妖怪の山を住処とする天狗たちの根城にて、そこは人、妖怪、妖精もろもろ種類を問わない程の観衆が円状の会場を囲むように熱気を帯びていた。
者共の観衆の声、怒号、声援が耳に劈く。火薬を耳元で連続的に、雨のように炸裂させているような錯覚とも感じた。その熱い声援、怒号は、より一層会場の熱気を濃く、熱く、まるでひとつの咆哮と成っていた。
数台のサーチライトが踊るように照らし回るのがなんともおかしく見える。「盛り上がる」という言葉をそのまま表現したかのような光景。
そしてその観衆たちが手に握っているパンフレットらしきものをよく見ると人形の絵が印刷されていた。
そう、
これは、
『リァァァアアアアアアアルゥッ!!!ドォオオオオオッルゥウウウウウウッ!!!!』
一人の司会者らしき天狗が奇声とも思えるような声で叫び、そう呼んだ。
『リアル・ドール』
今、幻想郷にて一部の者達の間で人気となっている娯楽だ。リアル・ドールとは人形同士がお互い一対一で取っ組み合いをし、どちらが最後に立っていられたかで競う一種の喧嘩、と説明すれば差し支えないだろう。その暴力的で、残酷で、刺激的なドール(人形)同士の戦いは一部のものを魅了し、さらには幻想郷の公式格闘技となるまでに発展したのだ。
事の始まりは、一人の人形師が始めたのが起源だそうで、なんでも人形を使った劇に飽き、新しい芸に挑戦したのがこのリアル・ドールと言われている。
試合形式は一対一の取っ組み合いで、お互い自分のドールをリング上に上げて操り、相手を破壊するという簡単なルール。勝者は試合の都度毎回変わる報酬を手にすることができ、敗者はそのまま退場という恨みっこ無しの単純さ。このぶっつけ本番のガチな試合が評判を呼び、現在に至る。
司会者が叫ぶたびに観客はそれに答えるかのように熱気を上げる。
『イェエエエエエエエエエエエアアアアアアアアッ!!!!ウォォォォオオオオオオオオオオオオッ!!!!』
円状の会場の中心の数段下には舞台のリングがあり、そこを囲むようにして観客は見下げるように座っているか、立っているかで試合を観戦しているらしい。
『さぁあああて!!始まりましたッ!!!!非公式戦リアルッドーォオルッ!!ありったけぶち込んでェエエエでかく勝てぇぇぇッ!!』
続けるように、
『今回はなんとぉおおおお!!前回のチャンピオン。メディスン・メランコリーの最強無敵ドールに挑戦するのわァアアアアア!!……なんと、なんとなんとなんとォオオオオオッ!!リアル・ドールの開祖の人物ゥッ!!……アリィイイイイイスだぁあああああああああッ!!』
そう叫んだが、観衆は突然にして沈黙した。半永久的に続いていた熱気が冷めたかに思えた。さすがに、冗談かと思われてしまったのだろうと司会者の天狗が冷や汗を見せた。
が、
『イェエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!ウォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』
確実にさっきとは喧騒の度合いが違った、歓声と共にアリスコールが始まる。
『アリスッ!!アリスッ!!アリスッ!!アリスッ!!アリスッ!!アリスッ!!アリスッ!!アリスッ!!』
それはまさに止むことのない者共の意気軒昂の絶叫になっていた。鼻に突き刺さる汗の臭いが濃くなった気がした。
アリスは自分の服に臭いが付着していないかどうか袖に向かってスンスンと嗅いだ。
「…うっ。……はぁ。こんな筈じゃなかったのに…」
服には汗の臭いはなかったが、代わりに火薬の匂いがついていた。
すると、
ガコンッ!!
と、扉が開く。
扉が開いていくと共に歓声はどんどん大きくなっていく。
完全に開いた扉は誰も動かしていないというのに自然と閉まっていった。
なぜここにアリスが居るのか?
事の始まりは15分ほど前に遡る。
********15分前********
「へぇー………ここが……」
円状の会場出入り口前には金髪の少女が棒立ちしていた。手には人形の絵が描かれたパンフレットが握られていて、会場を見上げるようにして少女がつぶやく。
(また魔理沙のデタラメな嘘かと思っていたのだけれど、今回は『本当』だったようね…)
通り過ぎていく人々をかき分けながら会場の中へと進んで行くアリス。だが、アリスはまだ気づかなかったのだ。ここがどういう場所でどういう者共がどういう目的で集まる場所かを。
(妙だわ……通行人が私を見るとき視線がとても凄まじっ…痛っ!痛いわ……。でも、なんだか尊敬にも似た視線を向けてくるのはなぜ?)
アリスの傍を通り過ぎる者たちはアリスを見るやいなや、驚き、英雄を崇めるような視線で見つめていたのだ。ただそれだけではない。何人かがアリスにサインを求めてくるくらいに可笑しな状況だった。
(いつから…私はこんな人気者に…。……っきゃぁ!?ちょっと何!?どさくさに紛れてお尻触られた!!…って!勘違いだったか…)
そのまま人ごみをなんとかして掻き分け、会場内で最も人が少ないであろうと思われる受付コーナーらしき場所にたどり着いた。
(ッ―――――はぁぁああ………疲れた…)
受付嬢と見受けられる天狗が二人、アリスを見る。
途端、首にぶら下がっていたマイクを手に取り、誰かに話しかけた。
そのままアリスが歩いてくるのを待ち、話しかける。
「ご予約をされています金髪の女性の方でしょうか?急いでこちらに名前を記入してください、もうすぐ始まりますので」
「え?…は、え?んー…はいはい…」
なんとなくで二つ返事をして、シートに名前を書き込むアリス。
記入が終えると、名前が書かれたそれを受付嬢が受け取る。
「…よろしいですか?……はい、ではあちら側が出場者スペースとなっておりますので進んでいってください」
暗いゲートに指さし、そう告げた。
アリスは言われるがままにゲートへ向かう。
ゲートの周りには自動販売機と書かれたチカチカと光が点滅する四角い形をした箱が何個も置かれていた。さらにその上には大きくリアル・ドールと書かれた動く電光掲示板があり、目に止まった。
(あ、そういえば…このパンフレット…)
腰に巻いた帯に挟んでいたパンフレットを取り出し広げ、裏を見る。
(ええと…魔理沙が言うには、ここに来れば人形を作る材料が余裕で集まると言っていたけど…。人形の材料売るにしたってこの人だかりはおかしいじゃない。わざわざ天狗の根城まで来て人形買いに来る物好きなんて幻想郷にそうそう居ないわよ?人のこと言えないけども……)
指でパンフレットに書かれた文字をなぞる。
最初までは頭を小さく立てに振り内容を理解していったが、途中から異変に気づく。
そこで文字をなぞるアリスの指が、止まった。
ピッと、
止まった
「……………な、な、な、ななななななな―――――ッッッッ!?」
パンフレットに書かれていたリアル・ドールの誕生秘話を見た途端びっくり仰天。
口を大きく広げ、大きく生きを吸い込み、
「なんじゃごりゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
突然の大声、もとい叫び声に、並んでいた参加者、受付、会場スタッフが盛大に驚く。
「「「「「「―――――――――ッ!!!!!!??????」」」」」」
見計らったように会場の至るところに設置されたスピーカーからアナウンスが流れる。
『それでは、リアル・ドールがもうすぐ始まりますので出場者の方は手前にある台の上に上がり、乗りましたら赤いボタンを押してください、リフトが下がって行きますので動かないで扉が開くまでお待ちください。そして、観戦される参加者の皆様は席に座りましたらそのまま立ち上がらず開戦まで辛抱ください』
アナウンスが終わり、
軽い放心状態のまま、アリスはアナウンス通りに台に上がり、赤いボタンを押す。すると徐々に台が下がっていき、止まった。
(また、騙された……。騙された騙された騙された騙された騙された騙された…………………)
目を虚ろに下を向きながらボソボソ。
そう、これが。
これが、15分前の真実だ。
者共の観衆の声、怒号、声援が耳に劈く。火薬を耳元で連続的に、雨のように炸裂させているような錯覚とも感じた。その熱い声援、怒号は、より一層会場の熱気を濃く、熱く、まるでひとつの咆哮と成っていた。
数台のサーチライトが踊るように照らし回るのがなんともおかしく見える。「盛り上がる」という言葉をそのまま表現したかのような光景。
そしてその観衆たちが手に握っているパンフレットらしきものをよく見ると人形の絵が印刷されていた。
そう、
これは、
『リァァァアアアアアアアルゥッ!!!ドォオオオオオッルゥウウウウウウッ!!!!』
一人の司会者らしき天狗が奇声とも思えるような声で叫び、そう呼んだ。
『リアル・ドール』
今、幻想郷にて一部の者達の間で人気となっている娯楽だ。リアル・ドールとは人形同士がお互い一対一で取っ組み合いをし、どちらが最後に立っていられたかで競う一種の喧嘩、と説明すれば差し支えないだろう。その暴力的で、残酷で、刺激的なドール(人形)同士の戦いは一部のものを魅了し、さらには幻想郷の公式格闘技となるまでに発展したのだ。
事の始まりは、一人の人形師が始めたのが起源だそうで、なんでも人形を使った劇に飽き、新しい芸に挑戦したのがこのリアル・ドールと言われている。
試合形式は一対一の取っ組み合いで、お互い自分のドールをリング上に上げて操り、相手を破壊するという簡単なルール。勝者は試合の都度毎回変わる報酬を手にすることができ、敗者はそのまま退場という恨みっこ無しの単純さ。このぶっつけ本番のガチな試合が評判を呼び、現在に至る。
司会者が叫ぶたびに観客はそれに答えるかのように熱気を上げる。
『イェエエエエエエエエエエエアアアアアアアアッ!!!!ウォォォォオオオオオオオオオオオオッ!!!!』
円状の会場の中心の数段下には舞台のリングがあり、そこを囲むようにして観客は見下げるように座っているか、立っているかで試合を観戦しているらしい。
『さぁあああて!!始まりましたッ!!!!非公式戦リアルッドーォオルッ!!ありったけぶち込んでェエエエでかく勝てぇぇぇッ!!』
続けるように、
『今回はなんとぉおおおお!!前回のチャンピオン。メディスン・メランコリーの最強無敵ドールに挑戦するのわァアアアアア!!……なんと、なんとなんとなんとォオオオオオッ!!リアル・ドールの開祖の人物ゥッ!!……アリィイイイイイスだぁあああああああああッ!!』
そう叫んだが、観衆は突然にして沈黙した。半永久的に続いていた熱気が冷めたかに思えた。さすがに、冗談かと思われてしまったのだろうと司会者の天狗が冷や汗を見せた。
が、
『イェエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!ウォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』
確実にさっきとは喧騒の度合いが違った、歓声と共にアリスコールが始まる。
『アリスッ!!アリスッ!!アリスッ!!アリスッ!!アリスッ!!アリスッ!!アリスッ!!アリスッ!!』
それはまさに止むことのない者共の意気軒昂の絶叫になっていた。鼻に突き刺さる汗の臭いが濃くなった気がした。
アリスは自分の服に臭いが付着していないかどうか袖に向かってスンスンと嗅いだ。
「…うっ。……はぁ。こんな筈じゃなかったのに…」
服には汗の臭いはなかったが、代わりに火薬の匂いがついていた。
すると、
ガコンッ!!
と、扉が開く。
扉が開いていくと共に歓声はどんどん大きくなっていく。
完全に開いた扉は誰も動かしていないというのに自然と閉まっていった。
なぜここにアリスが居るのか?
事の始まりは15分ほど前に遡る。
********15分前********
「へぇー………ここが……」
円状の会場出入り口前には金髪の少女が棒立ちしていた。手には人形の絵が描かれたパンフレットが握られていて、会場を見上げるようにして少女がつぶやく。
(また魔理沙のデタラメな嘘かと思っていたのだけれど、今回は『本当』だったようね…)
通り過ぎていく人々をかき分けながら会場の中へと進んで行くアリス。だが、アリスはまだ気づかなかったのだ。ここがどういう場所でどういう者共がどういう目的で集まる場所かを。
(妙だわ……通行人が私を見るとき視線がとても凄まじっ…痛っ!痛いわ……。でも、なんだか尊敬にも似た視線を向けてくるのはなぜ?)
アリスの傍を通り過ぎる者たちはアリスを見るやいなや、驚き、英雄を崇めるような視線で見つめていたのだ。ただそれだけではない。何人かがアリスにサインを求めてくるくらいに可笑しな状況だった。
(いつから…私はこんな人気者に…。……っきゃぁ!?ちょっと何!?どさくさに紛れてお尻触られた!!…って!勘違いだったか…)
そのまま人ごみをなんとかして掻き分け、会場内で最も人が少ないであろうと思われる受付コーナーらしき場所にたどり着いた。
(ッ―――――はぁぁああ………疲れた…)
受付嬢と見受けられる天狗が二人、アリスを見る。
途端、首にぶら下がっていたマイクを手に取り、誰かに話しかけた。
そのままアリスが歩いてくるのを待ち、話しかける。
「ご予約をされています金髪の女性の方でしょうか?急いでこちらに名前を記入してください、もうすぐ始まりますので」
「え?…は、え?んー…はいはい…」
なんとなくで二つ返事をして、シートに名前を書き込むアリス。
記入が終えると、名前が書かれたそれを受付嬢が受け取る。
「…よろしいですか?……はい、ではあちら側が出場者スペースとなっておりますので進んでいってください」
暗いゲートに指さし、そう告げた。
アリスは言われるがままにゲートへ向かう。
ゲートの周りには自動販売機と書かれたチカチカと光が点滅する四角い形をした箱が何個も置かれていた。さらにその上には大きくリアル・ドールと書かれた動く電光掲示板があり、目に止まった。
(あ、そういえば…このパンフレット…)
腰に巻いた帯に挟んでいたパンフレットを取り出し広げ、裏を見る。
(ええと…魔理沙が言うには、ここに来れば人形を作る材料が余裕で集まると言っていたけど…。人形の材料売るにしたってこの人だかりはおかしいじゃない。わざわざ天狗の根城まで来て人形買いに来る物好きなんて幻想郷にそうそう居ないわよ?人のこと言えないけども……)
指でパンフレットに書かれた文字をなぞる。
最初までは頭を小さく立てに振り内容を理解していったが、途中から異変に気づく。
そこで文字をなぞるアリスの指が、止まった。
ピッと、
止まった
「……………な、な、な、ななななななな―――――ッッッッ!?」
パンフレットに書かれていたリアル・ドールの誕生秘話を見た途端びっくり仰天。
口を大きく広げ、大きく生きを吸い込み、
「なんじゃごりゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
突然の大声、もとい叫び声に、並んでいた参加者、受付、会場スタッフが盛大に驚く。
「「「「「「―――――――――ッ!!!!!!??????」」」」」」
見計らったように会場の至るところに設置されたスピーカーからアナウンスが流れる。
『それでは、リアル・ドールがもうすぐ始まりますので出場者の方は手前にある台の上に上がり、乗りましたら赤いボタンを押してください、リフトが下がって行きますので動かないで扉が開くまでお待ちください。そして、観戦される参加者の皆様は席に座りましたらそのまま立ち上がらず開戦まで辛抱ください』
アナウンスが終わり、
軽い放心状態のまま、アリスはアナウンス通りに台に上がり、赤いボタンを押す。すると徐々に台が下がっていき、止まった。
(また、騙された……。騙された騙された騙された騙された騙された騙された…………………)
目を虚ろに下を向きながらボソボソ。
そう、これが。
これが、15分前の真実だ。
続きを待ってます。
概要だけ「劈く」とか難しい言葉を入れるのなら、それに見合った内容を収斂すべき(個人的な意見ですが・・・
何はともあれ、頑張れとしか言い様がない