ある日の就寝前。
「ねぇシエラ、明日は少し頼まれてくれる?」
紅魔館の副メイド長である私は、上司である咲夜さんに声をかけられた。
ちなみに咲夜さんは上司であると同時に、私の大切な人でもあるんですよ。
でも仕事中は上司と部下の関係を保つようにしています。
仕事とプライベートはキッチリ分けないといけないですしね。
「はい、なんでしょうか?」
「明日はアリスの家に行ってもらえるかしら?」
アリスさんの家? またいきなりですね。
「忙しいらしくて、手伝いが欲しいって言われたのよ」
なるほど。だから私に声がかかった、と。
「別に私じゃなくても良いんじゃ?」
「貴方が一番仕事が出来る妖精メイドだから、こうしてお願いしてるのよ。
他の子でも良かったんだけれどもね」
ありがたい言葉です。でも私もまだまだですよ。
「で、明日は行ってもらってもいいかしら?」
「ええ、もちろん。断る理由もないですしね」
「うん、ありがとうね。それじゃ、お休み」
笑顔で承諾すると、額に軽くキスをしてくれる咲夜さん。
「はい、お休みなさい」
頭を軽く下げると、すでに咲夜さんの姿は消えていた。
「それにしても、アリスさんの家かぁ」
アリスさんは妖精メイドたちから好かれている、いわば憧れの存在のような人。
もちろん、私もアリスさんのことが大好きです。
「ちょっと楽しみ、だな」
ふふっ、と一人笑い、自室に戻ることにする。
明日に備えてしっかり睡眠をとらないと。
あ、明日の準備もしっかりしなくちゃね!
「ふぅ、昨日は大変な目にあったなぁ……」
昨日部屋に帰った私は、同じ部屋のメイドたちにアリスさんの家に行くことを話したのですが……
その話をしたとたん、私は質問攻めにあってしまったのでした。
「なんでアリスさんの家に!?」とか「アリスさんの家で何するの!?」とか。
たくさん質問されて、へとへとでしたよ……
「ま、気を取り直して頑張ろう。もう少しでアリスさんの家に着くし」
そんなこんなで私は現在、森の中を歩いているのでした。
そこまで遠くないとはいえ、やっぱり歩いてアリスさんの家まで行くのは大変ですね。
汗がじんわりと噴き出してきますよ……
「あ、ようやく見えてきた」
森の中をてくてく歩いていると、立派な洋風の家が見えてきました。
あれがアリスさんの家。彼女はこんな森の中に一人で住んでいるんですよ。
……あ『一人では』ないですね。そうでした、彼女たちのことを忘れてました。
ん、彼女たちって誰のことかって? ふふっ、それは後で分かりますよ。
「さて、と。こんにちはー!」
そう声をかけながら、扉をノックする。
すると中から「はーい」という声が。
「よく来たわね。さ、入って」
ガチャ、という音と共に開かれたドアから、アリスさんが顔を出した。
綺麗な金色の髪が、ピンク色の可愛らしいカチューシャで留められています。
いつも通りの彼女のチャームポイントに目をやってから、私は中に入ることにしました。
やっぱり今日もアリスさんは綺麗ですねぇ……
「ごめんね、呼び出しちゃって。シエラも忙しかったでしょ?」
「いえいえ、気にしないでください。これも私たちの仕事の一つですから」
最近は咲夜さんのお知り合いの家にお仕事に行くことが増えているんですよね。
咲夜さんによると「他人との交流」や「家事の上達」等を目的にこんなことを始めた、らしいです。
でも、これがなかなか好評なんですよ。
妖精メイドたちにも、咲夜さんのお知り合いの方々にも。
私自身も色々な方と接することが出来るので、気に入っていますね。
逆にもっとたくさんの人の家に行きたいくらいです。
「あれ、そういえば……上海ちゃんたちは?」
上海ちゃんっていうのは、アリスさんの人形のこと。いや、元人形、かな?
詳しいことは知らないのですが、ある日いきなり人形が妖怪化したのが上海ちゃん、ということらしいです。
彼女はアリスさんと一緒にこの家に住んでいるんですよ。
ちなみに上海ちゃんの他にも、蓬莱ちゃん、ゴリアテちゃんという子がいるんです。
彼女たちはアリスさんにとって娘のような存在。
逆に彼女たちにとってアリスさんは母親でもあり、仕えるべきご主人様でもあるんです。
だからいつもは彼女たちが家事をしているはずなんですけれども……
「あぁ、上海たちはメディスンと幽香のところにお泊りに行ってるわ。
だから貴方にお手伝いをお願いしたいってわけ」
「あ、なるほど」
そういうことですか。
つまり、彼女たちがいない間、私に家事をして欲しいということなんですね。
「私が忙しくなければ貴方を呼ぶこともなかったんだけど、
明日までに子供たちにあげる人形を作り上げなきゃいけなかったからね」
そう言いながら、テーブルの上を指差すアリスさん。
その上には布や針などといった道具と、何体かの完成した人形が。
「慧音から、寺子屋の子供たちにあげる人形を頼まれてたのよ。
他にも色々頼まれていたものを片付けていたら、期間ギリギリになっちゃって」
「それはそれは……大変ですね……」
アリスさんの人形は幻想郷中で人気なんですよね。
完成度が高いってことで、いろんな人から作ってくれって頼まれてるらしいです。
レミリアお嬢様、フランお嬢様もアリスさんからもらった人形を大事にしてるんですよ。
「だから私が人形を完成させるまで、家のことを頼むわ。良かったかしら?」
「ええ、もちろん。私に任せてください!」
ドン、胸を叩いて答える私。
私にかかればちょちょいのちょいですよっ!
なぜなら私は、紅魔館の副メイド長ですから!
「それじゃ、任せたわよ。私は早速作業を始めるから」
「はいっ、頑張ってくださいね!」
「ふふ、そっちもね」
クスリと笑ってから、アリスさんは椅子に腰掛け、作業に戻っていきました。
さて、と。こっちも始めましょうかね。
アリスさんのためにも頑張るぞー。ふぁいとーっ、おー!
「……」
「……」
うーん、数時間かけて仕事を全部終わらせたのはいいんですが……
「……」
アリスさん、ものすごい集中力ですね……
私と最後に話した時を最後に、一言も喋ってませんよ。
なんか、声をかけるのもためらっちゃうんですが。
と、とりあえず、アリスさんも喉が渇いたでしょうし、お茶でも入れましょうか……
というわけで台所に向かい、お茶を入れることにする。
「えっと、茶葉はこれかな」
小さな缶の蓋を開けてみると、ぷぅんといい香りが漂ってきた。
うん、これでいいみたい。
「ポットはこれで、カップはこっち……」
紅茶を入れるのに必要な道具を一箇所に纏めてから、お湯を沸かす。
ガスが使えると楽ですよねぇ。便利な世の中になったものです。
河童さん様々ですよ。
お湯を沸かして、茶葉を入れてー……よし、出来上がり!
早速持っていこうっと。
「アリスさん、お茶が入りましたよ。一息入れませんか?」
「あら、ありがとうね。それじゃ、休憩にしようかな」
うーん、と背伸びをするアリスさん。
すかさず、私はカップにお茶を注いで差し出す。
「気が利くわね」
「ええ、長いことメイドをやってますから」
「ふふ、言われてみればそうね」
お互いにそう笑い合う。
「それじゃ、頂きます……ん、美味し」
良かった、気に入ってもらえたみたい。
「シエラも一緒にどう?」
カップをテーブルに置いてから、アリスさんは私にそう聞いてきた。
「いいんですか?」
「もちろんよ。さ、早く座って」
「それでは……失礼します」
アリスさんに急かされて、彼女の正面の席に座る。
それから、自分の分のお茶をカップに注いだ。
「頂きます……」
そう断ってから、口を付ける。
うん、美味しい。でもこの味、どこかで飲んだことあるような……?
うーん、どこかで飲んだことあるのは間違いないんだけど、何処で飲んだっけ?
「このお茶、何処で買いました?」
「あぁ、このお茶は咲夜にもらったのよ。流石は咲夜ね。美味しいお茶だわ」
なるほど、どこかで飲んだことあると思ったら、咲夜さんの作ったお茶でしたか。
咲夜さんは紅茶を作るのが上手いんだよなぁ。
「ええ、流石は咲夜さんですよ。たまに妙なお茶を作ったりもしますが……」
「そ、そうね……前にそこら辺のなんとかっていう草で作ったお茶をご馳走になったけど、アレは、ね……」
そこだけは玉に瑕、ですね……
好奇心なのか、はたまたそういう趣味なのか……
でも上質なお茶を作る腕は確かなんですけれども。
「そ、それはともかく、お仕事の方はどうですか?」
「え? ああ、あともうちょっとで終わりそうかな」
「そうですか。私に出来ることなら何でもしますから、ご自由に使ってくださいね?」
「わざわざすまないわね」
「いえいえ、困っている人は見過ごせない性格なもんで」
笑いながらお茶をすする私。
うーん、咲夜さんの紅茶はいつ飲んでも美味しいなぁ。
「それじゃあ、少し手伝ってもらおうかしら」
「はい! なんでもしますよ!」
「いい返事ね。でもその前にお茶を飲み切ってしまいましょ」
「あ、そうですね。アリスさん、もう一杯どうぞ」
「ん、ありがと」
こんな感じに、私たちのティータイムはゆっくりと過ぎていくのでした。
これが終わったら、またお手伝いの時間。
足手まといにならないように頑張らなきゃ!
「ふぅ、やっと終わった!」
私とアリスさんの作業は間に夕食を挟んで、何とか終了しました。
ふぃー、疲れたぁ……
「お疲れ様! いやー、流石は副メイド長、いい仕事ぶりね。予定より早く終わったわよ」
「あ、ありがとうございます……」
うひゃー、アリスさんに褒められちゃった……
やっぱり褒められるのって嬉しいな!
咲夜さんに褒められたときは天にも昇る気持ちになるんですが、
アリスさんに褒められるのも、それに劣らない心地よさです。
「それにしても……もう真っ暗ね」
「ですねぇ……」
アリスさんと一緒に外を見てみると、辺りは日が落ちて真っ暗。
うーん、結構時間かかっちゃいましたからね。
と、ここでアリスさんから意外な提案が。
「ね、今日は泊まっていかない?」
「え?」
「流石に日が落ちると危険だし、泊まっていくのが一番だと思うのだけれど、どうかしら?」
「にゃうっ!? お泊り!?」
ま、まさかのお泊り!? し、しかも憧れのアリスさんの家に……
いや、でも私には咲夜さんと寝るというのがあるし……
あ、でもアリスさんも捨てがたい。ど、どうしよ……?
「まぁ、泊まるには汚いところかもしれないけど……」
「いえ、そんなことないですよ! ……それでは、よろしくお願いします」
覚悟を決め、アリスさんの家にお泊りすることにした。
す、すみません、咲夜さん……
咲夜さんのことは大好きですけど、アリスさんのことも気になるんですよ……
「こちらこそよろしく。それじゃ、今日はお泊りで決まりね」
いやー、まさかこんなことになるなんて……思ってもみませんでしたよ。
しかし、この後さらに衝撃の展開が。
「それじゃ、お風呂沸かしてくるわね。一緒に入りましょ」
「は、はいぃ!?」
い、一緒にお風呂ぉ!?
まさかの展開過ぎますって!
「な、何よそんなに驚いて……私と一緒じゃ嫌なの?」
「いや、違います! むしろ喜ばしいんですが、 まさかそんなこと言われるとは思ってなかったので……
それにちょっと恥ずかしいかなとか、何より咲夜さんを裏切ることにならないかな、なんて……」
咲夜さん以外の人とお風呂なんて……咲夜さんに浮気とか思われちゃいそうだよぉ……
「あ、そこは気にしなくていいわよ。
逆に咲夜から『あの子とお風呂入ると癒されるわよー』なんて言われちゃったし」
「あ、う、うぅん……そうなのですか……」
まさかの咲夜さん公認。
よくよく考えると、そこまでうるさく言うような人でもないんですよね。
私のことを余程信頼してるのか、どうなのか……
「とりあえずお風呂沸かしてくるから、そこで待っててね。あ、くつろいでもらって構わないから」
「あ、はい……」
咲夜さんのことを考えていたら、待っている様に言われました。
……あれ、私ってアリスさんのお手伝いに来たんだよね?
いつの間にか逆の立場になってる気がするんだけど。
……ま、別にいっか!
いい機会だし、思う存分アリスさんの家を堪能させてもらおうっと!
そんなこんなで待つこと数十分。
「シエラー、お湯溜まったからおいでー!」
お風呂場から、そんなアリスさんの声。
「あ、はーい!」
返事を返しながら、アリスさんに薦められた本を閉じて、お風呂場に向かう。
一緒にお風呂かぁ……うぅ、緊張してきた。
「温度はちょうどいいくらいだと思うわ。さ、入りましょ」
「は、はい……」
私の目の前でするり、と服を脱ぎだすアリスさん。
アリスさんの脱衣シーンなんてそうそう見れるもんじゃないですよ……
じっくりと鑑賞……したいですが、流石にそれは遠慮しておきましょう。
流石にそこまで変態な行動に走るわけにはいかないし。
「そ、それじゃ私も……」
少しドキドキしながらメイド服を脱ぐ。
いつも一緒にお風呂に入っている友達の前なら遠慮せずに脱ぐところですが、流石にアリスさんの前で脱ぐのは恥ずかしいです……
「ん、何やってるの? ほら、早く脱ぐ!」
「にゃあっ!? あ、アリスさん!?」
緊張と恥ずかしさのせいで戸惑っていると、なんとアリスさんが服を脱がしてきました!
あ、あうぅ、恥ずかしいよぉ……
「うん、これで良し。早くしないと日が暮れちゃうわよ」
「はぅ……」
真っ赤になる私と、私を見ながら頷くアリスさん。
そのまま彼女は私の手を引いて、浴室へ。
「さてと、まずは背中を洗ってもらおうかしらね」
「は、はい」
……こうなってしまったからには仕方がありませんね。
いつまでも恥ずかしがってるわけにもいかないですし、一生懸命ご奉仕させてもらいますよ!
ということで、覚悟を決めてアリスさんの背中を洗うことに。
「それでは失礼しますね」
「ええ、お願い」
わぁ、真っ白……
咲夜さんの肌も白いけど、アリスさんはそれ以上かもしれませんね。
やっぱり魔法使いって、あんまり外に出ないから白くなっちゃうのかな?
パチュリー様も真っ白ですし。
「うわ、すべすべですよ……」
白いだけではなく、すべすべつやつやお肌とは……女として憧れちゃいます。
「ん、そんなにすべすべしてる?」
「ええ、私とは比べ物になりませんよ……羨ましいなぁ」
「ふふ、とりあえず褒め言葉として受け取っておくわね」
うーん、これだけ綺麗な肌だと、見入っちゃいますね。
早く終わらせないといけないんだけど、もうちょっと眺めていたいものです。
でも作業優先で行こうっと。
「どう? そっちは終わったー?」
「あ、もうちょっとですー」
もうちょっと、あと少し……よし、出来た!
綺麗に洗えた……はず。
「はい、終わりましたよー!」
「それじゃ、流してもらってもいいかしら?」
「お安い御用です!」
洗面器で浴槽のお湯を汲み、アリスさんの体にかける。
洗い残しがないように、しっかりかけなきゃね。
ざばぁ、という音と湯気が浴室を満たす。
湯気の白さの中にぼんやりと浮かぶアリスさんの白い背中……とっても綺麗です。
「ふー……これでさっぱりしたわ。さ、次は貴方の番よ」
「あ、はい、お願いします!」
くるり、とアリスさんに背中を向ける私。
アリスさんに洗ってもらえるなんて光栄ですよ。
「あら、貴方のお肌もすごい綺麗じゃない」
「い、いえ、アリスさんのほうが綺麗ですよ……」
「そんなことないわ。十分過ぎるほどに綺麗よ」
「あ、ありがとうございます!」
えへへ、そう言われると嬉しいなぁ。
嬉しさで照れちゃいます……
「力加減はこれくらいで大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ちょうどいいくらいです」
「うん、わかった」
おっ、アリスさん、背中洗うのがものすごく上手い気がしますね。
こう、なんといえばいいんでしょうか。
洗われてて心地いい、そんな感じがしますよ。
「アリスさんに背中を洗われてると、気持ちが良くなりますねー……」
「ん、そうかしら?」
「そうですよ。すごく上手いです」
「んー、いつも上海たちの背中を洗ってあげたりしてるお陰かしらね?」
あ、なるほど。それなら納得ですね。
毎日アリスさんと一緒にいられる、上海ちゃんたちのことが羨ましく感じます。
ま、私も毎日咲夜さんと一緒だから、十分満足してるんですけれど。
「さてと、終わったから流すわね」
「あ、お願いします」
そう返事をした次の瞬間、あったかいお湯が体にかかってくる。
あー、温かくていい気持ち……
「よし、これで大丈夫ね。湯船に浸かりましょ」
「はーい」
体を洗い終えてから、アリスさんと一緒に湯船に浸かる。
「まずは足から……んっ、くくっ……はぁ……」
ゆっくりとお湯に体を馴染ませるように浸かっていく。
こうしないと、ものすごく熱く感じますからね。
「んっ……はぁ、いい気持ちー……」
アリスさんも私と同じようにゆっくりと湯船に浸かった。
やっぱりアリスさんも、私と同じようにゆっくり浸かるんですね。
「いやー、いいお湯ですね」
「うんうん、仕事で疲れた体に染みるわねー」
「あはは、そうですね!」
一仕事した後のお風呂って最高ですよねー。
入浴後に牛乳とか飲むと、さらに最高ですよ。
「……それにしても、やっぱりこの浴槽だと体がぶつかるわね」
「あー、ですねぇ」
やっぱり小さい浴槽だと体がぶつかっちゃいますね。
でも、これだとアリスさんの体に常に触れることが出来るから、ちょっと嬉しいかも。
「……」
「ん、どうかしましたか?」
アリスさんが私の体を見つめている。
その目線を追ってみると……私の、胸?
「い、意外と大きいわね……」
「そ、そうですか? これでも咲夜さんよりは無いくらいなんですよ?」
「いえ、十分大きいわ……ちょっと羨ましい……」
でもアリスさんも大きいんですよね。というか、私より大きいはずですが。
アレですかね、隣の芝生は何とかってやつ。
「でもアリスさんのほうが大きいですよ?」
「えー、そうかなぁ……」
私の胸と自分の胸を交互に見比べるアリスさん。
その様子がちょっとおかしくて、笑いが込み上げてきちゃいました。
「ちょ、ちょっと! なんで笑ってるのよ!」
「あはは! 交互に見比べる様子がちょっとおかしくて……」
「う、うぐぅ……」
ふふっ、アリスさんってクールなお姉さんって感じがしてたんですけれど、可愛いところもあるんですね。
「と、とりあえずその笑うのをやめなさいっ!」
「はーい、やめますよー」
普段とのギャップがおかしくて、そんなことを言いながらもニヤニヤしてしまう。
「も、もうっ! だから笑うのやめなさいってー!」
それからしばらく、こんなやり取りがお風呂内で続いたのでありました。
あー、こんなアリスさんもいいなぁ……
いつもと違ったアリスさんが見れて幸せです……
「はぁ、いいお湯でしたねぇ……」
「ええ、いいお湯だったわねぇ……」
パジャマに着替えた後、私たちはソファに腰掛けながら、二人で冷たい牛乳を飲んで談笑していました。
やっぱりお風呂上りはこれですよねー!
「それにしても、パジャマも持ってきてたのね」
「ええ。咲夜さんが『アリスの家に行ったら、お泊りになるだろうから持って行った方がいいわよ』って言ってましたから」
「あー、なんか納得できるわ……自分で言うのもなんだけど」
ちなみにこれは咲夜さんの経験談だとか……
やっぱり、二人とも仲いいんですね。
咲夜さんもアリスさんと一緒にお風呂入ったりしてたりして。
うん、十分ありえますね。
「咲夜といえば、最近咲夜とはどう?」
「さ、咲夜さんと、ですか……まぁ、よろしくやってますよ。
一緒にお風呂入ったり、一緒に寝たり」
やっぱり、それ聞くんですか。
結構な頻度で聞かれるんですよねぇ……
やっぱり私と咲夜さんがラブラブなのは、周知の事実みたいです……
「うん、それは良かったわ。で、結婚はいつするの?」
「ぶーっ!」
いきなりの質問に牛乳を噴き出してしまう。
「な、なんて事を聞くんですかっ!」
「ふふっ、冗談よ、冗談」
「ま、全くもう……」
流石に結婚まではいかな……あ、でもちょっと気になる私がいる。
咲夜さんと結婚、かぁ。それもいいかも……
「あ、ところで話は変わるんだけど、最近こんな噂を聞いたわ」
「どんな噂ですか?」
「『妖精メイド内人気ランキング上位は私』っていう噂」
「ぶーっ!」
二回目の牛乳噴出。
な、なんでそんなことを知っているんですかね……
「これ、本当?」
「……ええ、本当ですよ。というか誰から聞いたんですか、それ」
「文からだけど」
「あ、文さん……」
天狗の情報網、恐るべし。
妖精メイドたちのこんな話までキャッチしてるとは……
「うーん、なんで私が上位なのか納得できないのよねぇ。魅力的な人は他にもたくさんいるでしょうに」
「いえいえ、アリスさんは十分魅力的ですよ。それに私たちに対してもすごく優しいですし。
『クールで優しいお姉さん』。そんなところがメイド達から人気なんですよ」
「なるほどねぇ。それで……もしかして貴方も私のことが……?」
「ぶーっ!」
二度あることは三度ある。
本日三回目の牛乳噴出でございます。
「どうなのかしら?」
「そ、そうですねぇ……包み隠さず言うと、好き、ですかね。あは、あはは!
もちろん咲夜さんが一番、ですけれどっ!」
冗談っぽく、笑って見せる。
もちろん、これは照れ隠しです。
「ふふっ。そう言ってくれると嬉しいわ。ありがと。
咲夜が一番なのは……まぁ、当たり前よねー」
「にゃあ……えへへ」
アリスさんに頭を撫でられちゃいました。えへへ、いい気持ち。
「さてと、そろそろ寝ましょうか?」
「ええ、そうですね」
夜ももう遅いですし、そろそろ寝る時間です。
というわけで、寝る準備をしますか……
もうちょっとお話したい気もするんですが、それは諦める事にしましょう。
「こうなることは薄々感じ取ってましたが、実際にやるとドキドキしますね……」
「ふふっ、そんなにドキドキするの?」
私の目の前にはアリスさんの顔。
つまり私はアリスさんと同じ布団の中にいるわけでして。
「ええ、やっぱりこうなるとドキドキしちゃいますよ。
咲夜さんと一緒に寝る時も未だにドキドキするくらいですから」
「ふーん、シエラは恥ずかしがり屋さんなのかしらね?」
「そうかも、ですね」
私は苦笑した。
やっぱり私は恥ずかしがり屋なのかもしれない。
さっきのお風呂といい、今の状況といい、恥ずかしがったり緊張してばかりだし。
「でも、そんなシエラも可愛いわよ」
「にゃ、にゃう、恥ずかしいですよぉ……」
「ふふ、可愛い可愛い」
真っ赤になる私の頭を撫でる咲夜さん。
こんな時でも頭を撫でられると少し安心できますね……
「あ、さっき私のことが好き、なんて貴方は言ってくれたけど……私も大好きよ。
貴方も他のメイドたちも、ね」
「あ、ありがとうございます……!
うぅ、嬉しいのと恥ずかしいので顔ぐちゃぐちゃ……み、見ないでくだひゃい……」
見られてしまわないように、必死に顔を隠す。
今の私の顔、きっと変になってるから……
だけど、アリスさんは顔を隠している手を払いのけた。
「……もう、やっぱり貴方は可愛いわね。その顔、すごく可愛いわ」
「ひゃ、ひゃうぅ……」
もう駄目……頭真っ白、です……
「よしよし、落ち着いて」
「は、う……ふぅ……」
そんな私を落ち着かせようとして、アリスさんは優しく私を抱きしめてくれた。
ふぅ、お陰様で幾分か落ち着きましたよ……
「どう、落ち着いたかしら?」
「は、はい。ちょっとは」
「ふふ、良かった」
あぁ、本当にアリスさんはお姉さんみたいだ。
皆が惹かれるのも頷けますね。
「さてと、落ち着いたところで寝ましょうかね。貴方も疲れたでしょう?」
「え、ええ。多少は……」
「しっかり休まないと、体に毒よ。それじゃ、お休みなさい」
「ふぁ……」
お休みなさいを言ってから、アリスさんは私にキスをしてきた。
愛のこもったキス、それを唇に……
「アリスさん……」
アリスさんが触れた唇を舐めてみた。
「甘い……」
うん、かすかに甘い……
これが、アリスさんの味……なのかな。
うん、きっとそうだよね。
「……咲夜さん、ごめんなさい。私、アリスさんとキスしちゃいました。
やっぱり咲夜さんもアリスさんも大好きです、私」
天井を見つめながら、咲夜さんに向けての謝罪の言葉を呟いた。
咲夜さんなら許してくれる、はず。うん、きっと許してくれるよね。
「……そろそろ私も寝ようっと」
しばらくぼうっとしていたけれども、やっとキスの甘い毒気と罪悪感が抜けたみたい。
頭がはっきりしてきたところで、私は眠ることにした。
「そういえば、咲夜さんと初めてキスした時もこんな感じだったなぁ……」
目を閉じてそんなことを考えていると、私の意識はすぐに暗い闇へと落ちていった。
「うぅん……あさ、なの……?」
目を開けると、明るい部屋の天井が目に飛び込んできた。
うーん、朝になったみたい。
ところでアリスさんは……どうやら先に起きているみたいですね。横には誰もいないや。
とりあえず、寝室を出ようっと。
「あ、おはよう。もう少しでご飯が出来るわよ」
「おはようございます……ふわぁ……」
外に出ると、アリスさんはいつもの服に着替え、朝食を作っているところでした。
いや、作っているというか、もう配膳を残すのみって状態ですけれども。
「ほら、顔を洗ってきなさい。そうすれば目も覚めるわよ」
「ふぁーい……」
大きくあくびをしながら、洗面台へ向かい、顔をばしゃばしゃと洗う。
……ふぅ、少しは目が覚めましたね。
でもやっぱりまだ少し眠いです。
朝食を食べれば、頭も体も起きてくれるかな。
「お帰り。さ、早く食べちゃいましょ」
顔を洗っている間に、テーブルに食事が揃っていました。
献立は目玉焼きにトースト、ハムと野菜ジュースですか。
うーん、良い匂い……この匂いだけでも目が覚めちゃいますね。
「それじゃ、頂きます」
「頂きます」
椅子に座り、アリスさんの頂きますに合わせて食べ始める。
……うん、とっても美味しい!
「どうかしら? 口に合えばいいのだけれど」
「ええ、とっても美味しいですよ。 お陰様で目も覚めました!」
「ふふ、ありがとうね。そこまで喜んでくれると、作ったかいがあったってものよ」
うーん、美味しい!
これさえあれば、今日一日頑張れますよ!
もりもり食べて、ガンガン働かなきゃ!
朝食後、私は紅魔館に帰るため、アリスさんは出来上がった人形を持っていくために外に出ました。
途中までは同じ道を歩くので、短い間ではありますが、アリスさんと一緒ですね。
「いやー、本当に来てくれて助かったわ。ありがとね」
「こちらこそ色々してもらってありがとうございました」
そんな言葉を交わす私達。
人形を作るのは疲れたけど、それ以上に楽しいことばかりでしたよ。
「また今度、暇なときにでも遊びに来て。いつでも大歓迎だから」
「アリスさんも紅魔館に遊びに来てくださいね? お待ちしていますから」
「ええ、また今度遊びに行かせてもらうわ。本を借りる予定もあるしね」
「はい、美味しい紅茶を用意して待ってます!」
ふふっ、今度アリスさんが来る時が楽しみだなぁ。
あ、お菓子も準備しておこうっと。アリスさんが喜んでくれるようなお菓子をね。
「さて、と。ここでお別れになるわね」
あ、もう着いちゃったんだ……やっぱりすごく短かったですね。
もうちょっと長くても良かったのに、とか思ってしまいますよ。
「そうですね。それではこの辺りで失礼します……色々とありがとうございました!」
アリスさんに対して、深々とお辞儀をする。
「気をつけてね。あと、紅魔館の皆によろしく言っておいて頂戴」
「はい、わかりました。それでは……」
もう一度お辞儀をしてから、私は紅魔館に続く道を、アリスさんは人間の里へと続く道を歩き始めました。
お別れするのは寂しいけど……アリスさんとはいつでも会えるもんね。
そう自分に言い聞かせて、私は紅魔館へ続く道を歩いていく。
「……よーし、今日も一日頑張ろうっと!」
帰ったらまた館の仕事が待ち受けていますし、頑張らなきゃ。
そして、今日はアリスさんが作ってくれた朝食のお陰で、いつもよりバリバリ働ける気がするのです!
「さぁ、バリバリやるぞー!」
私はそう叫びながら紅魔館へと駆け出すのでした。
ちなみに帰宅後、私は同僚のメイドたちから質問攻めに遭ったり、
咲夜さんに「アリスと一緒はどうだった?」なんてニヤニヤしながら聞かれたのですが、それはまた別のお話……
「ねぇシエラ、明日は少し頼まれてくれる?」
紅魔館の副メイド長である私は、上司である咲夜さんに声をかけられた。
ちなみに咲夜さんは上司であると同時に、私の大切な人でもあるんですよ。
でも仕事中は上司と部下の関係を保つようにしています。
仕事とプライベートはキッチリ分けないといけないですしね。
「はい、なんでしょうか?」
「明日はアリスの家に行ってもらえるかしら?」
アリスさんの家? またいきなりですね。
「忙しいらしくて、手伝いが欲しいって言われたのよ」
なるほど。だから私に声がかかった、と。
「別に私じゃなくても良いんじゃ?」
「貴方が一番仕事が出来る妖精メイドだから、こうしてお願いしてるのよ。
他の子でも良かったんだけれどもね」
ありがたい言葉です。でも私もまだまだですよ。
「で、明日は行ってもらってもいいかしら?」
「ええ、もちろん。断る理由もないですしね」
「うん、ありがとうね。それじゃ、お休み」
笑顔で承諾すると、額に軽くキスをしてくれる咲夜さん。
「はい、お休みなさい」
頭を軽く下げると、すでに咲夜さんの姿は消えていた。
「それにしても、アリスさんの家かぁ」
アリスさんは妖精メイドたちから好かれている、いわば憧れの存在のような人。
もちろん、私もアリスさんのことが大好きです。
「ちょっと楽しみ、だな」
ふふっ、と一人笑い、自室に戻ることにする。
明日に備えてしっかり睡眠をとらないと。
あ、明日の準備もしっかりしなくちゃね!
「ふぅ、昨日は大変な目にあったなぁ……」
昨日部屋に帰った私は、同じ部屋のメイドたちにアリスさんの家に行くことを話したのですが……
その話をしたとたん、私は質問攻めにあってしまったのでした。
「なんでアリスさんの家に!?」とか「アリスさんの家で何するの!?」とか。
たくさん質問されて、へとへとでしたよ……
「ま、気を取り直して頑張ろう。もう少しでアリスさんの家に着くし」
そんなこんなで私は現在、森の中を歩いているのでした。
そこまで遠くないとはいえ、やっぱり歩いてアリスさんの家まで行くのは大変ですね。
汗がじんわりと噴き出してきますよ……
「あ、ようやく見えてきた」
森の中をてくてく歩いていると、立派な洋風の家が見えてきました。
あれがアリスさんの家。彼女はこんな森の中に一人で住んでいるんですよ。
……あ『一人では』ないですね。そうでした、彼女たちのことを忘れてました。
ん、彼女たちって誰のことかって? ふふっ、それは後で分かりますよ。
「さて、と。こんにちはー!」
そう声をかけながら、扉をノックする。
すると中から「はーい」という声が。
「よく来たわね。さ、入って」
ガチャ、という音と共に開かれたドアから、アリスさんが顔を出した。
綺麗な金色の髪が、ピンク色の可愛らしいカチューシャで留められています。
いつも通りの彼女のチャームポイントに目をやってから、私は中に入ることにしました。
やっぱり今日もアリスさんは綺麗ですねぇ……
「ごめんね、呼び出しちゃって。シエラも忙しかったでしょ?」
「いえいえ、気にしないでください。これも私たちの仕事の一つですから」
最近は咲夜さんのお知り合いの家にお仕事に行くことが増えているんですよね。
咲夜さんによると「他人との交流」や「家事の上達」等を目的にこんなことを始めた、らしいです。
でも、これがなかなか好評なんですよ。
妖精メイドたちにも、咲夜さんのお知り合いの方々にも。
私自身も色々な方と接することが出来るので、気に入っていますね。
逆にもっとたくさんの人の家に行きたいくらいです。
「あれ、そういえば……上海ちゃんたちは?」
上海ちゃんっていうのは、アリスさんの人形のこと。いや、元人形、かな?
詳しいことは知らないのですが、ある日いきなり人形が妖怪化したのが上海ちゃん、ということらしいです。
彼女はアリスさんと一緒にこの家に住んでいるんですよ。
ちなみに上海ちゃんの他にも、蓬莱ちゃん、ゴリアテちゃんという子がいるんです。
彼女たちはアリスさんにとって娘のような存在。
逆に彼女たちにとってアリスさんは母親でもあり、仕えるべきご主人様でもあるんです。
だからいつもは彼女たちが家事をしているはずなんですけれども……
「あぁ、上海たちはメディスンと幽香のところにお泊りに行ってるわ。
だから貴方にお手伝いをお願いしたいってわけ」
「あ、なるほど」
そういうことですか。
つまり、彼女たちがいない間、私に家事をして欲しいということなんですね。
「私が忙しくなければ貴方を呼ぶこともなかったんだけど、
明日までに子供たちにあげる人形を作り上げなきゃいけなかったからね」
そう言いながら、テーブルの上を指差すアリスさん。
その上には布や針などといった道具と、何体かの完成した人形が。
「慧音から、寺子屋の子供たちにあげる人形を頼まれてたのよ。
他にも色々頼まれていたものを片付けていたら、期間ギリギリになっちゃって」
「それはそれは……大変ですね……」
アリスさんの人形は幻想郷中で人気なんですよね。
完成度が高いってことで、いろんな人から作ってくれって頼まれてるらしいです。
レミリアお嬢様、フランお嬢様もアリスさんからもらった人形を大事にしてるんですよ。
「だから私が人形を完成させるまで、家のことを頼むわ。良かったかしら?」
「ええ、もちろん。私に任せてください!」
ドン、胸を叩いて答える私。
私にかかればちょちょいのちょいですよっ!
なぜなら私は、紅魔館の副メイド長ですから!
「それじゃ、任せたわよ。私は早速作業を始めるから」
「はいっ、頑張ってくださいね!」
「ふふ、そっちもね」
クスリと笑ってから、アリスさんは椅子に腰掛け、作業に戻っていきました。
さて、と。こっちも始めましょうかね。
アリスさんのためにも頑張るぞー。ふぁいとーっ、おー!
「……」
「……」
うーん、数時間かけて仕事を全部終わらせたのはいいんですが……
「……」
アリスさん、ものすごい集中力ですね……
私と最後に話した時を最後に、一言も喋ってませんよ。
なんか、声をかけるのもためらっちゃうんですが。
と、とりあえず、アリスさんも喉が渇いたでしょうし、お茶でも入れましょうか……
というわけで台所に向かい、お茶を入れることにする。
「えっと、茶葉はこれかな」
小さな缶の蓋を開けてみると、ぷぅんといい香りが漂ってきた。
うん、これでいいみたい。
「ポットはこれで、カップはこっち……」
紅茶を入れるのに必要な道具を一箇所に纏めてから、お湯を沸かす。
ガスが使えると楽ですよねぇ。便利な世の中になったものです。
河童さん様々ですよ。
お湯を沸かして、茶葉を入れてー……よし、出来上がり!
早速持っていこうっと。
「アリスさん、お茶が入りましたよ。一息入れませんか?」
「あら、ありがとうね。それじゃ、休憩にしようかな」
うーん、と背伸びをするアリスさん。
すかさず、私はカップにお茶を注いで差し出す。
「気が利くわね」
「ええ、長いことメイドをやってますから」
「ふふ、言われてみればそうね」
お互いにそう笑い合う。
「それじゃ、頂きます……ん、美味し」
良かった、気に入ってもらえたみたい。
「シエラも一緒にどう?」
カップをテーブルに置いてから、アリスさんは私にそう聞いてきた。
「いいんですか?」
「もちろんよ。さ、早く座って」
「それでは……失礼します」
アリスさんに急かされて、彼女の正面の席に座る。
それから、自分の分のお茶をカップに注いだ。
「頂きます……」
そう断ってから、口を付ける。
うん、美味しい。でもこの味、どこかで飲んだことあるような……?
うーん、どこかで飲んだことあるのは間違いないんだけど、何処で飲んだっけ?
「このお茶、何処で買いました?」
「あぁ、このお茶は咲夜にもらったのよ。流石は咲夜ね。美味しいお茶だわ」
なるほど、どこかで飲んだことあると思ったら、咲夜さんの作ったお茶でしたか。
咲夜さんは紅茶を作るのが上手いんだよなぁ。
「ええ、流石は咲夜さんですよ。たまに妙なお茶を作ったりもしますが……」
「そ、そうね……前にそこら辺のなんとかっていう草で作ったお茶をご馳走になったけど、アレは、ね……」
そこだけは玉に瑕、ですね……
好奇心なのか、はたまたそういう趣味なのか……
でも上質なお茶を作る腕は確かなんですけれども。
「そ、それはともかく、お仕事の方はどうですか?」
「え? ああ、あともうちょっとで終わりそうかな」
「そうですか。私に出来ることなら何でもしますから、ご自由に使ってくださいね?」
「わざわざすまないわね」
「いえいえ、困っている人は見過ごせない性格なもんで」
笑いながらお茶をすする私。
うーん、咲夜さんの紅茶はいつ飲んでも美味しいなぁ。
「それじゃあ、少し手伝ってもらおうかしら」
「はい! なんでもしますよ!」
「いい返事ね。でもその前にお茶を飲み切ってしまいましょ」
「あ、そうですね。アリスさん、もう一杯どうぞ」
「ん、ありがと」
こんな感じに、私たちのティータイムはゆっくりと過ぎていくのでした。
これが終わったら、またお手伝いの時間。
足手まといにならないように頑張らなきゃ!
「ふぅ、やっと終わった!」
私とアリスさんの作業は間に夕食を挟んで、何とか終了しました。
ふぃー、疲れたぁ……
「お疲れ様! いやー、流石は副メイド長、いい仕事ぶりね。予定より早く終わったわよ」
「あ、ありがとうございます……」
うひゃー、アリスさんに褒められちゃった……
やっぱり褒められるのって嬉しいな!
咲夜さんに褒められたときは天にも昇る気持ちになるんですが、
アリスさんに褒められるのも、それに劣らない心地よさです。
「それにしても……もう真っ暗ね」
「ですねぇ……」
アリスさんと一緒に外を見てみると、辺りは日が落ちて真っ暗。
うーん、結構時間かかっちゃいましたからね。
と、ここでアリスさんから意外な提案が。
「ね、今日は泊まっていかない?」
「え?」
「流石に日が落ちると危険だし、泊まっていくのが一番だと思うのだけれど、どうかしら?」
「にゃうっ!? お泊り!?」
ま、まさかのお泊り!? し、しかも憧れのアリスさんの家に……
いや、でも私には咲夜さんと寝るというのがあるし……
あ、でもアリスさんも捨てがたい。ど、どうしよ……?
「まぁ、泊まるには汚いところかもしれないけど……」
「いえ、そんなことないですよ! ……それでは、よろしくお願いします」
覚悟を決め、アリスさんの家にお泊りすることにした。
す、すみません、咲夜さん……
咲夜さんのことは大好きですけど、アリスさんのことも気になるんですよ……
「こちらこそよろしく。それじゃ、今日はお泊りで決まりね」
いやー、まさかこんなことになるなんて……思ってもみませんでしたよ。
しかし、この後さらに衝撃の展開が。
「それじゃ、お風呂沸かしてくるわね。一緒に入りましょ」
「は、はいぃ!?」
い、一緒にお風呂ぉ!?
まさかの展開過ぎますって!
「な、何よそんなに驚いて……私と一緒じゃ嫌なの?」
「いや、違います! むしろ喜ばしいんですが、 まさかそんなこと言われるとは思ってなかったので……
それにちょっと恥ずかしいかなとか、何より咲夜さんを裏切ることにならないかな、なんて……」
咲夜さん以外の人とお風呂なんて……咲夜さんに浮気とか思われちゃいそうだよぉ……
「あ、そこは気にしなくていいわよ。
逆に咲夜から『あの子とお風呂入ると癒されるわよー』なんて言われちゃったし」
「あ、う、うぅん……そうなのですか……」
まさかの咲夜さん公認。
よくよく考えると、そこまでうるさく言うような人でもないんですよね。
私のことを余程信頼してるのか、どうなのか……
「とりあえずお風呂沸かしてくるから、そこで待っててね。あ、くつろいでもらって構わないから」
「あ、はい……」
咲夜さんのことを考えていたら、待っている様に言われました。
……あれ、私ってアリスさんのお手伝いに来たんだよね?
いつの間にか逆の立場になってる気がするんだけど。
……ま、別にいっか!
いい機会だし、思う存分アリスさんの家を堪能させてもらおうっと!
そんなこんなで待つこと数十分。
「シエラー、お湯溜まったからおいでー!」
お風呂場から、そんなアリスさんの声。
「あ、はーい!」
返事を返しながら、アリスさんに薦められた本を閉じて、お風呂場に向かう。
一緒にお風呂かぁ……うぅ、緊張してきた。
「温度はちょうどいいくらいだと思うわ。さ、入りましょ」
「は、はい……」
私の目の前でするり、と服を脱ぎだすアリスさん。
アリスさんの脱衣シーンなんてそうそう見れるもんじゃないですよ……
じっくりと鑑賞……したいですが、流石にそれは遠慮しておきましょう。
流石にそこまで変態な行動に走るわけにはいかないし。
「そ、それじゃ私も……」
少しドキドキしながらメイド服を脱ぐ。
いつも一緒にお風呂に入っている友達の前なら遠慮せずに脱ぐところですが、流石にアリスさんの前で脱ぐのは恥ずかしいです……
「ん、何やってるの? ほら、早く脱ぐ!」
「にゃあっ!? あ、アリスさん!?」
緊張と恥ずかしさのせいで戸惑っていると、なんとアリスさんが服を脱がしてきました!
あ、あうぅ、恥ずかしいよぉ……
「うん、これで良し。早くしないと日が暮れちゃうわよ」
「はぅ……」
真っ赤になる私と、私を見ながら頷くアリスさん。
そのまま彼女は私の手を引いて、浴室へ。
「さてと、まずは背中を洗ってもらおうかしらね」
「は、はい」
……こうなってしまったからには仕方がありませんね。
いつまでも恥ずかしがってるわけにもいかないですし、一生懸命ご奉仕させてもらいますよ!
ということで、覚悟を決めてアリスさんの背中を洗うことに。
「それでは失礼しますね」
「ええ、お願い」
わぁ、真っ白……
咲夜さんの肌も白いけど、アリスさんはそれ以上かもしれませんね。
やっぱり魔法使いって、あんまり外に出ないから白くなっちゃうのかな?
パチュリー様も真っ白ですし。
「うわ、すべすべですよ……」
白いだけではなく、すべすべつやつやお肌とは……女として憧れちゃいます。
「ん、そんなにすべすべしてる?」
「ええ、私とは比べ物になりませんよ……羨ましいなぁ」
「ふふ、とりあえず褒め言葉として受け取っておくわね」
うーん、これだけ綺麗な肌だと、見入っちゃいますね。
早く終わらせないといけないんだけど、もうちょっと眺めていたいものです。
でも作業優先で行こうっと。
「どう? そっちは終わったー?」
「あ、もうちょっとですー」
もうちょっと、あと少し……よし、出来た!
綺麗に洗えた……はず。
「はい、終わりましたよー!」
「それじゃ、流してもらってもいいかしら?」
「お安い御用です!」
洗面器で浴槽のお湯を汲み、アリスさんの体にかける。
洗い残しがないように、しっかりかけなきゃね。
ざばぁ、という音と湯気が浴室を満たす。
湯気の白さの中にぼんやりと浮かぶアリスさんの白い背中……とっても綺麗です。
「ふー……これでさっぱりしたわ。さ、次は貴方の番よ」
「あ、はい、お願いします!」
くるり、とアリスさんに背中を向ける私。
アリスさんに洗ってもらえるなんて光栄ですよ。
「あら、貴方のお肌もすごい綺麗じゃない」
「い、いえ、アリスさんのほうが綺麗ですよ……」
「そんなことないわ。十分過ぎるほどに綺麗よ」
「あ、ありがとうございます!」
えへへ、そう言われると嬉しいなぁ。
嬉しさで照れちゃいます……
「力加減はこれくらいで大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ちょうどいいくらいです」
「うん、わかった」
おっ、アリスさん、背中洗うのがものすごく上手い気がしますね。
こう、なんといえばいいんでしょうか。
洗われてて心地いい、そんな感じがしますよ。
「アリスさんに背中を洗われてると、気持ちが良くなりますねー……」
「ん、そうかしら?」
「そうですよ。すごく上手いです」
「んー、いつも上海たちの背中を洗ってあげたりしてるお陰かしらね?」
あ、なるほど。それなら納得ですね。
毎日アリスさんと一緒にいられる、上海ちゃんたちのことが羨ましく感じます。
ま、私も毎日咲夜さんと一緒だから、十分満足してるんですけれど。
「さてと、終わったから流すわね」
「あ、お願いします」
そう返事をした次の瞬間、あったかいお湯が体にかかってくる。
あー、温かくていい気持ち……
「よし、これで大丈夫ね。湯船に浸かりましょ」
「はーい」
体を洗い終えてから、アリスさんと一緒に湯船に浸かる。
「まずは足から……んっ、くくっ……はぁ……」
ゆっくりとお湯に体を馴染ませるように浸かっていく。
こうしないと、ものすごく熱く感じますからね。
「んっ……はぁ、いい気持ちー……」
アリスさんも私と同じようにゆっくりと湯船に浸かった。
やっぱりアリスさんも、私と同じようにゆっくり浸かるんですね。
「いやー、いいお湯ですね」
「うんうん、仕事で疲れた体に染みるわねー」
「あはは、そうですね!」
一仕事した後のお風呂って最高ですよねー。
入浴後に牛乳とか飲むと、さらに最高ですよ。
「……それにしても、やっぱりこの浴槽だと体がぶつかるわね」
「あー、ですねぇ」
やっぱり小さい浴槽だと体がぶつかっちゃいますね。
でも、これだとアリスさんの体に常に触れることが出来るから、ちょっと嬉しいかも。
「……」
「ん、どうかしましたか?」
アリスさんが私の体を見つめている。
その目線を追ってみると……私の、胸?
「い、意外と大きいわね……」
「そ、そうですか? これでも咲夜さんよりは無いくらいなんですよ?」
「いえ、十分大きいわ……ちょっと羨ましい……」
でもアリスさんも大きいんですよね。というか、私より大きいはずですが。
アレですかね、隣の芝生は何とかってやつ。
「でもアリスさんのほうが大きいですよ?」
「えー、そうかなぁ……」
私の胸と自分の胸を交互に見比べるアリスさん。
その様子がちょっとおかしくて、笑いが込み上げてきちゃいました。
「ちょ、ちょっと! なんで笑ってるのよ!」
「あはは! 交互に見比べる様子がちょっとおかしくて……」
「う、うぐぅ……」
ふふっ、アリスさんってクールなお姉さんって感じがしてたんですけれど、可愛いところもあるんですね。
「と、とりあえずその笑うのをやめなさいっ!」
「はーい、やめますよー」
普段とのギャップがおかしくて、そんなことを言いながらもニヤニヤしてしまう。
「も、もうっ! だから笑うのやめなさいってー!」
それからしばらく、こんなやり取りがお風呂内で続いたのでありました。
あー、こんなアリスさんもいいなぁ……
いつもと違ったアリスさんが見れて幸せです……
「はぁ、いいお湯でしたねぇ……」
「ええ、いいお湯だったわねぇ……」
パジャマに着替えた後、私たちはソファに腰掛けながら、二人で冷たい牛乳を飲んで談笑していました。
やっぱりお風呂上りはこれですよねー!
「それにしても、パジャマも持ってきてたのね」
「ええ。咲夜さんが『アリスの家に行ったら、お泊りになるだろうから持って行った方がいいわよ』って言ってましたから」
「あー、なんか納得できるわ……自分で言うのもなんだけど」
ちなみにこれは咲夜さんの経験談だとか……
やっぱり、二人とも仲いいんですね。
咲夜さんもアリスさんと一緒にお風呂入ったりしてたりして。
うん、十分ありえますね。
「咲夜といえば、最近咲夜とはどう?」
「さ、咲夜さんと、ですか……まぁ、よろしくやってますよ。
一緒にお風呂入ったり、一緒に寝たり」
やっぱり、それ聞くんですか。
結構な頻度で聞かれるんですよねぇ……
やっぱり私と咲夜さんがラブラブなのは、周知の事実みたいです……
「うん、それは良かったわ。で、結婚はいつするの?」
「ぶーっ!」
いきなりの質問に牛乳を噴き出してしまう。
「な、なんて事を聞くんですかっ!」
「ふふっ、冗談よ、冗談」
「ま、全くもう……」
流石に結婚まではいかな……あ、でもちょっと気になる私がいる。
咲夜さんと結婚、かぁ。それもいいかも……
「あ、ところで話は変わるんだけど、最近こんな噂を聞いたわ」
「どんな噂ですか?」
「『妖精メイド内人気ランキング上位は私』っていう噂」
「ぶーっ!」
二回目の牛乳噴出。
な、なんでそんなことを知っているんですかね……
「これ、本当?」
「……ええ、本当ですよ。というか誰から聞いたんですか、それ」
「文からだけど」
「あ、文さん……」
天狗の情報網、恐るべし。
妖精メイドたちのこんな話までキャッチしてるとは……
「うーん、なんで私が上位なのか納得できないのよねぇ。魅力的な人は他にもたくさんいるでしょうに」
「いえいえ、アリスさんは十分魅力的ですよ。それに私たちに対してもすごく優しいですし。
『クールで優しいお姉さん』。そんなところがメイド達から人気なんですよ」
「なるほどねぇ。それで……もしかして貴方も私のことが……?」
「ぶーっ!」
二度あることは三度ある。
本日三回目の牛乳噴出でございます。
「どうなのかしら?」
「そ、そうですねぇ……包み隠さず言うと、好き、ですかね。あは、あはは!
もちろん咲夜さんが一番、ですけれどっ!」
冗談っぽく、笑って見せる。
もちろん、これは照れ隠しです。
「ふふっ。そう言ってくれると嬉しいわ。ありがと。
咲夜が一番なのは……まぁ、当たり前よねー」
「にゃあ……えへへ」
アリスさんに頭を撫でられちゃいました。えへへ、いい気持ち。
「さてと、そろそろ寝ましょうか?」
「ええ、そうですね」
夜ももう遅いですし、そろそろ寝る時間です。
というわけで、寝る準備をしますか……
もうちょっとお話したい気もするんですが、それは諦める事にしましょう。
「こうなることは薄々感じ取ってましたが、実際にやるとドキドキしますね……」
「ふふっ、そんなにドキドキするの?」
私の目の前にはアリスさんの顔。
つまり私はアリスさんと同じ布団の中にいるわけでして。
「ええ、やっぱりこうなるとドキドキしちゃいますよ。
咲夜さんと一緒に寝る時も未だにドキドキするくらいですから」
「ふーん、シエラは恥ずかしがり屋さんなのかしらね?」
「そうかも、ですね」
私は苦笑した。
やっぱり私は恥ずかしがり屋なのかもしれない。
さっきのお風呂といい、今の状況といい、恥ずかしがったり緊張してばかりだし。
「でも、そんなシエラも可愛いわよ」
「にゃ、にゃう、恥ずかしいですよぉ……」
「ふふ、可愛い可愛い」
真っ赤になる私の頭を撫でる咲夜さん。
こんな時でも頭を撫でられると少し安心できますね……
「あ、さっき私のことが好き、なんて貴方は言ってくれたけど……私も大好きよ。
貴方も他のメイドたちも、ね」
「あ、ありがとうございます……!
うぅ、嬉しいのと恥ずかしいので顔ぐちゃぐちゃ……み、見ないでくだひゃい……」
見られてしまわないように、必死に顔を隠す。
今の私の顔、きっと変になってるから……
だけど、アリスさんは顔を隠している手を払いのけた。
「……もう、やっぱり貴方は可愛いわね。その顔、すごく可愛いわ」
「ひゃ、ひゃうぅ……」
もう駄目……頭真っ白、です……
「よしよし、落ち着いて」
「は、う……ふぅ……」
そんな私を落ち着かせようとして、アリスさんは優しく私を抱きしめてくれた。
ふぅ、お陰様で幾分か落ち着きましたよ……
「どう、落ち着いたかしら?」
「は、はい。ちょっとは」
「ふふ、良かった」
あぁ、本当にアリスさんはお姉さんみたいだ。
皆が惹かれるのも頷けますね。
「さてと、落ち着いたところで寝ましょうかね。貴方も疲れたでしょう?」
「え、ええ。多少は……」
「しっかり休まないと、体に毒よ。それじゃ、お休みなさい」
「ふぁ……」
お休みなさいを言ってから、アリスさんは私にキスをしてきた。
愛のこもったキス、それを唇に……
「アリスさん……」
アリスさんが触れた唇を舐めてみた。
「甘い……」
うん、かすかに甘い……
これが、アリスさんの味……なのかな。
うん、きっとそうだよね。
「……咲夜さん、ごめんなさい。私、アリスさんとキスしちゃいました。
やっぱり咲夜さんもアリスさんも大好きです、私」
天井を見つめながら、咲夜さんに向けての謝罪の言葉を呟いた。
咲夜さんなら許してくれる、はず。うん、きっと許してくれるよね。
「……そろそろ私も寝ようっと」
しばらくぼうっとしていたけれども、やっとキスの甘い毒気と罪悪感が抜けたみたい。
頭がはっきりしてきたところで、私は眠ることにした。
「そういえば、咲夜さんと初めてキスした時もこんな感じだったなぁ……」
目を閉じてそんなことを考えていると、私の意識はすぐに暗い闇へと落ちていった。
「うぅん……あさ、なの……?」
目を開けると、明るい部屋の天井が目に飛び込んできた。
うーん、朝になったみたい。
ところでアリスさんは……どうやら先に起きているみたいですね。横には誰もいないや。
とりあえず、寝室を出ようっと。
「あ、おはよう。もう少しでご飯が出来るわよ」
「おはようございます……ふわぁ……」
外に出ると、アリスさんはいつもの服に着替え、朝食を作っているところでした。
いや、作っているというか、もう配膳を残すのみって状態ですけれども。
「ほら、顔を洗ってきなさい。そうすれば目も覚めるわよ」
「ふぁーい……」
大きくあくびをしながら、洗面台へ向かい、顔をばしゃばしゃと洗う。
……ふぅ、少しは目が覚めましたね。
でもやっぱりまだ少し眠いです。
朝食を食べれば、頭も体も起きてくれるかな。
「お帰り。さ、早く食べちゃいましょ」
顔を洗っている間に、テーブルに食事が揃っていました。
献立は目玉焼きにトースト、ハムと野菜ジュースですか。
うーん、良い匂い……この匂いだけでも目が覚めちゃいますね。
「それじゃ、頂きます」
「頂きます」
椅子に座り、アリスさんの頂きますに合わせて食べ始める。
……うん、とっても美味しい!
「どうかしら? 口に合えばいいのだけれど」
「ええ、とっても美味しいですよ。 お陰様で目も覚めました!」
「ふふ、ありがとうね。そこまで喜んでくれると、作ったかいがあったってものよ」
うーん、美味しい!
これさえあれば、今日一日頑張れますよ!
もりもり食べて、ガンガン働かなきゃ!
朝食後、私は紅魔館に帰るため、アリスさんは出来上がった人形を持っていくために外に出ました。
途中までは同じ道を歩くので、短い間ではありますが、アリスさんと一緒ですね。
「いやー、本当に来てくれて助かったわ。ありがとね」
「こちらこそ色々してもらってありがとうございました」
そんな言葉を交わす私達。
人形を作るのは疲れたけど、それ以上に楽しいことばかりでしたよ。
「また今度、暇なときにでも遊びに来て。いつでも大歓迎だから」
「アリスさんも紅魔館に遊びに来てくださいね? お待ちしていますから」
「ええ、また今度遊びに行かせてもらうわ。本を借りる予定もあるしね」
「はい、美味しい紅茶を用意して待ってます!」
ふふっ、今度アリスさんが来る時が楽しみだなぁ。
あ、お菓子も準備しておこうっと。アリスさんが喜んでくれるようなお菓子をね。
「さて、と。ここでお別れになるわね」
あ、もう着いちゃったんだ……やっぱりすごく短かったですね。
もうちょっと長くても良かったのに、とか思ってしまいますよ。
「そうですね。それではこの辺りで失礼します……色々とありがとうございました!」
アリスさんに対して、深々とお辞儀をする。
「気をつけてね。あと、紅魔館の皆によろしく言っておいて頂戴」
「はい、わかりました。それでは……」
もう一度お辞儀をしてから、私は紅魔館に続く道を、アリスさんは人間の里へと続く道を歩き始めました。
お別れするのは寂しいけど……アリスさんとはいつでも会えるもんね。
そう自分に言い聞かせて、私は紅魔館へ続く道を歩いていく。
「……よーし、今日も一日頑張ろうっと!」
帰ったらまた館の仕事が待ち受けていますし、頑張らなきゃ。
そして、今日はアリスさんが作ってくれた朝食のお陰で、いつもよりバリバリ働ける気がするのです!
「さぁ、バリバリやるぞー!」
私はそう叫びながら紅魔館へと駆け出すのでした。
ちなみに帰宅後、私は同僚のメイドたちから質問攻めに遭ったり、
咲夜さんに「アリスと一緒はどうだった?」なんてニヤニヤしながら聞かれたのですが、それはまた別のお話……
オリキャラの副メイド長シエラとアリスの関係最高でした。
三人での相思相愛、という実際では中々想像のつかない関係をどう料理して描くかが、今後の最大の課題になりそうですね。友達の延長線上か、それとも本当の恋人同士なのか・・・はたまた・・・・・話の広がりをどうしていくかも楽しみ。
続編があるなら、是非読みたいと思う。
妖精がせめて大妖精(まぁほとんどオリキャラだが)なら
許せたが……
メアリー・スーまではいかないが俺には受け入れがたい
甘い空気が伝われば私としては嬉しい限りでございます。
タナバンさんの申すとおり、想像のつかない複雑な関係をどう描くかが今後の課題だと思います。
細かい描写なども上手く書けるようにこれから努力していきたいですね。
今後の作品もどうかよろしくお願いします!