寿命は種族それぞれだが妖怪は長く人間は短い。それより短いのが小動物。
迅速に産まれ迅速に育ち迅速に子作りし迅速に老い迅速に死ぬ。
なればこそ物事を迅速に進めるべきだと彼女は考える、だがしかし周りの同胞どもはのんびり屋ばかりで性に合わない。なのでお友達が少ない。彼氏もできない。子作りができない。これは困る。子孫を残せぬまま死んでは祖先に申し訳が立たない。歳の離れた姉が子沢山なので父の血も母の血もすでに次代へと受け継がれているが、それはこの際どうでもいい。大事なのは自分自身のDNAなのだ。
故に彼女は住処を去った。
家族の元を去った。
あそこに己のつがいとなるべきオスはいない。
その日、一羽の兎が永遠亭から姿を消した。
次の日、兎は飢えていた。
おかしい。
とっくに朝ご飯の時間なのに、ご飯が出てこなかった。
お昼ご飯の時間まで耐え抜いたが、やはりご飯は出てこなかった。
なぜご飯が出てこないのかまったくもって理解不能であった。
永遠亭の外は不思議がいっぱい。
行けども行けども竹ばかりで建物が無い。竹林の生き物はどこで暮らしているというのか。
弱って困って、さあどうしよう?
「あれ? お前、輝夜んトコの兎か?」
行き倒れていると、ふいに、目の前に人影が現れた。
何者かと見上げてみて、さすがの迅速兎もゾッとする。
瞳のように紅い下半身。
毛のように白い上半身。
瞳のように紅い瞳。
毛のように白い毛。
姫様を狙う逆恨みマスター藤原妹紅!!
趣味は復讐と焼き鳥という悪逆非道の極みの大敵である。
どうやら命運が尽きたらしい。
子作りできぬまま死ぬ不幸、されど思うがままに生き前のめりに死ぬのだ……それを誇りとして涅槃へ旅立とう。さらば父よ、さらば母よ、さらば姉よ、さらば甥っ子よ、さらば姪っ子よ、さらば姫様よ、さらばお師匠様よ、さらばウドンゲよ、さらばてゐ様よ……。
「……? なに暗い顔してるの?」
妹紅はしゃがみ込んで迅速兎の顔を覗き、いぶかしげに首を傾げている。
これは……確実にトラップ!
てゐ様がウドンゲちゃんをハメる常套手段!
獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすという。
藤原妹紅、半死半生の兎に対してもてゐ様のように謀略の限りを尽くして挑もうというのか!?
敵ながらアッパレな奴。
このような強者の手にかかって死ぬのなら、それを誇りとして涅槃へ旅立とう。
「……? 具合悪いのかな?」
魔手が伸びる。
壊れ物を扱うように迅速兎は抱き上げられ、意外なぬくもりに安堵さえ覚えた。
これは……慈悲!!
敵に対しても慈悲をかけるとは、もしや悪逆非道の逆恨みマスターというのは間違いなのか? いや、あるいは復讐対象である姫様以外に対しては武人なのかもしれない。自刃を認め、辞世の句を聞いてから介錯するタイプに違いない。
ならば詠まねばなるまい辞世の句。
ウドンゲの
パンツはピンク
いとおかし
うさぎのパンツ
白こそ正義
完璧だ。
ジャパニーズ・ワビ・サビをコンプリートしつつジョークをエッセンスとしたファンタスティックなアートエクスプロージョン。これはもう歴史に残る。それを誇りとして涅槃へ旅立とう。
「とりあえず永遠亭に届けてやるか」
ホワイ!? 迅速兎は驚きのあまりビクンと跳ねた。
なにがどうなってそんな事になるのかまったく理解不可解五里霧中。
長い耳をピーンと立てて、真っ赤な瞳で妹紅を見つめる。
永遠亭は捨てた故郷、そこに戻るなど恥。
まさか武人妹紅がそんな辱めを企んでいたとは。
一瞬でも信じた己の愚かさを悔やみながら涙を我慢。涙は惚れたオスのために取っておくのがメスの嗜みなのだ。泣いたら負けだ。泣いちゃダメだ。ぷるぷる震えながら必死にこらえる。
「……? 帰りたくないの?」
イエス!! 迅速兎はこくこくとうなずいて肯定する。
すると妹紅は困り顔。
迅速兎の命運が妹紅にかかっているが、妹紅もまた悪逆非道に堕ちるか否かの瀬戸際だ。ここで永遠亭へ強制送還させるようなら悪逆非道の化身として未来永劫汚名を着る事になる。それは妹紅とて望まぬはずだ。
「仕方ないなーもう」
ついに決心がついたのか、妹紅は迅速兎を抱いたままきびすを返して歩き出した。
迅速兎は永遠亭に背を向けて一直線に歩いてきた、これすなわち妹紅も永遠亭から離れている事を意味する。祈りが届いた! 迅速兎のみならず妹紅の名誉も守られたのだ。やはり武人の情けを知る奴よ。復讐鬼のままにしておくには惜しい逸材だ。
安心して力が抜け、迅速兎は意識を手放してしまう。
ああ、これが死か。
それもいいだろう。最後まで前を向いて歩めたのだ。それを誇りとして涅槃へ旅立とう。
さっきからちっとも涅槃に旅立ててないが、今度こそ涅槃だろう。
i"ヽ/"i
ヽ ハ /
(,, ・x・)
涅槃は随分と貧相だった。
なにこれ兎小屋? 一瞬、迅速兎がそう思ったのも無理はない。なぜか固い座布団の上でボロ布に包まれており、床や壁はところどころ傷や染みがある。色合いも全体的に地味でセンスが欠如している。囲炉裏もススがついてて、家具が邪魔くさい置き方をされているため部屋が狭い。
だがどうやら、涅槃でも兎小屋でもないらしいと藤原妹紅を発見して気づいた。窓辺にて日光浴しながらなにやら葉っぱをちぎっている。いや違う。キャーロットゥの葉っぱをむしっている!? すなわち永遠亭を出てからなぜか途切れていた飯タイム来訪を意味する。様々な疑問を棚上げして今はただただご飯タイムに感謝。
「ん、起きたか」
むしりながら妹紅、にこやかに声をかけてくる。
フレンドリーシップを感じながら、迅速兎はボロ布から元気よく飛び出した。
小動物すなわち兎は短命であり寿命果てるまでに食べられるご飯の量もまた人間や妖怪のそれに比べれば雀の餌も同然。すなわち一度のご飯に全力投球する気概を持って挑んでこそ真に充実した食生活を堪能でき幸福というものを感じられるのである。特にキャーロットゥは古今東西の兎が信奉する究極食材であると迅速兎は確信している。兎の瞳が赤いのはキャーロットゥを食べて赤み成分が瞳に宿るからだとてゐ様が仰られていた。つまりウドンゲちゃんは人一倍キャーロットゥをむさぼり食べてあの赤い狂気の瞳を獲得したと迅速兎は推測している、すなわち狂気の瞳と言わずともなんらかの能力を持った魔眼を宿す事ができるのだキャーロットゥを大量に食べ続ければ! もしかしたら妖獣進化を果たしてしまうかもしれない、そうすれば寿命は数十倍にぶっちぎって生き急ぐ必要もなくなりゆとりある生活を送るという選択肢も生まれるだろう。ああしかしそれでも迅速兎は行くのだろう迅速なる道を。そう寿命短き兎がのんびり昼寝なんかしてたら亀にだって追い抜かれ屈辱にまみれ挽回すらできぬまま老いて死ぬ、止まっている暇など無いのだ今すぐご飯タイムに突入すべきなのだ待ってなんかいられないのだキャーロットゥが目の前にあるのだキャーロットゥが!
「なんか急にテンション上がったなーお前」
上がりもするさ、キャーロットゥがあるのだから。
ニッと笑った妹紅は、葉をむしり終えたキャーロットゥを軽く放り上げて爪を一線させる。三つの鋭い軌跡が空すらも切り裂き、キャーロットゥは食べやすい一口サイズにカッティングされた。
気が利く! 藤原妹紅、意外や良妻賢母の資質あり!
迅速兎の夢は良妻賢母である。迅速に子作りし迅速に子育てし迅速にエリートコースを歩ませて迅速に老いて迅速に死ぬのだ見守られながら。すでに今際の言葉も決めてある。こうだ。
『迅速なる生涯に一片の悔い無し。それを誇りとして涅槃へ旅立とう。さらば父よ、さらば母よ、さらば姉よ、さらば甥っ子よ、さらば姪っ子よ、さらば姫様よ、さらばお師匠様よ、さらばウドンゲよ、さらばてゐ様よ、さらば我が子よ……』
パーフェクトだ。歴史に残る死に様となろう。姫様やてゐ様よりも我が子に万感の想いを込めるのがポイントだ。すなわち愛! 愛こそこの世の真理。愛のために生き、愛のために死す。それが万物に定められた正しき生き方であると迅速兎は理解している。
父への愛、母への愛、姉への愛、甥っ子への愛、姪っ子への愛、姫様への愛、お師匠様への愛、ウドンゲちゃんはいじくると楽しい、てゐ様への愛、そして今はキャーロットゥへの愛……。
迅速兎は渇望した。キャーロットゥを。
妹紅は笑顔で、キャーロットゥを……手のひらの上で焼いた。
な、なにをするー!? キャーロットゥは生でかじるのが至高であると信仰する迅速兎はびっくり仰天した。確かにキャーロットゥステーキなどといった料理はおいしいが、ただ火で炙るだけなんて食材への冒涜としか思えない。藤原妹紅が読めない。
「今日のご飯はひもじいな」
キャーロットゥをひもじいと抜かすなど、しかも焼いてしまうなど、藤原妹紅は味覚障害を患っているようだ。そこに思い当たった瞬間、怒りは憐憫へと変わった。キャーロットゥの味わいを理解できぬとはなんたる不憫。一生涯の楽しみの半分を損してるじゃないか。もう半分は子作りと子育て。
「ほら、こっちはお前の分」
と、妹紅は先ほどまでむしっていたキャーロットゥの葉っぱを放り投げた。
お皿にではなく、床の上に。
迅速兎はショックを受けた。
犬喰いしろと!?
食事マナー完全無視の暴挙に、先ほど抱いた同情が涅槃の彼方へと飛んでいってしまう。しかもだ、ご飯として渡されたのはキャーロットゥでも焼きキャーロットゥでもなく、キャーロットゥの葉っぱである。
確かにキャーロットゥは葉っぱまでおいしく食べられる究極食材。しかし、葉っぱだけ渡すなど、悪逆非道に堕ちて当然の愚挙である。味覚障害ゆえ悪気無しやもしれぬが、それでも、ゆずれない一線があった。
こうなったら略奪しかない。キャーロットゥよりは劣るが、焼きキャーロットゥも美味であるはずだ。迅速兎は葉っぱを飛び越え、妹紅に向かってジャンプキックを繰り出した。
ぽよんと、妹紅の胸に当たり、勢いを無くして落下し、妹紅の膝の上に。
「なんだ、甘えん坊さんだな」
膝の上に座られる形となって、妹紅は満更でもないように微笑みながら焼きキャーロットゥを食べ始めた。迅速兎は後ろ立ちになって、前足で妹紅の腹を懸命にこすった。すべてはキャーロットゥのために。
「ん? ニンジンが食べたいのかな」
通じた。
そうだ、なにをうろたえていたのだ。
味覚障害で悪逆非道候補の妹紅だ、まともな応対などできようはずがない。それでも迅速な対処をすれば、妹紅とて察する事はできる。正道へと導いてやる事ができる。今は暗く淀んだ邪道を歩いていても、いつか日の当たる正道を、胸を張って歩けるように。
その第一歩として、迅速兎はキャーロットゥを要求した。
が。
「ダメダメ。ニンジンは糖分が多いから、兎には合わないんだ。ニンジンそのものより、葉っぱを食べた方が健康にいいの。あいにく、他に兎にやっていい食材が無くてね。我慢しておくれ」
釈迦に説法とは片腹痛い。迅速兎はギランと赤眼を輝かせた。
キャーロットゥの糖分など百も承知!
至高の美味を味わうためならば、寿命も健康も犠牲にできる!
なぜなら彼女は迅速兎。長生きなどはなから考えちゃいない! そんなものは妖獣に変化した時に考えればいいのだ。兎の身である限り、死に向かって迅速に突っ走るのが美しき生き様である。
だからキャーロットゥを所望するのだ!
だが妹紅は。
「悪いけど、兎の言葉は分からないの。ほら葉っぱ食べてなさい」
ダメだコイツ。
迅速兎は妹紅の未来が酷く暗いものであると理解した。自分がなんとかしてやらねばなるまい。一応、助けてもらった恩がある。迅速に恩返しせねばなるまい。鶴でさえ恩返しをするのだ、兎が恩返しをせねば恩知らずとして悪逆非道に堕ちてしまう。
迅速兎は迅速を尊び、安全な遠回りより危険な近道を躊躇無く即断即決突撃主義。
しかし恩義に報いる程度の礼は持っている。
散々お世話になった永遠亭にも、感謝の礼は印してきた。
一生懸命、お師匠様の薬草畑をノルマ以上に耕した。
一生懸命、ウドンゲちゃんのピンクパンツを洗濯した。
断腸の思いで、宝物のころころ石を姫様に捧げた。
断腸の思いで、キャーロットゥをてゐ様に捧げた。
すべては永遠亭を去るために。
だから――妹紅にも礼を払わねばなるまい。真っ当な日の道を歩ませるという礼を。それに、永遠亭からは脱したのだ。迷いの竹林の野良兎と恋愛交尾妊娠出産するのも悪くない。全体的にのんびりした永遠亭と違い、野良兎なら自分ほどでないにしろ迅速な兎がいるだろうという期待に胸がふくらむ。
そのためには資本である身体を迅速に養わねばならない。
渋々キャーロットゥの葉っぱを食べる迅速兎。何気においしいから悔しい。
こうして迅速兎と藤原妹紅の奇妙迅速不可解コンビが(妹紅の知らぬ間に)結成された。
i"ヽ/"i
ヽ ハ /
(,, ・x・)
数日後、迅速兎は藤原妹紅の生態をある程度理解した。やはり日の道へ戻すのは大変そうだ。
まず食事がひもじい。
健全な食生活は健全な精神を育み、迅速な食生活は迅速な精神を育むというのに。
妹紅ときたら手抜き料理ばっかりで、迅速兎のご飯も野菜屑ばっかりで。もっとキャーロットゥを丸かじりしたり、もっとキャーロットゥを生かじりしたり、もっとキャーロットゥをそのまんまかじったりするべきだ。
ろくにお散歩もしない。というかお散歩するほど庭が広くない。
まさか庭の外へ散歩に行く訳でもあるまいに。
庭なのに塀がないのも不思議だ。竹林の中にひっそりとたたずむ家屋は永遠亭の物置の半分くらいの大きさで、竹の生えぬ庭っぽい敷地を含めてようやく物置程度の広さになる。庭には永遠亭の薬草畑よりも貧相な畑(度し難くも栽培しているのはキャーロットゥではない)があったり、リンゴの木が生えていたりして自給自足なんかできちゃうもんだから余計に貧相なままだ。金の延べ棒でも持って人里とやらへショッピングに行けばキャーロットゥをたくさん買えるというのに。
だがいくら家探ししても金の延べ棒が見つからない。白金や白銀がある訳でもない。というか貴金属が置いてない。現金はかさばるため少量のみ所持するという常識がありながら、なぜかさばらない貴金属を保管していないのか?
などと不審に思いもしたが、冷静に考えれば周到に隠してあるのだろう。家が違えば隠し場所も違う。家屋の小ささを考えれば、恐らく地下に大きな宝物庫が隠されているに違いない。貴金属も備蓄用キャーロットゥもそこにあるはず。
故に備蓄用キャーロットゥを求めて地下室の入口を探している迅速兎の行動は正義。
今日も今日とて裏庭でくんかくんか鼻を鳴らして隠し扉を探索中。
「庭で遊ぶの好きだなお前」
と、代わり映えしない服装で現れる妹紅。
紅白スタイル(品種:日本白色種、ジャパニーズホワイト)は古来(明治頃)より兎に伝わる日本伝統(ニュージーランドホワイト種から作られた)衣装!!
パクリの分際で図々しい。
「庭からは出るなよ。野兎は人からも獣からも妖怪からもご馳走なんだから」
と、紅白妹紅は投げやりな感じで手を振って庭から出て行こうとする。
だがラビットイヤーは兎耳!
ポケットの中でかすかにこすれあう硬貨の音を聞いた。お買い物だ! 確信を抱き、清く正しくキャーロットゥを購入させるためぴょんぴょこぴょんと追跡を開始する迅速兎。その足取りは軽やかで、すでに頭の中はキャーロットゥ畑と化している。
てくてく。
ぴょこぴょこ。
てくてくてく。
ぴょんぴょこぴょん。
スタスタスタスタスタスタ。
ぴょぴょぴょぴょぴょこん。
逃してなるものかと迅速兎は迅速に跳ねる。
いつしか周囲は竹ばかり。もはや妹紅宅も永遠亭もいずこにあらんやという状態。
けれども妹紅の足取りに迷いはなく、迅速兎は懸命に背中を追いかける。
しばらく妙に早歩きをしていた妹紅だったが、唐突に立ち止まって振り返り迅速兎の姿を確かめるや溜め息をつき、今度はゆっくりと歩き出した。歩き方さえ気まぐれな奴と呆れてしまうも、ペースが落ちたのはありがたい。天の采配に味方されている気さえする。
この調子なら人里でキャーロットゥを生で丸かじりできるかもしれない。
いつまで経っても変わらぬ景色が続き、もしやコイツ迷ったのではと不安になってきた頃、ようやく竹林を脱した。聡明な迅速兎は永遠亭にて事前に情報収集を終えているので、竹林の外がどういうものかは聞き知っていた。そう、竹の生えていない庭のような土地が広がっているという。
要するに広い庭だ。
恐れるものなどなんもない!
いざ竹林が開けて――空が。
青々とした空が、竹の葉に隠されず彼方まで伸びている。
彼方の彼方まで。
視界いっぱいが青に染まり、まるで空を飛んでいるかのように心が軽くなる。
空とはこんな鮮やかだったのか。
永遠亭の庭から見るよりもずっと綺麗だ。
見ているだけで爽快な気分になり、吸う空気さえ綺麗なんじゃないか。
空の味が、する。
ああ、そうなのか。
ふいに迅速兎は気づいた。
これは青ではない。
水色に似ているが違う。
これこそがスカイブルー。
「くくっ」
目を丸くして空を凝視している迅速兎に、妹紅は和やかな眼差しを向けていた。
晴れ晴れとした表情で、しばし、迅速兎が我に返るまでの間。
妹紅は待っていてくれた。
i"ヽ/"i
ヽ ハ /
(,, )
迅速兎、ついに共食いを果たす!
シャクシャクと兎を食す!
「で、妹紅。この兎は?」
「多分、輝夜んトコの」
人里にて。妹紅は上白沢慧音宅を訪ね、客室にて兎さんカットのリンゴをご馳走になっていた。迅速兎もおこぼれに預かり、夢中で兎さんカットを食べている。妹紅宅と違いちゃんとお皿に置かれており、部屋も畳なので居心地がいい。
「竹林で弱ってたから拾ってね。帰りたくないみたいなんで餌をやったら、なんか居着かれちゃって……今日もなんでか着いてきてね」
「ふふっ、懐かれてるじゃないか」
「兎に懐かれてもねぇ。私は鳥派」
「兎もかつては鳥と認識されてたのだぞ。ほら、兎は一羽二羽と数えるだろう?」
「食肉として獣はNGだが鳥はOKっていう時代の言い訳でしょ。命蓮寺だっけ? あそこの連中、今時この幻想郷で般若湯とか言い張ってるの?」
「宗教なんだ。信徒の内輪ですんでいる事は放っておけばいいさ」
「いやいや、早々に潰した方がいいケースもあるよ。知り合いにさ、南蛮かぶれの傾奇者がいたんだけど、幾つか寺を焼いちゃってるのよ。国獲りの都合もあったけど、その中に妖怪を信仰する人喰い寺とかあってさ。自称第六天魔さんが気づくまでもう民がさらわれて喰われて酷い有り様だったなぁ。焼き討ち手伝っちゃったよ」
「……歴史上の偉人に関する裏エピソードを聞いてしまった気がするが、それはもしや」
「私を素麺頭って馬鹿にした挙句、取っておきの饅頭を勝手に食べちゃうんだもん。あまりに恨めしくて、傾奇者がお寺に泊まってる隙に金柑頭と一緒に焼き討ちしてやったわ。ウワーッハハハハハ」
「本能寺ぃぃぃ!! それ本能寺の変だろう!? というか、えっ、あの大事件の真犯人判明!? 真相は饅頭の恨み!?」
「いやいや冗談だから冗談。冗談半分」
「もう半分は!? 仮に半分が冗談として前者と後者どっち!?」
「話半分に聞いておけばいいよ。私の話は半分くらいうろ覚え」
「ひ、人が歴史好きなのを知っていて、よくも抜け抜けと」
「ちなみにあのおっさん、死後のアレやコレやソレが積もり積もって妖怪化して、後世で第六天魔王呼ばわりされてるの面白がって種族名を第六天魔王って事にして、今は幻想郷で面白おかしく暮らしてるよ」
「もう騙されんぞ、露骨な嘘を」
「あっ、これは本当。こないだ髑髏の杯で乾杯してた。あれ飲みにくいよ」
「えっ」
「んっ、リンゴおいしっ」
妹紅と慧音がじゃれ合っている横で、迅速兎は迅速に兎さんカットのリンゴを食べつくした。久方振りのご馳走に大満足。見れば妹紅もあれこれ雑談しながら兎さんカットのリンゴを食べている。よしよし、健全な食生活は健全な精神を育み、迅速な食生活は迅速を育むのだ。これでまた一歩、日の道へ戻る事ができただろう。だとしればこの慧音とかいう人間はなかなか見所がある、もしかしたら迅速兎と同じく妹紅を日の道に導こうとしているのか。
同志慧音。友情めいたものを感じてしまう。
きりっとした表情で熱い眼差しを送っていると、気づいた慧音がにこやかに微笑み返してきた
友情が成立してしまった!
迅速兎の迅速な生き様において、友とは必要最低限でいい。通常のレベルのお友達は、いれば結構だがいなくても構わないのだ。親友レベルになってようやく欲しいと思う。寿命は限られており、友と遊べる時間も限られている。ならば普通のお友達と触れ合う時間があるならば、親友のみと濃密に触れ合ってこそ迅速な生き様と言えよう。
上白沢慧音! 迅速兎のお友達になりたくば励むがいい!
「ふむ、愛嬌があって可愛い子じゃないか。永遠亭の他の兎よりも凛々しい顔立ちをしている」
「こいつメス」
「うむ、愛らしい顔立ちをしている」
「ホントはオス」
「もういい自分で確かめる」
「メスだよ」
新しき友、慧音がプレッシャーを放ちながら歩み寄ってきて、迅速兎はぎょっとして身構えた。人語の内容はよく分からないが不吉な気配がする。辱め系の気配が。それは困る! 子作りに相応しい相手がいなかったから永遠亭を飛び出したのだ、人の理屈で妙な交配をさせられてはたまらない。望まぬDNAでは子を愛せるかどうか自信もない。
とはいえ一度出産してしまえば、新たに子作りするのも面倒なのでそのまま育ててしまうのだろうとも迅速兎は考える。
なればこそ全力でお手向かいするしかない!
「わっ」
突然の全力ダッシュによって慧音の股を潜り抜け、妹紅を囮とすべくその裏側に回り込む。
妹紅と慧音は友人関係。さすがに妹紅もろとも子作りさせる訳にはいくまい。
勝利を確信して誇らしげな迅速兎を見て、慧音はクスクスと笑った。
「すっかり懐かれているのだな」
「野菜屑を分けてるだけなんだけどねぇ……」
妹紅は迅速兎の背中をゆっくりと撫でてやった。
迅速兎はその行為に感激する。
まさか迅速兎の意図を悟り、みずから盾となるつもりか!?
またしても妹紅が日の道へ一歩近づいた。
期せずして貢献できた迅速兎は、己の才覚のすばらしさを改めて理解し、誇らしげに鼻をひくひくさせた。その愛らしい仕草を見て妹紅は苦笑するのだった。
日が暮れて、妹紅は人里の外に出た。
その後ろをぴょこぴょこと着いてくるのはもちろん迅速兎。
振り向いた妹紅と顔を合わすたび、誇らしげに鼻をひくひくさせる。
兎と会話する能力を持たない妹紅ではあるが、それが嬉しさに類する感情を表現しているのだと数日のつき合いの中で理解していた。自宅から慧音宅への道中で迅速兎の歩調も掴んでおり、今回は最初から合わせて歩いてやっている。
そうとは知らぬ迅速兎、己の才覚に酔ってご満悦。
これなら妹紅を日の道に戻し、伴侶探しの旅を再開する日も近い。
てくてく、ぴょこぴょこ、一人と一羽は竹林へ向かって道を行く。
時折、迅速兎の足が止まる。
迅速ではないその行為、夕焼け小焼けを見るために。
もちろん夕焼けは知っている。永遠亭でも見た事がある。
だけれども、こんなにも広い空の下で見るのは初めてで。
青と赤のグラデーションは、幻想郷と呼ぶに相応しい幻想の光景で。
竹林の外はこんな風になっていたのかとしきりに感心してしまう。
百聞は一見にしかずという言葉の意味を噛みしめながら、またしても迅速兎は立ち止まり、東の空をぽけーっと眺める。少しずつ日が沈んでいく様を堪能する。
お日様があの山の向こうに全部沈む瞬間、空はいったいどんな色をしているんだろう?
小動物は心臓の鼓動が早い。
けれど今、小動物よりもっと迅速に鼓動している小さな心臓。
永遠亭を出ようと決心した時も、出る前日に寝床に着いた時も、こんな風に心臓が高鳴っていた。
でも、これほど高鳴るのは初めてだ。
空、青空、夕焼け空――竹林の外で、星空も見てみたい。きっと竹林から見る星空より何倍もきらきら綺麗に光っているに違いない。見てみたい。子作りを後回しにしてでも。
「おいで。早く帰らないと夜になっちゃうよ」
催促されて迅速兎は歩き出す。このやり取りはもう三度目になり、結局、竹林の入口で日没を見届ける事になってしまった。
青と黒の狭間でオレンジ色に染まる空は、兎から迅速主義を忘れさせる。
今という瞬間が限りなく永遠に近づき、永遠が一瞬ですぎ去ってしまう儚さ。
花びらが散るように日は山間に没し、天と地の狭間に輝き誇る美の光景を脳裏に焼きつける。
これほどまでゆるやかな時間をすごしたのは、赤子時代以来かもしれない。
でも。
それはそれ。
これはこれ。
迅速兎は迅速がモットー。
満足したら即座に帰宅すべく妹紅を急かして竹林に駆け込む。夕焼け小焼けを見て遅れた分、速やかに帰宅してご飯を食べるべきである。
i"ヽ/"i
ヽ ハ /
(,, ・x・)
「もこたんヤッホ」
慧音との出会いの翌日くらい。
いつも通り隠し金庫を探して庭でくんかくんかしていると、ふいに聞き慣れた声がした。
振り向いてみれば、高貴で気品にあふれ美しい――姫様が、袖で口元を隠しながら微笑んでいた。
迅速兎と同じく庭でのほほんとしていた妹紅は、たちまち険悪な表情を浮かべて姫様を睨む。
「なんの用?」
「せっかく遊びにきて上げたのに酷いわ妹紅。すねちゃうんだから」
「存分にすねろ」
「あら、今日はお友達も一緒なのね……って、イナバ?」
迅速兎と目線が合った姫様は、愛らしく眼を細めた。
永遠亭の兎はいちいち区別せずイナバと呼んでいる姫様だけど、どうやら野良兎と永遠亭兎の区別はつくらしい。一目で迅速兎が永遠亭のイナバであると見抜いたのだ。すごいや。
妹紅も迅速兎の出自は察しがついていたし、隠し立てする必要も無い。
「そうよ、迷子になってたのを保護したの。お礼に首置いてけ」
「持ち合わせが無いわ。ああ、そういえば先週くらい、イナバが一羽いなくなったと騒いでたようないなかったような……」
「薄情な飼い主だな」
「ねえイナバ。永遠亭に帰る? それとも妹紅の家にいる?」
スルーして、姫様は迅速兎に問いかける。
庭にある平らな石は日光を浴びて程よくあたたまっており、その上に鎮座して成り行きを見守っていた迅速兎は、姫様の瞳を真っ直ぐに見つめると口元を引き締めた。
すると姫様は顔をほころばせた。
「そう、あのころころ石をくれたのはイナバだったの。ありがとう」
「なんで意思疎通できてんだお前等」
妹紅のツッコミを無視して兎と姫は話を続ける。
「そう、永遠亭に帰る気は無いのね。うんうん、ふむふむ、妹紅を更正して日の道に戻す? 立派な志だわ、がんばってね」
「おい更正ってなんだ。こいつなに考えてんの」
「まあ妹紅ったら、夜毎そんな恥ずかしい真似をしていたの? 薬を盗むだけで飽き足らず、浅ましい奴ね」
「なに聞いた。こいつなに暴露した」
「えっ!? 妹紅がそんな事を……? いや、でも、困るわ。誰かに知られたら恥ずかしいし……」
「鳳翼天翔ー!!」
「ブリリアントドラゴンバレッター!!」
阿吽の呼吸で弾幕ごっこが始まった。
火の鳥と光の弾が縦横無尽に空を翔け、天と地を焼く。
迅速兎は迅速に避難すべく竹林へと飛び込むと、どっしんと頭をぶつけた。
「きゃんっ」
幼い悲鳴とともに引っくり返り、頭をぷるぷる振って意識を整える。
見上げてみれば、竹林に溶け込むような緑髪にタケノコ柄の帽子をかぶった少女が尻餅をついていた。背中からは透明の翅が生えている。これが噂に聞く妖精とやらか。
「イタタ……なんだ、妹紅さんが飼ってる兎じゃないの。気をつけなさいよ」
妖精がプリプリと怒ると、呼応するように周囲の竹が軋み濃密な竹の香りを放った。
鼻をひくつかせた迅速兎は嫌そうに顔をしかめる。竹の匂いは慣れ親しんで好ましいものであるが、これはさすがに濃すぎて胸焼けがした。クラクラしながら後ずさりしようとするや、後方から爆音と熱風が押し寄せる。火の鳥と光の弾が正面衝突したのだ。
「わっ、すごーい。やっぱりこいつ等の弾幕ごっこはエキサイティングでいいわね」
お知り合い? 迅速兎は小首を傾げるジェスチャーで問う。
ところが竹の妖精は兎の言葉が分かるらしくはっきりと答えた。
「そうよ。妹紅とはだけど。あいつが竹林で迷わないのは、私達が迷わせないからだし。迷わせるより仲良くしてる方が楽しいのよ。他の連中より派手な弾幕ごっこするし。他のみんなも注目してるわ」
緑髪の妖精が視線をめぐらし、迅速兎も視線を追う。
竹の陰にちらちらと小さな人影、蝶やトンボの翅などが薄ぼんやりと見えた。
みんな竹林で営む妖精だ。
大半は竹の妖精だが、石や土、川や池の妖精も混じっている。光、風、音といった形無き妖精も。
みんなみんな二人を見上げてる。
竹を避けて軽やかに飛び、炎や光を華麗に撃ち合う妹紅と姫様を。
姫様は楽しそうに笑っていた、迅速兎の知らない笑顔で。
いつもの穏やかでのんびりした姫様と本当に同一人物なのか。
妹紅は凶悪に笑っていた、迅速兎の知らない笑顔だ。
いつもの面倒そうで気迫の無い妹紅と本当に同一人物なのか。
命を迅速に削り合いながら、どうしてあんな風に笑えるのか。
生きるためにキャーロットゥを食べる訳でも、子孫を残すため子作りする訳でも、子孫を繁栄させるため子育てする訳でもない。
ただの遊びなのに、なぜあれほど輝けるのか。
いつか見た夕焼け小焼けのように。
i"ヽ/"i
ヽ ハ /
(,, )
迅速に産まれ迅速に育ち迅速に子作りし迅速に老い迅速に死ぬ。
それが迅速兎の理想だった。
ところが近頃、迅速の無駄遣いとも言える弾幕ごっこや、迅速ではない夕焼け小焼けへ強烈に心惹かれている自分がいる。
この世でもっとも尊ぶべきもの――それが迅速ではなかったのか?
すっかりこてんぱんにされた妹紅は、姫様に戦利品(酒)を持っていかれた事もあり、がっくりくたびれて白湯なんかすすっている。情けない姿とも取れたが、あのすばらしい弾幕ごっこを目撃した迅速兎としては慰めてやりたい気持ちでいっぱいだ。
後ろ足で立ち上がり、妹紅の背中をポンと叩く。
すると気持ちが通じたのか、振り向いた妹紅は小さく笑うと迅速兎を抱き上げた。
「お前、輝夜んトコの兎なのに、いい奴だな」
あたぼうよ。迅速に胸を張って主張する。
フレンドリーシップって奴だ。とはいえ迅速な子作りに必要なラブに比べれば、急がば回れなフレンドリーシップの重要性は下がる。けれどフレンドリーな関係も悪くないなと最近思いつつある。
「ようし、今日の夕飯はニンジンをひとかけら加えてやろう」
もしかしたらフレンドリーシップはラブに匹敵するかもしれない。
ほがらかに妹紅からサプライズを告げられ、迅速兎は考えを改めた。
こうして敗北を喫したにも関わらず結構楽しい夜を迎えた妹紅は、迅速兎を連れて外出した。
妹紅の頭にしがみついた迅速兎は、共に夜の空を飛んでいた。
耳を撫でる涼風は、まるで極楽浄土から吹いているようにさえ思えるほど澄み渡っていた。
はるか眼下に広がる幻想郷は暗く、どこがどうなってるのかよく分からない。
しかしはるか頭上、真珠のようにきらめく星々のなんと近い事か!
そして兎の毛並みのように鮮やかな白さを誇る三日月は、妹紅の頭を踏み台にして跳ねれば確実に乗り移れそうなほどだった。
三日月のハンモックに寝転がって、夜風にゆらゆら揺られたらさぞ気持ちいいだろう。ロマーンティーックでファンタースティーック。たまらないぜ。
という見事なまでの風流が、突如として耳障りな騒音に引き裂かれた。
迅速かつ高度な聴覚がびっくり仰天! 妹紅の頭を掴む前足に力がこもる。
騒音は次第に近づいてくる、というか妹紅が近づいているのだ。
やめよう、帰ろう、迅速兎は提案する。
だがしかし、妹紅は迅速兎の言葉を解せぬのであった。
人里と博麗神社の中間ほど、夜道の中に明かりが灯っていた。
「鳥獣伎楽は既成事実に囚われぬパンクで今日もソウルをエキサイティンッ!!」
「一曲目は『焼き鳥禁止令』でした! 本日の二曲目は『戒律上等般若湯』だぜヤフー!」
ライトで照らされたステージの上で、サングラスをかけた二人の妖怪が何事か騒いでいた。夜なのにサングラスって変。
片方は鳥の翼を生やしてギターをかき鳴らし、もう片方は獣の耳を振り乱している。
「おお、やってるやってる」
地上に降り立った妹紅は、ステージ前に集まった観客の群れの最後尾に並んだ。
異様な熱気に当てられた迅速兎はくらくらとめまいを起こしてしまう。
拳を掲げて歓声を張り上げるウドンゲちゃんの幻覚まで見える有様だ。
本当に幻覚か? 真偽を確かめようとした瞬間、鳥の妖怪がギターをジャカジャカ鳴らし始めた。
迅速な演奏ではあるが、あまりにもでたらめすぎる。
「パンクロックのライブだ。技巧はまだまだだけど、リズムとテンポがいいからな」
妹紅が解説してくれているが、騒音のせいでよく聞こえない迅速兎であった。
「今日も仏像の前で宴会だ! 馬の小便なんざ飲んでる暇があったら般若湯を飲みやがれ、ヤフー!」
「ポン酒も老酒もワインもビールもみんなみんな般若湯! それでいいのか仏様!?」
「矛盾を叫べば鉄拳制裁! 雲のおっさんマジ堪忍! 言い訳なんざ聞き飽きた、般若湯だからOKだ、見たぜ仏門に潜む闇!」
「寺も神社も一皮向けば真っ黒さ、五穀と一緒に焼肉パーティーそれでいいのか頑固親父!」
迅速兎の知っている歌とまるで違う。
姫様の弾く琴や、ゆったりとした歌は、迅速兎のモットーに反しながらもその美しさを認めずにはいられなかった。
一方、鳥獣伎楽の演奏は迅速の無駄遣いである。弾幕ごっこと同じで非建設的。迅速に対する冒涜だ!
怒りのあまり迅速兎は耳をピンと立てて震えた。
「おお、そうかそうか、お前もパンクのよさが分かるか」
あまりにうるさいので、やはり妹紅がなんと言ったか聞き取れなかった。鋭敏すぎる聴覚は鳥のギターと獣の大声で破壊されつつあった。
鳥獣伎楽は最低のパンクバンドだ!!
――そして三曲目。
「お次は『楽園の強欲な巫女』よ! 神社に聴こえるくらい、ていうか聴こえるように声を出せ野郎ども!」
「ヤフー! 巫女なんか怖くない、神社に届け山彦ボイス!!」
鳥獣伎楽は迷惑なパンクバンドだ!
――そして四曲目。
「ヘイヘイ巫女さんビビって出てこない! 時代の風は鳥獣伎楽に吹いてるイェーイ!!」
「皆さんお待ちかねの人気曲『笑顔で挨拶シーユーアゲイン』の出番! 盛り上げていこぉ、こーんばーんはー!!」
鳥獣伎楽はうるさいパンクバンドだ。
――五曲目。
「続いて『プリズムフレンドリー』をお送りするぜー!」
「作詞ルナサ・プリズムリバー、作曲メルラン・プリズムリバー、編曲リリカ・プリズムリバーだセンキュー!」
鳥獣伎楽は元気なパンクバンドだ。
――六曲目。
「ボンバー! 爆発するぜボンバー! パンクはソウルの爆発だボンバー!」
「パンクの熱き律動『ファイヤーフラワー・ヴォルケイノ』で身体の芯まで震えろボンバー!!」
鳥獣伎楽は楽しいパンクバンドだ!
――七曲目。
「最後は鳥獣伎楽ファンクラブのため用意した新曲行ってみよー!!」
「赤い眼をしたあいつに捧ぐ曲名は……『ラピッドラビット』!!」
鳥獣伎楽は最高のパンクバンドだ!!
人語は中途半端にしか分からなかったけれど、パンクのソウルは本能で理解できた。
ライブが終わって、熱に浮かされたままの観客が帰っていく中、ステージ設置協力の河童達が後片づけを始めた。もちろん河童もノリノリでライブを楽しんだ奴ばっかりだ。そんなスタッフに「お疲れさん」と気安く声をかけて、迅速兎を頭に乗せたままの妹紅はステージ裏の控え室に入った。
あれこれ置かれた資材で狭苦しい中、テーブルの上にはギターと一緒にファンから受け取った花束が並んでおり、その向こうで鳥獣コンビが黒いステージ衣装の胸のボタンを外そうとしているところだった。
開いたドアの音に気づいて、夜雀ミスティア・ローレライはパッと顔を輝かせた。
「妹紅! どーだった今日の演奏?」
「よかったよ。スカッとした」
「こんばんはー!」
「こんばんは。山彦ちゃんもお疲れ」
慣れた様子で足を踏み入れた妹紅はテーブルの席に着くと、ミスティアが散々かき鳴らしたギターを抱えた。
「これまた乱暴にやったなー」
「いやあ、テンション上がっちゃってさー。調整ヨロシク!」
「お安い御用。でも、ギター続けるなら自分でできるようになりなよ」
「チューニングはできるようになったじゃない」
「調子こいて切れた弦も直せるようになれば完璧だ」
「切れた時は焦ったけど、響子がカバーしてくれたから逆に盛り上がったね」
「パンクだからな。トラブルさえ演出にするってのは重要なテクだ」
話しながら妹紅はギターの調律……というより修理を始めた。
鳥獣伎楽のメンバーは夜雀のミスティア・ローレライ様と、山彦の幽谷響子様の二人だけ。
しかしステージを設営してくれる河童や、アドバイザーのプリズムリバー楽団、巫女や住職の接近を千里眼で察知して報告してくれる白狼天狗、連携して足止めをしてくれる祟り神など、様々な協力者によって支えられている。
藤原妹紅もその一人だ。
練習中にテンションが上がってギターを地面に叩きつけて歪んでしまって困っていたのを、偶然練習を聴いていた妹紅が助けたのが縁である。元々、夜雀の屋台の常連であったり、弾幕ごっこをしたりと交流があったのも手伝って、気がつけばギター修理係になってしまっている。
そういったエピソードを迅速兎は知らないし、興味も無い。
あるのは、すばらしいライブを披露した鳥獣伎楽の二人が目の前にいる夢のような現実!
「あれー? 妹紅さん、その帽子なんですか? 兎角同盟の帽子?」
ボーカルの響子様に声をかけられて、迅速兎は慌てて立ち上がった。妹紅の頭部に。
帽子と思っていたものが動いたので、響子様とミスティア様は驚いて跳ね上がった。迅速兎も真似して跳ね上がった。
ぐきっと嫌な音を立てつつ、首を斜めにして妹紅は答える。
「こいつ本物」
答えると、ミスティア様がポンと手のひらを叩いた。
「妹さん?」
「なんでだよ」
「白い毛に赤い眼でそっくりだから生き別れの姉妹かなーって」
「私、不死鳥キャラなんですけど」
「そーなんだ。なんで頭に乗っけてんの?」
「なんか懐かれちゃってね。ライブ気に入るかなって思って連れてきたんだけど、すっかり気に入ったみたい。新規ファン獲得おめでとう」
「へー。兎をテーマにした新曲初披露のライブが初体験なんてラッキーね」
からからとミスティア様が笑い、着替えを再開する。
ライトで照らされたステージで黒い衣装だったため、暑くて疲れてへとへとだ。
「ラピッドラビットだっけ。シャレが利いてていいんじゃない?」
「リグルはくだらないダジャレって言ってた」
「くだらなくていいじゃない。この世で楽しいものは、得てしてくだらないものよ」
ドキリと、迅速兎は妹紅を見下ろした。
そうだ。パンクライブなど実にくだらない、迅速を無駄遣いするものではないか。
けれど楽しかった、血液が沸き立つほどに。
迅速ではない、くだらない無駄を楽しんでいた。
「くだらなくないわ。兎角同盟を利用して焼き鳥撲滅運動拡大につなげるんだから」
「うわ酷い。兎角同盟の連中には聞かせられないな」
「兎鍋好きだし。さすがにファンは食べないけど」
「ところでラピッドってどういう意味?」
「Rapid、俊敏とか迅速とか」
「Rapid Rabbit。迅速兎。歌詞聞くと納得のタイトルだな」
どんな歌詞だっけ? 頭上の兎は首を捻る。
人語を半端にしか聞き取れない己をこれほど悔いたのは初めてだ。パンクがソウルに響くとはいえ、鳥獣伎楽の歌を聞き取るため勉強すべきかもしれない。
「そういやその兎、なんて名前?」
「いや、名前はつけてない。兎って呼んでる」
「じゃ、ラピッドラビットにしようよ」
ミスティア様がすばらしい提案をした。
迅速を尊ぶ迅速兎にとってこれ以上相応しい名前は無い。しかも鳥獣伎楽の新曲と同じ名前を、鳥獣伎楽から名づけられるとは、身に余る光栄!
「長いなー。普段はラピッドって呼べばいいか。ていうか、こいつ新しい名前ちゃんと分かるのか?」
「分かるよねー、ラピッド」
分かるともさ。迅速兎もといラピッドは元気いっぱいにミスティア様の胸元に飛び込んだ。汗さえ最高級の香水であり、未だ熱っぽい身体からはパンクのソウルがひしひしと伝わってくる。
服を脱いで下着姿だったミスティア様は受け止めてよろめいてしまうものの、小さな可愛いファンに満更でもないようで実に微笑ましい光景となった。
「分かってるみたいだねー」
それを見て響子様が楽しげに笑ったので、妹紅も声を出して笑った。釣られてミスティア様も笑えば、ラピッドラビットも自然と笑う。
鳥獣伎楽は今日もソウルの底からハッピーだった。
ミスティア様からだけでなく、響子様からもラピッドは気に入られたし、河童から夜食のキュウリを分けてもらったり、お礼に後片づけのお手伝いを(妹紅がしている横で跳ね回ったり)して、もうすっかり鳥獣伎楽の熱狂的ファンとして完成してしまったとさ。
「これファンの妖精からもらったの。私は自前の翼があるし興味無いから上げるね」
と、ミスティア様からお土産をもらって妹紅達は帰宅した。
i"ヽ/"i
ヽ ハ /
(,, ・x・)
時刻はもはや丑三つ時。
藁人形を五寸釘で打ちつけるには絶好の頃合に帰り着いた妹紅は、せっせと布団を敷いた。隣に座布団を置けばラピッドの寝床も完成する。寝巻きに着替えた妹紅はお土産の小瓶を座卓の上で開けると、思い出したように台所へ向かった。
小瓶が開けっ放しで置かれていたので、ラピッドは興味を持ち卓上に飛び乗った。
鳥獣伎楽への貢物なのだから大層な代物に違いない。ミスティア様は合わないからと分けてくださったが、響子様は使用している様子だった。なんだろう。小瓶のラベルを見ると見覚えのある漢字が書かれていた。永遠亭で見た気がするが確証は持てない。
ラビットパンチ(ボクシングで相手の後頭部を狙う反則技)で小瓶を倒してみると、中からころころ玉が十粒ほど転げ出てきた。独特の匂いはやはり永遠亭で嗅いだ気がする。食べられそうだ。サイズは手頃で兎でも一口で頬張れるが咀嚼するには大きすぎ、こつこつかじって食べるのがいいだろう。
という訳でさっそく一口。
まずい!
その味わいは食物というより薬物のようであり、たまらず吐き出そうとする。
「ラピッド! なにやってんだ」
だが小瓶の倒れた音に気づいた妹紅が湯飲み片手に戻ってきて大声を出した。
ぎょっとしたラピッドは、ころころ玉を吐き出すどころか呑み込んでしまった。
ぎょっくん。
兎には大粒なので喉に詰まりかけたが、かろうじて胃袋へと落ちていく。
どたどたと駆け寄ってきた妹紅は、ころころ玉をかき集めて小瓶に戻すと心配そうにラピッドを見つめた。
「大丈夫か? なんともないか?」
ラピッドは鼻をひくひくして大丈夫とアピールしたが、ちっとも伝わらなかった。
とはいえ特に具合が悪そうにも見えないので妹紅は安堵の息を漏らす。
「うーん、兎が飲んでも大丈夫なのか? 永遠亭のだしな、間違って飲まれてもいいよう調整されてるかもしれん」
何事ぞと首を傾げるラピッド。
意思疎通はまだまだうまく行かないが、多少なりとも生活を共にしていれば分かりやすいサインは通じるようになっており、正しく察した妹紅は苦笑を返した。
「胡蝶夢丸だよ」
聞き覚えがある。
でもなんだっけそれ。
「ほら、お前んトコの永琳が作った薬。えーと、ほら、師匠って呼ばれてる奴」
お師匠様か! いつもお薬の匂いがする"おてて"だったけれど、仲間の兎はみーんなその匂いが大好きで、結婚前の姉などは特に大好きで、隙を見てはお師匠様の手をくんかくんかと嗅ごうとしたものだ。
他にも姫様の膝が好きな奴、てゐ様と遊ぶのが好きな奴、眠っているウドンゲちゃんのお腹の上で眠るのが好きな奴など色々いたが、ラピッドは固い座布団で十分だった。
しかしなるほど胡蝶夢丸か。
はてな? ラピッドは改めて首を傾げる。お師匠様は色んな薬を作っていて、いちいち名前なんか覚えてない。眼からビームが出る薬とか、喉から手が出る薬とか、体毛が金色に輝く薬とか、尻から弾幕が出る薬とか、変な薬ばっかりだったような。
はてさて胡蝶夢丸の効果とは?
「胡蝶夢丸はあれだ、蝶になってのんびり飛ぶ夢を見られる奴。空飛べる奴はたくさんいるけど、翅でひらひら飛ぶのとは勝手が違うしな。飛べる奴でも好んで飲んだりしてるらしい。まっ、ミスティアは気に入らなかったみたいだけど」
なるほど然り、夜雀のミスティア様は闇夜を羽ばたくパンクの翼を持っている。
山彦の響子様は飲む気だったようなので、ますますもってなるほど然り。
という事は今宵ラピッドは幽谷響子様と同じ夢を見られるのか。
しかも夢の中とはいえみずからの翼で羽ばたけるのか。
テンション急上昇したラピッドは迅速に座布団へ飛び込み身体を丸めた。遠足前の子供のような心持ではあるが、丑三つ時までの夜更かしと鳥獣伎楽のライブの疲れが重なって、割とすんなり眠気にひたれた。あまりの迅速さに妹紅は驚いたが、まあ大丈夫だろうとのん気に構えて自身も胡蝶夢丸を飲むと布団に潜り込んだ。
ふと、眠気が襲ってくる前にラピッドの頭を撫でる。
「おやすみ、ラピッド」
反応は無く、もう眠っているようだった。実に迅速で苦笑してしまう。
i"ヽ/"i
ヽ ハ /
(,, -x-)zzz
真っ黒な太陽と紫色の三日月が笑いながら輝く空は、血液のように赤黒く淀んでいる。
腐った地面は踏むとわずかに沈み、名状しがたいグロテスクな植物があちこちに生えていた。けばけばしく破廉恥な色彩は臓腑のように脈動し、汚臭によって生理的嫌悪を強く刺激した。
左前方では拳ほどもある芋虫が群れを成して腐肉にたかっており、右前方では赤い紫陽花に赤い蝶が止まって赤い蜜をすすっている。
赤い蝶?
そうだ、胡蝶夢丸を飲んだのだから、自分も蝶になっているはずだ。
ラピッドは迅速に自身の身体を確認する。
白い毛皮に、元気いっぱいに伸びた耳。小振りな健脚。ふりふり尻尾。
兎のままだった。
胡蝶夢丸は確かに飲んだはずなのに。
お師匠様が不良品を作るとは珍しいが、完璧に見えるお師匠様にも欠点があるのだと分かり不思議と親近感が湧いた。
胡蝶の夢を見られないのは残念だが、もしかしたら妹紅と響子様もどこかにいるかもしれない。迅速な探検を行うべきだろう。
物怖じせずラピッドは突っ走った。
腐って湿った地面が気色悪いが構うものか、どこかに響子様がいるかもしれないと思えばドキドキワクワクアドベンチャーだ。パンクはソウルだぜ。
しばらく進むと真っ赤な森に入った。
牛に似た遺体の頭部に、触手のような舌を突き刺した犬っぽい生物がこちらに気づき振り向く。
ラピッドはこーんばーんはーと頭を下げた。笑顔で挨拶はパンクだって響子様が言ってた。
「キシャー」
犬っぽい生物が快い返事をしてくれたので、響子様を見なかったかと訊ねる。見ていないようだ。今度は犬っぽい生物が訊ねてきた。この辺で人型の少女を見なかったかと。響子様の事かしらん? ラピッドは首を横に振った。すると犬は牛から舌を引き抜き、口角を釣り上げてラピッドに迫ってきた。
獣臭いのでラピッドはつい距離を取ってしまう。すると犬はますます接近しようとしてきたので、ムキになってますます距離を取る。気がつけば追いかけっこになっていた。ちょっと楽しい。
真っ赤な森を駆け抜けると、黄色い粘液の流れる川が待ち構えていた。
幸いにも真っ赤な倒木が橋の役割を果たしていたので、その上をすたこらさっさ。
向こう岸に到着すると同時に後方から妙な音がした。見てみれば犬が足を踏み外し、黄色い粘液の川に落ちるところだった。粘液だけあって泳ぎにくいらしく、犬はずぶずぶと沈みつつ流されていく。
さよーならーと前足を振る。笑顔で挨拶はパンクだぜ。
さて。響子様を探す旅は続く。
向こう岸は黄色い竹林だった。黄金色と言ってもいい。黄色い粘液の川の影響を受けているのかもしれない。
竹林ならば慣れたもの。意気揚々と飛び込むと、地面には竹の葉が降り積もっているためやはり金色だ。どこを見ても金、金、金。まるで永遠亭の隠し金庫のよう。
はてさて幽谷響子様はいずこに。
ズシンと地面が揺れる。背後に強烈なプレッシャーを感じ、ぎょっとして振り向いた。
銀色の鱗を持つ巨大なドラゴンが、黄金の瞳を血走らせてラピッドを見下ろしている。屈強な肉体は10メートルもあり、胸元には痛々しい十文字の傷が刻まれ歴戦の猛者であるとうかがえる。しかも鋭い牙の合間から涎を垂れ流している。お腹が空いているらしい。
夢の中で食べるキャーロットゥもいいよねなんて思いながら、ラピッドは挨拶のソウルをぶつけた。こーんばーんはー。次の瞬間、銀色ドラゴンは口を大きく開けてラピッドに噛みつこうとしてきた。眼前に迫るそれは危機感のいちじるしく欠けるラピッドでもびっくりして身をすくませてしまうほどだった。
頭が真っ白になって、火の鳥が、銀色ドラゴンの顔面に突っ込んだ。
火炎が渦巻く中、真っ白な髪をなびかせる人影。見覚えのある親しき姿。
「やっぱりラピッドだったか、無事でよかった」
まさしく彼女は藤原妹紅。
嫉妬するほど格好いい登場シーンだ。
「いくら夢でも、お前を見捨てちゃ寝覚めが悪い」
妹紅もこれが夢という自覚があるようだ。
全身を炎上させて、炎の尾羽を手裏剣のように投げつける。けれどそれらは白銀に輝く鱗の表面を撫でるだけで、まったく傷つけられずにいた。炎に抵抗力があるのか、それとも装甲の厚さが尋常ではないのか。勝ち目が薄いと察した妹紅は高々と指を鳴らす。するとまばゆい閃光が黄金竹林を照らした。
ラピッドは眼がくらんで動けなくなるも、急降下した妹紅にキャッチされた。そのまま全速力での逃走。前を見て竹を避けなければならない妹紅と違い、ラピッドは後方の銀色ドラゴンの様子を見る事ができた。閃光はもう収まっていて、奴は大きく息を吸って、こちらに向けて口を開く。
大気を引き裂く咆哮と共に、口腔から雷雲が飛び出した。
雷ではなく雷雲だ。黒々とした雲は雷と雨を孕んで嵐となり、竹林を薙ぎ倒して迫ってくる。あんなものに巻き込まれたらひとたまりもない!
「サラマンダーシールド」
だがラピッド達と雷雲の間に燃え盛る盾が出現した。雷雲の半分以上が蒸発して威力は減退したが、それでもすさまじい爆風がラピッド達を吹き飛ばし無様に地面を転がされた。妹紅の手から落ちたラピッドは懐かしい気配に飛び起きる。視界は膨大な蒸気によってさえぎられていたが、白と金の中で映える、磨き抜かれた黒がなびいていた。ゆったりとしたあの装い、常に余裕をたたえた微笑み、黒曜石のような御髪。
まさしく永遠亭の姫様――。
「輝夜か!? なんでお前が私の夢に出る」
「もこたんヤッホ。胡蝶夢丸ナイトメア・オンラインタイプを飲むだなんて珍しいわね」
黄金の竹の葉をかぶったまま立ち上がった妹紅は獣のように牙を剥いた。
すると姫様は一目散に逃げ出した。妹紅からではなく、蒸気の向こうにいるだろう銀色ドラゴンから。即座に意を汲んだ妹紅は改めてラピッドを拾い、姫様と同じ方向へと飛翔しながら叫ぶ。
「ノーマル胡蝶夢丸だと思ったんだよ、ていうかオンラインタイプってなに!?」
「みんなで同じ悪夢を見て、悪夢の次元世界で冒険したり戦ったりするのよ。最近はハンドルネーム百鬼夜行さんや向日葵女王さんがINしてるわ。弾幕もいいけど殺し合いも、という需要を果たしているの」
「戦闘狂ばっかりじゃねーか!」
「ところで夜雀ちゃんはいないの? 焼き鳥推奨委員会の会長さんが、夜雀ちゃんにプレゼントするって言ってたけど。オンラインタイプは高価なのに、熱心なファンがいたものねー」
「ファンじゃなく刺客だ!? ミスティアが興味持たなくて助かったな……」
「ちなみにこの世界で死んだら死ぬわ」
「デスゲームじゃねーか! 馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの本当に本当に馬鹿じゃないの」
「肉体的に死ぬだけだから、妖怪なら大丈夫よ」
「……て事は、こいつは」
「あら? うちのイナバじゃない」
和気藹々と罵り合いながらも、姫様はサラマンダーシールドの火力を上げて雷雲を阻んでいたし、妹紅も火力増加に協力すべく炎の弾幕を連射していた。
そんな中、場違いな兎は状況をいまいち理解できずにいる。
二人の弾幕ごっこはこないだ見たが、今回は協力プレイなのだろうか。相手はあの銀色ドラゴンなのかしら。響子様は来てないのかな。といった具合だ。
「そうね、物の怪になってる訳でもないし、その子は死んだら死ぬわ」
「生還条件は?」
「眼が覚めるまで生きてる事」
「シンプルすぎて逆に厳し――」
ふいに、妹紅と姫様は急停止をした。
前方の黄金竹林が黒々と炭化しており、しかも肉の焦げる匂いを発している。さらに雷雲が地面を這うようにして広がっているではないか。恐ろしいなにかを感じて上空へ逃れた直後、雷雲ごと地面が盛り上がって銀色ドラゴンが出現し、翼を広げて赤黒い空へと飛び上がった。
「先回り!? どうやって!」
「テレポーテーションでしょ」
「じゃあどうやって逃げればいいんだ」
「囮がいなきゃ無理ね。妖怪や悪魔の肉を好むから、そういうのが近くにいればそっちを優先するでしょうけれど」
穏やかな口調のまま姫様はいずこからかダイヤモンドの鉢を取り出すと、それを媒体にして眩い光のレーザーを放った。レーザーは白銀の鱗によって四方八方に反射されてしまったが、銀色ドラゴンの眼は再び眩んだ。
とはいえ、なんの策もなく逃走してもテレポーテーションで追いつかれてしまう。妹紅はラピッドを脇に抱えて、もう一方の腕を鋭く振り下ろした。爪の先端から赤い線が三本走り銀色ドラゴンの翼の付け根を切り裂こうとするが、当然易々弾かれた。
「奴にダメージを与えるなら、大魔導師クラスの魔法で攻撃力倍増した鬼神の最強奥義がクリティカルヒットでもしないと無理よ」
「心得た!」
と、妹紅は空中で回転し遠心力を存分に乗せたかかとを姫様の後頭部に打ち込んだ。
ふいうちのため直撃を受けた姫様は目頭から火花を散らして落下していく。
「さすが輝夜だ、可愛いイナバのため囮を買って出るとは見直したぞー!!」
と、妹紅は悪びれもせず言い放つや猛スピードで逃走再開。なんの策もなくでは難しいが、策があればいいって事さ。
「外道~!」
「ウワーッハハハハハ! さらばだ輝夜ー!」
後方で爆音やら弾幕の発射音やら雷鳴やらが響いたが、妹紅はまったく気にしなかったとさ。
ラピッドはというと、妹紅も姫様も楽しそうだなーと場違いな感想を抱いていた。
三十分か、あるいは一時間か、それくらい経ったが一人と一羽はまだ夢から覚めない。
そもそもいつ目覚めるのか。平常通り朝まで起きないというのはごめんこうむりたいし、こういう異次元世界では時の流れが現実と違ったりする事もあるって慧音が(茶屋にあった忘れ物の海外ファンタジー小説を読みながら)言ってた。
黄金竹林を抜けて平原にたどり着くも、緑の地面が奇怪に蠢きながら一定方向に流れていた。草がなびいているのではない。よくよく眼を凝らすとイナゴの群れの行進で、隙間からは獣の骨がちらほらと見える。肉食なのだろうか。
避難場所として不適切だなと思っていたところ、平原に生えていた青い大木の後ろから三つ首と皮膜の翼を持つ怪鳥が飛び出し殺意を向けてきたが、こちらはたいした相手ではなく火炎の砲弾一発で撃墜でき、焼け焦げて地面に落下したそいつはイナゴの餌となった。やはり肉食か。
平原の上を飛んでも仕方ないと判断した妹紅は一時停止する。
「あいつを囮にしたのは失敗だったかしら? 百鬼夜行とか向日葵女王がいればいいんだけど……」
「近場にいるのはヤッタークロウさんとスターベアーさんね。向日葵女王さんは下僕を引き連れて地獄の公爵の城攻め中だから、通信を切ってて呼べないわ」
隣に、いつの間にか姫様が浮いていた。
服はあちこち裂けたり焦げたりしているが本人は無傷。
「うおっ。輝夜お前、無事だったのか」
「もちろん。私の生存率は100%よ」
「そりゃあそうだろうよ。で、あのドラゴンはどうした。振り切れたのか?」
「もちろん」
姫様はにっこりと笑った。
下方、地面もイナゴも大爆発で吹き飛んで、銀色ドラゴンが出現した。
「振り切れません」
「おいぃぃぃ!?」
「だから、囮がいないと無理だってば」
「囮やってろよ! 私はともかく、こいつが死んだらどーすんだコラどーすんだぁ!」
わめきながら急加速で退避する妹紅。追従する姫様。
銀色ドラゴンは二人のいた場所を通り抜け、赤黒い空をぐんぐんと昇って行った。ただならぬ不吉を感じた妹紅はさらに加速。身を隠しやすい黄金竹林へ戻ろうとする。姫様も後に続きながら空の様子をうかがっていた。
銀色ドラゴンの姿が手のひらにおさまるほど遠のくと、突然空が暗黒に染まり弾丸のような雨が降り注いだ。たかが水滴とはいえその威力は痛烈。妹紅はラピッドを胸に抱え、背中で雨を受けた。妖精や毛玉の弾幕に匹敵する威力がある、しかも雨なので避けようがない。蒸発させようにもラピッドを抱えたままでは巻き込んでしまう可能性がある。
「おいサラマンダーシールドで――」
「雷」
「え」
閃光と轟音が同時に。
平原も黄金竹林も巻き込んであちこちに雷が落ちた、天地を繋ぐ光の筋は妹紅の視界の中だけでも十を越えている。幸い近くには落ちなかったが、竹林は盛大に燃え上がってしまった。下手に逃げ込めばやはりラピッドが危うい。
というか平原もイナゴを巻き込みつつ、点在する草木が燃えて危険になっている。かといって空を飛んだままでは雷が近くに落ちたら引き寄せてしまう。雷は高いところに落ちるものだから。さらに雷を浴びずとも豪雨のせいでこつこつと体力を削られてしまう。
「クソッ! 輝夜どうする!?」
雨による苦痛に表情を歪めながら振り向くと、炭化した人型の物体が平原に落下していく最中だった。もし妹紅に命中すればラピッドは確実に死ぬ。
空中にいたら高確率で死ぬ。
平原にいたら高確率で死ぬ。
竹林にいたら高確率で死ぬ。
それ以外の場所に逃げられる余裕は無い。
だから妹紅は竹林に逃げた。
竹林に降りて、ラピッドを地面に置く。
「火の手に巻き込まれないよう、竹林の中を逃げ回ってろ」
恐らくそれが、死ぬ確率の一番低い選択肢。
「奴は私が食い止める。夜が明けるまで死に続けてでも」
悲壮な眼差し。
悲壮な決意。
迅速を尊ぶくせにのん気を極めたようなラピッドだが、友情は愛情に匹敵すると考えを改めた今、お友達のつらそうな姿は心が痛む。何事か力になれないかとその場で跳ねてアピールしたが、妹紅は首を横に振った。
「眼が覚めたらニンジン食べよう」
妹紅はすでに、ラピッドを都合よく動かす最上の手段を学んでいた。
頭が悪く人語を中途半端にしか解せぬラピッドだが、キャーロットゥが関わるとなれば理解力は100%に限りなく近づく。
だからラピッドは、100%に限りなく近づいた理解力で首を振った。
横に。
キャーロットゥを愛している。
だが妹紅に友情を抱いている。
愛情と友情が同価値ならば、なぜに妹紅を見捨てられようか?
キャーロットゥを無下に扱えぬよう、妹紅を無下に扱えるはずがない。
その力強い意志を、友情を感じた妹紅は、唇を強く噛んで震えた。
今までに見た事のない表情で、どのような感情によって震えているのか分からない。
妹紅は黙って、自分の髪を結ぶリボンを幾つか解いた。
「これは呪符でもある」
それをラピッドの四方に突き刺した。やわらかなリボンのはずなのにまるで刃のようだ。
「防御系の術は苦手だけど、これを使えば多少は融通が利く。例えば――」
片手で印を結び、短い呪文を唱えた。
するとリボンを媒体として、ラピッドの周囲に赤い妖光の立方体が顕現する。
ぎょっとして飛び跳ねると、妖光の天井に頭をぶつけてしまった。
「どっかの巫女と違ってこういうのはあまり得意じゃないから、割と簡単に壊れちゃう結界だけど……炎に関しては強固だ。この程度の雨と火災くらいなら防げる。近くであんなドラゴンが暴れてちゃ、他のモンスターも近寄ってこないと思うし……現実で目覚めるまで、雷が直撃しないよう祈りながら、そこでおとなしくしといてくれ」
抗議のため眼差しを鋭くして、ラピッドは果敢に妖光の結界に突撃する。
強烈の頭突きを、強烈な後ろ蹴りを、全身全霊の体当たりを。
けれど全然ちっともびくともしない。
妹紅はもはやなにも言わず、小さなお友達に背を向けて、雷雲渦巻く大空へと飛び立った。
すぐさま空の一角が赤々と染まる。
閃光が赤を引き裂き、轟音が大地を叩く。
復帰した黒髪の姫様が妹紅を追って舞い上がる。
「妹紅ー! そのドラゴンは異次元七大美食に指定されていて、全身どこでもおいしく食べられるわ! しかも栄養満天美肌効果で生命力倍増。鱗一枚でもいいからなんとしてももぎ取るわよ!」
「知るか馬鹿! そんな事してる暇があったら手伝え、元お前のイナバがピンチなんだぞ!」
ふいに、ラピッドは理解した。
自分がどうありたいのかを。
あんな風になりたい。
あんな風に生きてみたい。
あんな風に死んでみたい。
妹紅のように?
姫様のように?
ううん。
両人のように。
なれたら、こんな場所から見ているだけなんて、ならなかったのに――。
戦いは熾烈を極めた。
上空で戦っているため、なにが起こっているのかよく分からなかったが、少なくとも雷雲が晴れる事はなく、豪雨は降り続け、雷は落ち続けた。
炎は踊り続け。
光は輝き続け。
涙は流れ続けた。
ああ、妹紅を日の道に戻そうと躍起になっていたけれど、妹紅はとっくに日の道を歩んでいるではないか。
黒い太陽、赤黒い空、唸る雷雲の下でありながら。
妹紅の生き様は、とっくにお日様だよ。
自分の小ささ、無力さ、それらを理解して、悔しさがいっぱい込み上げる。
ああどうか妹紅が無事でありますように――。
『うひゃあ!』
i"ヽ/"i
ヽ ハ /
Σ(,, ゚x゚)
「うひゃあ!」
甲高い悲鳴によって座布団から飛び起きた。
誰の悲鳴だ。慌てて隣を見ると、妹紅は苦悶の表情で寝入っている。妹紅の悲鳴か。いやそれにしては甲高いというか子供っぽかったし、あまり危機感を覚えない悲鳴だった気がする。もっとこう、転んだ拍子のような。
「イタタ……」
再び声。出所をラビットイアーで察知しみれば、朝陽の射し込む窓際にてすっ転んでいる妖精の姿があった。あれは確か妹紅と姫様が弾幕ごっこしている時に会った竹の妖精。緑の髪とタケノコ柄の帽子だから間違いない。
「あら、いつかの兎じゃない。起こしちゃった? おはよー」
向こうもこちらに気づいたらしい。愛想のいい笑顔を浮かべて挨拶をしてきた。
挨拶はパンクなので迅速に挨拶を返す。おはよーございます。
いや待て、それどころではない。急いで妹紅を起こさねば!
今も悪夢を見続けて、自分のために命を削って戦っているお友達を起こさねば!
布団の上にジャンプして、さらに迅速に跳ねまくると、竹の妖精に耳を掴まれた。
「こらっ、乱暴しちゃダメでしょ」
声色は優しい。親切心からの言葉のようだ。
それどころではないと迅速に手足をバタバタして抵抗する。
「や、別にイタズラしに来た訳じゃないわよ。ただ昨日飲みすぎちゃって、二日酔いの薬を拝借しようかなーって。それくらい妹紅さんもOKしてくれてるし。あ、これかな二日酔いの薬」
竹の妖精は卓上の丸薬を見て手を伸ばした。
あれは胡蝶夢丸ナイトメア・オンラインタイプ!!
恐怖心が競り上がり、ラピッドは全力で竹の妖精のお腹を蹴った。
「ぐふっ!?」
二日酔いで参っているせいか、妖精はラピッドを手放すとその場にうずくまる。
「ぐおお……な、なにすんのよ」
新たな犠牲者を出してはならぬと、迅速な説明を試みる。この妖精は兎の言葉を理解できたはず。
ところが迅速に説明しようとしたためちぐはぐになってしまい、それをフォローしようとしてますますちぐはぐ、ラピッド自身混乱してきてしまった。
そうこうしている間に妖精は卓上の小瓶のラベルに気づいた。
「ん……なになに、胡蝶夢丸? ああ、これがあの。湖の連中が自慢してるのを聞いてから、一度飲んでみたかったのよねー」
これはミスティア様を罠にかけるためのものなので、ラベルには当然『ナイトメア・オンラインタイプ』の文字は記されていない。こうなったら――。
ラピッドは小瓶を前足で抱えると、飲んじゃダメと叫びながら迅速な逃走を始めた。
「あっ、こら待てー!」
だがラピッドの呼びかけは届かない。
胡蝶夢丸がもはや自分の物であるとでも主張するように怒鳴り散らした妖精が、ラピッドを追いかけてくる。室内を逃げ回っていては追いつかれ、この妖精も犠牲者になってしまう。
ダメだダメだと叫んでも妖精には通じず、飛びかかられてしまった。
「このぉ!」
避けられないと悟ったラピッドは、迅速に小瓶を投げ捨てた。
ゴツンと痛そうな音が。
「ぐはっ!?」
どうやら小瓶は妹紅の額に直撃したらしい。
布団を跳ね除けて起き上がった妹紅は、部屋をきょろきょろと見回す。
「むうう……ヤッタークロウのメルトダウンすら通じないとは……あれ? 私の家?」
ようやく事態を飲み込んで、驚き顔のラピッドと妖精に気づく。
「あっ、ああ……おはよう」
「おはよー妹紅さん。それぶつけたのは私じゃなくこいつだから」
「それ? って、胡蝶……ナイトメア!」
慌てて拾った妹紅は、小瓶を握りつぶしながら手のひらを炎上させる。まだまだたくさん残っていた胡蝶夢丸ナイトメア・オンラインタイプはすべて灰燼と化した。
竹の妖精が悲鳴を上げる。
「ああー、もったいない!」
「ん、飲みたかったのか? やめとけ、これはナイトメアタイプ。しかも強烈にタチの悪いバージョンだ」
「えっ、そうだったんですか? じゃあこの子が小瓶を取ったのは」
「ん、ラピッド? そうかお前、被害者が出ないようがんばってくれたんだな」
「そうなんだ。それなのに私ったら、ごめんね兎さん」
いいって事よ。ラピッドは胸を張ってえっへんする。
「で、竹子なんでうちにいるの?」
「あ、二日酔いの薬が欲しくて」
「そこの戸棚、一番下開けて右らへん」
「ええっと、ああ、あったあった。水も借りますね」
「返さなくていいよー」
竹の妖精は二日酔いの丸薬を一粒持って台所へ行った。
ホッと一安心したラピッドは生還したお友達にすり寄る。
「んっ、無事でよかった」
頭を撫でて応える妹紅。微笑みはとても優しい。
迅速に匹敵するほど尊い友情をひしひしと感じるほどに。
だから。
「生還を祝して豪勢にやるか。朝ご飯は生ニンジンだ」
ラピッドは首を振った。
横に。
「あ……あれ、足りないか? じゃあニンジンジュースもつけてやろう」
迅速に首を振る。
断固として首を振る。
横に振って拒否の意を示す。
「……どした?」
「あれ? 妹紅さん言葉分かんないんですか?」
薬を飲んだ竹の妖精が戻ってきた。
「言葉って、分かるの?」
「竹林の妖精なので兎語は多少分かりますよ。さっきまでは滅茶苦茶で早口だったからよく分かんなかったですけど」
「翻訳頼む」
「お任せー」
ラピッドは竹の妖精に抱っこされた。
翻訳とやらがなにを意味するのかよく分からないが、ともかく、キャーロットゥをいただく訳にはいかぬ理由を迅速に語る。
「ええっと、友情に殉ぜぬ我が身の恥は禊ぎまします。同じ重さの……愛人? 愛と友達、なのであるため、妹紅さんに報いるまでは我慢するまで致します」
「……んん? なんかよく分からんが、夢の中の事、気にしてる?」
「うーんと……そうみたいです」
少々怪しい翻訳ではあるが、ラピッドの意思は結構まともに伝達された。
この妖精に話すとなぜか妹紅も理解してくれるようだと察したラピッドはさらに主張を続ける。
「旅に出たい?」
「旅って、ラピッドが言ったのか?」
「ええ。えーっと、私は弱いので、妹紅さんの隣を飛べません。飛びますので、翼が鳥の妖怪は目指します。妖怪なりけりし日和は、一緒に夕焼け小焼けを飛んじゃってくれませい?」
「……ん、と、分からんでもないが、妖怪になりたいのか? 兎の妖獣?」
「迅速に旅立って、迅速に帰ってくるので、翼で飛ぶため、行かせてください。止めても行きます。死んでも行きます」
「死んでも……って、そこまで思い詰めなくても」
妹紅はちょっぴり呆れ顔。
しかし、妖精を通して言葉は通じても想いは通じぬだろうと直感したラピッドは真っ直ぐに妹紅の瞳を見つめた。
しばし、赤い瞳が見つめ合う。
――止めても無駄か。
――ああ無駄だ。
そんな声が、お互い聞こえた気が――した。
妹紅はため息をつき、肩を落とす。
「……分かった。行きたきゃ行け」
ラピッドは頭をぺこりと下げる。
その瞬間、世界が広がった気がした。
永遠亭を出た時には、世界は輝かしく自分を迎えてくれた気がした。
でも今は、険しい道のりが見えた気がした。
そう、鳥の妖怪になる道のりは険しい。
だが妹紅がやれたのだから、自分だってそれくらいやるのだやらねばならぬのだ。
兎から鳥に変じられると証明してくれた妹紅のためにも!
この驚愕の事実に気づいたのはつい先ほどの事である。
妹紅の出自が兎であると、気づいたのは。
説明しよう!
藤原妹紅は兎の出自である。
根拠のひとつに眼と毛の色が挙げられる。
ほうら、キャーロットゥのように赤い眼に、毛皮のように白い髪。
これは兎の特徴である!
なにせ紅白スタイル(品種:日本白色種、ジャパニーズホワイト)は古来(明治頃)より兎に伝わる日本伝統(ニュージーランドホワイト種から作られた)衣装なのだから。
さらに妹紅は鳥の翼を持っている。
つまり鳥でもある。
という事は。
兎=鳥!!
これはもはや明白。
疑いようのない事実。
その証拠がこちら。
――兎もかつては鳥と認識されてたのだぞ。
って慧音が言ってた!
つまり兎と鳥は同じルーツを持っている。
妹紅のお友達の人間が言うくらいだから間違いない。妹紅もちょくちょく「~って慧音が言ってた」って言うもん。
だが問題はいかにして兎から鳥へ、妖怪へ変じるか。
永遠亭を飛び出した時の無知な自分ならともかく、指針無く旅に出るほど今のラピッドは愚かではない。
つまり今は妖怪変化の手がかりを得ているのだ。
その手がかりがこちら。
――薬を盗むだけで飽き足らず。
って姫様が言ってた!
つまり妹紅は元々永遠亭の兎で、妖怪変化の薬を盗んで永遠亭を出奔。見事に鳥の妖怪へと進化し人型ボディとなったものの、その件で永遠亭と敵対し、今も姫様と殺し合っているのだろう。納得納得。
永遠亭を出奔した身なので表から堂々と薬をもらいに行く訳にはいかないが、永遠亭に忍び込むなり、永遠亭で妖怪化の薬をもらった奴を襲撃するなり、手はある。
誰かに頼んで妖怪化の薬を合法的にもらってきてもいい。だが、他者の手を借りるにしても、借りるための力は自分のものであるべきだ。妹紅に頼めば迅速に解決しそうな問題だが、己の力で果たしてこそ妹紅と対等の友人になれるというもの。
そしてラピッドは、妖怪化の薬を得るため頼れる相手を知っている!
――白い毛に赤い眼でそっくりだから生き別れの姉妹かなーって。
ってミスティア様が言ってた!
母の顔、姉妹の顔をしっかり覚えているラピッドは、これがちゃんとジョークだと理解している。さすがミスティア様だセンスのあるパンクジョークだぜ。しかもジョークに重大な手がかりがあるとは。
鳥の妹紅に対し、兎のラピッドを見て姉妹などとジョークを言ったのは、兎=鳥の裏づけと言えよう。
人間の慧音だけでなく、パンクソウルを持つミスティア様が仰るのだから、これもう疑いよう無いよね。確実に兎=鳥だよね。ミスティア様も元々は兎だったのかもしれない。
だとすれば、ミスティア様にお頼み申し上げれば妖怪化の薬を分けてもらえるのではないか?
もちろん偉大なるミスティア様のためご奉仕せねばならぬだろうが、それはむしろ望むところである。
あれ?
あれあれ?
広がった世界は険しい道のりな気がしたけど、全然そんな事はないかもしれない。
前途洋々だよ!
といった推理を経て、ラピッドの旅立ちの時は訪れた。
キャーロットゥをみずから禁じ、野菜屑だけの粗末な朝食を終え、玄関前に出て朝陽と爽やかなそよ風を浴びながら、二人に見送られる。
藤原妹紅と、成り行きで朝食を共にした竹の妖精に。
妹紅はまだ不安そうなので、ラピッドは安心させるように胸を張った。えっへん。
(うわぁ、不安――)
妹紅と妖精の感想がシンクロする。
あまりに不安なので、妹紅は頭のてっぺんの大きなリボンを解くと、ラピッドの左耳の付け根にきゅっと巻いてやった。
「餞別に上げる。これ着けてれば、多分、竹林で私と面識のある奴は襲ってこないと思うよ」
リボンのおかげで格好よさの増したラピッドは、きりっと誇らしげに微笑む。
オス兎がこの姿を見たら迅速に子作りへ移れるレベルだが、今は子作りより妖怪変化を優先だ。
なにせ妖怪変化を果たせば友情を果たせるのみならず、弾幕ごっこやパンクライブといった迅速な無駄という最高の贅沢を楽しめるのだから!
子作りだってやりたい放題の産みたい放題だ。
子供100羽できるかな、って感じだ。
子々孫々に囲まれる大家族ハーレムだって作れちゃうかもしれないよ!
そしたら家族全員で鳥獣伎楽のカバーバンドとかやれちゃうよ! 最高だねヤフー!
妄想にひたるラピッドを見て、ますます不安を増す妹紅と妖精。
こいつ旅立たせて本当に大丈夫か。明日の朝にはバッドエンド迎えてたりしないか。
今さらながら判断間違ったかなと妹紅は口をへの字にする。
するとラピッドはキラーンと瞳を輝かせた。
「別れに涙は似合わない、笑顔で挨拶はパンクだぜ、だそーです」
すかさず妖精翻訳が入るが、妹紅は別に泣いてない。
むしろラピッドの瞳が濡れていたりする。
なので視界もまた濡れており、視界の中の妹紅も濡れており、視界の中の妹紅の瞳も濡れているように見えるのである。
涙の別れ。いかにもお友達っぽくてラピッドは感動した。
「ああ分かった分かった。帰ったらニンジンフルコースご馳走してやるから元気出せ」
「迅速に妖怪になって帰ってくるってさ。目標は今日中だそーです」
「はえーよ」
一日で妖怪になれたら苦労はしない。
野生動物が人間や仙人なんかの肉を食べたりすれば一気に妖怪化できるけれども、兎だし。
動物や妖精の中には妖怪目指してがんばる奴も稀にいるけれど、実際妖怪変化を果たせるのは努力よりめぐり合わせの割合が強い。なんの努力もせずとも幸運や不運によって妖怪変化を果たしてしまうものである。という言葉を妹紅が飲み込んだ事にラピッドは気づかない。
ふいに風が吹き、さーっと竹の葉を鳴らした。
耳が痛むほどの静寂は、まるで幻想郷そのものに呼びかけられたかのよう。
その奇妙な感覚は妹紅と妖精も味わったようで、いぶかしげに竹林を見渡している。
旅立つ時は今。そう確信した。
ラピッドは背中を向けて迅速に歩き出す。
ぴょんぴょこぴょん、ぴょんぴょこぴょんと。
もう妹紅の姿は見えない。どんな表情をしているのかも分からない。
それでいい。どうせ、自分の瞳が濡れていて見えないから。
けど。
「またなラピッド」
できるだけ明るく健やかであるよう心がけた声が、後ろから聞こえて。
妹紅の笑顔が見えた気がした。
瞳からポロポロと涙がこぼれるのをもう止められない。
涙は惚れたオスのために取っておくのがメスの嗜み。
けれど友情のためならば泣いていいはずだ。
最高に恥ずかしい顔をしていると自覚した上で、ラピッドは飛びっきりの笑顔で振り向いた。
笑顔で挨拶はパンクだぜ。
だからラピッドはこう告げるのさ。
シーユーアゲイン!
――12時間後。
「ただーいまー!」
「どちら様」
「ラピッドラビットが妖怪変化して戻ってきたぜYahoo!」
「はえーよ」
玄関から出てきた妹紅は、なぜかがっくりとうなだれた。
どうしたのだろう? さみしい期間は短い方がいいはずだ。
迅速に帰還すれば絶対に喜ぶと思ったのにおかしいな。
妹紅は疑わしげに見つめてきた。
「ていうか、お前ホントにラピッドか」
「左耳を迅速に見よ」
「ああ、私のリボンが巻いてあるな」
ニッと笑うラピッドはまさしく妖怪と化し、その姿はミスティア様くらいの小柄な少女のものだった。
瞳と髪は当然ながら紅白さ。
紅白スタイル(品種:日本白色種、ジャパニーズホワイト)は古来(明治頃)より兎に伝わる日本伝統(ニュージーランドホワイト種から作られた)のカラーリングだからね!
真っ白でさらさらののショートヘアの上、元気いっぱいに伸びているのはラビットイヤー。兎耳って奴だ。左耳の付け根にはもちろん妹紅の紅白リボンが巻いてある。
やや釣り上がった眼差しはキャーロットゥのようなレッドだが、まだまだ半人前なのでウドンゲちゃんには及ばぬ色合いだ。妖怪化して改めてウドンゲちゃんってすごい奴だったんだなと気づいたりしたのさ。
小振りな唇はイタズラっぽく口角を上げてすまし顔。
服装はパンクファッションで統一されている。
素肌に直接着たレザーベストと、キュートなショートパンツはどちらも黒革。
しかもあちこちに鋲打ちされており、胸ポケットからは鎖なんかも垂れ下がっている。
ロングブーツに至るまで真っ黒だ。
剥き出しの腕は色白ながら健康さを感じられ、手首には『鳥獣伎楽LOVE』と刺繍のされたリストバンドを巻いていた。
それらを見せつけてから、ラピッドはその場でターン。
真っ赤な翼を見せびらかす。
黒いレザーベストの背中に刺繍された、真っ赤な翼が。
「へへっ。実は髪が長かったんだけどさ~、こいつ見せるのに邪魔だから迅速に切っちゃった」
「いや……髪は女の命だろ、もうちょい考えろ」
「翼がパンク! パンクが命さ!」
くるりと再びターン。藤原妹紅に向き直る。
「だから妹紅! 約束通りキャーロットゥのフルコースを迅速に用意しろ!」
「ああ……ラピッドだわこいつ」
急に納得した妹紅は、ますます表情を落ち込ませた……かと思いきや、くっくっくっと笑い出す。
笑いは次第に高まっていき、ついには天を仰いで大笑いする。
なんだかよく分からないが笑顔になってくれてよかった。ラピッドも迅速に大笑いを重ねる。
夕焼け小焼けの竹林で、友達同士で笑い合う。
「よーし分かったぁ! 約束通りニンジンのフルコースにしよう。せっかくだから竹子も誘うか。いやいやどうせならニンジン持ってミスティアの屋台にってのもいいな」
「おおう!? ミスティア様もご一緒するのなれば迅速に出発だ! 響子様は、響子様も来られるのか!?」
「ああ、響子も誘おう。人里にも寄らなきゃだから、ついでに八百屋さんでニンジン買ってって……慧音にも声かけよう。こないだ料理本でキャロットケーキの作り方を覚えたって言ってたし」
「キャーロットゥケーキ!? 迅速に誘うべし」
「うん。じゃあそんな感じの面子で、屋台でニンジンパーティーな。竹子には置き手紙でも書いときゃ気づくだろう。とりあえずうちにあるニンジン全部持ってくから手伝え」
「迅速に持ち出すぞ!」
こうして。
夕焼け小焼けを並んで飛ぶラピッドラビットと藤原妹紅。後者はキャーロットゥを包んで背負っている。
ひとつの夢が迅速に叶い、これからも叶えていくのだろう。
それにしても夢を叶えるのが早すぎる。12時間で妖怪化ってなにやったんだ。
と妹紅が訊ねてきたので、ラピッドは勝ち誇るように答えた。
「竹林で姫様がなんか包みを落とすの見かけて、拾って開けたら銀色の鱗で、柔らかくておいしそーな匂いしてて、喰って糞したら人型に進化した」
「よくやった」
ビシッと親指を立ててとてもいい笑顔をする妹紅。
食事前には不適切な汚い部分は聞かなかった事にした。
「ククククク……あのドラゴンは異次元七大美食で、その全身が極上の味わいと輝夜が言ってた。奴の鱗一枚剥ぐのに黄金竹林を焦土にするほど苦労して、夢の世界から特殊な儀式で持ち帰って食べやすく調理するのにも手間がかかるとか言ってたというのに、その成果を落として喰われるとは哀れな奴。これをネタに今日の酒は百倍おいしい。輝夜の不幸は蜜の味よ」
「妹紅の笑顔って邪悪ですてき」
並んで飛ぶラピッドは、いかにも妖怪らしいその笑顔を真似しようと唇を動かした。
が、どうやってもお気楽な笑顔しか作れない。
「うーん、迅速に妖怪になれたけど、まだまだだなぁ。ちゃんと兎から鳥の妖怪になりたかったのに」
「うん? 兎から鳥ってなに?」
「うん? 妹紅って兎から鳥の妖怪になったんでしょ?」
「……なにそれ」
「隠しても無駄だ! 私の迅速な推理で真実は迅速にお見通し!」
そんな感じで二人の夜は更けていく。
人里で売れ残りのキャーロットゥを安値でごっそり買い取って。
寺子屋で上白沢慧音を誘って。
命蓮寺で幽谷響子様をお誘いして。
人里と竹林の間くらいに出ていた八目鰻の屋台には、もう竹の妖精達も来ていて。
ミスティア様が歓迎してくれて。
みんなでキャーロットゥ料理をいっぱい作って、キャーロットゥジュースやお酒で乾杯!
さらにミスティア様と響子様のテンションが上がってその場で鳥獣伎楽のゲリラライブをスタートさ。
そしたら当然、鳥獣伎楽のファンだって集まってくるし、ファン以外も集まってくる。
響子様と同門の入道使いが般若湯目当てにやってきたり。
音楽好きの騒霊姉妹もいつの間にか現れて、一緒に演奏したり料理を手伝ったり。
ライブと違って神社の近くじゃないから騒がしくてもOKと巫女も来た。
気がつけば人見知りの河童が魔法使いと一緒に焼き八目鰻を頬張っていて。
妖精は竹林から、霧の湖から、魔法の森から、神社の近くからも、それぞれキノコや果物なんかを持ってきた。
鳥獣戯画の描かれた服を着た可愛らしい祟り神も、どこから嗅ぎつけたのかやってきて。
お昼頃にお弁当の鱗をちゃっかり落としてしまった姫様もお腹を空かせてやって来て。
そしたらやっぱり妹紅と喧嘩。
夜空を彩る花火のスペルをみんなで見上げて乾杯だ!
飲んで、食べて、歌って、踊って、騒いで、弾幕して、見物して、ピチュって、笑って。
妖怪も、人間も、妖精も、幽霊も、神様も。
あいつも、こいつも、そいつも、誰も彼も、輪になって踊ろう。
妖怪になったおかげで、無駄な時間を存分に楽しめる。
子作りの相手だって好きなだけ探せるし、お友達だって幾らでも作れる。
迅速を尊びながらも生き急ぐ必要は無く。
これからも楽しい日々をすごしていくだろう。
けれどまだまだ迅速さを妥協なんてしたりしない。
幻想郷にはまだまだたくさん楽しい事があるんだから!
ゆっくり楽しんでじゃ遊び尽くせないい、だからもっと迅速に楽しむのさ。
ラピッドラビットと幻想郷の仲間達に迅速あれ!
i"ヽ/"i
ヽ ハ /
(,, ^x^)<See You Again!!
まあ、アッパー系なのはいいんだけど、この長さでやられるとさすがに中盤くらいから食傷気味になる。せめて、この半分くらいの容量でまとめてほしかった。
迅速ちゃんのAAがめちゃキュートだったので30点プラスで。元気なのはいいことなんだねーわかるよー。
妹紅はどんどん友達増えてて楽しそうだなぁ。
あと、ナイトメア・オンラインでの冒険は、色々と想像が膨らみますね。
ナイステンポな作品でした。
吸血鬼ですら一人で戦えばノーフューチャーの邪神竜を相手に肉getしてくるとか姫様廃ゲーマーすぎw
これまでの貴方様の作品の中でかなりぶっ飛んでる方ですね
なにはともあれイエーイ!
これに尽きます
脆弱な存在のせいかメスとして生き急ごうとしたウサギと、人間にしたら強大な力のせいか
メスとしては余り生き急がず仙人的なライフを送っている魔理沙達。
最終的には見事妖怪化してこれからは永遠の少女的なライフを送れそうなウサギと、妖怪化しない限り、仙人的な少女ライフを捨て人間のメスとしての生をいつか始めなくてはならなそうな魔理沙達。なんかこのうさぎの子は色々と嫉妬されそうですね(ーー;)
あと寄り道しようとしてもしっかり生命の危機に晒され、しかしその結果妖怪ライフが手に入ったことも私にとっては印象深かったです。(最初の時点から危なかったですが)
ともかく面白かったです。
何でかわかんないけどラピッドが死にそうな予感がしてたので妖怪になれて良かった
妹紅はニンジン焼いただけの食生活とか…ブワッ
でも土爪で調理とか包丁いらずだなぁ
( ・x・)もっこすもかわいかった
(・x・)
( T)〈 勘違いするな、『乙』とはショーテルの事だ
( T)〈 カルチャーショックに寄る強烈な精神的成長が素晴らしく面白い良い作品だった
( T)〈 このテンションの高さも特筆に値する
テンションのキープは難しいからな
( T)〈 もう一度言う 素晴らしかったぞ
( T)〈 ダァイスンスーン
( T )
悪乗り失礼。
悪夢世界の元ネタは分からないけど、夢世界序盤の描写は静岡4ザ・部屋と、SIREN無印な感じでしたね。
……そうか、ラピッドは伝説の幼兵だったのか。納得。
みんな可愛くて、ほんわかして困らない。
イイネ。
勢いがあって力強くて、でも乙女で!かわいい!
……ラピッドが会った犬っぽいのはもしかしてティンダロス?
銀色の鱗、金色の瞳、十字の傷を持った竜って、ひょっとしなくても前作のあいつでしょwww
キャーロットゥが個人的にツボでしたw
だから白蓮様しばかないでください。