12月上旬。紅魔館にて。
しんしんと。しんしんと。
幻想郷の大地にどこからともなく雪が降りつもる。
真綿の様な柔らかさをたたえた雪は、音もなく地面を覆っていく。
月の光を反射して銀のナイフのように光る雪はそれだけで一つの芸術のようだ。
「もう冬ね……。いえ、もう冬だったのね。」
瀟洒なメイド長は雪を見て、改めて冬だと感じた。温度も湿度も快適に抑えられている紅魔館内は一年中快適な空間だ。カレンダーを見なければ季節の感覚などすぐになくしてしまうだろう。
深い蒼色の空から白い輝きが降り注ぐその風景は名のある絵描きが心血を傾けて作り上げた一枚の絵画のようだった。
それに触れんとしてゆっくりと窓を開ける。
炎さえ凍らせてしまいそうな冷たい空気が肌を刺す。
寒いのはそれほど好きではないが、いまはそれも心地よい。
まるで一年の終わりを告げるような冷たさだ。
今頃、どこぞの氷精は大喜びで、この静寂に満ちた冬の夜を中で飛び回っているのだろう。
「雪だ、雪だー!やったー!やったー!」とでも騒ぎたてながら。
一片の曇りもない、純粋な水を凍らせて作った氷像の様な笑顔を浮かべて。
汚れなき雪の中を舞う、あどけない心をもったおちびさん。
バカと揶揄されるほどに素直な妖精。それは何物にも侵されない澄んだ、美しい空間なのだろう。
四角に切り取られた額縁に陶器で作られたかのような腕が入っていく。
白く、細い指を夜風が優しく撫ぜる。月の光がそっと手のひらを包む。
ひらひらと舞い踊る雪が、ふわりと手のひらにおちた。
そしてすぐ、鳥の羽よりも軽い冬の欠片は、はらりと溶けた。
それは手の熱によるものか、それとも自分より綺麗なモノに触れて、自らを恥じてのものか。
そんな現代によみがえったサイレントフィルムの様な世界を、紅魔館の門辺りから響いた『へくちゅっ』という場違いな音が粉々に打ち砕いた。
彼女にとってはよく聞きなれた声。誰かは確認するまでもなくわかる。
「あの子……」
降りしきる雪と月の光の中。永い時を経てくすんだ赤レンガでできた門は、白に浸食されつつもなんとかその色を主張している。
目を凝らすとその横で震える紅の人影が見えた。
その人影は門同様、半分雪で覆われていたが、かすかにふるえているのが見て取れた。
「あの子は…。ホント、おバカさんね。一言いってくれれば館の中に入れてあげるのに…。」
そう、小さくつぶやいた。それは自らの身をかるんずる不出来な門番を責めるようでもあり、慈しむ様でもあった。
「それにもっと暖かい服、着ればいいのにね…。」
そして再び、ため息と共にそうつぶやいて、ゆっくりと窓を閉じた。
「あ、そうだ。いいことを思いついた。」
そうつぶやくと、鋭い美しさを持つメイド長は誰にも見せないような笑顔を浮かべ自らの職務をこなすためにまた館内をかけずり回るのであった…
しんしんと、しんしんと。紅い悪魔達が住む館に、雪が降り積もる。
しんしんと、しんしんと。
こうして夜は更けていった…
翌日
咲夜は人間の里へときていた。メイド服に、何年着たかもわからない古コート。
異様なほど目立っていたが、彼女に向けられる視線はそれほどきついものでもなかった。
まぁ、それもそのはずだ。ここは比較的妖怪の住む場所に近い里。天狗やらが酒を飲みに来るのも珍しくない。聞いた話だと最近は鬼もくるのだとか何とか。
そんな奇妙で異常な状況に順応してしまっている里の中では、奇妙な服装と言うくらいではなんの警戒の対象にもなりはしない。
「それにしても…、にぎやかですね。」
朝とはいえ、市はそんなことをお構いなしに騒がしくにぎわっていた。
老若男女、だれかかれ構わず、せかせかと何かしらの目的を持って動き回っている。
師が走る、と書いて師走。その字面にあたがわない忙しさだった。
恐らくは年越しの準備のためだろう。今頃紅魔館では、妖精メイドや小悪魔が同じようにせかせかと飛びまわっているはずだ。
「え、あ、きゃあっ!」
ぼんやりと考え事をしていたメイド長は、不意にどんっ、と背中に衝撃を感じて前につんのめった。危うく転ぶところだった。
「おっと、すまん!大丈夫かお嬢ちゃん!」
振りかえると、風呂敷を担いだ男性が手を合わせて申し訳なさそうに頭を下げている。
「あ、あぁ、いえ、こちらこそすいません…。」
こんな人通りの多い場所で考え事をしていれば、ぶつかられても文句は言えないだろう。
きょろきょろとあたりを見回す、ふと、緑の暖簾に、すれた白い文字で服、と書いてある店が目に入った。
「まずはあのお店からにしましょう」
ダメだったら別の店に行けばいい。咲夜はそんな軽い気持ちで呉服屋の暖簾をくぐった。
「お…おお…これは…」
外観通り、決して広いとは言えない店内だったが、所狭しと服が並べてあり、品ぞろえは悪いとは言えなかった。
いや、それどころか壁が見えないほどに服や布がおいてある風景は、どこか見るモノを圧倒する迫力がある。
「あいよ、いらっしゃい、銀髪のお嬢ちゃん。」
人がよさそうな笑顔を張り付けた、初老の男性が出迎えてくれた。他に気配がないところを見ると、どうやらここの店主らしい。
「見ない顔だね、どこから来たんだい?…っと、こんなことを聞くのは野暮ってヤツだね。すまない。で、何をお探しだい?」
「ええ、少し贈り物を探しに…。少し自由に見て回らせていただいても結構ですか?」
「はは、了解さ。回る、なんて言葉も使えるかどうかも怪しいくらい狭い店だけど、品ぞろえだけには自信があるからね、じっくりと見て言っておくれよ?はっはっは!」
大口を開けて店主は笑った。陽気な人物だ。
壁一面にかけられた服をまじまじと眺めていく。それはまるで獲物を探す鷹の様だった。
―――一体どれが美鈴に似合うかしら?
里のモノが来ているようなモノは…流石に似合わなさそうだ。
ここは定番として、着物を買っていくのはどうだろう?とも思ったのだが、想像してみるとあまり似合わない。
というか、チャイナドレス以外を着ている彼女の姿がなかなか想像できない、という理由もあったのだけれど。
あーでもない、こーでもない、と無駄に時間をつぶし、やはり香林堂に行くべきだったかしら…と思い始めた時、その服は視界に入った。
瞬間、びびっ、と来た。一目ぼれだった。
昨晩見た雪のように、真っ白なコート。汚れ一つなく、ただただ白いコート。
これならば、チャイナドレスの上からでも切ることができる。それに、フードもついていた。防寒具としてもこれ以上ないほど適任だろう。
値段は書いていなかったが、彼女に躊躇する気などはさらさらなかった。多少高くても、今ならポン、とだす自信があった。
折角見つけたお宝を、誰かに渡すような真似はごめんだ。とでも言わんばかりに。
「あ、店長さん、すいません、これ、頂いてもいいですか?」
雪の白いコートから視線を動かさないまま、店主に声をかける。
少しでも目を離したら、溶けてしまいそうな気がして。
「あいよー。って…あぁ…この服かい…。うーん、これはちょっと…」
店主は申し訳なさそうに顔を歪めると、歯切れ悪くぽつりぽつり、とつぶやいた
「え?なにか問題が?」
「いやな…その服な、昨日別のお客さんが欲しい、って言ってきたんだよ…」
「あ…もしかして予約済みだったり…?」
どうやら折角見つけた宝箱は、すでに他人によって開かれていたらしい。
「いや、そうじゃないんだ…それに近いものではあるが。彼女、金が足りなかったらしくてな。金が工面でき次第来るから、それまで取っておいてくれ、と言われたんだよ…。でもこっちも商売だからな、来るかどうかわからないお客さんのためにいつまでも商品、それも高いものを取っておくわけにはいかなくてよ…。」
苦々しげに店主がつぶやく。本人としてはその娘のために取っておいてやりたいのだろう。
だが彼にとってもこれは商売だ。くるかもわからな待ち人のために商品を取っておくことなどできない。特に、何かと金が要り用になる12月では。
「あんた、どうしてこの服が欲しいのか教えてくれないかい?理由によっちゃ考えてやっても良いんだが…」
うーん、と頭を書きながら店主は苦し紛れに言った。
―正直人に理由を話すには気が引けるわね…。
でも、まぁ、隠すほどやましい事ではないし、と咲夜は口を開く。
「贈り物にするつもりだったんです。働き者で、能天気で、底抜けに優しい私の親友、いえ、大切な人のために…。」
咲夜はため息交じりに目を閉じて、腕を組んでいた。
きっと今、彼女の脳裏にはあの底抜けに明るい笑顔が浮かんできているのだろう。
雨の日も風の日も、雪の日も雷の日も。ただただ和やかな空気を漂わせて門にたっている彼女の。バカなくらいに実直で、だけどどこが抜けている彼女の。
「あの娘ったらバカなんですよ?こんな寒いのに、薄い服一枚来ただけで外での仕事をこなすんですから…。自分の体の事も考えて欲しいですよホントに。」
昨日に限ったことではない。おとといも、そのまたさきおとといも。彼女はそこを動かない。
「元気なのが私の唯一のとりえですから、なんてよく言ってごまかすんですけどそれとこれとは違うと思うんですよ。いくら体力自慢だからってそんな無茶してればいつか倒れるにきまってるでしょう?。こっちの方がひやひやしますよホント。それに唯一のとりえなんてバカなこというんですよ?いいところ沢山なあるのになんであの娘は気づかないんでしょう?あの素直さの一部でも分けてもらえれば私はもっと楽にあの娘とやれたのに。そもそも見る人を癒すあの笑顔だけでも私は―――」
そこまでまくしたてて、しまった、とでもいいたげに、彼女は口をふさいだ。そしてちらり、と横を見る。先ほどまで渋い顔をしていた店主が、にっこりとほほ笑んでこちらを向いていた。なにか微笑ましいものを見るかのように。
「君は―――その娘の事が好きみたいだね?」
店主はゆっくりと口を開くと、優しくそう話しかけた。
「べ、別にそういうわけじゃありませんよ?ただ、自分の価値を認めないおバカさんにいら立っていただけです!」
手を大きく開いて否定する。その姿はまるで、小さな子供が好きな子にバレンタインデーのチョコレートを上げたことを茶化されたのを否定するかのようだった。
「ははは…そういうことにしておいてあげるよ…」
瀟洒なメイド長は、なにか納得のいかない者を感じつつも言う事が思いつかず閉口した。
「うん…いいよ、売ってあげるよ。この服。」
「本当ですか!?」
「でも、できれば一週間待ってほしいな。あの娘も君と同じようなこと言ってたんだよ。できれば僕は、君たちに話しあって納得して決めて欲しいんだ。一応先約は彼女だったしね…」
ごめんね、と手のひらを合わせて店主はあやまる。
「仕方ありませんね…。一週間後、また来ます。…で、帰る前にちょっと質問なんですが、その娘は何のためにこの服は欲しいと?あ、いえ、少々気になったので…」
「君と同じ理由さ。大切な人に贈りたい。だったよ。なんだったっけかな、『働き者な大切な人に贈りたいんです。だれよりも働いている彼女なのに彼女自身の服装には気をかけなくて、いまだにボロの上着を使っているから、このきれいな上着を贈りたいんですよ。』だったかな?」
「それは…いい娘ですね。」
咲夜が小さく微笑んだ。店主もつられて小さく微笑んだ。今ここにはいない、優しい娘を思って。
「ではまた。」
愛想のよい店主の笑いを背に、咲夜は店の外へと出た。
目的は果たせなかったものの、何か満たされたモノを貰って。
――1週間後、里にて
「……、そうですか」
咲夜は頭を抱えた。どうやら件の彼女はお金の工面に成功したらしい。
壁紙のように張られた膨大な量の衣服が、彼女を見つめる。僕を、僕を連れて行ってはどうだい?と。
だがその誘惑はどれも徒労に終わった。世の中には妥協できるものと妥協できないモノがある。今回のモノは間違いなく後者だ。相手が相手故に。
「なあ、お嬢ちゃん。提案があるんだが」
おずおずと店主が切り出す。
「提案?なんですか?」
半ば上の空で咲夜が返した。
「全額、今日前払い、とかできるか?」
「え?可能には可能ですが…」
「それをなら話は早い。お願いだ、そうしてくれないか。」
店主が机の上に手をついて、頭を下げる。咲夜は突然の行動に驚いて、頭を上げるよう小さく言ったが、店主はガンとして頭を上げなかった。
「もし払ってくれたら、それをもとに、何とかしてアレと同じ布を集めてみせる。」
「わ、わかりました。」
店主の熱意に半ば困惑しながらも、咲夜は、自分の財布からありったけのお金を差し出した。どうせこれ以外に使うところはほとんどないのだ、と。
「恩に着るよ。」
「その言葉は私が言うべき言葉ですよ。とてもありがたいことですが、なんたってそれほどまで熱心に…」
あごひげをなぞりながら、店主が天井を眺め、ひとり言のようにつぶやいた。
「なんでだろうなァ…。しいて言えば嬉しいからかな?俺の作品を、人が笑顔で買ってくれることが。俺はそれに全てをかけることができる」
彼は商人であった。だけれど、それ以前に職人であったのだ。自分が作った服が笑って着られるのが好きだったのだ。世の中にはお金に変えられない価値があるという。彼もそれを大事にしている人間の一種だったのだ。
「それに、もう1人の嬢ちゃんからも頼まれたからな。他人ごととは思えないから、何とかならないか、って」
「バラしたんですか…?」
「ああ、うぅ…む。ちょっと話をしたときに、な。べ、別に特定できるような事は言ってないから安心してくれよ。…すまなかった」
わたわたと手を動かして店主が弁明したする。咲夜にじーっと見つめられたあと、店主は観念したように頭を垂れて謝った。
「別にそれが私に不利益を及ぼすわけでもないですし、まぁいいですが…。」
店主が、ほっ、と、息を吐いた。
「ふふ、色々とありがとうございました。また、来週来ます。」
目的のモノは手に入らなかった。けれど、手ぶらではなかった。形はないモノだけれど。
――再び一週間後。人間の里にて。
早朝とはいえ、相変わらず人間の里は今日もにぎわっている。前回来た時と同じか、あるいはそれ以上か。
そんな風景をしり目に、咲夜は再び服屋の前に立っていた。
月日が流れるというのは早いものだ。
あるひとは、光陰矢のごとし、と言ったが、そのたとえは矢ではなく銃弾でもなんら問題は無い早さだろう。超音速戦闘機でも不思議ではない。
過ごしている時は長く感じられていても、振り返ってみれば短い物である。
「はっやいわねぇ…本当に。」
はぁ…と白い息を吐きだした咲夜がつぶやいた。
彼女が前回この里に来たのは一週間前のことだったが、彼女にはまるで一日前のことのように感じられていた。
大掃除に、年明けの用意、あぁ…あの激務はもう思い出したくないわ…
攻撃を受けた空母内がごとく、妖精メイド達があわただしく飛び回っていた数日間。
あの時の紅魔館はまさに戦場と呼ぶのにふさわしかった。
並みはずれた忙しさと言う物は人の時間の間隔をも狂わせるものだ。ましてやそれが締め切った巨大な館の中ならなおさら。
――いやいや、こんなこと考えるのはもうよしましょう。いまは大事な用でここにきてるんですから。
小さく首を振ってその悪夢を振り落とす。
「すいません。」
身を彩る物を売る店に似使わない、ぼろい暖簾を押して店内へと押し入った。
「あぁ、いらっしゃい。やっと来たな。」
相変わらず陽気な店主が出迎えてくれる。壁を埋め尽くすかのように服が飾られた店内も変わらない。これで壁の掃除ができるのか?とだれしもが不思議に思うほどの密度を誇っている。
そしてあのコートも相変わらず、雰囲気に似合わずその場に鎮座していた。
その様子を見て、咲夜は、安堵から息を吐いた。
「ご無沙汰しておりました。」
「そんなかしこまった返事をしないでくれよ。こっちが困るじゃないか」
店主が腰に手を当てて遠慮なく大笑いをした。
これでは一体どちらが接客する側でどちらが接客される側なのかわかったものではない。
「まってたよ、お嬢ちゃん。ほれ、お目当ての品物だ。もってきな」
そういって、目の下にクマを作った店主は、壁に掛けてあったコートを慎重にたたんで、ベージュの袋に入れて、そっと渡してくれた。
どれほどの労力を費やし、この品物、いや作品を仕上げたのだろうか?
しかしまあ、それを聞くのは野暮というものだろう。
店主は苦労を一片も感じさせず、無造作にそのコートを差し出したのだ。私も、それを気負いなく受け取らなければならない。
受け取った袋は思った以上に重かった。糸と糸の情熱と優しさという見えない糸が紡がれているからだろう、と咲夜は思った。
そっと、袋の中を覗く。作品は一週間前に見た者と違わずなめらかで薄く輝いていた。
「ありがとう。本当に」
まっすぐに見つめて、そうお礼を言った。心からの言葉だった。気がつけば、口角が上がっていた。
「ああ、こっちこそいい仕事をさせてくれて感謝してるよ。」
屈託なく店主も笑った。
「もう一人の彼女はさっき取りに来たよ。今頃は思い人のもとにスキップでもしながら行ってるんじゃないかな」
「それは…、私も負けられませんね。じゃあ私は空を飛びましょうか」
大口を開けてまた、店主が笑った。釣られて咲夜も小さく声を出して笑った。
では、と言って店から出ようとしたとき、後ろからまた声がかけられる。
「いいクリスマスを」
「あら、一体その言葉を何処で…?」
「あんたの前に来た嬢ちゃんが行ってたよ。12月25日、大切な人と一緒に過ごす日の事だってね。」
「ええ、そうですね。あなたも、よいクリスマスを」
その言葉を背に、暖簾を分けて呉服店を出た。ちらり、と店主が大あくびをしているのが視界の端に映った。
十数分しかいなかったはずなのに、もう日が傾きかけて、色がオレンジに近くなっている。温度も着た時よりだいぶ下がっていた。
幸か不幸か、雪も振っている。結構勢いが強い。これならホワイトクリスマスは確定だろう。
ひゅう、と風が吹いて、擦り切れたカーキのコートの隙間から冷気が流れ込む。ぶるっ、とメイド長は体を震わせて、帰路を急いだ。傘は持っていなかったから、その銀の髪の上に白い雪が降り積もっては解けて濡れていた。袋が濡れないように、ぎゅっと胸に抱く。
明日は12月25日、クリスマスデイ。
風邪を引いて布団の中で夢をずっと見ていた、で終わったのでは、報われない。
でもそれ以前に、プレゼントするまえにこれがぐちゃぐちゃになってしまったらさらに報われない。
気がつけば彼女は小走りになっていた。
里をはずれ、紅悪館へ繋がる林道まで来た時、咲夜は目の前に見慣れた人影があることに気付いた。緑のチャイナドレスに、同じく緑の帽子。長いオレンジ色の髪。
見間違える事など無かった。
走って、彼女に追いつこうとする。彼女も後ろからの気づいたらしく、顔をひねって、後ろを向く。
「あれ、咲夜さん?どうしたんですか?こんな時間にこんなところで」
「それは私のセリフよ。」
鼻をすすりながら、美鈴の傍に立った咲夜が言った。髪の上には、一片の雪がシュシュのように乗っかっていた。同じ様に、美鈴の帽子も上半分が白くなっている。
「ちょっと、ね。用事があったんですよ。」
咲夜がまた鼻をすすった。
「私もそうよ。」
「奇遇ですね。」
「奇遇よね。」
どちらからともなく、歩くスピードを緩めていた。外は寒い、普通なら一刻も早く帰りたいはずだろうが、2人で並んで歩いているこの時間は、彼女たちにとって、寒さを我慢するのに値するものだったらしい。
「咲夜さん、そんなコートで寒くありませんか?所々すれて穴あいてるみたいですけど」
じっ、と美鈴が咲夜を眺めた。室内できている冬用のメイド服の上に、コートを一枚はおっているだけ。そのコートも白アリが喰った材木のごとく穴がそこかしこにあいている。
「そうね、ちょっと寒いわ。でも貴方の方はどうなのよ。」
今度は咲夜が美鈴の服装を指摘する版だった。変わらない。いつもと変わらないチャイナドレス姿だ。
「私は鍛えてますから。」
「鍛えただけで寒さを感じなくなるなら、今頃村の人間はみんな筋肉だるまだらけになってるわ。」
くすっと、美鈴が笑う。その横顔を、オレンジの光りが照らした。
「ねぇ、昨夜さん、明日が何の日かしってます?」
「何の日でしょうね?知らないわ。年末明日が忙しくなるってことだけはわかってるけど。」
咲夜がすっとぼけたふりをする。プレゼントは、貰えるとわかっていてもらえるのもうれしいが、突然、思いがけない時に貰えた時が一番うれしいものなのだ。
「外の世界ではクリスマスっていうらしいですよ!新聞屋の烏天狗さんが教えてくれました。大切な人にプレゼントをあげて、一緒に過ごす日なんですって。」
再び咲夜が鼻をすすった。手をすり合わせて、口もとに持っていき、ハァーと小さく息を吐いた。指の先が、寒さで少し白くなってきていた。
「へぇ、そうなの」
そう言った裏で、咲夜は少しがっかりしていた。これでは予想がつけられてしまうではないか。あの文屋め、厄介なことをしてくれる。と、恨み事を胸中でつぶやいていたが、だからと言ってどうなるものでもない。
「だから、あの、咲夜さん。少し早いけれど、寒そうだから、これを、どうぞ」
顎に手を挙げて、苦々しく眉をひそめていた咲夜の前に、地面に敷き詰められた新雪と同じくらいに白で、純白のたたまれた衣服が差し出されていた。
「え…これ…、これ…?」
咲夜は左肩にかかっているコート入りのカバンをちらりとみた。もちろん、その中には例のモノが汚れ一つなく入っている。
―じゃ、じゃあこれは…?
「わ、私からの、クリスマスプレゼントです」
おずおずとそれを美鈴の手の上から取って、目の前で広げた。
彼女がいつか切望し、いつかあきらめ交じりに眺め、そして今日ついに手に入れたあのコートと同じようにそれは姿を現した。世界に二着しかないコート。優しい職人の手作りのコート。
ふと、脳裏にあの言葉が思い出された。
『君と同じ理由さ。大切な人に贈りたい。だったよ。』
その言葉が反芻される。単純な文章なのに、衝撃的すぎて一回では理解できなかったのだ。
―――私が、大切な人?私が、大切な人。私が… 私が?そんなわけないじゃない。私は美鈴にそんな風に思われる筋合いなんて…。毎日厳しくあの子を叱ってる。時には叩いたことだってある。それは彼女のためを思っての事なのは間違いないけれど…でもそれは…。
『君と同じ理由さ。大切な人に贈りたい。だったよ。』
もう一度、その言葉が響いた。それだけで十分だった、
気がつけば、彼女は泣いていた。目頭が熱くなっていて、涙が頬を流れていた。
親におられた子供が泣きじゃくるようにではない。ただただ、あふれ出る涙が止まらなかったのだ。
手で顔を覆ったり、拭ったりすることも、彼女の頭からは消えていたようで、驚きで固められた顔の上に、二つが小川が作られていた。形の良い顎へとながれた涙は、落ちて雪を溶かす。
「さ、咲夜さん!?な、泣かないでもいいじゃないですかー!そんなに私がプレゼントを用意してるのが以外だったんですか!?」
あたふたと、美鈴が慰める。その様子は、焦りが4割、驚きが4割、そして嬉しさが2割、というところだった。
「ちがうわ…ちがうのよ。」
そう涙声でつぶやく。そうだ、確かにプレゼントもうれしかった。だけど、彼女にとって、それが一番うれしかったのではない。
涙でぐしゃぐしゃな顔を、咲夜はさっきとは打って変わって、子供のように手で拭いて、肩にかけたバックを胸の前に持ってきた。手を拭いて、そっと、中の大切なモノを取り出す。
同じように白くて、同じ様に優しさで包まれていて、同じ様に苦労して買われた、世界に二着しかないコートを。
そしてそれを、晴れ渡った笑みと共に、美鈴へと差し出し、こういった。
「貴方も寒そうだから、これ着なさい。私からのクリスマスプレゼントよ」
「ありがっ…んぇ?こ、これ、私のと同じ…。」
手渡された美鈴は、事態がわからず、素っ頓狂な声をだして、そのプレゼントを受け取り、咲夜とコートを交互に眺め、驚きに表情を固めていた。
「えっ?じゃあ、私と重なってたのってまさか…」
だけどその数秒後、今度はその贈り物が秘めた意味を理解したは美鈴が泣きだす版だった。淡く抱いていた思いが、現実のものとなったことをしって。
それに釣られて咲夜も再び泣いた。でも今度は、笑い声を上げながらながら。
嬉しいから泣いっているのだ。咲夜も、美鈴も嬉しすぎて涙が止まらないのだ。
2人分の笑い声と泣き声が、林の中にどこまでも響いて言った。
両者ともに、長年縮めたいと思ってた距離。でも、ぬるま湯のように心地よい安定した関係が崩れてしまうのが怖くてから縮められずにいた距離。それはもう存在していなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
泣きやんだのはいつだっただろうか。
「ねぇ咲夜さん?手、寒くないですか?」
気がつけば雪は止んでいた。
「そうね。やっぱり手袋も買ったほうが良かったかしら?」
2人並んで先ほど降り積もった白いカーペットの上を歩いていた。
「そうかもしれません。でも、無いモノは仕方ないですよね…」
えへへ、となぜか美鈴はごまかし笑いをして、意を決したように切りだした。
「そ、その、私、もっと簡単に手が暖かくなる方法知ってるんですけど、どうします?」
照れたようにそうつぶやいた。銀世界の中で、赤くなった美鈴の頬がはっきりと浮かび上がる。
「そう、奇遇ね?私も知ってるのよ。」
勇気を出したはずの美鈴の方も見ず、咲夜はそっけなくそう返した。
「えっ?それってどういう―――――――――」
ぎゅっ、と、暖かなメイド長の手のひらが、優しい門番の手のひらを包み込んだ。
優しい門番は、呆然として状況が飲み込めないらしく、銀の髪を揺らすメイド長の横顔をただぼんやりと、見ていた。
「こ、こうすれば暖かいわよ?」
先ほどと変わらず、ただまっすぐに前を見たメイド長が仏頂面で小さくつぶやく。ただ、先ほどまで異様なほどに平坦だった声は、一点して上ずった物に変わっていたが。
「ふ…うふふ…、そう、そうですよね!」
ぎゅっ、と門番も手を握り返した。その顔には、満面の笑みが浮かんでいる。それはまるで、季節を間違えた向日葵が咲いたかの様な笑顔だった。
メイド長はちらりと横目でその笑顔を視界に入れると、すぐに仏頂面のまま、前を向いた。
だだ、その頬はうっすらとあかく、口元は小さく動いていて、いまにも頬笑みがこぼれそうだった。
木々も銀に化粧をした森の小道。
さくっ、さくっ、と、重なった二つの足音だけが小道に響く。
どちらが合わせたのかは知らないが、寸分も狂いのない同じ歩幅の足跡が何処までも。
ただ、柔らかい雪を踏みしめながらまっすぐと。
「…暖かいわね。」
照れた表情で、白い息と共に吐き出された言葉は春の様な暖かさをたたえていて。
「そうですね…。」
そうにっこりと返事を返す門番の声も、同じ様に暖かくて。
後はもう言葉もなく、2人は体温を共有して歩いてゆく。
伝えたいことは沢山あるのだろうけど、彼女たちにとって言葉を交わす必要などはなかったから。
繋いだその手と、二着の白いコートが全てを代弁してくれていたから。
温まったのは手のひらか、それとも心の中か。
新雪が積もる道の中、そうして近かったふたつの足跡は、さらに距離を縮めた。
しっかりと手をつないで、ふたつの足跡を残していく。
空に浮かんだ銀の皿が、2人の行く先を明るく照らしていた。
しんしんと。しんしんと。
幻想郷の大地にどこからともなく雪が降りつもる。
真綿の様な柔らかさをたたえた雪は、音もなく地面を覆っていく。
月の光を反射して銀のナイフのように光る雪はそれだけで一つの芸術のようだ。
「もう冬ね……。いえ、もう冬だったのね。」
瀟洒なメイド長は雪を見て、改めて冬だと感じた。温度も湿度も快適に抑えられている紅魔館内は一年中快適な空間だ。カレンダーを見なければ季節の感覚などすぐになくしてしまうだろう。
深い蒼色の空から白い輝きが降り注ぐその風景は名のある絵描きが心血を傾けて作り上げた一枚の絵画のようだった。
それに触れんとしてゆっくりと窓を開ける。
炎さえ凍らせてしまいそうな冷たい空気が肌を刺す。
寒いのはそれほど好きではないが、いまはそれも心地よい。
まるで一年の終わりを告げるような冷たさだ。
今頃、どこぞの氷精は大喜びで、この静寂に満ちた冬の夜を中で飛び回っているのだろう。
「雪だ、雪だー!やったー!やったー!」とでも騒ぎたてながら。
一片の曇りもない、純粋な水を凍らせて作った氷像の様な笑顔を浮かべて。
汚れなき雪の中を舞う、あどけない心をもったおちびさん。
バカと揶揄されるほどに素直な妖精。それは何物にも侵されない澄んだ、美しい空間なのだろう。
四角に切り取られた額縁に陶器で作られたかのような腕が入っていく。
白く、細い指を夜風が優しく撫ぜる。月の光がそっと手のひらを包む。
ひらひらと舞い踊る雪が、ふわりと手のひらにおちた。
そしてすぐ、鳥の羽よりも軽い冬の欠片は、はらりと溶けた。
それは手の熱によるものか、それとも自分より綺麗なモノに触れて、自らを恥じてのものか。
そんな現代によみがえったサイレントフィルムの様な世界を、紅魔館の門辺りから響いた『へくちゅっ』という場違いな音が粉々に打ち砕いた。
彼女にとってはよく聞きなれた声。誰かは確認するまでもなくわかる。
「あの子……」
降りしきる雪と月の光の中。永い時を経てくすんだ赤レンガでできた門は、白に浸食されつつもなんとかその色を主張している。
目を凝らすとその横で震える紅の人影が見えた。
その人影は門同様、半分雪で覆われていたが、かすかにふるえているのが見て取れた。
「あの子は…。ホント、おバカさんね。一言いってくれれば館の中に入れてあげるのに…。」
そう、小さくつぶやいた。それは自らの身をかるんずる不出来な門番を責めるようでもあり、慈しむ様でもあった。
「それにもっと暖かい服、着ればいいのにね…。」
そして再び、ため息と共にそうつぶやいて、ゆっくりと窓を閉じた。
「あ、そうだ。いいことを思いついた。」
そうつぶやくと、鋭い美しさを持つメイド長は誰にも見せないような笑顔を浮かべ自らの職務をこなすためにまた館内をかけずり回るのであった…
しんしんと、しんしんと。紅い悪魔達が住む館に、雪が降り積もる。
しんしんと、しんしんと。
こうして夜は更けていった…
翌日
咲夜は人間の里へときていた。メイド服に、何年着たかもわからない古コート。
異様なほど目立っていたが、彼女に向けられる視線はそれほどきついものでもなかった。
まぁ、それもそのはずだ。ここは比較的妖怪の住む場所に近い里。天狗やらが酒を飲みに来るのも珍しくない。聞いた話だと最近は鬼もくるのだとか何とか。
そんな奇妙で異常な状況に順応してしまっている里の中では、奇妙な服装と言うくらいではなんの警戒の対象にもなりはしない。
「それにしても…、にぎやかですね。」
朝とはいえ、市はそんなことをお構いなしに騒がしくにぎわっていた。
老若男女、だれかかれ構わず、せかせかと何かしらの目的を持って動き回っている。
師が走る、と書いて師走。その字面にあたがわない忙しさだった。
恐らくは年越しの準備のためだろう。今頃紅魔館では、妖精メイドや小悪魔が同じようにせかせかと飛びまわっているはずだ。
「え、あ、きゃあっ!」
ぼんやりと考え事をしていたメイド長は、不意にどんっ、と背中に衝撃を感じて前につんのめった。危うく転ぶところだった。
「おっと、すまん!大丈夫かお嬢ちゃん!」
振りかえると、風呂敷を担いだ男性が手を合わせて申し訳なさそうに頭を下げている。
「あ、あぁ、いえ、こちらこそすいません…。」
こんな人通りの多い場所で考え事をしていれば、ぶつかられても文句は言えないだろう。
きょろきょろとあたりを見回す、ふと、緑の暖簾に、すれた白い文字で服、と書いてある店が目に入った。
「まずはあのお店からにしましょう」
ダメだったら別の店に行けばいい。咲夜はそんな軽い気持ちで呉服屋の暖簾をくぐった。
「お…おお…これは…」
外観通り、決して広いとは言えない店内だったが、所狭しと服が並べてあり、品ぞろえは悪いとは言えなかった。
いや、それどころか壁が見えないほどに服や布がおいてある風景は、どこか見るモノを圧倒する迫力がある。
「あいよ、いらっしゃい、銀髪のお嬢ちゃん。」
人がよさそうな笑顔を張り付けた、初老の男性が出迎えてくれた。他に気配がないところを見ると、どうやらここの店主らしい。
「見ない顔だね、どこから来たんだい?…っと、こんなことを聞くのは野暮ってヤツだね。すまない。で、何をお探しだい?」
「ええ、少し贈り物を探しに…。少し自由に見て回らせていただいても結構ですか?」
「はは、了解さ。回る、なんて言葉も使えるかどうかも怪しいくらい狭い店だけど、品ぞろえだけには自信があるからね、じっくりと見て言っておくれよ?はっはっは!」
大口を開けて店主は笑った。陽気な人物だ。
壁一面にかけられた服をまじまじと眺めていく。それはまるで獲物を探す鷹の様だった。
―――一体どれが美鈴に似合うかしら?
里のモノが来ているようなモノは…流石に似合わなさそうだ。
ここは定番として、着物を買っていくのはどうだろう?とも思ったのだが、想像してみるとあまり似合わない。
というか、チャイナドレス以外を着ている彼女の姿がなかなか想像できない、という理由もあったのだけれど。
あーでもない、こーでもない、と無駄に時間をつぶし、やはり香林堂に行くべきだったかしら…と思い始めた時、その服は視界に入った。
瞬間、びびっ、と来た。一目ぼれだった。
昨晩見た雪のように、真っ白なコート。汚れ一つなく、ただただ白いコート。
これならば、チャイナドレスの上からでも切ることができる。それに、フードもついていた。防寒具としてもこれ以上ないほど適任だろう。
値段は書いていなかったが、彼女に躊躇する気などはさらさらなかった。多少高くても、今ならポン、とだす自信があった。
折角見つけたお宝を、誰かに渡すような真似はごめんだ。とでも言わんばかりに。
「あ、店長さん、すいません、これ、頂いてもいいですか?」
雪の白いコートから視線を動かさないまま、店主に声をかける。
少しでも目を離したら、溶けてしまいそうな気がして。
「あいよー。って…あぁ…この服かい…。うーん、これはちょっと…」
店主は申し訳なさそうに顔を歪めると、歯切れ悪くぽつりぽつり、とつぶやいた
「え?なにか問題が?」
「いやな…その服な、昨日別のお客さんが欲しい、って言ってきたんだよ…」
「あ…もしかして予約済みだったり…?」
どうやら折角見つけた宝箱は、すでに他人によって開かれていたらしい。
「いや、そうじゃないんだ…それに近いものではあるが。彼女、金が足りなかったらしくてな。金が工面でき次第来るから、それまで取っておいてくれ、と言われたんだよ…。でもこっちも商売だからな、来るかどうかわからないお客さんのためにいつまでも商品、それも高いものを取っておくわけにはいかなくてよ…。」
苦々しげに店主がつぶやく。本人としてはその娘のために取っておいてやりたいのだろう。
だが彼にとってもこれは商売だ。くるかもわからな待ち人のために商品を取っておくことなどできない。特に、何かと金が要り用になる12月では。
「あんた、どうしてこの服が欲しいのか教えてくれないかい?理由によっちゃ考えてやっても良いんだが…」
うーん、と頭を書きながら店主は苦し紛れに言った。
―正直人に理由を話すには気が引けるわね…。
でも、まぁ、隠すほどやましい事ではないし、と咲夜は口を開く。
「贈り物にするつもりだったんです。働き者で、能天気で、底抜けに優しい私の親友、いえ、大切な人のために…。」
咲夜はため息交じりに目を閉じて、腕を組んでいた。
きっと今、彼女の脳裏にはあの底抜けに明るい笑顔が浮かんできているのだろう。
雨の日も風の日も、雪の日も雷の日も。ただただ和やかな空気を漂わせて門にたっている彼女の。バカなくらいに実直で、だけどどこが抜けている彼女の。
「あの娘ったらバカなんですよ?こんな寒いのに、薄い服一枚来ただけで外での仕事をこなすんですから…。自分の体の事も考えて欲しいですよホントに。」
昨日に限ったことではない。おとといも、そのまたさきおとといも。彼女はそこを動かない。
「元気なのが私の唯一のとりえですから、なんてよく言ってごまかすんですけどそれとこれとは違うと思うんですよ。いくら体力自慢だからってそんな無茶してればいつか倒れるにきまってるでしょう?。こっちの方がひやひやしますよホント。それに唯一のとりえなんてバカなこというんですよ?いいところ沢山なあるのになんであの娘は気づかないんでしょう?あの素直さの一部でも分けてもらえれば私はもっと楽にあの娘とやれたのに。そもそも見る人を癒すあの笑顔だけでも私は―――」
そこまでまくしたてて、しまった、とでもいいたげに、彼女は口をふさいだ。そしてちらり、と横を見る。先ほどまで渋い顔をしていた店主が、にっこりとほほ笑んでこちらを向いていた。なにか微笑ましいものを見るかのように。
「君は―――その娘の事が好きみたいだね?」
店主はゆっくりと口を開くと、優しくそう話しかけた。
「べ、別にそういうわけじゃありませんよ?ただ、自分の価値を認めないおバカさんにいら立っていただけです!」
手を大きく開いて否定する。その姿はまるで、小さな子供が好きな子にバレンタインデーのチョコレートを上げたことを茶化されたのを否定するかのようだった。
「ははは…そういうことにしておいてあげるよ…」
瀟洒なメイド長は、なにか納得のいかない者を感じつつも言う事が思いつかず閉口した。
「うん…いいよ、売ってあげるよ。この服。」
「本当ですか!?」
「でも、できれば一週間待ってほしいな。あの娘も君と同じようなこと言ってたんだよ。できれば僕は、君たちに話しあって納得して決めて欲しいんだ。一応先約は彼女だったしね…」
ごめんね、と手のひらを合わせて店主はあやまる。
「仕方ありませんね…。一週間後、また来ます。…で、帰る前にちょっと質問なんですが、その娘は何のためにこの服は欲しいと?あ、いえ、少々気になったので…」
「君と同じ理由さ。大切な人に贈りたい。だったよ。なんだったっけかな、『働き者な大切な人に贈りたいんです。だれよりも働いている彼女なのに彼女自身の服装には気をかけなくて、いまだにボロの上着を使っているから、このきれいな上着を贈りたいんですよ。』だったかな?」
「それは…いい娘ですね。」
咲夜が小さく微笑んだ。店主もつられて小さく微笑んだ。今ここにはいない、優しい娘を思って。
「ではまた。」
愛想のよい店主の笑いを背に、咲夜は店の外へと出た。
目的は果たせなかったものの、何か満たされたモノを貰って。
――1週間後、里にて
「……、そうですか」
咲夜は頭を抱えた。どうやら件の彼女はお金の工面に成功したらしい。
壁紙のように張られた膨大な量の衣服が、彼女を見つめる。僕を、僕を連れて行ってはどうだい?と。
だがその誘惑はどれも徒労に終わった。世の中には妥協できるものと妥協できないモノがある。今回のモノは間違いなく後者だ。相手が相手故に。
「なあ、お嬢ちゃん。提案があるんだが」
おずおずと店主が切り出す。
「提案?なんですか?」
半ば上の空で咲夜が返した。
「全額、今日前払い、とかできるか?」
「え?可能には可能ですが…」
「それをなら話は早い。お願いだ、そうしてくれないか。」
店主が机の上に手をついて、頭を下げる。咲夜は突然の行動に驚いて、頭を上げるよう小さく言ったが、店主はガンとして頭を上げなかった。
「もし払ってくれたら、それをもとに、何とかしてアレと同じ布を集めてみせる。」
「わ、わかりました。」
店主の熱意に半ば困惑しながらも、咲夜は、自分の財布からありったけのお金を差し出した。どうせこれ以外に使うところはほとんどないのだ、と。
「恩に着るよ。」
「その言葉は私が言うべき言葉ですよ。とてもありがたいことですが、なんたってそれほどまで熱心に…」
あごひげをなぞりながら、店主が天井を眺め、ひとり言のようにつぶやいた。
「なんでだろうなァ…。しいて言えば嬉しいからかな?俺の作品を、人が笑顔で買ってくれることが。俺はそれに全てをかけることができる」
彼は商人であった。だけれど、それ以前に職人であったのだ。自分が作った服が笑って着られるのが好きだったのだ。世の中にはお金に変えられない価値があるという。彼もそれを大事にしている人間の一種だったのだ。
「それに、もう1人の嬢ちゃんからも頼まれたからな。他人ごととは思えないから、何とかならないか、って」
「バラしたんですか…?」
「ああ、うぅ…む。ちょっと話をしたときに、な。べ、別に特定できるような事は言ってないから安心してくれよ。…すまなかった」
わたわたと手を動かして店主が弁明したする。咲夜にじーっと見つめられたあと、店主は観念したように頭を垂れて謝った。
「別にそれが私に不利益を及ぼすわけでもないですし、まぁいいですが…。」
店主が、ほっ、と、息を吐いた。
「ふふ、色々とありがとうございました。また、来週来ます。」
目的のモノは手に入らなかった。けれど、手ぶらではなかった。形はないモノだけれど。
――再び一週間後。人間の里にて。
早朝とはいえ、相変わらず人間の里は今日もにぎわっている。前回来た時と同じか、あるいはそれ以上か。
そんな風景をしり目に、咲夜は再び服屋の前に立っていた。
月日が流れるというのは早いものだ。
あるひとは、光陰矢のごとし、と言ったが、そのたとえは矢ではなく銃弾でもなんら問題は無い早さだろう。超音速戦闘機でも不思議ではない。
過ごしている時は長く感じられていても、振り返ってみれば短い物である。
「はっやいわねぇ…本当に。」
はぁ…と白い息を吐きだした咲夜がつぶやいた。
彼女が前回この里に来たのは一週間前のことだったが、彼女にはまるで一日前のことのように感じられていた。
大掃除に、年明けの用意、あぁ…あの激務はもう思い出したくないわ…
攻撃を受けた空母内がごとく、妖精メイド達があわただしく飛び回っていた数日間。
あの時の紅魔館はまさに戦場と呼ぶのにふさわしかった。
並みはずれた忙しさと言う物は人の時間の間隔をも狂わせるものだ。ましてやそれが締め切った巨大な館の中ならなおさら。
――いやいや、こんなこと考えるのはもうよしましょう。いまは大事な用でここにきてるんですから。
小さく首を振ってその悪夢を振り落とす。
「すいません。」
身を彩る物を売る店に似使わない、ぼろい暖簾を押して店内へと押し入った。
「あぁ、いらっしゃい。やっと来たな。」
相変わらず陽気な店主が出迎えてくれる。壁を埋め尽くすかのように服が飾られた店内も変わらない。これで壁の掃除ができるのか?とだれしもが不思議に思うほどの密度を誇っている。
そしてあのコートも相変わらず、雰囲気に似合わずその場に鎮座していた。
その様子を見て、咲夜は、安堵から息を吐いた。
「ご無沙汰しておりました。」
「そんなかしこまった返事をしないでくれよ。こっちが困るじゃないか」
店主が腰に手を当てて遠慮なく大笑いをした。
これでは一体どちらが接客する側でどちらが接客される側なのかわかったものではない。
「まってたよ、お嬢ちゃん。ほれ、お目当ての品物だ。もってきな」
そういって、目の下にクマを作った店主は、壁に掛けてあったコートを慎重にたたんで、ベージュの袋に入れて、そっと渡してくれた。
どれほどの労力を費やし、この品物、いや作品を仕上げたのだろうか?
しかしまあ、それを聞くのは野暮というものだろう。
店主は苦労を一片も感じさせず、無造作にそのコートを差し出したのだ。私も、それを気負いなく受け取らなければならない。
受け取った袋は思った以上に重かった。糸と糸の情熱と優しさという見えない糸が紡がれているからだろう、と咲夜は思った。
そっと、袋の中を覗く。作品は一週間前に見た者と違わずなめらかで薄く輝いていた。
「ありがとう。本当に」
まっすぐに見つめて、そうお礼を言った。心からの言葉だった。気がつけば、口角が上がっていた。
「ああ、こっちこそいい仕事をさせてくれて感謝してるよ。」
屈託なく店主も笑った。
「もう一人の彼女はさっき取りに来たよ。今頃は思い人のもとにスキップでもしながら行ってるんじゃないかな」
「それは…、私も負けられませんね。じゃあ私は空を飛びましょうか」
大口を開けてまた、店主が笑った。釣られて咲夜も小さく声を出して笑った。
では、と言って店から出ようとしたとき、後ろからまた声がかけられる。
「いいクリスマスを」
「あら、一体その言葉を何処で…?」
「あんたの前に来た嬢ちゃんが行ってたよ。12月25日、大切な人と一緒に過ごす日の事だってね。」
「ええ、そうですね。あなたも、よいクリスマスを」
その言葉を背に、暖簾を分けて呉服店を出た。ちらり、と店主が大あくびをしているのが視界の端に映った。
十数分しかいなかったはずなのに、もう日が傾きかけて、色がオレンジに近くなっている。温度も着た時よりだいぶ下がっていた。
幸か不幸か、雪も振っている。結構勢いが強い。これならホワイトクリスマスは確定だろう。
ひゅう、と風が吹いて、擦り切れたカーキのコートの隙間から冷気が流れ込む。ぶるっ、とメイド長は体を震わせて、帰路を急いだ。傘は持っていなかったから、その銀の髪の上に白い雪が降り積もっては解けて濡れていた。袋が濡れないように、ぎゅっと胸に抱く。
明日は12月25日、クリスマスデイ。
風邪を引いて布団の中で夢をずっと見ていた、で終わったのでは、報われない。
でもそれ以前に、プレゼントするまえにこれがぐちゃぐちゃになってしまったらさらに報われない。
気がつけば彼女は小走りになっていた。
里をはずれ、紅悪館へ繋がる林道まで来た時、咲夜は目の前に見慣れた人影があることに気付いた。緑のチャイナドレスに、同じく緑の帽子。長いオレンジ色の髪。
見間違える事など無かった。
走って、彼女に追いつこうとする。彼女も後ろからの気づいたらしく、顔をひねって、後ろを向く。
「あれ、咲夜さん?どうしたんですか?こんな時間にこんなところで」
「それは私のセリフよ。」
鼻をすすりながら、美鈴の傍に立った咲夜が言った。髪の上には、一片の雪がシュシュのように乗っかっていた。同じ様に、美鈴の帽子も上半分が白くなっている。
「ちょっと、ね。用事があったんですよ。」
咲夜がまた鼻をすすった。
「私もそうよ。」
「奇遇ですね。」
「奇遇よね。」
どちらからともなく、歩くスピードを緩めていた。外は寒い、普通なら一刻も早く帰りたいはずだろうが、2人で並んで歩いているこの時間は、彼女たちにとって、寒さを我慢するのに値するものだったらしい。
「咲夜さん、そんなコートで寒くありませんか?所々すれて穴あいてるみたいですけど」
じっ、と美鈴が咲夜を眺めた。室内できている冬用のメイド服の上に、コートを一枚はおっているだけ。そのコートも白アリが喰った材木のごとく穴がそこかしこにあいている。
「そうね、ちょっと寒いわ。でも貴方の方はどうなのよ。」
今度は咲夜が美鈴の服装を指摘する版だった。変わらない。いつもと変わらないチャイナドレス姿だ。
「私は鍛えてますから。」
「鍛えただけで寒さを感じなくなるなら、今頃村の人間はみんな筋肉だるまだらけになってるわ。」
くすっと、美鈴が笑う。その横顔を、オレンジの光りが照らした。
「ねぇ、昨夜さん、明日が何の日かしってます?」
「何の日でしょうね?知らないわ。年末明日が忙しくなるってことだけはわかってるけど。」
咲夜がすっとぼけたふりをする。プレゼントは、貰えるとわかっていてもらえるのもうれしいが、突然、思いがけない時に貰えた時が一番うれしいものなのだ。
「外の世界ではクリスマスっていうらしいですよ!新聞屋の烏天狗さんが教えてくれました。大切な人にプレゼントをあげて、一緒に過ごす日なんですって。」
再び咲夜が鼻をすすった。手をすり合わせて、口もとに持っていき、ハァーと小さく息を吐いた。指の先が、寒さで少し白くなってきていた。
「へぇ、そうなの」
そう言った裏で、咲夜は少しがっかりしていた。これでは予想がつけられてしまうではないか。あの文屋め、厄介なことをしてくれる。と、恨み事を胸中でつぶやいていたが、だからと言ってどうなるものでもない。
「だから、あの、咲夜さん。少し早いけれど、寒そうだから、これを、どうぞ」
顎に手を挙げて、苦々しく眉をひそめていた咲夜の前に、地面に敷き詰められた新雪と同じくらいに白で、純白のたたまれた衣服が差し出されていた。
「え…これ…、これ…?」
咲夜は左肩にかかっているコート入りのカバンをちらりとみた。もちろん、その中には例のモノが汚れ一つなく入っている。
―じゃ、じゃあこれは…?
「わ、私からの、クリスマスプレゼントです」
おずおずとそれを美鈴の手の上から取って、目の前で広げた。
彼女がいつか切望し、いつかあきらめ交じりに眺め、そして今日ついに手に入れたあのコートと同じようにそれは姿を現した。世界に二着しかないコート。優しい職人の手作りのコート。
ふと、脳裏にあの言葉が思い出された。
『君と同じ理由さ。大切な人に贈りたい。だったよ。』
その言葉が反芻される。単純な文章なのに、衝撃的すぎて一回では理解できなかったのだ。
―――私が、大切な人?私が、大切な人。私が… 私が?そんなわけないじゃない。私は美鈴にそんな風に思われる筋合いなんて…。毎日厳しくあの子を叱ってる。時には叩いたことだってある。それは彼女のためを思っての事なのは間違いないけれど…でもそれは…。
『君と同じ理由さ。大切な人に贈りたい。だったよ。』
もう一度、その言葉が響いた。それだけで十分だった、
気がつけば、彼女は泣いていた。目頭が熱くなっていて、涙が頬を流れていた。
親におられた子供が泣きじゃくるようにではない。ただただ、あふれ出る涙が止まらなかったのだ。
手で顔を覆ったり、拭ったりすることも、彼女の頭からは消えていたようで、驚きで固められた顔の上に、二つが小川が作られていた。形の良い顎へとながれた涙は、落ちて雪を溶かす。
「さ、咲夜さん!?な、泣かないでもいいじゃないですかー!そんなに私がプレゼントを用意してるのが以外だったんですか!?」
あたふたと、美鈴が慰める。その様子は、焦りが4割、驚きが4割、そして嬉しさが2割、というところだった。
「ちがうわ…ちがうのよ。」
そう涙声でつぶやく。そうだ、確かにプレゼントもうれしかった。だけど、彼女にとって、それが一番うれしかったのではない。
涙でぐしゃぐしゃな顔を、咲夜はさっきとは打って変わって、子供のように手で拭いて、肩にかけたバックを胸の前に持ってきた。手を拭いて、そっと、中の大切なモノを取り出す。
同じように白くて、同じ様に優しさで包まれていて、同じ様に苦労して買われた、世界に二着しかないコートを。
そしてそれを、晴れ渡った笑みと共に、美鈴へと差し出し、こういった。
「貴方も寒そうだから、これ着なさい。私からのクリスマスプレゼントよ」
「ありがっ…んぇ?こ、これ、私のと同じ…。」
手渡された美鈴は、事態がわからず、素っ頓狂な声をだして、そのプレゼントを受け取り、咲夜とコートを交互に眺め、驚きに表情を固めていた。
「えっ?じゃあ、私と重なってたのってまさか…」
だけどその数秒後、今度はその贈り物が秘めた意味を理解したは美鈴が泣きだす版だった。淡く抱いていた思いが、現実のものとなったことをしって。
それに釣られて咲夜も再び泣いた。でも今度は、笑い声を上げながらながら。
嬉しいから泣いっているのだ。咲夜も、美鈴も嬉しすぎて涙が止まらないのだ。
2人分の笑い声と泣き声が、林の中にどこまでも響いて言った。
両者ともに、長年縮めたいと思ってた距離。でも、ぬるま湯のように心地よい安定した関係が崩れてしまうのが怖くてから縮められずにいた距離。それはもう存在していなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
泣きやんだのはいつだっただろうか。
「ねぇ咲夜さん?手、寒くないですか?」
気がつけば雪は止んでいた。
「そうね。やっぱり手袋も買ったほうが良かったかしら?」
2人並んで先ほど降り積もった白いカーペットの上を歩いていた。
「そうかもしれません。でも、無いモノは仕方ないですよね…」
えへへ、となぜか美鈴はごまかし笑いをして、意を決したように切りだした。
「そ、その、私、もっと簡単に手が暖かくなる方法知ってるんですけど、どうします?」
照れたようにそうつぶやいた。銀世界の中で、赤くなった美鈴の頬がはっきりと浮かび上がる。
「そう、奇遇ね?私も知ってるのよ。」
勇気を出したはずの美鈴の方も見ず、咲夜はそっけなくそう返した。
「えっ?それってどういう―――――――――」
ぎゅっ、と、暖かなメイド長の手のひらが、優しい門番の手のひらを包み込んだ。
優しい門番は、呆然として状況が飲み込めないらしく、銀の髪を揺らすメイド長の横顔をただぼんやりと、見ていた。
「こ、こうすれば暖かいわよ?」
先ほどと変わらず、ただまっすぐに前を見たメイド長が仏頂面で小さくつぶやく。ただ、先ほどまで異様なほどに平坦だった声は、一点して上ずった物に変わっていたが。
「ふ…うふふ…、そう、そうですよね!」
ぎゅっ、と門番も手を握り返した。その顔には、満面の笑みが浮かんでいる。それはまるで、季節を間違えた向日葵が咲いたかの様な笑顔だった。
メイド長はちらりと横目でその笑顔を視界に入れると、すぐに仏頂面のまま、前を向いた。
だだ、その頬はうっすらとあかく、口元は小さく動いていて、いまにも頬笑みがこぼれそうだった。
木々も銀に化粧をした森の小道。
さくっ、さくっ、と、重なった二つの足音だけが小道に響く。
どちらが合わせたのかは知らないが、寸分も狂いのない同じ歩幅の足跡が何処までも。
ただ、柔らかい雪を踏みしめながらまっすぐと。
「…暖かいわね。」
照れた表情で、白い息と共に吐き出された言葉は春の様な暖かさをたたえていて。
「そうですね…。」
そうにっこりと返事を返す門番の声も、同じ様に暖かくて。
後はもう言葉もなく、2人は体温を共有して歩いてゆく。
伝えたいことは沢山あるのだろうけど、彼女たちにとって言葉を交わす必要などはなかったから。
繋いだその手と、二着の白いコートが全てを代弁してくれていたから。
温まったのは手のひらか、それとも心の中か。
新雪が積もる道の中、そうして近かったふたつの足跡は、さらに距離を縮めた。
しっかりと手をつないで、ふたつの足跡を残していく。
空に浮かんだ銀の皿が、2人の行く先を明るく照らしていた。
べったべたですね、でもまあこれはこれでありか。
咲夜さん真っ白なコートとっても似合いそうだなぁ。
やっぱ、大分暑くなってきたこの時期では感情移入が難しいですね。
加えて、店主の登場時、笑顔を張り付けた、では印象が悪いかと。
浮かべた、などならそんな事もないんですが……
あと、同じく店主への突っ込みですが、キャラが微妙に安定してないように見えました。
豪快な気の良いおっちゃんだったり、茶目っ気のある老紳士みたいなノリになったり……
あくまで個人的な所感ではありますが、どうしても気になったので……
点数はちょっと辛口に。
いい作品でした。