Coolier - 新生・東方創想話

アストロノーミーストーリー

2012/09/14 21:50:07
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人里
霧雨の道具屋。そこに居候として住み着いている僕。
時刻は宵の口。仕事も終わり、今は貸し与えられた二階にある一角の部屋で一服している。

近頃は空気も熱がこもり始め、梅雨の終わりを感じさせてくれる。
梅雨は終わっても湿気は終わらない。うだるような暑さがまたくるのだと思うと、早く冬にならないかと思う。

半年たてばま逆のことをいう僕の口は何様だろうか。




壁に寄りかかっている僕は手近な障子に手を伸ばす。
すっと開けられた障子からは外の空気が中に入り込む。
そこは人里の目抜き通りに面しているところだ。そこから覗くと色々な家屋がびっしりと建っている。
ここら一帯はいわゆる「それなり」の人たちが住んでいる。おかげでどの家屋も2階、3階は当たり前に立ち並んでいる。

まったく持って鬱陶しい。
これだけびっしりと立ち並んでいては風も入りにくい。
夏を迎える嫌な一つの理由だ。
……とはいえ、ここで働くと決めたのは僕の意思である。不満は決して口にしないでいよう。言うと、自分が嫌になりそうだからな。




「曇天か…」
空を仰ぐと暗い雲が行列をなしている。月の光も星の光もさえぎられていた。
なるほど、目抜き通りに人もいないわけだ。


目抜き通りなだけに、普段は夜でも人で賑わっている。
やれ、酒を飲もうだの、やれ、お客さん良い娘入っているよだの、聞きなれた声が飛び交っているものだ。
それがこの天気。今にも雨が降りそうなだけに人は来ないし、店側も閉じ出したのだろう。


静かなことで何よりだ。
ふと、七曜表に目がとまる。今日は文月の四日。
なるほど、もうこんな時期か。

僕は立ち上がり筆立てからペンを、そして棚に仕舞ってある白い布を4枚取り出す。
そして、僕は廊下につづくふすまを開けやや大きな声で人の名前を口にした。

「魔理沙」
僕の呼びかけに彼女はそれなりの大きな声で答えてくれる。

「は~い!」
静かな夜に彼女の声は何件先まで届いただろうか。





アストロノーミーストーリー















「呼んだか、霖之助」
スパーンと勢いよくふすまが開かれる。
太陽のような笑顔の少女が僕の部屋に入ってきた。

「ああ、呼んだよ」
僕は座るように合図を送る。
何々、といいながら僕のほうに近づいて腰を下ろした。

彼女の名前は霧雨魔理沙。ここの主の娘である。
向日葵の花びらのような髪の色、お餅のような白い肌と柔らかそうな頬を持つこの少女はとても6歳とは思えないくらい活発力がある。
体力がなくなるまで遊ぶのはざらで、好奇心が旺盛。とにかく子供らしい子供だ。
僕を呼び捨てするのに少々戸惑いは隠せないが……
そんな彼女に僕はペンと二枚の白い布を手渡す。


「何をするんだ?」

「てるてる坊主をつくろう」

「てるてる坊主? なんで?」
それは何かと聞かない辺り、知っていることに少し感心する。

「今日が文月の四日だからだ。ここまで言えば分かるよね」
僕の出したヒントに魔理沙は少し考え込む。
丁度一分、彼女は顔を上げ元気よく答えた。

「七夕が近い!」

「正解だ」
そう言って彼女の頭をなでる。
気持ちよさそうにはにかむ彼女は猫を連想させられた。

「よし、つくろう!」
そう言って魔理沙は僕の手から離れ、一枚の白い布にきゅっきゅっとペンを走らせる。
彼女が喜びながら取り組むのを暫く眺める。

どうやら作られる顔は笑顔のようだ。彼女にぴったりの表情だ。
そしてもう一枚の布をまるめて、顔を描いた布でつつむ。そこで彼女が僕の方に振り向いた。

「霖之助、輪ゴムがない」
おっと忘れていた。僕は引き出しから輪ゴムを一つ取り出し彼女に手渡す。

「輪ゴムでとめてっと…できた!」
魔理沙は両手の上に乗せたてるてる坊主を僕に見せた。

「わたし!」
なるほど魔理沙のてるてる坊主か…
シンプルに大きな口で笑っている表情が魔理沙らしい。目もどこかにこやかさがにじみ出ていた。

「霖之助はつくらないの?」

「さて、どういう顔にしようか困っていてね」
そうは言いながらどちらかといえば、魔理沙の仕草がなかなかに楽しくてつい見とれていただけなのだが。

「なら、私がつくる」
そういって僕の手から布を取り上げていく。
さっきと同様に顔を作り上げていく。
僕はどんな完成になるかお楽しみを待つため、もう一つの輪ゴムをとるそぶりを見せながらそっぽを向いていた。

「霖之助」

「ほら」
そっぽを向けながら輪ゴムを渡す。

「できた!」
完成の声に僕は彼女の方に振り返る。
彼女の手の上に乗っているのはてるてる坊主。だが、どこかおかしい。
表情が硬い。というか、笑っていない。無表情。
この表情に僕はまさかと思う。

「霖之助」
笑顔で答える彼女に僕は顔をひくつかせるしかなった。
なるほど、僕の特徴がよく捉えられているよ。
メガネをとるとそんな感じなんだろうな。
すこし、落胆しながら僕は「よくできているね」と言葉を送る。

魔理沙は嬉しそうに笑った。





窓の天の方に紐でくくる。
魔理沙では届かないので僕が二つともくくりつけた。

「お隣同士だね」

「ああ、そうだね」
彼女の言葉に僕はそう答えた。




夜も深くなり始めた。
起きていてもろうそくがもったいない。
続きは明日にしよう。
もちろん快晴が続きそうな天気なら必要ないが。

「さて、魔理沙も部屋に戻ろうか」

「えぇ、まだ眠くない」

「わがまま言わない。おやじさんに怒られるよ」

「ぶ~~、けち」
言うに事欠いてケチとは。
魔理沙も少しずつ口が悪くなってきた。おやじさんの影響だろうか。



魔理沙を部屋に送るため僕はふすまを部屋を出ようとした。
そのとき静かな夜にある意味相応しい声が聞こえた。

そのこえは「ヒョーヒョー」となにか悲しげで、寂しそうな声。
どこか今にも壊れそうな何かの泣き声のように聞こえた。

声の聞こえたほうに振り返る。




「霖之助?」

「………なんでもないよ。さ、いこうか」
てるてる坊主だけだったことに安心し、若干薄気味悪くなった。





















翌日
朝を迎え、昼も過ぎた。今日も今日とて掃除に勤しむ。
ここにきて数ヶ月。未だにまともに道具を触らせてくれないここのおやじさん。
彼が言うには5年早いそうだ。


僕はぱっとみ人間に見えるが、実はそうではない。
人間と妖怪のハー半妖、それが僕だ。人間の血を濃く受け継いだせいか、周りの人たちと比べて遜色がない。
妖怪の血を持っている僕に時間で答えを返すとはクスリと来たよ。

とにかく、彼の言い分どおり僕はこの店の道具は『触ったことはない』。
触らなくてもわかることはあるので今はこれで十分だ。

店の前を箒で掃く。
働くもの喰うべからず。
今はこれで納得しよう。何のために道具屋に来たかという目的を片隅に置きながら。





「霖之助」
ふと掃いていた地面から目線を上に向ける。

「もっと元気よくやれ」
お嬢さんかい。
金の髪を揺らしながらぷりぷりと怒っている。
暑いのだ、ローペースでやらせてほしいのだよ。

「君が元気すぎるからこれでいいのだよ」

「? どういう意味?」

「つまり魔理沙が頑張る。僕は頑張らない。二人を足して半分にする。ほら不思議、僕は魔理沙とつり合ったよ」
箒の柄の部分で地面に話の内容を絵で説明する。
馬鹿馬鹿しいお話に魔理沙は余計に怒るかもな。自嘲しながら彼女の顔を覗いた。

「おお! 霖之助、私と同じくらい頑張っているのか!? すごいぜ!!」
魔理沙……
僕は頭が痛くなった。目を輝かせながら尊敬のまなざしを一心に浴びる。
ほんの少しの罪悪感に目をそっぽ向けた。



「おーい、霖之助! 店、閉めっぞ」
まもなくして店の中から野太いおやじさんの声が耳に届いた。
店を閉める? まだ4時近くなのだが…
そう思っていると中からおやじさんが出てきた。

「もう人もまばらだからな。早いうちに閉じよう」
そういって、彼はため息をつく。

「まったく…嫌になる天気だぜ。降るな降れってんだよ」
舌打ちをしながら彼の視線は天に向けられていた。
ああ、そう言えば今日も曇天だ。
朝から雲が出ずっぱりである。昼になっても太陽はまったく顔を出さず、おかしなことに雨も降らない。

暗い雲がまるで太陽を意地悪している、そんな気がした。



「魔理沙、今日はどこ行ってたんだ?」
考え事をしてるうちにおやじさんは、いつの間にか魔理沙を抱えていた。
体格のいい彼は魔理沙を上下に何度も持ち上げたりしている。
それをするたびに魔理沙はきゃっきゃと笑う。

「あのね、緑のお姉さんのところに行ってたの」

(緑のお姉さん?)
聞きなれない言葉に僕は首を傾げる。
僕はおやじさんの方に目をやる。
彼女の言葉を聞いたおやじさんは顔をしかめた。

「ううむ……またあそこに行ったのか」

「うん。お姉さん、いっぱい教えてくれるんだ。今日なんか、いっぱい光を出してたよ。お星さんみたいだった」
なおも彼に抱えられながら魔理沙は手振り身振りで、今日あった出来事を話す。
というか、いつまで抱えていられるんだこの人は! 妖怪の僕でもこれは無理だぞ。
…正確には半妖だけど。

「なぁ、魔理沙。もうあそこに行くのは止めにしないか? あの女はどこか気味が悪い。噂では魔法使いというじゃないか」

「やだ!」
途端に不機嫌になる魔理沙。
おやじさんは空を見上げたときよりも大きなため息をついた。
僕はその女が少し気になった。
そんな昼下がりだった。










「霖之助!」
バンと勢いよく開かれた障子。
ここは君の家だから、いいのかもしれないがもう少し静かに障子は開けてほしい。

「何の用だい?」
夜になり、部屋で寝転がっていた僕の元に彼女は何をしにやってきたのだろうか。
ずかずかと僕のところへ歩み寄る、と思いきや僕の前を通り過ぎ、彼女は僕の棚を開け始めた。

「魔理沙!」
片っ端から開け始めていく。
何を考えているのか知らないが、僕は起き上がり彼女を止めにかかる。
別に、怪しいものを仕舞ってあるわけではないが、プライベートを荒らされるのは叶わない。
とっさに彼女の肩を掴んだところで彼女は勢いよく手を掲げた。

「みぃつけた!」

「うん?」
彼女の手に何か握られている。よく見ると白い布。
もしや、

「てるてる坊主かい?」

「そうだよ、にへへ」
僕は安堵の息をついた。
どうやら彼女はこの空を晴らしたかったのだろう。僕がここに仕舞ってあるのを何かの拍子で知ったのかもしれない。
彼女の肩に置いてある自分の手をどかしたところで、僕は言葉を紡いだ。

「駄目じゃないか、魔理沙。人のものを漁ったら怒られるよ」

「でも、霖之助は怒ってない。だから大丈夫なんだぜ」

「まぁ、理由が分かれば怒らないが。とにかく気をつけるんだよ」

「は~い」
間の伸びた声だが、素直に聞き分ける娘なだけに期待はしよう。
…数日は、だが。

魔理沙は白い布を持ちながら筆立てからペンを、机の引き出しからは輪ゴムをとっていく。
うつぶせになりペンのふたをとって、いきなり書き始める。
その様子から何を…誰を書こうとしていたのか決めていたのだろう。

「ふんふんふ~ん♪」
鼻歌を歌いながら足をばたつかせている。
かわいいものだ。

「できた!」
むくりと起き上がり、昨日と同じように僕のところに見せに来てくれる。

「緑のお姉さん!」
…これが件の彼女か。
少々目はきつめだが、全体的に気のよさそうな雰囲気をかもし出している。
たかだかてるてる坊主だというのに、魔理沙が作るものはまるで命を吹き込んでいるような気がした。

「上手だね」

「にへへ、もっと褒めて」
おだてるとこれだ。
まぁ、子供のうちの特権だろう。













「ねぇ、霖之助」

「うん?」

「明日は晴れるかな」

「さてね」
窓の天井に出来上がったてるてる坊主をくくりつける。
何となく魔理沙の声が沈んでいるように聞こえた。

「どうして、そんなことを聞くんだい?」

「あと、少しだから」

「…そうだね」
七夕が近い。このままであれば明日もこんな調子だろう。
魔理沙はそのことに不安を抱いているのだろう。

「それなら、お願いをした方がいいよ」

「お願い?」

「そう。てるてる坊主だけじゃ足りない。魔理沙が祈ることで明日は変わるかもしれないね」

「そうなの?」

「そうだよ」

「そうなのか!」

「そうなんだよ」
ぷっ。
二人で吹きだし笑った。








遠くの方でまた声が聞こえた。
獣―猿かヒヒのような人里に相応しくない声。
まるで、僕たちのことを笑っている、もしくは馬鹿にしている、そんな声が聞こえた。



魔理沙はけたけたと笑っている。
よほど先ほどのやり取りがおかしかったのだろう。
聞こえた声が気になり、僕は笑うのをやめ、努めて冷静に窓の方に目を向けた。
何かが逃げた。同時に声も逃げた。
ここは二階だ。人が居るはずがない。
でも、誰かがいた。
そんな気がした。









翌日
残念ながら、てるてる坊主3体目も効果は空しく、朝から見慣れた曇天が続いている。
まるで動こうとしないそれは、岩か山を連想させられる。

いつからこんな日が始まったのだろうか。
気づいたときには空一面に曇天が広がっている。灰色というより暗雲に近いその雲は微妙に時間の感覚を忘れさせてくれる。

ニワトリたちもなかなか鳴こうとしないので、朝が来ても気づかない。
人は口々にはやし立てていた。
やれ龍のお怒りだとか、やれ日の神がへそを曲げたとか…とにかく不安な空気が人里を包んでいる。

僕はそんなことに意識をとられている場合ではなかった。
道具屋で働いているのに商品に触らしてもらえない日々。おやじさんが言ったことだから仕方ないとは思う。昨日は十分だといったがフラストレーションが溜まるのも事実。
だから、僕は商品を見ることに必死であった。

僕には能力がある。
商品―道具の名前と用途が分かる。
それが道具として確立していれば、名前とその用途が分かる。例えそれが見たことがないものであってもだ。

僕はこの能力を強めたい。強めることで何かが変わるかもしれない。
人生か、環境か。はたまた世界か。
想像だけならどれだけ膨らませても自分の勝手だ。

取り合えず、その思いがあったので人里の一番大きな道具屋で働かせてもらっているのだ。
だからこその修行なのだが…

思い通りに行かないのなら、思い通りにするようにすればいい。
幸い彼から言われたのは商品を触るな、である。見てはいけないとは言ってない。
今はこれで満足しよう。無理矢理にでもしよう。
時間を重ね、親父さんから認められるようにしよう。
どうせ彼より長く生きられるのだ。触れる日が来るのも時間の問題だ。







そう言えば、朝から魔理沙を見かけない。
朝食を食べたのを最後にいなくなっていた。
昨日、話していた緑のお姉さんのところに行ったのだろうか。

すると、遠くから少女特有の甲高い声が聞こえる。
掃いていた箒を壁に立てかけ、向こうに見やった。

「霖之助~~!」
魔理沙がえらい勢いつけて走ってきた。

「とう!」

「ぐえ!?」
僕の目の前で彼女は突っ込んできた。
危ないと思いながら、僕は彼女をキャッチしようとしたがそれに失敗。
彼女に押し倒されるように地面に倒れた。

「何だ、霖之助。だらしないぞ」
うるさいよ。僕は君と違ってパワフルではないのだから。
心の中で悪態をつきながら、体を起こす。

「どいてくれないか?」

「やだ」
体を起こしても彼女はどいてくれない。
難儀のものだ。
取り合えず、走ってきた理由を聞こう。
場合によっては、おやじさんのお嬢さんだからといって容赦しない。
でこピンぐらいは構わないだろう…たぶん。

「何かあったのかい、急いでいたようだけど」

「そうそう、聞いて、霖之助」
魔理沙は朗らかに答える。

「私、神社でお祈りして来たよ。あ~した天気にな~れって。これで明日は間違いなく晴れるぜ!」
なるほど、朝から見えなかったのはそのためか。
魔理沙は昨日、僕が言ったことを実践してきたのだ。この娘の行動力に改めて感心させられた。
そこでふと思った。今、魔理沙は神社に言った、といった。
ここらで神社といえば、唯一のアレか。
大の大人でも行く気がなくなるほど遠くて怖い妖怪いっぱい出ると聞くアレか。
おそるおそる魔理沙に尋ねた。

「そうだよ! 博麗神社に行ってきたぜ!」
どや顔をするこの娘のふんぞりに僕の胃がきりきりする。
肉親ではないが、長い付き合いなので愛着…というか親しみが魔理沙に対して湧いているのは否定しない。そんな魔理沙が一人で博麗神社に行っただと!?

「これで、10回目の訪問だぜ!」
あぁ、僕の胃がさらに悲鳴を上げた。
この娘の行動力はパワフルなんてものじゃない。デンジャラスだ。
おやじさんにばれないように僕は切に願った。
にこにこ笑顔の彼女に少しでも僕の苦しみに気づいてほしいこともあわせて願ったのは言うまでもない。






「神社には霊夢ちゃんがいるんだぜ」

「れいむ? 巫女か何かかい?」

「うん。私の友達。すっごいお茶飲んでるんだぜ」
すごいのは量か、回数か、値段か。
まぁ、彼女の話を聞いているとどうやら仲がいいようだ。だって、魔理沙が楽しそうに話しているからな。

ちょっと遠いところにいるのが難点だが。
そのうち、僕も様子を見に行った方がいいかな。おやじさんに話すと本当に面倒くさい展開が起こりそうだし。

「あ、でも今日は珍しく喜んだあと、怒ったんだ」

「怒った?」
詳しく話を聞いてみた。

「明日こそ天気になってほしいからお賽銭を上げたんだ。奮発して1000円だぜ」

「そりゃ、喜ぶだろうな。というか、よくそんな大金持ってたな」

「おとうさんに借りた。霖之助の給料からさっぴくとも言ってたぜ。『さっぴく』ってなんなんだろう?」

(そりゃ、ないですよ…)
僕は何も悪いことしてないのに、何で僕の給料から引かれるのだろうか。
おやじさんの不条理に少し涙を流す。
あ、でも聞かねばならないことがあった。

「魔理沙、もしかして君はおやじさんに神社に行くと伝えたのかい?」
そうなってくると嫌な感じしかしない。
おやじさんは本当に魔理沙をかわいがっている。
それこそ、親馬鹿と言うレベルくらい。そんな一人娘が神社に行ったとなれば、展開としては恐ろしいね。道中の妖怪は全滅か。
てめぇ…俺の娘になにさらすんじゃっ!?、ってね……

「違うよ。おとうさんには霖之助が新しいお洋服買ってくれるって言っておいたよ。そしたら、『よかったな』って言ってお金くれたぜ」

「…ま、嘘をついたのは目を瞑るとして僕をだしにしてほしくないよ」

「だし? 霖之助は煮干なのか? 風呂に入ると美味しいのかな?」

「………話を続けて」
段々頭が痛くなる。
この頃の子供はこんなものなのだろうか。僕もそうだったのだろうか。

「あ、でね、お賽銭入れたら勢いよく霊夢ちゃんが手を握ってきてくれたんだ。『ありがとう、これで1ヶ月は過ごせるわ』って。にへへ、いいことしたよ」

「う~~~~」
どうやら、れいむって娘はかなりアレらしい。
やはりなんとしても神社に行かねば。1000円? ぬるいよ。2倍は出そうじゃないか。

「だからね、いい事したついでに『あ~した天気にな~れ』をさせてって頼んだんだ。霊夢ちゃんもこの雲には困っていたし」

「お祈りかい? いいことだ」

「うん! それでね、勢いよくやろうと思って後ろに下がって、いっぱい助走をつけたんだ」

「助走?」
はて、お祈りに助走が必要だっただろうか。
魔理沙の家では変わった信仰の仕方をしているのだな。

「石畳の上を、こう、バーッて走ったよ! で、靴を飛ばしたんだ」

「靴…」
なるほど、助走をつけたのは靴を飛ばすためか。
確かに靴を飛ばして天気を占うことはある。
飛ばした靴が地面に対し靴底がつけば晴れ、側面がついたらくもり、靴底が上面を向いたら雨。
魔理沙はそれをしたのだろう。

「でもね、思わず勢いよくやったら靴が上に飛ばず真正面に飛んだんだ」
あ、嫌な予感がした。
神社に言ったことはないが、大抵賽銭箱の前にはあれがある。
母屋が…

「そしたら、霊夢ちゃん家の障子を突き抜けて、私の靴が飛んだんだぜ。霊夢ちゃんすごい悲鳴を上げたよ」
胃がまたきりきりしてきた。
この娘はどれだけ人に迷惑を掛けるのだろうか。
僕は絶対に神社に行っておやじさんの代わりに精一杯謝ろう。謝礼金も忘れないさ。
そんなことを思っていると、おやじさんの声が耳に届いた。

「おーい、店閉めっぞ。お、お帰り、魔理沙!」

「ただいま!」
僕の上にまたがったままでいた魔理沙がおやじさん元に走っていく。
僕にやったときと同じようにダイブする。それをおやじさんは上手にキャッチした。
抱えた魔理沙をおやじさんはいつもどおりに高く持ち上げる。
腕立てでもしようか…

「今日も人は来ねぇだろう。霖之助、そこに積んである箱を倉庫に仕舞っといてくれ」

「わかりました」
おやじさんが指差す先にはいくつも箱が重なっている。
物には触らしてくれないが箱越しなら触らしてくれる。
質感は分からないが、重量が分かるだけ見ているよりかは勉強になる。

「魔理沙はあっちでご飯の用意をしようか」

「うん!」
おやじさんの肩に乗せられた魔理沙が嬉しそうに中に入っていく。









「さて」
僕の方はもう一仕事だ。
これが終わる頃にはご飯の用意も出来ているだろう。

「よっと」
なかなかの重さに苦戦しながらひとつずつ倉庫に仕舞っていく。
悲しいことに、僕は力がないほうだからこれが限界であった。

「おやじさんは3箱くらい簡単に運んでいたっけ」
力馬鹿の親ばかとつぶやいたのは言うまでもない。



5箱運び、残り一つを運ぼうとしたときそれだけが妙な違和感を感じた。

「?」
両手に持った箱を色々な角度から覗く。
何の変哲もない、長細い茶色の箱。
厳重に封がしてあるわけではないが、まるで箱の中身が開けるなよ、って言っている。そんな気がした。

「………」
僕は後ろを振り向き、誰もいないことを確認した。
そしてそっと箱を地面に置き、おそるおそる中を開ける。
こんなこと、おやじさんにばれたらただじゃすまないだろう。
でも好奇心には勝てない。
上蓋をそっとめくる。箱の中身が姿を現した。

「弓?」
それは黒塗りの弓であった。
箱の底には数本の矢と弦もある。

僕は弓に手をかけた。あれだけ禁じられていたのに僕は弓に触れてしまった。
言い訳になるかもしれないが、あの時はとっさであった。無意識だった。
触る気はなったのにいつの間にか手に収まっていた。

「あ、あれ」
好奇心が薄まる。
嫌な汗が首筋を伝う。

「はぁ………はぁ………」
弓に恐怖を感じた。
しだいに弓を握っている僕のことが怖くなってきた。
早く仕舞わなければ。
だが、糸で縫いつけられたように手から離れない。













「霖之助~~~!!!」

「うひっ!?」
言葉にならない間抜けな声。
そのときになって弓が僕の手から離れた感じがした。
慌てて弓を箱に仕舞う。

「霖之助、ごはんだよ」
ててて、と走ってきた魔理沙が僕に話しかける。
どうやら、もうそんな時間になっていたらしい。

「あれ、まだ終わってなかったの?」

「あ、ああ。もう終わるよ」
額から吹き出る汗を袖口でぬぐう。
ここに来たのが魔理沙でよかった。
心底、安堵した。

僕は慌ててしまった弓の箱を倉庫に仕舞った。




「じゃ、行こうか?」

「うん!」
あの時見た弓の名前を僕は脳裏に焼きつけた。
いや、意識するまでもなく焼きついてしまった。
なぜ、あの弓がここに……
















今日も今日とて魔理沙はてるてる坊主つくり。
うつ伏せになりながら、白い布にペンを走らせる。
鼻歌をしている。実に楽しそうだ。

そんな彼女をよそに僕は今日の出来事が忘れないでいた。
あの弓は、滅多にお目にかかれない。素人判断だが、そんな確信があった。

おやじさん……本当に貴方は素晴らしい店主だ。
僕は運命に出くわしたような気がした。

「大げさかな」
自嘲していると魔理沙がこちらに振り向いた。

「何か言った?」

「何でもないよ。独り言」

「そっか」
さほど興味がなかったのか、てるてる坊主つくりが楽しいのか…すぐに元に戻る。
彼女の様子から今日は凝ったものができそうだ。
いつもより時間を掛けているのが何よりの証拠だ。

話を戻そう。
僕は思った。この弓に会うのが運命だとしたら、もう一度触れる機会が来るかもしれない。
弓に触れていた手を眺める。
握っていなくても、手が覚えている。
ほんの少しの出会いだったというのに。
笑みがこぼれて仕方なかった。あれだけ恐怖を感じたというのに…物好きなものだ。
しばらくして、魔理沙の嬉しそうな声が聞こえた。

「できた!」
魔理沙が持ってきたのは女の子のてるてる坊主。
手には使っていたペンを握っている。

「これは?」

「霊夢ちゃん。箒がないからペンを持たせた」
どうやられいむは箒を持つのがお似合いの少女のようだ。
今日はペンを持たせたまま吊るすとしよう。外に落ちてしまったらそのときはそのときだ。

「あ~した天気にな~れ!」
魔理沙は拝みながら言葉を口にしていた。

するとくぐもったような唸り声が響いた。

「うひゃぅ!」
反射的に空を見上げた。
グルルという威圧の音。雷だろうか。
だが、空は光っていない。

「なんなんだ一体………」
顔をしかめてしまう。
僕はさらに注意深く空を眺める。
なおも唸り声はやまない。

「霖之助…」
僕にしがみつく魔理沙。

「大丈夫だよ」
彼女の顔のある高さにあわせるようにしゃがみ、頭を撫でた。
こうしていると魔理沙は落ち着いていく。
経験によるものだ。





グルルルルル……






なおもやまない雷音。
魔理沙がおびえたよう言葉を紡ぐ。

「怖いよ…この声。鬼か虎みたいだよ、霖之助…」

「………虎? ……………あ!」
何かが僕の中で起こった。
魔理沙の言葉に僕は今までのことを思い出す。
暗雲、悲しい鳥のような声、猿かヒヒのような獣の声、そして虎のような声…

「なるほど。これならしっくりくる」

「霖之助?」

「ありがとう、魔理沙。お陰で明日は七夕を迎えられそうだ」

「えっ?」
訳が分からない顔で僕のほうを見ている魔理沙。
どうやらアレを使うのが早速くるとは。おもがけない展開に心が昂ぶりを覚えた。














翌日―七夕の日―
僕は今日も今日とて箒を振るう。暗い天気の中をこれでもか、というくらいにだが振るう。だが、昨日とは違う。

今日は七夕。そしてこの暗雲と決着をつける日。
僕が僕の手でこの異質な日々を解決する。

「やっぱり大げさだな」
努めて冷静になり、改めて空を見上げた。
一寸の隙間もないほど詰め込まれた暗雲。
もはや雲海とも言うべきか。

僕の昨日の推測が正しいなら、この雲はアレで……昨日見つけた弓で解決できる。
それくらいの弓だったのだ。

「夜に行った方がいいかな」
僕は時間を計っていた。
朝からこの雲は出ているが、声がまったく聞こえない。
どうやら時間によって活動が変わるらしい。そして夜に動くということは、

「妖怪の仕業の可能性が高い」
今日も聞こえるだろう。
あの声は僕たちをおびえさせるための声だったのだろう。
だが、あの声は僕にとっては大きなヒントだった。

「声が聞こえた方をあの矢で射よう」
それを考えると少し遠出した方がいいだろう。
街中で射てしまえば、迷惑千万だろう。
小高い丘に行けば、問題ないかもしれない。
時刻はまもなく夜を迎えようとしていた。
















「あん? 出かけたい?」

「ええ。すこし散歩を」
夕食後、おやじさんに外出することを話した。
別にこっそり出て行ってもいいが、後々面倒くさいことが起こるかもしれないので、今のうちに話すことにした。

「ま、別に構いやしねぇが…こんな天気に出かけるとは酔狂だな」

「せっかくの七夕ですので」

「お、逢引か。生憎の天気だ。帝はお怒りのようだぞ」

「あなたさえ許してくれれば、問題なく会えますよ」

「なるほど、そう返すか」
くつくつ、とくぐもったような笑い声をあげるおやじさん。

「構いやしない、と最初のほうに言ったつもりだが」

「ありがとうございます」
お辞儀をして、僕はその場を後にした。









さて、僕はこれから罪悪感を抱える事になるのだが。
倉庫に来た僕は例の弓が入った箱を取り出す。

「うん、これでよし」
弓と弦、矢が入っているのを確認する。
この弓が今回の切り札だ。
僕は弓に弦を掛け、また箱に戻す。

「おやじさん、すみません」
謝罪を口にして僕は無断拝借をした。











人里を抜けるとこんなに寂しいものなのか。
道中誰も見かけない。星や月の明かりなんてもってのほか。
思わずため息をつく。

こんなとき、魔理沙がいたらどれだけ助かるだろうか。
あの娘の明るさはまさに天性だと思う。
あの娘が笑うだけで心が温かくなる。
人をひきつける力が備わっているのだろうなと思った。

「ねぇ、泥棒さん。どこに行くの?」
背筋に冷や汗が流れた。
まさかこんな近くにまで誰かがいたとは…






あれ、でも今の声…
僕は後ろを振り向いた。

「あ、泥棒さんは霖之助か」

「魔理沙」
何故ここに…

「私のうちの倉庫で誰かが漁っているのを見えたからつけてきたの。偉いでしょう!」
いや、そういう時はおやじさんに話すか近所の人を呼ぼうよ。
…ま、この場合は呼んでもらったら不味かったのだが。

「駄目じゃないか、つけてきたら。危ないから帰ったほうがいいよ」

「やだ。霖之助が帰るなら私も帰るけど」

「それは困ったな。僕は用事があるのだが」

「なら、私もついて行く。ね、いいでしょ?」
上目遣いに尋ねてくる。
そんな仕草どこで倣ったんだ。
とはいえ、ここで一人で帰すのも不味いかな。
夜は妖怪の時間だ。少女が一人で歩いていては襲われかねん。

「……はぁ。良いよ、一緒に行こうか」

「やった! にへへ♪」
今頃おやじさんは大騒ぎかもな。
言い訳は帰るときに考えれば良いか。








「で、霖之助は何をするつもりなの?」
僕たちは暗い夜の道を並んで歩いていた。
不思議なことに今のところ妖怪には出くわしていない。
はったりがてらに弓を持っているからだろうか。

「うん? ちょっと七夕の夜でも更けこもうかと」

「七夕? でもお空は暗いよ。私のお祈りもてるてる坊主も効かなかったよ」

「大丈夫。魔理沙の願いはしっかりと届くよ」
この辺りでいいだろうか。小高い丘に着いた僕たちはそこで立ち止まる。
そして僕は注意深く辺りを窺った。





すると、獣の鳴き声が静かに響く。


シュルル、シュルル



どうやら今日は蛇の鳴き声だ。
僕の推測が確信の域に届いた。


「り、霖之助!? 蛇の声だ!」

「ああ、そうだね」
おびえる魔理沙を傍に寄せながら、聞き耳を立てる。




シュルル、シュルル




やはり空にいるようだ。
僕は慎重に、そして迅速に箱から弓を取り出す。

「霖之助、それは?」

「これはね、『源三位の弓』。俗称ではあるが、有名な弓なんだよ。残念ながら真名は分からないが」
一つ一つ動作を確かめるように体を動かす。
弦に矢をあてがい、空に構える。

「でも、この弓は名前よりも射られたものの名前の方が有名なんだ」

「それは何?」
魔理沙の言葉に答えながら僕は一点に集中する。
方角は丑寅。鬼門とは好都合だ。

「鵺。正体不明の妖怪さ」
僕は矢を放った。
空を昇る矢はまるで鯉の滝登りのようだ。

「さながら暗雲は登竜門か」
暗雲に矢がぶつかった。







ウウウウウウウウゥゥゥゥ………







人とは思えないようなうめき声と共に空が晴れてく。

「うわぁ!!!」
空には満天の星が広がっていた。
まさに七夕に相応しい星空だった。

「できれば、魔理沙には家で眺めていてほしかったのだが」
この娘がそわそわしながら夜空が空けるのを幻視していた。
君の願いはしかと届けられたってね。
















「ほら魔理沙。あれが天の川だ」

「うわっ、すごい大きい! いっぱいお星さんが固まってるよ!」
僕は一つ一つ知っている星を教えていった。
そのたびに魔理沙はきゃっきゃと喜ぶ。
頑張った甲斐があるものだ。

それにしてもこの星々はたいしたものだ。僕も長いこと生きてきたがこんなに立派なのはお目にかかったことがない。

「霖之助、あれ! あれは何!?」

「ああ、あれはね…」
これだけ綺麗でいっぱいあると教え甲斐もあるものだ。
僕は袖をまくり言葉をまくし立てていった。














そして、僕にはもう一つしなければならないことがある。

「魔理沙。ちょっとだけここで待っていてくれ」

「え? トイレか?」

「そんなところだよ。もし何かあったら大声で僕を呼ぶんだよ」

「わかった」
そう言って、魔理沙はまた空を見上げる。
星に夢中になっているうちがチャンスだな。
僕は駆け足でその場を離れた。













「ここにいたのか」
小高い丘からすこし離れたところに雑木林がある。
そこに件の妖怪―鵺がいた。

「つぅ~~~~、まさか私が射られるとはね。腕が落ちたかな」
全身が黒尽くめの少女。そして変わった翼と杖を持ちながら、少女は起き上がろうとしていた。

「君は鵺でいいんだよね。もしそうなら初めてお目にかかるのだが」

「いかにも。私は鵺の妖怪だよ」

「そうか。僕は森近 霖之助。しがない半妖さ」

「私は封獣 ぬえ。私を射るなんてたいしたものだよ。いい腕しているね」
ぬえと名乗った少女は僕を素直に褒めてくる。
こう言っちゃなんだが、傷ついた妖怪はいつもこんな感じだ。こういうこというのは、大抵は油断を誘うためなのだが…
僕は気を抜かないようにいつでも反撃できるように構える。

「おっと、私は正体不明が売りなんだ。こうなっちゃ何もしないよ」

「信じられないな。……僕は君に聞きたいことがある」

「どうぞぞうぞ」
ぬえは言葉を促す。

「君は一体なんでこんな事をしたんだい」

「こんなこと? ああ、暗雲を出したこと? それとも威嚇していたこと?」

「両方だよ。お陰で人はおびえているし、気味悪がっていた。時間感覚もなくなり始めていたよ。気が狂ったり、塞ぎこんだ人も出たと聞いている。僕もあともう少しで危なかったね」

「………あのね、私は妖怪なんだよ。妖怪は人を苦しませたり困らせたりするのが性分でしょ」
彼女はさもあらんといわんばかりに言葉を紡ぐ。
むしろ何でそんなことを聞くんだ、という感じに訝しげに僕の顔を覗く。

「あんただって半分は妖怪だろ。分からないかな?」

「………僕はどちらかと言えば、人間の血が濃いようだ。君の考えがよく分からない」

「ふ~ん。ならそのうち分かるかもね。人間とは相容れないってことが」
そう言ってぬえは目の前を―僕の後ろのほうを指差す。

「特に後ろにいるその女の子とはね」
反射的に僕は後ろを振り向いた。

「霖之助?」

「魔理沙…」
ついてこないように言ったはずなのに、魔理沙がいつの間にか僕の後ろにいた。
どうやら僕は彼女の言葉に耳を傾けすぎたようだ。魔理沙の接近にまったく気がつかなかった。

「霖之助……」
彼女の言葉は次に何を紡ごうとしているのか。
今では彼女の方に気が傾いていた。

「なんでワンちゃんと話しているの?」

「…は?」
魔理沙の言葉に耳を疑った。
そのとき、

「あははははははは………や~りぃ! 大成功!」

「ぬえ?」
ぬえの高笑い、いや馬鹿笑いに僕は何が起こったのか一瞬分からなかった。
そして、その瞬間にぬえは目の前から消えてしまった。

「しまった」
慌てて矢を放つも空振り。
目の前の地面に刺さっただけであった。

「ぬえ! これも君の仕業なのか」

「そうだよ。何で私が正体不明といわれるかよく考えた方が良いよ。じゃあね~!!!」
彼女はどこか遠くへ行ってしまったようだ。
辺りは一瞬にして静かになった。








「あのワンちゃん、言葉喋っていたよ! すごいすごい!」
しかし、それも束の間であった。
魔理沙の驚嘆の声が辺りに広がる。

「魔理沙。犬ってどういうことだい? あそこには犬なんていなかったと思うが」

「え~、いたじゃん。霖之助の目の前に。茶色のワンちゃんが」
僕の言葉に首をかしげる魔理沙。
その口ぶりから、おそらく彼女は嘘をついていない。
ということは、どういうことだ。

『何で私が正体不明といわれるかよく考えた方が良いよ』
…そういうことか。
ぬえが言わんとしていたことが分かった。
彼女はただ姿を隠すだけが売りなんじゃない。見たものの姿をごまかすこともできる妖怪なんだ。
なぞが解けて僕は脱力する。

「すごい妖怪だよ、君は。いっぱい食わされたよ」
そこにはもういないはずだが、僕はぬえに感嘆の言葉を送った。
そんな僕を魔理沙はかわいそうな目で僕を見ている。

「ねぇ、霖之助。頭大丈夫? 独り言が多いよ。さっきもワンちゃんとおしゃべりしていたし…もっと人間の友達作ろうよ、ね…」
前言撤回。
君には二杯も食われたよ。

その後も僕はしきりに魔理沙に心配された。
帰る道中、誰にも出くわさないことを割りと真剣に願った。





End
どうも、モノクロッカスです。
覚えているでしょうか。覚えられているでしょうか。
かなり久しぶりに創ったと思います。

今回、こんなタイトルをつけましたが全然『アストロノーミー』じゃないですね。
でも今更なんでこのタイトルでつくらせて貰いました。

もしよかったら感想聞いてみたいですね。
では、ありがとうございました。
モノクロッカス
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コメント



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4.無評価機械仕掛けの神削除
 面白い
8.70名前が無い程度の能力削除
霖之助は魔理沙が生まれる前に修行を終えてるとか、その頃名前が違うとか、お金の価値とか色々問題はあるけど
魔理沙可愛い