となんら変わらない。
 幾度かなだらかに道は曲がり、左へ右へと蛇行した。一定の方角を目指しているようではあったが、歩いているうちに本当に進んでいるのか疑わしくなる。このまま大きく曲がって行き止まりだったら嫌だなあと時々考え、行き止まりに何もなかったら帰りが辛いなと憂鬱になり、少しだけ心配になり……

 しかし、歩けば歩くほど、僕は道の奥に行かなくてはならないと強く感じるのだ。待ち合わせに遅れる時のような焦燥感。自然と足早になりながら、僕は戸惑っていた。
 ただ進みたかった。なぜかも分からないまま進みたかった。どうしてもこの奥へ行かなくては。そんな理屈の通じない義務感に、僕は仮初の理由をつける。僕はなぜ歩いているのか。奥へ進むためだ。この道の向こうに何があるのかを確かめるためだ。――本当に? 歩く、歩く、月が僕の行く先に影を作る。月の沈みゆく方角に背を向けて、延々と続く影踏みをしている。僕は衝動に本能という名前を付ける。理解できないものに仮の呼び名を与えて、それ以上気にしないために。だけど気にしないということは決して、理解する努力を諦めることではない。僕は考える。この奥に何が待っているのか。力ある妖怪が僕を誘い込んでいるのか、無縁仏が供養を待っているのか、神様に貴重な参拝客として呼ばれているのか。いずれにせよ僕は歩く。どんな問いであっても、その答えは道の奥にしかない。
 そうしてどれくらい歩いただろう。ふと前方に、僕は懐かしい光を見た。

 その光は薄橙色をしていた。月光ではない。儚く、淡く、けれどもどこか生命を感じさせる色だ。一つではない。一定の間隔で、無数に連なっている。緩やかな風が吹くたび、それはゆらゆらと揺れていた。鬼火? いや、そういうものではない。もっと優しくて暖かい色をしている。僕はそいつを、どこかで見た気がした。竹林で、人里で、神社で、寺で、そのどこでもないどこかで、どこであっても変わらない懐かしい光を。
 遠くで揺れる発光体に目を奪われながら、さらに歩いた。確かなのは、それが人工の灯りだということだ。月や太陽の光と違い、人工の灯りは誰かのために灯され、そして人を誘う。人を迎えるため、送るため、目印のため、本を読むため、様々な用途で灯りは生まれる。遠くで揺れる光は、何のために生まれたのだろうか。誰のために揺れているのか。その答えも道の奥にある。僕は光を目指し歩き続けて――そして再び空気が変わった。
 思わず立ち止まる。背後から、ざあ、と音がする。その音は僕の真後ろまで来て止まった。それで分かった。道の終わりに着いたのだ。

  ◇

 ススキの海原を抜けた先にあったのは、立ち並ぶ木々である。それだけ見れば、この道の入口から見た景色と大差ない。――しかし、それは嘘だ。茂る木々の向こうで揺れる、先程から僕の目を奪って離さない光と、振り返っても見当たらない彼岸花。その二点が、この場所は元居た場所ではないと示している。
 一瞬だけ、帰るべきかと考えた。だけれどここで帰ったなら、僕はしばらくの間この謎を弄んだ挙句に、答えを出せず釈然としない時間を過ごすだろう。確かめるなら、せめてそれが何かを見極めなければいけない。それに僕の本能は、未だ進むことを止めるべきではないと告げている。僕はなおも光を目指す。
 近付くにつれ、驚いたことに賑やかな喧噪が耳に届いた。決して少なくない人数がそこにいて、何かをしているのだ。夜盗や山賊――森だと森賊になるのだろうか――の類であれば厄介だが、荒々しさや剣呑さはない。それどころか懐かしさすら感じる。さんざめく音を頼りにさらに進む。木々の向こうに出れば、僕にも次第に全体像が見えてきた。見えてきたからこそ、僕は唖然として立ちすくむ。
 こんな馬鹿げた話があってたまるか。

 僕の目が幻覚や錯覚や蜃気楼を見ているのでなければ、ぼんやりとした灯りの正体は、軒に連なった提灯だ。そしてその下にはたくさんの人影が見える。
 そう、人影である。いよいよ間近まで来てみれば、鮮明に見分けも聞き分けもつく。行き交う人妖、晴れ着姿の幼子たち、じゅうじゅうとまるで焼きそばを作っているような音と匂い、飛び交うりんごあめいかがっすかー、わたあめ安いよー、との呼び込みの声、水ヨーヨーはべしゃんこべしゃんこと子供の手の中で音を立てているし金魚は小さな袋の中を心地よさそうに泳いでいる。妖怪にでも化かされているのだろうか、と訝しく思う。いや、化かされているに違いない。こんな幻想郷の奥地に、どうして人が集まる? こんな夜更けに人知れず、これだけの人数をどうやって集める? 
 恐らく僕は物凄く間抜けな顔をしていただろう。僕の半分は予想外の光景に爆笑し、残りは呆然としていた。脳裏をぐるぐる回っていた考えはやがてそれなりの時間をかけて一つに収束していく。僕の理性はしたり顔でこう言った。
 あれではまるで――いや、まるでどころか、まさに――祭りじゃないか。
 そんな馬鹿な。まとまったはずの結論は、その答えでもって僕の考えを打ち砕く。現実味のない光景が、現実味を持って目の前に展開している。冗談のような、文字通りのお祭り騒ぎ。夢の中にいるような、浮ついた雰囲気。だけれどなぜだろう、その喧騒はとても懐かしい気持ちを僕に思い出させた。久しく、祭りと名のつくものには顔を出していなかった。元々静かな場所が好きというのもあるのだけれど、誘われたところでどうにも気が乗らなかった。最後に行ったのはいつだったろうか。もしかすると、店を構える前の話かもしれない。もう忘却の向こうの記憶だ。
 行くべきか行かざるべきか。少しの間真面目に考え込もうとして、なんだか何もかもが馬鹿らしくなった。目の前の光景の非常識さと、考えたくない帰りの労力と、不思議とあふれ出る懐かしさとで、力が抜けたとも言う。たまにはいいのかもしれない。化かされていると承知で踊るのだって。
 僕は苦笑しつつ、その苦笑が誰に向けたものなのか分からないまま、足を速めて喧噪の元へ向かった。

  ◇
  
 思わず力ない笑みが漏れるほど、沢山の屋台がそこには並んでいた。立案者の顔を見てみたい。こんな寂びれた郷の奥に、これほど盛大な屋台通りを作ろうと考えたのは誰なのだろうか。冗談としては素晴らしいけれど。
出店で遊ぶということからは遠ざかって久しい。しかしどこへ行っても、時代を隔てても、そう大きくは変わらないのだと実感する。つまり定番の、射的、くじ、掬い、型抜き、掴み取り、お面。食品群も見慣れたものだ。定番のりんごあめや焼きそば、たこ焼きにわたあめなどなど。特に何かを買おうという気はないのだけれど、周りの活気に押されてつい自分もと思ってしまうのは祭りの魔法に違いない。
 魔法――そういえばこの祭りは、何を祀っているのだろうか。僕の予想は今のところ半分当たっていることになる。祭りというものは、基本的には神様のために開かれる。一口に神様と言っても千差万別である。四季折々の自然、荒ぶる雷や嵐、そのほかありとあらゆる不可思議なことを引き起こすのが神様だけれど、それぞれ取り扱える現象は限られている。豊穣の神に治水を祈っても効果は薄い、と言えば分かりやすいだろうか。まあ、農作物に関する所だけ水が避けていくなんてことはあるかもしれないけれど……。
この道の奥に、僕が想像した通りならば神様がいる。それから、本当の意味での『まつり』が、そこで行われているはずだ。祈ること。扱いを誤れば害すら及ぼす魂が、荒ぶることなく和いでほしいと願うこと。それを称して『祀り』と言う。では『祭り』は? ――祭りは、慰霊なのだ。慰めること。悲しみを和らげること。その魂の平穏であることを騒がしさに託して、祭りはいっそう賑やかに過ぎていく。さて、この騒ぎは『祭り』か『祀り』か。神様のいない祀りはなく、魂のない祭りはない。もし僕が化かされているのだとしたら、そのあたりに綻びを見いだせるかもしれない。
 逆に、もし現実なのだとしたら……僕はすれ違う浴衣姿のなかに、知り合いでも居たりはしないだろうかと探してみる。見つかればそれで証明終了だ。不在証明より、存在証明のほうがよほど簡単である。しかし、その人物さえ化かされているだけだとしたら? 僕の知り合いを化かせる実力があるなら、僕が抵抗しても意味はない。その時は笑うほかないだろう。

 僕は人通りの多い通りから少し離れ、行き交う人々を眺める。客の種族は何でもありと言えそうだ。わずかに幽霊が多い気がするものの、妖怪、天狗、河童、人間、妖獣、妖精、その他諸々が入り乱れている。その誰もが、どこかで見たような、だけれど確実に出会ったことのない誰かなのだ。年齢層も幅広い。まあ妖怪の年齢なんてアテにはならないが。そして殆どの人々は楽しそうに屋台を練り歩いている。暫くの間そうして観察を続けたけれど、僕には知り合いどころか見覚えのある姿さえ見つけることができなかった。もしこの中に僕を化かしている黒幕がいるとすれば、そいつはよっぽど楽しいことが好きか、そうでなければ派手好きの阿呆に違いない。
 そのうち気が付いた。屋台の連なるままに、道の奥へと人々は進んでいき、あるいは帰ってくる。しかし、行った人数のうちある程度は、こちらに戻ってこないようだ。やはり奥では、本当のおまつり――『祀り』であるところの神事が行われているのだろうか。あるいはやはり化かされていて、奥へと誘い込まれているのか? ……それならそれでいい、と僕は思う。道はまだ続いている。奥に何があるのかを確かめるついでに、久々に祭りを楽しむというのも一興である。

  ◇

 祭りの中をひとりでぶらつくというのは、案外心地良いものだった。僕はもう子供ではない。だからこそ、ひとりでも気楽に祭りを楽しむことができる。
 誰も見知った顔のない人混みを歩く。幼い頃だったら、きっと心細さでいっぱいになっただろう。周囲がどうであろうとお構いなしに、寂しさと恐ろしさと孤独を初めて知ったような気持ちになったことだろう。迷子になったと気付いたなら、泣き出すこともあったかもしれない。実際どうだったかは覚えていない。
 けれど、僕はもうそんな歳ではない。大人なのだ。自分のことくらいは自分でわかるし、迷ったところで死ぬわけではないことも分かっている。孤独は思索の実を熟す。過ぎれば閻魔様に説教を喰らうのだとしても、適度な静謐を必要とする時は誰にだってある。そんな考え事の合間にも、活気ある呼び込みが四方から飛び交う。耳を傾けてしまえば、時には心惹かれたりもする。
 だけれど僕は、財布の紐は緩めないことにしていた。買い物をする際には、まず全体を見た後で良さそうな店に寄るのが昔からの僕のポリシーだ。そして財力溢れる大人になってもその癖は治らなかった。商売人気質なのかもしれないし、ただの貧乏性かもしれない。もっとも、財力が本当に溢れているかと言えば……臨時収入があった時くらいは、つまり商品が珍しく売れた時くらいは持っている。
 そんなわけで、どの店も最初は冷やかしである。冷やかしには作法がある。一番は他の客の邪魔にならないこと、これは買う気がないのだから当然守るべきだ。ふたつめは店員に話しかけないこと。向こうから話しかけてきたときは、適度に相手をして構わない。会話を打ち切る際、好ましいと思った店ならば、帰りに寄るよと心を込めて言うのが最後の作法だ。……幾つかの店をそうして冷やかして歩いた。残念ながら三番目を活用する機会には恵まれなかった。適当に相槌を打ち、店から離れる。目についた店にふらりと立ち寄る。随分と気ままなものだ。しばらくの間忘れていた感覚は、決して悪くないものだという気がした。

 波に流されるように歩きながら、僕は再び行き交う人々を観察する。この人混みの中に、恐らく僕を知っている人は誰もいないし、僕が知っている人も誰もいない。つまり僕はここにいるようでいて、その実ただの傍観者みたいなものだ。幻想郷での立場と同じ。例えるならば、赤の他人が主役の夢を見ているような気分である。それは、僕が作るのではない物語を特等席で眺めるような――舞台は既に出来上がっているし、行き交う人はみな、『祭りの中にいる自分』という物語を演じる役者たちだろう。誰の物語にも登場せず、だけれど全ての物語を垣間見ている僕は、さしずめ観客と言ったところか。誰も自分を知らず、興味を持っていないということが不安でなく安堵に変わる時、人は大人になるのかもしれない。それとも、それは退化なのだろうか? 答えの出ない問いを自分の内に抱えたまま、道の奥を目指し歩く。それだけは僕の物語だ。誰も知ることのないはずの。ましてこの場では、誰にも知られることのない――

 だから、その声が聞こえた時、僕は思わずぎくりと体を強ばらせたのだ。

  ◇

「キノコ屋台だぜ、今ならお買い得だぜ――そこの背の高い兄ちゃん一本どうだ!」
 道の左手からあがった、聞き覚えのある声に僕は暫し固まる。後ろを歩いていた女の子が、急に立ち止まった僕にぶつかり涙目で睨んできた。ちょっと罪悪感。それをひとまず愛想笑いで誤魔化し、改めて声のした方を見る。見慣れた金の髪が揺れていた。ばっちり目が合う。気まずい沈黙が流れたあと、僕を呼び止めた声の主は、引きつり笑いでこう言った。
「――香霖。こんなところで何してるんだ?」


 その声の主を、僕はよく知っていた。それこそ提灯の灯りと同じくらい昔から。聞き間違える訳もなく、僕をその名で呼ぶ人間なんて一人しかいない。
 参ったな、と思う。返事をしたなら、僕はその瞬間から当事者になってしまう。観客なんて言ってはいられないし、冷やかしなんてさせてくれないだろう。だけれど無視するわけにはいかない。これが現実だと言うのなら、化かされていたほうがましである。それともやはり夢の中なのだろうか。あまりに現実味がない祭りは、それでも説明を付けられなくはない。例えば今僕が見ている、いい気分に水を差す金髪の少女の存在だとか。
 溜息と一緒に僕は彼女との距離を詰め、苦々しげに口を開いた。
「それは僕の台詞だろうね。新しい商売でも始めたのかい、魔理沙」

 そこは立ち並んだ屋台のうちのひとつで、彼女と僕との間には販売台があり、台の上にはキノコが載っていた。白いキノコだ。形としてはエリンギに似ている。見たこともない種類のようで、恐ろしいことに煌々と輝いている。それが販売台の上にずらっと並んでいるのだ。壮観を通り越してかなり怖い。見上げれば、屋台の暖簾には『まりさや』という実にシンプルで意味不明な単語と、星とキノコの絵が躍る。絵は結局あまり上達しなかったのだろう。背伸びして作ったような、努力賞のデザイン。
 魔理沙は見慣れた三角帽のかわりに、三角頭巾を巻いていた。ちょっと悪趣味だと思う。もちろん口には出さないけど。そして、普段料理をする時と同じようにエプロンを着ていた。おそらく食品を扱う屋台なのだろう。つまりこの輝いているキノコは、考えたくないが食用か。
 僕の言葉に彼女は渋い顔をして、一瞬視線をさ迷わせ――彼女が適当な妄言を吐こうとする時の癖だ――諦めたように息を吐いた。思いつかなかったんだろう。そして素直に首を縦に振った。
「まあ、そんなところだ。ちょっと口うるさいやつに捕まってな。しばらく雇われ店長してるんだよ」
 そう言って魔理沙は苦笑するけれど、僕は心底驚いていた。驚愕していたと言ってもいい。なぜなら彼女が誰かに雇われるという状況があまり想像できなかったし、それに……魔理沙を雇おうとする店が何を考えているのかも想像がつかなかった。主に後者の比重が大きい。少なくとも僕なら、絶対に任せない。
「いったいどうして――」
 そんなことになったのか。言葉は最後まで続かなかった。僕の目の前には彼女の指が突き付けられていたからだ。呆気に取られていると、魔理沙は昔のように不敵に笑ってこう言った。
「折角来たんだ、何か買ってけよ」
 いろいろ話したいことはある。訊きたいこともある。だがこれだけは言っておこう。
「……客を指さすな」
「おっと」
 言われて初めて気が付いたように、彼女は指を引っ込めた。他の奴に同じことをやっていないといいのだが。
 そして魔理沙は顎に手をやり、考え込むような仕草になる。神妙そうに眼を閉じて、次の言葉を探しているのだろうか。少しの沈黙の後、彼女は口を開くと、平坦な声で僕に告げた。
「客のつもりなのか。いいぜ、受けて立ってやろう」
 およそ客に対する態度じゃないよな、それ。


「そもそも、だ。これは何の屋台なんだい」
 返事する代わりに僕が口にした疑問は、心からのものだ。店名からして『まりさや』って安直すぎるだろう何するんだ、労働力か何でも屋か。それなら素直に『霧雨魔法店出張所』とでも名乗ればいいだろうに。そしてそこにある白く発光しているキノコはまさか食用じゃないだろうな? 僕の眼も魔理沙の格好もさりげなく店の奥に貼ってある『食品営業許可証 認定:是非曲直庁』もそれが食品を扱う屋台だということを示しているけれど僕は断じてこのキノコを食用だとは認めないからな――というか是非曲直庁なにやってんだ手広いな。うちの店も実は認定が必要だったりするのだろうか。魔理沙はその問いに対して明後日を向く。心なしか、その横顔は笑っているようにも見えた。
「いろいろ選べる霊体キノコ。その名もカクリヨタケ、だぜ」
「霊体キノコって何だよ……」
 聞いたこともない名前だ。魔理沙の用意するキノコは、基本的には自分で効果を試してから持ってくるので安全なものが多い。しかし油断すると得体の知れないものが混じるので、僕は説明を注意深く最後まで聞くことにしている。そして彼女は僕の顔を見て、にやりと口元を歪めた。
「食べると死ぬ」
「誰が買うか」
 僕が思わずそう吐き捨てると、彼女はけらけらと笑った。
 笑いに軽重があるとするなら、魔理沙の笑い方は軽い。たとえ相手のことを笑っているのだとしても、それが嫌味にならないのだ。ちっとも魔女らしくないけれど、僕は嫌いではなかった。少なくとも彼女が何かろくでもないことを企んでいる時にあげる、くつくつとかふふふとかいう笑い声よりは余程好感が持てる。
「冗談だ。正しくは、『食べると死ぬ――ほどうまい』」 
「……それだけかい?」
 魔理沙の性格からしてもう一ひねりがないとも限らない。長い付き合いだからこそ、用心深くもなるというものだ。案の定、一度区切ったところから言葉が続いた。
「『死ぬほどうまい――が、死ぬ』」
「結局死ぬのかよ!」
 苦い毒がいいか甘い毒がいいかという違いだった。この店に解毒剤はないのか。そもそも毒以外の物を売ってくれ――はたと気が付いて再び店の奥にある営業許可証を見直すと、ちゃっかり『毒物劇物一般販売業』の文字が併記してあった。それでいいのか是非曲直庁。
 しばらくけらけらと笑い続けた彼女は、しかし僕に買う気がなさそうだと見てとると、少しふて腐れたようにそっぽを向いた。
「ち、文句ばっかり言いやがって。悔しかったら食ってみろ」
 その挑発には残念ながら乗れない。支払う対価が大きすぎるからだ。
「悔しくないし死にたくもないぞ、僕は」
 彼女は僕の答えに深いため息を吐き、アメリカンに肩を竦め、『やれやれこれだから最近の若者は困るね』と言いたげな目線を寄越した。困った若者は君の方だ。
「気にはならないのか? どんな味をしているのか、知的好奇心を健やかに育もうとは思わないのか?」
 目上の知識人みたいなことを言いやがって。
「健康を害する時点で健やかな訳があるか」
「命を削ってでも知らなくてはいけない事ってあるだろう」
 かと思えば、急に僕の目を正面から見据え、真顔で言い放つから始末に負えない。魔理沙の言う事は、時々冗談なのか本気なのか分からなくなる。今はおそらく冗談なのだろうし、僕もそのつもりで答えを返す。
「僕にとってキノコはそうではないけれどね」
 なぜか、『つまらん奴だ』と目で訴えられた気がした。残念ながら僕はノリ突っ込みの技術を持ち合わせていないし、持っていたとしても使う気はない。

 彼女は再び真顔に戻り、今度は俯いて僕から目線を外した。顔に暗い陰が出来る。切ない雰囲気、のつもりだろうか。実にわざとらしい。そしてか細く儚げというおよそ似付かわしくない声を作る。器用なことを。
「――こいつが売れないと家族が飢えてしまうんだ――」
 何を言い出すかな、この娘は。
「――弟は今年で八つになる、もう何日も満足に喰えていない――おとうもおかあもどこかへ行っちまった――今日ひとつも売れなければ、危険を覚悟で売り物に手を出すほかはない――食べれば死ぬとわかっていてもだ――」
 そう言って、ちら、と僕を見てくる。弟いたのか、それは知らなかったよ。当然無視である。
「私はまだいい、しかし弟は――弟だけは食わせてやりたい。一本売れさえすれば、今日のところは大丈夫なんだ――だからどうか、哀れと思うならどうか一本、ささやかな愛の手を――」
 ちら。
 効果なしと見てとると、魔理沙は一瞬にやりと笑った。そして表情を戻して口を開く。
「――こいつが売れないと世界が滅んでしまうんだ――」
 いきなり壮大!?
「――魔王は今年で八つになる、もう何日も満足に喰えていない――四天王も軍師もどこかへ行っちまった――今日ひとつも売れなければ、危険を覚悟で勇者に手を出すほかはない――戦えば死ぬとわかっていてもだ――」
 そう言って、ちら、と僕を見てくる。無視したい。
「私はまだいい、しかし魔王は――魔王だけは食わせてやりたい。一本売れさえすれば、今日のところは大丈夫なんだ――だからどうか、哀れと思うならどうか一本、ささやかな魔の手を――」
「魔の手はだめだろう、語感的に!」
 思わず突っ込んでいた。不覚。
 彼女は露骨にがっかりした表情を浮かべ、嘆息して首を振った。お前には失望したぞと言わんばかりの仕草。大げさな身振りは、魔理沙が冗談でやっている何よりの証拠だ。
「――ノリが悪いぞ香霖。そこは、『おおなんとかわいそうな境遇の娘だ、善意の手を差し伸べてあげなくてはなるまい』ってなるところだろう」
 なるわけあるか。というか、後半はむしろ差し伸べたら世界滅ぶんじゃないか?
 なんだか厄介な絡まれ方をしている気がするので、僕は反感の意を込めて呟く。
「恵まれない古道具屋に愛の手を」
 言葉を受けて魔理沙は陳列されたキノコを一つ手に取り、僕に向けて差しだした。何をする気だ。
 彼女はそのまま厳かに、「愛のキノコを――」と言いかけて相好を崩した。
「愛のキノコってなんか語感がよろしくないな」おいやめろ。
「恥じらいを持ちなさい」
 反射的にそう口にする。しかし魔理沙は意に介さず、しれっと訂正してきた。
「言い間違えた。語呂が悪い、だ――で、何が恥ずかしいって?」
 そう言ってニヤニヤとこちらを見てくるため、どうにも旗色が悪い。いったいどこで覚えたんだそのからかい方は。
 僕は気を取り直し、なるべく平静な声を意識しながら、改めて彼女に告げた。
「……とにかく買わないからな」

 とは言うものの、実は全く興味がないわけではなかった。曲がりなりにも収集、いや、商売人の端くれである。集めたものの大半は売る気がなく、いつでも整理に困っているけれども、断じて僕は収集家ではない。ないのだ。つまりその時僕が考えていたのは、買ったとしてどこに置いておくべきだろうかとか、転売したところで食べると死ぬなら苦情が入るよなとか、倉庫に仕舞っておくとして何を売り場に持って行こうかとかそういったことだった。どこが商売人なのかと言うと――どう考えても売り物にはできないだろう、という判断のあたりだ。
 そうして思考の海に出向いていた間に、魔理沙は笑いの質を変化させていた。つまり僕の苦手とするくつくつ笑いである。ろくでもないことを考えているのだろう。それに気付いて僕が顔を上げた時には既に、彼女の口から次の言葉が放たれていた。
「なら仕方ない。実力行使だぜ」


 不穏極まりない響きに、すわ弾幕か八卦炉かと咄嗟に身構える。魔理沙は有言実行の子である。飛ぶと言ったら飛ぶし、撃つと言ったら撃つし、借りると言ったら返ってこない。シリーズ物の二巻早く返しなさい。十まで揃えたのに読み出せないから。
 益体もないことを考えながらしばらく待つが、何事かが起こる気配はない。僕はそのあいだ、両手を顔の前で交差させて立ち呆けていたことになる。傍目には間抜けに映ったかもしれないが、魔理沙の場合何も起こらないというのは逆に不気味である。僕は構えを解きながら、恐る恐る魔理沙に尋ねた。
「何をするつもりだ」
 怪しげな笑いで誤魔化されると思ったのだが、意外にも澄ました顔で答えが返ってきた。
「営業妨害だぜ」
「……地上げ屋か、君は」
 思わず呆れたような声が口をつく。
「そんなに余裕な顔をしていていいのか?」
 そう言って魔理沙は不敵に僕を見るけれど、仕草にわざとらしさがある。それで気が付いた。冗談の延長線上なのだ。少しだけ肩の力が抜けた。僕はふっと息を吐き、彼女の真似をしてわざとらしい声で言った。
「もう一度聞くけど、何をするつもりなんだい」
 彼女も僕が気付いたことを了解したようだ。冗談を真に受けるなよとこちらを見る目は語っているけれど、君の冗談は分かりづらいんだよ。
 抗議の意味を込めて見つめ返すと、魔理沙は無邪気に、本当に楽しそうに笑った。実際、この笑顔に僕は弱い。やりたいことをやらせておこうという気になってしまうからで、今回の場合ならそう――このまま少しだけ冗談につきあうのもいいかもしれない、なんてことを思ったりするのだ。

 魔理沙は暫く勿体ぶったあげく、物語の悪役のように低く邪悪そうな声を出しいかにも悪そうな笑みを浮かべた。まるで倒して然るべき妖怪みたいに。誰の真似だろう。
「――そんなに聞きたいなら教えてやろう――」
 妙に様になっているのは笑うべきだろうか、それとも嘆くべきだろうか。
「――ま゛――」
 言いかけてげほげほとせき込んだ。無理して低い声出そうとするからそうなるんだよ……。既に彼女を見る目は保護者のそれなのだが、どうやら気付かれてはいないようだ。あーあー、ごほん、と喉の調子を整えて彼女は仕切り直した。照れくさくなったのか、やや小声である。
「――そんなに聞きたいなら教えてやろう――」
 そこからかよ! 律儀な奴め!
 そして彼女の口から語られる、恐るべき営業妨害の内容とは一体――
「――まとめ売りの商品の束をばらして、個別に一つずつ会計を頼んだ後で、『なんでまとめ売りより高くなるんだ、値引け』って言ってやる――」
「せこい上にスケールが小さい!」
 僕は驚愕した。予想以上に地味だった。……しかし本当に面倒なので勘弁願いたい。なぜか魔理沙は勝ち誇ったように僕を見てくる。地味に鬱陶しい。
「どうした、こんなあどけない疑問にも答えられないで店主が務まるのか?」
 声を元の調子に戻して言ってくるが、あどけない通り越して頭悪い疑問だそれは。
「なら、高くなる理由を教えてあげようじゃないか。……そりゃ僕の手間賃だよ!」
 ちなみに幻想郷に消費税はない。あれば彼女も多少は得をしたのかも知れないが。そして商品が売れるのなら僕は別に損しないということに彼女は気が付いていない。
 魔理沙はからからと僕を笑い飛ばす。
「普段働いてないんだからいい運動になるだろ?」
「小銭を逐一取ったり渡したりしたところで何が鍛えられるんだよ」
「忍耐力」
 この上さらに鍛えろと言うのか。
「それが必要なのは絶対に君の方だと思う」
「知らんぜ。ほれ、営業妨害されたくなかったら素直に払うんだな」
 彼女の方から話を戻してきたので、一通り僕をからかって満足したのかもしれない。彼女が本気で言ってるのかはわからないし、別にされたって困るわけではないけれど、面倒なのは確かだ。……このあたりが落とし所だろう。
 結局のところ、僕は収まりを付けられる場所を探していただけなのだ。一度買わないと宣言したために引っ込みがつかなくなったのである。素直なことを言ってしまうなら、珍しいものは欲しいに決まっている。そのあたりは魔理沙の方がよく分かっているのかもしれない。だからこれは彼女なりの助け舟なのかもしれないし、単に売れ残るのが確実な商品を厄介払いしたいだけかもしれないけれども、どちらだって構わない。欲しい物が手に入るのなら、売り手の思惑は関係ないのだから。買ってみるか、と僕は心に決める。しかしながら、僕だって商売人の端くれだ。買うとなればすることはひとつ。
 ――ここからは値引き交渉といこうじゃないか。


 幸い僕には幾つかの交渉材料がある。まずはそれを提示してみるのが道理だろう。
 出来るだけ勿体ぶったように、そして彼女に負けないくらいに不敵な笑みを僕は作る。そして意地悪そうに彼女を見遣った。
「払うのは君の方だろう? ツケ、結構溜まってるぞ」
 正確には君たち二人組、だが。実を言えば、途中からもう計上するのも諦めて消費物品の扱いにしていたというのは内緒の話である。魔理沙の場合は主に本だった。二人合わせての総額は考えたくもないが、彼女のほうは――まあ、本棚五架ぶんとちょっと、とだけ言っておこう。……しかして彼女は強敵だった。
「残念、うちの屋台はいつでも笑顔の現金払いだぜ」
 これである。面の皮の厚さでは勝てる気がしない。要求のあしらい方も堂に入っている。いや、この場合あしらい方と言うよりは踏み倒し方だろうか。僕は彼女によくこう言われたものだ――『ツケの返済はあるとき払いが鉄則だぜ。そして今はない』。いつならあるんだよ。というか元から現金収入無いだろう君は。
 仕方なしに僕は二の矢の準備をする。こちらはやや頼りない、と口にする前からわかってはいるのだが。
「そういえば顔見知りなんだし、何か割引とかないのかい?」
 金が駄目ならコネである。一気に立場が弱くなるので、あまり期待は出来ない。案の定、魔理沙は渋い顔をした。
「定価があるんだよ。変えられない額が――しかし、まあちょっと待て」
 彼女はそう言うが早いか身を翻し、がさごそと屋台の奥を漁りはじめる。拍子抜けだが、何事も言ってみるものである。やがて目当てのものが見つかったようで、振り向きざま僕に何かを放って寄越す。落とさないよう慌てて抑えると、それは珍しい材質の紙だった。裏面には、マス目状に連なった四角があり、その中には数字が一から七まで連番で描かれている。思わず能力を使って分析してしまうが、僕の眼曰くそれは『ポイントカード』と言うものらしい。用途は――常連客確保? 商売繁盛の神でも宿っているのだろうか。帰ったら神棚にでも飾っておこう。
「今ならポイント還元中、だぜ」
 その言葉と共に、あまり似合わない営業スマイルを彼女は浮かべた。還元中の意味するところは分からないが、言いたいことは伝わる。
「なんとなくお買い得なのか」
 そう応じると、魔理沙は我が意を得たりと言った風に胸を張り、自慢げに話を続けた。
「そうだ。今だけ特別に、なんとMPがふたつ貯まる」
 また胡乱な単語を。Pはポイントだろう。Mは何だろう、思いついたまま言ってみる。
「魔理沙ポイント?」貯まったらマスパでもお見舞いしてくれるのだろうか。迷惑である。
 彼女はにっと笑って否定した。
「うんにゃ、マッシュルームポイント」
 ……何の屋台かを考えれば妥当なところではある。あるのだが、この釈然としない気持ちはどこへ持っていけばいいのだろうか。
「キノコはいらないと言っているだろう」
「まあそう言うなよ。貯まればちゃんとサービスがあるぜ」
 貯まるほど買わないとは思うのだが、この屋台で何をサービスしてくれるというのか。それに興味を引かれて訊いてみる。
「特製キノコ鍋でもくれるのかい」
 貰ったとしてもそのキノコだけは調理したくないけれど。光るから闇鍋だってできないだろうし。そういえば、煮汁を飲んでもやはり死ぬのだろうか?
 彼女は『何言ってんだこいつ』と言う顔をした。ごめん、それ僕の表情だと思うよ。
「いや、マスパ一回無料サービス」
「キノコはどこへ行ったんだよ……」
 嘆息する。結局そこに落ち着くのか。僕の遠回しな思考はいつも通りに無意味と化したけれど、いつも通りなので特にへこんだりはしない。ただ少し、徒労感が増しただけである。魔理沙は得意そうに僕に教えてくれた。
「霊体キノコのマスパ焼きはこの店の名物なんだぜ」
 そりゃ君しかできないからね。……しかし、無料サービスってことは普段有料なのか。
 つまりこのキノコ群は生なんだな、と僕は懲りずに推測してみる。おそらく焼かないと美味しくない類ではなかろうか。基本的にキノコは生食用にできていないのだし。
「そこが有料って詐欺じゃないのかな」
 祭りの屋台へ夕餉の材料を買い出しに来る奴はいない。求められているのは買い食い用の食品である。たこ焼き屋でタネを売りつけられたり、焼くのは別料金なんて言われたりしても困るだけだ。
「いらないと言ったくせに、やけに拘るじゃないか」
 彼女はそう揶揄するけど、一応店主ならこだわりを持ってくれ。
「だいたいなぁ、いつも言っているけれど――」


 祭りの喧騒を背に、僕たちは暫くの間他愛もない会話を続けた。その間僕が思っていたのは、他の客がこの店に寄ってこないのは僕が魔理沙と話しているからなのか、それとも単に誰も近寄りたがらないだけなのかといったことや、やはり魔理沙の被っている三角頭巾は悪趣味だということや、久しぶりに話をした気がするけれど一体最後に会ったのはいつだったかということや、どうにも最後に会った日のことを具体的に思い出せないのはなぜかといったことだった。それから、あの光を見たときに感じた懐かしさは何だったのだろうということ。魔理沙と一緒に祭りに行ったことはあっただろうかということ、そしてこの祭りはいつ終わるのだろうかということ――

 
 ふと会話が途切れ、僕は考えているあまり返事を抜かしたのだろうか、それともうっかり拙いことを言ってしまったのだろうかとどきまぎした。慌てて彼女を見ると、何やら物思いに沈んでいるようだ。僕は少しほっとする。と同時に、その光景がいつになく珍しいことにも気が付く。誰かと対するとき魔理沙は本当によく喋るし、案外他人のことをよく見ている。会話が途切れることも少なく、気まずい沈黙だって長くは続かせない。そういう気配りはうまい子なのだ。だけど、その代わりと言っていいのだろうか。彼女はひとりでいるとき、少なくとも自分がひとりだと思っているときだけは、今のように考え込むことがある。滅多に見られない、致命的な隙。
 びゅう、と疾風が走り抜けた。『秋来ぬと』と詠んだ歌人がいたけれど、彼は風の音を聞いて、夢から覚めたのだ。終わらない夏はない。もちろん、終わらない祭りも。仄かな薄橙の灯りが、彼女の俯き顔に影を彩る。提灯は風に揺れ、そのたび彼女の髪も揺れる。細い金髪が光に透ける。先程の演技よりもよほど儚い姿に僕は声を失う。ふと気が付く、この屋台の後ろには、暗闇だけが広がっているのだと。あれだけ賑やかだと思っていたお祭り騒ぎが、今この場所からはひどく遠い。呑まれそうな夜の昏さと、溺れそうな灯りの洪水に挟まれて、ひとり祭りの中に取り残された迷子のように、彼女はそこに佇んでいる。
 なあ、魔理沙。なんでそんなふうに考え込んでいるんだ。そいつはできれば見せたくないはずだろう? いつか僕が気付いてしまったとき、まずい物を見られたって顔してたじゃないか。誰にも見せないようにして、一番の悩みは強がりの仮面を被って、普通だぜって笑ってごまかして……いつだってそうしてきたじゃないか。おまえにそんな顔されちゃ、僕はちっとも楽しくないんだぞ。さっきみたいに僕をからかい倒してくれ。それで、強がりでいいから笑ってくれ。そうでないと、僕はどうすればいいのか分からなくなる。だってそれじゃ、その顔はまるで、自分が今本当にひとりなんだと思っているみたいで――。
 僕がどう声を掛けようか悩んでいると、魔理沙は顔を上げた。ばっちり目が合う。そして彼女は僕に向け、ぎこちなく、いつか見たような苦笑いを浮かべる。ごめん、嫌な物見せたし見られた。そう言っているように思えた。だけれど僕にはその笑い方が、少しだけ疲れているようにも見えたのだ。
 そして言葉がぽつりと落ちる。
「なあ、香霖」
 そう言ったきり瞠目する。妄言を吐こうとするわけでもない。続けるべき言葉を、慎重に選ぼうとしているような姿。だから、魔理沙が本当に言おうとした、なあ香霖、のあとに続いたはずの言葉を僕は知らない。
 代わりに僕が聴いたのは、嘆息混じりの愚痴だった。
「――このキノコ、うまいんだぜ、ほんとに」
 食べたのか、デスキノコ。
「……よく無事だったね」
 思わず僕が口にした問いに、魔理沙は再びやや苦みの混じった笑みを返した。
「無事じゃなかったからこんなところで店長してるんだ」
 僕はなんだか居たたまれなくなった。何が彼女にその笑みを浮かべさせたのかはわからない。だけれど、余程のことだ。毒キノコに中ったときだって、霊夢にボロ負けしたときだって、霧雨の家を出るときだって他人の前では強がっていたのに。僕はその笑みをこれ以上見ていたくないと思った。魔理沙には無邪気に笑っていてほしかった。楽しいことを楽しいと笑ってほしかった。そう思ったときには、もう口が動いていた。
「……仕方ない、ひとつ頂こうか」

 それは先延ばしにしていた結論だ。寄越してくれた助け船に乗り込み、今度は僕が舵を取る。僕は祈るような気持ちで、答えを待ち続ける。
 彼女は一瞬呆気に取られたような表情を浮かべ――その次に浮かべた笑顔はもう普段通りの魔理沙だった。
「毎度あり。御代は六文だぜ」
 強いな、と僕は思う。それが強がりであっても、僕は好ましく思う。その強がりを尊重したい。だから僕は、今まで通りの軽口を返す。何も起こってはいないんだと、確認するみたいに。
「けっこう良心的なようでいて、その値段設定は悪意があるな」
 とは言うものの本心である。六文を奪ってから殺すなよ。
「なに、死んだ後向こうに渡れなくなるだけだ」
 そう言って笑う魔理沙に、心の中でだけ頑張れよと呟きながら、
「それが悪意だと言っている訳だが……ん?」
 僕は懐からがま口を取り出そうとして、ふと違和感を覚えた。

 急に言葉を止めた僕を、彼女は訝しそうに見遣った。
「どうしたんだ? まさか香霖、六文すら懐にないとか」
 魔理沙にそう思われる自分が少し悲しい。流石に生活できる程度の蓄えはあるのだが……しかし何よりも、僕は確信を持って彼女の疑念を否定できた。なぜならば――
「逆だ。懐にありすぎる」
 そう言いながらがま口を開くと、じゃらんとした小気味いい音と共に、僕の手の中に沢山の小銭が溢れた。違和感の正体は重さだ。およそ小銭入れに似つかわしくない重量と溢れ出る小銭の総量から推測するけれど、この道に並んだ屋台全部で一品ずつ何か買えるくらいの額はある。間違っても散歩に持っていく金額ではないし、もしかすると今月の売り上げより多いかもしれない。
 彼女はその光景に目を丸くしたあと、ふるふると首を横に振り、僕の肩にぽんと手を置いた。そして諭すように僕と目を合わせ語りかけてくる。
「悪いことは言わないから、元のところに返してくるんだな」
 お前にだけは言われたくないよ!
 ……いや、そうじゃない。僕に心当たりなんてありはしないのだ。心外である。よって僕は反論を試みる。
「僕が悪事に手を染めるわけがないだろう」
「じゃあどこから出てきたんだよ、それは」
 もっともだった。しかし、知らないものは知らないのだ。咄嗟に幾つかの仮説を思い浮かべる――仮説その一、散歩の途中で無意識に小銭を集めていた。自らの名誉のために却下。仮説その二、無縁塚で拾った『落し物』である。この金額なら拾った瞬間に帰宅しはじめるだろうからこれも違う。小市民的だが真実である。仮説その三、これも化かされているうちに入り、黒幕は慌てふためく僕を見て爆笑している。有りうる話だがこの場では証明のしようがない。
 つまり僕が選ぶべき結論は、深いことは気にしないという態度を取る事である。覚えがないだけで何かをやらかしていることもないとは言えないので、なるべく使わないようにしようとも思う。
「さて、物好きでもいたんじゃないか」
 僕がそう言うと魔理沙はにっと笑い、小銭から六文を摘むと屋台の奥にあったキノコを手渡した。細かいことを気にしないのは彼女の長所にして短所だ。特に僕を心配するでもなく、むしろ何かを喜ぶような表情を浮かべているが……非行仲間ができたとか思われていたら嫌だなあ。
「ま、生活に困ってないようでなによりだぜ」
 彼女はそう笑い飛ばす。それでいいのだと、僕を肯定するように。肯定されても困るのだが、否定されるよりは面倒がない。僕は返事のかわりにひとつ溜息を吐いて、手にしたキノコを眺めた。ご丁寧にも包装付きである。しかし透明な袋なので少し眩しい。
「買ったはいいが、どうしようかな」
 まさか食べるわけにはいかないし、かと言って店に置いておくのも何かが違う気がする。彼女はあっけらかんと「喰えばいいのに」と言うが、それだけはお断りだ。僕は意地悪く訊いてみる。
「倒れたら店まで運んでくれるのかい?」
 帰る手間を考えると、もしそうしてくれるなら食べてみる価値はあるのかもしれない、と少しだけ思うが。
「荷物全部と所持金の半分が没収されるかもしれないけどな」
 しれっとそんなことを言ってくる。こいつならやりかねん。出所不明の金を接収されるのも後々面倒なことになりそうだし、僕は仕方なしにキノコの処遇を定めた。放っておけば食え食えとせっつかれかねない。
「いいや、せっかくだし店に置いておこう。客寄せと光源にはなるだろう」
 その言葉に魔理沙は呆れた顔で笑う。
「仕入れにされちまったか。私の真心がこもったキノコを売るなんてあんまりだぜ」
「いつ込めたんだ」
「明後日くらいに」
「うわ酷い」
 賞味期限はそれくらいなのかもしれない。やはり売り物にはしないほうがいいだろう。僕はそして、蛇足と分かりながら言葉を続ける。
「――真心を込めて殺されても困るだけだよ」
 魔理沙は呆気に取られた顔をした。それから少しだけ天を仰ぎ、
「……そりゃそうだ」
 とぽつり零した。
「魔理沙?」
 しまったな、と思う。言わなければよかった。だけれど彼女は、にやりと口元を歪める。不敵な笑い方。大丈夫だぜ、普通だぜ、と無理して笑っている。それが強がりだとわかっていても――
「ほれ、買ったならどっか行っちまえ。話好きの死神なんかも覗きに来るんだ、捕まったら結構面倒だしさっさと帰るんだな」
 用は済んだとばかり追い出しにかかる彼女に、
「……気が向いたらまた来るよ」
 僕は思わずそう声を掛けていた。

 魔理沙は一度頷きかけて、首をぷるぷる左右に振った後、呆れたようにこう言った。
「二度と来るなとは言えないが、なるべくなら来るんじゃないぜ」

 そして追い払われるようにして屋台を離れる。さてこれからどうしようかと立ち止まる。そしてふと気が付いた。あれだけ僕を突き動かしていた、道の奥へ進もうという衝動がなくなっている。――僕は何だか、もうこの場にいる必要はないように思えた。いや、正直に言ってしまおうか。この場所ではもう、僕は楽しい時間を過ごせないだろうと思ってしまったのだ。
 そうとも。僕は認める。魔理沙と話すのは楽しかった。そして、だからこそ僕は意識してしまうだろう。他の屋台に寄るたび、他愛ない冷やかしをするたび、今の時間と比べてどうだったかを考えるようになる。この人混みの中に、それ以上を求めるのはおそらく酷な話に違いない。
 何より、僕はもう傍観者ではいられない。魔理沙に声を掛けられた瞬間から、僕は腕を掴まれて、舞台に引っ張り込まれてしまった。気楽な観客ではなく、演じ方を必死に探す役者にされてしまったのだ。出番が終わったならば舞台からはけなくてはならないし、台本にはもう台詞もト書きも書かれてはいないのだろうし、たとえあったとしても構うものか。役者だって、舞台から降りる権利くらいは持っているのだから。そして、誰かに化かされていたのだとしたら――その時こそ僕は怒ろう。それはちょっと、悪趣味な化かし方に過ぎる。
 僕は元来た道を引き返していく。灯りの列を抜け、飛び交う声をすり抜けて、僕は暗い道へと歩く。祭りの入り口まで、しっかりとした足取りで。
 帰りに寄るよと冷やかした店がなくてよかった。心置きなく道を歩ける。


 光を抜けた先には、夜明け前の暗闇が広がっていた。夜のうちで一番濃く深い闇は、しかし僅かな時間で消えていくのだと僕は知っている。そして手提げ袋に入った光るキノコの明るさが、その暗ささえ薄めてくれる。案外便利だ。しかしこれ、明かりを消したりはできないのか? 寝室には置かないほうがよさそうだな。
 風は既に止んでいた。三日月は沈み、やがて太陽が昇るだろう。ススキすら波立たない、静かな朝になるだろう。凪いだ海原の道を歩く。帰り道は長く、そして安全だ。僕は次第に明けゆく空を見ながら、こんなことを考えていた。

 夜の散歩は終わりの時間である。


  ◇


 そして僕は目を覚ます。


  ◇


 目覚めは快適とは言えなかった。なぜならば僕は見慣れない部屋で横になっていたからで、体を起こすと、そこが清潔で風通しのいい――僕の自室とは大違いである――和室だということが分かったからだ。障子が開け放たれており、そこから見えるのもやはり見慣れない光景。立派な塀。外を行き交うは地上の兎、向こうに見えるは深い竹林。
 あまりのことにしばし呆然とする。だけれど僕は、覚醒していく頭から記憶と知識をかき集め、やがて事態を了解した。
 ――つまり、ここは永遠亭の一室である。

 目を覚ますということはつまり僕がそれまで寝ていたということで、あるいは意識を失って無意識を旅していたということだ。ぼんやりとした頭で思う。夢を見ていたのか。夢とは過去の集積である。夢の中で僕はあらゆるものを見たのだと、そんな所なのだろうか。確かにそれでも説明はつくし、それでしか説明がつかないこともいくつかあった。だけれど、僕には今までの出来事が夢だとは思えなかった。風が体をなぞる感覚も、ススキの靡く波の音も、祭りの中で僕が女の子とぶつかったときの衝撃も、沢山の物がないまぜになっていた匂いも、そして懐かしいあの光も――現でしかありえない。それが現なのだとして、ではなぜ僕はこの場所にいるのか。
 考え込んでいるうち、戸が開く音がした。振り向けば、そこに僕は初めて見慣れた人の姿を目にする。
「よかった、気が付かれましたか」
 そう言いながら安堵したように息を吐く女性は、僕の顧客の一人である。定期的に店に来ては、使えそうな地図や古書物や用具を購入してくれる有り難い人物だ。しかし、朝僕を起こしに来てくれるような関係など築いた記憶はないのだが。それともこれが夢の第二幕なのか? ……混乱したまま、僕はただ彼女の名前を呼んだ。
「……慧音さん」
 その言葉に彼女は微笑み、僕の様子を察したようだ。横になっていてください、と言われたので素直に従うことにする。
「何が起こったのかわからないと言う顔をしていますから、順を追って話しましょうか」
「そうしてくれると助かる。なんだって僕はこんなところで寝ているのか……」
 そして今しがたまで僕が見ていたのは夢だったのか現だったのか。口には出さず続けた。
 では、と彼女は話を切り出す。
「私が香霖堂の方に伺ったところ、貴方が倒れているのを見つけまして」
 なんだって?

「倒れた。……僕が?」
 呆然と口を開く。屈強さはないものの、丈夫さだけが取り柄という半妖の身である。倒れたなんて言われても、俄かには信じがたかった。僕が驚きから落ち着くのを待って、慧音さんの話は続いた。
「ええ。慌てて知り合いを呼び、永遠亭まで担いで行って診せたのです」
 彼女の言葉を聞きながら、僕はいつになく混乱していた。倒れている、そのこと自体はむしろあり得る話ではあった。僕は急いで一つの仮説を組み立てる。帰り道の記憶がないのは疲労したためか、あるいは夜明け前にうっかり襲われたかで説明が付くだろう。しかし、だとするとなぜ僕は『店で』倒れていたのか? 疲労困憊で、あるいは必死に逃げ帰り、どうにか家まではたどり着いたもののそこで力尽き、そこに慧音さんがやってきた……これなら筋は通らなくもない。だが、この仮説が成立するには一つの条件がある。幸いそれはこの場で確認できるものだ。僕は彼女に問いかける。
「慧音さん、幾つか訊かせてください――それは何時頃の話で、そして今日は何日ですか?」

 慧音さんは困ったような顔をした。と言っても、質問に困っているわけではないようだ。僕になんと言えばいいかを考えているように見えた。
 変なことを聞いてしまったかと戸惑っていると、不意に彼女の頭が勢いよく下がった。
「申し訳ないのですが、夜中です。どうしても必要なものがあったもので」
 そして日付を教えてくれる。僕が呆けたのでなければ、目覚める前に考えていた日付と同じである。僕はそれで困ってしまう。頭を下げられたことや、彼女の言葉に困惑したからではない――僕が帰ろうとした時刻は夜明け前だからだ。現実との不整合。夜中に倒れて、夜明け前に迷子になっていた? そんな道理は通らない。
 しかし、慧音さんに『なぜ夜中なんです』とはさすがに言えない。言ったらただの八つ当たりである。僕は咄嗟にお茶を濁すことにした。
「その品は――」
「重ねてお詫びします。朱墨なのですが、御代を置いておきました」
 推測するに、寺子屋の宿題を添削しようとして切らしているのに気が付いたのだろう。夜中に店を訪ねてまで買い求めようとするあたり、律儀すぎるのも困り物だが。商品に関しては、御代を貰えるならあまり僕は気にしない。ツケと言ってはばからない連中に比べれば、こういった律義さはとてもありがたく思うのだけれどね。
「いえ、そういう事ならお気になさらず。むしろ、命の恩人にとんだご迷惑を」
 そう言って感謝の意を述べようとすると、ふいに彼女の後ろから声が飛んできた。
「ほんと、迷惑な奴だよおまえは」

 ぎょっとしてよく見れば、そこにはもう一人、白く長い髪の少女がいた。名をなんと言ったか。確か……
「君は……ええと、妹紅君だったか」
 彼女は横になっている僕を見下ろし、凄味のある笑みを浮かべた。
「年上に君付けとはいい度胸だな」
 忘れていた。彼女は僕よりも、そんじょそこらの妖怪たちよりも永い時間を生きてきたのだ。それになんだか気が立っているようだし……僕がその笑みに気圧されていると、慌てて慧音さんがフォローを入れてくれた。
「妹紅、病人は労わろう」
 病人でなかったら僕は何をされるところだったのだろう。ともかくそれをありがたく頂戴しつつ、僕は彼女に謝罪する。
「済まない。どうにも性分でね」
 ふん、とそっぽを向く妹紅……さん? 違和感があるが仕方ない。まさか呼び捨てるわけにもいかないし、ちゃんとか言ったら今度こそ手が飛んできそうだし、妹紅様とは流石に言いたくない。妥協の結果である。妹紅さんのその姿に、僕は魔理沙のことを思い出す。

 僕には実感があった。揺れる金の髪、ころころ変わる表情にからからと明るい笑い声。今までのことを夢で片付けるには、その記憶は余りに現実味がありすぎた。だけれど現であるならば、僕はどうしてここにいるのか。夢を現と定めるためには、証拠がなければいけないが――
「……そうだ、キノコ」
 ふと僕は思い至る。あれを現実とするならば、存在証明をすればいいのだと。
「キノコ?」
 いきなり妙なことを言い出した僕に、二人は目を丸くした。構わず続ける。
「倒れた時、どこかにキノコがあったりしなかったかい」
 僕は確かに、あの時彼女に貰ったのだ。ご丁寧にも包装紙つきの、食えば死ぬほどうまいが死ぬ、少し不便な光るキノコを。
 しかし、二人とも浮かべた表情は『何言ってるんだこいつは、病気でおかしくなったのか?』といったものだった。どうにも心当たりはなさそうである。慧音さんは力が抜けたのか、「なんだ、食中りだったのか?」と呆れたように言ってくる。敬語よりそっちのほうが僕も気楽なのだが。
「そういう訳じゃない、と思う……」
 可能性は否定できないので、どうしても返答は曖昧になるが。何せ食えば死ぬキノコである。二人は顔を見合わせる。
「だろうな。八意先生は脳がどうこうと言っていたけれど」
「藪医者ならともかく永琳だからなあ」
 そして、妹紅さんが噛んで含めるように僕に教えてくれた。
「しかし慧音に感謝して損はないぞ、あんたは。……一時は生死の境を彷徨ったんだ」

 すっと背中が冷えた。倒れた、よりもなお深刻な言葉。僕が里の医者ではなく、永遠亭に連れて来られたというその意味が、急に恐ろしく感じられた。
「――生死の境」
 ぼんやりと繰り返す。それを受けて、妹紅さんは真剣な顔で僕に言う。
「夜明け前が峠と言われて、おかげで私も慧音もあまり眠れなかったんだ」
 よく見れば、特に慧音さんの顔にはうっすらと隈があった。あれは、徹夜で添削をしたからではなく――
「今度なんか奢れよな。迷惑料だ」
 半ば本気で妹紅さんはそう僕を脅した。思っていたよりもよほど、心配をかけてしまったようだ。
「……すまない、迷惑をかけた」
 先程より心を込めて、僕は二人に頭を下げる。
「なんにせよ無事でよかったよ。慧音がやってきて戸を開けるなり、急ぎの頼みだと私を引っ張っていったときには何が起こったのかと」
「何しても起きないんだから仕方ないだろう。実際、八意先生もあと一時間遅かったら危なかったと言っていた」
 すると、僕は本当に死にかけていたのか。途端に先程までの出来事が、話に聞く走馬灯のように、死にかけた僕の見た幻に思えてきた。しかし過去に体験した記憶がなくても、走馬灯になるのだろうか? そして、生死を分けるほどの病状ならば、かかるお代も相当のものに――
 僕は別の意味で背筋が冷えた。恐る恐ると言ったふうに、慧音さんに尋ねることにした。
「そう言えば、ここのお代は……」
 慧音さんはそれに苦笑する。しかしその笑みは僕へと向けられたものではなく、隣の少女に対するもののようだ。  
「あー、ええと」
 どうしたんだろう。遠慮するような何かがあるのだろうか。
 言いあぐねている慧音さんに代わって、妹紅さんが口を開いた。
「安心しろ、別に立て替えたりとかはしてないから」
 ピントがずれている。二人に金銭面でも貸しを作ったわけでないのは、確かに安心できることではあったけれど。
「ってことは、まだ支払ってないのか」
 思わず懐に手をやる。今更ながらにもう一つの証拠に思い至ったからでもある。あれが現なのだとすれば、がま口はまだ重いはずだ。
 しかし取り出した小銭入れは、散歩にふさわしい軽さだった。念のため開けて中身を確認する。二人から同情の視線を感じる。やめてくれ、今はたまたま持っていないだけなんだ、かわいそうなものを見る目で僕を見るなっ。
「いいや、もう全額払ってあるよ」
 慧音さんはそう言って、だけれど苦笑いのままである。
「……意味が分からない」
 立て替えてないんだろ? その代金はどこから出たんだ。
 妹紅さんは自慢げな顔で僕を見る。やっぱりこの人は、少し魔理沙に似ている。
「私がひとっ走りして店から持ち出してきた」
 慧音さんの苦笑の意味がようやく分かったよ。今度置き場所を変えておこう。

「……なんにせよ、助かった」
 命の恩人には違いがないので、僕は追求を諦める。
「八意先生からは、経過を見たいので二日くらいはここでゆっくりしていって欲しい、と伝言を預かっているよ」
 ついでにこれが領収書だ、と一枚の紙切れを僕に手渡した。予想していたよりは、ずいぶん良心的な値段である。
「……あ、慧音。そろそろ行かないとまずいんじゃないか?」
 病室から外の景色を眺めていた妹紅さんが、空の色を見て言った。釣られて僕も外を見る。日は既に高く上っていた。
「そうだな。午後からでも授業はしないと。……そろそろお暇するよ」
 夜中に朱墨を買いに来るほど、寺子屋の授業を大事にする慧音さんだ。それなのに、授業を休みにしてまで僕に付き添っていてくれたのか。
「……迷惑を掛けました。今日の礼は、後日改めて伺うことにします」
 少し畏まった僕に、慧音さんは笑いかけた。
「長生きしようじゃないか。お互いにね」
 一緒に行くよ、と白髪の少女が慧音さんの後を追う。それから、ひょこっと戸から顔だけ出して彼女は僕に言い遣った。
「今度夜雀の屋台で酒でも奢ってくれ。養生しろよ」


 そうしてふたりが去って、僕はひとり病室に取り残される。特に見舞いの品もなく――急患だから当然だが――せめて本でもないことには、暇を持て余しそうだ。
 布団に寝転んだ。どさ、と何かが落ちる音が聞こえた。僕の頭上、いや横になっているので頭の先と言うのが正確だろうか。慌ててその場所を見れば、十冊の本が積まれていた。僕が揃えたけれど読み出せなかった、シリーズものの十冊である。誰の仕業だ――と身構えるまでもなく、こんな芸当を披露する知り合いなんてひとりしかいない。八雲紫。境界を操る胡散臭い妖怪。……これはもしかして見舞いのつもりなのか? 悩む僕をあざ笑うように、一枚の紙が舞い降りてくる。そこにはこう書かれている――
『現にも夢にも逢はで恋しきは現も夢もあかぬなりけり』そいつ女のふりしてるけど男だからな。僕が女々しいと言いたいのだろうか。
 本の痛み具合から言ってそれは僕の家にあったものに相違なく、だけれどそれならば、十冊揃うと言うことはあり得ない。なぜなら二巻はまだ返ってきていないのだし、たぶんこれからも、ずっと返っては来ないだろうと思っていたからだ。手を伸ばす。表紙を捲る。同じ時間を経た劣化具合。間違いなかった。その本は、僕が彼女に貸したものだ。あの妖怪め、とうの昔に諦めていたのに、厄介なことをしてくれる。僕には考えるべきことが増えていくばかりなのに。
 思い出。僕らは思い出という名前を付けて、記憶を整理する。死者に墓を作るのと、それは似ている。墓は誰のために有るのかといえば、半分はもちろん死者の魂のためだ。あなたのことを僕らは忘れませんよ、と魂に示すため。だけれど、墓と言うのは生者のためにも存在している。死を認める、ということはとても怖い。いつか自分にも訪れる死の存在を、墓を作ることで僕らは確認する。今までそこに居た人間が、もういない。その事実を認めるために墓はある。
 僕らにとっての思い出とは、過ぎていく時間に対する墓標なのだ。生きてきた時間が増えるほど、それらは数を増していく。思い出は等質ではない。昨日何を食べたかと、昨日何を読んだかは同じではない。強く印象に残ったならば、その思い出の墓標は高く聳え立つ。振り返って眺めたなら、墓標は山を形成するだろう。ここから遠いものほど、霞がかって見えるように。どこをどうやって歩いてきたのか、その目印になるように。
 あまりに遠く離れ過ぎた思い出はどうなるのだろう。消えてしまうのだろうか、それとも忘れられない記憶に変わるのか。答えを僕は知っている気がしたけれど、考え込んでいるうちに睡魔に襲われてしまった。今はゆっくり休むとしよう。時間なら、僕にはまだまだ残されているようだから。


 ◇


 療養を終え二日ぶりに店に戻ると、いつもの新聞屋さんが珈琲を淹れて寛いでいた。
「おい、ちょっと待てそこの天狗」
 彼女は僕の姿を認めると、ひらひらと手を振った。まるで家主のようである。
「ああ、どうもどうも。知ってます? 中有の道の新しい屋台」
「さあ。あまり店から出歩かないものでね」
 いきなり何を言い出すかと思えば。たぶん知っている。
「出歩かない店主が二日も家を空けるんですから驚きましたよ。話は聞きました、災難でしたね。慧音さんはお手柄でした」
 世間話と言ったていで話しかけてくるけど、君の行いこそ災難だと思うんだが。
「そんなことより何してるんだ」
「何って朝ご飯ですよ」
 平然と言いやがって。
「他人の家で。他人のカップで。食材は――」
 並んだ食器。サラダにトースト。珈琲の器は僕のとっておきのカップだし、そもそも野菜もパンも備蓄はそれほどなかった気がするし、トースト焼ける調理器具なんて台所には置いてないぞ。
「持ち込みです」
「なぜにっ」
 わざわざ全部持ち込んでまで、僕の店で何をしてるんだよ。
「その反応が見たかったからです!」
「傍若無人にも程がある!」
 天狗なんてこんなものである。火のないところに煙を起こすな。
「なんにせよ大変でしたね」
 何事もなかったように、もぎゅもぎゅとパンを頬張り話を続ける姿には、もう怒る気力もない。天狗の肝はさぞ太いのだろう。
「……もういい。どうも気付かないうちに死ぬところだったらしいよ」
「無事でよかったです。貴重な定期購読者ですし……パン食べます?」
「いらない。そして貴重と思うなら新聞は投げ入れないでくれ」
 一時期よりはずいぶんと減ったものの、忘れたころに障子を突き破ってくる新聞には未だに苦い思いをさせられている。
 新聞屋さんは心外だと言うように言葉を正してくる。
「あれは新聞ではなく号外です。ちゃんと定期の分は手渡しですよ」
 なお悪いわ。
「そんなことはどうでもいいのです。はい、今日の新聞はこちら」
 そう言って、それなりの厚さがある紙の束を僕に手渡す。お代は月頭に支払い済みである。新聞の相場というのはよくわからないけれど、家計を圧迫しない程度なのでいいか、と思っている。受け取って、今日の日付を確かめる。滅多にないけれど、誤配もないわけではない。確かにその日付は、僕の知っている今日だった。
「毎度あり」
「今はあなたがお客でしょうに……」
 呆れたような声が返ってくる。思わず頭を掻く。
「いつもの癖でね」
 そして彼女は目ざとく、僕の手荷物に目を付けた。
「あれ、なんですその本。退院祝い?」

 退院までの間、僕はずっと本を読んでいた。八意先生の診察は、生死を彷徨った病人相手とは思えない程あっさり終わったからだ。久々に読んだ一巻は、魔理沙がコンピューターを買っていった頃のことを僕に思い出させた。本で得た知識は、気付かぬうちに自分の言葉として擦り込まれている。脳裏にさっと浮かんだ考えも、元をたどれば誰かの文章だったりする。懐かしい本を読み返しながら、僕はそんなことを考えていた。それだけだ。特に何かが挟まっていたわけでも、メッセージやサインが残されていたわけでもない。貸したきりだった二巻は、貸したまま年を経て返ってきただけだった。そこに特別な意味を求めようとした時点で、僕は彼女の術中にはまっているのかもしれないけれど。結局、十冊のうち半分くらいしか読み終えることができなかった。幸い文庫本だったために、持ち運びこそ楽だったものの……そういえば結局病名はなんだったのか。訊こうと思って聞けないまま帰ってきてしまった。
「入院祝いかな、どちらかと言えば」
 送られてきたタイミング的には。
「ふぅん」
「うわ興味なさそう」
 そして聞き流す天狗である。自分から聞いといてそれは酷くないか?
「だって記事にはならなさそうですし」
「判断基準そこなのかよ……」
 げんなりする。僕の店の常連客は、みんな一癖ありすぎる。慧音さんが唯一の良心か。
 新聞屋さんは珈琲を飲み干すと、小さく伸びをしながら言った。
「ま、しかし……存外貴方、愛されてるんですよ? いろんな人に」
 話が見えない。どこから来たんだ、その言葉は。
「誰かの受け売りかい?」
 人は思いのほかたくさんの人に支えられて、云々。彼女もどこかでそう言った言葉を読んで、自分の言葉としたのだろうか?
「……貴方のことについて語るのに、なんで誰かからの受け売りになるんですか」
「それもそうだ」
 しかし、だとしても分からない。
「何を言いたいんだい?」
 新聞屋さんは小首を傾げて、にへら、と僕に笑いかけた。
「……彼岸流ジョーク、ですかね」
 まあ、確かに閻魔様の言いそうなことではある。それに僕には、残念だけれど思い当たる節があった。正確には、思い当たる夢、かもしれないけれど。キノコと一緒に消えてしまった、大量の小銭は何を意味しているのか?
 僕は深く溜息を吐いて、使われていない椅子を引っ張り出して座った。埃がたつだろうと思ったけれど、意外にもそれは綺麗なものだった。新聞屋さんがニヤニヤと僕を見ている。君の仕業か。よく見れば、使っているテーブルもそれなりに掃除したのだろう。わざわざ手間暇をかけてまで僕をからかおうというのだから、僕はありがたくその結果だけ頂くことにする。
「持つべきものは、隣人だと身に染みたよ」
 お節介だとしても、時には命を救うこともある。
「全くですよ。変な噂まで立ってましたし……」
「噂?」
 ぎょっとする。天狗の言う噂と来れば、ゴシップ面を想起するのが正しい接し方である。真夜中の密会、とか見出しを出されてこの上二人にさらに迷惑をかけることになるのは気が引けるのだが。彼女は構わず言葉を続けた。
「貴方の亡霊を見たって噂が……生きてるというのに難儀な話ですよね」
 少しホッとする。僕に関する噂ならいくらでも立っていい。どう言われようと、僕は僕でしかないからだ。しかしそうか。
「亡霊か」
 普段なら笑い話になるだろうけれど、生死の境を彷徨った僕に対してのそれは――
「貴方が倒れていた時分に、夜道で森に入っていく姿を見た、なんて言う方がいらっしゃいまして。夜雀の屋台でさんざん酔った帰りのようでしたから、半信半疑で記事にしましたけど」
「ちょっと待て」
 火のないところに煙は立たないが、油を投入したら山火事である。頼むから煙までにしておいて欲しい。
「普段なら、店主さんがまた何かしてるのかーで済むんですけどねぇ。迷惑な偶然もあったものです」
「……偶然ねぇ」
 夜中に慧音さんに発見され、その時間に森で目撃され、僕は奥へと入っていった先の記憶をまだ持っている。現としか思えない、夢以外には説明がつかないはずの記憶を。そして夜明け前に記憶は途切れ、昼前に僕は目を覚ました。それを偶然と言うには、少しばかり疑問が残る。
「あや、その顔はなんですか。もしかして何か心当たりでも?」
「――いや、さっぱり」
 多分それは僕だろう、なんて言っても詮無いことだ。
「まあ、なんでもいいです。真相の追及は今度にしましょう」
 そうしてくれると助かる。
「――そうだ、新聞屋さん」
「なんでしょう?」
 奇妙な夢。現としか思えない夢。消えたキノコと大量の小銭。亡霊の噂が偶然ではなく錯覚でも幻でもなく、純然たる事実だとしたら。夢と否定できない理由はすなわち、状況証拠が積み重なっているからだ。だけど、あれは夢でしかありえない。現だという証拠を堆く積み上げても、僕には精々化かされたとしか思えない。なぜなら……目の前の新聞屋さんも、僕も、その答えを嫌というほど知っているはずだからだ。そんなことはありえないのだと。いかな現実味があろうと、それは現実ではないのだと。
 僕は彼女に尋ねる。最後の確認のために。あの夢を、本当に夢だと確認するために。

「僕は、幾つになったんだっけな」

 新聞屋さんはきょとんとした眼で僕を見た。冗談を言っているのではないと察すると、彼女は少し腕を組んで考え込み……それから僕の目を見ずに、窓の外に向かって話すように、ぽつり、ぽつりと言葉を続けた。
「貴方と出会ってから……花が咲いて。また花が咲いて――それから、三十年は経ちましたかね」

 つまりは、そういうことである。時間は有限で、殊に人間の時間は限りが短い。ほんの少しだけ、僕が抱いていた『もしかして』はそれで潰えた。……魔理沙がいるはずはないのだ。同じように、マイペースな巫女も。恐ろしい額のツケは未回収のままで、僕の店には代わりに何人かの常連客が出来た。差し引きは、多分、ゼロだ。それでいい。それでいいのだと、僕は思うようにしなくてはいけない。
「そうか。――そうか」
 新聞屋さんは手早くテーブルの上を片付けると、ごほん、と一つ咳ばらいをした。
「珈琲ごちそうさまでした。私はもうちょい深煎りが好みです」
 勝手に淹れといて注文まで付けるなよ。
「ああ、じゃあアメリカンを入荷しておくよ」
「今日はどちらかへお出かけですか?」
 こいつも人の話を聞かないタイプか。いや分かっていたけれど。
 僕は椅子に座ったままで、軽く自分の肩を叩いた。
「どうにも歳でね」
 彼女はその様子に目を細める。
「見た目はちっとも変わってないですけどね」
「新聞屋さんには言われたくないな」
 あんた幾つだよ。幻想郷の妖怪たちは、歳を取れば取るほど若々しくなっていく気がする。理不尽な奴らめ。
「外に出るのが若さの秘訣ですよ」
「なるほど。忠言として頂いておこう」 
「頂いちゃってください。特に貴方は――」
「僕は……なんだい?」
 彼女はくすりと笑って、頭を左右に振った。その先は、言わぬが華ということだろう。
「――いえ。新聞、ちゃんと読んでくださいね」
 そう言って、新聞屋さんは飛び去った。一陣のつむじ風を残して、彼女は秋の空を行く。なんだか最近は、ひとり取り残されてばかりだ。彼女の使った食器を流しに持っていく。水の冷たさに、季節を想った。それさえなんだか年寄りじみていて、僕はおかしくて笑ってしまう。
 珈琲を淹れて店内に戻ると、そこにはもちろん誰もいなかった。古ぼけた道具たちが僕を出迎える。二日店をほったらかしにしても、別段どうということはない。何も変わらない、静かな昼下がりがあるだけだ。――ひとりになると、店内が急に広く思えてきた。物が溢れんばかりに置かれているのに、どうも僕だけでは物足りない気がする。こんな時間は、活字を読んで過ごすのが一番だ。僕は珈琲を片手に、彼女の残していった新聞を広げる。……今日の一面は、幻想郷の紅葉名所案内か。見事な写真と共に、秋の神様へのインタビューが載っていた。【紅葉アーティストは語る、今年の出来は過去最高】。静葉さんや、毎年言ってないかそれ? まあ、しかしそれなりには期待できそうだ。やはり紅葉は、昼見るに限る。
 頁を捲ると、彼女の言っていた『噂』の記事があった。自然と苦笑が浮かぶのは仕方ないことだと思う。何が悲しくて、自分の亡霊説を読まなければならないのか。
『――生きながらにして亡霊、というのは読者の皆様には若干奇妙に思われるかもしれない。しかし、亡霊とは自らの死に気が付いていない魂でもある。果たして彼は自らの体に起こった変調に気が付いていたのだろうか? いや、あの店主のことだから気付かなかったに違いない。以上のことから、Iさん(鬼)の目撃した不気味な人影の正体は香霖堂の店主の亡霊ではないかと推測する』好き勝手書かれていた。
 彼女の記事は、火の元に見事に油を撒き散らかしていた。一般人の客足は、これで一層遠のくんじゃないか? まあ、元から遠のいている気はするけど。
『店主の霖之助さんは永遠亭で手当てを受け一命を取り留めたとのことである。本人の口からその夜のことが語られることはあるのだろうか。これからも継続して調査を続けたい』。おそらく明日も、彼女は店にやって来るのだろう。取材と称してある事ない事書き連ねるために。そうして生まれる騒がしさは、ほんの少しだけ寂しさを薄れさせてくれるだろう。
 寂しさ。何に対しての寂しさなのか、――少し前まで気にも留めなかったはずなのに。思い出してしまったから、そこにないことが寂しくてしょうがない。
 幻想郷中の花が咲いた、異変の記憶だけが残っている。一度目の異変の時。あの子はそこら中を走り回って、手当たり次第勝負して回っていた。二度目の異変の時は……僕は、もう覚えていない。ただ何かを、忘れないでおけたらいいと願ったことを覚えている。僕に残っているのはそんなものだ。忘却の川の向こうへ霞みゆく思い出と、夢だとしても構わないあの祭りの記憶と、その二つだけが、僕と彼女を繋いでいる。
 遠く過ぎ去った思い出は、どこへ行くのか。僕はもうその答えを知っている。
 どこへも行きはしないのだ。僕が遠ざかっているだけで、思い出は何時でも同じところにある。
 そのなかで大事なものだけが、僕が離れれば離れるほど、高く高く聳え立つ。だから僕はどこまで行っても、その思い出を目印にできる。
 彼女のいた日常を忘れても、香霖堂で過ごした毎日を忘れても、霧雨魔理沙と言う女の子のことだけは、僕は忘れないだろう。
 花が咲いて、記憶が記録に変わっていったとしても――同じことだ。
 僕の歴史は、香霖堂の歴史は、彼女抜きには語れないのだから。


 そして新聞の片隅に、僕はひとつの記事を見つけた。
 夢は現だったのだと、それで分かった。


  ◇


 僕は思う。
 祭りに一人残された幼子は、きっと泣くだろう。周囲がどうであろうとお構いなしに、寂しさと恐ろしさと孤独を初めて知ったように泣き続けるだろう。
 だけれど、僕はもうそんな歳じゃない。ただ優しい秋風がススキを揺らしたように、季節外れの夏風が、名残を惜しんで吹いただけの事だ。
 窓の外ではひらひらと、かつて緑色をしていた葉が舞い降りている。季節は巡るだろう、とぼんやり思う。山を覆う美しい紅葉が、やがて見渡す限り茶色の落葉に変わったなら、ストーブの冬がやってくる。文明の遺産を食いつぶし、石油の残りが心配になってくる頃になれば……その時は、ふきのとうの芽吹く春がすぐそこまで近付いているはずだ。
 花が咲き、種子を残し、枯れ、土に潜り、そして芽を出すように、季節は巡るだろう。やがて幻想郷に花が溢れる時まで、僕らの記憶は巡るだろう。


 だけれど。


 僕はもうそんな歳じゃない。だけれどそれは、泣かないというだけの話だ。祭りに一人取り残された大人は何をする? 寂しさも恐ろしさも孤独も、薄れるわけではない。だから考える。手に余る時間を抱いたまま、どうすればいいのかを考える。そしていつか気がつくはずだ。思い出とは墓標であり道標なのだと。そうして大人は歩きはじめる。それから思い思いのやり方で考え続ける。かつてあった出来事を思い返し、過去の体験を判断材料に、積み重なった記憶の山を時々振り返っては現在位置を確認しながら、歩き続け考え続ける。本を書き、新聞を作り、行動で名を残しながら、それぞれの祭りの終わりまで。なら僕は、祭りに取り残された僕は何をする?
 馴染みのがま口を懐に収め、戸に休業中の札を掛けた。新聞屋さんにはああ言ったけれど、今日の予定はとっくに決まっている。
 

 散歩をしよう。
 紅葉が世界を彩るあいだに、ススキが優しく靡くうちに、季節がまだ巡らないように。
 今日は少しばかり遠い場所まで足を延ばそう。魔法の森を抜け、一面の彼岸花を横目に、白き海原の道を越えていこう。
 そうして彼女に会いにいこう。
 どんな顔をするだろう。驚くだろうか、呆れるだろうか? 嫌そうな顔で追い払われるかもしれない。諦めたように笑ってくれるかもしれない。何事もなかったように普通の顔をしているかもしれない。気恥ずかしそうに顔を背けられたら、きっと反応に困るだろうな。
 なんだっていい。店主の胡散臭さに負けないくらい、由緒正しく冷やかしに行こう。
 僕らしく、そして彼女らしく、何年だって続けてきたこれまでがそこにある。
 だから、彼女に会いにいこう。
 今度はちゃんと、生者として。


  ◇


 店主のいない香霖堂の、机の上には新聞が置かれている。
 迂闊にも彼が開け放していった窓から、優しい風が紙面を揺らした。
 秋の風だ。イチョウがひとひら、床にふわりと舞い落ちた。
 記事に添えられた写真の中で、金色の髪は灯りと揺れる。


  ◇


 ――第二百十一期、神無月の三、文々。新聞五面記事より
 【懐かしい人間の屋台、中有の道に開店】

 “妖怪の山の裏手、三途の川への道中にある中有の道に新しい屋台が開店し話題を呼んでいる。各方面から死ぬほどうまいとの呼び声高い、カクリヨタケを取り扱う屋台である。評判を聞いて私も食してみようとしたが、「殺しても死なない奴と、死にかけてる奴以外は駄目だぜ」と断られてしまった。何でもこの商品には非常に強い毒性があるため、生者には販売を禁止されているとか。食べることができなかったので、代わりに店長の霧雨 魔理沙さん(元人間)に話を伺うことにした。
「お陰様で売れ行きは好調だぜ。知り合いだからって割り引いたりはしないけど、特典くらいは付ける。お得意様はいるかって? ああ、よく死神が遊びに来るな。普通の客は一度しか会えないから、常連は貴重だぜ。他には幽々子とか――まあ、来たら貸し切りにしないといけないけれども。どこから仕入れているか? 自家製って言ったらみんな買ってくれなくなるんだよなあ。そんなに私は信用がないのか、ってさもありなんと頷くなよ悲しくなるから!」
 この道に立ち並ぶ屋台は、地獄の罪人たちが店長を務めることで有名である。会計を誤魔化すと即座に地獄へ戻されるという厳しい掟があるかわり、勤め上げることができたならば地獄を卒業できるとも言われている。この手癖の悪い新人店長がいつ売り上げをちょろまかすか、既に一部ではトトカルチョが始まっているのだとか。
 中有の道は死者のための道である。しかし、そこにある屋台は生者のためにも開かれている。貴方も生者と死者の入り乱れる屋台通りで、愉快な秋のひとときを過ごしてみてはいかがだろうか。 (射命丸 文)
※記事の屋台についてのお問い合わせは、是非曲直庁中有の道出張サポートセンターまでお気軽に――”


  ◇


 秋の昼下がりは、優しい陽射しが降り注いでいる。
 空に浮かんだ笑みのような、真昼の月を僕は見上げる。
 真昼の月に、魔女はいない。
 それならばどこにいるのかなんて、もうとっくに分かっている。

 秋の散歩を始めよう。キノコ屋台を冷やかすために。
 僕は一歩を踏み出した。
  ◆

 お久しぶりです。梶五日です。
 中有の道の縁日は、何を祀っているのか。書いている間ずっとそれが気になっていました。そもそも祭りじゃないのかもしれませんし、財政難の是非曲直庁が破れかぶれで打ち立てただけの屋台通りかもしれません。だけれど書きあがった今、やはりそれは『祭り』であり、そして『祀り』でもあるのだと、そんなことを思ったりしています。
 当初の予定よりずいぶんと長くなりましたが(いや本当に申し訳ない。盆栽よろしく伸びた端から手を入れたはずなのに、気がついたら三倍くらいに育ってしまったのです。ふえるワカメならぬふえる原稿の恐怖)、だからこそここまで読んでいただいた貴方には最大級の感謝を。
 次に書くものは実は決まっていて、みすちーの出てこない宴会とみすちーのお話になりそうです。いつになるかはわかりませんが、出来上がり次第お届けできればと思います。
 それまで貴方もお元気で。またいつかお会いしましょう。では。
※12/24 改行位置等修正
梶五日
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コメント



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1.70名前が無い程度の能力削除
読みました。ちょっと長かったかな。半分くらいの文章量に収めてくれた方が、私には読みやすかったですね。
冗長な思考の垂れ流しは、霖之助らしいけど、読む方はちょっと辛いかもしれません。
魔理沙との掛け合いなんかは非常にそれらしくて楽しめました。
リズム感のある文章も良かったと思います。
4.90母止津和太良世削除
面白かった
霖之助の独白は冗長とも思わないな。そこも含めて面白かった
5.70奇声を発する程度の能力削除
雰囲気が良いですね
6.100名前が無い程度の能力削除
この何とも言えない落ち着いた雰囲気、最高です
7.803削除
妙なノリツッコミとかが雰囲気を少し壊していた感がありましたが
全体的になんと言いますか、非常に「らしい」SSだったなと思いました。
8.100サンハッピー削除
長い文は好きなので読み応えのある作品でした。
似たような境遇(といっても幻想郷みたいな年齢関係ない世界ではないですが)なので
ところどころ共感してしまいました。
とてもよかったです。