エノコログサの穂は動き回る虫に似ている。
猫は動き回るものに、興味津々になる。
だから、ご主人様もそうなのだろうとナズーリンはそう思う。
そう思い出すと、試したくなる。もとい、遊びたくなる。
ナズーリンは、道端に生えてはえていたエノコログサの穂を二本引き抜いた。それを、ダウジングロッドのように持った。そして、寺で瞑想している寅丸の鼻先に出してみた。
ナズーリンがすごいのか、それとも寅丸が瞑想といって寝ているだけなのかわからない。目の前に、穂を出されても寅丸は気付かない。
なんだ、ご主人様やっぱり寝ているのかとナズーリンはそう思った。こうやって、鼻先で穂を振り降りしても反応が無いだからそうなのだろう。
しばらく続けたが変化が無かった。
こうなってしまうと、なんだか面白くない。いたずら好きの腕白妖精の気持ちがわかるような気がした。いたずらは誰かに気付いて貰えないと意味が無い。
ナズーリンは、大胆な行動に出ることにした。
もはや、瞑想では無く座りながら睡眠している寅丸の鼻に穂を入れてみることにした。
心の中で、ご主人様これも私の興味の為なんだ恨まないでくれよと静かに言った。
穂先が鼻に触った時だった。
「あの、ナズーリン何してるんですか?」
寅丸が目を覚ましたのである。穂先が鼻に触れたのが原因では無かった。あぐらに似た座り方している寅丸の鼻に入れようとするものだから、ナズーリンもしゃがんで寅丸の正面にいた。
存外、穂先がフワフワするものだから鼻にいれるのが難しい。そして、どんどん前かがみになって腕が寅丸の体に触れて仕舞ったのだった。
「……違うんだ! ご主人様! 私はエノコログサで遊ぼうとなんてしてないんだ」
見つかってしまった。元々、見つけてもらわないとエノコログサの穂で猫が興味津々になるのか確かめられないはずだった。
それがいつしか、ナズーリンの心の中では見つかっては駄目だというルールに 変わっていたのである。
「あの、ナズーリン。エノコログサの穂で猫は興味津々をやっていたのですね」
ナズーリンがやろうとしていたことが、殆ど見破られていた。さすがは毘沙門天の化身だと思った。
そして、自分がやろうとしていたことの愚かさに気付いた。そうなると、もう寅丸の顔も見れず恥ずかしくなってその場を走りだした。
今度は無計画に道草をむしってくるのではなく、エノコログサの穂に漆を塗って仕込んでおこうと思う。
そして、ちゃんとした計画を立ててご主人様に挑もうと思った。
ナズーリンは穂を落としていった。誰も居なくなったその場、時刻は夕暮れ時で暑かった昼間の影響で夕立の気配がする。
ふと、その気配である。冷たい風が、その場を通って行った。
すると、その風で穂が虫のように動いた。
バタンという音と共に寅丸は、穂に飛びついたのだった。
とっても、興味津々だった。