とある良く晴れた秋の日、幻想郷はかつてないほど静まり返っていた。
人間、妖精、妖怪、神――ありとあらゆる種族は姿を消し、山野にはただただ鳥や虫の鳴く声が聞こえるのみである。
まるで異変、いや、これは正真正銘の異変と言えよう。
なぜなら――
「――はいはい! 順番通りにお願いします!」
「もうすぐゲート開くから、押さない押さない!」
「ゴミはその場に捨てないようお願いします! 飲食物の持ち込みもOKですからねー!」
「ハイそこ喧嘩しない! 出禁になっちゃいますよ!」
「――お待たせしました! 各ゲート開きますッ!」
「中に入ったら引き続き係員の指示に従ってください!」
「では皆さん、心ゆくまで楽しんでいってくださいねッ!!」
『万』を軽く超える数の者達がただ一ヶ所に集まる事など、かつて前例がないからだ。
場所は幻想郷の中心に位置する博麗神社の麓、そこに突如姿を現した巨大な円形闘技場、キングドーム。この幻想郷に存在する数多くの建造物が全てが豆粒に見えてしまうほど、規格外のサイズである。
ドームの入場ゲートから伸びる人妖神入り交じった数本の長蛇の列は最後尾が確認できないほど長く、百を超える天狗たちと妖精メイドたちが、その整理に飛び回っている。
当初、一万はおろか一千にも満たない集客であろうと予想されていたこの『幻想郷野球フレンドリーマッチ』。
しかし妖怪の山の全面協力のもとで広域に宣伝活動をした事と、妖怪、妖精の大御所が試合に参加する関係で、大規模な応援団体が形成された事などが重なり、この通りめでたく超満員での開催となった。
その数、実に六万一千。
幻想郷の総数とも思える、膨大な数である。
「――すご……! これみんなお客さんなんだよね!」
「そうよ。主催者として、こんなに嬉しいことはないでしょう?」
「うん! 最高!」
「さて、ぼちぼち私達も準備を始めましょうか。宣誓の台詞、ちゃんと覚えた?」
「何とかね! 忘れたらフランのちょっと後に言うから大丈夫!」
「あらら。フランちゃんも同じ事考えてたらどうするのよ」
「その時はその時! なんとかなるよ!」
「うふふ、それだけ余裕があれば大丈夫そうね」
始まりは、とある妖怪少女のちょっとした思い付きからだった。
そこに人が集まり、思い描き、誤算があり、紆余曲折があり、難儀難題を乗り越え、そして迎えた今日のこの瞬間。決して平坦な道程だったわけではない。
「――みんな、そろそろ行くよ!」
「フン……待ちくたびれて寝るところだったわ」
「お! いよいよだな! 腕が鳴る気がするぜ!」
「そういえばフラン、宣誓の台詞、ちゃんと覚えた?」
「一応ね。わかんなくなったらこいしのちょい後に言うから大丈夫でしょ!」
「おいおい、こいしがおんなじ事考えてたらどうすんのさ?」
「信念と情熱でなんとかなるよ!」
「ふふ、それだけ余裕があれば問題なさそうね」
大会を開催するにあたっての課題も少なくはなかった。
観客同士の(特に種族が違う者達の間での)トラブル、ドーム内で消費される膨大な電力の確保――しかし、それも有志の協力により解決を見た。
前者はメイド妖精及び哨戒天狗達の正確な誘導や取り締まりによって大きなトラブルなく事が運んでいるし、後者は河童の技師達総出の働きによって滞りなく電力が得られている。
「――皆さん、準備はオッケーですか!」
「いちいち確認せんでも見りゃ分かんでしょ」
「む! 霊夢さん、キャプテンに向かってその口の聞き方は見過ごせませんね!」
「五月蝿いわねえ。あんたちょっと入れ込み過ぎなんじゃないの?」
「入れ込んで何が悪いんですか!」
「あはは、喧嘩するほど仲が良い、ってね!」
「たまには私らもやってみるかい?」
「お? 珍しくやけに昂ぶってるじゃん、神奈子!」
「あんたもね、諏訪子!」
その他の課題も、やはり多くの裏方に回ってくれた人々の努力により、円滑に事を運べているのである。
そして、そんな裏方の人々が、こぞって口にした言葉がある。曰く、
――お金とかはいいから、最高の大会にして下さい!
だからこそ、何よりも今日という日に全力を注ぐ事が出来て、何よりも今日という日を心から楽しむ事が出来る。
まさしく今日は野球日和。晴れの舞台である。
「――またこうして大観衆の前で野球が出来るとはね」
「そうですね。柄にもなく、私も少し昂ぶっています」
「ねえ永琳、貴女がパーフェクトやった試合、憶えてる?」
「勿論。あの時心から祝福してくれたのは姫様だけでしたね」
「嫌になるような縦社会だったからねえ。でも……」
「皆さんそろそろ行きますよー! 準備はいいかー!」
「「「「「たのもーッ!!」」」」」
「た、たのもー……!」
「この子達なら、きっと皆で祝ってくれると思うわよ」
「ふふ、私もそう思います」
スタンドは続々と押し寄せる観衆で見る見るうちに満杯へと近付き、それと比例するように選手たちの士気は上がっていく。
自分たちを見るためだけに集った六万超の観衆を前にしたプレー、想像しただけでも膝が震えてきそうな状況において、誰一人怖気づいた様子はなく、むしろうずうずしている印象さえ見て取れる。
個人として、チームとして、ここまでの時間で培ってきた野球に対する全て――皆、それを早く見せたくてたまらないのだ。負い目一つでもあったならば、ここまで毅然とはできないだろう。
やがて観客全員の収容がほぼ完了し、スタンドでのどよめきは少しずつなりを潜めていく。
自分達はもう着席したぞ、だから早く始めてくれ――皆、騒ぎ叫びたくなる衝動をぐっとこらえ、次のステージへ移行できる状態にあることをアピールしているのである。
一方ダグアウトの選手達も、静まっていく観客達の様子から出番が間近に迫っている事を感じ取り、雑談をやめて静かに入場のコールを待つ。
いよいよもって緊張感が高まるキングドーム、そんな中、一塁側のベンチから一人の少女が現れ、ゆっくりとした足並みでホームベースの方へと向かって歩いていった。
右手に刀の柄に似た黒い何かを持ち、幾万の観衆の注目にも眉一つ動かさず、そうして少女――稗田阿求は、ホームベースの手前で立ち止まって東西南北四方向へ深々と頭を下げた。
『皆様、本日はお集まり頂き、まことにありがとうございます。この晴れの日を迎えられましたのも、皆様の深い慈悲のおかげと、心より御礼申し上げます』
黒い何かを口元に当てて話す阿求の落ち着いた声は、天井に吊された巨大なスピーカーから轟音となって、ドーム全体へと響き渡る。
未知の領域といえるその音に肝を潰す者もいそうなものだが、阿求の丁寧な、悪く言えばあまり面白みのないスピーチからか、観客の反応は少ない。
が、幻想郷の歴史を代々綴る稗田家当主が、これで終わる筈がなかった。
『――と、堅苦しい事はやめにしましょう……』
表情も口調もそのまま、しかし、例えるなら導火線に火が点いたかのような危うさでもって、阿求は言葉を区切った。
観客『?』
『さあ! これから始まる幻想郷史に残る歴史的な闘い、しかとその目に焼き付けろッ! 一瞬たりとも見逃したなら後悔噬臍、晴天霹靂! みんな、瞬きを一切しない覚悟は出来てるかァ!!』
観客『――!!?』
『返事が聞こえないッ! で き て る か ァ ! ! ?』
観客『うおおおおおおおおおおおおおおおおォォォォォォォォォ!!』
もはや轟音を超えて爆音、しかも煽り要素満天のアナウンスに、観衆の我慢の箍は派手に吹き飛んだ。
応える六万人の魂の叫びに、ドーム全体が地震でも起きたかのように震えている。
そして――
「――さあ、行くよ! みんな!!」
「ええ! 宣誓しっかりね、こいし!」
「さて、楽しませてもらおうかしらね! 行くわよ咲夜!」
「はい、お嬢様!」
「っしゃあ行くぞおらァ!」
「いざ参る!」
「さあ、晴舞台よ! 二人とも準備は出来てるわね!」
「行こう! 橙!」
「ばっちりです、紫さまっ! 行きましょう、藍さまっ!」
その魂の叫びは――
「――よーし、行くぞーッ!!」
「行かざァ!」
「よっしゃ! やるかァ!」
「フン、それなりに楽しめそうね……!」
「っしゃあ! 気合い十分だぜ! なあアリス!」
「(――!)もちろんよ!」
「私の拳が熱く燃えるッ!」
「はは! 勝利を掴めと轟き叫ぶ、ってね!」
「さあ、私達の力を見せてあげましょう!」
さらなる力となって――
「――皆さん! 準備はいいですねっ!?」
「しつこい。んなもん出来てるに決まってんでしょ!」
「さあお姉ちゃん、今が誰の季節か、みんなに教えてあげましょう!」
「もちろん! きっといい試合が出来るわ!」
「盟友たちよ! 電力の供給は任せたぞッ!」
「いつもより多く回れそうだわ!」
「なにをにやけてんのさ、神奈子!」
「あんたもね、諏訪子!」
「うおっしゃあァァァァァァァァァァァァァ!」
選手達のもとへ――
「こあッ!!」
「チルノっ!!」
「ミスティアっ!!」
「リグルっ!!」
「ルーミアなのかっ!!」
「だ、大妖精っ……!」
「てゐっ!!」
「輝夜ァ!!!」
「永琳!」
「「「「「「「「「行っきまーす!!!」」」」」」」」」
しっかりと届いた――!
『その意気や良しッッ!! 選手入場ォォォォォォォォォォォォッ!!!』
野球しようよ! SeasonⅩ
『『宣誓ッ!!』』
『『私達!』』
『『選手一同は!』』
『今日という日を迎えられたことに!』『支えてくれた数多くの方々に!』
『『………』』
『『感謝し!』』
『これまで積み重ねてきたものを!』『仲間と共に培ってきたものを!』
『『………』』
『『信じて!』』
『『………』』
こいし、フランドールの両キャプテンによる選手宣誓が、ドーム内に流れている。
当初はこの大会の大本の発案者であるこいし単独での宣誓の予定だったのだが、そのこいしの「フランと一緒にやりたい」という強い希望があった事、それをフランドールが快諾した事により、こうして異例の二名による宣誓となった。
しかし、今日までほとんど休みなく練習に励んでいたため、宣誓の台詞を憶えている時間がなかった事と、互いにキャプテンという立場上、打ち合わせという名目があったとしても軽々しく顔を合わせるべきではないという考えから、二人はほとんどぶっつけ本番での宣誓で、うまく台詞が噛み合わない。
さらにまずいことに、二人揃ってそこから先の台詞を完全に忘れてしまったらしく、超満員の広大なドームに不自然な沈黙が訪れる。
「あらら……固まっちゃったわねえ」
「こうなると厳しいわね……」
「ふ、いらぬ心配よ。私の妹とその親友を見くびらないで貰いたいわね」
「お嬢様、紅いオーラがだだ漏れですよ……」
「フラン様、頑張ってください……!」
「あら……何かひそひそ話をしているようね」
「台詞合わせか? 私だったら言いたいこと言っちゃうけどなあ」
「皆が皆、貴女みたいに図太くはないわ」
落ち着かない様子で二人を見守るチームメイト達。そんな心配を知ってか知らずか、壇上の二人はスピーカーから音が出ないようにしつつ、何かひそひそ話を始めていた。
沈黙に少しずつざわめきが交じってきている。待つことに慣れていない幻想郷の住人達だから、痺れを切らすのも早い。
『――きっかけは、私の何でもない思い付きからでした』
そんな中、ふいにスピーカーから流れた澄んだ声に、ざわめきがぴたりと止む。
ここまで二人の同時進行だった宣誓だが、再開された今はこいし単独で、しかも声色、内容ともに先程までとは大きく違う。
宣誓というより、まるでスピーチのようである。
『ただ漠然と、野球がしたい、って、ほんとにそれだけだったんです。そこからどんどん話が大きくなって……正直、その重さに耐えきれなくなりそうだったこともありました。――でも、いつでも私を支えてくれた人達が、確かにそこにはいたんです。だから私は、ここまで来れた。当たり前だけど、私一人じゃ、今日を迎えることは出来なかったと思います』
それはスピーチなどではなく、告白と呼ぶほうが正しいであろう言葉だった。
決められた台詞だけでは言い表せない、伝えたい想いを詰め込んだ告白だ。
野球がしたいと思い立ち、白玉楼の主従と出会い、紫に見せられたキングドーム、フランドールを誘い、紅い大砲のチーム加入、初めてのチーム練習、そして苦悩があり、乗り越え――
思い出していけばきりがないそれら全ては、一人では出来なかった事である。
『今日があるのは、アルティメットブラッディローズのみんな、対戦相手のみんな、裏方で支えてくれるみんな、そして私達を見るために集まってくれたみんなのおかげです。ほんとにほんとに、ありがとう!』
だから、伝えなければいけない。自分の意志と、自分の言葉で。
そうしてこそ、自分がどれだけ感謝しているかが、少しだけでも分かってもらえる筈だ。
『――私はずっと、憧れていた』
そしてそれは、フランドールも同じだ。いや(比較するのは無粋かもしれないが)、その気持ちはこいし以上であろう。
『みんなと一緒に野球をする事に、ずっと憧れていたの。初めて野球を知ったのは、ほんのちょっと前の事。こいしが教えてくれたんだよ? それで、その時に一つのボールをくれたのが、私の野球の始まり。それまで何をするにも無気力だった私が、初めて心からやってみたいと思ったもの、それが野球だった。だけど……私は、吸血鬼で、異端児。私なんかがみんなと一緒にプレーできる筈がない……そんな風に諦めて、次の一歩を踏み出せないままだった』
地下に籠もってルービックキューブを早解きしていた日々から、こいしに誘われて天和大四喜四暗刻字一色の五倍役満へ、そして紅い大砲との対決、マーガトロイド邸のドアに風穴を空け、萃香と取ったSUMOU、初めての人里で交わしたグーテンモルゲンに、藤原邸での撥単騎待ち、そして、一度は諦めかけた野球と、煤だらけの皆の『野球しようよ!』の言葉――
様々な出会いと経験、全ては、こいしとの出会いから始まった。
『そんな風に燻っていた私を、こいしは連れ出してくれた。こいしがいなかったら、私は野球に出会えなかったし、今ここにはいない。ほんと私って、こいしにもみんなにも、助けられてばっかりで……。だから私、たくさん練習したよ! みんなのおかげでここでプレーが出来る、それを無駄にしたくないから! がっかりさせたくないから! だから――』
何千、何万回「ありがとう」と言っても足りない感謝、それを伝えるには、もはや言葉では叶わない。
だから――
『『だから、私達選手一同は!』』
『『この感謝を一つ一つのプレーに込めて!』』
『『最後の一球まで決して諦めず!』』
『『全力で闘い抜く事を誓います!!』』
自分が出来る最高のプレーで、最高の大会にする――それが、今の自分に出来る、一番の恩返しだ。
観客『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおォォォォォォォォォ!!!』
そんな二人の気持ちは、6万の観客へと確かに伝わった。
その証として、普通宣誓では起こり得ない、この万雷の拍手と大歓声である。
また、壇上の『大会統括役兼審判長』四季映姫も、あえてその歓声を止めるような事はせず、自然と収まるのを待つ。
間髪置かずにルール説明に移る予定で、普段であれば「静粛に」という厳格でよく通る声が響くであろう場面だが、そこはさすがの楽園の最高裁判長、ルールで縛り付けて興を削ぐような不粋な真似はしないのである。
やがて歓声は段々と鎮まっていき、それを確認した映姫がマイクを手に取る。
そして、これまた普段は滅多に見せることのない爽やかな笑顔で、口を開いた。
『――素晴らしい宣誓でした。両キャプテンだけでなく、ここにいる選手全員から、今の宣誓が嘘偽りでない事を納得できるだけの意気を感じます。きっと、素晴らしい大会になるでしょう。改めて言います。本当に、素晴らしい宣誓でした』
三たび普段はまず見られない最高裁判長の誉め言葉に、歓声こそ起きないものの、ドーム全体の雰囲気が一層明るくなる。
普段誉めない人物の誉め言葉には、それだけの力と価値があるのだ。
『では、これよりルール説明に移らせて頂きます。私の向いている方向にあります電工掲示板を御覧ください』
映姫は一旦そこで話を区切る。すると、バックスクリーンの掲示板に十数名の死神(覆面をした小柄で威厳ある人物が一人交じっている)が映し出され、同時に『5分で分かる優しい野球入門』という文字が浮かび上がった。
『野球には無数の細かいルールがあり、全てを説明するとなると日付が変わってしまいかねません。選手には事前に資料を送付してありますが、スタンドの皆様の中には野球を知らない方も多いでしょう。そこで、是非曲直庁の協力の下、大まかではありますが映像資料を作成しました。しばしのご清聴をお願い申し上げます』
そして映像が動き始め、勝敗の決まり方、得点が入る過程、SBOのカウントとチェンジの仕組み等々、野球の根本を成すルールが丁寧かつ効率的に紹介されていく。
心なしか覆面以外の死神達の顔色が芳しくない(何かに怯えている様子)ようにも見えるが、各員が大きめのアクションでよく動くため、非常に分かりやすい。
続いて各ポジションの簡単な役割説明や、タッチアップ、フォースプレー、インフィールドフライといった少々複雑なルールも紹介され、有意義な5分が終わる頃には、観客の顔はますます火照っていたのだった。
早く本番が見たい――皆にそう思わせるのに、この映像には多大な効果があるのである。
『ご清聴ありがとうございます。今の映像だけですぐに理解するのは難しいかと思いますが、これから行われる試合を見れば、自然と野球がどういうものか分かるはずです。どうぞ、ご期待ください。では、続きまして、ここからはこの大会にのみ適応される特殊ルールについて説明します』
選手一同「――……!」
基本ルールと違い、こちらは選手達も初めて聞くものである為、自然と顔が引き締まる。
『まず一つ目、飛行を含めた特殊能力使用の原則禁止です。これに関しては説明するまでもないでしょう。二つ目は、守備や走塁での走行や跳躍、簡単に言えば走力に関するものです。選手各員、十日前に体力測定をしたのを憶えていますね?』
大会開催のちょうど十日前、各チームのもとに死神が訪れ、誤魔化したら映姫様に舌ベラ引っ込抜かれるからねー、と一言添えられた上で、走力と跳躍力に関する体力測定が行われた。
脅しに等しい一言の効果もあって誰一人手を抜いた者はおらず、正確なデータが取られたのだが、種族の違いもあってその差は歴然たるもので、例として守矢チームで行われたダイヤモンド一周のタイムを挙げてみると、一番速かった諏訪子と一番遅かった早苗との間に十秒以上の差があった。
さらに深刻だったのが跳躍力だ。飛行能力を使わなかった場合の垂直跳びでは、同じく守矢チームで一番高かった諏訪子と一番低かった早苗との間に、なんと十倍近い差が出てしまっていたのである。
『結果は知っての通り、チーム内ですら看過する事が出来ない程の差がありました。これをそのままに試合を開催した場合、センターに抜けるはずの打球がサードゴロになったり、ホームラン性の打球がことごとくフライアウトになったりと、飛行を禁止した意味がないような、野球の面白さを台無しにしかねない事態が起こり得ます』
「フン……分かり切っていたことよ」
「これってどうにかなるもんなのかなあ」
「ドキドキ……」
「うどんげ、心配か?」
「そ……そだらごどねじゃ!」
野球の体をなさない――それに関して、各チームは同じ対策をもって練習に臨んでいた。
それは、ポジション毎の守備エリアをある程度決める事である。
つまり、ヒットゾーンと定めたコースに飛んだ(と判断した)打球は追わず、少し頑張って跳んだら届くホームランを見送る、といった按配だ。また、盗塁に関しても、極力控えるようにしていた。
しかしそれは、言い換えれば「手抜き」と言われても仕方がない行為で、それを不安視する声は、大会開催が決まった当初よりあるものだった。
さらに、先程の宣誓で高らかに『全力で』と言ってしまった為、その不安は今になって更に大きくなり、選手達の表情が曇っていく。
『では改めて、二つ目のルールは、選手一人一人に一定の距離を課す、というものです。小野塚小町、壇上へ上がってください』
『――うぃーっす!』
「距離……成る程、さすがは閻魔様」
「およ? 静葉様、分かるんですか?」
「ええ。足の速くない私達にはあまり関係がない事よ」
「はは(この神様、たまにさらっと毒舌だよなぁ……)」
小野塚小町――その名前がコールされた瞬間、一部の選手達の表情が晴れる。
というのも、距離を課す、という難解なルールが何を意味するのかが分かったからで、同時に自分達が抱える問題が解決されるのを確信したからだ。
『あーい皆さん元気ですかー? みんなのアイドル小野塚の小町っちゃんですハイ拍手ー『……小町』って、すみませんごめんなさいもうしません!』
「この大観衆と閻魔を前によくもまあ……」
「ふふ、目立ちたがり屋のようですね」
「「「「「「「うずうず……」」」」」」」
「いい事だわ」
「ええ、いい事ですね」
『えー、只今紹介頂きました、大会統括役補佐兼副審判ちょ『……小町』すみませんごめんなさいただの映姫様の助手を務めさせて頂きます、小野塚小町と申します。以後お見知り置きを』
映姫のしっかり纏められたスピーチとのあまりの温度差に、スタンドから笑いと拍手が巻き起こった。
嬉しそうに四方の客席へと手を振る小町だが、それをまたしても映姫にたしなめられてあたふたなどしているから、再び各方から笑いが起きている。
『……ここからは私が説明します。この小野塚小町は、距離を操る事ができる能力を有しており、体力測定で記録を取った数値を元に、この距離を各選手へと課させて頂きます。とは言いましても、各個の走力を均等にする訳ではなく、走力の高い選手は相応に高くあるよう、私の判断基準で課す距離を決めさせて頂きました。そうでないと、本来速く走れる、高く跳べる選手にとって不公平ですからね』
大変だったんだこれが、などと言いつつ小町は舌を出して苦笑いしている。
『また、課された距離を走る際に生じてしまうであろう不自然な足の動きは、外界の有志により解決を見ました。二ッ岩さん、どうぞ壇上へ』
「二ッ岩……初耳ね。何者?」
「私も初耳です。どうやら死神のようですね」
「――いや、あれは化けているだけさ。本来の姿は大狸だよ」
「へえ、見事な変化の術だわ。それより藍、狐と狸、面識がありそうな物言いね」
「佐渡の狸、二ッ岩大明神。日本では有名だよ。……紫様、あなたが?」
「野球好きに悪い奴はいない、ということよ」
映姫に招かれたとある死神は、バツが悪そうに階段を上っていき、壇上へ辿り着いたと思った刹那、白煙とともに巨大な狸の尻尾を携えた眼鏡っ娘へと姿を変えた。
それを見た選手達とスタンドから「おおー!」と歓声が湧き、二ッ岩マミゾウはより一層照れ臭そうに頭を掻く。
『あー、うん。正直、こんな場所で喋るつもりじゃなかったんで、何を言おうかも全く考えてなかったんだが……二ッ岩マミゾウと申します。どうぞお見知り置きを』
「おっきな尻尾! 一本だけしかないのに、藍のくらいもっふもふだよ!」
「何を言う。私の方が俄然もっふもふに決まってるじゃないか。なあ橙」
「ふわー……もっふもふだー……」
「ち、橙……?」
「釘付けね。ほら藍、泣かない泣かない」
『最初にちょいと言わせてもらいたいんだがね、閻魔様の言うとおり本当に素晴らしい宣誓だったよ。あれが聞けたってだけでも、今日ここに来てよかった、と思えるくらいね。……で、肝心の儂のお役目の話なんだが、うだうだ説明するより実際見てもらったほうが早いだろう。てなわけで――』
目を閉じて背筋を伸ばし、軽く息を吸い込んだマミゾウは両掌をパンと合わせる。
観客『!!!』
選手一同「!!?」
次の瞬間、フィールド内で整列している選手全員が、突如白煙と共にマミゾウの姿へと変化した。
唖然とするスタンドの観客達、そして顔を見合わせる選手達(中には隣のマミゾウの尻尾を熱心に触ろうとしている(変化しているだけなので触れられない)者もいるが)。
会場内のそんな反応を確認したマミゾウがもう一度両掌を合わせると、数十のマミゾウは再び白煙と共に元の姿に戻る。
『えー、お粗末様でした。まあつまりこれの応用で、不自然に見えないようにするわけだよ。うん。はい、儂からは以上です』
はたまた照れ臭そうにぺこりと頭を下げ、壇上をあとにするマミゾウ。
『――二ッ岩さん、ご協力感謝します。皆さん、今一度二ッ岩さんに盛大な拍手をお願いします』
選手&観客『ワー! ワー!』
直後に会場全体から大喝采を受け、照れ臭さのあまりか再び最初の死神の姿に変化してしまったのだった。
また、その隣ではもう一人の立役者である小町が「あたいの分は?」などと言いながら軽くふてくさっている。
『ルール説明は以上です。質問または意見がある選手は、後ほど私の所へ来てください』
質問なんてないけど、あっても行く人はいないだろうなあ……球場にいる全員が思った事だった。
『続きまして、この大会における賞について発表します』
「……!」
「わっ!? ど、どうしたの突然」
「……天ちゃん、発表中霊夢に話し掛けないほうがよさそうだよ」
「こ、恐い……」
『大会優勝チームには、チャンピオンの証となる金糸で紡がれた大優勝旗が、またチームに所属する全員に、純金の優勝メダルが贈られます』
「純金の……メダル……純金!」
「こ、恐いよ穣子様……」
「……静かに。まだ続きがあるみたい」
『そして、そのチームの中で最も優勝に貢献した選手には、最優秀選手賞として、私の出来得る範囲で、また倫理を踏まえた上で、という条件付きですが――』
ここまで一定のペースで話していた映姫が、この日初めて取った少しの溜め。
それは計らいか無意識か、ともかく、球場全体が一斉に固唾を飲んだのは間違いない。
『――どんな願いでも、一つだけ叶えます』
選手&観客『!!!』
そして、飲んだ固唾を裏切らない驚天動地の内容に、会場はしんと静まり返った。
皆、どう反応したらいいのか分からないのである。
『賞の発表は以上ですが、選手の皆さんに個人的なお願いがあります。どうか、賞を取ることに捉われ過ぎて、チームを見失わないでください。皆さんは、チームあっての存在です。それを蔑ろにするプレーヤーに――……失礼。どうやら余計な心配だったようですね』
言葉を途中で止め、少しだけ苦笑しながら映姫は軽く頭を下げた。
それは、自分の言葉に対する選手たちの「見くびらないでくれ!」と言わんばかりの反応を見ての行動だったのだが、天下の閻魔様が頭を下げる姿など、普段でなくともまず見られるものではない。
逆に言えば、それだけ選手たちの『無言の意志』が強かった、という事である。
『では、選手の皆さんの健闘を祈ると共に、この大会を彩ってくれる方たちを紹介し、私の話の締めとさせて頂きます。盛大な拍手でお迎え下さい。音響、プリズムリバー管弦楽団の皆さんです』
紹介が入ると、スピーカーから重厚な響きの『私を野球に連れてって』が流れ始めた。
会場の雰囲気をより盛り立てるその旋律に、自然と拍手が沸き起こる。
『――本日はご来場まことにありがとうございます。皆様とこの素晴らしい時間を共有出来ます事を、心より嬉しく思います』
そして、曲の邪魔になることなく、いや、むしろ曲に乗っているかのように響く、優しい声。
「おーっ! レティの声がする!」
「何、あんた知り合いなの?」
「勿論! だってあたいとレティは、穴兄弟みたいなもんだからさ!」
「チルノちゃん、それ言うなら、義兄弟じゃ……(でも、どっちかっていうと親子って言われる方がしっくり来るかなあ)」
『ただ今の声の主、ウグイス嬢、レティ・ホワイトロックさんです』
よろしくお願い致します、と答えるレティの美声に、会場の拍手は一段と大きくなった。
紹介はまだまだ続く。警備と整理を担当する、哨戒天狗連隊、紅魔館所属図書館防衛隊。電力の確保は、妖怪の山技工組合の河童たち。医療班に、永遠亭の兎たち。バットボーイ、ボールボーイを買って出た、地底の野球好きたち。
それぞれ名前が場内に響くたび、拍手はそれ以上の拍手によって塗り潰されていくのだった。
『――最後に、大会進行役兼記録員、稗田阿求さんです。では、ここからは稗田さんに進行をお願いします。皆さん、これから始まる幻想郷史に残るひととき、共に楽しみましょう。大会統括役兼審判長、四季映姫ヤマザナドゥがお伝えしました』
一礼し、壇上を後にする映姫に、球場全体からここまでで一番の拍手が送られた。
入れ代わりで壇上に上った阿求も同様に拍手を送り、その見事なスピーチを讃えている。
その後しばらく称賛の時間は続き、やがてそれが段々と治まってきたのを見計らって、阿求は一礼した。
『映姫様、ありがとうございました。私もいつか、こんな風に立派なお話が出来るようになりたいものです。では、これにて開会式の終了ならびに、特別企画……ホームラン競争の開催を宣言いたします!』
「ホームラン競争? へぇ、そんなのやんだね。パチュリー、知ってた?」
「初耳よ。というより、私もフランも、たぶん他のチームの皆も知らない事だと思う」
「そっかそっか。まあ何にしても、楽しそうだね!」
「妹紅、あなた出てみる?」
『各チームは、ピッチャーとキャッチャー、そしてバッターの3名を選出し、電光掲示板の時計が八時三十分になった時、代表者のバッターをホームベース前まで送り出してください! 持ち球は各チーム十球、その十球で、どれだけホームランを打てるか、それを競い合って頂きます! そして、見事トップを飾ったチームには、知る人ぞ知る金細工の匠、鬼河原大豪月先生の手によって仕上げられた、大打者のレリーフが彫り込まれた純金の盾が贈られます! 選手の皆さんは、どうぞ振るってご参加ください! そしてスタンドの皆さんッ! 弾丸ライナー、大飛球、はたまた打ち損ねのファールボールがガンガン飛んでいきますので、十分にご注意下さいねッ!!』
観客『うおおおおおおおおおォォォォォォォ!!』
最初の『ホームラン競争』というフレーズだけではいまいち何をするのか理解し切れていなかった観客達も、阿求の派手な煽りを受け、何か楽しいことが始まるというのを理解して歓声を飛ばす。
「よっしゃ! 派手にやるかァ! ぱっつぁんぱっつぁん! 私にやらしてよ!」
「私は構わないけど、妹紅、あなたは?」
「ウチのチームでホームランっつったら、やっぱ萃香だよ! つーわけで、私は応援に回るよ!」
「サンキュー、もこたん! もこたんの分までかっとばして来るよ!」
「萃香、ファイトっ!!」
「任せろキャプテン!!」
もちろん、当事者の選手たちはそれ以上に意気揚々だ。
バッター決めに関して少しばかり争いがあったチームもあるようだが、八時半少し前、選りすぐりの打者たちがホームベース前に集合した。
伊吹萃香、レミリア・スカーレット、博麗霊夢、リグル・ナイトバグ――各チームが、自信を持って送り出した4人である。
「あらリグル、久しぶりね。調子はどう?」
「ばっちりですレミリア姐さん!」
「……その呼び方はやめなさい」
「よっ! 姐さん!」
「黙れ伊吹鬼」
「………」
「あら霊夢、震えちゃって、柄にもなく緊張してるの?」
「……姐さん姐さん、今霊夢に話し掛けないほうがいいよ」
「何がよ」
「耳澄ましてみれば分かるよ」
「耳を? ふむ……」
「……純金、盾、純金の盾、ゴールドシールド……くくくく……」
「……そのようね」
知る仲同士、少しの雑談をしている間に時計は8時半を指し、阿求が四人のもとへ合流。手短にルール説明が行われた。
内容は、まずホームランの飛距離や飛んだ位置に優劣を付けない(つまり、一本は一本)こと。特例として、天井から吊り下がるスピーカーに当てる、所謂認定ホームランを打った場合、二本分としてカウントされるということの二つである。
「そのまま天井に当たったら?」
「飛球扱いです」
「分の悪い賭け、ってことね」
そしてじゃんけんによる順番決めが行われた後――
『皆さんッ! 大変長らくお待たせしましたッ! それでは、ホームラン競争、スタートですッ!!』
阿求の熱いコールによって、ホームラン競争が始まった。
一番手は、フランドールチーム改め、フランドリームスの4番、伊吹萃香。
ピッチャーのアリス、キャッチャーのパチュリーと共に、大歓声に応えながら右打席に入る。
「さぁーて、行こうかッ!」
左のアンダーから投げ込まれる、真ん中高めの、第一球――
ゴァキイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィン!!
観客『――!!』
ボールの無事を疑いたくなる程の豪快な打球音、そして、初速が早すぎて見ている場所によってはどこへ飛んだか分からなくなってしまう程の凄まじい打球。
左翼のポールの遥か上空、放物線ではなく弾丸ライナーで、それはキングドームの天井へ直撃した。
「――ファールボオッ!!」
「ありゃ、しまった! はっはっは!」
飛距離は文句なし、しかし飛んだ場所が悪く、結果はファール。
「ちっ……あのバカ」
「しっかし、やっぱ萃香って化け物だよなあ……」
「天井、無事かなあ」
そこから先も、飛距離こそ完璧なれど同じように左翼側に切れるファールが2球あり、最終結果は7本に終わった。
「アリス、ナイスコントロールだったよ! ありがとさん!」
「いえいえ。あれだけ飛ばされると、なんだかこっちも気分爽快よ」
しかし、打った本人は至極満足そうで、何よりも7本という結果はかなりの高水準である。
そして、それ以上に意味があるのが、他3チームに与えるインパクトだ。
長い尺のバットをまるで小枝のように振り回すスイング、それによって生み出される規格外の打球、それらが萃香の存在感を大いに高めた事は疑いようもない。
「「「「「「リグル、ファイトー!!」」」」」」
「うんっ! みんな、見ててね!」
続いて2チーム目、紅魔ライブラリーガーディアンズ代表のリグルが左打席に入った。
このリグル、チーム内での打順は1番で、決して長距離打者ではない。
ではなぜチームの代表になったかというと、じゃんけんに勝ったからである。
「行くわよ、リグル!」
「よろしく、永琳、輝夜!」
「まっかせなさい! 主に永琳に!」
とは言っても、もちろん遊びのつもりなどない。
この日のために毎日バットを振ってきたリグルのスイングは確実に速くなっており、加えて永琳の完璧にコントロールされた球の効果もあって、放たれた打球は白玉楼のテストの時とは一味も二味も違った伸びを見せた。
「ホォーーームランッ!!」
「ありがとうございましたっ!」
最後の一球もライトスタンドへ運び、結果は四本。
萃香が派手にやらかした後というのもあり、最初はあまり大きくなかった歓声も、今では萃香の時と同等の大歓声となり、リグルを讃えた。
「ふふ……」
「お嬢様、嬉しそうですね」
「あら、咲夜もじゃない」
「この分だと、他の子達も要注意ね」
『それでは、守矢シャイニングバーニングライトニングス、博麗霊夢選手、お願いしますッ!』
「……? 何だかいつもと様子が違いますね。霊夢」
「……さとり、あなたなら分かるでしょう?」
「ええ。心の声を聞くまでもなく」
「どういう事ですか?」
「咲夜、しっかり刮目なさい。霊夢の本気なんて、まず滅多に見られるものじゃ無い」
キィィン!!
諏訪子がオーバースローから投げ込む内角高めのボールを、霊夢はコンパクトなスイングで捉えた。ホームランを狙っているとは思えないような、自然体に限りなく近いスイングである。
打球音も相応に、鋭いながらも小さいもので、これではせいぜい外野の間を抜ける打球が精一杯ではないか、と感じさせるものだ。
しかし、
「ホォォォーームランッ!!」
そんな単純な考えで、本気を出した博麗の巫女を測ることなど出来ない。
ボールはレフトスタンド最前列にきっちりと飛び込み、初球を飾る。
そして、圧巻なのはここからだ。
キィィィン!!
「ホォォーームランッ!!」
キィィン!!
「ホォーーームランッッ!!」
「嘘……!」
「こんなのって……」
「流石としか、言いようがないわねえ」
キィィィィン!
「くくくく……随分煽ってくれるじゃない……!」
「そうこなくちゃ、張り合いがないぜ!」
「……萃香、キング取れなくて残念だったわね」
「はっはっは! 楽しかったから構わないさ!」
キィィィィン!
「よし、ラストだ!」
「オッケー!(やばいねー、ストライク投げるだけだってのに、えらく緊張してきちゃったよ……!)」
諏訪子が投じた、僅かに外側に逸れた高めの十球目――
キィィィィン!!
緊張など微塵も感じさせない完璧なスイングで捉え、放たれた打球は導かれるようにレフトスタンドへと向かっていった。
「ホォォォォォォーーーームランッ!!」
『決めたァァァァーーッ!! 霊夢選手、記録十本! パーフェクト達成ーーッ!!』
十の十、本塁打率十割のパーフェクト達成である。
歓喜に湧く守矢チームと、バットを天に掲げて「ゴールドシールドォォォォォォォォ!!」と雄叫びをあげる霊夢。まるで優勝が決まったかのような振る舞いだが、観客たちも大歓声をもってそれに同調している。
何しろ、パーフェクトである。それを超える記録など、誰が予想できるだろうか。
「……やれやれ、何だか私がおまけで打席に立つような雰囲気ねえ」
「ですね。不愉快です」
「まあいいわ。黙らせればいいってだけの話だから。咲夜、いい球頼むわね」
「はい!」
『では、最後のバッターとなりました、アルティメットブラッディローズ代表、レミリア・スカーレット選手、お願いしますッ!』
歓声は小さい。
萃香の後に打ったリグルの時もそうだったが、今回はそれに増して特に小さく感じる。
キイイイィィィィィィン!
初球、レフトスタンド中段へと飛び込みホームランが出ても、スタンドから聞こえるのは「優勝は無理だけど、ナイスホームラン」などと聞こえてきそうな、同情的な拍手ばかりだ。
キイイイィィィィン!
二球目はバックスクリーン。ホームラン競争で初めてのバックスクリーン弾に、拍手が少し大きくなった。
キイイイィィィィィン!
そして、三本連続となった打球の着弾点は、ライトスタンド。流して入れたホームランである。
ここに至って、観客の中でざわめきが起こり始める。
「ねえパチュリー、お姉様は」
「ええ、狙って飛ばしてるわね。……ほら、次はレフト、しかも上段よ」
「……凄い……!」
五球目――
インコース少し高めを、バックスクリーンの電光掲示板へ直撃させる。
「ホォォーーームランッ!」
六球目――
アウトコース少し低めを、ライトスタンド三階席へ運ぶ。
「ホォォォォーームランッ!」
七球目――
ど真ん中を、弾丸ライナーでレフトスタンドへ突き刺す。
「滾る……滾るぞォォォォォォ!!」
「わあ!? ちょっと幽々子様、気持ちは分かりますが落ち着いて下さい!」
「――ふふっ、お客さん何だか引いちゃってるみたいね」
「ライナーでバックスクリーン……」
「本当、味方でよかったわねえ」
左、中、右、左、中、右、左、中……各方向に、性質の異なる打球で放たれていったホームラン。
その圧倒的なパフォーマンスに、いつの間にか歓声も拍手もなりを潜めていた。
それを裏付けるかのように、喧騒の中ではまず聞き取れないであろう咲夜のボールをリリースする「ピッ」という音が響く。
キイイイイイィィィィィン!
「ホォォォーーームランッッ!」
ライトスタンドへライナーで入れて、これで九本連続。次の一球を決めれば、霊夢に続くパーフェクト達成である。
余談だが、優勝賞品の盾が一つしか用意されていないため、同時優勝の場合はどうしたらいいのか、と阿求が困っていたりする。
「まあ、狙うでしょうね」
「うん、お姉様なら間違いなく、ね」
「ん? ……おいアリス、見てみろよ。霊夢の奴、不動明王みたいな顔んなってるぜ」
「乱闘騒ぎにならなければいいけど……」
そして、十球目。
咲夜が投じたのは――
観客『――!』
キャッチボール投げの、山なりの球。
そしてレミリアは、後ろ足を踏ん張り、上体を思い切り上に向ける。
そう、彼女が狙うのは、スタンドでもバックスクリーンでも、同時優勝でもない。
キイイイィィィイイィィィィィン!!
「「「行けッ!!」」」
高々と打ち上げられた打球――その向かう先にあるのは、スピーカーと、単独優勝。
ガンッッ!!
観客&選手『――!!』
「――インフィールドッ!」
この瞬間、ホームラン競争の優勝者が決定した。
記録十本。守矢シャイニングバーニングライトニングス、博麗霊夢である。
「………」
しかし、霊夢に先程までの喜ぶ姿は見られない。
表彰に呼ばれた際も表情を変えることなく、打ち終えたレミリアを鋭く見据えている。
その視線をレミリアもひしひしと感じていて、一瞬目と目を合わせると、不敵な薄い笑いと共に、どこか挑発的にウインクした。
「やってくれるじゃない……!」
そして、そんな分かりやすい煽り方をされては、楽園の素敵な巫女が黙っているはずがない。
先程までのもの(¥のマーク)とは違う闘志を目に宿し、受けて立つ、と言っているかのように、霊夢は笑った。
『霊夢選手、おめでとうございます! さあ、優勝の証となる盾をお受け取りください!』
「ん……ああ、キャプテンにでも渡しといて」
『え? あ、はい! 了解しました!』
余談だが、この時早苗に渡されて守矢神社に飾られていた純金の盾は、その数日後、何者かの手によって持ち去られ、騒ぎになったという。
「うーむ……」
「あら、何だか納得いっていないようね」
「あ、幽々子様。納得いかない、ってわけじゃないんですが、あそこまで正確にスピーカーを狙えるなら、何で最初から全部それ狙いで行かなかったのか、と……」
「……妖夢、あなたのあまりの無粋さ、私は悲しいわ」
「だ、だって……」
「だってもあさってもない。これは一ヶ月飯抜きレベルね」
「そんなあ……(ご飯作ってるの私なのに……)」
『それでは皆さん、優勝者を讃え、盛大な拍手をお願いしますッ!!』
阿求の言葉に、先程から静まり気味だったスタンドからようやく大きな拍手が沸き起こった。
ホームラン競争、これにて閉幕。そして――
『続きまして、第一試合の対戦チーム、その発表に移らせていただきます!』
観客『うおおおおおおおおおおおおォォォォォォォ!!』
対戦チームの発表、すなわち、本戦スタートである。
しかし……
「発表って……こあちゃん、キャプテン同士で相手決めなんてしてないわよね?」
「してないですねー。まさか、大会運営の方でもうブックが作成されてるとか?」
「閻魔様がそんな事許すかしら……ねえ永琳、どう思う?」
「ふふ、心配いりませんよ」
「「おおー……すっごい安心感!」」
盛り上がる観客とは裏腹に、対戦カードを決めた憶えがない選手たちは困惑気味だ。
どこと当たったら好都合、はたまた不都合、という事は別段ないにせよ、勝手に決められてしまうのは納得できるものではない。
『皆さん、バックスクリーンの電光掲示板にご注目くださいッ!』
そんな中、阿求のコールとともに一瞬暗転した電光掲示板に、ホームラン競争に出場した打者の名前が映し出された。
左から、霊夢、レミリア、萃香、リグルの順番、つまり、順位並びである。
「およ? ってことは、ウチの初戦は吸血おねーさんのトコ?」
「いえ、そんな短絡的ではないはず。恐らくアミダね。ほら、名前の下に線が伸びていく」
「はは(短絡的で悪うござんしたね神様!)」
皆の注目を一身に集める、それぞれの名前の下から伸びていく線。
途中にある無数の横線を経て、その下にある縦長の枠組みへと辿り着いた。
「――ははっ! 何だかこうなる気がしてたよ!」
「フン……神を称する力、伊達か否か確かめさせて貰おうかしら」
「やる気十分、勉強十五分です!」
「――霊夢! 勝負だよッ!!」
そして――
「さあ皆さん、気合い入れていきましょうッ!」
「当然! その調子だよ早苗!」
「はは、キャプテンも中々様になってきたじゃないか!」
「――フラン、勝負よ」
『第一試合は、フランドリームス対、守矢シャイニングバーニングライトニングスに決定致しましたッッ!!』
幻想郷野球フレンドリーマッチ、その闘いが、今まさに始まろうとしていた。
《アルティメットブラッディローズ》
投手:古明地 こいし(左投左打)
捕手:古明地 さとり(右投左打)
一塁手:八雲 紫(右投両打)
二塁手:十六夜 咲夜(右投右打)
三塁手:レミリア・スカーレット(右投右打)
遊撃手:西行寺 幽々子(右投右打)
左翼手:八雲 藍(右投両打)
中堅手:魂魄 妖夢(左投左打)
右翼手:橙(右投右打)
《フランドリームス》
投手:フランドール・スカーレット(右投右打)
捕手:パチュリー・ノーレッジ(右投右打)
一塁手:伊吹 萃香(右投右打)
二塁手:紅 美鈴(右投右打)
三塁手:霧雨 魔理沙(右投右打)
遊撃手:鈴仙・優曇華院・イナバ(右投左打)
左翼手:藤原 妹紅(右投右打)
中堅手:風見 幽香(右投左打)
右翼手:アリス・マーガトロイド(左投左打)
《紅魔ライブラリーガーディアンズ》
投手:八意 永琳(右投両打)
捕手:蓬莱山 輝夜(右投右打)
一塁手:小悪魔(右投右打)
二塁手:因幡 てゐ(右投両打)
三塁手:チルノ(右投右打)
遊撃手:大妖精(右投右打)
左翼手:ミスティア・ローレライ(左投左打)
中堅手:リグル・ナイトバグ(左投左打)
右翼手:ルーミア(右投右打)
《守矢シャイニングバーニングライトニングス》
投手:洩矢 諏訪子(右投両打)
捕手:八坂 神奈子(右投右打)
一塁手:秋 静葉(右投両打)
二塁手:鍵山 雛(右投右打)
三塁手:博麗 霊夢(右投右打)
遊撃手:河城 にとり(右投左打)
左翼手:東風谷 早苗(右投右打)
中堅手:比那名居 天子(左投左打)
右翼手:秋 穣子(右投右打)
続く
人間、妖精、妖怪、神――ありとあらゆる種族は姿を消し、山野にはただただ鳥や虫の鳴く声が聞こえるのみである。
まるで異変、いや、これは正真正銘の異変と言えよう。
なぜなら――
「――はいはい! 順番通りにお願いします!」
「もうすぐゲート開くから、押さない押さない!」
「ゴミはその場に捨てないようお願いします! 飲食物の持ち込みもOKですからねー!」
「ハイそこ喧嘩しない! 出禁になっちゃいますよ!」
「――お待たせしました! 各ゲート開きますッ!」
「中に入ったら引き続き係員の指示に従ってください!」
「では皆さん、心ゆくまで楽しんでいってくださいねッ!!」
『万』を軽く超える数の者達がただ一ヶ所に集まる事など、かつて前例がないからだ。
場所は幻想郷の中心に位置する博麗神社の麓、そこに突如姿を現した巨大な円形闘技場、キングドーム。この幻想郷に存在する数多くの建造物が全てが豆粒に見えてしまうほど、規格外のサイズである。
ドームの入場ゲートから伸びる人妖神入り交じった数本の長蛇の列は最後尾が確認できないほど長く、百を超える天狗たちと妖精メイドたちが、その整理に飛び回っている。
当初、一万はおろか一千にも満たない集客であろうと予想されていたこの『幻想郷野球フレンドリーマッチ』。
しかし妖怪の山の全面協力のもとで広域に宣伝活動をした事と、妖怪、妖精の大御所が試合に参加する関係で、大規模な応援団体が形成された事などが重なり、この通りめでたく超満員での開催となった。
その数、実に六万一千。
幻想郷の総数とも思える、膨大な数である。
「――すご……! これみんなお客さんなんだよね!」
「そうよ。主催者として、こんなに嬉しいことはないでしょう?」
「うん! 最高!」
「さて、ぼちぼち私達も準備を始めましょうか。宣誓の台詞、ちゃんと覚えた?」
「何とかね! 忘れたらフランのちょっと後に言うから大丈夫!」
「あらら。フランちゃんも同じ事考えてたらどうするのよ」
「その時はその時! なんとかなるよ!」
「うふふ、それだけ余裕があれば大丈夫そうね」
始まりは、とある妖怪少女のちょっとした思い付きからだった。
そこに人が集まり、思い描き、誤算があり、紆余曲折があり、難儀難題を乗り越え、そして迎えた今日のこの瞬間。決して平坦な道程だったわけではない。
「――みんな、そろそろ行くよ!」
「フン……待ちくたびれて寝るところだったわ」
「お! いよいよだな! 腕が鳴る気がするぜ!」
「そういえばフラン、宣誓の台詞、ちゃんと覚えた?」
「一応ね。わかんなくなったらこいしのちょい後に言うから大丈夫でしょ!」
「おいおい、こいしがおんなじ事考えてたらどうすんのさ?」
「信念と情熱でなんとかなるよ!」
「ふふ、それだけ余裕があれば問題なさそうね」
大会を開催するにあたっての課題も少なくはなかった。
観客同士の(特に種族が違う者達の間での)トラブル、ドーム内で消費される膨大な電力の確保――しかし、それも有志の協力により解決を見た。
前者はメイド妖精及び哨戒天狗達の正確な誘導や取り締まりによって大きなトラブルなく事が運んでいるし、後者は河童の技師達総出の働きによって滞りなく電力が得られている。
「――皆さん、準備はオッケーですか!」
「いちいち確認せんでも見りゃ分かんでしょ」
「む! 霊夢さん、キャプテンに向かってその口の聞き方は見過ごせませんね!」
「五月蝿いわねえ。あんたちょっと入れ込み過ぎなんじゃないの?」
「入れ込んで何が悪いんですか!」
「あはは、喧嘩するほど仲が良い、ってね!」
「たまには私らもやってみるかい?」
「お? 珍しくやけに昂ぶってるじゃん、神奈子!」
「あんたもね、諏訪子!」
その他の課題も、やはり多くの裏方に回ってくれた人々の努力により、円滑に事を運べているのである。
そして、そんな裏方の人々が、こぞって口にした言葉がある。曰く、
――お金とかはいいから、最高の大会にして下さい!
だからこそ、何よりも今日という日に全力を注ぐ事が出来て、何よりも今日という日を心から楽しむ事が出来る。
まさしく今日は野球日和。晴れの舞台である。
「――またこうして大観衆の前で野球が出来るとはね」
「そうですね。柄にもなく、私も少し昂ぶっています」
「ねえ永琳、貴女がパーフェクトやった試合、憶えてる?」
「勿論。あの時心から祝福してくれたのは姫様だけでしたね」
「嫌になるような縦社会だったからねえ。でも……」
「皆さんそろそろ行きますよー! 準備はいいかー!」
「「「「「たのもーッ!!」」」」」
「た、たのもー……!」
「この子達なら、きっと皆で祝ってくれると思うわよ」
「ふふ、私もそう思います」
スタンドは続々と押し寄せる観衆で見る見るうちに満杯へと近付き、それと比例するように選手たちの士気は上がっていく。
自分たちを見るためだけに集った六万超の観衆を前にしたプレー、想像しただけでも膝が震えてきそうな状況において、誰一人怖気づいた様子はなく、むしろうずうずしている印象さえ見て取れる。
個人として、チームとして、ここまでの時間で培ってきた野球に対する全て――皆、それを早く見せたくてたまらないのだ。負い目一つでもあったならば、ここまで毅然とはできないだろう。
やがて観客全員の収容がほぼ完了し、スタンドでのどよめきは少しずつなりを潜めていく。
自分達はもう着席したぞ、だから早く始めてくれ――皆、騒ぎ叫びたくなる衝動をぐっとこらえ、次のステージへ移行できる状態にあることをアピールしているのである。
一方ダグアウトの選手達も、静まっていく観客達の様子から出番が間近に迫っている事を感じ取り、雑談をやめて静かに入場のコールを待つ。
いよいよもって緊張感が高まるキングドーム、そんな中、一塁側のベンチから一人の少女が現れ、ゆっくりとした足並みでホームベースの方へと向かって歩いていった。
右手に刀の柄に似た黒い何かを持ち、幾万の観衆の注目にも眉一つ動かさず、そうして少女――稗田阿求は、ホームベースの手前で立ち止まって東西南北四方向へ深々と頭を下げた。
『皆様、本日はお集まり頂き、まことにありがとうございます。この晴れの日を迎えられましたのも、皆様の深い慈悲のおかげと、心より御礼申し上げます』
黒い何かを口元に当てて話す阿求の落ち着いた声は、天井に吊された巨大なスピーカーから轟音となって、ドーム全体へと響き渡る。
未知の領域といえるその音に肝を潰す者もいそうなものだが、阿求の丁寧な、悪く言えばあまり面白みのないスピーチからか、観客の反応は少ない。
が、幻想郷の歴史を代々綴る稗田家当主が、これで終わる筈がなかった。
『――と、堅苦しい事はやめにしましょう……』
表情も口調もそのまま、しかし、例えるなら導火線に火が点いたかのような危うさでもって、阿求は言葉を区切った。
観客『?』
『さあ! これから始まる幻想郷史に残る歴史的な闘い、しかとその目に焼き付けろッ! 一瞬たりとも見逃したなら後悔噬臍、晴天霹靂! みんな、瞬きを一切しない覚悟は出来てるかァ!!』
観客『――!!?』
『返事が聞こえないッ! で き て る か ァ ! ! ?』
観客『うおおおおおおおおおおおおおおおおォォォォォォォォォ!!』
もはや轟音を超えて爆音、しかも煽り要素満天のアナウンスに、観衆の我慢の箍は派手に吹き飛んだ。
応える六万人の魂の叫びに、ドーム全体が地震でも起きたかのように震えている。
そして――
「――さあ、行くよ! みんな!!」
「ええ! 宣誓しっかりね、こいし!」
「さて、楽しませてもらおうかしらね! 行くわよ咲夜!」
「はい、お嬢様!」
「っしゃあ行くぞおらァ!」
「いざ参る!」
「さあ、晴舞台よ! 二人とも準備は出来てるわね!」
「行こう! 橙!」
「ばっちりです、紫さまっ! 行きましょう、藍さまっ!」
その魂の叫びは――
「――よーし、行くぞーッ!!」
「行かざァ!」
「よっしゃ! やるかァ!」
「フン、それなりに楽しめそうね……!」
「っしゃあ! 気合い十分だぜ! なあアリス!」
「(――!)もちろんよ!」
「私の拳が熱く燃えるッ!」
「はは! 勝利を掴めと轟き叫ぶ、ってね!」
「さあ、私達の力を見せてあげましょう!」
さらなる力となって――
「――皆さん! 準備はいいですねっ!?」
「しつこい。んなもん出来てるに決まってんでしょ!」
「さあお姉ちゃん、今が誰の季節か、みんなに教えてあげましょう!」
「もちろん! きっといい試合が出来るわ!」
「盟友たちよ! 電力の供給は任せたぞッ!」
「いつもより多く回れそうだわ!」
「なにをにやけてんのさ、神奈子!」
「あんたもね、諏訪子!」
「うおっしゃあァァァァァァァァァァァァァ!」
選手達のもとへ――
「こあッ!!」
「チルノっ!!」
「ミスティアっ!!」
「リグルっ!!」
「ルーミアなのかっ!!」
「だ、大妖精っ……!」
「てゐっ!!」
「輝夜ァ!!!」
「永琳!」
「「「「「「「「「行っきまーす!!!」」」」」」」」」
しっかりと届いた――!
『その意気や良しッッ!! 選手入場ォォォォォォォォォォォォッ!!!』
野球しようよ! SeasonⅩ
『『宣誓ッ!!』』
『『私達!』』
『『選手一同は!』』
『今日という日を迎えられたことに!』『支えてくれた数多くの方々に!』
『『………』』
『『感謝し!』』
『これまで積み重ねてきたものを!』『仲間と共に培ってきたものを!』
『『………』』
『『信じて!』』
『『………』』
こいし、フランドールの両キャプテンによる選手宣誓が、ドーム内に流れている。
当初はこの大会の大本の発案者であるこいし単独での宣誓の予定だったのだが、そのこいしの「フランと一緒にやりたい」という強い希望があった事、それをフランドールが快諾した事により、こうして異例の二名による宣誓となった。
しかし、今日までほとんど休みなく練習に励んでいたため、宣誓の台詞を憶えている時間がなかった事と、互いにキャプテンという立場上、打ち合わせという名目があったとしても軽々しく顔を合わせるべきではないという考えから、二人はほとんどぶっつけ本番での宣誓で、うまく台詞が噛み合わない。
さらにまずいことに、二人揃ってそこから先の台詞を完全に忘れてしまったらしく、超満員の広大なドームに不自然な沈黙が訪れる。
「あらら……固まっちゃったわねえ」
「こうなると厳しいわね……」
「ふ、いらぬ心配よ。私の妹とその親友を見くびらないで貰いたいわね」
「お嬢様、紅いオーラがだだ漏れですよ……」
「フラン様、頑張ってください……!」
「あら……何かひそひそ話をしているようね」
「台詞合わせか? 私だったら言いたいこと言っちゃうけどなあ」
「皆が皆、貴女みたいに図太くはないわ」
落ち着かない様子で二人を見守るチームメイト達。そんな心配を知ってか知らずか、壇上の二人はスピーカーから音が出ないようにしつつ、何かひそひそ話を始めていた。
沈黙に少しずつざわめきが交じってきている。待つことに慣れていない幻想郷の住人達だから、痺れを切らすのも早い。
『――きっかけは、私の何でもない思い付きからでした』
そんな中、ふいにスピーカーから流れた澄んだ声に、ざわめきがぴたりと止む。
ここまで二人の同時進行だった宣誓だが、再開された今はこいし単独で、しかも声色、内容ともに先程までとは大きく違う。
宣誓というより、まるでスピーチのようである。
『ただ漠然と、野球がしたい、って、ほんとにそれだけだったんです。そこからどんどん話が大きくなって……正直、その重さに耐えきれなくなりそうだったこともありました。――でも、いつでも私を支えてくれた人達が、確かにそこにはいたんです。だから私は、ここまで来れた。当たり前だけど、私一人じゃ、今日を迎えることは出来なかったと思います』
それはスピーチなどではなく、告白と呼ぶほうが正しいであろう言葉だった。
決められた台詞だけでは言い表せない、伝えたい想いを詰め込んだ告白だ。
野球がしたいと思い立ち、白玉楼の主従と出会い、紫に見せられたキングドーム、フランドールを誘い、紅い大砲のチーム加入、初めてのチーム練習、そして苦悩があり、乗り越え――
思い出していけばきりがないそれら全ては、一人では出来なかった事である。
『今日があるのは、アルティメットブラッディローズのみんな、対戦相手のみんな、裏方で支えてくれるみんな、そして私達を見るために集まってくれたみんなのおかげです。ほんとにほんとに、ありがとう!』
だから、伝えなければいけない。自分の意志と、自分の言葉で。
そうしてこそ、自分がどれだけ感謝しているかが、少しだけでも分かってもらえる筈だ。
『――私はずっと、憧れていた』
そしてそれは、フランドールも同じだ。いや(比較するのは無粋かもしれないが)、その気持ちはこいし以上であろう。
『みんなと一緒に野球をする事に、ずっと憧れていたの。初めて野球を知ったのは、ほんのちょっと前の事。こいしが教えてくれたんだよ? それで、その時に一つのボールをくれたのが、私の野球の始まり。それまで何をするにも無気力だった私が、初めて心からやってみたいと思ったもの、それが野球だった。だけど……私は、吸血鬼で、異端児。私なんかがみんなと一緒にプレーできる筈がない……そんな風に諦めて、次の一歩を踏み出せないままだった』
地下に籠もってルービックキューブを早解きしていた日々から、こいしに誘われて天和大四喜四暗刻字一色の五倍役満へ、そして紅い大砲との対決、マーガトロイド邸のドアに風穴を空け、萃香と取ったSUMOU、初めての人里で交わしたグーテンモルゲンに、藤原邸での撥単騎待ち、そして、一度は諦めかけた野球と、煤だらけの皆の『野球しようよ!』の言葉――
様々な出会いと経験、全ては、こいしとの出会いから始まった。
『そんな風に燻っていた私を、こいしは連れ出してくれた。こいしがいなかったら、私は野球に出会えなかったし、今ここにはいない。ほんと私って、こいしにもみんなにも、助けられてばっかりで……。だから私、たくさん練習したよ! みんなのおかげでここでプレーが出来る、それを無駄にしたくないから! がっかりさせたくないから! だから――』
何千、何万回「ありがとう」と言っても足りない感謝、それを伝えるには、もはや言葉では叶わない。
だから――
『『だから、私達選手一同は!』』
『『この感謝を一つ一つのプレーに込めて!』』
『『最後の一球まで決して諦めず!』』
『『全力で闘い抜く事を誓います!!』』
自分が出来る最高のプレーで、最高の大会にする――それが、今の自分に出来る、一番の恩返しだ。
観客『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおォォォォォォォォォ!!!』
そんな二人の気持ちは、6万の観客へと確かに伝わった。
その証として、普通宣誓では起こり得ない、この万雷の拍手と大歓声である。
また、壇上の『大会統括役兼審判長』四季映姫も、あえてその歓声を止めるような事はせず、自然と収まるのを待つ。
間髪置かずにルール説明に移る予定で、普段であれば「静粛に」という厳格でよく通る声が響くであろう場面だが、そこはさすがの楽園の最高裁判長、ルールで縛り付けて興を削ぐような不粋な真似はしないのである。
やがて歓声は段々と鎮まっていき、それを確認した映姫がマイクを手に取る。
そして、これまた普段は滅多に見せることのない爽やかな笑顔で、口を開いた。
『――素晴らしい宣誓でした。両キャプテンだけでなく、ここにいる選手全員から、今の宣誓が嘘偽りでない事を納得できるだけの意気を感じます。きっと、素晴らしい大会になるでしょう。改めて言います。本当に、素晴らしい宣誓でした』
三たび普段はまず見られない最高裁判長の誉め言葉に、歓声こそ起きないものの、ドーム全体の雰囲気が一層明るくなる。
普段誉めない人物の誉め言葉には、それだけの力と価値があるのだ。
『では、これよりルール説明に移らせて頂きます。私の向いている方向にあります電工掲示板を御覧ください』
映姫は一旦そこで話を区切る。すると、バックスクリーンの掲示板に十数名の死神(覆面をした小柄で威厳ある人物が一人交じっている)が映し出され、同時に『5分で分かる優しい野球入門』という文字が浮かび上がった。
『野球には無数の細かいルールがあり、全てを説明するとなると日付が変わってしまいかねません。選手には事前に資料を送付してありますが、スタンドの皆様の中には野球を知らない方も多いでしょう。そこで、是非曲直庁の協力の下、大まかではありますが映像資料を作成しました。しばしのご清聴をお願い申し上げます』
そして映像が動き始め、勝敗の決まり方、得点が入る過程、SBOのカウントとチェンジの仕組み等々、野球の根本を成すルールが丁寧かつ効率的に紹介されていく。
心なしか覆面以外の死神達の顔色が芳しくない(何かに怯えている様子)ようにも見えるが、各員が大きめのアクションでよく動くため、非常に分かりやすい。
続いて各ポジションの簡単な役割説明や、タッチアップ、フォースプレー、インフィールドフライといった少々複雑なルールも紹介され、有意義な5分が終わる頃には、観客の顔はますます火照っていたのだった。
早く本番が見たい――皆にそう思わせるのに、この映像には多大な効果があるのである。
『ご清聴ありがとうございます。今の映像だけですぐに理解するのは難しいかと思いますが、これから行われる試合を見れば、自然と野球がどういうものか分かるはずです。どうぞ、ご期待ください。では、続きまして、ここからはこの大会にのみ適応される特殊ルールについて説明します』
選手一同「――……!」
基本ルールと違い、こちらは選手達も初めて聞くものである為、自然と顔が引き締まる。
『まず一つ目、飛行を含めた特殊能力使用の原則禁止です。これに関しては説明するまでもないでしょう。二つ目は、守備や走塁での走行や跳躍、簡単に言えば走力に関するものです。選手各員、十日前に体力測定をしたのを憶えていますね?』
大会開催のちょうど十日前、各チームのもとに死神が訪れ、誤魔化したら映姫様に舌ベラ引っ込抜かれるからねー、と一言添えられた上で、走力と跳躍力に関する体力測定が行われた。
脅しに等しい一言の効果もあって誰一人手を抜いた者はおらず、正確なデータが取られたのだが、種族の違いもあってその差は歴然たるもので、例として守矢チームで行われたダイヤモンド一周のタイムを挙げてみると、一番速かった諏訪子と一番遅かった早苗との間に十秒以上の差があった。
さらに深刻だったのが跳躍力だ。飛行能力を使わなかった場合の垂直跳びでは、同じく守矢チームで一番高かった諏訪子と一番低かった早苗との間に、なんと十倍近い差が出てしまっていたのである。
『結果は知っての通り、チーム内ですら看過する事が出来ない程の差がありました。これをそのままに試合を開催した場合、センターに抜けるはずの打球がサードゴロになったり、ホームラン性の打球がことごとくフライアウトになったりと、飛行を禁止した意味がないような、野球の面白さを台無しにしかねない事態が起こり得ます』
「フン……分かり切っていたことよ」
「これってどうにかなるもんなのかなあ」
「ドキドキ……」
「うどんげ、心配か?」
「そ……そだらごどねじゃ!」
野球の体をなさない――それに関して、各チームは同じ対策をもって練習に臨んでいた。
それは、ポジション毎の守備エリアをある程度決める事である。
つまり、ヒットゾーンと定めたコースに飛んだ(と判断した)打球は追わず、少し頑張って跳んだら届くホームランを見送る、といった按配だ。また、盗塁に関しても、極力控えるようにしていた。
しかしそれは、言い換えれば「手抜き」と言われても仕方がない行為で、それを不安視する声は、大会開催が決まった当初よりあるものだった。
さらに、先程の宣誓で高らかに『全力で』と言ってしまった為、その不安は今になって更に大きくなり、選手達の表情が曇っていく。
『では改めて、二つ目のルールは、選手一人一人に一定の距離を課す、というものです。小野塚小町、壇上へ上がってください』
『――うぃーっす!』
「距離……成る程、さすがは閻魔様」
「およ? 静葉様、分かるんですか?」
「ええ。足の速くない私達にはあまり関係がない事よ」
「はは(この神様、たまにさらっと毒舌だよなぁ……)」
小野塚小町――その名前がコールされた瞬間、一部の選手達の表情が晴れる。
というのも、距離を課す、という難解なルールが何を意味するのかが分かったからで、同時に自分達が抱える問題が解決されるのを確信したからだ。
『あーい皆さん元気ですかー? みんなのアイドル小野塚の小町っちゃんですハイ拍手ー『……小町』って、すみませんごめんなさいもうしません!』
「この大観衆と閻魔を前によくもまあ……」
「ふふ、目立ちたがり屋のようですね」
「「「「「「「うずうず……」」」」」」」
「いい事だわ」
「ええ、いい事ですね」
『えー、只今紹介頂きました、大会統括役補佐兼副審判ちょ『……小町』すみませんごめんなさいただの映姫様の助手を務めさせて頂きます、小野塚小町と申します。以後お見知り置きを』
映姫のしっかり纏められたスピーチとのあまりの温度差に、スタンドから笑いと拍手が巻き起こった。
嬉しそうに四方の客席へと手を振る小町だが、それをまたしても映姫にたしなめられてあたふたなどしているから、再び各方から笑いが起きている。
『……ここからは私が説明します。この小野塚小町は、距離を操る事ができる能力を有しており、体力測定で記録を取った数値を元に、この距離を各選手へと課させて頂きます。とは言いましても、各個の走力を均等にする訳ではなく、走力の高い選手は相応に高くあるよう、私の判断基準で課す距離を決めさせて頂きました。そうでないと、本来速く走れる、高く跳べる選手にとって不公平ですからね』
大変だったんだこれが、などと言いつつ小町は舌を出して苦笑いしている。
『また、課された距離を走る際に生じてしまうであろう不自然な足の動きは、外界の有志により解決を見ました。二ッ岩さん、どうぞ壇上へ』
「二ッ岩……初耳ね。何者?」
「私も初耳です。どうやら死神のようですね」
「――いや、あれは化けているだけさ。本来の姿は大狸だよ」
「へえ、見事な変化の術だわ。それより藍、狐と狸、面識がありそうな物言いね」
「佐渡の狸、二ッ岩大明神。日本では有名だよ。……紫様、あなたが?」
「野球好きに悪い奴はいない、ということよ」
映姫に招かれたとある死神は、バツが悪そうに階段を上っていき、壇上へ辿り着いたと思った刹那、白煙とともに巨大な狸の尻尾を携えた眼鏡っ娘へと姿を変えた。
それを見た選手達とスタンドから「おおー!」と歓声が湧き、二ッ岩マミゾウはより一層照れ臭そうに頭を掻く。
『あー、うん。正直、こんな場所で喋るつもりじゃなかったんで、何を言おうかも全く考えてなかったんだが……二ッ岩マミゾウと申します。どうぞお見知り置きを』
「おっきな尻尾! 一本だけしかないのに、藍のくらいもっふもふだよ!」
「何を言う。私の方が俄然もっふもふに決まってるじゃないか。なあ橙」
「ふわー……もっふもふだー……」
「ち、橙……?」
「釘付けね。ほら藍、泣かない泣かない」
『最初にちょいと言わせてもらいたいんだがね、閻魔様の言うとおり本当に素晴らしい宣誓だったよ。あれが聞けたってだけでも、今日ここに来てよかった、と思えるくらいね。……で、肝心の儂のお役目の話なんだが、うだうだ説明するより実際見てもらったほうが早いだろう。てなわけで――』
目を閉じて背筋を伸ばし、軽く息を吸い込んだマミゾウは両掌をパンと合わせる。
観客『!!!』
選手一同「!!?」
次の瞬間、フィールド内で整列している選手全員が、突如白煙と共にマミゾウの姿へと変化した。
唖然とするスタンドの観客達、そして顔を見合わせる選手達(中には隣のマミゾウの尻尾を熱心に触ろうとしている(変化しているだけなので触れられない)者もいるが)。
会場内のそんな反応を確認したマミゾウがもう一度両掌を合わせると、数十のマミゾウは再び白煙と共に元の姿に戻る。
『えー、お粗末様でした。まあつまりこれの応用で、不自然に見えないようにするわけだよ。うん。はい、儂からは以上です』
はたまた照れ臭そうにぺこりと頭を下げ、壇上をあとにするマミゾウ。
『――二ッ岩さん、ご協力感謝します。皆さん、今一度二ッ岩さんに盛大な拍手をお願いします』
選手&観客『ワー! ワー!』
直後に会場全体から大喝采を受け、照れ臭さのあまりか再び最初の死神の姿に変化してしまったのだった。
また、その隣ではもう一人の立役者である小町が「あたいの分は?」などと言いながら軽くふてくさっている。
『ルール説明は以上です。質問または意見がある選手は、後ほど私の所へ来てください』
質問なんてないけど、あっても行く人はいないだろうなあ……球場にいる全員が思った事だった。
『続きまして、この大会における賞について発表します』
「……!」
「わっ!? ど、どうしたの突然」
「……天ちゃん、発表中霊夢に話し掛けないほうがよさそうだよ」
「こ、恐い……」
『大会優勝チームには、チャンピオンの証となる金糸で紡がれた大優勝旗が、またチームに所属する全員に、純金の優勝メダルが贈られます』
「純金の……メダル……純金!」
「こ、恐いよ穣子様……」
「……静かに。まだ続きがあるみたい」
『そして、そのチームの中で最も優勝に貢献した選手には、最優秀選手賞として、私の出来得る範囲で、また倫理を踏まえた上で、という条件付きですが――』
ここまで一定のペースで話していた映姫が、この日初めて取った少しの溜め。
それは計らいか無意識か、ともかく、球場全体が一斉に固唾を飲んだのは間違いない。
『――どんな願いでも、一つだけ叶えます』
選手&観客『!!!』
そして、飲んだ固唾を裏切らない驚天動地の内容に、会場はしんと静まり返った。
皆、どう反応したらいいのか分からないのである。
『賞の発表は以上ですが、選手の皆さんに個人的なお願いがあります。どうか、賞を取ることに捉われ過ぎて、チームを見失わないでください。皆さんは、チームあっての存在です。それを蔑ろにするプレーヤーに――……失礼。どうやら余計な心配だったようですね』
言葉を途中で止め、少しだけ苦笑しながら映姫は軽く頭を下げた。
それは、自分の言葉に対する選手たちの「見くびらないでくれ!」と言わんばかりの反応を見ての行動だったのだが、天下の閻魔様が頭を下げる姿など、普段でなくともまず見られるものではない。
逆に言えば、それだけ選手たちの『無言の意志』が強かった、という事である。
『では、選手の皆さんの健闘を祈ると共に、この大会を彩ってくれる方たちを紹介し、私の話の締めとさせて頂きます。盛大な拍手でお迎え下さい。音響、プリズムリバー管弦楽団の皆さんです』
紹介が入ると、スピーカーから重厚な響きの『私を野球に連れてって』が流れ始めた。
会場の雰囲気をより盛り立てるその旋律に、自然と拍手が沸き起こる。
『――本日はご来場まことにありがとうございます。皆様とこの素晴らしい時間を共有出来ます事を、心より嬉しく思います』
そして、曲の邪魔になることなく、いや、むしろ曲に乗っているかのように響く、優しい声。
「おーっ! レティの声がする!」
「何、あんた知り合いなの?」
「勿論! だってあたいとレティは、穴兄弟みたいなもんだからさ!」
「チルノちゃん、それ言うなら、義兄弟じゃ……(でも、どっちかっていうと親子って言われる方がしっくり来るかなあ)」
『ただ今の声の主、ウグイス嬢、レティ・ホワイトロックさんです』
よろしくお願い致します、と答えるレティの美声に、会場の拍手は一段と大きくなった。
紹介はまだまだ続く。警備と整理を担当する、哨戒天狗連隊、紅魔館所属図書館防衛隊。電力の確保は、妖怪の山技工組合の河童たち。医療班に、永遠亭の兎たち。バットボーイ、ボールボーイを買って出た、地底の野球好きたち。
それぞれ名前が場内に響くたび、拍手はそれ以上の拍手によって塗り潰されていくのだった。
『――最後に、大会進行役兼記録員、稗田阿求さんです。では、ここからは稗田さんに進行をお願いします。皆さん、これから始まる幻想郷史に残るひととき、共に楽しみましょう。大会統括役兼審判長、四季映姫ヤマザナドゥがお伝えしました』
一礼し、壇上を後にする映姫に、球場全体からここまでで一番の拍手が送られた。
入れ代わりで壇上に上った阿求も同様に拍手を送り、その見事なスピーチを讃えている。
その後しばらく称賛の時間は続き、やがてそれが段々と治まってきたのを見計らって、阿求は一礼した。
『映姫様、ありがとうございました。私もいつか、こんな風に立派なお話が出来るようになりたいものです。では、これにて開会式の終了ならびに、特別企画……ホームラン競争の開催を宣言いたします!』
「ホームラン競争? へぇ、そんなのやんだね。パチュリー、知ってた?」
「初耳よ。というより、私もフランも、たぶん他のチームの皆も知らない事だと思う」
「そっかそっか。まあ何にしても、楽しそうだね!」
「妹紅、あなた出てみる?」
『各チームは、ピッチャーとキャッチャー、そしてバッターの3名を選出し、電光掲示板の時計が八時三十分になった時、代表者のバッターをホームベース前まで送り出してください! 持ち球は各チーム十球、その十球で、どれだけホームランを打てるか、それを競い合って頂きます! そして、見事トップを飾ったチームには、知る人ぞ知る金細工の匠、鬼河原大豪月先生の手によって仕上げられた、大打者のレリーフが彫り込まれた純金の盾が贈られます! 選手の皆さんは、どうぞ振るってご参加ください! そしてスタンドの皆さんッ! 弾丸ライナー、大飛球、はたまた打ち損ねのファールボールがガンガン飛んでいきますので、十分にご注意下さいねッ!!』
観客『うおおおおおおおおおォォォォォォォ!!』
最初の『ホームラン競争』というフレーズだけではいまいち何をするのか理解し切れていなかった観客達も、阿求の派手な煽りを受け、何か楽しいことが始まるというのを理解して歓声を飛ばす。
「よっしゃ! 派手にやるかァ! ぱっつぁんぱっつぁん! 私にやらしてよ!」
「私は構わないけど、妹紅、あなたは?」
「ウチのチームでホームランっつったら、やっぱ萃香だよ! つーわけで、私は応援に回るよ!」
「サンキュー、もこたん! もこたんの分までかっとばして来るよ!」
「萃香、ファイトっ!!」
「任せろキャプテン!!」
もちろん、当事者の選手たちはそれ以上に意気揚々だ。
バッター決めに関して少しばかり争いがあったチームもあるようだが、八時半少し前、選りすぐりの打者たちがホームベース前に集合した。
伊吹萃香、レミリア・スカーレット、博麗霊夢、リグル・ナイトバグ――各チームが、自信を持って送り出した4人である。
「あらリグル、久しぶりね。調子はどう?」
「ばっちりですレミリア姐さん!」
「……その呼び方はやめなさい」
「よっ! 姐さん!」
「黙れ伊吹鬼」
「………」
「あら霊夢、震えちゃって、柄にもなく緊張してるの?」
「……姐さん姐さん、今霊夢に話し掛けないほうがいいよ」
「何がよ」
「耳澄ましてみれば分かるよ」
「耳を? ふむ……」
「……純金、盾、純金の盾、ゴールドシールド……くくくく……」
「……そのようね」
知る仲同士、少しの雑談をしている間に時計は8時半を指し、阿求が四人のもとへ合流。手短にルール説明が行われた。
内容は、まずホームランの飛距離や飛んだ位置に優劣を付けない(つまり、一本は一本)こと。特例として、天井から吊り下がるスピーカーに当てる、所謂認定ホームランを打った場合、二本分としてカウントされるということの二つである。
「そのまま天井に当たったら?」
「飛球扱いです」
「分の悪い賭け、ってことね」
そしてじゃんけんによる順番決めが行われた後――
『皆さんッ! 大変長らくお待たせしましたッ! それでは、ホームラン競争、スタートですッ!!』
阿求の熱いコールによって、ホームラン競争が始まった。
一番手は、フランドールチーム改め、フランドリームスの4番、伊吹萃香。
ピッチャーのアリス、キャッチャーのパチュリーと共に、大歓声に応えながら右打席に入る。
「さぁーて、行こうかッ!」
左のアンダーから投げ込まれる、真ん中高めの、第一球――
ゴァキイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィン!!
観客『――!!』
ボールの無事を疑いたくなる程の豪快な打球音、そして、初速が早すぎて見ている場所によってはどこへ飛んだか分からなくなってしまう程の凄まじい打球。
左翼のポールの遥か上空、放物線ではなく弾丸ライナーで、それはキングドームの天井へ直撃した。
「――ファールボオッ!!」
「ありゃ、しまった! はっはっは!」
飛距離は文句なし、しかし飛んだ場所が悪く、結果はファール。
「ちっ……あのバカ」
「しっかし、やっぱ萃香って化け物だよなあ……」
「天井、無事かなあ」
そこから先も、飛距離こそ完璧なれど同じように左翼側に切れるファールが2球あり、最終結果は7本に終わった。
「アリス、ナイスコントロールだったよ! ありがとさん!」
「いえいえ。あれだけ飛ばされると、なんだかこっちも気分爽快よ」
しかし、打った本人は至極満足そうで、何よりも7本という結果はかなりの高水準である。
そして、それ以上に意味があるのが、他3チームに与えるインパクトだ。
長い尺のバットをまるで小枝のように振り回すスイング、それによって生み出される規格外の打球、それらが萃香の存在感を大いに高めた事は疑いようもない。
「「「「「「リグル、ファイトー!!」」」」」」
「うんっ! みんな、見ててね!」
続いて2チーム目、紅魔ライブラリーガーディアンズ代表のリグルが左打席に入った。
このリグル、チーム内での打順は1番で、決して長距離打者ではない。
ではなぜチームの代表になったかというと、じゃんけんに勝ったからである。
「行くわよ、リグル!」
「よろしく、永琳、輝夜!」
「まっかせなさい! 主に永琳に!」
とは言っても、もちろん遊びのつもりなどない。
この日のために毎日バットを振ってきたリグルのスイングは確実に速くなっており、加えて永琳の完璧にコントロールされた球の効果もあって、放たれた打球は白玉楼のテストの時とは一味も二味も違った伸びを見せた。
「ホォーーームランッ!!」
「ありがとうございましたっ!」
最後の一球もライトスタンドへ運び、結果は四本。
萃香が派手にやらかした後というのもあり、最初はあまり大きくなかった歓声も、今では萃香の時と同等の大歓声となり、リグルを讃えた。
「ふふ……」
「お嬢様、嬉しそうですね」
「あら、咲夜もじゃない」
「この分だと、他の子達も要注意ね」
『それでは、守矢シャイニングバーニングライトニングス、博麗霊夢選手、お願いしますッ!』
「……? 何だかいつもと様子が違いますね。霊夢」
「……さとり、あなたなら分かるでしょう?」
「ええ。心の声を聞くまでもなく」
「どういう事ですか?」
「咲夜、しっかり刮目なさい。霊夢の本気なんて、まず滅多に見られるものじゃ無い」
キィィン!!
諏訪子がオーバースローから投げ込む内角高めのボールを、霊夢はコンパクトなスイングで捉えた。ホームランを狙っているとは思えないような、自然体に限りなく近いスイングである。
打球音も相応に、鋭いながらも小さいもので、これではせいぜい外野の間を抜ける打球が精一杯ではないか、と感じさせるものだ。
しかし、
「ホォォォーームランッ!!」
そんな単純な考えで、本気を出した博麗の巫女を測ることなど出来ない。
ボールはレフトスタンド最前列にきっちりと飛び込み、初球を飾る。
そして、圧巻なのはここからだ。
キィィィン!!
「ホォォーームランッ!!」
キィィン!!
「ホォーーームランッッ!!」
「嘘……!」
「こんなのって……」
「流石としか、言いようがないわねえ」
キィィィィン!
「くくくく……随分煽ってくれるじゃない……!」
「そうこなくちゃ、張り合いがないぜ!」
「……萃香、キング取れなくて残念だったわね」
「はっはっは! 楽しかったから構わないさ!」
キィィィィン!
「よし、ラストだ!」
「オッケー!(やばいねー、ストライク投げるだけだってのに、えらく緊張してきちゃったよ……!)」
諏訪子が投じた、僅かに外側に逸れた高めの十球目――
キィィィィン!!
緊張など微塵も感じさせない完璧なスイングで捉え、放たれた打球は導かれるようにレフトスタンドへと向かっていった。
「ホォォォォォォーーーームランッ!!」
『決めたァァァァーーッ!! 霊夢選手、記録十本! パーフェクト達成ーーッ!!』
十の十、本塁打率十割のパーフェクト達成である。
歓喜に湧く守矢チームと、バットを天に掲げて「ゴールドシールドォォォォォォォォ!!」と雄叫びをあげる霊夢。まるで優勝が決まったかのような振る舞いだが、観客たちも大歓声をもってそれに同調している。
何しろ、パーフェクトである。それを超える記録など、誰が予想できるだろうか。
「……やれやれ、何だか私がおまけで打席に立つような雰囲気ねえ」
「ですね。不愉快です」
「まあいいわ。黙らせればいいってだけの話だから。咲夜、いい球頼むわね」
「はい!」
『では、最後のバッターとなりました、アルティメットブラッディローズ代表、レミリア・スカーレット選手、お願いしますッ!』
歓声は小さい。
萃香の後に打ったリグルの時もそうだったが、今回はそれに増して特に小さく感じる。
キイイイィィィィィィン!
初球、レフトスタンド中段へと飛び込みホームランが出ても、スタンドから聞こえるのは「優勝は無理だけど、ナイスホームラン」などと聞こえてきそうな、同情的な拍手ばかりだ。
キイイイィィィィン!
二球目はバックスクリーン。ホームラン競争で初めてのバックスクリーン弾に、拍手が少し大きくなった。
キイイイィィィィィン!
そして、三本連続となった打球の着弾点は、ライトスタンド。流して入れたホームランである。
ここに至って、観客の中でざわめきが起こり始める。
「ねえパチュリー、お姉様は」
「ええ、狙って飛ばしてるわね。……ほら、次はレフト、しかも上段よ」
「……凄い……!」
五球目――
インコース少し高めを、バックスクリーンの電光掲示板へ直撃させる。
「ホォォーーームランッ!」
六球目――
アウトコース少し低めを、ライトスタンド三階席へ運ぶ。
「ホォォォォーームランッ!」
七球目――
ど真ん中を、弾丸ライナーでレフトスタンドへ突き刺す。
「滾る……滾るぞォォォォォォ!!」
「わあ!? ちょっと幽々子様、気持ちは分かりますが落ち着いて下さい!」
「――ふふっ、お客さん何だか引いちゃってるみたいね」
「ライナーでバックスクリーン……」
「本当、味方でよかったわねえ」
左、中、右、左、中、右、左、中……各方向に、性質の異なる打球で放たれていったホームラン。
その圧倒的なパフォーマンスに、いつの間にか歓声も拍手もなりを潜めていた。
それを裏付けるかのように、喧騒の中ではまず聞き取れないであろう咲夜のボールをリリースする「ピッ」という音が響く。
キイイイイイィィィィィン!
「ホォォォーーームランッッ!」
ライトスタンドへライナーで入れて、これで九本連続。次の一球を決めれば、霊夢に続くパーフェクト達成である。
余談だが、優勝賞品の盾が一つしか用意されていないため、同時優勝の場合はどうしたらいいのか、と阿求が困っていたりする。
「まあ、狙うでしょうね」
「うん、お姉様なら間違いなく、ね」
「ん? ……おいアリス、見てみろよ。霊夢の奴、不動明王みたいな顔んなってるぜ」
「乱闘騒ぎにならなければいいけど……」
そして、十球目。
咲夜が投じたのは――
観客『――!』
キャッチボール投げの、山なりの球。
そしてレミリアは、後ろ足を踏ん張り、上体を思い切り上に向ける。
そう、彼女が狙うのは、スタンドでもバックスクリーンでも、同時優勝でもない。
キイイイィィィイイィィィィィン!!
「「「行けッ!!」」」
高々と打ち上げられた打球――その向かう先にあるのは、スピーカーと、単独優勝。
ガンッッ!!
観客&選手『――!!』
「――インフィールドッ!」
この瞬間、ホームラン競争の優勝者が決定した。
記録十本。守矢シャイニングバーニングライトニングス、博麗霊夢である。
「………」
しかし、霊夢に先程までの喜ぶ姿は見られない。
表彰に呼ばれた際も表情を変えることなく、打ち終えたレミリアを鋭く見据えている。
その視線をレミリアもひしひしと感じていて、一瞬目と目を合わせると、不敵な薄い笑いと共に、どこか挑発的にウインクした。
「やってくれるじゃない……!」
そして、そんな分かりやすい煽り方をされては、楽園の素敵な巫女が黙っているはずがない。
先程までのもの(¥のマーク)とは違う闘志を目に宿し、受けて立つ、と言っているかのように、霊夢は笑った。
『霊夢選手、おめでとうございます! さあ、優勝の証となる盾をお受け取りください!』
「ん……ああ、キャプテンにでも渡しといて」
『え? あ、はい! 了解しました!』
余談だが、この時早苗に渡されて守矢神社に飾られていた純金の盾は、その数日後、何者かの手によって持ち去られ、騒ぎになったという。
「うーむ……」
「あら、何だか納得いっていないようね」
「あ、幽々子様。納得いかない、ってわけじゃないんですが、あそこまで正確にスピーカーを狙えるなら、何で最初から全部それ狙いで行かなかったのか、と……」
「……妖夢、あなたのあまりの無粋さ、私は悲しいわ」
「だ、だって……」
「だってもあさってもない。これは一ヶ月飯抜きレベルね」
「そんなあ……(ご飯作ってるの私なのに……)」
『それでは皆さん、優勝者を讃え、盛大な拍手をお願いしますッ!!』
阿求の言葉に、先程から静まり気味だったスタンドからようやく大きな拍手が沸き起こった。
ホームラン競争、これにて閉幕。そして――
『続きまして、第一試合の対戦チーム、その発表に移らせていただきます!』
観客『うおおおおおおおおおおおおォォォォォォォ!!』
対戦チームの発表、すなわち、本戦スタートである。
しかし……
「発表って……こあちゃん、キャプテン同士で相手決めなんてしてないわよね?」
「してないですねー。まさか、大会運営の方でもうブックが作成されてるとか?」
「閻魔様がそんな事許すかしら……ねえ永琳、どう思う?」
「ふふ、心配いりませんよ」
「「おおー……すっごい安心感!」」
盛り上がる観客とは裏腹に、対戦カードを決めた憶えがない選手たちは困惑気味だ。
どこと当たったら好都合、はたまた不都合、という事は別段ないにせよ、勝手に決められてしまうのは納得できるものではない。
『皆さん、バックスクリーンの電光掲示板にご注目くださいッ!』
そんな中、阿求のコールとともに一瞬暗転した電光掲示板に、ホームラン競争に出場した打者の名前が映し出された。
左から、霊夢、レミリア、萃香、リグルの順番、つまり、順位並びである。
「およ? ってことは、ウチの初戦は吸血おねーさんのトコ?」
「いえ、そんな短絡的ではないはず。恐らくアミダね。ほら、名前の下に線が伸びていく」
「はは(短絡的で悪うござんしたね神様!)」
皆の注目を一身に集める、それぞれの名前の下から伸びていく線。
途中にある無数の横線を経て、その下にある縦長の枠組みへと辿り着いた。
「――ははっ! 何だかこうなる気がしてたよ!」
「フン……神を称する力、伊達か否か確かめさせて貰おうかしら」
「やる気十分、勉強十五分です!」
「――霊夢! 勝負だよッ!!」
そして――
「さあ皆さん、気合い入れていきましょうッ!」
「当然! その調子だよ早苗!」
「はは、キャプテンも中々様になってきたじゃないか!」
「――フラン、勝負よ」
『第一試合は、フランドリームス対、守矢シャイニングバーニングライトニングスに決定致しましたッッ!!』
幻想郷野球フレンドリーマッチ、その闘いが、今まさに始まろうとしていた。
《アルティメットブラッディローズ》
投手:古明地 こいし(左投左打)
捕手:古明地 さとり(右投左打)
一塁手:八雲 紫(右投両打)
二塁手:十六夜 咲夜(右投右打)
三塁手:レミリア・スカーレット(右投右打)
遊撃手:西行寺 幽々子(右投右打)
左翼手:八雲 藍(右投両打)
中堅手:魂魄 妖夢(左投左打)
右翼手:橙(右投右打)
《フランドリームス》
投手:フランドール・スカーレット(右投右打)
捕手:パチュリー・ノーレッジ(右投右打)
一塁手:伊吹 萃香(右投右打)
二塁手:紅 美鈴(右投右打)
三塁手:霧雨 魔理沙(右投右打)
遊撃手:鈴仙・優曇華院・イナバ(右投左打)
左翼手:藤原 妹紅(右投右打)
中堅手:風見 幽香(右投左打)
右翼手:アリス・マーガトロイド(左投左打)
《紅魔ライブラリーガーディアンズ》
投手:八意 永琳(右投両打)
捕手:蓬莱山 輝夜(右投右打)
一塁手:小悪魔(右投右打)
二塁手:因幡 てゐ(右投両打)
三塁手:チルノ(右投右打)
遊撃手:大妖精(右投右打)
左翼手:ミスティア・ローレライ(左投左打)
中堅手:リグル・ナイトバグ(左投左打)
右翼手:ルーミア(右投右打)
《守矢シャイニングバーニングライトニングス》
投手:洩矢 諏訪子(右投両打)
捕手:八坂 神奈子(右投右打)
一塁手:秋 静葉(右投両打)
二塁手:鍵山 雛(右投右打)
三塁手:博麗 霊夢(右投右打)
遊撃手:河城 にとり(右投左打)
左翼手:東風谷 早苗(右投右打)
中堅手:比那名居 天子(左投左打)
右翼手:秋 穣子(右投右打)
続く
次作、期待しています