私は何時も目標を持って生きる事にしている。
何せこの館の住人は一々スケールが大きい。永遠を生きる姫様に、底の無い科学の探求を続けるお師匠様。
後は健康マニアのロリババア。そんな気の長い人達と付き合っていくには日々の生活の張りが必要不可欠なのだ。
因みに今の私の目標は毎日『日記』を付ける事。
正直これまで日記なんて書いた事無かったのだけど、過去の自分を振り返り未来の自分を改善して行く為の素晴らしい目標だと思う。
先程までお師匠様の作業補助をしていた私は、お師匠様からの素晴らしいアドバイスを受けてこの目標を思いついたのだ。
その時の様子は大体こんな感じた。
「あっ、こらっ! 優曇華。附子は今回から外すって言ったでしょう!」
「あわわっ!? 御免なさいぃ!!」
「下品(げほん)の扱いは気を付けなさいとあれ程……!」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいぃぃ!!」
「全く、貴女と言う人は……」
もう何度目になるだろうか。私はこう言うミスをよく起こしてしまう。
気を付けようと思ってもその努力の仕方が分からない。
その時にも私は来るべき衝撃に耐える為、身を小さくして眼を瞑っていたのだ。
「あなたはちょっと忍耐力が足りないのよ」
「……ふぇ?」
「逃げ癖が付いてるのよ貴方は。だから、ちょっと操作が複雑になると途端にミスが増える。今日みたいにね」
「あぅ……、申し訳有りません。申し訳有りません。申し訳有りません~!!」
「違う。私が求めているのはそんな言葉じゃない」
「ぅぅ……」
「全く……。土下座ばかり上手くなるんだから……。もう良いわ頭を上げなさい」
「お師匠様……」
「そ・の・代・わ・り。課題を出します。何でも良いから、何か一つの事を一月続けてみなさい。それが今日の貴女への罰です。……達成できなかったら次の実験の被検体になって貰いますからね」
うん。最初に言った事は嘘だ。明確な目標とか持ったのは今回が初めてだし。
そんなこんなで私はお師匠様の爛々と輝く視線から逃げるように涙目で廊下を走っている。
特に何処かを目指していた訳ではない。だが、自然と脚は悪友の居る縁側に向いていた。
「はぁ、日記を書きたい? そんな物好き勝手に書きゃぁ良いだろう」
縁側で爪を切っていた悪友は露骨に面倒臭げな表情を浮かべながらも私の話を聞いてくれる。
こいつは天の邪鬼で、嘘吐きで、意地悪な、性悪ババアだけどこんな所だけは律儀なのだ。
非常に腹立たしい事なのだが、さりげなくハンケチを差し出してくるこいつには感謝しなければいけない。
「書く事が思い浮かばないのよ……、書き方も分かんないし」
「だったら別に日記で無くても良いだろう。屋敷の中を漁れば一カ月続く課題なんて腐るほど有るだろうに」
「そんな事言ったって、私が長く続けてる事なんて業務日誌位しか無いし。今更新しい事に挑戦したくないし」
「……お師匠様の悩みが良く分かるね。」
「ねぇーえ。てぇーゐ……。お願いだからさ。参考にするだけだからさ、ちょっとだけ見せてよ」
「ま、どうしても見たいと言うのなら見せてやっても良いけどね。ほらよ。それが私の『日記』だ」
「うわっ……、っと」
ぽいっとぞんざいに投げられた紙の束を空中でキャッチ。
随分と使いこまれている様で、フチは手垢に塗れ、継ぎ接ぎの跡が散見される。
物持ちの良いこいつの事だから驚きはしない。
だが、それにしても使いこまれているなぁ等と思いながら私はそれを一枚ぺらりと捲った。
「……は?」
フリーズした。
まず眼に入ったのは圧倒的な文字の壁。みっしりと書きこまれた文章と精巧な図面はまるでお師匠様の書くレポートの様であった。
だが、私が驚いたのはそんな所では無い。今更てゐがどんな能力を持っていても驚かない。こいつもお師匠様や姫様の側の存在なのだ。だから、私がフリーズしたのはその中身についてである。
「あんた、これって……」
「そ、あんたの観察日記兼、トラップ性能実験記録。因みにそれが過去三年分のデータね。私の部屋には後三十年分のアーカイブが――」
「最近妙にトラップが巧妙化してると思ったらー!」
「へっ! 技術は進歩するのは当り前さ! 嫌なら脚元に気を付けて歩くんだね」
庭にぴょんと飛び下りたてゐが、舌をちろりと出して私を挑発してくる。
頭に血が上り、直ぐにでも追いかけたくなるが此処はぐっと堪える。
そうだ。冷静にならなければならない。
てゐの様に観察記録を付けている訳でもないが、私もこいつとは長い付き合いなのだ。
行動パターンはある程度把握している。
こうやってあいつが足を止めて露骨に挑発する時は必ずその直前に罠が有る。
それを踏まえて良くてゐの脚元に眼を凝らせば、成程確かに最近土が掘り返された跡がある。
危なかった。素直に飛びかかっていればまた無様に穴に嵌まっていただろう。
逆説、今のてゐは私が飛びかかっても動かない筈だ。てゐの斜め前方。少しずれた位置に狙いを付けて跳躍。そして、着地と同時に――。
「ミギャーーッス!」
最早お馴染みの天地がひっくり返る感覚。
気が付けば穴の上からてゐがニヤケ面を垂れ流していた。
「狼穽(ろうせい)って知ってる? 落し穴って連続で掘る場合もあるのよ」
「それは……、知らなかったわね……」
両腕を空に向けて突き出す。ぐいっと、引っ張り上げられる感覚。
服の泥を払ったり、縁側に誘導したりお茶を出したり、てゐは怒り心頭の私に甲斐甲斐しく世話を焼く。
だったら悪戯をしなければ良いのにとは毎回思っているのだが、本人がどう考えているのかは分からない。
ただ私も毎度の事で腹が立っていたので、すぐには機嫌を直してやらない事にした。
「ねぇーえ。れいせーん。怒らないでよー。さっきのはあれだって。ほら実演みたいな物だってー」
「ほんっと、信じられない……、何をこんな下らない事に時間使ってんのよ……。呆れた」
「まぁ、でも分かったでしょ? いつも鈴仙『と』遊べるのだってこのノートのおかげなんだよ」
「うっさい! もうっ! こんなんじゃ参考になんないよ! てゐに聞いたのが間違いだった!」
「うーん。そうかなぁ……。私的には結構良い線行ってると思ったんだけどなぁ」
「ど・こ・が・よ!」
自分で言って思い出したが、そう言えば私はこいつに日記の書き方の相談に来たのだった。
だがこれは完全なる人選ミスだったと言わざるを得ない。
この悪友に自分は何を期待したのだろうか。数分前の自分を殴ってやりたい。
そんな私に、てゐは意外な一言を投げかけて来た。
「うーん。だったら、姫様に相談してみなよ」
「もう、知らないっ! 帰る……、って。えっ? 姫様って?」
「うん。姫様。多分そう言う事を聞くなら永遠亭であの人以上の適任者は居ないと思うよ」
「はぁー。姫様がねぇ。あんまり聞いた事無いけど。……嘘じゃないでしょうね?」
「わたしゃ、死人に石をぶつけるような事はしない主義なのさ」
「……信じるわよ」
にぃっと、てゐが露悪的な笑みを浮かべる。
その表情で半ば確信した。恐らくこいつの言っている事は事実だろう。てゐとはそう言う奴だ。
全くもって嫌な奴。そんな事を考えながら私は姫様の部屋を訪れる口実を考え始めていた。
「どうしたの、『イナバ』。私の部屋に来るなんて珍しいわね」
「はい。今日は姫様がお部屋の片付けをされていると聞いてお手伝いにと」
正直な所、私は姫様が苦手だ。
所作の端々から滲みでる高貴さは、月の都の上層部を思い出させる。
それは下っ端でしかなかった自分にとっては雲の上の人。
気遅れにも似たような感情が永遠亭に来て数十年が経った今でも抜けきらないでいた。
ただ部屋を訪れると言うそれだけの口実を考えなければいけない程度には。
「あー。永琳に言われちゃってねぇ。偶には部屋を片付けなさいって。何時も綺麗に使っているのにねぇ」
「え、えぇ。全く……、その通りですよ……、ねぇ……?」
「全く。ちょっと二ヶ月位掃除して無いだけで、文句を言うなんて。永琳の皺が増える訳だわ」
「あは、あはは……」
目線の先に在るのは長年動かされた形跡のない用箪笥に、筆記用具が置かれた座卓。
散らかってこそいない。だがその何れもに埃がうっすらと積もっていた。
まるで人が住んでいるとは思えない。最初私はそんな印象を抱いた。
「それじゃ、イナバにはそっちの本棚の掃除をお願いしようかしらね。随分埃が溜まってしまったし……」
「本棚って……、この壁一面全部のこれですか?」
「いーえ。違うわよ。その『奥』もよ」
そう言って姫様は指を弾く。
姫様の能力によって広がった空間には、天上まで届く本棚が優に二十以上も並んでいた。
「ふぇぇ……。これ、全部姫様の私物何ですか?」
「そうよ。奥にあるのはもう殆ど読まないし捨てても良いんだけど、これも大切な『記録』だからね。軽く埃を払ってくれるだけで良いわよ。一々本を退かして掃除していたら陽が暮れちゃうし」
「分かりました。ハタキお借りしますね」
「うん。よろしく」
そう言うと姫様はさっさと居住スペースの掃除に取りかかってしまった。
掃除をしている姫様など初めて見る。
驚くほど所帯じみた行為。なのに姫様のそれは驚くほど様になっていて、気品すら感じられる。
やはり、自分は姫様が苦手だ。そんな事を考えながら私は奥の方の本棚の一つにはたきをかけた。
「――ぶほぉっ!」
「ちょっと。大丈夫? イナバ」
「がふっ! がふっ!」
「その辺りは二年位触って無いからねぇ……。ほらっ、埃。吸わなくて良い様にしてあげるから」
「……ふぅ、ふぅ。……あ、ありがとうございます」
姫様の力で口に埃が寄り付かなくなる。恐らく埃と私との距離を無限大にしたのだろう。
兎も角、これでやっと掃除に取りかかれる。ついでに、姫様と会話するチャンスもできる。
手早く埃を払いながら話題を頭の中で考えていた時。
私は自分が掃除している本棚の中身に眼が行った。
「姫様、これ……、もしかして……?」
「へ? その本棚の中身の事?」
「もしかして……、そんな。まさか……。 これ全部――?」
「『日記』だけど。それがどうかしたの?」
そう。私は気が付いたのだ。本棚には全て同じ装丁の背が並んでいる。
唯一異なるのは、そこに書かれている『日付』。
数千年にも及ぶ長大な期間を意味する日付が、その本棚全てに収まっていた。
「あんまりイナバには興味が無い事だと思うけど……」
「そ、そんな事無いです! けど、これ、本当に全部姫様が?」
「そうよ。『薬を飲んでから』今に至るまでの数千年分の日記。『ライフログ』と呼んだ方が正しいかしらね」
「あの、一冊見せて頂いても……」
「構わないわ。どれでもご自由に」
掃除の事も忘れて古ぼけた一冊の本を手に取る。
そこに記されていたのは姫の言った通りの事だった。
驚くほど綿密な記録。起床時間。食事内容。
日常業務に関する事、全てがタイムラインで整理されている。
とても、人間の手による物とは思えない。私の第一印象はそうだった。
「これ……、本当に日記何ですか?」
「言ったじゃない。それは『ライフログ』よ。ただ日々思い浮かぶ事を書き連ねるだけでなく、何を行動したのか。何を食べたのか、誰と会ったのか。何をしたのか。生活の全て、生きた自分の軌跡を全て記録する。それが――」
「ライフログ……」
「珍しいわね。大抵のイナバは日記になんて興味を持たないのだけど。まぁ、『高草郡の因幡』は別としてね。気になる事でもあったの?」
「あはは……。皆、刹那的快楽主義者ですからね。私も他人の事言えないのですけど。……あの姫様。御相談よろしいでしょうか?」
「なぁに。面倒事で無ければ聞くわよ。聞くだけならタダだしね」
「私に……、日記の書き方を教えて頂く事はできないでしょうか?」
掃除用のハタキを置き、姫様の前に座りながら私は言った。
きょとりとした表情。次第にほぐれる表情筋。そして、僅かに口角を上げたにやにやとした表情へと変化する。
張り付けた様な薄い笑みの姫様しか知らなかった私に、その表情の変化はとても新鮮に映った。
「ふぅーん。……永琳の課題ね?」
「ぅぐ……。その通りです」
「大方調合で失敗して怒られた。そのペナルティね。達成できなかったらお尻百叩きかしら?」
「いえ……。新薬の被検体にすると言われました」
「あらまぁ、それは……。頑張ってね」
「そ、そんなぁ。姫様ぁ。一言で良いですから、何かアドバイスをぉ……」
「嘘よ」そう言った姫様の顔は、まるであの悪友のようで。
ちょっとした驚きのような物を感じつつ私は胸を撫で下ろした。
「珍しいと思ったのよね。『イナバ』が私の所に自分から来るなんて。最初からアドバイスが欲しくて来たんでしょ? だったらそう言ってくれれば手っ取り早かったのよ」
「ぁぅ……。申し訳有りません」
「で・も。人にお願いする時はどうするか。永琳に習わなかったの?」
「お願いします」そう言いながら再び姫様に頭を下げる。
自慢ではないが礼と土下座の美しさには自信がある。どちらも月の軍隊仕込みの物だ。
本当に自慢にならないがこれで数多くの修羅場を潜り抜けたのも事実。
だが、姫様からリアクションは無い。どこか変な所は無いか。おかしな言い間違いをしなかったのか。
心臓が締め付ける様に痛む。何時もの事だ。私は何時も叱られる前はこんな風に心臓が痛むのだ。
半ば確信めいた予感と共に思い切って頭を上げる。そこにはにっこりとほほ笑んだ姫様の顔が有った。
「よろしい! それじゃ、イナバ。私と交換日記をしましょう」
「ありがとうございますっ! ……って、交換日記……、ですか?」
「えぇ、そうよ。私も最初はそうだったから分かるんだけどね。長い間何かを続ける時の一番の難関は始めたばかりの頃なのよ」
「まぁ、確かにその通りですが……」
「貴方が書いた日記を夜、私に持って来なさい。次の日に私が書き足して渡すから」
そう言って白紙の日記帳を差し出してくる姫様はとても良い笑顔をしていて。
でもどうしてだろうか。私には眼の前の姫様が何処にでも居る同い年の少女の様にしか見えない。
だが何はともあれ。こうして私と姫様の奇妙な交流は始まったのだ。
後から思えば、これが人生のターニングポイントって奴だったのかもしれない。
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一日目
鈴仙
今日はてゐと人里の置き薬の補充に行ってきました。てゐがふらふらと何処かに行ってしまうので大変でした。
輝夜
私は盆栽の手入れと永琳の課題位しかやって無いわねぇ。貰った金平糖が美味しかったわ。また買ってきてよ。
後、若い妖怪兎達が徒党を組んで永遠亭の奥の方に向かってるのを見たんだけど、イナバは何か知らないの?
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二日目
鈴仙
金平糖は喜んで頂けた様で嬉しいです。今日は食事の当番だったので朝から厨房でした。若い子達が取って来た山菜を使ってみようと思います。
奥に行ってたのはてゐが遊びで作った探索隊だと思います。永遠亭の深部を調べると言っていましたが何をしているのかは知りません。
輝夜
あぁ、ワラビのおひたしは美味しかったわ。でも、ハンゴンソウはまぁ、何と言うか魂が抜けそうな味がしたわね。ちゃんとアク抜きしたの?
てゐが暇そうだったから久々に将棋に誘ってみたわ。相変わらずあの子強いわねぇ。二枚落ちだったとは言え負けそうだったわ。
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三日目
鈴仙
あぁぁぁ! 申し訳有りませんでした。アク抜きの時間が全然足りて無かったみたいです。後で調理の上手い子から聞きました……。次からは気を付けます。
今日は里の往診でした。どうも、食中りの人が多いみたいで、整腸薬を欲しがる人が多かったです。何でかは分からないです。あったかくなり始めなので食べ物が痛み易いんでしょうか。
輝夜
別に良いのよ。あれはあれで、そう。ユニークで楽しかったわ。
今日は永琳に怒られちゃったわね。永琳の課題をサボってた私が悪いんだけど。今度言っといてよ。何で私が永遠亭の家計簿付けなきゃいけないのよって。
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七日目
鈴仙
今日は妖怪の山近くまで薬草の採集に行ってきました。てゐの奴が穴場を教えてくれたおかげでお師匠様に褒められちゃいました。少しお小遣いにボーナスも付いたので、また人里で何かお土産買ってきますね!
輝夜
それは楽しみね。今日の私は一日中物置きの整理よ。月から持って来た品が最近よく無くなってるのよねぇ。因幡達が取ってると思うんだけど、貴女は何か知らないかしら?
後、これはぜんっぜん関係無いんだけど。私最近饅頭が恐くて仕方ないの。考えただけでもぞっとするわ。特に木村屋のヨモギ饅頭なんてこの世から滅びれば良いのにね。
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十五日目
鈴仙
ついに鼈甲の髪留めを手に入れちゃいました! ちょっとだけトラブルもありましたけど、まさかてゐがプレゼントしてくれるなんて思ってもみなくて……。
ただ、私はまだてゐに「ありがとう」って、言えていません。どうにもタイミングを逃してしまって……。でも、言わない訳には行かないし……。なので、明日少しだけ勇気を出そうと思ってます。遅過ぎる……、でしょうか?
輝夜
今里で話題の品らしいわね。とても良く似合っていたわよ。
感謝の気持ちはそうね……。早いに越した事は無いけども遅すぎるなんて事は絶対にあり得ないわ。何十年。何百年経ってしまったとしても、言わないよりも言った方がずっと良い。
それが明日に言えるのなら、今の貴女は十分過ぎる位成長したって事よ。自信を持ちなさい。
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そうやって姫様と交換日記をする中で分かってきた事がある。
姫様は私が思っているよりもずっと人間的な人だ。
しょっちゅうお師匠様に怒られたと愚痴を言って来るし、非常に面倒臭がりだ。
なんだか、そんな姫様の駄目な部分が自分と重なって驚くほど姫様への気遅れと言うものが無くなって行った。
「姫さまぁ。暇ですねぇ」
「確かに暇ねぇ」
特に用も無いのに姫様の部屋を訪れ時間を過ごす等、これまで絶対に考えられなかった。
それら全ては私の身勝手な姫様へのイメージがさせていた事だ。
『高貴な姫様に易々と話し掛けてはいけない』『姫様の手を煩わせてはいけない』『姫様に下賤な自分が近寄ってはいけない』そんな事ばかりを考えていた。
だが、それはまるで逆だった。姫様は話し相手を求めているし、姫扱いされる事を望んでいる訳ではない。
「ねぇ、ボードゲームでもやらない?」
「ボードゲーム……、ですか?」
だから、こんな風に遊び相手を求めるのは自然な事だ。
永遠の時を生きると言っても……、否。永遠の時を生き変化を否定するからこそ姫様は永遠に少女なのだ。
少女らしい衝動を持つのは当たり前だと本人は言っていた。
「そう。オセロよ。最近手に入れたのよねー。でも相手が居なくって」
「……良いですね。相手になりましょう。でも、申し訳ないですが。私ちょっとこれには自信がありましてね。手加減はしかねますのでどうかご容赦を……」
「ふふふ。手加減なんて不要よ。例え初見であっても。遊びの分野で私に勝てるだなんて思わない事ね
勝負が始まって僅か五分。姫様の言葉に偽りは無くぼっこぼこにされた。
何この人むちゃくちゃ強い。
てゐと言いお師匠様と言いこの館の住人は何故ボードゲームに此処まで本気を出すのだろうか。
まぁ、慣れっこなので別に勝ち負けは気にしない。私の白駒が盤面に一つたりとも残ってなくたって気にしない。うん、気にしない……。泣いて無いし。
「そうそう。気にしない。気にしない。多分これ、後手が有利なのよ。きっと。良く分からないけど」
「うぇぇ……。その通りなんですけど……! その通りなんですけど……!」
「それに、その辺のイナバに何連勝しても腕は上がらないわよ。あの子達ルール理解してるかも怪しいんだから」
「マジでもう勘弁して下さい。ほんと」
「まぁ、もう一局やりましょう。午後も暇なんでしょう?」
「喜んで」そう答えようとした時に私はふと思い出す。
そう言えば午後からは用事があったのだ。
「実はお昼ご飯後にお師匠様から呼び出されてまして。何でも、人参湯(腹痛のお薬)の大量発注がかかったとか何とか……」
「あらそう。残念ね。季節の変わり目だし、仕方ないかしらね」
「はい。申し訳ないのですが、また明日対局しましょう。明日は負けないですよ」
「はいはい。期待してますよ。それじゃ、また明日ね。楽しみにしてるわ『鈴仙』」
「……へ、あっ、はいっ!」
努めて顔に表情を出さない様に。
釣り上がりそうになる口角を無理やり押さえつけながら部屋を辞した。
そうだ。これが最大の変化なのだ。
すれ違う妖怪兎達が怪訝な顔をして此方を見て来る気がするが気にしない。
何と言っても、今の私は屋敷の中で唯一姫様に『名前』を呼んで貰える兎になったのだ。
「なーんか妙に楽しそうじゃない?」
「んー。そんな事無いよ。 イ・ナ・バちゃん!」
「うわっ……、きんもっ……」
「~~♪」
てゐが何か言ってるが気にもならない。
何と言っても、私は姫様に認められた兎なのだから。
この位の事を多めに見てあげる心の広さがあって当然だ。
そんな優秀な私だからすぐに分かる。ほら、どうせそこに罠が有るのだ。
眼の前の曲がり角。視線が前を向くその一瞬に通過する位置。
目立たない様に、且つ普通に歩けば必ず脚が引っ掛かる絶妙な位置にトリップワイヤーが光ってる。
「ほいっと、ね」
「うっそ?!」
なんてたって姫様に唯一認められた兎なのだ。
この程度は朝飯前。飛んだ時、丁度私の顔の位置に来るように据え付けられた木片だってお見通しだ。
背後でてゐが茫然としてる気配がするのが、ちょっとだけ気になる。
後でフォローして置いてあげよう。優秀な私だから、そんな気遣いもできてしまうのだ。
「最近貴女覚えが良いわね。もしかして自分で勉強もしてるのかしら?」
「えへへ……。ちょっとがんばってみようかと思いまして」
手際良く調合を終えた私にお師匠様が眼を丸くする。
姫様のアドバイスで、日記を書くついでに毎日三十分だけ復習をするようにしてみたのだ。
結果はこの通り。私って実は凄いのかもしれない。
「何が変わったのか知らないけど、この調子で頑張って貰えると私も気が楽よ」
「当然ですよ。お師匠様の片腕となれるようにこれからも精進します」
「嬉しい事を言ってくれるわね。期待せずに待ってるわよ」
本当に全てが上手く行くようになって自分でも驚いている。
全ての発端はお師匠様の出した『日記』だった。本当にお師匠様には感謝しないといけない。
でも、まずはその前に。まだ期日までは十日程残っている。
今はこのままで良い。一カ月の日記を終わらせたら、私はもっと頑張ろう。
もっと毎日勉強して。もっと姫様と遊んで。もっとお師匠様に褒められて。もっとてゐを見返してやろう。
そうだ、私の住む世界は変わろうとしているのだ。『皆の居る側』へ自分は進もうとしている。
そんな事を思いながら過ごした十日は思った以上に短くて。あっという間にその日はやって来た。
「お師匠様!」
「どうしたの。優曇華?」
「へへへ。お見せしたい物がありまして……」
「あぁ、そういえば今日はその日だったわね。ほら、勿体ぶらずに見せて御覧なさい」
「全くお師匠様は無駄に合理的なんだから……。こんな時位勿体ぶっても良いじゃないですか」
「下らない事言ってないで。ほら」
机に向ったままのお師匠様にこの一カ月の成果を渡す。
拙いかもしれないが決して手を抜いたつもりは無い。
姫様に協力して貰ったとはいえ、それを一カ月書き続けたのは紛れも無く私なのだ。
そうは思っていても、胸がどきどきする。
お師匠様は怪訝な顔をしているだろうか。満足げな顔をしているだろうか。呆れ顔をしているだろうか。
期待と不安が胸の中で好き勝手に暴れ回る。
そんな感情を払拭する為に私は少しだけ勇気を出して薄眼を開く事にした。
そこには、満足げな笑みを浮かべたお師匠様が居た。
「……正直貴女が一カ月投げ出さないなんて思わなかったわ。偉いわね。良くやったわよ」
「お師匠様……!」
頭に掌が載せられる。髪の毛をわしゃわしゃと搔き混ぜられる。
嗚呼、何週間ぶりだろう。殴られてばかりのこの手に優しくされるのは。
「正直残念よ。貴女の為にとっておきの新薬を作ってみたのに……」
「いや、マジで勘弁して下さい」
その時のお師匠様の眼がマジだったのは言うまでも無い。
話が妙な事にならない内に、私はお師匠様の部屋を脱出する事にした。
目的は勿論、姫様にお礼を言う為だ。
「姫様ー?」
ノックしながら襖を開くも中には誰も居ない。
夜も遅いこんな時間に姫様が居ないのは非情に珍しい。
何かがあったのだろうかと首を傾げていると、丁度通り掛かったてゐが事情を教えてくれた。
「姫様? あぁ、今夜は妹紅と逢引きに行ってるよ」
「逢引きて……。ようするに殺し合いによね。珍しいわねぇ。ここ数カ月は大人しかったのに」
「偶然竹林で鉢合わせしちゃったのよ。私と散歩してる時にね」
「それであんただけ帰って来たと」
「危ない橋を渡らないのが長生きのコツだよ。鈴仙」
「はいはいっと。それじゃぁ、迎えに行ってきますよ。どうせ久しぶりで二人とも無茶してるんだろうから」
恐い程に全てが上手く行っている。
毎日が幸せで仕方がない。だから、きっとこんな事は『長続きしない』のだろうと心の何処かでは感じていた。
ただ、その日が来るのは私が思っていたよりもずっと早かったと言うだけで。
不思議な物で嘔吐感にも近い感情は現実世界にもフィードバックされる。
私にとっての『それ』は姫様の薄い笑みと言う形を取っていた。
「あれ、姫様。お帰りでしたか?」
「ただいま。ちょっと疲れてしまったわ」
「久々の喧嘩でしたもんね。すぐに湯浴みの準備を致します。此方へどうそ」
玄関で出くわした姫様は、案の定ぼろ雑巾の様な姿だった。
そんな姿とは対象的に立ち居振る舞い、表情、その全ては何時も通り。
その『変わりの無さ』が逆に私の中の不安感を駆り立てて行った。
「今日も妹紅と喧嘩ですか?」
「ええそうよ。どうもあの半獣と上手く行っていないみたいでね。少し挑発したら何時も以上に乗って来たわ」
気を紛らせる為に何気ない言葉を交わす。その眼は私や今を見ている様には感じられない。
だがそんなのは喧嘩から帰って来た姫様には何時もの事だ。
二人の間に昔何があったのか分からない私には想像するしかできないが、昔の何かを思い出しているのだろう。
「程々にして下さいね。あんな顔しててもお師匠様も心配なされていますから」
「あぁ。ありがとう――」
『何時も』は、そう思って気にも留めていなかった。
だが今は違う。何かがおかしい。見慣れた筈の姫様が、何故か他人の様に見えてしまう。
理由は分からない。ただ、恐るべき考えが頭の中にじわりと滲む。
だけど、混乱する私に追い打ちを書ける様に、姫様は残酷に、無慈悲に口を開くのだ。
「――『イナバ』」
私の世界が凍りつく。
最期のエンターキーを押すまいと、全てのニューロンが演算をストップした。
全ての状況は期待的な観測を次々と打ち砕き、私の恐るべき考えだけを肯定する。
だから思考を停止させた。感情を整理する時間を稼ぐために。
「どうしたの。『イナバ』? お風呂、連れて行ってくれるんじゃないの?」
「あ……、あの……、ひ……、姫……、さ……」
「ふむ……。ちょっと待ちなさい」
陸に打ち上げられた魚みたいに口をぱくぱくさせる私を置いて、姫様は胸元から手帖を取り出して何事かを確認している。
暫しの後、何かを悟った姫様は私に少しだけ砕けた笑みを向けてくれた。
「あーっ……。そう。『以前の私』は。貴女と仲良くしていたのね」
「姫様……? 以前とは、一体……?」
「……聞きたいの?」
初めて姫様の瞳が私を見た。真っ黒な虹彩に吸い込まれる様な錯覚をする。
正直に言って恐かった。だけど、聞かないと言う選択肢もまた、自分の中に無かった。
膨大な恐怖と闘いながら静かに首肯する。姫様は変わらずに優しい笑みを浮かべていた。
「言った筈よ。永遠の時を生き変化を『否定』するからこそ、私は不死身なのだと。蓬莱の薬で不死身になるのはね、あくまでも結果に過ぎない。この薬の本質は『停滞』にある」
「停滞……、ですか?」
「そう。停滞。この薬は体を直すんじゃない。『巻き戻す』の。外的、内的問わず発生した損傷に反応して、精神も魂も肉体も全て、『薬を呑んだ時』と同じ状態にまで完璧に復元する。……それが、この薬の効果よ」
「それって、つまりは――」
「その通り。今の私は、数千年前。月の都で永琳から貰った薬を呑んだ私と『殆ど』同一存在。……貴女達の事は、覚えていない」
「――ッ?!」
がつんと、頭を殴られた様な気がした。
胸の内の違和感の正体が、演算を止めていたニューロンが、強制的に起動する。
それら突き付けるのは残酷な現実だ。積み重ねた物の否定だ。
自分の今月の働きは全て虚構の上に成り立っていたのだ。その事実が胸を締め付ける。
眼を瞑ってしまいたい。姫様の恐るべき笑顔を見ていられない。
そう思って私は、静かにそっと瞼を降ろそうとした。
「待ちなさい。『殆ど』、と言った筈よ」
「……私の事は覚えているんですか?」
「いいえ。何も。永琳以外の屋敷に住んでいる人の事は良く思い出せない」
「じゃあやっぱり、今月の事も……」
「覚えていないわ。その為に私は、『日記(ライフログ)』を付けている。巻き戻った時に、前の自分が何をしたか思い出せるように。死んだ直後に困らない様に最低限の事をこうやってメモ帳に纏めてある」
そう言って姫様は先ほどの手帖を少しだけ見せてくれる。
箇条書きで綴られた手帖にはこの永遠亭と姫様に纏わる事がびっしりと記されていた。
「でもね。『こんな物』が無くても。この屋敷がある事。そこで兎と暮らしている事。私には仇敵が居る事。その位の事は覚えているの」
「え……、だって、それはおかしいじゃないですか。さっき姫様が言った事と矛盾します」
「そうかもしれない。けどね。如何に優れたプログラムでも、必ずバグは存在する。そう、これは蓬莱の薬のバグの産物なのよ、体を元の状態に復元する際に僅かに混じる『ノイズ』と言う名前のね」
「ノイズ……、ですか?」
「そう。例えば、『強い感情』。死の間際に刻まれた強い感情は蓬莱人の魂をも変質させ得る。最期に見た光景、記憶、それらは薄く魂に刻まれ何度生まれ変わっても消えはしない」
月明かりの照らす暗い廊下に姫様の朗々とした声が響く。
逃げたい。私の脆弱な心は既にそう悲鳴を上げていた。
この先に姫様が続ける言葉が予想できていたからこそ、兎の弱い心は早々に警鐘を鳴らしていた。
「『生命の記録(ライフログ)』私はそれをこう呼んでいる。」
「ライフログ……」
「どう、試しにやってみる? その銃で名前でも叫びながら私を撃ち殺せば、貴女に纏わる記憶も刻みこめるかもね」
何処からか取りだしたS&Wをくるくると回しながら私に手渡してくる。
私は知らなかった。姫様がこんな凶悪な笑みを浮かべる事ができるなんて、私は知らなかった。
一度は身近に感じた姫様がこんなにも遠い存在だなんて、私は知らなかった。
「……撃たないの?」
「でも、だって……。姫様を撃つだなんて……」
「へぇ、逃げるんだ? 月でもそうやって逃げて来たのにね」
恐い。姫様が恐い。心は既に折れている。
黄色い灯りが照らす姫の顔を直視できない。掌の中の重量感が恐怖に拍車を掛ける。
「因みに『高草郡の因幡』は迷わず撃ったわよ。その方が効率が良いからですって。永琳と私は何度殺し合ったか覚えてもいないわ」
怖ろしい。皆が怖ろしい。
一緒に暮らしていて、当たり前に会話をしていた皆が、遠い存在の様でどうしようもなく怖ろしい。
眼は既に閉じてしまっている。両耳はとっくの昔に塞いでいる。でも、姫様の声は頭に直接響いて来る。
「だって……、だって……。あんなに仲良くしてくれた姫様を……、撃つ……、なんて」
「イナバ。一つ忠告をしてあげる。逃げ癖を直すのにはね。逃げない事しか無いの。貴女が今勝つ方法はあまりにも明確よ。『引き金を引きなさい』『イナバ』」
嫌だ。嫌だ。逃げたくない。撃ちたくない。
この一カ月で変われたと思った自分を否定したくない。でも、その為に姫様を撃つ勇気なんて無い。
恐い。怖ろしい。
「逃げるんだ?」
(逃げたくない)
震える手はその銃を持ち続ける事すらままならない。
精神の狭間に落ち込んだ心はその恐怖の源泉を手放す事すら許さない。
「逃げるんだ?」
(逃げたくない)
無限ループする思考は際限なくエラーログを吐き出し続ける。
自動で働いた防衛機制によりシャットアウトされた思考。
仮初の平穏はある一つの事実を心に届けたのだ。
「逃げるんだ?」
(逃げたくない)
ふと気が付く。それは決定的な己の矛盾。
塵芥になった過去によってもたらされた、以前までの自分との決定的な違い。
「逃げるんだ?」
「逃げたくない」
私は気が付いた。
何故まだこの場に立っているのだ。
こんなにも脆弱な心にも関わらず、この脚はどうしてこの場に立ち続けているのだ。
「逃げるんだ?」
「逃げたくない」
私は銃口を姫様に向ける。
私の思いを姫様に伝える為に、私はトリガーに指を掛ける。
「私は――、私はっ!」
満月の照らす長い廊下。
空っぽの銃声と兎の鳴き声が深夜の永遠亭に響いた。
何時も通りの日常。何時も通りの昼下がり。
永遠亭の縁側で。
まぁ、人生に置いて誰にでも調子の良い時と言うのは有る物で。
そしてそう言う調子の良さは連鎖する物で。
ついでに言えば、そう言うのは長く続かない物で。
結局の所。先月の私と言うのは丁度それだったのだ。
調子の良い時期だったので、姫様との交流にも積極的になれた。
調子が良かったので、お師匠様の出す難解な課題にも意欲が持てた。
だから別に世界が何か変わった訳ではないのだ。
だって、私が劇的に変化した所なんて何もない。
今日も今日とて、うっかり調合手順を間違えてお師匠様には怒られてしまったし。
姫様は何時も通りどこか余所余所しい。
何時もと変わらない日常。何時もと変わらない私。
ひりひりする頭をてゐから貰った濡れ雑巾で冷やすのも何時も通り。
でも、それは当り前の事なのだ。永遠亭は変化を否定する。
此処が停滞した空間だからこそ、姫様も、お師匠様も、てゐとも出会う事が出来たのだ。
でも、別に寂しくは無い。だって、何もかも元通りになった訳ではないのだから。
少なくとも先月、姫様と交流した事。
そして逃げ癖の着いた私が日記を一ヵ月間続けられた事。
私と言う存在の、この変化は紛れもない事実なのだ。
「姫さま―」
「なぁに、『イナバ』。珍しいわね」
自分の住む世界を変えるなんて並大抵の努力じゃ出来やしない。
それが、ましてや私みたいな負け犬には絶対に不可能だろう。
だけど、自分を変化させられる事には気が付いた。
だから私は一歩だけ足を出してみようと思う。
「へへへー。姫様にプレゼントがありましてー」
でも、やっぱり私は負け犬だから。
その一歩はとっても小さな物だ。だって、大きく踏み出してこけるのは恐いし。
元の木阿弥になって、無駄になった時、大きく傷つきたく無い。
だから、小さな一歩。どうでも良い位の大きさで。
だけどそんな小さな一歩が。そんな私の僅かな変化が。
水滴が石を穿つ様に、そんな変化の積み重ねが。
何時か私の周りの世界を変えてくれますように。
「一緒にチェスをやりましょー!」
私の名前は鈴仙・優曇華院・イナバ。
来月の目標は、『姫様から名前を呼んで貰う事』だ。
何せこの館の住人は一々スケールが大きい。永遠を生きる姫様に、底の無い科学の探求を続けるお師匠様。
後は健康マニアのロリババア。そんな気の長い人達と付き合っていくには日々の生活の張りが必要不可欠なのだ。
因みに今の私の目標は毎日『日記』を付ける事。
正直これまで日記なんて書いた事無かったのだけど、過去の自分を振り返り未来の自分を改善して行く為の素晴らしい目標だと思う。
先程までお師匠様の作業補助をしていた私は、お師匠様からの素晴らしいアドバイスを受けてこの目標を思いついたのだ。
その時の様子は大体こんな感じた。
「あっ、こらっ! 優曇華。附子は今回から外すって言ったでしょう!」
「あわわっ!? 御免なさいぃ!!」
「下品(げほん)の扱いは気を付けなさいとあれ程……!」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいぃぃ!!」
「全く、貴女と言う人は……」
もう何度目になるだろうか。私はこう言うミスをよく起こしてしまう。
気を付けようと思ってもその努力の仕方が分からない。
その時にも私は来るべき衝撃に耐える為、身を小さくして眼を瞑っていたのだ。
「あなたはちょっと忍耐力が足りないのよ」
「……ふぇ?」
「逃げ癖が付いてるのよ貴方は。だから、ちょっと操作が複雑になると途端にミスが増える。今日みたいにね」
「あぅ……、申し訳有りません。申し訳有りません。申し訳有りません~!!」
「違う。私が求めているのはそんな言葉じゃない」
「ぅぅ……」
「全く……。土下座ばかり上手くなるんだから……。もう良いわ頭を上げなさい」
「お師匠様……」
「そ・の・代・わ・り。課題を出します。何でも良いから、何か一つの事を一月続けてみなさい。それが今日の貴女への罰です。……達成できなかったら次の実験の被検体になって貰いますからね」
うん。最初に言った事は嘘だ。明確な目標とか持ったのは今回が初めてだし。
そんなこんなで私はお師匠様の爛々と輝く視線から逃げるように涙目で廊下を走っている。
特に何処かを目指していた訳ではない。だが、自然と脚は悪友の居る縁側に向いていた。
「はぁ、日記を書きたい? そんな物好き勝手に書きゃぁ良いだろう」
縁側で爪を切っていた悪友は露骨に面倒臭げな表情を浮かべながらも私の話を聞いてくれる。
こいつは天の邪鬼で、嘘吐きで、意地悪な、性悪ババアだけどこんな所だけは律儀なのだ。
非常に腹立たしい事なのだが、さりげなくハンケチを差し出してくるこいつには感謝しなければいけない。
「書く事が思い浮かばないのよ……、書き方も分かんないし」
「だったら別に日記で無くても良いだろう。屋敷の中を漁れば一カ月続く課題なんて腐るほど有るだろうに」
「そんな事言ったって、私が長く続けてる事なんて業務日誌位しか無いし。今更新しい事に挑戦したくないし」
「……お師匠様の悩みが良く分かるね。」
「ねぇーえ。てぇーゐ……。お願いだからさ。参考にするだけだからさ、ちょっとだけ見せてよ」
「ま、どうしても見たいと言うのなら見せてやっても良いけどね。ほらよ。それが私の『日記』だ」
「うわっ……、っと」
ぽいっとぞんざいに投げられた紙の束を空中でキャッチ。
随分と使いこまれている様で、フチは手垢に塗れ、継ぎ接ぎの跡が散見される。
物持ちの良いこいつの事だから驚きはしない。
だが、それにしても使いこまれているなぁ等と思いながら私はそれを一枚ぺらりと捲った。
「……は?」
フリーズした。
まず眼に入ったのは圧倒的な文字の壁。みっしりと書きこまれた文章と精巧な図面はまるでお師匠様の書くレポートの様であった。
だが、私が驚いたのはそんな所では無い。今更てゐがどんな能力を持っていても驚かない。こいつもお師匠様や姫様の側の存在なのだ。だから、私がフリーズしたのはその中身についてである。
「あんた、これって……」
「そ、あんたの観察日記兼、トラップ性能実験記録。因みにそれが過去三年分のデータね。私の部屋には後三十年分のアーカイブが――」
「最近妙にトラップが巧妙化してると思ったらー!」
「へっ! 技術は進歩するのは当り前さ! 嫌なら脚元に気を付けて歩くんだね」
庭にぴょんと飛び下りたてゐが、舌をちろりと出して私を挑発してくる。
頭に血が上り、直ぐにでも追いかけたくなるが此処はぐっと堪える。
そうだ。冷静にならなければならない。
てゐの様に観察記録を付けている訳でもないが、私もこいつとは長い付き合いなのだ。
行動パターンはある程度把握している。
こうやってあいつが足を止めて露骨に挑発する時は必ずその直前に罠が有る。
それを踏まえて良くてゐの脚元に眼を凝らせば、成程確かに最近土が掘り返された跡がある。
危なかった。素直に飛びかかっていればまた無様に穴に嵌まっていただろう。
逆説、今のてゐは私が飛びかかっても動かない筈だ。てゐの斜め前方。少しずれた位置に狙いを付けて跳躍。そして、着地と同時に――。
「ミギャーーッス!」
最早お馴染みの天地がひっくり返る感覚。
気が付けば穴の上からてゐがニヤケ面を垂れ流していた。
「狼穽(ろうせい)って知ってる? 落し穴って連続で掘る場合もあるのよ」
「それは……、知らなかったわね……」
両腕を空に向けて突き出す。ぐいっと、引っ張り上げられる感覚。
服の泥を払ったり、縁側に誘導したりお茶を出したり、てゐは怒り心頭の私に甲斐甲斐しく世話を焼く。
だったら悪戯をしなければ良いのにとは毎回思っているのだが、本人がどう考えているのかは分からない。
ただ私も毎度の事で腹が立っていたので、すぐには機嫌を直してやらない事にした。
「ねぇーえ。れいせーん。怒らないでよー。さっきのはあれだって。ほら実演みたいな物だってー」
「ほんっと、信じられない……、何をこんな下らない事に時間使ってんのよ……。呆れた」
「まぁ、でも分かったでしょ? いつも鈴仙『と』遊べるのだってこのノートのおかげなんだよ」
「うっさい! もうっ! こんなんじゃ参考になんないよ! てゐに聞いたのが間違いだった!」
「うーん。そうかなぁ……。私的には結構良い線行ってると思ったんだけどなぁ」
「ど・こ・が・よ!」
自分で言って思い出したが、そう言えば私はこいつに日記の書き方の相談に来たのだった。
だがこれは完全なる人選ミスだったと言わざるを得ない。
この悪友に自分は何を期待したのだろうか。数分前の自分を殴ってやりたい。
そんな私に、てゐは意外な一言を投げかけて来た。
「うーん。だったら、姫様に相談してみなよ」
「もう、知らないっ! 帰る……、って。えっ? 姫様って?」
「うん。姫様。多分そう言う事を聞くなら永遠亭であの人以上の適任者は居ないと思うよ」
「はぁー。姫様がねぇ。あんまり聞いた事無いけど。……嘘じゃないでしょうね?」
「わたしゃ、死人に石をぶつけるような事はしない主義なのさ」
「……信じるわよ」
にぃっと、てゐが露悪的な笑みを浮かべる。
その表情で半ば確信した。恐らくこいつの言っている事は事実だろう。てゐとはそう言う奴だ。
全くもって嫌な奴。そんな事を考えながら私は姫様の部屋を訪れる口実を考え始めていた。
「どうしたの、『イナバ』。私の部屋に来るなんて珍しいわね」
「はい。今日は姫様がお部屋の片付けをされていると聞いてお手伝いにと」
正直な所、私は姫様が苦手だ。
所作の端々から滲みでる高貴さは、月の都の上層部を思い出させる。
それは下っ端でしかなかった自分にとっては雲の上の人。
気遅れにも似たような感情が永遠亭に来て数十年が経った今でも抜けきらないでいた。
ただ部屋を訪れると言うそれだけの口実を考えなければいけない程度には。
「あー。永琳に言われちゃってねぇ。偶には部屋を片付けなさいって。何時も綺麗に使っているのにねぇ」
「え、えぇ。全く……、その通りですよ……、ねぇ……?」
「全く。ちょっと二ヶ月位掃除して無いだけで、文句を言うなんて。永琳の皺が増える訳だわ」
「あは、あはは……」
目線の先に在るのは長年動かされた形跡のない用箪笥に、筆記用具が置かれた座卓。
散らかってこそいない。だがその何れもに埃がうっすらと積もっていた。
まるで人が住んでいるとは思えない。最初私はそんな印象を抱いた。
「それじゃ、イナバにはそっちの本棚の掃除をお願いしようかしらね。随分埃が溜まってしまったし……」
「本棚って……、この壁一面全部のこれですか?」
「いーえ。違うわよ。その『奥』もよ」
そう言って姫様は指を弾く。
姫様の能力によって広がった空間には、天上まで届く本棚が優に二十以上も並んでいた。
「ふぇぇ……。これ、全部姫様の私物何ですか?」
「そうよ。奥にあるのはもう殆ど読まないし捨てても良いんだけど、これも大切な『記録』だからね。軽く埃を払ってくれるだけで良いわよ。一々本を退かして掃除していたら陽が暮れちゃうし」
「分かりました。ハタキお借りしますね」
「うん。よろしく」
そう言うと姫様はさっさと居住スペースの掃除に取りかかってしまった。
掃除をしている姫様など初めて見る。
驚くほど所帯じみた行為。なのに姫様のそれは驚くほど様になっていて、気品すら感じられる。
やはり、自分は姫様が苦手だ。そんな事を考えながら私は奥の方の本棚の一つにはたきをかけた。
「――ぶほぉっ!」
「ちょっと。大丈夫? イナバ」
「がふっ! がふっ!」
「その辺りは二年位触って無いからねぇ……。ほらっ、埃。吸わなくて良い様にしてあげるから」
「……ふぅ、ふぅ。……あ、ありがとうございます」
姫様の力で口に埃が寄り付かなくなる。恐らく埃と私との距離を無限大にしたのだろう。
兎も角、これでやっと掃除に取りかかれる。ついでに、姫様と会話するチャンスもできる。
手早く埃を払いながら話題を頭の中で考えていた時。
私は自分が掃除している本棚の中身に眼が行った。
「姫様、これ……、もしかして……?」
「へ? その本棚の中身の事?」
「もしかして……、そんな。まさか……。 これ全部――?」
「『日記』だけど。それがどうかしたの?」
そう。私は気が付いたのだ。本棚には全て同じ装丁の背が並んでいる。
唯一異なるのは、そこに書かれている『日付』。
数千年にも及ぶ長大な期間を意味する日付が、その本棚全てに収まっていた。
「あんまりイナバには興味が無い事だと思うけど……」
「そ、そんな事無いです! けど、これ、本当に全部姫様が?」
「そうよ。『薬を飲んでから』今に至るまでの数千年分の日記。『ライフログ』と呼んだ方が正しいかしらね」
「あの、一冊見せて頂いても……」
「構わないわ。どれでもご自由に」
掃除の事も忘れて古ぼけた一冊の本を手に取る。
そこに記されていたのは姫の言った通りの事だった。
驚くほど綿密な記録。起床時間。食事内容。
日常業務に関する事、全てがタイムラインで整理されている。
とても、人間の手による物とは思えない。私の第一印象はそうだった。
「これ……、本当に日記何ですか?」
「言ったじゃない。それは『ライフログ』よ。ただ日々思い浮かぶ事を書き連ねるだけでなく、何を行動したのか。何を食べたのか、誰と会ったのか。何をしたのか。生活の全て、生きた自分の軌跡を全て記録する。それが――」
「ライフログ……」
「珍しいわね。大抵のイナバは日記になんて興味を持たないのだけど。まぁ、『高草郡の因幡』は別としてね。気になる事でもあったの?」
「あはは……。皆、刹那的快楽主義者ですからね。私も他人の事言えないのですけど。……あの姫様。御相談よろしいでしょうか?」
「なぁに。面倒事で無ければ聞くわよ。聞くだけならタダだしね」
「私に……、日記の書き方を教えて頂く事はできないでしょうか?」
掃除用のハタキを置き、姫様の前に座りながら私は言った。
きょとりとした表情。次第にほぐれる表情筋。そして、僅かに口角を上げたにやにやとした表情へと変化する。
張り付けた様な薄い笑みの姫様しか知らなかった私に、その表情の変化はとても新鮮に映った。
「ふぅーん。……永琳の課題ね?」
「ぅぐ……。その通りです」
「大方調合で失敗して怒られた。そのペナルティね。達成できなかったらお尻百叩きかしら?」
「いえ……。新薬の被検体にすると言われました」
「あらまぁ、それは……。頑張ってね」
「そ、そんなぁ。姫様ぁ。一言で良いですから、何かアドバイスをぉ……」
「嘘よ」そう言った姫様の顔は、まるであの悪友のようで。
ちょっとした驚きのような物を感じつつ私は胸を撫で下ろした。
「珍しいと思ったのよね。『イナバ』が私の所に自分から来るなんて。最初からアドバイスが欲しくて来たんでしょ? だったらそう言ってくれれば手っ取り早かったのよ」
「ぁぅ……。申し訳有りません」
「で・も。人にお願いする時はどうするか。永琳に習わなかったの?」
「お願いします」そう言いながら再び姫様に頭を下げる。
自慢ではないが礼と土下座の美しさには自信がある。どちらも月の軍隊仕込みの物だ。
本当に自慢にならないがこれで数多くの修羅場を潜り抜けたのも事実。
だが、姫様からリアクションは無い。どこか変な所は無いか。おかしな言い間違いをしなかったのか。
心臓が締め付ける様に痛む。何時もの事だ。私は何時も叱られる前はこんな風に心臓が痛むのだ。
半ば確信めいた予感と共に思い切って頭を上げる。そこにはにっこりとほほ笑んだ姫様の顔が有った。
「よろしい! それじゃ、イナバ。私と交換日記をしましょう」
「ありがとうございますっ! ……って、交換日記……、ですか?」
「えぇ、そうよ。私も最初はそうだったから分かるんだけどね。長い間何かを続ける時の一番の難関は始めたばかりの頃なのよ」
「まぁ、確かにその通りですが……」
「貴方が書いた日記を夜、私に持って来なさい。次の日に私が書き足して渡すから」
そう言って白紙の日記帳を差し出してくる姫様はとても良い笑顔をしていて。
でもどうしてだろうか。私には眼の前の姫様が何処にでも居る同い年の少女の様にしか見えない。
だが何はともあれ。こうして私と姫様の奇妙な交流は始まったのだ。
後から思えば、これが人生のターニングポイントって奴だったのかもしれない。
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一日目
鈴仙
今日はてゐと人里の置き薬の補充に行ってきました。てゐがふらふらと何処かに行ってしまうので大変でした。
輝夜
私は盆栽の手入れと永琳の課題位しかやって無いわねぇ。貰った金平糖が美味しかったわ。また買ってきてよ。
後、若い妖怪兎達が徒党を組んで永遠亭の奥の方に向かってるのを見たんだけど、イナバは何か知らないの?
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二日目
鈴仙
金平糖は喜んで頂けた様で嬉しいです。今日は食事の当番だったので朝から厨房でした。若い子達が取って来た山菜を使ってみようと思います。
奥に行ってたのはてゐが遊びで作った探索隊だと思います。永遠亭の深部を調べると言っていましたが何をしているのかは知りません。
輝夜
あぁ、ワラビのおひたしは美味しかったわ。でも、ハンゴンソウはまぁ、何と言うか魂が抜けそうな味がしたわね。ちゃんとアク抜きしたの?
てゐが暇そうだったから久々に将棋に誘ってみたわ。相変わらずあの子強いわねぇ。二枚落ちだったとは言え負けそうだったわ。
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三日目
鈴仙
あぁぁぁ! 申し訳有りませんでした。アク抜きの時間が全然足りて無かったみたいです。後で調理の上手い子から聞きました……。次からは気を付けます。
今日は里の往診でした。どうも、食中りの人が多いみたいで、整腸薬を欲しがる人が多かったです。何でかは分からないです。あったかくなり始めなので食べ物が痛み易いんでしょうか。
輝夜
別に良いのよ。あれはあれで、そう。ユニークで楽しかったわ。
今日は永琳に怒られちゃったわね。永琳の課題をサボってた私が悪いんだけど。今度言っといてよ。何で私が永遠亭の家計簿付けなきゃいけないのよって。
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七日目
鈴仙
今日は妖怪の山近くまで薬草の採集に行ってきました。てゐの奴が穴場を教えてくれたおかげでお師匠様に褒められちゃいました。少しお小遣いにボーナスも付いたので、また人里で何かお土産買ってきますね!
輝夜
それは楽しみね。今日の私は一日中物置きの整理よ。月から持って来た品が最近よく無くなってるのよねぇ。因幡達が取ってると思うんだけど、貴女は何か知らないかしら?
後、これはぜんっぜん関係無いんだけど。私最近饅頭が恐くて仕方ないの。考えただけでもぞっとするわ。特に木村屋のヨモギ饅頭なんてこの世から滅びれば良いのにね。
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十五日目
鈴仙
ついに鼈甲の髪留めを手に入れちゃいました! ちょっとだけトラブルもありましたけど、まさかてゐがプレゼントしてくれるなんて思ってもみなくて……。
ただ、私はまだてゐに「ありがとう」って、言えていません。どうにもタイミングを逃してしまって……。でも、言わない訳には行かないし……。なので、明日少しだけ勇気を出そうと思ってます。遅過ぎる……、でしょうか?
輝夜
今里で話題の品らしいわね。とても良く似合っていたわよ。
感謝の気持ちはそうね……。早いに越した事は無いけども遅すぎるなんて事は絶対にあり得ないわ。何十年。何百年経ってしまったとしても、言わないよりも言った方がずっと良い。
それが明日に言えるのなら、今の貴女は十分過ぎる位成長したって事よ。自信を持ちなさい。
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そうやって姫様と交換日記をする中で分かってきた事がある。
姫様は私が思っているよりもずっと人間的な人だ。
しょっちゅうお師匠様に怒られたと愚痴を言って来るし、非常に面倒臭がりだ。
なんだか、そんな姫様の駄目な部分が自分と重なって驚くほど姫様への気遅れと言うものが無くなって行った。
「姫さまぁ。暇ですねぇ」
「確かに暇ねぇ」
特に用も無いのに姫様の部屋を訪れ時間を過ごす等、これまで絶対に考えられなかった。
それら全ては私の身勝手な姫様へのイメージがさせていた事だ。
『高貴な姫様に易々と話し掛けてはいけない』『姫様の手を煩わせてはいけない』『姫様に下賤な自分が近寄ってはいけない』そんな事ばかりを考えていた。
だが、それはまるで逆だった。姫様は話し相手を求めているし、姫扱いされる事を望んでいる訳ではない。
「ねぇ、ボードゲームでもやらない?」
「ボードゲーム……、ですか?」
だから、こんな風に遊び相手を求めるのは自然な事だ。
永遠の時を生きると言っても……、否。永遠の時を生き変化を否定するからこそ姫様は永遠に少女なのだ。
少女らしい衝動を持つのは当たり前だと本人は言っていた。
「そう。オセロよ。最近手に入れたのよねー。でも相手が居なくって」
「……良いですね。相手になりましょう。でも、申し訳ないですが。私ちょっとこれには自信がありましてね。手加減はしかねますのでどうかご容赦を……」
「ふふふ。手加減なんて不要よ。例え初見であっても。遊びの分野で私に勝てるだなんて思わない事ね
勝負が始まって僅か五分。姫様の言葉に偽りは無くぼっこぼこにされた。
何この人むちゃくちゃ強い。
てゐと言いお師匠様と言いこの館の住人は何故ボードゲームに此処まで本気を出すのだろうか。
まぁ、慣れっこなので別に勝ち負けは気にしない。私の白駒が盤面に一つたりとも残ってなくたって気にしない。うん、気にしない……。泣いて無いし。
「そうそう。気にしない。気にしない。多分これ、後手が有利なのよ。きっと。良く分からないけど」
「うぇぇ……。その通りなんですけど……! その通りなんですけど……!」
「それに、その辺のイナバに何連勝しても腕は上がらないわよ。あの子達ルール理解してるかも怪しいんだから」
「マジでもう勘弁して下さい。ほんと」
「まぁ、もう一局やりましょう。午後も暇なんでしょう?」
「喜んで」そう答えようとした時に私はふと思い出す。
そう言えば午後からは用事があったのだ。
「実はお昼ご飯後にお師匠様から呼び出されてまして。何でも、人参湯(腹痛のお薬)の大量発注がかかったとか何とか……」
「あらそう。残念ね。季節の変わり目だし、仕方ないかしらね」
「はい。申し訳ないのですが、また明日対局しましょう。明日は負けないですよ」
「はいはい。期待してますよ。それじゃ、また明日ね。楽しみにしてるわ『鈴仙』」
「……へ、あっ、はいっ!」
努めて顔に表情を出さない様に。
釣り上がりそうになる口角を無理やり押さえつけながら部屋を辞した。
そうだ。これが最大の変化なのだ。
すれ違う妖怪兎達が怪訝な顔をして此方を見て来る気がするが気にしない。
何と言っても、今の私は屋敷の中で唯一姫様に『名前』を呼んで貰える兎になったのだ。
「なーんか妙に楽しそうじゃない?」
「んー。そんな事無いよ。 イ・ナ・バちゃん!」
「うわっ……、きんもっ……」
「~~♪」
てゐが何か言ってるが気にもならない。
何と言っても、私は姫様に認められた兎なのだから。
この位の事を多めに見てあげる心の広さがあって当然だ。
そんな優秀な私だからすぐに分かる。ほら、どうせそこに罠が有るのだ。
眼の前の曲がり角。視線が前を向くその一瞬に通過する位置。
目立たない様に、且つ普通に歩けば必ず脚が引っ掛かる絶妙な位置にトリップワイヤーが光ってる。
「ほいっと、ね」
「うっそ?!」
なんてたって姫様に唯一認められた兎なのだ。
この程度は朝飯前。飛んだ時、丁度私の顔の位置に来るように据え付けられた木片だってお見通しだ。
背後でてゐが茫然としてる気配がするのが、ちょっとだけ気になる。
後でフォローして置いてあげよう。優秀な私だから、そんな気遣いもできてしまうのだ。
「最近貴女覚えが良いわね。もしかして自分で勉強もしてるのかしら?」
「えへへ……。ちょっとがんばってみようかと思いまして」
手際良く調合を終えた私にお師匠様が眼を丸くする。
姫様のアドバイスで、日記を書くついでに毎日三十分だけ復習をするようにしてみたのだ。
結果はこの通り。私って実は凄いのかもしれない。
「何が変わったのか知らないけど、この調子で頑張って貰えると私も気が楽よ」
「当然ですよ。お師匠様の片腕となれるようにこれからも精進します」
「嬉しい事を言ってくれるわね。期待せずに待ってるわよ」
本当に全てが上手く行くようになって自分でも驚いている。
全ての発端はお師匠様の出した『日記』だった。本当にお師匠様には感謝しないといけない。
でも、まずはその前に。まだ期日までは十日程残っている。
今はこのままで良い。一カ月の日記を終わらせたら、私はもっと頑張ろう。
もっと毎日勉強して。もっと姫様と遊んで。もっとお師匠様に褒められて。もっとてゐを見返してやろう。
そうだ、私の住む世界は変わろうとしているのだ。『皆の居る側』へ自分は進もうとしている。
そんな事を思いながら過ごした十日は思った以上に短くて。あっという間にその日はやって来た。
「お師匠様!」
「どうしたの。優曇華?」
「へへへ。お見せしたい物がありまして……」
「あぁ、そういえば今日はその日だったわね。ほら、勿体ぶらずに見せて御覧なさい」
「全くお師匠様は無駄に合理的なんだから……。こんな時位勿体ぶっても良いじゃないですか」
「下らない事言ってないで。ほら」
机に向ったままのお師匠様にこの一カ月の成果を渡す。
拙いかもしれないが決して手を抜いたつもりは無い。
姫様に協力して貰ったとはいえ、それを一カ月書き続けたのは紛れも無く私なのだ。
そうは思っていても、胸がどきどきする。
お師匠様は怪訝な顔をしているだろうか。満足げな顔をしているだろうか。呆れ顔をしているだろうか。
期待と不安が胸の中で好き勝手に暴れ回る。
そんな感情を払拭する為に私は少しだけ勇気を出して薄眼を開く事にした。
そこには、満足げな笑みを浮かべたお師匠様が居た。
「……正直貴女が一カ月投げ出さないなんて思わなかったわ。偉いわね。良くやったわよ」
「お師匠様……!」
頭に掌が載せられる。髪の毛をわしゃわしゃと搔き混ぜられる。
嗚呼、何週間ぶりだろう。殴られてばかりのこの手に優しくされるのは。
「正直残念よ。貴女の為にとっておきの新薬を作ってみたのに……」
「いや、マジで勘弁して下さい」
その時のお師匠様の眼がマジだったのは言うまでも無い。
話が妙な事にならない内に、私はお師匠様の部屋を脱出する事にした。
目的は勿論、姫様にお礼を言う為だ。
「姫様ー?」
ノックしながら襖を開くも中には誰も居ない。
夜も遅いこんな時間に姫様が居ないのは非情に珍しい。
何かがあったのだろうかと首を傾げていると、丁度通り掛かったてゐが事情を教えてくれた。
「姫様? あぁ、今夜は妹紅と逢引きに行ってるよ」
「逢引きて……。ようするに殺し合いによね。珍しいわねぇ。ここ数カ月は大人しかったのに」
「偶然竹林で鉢合わせしちゃったのよ。私と散歩してる時にね」
「それであんただけ帰って来たと」
「危ない橋を渡らないのが長生きのコツだよ。鈴仙」
「はいはいっと。それじゃぁ、迎えに行ってきますよ。どうせ久しぶりで二人とも無茶してるんだろうから」
恐い程に全てが上手く行っている。
毎日が幸せで仕方がない。だから、きっとこんな事は『長続きしない』のだろうと心の何処かでは感じていた。
ただ、その日が来るのは私が思っていたよりもずっと早かったと言うだけで。
不思議な物で嘔吐感にも近い感情は現実世界にもフィードバックされる。
私にとっての『それ』は姫様の薄い笑みと言う形を取っていた。
「あれ、姫様。お帰りでしたか?」
「ただいま。ちょっと疲れてしまったわ」
「久々の喧嘩でしたもんね。すぐに湯浴みの準備を致します。此方へどうそ」
玄関で出くわした姫様は、案の定ぼろ雑巾の様な姿だった。
そんな姿とは対象的に立ち居振る舞い、表情、その全ては何時も通り。
その『変わりの無さ』が逆に私の中の不安感を駆り立てて行った。
「今日も妹紅と喧嘩ですか?」
「ええそうよ。どうもあの半獣と上手く行っていないみたいでね。少し挑発したら何時も以上に乗って来たわ」
気を紛らせる為に何気ない言葉を交わす。その眼は私や今を見ている様には感じられない。
だがそんなのは喧嘩から帰って来た姫様には何時もの事だ。
二人の間に昔何があったのか分からない私には想像するしかできないが、昔の何かを思い出しているのだろう。
「程々にして下さいね。あんな顔しててもお師匠様も心配なされていますから」
「あぁ。ありがとう――」
『何時も』は、そう思って気にも留めていなかった。
だが今は違う。何かがおかしい。見慣れた筈の姫様が、何故か他人の様に見えてしまう。
理由は分からない。ただ、恐るべき考えが頭の中にじわりと滲む。
だけど、混乱する私に追い打ちを書ける様に、姫様は残酷に、無慈悲に口を開くのだ。
「――『イナバ』」
私の世界が凍りつく。
最期のエンターキーを押すまいと、全てのニューロンが演算をストップした。
全ての状況は期待的な観測を次々と打ち砕き、私の恐るべき考えだけを肯定する。
だから思考を停止させた。感情を整理する時間を稼ぐために。
「どうしたの。『イナバ』? お風呂、連れて行ってくれるんじゃないの?」
「あ……、あの……、ひ……、姫……、さ……」
「ふむ……。ちょっと待ちなさい」
陸に打ち上げられた魚みたいに口をぱくぱくさせる私を置いて、姫様は胸元から手帖を取り出して何事かを確認している。
暫しの後、何かを悟った姫様は私に少しだけ砕けた笑みを向けてくれた。
「あーっ……。そう。『以前の私』は。貴女と仲良くしていたのね」
「姫様……? 以前とは、一体……?」
「……聞きたいの?」
初めて姫様の瞳が私を見た。真っ黒な虹彩に吸い込まれる様な錯覚をする。
正直に言って恐かった。だけど、聞かないと言う選択肢もまた、自分の中に無かった。
膨大な恐怖と闘いながら静かに首肯する。姫様は変わらずに優しい笑みを浮かべていた。
「言った筈よ。永遠の時を生き変化を『否定』するからこそ、私は不死身なのだと。蓬莱の薬で不死身になるのはね、あくまでも結果に過ぎない。この薬の本質は『停滞』にある」
「停滞……、ですか?」
「そう。停滞。この薬は体を直すんじゃない。『巻き戻す』の。外的、内的問わず発生した損傷に反応して、精神も魂も肉体も全て、『薬を呑んだ時』と同じ状態にまで完璧に復元する。……それが、この薬の効果よ」
「それって、つまりは――」
「その通り。今の私は、数千年前。月の都で永琳から貰った薬を呑んだ私と『殆ど』同一存在。……貴女達の事は、覚えていない」
「――ッ?!」
がつんと、頭を殴られた様な気がした。
胸の内の違和感の正体が、演算を止めていたニューロンが、強制的に起動する。
それら突き付けるのは残酷な現実だ。積み重ねた物の否定だ。
自分の今月の働きは全て虚構の上に成り立っていたのだ。その事実が胸を締め付ける。
眼を瞑ってしまいたい。姫様の恐るべき笑顔を見ていられない。
そう思って私は、静かにそっと瞼を降ろそうとした。
「待ちなさい。『殆ど』、と言った筈よ」
「……私の事は覚えているんですか?」
「いいえ。何も。永琳以外の屋敷に住んでいる人の事は良く思い出せない」
「じゃあやっぱり、今月の事も……」
「覚えていないわ。その為に私は、『日記(ライフログ)』を付けている。巻き戻った時に、前の自分が何をしたか思い出せるように。死んだ直後に困らない様に最低限の事をこうやってメモ帳に纏めてある」
そう言って姫様は先ほどの手帖を少しだけ見せてくれる。
箇条書きで綴られた手帖にはこの永遠亭と姫様に纏わる事がびっしりと記されていた。
「でもね。『こんな物』が無くても。この屋敷がある事。そこで兎と暮らしている事。私には仇敵が居る事。その位の事は覚えているの」
「え……、だって、それはおかしいじゃないですか。さっき姫様が言った事と矛盾します」
「そうかもしれない。けどね。如何に優れたプログラムでも、必ずバグは存在する。そう、これは蓬莱の薬のバグの産物なのよ、体を元の状態に復元する際に僅かに混じる『ノイズ』と言う名前のね」
「ノイズ……、ですか?」
「そう。例えば、『強い感情』。死の間際に刻まれた強い感情は蓬莱人の魂をも変質させ得る。最期に見た光景、記憶、それらは薄く魂に刻まれ何度生まれ変わっても消えはしない」
月明かりの照らす暗い廊下に姫様の朗々とした声が響く。
逃げたい。私の脆弱な心は既にそう悲鳴を上げていた。
この先に姫様が続ける言葉が予想できていたからこそ、兎の弱い心は早々に警鐘を鳴らしていた。
「『生命の記録(ライフログ)』私はそれをこう呼んでいる。」
「ライフログ……」
「どう、試しにやってみる? その銃で名前でも叫びながら私を撃ち殺せば、貴女に纏わる記憶も刻みこめるかもね」
何処からか取りだしたS&Wをくるくると回しながら私に手渡してくる。
私は知らなかった。姫様がこんな凶悪な笑みを浮かべる事ができるなんて、私は知らなかった。
一度は身近に感じた姫様がこんなにも遠い存在だなんて、私は知らなかった。
「……撃たないの?」
「でも、だって……。姫様を撃つだなんて……」
「へぇ、逃げるんだ? 月でもそうやって逃げて来たのにね」
恐い。姫様が恐い。心は既に折れている。
黄色い灯りが照らす姫の顔を直視できない。掌の中の重量感が恐怖に拍車を掛ける。
「因みに『高草郡の因幡』は迷わず撃ったわよ。その方が効率が良いからですって。永琳と私は何度殺し合ったか覚えてもいないわ」
怖ろしい。皆が怖ろしい。
一緒に暮らしていて、当たり前に会話をしていた皆が、遠い存在の様でどうしようもなく怖ろしい。
眼は既に閉じてしまっている。両耳はとっくの昔に塞いでいる。でも、姫様の声は頭に直接響いて来る。
「だって……、だって……。あんなに仲良くしてくれた姫様を……、撃つ……、なんて」
「イナバ。一つ忠告をしてあげる。逃げ癖を直すのにはね。逃げない事しか無いの。貴女が今勝つ方法はあまりにも明確よ。『引き金を引きなさい』『イナバ』」
嫌だ。嫌だ。逃げたくない。撃ちたくない。
この一カ月で変われたと思った自分を否定したくない。でも、その為に姫様を撃つ勇気なんて無い。
恐い。怖ろしい。
「逃げるんだ?」
(逃げたくない)
震える手はその銃を持ち続ける事すらままならない。
精神の狭間に落ち込んだ心はその恐怖の源泉を手放す事すら許さない。
「逃げるんだ?」
(逃げたくない)
無限ループする思考は際限なくエラーログを吐き出し続ける。
自動で働いた防衛機制によりシャットアウトされた思考。
仮初の平穏はある一つの事実を心に届けたのだ。
「逃げるんだ?」
(逃げたくない)
ふと気が付く。それは決定的な己の矛盾。
塵芥になった過去によってもたらされた、以前までの自分との決定的な違い。
「逃げるんだ?」
「逃げたくない」
私は気が付いた。
何故まだこの場に立っているのだ。
こんなにも脆弱な心にも関わらず、この脚はどうしてこの場に立ち続けているのだ。
「逃げるんだ?」
「逃げたくない」
私は銃口を姫様に向ける。
私の思いを姫様に伝える為に、私はトリガーに指を掛ける。
「私は――、私はっ!」
満月の照らす長い廊下。
空っぽの銃声と兎の鳴き声が深夜の永遠亭に響いた。
何時も通りの日常。何時も通りの昼下がり。
永遠亭の縁側で。
まぁ、人生に置いて誰にでも調子の良い時と言うのは有る物で。
そしてそう言う調子の良さは連鎖する物で。
ついでに言えば、そう言うのは長く続かない物で。
結局の所。先月の私と言うのは丁度それだったのだ。
調子の良い時期だったので、姫様との交流にも積極的になれた。
調子が良かったので、お師匠様の出す難解な課題にも意欲が持てた。
だから別に世界が何か変わった訳ではないのだ。
だって、私が劇的に変化した所なんて何もない。
今日も今日とて、うっかり調合手順を間違えてお師匠様には怒られてしまったし。
姫様は何時も通りどこか余所余所しい。
何時もと変わらない日常。何時もと変わらない私。
ひりひりする頭をてゐから貰った濡れ雑巾で冷やすのも何時も通り。
でも、それは当り前の事なのだ。永遠亭は変化を否定する。
此処が停滞した空間だからこそ、姫様も、お師匠様も、てゐとも出会う事が出来たのだ。
でも、別に寂しくは無い。だって、何もかも元通りになった訳ではないのだから。
少なくとも先月、姫様と交流した事。
そして逃げ癖の着いた私が日記を一ヵ月間続けられた事。
私と言う存在の、この変化は紛れもない事実なのだ。
「姫さま―」
「なぁに、『イナバ』。珍しいわね」
自分の住む世界を変えるなんて並大抵の努力じゃ出来やしない。
それが、ましてや私みたいな負け犬には絶対に不可能だろう。
だけど、自分を変化させられる事には気が付いた。
だから私は一歩だけ足を出してみようと思う。
「へへへー。姫様にプレゼントがありましてー」
でも、やっぱり私は負け犬だから。
その一歩はとっても小さな物だ。だって、大きく踏み出してこけるのは恐いし。
元の木阿弥になって、無駄になった時、大きく傷つきたく無い。
だから、小さな一歩。どうでも良い位の大きさで。
だけどそんな小さな一歩が。そんな私の僅かな変化が。
水滴が石を穿つ様に、そんな変化の積み重ねが。
何時か私の周りの世界を変えてくれますように。
「一緒にチェスをやりましょー!」
私の名前は鈴仙・優曇華院・イナバ。
来月の目標は、『姫様から名前を呼んで貰う事』だ。
言う通り事だった→言った通りの事だった(時制から)
言う物→いうもの
残って無くたって→残ってなくたって
妖しいんだから→怪しいんだから
水滴が石を割る→水滴が石を穿つ(文脈から)
全体に文語、口語、カタカナ、取ってつけたような難しい用語が散りばめられ、
今一つ語りが安定していません、PCの変換機能は信用し過ぎない方がいいです
無理に難解な用語や言い回しを用いなくても意図を表現できるだけの文章力はあるので
もっと簡潔に読みやすい短編を目指してみてください
はたして鈴仙は変われたんでしょうか
幸い鈴仙の周りには変われたかどうか結果が出るまで、
何百年、何千年と待てるメンツがいるから幸いですが