説教。
説教というのは怒る事と思われがちだが、実際は違う。説という字は説明を表しているし、教という字は文字通り教える事だ。
つまり、説教とは説明し教える事。他人に自分の知識と経験を分け与えるという大変に相手を思いやった行動という訳だ。
まぁ、そういう事なのだが……
「聞いているのですか、霖之助さん!」
「はいはい、聞いているよ」
僕こと森近霖之助は、生返事をしながらため息を吐いた。まったく、どうして僕が説教を受けなければならないのやら。
本日の夕方、そろそろと店を閉めようとしたところにフラリと現れた閻魔さま。四季映姫。四季映姫・ヤマザナドゥ。幻想郷の閻魔様。今日は休暇らしく、幻想郷を散歩してまわっていたそうだ。だったら、そのまま帰ってくれたら良かったものの……運悪く、彼女に捕まってしまったという訳だ。
僕は出歩いてさえいないというのに。この場合、僕に何一つ落ち度はない。そう、ただ単純な話で、運が悪かったのだ。
はぁ、まったく。
「分かりましたか、霖之助さん。もうちょっと身に付くよう、誠意を持って商売に励む事です」
「はい、良く分かりました……はぁ」
「よろしい」
映姫は満足したのか、ふふん、と得意顔を浮かべた。これが彼女のストレス発散なのだろう。彼女の気が晴れる上に世の中がマシになっていくという正しい相互関係。まぁ、せめてもの願いは僕以外の人物へ説教して欲しいという事。僕は何一つ間違った行いをしてい無いし、するつもりも無いのだから。でも、理解したふりをしていないといつまで経っても説教は終わらない。
嘘も方便、というやつだ。世の中を上手く渡っていくのに必要なスキルだな。
「おや、日が落ちてしまいましたか」
映姫が窓の外を眺めながら言う。まだ山の上に浮かんでいた太陽は、もうすっかりと明日の準備に入ってしまった様だ。
「……長い説教だったからね」
ギロリ、と睨まれたので視線を外す。ま、この程度の文句ぐらい言わせてもらわないと、僕のストレスが発散できない。世の中、持ちつ持たれつだね。
「さてさて、夕飯はどうしましょうか」
「おや、閻魔さまも食事を?」
物を食べる、という事は他人の命を奪う事。それが動物であろうと植物であろうと変わらない。閻魔という立場ならば何も食さないと思っていたのだが……そうではないらしい。
「食事を娯楽と捉えてはいませんが、コミュニケーションの手段として用いていますよ。もちろん、動植物への感謝と作ってくれた者への感謝も忘れません。ん~、そうですね、どうですか霖之助さん? 一緒に一杯」
珍しくも映姫がにっこりと笑って人差し指を立てた。さっきまでガミガミと僕を説教していた人物とは思えない。今泣いた鳥がもう笑う、ではないが……今怒っていた閻魔がもう笑う。そんな貴重な素顔を見せられたら、ここは応えるしかないだろう。
「ふむ。もちろん割り勘で?」
「当たり前です。どこの世界に誘っておいて奢らせる者がいますか。そんな礼節も弁えていない者はお仕置きですよ」
まったくもって、その通りだ!
と、僕は幻想郷中の少女に向かって言いたかったが我慢しておいた。沈黙は金。いずれ僕が報われる日が来ても、何もおかしくはない。
~☆~
月明かり。この季節の月は明るく、ことさらに自己主張が強い。夜だというのに僕の影が出来てしまうくらいに夜空を照らしていた。
香霖堂を出て迷いの竹林方面へと歩いていく。誰かが作った訳でもなく、自然に出来た道。最初は獣道だったのだろうか、それとも妖怪が意図的に作ったのだろうか。今では道とはっきり認識できる一本の筋となっていた。
そんな歴史を知ってか知らずか、僕と映姫は歩いていく。閻魔の隣を歩くなんて、人生で一度有るか無いか。もちろん、人生を終えた後でも無い可能性が高い。そんな稀有な体験だ、と思えばそれなりに楽しいものかもしれない。
「夜雀の屋台、ですか」
「あぁ、ミスティア・ローレライがやっている八目鰻をメインとした屋台だ」
「ほ~、それは美味しそうです」
お酒もあるのですか、という質問に僕は、もちろん、と頷いた。
「ちなみに、八目鰻以外にも色々とあるよ。アルバイトが作ってくれる」
「アルバイト?」
僕は夜空に浮かぶ月を指差した。
「あそこから来たお姫様だよ」
「蓬莱山輝夜、ですか。ふむ、良い機会ですね」
「ん?」
「彼女は不老不死ですからね。その肉体にとんでもない程の罪が詰め込まれています。業と言い換えても良いでしょう。なのに、死なない。閻魔と会わなければならない存在だというのに、彼女は死なない。全くといって良い程に、私は彼女に縁が無いのですよ」
あぁ、なるほど。四季映姫が説教をした廻るのは、人々に善行を積ませ、良い死後を迎えられる様に、という事だ。
つまり、死なない人間を説教する意味は無い。妖怪や妖精もやがては死を迎える。だが、あの蓬莱人共は死なない。死後が存在しない者が善行を積んだところでどうにもならない訳だ。
「いいえ、そんな事はありませんよ? いわゆる性善説です」
「人は基本的には善である、と。その性善説と輝夜にどういう関係が?」
「私の耳に届く彼女の評判は、いわゆる悪が多いのです。いわゆる性悪説ですね。それをワザと体言しようとしている気がするのです」
「あぁ……まぁ……確かに」
性悪説は、性善説に反対して生まれた概念だ。人は生まれながらに欲にまみれている。だが努力すれば礼儀を正す事ができる、と。これほど輝夜を言い表すのに最適な言葉はないかもしれない。彼女は、意地が悪い。罵る言葉を用いるならば、腹黒い、と言える。
「だけど、性悪説でも良いんじゃないのかい? 努力で善い者になれるのならば」
僕の言葉に、映姫は首を振った。そしてにこやかに言う。
「私は性善説を推し進めております。人間の本質は悪、なんて説は真っ向から否定する立場を取っていますよ」
論破できるものならしてみろ、と言わんばかりの笑顔。反対意見を唱えるのならば、面倒な事になりそうだ。
「……なるほどね。僕もそう思うよ」
「あら残念」
まぁ、話をあわせておこう。
それが、今の僕にできる善行……かな?
~☆~
いつもの竹林沿いのいつもの道。遠くに赤提灯の灯りと共に、いつもの歌声が聞こえてきた。
「ぐっばいてぃあーず♪ 今は~♪ 好きなままいようよ~♪ 不思議な力をくれる~あの笑顔~♪」
今日の歌は、なんだか剣立つ大地でリューに乗って戦いそうな、そんな歌だった。今にも騎士道大原則を高らかに宣言したくなる。相変わらず、独創的で不思議な魅力がある歌をミスティアは作っているらしい。
そんな歌に耳を傾けながら屋台へと到着するが……どうやら先客がいるらしく、騒がしい声が聞こえてきた。
「来たわ! 来たわよ! お姉ちゃん、今年も秋が来たわ!」
「えぇ、そうね。そうよね。一日千秋の思いで待ってたものね」
屋台で盛り上がっているのは、秋静葉と穣子の二柱だった。秋の訪れを祝っているのか、それともただの飲み会なのか。それはともかく、どうやらすでに出来上がっているらしい。このままのテンションで参加するのもどうかと思うので、僕たちは屋台の隣に設置されたスペースへ移動した。
太い木を縦に半分にして脚をつけたテーブル。その中央には穴が開けられ、赤い大きな番傘が立てられていた。その番傘の先には赤提灯が吊るされており、テーブル全体を照らしている。椅子は切り株をそのまま利用したもので、僕と映姫はそこに腰を下ろした。
「いらっしゃい、久しぶりね香霖堂。それから、閻魔さま」
こちらのテーブルを主に担当するアルバイトが、付け出しのきゅうりの酢の物を出しながら笑顔で出迎えてくれる。いつもの豪奢な着物をたすき掛けで袖をまくり、腰には紺色のエプロンを付けている。里の男性にも人気があるアルバイト店員、蓬莱山輝夜だ。
「む、私は彼のオマケではありませんよ?」
「あら、ごめんなさい。私には香霖堂が全てだから、閻魔さまでもオマケに見えちゃうのよ」
おほほほほ、と輝夜が笑う。そんな言葉を受けて、映姫は僕と輝夜の顔を交互に見た。
「え、えぇ~っと、そういう関係でしたか。せ、席を外しましょうか?」
「いや、外さなくていい。というか、輝夜の言った事は嘘ですから、真に受けないでくれ」
「なっ!?」
嘘はいけませんよ嘘はっ! と、映姫が怒っているのを輝夜は余裕で聞き流した。なんて女だ、まったく。この世で閻魔をからかえる存在なんて彼女くらいのものだろう。心象を悪くして地獄に落ちたくないからね。
「まぁまぁ、落ち着いて閻魔さま。で、何食べる? 何呑む?」
「僕はいつもの筍ご飯と、何か適当に一品もらえるかい? お酒は日本酒で」
「はい喜んで♪ 閻魔さまは?」
「むぅ……私は野菜で何か一品お願いします。それから、私も日本酒で」
「了解りょうかい、よろこんで」
そう言いながら輝夜はクルリと半回転。長いスカートがぶわりと浮かび上がる。どうやら今日は機嫌が良いみたいだ。ちなみに機嫌が悪い日だと何杯も酒を奢らされるので最悪である。という話を里の男共にしてみたのだが……信じてもらえなかった。
曰く、
「輝夜ちゃんが機嫌悪い訳ないじゃないか」
らしい。
理不尽だ、と思う。つまり、輝夜は僕にだけ奢らせている訳だ。酷い話だよ、まったく。
「はい、お待たせ。まずは竹酒ね」
全然待ってはいないが、輝夜が屋台の方から戻ってきた。お盆には竹で作られた器が見える。まず僕達の前に置かれたのが、竹を輪切りにして作られたぐい飲みだ。きっちり切り口が丸く加工してあるので、口を怪我する心配はない。
それを受け取ると、輝夜はもう一本、太い竹と長い竹の一セットを置いた。太い竹には氷が敷き詰められており、その中に冷やす様に長い竹が入っている。輝夜はそれを引き抜くと、斜めになっている切り口を僕らへ向ける。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
これが夜雀の屋台名物である竹酒だ。製造元は永遠亭。輝夜の手作りらしく、一日で作れるとか何とか。そんな馬鹿な、と思うかもしれないが、彼女は永遠と須臾を操る。この程度の事は雑作もないのだろう。目の前で乾き物を作ってくれた事もあるし。
竹からトクトクと流れ出てくる透明な液体が、僕と映姫のぐい飲みに注がれる。で、その後に輝夜が自分のグラスを見せた。
「いいかしら?」
「僕はいいけど?」
「えぇ、私も構いません」
やった、と輝夜がグラスを差し出す。そのグラスに僕が竹酒を注いでやった。
「それじゃぁ、かんぱい」
僕の言葉に合わせて、それぞれのぐい飲みを合わせる。それから一口、喉を潤す様に竹酒を呑んだ。口内に広がる少しの甘み。それが過ぎ去った後に辛味が広がりスッと消えていく。だけど、お酒独特の香りが嗅覚を刺激し、そして熱く身体の奥へと流れていった。
思わず、はぁ、と息を零してしまう。それ程に美味い酒だ。
「美味しくて呑み易いお酒ですね」
映姫も感心する様に二口目にいっている。輝夜も、でしょ~、とご機嫌にグラスを両手に持っていた……いや、え~っと。
「輝夜、食べ物は?」
「あっ」
忘れていたらしい。慌てて屋台の方へと取りに行った。
「店員失格ですね」
映姫が苦笑している。この程度で怒るつもりは無い様だ。
「緊張しているんよ、きっと」
「そんな軟弱な精神だったらいいんですけどね」
フォローしておいてなんだか、まったくもってその通りだと思った。
「なによ、私だってたまには失敗するわ」
二人で苦笑していると、輝夜が戻ってきた。お盆の上には幾つかの料理。まず僕の前に筍ご飯と豆腐の上に細く切ったキュウリとニンジンを味噌で和えたものを乗せた……一応、冷奴でいいのか? まぁ、そんな二品が置かれた。
映姫の前には野菜のかきあげ。所々に見える赤いのは小エビだろうか。そちらも美味しそうだ。
「いただきます」
丁寧に手を合わせる映姫に習って、僕も手を合わせる。植物に感謝と、作ってくれた輝夜に感謝……は、別にいいか。まぁ、ともかく、手を合わせていただきます、だ。
まずは筍ご飯を口に頬張る。少しの味付けに筍のコリコリとした食感が美味い。続けて、豆腐を少し切り崩して味噌と和えたキュウリとニンジンも頂く。味噌のちょっと濃い味にさっぱりとしたキュウリとニンジンがマッチしていて、豆腐の甘みがより引き立つ。ふむふむ、これは美味いなぁ。
僕の隣では、映姫がかきあげを口へと運んだ。カリ、サクっという音。う~む、音だけでも美味しそうだ。僕も後で注文しようかな。
「どう、閻魔さま? 見直した?」
「ん……はい、美味しいですね。驚きです」
「えへへ~、見たか香霖堂」
「いや、見てるよ。別に君の料理を馬鹿にした覚えは無いんだが。それにしても、映姫ならばこれぐらい出来るんじゃないのかい?」
閻魔といえど、彼女はしっかりとした女性だ。料理もしっかりとしているんじゃないだろうか。
「いえいえ、私はあまり料理をしませんので」
「あら、そうなの? 今度教えてあげましょうか」
おいおい……
「どうして君はそんなに上から目線なんだ?」
「あら、決まってるじゃない」
えっへん、と輝夜は胸を張った。
「私の方が長く生きていて、人生経験豊富だからよ」
あぁ、なるほど。年功序列を肯定する訳ではないが、まぁ、それも仕方がないか。
まいった、と言う様に僕は竹酒の器を持ち上げる。
輝夜は嬉しそうにグラスを僕に差し出すのだった。
~☆~
「映姫ちゃんの、ちょっと良い所みてみたい♪ あそっれ、ダイブダイブダイブダイブ!」
どうやら、映姫は本格的に酔っ払ってしまったらしく、屋台側で秋姉妹と一緒に呑んでいる。ちなみに歌はミスティアで、一気呑みを強要している訳ではない。というか、ダイブって何だ? どこに潜るというのだろうか?
「ご機嫌ね~、何か良い事でもあったのかしら」
そういう輝夜もニコニコとしているのだが……それはお酒のせいだろう。少しばかり頬が朱に染まっている。泥酔とは言わないが、それでも酔いはそれなりにまわっている様だ。
「酔いに良いのは宵なのよ」
「活字にしないと分からない発言は控えてくれないか」
そして、意味が無いからね。ましてや脈絡も無い。
「で、どうして閻魔さまと一緒だったの? 結婚するの?」
「結婚はしない。たまたま夕方ごろに彼女が来て、説教されていただけさ」
「恋のお説教? それとも故意のお説教かしら? あぁ、今宵のお説教の可能性もあるわね」
だから、活字にしないと分からないネタはやめてほしい。
僕は適当に相槌を打ちながら竹酒をくいっとあおる。まだまだ宵の口、いや酔いの口だが、油断していては映姫と同じくベロベロになってしまう。なにせ呑み易いお酒だからな。恐らく、何杯でも呑める様にというコンセプトで作られているに違いない。
「私を置いて、向こうに逝ったらダメなんだからね」
「とうぶんその予定はないさ。君こそ、早く向こうへ逝きたいんだろう?」
おほん。今から言うのはリップサービスだ。勘違いしないでくれよ。
「輝夜こそ、僕を置いていく気が満々じゃないか。僕としては寂しい限りだよ」
僕の言葉に、彼女はニヤリと笑う。
「置いていく気も、老いて逝く気も無いわ。一緒に連れてってあげるわよ」
「無理心中かい?」
「ムリ、死んじゃう」
輝夜はケラケラと笑って、グラスの中身を一気にあおった。そして、幸せそうなため息を漏らす。まったく、お酒が美味しそうだ。
「まぁ、生きてりゃ良い事もあるさ」
「あら、死んだ方がマシって言葉もあるわよ」
確かに。はてさて、明日の生を願う者と昨日の死を願う者。どちらが正しくて、どちらが間違いなのか。映姫なら簡単に白黒つけてくれるだろう。
「生死に関しては、西行寺のお嬢さまより詳しそうだしね」
「え、幽々子って淫乱なの?」
このお姫様、よりによって最悪の言葉遊びをしやがる。
「活字にこだわった僕が馬鹿だった。頼むからその類の冗談は止めてくれ」
輝夜は殺せないので、僕が殺されそうだ。しかも本人じゃなくて従者の方が殺しに来るかもしれない。冗談が通じないからなぁ。
「生死を賭けた闘い、っていうのもエロいわよね」
「だから、止めろ」
酒が入ると、すぐこれだ。ほんと、どうして里の男共に人気があるのかさっぱりと分からないよ。人気があるのは、静かでおしとやかな女性ではないのだろうか。輝夜はその正反対な気がしてならない。見た目は大和撫子でも、中身はヤマトタケルノミコトもびっくりな訳だ。
「殿方の白濁液がどうしました~?」
……映姫が最悪な形で戻ってきた。なんだこの閻魔さま。酔っ払いのおっさんレベルじゃないか。
「生と死という言葉から、精子という言葉が生まれたのかもしれないな、っていう話ですよ、閻魔さま。生まれて死ぬという意味合いが精子には含まれているのはないでしょうか?」
輝夜が逡巡する暇もなくそう応えた。嘘も方便。よくもすんなりと言葉が紡げるものだ。
「なるほど、興味深い。そうすると、白いというのも意味があるのかもしれませんね。言わば、生の肯定。生まれるは白」
あ~ぁ、閻魔が嘘に乗っかってしまった。
「それにしても子作りの話題とは。もしかして予定でもあるのですか? いけませんよ、出来ちゃった婚や授かり婚なんていうのは、ただの見苦しい言い訳です。きっちり結婚してから事に及んでください」
「えぇ、理解しているわ、閻魔さま。心開けば股開く、なんていうのは悲しい女の性ですわ。その点、私は大丈夫。香霖堂の心をばっちり掌握していますもの」
できれば心を掴んで欲しかった。掌握じゃぁ、僕が尻に敷かれているじゃないか。
「いやいや、表現の問題じゃない。輝夜、そろそろ嘘だと映姫に宣言してくれ。このままじゃ僕達は恋人同士だ」
「いいじゃないの、恋人同士。嘘も方便、嘘つきは泥棒の始まり、嘘も追従も世渡り、嘘をつかねば仏になれぬ、嘘から出たまこと。嘘が悪いのはほんの一部よ。ほらほら、真実になる前に、恋人同士になりましょう」
そう言って、輝夜は唇を突き出す。
はぁ、まったく。
「冗談じゃない。映姫、白黒はっきりつける程度の能力で、輝夜の発言を黒だと言ってくれ」
僕の言葉に映姫は瞳を閉じ、人差し指を横に振る。
「それでは情緒が無さ過ぎますよ、霖之助さん。白黒はっきりつけず、曖昧にしておいた方が良いもの、それが男女の関係です。たまには灰色を楽しむのも良いでしょう」
ねぇ~、と映姫と輝夜は首を傾げて同意しあった。
あぁ、もう、まったく。
「はぁ~……色気がある様で無い話だ」
まぁ、これはこれで、森近霖之助らしいといえばらしいのだが。
説教というのは怒る事と思われがちだが、実際は違う。説という字は説明を表しているし、教という字は文字通り教える事だ。
つまり、説教とは説明し教える事。他人に自分の知識と経験を分け与えるという大変に相手を思いやった行動という訳だ。
まぁ、そういう事なのだが……
「聞いているのですか、霖之助さん!」
「はいはい、聞いているよ」
僕こと森近霖之助は、生返事をしながらため息を吐いた。まったく、どうして僕が説教を受けなければならないのやら。
本日の夕方、そろそろと店を閉めようとしたところにフラリと現れた閻魔さま。四季映姫。四季映姫・ヤマザナドゥ。幻想郷の閻魔様。今日は休暇らしく、幻想郷を散歩してまわっていたそうだ。だったら、そのまま帰ってくれたら良かったものの……運悪く、彼女に捕まってしまったという訳だ。
僕は出歩いてさえいないというのに。この場合、僕に何一つ落ち度はない。そう、ただ単純な話で、運が悪かったのだ。
はぁ、まったく。
「分かりましたか、霖之助さん。もうちょっと身に付くよう、誠意を持って商売に励む事です」
「はい、良く分かりました……はぁ」
「よろしい」
映姫は満足したのか、ふふん、と得意顔を浮かべた。これが彼女のストレス発散なのだろう。彼女の気が晴れる上に世の中がマシになっていくという正しい相互関係。まぁ、せめてもの願いは僕以外の人物へ説教して欲しいという事。僕は何一つ間違った行いをしてい無いし、するつもりも無いのだから。でも、理解したふりをしていないといつまで経っても説教は終わらない。
嘘も方便、というやつだ。世の中を上手く渡っていくのに必要なスキルだな。
「おや、日が落ちてしまいましたか」
映姫が窓の外を眺めながら言う。まだ山の上に浮かんでいた太陽は、もうすっかりと明日の準備に入ってしまった様だ。
「……長い説教だったからね」
ギロリ、と睨まれたので視線を外す。ま、この程度の文句ぐらい言わせてもらわないと、僕のストレスが発散できない。世の中、持ちつ持たれつだね。
「さてさて、夕飯はどうしましょうか」
「おや、閻魔さまも食事を?」
物を食べる、という事は他人の命を奪う事。それが動物であろうと植物であろうと変わらない。閻魔という立場ならば何も食さないと思っていたのだが……そうではないらしい。
「食事を娯楽と捉えてはいませんが、コミュニケーションの手段として用いていますよ。もちろん、動植物への感謝と作ってくれた者への感謝も忘れません。ん~、そうですね、どうですか霖之助さん? 一緒に一杯」
珍しくも映姫がにっこりと笑って人差し指を立てた。さっきまでガミガミと僕を説教していた人物とは思えない。今泣いた鳥がもう笑う、ではないが……今怒っていた閻魔がもう笑う。そんな貴重な素顔を見せられたら、ここは応えるしかないだろう。
「ふむ。もちろん割り勘で?」
「当たり前です。どこの世界に誘っておいて奢らせる者がいますか。そんな礼節も弁えていない者はお仕置きですよ」
まったくもって、その通りだ!
と、僕は幻想郷中の少女に向かって言いたかったが我慢しておいた。沈黙は金。いずれ僕が報われる日が来ても、何もおかしくはない。
~☆~
月明かり。この季節の月は明るく、ことさらに自己主張が強い。夜だというのに僕の影が出来てしまうくらいに夜空を照らしていた。
香霖堂を出て迷いの竹林方面へと歩いていく。誰かが作った訳でもなく、自然に出来た道。最初は獣道だったのだろうか、それとも妖怪が意図的に作ったのだろうか。今では道とはっきり認識できる一本の筋となっていた。
そんな歴史を知ってか知らずか、僕と映姫は歩いていく。閻魔の隣を歩くなんて、人生で一度有るか無いか。もちろん、人生を終えた後でも無い可能性が高い。そんな稀有な体験だ、と思えばそれなりに楽しいものかもしれない。
「夜雀の屋台、ですか」
「あぁ、ミスティア・ローレライがやっている八目鰻をメインとした屋台だ」
「ほ~、それは美味しそうです」
お酒もあるのですか、という質問に僕は、もちろん、と頷いた。
「ちなみに、八目鰻以外にも色々とあるよ。アルバイトが作ってくれる」
「アルバイト?」
僕は夜空に浮かぶ月を指差した。
「あそこから来たお姫様だよ」
「蓬莱山輝夜、ですか。ふむ、良い機会ですね」
「ん?」
「彼女は不老不死ですからね。その肉体にとんでもない程の罪が詰め込まれています。業と言い換えても良いでしょう。なのに、死なない。閻魔と会わなければならない存在だというのに、彼女は死なない。全くといって良い程に、私は彼女に縁が無いのですよ」
あぁ、なるほど。四季映姫が説教をした廻るのは、人々に善行を積ませ、良い死後を迎えられる様に、という事だ。
つまり、死なない人間を説教する意味は無い。妖怪や妖精もやがては死を迎える。だが、あの蓬莱人共は死なない。死後が存在しない者が善行を積んだところでどうにもならない訳だ。
「いいえ、そんな事はありませんよ? いわゆる性善説です」
「人は基本的には善である、と。その性善説と輝夜にどういう関係が?」
「私の耳に届く彼女の評判は、いわゆる悪が多いのです。いわゆる性悪説ですね。それをワザと体言しようとしている気がするのです」
「あぁ……まぁ……確かに」
性悪説は、性善説に反対して生まれた概念だ。人は生まれながらに欲にまみれている。だが努力すれば礼儀を正す事ができる、と。これほど輝夜を言い表すのに最適な言葉はないかもしれない。彼女は、意地が悪い。罵る言葉を用いるならば、腹黒い、と言える。
「だけど、性悪説でも良いんじゃないのかい? 努力で善い者になれるのならば」
僕の言葉に、映姫は首を振った。そしてにこやかに言う。
「私は性善説を推し進めております。人間の本質は悪、なんて説は真っ向から否定する立場を取っていますよ」
論破できるものならしてみろ、と言わんばかりの笑顔。反対意見を唱えるのならば、面倒な事になりそうだ。
「……なるほどね。僕もそう思うよ」
「あら残念」
まぁ、話をあわせておこう。
それが、今の僕にできる善行……かな?
~☆~
いつもの竹林沿いのいつもの道。遠くに赤提灯の灯りと共に、いつもの歌声が聞こえてきた。
「ぐっばいてぃあーず♪ 今は~♪ 好きなままいようよ~♪ 不思議な力をくれる~あの笑顔~♪」
今日の歌は、なんだか剣立つ大地でリューに乗って戦いそうな、そんな歌だった。今にも騎士道大原則を高らかに宣言したくなる。相変わらず、独創的で不思議な魅力がある歌をミスティアは作っているらしい。
そんな歌に耳を傾けながら屋台へと到着するが……どうやら先客がいるらしく、騒がしい声が聞こえてきた。
「来たわ! 来たわよ! お姉ちゃん、今年も秋が来たわ!」
「えぇ、そうね。そうよね。一日千秋の思いで待ってたものね」
屋台で盛り上がっているのは、秋静葉と穣子の二柱だった。秋の訪れを祝っているのか、それともただの飲み会なのか。それはともかく、どうやらすでに出来上がっているらしい。このままのテンションで参加するのもどうかと思うので、僕たちは屋台の隣に設置されたスペースへ移動した。
太い木を縦に半分にして脚をつけたテーブル。その中央には穴が開けられ、赤い大きな番傘が立てられていた。その番傘の先には赤提灯が吊るされており、テーブル全体を照らしている。椅子は切り株をそのまま利用したもので、僕と映姫はそこに腰を下ろした。
「いらっしゃい、久しぶりね香霖堂。それから、閻魔さま」
こちらのテーブルを主に担当するアルバイトが、付け出しのきゅうりの酢の物を出しながら笑顔で出迎えてくれる。いつもの豪奢な着物をたすき掛けで袖をまくり、腰には紺色のエプロンを付けている。里の男性にも人気があるアルバイト店員、蓬莱山輝夜だ。
「む、私は彼のオマケではありませんよ?」
「あら、ごめんなさい。私には香霖堂が全てだから、閻魔さまでもオマケに見えちゃうのよ」
おほほほほ、と輝夜が笑う。そんな言葉を受けて、映姫は僕と輝夜の顔を交互に見た。
「え、えぇ~っと、そういう関係でしたか。せ、席を外しましょうか?」
「いや、外さなくていい。というか、輝夜の言った事は嘘ですから、真に受けないでくれ」
「なっ!?」
嘘はいけませんよ嘘はっ! と、映姫が怒っているのを輝夜は余裕で聞き流した。なんて女だ、まったく。この世で閻魔をからかえる存在なんて彼女くらいのものだろう。心象を悪くして地獄に落ちたくないからね。
「まぁまぁ、落ち着いて閻魔さま。で、何食べる? 何呑む?」
「僕はいつもの筍ご飯と、何か適当に一品もらえるかい? お酒は日本酒で」
「はい喜んで♪ 閻魔さまは?」
「むぅ……私は野菜で何か一品お願いします。それから、私も日本酒で」
「了解りょうかい、よろこんで」
そう言いながら輝夜はクルリと半回転。長いスカートがぶわりと浮かび上がる。どうやら今日は機嫌が良いみたいだ。ちなみに機嫌が悪い日だと何杯も酒を奢らされるので最悪である。という話を里の男共にしてみたのだが……信じてもらえなかった。
曰く、
「輝夜ちゃんが機嫌悪い訳ないじゃないか」
らしい。
理不尽だ、と思う。つまり、輝夜は僕にだけ奢らせている訳だ。酷い話だよ、まったく。
「はい、お待たせ。まずは竹酒ね」
全然待ってはいないが、輝夜が屋台の方から戻ってきた。お盆には竹で作られた器が見える。まず僕達の前に置かれたのが、竹を輪切りにして作られたぐい飲みだ。きっちり切り口が丸く加工してあるので、口を怪我する心配はない。
それを受け取ると、輝夜はもう一本、太い竹と長い竹の一セットを置いた。太い竹には氷が敷き詰められており、その中に冷やす様に長い竹が入っている。輝夜はそれを引き抜くと、斜めになっている切り口を僕らへ向ける。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
これが夜雀の屋台名物である竹酒だ。製造元は永遠亭。輝夜の手作りらしく、一日で作れるとか何とか。そんな馬鹿な、と思うかもしれないが、彼女は永遠と須臾を操る。この程度の事は雑作もないのだろう。目の前で乾き物を作ってくれた事もあるし。
竹からトクトクと流れ出てくる透明な液体が、僕と映姫のぐい飲みに注がれる。で、その後に輝夜が自分のグラスを見せた。
「いいかしら?」
「僕はいいけど?」
「えぇ、私も構いません」
やった、と輝夜がグラスを差し出す。そのグラスに僕が竹酒を注いでやった。
「それじゃぁ、かんぱい」
僕の言葉に合わせて、それぞれのぐい飲みを合わせる。それから一口、喉を潤す様に竹酒を呑んだ。口内に広がる少しの甘み。それが過ぎ去った後に辛味が広がりスッと消えていく。だけど、お酒独特の香りが嗅覚を刺激し、そして熱く身体の奥へと流れていった。
思わず、はぁ、と息を零してしまう。それ程に美味い酒だ。
「美味しくて呑み易いお酒ですね」
映姫も感心する様に二口目にいっている。輝夜も、でしょ~、とご機嫌にグラスを両手に持っていた……いや、え~っと。
「輝夜、食べ物は?」
「あっ」
忘れていたらしい。慌てて屋台の方へと取りに行った。
「店員失格ですね」
映姫が苦笑している。この程度で怒るつもりは無い様だ。
「緊張しているんよ、きっと」
「そんな軟弱な精神だったらいいんですけどね」
フォローしておいてなんだか、まったくもってその通りだと思った。
「なによ、私だってたまには失敗するわ」
二人で苦笑していると、輝夜が戻ってきた。お盆の上には幾つかの料理。まず僕の前に筍ご飯と豆腐の上に細く切ったキュウリとニンジンを味噌で和えたものを乗せた……一応、冷奴でいいのか? まぁ、そんな二品が置かれた。
映姫の前には野菜のかきあげ。所々に見える赤いのは小エビだろうか。そちらも美味しそうだ。
「いただきます」
丁寧に手を合わせる映姫に習って、僕も手を合わせる。植物に感謝と、作ってくれた輝夜に感謝……は、別にいいか。まぁ、ともかく、手を合わせていただきます、だ。
まずは筍ご飯を口に頬張る。少しの味付けに筍のコリコリとした食感が美味い。続けて、豆腐を少し切り崩して味噌と和えたキュウリとニンジンも頂く。味噌のちょっと濃い味にさっぱりとしたキュウリとニンジンがマッチしていて、豆腐の甘みがより引き立つ。ふむふむ、これは美味いなぁ。
僕の隣では、映姫がかきあげを口へと運んだ。カリ、サクっという音。う~む、音だけでも美味しそうだ。僕も後で注文しようかな。
「どう、閻魔さま? 見直した?」
「ん……はい、美味しいですね。驚きです」
「えへへ~、見たか香霖堂」
「いや、見てるよ。別に君の料理を馬鹿にした覚えは無いんだが。それにしても、映姫ならばこれぐらい出来るんじゃないのかい?」
閻魔といえど、彼女はしっかりとした女性だ。料理もしっかりとしているんじゃないだろうか。
「いえいえ、私はあまり料理をしませんので」
「あら、そうなの? 今度教えてあげましょうか」
おいおい……
「どうして君はそんなに上から目線なんだ?」
「あら、決まってるじゃない」
えっへん、と輝夜は胸を張った。
「私の方が長く生きていて、人生経験豊富だからよ」
あぁ、なるほど。年功序列を肯定する訳ではないが、まぁ、それも仕方がないか。
まいった、と言う様に僕は竹酒の器を持ち上げる。
輝夜は嬉しそうにグラスを僕に差し出すのだった。
~☆~
「映姫ちゃんの、ちょっと良い所みてみたい♪ あそっれ、ダイブダイブダイブダイブ!」
どうやら、映姫は本格的に酔っ払ってしまったらしく、屋台側で秋姉妹と一緒に呑んでいる。ちなみに歌はミスティアで、一気呑みを強要している訳ではない。というか、ダイブって何だ? どこに潜るというのだろうか?
「ご機嫌ね~、何か良い事でもあったのかしら」
そういう輝夜もニコニコとしているのだが……それはお酒のせいだろう。少しばかり頬が朱に染まっている。泥酔とは言わないが、それでも酔いはそれなりにまわっている様だ。
「酔いに良いのは宵なのよ」
「活字にしないと分からない発言は控えてくれないか」
そして、意味が無いからね。ましてや脈絡も無い。
「で、どうして閻魔さまと一緒だったの? 結婚するの?」
「結婚はしない。たまたま夕方ごろに彼女が来て、説教されていただけさ」
「恋のお説教? それとも故意のお説教かしら? あぁ、今宵のお説教の可能性もあるわね」
だから、活字にしないと分からないネタはやめてほしい。
僕は適当に相槌を打ちながら竹酒をくいっとあおる。まだまだ宵の口、いや酔いの口だが、油断していては映姫と同じくベロベロになってしまう。なにせ呑み易いお酒だからな。恐らく、何杯でも呑める様にというコンセプトで作られているに違いない。
「私を置いて、向こうに逝ったらダメなんだからね」
「とうぶんその予定はないさ。君こそ、早く向こうへ逝きたいんだろう?」
おほん。今から言うのはリップサービスだ。勘違いしないでくれよ。
「輝夜こそ、僕を置いていく気が満々じゃないか。僕としては寂しい限りだよ」
僕の言葉に、彼女はニヤリと笑う。
「置いていく気も、老いて逝く気も無いわ。一緒に連れてってあげるわよ」
「無理心中かい?」
「ムリ、死んじゃう」
輝夜はケラケラと笑って、グラスの中身を一気にあおった。そして、幸せそうなため息を漏らす。まったく、お酒が美味しそうだ。
「まぁ、生きてりゃ良い事もあるさ」
「あら、死んだ方がマシって言葉もあるわよ」
確かに。はてさて、明日の生を願う者と昨日の死を願う者。どちらが正しくて、どちらが間違いなのか。映姫なら簡単に白黒つけてくれるだろう。
「生死に関しては、西行寺のお嬢さまより詳しそうだしね」
「え、幽々子って淫乱なの?」
このお姫様、よりによって最悪の言葉遊びをしやがる。
「活字にこだわった僕が馬鹿だった。頼むからその類の冗談は止めてくれ」
輝夜は殺せないので、僕が殺されそうだ。しかも本人じゃなくて従者の方が殺しに来るかもしれない。冗談が通じないからなぁ。
「生死を賭けた闘い、っていうのもエロいわよね」
「だから、止めろ」
酒が入ると、すぐこれだ。ほんと、どうして里の男共に人気があるのかさっぱりと分からないよ。人気があるのは、静かでおしとやかな女性ではないのだろうか。輝夜はその正反対な気がしてならない。見た目は大和撫子でも、中身はヤマトタケルノミコトもびっくりな訳だ。
「殿方の白濁液がどうしました~?」
……映姫が最悪な形で戻ってきた。なんだこの閻魔さま。酔っ払いのおっさんレベルじゃないか。
「生と死という言葉から、精子という言葉が生まれたのかもしれないな、っていう話ですよ、閻魔さま。生まれて死ぬという意味合いが精子には含まれているのはないでしょうか?」
輝夜が逡巡する暇もなくそう応えた。嘘も方便。よくもすんなりと言葉が紡げるものだ。
「なるほど、興味深い。そうすると、白いというのも意味があるのかもしれませんね。言わば、生の肯定。生まれるは白」
あ~ぁ、閻魔が嘘に乗っかってしまった。
「それにしても子作りの話題とは。もしかして予定でもあるのですか? いけませんよ、出来ちゃった婚や授かり婚なんていうのは、ただの見苦しい言い訳です。きっちり結婚してから事に及んでください」
「えぇ、理解しているわ、閻魔さま。心開けば股開く、なんていうのは悲しい女の性ですわ。その点、私は大丈夫。香霖堂の心をばっちり掌握していますもの」
できれば心を掴んで欲しかった。掌握じゃぁ、僕が尻に敷かれているじゃないか。
「いやいや、表現の問題じゃない。輝夜、そろそろ嘘だと映姫に宣言してくれ。このままじゃ僕達は恋人同士だ」
「いいじゃないの、恋人同士。嘘も方便、嘘つきは泥棒の始まり、嘘も追従も世渡り、嘘をつかねば仏になれぬ、嘘から出たまこと。嘘が悪いのはほんの一部よ。ほらほら、真実になる前に、恋人同士になりましょう」
そう言って、輝夜は唇を突き出す。
はぁ、まったく。
「冗談じゃない。映姫、白黒はっきりつける程度の能力で、輝夜の発言を黒だと言ってくれ」
僕の言葉に映姫は瞳を閉じ、人差し指を横に振る。
「それでは情緒が無さ過ぎますよ、霖之助さん。白黒はっきりつけず、曖昧にしておいた方が良いもの、それが男女の関係です。たまには灰色を楽しむのも良いでしょう」
ねぇ~、と映姫と輝夜は首を傾げて同意しあった。
あぁ、もう、まったく。
「はぁ~……色気がある様で無い話だ」
まぁ、これはこれで、森近霖之助らしいといえばらしいのだが。
しかし、下ネタはっちゃけすぎでしょう。えーき様はこんなこと言わないw
サクサク読めて面白かったです。バックナンバーも読んでみます!
>縦書き
ブラウザで読む限り、縦書きは一行の文字数が少なくなって読む際の視点移動が大きくなるせいか、読みづらく感じました。
横書きにして再度読んでみましたが、やはり横書きのほうが読みやすいと思いました。
参考になれば。
横書き縦書きは、やはりPCという媒体の上では横書きの方がいいのではないのでしょうか。
情緒はありますが、それなら同人誌という形でも……と。一意見として参考になれば。
縦書きにも縦書きの風情があると思いますが、普段慣れないせいか違和感がつきまといますね。
個人的には横書のほうがすんなり入ってくるなぁ、という気はしました。
おもしろかったです。