Coolier - 新生・東方創想話

地底漫才コンビ ヤマメ☆キッスの練習風景

2012/05/22 15:13:42
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【地底ファミレス 鬼の溜まり場】


  ガヤ ガヤ
   ガヤ ガヤ







「はい、お久しぶりでーす。『ヤマメ☆キッス』でーす」
「よろしく。久しぶりって、まだ結成一ヶ月目だからはじめまして、だけどね」
「私ヤマメと言いまして、こちらウチのツッコミマシーン、キスメちゃんと言いまして」
「そこまで精密なツッコミはしないけどね」
「それで先日寒い寒いと思ってたら」
「冷蔵庫に入ってりゃね」
「こちらサクサク山盛りポテトでーす」









       地底漫才コンビ
    ヤマメ☆キッスの練習風景









 ……先程まで私に愛のあるツッコミをかましていてた相方の右手は
 今、ポテトを食むために休みなく動いている。
 私はそのポテトを摘む余裕もなく、水で薄めてうっすくなった炭酸飲料を
 ごまかすようにあおり、はずかしさを飲み込もうと努力した。

「恥ずかしいなら、こんなところで練習しようなんて言わなきゃよかったのに」

 私が三ヶ月前から計画していた漫才計画は一ヶ月前に形となり、
 ……いや、四ヶ月前に計画したんだっけ? いや、もう少し……
 まぁいいや。とにかく結構前から計画しててやっと形となったのだ。
 今日はその野外練習一日目。
 巷で人気の深夜のファミリーレストランにて練習を行おうとしていたのだ。

「あふっ、あつっ、ポテトさくさくして、おいし」

 相方はあまり気にしていないようだが、このレストラン、深夜にもかかわらず
 意外にに賑わっている。
 地底初の24時間営業、おかわりし放題のドリンクコーナーがその魅力か。

「ヤマメちゃん、このマヨネーズとケチャップ混ぜた奴なんて言うんだっけ、
 あつつつ、まぁなんでもいいや美味しいから」

 オーロラソースだこのやろう、と突っ込んでやりたかったが
 私はボケ役なので無言に徹した。
 こういう気遣いは大事なことなのだ。
 日常からボケ役に徹しないと面白いボケは演じられない。

「こんな時間に揚げ物と炭酸なんて…… お腹まわりがどうにかなりそうだけど
 美味しいからいいや。んーほくほく」

 ……さっきからこいつは私が何にも手を付けないのをいい事に
 ぱくぱくと美味そうにポテトを食していく。
 こっちに気遣いもできないのか……

「あく、あつ、あつ」
「……猫舌なんだから、ゆっくり食べなさいよ」
「あ、やっと喋った」

 こちらが話しかけると今まで揚げたいもにしかいっていなかった目線は
 私の方へと向けられた。
 
「……あつ」
「このマヨケチャをね、ケチャップ気持ち少なめにつけるとおいしいよ」
「……オーロラソースね」
「あ、それそれ」

 机に置かれてからしばらくしたと思ったが、ポテトは熱々サクサクで、
 冷たいオーロラソースによく合っている気がした。

「ヤマメちゃん、店員さんが恥ずかしいならなんでここにしたの?」
「いや、やっぱり漫才の練習なら深夜のレストランかなって。初めてだけど」
「練習になってないじゃん。すいませーん、チョコバナナパフェー」
 
 店員の元気ある声が聞こえ、何かを書き込んで私たちの机の上に置く。
 こういう会計システムもなにか新鮮で、興味が沸く。
 
「ところで、この前渡したネタまとめ帳には目を通した?
 自信作の集まりなんだけど」
「あ、あれ? うん、この前地霊殿に持っていったら皆笑ってたよ」
「もう人に見せちゃったの?!」
「うん」
「なんでよ! ありえないわー」

 ……何を考えているんだこいつは。
 お笑いのネタっていうのは新鮮度が大切で、
 初見かそうじゃないかで天地の差が開くものなのに……
 まぁ聞いた話だけど……

「特に笑ってたのはあれ、あのー」

 うーんと頭を捻って考える相方。
 しかしネタ帳の段階とはいえ好評だったとは、私には才能があるんじゃないか、と
 勘違いしてしまう。よせやい。

「なんて言ったらわかんないから実際にやってみようよ。
 ヤマメちゃんが考えたんだからわかるでしょ」
「う、うん。じゃあ」

 私たちは椅子から立ち上がり、テーブルの前で横に並ぶ。
 ちなみにキスメの桶は店の前に置いてある。
 盗まれたら嫌だから、と木と一緒に桶をつなげて鍵を掛けている光景は、
 ここ最近で一番おもしろい光景だったといえよう。
 ……だれが盗むんだよ。寿司屋か。












「えーと、所でヤマメさん」
「はいはい何ですかキスメさん」
「この前私、銭湯に行ったんだけどね」
「! あーそれか。はいはいそれで?」
「良いよね銭湯って。広くて、綺麗で」
「え? 広くて綺麗なんですか」
「うん、大体の銭湯は広くて綺麗だと思うよ」
「だってその桶にお湯を貯めるわけでしょ? だったらそんなのどこでも一緒じゃ……」
「ってそんなわけあるかーい。その時くらい桶からは出るわー」
「ごめーん。てっきり☆てっきり」
「チョコバナナパフェでーす。上に刺さってるチョコプリッツェルはサービスですので
 宜しかったらどうぞー」














 ……半分以上減ったポテトを尻目に相方はチョコバナナパフェを
 黙々と口に運んでいる。
 口の横についたチョコレートソースがとても子供っぽく見え、
 私の口元は母性あふれる笑みがこぼれ、何にでも寛容できる余裕ができた。

「もぐもぐ…… チョコアイス美味し。ねぇ、大丈夫? 黄昏てるみたいだけど。
 『てっきり☆てっきり』の時のおそろしく変な顔を店員さんに
 おもいっきり見られたのは恥ずかしいと思うけどさ」
「……わざわざ言わないでよ。忘れたいんだから」

 店員の宜しかったらどうぞー、の笑顔のひきつり方は目に見えて分かった。
 私が求めていたのはあんな笑顔じゃなくて、
 もっと、腹を抱えて笑い転げられるような…… 

「私だったら知らない人にあんな顔を見られたら死ぬな」
「ちょっとはフォローしてよ! 私だって泣きそうだよ!」

 なんでこいつは私が涙目で突っ伏しているところを見て
 こんなひどい毒を吐けるんだ。
 あ、突っ伏してたら涙目は見えないか。
 
「ていうかこのネタが一番だったの? 他にも面白いのはあったと思うけど」
「そうだよ、これが一番みんな苦笑いしてた」
「苦笑いかよ!」
「あのこいしちゃんが引き笑いしてたって言ったら凄さがわかると思うけど」
「すごいよね、むしろすごいよねそれ!」 

 あの無意識ちゃんを引き笑いさせる程度のネタか……
 よっぽどなんだな……

「お空ちゃんは普通に笑ってたけど」
「あの子は参考になんないでしょ」
「え、お空ちゃんが笑ってないネタもあったよ」
「え、え? どれ?」
「じゃあ実際にやってみようか」
「わかっ……」

 さすがに今度は私も注意する。
 キスメは何も頼んでいない。
 机の端に置いてある調味料も少なくなっていない。
 補充に来ることもないだろう。
 ……よし。
 私たちは三度、机の前に横に並んだ。










「キスメさん、きいてくださいよ。私定食屋さんを開こうと思うんですよ」
「へぇ、いいねえ。でも定食屋さんは難しいよ。今の外食屋さんはいろんなサービスが
 豊富で、競争がすごいんだから」
「それに関しては問題ないですよ。私の定食屋は食欲と同時に知識欲も満たしてあげて、
 いろんな物を頼みたくなっちゃうっていう定食屋さんですから」
「ふうん? というと」
「これ見て下さい。メニュー表です」
「……なにこれ? 豚の絵が二匹書いてあるけど」
「それはとんかつ定食です。豚が二匹でトンがツー、なんちゃってー」
「すみませんお客様! 先ほどのチョコバナナパフェにバナナが入ってなかったみ……みたいです!
 急いで交換いたします!」














 そうだな、今の気持ちを一文字で言うと、羞恥心、かな。
 ほらそこ、一文字じゃねえよって突っ込むところだよ。

「やった、さっきの半分くらい食べてたし、得しちゃった」

 ニコニコ笑顔の緑髪の少女はうれしそうに新しいチョコバナナパフェをパクついている。
 良かったわね、得して。っていうか……

「チョコバナナパフェにバナナ入ってないことくらい気づけよ!」
「だってチョコアイスに夢中だったし…… もぐもぐ」

 嬉しそうに食べるなもう……
 もういいわよ。ここではもう練習しない。
 というかここに来ない。いや、来れないって。

「まさか同じ店員さんに見られるとはね。
 ヤマメちゃんががに股でダブルピースして、『トンがツー』って言ってる姿」
「言わないで! もうお嫁に行けない!」
「さすがのあの店員さんも一瞬固まってたもんね」

 私の記憶を消してやりたい。
 消し去ってやりたい。
 もし今地霊殿の主に出会って私のトラウマをほじくり返するなら、
 あの主は私に向かってがに股ダブルピースをしなければいけないだろう。
 ……なんていう誰も得しない展開なんだ。

「多分お空ちゃんはダジャレが苦手で理解できなかったから
 笑わなかったのかもね」
「もうそれでいいわよ……」

 もう、漫才師やめようかな……
 いや、まだ漫才師じゃないけど。
 もし有名になってもあの店員さんがいる限り
 『あ、あの時の…… うわあ、テレビとか出てるよ。恥ずかしくないのかよ』
 とか思われそう……
 いやあ、想像したくない!

「ねぇねぇヤマメちゃん、ポテトにチョコアイスつけて食べてみて! ほら!」
「……えー」

 すでに冷め切ったポテトにパフェに乗ってるチョコアイスにつけ、
 口に運ぶ。
 うえぇぇ、ポテトのしょっぱさとチョコアイスの甘さが相成って……

「なにこれぇ、まずぅ……」
「でしょ?」
「でしょじゃねーよ! わかってんならやらさないで!」
「あははごめんごめん、あまりにもまずいからやってみて欲しくて」

 氷が溶けきり更に薄くなった、炭酸とはすでに言えないような液体で
 口を落ち着ける。これもこれでまずい。
 ただの水に砂糖を溶かして着色料で色を付けたものみたいだ。
 そんなもの飲んだ事ないけど。
 まったく、なんてもの食べさせるのよこの桶女は。

「ねー ヤマメちゃん。バナナ食べない?
 私バナナあんまり好きじゃないんだけど」
「じゃあなんでチョコバナナパフェ頼んだんだよおおぉぉぉ!」 
「チョコバナナ味が好きなんだけどチョコバナナは好きじゃないアレだよ」
「なにそれ知らないわよもうやだこの子!」
「あの、お客様、先程からすこうしだけお騒がしいのでもう少しボリュームを……」
「すみませんでした! それも含めさっきからいろいろとすみませんでした!」
「い、いえ、では、ごゆっくり……」

 もうやだもうやだ。
 帰って寝る!
 明日は昼過ぎまで寝る!
 早くここから出よう、あの紙をもってけばいいんだよね。
 
「えーもう出るの」
「私が払うから。もう全部私が払うからでましょ!」
「そういうことならごちそうさまー
 いやあ、それにしても楽しかったね」
「全然」

 どこが楽しかったというのか。
 私が傷ついただけじゃないか。

「それでね、思ったんだけど」
「なに?」
「ヤマメちゃんはボケじゃないよ。絶対にツッコミ役」
「え、そう?」
「うん。だって今日ツッコミしかしてないじゃない」 

 ……思い返してみると。
 ふむ、確かに。
 私はツッコミ役だったのか。
 自然体で居たと思うのに。
 自然にツッコミが出るならツッコミ役ってことなのかな。
 でも漫才するのにこんなに苦労するなんて……
 はぁ、それも含めて本当に……




「もういいわ、やめさせてもらうわ……」
「ふふ、はい、ありがとうございました」

 そう満足したように笑って、
 私の相方は何も払わずに外につないでいる桶に向かって走っていった。







       地底漫才コンビ
    ヤマメ☆キッスの練習風景
   

  どうも、ありがとうございましたー
このssの50%は勢いでできていて
もう50%はヤマメちゃんのツッコミでできています。

どうも、ありがとうございましたー
ばかのひ
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コメント



0.650簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
劇中劇にも見えるぞ…?
この不思議な感覚…彼女らの行動は素だったのか漫才だったのか
まあヤマメ可愛いからなんでもいいですけどぉ
5.90奇声を発する程度の能力削除
読んでてニヤけるw
6.100名前が無い程度の能力削除
これはいいwww
10.100名前が無い程度の能力削除
店員パルスィで勝手にトリオにして遊んでました。
鼻で笑ってヤマメにトドメ刺しそう。
楽しめました。
お疲れ様です。
13.100愚迂多良童子削除
ヤマメがボケようとしてボケツを掘る、と。
ファミレス店員をブリッジに使うと言う発想が新し過ぎて、笑いながら関心してしまった。
14.90名前が無い程度の能力削除
寿司屋がこの光景を見てたら間違いなく 桶じゃなくてネタの方を盗るね
16.100名前が無い程度の能力削除
こういう作品でしっかりテンポ出すのって結構難しいのに
すっげー面白かったです
17.90名前が無い程度の能力削除
チョコバナナ味は好きだけどチョコバナナは好きじゃないアレwww
ていうかバナナが入ってないチョコバナナパフェって凄いなww

ともあれヤマメちゃんがツッコミ向きなら、今度はキスメちゃんのがに股ダブルピースが見たいな!
18.90ぺ・四潤削除
店員も合わせて3人漫才なんでしょこれww
こいしちゃんの引き笑いって凄いな……
ガニ股ダブルピースで『トンがツー』のトラウマほじってさとり様もそろって引き笑いですね。
いやあ楽しかった。
19.80ずわいがに削除
やっぱり皆思うよなww「店員含めてトリオでコントやれ」ってwww
いやぁ、ヤマメ弄りはたまんねぇぜ!
20.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
21.80楽郷 陸削除
店員が絶妙なタイミングに現れるのが笑ったw
22.100名前が無い程度の能力削除
面白いwww
23.無評価名前が無い程度の能力削除
1つの漫才として楽しめましt
24.100名前が無い程度の能力削除
irewasureta
25.100名前が無い程度の能力削除
面白かったですwww
28.100名前が無い程度の能力削除
いいねえ
32.90名前が無い程度の能力削除
意外にに賑わっている→意外に賑わっている?

店員ww
35.100アックマン削除
オチが秀逸でした