「よし、今日も開店準備完了」
これぞ私のお店、という感じで腰に手を当てて、満足げに笑みを浮かべるのは風見幽香。
ここは彼女が、太陽の畑と呼ばれるひまわり畑の中に造った喫茶店――その名も『喫茶かざみ』である。
清潔かつほんわかあったかい暖色系の色合いで店内は統一されており、ショーケースには見ているだけでも楽しくなるようなお菓子がたくさん。
左手側には小さいながらもイートインスペースがあり、いつも満席になるほどだ。
――ここは、彼女が客として迎えている人間たちが住まう人里からはかなり離れているのだが、毎日、繁盛している。彼女の作るお菓子が食べたい彼女に会いたいエトセトラ。
そんなこんなで、うまくやっていけている店であった。
「じゃあ……」
店のドアに『開店』の札を出してこようか。
幽香が踵を返したときだ。
「幽香、いる?」
「あら、アリス。いらっしゃい」
ドアを開けて、この店のもう一人の店主――アリス・マーガトロイドが現れる。
幽香が店を切り盛りする傍ら、資金面で、アリスは彼女をサポートしていた。もっとも、幽香の性格など色々なものが店の経営にとってマイナスになるので、結局のところ、店の経営のほとんどを担当しているのはアリスだったりするのだが。
「ちょうどよかったわ。表の札を架け替えて……」
「あなたにいい話を持ってきたの。
後で話すわ」
「へぇ」
その言葉の響きに、なにやら興味津々の幽香は、『楽しみにしているわね』とアリスに一言。
そうして、彼女は店の外へと歩いていく。
見事なひまわりの道がそこにある。そして、そこにはすでに、店の開店を今か今かと待つ人の行列。
彼女が札を架け替えた瞬間、彼らの足が動き始める。
「いらっしゃいませ」
――最近は、ずいぶんと、そんな言葉と笑顔が板についてきた幽香の挨拶が、店の営業スタートの合図 であった。
かざみの営業時間は、午前10時から午後5時まで。
途中、12時から1時間、あるいは1時から1時間、店主の休憩時間があったりする。
店の店員は幽香ただ一人。彼女が現在、接客と商品の補充を同時に行っている。
店に並ぶ商品は、基本的に洋菓子である。それらがあっという間に、人気商品から次々に売り切れて行く。しかし、やってきた客にがっかりさせることはあってはならない、と店の経営権をほぼ掌握するアリスは言う。
基本的に、売り切れになった商品を補充する時間などはない――そう、人々は考えるだろう。
しかし、それは、彼女には当てはまらない『常識』である。
「アリス。チョコレートケーキの追加、並べておいて」
「はいはい」
「あと、フルーツケーキに、こっちのいちごのムースに、ティラミスも」
「はいはい!」
カウンターから間続きになっているキッチンから、幽香が大量のケーキやら何やらを抱えて現れる。
それらを作成するのにかかった時間は、わずか5分であった。
「上海! それ、そっちじゃない! こら、西蔵! 遊ぶのは後にしなさい!」
アリスが連れてきた人形たちも、今日は店員として大わらわ。
やってくる客の列は途切れず、次から次へと『これください』『こっちのそれください』『あれください』の声。
「幽香! プレミアメロン売り切れ……!」
「はい追加」
「早っ!」
彼女、風見幽香は、幻想郷を裏から料理で支配する『料理界』と言う世界における『四天王』の一人であった。
『スイートキッチン』の異名を持つ彼女にかかれば、ケーキの1ホール程度、朝飯前。5秒もあれば種の作成から焼き上がりまでこなせるほどであった。
……なお、物理的に不可能な現象が起きていることは間違いないのだが、幻想郷では常識にとらわれてはいけないのである。
「むっ!? こら、そこ! 列に割り込むな!」
「そこの君! 商品は君だけのものではない! 手荒に扱うな!」
そして、なぜか店内に響き渡る威勢のいい声。
皆、一様に『ゆうかりんファンクラブ』という鉢巻を締めた紳士たちが、頼まれもしないのに勝手に店の中を仕切っている光景がそこにあった。
彼らは『ゆうかりんのために生きるのが我らの使命!』という男気に満ちた紳士たちであり、幽香の了解も得ずに彼女の手伝いをしてくれる、実に暖かい心を持った紳士たちであった。
「はい、午前の部、終了」
ちりんちりん、とカウンターの上に置かれたベルが鳴らされる。
「それじゃ、ちょっと休憩にしましょう。
アリス」
「あー、はいはい!」
まだ店内には客がいる。
彼らを人形たちを使って『すいません、休憩時間です』と外に送り出していく。ちなみに、外に出された客たちは店の前で待つ気満々の様子であった。
店内がしんと静まり返る。
幽香はキッチンから昼食を持ってやってくると、アリスを伴って、イートインスペースのテーブルの一つに向かった。
「今日はクリームパスタと生野菜サラダ」
「生野菜サラダなんて珍しいわね。あなた、こういうのにも手をかけると思っていたけれど」
「ドレッシングを作ってみたのよ。こういうサラダ用にね」
なるほど、とアリスはうなずいた。
料理が用意され、『頂きます』と食事が始まる。ちなみに、その間、アリスの人形たちは店内の掃除と不足している商品の補充を行っている。
「美味しいわね。このほのかに香る甘味がたまらないわ」
「でしょう? りんごって面白いのよね」
「これ、りんごが入ってるの? すりおろし?」
「そうよ」
「へぇ」
売れそうね、とアリス。
店の経営を担当する彼女としては、『売れる品物』を見定める、あるいは幽香に作成を指示する立場でもあった。
「で、いい話って何?」
食事をしながら、幽香。
クリームパスタを優雅にスプーンの上にまとめ、口へと運んでいく。
「実はね、幽香」
「うん」
「人里にあなたのお店を出すことにしたの」
「………………………………は?」
ごくん、とパスタを飲み込んだその口のままで。
幽香は思わず問い返した。
「だから、そのままの意味よ。
このお店を本店として残しつつ、支店を造るのね」
「ち、ちょっと待って! 私の体は一つしかないのよ!?」
「やってくる客にアンケートをとっているんだけど、割と多い回答があるのよ。
『お店が遠すぎて、足を運ぶのが億劫。もう少し、里に近いところにお店を出したりは出来ないでしょうか』ってね」
「いや、だから!」
「そこで、私は考えたの。
どうせなら人里の中に店を作ってしまえ、って。
幸い、まだ紅魔館はそこまでの動きを見せていないわ。東の紅魔館、西のかざみ。幻想郷二大甘味処と呼ばれるこの店の唯一の欠点が、『人里から遠い』こと。紅魔館に少しでも追随するために、思い切った動きが必要なのよ」
ふっふっふ、と笑うアリス。
幽香の言葉などそっちのけで『計画はこうよ』と分厚い資料を取り出す。
「まず、本店の位置を変えることはない。これはいいわね?
支店の営業時間は絞る。午前10時から午後2時まで。支店で働くのはアルバイトの子達。幽香、あなたが面接して、店員を決めるのよ」
「はい!?」
「支店に卸す商品は、朝のうちに、私が人形たちを使って支店まで運ばせるわ。
向こうには、もうでっかい冷蔵庫を買って用意しておいたから、営業時間中は腐る心配なんてなし。
もちろん、商品の補充が出来ないから売り切れたらそこでお店はおしまい。で、売り上げの統計等を取って、売れる商品なんかを見定めて、卸すものは変えていく。
どう? 紅魔館の行っている『出張販売サービス』に充分、対抗できると思わない?」
「えっと……」
「あなたが開店までに行う仕事は、お店で働くアルバイトの制服のデザインを考えること。それから、お店そのもののデザインを考えること。アルバイトの面接。主にこれくらいね」
「いや、えーっと……」
「もう計画は動いているわ。腕のいい宮大工を見つけたの。
というわけで、幽香。頑張るわよ!」
ばしっ! とアリスに肩を叩かれて、幽香は呆けてしまう。
すでに彼女はやる気満々。下手な反論などしようものなら、その何十倍もの口撃を食らってしまうことだろう。
幽香に選択肢などなかった。
彼女は、ただ、「……はい」と首を縦に振るしか出来なかったのだ。
(以下、文々。新聞一面より抜粋)
~喫茶かざみ支店 人里にオープン!~
本紙をご覧頂いている諸兄には、すでに馴染みのお店となっているであろう、太陽の畑の喫茶店、『かざみ』が、このたび、諸兄の要望に応える形で人里に支店をオープンする運びとなった。
これまでに『かざみ』を利用した客からアンケートをとった結果、『人里から遠い』というのが店の問題点とされてきた。
事実、店までの距離を考えて、来店を渋っていた読者諸兄も大勢いることだろう。
そこで、顧客からの要望に迅速に応えてくれる店主、風見幽香の粋な心意気によって、今回の支店オープンが決定したのである。
支店とはいえ、カウンターに並ぶ商品は本店と変わらない。無論、味もそのままであることは本紙記者及び『かざみ』のパトロンであるアリス・マーガトロイド氏も保障しよう。
店舗の開店はまだ少し先ではあるのだが、すでに店の建築工事も始まっており、開店がいつになるか胸のわくわく感が抑えられない諸兄にとっては、今しばらくの辛抱である。
なお、支店オープンの際にはオープン記念セール及び新商品のお目見えもなされるということだ。
また、本紙下段に記載させて頂いているが、現在、『かざみ』支店で働くアルバイトを募集しているとのことである。
我こそは、という方は、ぜひ、この機会に上記への応募を検討してみてはいかがだろうか?
「……」
「文の新聞は、こういう時には役に立つのよね」
一面丸々使った宣伝記事。
一体いつ撮影されたのかわからない、幽香の笑顔がフルカラーで掲載されており、取られた覚えのないインタビューも書かれている。
新聞を広げて呆然としている幽香の横で、アリスが「さあ、これから忙しくなるわよ」と気合を入れていた。
「えーっと……」
「あ、そろそろ頃合ね」
「定刻通りに、わたし、参上!」
「いらっしゃい、早苗」
ずさぁぁぁぁっ! と土煙を上げて大地に着陸し、そのままホップステップ大回転で店のドアを開けて現れる常識を無視した緑色の巫女が「幽香さん、おめでとうございます!」となぜか花束持ってくる。
「支店の開店のお手伝いをさせていただくためにやってまいりました!
これが、アルバイトの方々の衣装デザインですっ!」
「さすがね、仕事が早いわ」
ずばっ! と取り出す一枚の白い紙に描かれた『制服』のデザイン。
女性は『かわいらしく』、男性は『凛々しく』。
そんな感じをイメージしてみたと言う衣装は、なるほど、アリスも『これはいいわね』とつぶやくほどのものであった。
最初は幽香の仕事であったはずだが、幽香に任せっきりにしているとどんなデザインになるかわからないのを、アリスが危惧したことによって外注扱いになった仕事であった。
「何せ、外の世界にいた頃は、喫茶店のバイトは女子高生の基本でしたからね。
もちろん、わたしもやりました」
「あなた、お金とか不自由してたの?」
「いいえ。お小遣いはためておく派なので。
けど、お小遣いだけでは買えないものもあるんですよ。限定プレミアモデルとか、お店の限定特典つき肌色電脳紙芝居とか!
突発的にお金が必要になった時には、お小遣いだけではとてもとても」
「……そ、そう」
何やら一種の畏怖のようなものを感じて、アリスが一歩、足を後ろに引く。
「特に肌色電脳紙芝居と映像収録円盤系はえげつないですね。
お店によって特典が違うんですよ。それを一つ一つ選ぶとか、わたし達には出来ません。全部買って全部そろえる。これが基本ですから、普通の人の何倍もお金がかかってしまうんですよね。
あ、ちなみに、中身は保存用、観賞用、布教用の三枚に予備をあわせて四つだけ残して、後はオークションで売りました」
彼女は一体、外の世界ではどんな生活を送ってきたのだろう。
全くそれが想像できず、アリスの頬に汗一筋。
もしかしたら、こいつ呼んだの間違いだったかもしれない――彼女の顔は、そんなことを語っていた。
「で、えーっと……」
「実はすでに、衣装のプロトタイプは作ってきています」
「……仕事が早いわね、割とマジで」
「コスプレの衣装は自分で作るものですから」
意味がわからなかった。
意味がわからなかったが、アリスは追及を避けた。
余計なことをしないのが、この幻想郷で長生きする秘訣であることを、彼女は知っていたのだ。
「幽香さんこっちへ」
「へっ? あの、私、話についていけてないんだけど……」
「さあさあどうぞどうぞ」
「ちょっと! こら! 人の話を……!」
ず~るずるずる、と早苗は幽香を引っ張って席を外し――5分後。
「色合いはひまわりをイメージしてみました」
早苗が持ってきた衣装を着せられた幽香が、顔を真っ赤にして佇んでいる。
それを示しながら、早苗の解説がスタートする。
「ポイントは、スカートのフリルですね。あと、腕の袖口などにはレースをあしらって、さりげないおしゃれを演出してみました」
「なかなかいいじゃない。早苗、あなた、センスいいわね」
「でしょう? ふふふのふ。
もちろん、女性なのでスカートは短めです。サイハイソックスを使用した絶対領域の演出も忘れません。
手元には真っ白手袋がいいですよね。清潔な感じで」
「……ねぇ。何、この胸が強調されるデザイン……。あと、スカートが短すぎるような……」
「いいじゃない。ねぇ?」
「ですよねー」
スカートの裾を必死になって引っ張り、少しでも隠そうとする幽香の仕草が実にいじらしい。
ちなみに、早苗曰く、『見えそうで見えないのが基本です。全開もいいものですが、今回は幽香さんが絶対に恥ずかしがるだろうなーと思って、ぎりぎりのラインを狙ってみました』とのことであった。
要するに、彼女、最初からこれを幽香に着せるつもりだったのである。
「続いて男性用の衣装です。
アリスさん、どうぞ」
「あ、はいはい」
またまた5分後。
「……何かすごい違和感がする。自分じゃないみたいな……」
「シックなスーツをイメージしてみました。
お店に入ってみたら、出迎えてくれるのはイケメン執事さん。それだけで女性はもう顔を真っ赤にすること請け合いです」
ちなみに、そういうお店のことを『執事喫茶』と言うのだと言う。
よくわからないので、アリスはその部分はスルーした。
「どうでしょうか!」
「割といいと思うわよ。背景は別として。
ねぇ? 幽香」
「……そ、そう、ね……。どうせ私が着るんじゃないんだし……」
「何言ってるの。初日及び、適度にあんたはあっちにも顔を出すのよ。店長として」
「ええっ!?」
「……なるほど。ならば、幽香さんの衣装はもう少し露出過多に……」
「やめてお願い!」
アリスの無情な一言が早苗に火をつけ、思わず幽香は涙目になる。
ともあれ、二人は一度、その場から引っ込み、普段の衣装に着替えて戻ってくる。
アリスは視線を早苗に向けると、「早苗。あんたの経験が役に立つと思って呼んだんだけど」と一言。
「お任せ下さい。
喫茶店でのアルバイト経験は2年ほどですが、充分、知識と経験は身についていますよ」
「じゃあ、アルバイトの教育係は早苗にやってもらうことにするわ。
あと、後で幽香と一緒に面接の練習をしてくれる?」
「そうですね。とんでもないのを雇わないようにしないと」
「そういうこと」
「……おおごとになってきたわ」
幽香は思わず、頭を抱えてため息をつく。
そも、このお店を始めた理由は、『もう少しお友達が増えればいいな……』作戦の足がかりとしてである。
何も店そのものを大きくして、より多くのお客さんを呼び込むのが目的ではないのだ。
しかし、アリス曰く、『たくさんの人と触れ合えば、それだけ、チャンスが巡ってくるものよ』ということなので反論も出来ない。
ついでに反論をしようとすると、『じゃ、貸したお金返して』と言われるのである。
その額は三桁万を突破しているため、幽香の財力ではどうやっても返せない金額なのであった(店の売り上げならば余裕でまかなえるのだが、彼女は経理を全部アリス任せにしているため、それに気づいていない)。
「あとは店内のデザインだけど。
幽香。出来てる?」
「え? いや、えっと……出来てる……ことは出来てるけど……」
「じゃ、見せなさい」
横で早苗が『わくわく』な顔をしている。
幽香は恐る恐る、取り出した画用紙をアリスに手渡した。
そして、二人はそれを一瞥して一言。
「少女趣味ですね」
「いいんじゃない? 子供が喜びそうだわ」
「言うと思ったわよ!」
男が入るには躊躇するくらいの『女の子』な店内がイメージされた一枚の絵。
顔を真っ赤にして怒鳴る幽香を無視して、アリスはそれを人形たちのうちの一人に手渡し、「これを大工さんに届けてきて」と指示をする。
「資材の提供もしないといけないわね。
あの手のものをうまいこと作ってくれるといったら……」
「今回もにとりさん達の手を借りましょうか」
「そうね。
じゃあ、えーっと……蓬莱がいいわね。蓬莱、河童たちのところに行って交渉してきて」
『畏まりました。
可能な限り、懐から出る金額は少なく、与えられる効果は大きく、ですわね。お任せください』
「……適度にするのよ」
『うふふふ』
アリスが連れている人形たちの中で随一の『腹黒さ』を持つ彼女は、こうした交渉事も大得意である。
大抵、一方的に相手を泣かせる形で勝利をもぎ取ってくるのだ。
あまり付き合いのない、一期一会の相手ならまだいいが、それなりの付き合いがある連中とそれをやられると困るため、アリスはやんわりと彼女に釘を刺す。
ふよふよと、外へと飛んでいく蓬莱人形。その後ろ姿を見送ってから、アリスは、やっぱり不安になったのか、「仏蘭西、蓬莱を見張っていて」とため息をつく。
「あとはオープン記念特別セールの内容と、新商品の作成。これは幽香が一人で頑張るからいいとして」
「私なの!?」
「当たり前でしょ。あなたが店長よ。
っていうか、最近、セールとかやってないでしょ。いつもやれとは言わないけど、カンフル剤の意味も込めて、定期的にセールをやらないと客足が遠のくわよ」
「そうなんですよね。
定期的に安売りセールみたいなのがあると、ついつい、何の目的もないのにデパートとか寄っちゃいますし」
それでお得な商品をゲットできればラッキー、出来なくても見ているだけで楽しい、というのが早苗の意見だった。端的に言うと、『今時の若い娘の意見』である。
「……だけど……安売りセールはあまりやるな、って……」
「適度にやれ。意味わかる?」
「……」
そして相変わらずのアリス上位なその人間関係に、早苗は『妖怪も人それぞれなんだなぁ』と、つくづく思ったとか。
「お嬢様」
「何かしら。咲夜」
「このようなチラシが」
「見せなさい」
尊大に答えるお嬢様は、毎度おなじみレミリア・スカーレット。
彼女はただいま、おやつの真っ最中。目の前のクリームプリンを食べながらの一幕である。どう見ても、単に愛らしいだけであるので、回りで見ているメイド達からは『相変わらずかわいいわね~』と言う意見が飛び出している。
「……なるほど。幽香の店が人里に」
そのチラシは、アリスが文に言って大量に刷らせた『かざみ』の人里支店オープンのチラシであった。ちなみにデザインは幽香であり、里の女の子やお母さんにいたく好評であったりするのだが、それはさておくとしよう。
「……チョコケーキ一個100円10個まで……」
「お嬢様。そこじゃなくてこっちです」
「し、知ってるわよ。そんなこと」
思わずよだれをたらしそうになっているお嬢様は、慌てて、従者の咲夜が示すところへと視線を移す。
「今回のこれは、我が紅魔館への、彼女たちからの明確な宣戦布告です。
支店を永続的に人里に置く――確かに、言うは易しですが実現するにはなかなか難しいものがあります。
我が紅魔館でも、まだ人里のマーケティングを把握したわけではありません。リスクは踏めない――というのが正直なところです」
「なるほどね」
「いかが致しますか?」
「別に。放っておきなさい」
レミリアはそういうと、手にしたチラシをテーブルの上に置いてしまった。
彼女は椅子の背もたれをきしませ――ようとして、足をぱたぱたさせて、結局、諦める。
「彼女たちの店の売り上げは、我が紅魔館の半分にも及ばない――そんな個人店舗とケンカをするつもりはないと言っているでしょう?
支店を造ったとして、売り上げが倍になるわけもない――ならば、これは彼女たちのささやかな反抗。王者は泰然と構えているのがいいでしょう」
「なるほど」
「無論、油断をすると言うわけではないわ。
咲夜。彼女たちの店のオープンに重ねる形で、紅魔館でも特別セールを実施しなさい。
その時の客の動きで、今後の対策をどうするか考えましょう」
「……必要以上に客を取られるようなら」
「ええ。わたし達も、そういう動きを、少しは考えないといけなくなるわ」
ぺこりと一礼し、咲夜はその場を辞した。
レミリアは彼女の姿を見送ってから、『これはきっと、アリスの仕業ね』と内心でつぶやく。
幽香と言う妖怪の性格を考えた場合、彼女がこのような行動をとることは考えられないからだ。そうなると、この動きの裏には、幽香の店のパトロンであり、実質的経営者であり、手ごわいブレーンであるアリスの存在があることを疑う必要はない。
彼女は、あれでなかなかしたたかな性格の人物だ。
慇懃無礼を地で行くような行動を取ることも、時にはある。レミリアとて、油断の出来る相手ではないのである。
「我が紅魔館への挑戦、誠に天晴れ。
けれど、それでくじけるかもしれない可能性は考えておくべきよ。アリス」
にやり、と笑うレミリアは、手にしたスプーンでプリンをぱくり。
途端に相好を崩して幸せ一杯な笑顔を浮かべる彼女に、メイド達から、『ほんとにかわいいわよね~』という意見が惜しみなく浴びせられるのであった。
「妹紅」
「何だ、慧音。
――それじゃ、また何かあったらいつでも。病院くらいなら背負って連れて行くからね」
「おお、ありがとうよ。妹紅ちゃん」
「本当にありがとうございました」
笑顔で老夫婦へと手を振って、彼女は振り返る。
その後ろに佇む相手――上白沢慧音が、いつも通りに、眉間にしわを寄せているのを見て、肩をすくめる。
「あたしゃ、今日、慧音に怒られるようなことをした覚えはないぞ、っと」
「ああ、そうだな。
ちょっとついてこい」
「は?」
「いいから」
「あ、ち、ちょっと」
いきなり手を引っ張られ、バランスを崩す妹紅。
何だよ、強引だな、と思いつつも口には出さない。慧音がこういう雰囲気の時は、余計なことを言うと『やかましい』と一喝されるか、くどくど説教されるかのどちらかだからだ。
――はて、自分は何をしたのだろうか。
慧音に手を引かれるまま、妹紅は考える。
輝夜とのいつもの定例どつきあいの件だろうか。しかし、これはすでに三日前のこと。ついでに言えば、その日のうちに正座24時間耐久説教の刑を輝夜ともども受けているため、もはや慧音の中では過ぎ去った事件のはずだ。
最近、竹林の案内役をやっていなかったことだろうか。
だが、これは、その竹林の奥に用事のある人間がいなかったことによる。そこにある施設に用事が出来ないと言うのはいいことであるはずなので、これも違うだろう。
考えても埒が明かないので、『ねぇ、慧音。何の用事?』と聞こうとして――、
「アリス殿。暇人を一人、連れてきた」
「ありがとう、慧音さん。
うん。妹紅ならルックスも完璧だし、問題はないわよね」
ふと気がついてみれば、人里の一角にある建物の中に、妹紅は連れ込まれていた。
建物の中はまだ建設途中なのか、床や壁が貼られただけの簡素な造りだ。これが一体何なのかわからないでいる間に、慧音は、そこになぜかいるアリスと会話を進めてしまっている。
「早苗、妹紅を連れて行って」
「は~い。
さあさあ、妹紅さん。こちらへどうぞ」
「え? いや、あの、何の話?」
「まあまあ。その辺りは気にせず、どうぞどうぞ」
「おーい、だから、人の話を……」
――それから5分後。
「きゃあーっ! かっこいいっ!
妹紅さん、視線、こっちにくださ~いっ!」
「……慧音。一つ聞く。何だこれは」
フォーマルの定番であるスーツを見事な感じにラフに着崩した妹紅に、早苗が黄色い声を上げてカメラを向ける。
妹紅は顔を引きつらせ、慧音のほうをじろりとにらむ。
「アリス殿の頼みを引き受けることになった。
幽香殿の新しい店が、ここに開店することになるらしくてな。『暇そうな人を連れてきてもらえないか』と言われたのだ」
「誰が暇そうだこら!」
「お前以外に誰がいる」
「うっ……ぐ……えっと……」
さらりと真顔で切り返され、反論できなくなる妹紅。
確かに、彼女の日常と言えば、とある永遠のお姫様とどつきあうか竹林内の人間の道案内程度である。
はっきり言って、暇人もいいところであった。
「働かざるもの食うべからず。
風見幽香殿は、店の開店に当たって、店員を募集しているらしい。そこで、お前に白羽の矢が立ったというわけだ。よかったな」
「いや、よかったな、っていうか……。
そもそも、何よ。それ。何の店?」
「お前は幽香殿の店を知らないのか。これは驚いたな」
「まあ、妹紅。まずはこれを食べてみて」
「何だこれ?」
「ケーキを見るのも初めてなのね」
アリスがどこからともなく取り出したケーキをしげしげと眺める妹紅。
その彼女の口に、『まあ、いいから食べてみなさい』とそれを押し込む。
「……甘っ。
けど、なかなかうまいと言えばうまいな……。ちょっと私には合わないかもだけど」
「妹紅さんは霊夢さんと似たような味覚なんですね。わたしは洋菓子の甘さ大好きですけど」
シャッター切るのにも飽きたのか、早苗が横から口を挟んでくる。
妹紅は、『何だ。これ、お菓子なのか』とコメントして、もう一口、ケーキをつまむ。
ふぅん、とうなずいた彼女は慧音の方へと視線を戻した。
「と言うわけで、アリス殿。
当面、妹紅をレンタルするから、好きに使ってやってくれ」
「慧音、それ、人売りのセリフ」
「ありがとうございます、慧音さん。
それじゃ、妹紅。あなたはうちのアルバイト第一号ということで、よろしくね」
「待て。何か勝手に話が進んでるんだが、そもそも私はそれを了解してないぞ」
「お給金と勤務時間の相談には乗るわ。
あと、早苗から接客の基本とかは学んでおいてね。
早苗、女性客を取り込むのに有効な人材は……」
「あともう一人来ますよ」
「じゃあ、それを待ちましょう。
それじゃ、妹紅。明日の午前10時に、またここに来てね」
「だから、勝手に話を……」
「承知した。私が責任を持って連れてこよう」
「おいけーね!」
――というわけで、なし崩し的に話は進み、晴れてもこたんは喫茶『かざみ』人里支店の店員第一号になったのでした。
「まずは定番の、女性客の囲い込みからよね」
「ですね」
商売っ気0の幽香をサポートする、有能な参謀であるアリスは、手にしたメモ帳を広げつつそんなことを言う。
早苗に曰く。
こうしたお店が成功するには、まず女性客を囲い込むこと。
なぜかと言うと、『女性=甘いもの大好き』は恒久普遍の真理であり、覆すことの出来ない絶対だから、なのである。
かてて加えて、女性の購買意欲というものは男性のそれに比べると、えてしてかなり高いことが多い。さらに、男性と女性のペアの存在を考えると、大抵の場合、女性上位なのもゆるぎない事実。
すなわち、女性にアピールすることが店の成功の秘訣の一つ、なのであった。
それに当たって、女性へのアピールポイントを増やす必要がある。
この店のお菓子が美味しいのは、もはや誰もが知るところ。それだけではない、もう一つの付加価値を、アリスは考えた。
それが、先日、早苗の用意した『男性店員衣装』から想起される『イケメン店員』の配置である。
簡単に言うと、客寄せパンダの配置だった。
「問題は、妹紅に接客が出来るかどうかだけど……」
「お任せください。一週間もあれば、妹紅さんを立派な店員に仕上げてみせます」
「任せるわ」
その辺に関しては、妙に自信満々の早苗である。
聞けば、彼女、外の世界でアルバイトをしていた時は、店の『リーダー』のようなことも任されていたのだとか。
「で、次のパンダは……」
「あの、すいません。聖に、ここに行くように言われたのですが……」
「来ました」
「なるほど。これはいけるわね」
「……え?」
のこのこ現れる、飛んで灯にいる夏の寅であった。
「……疲れた……。まだいるの……? 希望者……」
『あと20名ほどいらっしゃっています』
「……まだ20人……」
一方、太陽の畑の『かざみ』本店では、現在、アルバイトの面接の真っ最中であった。
面接官は幽香。そのサポートが、アリスの人形たちだ。
朝からぶっ通しで面接し続けることすでに数時間。もとよりこういうことになれていない幽香は、完全にグロッキー状態で机の上に突っ伏している。
そんな彼女は、アリスが事前に考えた『想定問答集』に従って同じ質問を相手にするだけである。実際に、アルバイトの人間を選抜するのは、そのお手伝いである人形たちであった。人を見る目に優れる倫敦、仏蘭西、そして蓬莱が横から面接にやってきた相手を見定めているのである。
「……いいわ。次……」
がちゃっ、とドアが開いて、現れたのは小柄な少女であった。
頭に備えたリボンが年齢不相応の愛らしさをかもし出す彼女は、とてとてと歩いてきて、ちょこんと椅子に座る。
「えっと……じゃあ、まず、あなたの名前からお願い……」
「はいっ! わたしは――!」
『……面接官があの態度でいいのかしら』
『いいんじゃないでしょうか。幽香さんが疲れきっているのは傍から見てもわかること。そして、マスターはすでにそんなことも想定済みですわ』
『彼女にこのような仕事が出来るとは思ってなかったようだな……最初から』
それはそれでひどいんじゃなかろうかと思ったりもしたのだが、所詮、彼女たちはアリスの作った人形たち。マスター・アリスの命令には逆らえないのである。
そして一方、『かざみ』の店内は、面接にやってきてくれた人々に対して『お土産』を渡す人形たちが大忙しで働いている。
面接結果は後日、合格者にのみ郵送通知と言う形ではあるが、せっかく、はるばる太陽の畑にまでやってきてくれた者たちだ。
潜在的な顧客になる要素は充分、とアリスは『絶対に、来てくれた人たちが不愉快な気持ちにならないようにしなさい』と人形たちには厳命してあった。
『ねぇ、露西亜。このケーキ、もう売り切れなんだけど』
『……そう。じゃあ、売り切れの札、出しておいて……』
『はーい、りょーかーい』
『ちょっと上海! それ、そっちのお客さんじゃなくてこっちのお客さん!』
『ああ、もう! めんどくさい! ケーキなんてどれも一緒でしょう!』
『まあまあ、そない怒らんと。な?』
相変わらずのどたばた漫才が繰り広げられる中、客の見送りを担当するオルレアンと大江戸は『こんなんで大丈夫なんだろうか』『気にしないのがいいよ』という会話をしていたりする。
「それじゃ、今日はありがとうございました」
「連絡が来るよう、祈ってます!」
そして、遠方から足を運んでくれた人物は、ゴリアテが送り迎えをすると言う徹底振り。
アリスのサポートがなければ、とことん、やっていけない『かざみ』である。
「何か、またアリス達がどたばたを始めたらしいぜ」
「また?」
とある風説を聞き及んでやってくる悪友魔法使いの言葉に、片手に竹箒を持って境内の掃除をしている巫女は答える。
「ああ。人里に、幽香の店の支店を出すんだとさ」
「へぇ。
別にいいんじゃないの? あいつの店、無駄に遠くて、歩いていく客がめんどくさいとか言ってたんでしょ?」
私は別に興味ないし、と巫女――霊夢。
彼女は洋菓子よりも和菓子の人間であるため、洋菓子メイン……というか、洋菓子しか取り扱っていない幽香の店には縁遠い人間である。
とはいえ、彼女と付き合いのある早苗が洋菓子大好きであるため、早苗に付き合って足を運ぶことも、決して少なくはないのだが。
「オープンセールもやるらしい。せっかくだから、ちょっと買いだめしとくぜ」
「太るわよ」
「甘いな、霊夢。
魔法の修練と言うものは腹が減る。すべからく、修行と言うものは苦行なんだ」
「すべからくの使い方が間違ってるような気もするけれど」
「いいことを言いましたね、霧雨魔理沙!」
その時、神社の境内に朗々と響く声。
何事かと空を振り仰ぐ魔理沙とは対照的に、霊夢はおでこに手をやってため息をつく。
とうっ、と何者かが逆光を背負って空から降ってくる。
華麗に空中三回転半ひねりを決めて着地したのは――、
「修行と言うのは苦行。確かにその通りです。
しかし、そうした苦しい道行を経て己の中の真理と邂逅し、もって自己を更なる高みへと昇華させる――それが修行の意味の一つです!
そこを理解しているとは、私はあなたの評価を改めないといけないかもしれませんね」
「また何しにきたのよ、華扇」
この頃、よくこの神社に現れる仙人に対してジト目を向ける霊夢。
仙人――華扇は『これは失礼なことを』とぴしゃり。
「私は、あなたがまともに巫女をやっているかを見に来ただけですよ」
「そういうことするの紫だけでいいから」
「ところで、何の話をしていたのですか?」
「……話の流れガン無視とか、あんた地味にいい性格してるわね」
かくかくしかじかと魔理沙が語って聞かせると、華扇は少しだけ首をかしげる。
「妖怪の店? そんなところに人が来るの? と言うか、人里に? いまいち要領を得ないわね……」
「あんた割りと妖怪に理解あるくせに辛らつだなおい」
魔理沙のツッコミを受けて、『ああ、いやいや』と慌てて顔の前で手をパタパタさせる彼女。
「あまりそっちの方に足を運ばないから、と言ってしまうと言い訳ですが。
そういう事情を知らなかっただけです」
「まぁ、いいや。
で、お前はその店に行くのか?」
「そうですね……。仙人は俗世から離れるのが常……と言いますが、たまには人々への理解を深めるために、新しいものを学ぶのは悪くないと考えますね」
「素直に『食べたい』って言いなさいよ。屁理屈こねないで」
仙人やってるとはいえ、華扇ちゃんも女の子。どうやら甘いものには興味津々であるようだ。
「あ、いや……」
「まぁ、いいさ。
実はアリスから試食を頼まれているものがあるんだ。お前らの分もあるから、どうだ。お茶を一杯」
「茶菓子の用意をしているなら別にいいわよ」
――というわけで。
三人そろって卓を囲み、試食会と相成ったと言うわけである。
「……これは?」
卓の上に置かれた皿の上には、何やら、華扇にとって見慣れぬものが鎮座している。
つんつん、とそれをフォークでつつく彼女。
魔理沙は「レアチーズケーキだ」とこともなげに答える。
「今回の新商品予定その1らしい」
「その1ってことは他にもあるのね」
霊夢はあっさり、コメントをしてからケーキを食べている。
一口してから、『……美味しいのはわかるんだけど、この甘さは苦手なのよねぇ』と苦笑。無論、決してその味をけなしたりしないのは彼女のいいところである。
「中に入ってるのはクリームチーズ? めちゃめちゃ甘いんだけど」
「甘いけど、微妙なチーズの風味もいい感じだろ? まぁ、重たいから、二つ三つ食べるのには向いてないけどな」
「で、周りのこれはクッキー、と。
変わった味わいね」
「そうだな。個人的には、生地全体の柔らかさと言うかふんわり感が若干足りないのと、クリームチーズのきめの細かさが足りないのが難点だな」
「あんた、食べないの?」
「へっ? あ、は、はい。すみません。頂きます」
慌てて、彼女はケーキにフォークを入れる。
霊夢たちに倣って、ケーキの一部を切り取るようにフォークを使うと、
「わっ」
ケーキの中からとろりあふれてくるクリームチーズ。
それをこぼさないよう、注意しながら、ケーキを口の中に運んだ瞬間――、
「なっ……!?」
――華扇ちゃんに衝撃走る。
まず、最初に味わう触感はクッキーのさくさく感。使っているのはコーヒーだろうか、ほんのりと香るほろ苦さがたまらない。
それが終われば、すぐさま、柔らかく甘いケーキの生地が口の中一杯に崩れるようにして広がっていき、クッキーのほろ苦さと相まって驚くほどの甘さを提供してくれる。
魔理沙はふんわり感やきめ細かさが足りないなどと言ったがとんでもない。口の中にケーキの生地が広がっていく――にも拘わらず、ケーキの味一つ一つがしっかりと理解できる。決して、ぱさぱさではない、むしろしっとりとした感じであるというのに、この感覚と言ったら。
そしてとどめにクリームチーズ。
濃厚かつまろやかな味が舌の上から口の中全体に、そして喉を通って胃の中へと。
もはや言葉はいらない。ただ『幸せ』であるだけの味。
「おっ、美味しいぃ~……!」
これを一言で簡潔にまとめるとしたら、『サクッ、ふわっ、とろっ』であった。
その時の華扇の表情は、もはや言葉で語ることなどできはしない。
「お気に召したようだぜ」
「みたいね」
「あなた達、こんなに美味しいものを食べていたのね……。ひどいわ、呼んでくれてもいいじゃない!」
「いやお前仙人だろ……」
さすがの魔理沙も頬を引きつらせてコメント一つ。
節制を心がけるのが仙人の要素の一つとは言うが、質素な食生活もそこに含まれているであろうに、こんな味を知ってしまったらどうなることか。
二人の、その心配などどこへやら。
華扇はあっという間にケーキを平らげると、『ご馳走様でした』と手を合わせる。
「はぁ……これはいいですね……。こんな幸せを味わうのは久しぶりです……」
「……そこまで?」
「お茶の苦味が、また甘さを引き立てますね……」
元来、幻想郷の甘味といえば和菓子が基本。すなわち、あんこの甘さである。
その味に慣れ親しんだものたちにとって、洋菓子の、ケーキなどのこうした甘さは新鮮の一言なのであろう。
使っている砂糖は一緒のはずなのに、不思議なものだ。
きっと、紅魔館やら幽香の店やらに行く人間は、みんな、そうした『新鮮な感動』を体験してしまったのだろうなぁ、と霊夢は思った。
「開店日はいつですか!? 朝から並ばないと!」
「おい仙人」
「お値段はいかほど!? 私のお財布でも足りますか!?」
「いやだから待て仙人」
魔理沙を質問攻めにする華扇に、やれやれ、と霊夢は苦笑した。
普段は色々と扱いづらい相手であるが、そんな相手であるだけに、あそこまで目をきらきら輝かせている姿と言うのは、実に新鮮な光景である。
「いる?」
自分の分をそっと華扇に渡して、『こりゃ、幽香の店は、また繁盛確定だわな』と霊夢はお茶を一口、すすったのだった。
――そして。
「ふっふっふ……」
物陰にこっそり隠れる幼女が一人。
彼女の側には質素な身なりの、しかし、はっとするほど美しい女性が日傘を手に佇んでいる。
「さすがわたしね……。
館を抜け出す際に、わたしを見つけそうな奴ら全員の運命を操作。晴れて人里に、だ~れにも見つからずに到着完了……!」
えらいしょぼいことに自らの大仰な能力を使う、その名も――!
「言っておくけれど、これは相手の店のチェックよ。
我が紅魔館にとって、どれほど強敵となりうるか……その視察なんだから。いいわね? その辺りのこと、きちんと理解しているわね?」
「もちろんです、レミリアお嬢様」
そう。
言うまでもなく、永遠にカリスマブレイクする幼い月、レミリア・スカーレットその人であった。
ちなみに、その横に佇むメイドは、普段、彼女が連れ歩いているメイド長ではない、別のメイドである。
「……それにしても、あれが店の列なのかしら」
物陰から伺う人里の大通りには、ずら~っと長蛇の列が続いている。
視線を列の先頭に向ければ、そこには、おとなしめの、しかし色鮮やかな外壁が特徴な店が一つ。
並ぶ人々は、皆、手に同じチラシを持っており、それを眺めながら、今か今かと入店の時を待っているような状況だ。
「……どれくらい並びそうかしら」
「入っていく人と出て行く人のペースから考えると、今、最後尾に並べば2時間待ちというところでしょうか」
「くっ……! もう少し早く出ておけば……!」
「私が起こしに行ったのに、お嬢様がいつまでも起きないからですよ」
「う~……!」
咲夜ならば、『そうですわね』と笑顔で同意してくれそうなところに、なかなか辛らつな言葉のナイフを降り注がせてくる。
紅魔館で、特に、年配のメイド達は皆こんな感じだ。咲夜はまだまだ、レミリアには甘いのである。
ともあれ、下手に暴れたりして目立つわけにもいかない。レミリアは大人しく、彼女を連れて列の最後尾へと。
「……退屈だわ」
「人の流れを見ているだけでも楽しいですよ」
「そうかしら」
ちなみに、そんな幼女の本日の衣装は、一体どこから手に入れてきたのか、人里の子供たちに混じっても違和感のない子供服であった。目許にはサングラスなどをしてはいるものの、どこからどう見ても『ただの子供』。元より威厳などはあったものでもないが、今日は普段の5割増しであった。色々と。
一方、その隣に佇むメイドは、片手でレミリアの日傘を持ちながら、片手でさらさらとメモ帳を広げてペンを走らせている。
その視線が向くのは、店の中から出てくる客たちが手に持っているもの。
「ふぁ~……」
大きなあくびをして、レミリアは目元をこする。
そんな彼女をちらりと見てから、また視線は人々へと。
――どうやら、彼女は、レミリアが本来的に掲げている目的である『マーケットリサーチ』をこなす役目も負っているらしい。
無論、そんな役割を誰から命じられたのかは、言うまでもないだろう。
「……あの包み紙は見たことのないものね。恐らくは新製品……。
新製品と定番製品の割合は5:5……まずまずというところかしら」
紅魔館のメイドと言うものは、下っ端はともかく、上の方になれば割と油断出来ない存在であるらしいが、なるほど、その評価は間違っていないようだ。
「ところで、お嬢様。お財布はお忘れになっていませんね?」
「もちろんよ。このわたしが、そんなミスをすると思っているのかしら」
ふふん、と胸を張って威張るレミリアだが、衣装のせいで幼女度120%アップであった。
彼女は肩から提げているポシェットを開けると、『ちゃんと持ってきたわ』と中からぶたさんお財布を取り出す。最近のレミリアのお気に入りであった。
中を見れば、じゃらじゃらと小銭が山ほど。
「ちゃんとフランドール様の分も買っていってあげるんですよ」
「もちろんよ。それくらい心配しないで欲しいわね」
またもやえっへんと威張るお嬢様。
こういう時、きちんと釘を刺しておかないと、大切なこともころっと忘れてしまうのがお嬢様がお嬢様たる所以である。
さてそれはさておき、ひたすら待つこと2時間。
ようやくレミリアたちは店の前までやってくる。わいわいがやがやというにぎやかな声は、店に近づけば近づく程大きくなる。
ひょいと視線をやれば、くだんのお嬢様は目を輝かせている。偵察どうこうは、やはり彼女にとってどうでもいいことだったようだ。
「いらっしゃいませ~!」
店の中に足を踏み入れた途端、かけられるのは店員の声。
視線を向けると、そこには、店の衣装に身を包んだ早苗の姿。彼女の隣では、アルバイトの少女二人が、早苗と一緒になって客に向かって頭を下げている。
なかなか、その姿は堂に入ったものであった。
「お客様、何をお求めですか?」
「え? えっと、えっと……」
別のアルバイト少女が、レミリアに声をかけてくれる。
わざわざレミリアと目線を合わせてそういうことをしてくれるということは、早苗の教育も行き届いているということか。
「そ、そうね。
えーっと……ん~……」
ポケットから折りたたんだチラシを取り出し、何を買おうか、最初に決めておいたはずなのに、いざ実際に店にやってきてみれば目移りしてしまう――そんなお嬢様の仕草は相変わらずである。
「わっ!?」
と、その横で、いきなり女の子達の黄色い声が上がる。
何事かとレミリアが視線をそちらに向けると、
「い、いらっしゃいませ。お客様」
「……どうぞこちらに」
「きゃーっ! 星さまーっ!」
「妹紅さん、こっち向いてーっ!」
「……何かしら、あれは」
「さあ?」
『イケメン執事』衣装の星と妹紅に女の子達が群がっていた。
皆、『我も我も』と大賑わい。二人は困ったような表情を浮かべて、特に星など見ていて哀れなくらいにうろたえている。
……と、その後ろに早苗が歩み寄り、何やらぼそぼそ。
星は『よ、よしっ!』と気合を入れるような仕草をしてから、
「あなた方に逢えて感激ですよ、お嬢様方。
さあ、お会計をお望みの方は、こちらへ」
などと気取った調子で言うものだから、店内のボルテージは二段階くらいブーストアップした。
「……名物店員というやつかしら?
……って、あら? あの店員は?」
「あちらに」
レミリアの接客をしていた少女も、『星さまーっ! きゃーっ!』とその輪に加わっている。
あれじゃ、味方による営業妨害じゃないのか、と呆れてしまうレミリア。しかし、回りの様子を見ればわかることだが、確実に、妹紅と星目当ての女の子達が多数来店しているのも事実だ。
なるほど、客寄せとしては成功しているようですね、とメイドはその状況を分析する。
「ちょっと、華扇。あんた、太るわよ。いくつ食べるのよ」
「大丈夫よ、霊夢! たとえ太ったとしても、修行、修行! ダイエットは己との精神の戦いすなわち修行! 修行すれば大丈夫なの!
はぁ~……! 美味しいっ! 最高っ! 長生きしてよかったっ!」
また店の一角では、見慣れた巫女が見慣れぬピンク頭の女性と向き合っている。テーブルの上はケーキで一杯。それを、見慣れぬピンク頭の女が片っ端から平らげていた。
なかなか奇妙な光景である。ちなみにレミリアは、霊夢の姿を見て、『あら、霊夢じゃない』と声をかけにいこうとしてメイドに襟首つかまれて止められている。
「あら、レミリアじゃない。あんたがこんなところに来るってことは偵察か何か?」
そんな奇妙な二人に、顔なじみから声がかけられたのはその時だった。
立っているのはアリス。彼女は手に持ったトレイに載せたクッキー、チョコレートその他諸々をショーケースに置いてから、二人に振り返る。
「なっ……!? な、何のことかしら? レミリア? 誰かしら、それは」
「あんたよ、あんた。そんないかにもな格好した幼女が、幻想郷のどこに他にいるっていうの」
「そんな!? どうして、わたしの完璧な変装が!」
どうやら本気で驚いているらしい。
いかに見た目を取り繕っていても、肝心の顔なんかにはサングラス以外の装飾をしていないのだから、ばれて当たり前なのだが。
「咲夜さんじゃないのね」
「はい。メイド長は、本日は少し。
代わりに私が、お嬢様のお付ということで」
「大変でしょう? お疲れ様です」
「いいえ。これもお仕事ですから」
「ちょっと! わたしを無視するなんていい了見ね!」
うがー! とかみつくレミリア。
自分の正体がばれたのだから大人しくしているつもりもない、というところか。
「何の用事ですか?」
「ご想像の通り、こちらのお店の偵察です。
どれほど繁盛しているのかな、と」
「初日だからと言うのもありますけど、かなりのものだと自負していますよ。もう忙しくて大変」
「みたいですね」
「ちょっと! わたしを無視するんじゃなくてよ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて自分アピールするレミリアであるが、アリスとメイドの眼中には入っていないのは明白であった。
と言うか、アリスも、レミリアを相手するよりはこちらのメイドの彼女を相手した方が話が進むことはわかっているのだろう。
何よ、とふてくされるレミリアは、そのままとてとてカウンターの方へと歩いていく。
『ご注文をどうぞ』
と、差し出されるフリップ。カウンターを担当するのはアリスの人形たちであった。
その隣では、星が盛大に小銭を床にぶちまけ、『す、すすすいません!』と頭を下げている。ぶっちゃけイケメン度がた落ちのいつものうっかり発動であるが、それすらも女の子たちのフィルターにかかれば、『ユーモアにあふれる素敵なお・か・た(はぁと)』になるのである。
「えっと……」
カウンターに据え付けられたショーケースにはずらりと並ぶケーキの山。
そのいずれもが『オープン記念』と言うシールが値札に張られ、『100円』均一であった。
「これと、これと、これとこれ! あと、これとこれとこれも!」
そして、先ほどまでの不機嫌どこへやら。
目を輝かせてケーキを注文するレミリアに、担当の人形(仏蘭西)はケースの中からケーキを取り出していく。
『全部で1200円です』
「これでいいかしら?」
ぶたさんお財布からじゃらじゃら小銭を取り出すレミリア。
それを一枚一枚数え、『確かに』と言う返答。
こうして、レミリアはお目当てのケーキをげっとすることが出来たのである。第三部完。
「あ、レミリア。
ついでだから、あんた。これ試食してみない?」
「何かしら、これ」
「何だと思う?」
プリンのような小さな入れ物に入った、赤いもの。
受け取ったそれをつんつんフォークでつつき、まずは一口。
「ムースかしら」
「そうね」
「甘くて美味しいじゃない」
「お気に召した? それ、何のムースだと思う?」
「ん~……いちご……とか、トマトとは色が違うわね」
「にんじん」
「にっ……!?」
レミリアに衝撃走る。
何を隠そう(というかもはや周知の事実だが)、レミリアはにんじん、ピーマン、セロリなどの癖の強い野菜が苦手である。
いっつも残しては咲夜に『食べるまでデザートはお預けです』と言われて、涙目になるほどだ。
『にんじん』の一言に拒否反応を起こすレミリアに、「けれど、甘くて美味しいでしょ?」とアリス。
「……えっと……」
「ほら、食べなさいって」
「う……う~……」
正体を知ってしまっては、かなりの拒否反応があるようだ。しかし、最初に食べた味も忘れられないため、またもや一口、ぱくり。
さらにもう一口、というところで、ムースの中からとろりしたたるソースが現れる。
『絡めて食べるともっと美味しいわよ』とのアリスの言葉に従って、そのソースをムースに絡めると、
「う……!?」
確かに、見事と言うほかない美味しさだった。
野菜のにおいも味も感じない、ただ広がるのは甘さのみ。
舌を包み込むような感覚がありながら、しかし全くしつこくない。濃厚さと共にさっぱりとした、それでいてみずみずしい、まるでジュースのような口当たりのソースの美味しさ。
思わず、羽をパタパタさせながらそれを完食してしまうレミリアである。
「これは?」
「キャロットムースの野菜ソース」
「やさっ!?」
「にんじんやトマトなんかの、子供が嫌がる野菜を搾って、果汁だけを取り出したのね。
ソースに砂糖とかは一切使わない、まさに自然の甘さ。
どう? レミリア。美味しかったでしょ?」
「お……いし……う、うん……」
「野菜も食べなきゃダメよ」
ちなみに、レミリアの野菜嫌いは、野菜の独特の味とにおいに起因する。
子供の常であるが、お菓子の形になってしまっていれば食べられるのである。それでは野菜を『克服』したことにはならないので、咲夜はあまりそういう手段は使わないのであるが。
「よかったですね、お嬢様」
「……うん。まぁ……」
「それでは、今日はこれで」
「はい。また来てくださいね」
「幽香さまにもよろしくと言っておいてください」
「ええ。ご来店、ありがとうございました」
メイドに連れられ、店を後にするレミリア。
そんな彼女に、メイドは一言、「野菜も美味しいですよね。特にこれからの時期は」と言うのだった。
「……ものすごい疲れました」
「もう二度と来ないぞ……」
「まあまあ、寅丸さま。妹紅さんも。
今後のシフトはもう組んでしまったので、よろしくお願いしますね」
「……なんでお前、まるで疲れてないんだ……」
「あの程度で疲れたなんて言っていたら、有明の戦場で三日間ぶっ通しで売り子なんて出来ませんよ」
店の片隅で真っ白に燃え尽きている二人に、容赦なく明日以降のシフトを叩きつけてから、早苗は『それじゃ、お疲れ様でしたー』と去っていく。
華扇は店のケーキほぼ全種類を平らげて、満足しきった顔で、食べ疲れたのか睡眠中。それに付き合わされた霊夢は『……当分、甘いものは見たくない』と呻いている。
「にしても、なかなかの売り上げになったわね」
「……やっぱり続けないとダメ?」
「当たり前でしょ」
オープン記念と言うことで、本店の営業時間に合わせた営業時間が、この支店でも設けられているため、午後の3時からは、『特別』と言うことで店頭に立たされ、周囲の注目を一手に集めていた幽香が、アリスの一言に苦笑いを浮かべる。
彼女には男性たちから『幽香さん、開店おめでとうございます!』と熱い魂を叩きつけられ、女性からは『幽香さん、私たち、毎日ここに来ますね!』と笑顔を向けられ、子供から『お姉ちゃん、お菓子美味しいよ!』と澄み切った瞳を向けられると言う、もう色んな意味で息つく暇もない『忙しさ』が与えられていた。
「本店の経営と支店の経営、両方をうまくやっていくのよ。大変だけど頑張りなさい」
「……はぁ。
まぁ、いいんだけどね……。と言うか、何か道がそろそろ違ってきてると言うか……」
「けれど、こうやって、色んな人に笑顔を向けられると言うのは悪くないでしょ?」
返答、なし。
アリスは幽香の肩を叩くと、「霊夢、そろそろ閉店だから、それ、連れて帰ってね」と言う。
「明日の仕込みも終わってるんだから、私たちも帰るわよ。
帰りは近くの店でご飯でもおごってあげるわ」
「別にいいわ。自分で作る料理の方が美味しいし。
それより、家に帰って、家の方の仕込をしないといけないから」
「店主としての責任感が育ってきた?」
「違うわよ」
――ただ何となくよ。
そう言って、幽香は席を立つ。始まった以上はやってのけるしかない、という構えと共に、『せっかくのアリスの心意気なのだから』と言う音が、たぶんにそこには含まれていた。
「あんた、大変ね」
「そうでもないわよ。幽香の扱いに慣れればね」
あれはあれで楽しいものなのだ、と。
幽香がふわふわ空を飛んでいくのを見送っていたアリスは、霊夢に返したのだった。
そして、その日の夜。
食事に出たにんじんたっぷり野菜スープに挑戦したレミリアは、見事、にんじんを克服することが出来たのだった(なお、難易度EX野菜のピーマン、難易度ルナティック野菜のセロリには、現在も挑戦中である)。
~喫茶『かざみ』人里支店オープン!~
先日、本紙にてお伝えした、風見幽香氏が経営する喫茶『かざみ』であるが、本日、人里にて開店の運びとなった。
開店前から店の前には長蛇の列が続き、本紙記者も出るのが遅れたため、入店まで3時間も待たされることとなってしまった。
さて、店内のレポートであるが、本店と比べると若干狭いのはご愛嬌。魅惑あふれるショーケースに並ぶお菓子のラインナップは本店に勝るとも劣らず、しかもこれから拡充されていくとのことである。
また、『かざみ』名物のイートインスペースも用意されており、買ったお菓子をその場で食べられると言うのも変わらない魅力の一つだ。
さらに、本店に比べて来店客が多くなることを見越して、支店には多くの店員が雇われている。その店員のいずれもが、あの東風谷早苗氏デザインの、かわいらしい、あるいは素敵な衣装を身にまとって諸兄をお出迎えしてくれるのである。
店で何も買わずとも、ただ訪れるだけで楽しい――そんな店舗を提供していきたいとの話を、店主からは頂くことが出来ている。もちろん、せっかく店に足を運んだのだから、何か一つ、商品を手にとっていくのも悪いことではないだろう。
現在、オープン記念セールと銘打って、『かざみ』の定番ケーキが全品100円での販売が行われている他、人里支店限定の商品もあり、しかも品揃えは今後も追加されていくと言うのだから見逃せない、そして聞き逃せない話題を、これからも、読者諸兄へと提供してくれることだろう。
なお、この人里支店には、店舗パトロンのアリス・マーガトロイド氏の人脈を生かし、藤原妹紅氏と寅丸星氏の両名も店員として参加している。両名の勤務シフトについて入手したので、この二人に会いたいファンの方は、以下の日程を目安に足を運んでみるといいだろう。
さらに、店舗を訪れた人に、抽選で、今なら店主の風見幽香氏より特製花束をプレゼント中である。(著:射命丸文)
これぞ私のお店、という感じで腰に手を当てて、満足げに笑みを浮かべるのは風見幽香。
ここは彼女が、太陽の畑と呼ばれるひまわり畑の中に造った喫茶店――その名も『喫茶かざみ』である。
清潔かつほんわかあったかい暖色系の色合いで店内は統一されており、ショーケースには見ているだけでも楽しくなるようなお菓子がたくさん。
左手側には小さいながらもイートインスペースがあり、いつも満席になるほどだ。
――ここは、彼女が客として迎えている人間たちが住まう人里からはかなり離れているのだが、毎日、繁盛している。彼女の作るお菓子が食べたい彼女に会いたいエトセトラ。
そんなこんなで、うまくやっていけている店であった。
「じゃあ……」
店のドアに『開店』の札を出してこようか。
幽香が踵を返したときだ。
「幽香、いる?」
「あら、アリス。いらっしゃい」
ドアを開けて、この店のもう一人の店主――アリス・マーガトロイドが現れる。
幽香が店を切り盛りする傍ら、資金面で、アリスは彼女をサポートしていた。もっとも、幽香の性格など色々なものが店の経営にとってマイナスになるので、結局のところ、店の経営のほとんどを担当しているのはアリスだったりするのだが。
「ちょうどよかったわ。表の札を架け替えて……」
「あなたにいい話を持ってきたの。
後で話すわ」
「へぇ」
その言葉の響きに、なにやら興味津々の幽香は、『楽しみにしているわね』とアリスに一言。
そうして、彼女は店の外へと歩いていく。
見事なひまわりの道がそこにある。そして、そこにはすでに、店の開店を今か今かと待つ人の行列。
彼女が札を架け替えた瞬間、彼らの足が動き始める。
「いらっしゃいませ」
――最近は、ずいぶんと、そんな言葉と笑顔が板についてきた幽香の挨拶が、店の営業スタートの合図 であった。
かざみの営業時間は、午前10時から午後5時まで。
途中、12時から1時間、あるいは1時から1時間、店主の休憩時間があったりする。
店の店員は幽香ただ一人。彼女が現在、接客と商品の補充を同時に行っている。
店に並ぶ商品は、基本的に洋菓子である。それらがあっという間に、人気商品から次々に売り切れて行く。しかし、やってきた客にがっかりさせることはあってはならない、と店の経営権をほぼ掌握するアリスは言う。
基本的に、売り切れになった商品を補充する時間などはない――そう、人々は考えるだろう。
しかし、それは、彼女には当てはまらない『常識』である。
「アリス。チョコレートケーキの追加、並べておいて」
「はいはい」
「あと、フルーツケーキに、こっちのいちごのムースに、ティラミスも」
「はいはい!」
カウンターから間続きになっているキッチンから、幽香が大量のケーキやら何やらを抱えて現れる。
それらを作成するのにかかった時間は、わずか5分であった。
「上海! それ、そっちじゃない! こら、西蔵! 遊ぶのは後にしなさい!」
アリスが連れてきた人形たちも、今日は店員として大わらわ。
やってくる客の列は途切れず、次から次へと『これください』『こっちのそれください』『あれください』の声。
「幽香! プレミアメロン売り切れ……!」
「はい追加」
「早っ!」
彼女、風見幽香は、幻想郷を裏から料理で支配する『料理界』と言う世界における『四天王』の一人であった。
『スイートキッチン』の異名を持つ彼女にかかれば、ケーキの1ホール程度、朝飯前。5秒もあれば種の作成から焼き上がりまでこなせるほどであった。
……なお、物理的に不可能な現象が起きていることは間違いないのだが、幻想郷では常識にとらわれてはいけないのである。
「むっ!? こら、そこ! 列に割り込むな!」
「そこの君! 商品は君だけのものではない! 手荒に扱うな!」
そして、なぜか店内に響き渡る威勢のいい声。
皆、一様に『ゆうかりんファンクラブ』という鉢巻を締めた紳士たちが、頼まれもしないのに勝手に店の中を仕切っている光景がそこにあった。
彼らは『ゆうかりんのために生きるのが我らの使命!』という男気に満ちた紳士たちであり、幽香の了解も得ずに彼女の手伝いをしてくれる、実に暖かい心を持った紳士たちであった。
「はい、午前の部、終了」
ちりんちりん、とカウンターの上に置かれたベルが鳴らされる。
「それじゃ、ちょっと休憩にしましょう。
アリス」
「あー、はいはい!」
まだ店内には客がいる。
彼らを人形たちを使って『すいません、休憩時間です』と外に送り出していく。ちなみに、外に出された客たちは店の前で待つ気満々の様子であった。
店内がしんと静まり返る。
幽香はキッチンから昼食を持ってやってくると、アリスを伴って、イートインスペースのテーブルの一つに向かった。
「今日はクリームパスタと生野菜サラダ」
「生野菜サラダなんて珍しいわね。あなた、こういうのにも手をかけると思っていたけれど」
「ドレッシングを作ってみたのよ。こういうサラダ用にね」
なるほど、とアリスはうなずいた。
料理が用意され、『頂きます』と食事が始まる。ちなみに、その間、アリスの人形たちは店内の掃除と不足している商品の補充を行っている。
「美味しいわね。このほのかに香る甘味がたまらないわ」
「でしょう? りんごって面白いのよね」
「これ、りんごが入ってるの? すりおろし?」
「そうよ」
「へぇ」
売れそうね、とアリス。
店の経営を担当する彼女としては、『売れる品物』を見定める、あるいは幽香に作成を指示する立場でもあった。
「で、いい話って何?」
食事をしながら、幽香。
クリームパスタを優雅にスプーンの上にまとめ、口へと運んでいく。
「実はね、幽香」
「うん」
「人里にあなたのお店を出すことにしたの」
「………………………………は?」
ごくん、とパスタを飲み込んだその口のままで。
幽香は思わず問い返した。
「だから、そのままの意味よ。
このお店を本店として残しつつ、支店を造るのね」
「ち、ちょっと待って! 私の体は一つしかないのよ!?」
「やってくる客にアンケートをとっているんだけど、割と多い回答があるのよ。
『お店が遠すぎて、足を運ぶのが億劫。もう少し、里に近いところにお店を出したりは出来ないでしょうか』ってね」
「いや、だから!」
「そこで、私は考えたの。
どうせなら人里の中に店を作ってしまえ、って。
幸い、まだ紅魔館はそこまでの動きを見せていないわ。東の紅魔館、西のかざみ。幻想郷二大甘味処と呼ばれるこの店の唯一の欠点が、『人里から遠い』こと。紅魔館に少しでも追随するために、思い切った動きが必要なのよ」
ふっふっふ、と笑うアリス。
幽香の言葉などそっちのけで『計画はこうよ』と分厚い資料を取り出す。
「まず、本店の位置を変えることはない。これはいいわね?
支店の営業時間は絞る。午前10時から午後2時まで。支店で働くのはアルバイトの子達。幽香、あなたが面接して、店員を決めるのよ」
「はい!?」
「支店に卸す商品は、朝のうちに、私が人形たちを使って支店まで運ばせるわ。
向こうには、もうでっかい冷蔵庫を買って用意しておいたから、営業時間中は腐る心配なんてなし。
もちろん、商品の補充が出来ないから売り切れたらそこでお店はおしまい。で、売り上げの統計等を取って、売れる商品なんかを見定めて、卸すものは変えていく。
どう? 紅魔館の行っている『出張販売サービス』に充分、対抗できると思わない?」
「えっと……」
「あなたが開店までに行う仕事は、お店で働くアルバイトの制服のデザインを考えること。それから、お店そのもののデザインを考えること。アルバイトの面接。主にこれくらいね」
「いや、えーっと……」
「もう計画は動いているわ。腕のいい宮大工を見つけたの。
というわけで、幽香。頑張るわよ!」
ばしっ! とアリスに肩を叩かれて、幽香は呆けてしまう。
すでに彼女はやる気満々。下手な反論などしようものなら、その何十倍もの口撃を食らってしまうことだろう。
幽香に選択肢などなかった。
彼女は、ただ、「……はい」と首を縦に振るしか出来なかったのだ。
(以下、文々。新聞一面より抜粋)
~喫茶かざみ支店 人里にオープン!~
本紙をご覧頂いている諸兄には、すでに馴染みのお店となっているであろう、太陽の畑の喫茶店、『かざみ』が、このたび、諸兄の要望に応える形で人里に支店をオープンする運びとなった。
これまでに『かざみ』を利用した客からアンケートをとった結果、『人里から遠い』というのが店の問題点とされてきた。
事実、店までの距離を考えて、来店を渋っていた読者諸兄も大勢いることだろう。
そこで、顧客からの要望に迅速に応えてくれる店主、風見幽香の粋な心意気によって、今回の支店オープンが決定したのである。
支店とはいえ、カウンターに並ぶ商品は本店と変わらない。無論、味もそのままであることは本紙記者及び『かざみ』のパトロンであるアリス・マーガトロイド氏も保障しよう。
店舗の開店はまだ少し先ではあるのだが、すでに店の建築工事も始まっており、開店がいつになるか胸のわくわく感が抑えられない諸兄にとっては、今しばらくの辛抱である。
なお、支店オープンの際にはオープン記念セール及び新商品のお目見えもなされるということだ。
また、本紙下段に記載させて頂いているが、現在、『かざみ』支店で働くアルバイトを募集しているとのことである。
我こそは、という方は、ぜひ、この機会に上記への応募を検討してみてはいかがだろうか?
「……」
「文の新聞は、こういう時には役に立つのよね」
一面丸々使った宣伝記事。
一体いつ撮影されたのかわからない、幽香の笑顔がフルカラーで掲載されており、取られた覚えのないインタビューも書かれている。
新聞を広げて呆然としている幽香の横で、アリスが「さあ、これから忙しくなるわよ」と気合を入れていた。
「えーっと……」
「あ、そろそろ頃合ね」
「定刻通りに、わたし、参上!」
「いらっしゃい、早苗」
ずさぁぁぁぁっ! と土煙を上げて大地に着陸し、そのままホップステップ大回転で店のドアを開けて現れる常識を無視した緑色の巫女が「幽香さん、おめでとうございます!」となぜか花束持ってくる。
「支店の開店のお手伝いをさせていただくためにやってまいりました!
これが、アルバイトの方々の衣装デザインですっ!」
「さすがね、仕事が早いわ」
ずばっ! と取り出す一枚の白い紙に描かれた『制服』のデザイン。
女性は『かわいらしく』、男性は『凛々しく』。
そんな感じをイメージしてみたと言う衣装は、なるほど、アリスも『これはいいわね』とつぶやくほどのものであった。
最初は幽香の仕事であったはずだが、幽香に任せっきりにしているとどんなデザインになるかわからないのを、アリスが危惧したことによって外注扱いになった仕事であった。
「何せ、外の世界にいた頃は、喫茶店のバイトは女子高生の基本でしたからね。
もちろん、わたしもやりました」
「あなた、お金とか不自由してたの?」
「いいえ。お小遣いはためておく派なので。
けど、お小遣いだけでは買えないものもあるんですよ。限定プレミアモデルとか、お店の限定特典つき肌色電脳紙芝居とか!
突発的にお金が必要になった時には、お小遣いだけではとてもとても」
「……そ、そう」
何やら一種の畏怖のようなものを感じて、アリスが一歩、足を後ろに引く。
「特に肌色電脳紙芝居と映像収録円盤系はえげつないですね。
お店によって特典が違うんですよ。それを一つ一つ選ぶとか、わたし達には出来ません。全部買って全部そろえる。これが基本ですから、普通の人の何倍もお金がかかってしまうんですよね。
あ、ちなみに、中身は保存用、観賞用、布教用の三枚に予備をあわせて四つだけ残して、後はオークションで売りました」
彼女は一体、外の世界ではどんな生活を送ってきたのだろう。
全くそれが想像できず、アリスの頬に汗一筋。
もしかしたら、こいつ呼んだの間違いだったかもしれない――彼女の顔は、そんなことを語っていた。
「で、えーっと……」
「実はすでに、衣装のプロトタイプは作ってきています」
「……仕事が早いわね、割とマジで」
「コスプレの衣装は自分で作るものですから」
意味がわからなかった。
意味がわからなかったが、アリスは追及を避けた。
余計なことをしないのが、この幻想郷で長生きする秘訣であることを、彼女は知っていたのだ。
「幽香さんこっちへ」
「へっ? あの、私、話についていけてないんだけど……」
「さあさあどうぞどうぞ」
「ちょっと! こら! 人の話を……!」
ず~るずるずる、と早苗は幽香を引っ張って席を外し――5分後。
「色合いはひまわりをイメージしてみました」
早苗が持ってきた衣装を着せられた幽香が、顔を真っ赤にして佇んでいる。
それを示しながら、早苗の解説がスタートする。
「ポイントは、スカートのフリルですね。あと、腕の袖口などにはレースをあしらって、さりげないおしゃれを演出してみました」
「なかなかいいじゃない。早苗、あなた、センスいいわね」
「でしょう? ふふふのふ。
もちろん、女性なのでスカートは短めです。サイハイソックスを使用した絶対領域の演出も忘れません。
手元には真っ白手袋がいいですよね。清潔な感じで」
「……ねぇ。何、この胸が強調されるデザイン……。あと、スカートが短すぎるような……」
「いいじゃない。ねぇ?」
「ですよねー」
スカートの裾を必死になって引っ張り、少しでも隠そうとする幽香の仕草が実にいじらしい。
ちなみに、早苗曰く、『見えそうで見えないのが基本です。全開もいいものですが、今回は幽香さんが絶対に恥ずかしがるだろうなーと思って、ぎりぎりのラインを狙ってみました』とのことであった。
要するに、彼女、最初からこれを幽香に着せるつもりだったのである。
「続いて男性用の衣装です。
アリスさん、どうぞ」
「あ、はいはい」
またまた5分後。
「……何かすごい違和感がする。自分じゃないみたいな……」
「シックなスーツをイメージしてみました。
お店に入ってみたら、出迎えてくれるのはイケメン執事さん。それだけで女性はもう顔を真っ赤にすること請け合いです」
ちなみに、そういうお店のことを『執事喫茶』と言うのだと言う。
よくわからないので、アリスはその部分はスルーした。
「どうでしょうか!」
「割といいと思うわよ。背景は別として。
ねぇ? 幽香」
「……そ、そう、ね……。どうせ私が着るんじゃないんだし……」
「何言ってるの。初日及び、適度にあんたはあっちにも顔を出すのよ。店長として」
「ええっ!?」
「……なるほど。ならば、幽香さんの衣装はもう少し露出過多に……」
「やめてお願い!」
アリスの無情な一言が早苗に火をつけ、思わず幽香は涙目になる。
ともあれ、二人は一度、その場から引っ込み、普段の衣装に着替えて戻ってくる。
アリスは視線を早苗に向けると、「早苗。あんたの経験が役に立つと思って呼んだんだけど」と一言。
「お任せ下さい。
喫茶店でのアルバイト経験は2年ほどですが、充分、知識と経験は身についていますよ」
「じゃあ、アルバイトの教育係は早苗にやってもらうことにするわ。
あと、後で幽香と一緒に面接の練習をしてくれる?」
「そうですね。とんでもないのを雇わないようにしないと」
「そういうこと」
「……おおごとになってきたわ」
幽香は思わず、頭を抱えてため息をつく。
そも、このお店を始めた理由は、『もう少しお友達が増えればいいな……』作戦の足がかりとしてである。
何も店そのものを大きくして、より多くのお客さんを呼び込むのが目的ではないのだ。
しかし、アリス曰く、『たくさんの人と触れ合えば、それだけ、チャンスが巡ってくるものよ』ということなので反論も出来ない。
ついでに反論をしようとすると、『じゃ、貸したお金返して』と言われるのである。
その額は三桁万を突破しているため、幽香の財力ではどうやっても返せない金額なのであった(店の売り上げならば余裕でまかなえるのだが、彼女は経理を全部アリス任せにしているため、それに気づいていない)。
「あとは店内のデザインだけど。
幽香。出来てる?」
「え? いや、えっと……出来てる……ことは出来てるけど……」
「じゃ、見せなさい」
横で早苗が『わくわく』な顔をしている。
幽香は恐る恐る、取り出した画用紙をアリスに手渡した。
そして、二人はそれを一瞥して一言。
「少女趣味ですね」
「いいんじゃない? 子供が喜びそうだわ」
「言うと思ったわよ!」
男が入るには躊躇するくらいの『女の子』な店内がイメージされた一枚の絵。
顔を真っ赤にして怒鳴る幽香を無視して、アリスはそれを人形たちのうちの一人に手渡し、「これを大工さんに届けてきて」と指示をする。
「資材の提供もしないといけないわね。
あの手のものをうまいこと作ってくれるといったら……」
「今回もにとりさん達の手を借りましょうか」
「そうね。
じゃあ、えーっと……蓬莱がいいわね。蓬莱、河童たちのところに行って交渉してきて」
『畏まりました。
可能な限り、懐から出る金額は少なく、与えられる効果は大きく、ですわね。お任せください』
「……適度にするのよ」
『うふふふ』
アリスが連れている人形たちの中で随一の『腹黒さ』を持つ彼女は、こうした交渉事も大得意である。
大抵、一方的に相手を泣かせる形で勝利をもぎ取ってくるのだ。
あまり付き合いのない、一期一会の相手ならまだいいが、それなりの付き合いがある連中とそれをやられると困るため、アリスはやんわりと彼女に釘を刺す。
ふよふよと、外へと飛んでいく蓬莱人形。その後ろ姿を見送ってから、アリスは、やっぱり不安になったのか、「仏蘭西、蓬莱を見張っていて」とため息をつく。
「あとはオープン記念特別セールの内容と、新商品の作成。これは幽香が一人で頑張るからいいとして」
「私なの!?」
「当たり前でしょ。あなたが店長よ。
っていうか、最近、セールとかやってないでしょ。いつもやれとは言わないけど、カンフル剤の意味も込めて、定期的にセールをやらないと客足が遠のくわよ」
「そうなんですよね。
定期的に安売りセールみたいなのがあると、ついつい、何の目的もないのにデパートとか寄っちゃいますし」
それでお得な商品をゲットできればラッキー、出来なくても見ているだけで楽しい、というのが早苗の意見だった。端的に言うと、『今時の若い娘の意見』である。
「……だけど……安売りセールはあまりやるな、って……」
「適度にやれ。意味わかる?」
「……」
そして相変わらずのアリス上位なその人間関係に、早苗は『妖怪も人それぞれなんだなぁ』と、つくづく思ったとか。
「お嬢様」
「何かしら。咲夜」
「このようなチラシが」
「見せなさい」
尊大に答えるお嬢様は、毎度おなじみレミリア・スカーレット。
彼女はただいま、おやつの真っ最中。目の前のクリームプリンを食べながらの一幕である。どう見ても、単に愛らしいだけであるので、回りで見ているメイド達からは『相変わらずかわいいわね~』と言う意見が飛び出している。
「……なるほど。幽香の店が人里に」
そのチラシは、アリスが文に言って大量に刷らせた『かざみ』の人里支店オープンのチラシであった。ちなみにデザインは幽香であり、里の女の子やお母さんにいたく好評であったりするのだが、それはさておくとしよう。
「……チョコケーキ一個100円10個まで……」
「お嬢様。そこじゃなくてこっちです」
「し、知ってるわよ。そんなこと」
思わずよだれをたらしそうになっているお嬢様は、慌てて、従者の咲夜が示すところへと視線を移す。
「今回のこれは、我が紅魔館への、彼女たちからの明確な宣戦布告です。
支店を永続的に人里に置く――確かに、言うは易しですが実現するにはなかなか難しいものがあります。
我が紅魔館でも、まだ人里のマーケティングを把握したわけではありません。リスクは踏めない――というのが正直なところです」
「なるほどね」
「いかが致しますか?」
「別に。放っておきなさい」
レミリアはそういうと、手にしたチラシをテーブルの上に置いてしまった。
彼女は椅子の背もたれをきしませ――ようとして、足をぱたぱたさせて、結局、諦める。
「彼女たちの店の売り上げは、我が紅魔館の半分にも及ばない――そんな個人店舗とケンカをするつもりはないと言っているでしょう?
支店を造ったとして、売り上げが倍になるわけもない――ならば、これは彼女たちのささやかな反抗。王者は泰然と構えているのがいいでしょう」
「なるほど」
「無論、油断をすると言うわけではないわ。
咲夜。彼女たちの店のオープンに重ねる形で、紅魔館でも特別セールを実施しなさい。
その時の客の動きで、今後の対策をどうするか考えましょう」
「……必要以上に客を取られるようなら」
「ええ。わたし達も、そういう動きを、少しは考えないといけなくなるわ」
ぺこりと一礼し、咲夜はその場を辞した。
レミリアは彼女の姿を見送ってから、『これはきっと、アリスの仕業ね』と内心でつぶやく。
幽香と言う妖怪の性格を考えた場合、彼女がこのような行動をとることは考えられないからだ。そうなると、この動きの裏には、幽香の店のパトロンであり、実質的経営者であり、手ごわいブレーンであるアリスの存在があることを疑う必要はない。
彼女は、あれでなかなかしたたかな性格の人物だ。
慇懃無礼を地で行くような行動を取ることも、時にはある。レミリアとて、油断の出来る相手ではないのである。
「我が紅魔館への挑戦、誠に天晴れ。
けれど、それでくじけるかもしれない可能性は考えておくべきよ。アリス」
にやり、と笑うレミリアは、手にしたスプーンでプリンをぱくり。
途端に相好を崩して幸せ一杯な笑顔を浮かべる彼女に、メイド達から、『ほんとにかわいいわよね~』という意見が惜しみなく浴びせられるのであった。
「妹紅」
「何だ、慧音。
――それじゃ、また何かあったらいつでも。病院くらいなら背負って連れて行くからね」
「おお、ありがとうよ。妹紅ちゃん」
「本当にありがとうございました」
笑顔で老夫婦へと手を振って、彼女は振り返る。
その後ろに佇む相手――上白沢慧音が、いつも通りに、眉間にしわを寄せているのを見て、肩をすくめる。
「あたしゃ、今日、慧音に怒られるようなことをした覚えはないぞ、っと」
「ああ、そうだな。
ちょっとついてこい」
「は?」
「いいから」
「あ、ち、ちょっと」
いきなり手を引っ張られ、バランスを崩す妹紅。
何だよ、強引だな、と思いつつも口には出さない。慧音がこういう雰囲気の時は、余計なことを言うと『やかましい』と一喝されるか、くどくど説教されるかのどちらかだからだ。
――はて、自分は何をしたのだろうか。
慧音に手を引かれるまま、妹紅は考える。
輝夜とのいつもの定例どつきあいの件だろうか。しかし、これはすでに三日前のこと。ついでに言えば、その日のうちに正座24時間耐久説教の刑を輝夜ともども受けているため、もはや慧音の中では過ぎ去った事件のはずだ。
最近、竹林の案内役をやっていなかったことだろうか。
だが、これは、その竹林の奥に用事のある人間がいなかったことによる。そこにある施設に用事が出来ないと言うのはいいことであるはずなので、これも違うだろう。
考えても埒が明かないので、『ねぇ、慧音。何の用事?』と聞こうとして――、
「アリス殿。暇人を一人、連れてきた」
「ありがとう、慧音さん。
うん。妹紅ならルックスも完璧だし、問題はないわよね」
ふと気がついてみれば、人里の一角にある建物の中に、妹紅は連れ込まれていた。
建物の中はまだ建設途中なのか、床や壁が貼られただけの簡素な造りだ。これが一体何なのかわからないでいる間に、慧音は、そこになぜかいるアリスと会話を進めてしまっている。
「早苗、妹紅を連れて行って」
「は~い。
さあさあ、妹紅さん。こちらへどうぞ」
「え? いや、あの、何の話?」
「まあまあ。その辺りは気にせず、どうぞどうぞ」
「おーい、だから、人の話を……」
――それから5分後。
「きゃあーっ! かっこいいっ!
妹紅さん、視線、こっちにくださ~いっ!」
「……慧音。一つ聞く。何だこれは」
フォーマルの定番であるスーツを見事な感じにラフに着崩した妹紅に、早苗が黄色い声を上げてカメラを向ける。
妹紅は顔を引きつらせ、慧音のほうをじろりとにらむ。
「アリス殿の頼みを引き受けることになった。
幽香殿の新しい店が、ここに開店することになるらしくてな。『暇そうな人を連れてきてもらえないか』と言われたのだ」
「誰が暇そうだこら!」
「お前以外に誰がいる」
「うっ……ぐ……えっと……」
さらりと真顔で切り返され、反論できなくなる妹紅。
確かに、彼女の日常と言えば、とある永遠のお姫様とどつきあうか竹林内の人間の道案内程度である。
はっきり言って、暇人もいいところであった。
「働かざるもの食うべからず。
風見幽香殿は、店の開店に当たって、店員を募集しているらしい。そこで、お前に白羽の矢が立ったというわけだ。よかったな」
「いや、よかったな、っていうか……。
そもそも、何よ。それ。何の店?」
「お前は幽香殿の店を知らないのか。これは驚いたな」
「まあ、妹紅。まずはこれを食べてみて」
「何だこれ?」
「ケーキを見るのも初めてなのね」
アリスがどこからともなく取り出したケーキをしげしげと眺める妹紅。
その彼女の口に、『まあ、いいから食べてみなさい』とそれを押し込む。
「……甘っ。
けど、なかなかうまいと言えばうまいな……。ちょっと私には合わないかもだけど」
「妹紅さんは霊夢さんと似たような味覚なんですね。わたしは洋菓子の甘さ大好きですけど」
シャッター切るのにも飽きたのか、早苗が横から口を挟んでくる。
妹紅は、『何だ。これ、お菓子なのか』とコメントして、もう一口、ケーキをつまむ。
ふぅん、とうなずいた彼女は慧音の方へと視線を戻した。
「と言うわけで、アリス殿。
当面、妹紅をレンタルするから、好きに使ってやってくれ」
「慧音、それ、人売りのセリフ」
「ありがとうございます、慧音さん。
それじゃ、妹紅。あなたはうちのアルバイト第一号ということで、よろしくね」
「待て。何か勝手に話が進んでるんだが、そもそも私はそれを了解してないぞ」
「お給金と勤務時間の相談には乗るわ。
あと、早苗から接客の基本とかは学んでおいてね。
早苗、女性客を取り込むのに有効な人材は……」
「あともう一人来ますよ」
「じゃあ、それを待ちましょう。
それじゃ、妹紅。明日の午前10時に、またここに来てね」
「だから、勝手に話を……」
「承知した。私が責任を持って連れてこよう」
「おいけーね!」
――というわけで、なし崩し的に話は進み、晴れてもこたんは喫茶『かざみ』人里支店の店員第一号になったのでした。
「まずは定番の、女性客の囲い込みからよね」
「ですね」
商売っ気0の幽香をサポートする、有能な参謀であるアリスは、手にしたメモ帳を広げつつそんなことを言う。
早苗に曰く。
こうしたお店が成功するには、まず女性客を囲い込むこと。
なぜかと言うと、『女性=甘いもの大好き』は恒久普遍の真理であり、覆すことの出来ない絶対だから、なのである。
かてて加えて、女性の購買意欲というものは男性のそれに比べると、えてしてかなり高いことが多い。さらに、男性と女性のペアの存在を考えると、大抵の場合、女性上位なのもゆるぎない事実。
すなわち、女性にアピールすることが店の成功の秘訣の一つ、なのであった。
それに当たって、女性へのアピールポイントを増やす必要がある。
この店のお菓子が美味しいのは、もはや誰もが知るところ。それだけではない、もう一つの付加価値を、アリスは考えた。
それが、先日、早苗の用意した『男性店員衣装』から想起される『イケメン店員』の配置である。
簡単に言うと、客寄せパンダの配置だった。
「問題は、妹紅に接客が出来るかどうかだけど……」
「お任せください。一週間もあれば、妹紅さんを立派な店員に仕上げてみせます」
「任せるわ」
その辺に関しては、妙に自信満々の早苗である。
聞けば、彼女、外の世界でアルバイトをしていた時は、店の『リーダー』のようなことも任されていたのだとか。
「で、次のパンダは……」
「あの、すいません。聖に、ここに行くように言われたのですが……」
「来ました」
「なるほど。これはいけるわね」
「……え?」
のこのこ現れる、飛んで灯にいる夏の寅であった。
「……疲れた……。まだいるの……? 希望者……」
『あと20名ほどいらっしゃっています』
「……まだ20人……」
一方、太陽の畑の『かざみ』本店では、現在、アルバイトの面接の真っ最中であった。
面接官は幽香。そのサポートが、アリスの人形たちだ。
朝からぶっ通しで面接し続けることすでに数時間。もとよりこういうことになれていない幽香は、完全にグロッキー状態で机の上に突っ伏している。
そんな彼女は、アリスが事前に考えた『想定問答集』に従って同じ質問を相手にするだけである。実際に、アルバイトの人間を選抜するのは、そのお手伝いである人形たちであった。人を見る目に優れる倫敦、仏蘭西、そして蓬莱が横から面接にやってきた相手を見定めているのである。
「……いいわ。次……」
がちゃっ、とドアが開いて、現れたのは小柄な少女であった。
頭に備えたリボンが年齢不相応の愛らしさをかもし出す彼女は、とてとてと歩いてきて、ちょこんと椅子に座る。
「えっと……じゃあ、まず、あなたの名前からお願い……」
「はいっ! わたしは――!」
『……面接官があの態度でいいのかしら』
『いいんじゃないでしょうか。幽香さんが疲れきっているのは傍から見てもわかること。そして、マスターはすでにそんなことも想定済みですわ』
『彼女にこのような仕事が出来るとは思ってなかったようだな……最初から』
それはそれでひどいんじゃなかろうかと思ったりもしたのだが、所詮、彼女たちはアリスの作った人形たち。マスター・アリスの命令には逆らえないのである。
そして一方、『かざみ』の店内は、面接にやってきてくれた人々に対して『お土産』を渡す人形たちが大忙しで働いている。
面接結果は後日、合格者にのみ郵送通知と言う形ではあるが、せっかく、はるばる太陽の畑にまでやってきてくれた者たちだ。
潜在的な顧客になる要素は充分、とアリスは『絶対に、来てくれた人たちが不愉快な気持ちにならないようにしなさい』と人形たちには厳命してあった。
『ねぇ、露西亜。このケーキ、もう売り切れなんだけど』
『……そう。じゃあ、売り切れの札、出しておいて……』
『はーい、りょーかーい』
『ちょっと上海! それ、そっちのお客さんじゃなくてこっちのお客さん!』
『ああ、もう! めんどくさい! ケーキなんてどれも一緒でしょう!』
『まあまあ、そない怒らんと。な?』
相変わらずのどたばた漫才が繰り広げられる中、客の見送りを担当するオルレアンと大江戸は『こんなんで大丈夫なんだろうか』『気にしないのがいいよ』という会話をしていたりする。
「それじゃ、今日はありがとうございました」
「連絡が来るよう、祈ってます!」
そして、遠方から足を運んでくれた人物は、ゴリアテが送り迎えをすると言う徹底振り。
アリスのサポートがなければ、とことん、やっていけない『かざみ』である。
「何か、またアリス達がどたばたを始めたらしいぜ」
「また?」
とある風説を聞き及んでやってくる悪友魔法使いの言葉に、片手に竹箒を持って境内の掃除をしている巫女は答える。
「ああ。人里に、幽香の店の支店を出すんだとさ」
「へぇ。
別にいいんじゃないの? あいつの店、無駄に遠くて、歩いていく客がめんどくさいとか言ってたんでしょ?」
私は別に興味ないし、と巫女――霊夢。
彼女は洋菓子よりも和菓子の人間であるため、洋菓子メイン……というか、洋菓子しか取り扱っていない幽香の店には縁遠い人間である。
とはいえ、彼女と付き合いのある早苗が洋菓子大好きであるため、早苗に付き合って足を運ぶことも、決して少なくはないのだが。
「オープンセールもやるらしい。せっかくだから、ちょっと買いだめしとくぜ」
「太るわよ」
「甘いな、霊夢。
魔法の修練と言うものは腹が減る。すべからく、修行と言うものは苦行なんだ」
「すべからくの使い方が間違ってるような気もするけれど」
「いいことを言いましたね、霧雨魔理沙!」
その時、神社の境内に朗々と響く声。
何事かと空を振り仰ぐ魔理沙とは対照的に、霊夢はおでこに手をやってため息をつく。
とうっ、と何者かが逆光を背負って空から降ってくる。
華麗に空中三回転半ひねりを決めて着地したのは――、
「修行と言うのは苦行。確かにその通りです。
しかし、そうした苦しい道行を経て己の中の真理と邂逅し、もって自己を更なる高みへと昇華させる――それが修行の意味の一つです!
そこを理解しているとは、私はあなたの評価を改めないといけないかもしれませんね」
「また何しにきたのよ、華扇」
この頃、よくこの神社に現れる仙人に対してジト目を向ける霊夢。
仙人――華扇は『これは失礼なことを』とぴしゃり。
「私は、あなたがまともに巫女をやっているかを見に来ただけですよ」
「そういうことするの紫だけでいいから」
「ところで、何の話をしていたのですか?」
「……話の流れガン無視とか、あんた地味にいい性格してるわね」
かくかくしかじかと魔理沙が語って聞かせると、華扇は少しだけ首をかしげる。
「妖怪の店? そんなところに人が来るの? と言うか、人里に? いまいち要領を得ないわね……」
「あんた割りと妖怪に理解あるくせに辛らつだなおい」
魔理沙のツッコミを受けて、『ああ、いやいや』と慌てて顔の前で手をパタパタさせる彼女。
「あまりそっちの方に足を運ばないから、と言ってしまうと言い訳ですが。
そういう事情を知らなかっただけです」
「まぁ、いいや。
で、お前はその店に行くのか?」
「そうですね……。仙人は俗世から離れるのが常……と言いますが、たまには人々への理解を深めるために、新しいものを学ぶのは悪くないと考えますね」
「素直に『食べたい』って言いなさいよ。屁理屈こねないで」
仙人やってるとはいえ、華扇ちゃんも女の子。どうやら甘いものには興味津々であるようだ。
「あ、いや……」
「まぁ、いいさ。
実はアリスから試食を頼まれているものがあるんだ。お前らの分もあるから、どうだ。お茶を一杯」
「茶菓子の用意をしているなら別にいいわよ」
――というわけで。
三人そろって卓を囲み、試食会と相成ったと言うわけである。
「……これは?」
卓の上に置かれた皿の上には、何やら、華扇にとって見慣れぬものが鎮座している。
つんつん、とそれをフォークでつつく彼女。
魔理沙は「レアチーズケーキだ」とこともなげに答える。
「今回の新商品予定その1らしい」
「その1ってことは他にもあるのね」
霊夢はあっさり、コメントをしてからケーキを食べている。
一口してから、『……美味しいのはわかるんだけど、この甘さは苦手なのよねぇ』と苦笑。無論、決してその味をけなしたりしないのは彼女のいいところである。
「中に入ってるのはクリームチーズ? めちゃめちゃ甘いんだけど」
「甘いけど、微妙なチーズの風味もいい感じだろ? まぁ、重たいから、二つ三つ食べるのには向いてないけどな」
「で、周りのこれはクッキー、と。
変わった味わいね」
「そうだな。個人的には、生地全体の柔らかさと言うかふんわり感が若干足りないのと、クリームチーズのきめの細かさが足りないのが難点だな」
「あんた、食べないの?」
「へっ? あ、は、はい。すみません。頂きます」
慌てて、彼女はケーキにフォークを入れる。
霊夢たちに倣って、ケーキの一部を切り取るようにフォークを使うと、
「わっ」
ケーキの中からとろりあふれてくるクリームチーズ。
それをこぼさないよう、注意しながら、ケーキを口の中に運んだ瞬間――、
「なっ……!?」
――華扇ちゃんに衝撃走る。
まず、最初に味わう触感はクッキーのさくさく感。使っているのはコーヒーだろうか、ほんのりと香るほろ苦さがたまらない。
それが終われば、すぐさま、柔らかく甘いケーキの生地が口の中一杯に崩れるようにして広がっていき、クッキーのほろ苦さと相まって驚くほどの甘さを提供してくれる。
魔理沙はふんわり感やきめ細かさが足りないなどと言ったがとんでもない。口の中にケーキの生地が広がっていく――にも拘わらず、ケーキの味一つ一つがしっかりと理解できる。決して、ぱさぱさではない、むしろしっとりとした感じであるというのに、この感覚と言ったら。
そしてとどめにクリームチーズ。
濃厚かつまろやかな味が舌の上から口の中全体に、そして喉を通って胃の中へと。
もはや言葉はいらない。ただ『幸せ』であるだけの味。
「おっ、美味しいぃ~……!」
これを一言で簡潔にまとめるとしたら、『サクッ、ふわっ、とろっ』であった。
その時の華扇の表情は、もはや言葉で語ることなどできはしない。
「お気に召したようだぜ」
「みたいね」
「あなた達、こんなに美味しいものを食べていたのね……。ひどいわ、呼んでくれてもいいじゃない!」
「いやお前仙人だろ……」
さすがの魔理沙も頬を引きつらせてコメント一つ。
節制を心がけるのが仙人の要素の一つとは言うが、質素な食生活もそこに含まれているであろうに、こんな味を知ってしまったらどうなることか。
二人の、その心配などどこへやら。
華扇はあっという間にケーキを平らげると、『ご馳走様でした』と手を合わせる。
「はぁ……これはいいですね……。こんな幸せを味わうのは久しぶりです……」
「……そこまで?」
「お茶の苦味が、また甘さを引き立てますね……」
元来、幻想郷の甘味といえば和菓子が基本。すなわち、あんこの甘さである。
その味に慣れ親しんだものたちにとって、洋菓子の、ケーキなどのこうした甘さは新鮮の一言なのであろう。
使っている砂糖は一緒のはずなのに、不思議なものだ。
きっと、紅魔館やら幽香の店やらに行く人間は、みんな、そうした『新鮮な感動』を体験してしまったのだろうなぁ、と霊夢は思った。
「開店日はいつですか!? 朝から並ばないと!」
「おい仙人」
「お値段はいかほど!? 私のお財布でも足りますか!?」
「いやだから待て仙人」
魔理沙を質問攻めにする華扇に、やれやれ、と霊夢は苦笑した。
普段は色々と扱いづらい相手であるが、そんな相手であるだけに、あそこまで目をきらきら輝かせている姿と言うのは、実に新鮮な光景である。
「いる?」
自分の分をそっと華扇に渡して、『こりゃ、幽香の店は、また繁盛確定だわな』と霊夢はお茶を一口、すすったのだった。
――そして。
「ふっふっふ……」
物陰にこっそり隠れる幼女が一人。
彼女の側には質素な身なりの、しかし、はっとするほど美しい女性が日傘を手に佇んでいる。
「さすがわたしね……。
館を抜け出す際に、わたしを見つけそうな奴ら全員の運命を操作。晴れて人里に、だ~れにも見つからずに到着完了……!」
えらいしょぼいことに自らの大仰な能力を使う、その名も――!
「言っておくけれど、これは相手の店のチェックよ。
我が紅魔館にとって、どれほど強敵となりうるか……その視察なんだから。いいわね? その辺りのこと、きちんと理解しているわね?」
「もちろんです、レミリアお嬢様」
そう。
言うまでもなく、永遠にカリスマブレイクする幼い月、レミリア・スカーレットその人であった。
ちなみに、その横に佇むメイドは、普段、彼女が連れ歩いているメイド長ではない、別のメイドである。
「……それにしても、あれが店の列なのかしら」
物陰から伺う人里の大通りには、ずら~っと長蛇の列が続いている。
視線を列の先頭に向ければ、そこには、おとなしめの、しかし色鮮やかな外壁が特徴な店が一つ。
並ぶ人々は、皆、手に同じチラシを持っており、それを眺めながら、今か今かと入店の時を待っているような状況だ。
「……どれくらい並びそうかしら」
「入っていく人と出て行く人のペースから考えると、今、最後尾に並べば2時間待ちというところでしょうか」
「くっ……! もう少し早く出ておけば……!」
「私が起こしに行ったのに、お嬢様がいつまでも起きないからですよ」
「う~……!」
咲夜ならば、『そうですわね』と笑顔で同意してくれそうなところに、なかなか辛らつな言葉のナイフを降り注がせてくる。
紅魔館で、特に、年配のメイド達は皆こんな感じだ。咲夜はまだまだ、レミリアには甘いのである。
ともあれ、下手に暴れたりして目立つわけにもいかない。レミリアは大人しく、彼女を連れて列の最後尾へと。
「……退屈だわ」
「人の流れを見ているだけでも楽しいですよ」
「そうかしら」
ちなみに、そんな幼女の本日の衣装は、一体どこから手に入れてきたのか、人里の子供たちに混じっても違和感のない子供服であった。目許にはサングラスなどをしてはいるものの、どこからどう見ても『ただの子供』。元より威厳などはあったものでもないが、今日は普段の5割増しであった。色々と。
一方、その隣に佇むメイドは、片手でレミリアの日傘を持ちながら、片手でさらさらとメモ帳を広げてペンを走らせている。
その視線が向くのは、店の中から出てくる客たちが手に持っているもの。
「ふぁ~……」
大きなあくびをして、レミリアは目元をこする。
そんな彼女をちらりと見てから、また視線は人々へと。
――どうやら、彼女は、レミリアが本来的に掲げている目的である『マーケットリサーチ』をこなす役目も負っているらしい。
無論、そんな役割を誰から命じられたのかは、言うまでもないだろう。
「……あの包み紙は見たことのないものね。恐らくは新製品……。
新製品と定番製品の割合は5:5……まずまずというところかしら」
紅魔館のメイドと言うものは、下っ端はともかく、上の方になれば割と油断出来ない存在であるらしいが、なるほど、その評価は間違っていないようだ。
「ところで、お嬢様。お財布はお忘れになっていませんね?」
「もちろんよ。このわたしが、そんなミスをすると思っているのかしら」
ふふん、と胸を張って威張るレミリアだが、衣装のせいで幼女度120%アップであった。
彼女は肩から提げているポシェットを開けると、『ちゃんと持ってきたわ』と中からぶたさんお財布を取り出す。最近のレミリアのお気に入りであった。
中を見れば、じゃらじゃらと小銭が山ほど。
「ちゃんとフランドール様の分も買っていってあげるんですよ」
「もちろんよ。それくらい心配しないで欲しいわね」
またもやえっへんと威張るお嬢様。
こういう時、きちんと釘を刺しておかないと、大切なこともころっと忘れてしまうのがお嬢様がお嬢様たる所以である。
さてそれはさておき、ひたすら待つこと2時間。
ようやくレミリアたちは店の前までやってくる。わいわいがやがやというにぎやかな声は、店に近づけば近づく程大きくなる。
ひょいと視線をやれば、くだんのお嬢様は目を輝かせている。偵察どうこうは、やはり彼女にとってどうでもいいことだったようだ。
「いらっしゃいませ~!」
店の中に足を踏み入れた途端、かけられるのは店員の声。
視線を向けると、そこには、店の衣装に身を包んだ早苗の姿。彼女の隣では、アルバイトの少女二人が、早苗と一緒になって客に向かって頭を下げている。
なかなか、その姿は堂に入ったものであった。
「お客様、何をお求めですか?」
「え? えっと、えっと……」
別のアルバイト少女が、レミリアに声をかけてくれる。
わざわざレミリアと目線を合わせてそういうことをしてくれるということは、早苗の教育も行き届いているということか。
「そ、そうね。
えーっと……ん~……」
ポケットから折りたたんだチラシを取り出し、何を買おうか、最初に決めておいたはずなのに、いざ実際に店にやってきてみれば目移りしてしまう――そんなお嬢様の仕草は相変わらずである。
「わっ!?」
と、その横で、いきなり女の子達の黄色い声が上がる。
何事かとレミリアが視線をそちらに向けると、
「い、いらっしゃいませ。お客様」
「……どうぞこちらに」
「きゃーっ! 星さまーっ!」
「妹紅さん、こっち向いてーっ!」
「……何かしら、あれは」
「さあ?」
『イケメン執事』衣装の星と妹紅に女の子達が群がっていた。
皆、『我も我も』と大賑わい。二人は困ったような表情を浮かべて、特に星など見ていて哀れなくらいにうろたえている。
……と、その後ろに早苗が歩み寄り、何やらぼそぼそ。
星は『よ、よしっ!』と気合を入れるような仕草をしてから、
「あなた方に逢えて感激ですよ、お嬢様方。
さあ、お会計をお望みの方は、こちらへ」
などと気取った調子で言うものだから、店内のボルテージは二段階くらいブーストアップした。
「……名物店員というやつかしら?
……って、あら? あの店員は?」
「あちらに」
レミリアの接客をしていた少女も、『星さまーっ! きゃーっ!』とその輪に加わっている。
あれじゃ、味方による営業妨害じゃないのか、と呆れてしまうレミリア。しかし、回りの様子を見ればわかることだが、確実に、妹紅と星目当ての女の子達が多数来店しているのも事実だ。
なるほど、客寄せとしては成功しているようですね、とメイドはその状況を分析する。
「ちょっと、華扇。あんた、太るわよ。いくつ食べるのよ」
「大丈夫よ、霊夢! たとえ太ったとしても、修行、修行! ダイエットは己との精神の戦いすなわち修行! 修行すれば大丈夫なの!
はぁ~……! 美味しいっ! 最高っ! 長生きしてよかったっ!」
また店の一角では、見慣れた巫女が見慣れぬピンク頭の女性と向き合っている。テーブルの上はケーキで一杯。それを、見慣れぬピンク頭の女が片っ端から平らげていた。
なかなか奇妙な光景である。ちなみにレミリアは、霊夢の姿を見て、『あら、霊夢じゃない』と声をかけにいこうとしてメイドに襟首つかまれて止められている。
「あら、レミリアじゃない。あんたがこんなところに来るってことは偵察か何か?」
そんな奇妙な二人に、顔なじみから声がかけられたのはその時だった。
立っているのはアリス。彼女は手に持ったトレイに載せたクッキー、チョコレートその他諸々をショーケースに置いてから、二人に振り返る。
「なっ……!? な、何のことかしら? レミリア? 誰かしら、それは」
「あんたよ、あんた。そんないかにもな格好した幼女が、幻想郷のどこに他にいるっていうの」
「そんな!? どうして、わたしの完璧な変装が!」
どうやら本気で驚いているらしい。
いかに見た目を取り繕っていても、肝心の顔なんかにはサングラス以外の装飾をしていないのだから、ばれて当たり前なのだが。
「咲夜さんじゃないのね」
「はい。メイド長は、本日は少し。
代わりに私が、お嬢様のお付ということで」
「大変でしょう? お疲れ様です」
「いいえ。これもお仕事ですから」
「ちょっと! わたしを無視するなんていい了見ね!」
うがー! とかみつくレミリア。
自分の正体がばれたのだから大人しくしているつもりもない、というところか。
「何の用事ですか?」
「ご想像の通り、こちらのお店の偵察です。
どれほど繁盛しているのかな、と」
「初日だからと言うのもありますけど、かなりのものだと自負していますよ。もう忙しくて大変」
「みたいですね」
「ちょっと! わたしを無視するんじゃなくてよ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて自分アピールするレミリアであるが、アリスとメイドの眼中には入っていないのは明白であった。
と言うか、アリスも、レミリアを相手するよりはこちらのメイドの彼女を相手した方が話が進むことはわかっているのだろう。
何よ、とふてくされるレミリアは、そのままとてとてカウンターの方へと歩いていく。
『ご注文をどうぞ』
と、差し出されるフリップ。カウンターを担当するのはアリスの人形たちであった。
その隣では、星が盛大に小銭を床にぶちまけ、『す、すすすいません!』と頭を下げている。ぶっちゃけイケメン度がた落ちのいつものうっかり発動であるが、それすらも女の子たちのフィルターにかかれば、『ユーモアにあふれる素敵なお・か・た(はぁと)』になるのである。
「えっと……」
カウンターに据え付けられたショーケースにはずらりと並ぶケーキの山。
そのいずれもが『オープン記念』と言うシールが値札に張られ、『100円』均一であった。
「これと、これと、これとこれ! あと、これとこれとこれも!」
そして、先ほどまでの不機嫌どこへやら。
目を輝かせてケーキを注文するレミリアに、担当の人形(仏蘭西)はケースの中からケーキを取り出していく。
『全部で1200円です』
「これでいいかしら?」
ぶたさんお財布からじゃらじゃら小銭を取り出すレミリア。
それを一枚一枚数え、『確かに』と言う返答。
こうして、レミリアはお目当てのケーキをげっとすることが出来たのである。第三部完。
「あ、レミリア。
ついでだから、あんた。これ試食してみない?」
「何かしら、これ」
「何だと思う?」
プリンのような小さな入れ物に入った、赤いもの。
受け取ったそれをつんつんフォークでつつき、まずは一口。
「ムースかしら」
「そうね」
「甘くて美味しいじゃない」
「お気に召した? それ、何のムースだと思う?」
「ん~……いちご……とか、トマトとは色が違うわね」
「にんじん」
「にっ……!?」
レミリアに衝撃走る。
何を隠そう(というかもはや周知の事実だが)、レミリアはにんじん、ピーマン、セロリなどの癖の強い野菜が苦手である。
いっつも残しては咲夜に『食べるまでデザートはお預けです』と言われて、涙目になるほどだ。
『にんじん』の一言に拒否反応を起こすレミリアに、「けれど、甘くて美味しいでしょ?」とアリス。
「……えっと……」
「ほら、食べなさいって」
「う……う~……」
正体を知ってしまっては、かなりの拒否反応があるようだ。しかし、最初に食べた味も忘れられないため、またもや一口、ぱくり。
さらにもう一口、というところで、ムースの中からとろりしたたるソースが現れる。
『絡めて食べるともっと美味しいわよ』とのアリスの言葉に従って、そのソースをムースに絡めると、
「う……!?」
確かに、見事と言うほかない美味しさだった。
野菜のにおいも味も感じない、ただ広がるのは甘さのみ。
舌を包み込むような感覚がありながら、しかし全くしつこくない。濃厚さと共にさっぱりとした、それでいてみずみずしい、まるでジュースのような口当たりのソースの美味しさ。
思わず、羽をパタパタさせながらそれを完食してしまうレミリアである。
「これは?」
「キャロットムースの野菜ソース」
「やさっ!?」
「にんじんやトマトなんかの、子供が嫌がる野菜を搾って、果汁だけを取り出したのね。
ソースに砂糖とかは一切使わない、まさに自然の甘さ。
どう? レミリア。美味しかったでしょ?」
「お……いし……う、うん……」
「野菜も食べなきゃダメよ」
ちなみに、レミリアの野菜嫌いは、野菜の独特の味とにおいに起因する。
子供の常であるが、お菓子の形になってしまっていれば食べられるのである。それでは野菜を『克服』したことにはならないので、咲夜はあまりそういう手段は使わないのであるが。
「よかったですね、お嬢様」
「……うん。まぁ……」
「それでは、今日はこれで」
「はい。また来てくださいね」
「幽香さまにもよろしくと言っておいてください」
「ええ。ご来店、ありがとうございました」
メイドに連れられ、店を後にするレミリア。
そんな彼女に、メイドは一言、「野菜も美味しいですよね。特にこれからの時期は」と言うのだった。
「……ものすごい疲れました」
「もう二度と来ないぞ……」
「まあまあ、寅丸さま。妹紅さんも。
今後のシフトはもう組んでしまったので、よろしくお願いしますね」
「……なんでお前、まるで疲れてないんだ……」
「あの程度で疲れたなんて言っていたら、有明の戦場で三日間ぶっ通しで売り子なんて出来ませんよ」
店の片隅で真っ白に燃え尽きている二人に、容赦なく明日以降のシフトを叩きつけてから、早苗は『それじゃ、お疲れ様でしたー』と去っていく。
華扇は店のケーキほぼ全種類を平らげて、満足しきった顔で、食べ疲れたのか睡眠中。それに付き合わされた霊夢は『……当分、甘いものは見たくない』と呻いている。
「にしても、なかなかの売り上げになったわね」
「……やっぱり続けないとダメ?」
「当たり前でしょ」
オープン記念と言うことで、本店の営業時間に合わせた営業時間が、この支店でも設けられているため、午後の3時からは、『特別』と言うことで店頭に立たされ、周囲の注目を一手に集めていた幽香が、アリスの一言に苦笑いを浮かべる。
彼女には男性たちから『幽香さん、開店おめでとうございます!』と熱い魂を叩きつけられ、女性からは『幽香さん、私たち、毎日ここに来ますね!』と笑顔を向けられ、子供から『お姉ちゃん、お菓子美味しいよ!』と澄み切った瞳を向けられると言う、もう色んな意味で息つく暇もない『忙しさ』が与えられていた。
「本店の経営と支店の経営、両方をうまくやっていくのよ。大変だけど頑張りなさい」
「……はぁ。
まぁ、いいんだけどね……。と言うか、何か道がそろそろ違ってきてると言うか……」
「けれど、こうやって、色んな人に笑顔を向けられると言うのは悪くないでしょ?」
返答、なし。
アリスは幽香の肩を叩くと、「霊夢、そろそろ閉店だから、それ、連れて帰ってね」と言う。
「明日の仕込みも終わってるんだから、私たちも帰るわよ。
帰りは近くの店でご飯でもおごってあげるわ」
「別にいいわ。自分で作る料理の方が美味しいし。
それより、家に帰って、家の方の仕込をしないといけないから」
「店主としての責任感が育ってきた?」
「違うわよ」
――ただ何となくよ。
そう言って、幽香は席を立つ。始まった以上はやってのけるしかない、という構えと共に、『せっかくのアリスの心意気なのだから』と言う音が、たぶんにそこには含まれていた。
「あんた、大変ね」
「そうでもないわよ。幽香の扱いに慣れればね」
あれはあれで楽しいものなのだ、と。
幽香がふわふわ空を飛んでいくのを見送っていたアリスは、霊夢に返したのだった。
そして、その日の夜。
食事に出たにんじんたっぷり野菜スープに挑戦したレミリアは、見事、にんじんを克服することが出来たのだった(なお、難易度EX野菜のピーマン、難易度ルナティック野菜のセロリには、現在も挑戦中である)。
~喫茶『かざみ』人里支店オープン!~
先日、本紙にてお伝えした、風見幽香氏が経営する喫茶『かざみ』であるが、本日、人里にて開店の運びとなった。
開店前から店の前には長蛇の列が続き、本紙記者も出るのが遅れたため、入店まで3時間も待たされることとなってしまった。
さて、店内のレポートであるが、本店と比べると若干狭いのはご愛嬌。魅惑あふれるショーケースに並ぶお菓子のラインナップは本店に勝るとも劣らず、しかもこれから拡充されていくとのことである。
また、『かざみ』名物のイートインスペースも用意されており、買ったお菓子をその場で食べられると言うのも変わらない魅力の一つだ。
さらに、本店に比べて来店客が多くなることを見越して、支店には多くの店員が雇われている。その店員のいずれもが、あの東風谷早苗氏デザインの、かわいらしい、あるいは素敵な衣装を身にまとって諸兄をお出迎えしてくれるのである。
店で何も買わずとも、ただ訪れるだけで楽しい――そんな店舗を提供していきたいとの話を、店主からは頂くことが出来ている。もちろん、せっかく店に足を運んだのだから、何か一つ、商品を手にとっていくのも悪いことではないだろう。
現在、オープン記念セールと銘打って、『かざみ』の定番ケーキが全品100円での販売が行われている他、人里支店限定の商品もあり、しかも品揃えは今後も追加されていくと言うのだから見逃せない、そして聞き逃せない話題を、これからも、読者諸兄へと提供してくれることだろう。
なお、この人里支店には、店舗パトロンのアリス・マーガトロイド氏の人脈を生かし、藤原妹紅氏と寅丸星氏の両名も店員として参加している。両名の勤務シフトについて入手したので、この二人に会いたいファンの方は、以下の日程を目安に足を運んでみるといいだろう。
さらに、店舗を訪れた人に、抽選で、今なら店主の風見幽香氏より特製花束をプレゼント中である。(著:射命丸文)
個人的には「幕間劇」の人形達が「かざみ」と絡んできたのが特に嬉しかったです。
にしても、幽香はすっかりアリスに押され気味ですねw
それでは、文に連絡を取る作業に戻ります。
どうすれば文に連絡が取れるかな…
文の連絡先は…何処なんだ…!?
内容は100点です。 ただ、人里に支店は『風見さんとマーガトロイドさんと』と展開が完全にだぶるので
何かしらその話から繋げても良かったんじゃないでしょうか。
それと星を店員にするところがいくらなんでも説明を省きすぎだと思います。
『風見さんとマーガトロイドさんよ』で温泉を作る時に協力もしてるので、すんなり協力してもらえたのかしれませんが。
華扇ちゃんやレミリアのパートは読んでいて大変ほほえましくなりました。面白かったです。
華仙ちゃんが可愛いなぁ。
あと名もなきベテランメイドがなかなかいい味を。
店のレギュラーメンバーも増えて今後が楽しみです。