「……それで、なぜ貴女がここにいるのかしら?」
霊夢が降るなと願ってやまなかった雪は、しかし幻想郷の空にちらつき始めた。
「だって、ここに来ればだいたい人がいるでしょう? 挨拶くらいしておこうと思ったのよ」
冬が訪れ、寒さに弱い人間や妖怪が動きを鈍らせる中、この少女――レティ・ホワイトロックは違っていた。
冬にしか活動できない妖怪の彼女は、冬の訪れとともに目覚め、活動を始める。
今年の冬、レティが真っ先に向かったのは霊夢のいる博麗神社だった。
「予想通り。炬燵に入って動いてないだろうと思ってたのよ」
寒いと言いながらも開け放たれた戸の向こうにある居間を覗き、レティは嬉しそうに笑った。
「あによ。こんな寒い日に嬉々として外に出る方がどうかしてるわよ」
妖怪に行動パターンを見透かされ、霊夢は心底嫌そうにぼやく。
「そう言うだろうと思って、はい。蜜柑持ってきてあげたわよ」
「あら、気が利くじゃない。どういう風の吹き回し?」
「別に。これくらいしないと口を利いてくれないだろうと思っただけよ」
「ほれで、むぐっ。そんなとこに突っ立ってどうするのよ。入るか帰るかしたらどう? あむっ」
早速もらった蜜柑を頬張る霊夢を見て嬉しそうに目を細めると、レティは微笑んで、
「そう。じゃ、お邪魔するわね」
縁側から部屋に入り、炬燵の霊夢の向かいに足を入れた。
「ちょっとレティ、足伸ばしすぎよ」
「あら、ごめんなさいね」
伸ばしかけた足を引っ込め、楽な姿勢で座るレティ。
「じゃあ、聞かせてちょうだいな」
「……何を?」
「私が眠っている間にこの幻想郷で何があったのか。貴女が見聞きしたことを、貴女の言葉で」
「はあ? 嫌よめんどくさい。あー……むっ!?」
レティとの会話を拒否して蜜柑をつまもうとした霊夢の指先から、レティが一瞬で蜜柑を奪い去ってしまう。
「もう、なんなの!?」
「話してくれないならこの蜜柑はあげられないわ。話してくれたらお礼にもっとあげようと思っていたのだけど……仕方ないわね」
霊夢が反論する隙を与えずにてきぱきと蜜柑の皮や残った中身を片付け、立ち上がろうとするレティ。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 蜜柑くらい置いていってくれたって……!」
「だーめ。欲しいなら自分で畑まで取りに来なさい」
「それも嫌よ! 分かったわ、喋ればいいんでしょう、喋れば!」
蜜柑の誘惑に屈した霊夢は、ニヤニヤしたレティの顔を終始見ないように顔をそらしたまま、春から秋にかけての幻想郷の移り変わりをレティに話して聞かせた。
レティは間に相づちを打ちながら、笑顔で霊夢の語りに耳を傾けた。
最初は面倒臭そうに話していた霊夢も、次第に饒舌になっていき、レティに促されるまでもなく語りを続けた。
「まあこんな感じかしら。ちょっとした変化はあったけれど、幻想郷は変わらず幻想郷のままよ」
ひとしきり語り終えた霊夢は、最後にそう締めくくった。
「ええ、よく分かったわ。貴女が幻想郷のために頑張っていること」
「ちょっと、どうしてそういう結論に……ひゃっ!?」
レティは有無を言わさずに霊夢の頭を撫でる。まるで妹をあやすように、穏やかな手つきで。
「いつもありがとう、霊夢。貴女のおかげで私は安心して眠りにつくことができるの」
「うう……私は博麗の巫女よ。それくらい当然のことよ! あむっ」
ヤケになって蜜柑を口に放り込み、強がりながらも霊夢がレティの手を拒むことはない。
レティの言葉に、行動に、自分が報われるような、そんな心地よさに包まれて。
「これは私の役目なんだから、貴女にお礼を言われる筋合いなんてない……わ…………すぅ……」
そしてゆっくりと、霊夢はその心地よさに身を任せるようにして瞼を閉じた。
「あらあら、喋らせすぎたかしら?」
レティは穏やかに笑って、霊夢を敷きっぱなしの布団へと運んでいく。
「今度はお布団でも干しに来ようかしら? ふふっ」
レティは悪戯っぽく笑うと、炬燵の上に持ってきていた蜜柑を並べ、
「また来るわ。おやすみなさい、霊夢」
最後に霊夢の艶やかな黒髪をそっと撫でて、新しい冬へと飛び去っていった。
霊夢が降るなと願ってやまなかった雪は、しかし幻想郷の空にちらつき始めた。
「だって、ここに来ればだいたい人がいるでしょう? 挨拶くらいしておこうと思ったのよ」
冬が訪れ、寒さに弱い人間や妖怪が動きを鈍らせる中、この少女――レティ・ホワイトロックは違っていた。
冬にしか活動できない妖怪の彼女は、冬の訪れとともに目覚め、活動を始める。
今年の冬、レティが真っ先に向かったのは霊夢のいる博麗神社だった。
「予想通り。炬燵に入って動いてないだろうと思ってたのよ」
寒いと言いながらも開け放たれた戸の向こうにある居間を覗き、レティは嬉しそうに笑った。
「あによ。こんな寒い日に嬉々として外に出る方がどうかしてるわよ」
妖怪に行動パターンを見透かされ、霊夢は心底嫌そうにぼやく。
「そう言うだろうと思って、はい。蜜柑持ってきてあげたわよ」
「あら、気が利くじゃない。どういう風の吹き回し?」
「別に。これくらいしないと口を利いてくれないだろうと思っただけよ」
「ほれで、むぐっ。そんなとこに突っ立ってどうするのよ。入るか帰るかしたらどう? あむっ」
早速もらった蜜柑を頬張る霊夢を見て嬉しそうに目を細めると、レティは微笑んで、
「そう。じゃ、お邪魔するわね」
縁側から部屋に入り、炬燵の霊夢の向かいに足を入れた。
「ちょっとレティ、足伸ばしすぎよ」
「あら、ごめんなさいね」
伸ばしかけた足を引っ込め、楽な姿勢で座るレティ。
「じゃあ、聞かせてちょうだいな」
「……何を?」
「私が眠っている間にこの幻想郷で何があったのか。貴女が見聞きしたことを、貴女の言葉で」
「はあ? 嫌よめんどくさい。あー……むっ!?」
レティとの会話を拒否して蜜柑をつまもうとした霊夢の指先から、レティが一瞬で蜜柑を奪い去ってしまう。
「もう、なんなの!?」
「話してくれないならこの蜜柑はあげられないわ。話してくれたらお礼にもっとあげようと思っていたのだけど……仕方ないわね」
霊夢が反論する隙を与えずにてきぱきと蜜柑の皮や残った中身を片付け、立ち上がろうとするレティ。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 蜜柑くらい置いていってくれたって……!」
「だーめ。欲しいなら自分で畑まで取りに来なさい」
「それも嫌よ! 分かったわ、喋ればいいんでしょう、喋れば!」
蜜柑の誘惑に屈した霊夢は、ニヤニヤしたレティの顔を終始見ないように顔をそらしたまま、春から秋にかけての幻想郷の移り変わりをレティに話して聞かせた。
レティは間に相づちを打ちながら、笑顔で霊夢の語りに耳を傾けた。
最初は面倒臭そうに話していた霊夢も、次第に饒舌になっていき、レティに促されるまでもなく語りを続けた。
「まあこんな感じかしら。ちょっとした変化はあったけれど、幻想郷は変わらず幻想郷のままよ」
ひとしきり語り終えた霊夢は、最後にそう締めくくった。
「ええ、よく分かったわ。貴女が幻想郷のために頑張っていること」
「ちょっと、どうしてそういう結論に……ひゃっ!?」
レティは有無を言わさずに霊夢の頭を撫でる。まるで妹をあやすように、穏やかな手つきで。
「いつもありがとう、霊夢。貴女のおかげで私は安心して眠りにつくことができるの」
「うう……私は博麗の巫女よ。それくらい当然のことよ! あむっ」
ヤケになって蜜柑を口に放り込み、強がりながらも霊夢がレティの手を拒むことはない。
レティの言葉に、行動に、自分が報われるような、そんな心地よさに包まれて。
「これは私の役目なんだから、貴女にお礼を言われる筋合いなんてない……わ…………すぅ……」
そしてゆっくりと、霊夢はその心地よさに身を任せるようにして瞼を閉じた。
「あらあら、喋らせすぎたかしら?」
レティは穏やかに笑って、霊夢を敷きっぱなしの布団へと運んでいく。
「今度はお布団でも干しに来ようかしら? ふふっ」
レティは悪戯っぽく笑うと、炬燵の上に持ってきていた蜜柑を並べ、
「また来るわ。おやすみなさい、霊夢」
最後に霊夢の艶やかな黒髪をそっと撫でて、新しい冬へと飛び去っていった。
あと、レティを拒めない霊夢可愛い。霊夢可愛い。霊夢可愛い。
レティ大好きなので、この点で。