ぬえちゃんは、ちいさな公園のちいさな砂場で、ふたりのおともだちといっしょにあそんでいました。
お砂をぺたぺたたたいて固め、それぞれかたちをつくっていきます。
こうまかん! ひとりがそうさけびました。
ちれいでん! もうひとりがそうさけびました。
ふたりとも砂のおしろを完成させたのに、ぬえちゃんだけは、まだほとんどできていません。
あせらないでゆっくりつくろう、そう思いながら、ぬえちゃんはつづきに取りかかりました。
でも、ぬえちゃんのおしろが完成するまえに、あたりはすっかり暗くなってしまいました。
おともだちをむかえに、メイドさんとおんなのこがやってきました。
かぞくのひとたち? とぬえちゃんが訊くと、おともだちはうなずきます。
「そうよ。おうちに帰れば、おねえさまのおともだちや、もっとたくさんの使用人がいるのよ」
メイドさんとおねえさんに手をひかれながら、そのこは帰ってゆきました。
そのこたちが去ってすぐ、もうひとりのおともだちにもおむかえがきました。
こんどは、おんなのひとがひとりだけでした。
かぞくのひと? とぬえちゃんが訊くと、おともだちはうなずきます。
「そうよ。おうちに帰れば、おねえちゃんのペットたちが、たくさんたくさん住んでいるのよ」
おねえさんにおぶられながら、そのこは帰ってゆきました。
ぬえちゃんはひとりになりました。ひとりで、砂場であそんでいました。おしろをつくりたかったのに、へたっぴなぬえちゃんにはぜんぜんできません。
なんどもなんどもやり直し、それでもできずに無駄だとわかると、立ちあがって歩きはじめました。
公園を去ったぬえちゃんは、ふよふよお空をとんでいました。
だれもむかえにきてくれないのですから、ひとりで帰るしかないのです。
ぐうとおなかをならせながら、ぬえちゃんは夜空をとびつづけます。
しばらくとんでいったところで、ようかいさんとすれちがいました。
おおきな傘をもっていて、しかもあかるい色をしていたので、くらい空のなかでとても目立っていました。
目があったので、ぬえちゃんはそのようかいさんに話しかけました。
こんばんは。あなたもひとりなの?
すると傘のようかいさんは、ふしぎそうに、こたえてくれました。
「もちろん、ひとりよ。毎日ひとり」
_______まいにち?
「そうよ、毎日。ひとりで人間をおどろかせてるの」
_______かぞくがいなくてさびしくないの?
「家族?」
ようかいさんは、けらけらとわらいました。
「妖怪に、家族もなにもあるわけないじゃない。人間じゃああるまいし」
おかしそうにわらいながら、ようかいさんは去ってゆきました。
ぬえちゃんは夜空をとびつづけました。地上にはぽつぽつとあかりがありますが、空にはだあれもいません。まんまるのお月さまだけが、ぬえちゃんといっしょについてきてくれていました。
つう、っとほほをなにかが伝いました。なんだろう?とそれをぬぐいながら、ぬえちゃんは空を見上げました。
ぽつり、と雨の雫が降ってきて、ぬえちゃんのかおを濡らします。そうか、いまのは雨だったんだ。ぬえちゃんはそう納得しました。
ぬえちゃんは地上へ降り立ちました。どうせ通り雨でしょうから、すこしのあいだ雨宿りしようと思ったのです。
空き地に生えていたおおきな木のしたで、ぬえちゃんはひとり座っていました。
しかし、またほほをなにかが伝っていきます。
それも流れるように、つらつらと。
おかしいな、木の枝のすきまから雨がもれてきたのかな。
けれど、それにしてはおかしいのです。
ぬぐってもぬぐっても、その透明なみずは、かおをぬらしつづけて止まらないのです。
「ああ、こんなところにいた」
声がしたので振りむくと、そこにはおなじおうちに住んでいる、むらさが立っていました。
「あらあら、こんなに濡れちゃって。はい、これ、あなたのぶん」
そう言って傘を差しだしてくれたのは、おなじく一つ屋根のしたで暮らしている、いちりんでした。
「探したんだよ、帰ってくるのが遅いから」
「そうよ。今日の夕飯は姐さん特製のカレーだっていうのあに」
「わたしが!わたしが聖に特別な調理法を教えてあげたんだよ!」
「はいはい。じゃあ撤回するわ、姐さん特製、ムラサ印のカレーライスね」
それからふたりは、ぬえちゃんのほうを見て、にっこりわらいかけました。
そしてそれぞれ片手を出して、立てる?とたずねてきます。
ぬえちゃんは、ふたりの手をとり立ちあがりました。
帰りみちのとちゅう、雨がすっかりやみました。
三人は並んで歩いていました。ふたりにはさまれたぬえちゃんは、右手でいちりんの、左手でむらさの手をにぎりながら、てくてく夜道を歩いていきます。
歩きながら、ぬえちゃんは考えました。
たしかに、じぶんには家族がいない。でも、家族とは生まれたときからあたりまえにあるつながりであって、そうじゃない、あたりまえじゃあないつながりだってある。
あたりまえじゃあないから、いつだって離れることができるのに。
それでも、そばにいてくれるひと。
そういうひとたちが、じぶんにはいるんだと、ぬえちゃんは思いました。
そのほほはもう、ぬれてはいません。
雨上がりの風がひんやりと、けれど両手はあたたかく。
そのあたたかさを胸いっぱいに満たしながら、ぬえちゃんは、おうちへ帰っていきました。
お砂をぺたぺたたたいて固め、それぞれかたちをつくっていきます。
こうまかん! ひとりがそうさけびました。
ちれいでん! もうひとりがそうさけびました。
ふたりとも砂のおしろを完成させたのに、ぬえちゃんだけは、まだほとんどできていません。
あせらないでゆっくりつくろう、そう思いながら、ぬえちゃんはつづきに取りかかりました。
でも、ぬえちゃんのおしろが完成するまえに、あたりはすっかり暗くなってしまいました。
おともだちをむかえに、メイドさんとおんなのこがやってきました。
かぞくのひとたち? とぬえちゃんが訊くと、おともだちはうなずきます。
「そうよ。おうちに帰れば、おねえさまのおともだちや、もっとたくさんの使用人がいるのよ」
メイドさんとおねえさんに手をひかれながら、そのこは帰ってゆきました。
そのこたちが去ってすぐ、もうひとりのおともだちにもおむかえがきました。
こんどは、おんなのひとがひとりだけでした。
かぞくのひと? とぬえちゃんが訊くと、おともだちはうなずきます。
「そうよ。おうちに帰れば、おねえちゃんのペットたちが、たくさんたくさん住んでいるのよ」
おねえさんにおぶられながら、そのこは帰ってゆきました。
ぬえちゃんはひとりになりました。ひとりで、砂場であそんでいました。おしろをつくりたかったのに、へたっぴなぬえちゃんにはぜんぜんできません。
なんどもなんどもやり直し、それでもできずに無駄だとわかると、立ちあがって歩きはじめました。
公園を去ったぬえちゃんは、ふよふよお空をとんでいました。
だれもむかえにきてくれないのですから、ひとりで帰るしかないのです。
ぐうとおなかをならせながら、ぬえちゃんは夜空をとびつづけます。
しばらくとんでいったところで、ようかいさんとすれちがいました。
おおきな傘をもっていて、しかもあかるい色をしていたので、くらい空のなかでとても目立っていました。
目があったので、ぬえちゃんはそのようかいさんに話しかけました。
こんばんは。あなたもひとりなの?
すると傘のようかいさんは、ふしぎそうに、こたえてくれました。
「もちろん、ひとりよ。毎日ひとり」
_______まいにち?
「そうよ、毎日。ひとりで人間をおどろかせてるの」
_______かぞくがいなくてさびしくないの?
「家族?」
ようかいさんは、けらけらとわらいました。
「妖怪に、家族もなにもあるわけないじゃない。人間じゃああるまいし」
おかしそうにわらいながら、ようかいさんは去ってゆきました。
ぬえちゃんは夜空をとびつづけました。地上にはぽつぽつとあかりがありますが、空にはだあれもいません。まんまるのお月さまだけが、ぬえちゃんといっしょについてきてくれていました。
つう、っとほほをなにかが伝いました。なんだろう?とそれをぬぐいながら、ぬえちゃんは空を見上げました。
ぽつり、と雨の雫が降ってきて、ぬえちゃんのかおを濡らします。そうか、いまのは雨だったんだ。ぬえちゃんはそう納得しました。
ぬえちゃんは地上へ降り立ちました。どうせ通り雨でしょうから、すこしのあいだ雨宿りしようと思ったのです。
空き地に生えていたおおきな木のしたで、ぬえちゃんはひとり座っていました。
しかし、またほほをなにかが伝っていきます。
それも流れるように、つらつらと。
おかしいな、木の枝のすきまから雨がもれてきたのかな。
けれど、それにしてはおかしいのです。
ぬぐってもぬぐっても、その透明なみずは、かおをぬらしつづけて止まらないのです。
「ああ、こんなところにいた」
声がしたので振りむくと、そこにはおなじおうちに住んでいる、むらさが立っていました。
「あらあら、こんなに濡れちゃって。はい、これ、あなたのぶん」
そう言って傘を差しだしてくれたのは、おなじく一つ屋根のしたで暮らしている、いちりんでした。
「探したんだよ、帰ってくるのが遅いから」
「そうよ。今日の夕飯は姐さん特製のカレーだっていうのあに」
「わたしが!わたしが聖に特別な調理法を教えてあげたんだよ!」
「はいはい。じゃあ撤回するわ、姐さん特製、ムラサ印のカレーライスね」
それからふたりは、ぬえちゃんのほうを見て、にっこりわらいかけました。
そしてそれぞれ片手を出して、立てる?とたずねてきます。
ぬえちゃんは、ふたりの手をとり立ちあがりました。
帰りみちのとちゅう、雨がすっかりやみました。
三人は並んで歩いていました。ふたりにはさまれたぬえちゃんは、右手でいちりんの、左手でむらさの手をにぎりながら、てくてく夜道を歩いていきます。
歩きながら、ぬえちゃんは考えました。
たしかに、じぶんには家族がいない。でも、家族とは生まれたときからあたりまえにあるつながりであって、そうじゃない、あたりまえじゃあないつながりだってある。
あたりまえじゃあないから、いつだって離れることができるのに。
それでも、そばにいてくれるひと。
そういうひとたちが、じぶんにはいるんだと、ぬえちゃんは思いました。
そのほほはもう、ぬれてはいません。
雨上がりの風がひんやりと、けれど両手はあたたかく。
そのあたたかさを胸いっぱいに満たしながら、ぬえちゃんは、おうちへ帰っていきました。
小傘の孤独もいつか癒されるといいなあ
個人的にも温かい話しが好きなので。
繋がりを保つことは難しいかも知れませんが、出来るなら彼女らの様にいつまでも仲良しでいて欲しいとも思いました。