Coolier - 新生・東方創想話

ボーダーライン ~彩

2012/06/21 19:38:58
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――いつも笑顔を振りまくこの子は、笑顔とは対照的に全くと言っていいほど弱みを見せたがらない。







「いつもご苦労様」

「ありがとうございます、お嬢様」

廊下の掃除をしていると、レミリアお嬢様がこちらへと向かいながら声をかけてきた。

髪の毛が水分を含んで重力に従って垂れているのと、体が火照っているのを見る限り、湯浴みを済ませて戻ってきたらしい。



「お嬢様はこれから自室でご休憩ですか?よろしければ紅茶の用意をいたしますが」

「ん~……。せっかくの提案を断るようで申し訳ないけれど、今日は月も暗いし……もう寝ることにするわ」

ふああ、と欠伸をしながらお嬢様が私が掃除をしていた場所のすぐ近くにあった自室の扉を開けた。

自室にあるカーテンの備え付けられた豪華なキングサイズのベッドがいやでも視界に入ってくる。



「あら、こんな時間からですか?珍しいですね」

扉の奥から覗く主人の部屋に反射的に目をやりながら、決して掃除する手を休めることなく返答をする。





時刻は夜中の12時ごろ

普通の家庭では皆がとっくに寝静まって夜の静寂が支配をする時間、といったところだが……。

生憎ここ紅魔館では深夜の0時とはいっても、寝静まるにはまだ早い時間であった。



なんてったって主人が吸血鬼ですからね……。



「ん、まあたまにはね。咲夜も残る仕事は見回りだけでしょ?終わったらもう休んでいいわよ」

「では、有難くそうさせていただきます」

「はいはい。それじゃ、明日は朝食の準備をお願いね」

「かしこまりました、おやすみなさいませ」





―パタン、と扉の閉まる音と共にお嬢様が視界から消えた。



「さて、さっきも言ったけど後は見回りね」



テキパキと掃除道具を片付け、地下を見回る為の懐中電灯を取りにいった。











屋敷のメイドは咲夜を除き全員妖精であり、妖精も夜行性の者は少ないので、紅魔館が夜中も灯りをともし、いくばくかの活動を見せているのはほとんど主人のレミリアお嬢様か、妹のフラン様のどちらかである。



今夜はその主人の吸血鬼が眠っているせいか、廊下のシャンデリアは相変わらず全灯されていたものの、珍しく夜の静寂が屋敷を包んでいた。



今宵はお嬢様が言ってた通り新月で、窓の外から射す光もない。

響く音は、夜風の他には私の微かな私の足音のみ。





広大な屋敷を見回るのは、私一人の役目だった。

理由はいくつかあるが……。

一番の理由は先ほども言った通り、メイドの大部分は妖精であり、体力の少ない彼女達に長時間の労働の後更に深夜の見回りを課すのは酷だということだ。

睡眠不足は翌日の業務に支障をきたす。

その点私なら、時間を操る能力のおかげで多少のオーバーワーク程度ならなんなく許容することが出来た。



他には万が一侵入者を発見したとき、適切な対処が取れるのは判断能力的にも実力的にも、メイドの中では私一人だというお嬢様からの信頼もある。



主人が手下を使うための巧妙な甘言といえば聞こえは悪いが、私は素直に主人からの評価が嬉しい。

それにお嬢様はそんなまどろっこしいやり口を好むような方ではない。

褒め言葉は素直に受け取っておけばいいのだ。





「後は地下ね」



既に大部分の見回りは終え、なんら異常がないことを確認済みだ。

地下は地上に比べて見回るには照明が心許無いので、懐中電灯の灯りをともし、階段を下りる。











「最後は図書館か……」

ここはパチュリー様の管理場所ではあるが、パチュリー様は夜早くお休みになってしまうし、小悪魔もそれは同様だったので見回りは私がすることにしていた。





―ギィ、と紅魔館にある他の扉より大きく重い扉を開けて中に入る。





そしてバタンと扉を閉めたその時……





「ガサッ……」

「……?」





屋敷と同じように広いこの図書館ではあるが、地下に構えているせいなのか、はたまた使われている材質のせいなのか、夜になると物音がやたらと響く。

そのため昼間に立ち寄っていたなら聞き逃していたと思われるような物音も、しっかりと聞き取れた。



「ネズミかなにかかしら?」

パチュリー様の魔力の恩恵を受けているため、そんなものが住み着いているはずがないのだけど。

思わず人間の性でそっちの線を疑ってしまう。



万が一の侵入者だった場合を考え、そっと懐中電灯を持たない左手にナイフを忍ばせ物音のする方へと向かっていった。









「この先ね……」

5分程足音を立てないように進み、ようやく物音がした本棚のすぐ近くまでたどり着いた。

そっと物陰から覗き込み、音の原因を探る。



そこにいたのは……。





「あら、ネズミがいるのかと思ったら、侵入してたのはネコだったのね。それも泥棒猫っていう種類だったかしら」

「げっ……」



懐中電灯で音の元凶を照らす。

光の先では見慣れた黒い服装と、同じく黒いとんがり帽子を被った少女が、本棚からこぼれたと思われる本の上で尻餅をついていた。

考えてみれば本当の泥棒にしては物音の立て方がひどく間抜けである。



「で、あんた何やってるのよ」

「見たらわかるだろ、本を借りに来たんだよ」

私に醜態を見られた恥ずかしさからか、天邪鬼っぽい笑みを浮かべながらそう返事を返した魔理沙の顔は、どことなく赤い。



「へぇ~……そうは見えないけどね」

質問した自分が馬鹿だったわ。



「無断借用も借用のうちってな」

「それじゃ、無断借用はうちでは禁止だから退治しないとね」

ふふっ、と笑いながら左手に持っていたナイフを魔理沙に向ける。



それを魔理沙は、やっぱり顔を赤くしたままこちらを見ていた。

その目にどことなく観念したかのような、降伏の色が見える。





――もしかしてこの子…。





「抵抗しないの?珍しいわね」

「生憎今はちょっと弾幕ごっこをする気分じゃなくてね。どっちかっていうと月光浴でもしながらのんびりしたいって感じだな」

私がそっと1歩近づくと、僅かに後ずさりするような動作を見せたが、それもきちんとした形になっていないのを見て、私は確信した。





「ふーん……。それはパチュリー様に既に遊んでもらったせいで疲れて動けないから?」

「うっ……」



分かりやすいわね、この子。

顔が赤かったのは私が来たからじゃなかったのね。

よく見ると顔が赤いだけではなく、彼女の細い腕からはじっとりと汗が滲んでいるのも見えた。





「大方魔力と体力を奪い去る侵入者捕獲用の魔法陣、ってとこかしら……」

「ま、まあそんなとこだろうな……」



私はまだ彼女に向けたナイフをおろしていない。

にも拘らず、彼女は私に対するその小生意気な態度を改めようとはしなかった。



―思わずクスッとさっきとは別の意味で笑みがこぼれてしまう。



「……来なさい」

「……へ?」

私がナイフをしまい手を差し伸べると、彼女の私を見る目がきょとんとしたものになる。



「あんた、強がってるけど本当は喋るのもやっとでしょ?私の部屋で休ませてあげるわ」

「は、はあ……?」

私の雰囲気が侵入者の退治者から、客人を迎える瀟洒な従者になったのを言葉と共に感じたのか、魔理沙が驚いた様子を見せる。

その目の中に、微かに私への助けを求めるか細い光が映っていたのを、私は見逃さなかった。





「い、いいよ……一人でなんとかなる」



――やっぱりそう言うのね。





「あら、そう……じゃあ一人で立ち上がれたら信じてあげるわ」

少し意地悪がしたくなった私は、懐中電灯の灯りを彼女に直接当て、その弱弱しい姿をより鮮明に照らす。



「そんなの……ふ、ふんっ!見てろよ……!!」



相変わらず生意気そうに笑って啖呵を切った彼女だったが、結末は知れていた。

腕に力を込め、立ち上がろうという姿勢は見られたものの、魔力によって奪われた体力ではその程度の動作を成すことすら叶わず、力の尽きた彼女は仰向けに本の上に倒れこんだ。





紅霧の異変をお嬢様が起こし、以来この白黒の泥棒猫と関わるようになってから数ヶ月が経過して、分かったことがある。



――いつも笑顔を振りまくこの子は、笑顔とは対照的に全くと言っていいほど弱みを見せたがらない。

それは何故なのだろう。



その程度のことに疑問を抱く自分にも、疑問があった。

何故こんなに自分はこの子のことが気になるのだろう。





「ほら、だから言ってるでしょ。いいから大人しくしてなさい」

「うう……」





僅かに残った体力も尽きたのか、もはや私の顔を見て呻くしか出来ない彼女の近くにそっと寄り添い……

そのままお姫様を抱き上げるような姿勢になった。





「…お、おい!?」

「何?」

まさかこんな運ばれ方をするとは思っていなかったのだろうか。

直前になって再び焦ったような声が聞こえてくる。



「何?じゃないだろ!何もこんな運び方しなくたって……!」

強がって、私の腕のなかでジタバタともがくが、私生活からして魔法に頼りっぱなしの彼女である。

ましてや罠に体力を奪われた彼女の抵抗など、じゃれつく子猫よりも大人しいものだ。



「うるさいわね、貴女どうせ自分の足で歩けるわけないんだから、大人しく担がれてなさい」

「……」





ついに黙ってしまった。

私は魔理沙がようやく観念したのだと勝手に決めつけて、よっ、と腕に力を込めて彼女を持ち上げる。



……軽い。

いくら普段の業務が大変で、ある程度の筋力はつくとはいえ、今持ち上げているのは成長期も少し前に過ぎたであろう人間の女の子である。

同じ女性の腕で軽々と持ち上げられるはずが……。



思わず魔理沙の体に視線を落とす。

普段と同じ人々が一般的に想像する「魔女」を模した白と黒を基調とした服装。

ふんわりとした生地の性質のせいでよく分からなかったが、彼女の体はその実、服が縁取る彼女のラインよりもずっと細いことがよく分かる。

袖の先から伸びる汗ばんだ腕も、私の左腕の先で力なく垂れ下がる膝下も、まるで人形のようで……。

服越しに触れる肌の感触が、彼女をより一層華奢に、弱々しく感じさせた。





「魔理沙、大丈夫?」

「……」

魔理沙は私が彼女に見とれている間、ずっと恥ずかしさからか目を瞑っていたようだ。



肢体を眺めていたのに気づかれなかったことに、少しだけ安心感を覚えながらも……。

全く別の意味で彼女を心配している私がいた。





――どうして彼女はこんなにも……。





とりあえず、私の部屋に運ぶかな。

見回りもここで最後だし。





「さ、動くわよ」



魔理沙に声をかけ、私は図書館を抜け、自分の部屋を目指した。





途中で魔理沙が、掠れた声で何か言っていた気がする。

けれどどこかうわの空だった私には、よく聞こえなかった。











「さ、着いたわ」

10分程が経過し、ようやく私の部屋へたどり着いた。

ガチャリとドアを開け、ベッドの方へと向かう。

さすがに少し疲れたわ……。



「ここが咲夜の部屋……か」

移動中は全く喋らなかった魔理沙が、ここに来てはじめて口を開く。



「そうよ」

「初めて入るな……」

「考えてみればそうね。感想は?」





そういえば誰かを部屋に招きいれたことなんてなかったわね。

疲労からか、虚ろな目でぼーっと部屋を眺めている。





「ん……殺人メイド長らしくない、って感じかな……。飾り気なくて女らしくないのはそれっぽいけど」

「……」





床にたたき落としてやろうかこいつ……。

一体誰が動けない貴女をここまで運んできてやったと思ってるのかしらね。



「文句があるなら入らなくてもいいのよ?その代わりパチュリー様に引き渡すけど」

「それは勘弁してくれ……」



そこは素直に謝るのね……。

その様子が可笑しくて、思わず笑ってしまった。



「何笑ってるんだよ」

「別に。それよりベッドに寝かすわよ」





質問を適当に流して魔理沙を支える役を自分からベッドへと委任する。

ちょっと落とす感じになっちゃったのはさっきの恨みよ。





「ああほんと、死ぬかと思ったぜ……パチュリーのやつ覚えてろよ……!」

布団に包み込まれて安心したせいか、少し言葉に生気が戻っている。





―そんな彼女を見ていると、お姫様抱っこに続いてまた少し悪戯がしたくなった。





仰向けに倒れる彼女の襟元にそっと手を伸ばす。

「へっ!?」

異変に気づいた魔理沙の目に焦点が戻った。



「襟元きつくしてたら苦しいでしょう?緩めてあげるわ」

そういって私は彼女のブラウスの一番上のボタンに手をかけ、さっと外した。

次に第二ボタン……。

「お、おい!いいよ、自分でやるって!!」

「さっきからそういって貴女自分で出来た試しがないでしょう。いいから大人しくしてなさい」

「…ッ!!」



こういってしまえば彼女に反論の余地なんてない。

魔理沙は再び恥ずかしそうに目を閉じる。



少しずつ、露になる彼女の素肌。

思ってた通り、体のラインは服装が飾るよりもずっと細く……それとは対称的にに皮下脂肪が発達した胸元がわずかに顔を覗かせ、女性らしさをチラつかせるそこからは疲労から生じ続けている汗と共に艶やかな色香を放っている。





2つ目のボタンも外し終わり、私が魔理砂から手を離した時、彼女はこう言った。







「人殺しの紅魔館のメイドは、実は人間に親切なんだな」







「さあ?もしかすると貴女を食べるために看病してるだけかもしれないわよ?」

「冗談きついぜ……」

「冗談だと思ってるの?」

意地悪っぽく、質問を返す。

その質問に対する彼女の答えは決まっている



――はずだった。







「……いや、あまり冗談だとは思ってないな」







「え?」

予想から外れた返答に、思わず上ずった声が口を飛び出す。

その返答の意味を催促をするように、私は魔理沙を見つめなおした。



「レミリアのこと、どう思ってる?」

「は?」

催促していたのはこっちなのに、被せられる質問。



「あいつのことは大事か?」

相変わらず弱々しい声での質問だけど、目はどこか力強い。



「…・…?それは勿論よ。何を当たり前のことをいっているの?」





――ああ見えてあの人はとても思いやりの深い方なのよ?

部下想いだし、妹のことも常に心配してるし……。

それに泥棒として侵入してきた貴女を匿っていることだって、きっと面白がって笑ってくれるわ。





私がそういうと、魔理沙はフッと力なく笑って





「そうか」

と、一言だけ漏らした。



何がそうだ、なの?

ちっとも分からない。

分からないけど、そのせいでどこからか沸いてくる悔しさのようなものが胸をつく。



















「羨ましいな」















――!!





ああ、そういうことか……。





今の一言で分かってしまった。



この子が、どこまでも他人に弱みを見せたがらないのも。

私が、どこまでもこの子に世話を焼きたがる理由も。







この子は、一人だから……。







私には今、大切な人がいる。



何かがあったら絶対に守りたい人が。

何かがあったら、絶対に守ってくれる人が。







この子には両親がいない。

住んでいる場所も魔法の森で一人っきり。



そんなこの子が、よく皆と一緒に顔を出している理由は……?





簡単だ。



羨ましかったから。





紅魔館に来て、私の人生は変わった。

人も妖怪も他者と関わり、生に彩りを与えることは変わらない。







じゃあ、この子は?







本当は寂しがりやで、強がりで……。

けれどもそれを上手く出せなくて、結局笑ってごまかしてきた、この子は?



結局生きることに関して誰の影響も受けてはいない。

誰も自分を見ていないと思っている。





同じく紅魔館で大事な人と暮らすパチュリー様に対しても。

同じ孤独でも、自分と違い彩りを持つ霊夢に対しても。



――私に対しても。





ふとベッドの中に力なく横たわる彼女を見ると、横に自分自身が同じように横たわっているのが見えた。

紅魔館に着く前の、孤独な盗賊だった私。



それが、今目の前に横たわる彼女と重なる。







「お、おい!?咲…夜?」

ほとんど無意識に、私は彼女の頬へと手を伸ばしていた。

驚く魔理沙の言葉も無視して、すぅっと頬から首筋にかけてを優しく撫で上げる。

「んっ…!」

魔理沙から官能をくすぐる声が漏れる。



可愛いわね……。



私は何も言わず、ろくに抵抗も出来ず横たわる魔理沙を抱きかかえるようにし、そっと耳を舌でくすぐる。

「ちょっ……ちょっと……っ!!」

魔理沙はただ、声にならない声をあげながら、ゾクゾクと体を震わせているばかりだった。



彼女の声を肴に、ゆっくりと舌を肌に滑らせながら、下の方へと降りていく。


「さく……っや……やめっ……どうして……」

頬へ、首筋へ……そして開いた胸元へ。



そして私が彼女の胸元を更に開こうと両手をかけた時――



「……やめろ!!」

本当に切羽詰まった彼女の叫び声と共に、私は思いっきり突き飛ばされた。



「はぁ……はぁ……」

私も魔理沙も共に汗ばみ、息が上がっている。





「咲夜……。どうしてこんなことを」

アドレナリンが分泌されているからか、先ほどまで疲弊しきっていたはずの彼女は私を突き飛ばすと同時に起き上がり、乱れた服を直していた。



私を見つめるその目には、私への侮蔑がはっきりと込められていた。



「答え……」

「どうしてだと思う……?」

「え?」



今日何度も繰り返された、単調なやりとり。

それも今となっては私と魔理沙の間柄を裏付ける証拠となっていた。





「教えてよ……魔理沙、どうしてこんなことをせずにはいられないの……!?ねえ!!」

「な、なんだよそれ……」

彼女を見ていることすらもつらくなって、私は後ろを向いた。







結局魔理沙にとって私なんて、何でもないのね……。







ずっと昔の自分もそうだった。

他人を信じず、利用して利用されて。

盗んで、騙して……。

そうやって生きた来たのだから。





そんな自分でも変われた。

ずっと灰色の薄汚れた存在だった自分でも、銀色の光になれた。

皆が変えてくれた。











でも……。









私は、目の前にいるたった一人の女の子すら、変えてあげられないのね。







今までの魔理沙との思い出が、音を立てて崩れていく。







さっき魔理沙は、私が彼女を看病してる理由を冗談めいてしゃべったら、本当に冗談に聞こえないといっていた……。



私は赤の他人ならば容赦なくお嬢様の食料として処分する。

それはつまり、魔理沙にとって私は友達でもなんでもなかったということ。

こいつは、ただの顔見知りだと。











「咲夜……」

魔理沙が私を呼んでいるけど、私にはとても返事が出来なかった。

今彼女を見たら。

彼女の呼びかけに応じたら。

孤独なこの空間で、涙を流してしまいそうだから……。









「……さてと、私はまた見回りをしてくるわ。今日この部屋は貴女が自由に使って頂戴」

「え?お、おい!」

「じゃあね」

涙声になりかけているのを精一杯ごまかしながら、私は部屋を後にした。

見回りなんてとっくに終わっている。





出来るだけ、彼女のことを考えないようにしながら一人紅魔館を歩き続ける。

私はどこかを目指していたつもりはなかったが、気づくとメイド用の仮眠室に来ていた……。



中に入り、カゴの中で綺麗に折りたたまれたタオルケットを取り出し、メイド服のままソファに倒れこむ。







「ぐすっ……ううっ……」

そして誰もいないこの場所で、堪えていた涙をただ流す。











いつか









たとえそれが私でなくてもいい。



彼女の世界に、彩りを与えてあげたい。

過去の私の苦しみを、今抱えている彼女を、、、救ってあげたい。







頭ではそう思ってはいても、今はただ一人むせび泣くことしか出来ない、弱い自分がいた。













『ボーダーライン ~彩』



-完-
3度目まして、ハムスター改めくるりあむーるです。
2度目のほうにも書かせていただいたんですが、クーリエでの名前を微妙に変更させていただきました。
※2013/11/22付けで再度名義をくるりあむーるに変更しました。

この作品は色の属性「彩度・明度・色相」に沿った幻想郷住人同士のふれあいを三部作で書こう、という試みです。
三部作といっても個々の作品は独立させる予定ですが……。
また、とりあえず最初の作品はこちらですが、残り二部をクーリエ様に投稿するかも分かりません。私のブログには勿論掲載しますけども!
指摘、評価を下さった方、読んでいただいた皆様にいつも通りの感謝を。

これからも作品を投稿していくことになると思いますが、皆様よろしくお願いします。
くるりあむーる
[email protected]
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コメント



0.680簡易評価
2.70名前が無い程度の能力削除
咲マリは大好きです。
何故か紅や花の魔理沙EDで二人でお茶会してるの考えると、やっぱりこの二人仲良いですよね。

でも、ちょっと違和感が…?
わざとなら申し訳ないのですが。
館のメイドは咲夜以外全員妖精ですよね。
3.10名前が無い程度の能力削除
(iPhone匿名評価)
4.無評価hamster☆削除
2さん>大変失礼しました、私の設定読み違いだったようです
修正したいのですが、パソコンからしか修正出来ない仕様上、少しお待ちいただくことになります
ご指摘ありがとうございました
6.90名前が無い程度の能力削除
よくあるタイプの話ですが、良かったです
10.90名前が無い程度の能力削除
こういうメンタル系の話は好きだ
結末が若干アレですが話の流れ自体はとてもよかったし心理描写やらにしても一貫した何かを感じる。。。
13.無評価hamster☆削除
6・10さん>
読了と高い評価ありがとうございます
現在、一人称の技能向上を最優先課題として捉えてますので、今後もお読みいただき、何かありましたらご指導いただければ幸いです
17.無評価hamster☆削除
17さん>もちろんオリジナルです
東方の二次は二ヶ月前に書きはじめたばかりでして、後書きリンクにありますblogに掲載しているものが全てです
似た作品が既に存在したということなのかな?と思いますが、この業界で斬新を第一に考えては書きたい物が書けなくなってしまいますので
オリジナルであればありふれていても投稿させていただいてます
21.無評価hamster☆削除
22さん>
先程、ブログを経由して別の方より連絡をいただきました
現在問題の類似作品に対する情報をいただいてるところです。(クーリエ内ではないのか、私では調べ切れませんでした)

私自身クーリエ様への投稿作品はブログ掲載用作品の中でも厳選して投稿していただけに非常に残念ですが…
ただ、私が自作を主張して「あら、それは失礼」で解決する問題でもありませんので

申し訳ありませんが進展をお待ちください。
22.無評価名前が無い程度の能力削除
申し訳ないです。
他の方が勘違いしてはいけないので米は消しておきますね。
早急の対応ありがとうございました。
23.無評価hamster☆削除
22さん>いえいえとんでもないです
なんでもタイトルから似てるということで
いくらなんでもそんな似た作品を見たことがあったら投稿はしてませんけど…
こういうことが東方に限らず、二次における一番の問題点ですのでとても助かりました
夕方頃に作者様がどうにか見つかり、連絡させていただきましたので返信待ちになります
26.90名前が無い程度の能力削除
すごい…。次回作期待してしまうな。もうブログには投稿されているのだろうか・・・
28.無評価hamster☆削除
26さん>
返信が遅れまして、大変申し訳ございません。
ただ今こちらの三部作のほうは、掲載が見送られているしだいでして、別の短編及び連載中の長編をメインにブログを更新しております。
三部作作品のほうはCoolier様にも掲載させていただく予定ですので、再度掲載された際にもう読み直し等していただければ、作者冥利に尽きます。

読了、ありがとうございました。
29.90名前が無い程度の能力削除
初めてこういう小説を読ませてもらいました
どんな感じの小説だろうと思って読みましたが
自分が思ってるよりも話の流れがよく凄く読みやすい小説でした
次回作を待ってます><
30.90非現実世界に棲む者削除
いいね、さくマリ。もっと流行れ。
31.無評価くるりあむーる削除
29様
初の東方二次作品の閲覧が私の作品ということで、とても光栄です。
自分自身文章の生硬さをひしひしと感じていて悩ましいところがあるのですが…読みやすいという評価がいただけたのはとてもうれしく思います。
今後ともよろしくお願い致します。

30様
お読みいただきありがとうございます!さくまり派ですか!私は雑食です^q^