【 episode.2 sanctuary 】
回覧を返却しにやってきた椛。
「そういえばいつも気になってたんだけど」
「はい」
「なんで何時もモミちゃんが報告書とか持って来るの? こういうのって普通、隊長が持って来るもんじゃないの?」
「…」
その指摘に急に黙り込む椛。
「どったの?」
「非常に申し上げにくいのですが、よろしいですか?」
「許す」
「うちの隊はみんな大天狗様の所に来るのが嫌みたいで」
「つまり私と絡みたくないと?」
「有り体に言ってしまえば……大天狗様?」
大天狗は大の字になって仰向けに倒れこんでいた。
「知ってますぅー、自覚ありましたー」
「…」
ひとしきり手をバタつかせてから起き上がる。
「というかモミちゃんは隊長に昇格する試験受けないの?」
「正直、どうでも良いです」
「隊長になると給金が増えるわよ? 金欠なんでしょ?」
「う゛」
「後輩にさき越されて悔しくないの?」
「う゛ぐっ」
痛い所を突かれた。
椛が昔に面倒を見ていた白狼天狗は全員隊長をやっている。
皆、暮らしぶりも彼女よりずっと良い。
「そりゃあ私だって後輩がどんどん出世していくのを横で見続けて、多少思う所はありますよ」
「なら受ければ良いじゃん。モミちゃんなら実技ダントツでしょ? 合格間違い無しじゃん」
「筆記があるじゃないですか」
「あーそっか…」
「そもそも倍率自体が高いですし」
出世を狙う若い白狼天狗は大勢いる。
5年に一度行われる隊長選抜試験は狭き門となっていた。
「最近は勉強が出来る白狼天狗も増えてきたからねぇ」
「あとそれに」
「うん?」
「私みたいなのが隊長やって良いとは思えませんし、ほら、その、昔に色々とやらかしてますし」
急に申し訳無さそうな顔で頭を掻き始めた。急に強い光を浴びせられて怯む夜行性動物のような仕草だった。
その表情を見て、大天狗は決めた。
「モミちゃん、次の隊長試験、絶対に受けなさい。そんでもって合格しなさい」
「強制ですか?」
「命令よ。そもそもモミちゃんみたいな大ベテランがいつまでも平やってるのは組織的にどうかと思うのよ。ひょっとしてお局の座を狙ってる?」
「最前線にお局も大納言も無いでしょうに」
天魔の屋敷。
この日、庭からは威勢の良い声が聞こえていた。
「えいっ」
「腰が引けとるぞ」
「えいっ!」
「もっと脇をしめろ」
「えいっ!!」
「振り下ろしたら柄を雑巾のように絞れ」
「えいっや!」
「後ろの足を素早く引け」
「えいっやぁ!!」
「本当にお主は才能ないのう」
「う゛う゛」
威勢が良いのは声だけだったようで、実力まで伴ってはいないようだった。
「私ってそんなに向いてませんか?」
「びっくりするくらい使い物にならん」
「どれくらい使い物になりませんか?」
「例えるならシャッターボタンが無くなったお主の携帯くらい使い物にならん」
「そんなに!?」
遠まわしに酷い事を言われた。
「そもそも何故そこまで剣に拘る? 犬走椛の影響か?」
「はい」
天魔の見立てでは、はたては術を扱う才がある。じっくりと鍛えれば相当な逸材になる。
(弱ったのう)
今のはたては、翼があるのに速く走れるようになりたいと言っている小鳥のように思えた。
(さしずめ、足の速い狼に憧れる小鳥といったところかのう)
天魔としては剣術などさわり程度に教えてさっさと妖術の修行に本腰を入れたかった。
(しかし、ここで剣を取り上げると、お互いに遺恨を残す。どうしたものか)
頭を押さえつけて、無理矢理言うこと聞かせるような事はしたくなかった。
出来るだけ彼女の意思を尊重したかった。
(儂とした事が、つくづく甘い)
遠縁とはいえ、自分の血を引く稀有な天狗。
はたては天魔にとって十二分に『特別』と呼べる存在だった。
(はてさてどうしたものか)
なんとか諦めさせてそちらに専念させられないものかと考える。
出来るだけはたてが納得できるやり方が望ましい。
(こういうのは本人同士でケリを付けるのが最善じゃな)
そして一つの案が浮かんだ。
「ではこうしよう。お主が椛から一本でも取れれば剣術の修行に十分な時間を割こう。猶予は一ヶ月」
「一ヶ月…」
「不意打ちは無しじゃ。事情を話した上で真正面から一対一で挑め。それ以外に条件は無い。何回打たれようと、何回負けようと一本が取れれば文句を言わん」
「わかりました! では早速!」
「おい! 今からいくのか!?」
天魔が譲歩してくれたのがよほど嬉しかったのか、はたては屋敷を飛び出した。
立入禁止と書かれた札を無視して。その先に張られている縄を跳び越える。
間伐も下草刈りも行われていないため、木も草も生えたいように生えている。
数歩歩けば倒木が、数歩歩けば岩が、そんな足場の悪い中を椛は一人黙々と進んでいく。
雑木の葉が日光を奪い合うように押し合いヘし合って、微かな量しか地表へ届かないため、昼間にも関わらず濃い色の影が彼女を取り囲む。
木々が無秩序に生えては朽ちるこの場所は樹海と呼ぶに相応しかった。
しばらく歩き、ようやく開けた場所に出た。
この場所だけは木々の整備が行き届いており、樹海が作り出す不気味な雰囲気に囚われることは無い。
開けた場所の中央には一本の楓の木があった。
楓の樹の幹に額をくっつけて椛は目を閉じる。
「とと様、かか様。ご無沙汰してます」
ここはかつて、彼女が犬走***という名の少女だった頃に住んでいた土地だった。
「山は相変わらずです。ただ守矢神社が来たことで今後はどうなるかわかりませんが」
何年かに一度、椛はこの場所を訪れ、近況を報告している。
「にとりの他に知り合いが増えました。二人、なんと鴉天狗です。自分でも驚いています。
まだ友と呼べる間柄かどうかわかりません。でも、次にここを訪れた時、胸を張って友だと報告出来たらいいなと思ってます」
もちろん、両親の亡骸はここには無い。
しかし魂はこの地で眠っていると考え、この楓の樹を墓標にして墓参りと仲間の供養のためずっと昔から通っていた。
樹海の外、『立入禁止』と書かれた札の前にはたてはいた。
「ここに椛がいるの?」
はたての問いにカラスは一鳴きして答えた。
「ありがとう。君は優秀だね」
頭を撫でてやる。
このカラスは元は天魔が使役するカラスだった。
『儂に用があったらコイツを飛ばせ』と伝令用に天魔から一時的に借りていた。
立入禁止の札を前に少しだけ戸惑ったが、意を決して森の深部を目指して歩き出した。
「なんだろう。気持ち悪い」
ここに足を踏み入れてから、気分が優れない。
「すごく、視線を感じる」
体調不良は、森の臭いや高い湿度のせいではない。
得体のしれない重圧がはたてに圧し掛かっているのが原因だった。
何も無い土の上に寝そべる。
ちょうどこの位置に、自分とその両親が暮らす家があった。
今でも鮮明に覚えている。
玄関から入ってすぐに部屋があった。廊下などない、その部屋がこの家の全てだった。当時の白狼天狗が住む家にしては上等な広さだった。
部屋の中央に置かれたちゃぶ台が、部屋の大部分を占領していた。それ以外に家具は無い。
炊事は全て外で行った。薪を拾ってくるのと釜戸に火をつけるのは自分の役目だった。
家族三人、窮屈な思いをしてちゃぶ台を囲み食事を摂る。
体は近くを流れる小川で洗った。寒い日は土鍋で沸騰させたお湯に手拭を浸してそれで体を拭いた。
眠くなればちゃぶ台をどかして布団をしき、親子で川の字になって寝た。
父と母はどちらも哨戒を行っており、その任を通じて二人は知り合い。自分が生まれた。
両親は山を愛し、仲間のためならどんな危険や苦労にも怯えない素晴らしい天狗だった。
自分も大きくなったら二人の意志を継いだ立派な白狼天狗になろうと、幼いながらに誓ったものだ。
食事と睡眠と家族の団欒。この空間には家族と共に過ごした日々の全てが凝縮されていた。
そして、犬走椛という白狼天狗の原点でもあった。
とある夜。このあたり一帯に住んでいた白狼天狗が、些細な行き違いから惨殺されるという痛ましい事件が起きた。
天狗の上層部がこの地域に住む白狼天狗に謀反を企てている疑いがあるとして、治安維持部隊を派遣したのだ。憤慨した白狼天狗は彼らと口論になり、それが白熱してしまった結果だった。
家の前で口論する両親に背中を向けて逃げ出した。
その判断は正しかった。その地域に住んでいた白狼天狗達は全員死んだ。
仲間を見捨てた事に罪悪感はあった。白狼天狗の規範から逸脱した行為だと幼いながらに理解していた。
逃げ出してから数日間は、両親を見捨ててまで生き延びる必要があったのかと自問自答する日々が続いた。
罪悪感に耐えかねて、こう考えるようになった。
(私もあそこで死んだ)
その時に犬走椛は生まれた。
犬走椛は怨霊だった。
この世を恨みながら死んだ犬走***が遺していった怨霊だった。
そうやって幼い少女は自らの精神を保とうとした。
(犬走***とその集落に住む白狼天狗の無念を晴らす事が、あの頃の私にとっては全てだった)
白狼天狗を理不尽な死に追いやった上層部に復讐する。それだけが彼女の存在理由。
そして、その後、彼女は偶然にも大天狗に拾われて、数年後に哨戒の任に就く事になる。
(そこで先輩と出会った)
唯一、尊敬した白狼天狗。
自身とは対照的に、明るく活発で表情豊かな少女だった。
よく彼女とは酒を片手に、上司や当時山を支配していた鬼の愚痴を夜通し言い合った。
読み書き出来なかった自分に、字を覚える機会をくれたのも先輩だった。
字を覚えて一緒に大天狗が影で運営していた組合に入ろうと誘ってきたのだ。
椛はそれを承諾した。承諾した理由は多々あった。上層部に近づきやすいと思ったから、強くなれれば復讐の成功率が上がるから、給金が増えるから。
しかし今にして思えば、先輩と一緒にいたかったからというのが一番の理由だったのかもしれない。孤独が恐かった。
これまでは酒を持っていた手だが、そう決めた晩から筆に変った。
『学ぶって楽しいな椛!』
『めんどくさいだけですよ』
『でも知らない事が減ってくってのは嬉しいだろ?』
『そうですか?』
『いつも思うけど、お前ってすっげぇ後ろ向きだよな! なんでだ!』
『むしろなんで先輩がそんなに前向きなのか知りたいですよ』
白狼天狗なら誰もが心の何処かで諦めてを抱いているこのご時世に、こうも明るく振舞える先輩が不思議でならなかった。
『ほらアレだ、木は眺めるよりも登った方が楽しいってヤツだ! 人生挑戦してなんぼだろ? その方が絶対楽しいぞ!』
『落ちたら痛いですよ?』
『うるせえ馬鹿! アタシらにだって幸せになる権利はあるんだよ! 木登りくらいしたっていいだろ!』
そして二人は木から落ちた。組合に入ることは出来た。しかし任された仕事は予想していたものより遥かに過酷だった。枝から足を滑らせるのは時間の問題だった。
落下しながら椛は気付いた。狼は木登りが苦手なのだ。狼の体は、木を登るように出来ていない。
先輩は死んだ、椛の下敷きになって死んだ。椛は先輩がクッションになってくれたお陰で奇跡的に生き延びた。
その一件でさらに怨みが増した。孤独は恐くなくなった。先輩の死によって、孤独を感じる器官が壊れ機能しなくなった。
独りになってからはただただ我武者羅に任務をこなした。
死にかけたことなんて何度もあった、怪我をしない任務など無かった。
それでも上層部への復讐を誓い、突き進み続けた。
白狼天狗が上層部のサジ加減で簡単に失われる命だと、幼い頃から知っていた。
その現実に断固反逆し、牙を突き立てる。その日を信じて密かに牙を研ぎ続けた。
しかし、一向に復讐の機会は巡ってこない。
いたずらに時間だけが過ぎた。
時間の流れというのは恐ろしいもので、時が経つほどに復讐心は薄れていった。
された事を忘れたわけではない。日和ったわけでもない。諦めたわけでもない。
けれど風化が止まらない。
肉体を持ったまま、何かを恨み続けるのには限界があった。
彼女の中にあった復讐という名の活火山は、いつの間にかロウソクの灯火ほどの大きさに変っていた。
いつの間にか怨霊は亡霊へと姿を変えた。
犬走椛は、目的を忘れアテもなく彷徨う亡霊に成り下がっていた。
復讐にそれほど執着しなくなって以降。
自分は何時死ぬのだろうか? そう考えながら仕事をこなしていた。
しかし一向に自分の順番が回ってこない。
周りは次々に消えては補充を繰り返しているのに、自分はまだ立っていた。
幼い頃から仲間の死を目の当たりにし続けたせいか、死の臭いに敏感になっていた。それが寿命を延ばした。
生き汚い自分は、何時からか大天狗に一目置かれるようになっていた。
仕舞いには個別で依頼されるようになった。
内容はもっぱら、不正を行った天狗の始末である。
辛くはなかったが、血の臭いが何時までも取れない嫌な仕事だった。
仕事に関しての罪悪感は無かった。
彼らは罪人であったし、自分なんかよりも遥かに恵まれているにも関わらず、罪を犯してまで更なる幸福を求めようとする思考回路が自分にはどうやっても理解出来なかった。
彼らを違う生き物のように思えた。だから彼らを殺すことは、作物を荒らして山の面々に被害を与える猪や鹿を駆除するのと大して変らない心境だった。
鬼が去って幾年。山に秩序らしい秩序が訪れ、組合が解散して以降は惰性で生きてきた。
無難に哨戒の仕事をこなして、退屈しのぎに河童と将棋を指し、大天狗の愚痴を聞いて。たまに笑い、たまに驚いて、まだ自分に感情が残っていることに安堵する。そんな毎日の繰り返しだった。
降りかかる面倒ごとを極力避けて、身の程を弁え、多くを望まず、目立たないようにひっそりと。大きな変化を無意識に嫌った。
自分が居なくなった時、皆の記憶の中からゆっくり埋没されて、誰の記憶にも残らないことを願った。
自分の心が、ゆっくりと腐っていくのを感じながら、流されるままに過ごしていた。
そんな植物のような日々の途中で二人の鴉天狗と交流を持った。
最初、文の事は大嫌いだった。自分の嫌いな鴉天狗像をまるで絵に書いたように忠実に体現していた。
彼女は傲慢で傍若無人で、それに見合うだけの才能と地位と人脈と実力と美貌を持っていた。
(今にして思えば、劣等感から来る醜い嫉妬だったのかもしれない)
文、はたてと出会い。自身に変化が起きたことは自覚している。
(今の私は何なんだろうか?)
怨霊、亡霊を経て、今の自分は何者なのかを問う。
「どなたかわかりますか?」
この地に眠っているであろう大勢の死者の魂に問いかけるが、返事は返ってこない。
風に揺れる陰樹林の葉だけが、彼女に返事をした。
彼女の額に何かが落ちた。
触れると乾いた感触が返ってきた。
「なるほど、空っぽか」
セミの抜け殻が彼女の手の中にあった。
「さてと」
起き上がり、そして再び楓の樹の前まで来て額をくっ付けた。
「またしばらく経ったら来ます。本当はもっと沢山来たいのですが、ここに来ると辛い事ばかり思い出してしまうので」
両親にしばしの別れを告げて踵を返す。
「あ、椛いた」
「はたてさん? どうしてココに?」
ここで誰かと出会うというのは、初めての経験だった。
「椛に用があったから」
「立入禁止の札がありませんでしたか?」
「ごめん」
「戻りましょう。ここは聖域です」
「え? あ、うん」
この時、椛が口にした“聖域”という言葉が妙に引っ掛かった。
「椛はどうしてここに?」
「私は見回りです。たまにここに入り込む者がいるので、こうして注意して廻っているのです」
嘘を吐いた。本当は自分も立派な不法侵入者だった。
樹海を歩きながら、はたては椛を探していた理由を話した。
「…っていう賭けを天魔様としたの」
「私から一本、ですか?」
「うん、お願いできる?」
「別に構いませんが」
樹海を抜け出して、動き回れる十分な空間まで移動してから、はたては椛に木刀を渡して構える。
「じゃあ、早速おねが…」
「始める前に、上段の素振りをしてみてください」
「うん、いいよ」
打ち合う前にはたてがどれほどの腕前か知っておきたかった。
はたての才能は未知数である。油断して頭にタンコブでも出来ようものなら恥ずかしくてしばらく彼女と顔を合わせられない。
しかしそれは次に瞬間に杞憂に変っていた。
「どう? 見込みあるかな?」
「期間を一年に延長してもらった方が良くないですか?」
「えー」
「ちょっとマズイ気がします」
「どれくらいマズイの?」
「例えるなら、はたてさんの携帯から画面が無くなるくらいマズイです」
「もうそれ携帯じゃないよ!」
自身を客観視出来ないことを、今日ほど悔やんだことは無かった。
夕暮れ時。
山のとある一角、守矢の分社が置かれている前に神奈子と文はいた。
「いよいよ明日だ、明日決行に移そうと思う」
分社の屋根に座り、文を見下す神奈子がそう告げる。
「いよいよですか。もう少し準備に時間が掛かると思っていましたけど、存外、早いじゃないですか」
「ひょっとして、まだ心の準備が出来ていないの?」
「まさか。待ちくたびれてたくらいですよ」
「それだけ減らず口が利けたら十分ね」
神奈子はこのために十分な根回しと仕込みをした。
失敗は許されない。
「私はこの幻想郷全土からの信仰が欲しい。こんなちっぽけな山でまごついてる暇はないのよ」
「あなたの言うちっぽけな山が生涯の全てだという者もいます。その事はお忘れなきように」
「知ったことじゃないわ」
集合場所と時間を告げた後、神奈子は分社を経由して神社に戻っていった。
「さて、私も上手く立ち回るとしますか」
文は椛の家へと向かった。
日が沈んだ頃に、椛の家に着いた。
「今晩は椛さん」
「今晩は。どうしたんですこんな時間に?」
はたての相手を追えて戻っていた椛が玄関を開けて出迎える。
「夜這いに……ああっ! 冗談ですってば! 閉めないで! ちょっと一献しようと思いまして」
来る途中、集落で買った酒と鹿肉を持参していた。
「どうぞ、上がってください」
「おや?」
椛の家には全くもって似つかわしくないものが床の上に転がっていたので、思わず声を漏らした。
それは過去に隊長試験で出された問題が纏められた本だった。
勉強の参考にと、大天狗が渡してきたのだ。
「隊長試験を受けるんですか?」
「嫌々ですけどね。大天狗様に受けろと言われまして」
「椛隊長ですか、悪くない響きですね」
「受けたところで不合格ですよ。最近の白狼天狗は生意気にも学問に通じているのが多いですから」
文は本を手にとってパラパラとページを捲る。
どれもこれも文にかかれば数秒で解ける簡単な問題だった。
「半分も解けませんでした」
「及第点は?」
「七割です」
「今のままじゃ厳しいですね」
試験はまだ当分先になるとはいえ、椛が独学で届くかどうか微妙なラインだった。
「誰かに講師をお願いしては?」
「講師ですか?」
「私は駄目ですよ。人に教えるのは明らかに向いてないですから」
「そうですね」
問題を間違えるたびに神経を逆撫でする事を言ってくるのが容易に想像できた。
「はたてに勉強を見てもらうのはいかがですか? あれもそれなりに勉強の方はできますよ」
学問と一般常識が無ければ新聞は書けない故、鴉天狗は幼い頃に山の寺子屋に通うことが義務付けられている。
文の記憶では、彼女はそこそこの成績だったはずである。
「はたてに教えを乞うのは抵抗がありますか?」
「無いですね特に」
「なら良いじゃないですか。明日にでも頼んでみては?」
「ふむ」
剣を教え、学問を教わる。悪くないと椛は思った。
「さて、いい加減食べましょうよ」
縁側に椛を誘う。二人の真ん中に酒と肴を置いた。
月を見ながら、他愛の無い雑談を交わしながら酒と肉を楽しむ。
(こんな日々も今日で最後かもしれない)
そう感じた文は、ふと椛にこう問いかけた。
「もしも、もしもですよ? 押すだけで自分が憎いと思っている相手に天罰が下るスイッチがあるとしたら、それが自分の目の前に転がってきたら押しますか?」
これを訊くために文は今日、椛に会いに来た。
「どうしたんですか藪から棒に?」
脈絡の無い問いかけに、椛は首を傾げる。
「仮の話です。押すか押さないかだけ答えてください」
「すぐには決められませんね。押したらどんな代償を払うのかも不明ですし。もっと具体的な条件がわからないと」
「では後日、具体的な条件を提示してお聞きしますので、その時までに決めておいてください」
「何をしようと考えているかわかりませんが、無茶だけはしないでくださいよ。騒ぎなんてもっての他ですからね」
「……」
返事は無い。
「いいですね文さん?」
しばらくの間、椛は無言で待っていたが「はい」という言葉はついぞ無かった。
空にはいつか三人で見た半月が浮かんでいた。
今日も、はたては天魔の屋敷で修練を受けていた。
一本しか足の無い不安定な机、その机の上にはたては立っている。
集中力と平衡感覚を鍛えるのが目的の修行だった。
「あの天魔様」
「なんじゃ?」
はたては両手を広げて器用にバランスを取っており、その状態で話しかけた。
「昨日椛に会いに行ったら、椛が立入禁止に指定されてる樹海に居たんです」
「入ったのかお主?」
「えっと、その…はい。ごめんなさい」
「気分が悪くならなんだか?」
「そういえばあったような」
入った時、大勢の視線を感じて嫌悪感を抱いたのを思い出す。
「あそこは呪われた土地じゃ。二度と近づいてはならん。良いな?」
(呪われた?)
椛は聖域と呼び、天魔は呪われた地だと呼ぶことに強い疑問を持つ。
「どうして呪われてるんですか?」
「そこまで喋れるという事は、まだ余裕があるみたいじゃの。ほれ、もう一段追加するぞ」
「うわっと」
乗っていた机の上に、拳大の大きさの玉が置かれて、さらにその玉の上に板が敷かれた。
その板の上にはたては立つ。
「こ、これは流石に…」
難易度が先ほどとは段違いだった。
「あの地で何があったかは追々話す。今は鍛錬に集中せい」
「あーいたいた天魔ちゃん」
二人に近づいてくる者がいた。大天狗だった。
「ちょっと耳に入れたいことがあってね。時間ある?」
「構いませんぞ」
大天狗はバランスを保つのに四苦八苦しているはたてを見やる。
「鍛え甲斐がありそうね」
「なかなか癖の強い奴じゃよ」
持久力は無いが瞬発力はある。
筋力は弱いが手先が器用である。
根性は無いが、一度始めたら最後までやり通そうする責任感はある。
パニックを起しやすいが、一度スイッチが入れば実力以上の力を発揮する。
それらが、はたての指導をしてわかった事がある。
「落ちるまで続けよ。落ちたら今日はもう帰ると良い。片付けを忘れるな」
「は、はい! おおっと!」
落ちるか落ちないかの境界線を行ったり来たりしているはたてを横目に、屋敷の中に入っていた。
天魔の部屋で話の場は設けられた。
「守矢の連中についてなんだけど。モミちゃんが狙われて以降。監視の数を増やしたのは知ってるわよね」
「当然じゃ」
「そしたらあいつ等。分社を使って瞬間移動ってやつ? それを使って監視の目を掻い潜るようになったのよ」
「それを使われては、厄介ですな」
分社は山の外にもあると聞く。それを使われてはお手上げだった。
「私達が監視の強化をした途端に、分社を使い始めた。この意味わかる?」
「見られては困る事を進めていると?」
やましい事が無ければ監視の目が増えようと、気にせず普段どおりに振舞うはずである。
しかしその監視の目を極端に避けるとなれば何か企んでいる証拠である。
「監視してる私たちを挑発してるだけっていう考えもあるけど」
「甘い読みはせん方が良い」
「そうね」
分社で移動するとはいえ、移動先で見つかる可能性はある。
そんな危険を冒してでもやり遂げたい何かが有るという事になる。
「近いうち、何かを強行するのかもしれない」
「どうやら鉢巻を締めなおす必要があるかもしれんな」
それから天魔の大天狗の二人により、緊急時の対応についての相談が行われた。
大天狗が天魔との打ち合わせを終えて部屋を出た時、庭でまだはたてが平衡感覚の鍛錬を続けていた。
「頑張るわねぇはたてちゃん」
不安定な足場の上、中腰の姿勢で微動だにしないはたてへと近づく。
「ねぇ夕飯近いし。そろそろ上がったら?」
「……」
「はたてちゃん?」
不審に思い、彼女の顔を凝視する。瞑想するかのように、瞳を閉じていた。
「すぅ、すぅ」
「ひょっとして寝てる? おーい?」
「え、あ、ね、寝てないです天魔様! ……あれ? 大天狗様? 天魔様は? おわわわっ…と!」
慌て過ぎたためバランスが崩れた。
「ほいキャッチ」
落下したはたてを大天狗がお姫様だっこの形で受け止めた。
「ありがとうございます」
「よだれよだれ」
「ごめんなさい!」
慌てて口元を拭う。
(この子、将来きっと大物になるわ)
あの状況を眠ったまま維持するはたてに、感心する大天狗。
「そういえば大天狗様に聞きたいことが」
「なに?」
はたては椛と樹海の関係について、大天狗ならわかると思い訊くことにした。
「昔、モミちゃんに沢山の裏稼業をやらせたのは知ってるよね?」
「はい」
「天魔ちゃんの号令で、もう廃業しちゃったけど。その際、関わった連中に口止め料として退職金を渡すことにしたの。そしたらモミちゃんがね『お金は要らないから、あの土地の名義を自分にして欲しい』って言ってきたのよ」
額がいくらかは知らないが退職金というくらいだ、さぞ膨大な額だったのだとはたては思う。
「当然無理だから断ったわ。そしたら『じゃあ、あの区画を立ち入り禁止区域にして欲しい』ってお願いしてきたのよ」
「聞き入れたんですか?」
「もともと、曰く付きの土地だからね」
「曰く付き?」
「あの土地には昔、ある手違いからそこに住んでた白狼天狗が大勢虐殺されたのよ」
「そんなことが」
その事件の唯一の生き残りが犬走椛である事を二人は知らない。
「以後その土地には公に出来ない事情で死んだ白狼天狗が捨てられるようになってね」
過去の惨劇のこともあり、あの場所で白狼天狗の死体が見つかっても深く追求されないという事で、権力者にとってうってつけの場所だった。
白狼天狗の亡骸が見つかっても、その時に片付けそびれた死体ということで処理された。
当時戸籍制度などなく、あの集落に住んでいた白狼天狗の数など正確に把握されていなかった。
そもそも上層部がその土地について深く関わりたくなかった。
誰も口にしないがあの惨劇は立派な不祥事だった。
「お陰で今じゃ『首の無い白狼天狗が歩いてるのを見た』や『遊びまわる白狼天狗の子供たちの声が聞こえる』なんていった報告が上がる心霊スポットよ」
「じゃああの場所は、椛の友達が大勢眠っているってことですか?」
「そうなるわね」
「だから聖域なんですね」
「辛気臭い話はやめましょ。他に何か訊きたいことある?」
はたてが悲しげな表情を浮かべたので、話題を変えることにした。
「質問じゃないんですがちょっと見て欲しいものが」
「何かしら?」
木刀を持ってきて素振りをして見せた。
昨日、椛から指摘されたところは全部改善したので、少しはまっとうな評価が貰えることを期待した。
「ヤバイわね」
「どれくらいヤバイですか?」
「例えるなら、はたてちゃんの携帯がパカパカ出来なくなるくらいヤバイ」
(なんで皆、私の携帯を引き合いに出すんだろう)
剣の道は前途多難なようだった。
天魔の屋敷を出て、はたては椛の元へ向かった。
「椛いるー?」
「いらっしゃいはたてさん。ちょうど良かった。実は折り入ってご相談したい事が」
「 ? 」
隊長試験のために勉強を見て欲しいという椛の頼みに、はたては即頷いた。
暗くなるまで剣の稽古に付き合い。そこからははたてが椛の勉強を見た。
「これは教え甲斐があるね」
「面目ないです」
椛に模試をやらせてみたら不安要素は数学、一般常識、歴史だとわかった。
数学は日常生活に支障の無い計算は出来る。
足し算や引き算、掛け算や割り算などの簡単な計算なら暗算でこなせる。そろばんがあれば桁の多い数字でも計算可能である。
解けないのはそこから先だった。外の世界でいう所の“中等学校”と呼ばれるレベルの難易度になると回答は白紙になる。
そこを新たにはたてが教える必要があった。
「これって間違いなんですか?」
「これの正解は2番だよ」
「でも実際の状況じゃ3番が最も現実的ですよ?」
今、二人が話しているのは一般常識から出題された選択問題についてだった。
怪我人が出た際に、最も有効な応急処置の方法を選べという旨の内容だった。
「2番だとすぐ止血できるよ?」
「でも道具がいるでしょう。3番なら道具を使わずに出来るので有効ですよ」
椛は出題者の意図を汲み取った回答が出来なかった。
長年現場に身を置いてきた椛は、培ってきた感性と合理性を信じている。
故に、自身の感覚で回答してしまう。その癖を改善する必要があった。
「天狗が人間の里に損害を与えた時の賠償方法を明文化して、当時の里の長と協定を結んだのは誰?」
「知りません」
「比良山次郎坊だよ」
「あの人がぁ?」
信じられないという顔の椛。
「会ったことあるの?」
「昔、哨戒の詰所に用も無く遊びに来てた呑んだ暮れのオヤジがいたんです。まさかそんな偉い人だったとは」
椛が山の歴史を知らないわけがない。しかしあまりにも山の歴史に感心が無かったため、知っていても答えられない事柄が多く、基礎から学び直す必要があった。
幸い歴史は暗記が殆どである。まだ試験はずっと先、今から少しずつ覚えていっても十分に点数の取れる科目だった。
「何とかなりそうだね」
「そうですね…ただ」
「ただ?」
「私のような奴が、仲間の命を預かる地位に付いても良いのでしょうか?」
椛は俯く。彼女はまだ隊長になる事に引け目を感じていた。
過去の自分を省みる。
心のどこかで天狗社会を憎み、公言できない悪行と業を命じられるがままに重ねてきた。
後悔は無いが仲間に対する負い目があった。
白狼天狗が掲げる矜持と規範から逸脱している自分にその資格があるのかと不安になる。
「隊長なんて、私には過ぎた身分のような気がするんです」
身の丈以上の幸福を求めて、自滅した白狼天狗を大勢見てきた。
慕っていた先輩もその一人だった。
今の自分はまさにそれではないかと感じていた。
「そう、なのかな?」
はたてには、椛が自身の幸福を拒んでいるように見えた。
「隊長になれたら今よりも楽しい?」
「面倒ごとは増えますが、給金も増えますし、色々と特典もありますね」
「それは今よりも幸せになれるってこと?」
「どちらかと言えば、そうですね」
「じゃあ受けなよ」
椛の目をまっすぐに見る。椛の生き方にとやかく言うつもりは無い。しかし、これだけは伝えなければいけないと思った。
「椛にだって幸せになる権利はあるんだよ」『アタシらにだって幸せになる権利はあるんだよ』
はたての声と姿に、かつて世話になった先輩が重なった。
「…」
「どうしたの?」
「…」
「ねぇ?」
「あ、はい! そうですね! 頑張ります!」
「 ? 」
今度は木から落ちない気がした。
椛の家の前。
「…」
二人のやりとりを文は外でひっそりと聞いていた。
(一仕事する前に、椛さんのお顔を見ておきたかったのですが、しょうがありませんね)
文は神奈子と打ち合わせした場所へ向かう。
神奈子達と合流するためには、樹海を抜ける必要があった。
飛んでいけばすぐだが、誰かに見られるのを極力避けたかった。
「ここは何時来ても不気味ですね」
暗い視界と巷に流れる怪談話と相まって、樹海の風景がおどろおどろしく見えた。
「ここは立入禁止区域だよ鴉天狗さん」
「ッ!?」
唐突に掛けられた声に、文の心臓は飛び跳ねる。
振り向くと、枯れて倒れた古木に腰掛ける白狼天狗がいた。
顔立ちはまだ幼く、肩まで届く銀色髪が美しい少女だった。
寡黙な椛とは正反対の、活発で人懐っこそうな娘である。
「 ? 」
文は首を傾げた。今年に入ってからすでに、白狼天狗の全ての詰所を訪れている。
こんな可愛らしい白狼天狗がいれば嫌でも記憶に残るのだが、彼女を見るのは初めてだった。
「スンスン」
「あの?」
彼女は立ち上がり、文の匂いを嗅ぎ始めた。
「ああ、ごめんごめん。お前さんからほんのりと椛の匂いがしたからね」
「椛さんとはお知り合いで?」
「知り合いも何も、アイツの先輩さ」
「そうなんですか?」
その返答にさらに腑に落ちなくなる。てっきり彼女は最近入隊したばかりの新人だと思っていたからだ。
「失礼ですがお名前は?」
「別にいいだろそんなの? お前さんにとっちゃ私は椛の先輩。それ以上でもそれ以下でもない。いいじゃんソレで? な!」
「はぁ?」
色々と納得できないが、勢いに押されて渋々頷いた。
「しかしアイツも変ったなぁ。あんなにも毛嫌いしてた鴉天狗と知り合いになるなんざ」
「確かにそうですね」
知り合ったばかりの椛の態度は酷いものだった。ボウガンで撃たれそうになったくらいだ。
「もともと、白狼天狗の知り合いも作ろうとしなかったくらいだからね」
「みたいですね」
「まあしょうが無いか。仲良くなっても次の日にはソイツが死んじまうような環境にいたからさ」
大天狗の下で行っていた裏稼業の事を言っているのだとわかる。
「一々悲しい想いなんてしたくないから、友達なんて作らないって考えるようになって、それがずるずると続いて、気付けば感情の一部が麻痺しやがんの。笑えるでしょ?」
「笑えませんよそんなの。感情を麻痺させるのは、精神を病まないようにするための防衛本能です」
「じゃあ、あれを一度でも『寂しい』と思わせたら大したもんだね。責任とって結婚するしかないね」
「け、結婚ですか?」
唐突な振りに文は赤面する。
「おやおや。こんな美人を惚れさせるなんて、あいつも隅に置けないねぇ」
ヒヒヒと笑いながら、楓の木の裏手に歩いていく。
「不正解しかない選択問題のような理不尽な人生だったけれど、あいつなりに考えて選んできた道なんだ。
同情してくれて構わない、救ってやろうと思ってくれて構わない。でもどうかあいつが歩んできた道を否定することだけはしないでやって欲しい。多分、後悔だけはしていないと思うから」
「あ、あの椛さんについて色々と詳しく…おや?」
彼女を追い、楓の裏に回りこんだ時には彼女の姿は消えていた。
身を隠せる場所など何処にもない。
途端に文は全身から血の気が引いていくのを感じた。
「こんな時に視ちゃうとか、ホント勘弁してくださいよ」
額に手を当てて、天を仰ぐ。
「ごめんなさい先輩さん」
楓の木に向かい、いるかいないか分からない相手に対して話しかける。
「以前の私なら椛さんと寄り添って生きる道を喜んで選んでいたでしょう。でも全てを知ってしまった今、そういうわけにはいかないんです」
今の自分が暴走しているという自覚はある。選択ミスだと理解している。
「裏切り者と罵られようと、狂人と蔑まれようと、私はやり遂げなければいけないんです」
鉛色の分厚い雨雲が山の空を覆っていた。
獣道と呼んで差し支えない狭い林道。そこが神奈子が指定した合流地点だった。
「遅いじゃないか」
「すみませんね。途中で荷物を持ったおばあさんが居たもので」
すでに神奈子と諏訪子は到着していた。
「誰も通らないとはいえ、ボヤボヤしてる暇は無い」
神奈子は手にしていた細い枝の先端に火を灯す。
それを文に差し出した。
「ほら、お前がやりな」
「私がですか?」
「当然だ、共犯なんだろう?」
片棒を担がせることで、完全に守矢側に引き込むのが目的だった。
「いいでしょう」
松明と呼ぶには余りにも小さな枝を文は受け取る。
「早苗さんはこの事を?」
「教えるわけないだろう。今頃は部屋でぐっすり寝てるよ」
やや不機嫌そうに諏訪子が答えた。
文は諏訪子のすぐ横にいる神奈子に視線を送った。
「本当にこの一区画しか燃えないんですよね?」
「ちゃんと計算してある。心配いらないよ」
神奈子は空を指差した。
「保険として、丑三つ時には雨が降るようにしてある」
「その予報は外れませんね?」
「私を誰だと思っている?」
「失言でした」
「この計画のためにも、犬走椛も仲間に引き込んでおきたかったのだがしょうがない」
この計画には椛の存在が必要不可欠だった。だから彼女をこちら側に着けられなかった事を、神奈子は残念に思った。
「その分、私がしっかりと働いてあげますよ」
枝を握る手に自然と力が篭る。
これを放る意味の重大さを、文は理解している。
愛する山を傷つける。それは故郷と仲間を裏切る行為である。
(それでも、救われなければ、報われなくてはならない人がいる)
脳裏に犬走椛を思い浮かべて、手を放した。
椛の家。勉強が一区切りついたため、今日はそこでお開きになった。
「今日はありがとうございました。こんな遅くまで付き合っていただいて」
「いいよ。明日は何も予定ないから。昼まで寝てるつもりだし」
玄関を出て三歩目のタイミングで、遠くに設置された物見櫓から警鐘の耳ざわりな音が聞こえた。
「何?」
「非常事態です!」
椛が玄関を開けて飛び出す。すでに剣と盾を背負っていた。
「…燃えてる」
空を飛んだ二人は、警鐘の理由をすぐに理解した。
すでに広範囲の木が炭へと変っていた。
河童達が水を撒き、天狗達が燃え広がるのを防ぐためにまだ燃えていない木を切り倒している。
「あんまり大きな山火事にはならないだろうけど……椛?」
椛は、火災のあった場所ではなく、それよりも下の方を見ていた。
(あの場所って確か)
椛が聖域と呼んだ樹海のある場所だった。
そこをじっと見ていた。
「椛!!」
呼ばれた彼女の体がビクリと震える。
はたて自身、こんな大きな声が椛に対して出せることに驚いていた。
「今はとにかく、私達も手伝いに行こっ!」
「承知しました」
守矢神社。
「…なんでしょうか?」
自身の意思ではない、何か別の要因で早苗は目を覚ました。
普段の彼女なら、この時間に起きることなど決して無い。
まだぼんやりとしている頭で外を見る。
障子にはオレンジ色の光が微かに映っていた。
「大変っ!」
早苗は布団を蹴り上げた。
火災現場の上側では、まだ火が広がり続けている。
椛とはたてはそこに向け飛んでいた。木を倒すための道具が不足しているということで、彼女らの手には方々を回ってかき集められた山仕事の道具が抱えられていた。
「ッ!?」
「どうしたの椛?」
千里眼で森を見渡していた椛は、急に空中で制動をかけて止まった。
「誰かまだの中にいる」
「え?」
火の手が迫る森の中に、動く人影を見つけた。
「すみません、これをお願いします! まったくどこの馬鹿だッ!!」
自身の持っていた山仕事道具が入った鞄をはたてに渡し、椛は一目散にそこへ飛んだ。
まだ火の手が伸びていない森の中。
「良かった。間に合った」
そこに設置されている守矢の分社の前で、早苗はほうと胸を撫で下ろした。
分社を開くと、中に御神体の代わりとして二柱の加護を受けた札があり、それを取り出すと大事そうに懐に仕舞った。
これ一つを作り出すのに相当な労力を必要にするため、回収しようとやって来たのだ。
「確かもう一箇所この向こうに…キャッ!?」
眺めた方角から、突風が吹き込んできた。
「うう…目に砂が……え?」
まだ遠くに見えたはずの火に、早苗は取り囲まれていた。
山火事の最も恐ろしい所はここにある。風に煽られるだけで、木から木へと瞬時に燃え移る。
遅れてやってきた熱風が彼女を包む。
「ゴホッゴホッ」
煙を吸い、頭痛が伴う眩暈に襲われる。
バランスを崩して手を突いた先がまずかった。
「熱っ」
ちょうど燃えている木の葉の下に手を置いてしまった。
パン生地のような柔らかく美しい手の平に水膨れが出来た。
「どうしよ…ゴホッゴホッゴフッ!」
徐々に煙が充満して早苗を取り囲み、前後の感覚すら奪っていく。
(ああ、神奈子様、諏訪子様)
本能的に死を覚悟した。
ここで椛が現れたのは、他ならぬ彼女の能力のお陰なのかもしれない。
「大丈夫ですか!!」
倒れて咳を繰り返す早苗に返事を返す余裕は無い。
椛は胴衣を脱ぎ、早苗の頭に被せ煙と熱から彼女を守る。
上半身がサラシ一枚になった椛は早苗を担ぎ、上空に登った。
「早苗!!」
空に上がるとすぐに諏訪子がやってきた。
諏訪子は神社に戻ってすぐ、早苗が外に飛び出したのを知り探し回っていた。
分社の力が消えたことから、早苗がここにいることを探知して迎えに来た。
「つくずく縁がありますね」
「お前が助けたのか?」
「礼には及びませんよ。白狼天狗の仕事を果たしたまでですから」
「ふんっ」
早苗の容態を第一優先にする諏訪子は、神社の方へと消えていった。
その後、天狗と河童による賢明な消火活動と丑三つ時に降りだした雨のお陰で、火は消し止められた。
翌朝。山を救った雨はなおも降り続いている。
天魔の屋敷の大広間に天狗社会の重鎮達が一同に介していた。
天魔を上座に置いた長方形の形で向き合っている。
(私、ここにいてもいいのかな?)
周囲は只ならぬ空気に包まれる中で、困惑するはたて。
天魔の弟子という名目で、何故か同席を命じられていた。彼女は下座の入り口のすぐ近くにちょこんと正座している。
もっとも、ここにいる重鎮にとってはたてなど眼中になく、一々視線を向けたり存在を気にするような者などいなかった。
全員が集まり、五分ほどが経過した後、天魔が口を開いた。
「被害の報告を」
「はいはーい」
普段通りの気の抜けた声で返事をする大天狗。
厳かな雰囲気や周囲の視線を意に返さず、緩やかな足取りで部屋の中央に正座する。
「夜の内に隊長集めて報告させたのを読むわね……えーと、どのページにメモしたっけな」
親指を舐めてパラパラとページを捲る。
緊迫感の無さを咎める者はいない。
彼女は最古の天狗の一人である。誰が意見など出来ようか。
その気になれば彼女に苦言を呈する事が出来る地位の者はこの場に何人かいるが、古すぎる付き合いから彼女はこういう性分なのだと諦められている。
「あったあった。えーと。燃えたのは東区域の針葉樹林の大体0.5里くらいね。家屋に被害は無し」
「誰も住んでおらんというのが救いじゃな。怪我をした者は?」
「消火作業の最中に火傷を負ったり煙を吸ったりで診療所へ担がれた天狗が五名、河童が八名。全員軽症……んでもって人間一名。この子も軽症」
その最後の言葉に会場がざわつく。
「どういう事じゃ?」
「守矢神社の早苗ちゃんがね、分社の御神体を回収しようとしたらしいわ。その時に」
「今どうしておる?」
「神社で養生中よ、あと手に火傷を負ったみたい」
「そうか。では後で河童の秘薬を届けさせよう。異存はないか?」
言ってすぐに重鎮達の顔を見渡す。
その中で一人。体躯に恵まれた男の天狗が口を開いた。
「守矢に貴重な秘薬を送るなど何をお考え…」
男は、刃こぼれだらけの匕首で心臓を刺された。そんな気がした。慌てて自分の胸元に目をやるが、そこに外傷は無い。
顔を上げると天魔と目が合った。まるで何千という軍勢を前にしているかのような重圧が男の両肩に圧し掛かる。
「異存はないか?」
「は、はい。ありません」
反対意見を出す者は居なかった。
その後、火災跡地をどう復興させるかについての話し合いがなされた。
事務的な処理まで全て話し終えてから、天魔は問うた。
「此度の火災、自然なものだと思う者はおるか?」
空気の乾燥しているこの時期、悪い偶然が重なって自然に起こる可能性だってある。
しかし、全員の顔を見る限り、放火を疑っているようだった。
「山に火をつけて一番得をする者は誰じゃ?」
一同は押し黙る。挙げられる相手が多すぎるのだ。
天狗社会は閉鎖的であるため、外に敵を作りやすい。幻想郷のどの勢力から狙われても不思議ではない。
しかし、全員の脳裏に真っ先に浮かぶ勢力は共通していた。
「皆、守矢神社を疑っておるのだろう?」
当然、天魔は彼らの心などを見透かしている。
「でもカナちゃん達が火事なんて起す動機が無いわねぇ」
重苦しい空気の中で、大天狗の軽快な声が響いた。
「左様。動機がわからん。分社を三つ焼失させ、巫女を危険にさらしてまで放火をする必要があるのか?」
皆押し黙る。
守矢神社が一番怪しい。しかし動機も証拠も無い。
ひょっとしたら天狗社会を敵視する第三勢力の仕業か、もしかしたら本当に自然に発火したのかも、そんな思考の坩堝(るつぼ)に全員が陥りそうになる。
現段階では何一つ判断できない。
下手に調査の手を広げて騒ぎたて、それが八雲紫の目に留まり、痛くも無い腹の中を探られたくはない。
「天狗社会は自然災害として今回の件は処理する。追求はせん。しかし…」
ここで一旦言葉を切った。
「個人として詮索する分には文句は言わん」
その言葉で会合は閉会となった。
(はぁ、緊張した。足痛い)
重鎮全員が帰り、重い空気から開放されたはたては、大広間でぐったりとしていた。
(あの言葉、どういう意味があったんだろう?)
天魔が最後に発した「公には自然火災とするが、詮索は自由」という言葉の意味。
組織の建前と本音を理解しきれていないはたてはどう解釈して良い物か悩んでいた。
物騒な意味でないことを願いつつ外を眺める。
「どうなるんだろう、この山」
まだ雨は止みそうに無い。
守矢神社。
「おい」
「何かしら?」
神社内部には渡り廊下があり、外からここは見えない構造になっている。
そこから足を投げ出して座り、雨空をぼんやりと眺める神奈子に諏訪子が問いかけた。
諏訪子の表情は氷のように冷たい。
「分社を三つ燃やすだけだったんじゃないのか? それだけで私達に疑いの目は向かないんじゃなかったのか?」
「そうよ」
「じゃあなんで早苗を巻き込んだ! 放火の件に早苗は一切関わらせないと決めたはずだ!」
「あれは事故よ。私だってああなるとは予測していなかった」
早苗は今、煙を吸った影響で体調を崩し、床に伏せている。
「前向きに考えようじゃない、早苗のお陰で天狗から疑いの目は完全に消すことが出来た。と」
「本気で言ってるのかソレ!!」
肩を掴んで引張り、強引に自分の方を向かせた。
「白状しろ! 本当は早苗が煙に巻かれるのも最初から織り込み済みだったんだろ!!?」
「信じて頂戴」
「信じられるか! お前はずっと前から早苗を政治の道具として利用しようとする節がある!!」
詰め寄られても、神奈子は動じない。乾いた表情で諏訪子を見返す。
「大好きな早苗がああなってやり場の無い怒りを感じてるその心中は察する。けれどサイはもう投げられた。後戻りは出来ない、仲違いしている暇なんてない事くらいわかるでしょう?」
「クソッ!」
突き飛ばす形で神奈子を開放する。
「早苗をお嫁に行けない体にしてみろ。お前を地獄よりも陰惨な場所に叩き落してやる」
「肝に銘じておくわ」
大きな足音を立てながら、諏訪子はその場から去っていった。
「早苗を火災現場に行くよう仕向けたのはお前か?」
「はてさて、何のことでしょう?」
諏訪子が去っていったのとは反対側の廊下から、文は顔を出す。
「仮の話だがね、火事が起きた時分にお前の使役するカラスを使い、物音を立てるなりさせて早苗を起す。
障子越しに火事の炎が見えた早苗は現場に急行するだろう。風を自在に起せるお前さんは、やってきた早苗に向かい火事の煙を浴びせた」
「実に興味深い推理ですね。どうでしょう神奈子様? 我が文々。新聞で推理小説でも連載しませんか?」
「やったの? やってないの?」
「証拠は?」
「ないね、残念ながら」
文は小さく溜息を吐き、神奈子の横に座る。
「お忘れですか神奈子様? 我々は一蓮托生、一心同体、運命共同体なのです。二柱が終われば私も終わる。それなのに貴女方を仲違いさせて何の利がありますか? 神経質になっているのは諏訪子様だけでないとお見受けしますが」
「そうね。少し冷静さを欠いていたわ。諏訪子とは良く話し合っておく」
「ご理解いただけたようで何より」
「しかし、お前さんに少しでも不審な点があれば容赦なく潰す。その事だけはゆめゆめ忘れるな」
返事を返すことなく立ち上がり、黒塗りの唐傘を差して、神社を後にする。
石段を下りながら考える。
(ずっと住んでいる山を焼くというのは、思ったよりクるものがありますね)
故郷を荒らすことが、ここまで精神的負担になるのは予想外だった。
「…」
文の足は樹海に向いていた。
樹海に足を踏み入れて数歩で、文の足元は泥だらけになった。
傘はいちいち雑木に引っ掛かるため、途中から差すのを放棄した。
ようやく、昨日椛の先輩と出会った楓の木の前に来た。
ひょっとしたら、今日も会えるかもしれないと密かに期待していた。
「ここの方達はきっと私を許さないでしょうね」
天狗社会の都合で死んだ白狼天狗の大量の骨が眠る土地。
そんな場所であるにも関わらず、墓石は一つたりとも存在しない。
山のために死んだにしてはあまりにも報われない結末である。
(見られてるな)
ここに足を踏み入れてからずっと沢山の視線を感じていた。
精神的に不安定になっているからそう錯覚しているわけでは断じてない。
その方角を見るが何も無い、しかし、確かに何かがそこには居た。
(椛さんにとって、この場所こそが、山で一番守りたい場所なんでしょうね)
それを知っているからこそ、彼女は守矢の計画の片棒を担ぐと決めた。
守矢の企みを利用して、椛を救おうと決めた。
しばらく待ったが、何も変化はなく、雨がその身を打ちすえるだけだった。
「さて、そろそろ行きますか。椛さんに嫌われに」
踵を返し、遠くで灯っている家の明かりを文は目指した。
椛宅。
(何だ?)
雨音に混じり、何者かの足音と気配を察知した椛は勉強の手を休めて顔を上げる。
玄関を開けて、その正体を確かめた。
「文さん?」
まるで幽鬼のごとく、雨でずぶ濡れになった文が戸の前に立っていた。
「上がってください。今、風呂の準備をしますから」
ずぶ濡れになった文を家に上げて、風呂を沸かす。
風呂に入るまで、文は「ええ」と「はい」しか発さなかった。
「あまり綺麗な浴衣じゃないですが、今はそれで勘弁してください」
「…」
脱衣所から出てきた文は相変わらず反応が悪い。
文は、勉強を再会した椛のすぐ横に座った。ぼんやりと椛の筆の動きを追っている。
「何か、あったんですか?」
あるからこうなっているとわかってはいるが、とりあえずそう訊いた。
「椛さんにとっての」
「はい?」
「幸せってなんですか?」
「こりゃまた難問ですね」
ようやく言葉を発したかと思えば、意図の見えないその言葉に首を捻る。
「急に問われてもすぐには答えられませんね」
「以前、スイッチを押す押さないの話をしたのを覚えていますか?」
「またその話ですか? もう止めましょ…」
唐突に、椛は文に押し倒された。
「何の冗談ですか?」
「私決めました。無理矢理にでも、椛さんにスイッチを押してもらいます」
「一体それは何のはな…」
文の唇が、椛の唇を塞いだ。
「んっ! んんー!」
数秒の接吻の後、ようやく文を引き剥がし、手首で口元を拭う。
「何のつもりですか!」
「ここまでやって、そう訊きますか? 案外ウブなんですね。あなたを強姦しようとしてるんですよ? アンダースタン?」
椛に跨る文は、妖艶な笑みを浮かべてから、借りていた浴衣を大胆に肌蹴させた。
染み一つ無い彼女の姿を見て、こんな状況でも綺麗だと思ってしまった椛は自分自身に腹が立った。
この身体で迫られたら、男ならどんな頼みでも聞き入れてしまうだろう。
文の手が椛の頭を捕らえ、再び口付けしようとその身を寄せる。
そんな彼女を椛は容赦なく殴り倒した。
「だから鴉天狗は嫌いなんだ下衆が! 私の初めての相手が誰か教えてあげましょうか!? 物心がついたばかりの頃ですよ! 4人の鴉天狗の悪童に押し倒されてその悪童が持ってた枝で…」
封印していた過去を想起させられて激昂し、喚き散らす途中で無理矢理また口を塞がれた。
二発目の鉄拳が文の顔面に飛ぶ。
「ああもう思い出すだけでも忌々しい!!」
髪を掴んで起し、机の上に文の体を叩き付けた。
「ふーーふーーふーーーっ」
目を充血させて、椛は何度も深呼吸を繰り返す。
真っ赤になった顔が少しだけ元の血色に戻り、椛にほんの一握り分の理性が戻る。
「聡明な貴女がそうまでなるのは、何かよほどの事情があるのだと思います。でも、私はしばらく冷静でいられそうにありません」
文の肩に浴衣をかける。その間も手が怒りで震えている。
「今は出て行ってください。このままだと貴女を五体満足で帰せなくなる」
乾かし途中だった彼女の洋服を水の染みない袋に入れて放り渡す。
「しばらく経ったらまたきてください。その時は、誤解を解きましょう。私で力になれるなら、言ってください」
浴衣に袖を通し、玄関に置いてあった自分の傘を差してふらふらと暗闇の中へ歩き出す。
背後から何かが割れる音がした。自分に向けるはずだった怒りを別の物に向けていたのだとわかる。
「もっと、嫌われないといけないのに」
ぽつりとそう呟く。
彼女の最大限の優しさと譲歩が逆に辛かった。
出来ることなら全裸のまま外に放り出してくれた方がすっきりした。
二度と来るなと罵ってくれたほうがまだましだと思った。そうしてもらうために、あんな愚行を犯したのだから。
裏を返せば、それだけ椛が心を許してくれている証拠だった。
「でももう、手遅れなんです」
その友情を放棄しなければならないのが、何よりも辛かった。
【 epilogue ~ an inviolable sanctuary ~ 】
昨日の雨はすっかりと止み、この日は晴天に恵まれていた。
「さ、寒いっ! 冷たい!」
「我慢せい」
白の装束に着替えたはたては、水深が膝よりやや上の位置まである川の中を歩いている。
この日の鍛錬は天魔の屋敷ではなく、屋敷から少し山を登ったところにある小さな滝だった。
「昨日の雨のせいでいつもより増水してるじゃないですか!」
「コレくらいの方が修行になる。さっさと滝に打たれんか!」
「だって寒いですって!」
「心頭滅却せい! 水もまた温いじゃ!」
「冷たいものは冷たいです!」
滝に当たるが、一分後にはたてはギブアップした。
「ほれ、火を熾した。当たるが良い」
「ありがとうございます」
天魔が用意してくれた焚き火に当たり暖を取る。それでも歯のガチガチが止まらない。
「しかし最近の女子は派手な下着を身に着けるんじゃな」
「あ、ちょっ! 何見てるんですか!」
一瞬で距離を詰め、手にした下着を奪い返す。
「冷えた体で咄嗟にそこまで動ければ上出来じゃな。ほっほっほ」
「からかわないでください」
「儂は先に戻っておる、十分に温まってから帰ってこい」
「はーい」
最後に火の始末を忘れるなよう注意してから、天魔は戻っていった。
「随分と精が出ますね」
木の上から声がして、見上げる。
文が枝に座り手を振っていた。
「どうしたのその顔?」
「ええ、ちょっと転んじゃいまして」
痛む唇を引き攣らせながら笑い、誤魔化した。
「滝修行は終わりですか?」
「うん。戻る」
「そうですか?」
「…」
「何か?」
「着替えたいんだけど」
相手が文とはいえ、裸になるのは気が引けた。
「ええと、なんというかその…」
急に文は顔を背ける。
「なに?」
「その姿も十分に刺激的だと思いますけど?」
「ッ!?」
はたては慌てて胸元を両手で隠す。
彼女は今、生地が薄い白装束だけを身に着けている。それが水に濡れ、肌に貼り付けば第三者からどう見えるか、今ようやく気付いた。
「その顔いいですね。いただきです」
「あっ」
パシャリとシャッターが切られた。
「いくら文でも今のは怒るよ!」
「すみません。調子に乗ってました」
着替え終えたはたてと山道を行く。
「修行は進んでますか?」
「そこそこ」
「まだ基礎体力作りだけですか?」
「最近は剣術もやってる」
「ほぅ」
はたては、椛から一本取るという賭けについても文に話した。
「はたての剣の腕前がいかほどか気になりますね。ここでちょっと見せてもらえます?」
「うん、いいよ」
ちょうど今いる場所は、木々も開けているし人通りも少ない。
はたてはいつも持ち歩いている木刀を構え、文の前で振ってみせた。最初よりかなり良くなったと自負している。
「どうかな?」
「駄目ですね」
「どのくらい駄目なの?」
「例えるなら、カメラレンズが無くなったはたての携帯くらい駄目です」
「なんでみんな私の携帯で例えるの!?」
ショックを受けるはたてを尻目に文はあたりを見渡し、彼女を見守る天魔の使いがいない事を確認した。
「私で良ければ、相手になってあげましょうか?」
「文って剣使えるの?」
「ド素人ですけど、貴方よりはマシですよ確実に」
「うう」
いつでも椛に挑めるように、はたての常に木刀を二本持参していた、その一本を借りる。
「それじゃあ行きますよ」
「お願い」
最初の一撃で、文がついさっき言った『ド素人』が嘘だったことにはたては気付く。
一時期、どこかで習っていたのだろう。振りや足捌きにはしっかりとした“型”があった。
「ほらほらほら」
「え、わ、わっ、わわわわ!」
防戦一方でさがり続けるはたて。文の手に一切の容赦は無い。
木刀が肩や足を打ち据えても、文の手は止まらない。
そのままはたては押し切られ、近くに生えていた一本の木に背中があたる。
「参りまし…っぅ」
降参の言葉を言う前に、文は肘を曲げ突き出した腕ではたての喉を圧迫した。背後に木があるため、それだけで身動きが取れなくなる。
「な、ん……どうし…て」
文の攻撃が容赦が無かったのは、自分の鍛錬に真剣に付き合ってくれていたからだと思った。
しかし、この行動で文に対し恐怖を感じた。様子がおかしいことに今ようやく気付いた。
「はたて、貴女はしばらく山から離れなさい。そうですねぇ、一ヶ月もあれば十分でしょう。地底なんてどうです? 地底にならにとりさんの姉がいます。彼女を頼りなさい」
「どういう、いみ?」
「『地底の取材に行ってみたい』『聞見を広めたい』と天魔様に何度も根気強くお願いすれば、きっとすんなり許可が下りますよ。地底にいる間に、全部カタが付くと思います」
「なん…の、はな、し…?」
「ああ、このままでは喋り辛いですね。すみません」
文は優しい表情を浮かべ、腕の力を緩めた。
「私はね。椛さんが大好きです」
「知ってる」
「どうしてか話したことがありましたっけ?」
「多分、無い」
「私にも昔、荒れていた時期がありました」
ぽつぽつと、昔の話を語りだす。
「鴉天狗は常日頃から新聞で仲間を出し抜くことばかり考えてるせいで、単独で行動するのが常です。同胞をライバルというよりも敵として見ている者も多かったです」
文は元々才能に恵まれた天狗である。しかし、それに嫉妬した仲間から取材の妨害や嫌がらせを受けることもしばしばあった。
そんな環境のせいで心が疲れ、無気力に日々を過ごすようになっていた。
何が楽しいのかわからないまま、楽しい新聞を作るという矛盾を抱えて文は活動していた。
「ある日、白狼天狗を取材することになりました」
外の世界の珍しい将棋の駒を持つ白狼天狗がいると聞き、その者に会いに行った。
それが犬走椛だった。
群れなければ何も出来ないと見下していた白狼天狗で、彼女の存在は異質だった。
「その時、一方的なシンパシーを感じたんです」
ずっと暗闇の中を一人で歩いていると思っていた。しかし、自分よりももっと先、もっと暗い所を歩いている天狗を見つけた。
「衝撃でした。きっと想像も出来ないような人生を歩んできたのだと思いました。私なんかまだまだマシなんだと知りました」
一人で暗闇を行く椛の背中に、勇気とこのままではいけないという焦燥感を得た。
取材の時間は僅かだった、しかしこの出会いで文の心境は大きく変化した。
凍り付いていた感情が再び鼓動を始め、長い時間眠っていた『興味』と『好奇心』が息を吹き返した。
「彼女を知るために今まで見下していた白狼天狗の事を調べました。過去の歴史を知り、彼らに関連するものを調べ、さらにそれらに関係あるものを調べ、それを延々と繰り返していくうちに種族を問わず色々な方達と繋がりを持つようになっていました」
上辺だけの付き合いではない仲間が何人も見つかった。記者として成長するこの上ない要素になった。
そして今では、仲間の内でも一目置かれる新聞記者として大成した。
「きっとこの事を椛さんに話せば『私なんか関係ありません。貴女が自分の力で奮い立ったのです』と言うでしょう。けれど紛れもなく、椛さんがその切っ掛けをくれたのです」
文の関心を引いたのが、たまたま椛だったに過ぎない。そう言われればそれまでである。
しかし文はこれに首を振る。
「でもあのタイミングで変れなければ、今の私はいないんです」
その取材後は、彼女と接点を持つ機会には恵まれず、守矢神社が越してくる異変まで接点を持てないでいた。
「はたての脱引篭もりで本格的に付き合うようになって、その人柄にさらに惚れましたけど」
ここからの出来事は、はたてが良く知る通りである。
「私はね、椛さんのためなら世界を敵に回してだって恐くありません」
再び腕に力が篭る。自分をしめ落とそうとしているのだとわかる。
「ちょっと強引ですが、一ヶ月。大人しくしていてもらいますよ。貴女がいると、決意が鈍る」
ここで意識を手放せば、何もかも終わってしまうと思った。
(そんなの、やだ)
はたての目の色が変る。
握っていた木刀を、手首のスナップを利かせることで逆手に持ち変える。
柄の先端で自身を戒める文の腕を払いのけ、その勢いのまま横薙ぎに振り抜いて文の脇腹を殴打した。
「ごっ」
肺に溜まっていた空気をすべて吐き出してから、文は蹲った。
「ご、ごめん!!」
自分がしてしまった事に後悔し、木刀を捨てて文に駆け寄る。
「やれば…できるじゃないですか…」
蚊の泣くような声でそう言った。
「貴女には素質がある」
ゆっくりと立ち上がる。呼吸困難は一瞬で、今はもう喉の震えは止まっているようだった。
「強くなりなさいはたて、どんな我侭も押し通せる程に」
はたての脳裏に、昨日の重鎮達の会合の場で、男天狗の意見を封殺した天魔の姿が一瞬だけ浮かぶ。
まさにあの力だと思った。
「私が駄目だったら、全部あなたに託そうと思います」
「今のままじゃ駄目なの?」
文が何をしようとしているかはわからない。しかし椛のために危険を冒そうとしていることはわかった。
「恩返しに命賭けるなんておかしいよ」
「恩返しじゃありません。償いです。椛さんは私を救ってくれたのに、私のせいで椛さんは苦しみ続けた」
「確かに文はたまに勘に障ることを言うけど、そこまで…」
「最近の話じゃありません」
「え?」
「昔の話です。それこそ貴女が生まれるずっとずっと昔の」
「どういうこと? 椛と会ったのは将棋の駒の取材の時って」
「あなたに話してもわかりませんよ」
はたての胸に一枚の写真を押し付けた。
「これって」
椛に寄り添う文とはたての写真。三人とも眠っている。
かつて御柱祭りの打ち上げて旅館に泊まった時に、にとりが撮影してくれたものだった。
「あなたに差し上げます。私にはもう、必要のないものですから」
文が扇を振う、突然発生したつむじ風に目を閉じる。
目を開けた時、そこに文の姿はなかった。
滝ではたてと別れ、屋敷に戻る前に天魔は寄り道をした。
「いらっしゃいませ天魔様。毎度ご贔屓に」
「三色団子と宇治茶をな」
「へい」
行き着けの団子屋だった。
天狗の老夫婦が切り盛りする小さな店である。
「だーれだ?」
注文してすぐに運ばれた来た団子に手を伸ばしたその時、視界が暗転した。
「戯れは止めてくれぬか諏訪子神よ」
頭から被せられた諏訪子の帽子を脱ぎ、突き返す。
「隣いいかい?」
「好きにすると良い」
天魔と諏訪子。二人が座っても椅子の両端はまだだいぶスペースに余裕があった。
「河童の秘薬。ありがとね。天魔様の意向なんだって?」
「泣く子にゃ勝てん。それだけじゃ」
「また借りができちゃったね」
「利子がつくのが楽しみじゃ」
「じゃあここは私が奢るよ。おばちゃん! 天魔さんのお勘定!」
「おい! 待て! 秘薬と団子ではあまりにも釣り合わぬぞ!!」
ごく少量でも、団子屋が店ごと買える価値があった。
「お礼代わりに守矢の秘密、一個教えてあげるよ」
「それは興味深いの」
「早苗はね。私の子孫にあたるんだ」
もったいぶることもせず、あっさりとばらした。
「なんと」
「でもその事をいうつもりは無い。言ったらきっと混乱させるだろうし、お互いの関係もきっと変っちゃうから」
「そうじゃな」
「そっちは明かさないの? 『私はお前の先祖だ』って?」
天魔はまだ、はたてに自身との関係を告げていない。
「なんでさ?」
「明かさない理由なら、たった今、諏訪子神が申したではあるまいか」
「やっぱりそう感じちゃうよねー。仲間だ仲間」
「のう、守矢の神よ」
茶を啜り、一息吐いてから小声で問いかける。
「ん、なに?」
「腹の探りあいを止め。共存するという未来は無いのかの?」
「そりゃ無理だね。そっちは自尊心の強い天狗。こっちは何かを支配することでしか存在を保てない神様。出会ったら最後、どっちが上かを格付けせずにはいられない」
諏訪子は立ち上がり、店の老人を見る。
「おじちゃん。みたらしと餡子と三色を三本ずつ。お持ち帰りで」
「あいよ」
「ここで食べては行かぬのか?」
「これから忙しくなるからね。時間が惜しいのさ」
団子の入った包みを受け取り、代金を渡す。
「天魔様も早く戻ったほうが良いよ」
「なぜじゃ?」
「今頃はそっちの大(おお)女が顔を青くしてる頃だろうからさ」
大天狗の屋敷に、神奈子が訪れていた。
「先日の山火事で、あの区域一帯の木が焼失したわね。今はまだ良いかも知れないけど、雨期に入ったらあのあたりは水を溜めて置けなくなるわよ。地滑りや土砂崩れが起きる可能性が高いわ」
「それでこんな図面持ってきたわけ?」
向かい合う二人の間には一枚の和紙が広げられている。
「あーそっか、あっはっは。なるほどねぇ。なんでもっと早く気付けなかったのかしら。盲点だったわ」
してやられたと大天狗は顔を手で覆う。
「火をつけた理由はこれだったわけね。納得よ。お陰で今夜はぐっすり寝られるわ」
「まるで私達が放火したみたいな言い方ね」
「あれが故意か事故かなんてその辺はもうどうでも良いのよ」
昨日の会合で、天狗社会として表向きは自然火災という形でこれ以上の追求はしないと決定し、声明が出された。
一応の決着がつけられている。
犯人の自白と決定的な証拠が出てこない限り覆りはしない。
「問題はこれからよ。引っ掻き回してくれちゃってまぁ」
「私は提案するだけ。決めるのは天狗よ」
「仮にその提案を受けたとして、本当に出来るの? 一回、河童の労働組合と揉めて頓挫したじゃない」
「その教訓があるから、今度は絶対に上手くいくわ」
「あとこういう話は私じゃなくて、天魔ちゃんに直接持ってってもらえる? 私の印鑑じゃどうしようも無いわよ?」
「まずはその土地の所有者に説明するのが筋というモノよ」
言いたい事はそれで全部なのか、神奈子は立ち上がり出口へと歩いていく。
その背中に問いかける。
「この場所に何があるか知ってる?」
「さぁ? 負け犬の骨以外に何か埋まっているの?」
「ありがとう。そっちの価値観は良くわかった」
「決めるならなるべく早くした方がいいわ。工期が予想よりも延びるかもしれないし。雨期には間に合わせたいでしょう?」
「そうね。一ヶ月以内には返事を出すようにするわ」
やがて神奈子の気配がその場から消えた。
「はぁ、もう。やんなっちゃう」
最近は控えていた煙管を懐から出して、袖に入れているマッチ箱を掴む。
マッチ棒を擦る。火はつかず、真ん中で折れてしまった。
新しいマッチ棒を擦る。これも火がつかず、根元で折れてしまった。
新しいマッチ棒を擦る、先端がポロリと取れてしまった。火はつかない。
もう一本と思い、箱を見ると今のが最後の一本だった。
「クソッ!」
手の中でクシャクシャにしたマッチ箱を壁に投げつける。
乾いた虚しい音だけが返ってきた。
樹海の中を椛は歩く。
昨日が雨だったため、来るのが今日になってしまった。
「良かった。どこも燃えてない」
飛び火してどこか燃えていないか心配だった。それを確認したかった。
「本当に良かっ……ん?」
安堵し、あたりをグルリと見渡した際、千里眼の視界の端に人影を見つけた。
(こんな所に一体誰が?)
目を細めて、ピントを絞る。
この場所に最も似つかわしくない人物が、この聖域にいた。
「え? 早苗さん? どうして? 迷子か?」
それは紛れもなく東風谷早苗だった。
事情を聞くために彼女の元へ向かう。
ゆっくりと歩いていくつもりだったが、いつの間にか駆け足になっていた。
「もう動いても平気なんですか?」
「あら椛さん?」
訊きたいことは色々あるが、まずは彼女の体を気遣った。
たった一日休んだだけで大丈夫なのかと心配になった。
「それほど煙を吸う前に、助けてくださったみたいで、その天狗の方には感謝しても足りません」
「そうですか」
諏訪子は、彼女が椛達に助けられたことを知らせてはいないようだった。
別段、椛はそれを恩着せがましく言うつもりもなく、救助に関する話題は終わった。
「手の方は?」
「頂いた薬のお陰です。塗った途端に水脹れの部分がパリパリと剥がれて、その下に綺麗な皮膚が出来てたんです」
「痕が残らなくて良かったですね」
嬉しそうに染み一つない手を見せる早苗に、椛は優しく笑いかける。
「ところで、ここは立入禁止区域なのをご存知ですか?」
「そうですねごめんなさい」
どうやら知っていて、それを承知で入ってきたようだった。
「出口までご案内します」
「お願いします」
すんなりと従ってくれた。
椛は早苗のやや前方を歩き、一番近い境界線を目指す。
「そういえば、どうしてここへ?」
ようやく本題が訊くことが出来た。
「散策ですか?」
「いえ、違います。神奈子様が、ここがもうじきダムに沈むと仰っていたので、今の内に見ておこうと思いまして」
「失礼、今なんて?」
犬走椛の歩みが止まった。
次回も期待しています!
もう次回が楽しみです。
話自体も先が気になり面白いです。実に面白い……けど、神奈子がガチなレベルで黒いのは結構きついな……
まぁ、客観的に見れば山の閉鎖社会で内輪もめしてるだけではあるのですが、山火事まで起こすとは思いませんでした。
残り一話+αとのことで、天狗三人が笑って終われるような話になることを期待しています。
↓
なく?
執筆の難しさというものは重々わかっているつもりですが、どうしても言わずにはいられません。
早く続きを書いてください。お願いします。
クライマックスだなあとは思っていたけれど、次で終わりかあ。
最後がどうなるか楽しみだけど、ずっとこの世界観を見ていたいと思うのは傲慢なのだろうか。
面白い作品を毎度毎度ありがとうございます。最後の話も楽しみにしてます。
次回がきになる~
ギャグや日常話が向いてると思います
が、しかし不穏な気配に一抹の不安はぬぐえない。
ギャグのなかにもシビアなリアリティーがある氏の作風を鑑みると、どう頑張っても椛が心の底から笑える大団円はあり得ない気がする……。
このシリーズは本当に大好きです
•前半の最後で椛が文とはたてを誘ってくれたのが嬉しかった!
•文ちゃん…けなげだよ…。椛が幸せにしてあげるべきなの!!
•ドンタッチ!
悪いところ★
•あの人が死にそう!
このシリーズは出てくる人みんな大好き!
終わっちゃうのはさみしすぎるよー。
でも最後はきっとすごく盛り上がりそうだから楽しみです!
毎度素晴らしい作品ありがとうございます。
次回でシリーズ終了は悲しい知らせですが、きっと最高の結末を迎えると信じています。
しかし、神奈子ももうちょい穏便にやれないものかなあ。幻想郷ならそこまで信仰獲得に躍起になることもないと思うんだけども・・・。それとも諏訪子の言の通り、なにかの上にあらねば済まない性質なのか。そう言えば諏訪子がそこまで悪役っぽくない感じなのが意外。
>>我が文文。新聞で推理小説でも連載しませんか?」
文々。新聞
>>「ほれ、火を起した。当たるが良い」
火を熾した
さて、この後どうなることやら…
今回はシリアス薄めのインターミッションかと思ってたら話がいよいよ佳境なようで。
聖域はやっぱり「出る」んですね。
(聖域の名に相応しい先輩な美少女が出るとは思いませんでしたがw)
過去の象徴である聖域の話と未来への第一歩である
昇進試験が話題になってるのが構成としても巧いと思います。
次回で諸々にケリがつきそうで、今からゾクゾクします。
次で最後ですか…名残惜しくもありますが、どのような結末になるのか楽しみです。
できることならこの3天狗には幸せになって欲しい。
弓を撃つ場面の「危なくないわけ…」の下りが好きです。
いつも通りすごく面白かったです。
次回が楽しみです。
シリアスも凄くカッコ良くて尊敬します。
番外編や続編、外伝は来るのかな~(チラッ
いつも通りギャグとシリアス、日常と非日常のバランスや表現が素敵です!
はたての剣術の腕前のたとえが特にツボでしたw
天狗三人娘がそれぞれ納得の行く結末になればいいな、と思いながら最後のお話を待っています。
誤字報告。
はてたは、椛から一本取るという賭けについても文に話した。
↓
はたては~~
もう一つ、脱字を見つけたのですがどこだったか失念してしまいました…
今更ながら最後の文とタイトルの関係に気付きました
しかし初期の頃とはずいぶん変わってしまいましたね…
3人そろって日向を歩くというのは無理なのでしょうか。
椛の初めてについて、の童子の悪戯の惨さ
そしてトラウマがあり突然の事とはいえ、あそこまで激しく文を拒絶した事実について
とてもショックを受けました。 とにかく二人が痛々しくて見ていられません……
どうしてこうなってしまったのかと、胸の奥に何か虚のようなものがポッカリと開いてしまったような感覚で心が寒いです
この騒動、次回で終結とのことですが、 できれば、望みを言うなら外伝、
別編短編として、その後は初期のようなほのぼのと温まれる日向のような話が読みたいです。
なんかもう…すごいとしか言いようがないですね(汗)
>>儂は先に戻っており
戻っておる
次で終わってしまうのか
学生服で千里眼を酷使したのと同等のダメージを受けたんだから、そんなもん見せたら失明するんじゃないですかね…