メディスン・メランコリーがマーガトロイド邸リビングのソファにて本を片手にお菓子をつまんでくつろいでいると、階上から慌しげな足音とアリスの声が響いた。
「メディ!私は漫画家になるわ!」
メディスンは手に持っていた漫画本と駆け下りてきたアリスとを見比べ、「そう」と呟いた。
それからひとしきり考え、咀嚼したビスケットを飲み下し、「正気?」とアリスの顔めがけて言い放った。
「もちろん正気だわ」
そう言ったアリスの表情は、メディスンには頭のおかしい病人に見えた。「私は七色の漫画家になります」
「ふうん、飽きたらその時すぐに教えてね」
「なぜ?」
「アリスが妙な事をやりだした時、何日でやめるか予想するのをマイブームにするの。一緒に始めましょう」
「失礼な」
言葉の意味を理解してアリスは渋面を見せたが、しかし次には余裕ありげに微笑んでメディスンに言った。
「私は大真面目よ。三日坊主などにはならない」
「だといいけど」メディスンはそう言ってまた自室へ引き返すアリスの背を見送った。
三時間後、メディスンは未だに晩御飯の用意を始めないアリスにしびれを切らし、階段を上って扉を叩いた。
「アリス、なにやってるの?」
幾ら呼びかけても反応は無い。一度何かに集中してしまうと時間も周りも忘れて没頭するのがアリスの悪い癖だ。メディスンは諦めて引き返し、お湯を沸かしてカップラーメンに注いだ。
「またいきなり、なんで漫画なのかしら」
砂時計をひっくり返して暇を持て余す間、メディスンはアリスの奇行の理由について少しばかり考えてみたが、どうやら答えは浮かばなかった。
翌日の朝、目覚めたメディスンはリビングに向かうと、ソファに伏して眠るアリスの姿を見つけた。
「うわっ。ちゃんと部屋で寝ればいいのに」
メディスンは自分がアリスのベッドを占領していたことを棚に上げた。そしてシャワーも浴びていないのか昨日見たままの服を皺にして静かに寝息をたてるアリスを起こしてやろうと近寄った。
床に投げ出された右手の辺りに紙の束が散らかっているのが見えたが、メディスンはとりあえずそれを無視し、アリスの耳元で声を出したり頭をはたいたりしてみた。
「おーい、起きなさいよお」
何度か耳を引っ張られ、ようやくアリスは顔を上げた。
「うーん?」
「おはよう」
「……ん」
ソファの継ぎ目の痕を頬に残した間抜けな顔でアリスは挨拶を返した。一息ついて起きあがり、無理な体勢が祟って痛む身体のあちこちを曲げ伸ばしている。
「えーと、どうしたんだったかしら。ああ、完成したからメディに見せようと下に降りて、そのままここで眠ってしまったのね」
アリスは丁寧に足元に散らばった紙をまとめ直し、きっちり揃えてメディスンに差し出した。
「なにこれ」
「昨日書いた漫画よ。七色の漫画家アリス・マーガトロイドの記念すべき第一歩といったところね」
メディスンの見慣れた本の形にはなっていなかったが、なるほどそれの中身は漫画と言っても間違いはなかった。
短い時間によくやるなあと呆れて声も出ず、うっかりそのまま受け取ってしまう。
「私に読めって?」
「是非感想を聞きたいわ」
寝起きであることも忘れてアリスはメディスンを期待の眼差しで見つめる。ひょいと渡してくれたが、なかなか枚数があり立ったまま気楽に読めるようなものではなさそうだ。
「とりあえずシャワー浴びてきたら?髪の毛すごいことになってる」
アリスは頷くと、人形をその場に浮かせて浴室へ向かった。魔力を込められた人形達はひとりでにキッチンを飛びまわり朝食を準備している。受け取った漫画を一旦テーブルの脇に置いて、メディスンはそれを見守った。
「さあ、早く読んで感想を聞かせて頂戴。さあさあ」
人形達の焼いたはちみつバターのパンケーキを食べ終わるやいなや待ち切れぬ調子で催促され、メディスンはちょっぴりうんざりしながらアリスの漫画を手に取った。
あんまり放っておくとうるさいのでとっとと済ませてしまうことにし、しばらくは紙がめくられる音だけが家の中で静かに響いていた。
最後の一枚を読み終えると、メディスンはふうと息を吐き目を瞬かせた。じっとメディスンの前で様子を窺っていたアリスがたまらず口を開く。
「で……どうだった」
「うーん」
メディスンはあまりこういった批評には慣れていない。アリスの家に沢山置いてある本を読んだって「おもしろかった」か「いまいちだった」くらいの言葉しか思い浮かばないのだ。
しかしアリス渾身の一作に対してまでおざなりな感想を投げるわけにはいかなかったので、メディスンはなんとか思ったことを具体的にしようと努力した。
そして一枚目に置かれている表紙を再度見て、「絵は上手よね、アリスは」と言った。
「ええ、そうでしょうとも」
どうやらアリスも絵には自信を持っていたらしく、謙遜することなく頷いた。表紙はもちろん、中身の人物から背景まで手ぬかりなく凝った書き込みがされている。短時間にここまで仕上げた事に対しては素直に賞賛も出た。
「でもさあ」メディスンは何枚かページを続けざまにめくった。
「やたらに絵が綺麗過ぎるせいで、読んでて疲れるのよね」
一番最初に思ったことはそれだった。
「あとセリフがぎちぎちで読みにくい。それとコマ割りが雑でどっち行けばいいのかわからない。ついでに話自体もなんだか意味わかんないしキャラクターがむかつく。おまけにこのヒロインが私そっくりなのは嫌がらせかなにか?全体的に言ったら正直つまんないです」
頑張ってみたら意外と出たのでメディスンは自分に驚いた。褒めるところが『絵が上手』くらいしかないこの作品にはもっと驚いた。アリスは打ちのめされていた。
「あー、でも、ほら。絵は上手だしこの短い時間でこれを書けたんだから、続ければきっと」
メディスンは『このヘボマンガに取られた私の時間を返せよ!』と言いたい気分ではあったが、初めての作品でこれならなかなかいいんじゃないかなと思ったのも事実だった。
「だからさ、アリス……」
「やめる」
「え?」
「やめるわ。私に漫画家は向いていなかったのよ」
言うが早いかアリスはメディスンの手にあった紙束をひったくり、破いて丸めてくずかごに放り込んでしまった。
「ちょっとお、まだ一日も経っていないわよ」
「飽きたからやめるんじゃないの。私に漫画家は無理だとわかったからこそやめるのよ」
その後アリスは漫画のことなどなかったかのように振舞い、メディスンもわざわざ蒸し返してやることも無いかと思ったので何も言わなかった。
ただ一度呆れたように溜息を吐いて、今となっては何の価値も無い紙切れの入ったくずかごを眺め、ちょっと言いすぎてしまったかなと後悔した。何しろ本当に絵だけは上手だったのだ。
その翌日。メディスンがソファに座って本を読みながら紅茶で喉を潤していると、階上から忙しげな足音とアリスの声が響いた。
「メディ!私は小説家になるわ!」
メディスンは読んでいた文庫本と駆け下りてきたアリスとを見比べ、「はあ」と呟いた。
それからちょっとばかり考え、紅茶の最後の一口を飲み干し、「またあ?」と胡散臭げに言い放った。
「今度ばかりは成功するわ」
そう言ったアリスの表情は、メディスンには精神を病んだ閉鎖病棟患者に見えた。「私は七色の小説家になります」
「ふうん、どうでもいいけど晩御飯はちゃんと用意しておいてね」
「カップラーメンがあるじゃない、信頼の魔界産カップラーメンが」
「一昨日食べちゃったわ」
「最近出た新味がそっちの棚に入ってるわよ」
メディスンが言われた棚を開けてみると、幻想郷ではまず手に入らないであろう様々なインスタント食品がぎっしり詰まっていた。
「本当だ」
「そういうわけだから」アリスはそれだけ言って自室へ向かった。今度はじっくり時間をかけて書いて欲しいものだとメディスンは思った。
三時間後、メディスンはやかんを火にかけて棚の中を物色した。
「ストロベリージャム味カップラーメン?あたまおかしいんじゃないの」
なんだかロクな物がないなと目を動かしていると、開いた戸の内側に紙が張り付けてあるのを見つけた。
“こういうのはたまに食べるからいいんだ、そんな何度もインスタントなんて嫌だと駄々をこねそうなあなたのために、カレーを作り置きしてあります”
鼻につく言い回しに眉をひそめながらも冷蔵庫を開けてみると、鍋が一帯を占領しているのが目立った。ハニートースト味カップラーメンよりはましだろうと思い、やかんを退かして火にかけ温めた。いつの間に作っていたのかは気にしない事にした。
ぐつぐつと鍋が煮え立ち、キッチンにカレーのよい香りが漂う頃になってからメディスンはようやくそれに気付いた。
「あいつ、ご飯を炊き忘れている」
翌日の朝、目覚めたメディスンはリビングに向かうと、ソファに横になって眠るアリスの姿を見つけた。
「ひょっとしてもう書いたのかしら」
とにかく起こしてやろうと近寄ると、またも床に投げ出された左手の辺りに紙の束が散らかっているのが見えた。メディスンは「うわあ」と顔をしかめて呟き、アリスの頭を数度叩いた。
「い、いたたた。あんまり強く叩かなくても起きるわよ」
何度かすぱんすぱんと小気味よい音を響かせてから、慌てたようにアリスは顔を上げた。
「なに?これは」
メディスンは足元の紙束を睨みつけた。アリスは笑みを浮かべた。
「私ほどの小説家にもなれば、一日と経たずに作品を書きあげることなどたやすいわ」
「小説家としては昨日始めたばっかのど素人じゃあないの?アリスは」
「一流はね、生まれた時から一流なのよ。例えば私の事よ」
わけのわからないことを言って起きあがり、アリスはシャワーを浴びて髪を乾かして朝食を作った。その席でメディスンは、ふと昨夜のことを思い出して文句を言った。
「アリス、昨日はお米を炊き忘れてたでしょ」
「あ、そうだったかもしれないわ。ごめんなさい」
「もう、しっかりしてよ。結局またカップラーメンを食べたのよ」
「え、何?カレーラーメン?」
「……その手があった」
変な匂いとケミカルな味と三分四十秒という微妙すぎる待ち時間を強要するけったいなラーメンも、スープを捨ててカレーに沈めてしまえばおいしかったかもしれないとメディスンは思った。しかし、ちょっと考えて、やっぱりそれはないなと考えを改めた。
朝食を食べ終えると、早速アリスはメディスンに書きたての小説の束を押し付けた。
「うへえ。なんだかめまいのする文字数」
メディスンはもう少し時間をおいてから読みたいと思ったが、そんな言い訳に聞く耳を持つアリスではない。ごね続ければ文字通り椅子に縛り付けて無理矢理にでも読ませようとするに違いなかったので、しぶしぶ紙を広げて文字を追った。
漫画のように流し読みもできないし、元々メディスンはそれほど文字だけの本は読まない。なんとか最後まで読み終え時計を見ると、すでに正午も近かった。
「お疲れね。そこまでの量じゃなかったと思うけど」
「んー、あんまり慣れてないし」
アリスはメディスンの前に腰を下ろすと、神妙に口を開いた。「それで、感想のほうは」
漫画を書いた時の反省を汲み、どんな酷評でも甘んじて受け入れようという謙虚な姿勢がそこにあった。メディスンも、ならばこちらだって遠慮しないで言いたい放題言ってやろうと思った。
メディスンは最初のページの数行を目で追い、「けっこう文章は読みやすいわよね」と言った。
アリスは「そうでしょうとも」と頷いた。本を読み慣れていない人々にも手に取ってもらおうと考えたのか、難解な言い回しなどは少なくメディスンでも辞書の力をほとんど借りずに読み進めることが出来た。
「でもさあ」メディスンは途中を無視して最後のページを開いた。
「正直話の中身は意味不明なのよね」
結局そういう感想になってしまった。
「読みやすいのにわけわかんないっていうのも器用なダメっぷりよね。結局これ主人公はどうなったの?死んだの?生きてるの?永遠に俺達の心の中で生きてるの?それともあいつはきっと生きてるさ的な感じで死んでるの?そもそもこの本の主人公はいったい誰だったのよ!」
読んでて頭がおかしくなりそうだったとメディスンは一言呟いた。アリスは深く考え込んでいた。
「……誰だったのかしらね」
「ほら、もう、勢いだけで書いてしまうからそうなる!」
メディスンは頭を抱えた。人に見せる前にまず一度自分で通して読んでみようとしなかったのかと詰め寄りそうになった。
しかし、人形劇の脚本などで書き慣れてはいるのか、文章自体は読みやすかったのだ。
「……まあ、でも、ストーリーさえ直せばきっと読めるようになるんじゃないの。何を目指してるかはしらないけど頑張ってみれば」
「やめる」
「は?」
「やめるわ。私には小説家も向いていなかったのよ」
アリスはそう言ってメディスンの手にあった紙束をひったくり、ちぎって裂いてくずかごに放り込んでしまった。
「そんなことばかり言ってると何にもできなくなるわよ」
「できないものを無理に続けていたって仕方がないわ」
アリスは肩を竦めて立ち上がり、仕込みの途中だった料理を完成させるためにキッチンへ戻っていった。
できないということはないだろうと思ったが、メディスンは何も言わなかった。どうせまたすぐに別の何かをやりたがるに違いなかったのだ。
その翌日。メディスンが机に本を広げながらうつらうつらと舟を漕いでいると、階上から届いたアリスの声で目を覚ました。
「メディ!私は画家になるわ!」
メディスンは広げていた花の画集とアリスとを見比べ、「ああ」と呟いた。
それから本を閉じて立ち上がると、「今度はそれなんだ」と言った。
「ふふふ、今度こそはね、自分でも『来た』と思うのよ」
そう言ったアリスの表情は、メディスンには脳をやられた薬物中毒者に見えた。「私は七色の画家になります」
「ふうん、まあ漫画や小説よりは向いてるんじゃないの」
「そうね、ああいう俗っぽいのはこの都会派たる私にはふさわしくなかったものね」
「ちょっとなにをいっているのか……」
「こればかりは私も本気で臨むわよ。それじゃあちょっと出かけてくるわね」
アリスはその足で玄関に向かった。風景画でも描くのかと思い、メディスンはそれを見送った。そして、絵なら作品を見るために取られる時間も少なく済むなと嬉しく思った。
二時間後、アリスは手ぶらで戻ってきた。
「おかえり。早かったね」
「ええ、まだ準備段階だから。道具はあるし、これから描き始めるわ」
はて、とメディスンは疑問に思った。道具もあるなら何の準備をしていたのだろう。ただの散歩か。
アリスは懐から小さな袋を取り出した。
「それは?」
「芸術家の必需品と言えるものね」
袋の中にはまたいくつもの小さな袋が入っていて、アリスはそれらを一つ一つ改めた。メディスンはそれを横で見ているうち、顔を引き攣らせた。
「このカラフルな色彩で安心感を与える錠剤を飲み、香り高い葉を詰めたパイプを吸い、食感が苦手なら粉末にしてもいいキノコをあぶって食し、素敵な雰囲気作りに貢献してくれるアロマを焚いて、仕上げにどことなく予防接種的な注射を一本ぷすりといれてできあがり。
するとあら不思議、そこに見えるのは間違いなくこの世界の真理だわ。それをこの眼で確かめ、他の誰にも真似できない絵を描きあげるのよ」
「だー!」
メディスンはそれらまとめて全部を掴んで、トイレにぶち込んで流してしまった。
「あー!な、何をするの。高かったのに!」
「ええい、うるさい。そんなに薬が飲みたければ精神安定剤でも飲んでいなさい」
メディスンはこんなこともあろうかと薬箱に睡眠薬を仕込んでいたのだ。それをさっと取り出してアリスの口にねじこんだ。効果はてきめんで、少しと経たずにアリスは眠りに落ちた。こうしてアリスの画家になる夢は潰えた。
「しまった、ちょっと効き目が強すぎたわ。今日の夕飯どうしよう」
メディスンは永遠亭に行き、永琳に「馬鹿につける薬はないのだからあんなものを渡さないでください」と文句を言った。
「まあ、あなたが止めてくれるだろうと思っていたからね」
「だったら最初から渡さないでよお」
「せっかくのお客様だもの。儲けさせてもらったわ、ほほほ」
アリスの財布がへこむだけならまあいいかと思って、話を打ち切った。ついでに晩御飯をごちそうになった。寝床も借りて、ぐっすり眠った。
朝になり、ちゃっかり朝食まで頂いてから永遠亭を後にしたメディスンがアリスの家に戻ると、ソファに腰掛け腕を組むアリスの姿があった。
アリスは言った。「二度寝していたら、夢を見たのよ」
「はあ」
「私が画家として大成して、幻想郷を飛び出し世界を股に掛けて活躍する夢だったわ。でも……結局夢だったのね」
立ち上がって伸びをすると、アリスは自分に言い聞かせるように静かな声で呟いた。「画家になるのは諦めるわ」
「まだなにもしていないじゃない」
「何をしたのか、するのか、しようとしたのか、そんなこと、今となってはどうでもいいことよ」
そして意味のわからない言葉で締めて、俯き加減に部屋の掃除を始めた。
まともな方法でアリスが描いた絵ならきっとなかなかのものだっただろうにと、メディスンは残念に思った。
その翌日。メディスンがサターンパッドを握りしめAB炙りの必要性について頭を悩ませていると、階上から慌しげな足音とアリスの声が響いた。
「メディ!私はシューティングゲームを作るわ!」
メディスンの操るシルバーガン1号機は被弾し爆発した。「わー!繋がってるときに話しかけないでよ、まったく……」
それからサターンの電源を落としてメディスンは言った。「よっぽどのことでもない限り、今時シューティングゲームなんて作っても売れないらしいわよ」
「売れる売れないの問題ではないの。愛があるから作るのよ」
そう言ったアリスの表情は、メディスンには現実から目をそむける懐古主義者に見えた。「私は七色のシューターになります」
「シューターだとプレイヤーのほうになっちゃうんじゃないの」
「あら、一プレイヤーとしての姿勢を忘れた作者に面白いゲームは作れないわ」
「はあ。そういうもんなんだ」
「どうでもよさそうね、メディ……」
だって実際にどうでもいいしとは言わなかったが、メディスンはアリスに胡乱な眼差しを向けた。
「何から何まで一人でできちゃいそうではあるから、確かにゲームはぴったりかもしれないけどさあ」
「けど、なによ?」
「アリスの作るシューティングって、オプションの細かーい制御とか、暗記必須の初見殺し攻勢とか、やたらとっつきにくい稼ぎシステムとか、いいはいいんだけど浮いてる音楽とか、演出が派手すぎて画面が見にくくなったりとか、むつかしくてワケわかんないシナリオとか……そういうのばっかりになりそうだもの。シンプルが一番よ」
どうやら思うところがあったようで、アリスはその言葉に深く頷くとゆっくり階段を上り姿を消した。
三時間後、突然マーガトロイド亭を大きな破裂音と揺れが襲った。
「あー!」
騒音自体はすぐに収まったが、メディスンの操る自機は爆散し海の藻屑と消えた。「抱え落ちした。もうだめだ」
ゲームオーバーになる前に電源を切って、文句を言ってやろうとアリスの部屋の扉を開けた。
「ちょっと、今のはいったいなんなの?……うわあ」
メディスンを迎えたのは、あちこちに何かの残骸が散らばった悲惨な部屋と真っ黒焦げになったアリスだった。
「ああ、メディ……」アリスは咳き込みながら口を開いた。「実はね、ボムについて考えていたのだけど」
「はあ」メディスンは呆気にとられた表情で言った。「ボム……ボム?あのボム?」
アリスは頷いた。「どんなボムにしようか迷って、だったら実物を作って試してみたら早いかな、と」
そしたら誤爆してしまったのだとアリスは言う。
メディスンは呆れた様子で顔をそむけた。「なんで実物を作ろうなんて発想が生まれるの?しっかりしてよ、まったく」それから扉を閉めようとした。
「あ、待って」
「なによ?」
「縦スクロール視点と横スクロール視点、どっちがいいかしら。今でも迷ってるのよ」
「右ナナメ後方。ビューポイント視点」アリスは嫌そうな顔をした。「だったら自分で決めてよね」
「ボムを入れるなら、やっぱり縦かしら」
メディスンは扉を閉めた。
数分後、またも大きな破裂音と揺れに襲われメディスンは抱え落ちした。
この調子ではまともなゲームは期待できそうにないぞと思い、メディスンは溜息を吐いた。それからゲームはやめてカレーを温め炊きたてのご飯と一緒においしく食べた。
翌日の朝、目覚めたメディスンはリビングを見渡した。そこには誰もいなかった。
「まだ部屋にいるのかしら」
メディスンが天井を見上げてアリスを呼びに行くべきか迷っていると、玄関扉の開く音がした。振り向いたメディスンは全身を土と煤と焦げ跡で汚したアリスの姿を見た。
「いったいどうしたの?」
また何か爆発させたかと訝しむメディスンを無視してアリスは「おはよう。早速で悪いけど一緒に来てちょうだい」とだけ言い、また玄関へ戻って行った。
仕方が無いのでメディスンはその後を追った。
「こっちよ、こっち」
アリスは玄関を出ると壁伝いに家の裏へと向かい、メディスンを急かした。小走りに並んだメディスンはアリスの顔も見ずにぶつぶつ文句を言った。
「なんだってのよ、も、う?」
アリスの家の裏に突如現れた物体を目の当たりにしてメディスンは閉口した。アリスは『自分でも不可解だ』と言わんばかりの表情をしながらその前に立った。
「シューティングゲームを作っていたはずが、なぜやらSTGの自機的なものを作りあげてしまったわ」
そして唖然としているメディスンをよそに淡々と説明を始めた。
「G2-4、高空機動試作戦闘爆撃機『ゴリアテジェネレーション』よ。もちろん数多の例にならって単機での敵陣突貫作戦への運用を前提に作られているわ。キャッチコピーは『全ての弾幕ごっこを過去にする』」
これは元々ゲーム用に考えたキャッチコピーなんだけど、とアリスはどうでもいいことを付け足した。
「メディの助言に従って、操作は8方向レバー+2ボタンの単純なものにしたわ。低速移動も無しのセミオートショットと速攻性のボンバーね。連射装置も付けると3ボタンになるかしら」
「ちょっと待って、待って、アリス。私はそんなチュートリアルを聞きたいんじゃないのよ」
「このあとシンプル故に深いスコア倍率システムの説明が……」
メディスンはとめどなく続く言葉を一旦切らせて、ひたすら深呼吸を繰り返した。
アリスはその間にさっとゴリアテに飛び乗るとヘルメットを被りゴーグルとベルトを身に着け、キャノピーを閉じた。
「そうね、説明するより、実際に見てもらったほうが早いわよね」
そういう問題ではないとメディスンは声を張り上げたが、どうやら届いていないようだ。
アリスの声はスピーカーを通して辺りに響き、朝靄の中にいた鳥や動物や妖精や普通の魔法使いなどの森の住民達を驚かせた。
ゴリアテは二対のバーニアを吹かせ熱風を撒き散らす。騒音に耳を塞いだ。このまま前進を始めるとアリスの家に衝突するのではとメディスンは危惧したが、どういう理屈か加速もせずにそのままふわりと浮き上がった。
「やっぱり母艦も作るべきだったかしら。これは個人的な意見だけど、やっぱり出撃シーンは欲しいわよね。いやでもあんまり長いとイライラするし、かといって飛ばせるようにしちゃうとBGMとズレが起きるし……」
スピーカー越しに一方的な独り言をぶつけるアリスの機体は上昇を続け、空を仰がなければ見えないほどになった。メディスンはそれでも懸命に叫び続けたが、うなりを上げるエンジン音にかき消されてしまった。
ゴリアテは空に浮かんだままくるりと方向転換し、ノイズ混じりの声がメディスンに届いた。
「メディ。ちょっと弾幕ごっこをやってみましょうよ!」
アリスはなんてことない調子でそう言って、エンジンを更に吹かせて宙返りをしたり、向きと高度を固定したまま前後左右にカクカク動いたりして遊んでいる。メディスンは叫んだ。
「絶対に嫌よ!」
しかし聞こえていないようだ。
ゴリアテの両翼には立派なガトリング砲が備え付けられている。アリスが魔道戦闘機用に開発した20mm凝縮魔力弾機銃である。そんなものに撃たれてはたまらないので、メディスンは森に隠れながらの地道な対空弾幕で戦うことに決めた。
「ああもう、なんだってこんなことに」
走りながら曖昧に狙いをつけて、木々の合間から弾幕を放つ。アリスは森の中から放たれた第一波に機敏に反応し、距離を取ろうと更なる上昇を始めた。
しかし、避けきれなかった米弾の一発がゴリアテの尾翼を捕らえた。するとゴリアテは派手なエフェクトと共に大きく耳をつんざくような効果音を響かせ、爆散した。
「えっ……えっ?」
思わずメディスンは足を止めた。いくら目を凝らしてみようが、空の中にはもうゴリアテの影も形も無かった。
メディスンはしばらくその場に立ちつくした。そのうち枝葉を掻き分け何かが目の前に落ちてきた。黒コゲになったアリスだった。
「あ、アリス!」
メディスンが揺り起こすと、アリスはぐったりしたまま重々しく口を開いた。
「しまった……当たり判定の調節をしていなかったわ。それに残機もなかったし……」
「そういう問題なの!?ねえ、アリス!」
「メディ。私には、シューティングゲームを作ることもやはり……無理だったみたいね……」
アリスはよろめきながらも起きあがった。メディスンは手を貸そうとしたが、アリスは首を振ってそれを断り、覚束ない足取りで一人で家に向かい歩いて行った。
メディスンは目の端に何かが映ったような気がして振り返った。アリスの倒れていた場所に丁度あったそれを拾い上げると、真っ二つになった一枚のCD-ロムであることが分かった。
アリスの服から落ちたもののようだった。表にサインペンでタイトルらしき文字を書いていたようだが、溶けて読めなくなっていた。
割れて二度と読みこめなくなったデータディスクをメディスンはしばし悲しげな眼で見つめていたが、それから丁重に扱うでもなくポケットにしまうとアリスを追って歩きだした。
家に戻り、傷の手当てをし、ボロボロになった服を修繕し、遅めの朝食兼早めの昼食を取って、落ちつき無く部屋の中をうろうろと歩き回ってから、アリスは椅子に座りテーブルに肘をついて頭を抱えた。
「もうだめだわ。何もやる気が起きない。私はだめな妖怪くずれだった」
腕の間からぼそぼそと呻くような声が聞こえた。四度夢に破れ、とうとうアリスの心は折れてしまったようだ。
もうこうなったら森のお菓子屋さんとして生きていく他無いなどとぶつぶつ言っている。
メディスンはそれを横目で眺めると、溜息を吐いて紅茶のカップを手に取った。どうせまたすぐに立ち直ってよからぬことを始めるに違いないと決めつけていたが、どうやら今回は勝手が違うようにも思えた。
「ああ、もうだめだわ。おしまいよ。私には才能がなかった。何をやっても長続きしない。だったらもういいかもしれない。このまま他の妖怪同様に自堕落に過ごすのも楽しいかもしれない。魔界に帰って、なにもかも忘れて甘えて過ごすのもいいかもしれない。それとも、夢子さんの元でメイドの勉強をもう一度始めてみようかしら。ああ、あれやってこれやってと言われるがままに無心で働き続けるのは、ある意味とても楽なことかもしれない……」
「なんかいろいろ言ってるけどさあ」メディスンは紅茶のカップを置き、アリスのぼやきを無視して言った。「自律人形を作るっていうのはどうしたのよ?」
アリスは突然椅子を蹴って立ち上がった。メディスンは椅子に座ったままぎくりとのけぞりひっくり返って頭を打った。
「そうよ」深く自分の心に言い聞かせるように呟いた。「私は人形遣いだったのよ」
そしてぐるりと部屋の中の人形達を見渡した。メディスンは頭を押さえ悶絶していた。
「私は自律人形を作りたかったのよ!」
拳を握りしめ、天井に向かって喉を振り絞り叫んだ。メディスンは頭をさすり起きあがった。
「でも、なにをやったって駄目だった。もうどうしていいのかわからない。だから私は諦めたのよ……人形のことは忘れて、新しい道を見つけるはずだったのに」
アリスはまた深く椅子に腰かけて、項垂れた。「結局それもみんな駄目だったわ」
スランプ。ここ最近アリスの奇行の理由はこの一語で全ての説明がつくのだった。しかしメディスンは「アリスがおかしいのは元からだったよなあ」と思っていた。
「自律人形の研究が上手くいかないのなんていつものことだったじゃない」メディスンはアリスを慰めるつもりで口を開いた。「なんで今になってそんな荒れてるのよ?」
アリスはかぶりを振った。
「もうほんとうに詰みの状態なのよ。にっちもさっちもいかなくなってしまった……いったいなんなの、自律人形って?」
メディスンは答えに詰まった。
「そもそも人形が勝手に動くってどういう理屈なわけよ?心ってなに?生きてるとは?私が魔法使いになったのは自律人形のために何か意味があったのかしら!あー、もううんざりだわ!」
アリスは椅子を吹っ飛ばして立ち上がり、タンスの角に頭突きをかまし、すぐ横の窓を蹴り破って、近くの人形を一体むんずと掴むと振りかぶって鋭いサイドスローでそこから投げ放ち、爆発と共に向かいに立っている木の一本を粉々にした。
珍しく本気で頭にきている様子のアリスに、メディスンはようやく事の重大さを理解した。このままでは本当に人形遣いをやめてしまうかもしれない。
しかしゼエゼエと息を荒げるアリスにどう声をかければいいかもわからず、メディスンはしばらく黙っていた。そのうちアリスはふらふらと窓際を離れると床の上に仰向けにひっくり返り、見るともなく天井を見つめ、ぼそぼそ喋り始めた。
「もう、どうしようっていうのよ……?」
メディスンはその横にしゃがみこんだ。アリスの声は途切れがちになりながらも続いた。
「私にはやるべきことがあるのよ。幻想郷はいいところだけど、日々を自堕落好き勝手に生きるぐーたら妖怪の仲間入りなんてするもんですか……」
好き放題にやってる筆頭の奴が何を言うかとメディスンは思ったが、今は黙っていることにした。
「疲れているのよ……少し休んだら」
「休んでいる暇なんてないわ。だって私は、私は……そうよ、人形遣いなのよ。だから、だから……自律人形を作らないといけないの。でも、どうすればいいのか……」
アリスはそのままメディスンに背を向けるように転がった。
「やっぱり、私には人形遣い以外の道なんて無いんだわ……でもそうしたら……だったら私は、これからどうすればいいのよ……?」
「別に焦る必要はないんじゃないの、もっとゆっくり、時間をかけて完成するようにしたって……」
それからしばらくアリスは何も喋らなかった。メディスンも黙っていた。
ゆっくりと傾く陽射しが部屋を照らし始めて、ようやくまたころりと転がってアリスは顔を見せた。
「少し落ちついた?」
「ええ……」
アリスは立ち上がると服のあちこちを丹念に手ではたいた。
「おでこ、アザになってるわよ」
「あら、なんだか痛いと思った」
タンスに強くぶつけ過ぎてしまったのだ。アリスはハンカチを濡らすと額に当てた。
「それで、冷静になったついでに考えてみたのよ。自律人形を生み出す方法を」
「ふうん?」
「そう、つまり……私が人形の女の子と結婚して子供を産んだ場合、単純に考えればその子は自律人形であるはずなのでは、ということなのよ」
「……うん?」
打ちどころが悪かったのではないかとメディスンは心配になった。
「ん、あれ、これは。自分でもほとんどやけくそに近い、思いつきに浮かんだ考えだったけど……これって、ひょっとしてものすごい革新的なアイデアなんじゃないかしら」
「ええと、アリス、そのう、どこからなんてツッコんだらいいのか……やっぱり疲れてるのよ。眠ったほうがいいわ」
メディスンは服をつまんでベッドに引っ張ってやろうとしたが、アリスは最早他人の話を聞ける状態ではなかった。
「これよ!これだわ!」
先程までの陰鬱な気配を微塵も残さず吹き飛ばし、今のアリスは意気満ち溢れた創作者の鑑である。今にも走り出して玄関を飛び出んばかりであり、実際そうした。
「メディ!ちょっと出かけてくるわね……朝帰りの可能性もなきにしもあらずと思っておいてね!」
それだけ言って家を駆け出し森を飛び出し、夕焼けの彼方へと消えていった。
メディスンは何か言う暇も与えられず呆然としたままその背を見送った。それから考えたのは壊れた玄関ドアの修理のことに今日の夕食のこと、「いくら言ってもアリスが私の事を自律人形だとは信じてくれてなくてよかった」ということだった。
そのうち『幻想郷にも自律人形なんていません』と気付けばすぐに戻ってくるだろうと思っていたメディスンの意に反して、アリスは夜になっても帰ってこなかった。
「まさかほんとに相手を見つけて?いやいや、まさかあ」
メディスンはそう気楽に考えて、カップラーメンを食べたり漫画を読んだりシューティングゲームをやったりして時間を潰していたが、それでもまだ帰ってこないとなるといよいよ心配で落ちつかなくなってきた。
「……やっぱり、探しに行こう」
アリスが脅迫や誘拐や婦女暴行その他の罪で三途の川送りにされる前になんとか止めてやらねばとメディスンは思った。
今でさえアリスの生活、及び趣味活動の大半はグレーゾーンを果敢に踏み越えてしまっているのに、現行犯で何かやらかしでもすれば釈明の余地なく一巻の終わりである。
無残に蹴破られたドアをそのままにして、メディスンは外に出た。陽が落ちてから幾分過ぎ、当然辺りは真っ暗だ。
ただでさえ夜間の一人歩きは気が進まないものであるのに、それが森の中となると尚更だったが、メディスンは「夜の森が怖いだなんて、子供じゃあるまいし」と自分に言い聞かせてアリスの家に背を向けた。
動く人影を見れば弾を撃たずにいられない類のわんぱく妖精達をあしらいつつ、先へ進む。
「暗くて見づらいそんなとき、作ってよかったホーミング弾っと……そういえばアリスのやつ、ホーミングレーザーは大好きなくせになぜだか自動追尾弾を異様なほど毛嫌いしてたわね……でも誘導ミサイルとかは好きそう。わけわかんない」
それからメディスンは夜闇を歩く不安を誤魔化すように独り言をつぶやき続けたが、だいたいどれも途中からアリスへの文句になった。
のろのろと魔法の森を歩くメディスンは、遠目に木々の合間から漏れる光があることに気付いた。一体それが何なのか見当もつかなかったが、魔法の森と呼ばれているくらいだし光る花を咲かせる木くらいはあっても不思議じゃないなとメディスンは思った。
気にしないのが一番、それよりアリスのことだと頭を振ったが、メディスンは自分でも気付かぬうちにその光の方へと向かって歩く道を変えてしまっていた。
近付くにつれてその光源はいくつかの木に取りつけてられて、一方に向けて何かを照らしていることがわかった。その何かというのは二つあってどうやら人の形をしているようであり、ついでにもっとはっきり言うならそのうち一つはアリスだった。
「なあにをしているのよ、アレは?」
明るいランプに照らされながら突っ立ってぼんやりしているアリスに、メディスンははっきり相手の顔が見えるくらいまで近づくと声をかけた。
「アリス。こんなところでなにしてるのよ」
「ん。あら、メディ」アリスはゆっくりと振り向いた。「今日は鈴蘭畑に戻るのかしら」
「わざわざ探しに来てやったんじゃないの。こんな森のはじっこでぼーっとしてるくらいなら早く帰ってくればよかったのに」
それからメディスンはアリスの隣に立つ人の背丈ほどの物体を見て、「で、なんなの。これ」と言った。
アリスは腕を組み大仰に頷いた。「それを話すと長くなるわ」
「じゃあ、いい」
「……短くするから聞いてくれると嬉しいわ」
アリスは一つ咳払いをして、語り始めた。
「私はこれ以上はないであろう自律人形を生み出すための革新的アイデアを胸に森を走っていたのだけど……ほんの少し時間をおいてちょっと冷静になった頭でもう一度考え直してみたの。そうしたら、両手じゃ抱えきれないほどの問題がわんさと溢れてきたわ」
そうだろうね、とメディスンは呟いた。
「私はものすごく落胆して、歩く気力も失せてこのあたりでぼんやりしていたの。そしてここの木に寄りかかった時、またしても突然思い至ったわ。『そうだ、彫刻家になろう』と」
「なんでいきなり彫刻家なわけよ?いや、それを言ったら今までのぜんぶそうだけど」
「さあ、そのあたりはひらめきの神様にでも聞いてちょうだい。……で、その場にあった道具をなんとかやりくりして作り上げたのがこの『一分の七スケール木彫り上海人形』よ。七色の彫刻家デビュー作としてはなかなかの出来であると自負しているわ」
メディスンは自分の背丈より大きなその木造彫刻をよく眺めてみた。言われてみればアリスがよく連れ回す上海人形に似ていなくもないような気がしてくるが、アリスの人形どれも同じに見えるので自信がない。しかし装飾の細かさはもちろん手触りもただの木とはわからないほど滑らかで、とても家を飛び出した勢いで作った物とは思えなかった。
「確かによくできてる」
「でしょう?」
「でも、『イチブンノナナ』ってくどい言いまわしのネーミングはどうかと思うわ」
「……だったら『七倍木彫り上海人形』とでも呼べばいいじゃない」
拗ねたような口調でそう返したアリスは「それはどうでもいいのよ」と気を取り直し、メディスンに尋ねた。「で、私は彫刻家としてやっていけると思う?」
「うーん、やっていけなくはないと思うけどさあ」
「けど?」
「あんまりやってることが変わってないんじゃないかしら、人形遣いの時と」
「確かに」アリスは言われて初めて気付いたような顔をした。「これでは作る人形の材質が変わっただけと言えなくもない」
「それじゃあ」メディスンは答えのわかりきった質問をした。「これから人形っぽくない彫刻でも作るのかしら」
アリスは首を振った。
「やめるわ。私には彫刻家なんて向いていなかったのよ。もう帰りましょう」そう言って後片付けを始めた。
「ああ、そう。だろうと思った。この木彫りシャンハイはどうするの」
「んー、捨てるには惜しい気がするし、持って帰ろうかしら」
アリスは人形を山ほど取りだして木彫りの上海を囲み、持ち上げさせた。
それを見てメディスンは言った。
「ねえ、その彫刻を人形みたいに動かして持って行けばいいんじゃないの。なんでわざわざ」
アリスは肩を竦めた。「ばかねえ、ただの彫像が動くわけないじゃない」
「……えっ、今なんて?」
二人はランプを持った人形の後について、夜の森を並んで歩いた。
「やっぱり、人形遣いよりは向いてるような気がするわ。彫刻家のほうが」
ランプの光を頼りにせずともアリスの家の輪郭がかろうじて見えるようになった頃、アリスは人形に運ばせている自作の彫刻を見ながらふいに言った。
「まだ未練が残っていたの?」メディスンは目を丸くした。「諦めのよさまで失くしたら、もうアリスに褒めるとこなんて残ってないじゃない」
「ひどい言われよう。一つもってことは無いでしょう……」
「例えば?」
「顔とか。スタイルとか。あと、顔とか」
「あんまりそういうこと自分で言うと嫌われるわよ、アリス」
メディスンはアリスの顔を見ずにそれだけ言って先に家に入ろうとしたが、玄関の前で足を引っかけ転びそうになり悪態をついた。
「うわっ。なんなのよ」
蹴り飛ばしてしまった何かを探して暗闇の中目を凝らして見ると、出がけにアリスが壊してそのままの玄関ドアのようだった。
「あら、そういえばほったらかしだったわね」
アリスはランプに再び明かりを点けると人形を操り、倉庫に置いてある予備の扉を取り付け残骸を片づけた。何度もこなしてきた仕事なだけに手慣れたものだった。
メディスンは足元の木片の一つを拾い上げると言った。
「やっぱりアリスには人形遣いのほうが向いてるわよ」
「そうなのかしら」
「ほら、彫刻家なら扉にできるのはせいぜい模様なんかを彫ることくらいだけど、人形遣いならこうやって簡単に修理したり新しい扉を作ったりできるじゃない。こっちのほうが絶対いいって」
しかし口にしてから果たしてこれは本当に人形遣いの仕事の内なのだろうか、とメディスンは自分の言葉にちょっとどころではない疑問を持ったが、アリスは「言われてみればそうかもしれない」と納得した様子なので気にしないことにした。
「つまりこの一分の七スケール木彫り上海人形が、七色の彫刻家アリス・マーガトロイドの初作品にして遺作になるというわけね。そう考えると捨てちゃった漫画や小説も勿体なく思えてきたわ」
「いや、あれは本当につまらなかったから別にいらないんじゃないかな」
「……そう。メディがそう言うならきっとそうなんでしょうね」
気落ちした様子でアリスは家の中へと木彫り上海を運び入れた。
「どこに置くのよ、これ」
「ううん、とりあえず玄関で。奥に入れる前にはちゃんと綺麗にしないといけないし」
それから二人は家に入ろうとしたが、扉をくぐるとすぐに鉢合わせる一分の七スケール木彫り上海人形はかなり通行の妨げになった。
その翌日。メディスンがソファに座って何をするでもなくぼんやりしていると、階上から慌しげな足音とアリスの声が響いた。
「メディ!私はやっぱり人形遣いになるわ!」
メディスンは億劫そうに視線を向けると言った。「もうなってるじゃない」
アリスは頷いた。「それはまあ、そうだけど。これからは改めて人形遣いとしての道を究めようと思ったとか、そういう意味よ」
「だったら別にいちいち言いに来なくてもいいよお」
メディスンは面倒臭げな口調を隠そうともしなかったが、やはりアリスは人の話を聞かなかった。
「言葉にしないと伝わらない想いってあるわよね」
「あー、はいはい」
それからアリスは楽しげに鼻歌を口ずさみながら針と布を持って人形に着せる服の製作を始めた。
その様子を黙って眺めるメディスンは、「これでしばらくは大人しくなってくれるといいけど」なんてありえないことを願った。
「せめて二つ三つくらいに趣味は絞るべきだわ。ただでさえ人形遣いだ魔法使いだとわけわかんないのに」
そしてこれからは遊んでばかりいないで、もっと世のため人のため私のためになる実益重視のことをやるべきだと思った。人形とか、人形とか、料理とか、人形とかだ。
それから数十分後、メディスンは飲み物を取りに一旦席を離れた。喉を潤し、渡したコップを洗ってくれた人形にお礼を言ってリビングへと戻ると、針を筆に持ち替えたアリスが真っ白のカンバスを前に立っていた。
「『人形遣いとしての道を究める』とかなんとか言ってからいくらも経ってないわよ!」
メディスンは憤慨した。数分前の自分はやはりバカだったと思った。
「気分転換よ、気分転換。人形遣いたるもの絵の一つも描けなければならないわ。メディ、モデルになってくれないかしら」
「えっ、絶対嫌だ」
「つれないわね、まったく」
アリスはそれだけ聞くと大きな肩かけ鞄に道具をまとめ、カンバスを人形に運ばせて家を出ていこうとした。
「どこいくの?」
「誰か暇そうな奴でも探しに行くわ。なんとなく人物画の気分なの」
「ふうん。いってらっしゃい」
メディスンはぷらぷらと手を振って見送った。アリスはそれに振り向くと「夕方くらいにはうあいたっ」と意味のわからない事を言った。
それからドタドタと転げたような慌しい音がした。目を逸らした合間に玄関に置きっぱなしの木彫り上海とぶつかったらしかった。
アリスは先刻言った通り夕方頃に戻ってきた。
「あれっ、絵を描いてきたんじゃないの」
出がけには持っていたはずの大きな白いカンバスがどこにも見えないのを訝って、メディスンは尋ねた。
アリスは疲れ切った様子で肩を落として、「いろいろあってね」と言った。
「はあ。いろいろ」
「ええ。いろいろ」
メディスンは言った。
「どうせ、外に出たはいいけど急にやる気無くなって面倒になったからやめたとかそんなんでしょう」
アリスは目に見えて狼狽し、声を詰まらせた。「な、なぜそれを……」
「ゴミを外にポイ捨てしてはないでしょうね?あの絵を描くやつのことよ」
「カンバス?それなら弾幕ごっこに使ったらコナゴナに壊れちゃったわ」
「……なるほど。いろいろあったっていうのはほんとらしい」
アリスは鞄を投げ出し人形に運ばせ、ソファに腰を下ろした。それから新たに取りだした人形を操って紅茶を淹れさせた。
「やっぱり絵はシラフで描けるものじゃないわね。難しいわ」
「だからって、また変なクスリに手を出したりしないでよ」メディスンもアリスの向かいに座った。
「あー、ええ、それはもう。それに私、どちらかといえば自分で使うよりも仕入れてサバくほうが性に合ってるのよね」
「……やらないでよ?」
メディスンはそれを横目に睨んだ。
「ふ、私は都会派なのよ」
妙な言葉で誤魔化して、アリスは立ち上がった。
カップを片付け、キッチンのあちこちをうろついたり冷蔵庫を開け閉めしたりと忙しく動いているアリスが言った。
「しかし、まだ私の中に発散しきれなかった創作意欲が燻っている気がする。今日のディナーは気合入れるわよ」
「わあい、一生燻ったまんまでいてくれたらいいのに」
しかしあまりにも気合を入れすぎた為か、和洋中からデザートまでの様々な皿はテーブル一つに載せきれないほどの数にまで及んだ。
何に取り憑かれているのかアリスは「ちょっと作りすぎかしら」などと言いながらも包丁を握る手を休めない。メディスンの必死の制止も人形を操るアリスの手数にはまったく歯が立たなかった。
「ふう、材料を全部使い切ってしまったわ。気合が入りすぎるのも困りものね」
「……うっわあ」
そして出来上がったのは文字通りの山だった。アリスは全く反省の様子を見せずやりきった表情すらしている。
当然二人だけで食べきれるはずもなく、アリスは人形を使って森に住む妖精や妖怪や普通の魔法使いなどを片っ端から拉致し、連れてきたそばから無理矢理に料理を口に突っ込んでなんとか全ての皿を空けた。食事が暴力になることもあるのかと客人達は戦慄した。
皿の山を切り倒す作業に少なからず協力して最早喋る気力すら残っていないメディスンは、「そういえば私の身体には胃袋その他の器官は無いはずだけど大丈夫なんだろうか」などと考えながら、てきぱきと大量の洗い物を片付けるアリスの背中を眺めていた。
カレーの海に溺れ、スパゲティの竜巻に呑まれ、揚げ物の山に埋もれ、煮えたぎる味噌汁と極寒シャーベットの地獄を潜り抜け、迫る緑黄色野菜兵団を魚の小骨ランチャーでなぎ倒し、果物航空艦隊の種爆弾攻撃をピッツァ・シールドで耐え忍び、ツナ=フレーク大佐率いる缶詰・レトルト・インスタント連合との全面戦争を目前に控えたその時、天ぷら油に滑って転んで杏仁豆腐の崩れた豆腐の角に頭をぶつけて死ぬ、という一連の意味不明な悪夢からメディスンは目覚めた。
「ふっ、この程度。アリスのやることなすことのほうがよっぽど意味わかんないわよ」
自分の見た夢に対して妙な勝利意識を抱きながら、メディスンは着替えてリビングへと向かった。
昨夜は皿の数々でぎちぎちだったテーブルに、今度はソフト素材の人形が山になって積み重ねられていた。その向こうにかろうじてアリスの姿が見えた。
「おはよう。今日は遅かったのね」足音で気付いたのか、まともに顔も見えないままアリスが声をかけた。
「え、今何時」メディスンは時計を探した。「……もうすぐお昼じゃない。起こしてよ」
「私も夢中になっちゃって」言いながらまた一つ人形を重ねた。
メディスンは一見無造作に積まれただけの人形の山を眺めた。人形遣いなのだから人形を作ってもおかしくはないけれど、なんとなく変に思った。
「どうしたのよ、こんなにむちゃくちゃ作って」
「もちろん、壊すためよ」
「……今なんて?」
自分が寝ぼけているだけだろうと思い、聞き返すとアリスは言った。
「盛大にバクハツさせるために作っているのよ。目標二百体」そしてまた一つ人形を重ねた。
以前からメディスンは思っていたことがある。こいつ、ほんとうは人形がキライなんじゃないだろうか。
「あのさー、前から言ってるんだけどさー、なんだって人形を爆弾代わりにしてるわけよ?人形遣いなんでしょう。それに、これからは人形遣いの道を究めるだとか言ってたでしょう。もっと人形を大事にしてくれてもいいじゃない」
メディスンが至極もっともなことを言うと、アリスは口を尖らせた。
「ただの人形遣いではないわ。七色の人形遣いよ」それに、と加えた。「人形を大事にしていないわけではない」
『七色』の部分は自分で言ってるだけじゃないかとメディスンは思った。「だったら爆発させるのやめてよ」
「それはできないわ。なぜなら私は七色の人形遣いだから」
話にならなかった。何を言ってるのかもメディスンにはわからなかった。
「破壊なくして何かを生み出すことはできない。悲しい現実よね」
「作った後に壊してどうするのよ」
「あら、芸術は爆発よ。つまり爆発、破壊こそが創造の究極であるとみた」
「それを言ったら何でも許されると思ったら大間違いだ!」
しかしいろいろ言ったところで、メディスンは目前の人形達を助けるつもりにはなれなかった。流石に腹の中に火薬を詰めた相手と友達にはなれない。
ただ黙って、一つまた一つと積み重ねられてゆく人形を見守るだけだ。
食欲が湧かなかったので、メディスンは昼食に一つのカップラーメンをアリスと分けて食べた。最近カップ麺ばかり食べているような気がした。
両手で人形を作りながら箸を人形に持たせ麺を口へ運ぶなんて行儀の悪いことをやっていたアリスは、今しがた完成させた人形を山のてっぺんに置くと大きく伸びをして言った。
「うん、まだ目標の数の半分ほどだけど、これくらいにしておきましょうかね」
それから玄関に向かって歩き出すと、テーブルの上の人形達も山の上から続々と並んで飛び立った。どことなく作りの粗い爆弾人形達が文句も言えずにアリスの後を追うその光景はメディスンにとって直視に堪えないものだったが、それでも見届けるくらいはと思いついて行くことにした。
魔法の森を抜け数分ばかり歩き、アリスとメディスンと百体の人形達一行は小高い丘の上に立った。アリスはまばらな雲の散らばる青空を見上げ、「うん、素晴らしい爆発日和だわ」とふざけたことを言った。
糸を通じて指令を受けた人形達はアリスとメディスンの前に整列し、後は爆発の時を待つばかりとなった。
「さて、先陣を切るのは誰にしようかしら」並んだ人形の一団を見回すと、首を捻ってアリスは考えた。メディスンにはどれも同じに見えたのでなんでもいいんじゃないかと思った。
人形達の集団のほぼ中心に浮かんでいた一体の人形が、丸い手を高く揚げた。
「うむ、その心意気やよし」
メディスンはアリスの自作自演の茶番を冷めた目で眺めた。「自分で挙げさせたくせに」
アリスはそれを聞き流し、指を空へと向け声を張った。
「出撃!」
アリスの声を受けて一体の人形が空へ向かった。鳥よりも速く、山よりも高く、ただひたすら遠くへ遠くへと飛ぶ人形の姿はだんだんと小さくなり、やがて晴天の中に一瞬だけ輝く星となった。わずかな音も届かなかった。
アリスとメディスンと九十九体の人形達は雲の合間に彼の人形の残した痕跡を探したが、空は何一つ変わっていなかった。
ふう、とアリスは一つ息を吐いた。
「なんか、もう満足してしまったわ」
未だ九十九もの人形が所在なさげに佇んでいた。「どうするのよ、じゃあ」とメディスンは言った。
「そうね、ええと。うん」
満足したというよりは“なんか面倒くさくなった”とでも言いたげな風情でアリスは人形達をまとめて浮かせ、掲げた右手の指を「ぱちり」と鳴らした。
その音がメディスンの耳に入ってから一拍置いて、九十九もの人形はまとめて粉微塵になった。風にたなびく煙を手で払い、「さあ、帰りましょうか」とアリスは背を向けた。
あまりにも無残な結末を迎えた人形達の事は考えまいと頭を振って、メディスンはアリスを追いかけた。それから「わざわざ指パッチンした意味はあったのだろうか、いやない」と自分でもどうでもいいとわかるようなことを一人呟いた。
翌日もそのまた翌日もアリスは自律人形の完成を目指す傍らで大真面目に滅茶苦茶をやり、相変わらずの悪質な趣味掛け持ち癖に改善の兆しは見られなかった。おまけに肝心の人形遣いとしてはこれっぽちも進歩していないように思えた。
メディスンは片手にアリスの人形を弄びながら言った。
「ねえ、そんなことばかりしているからいつまでたっても自律人形ができないんじゃないの?」
扉が開いたままの工房部屋の奥でひっきりなしに手を動かしていたアリスが、道具を置き作業を終えると人ひとり分ほどの丈のある物体を抱えて飛び出してきた。
「ようやく完成したわ、有線誘導ロケットアームと胸部ミサイルランチャ、その他光学兵器もろもろを搭載した進化彫刻人形!対侵略拠点防衛木造機『一分の七スケール木彫り上海人形戦闘仕様改良型』よ!」
見た目には違いがわからずメディスンは首を傾げたが、あまり深く話を聞くと間違いなく長くなりそうだったのでやめた。そしてわざわざここで説明してもらわなくてもそのうち知る羽目になるのはわかりきっていた。
「ふーっ、きっちり一仕事終えた後は気分がいいわね。……そういえば、さっき何か言わなかった?」
「いや、なんでも」
木彫り上海は再度玄関に配置された。扉の前に堂々と立つ木像を眺めて満足そうにアリスは頷いた。ど真ん中に置かれているのにあまり通行の邪魔にならないのは、人形達があくせく働いて玄関前の廊下を広く作り直したからだ。そのためにメディスンの部屋が少し狭くなった。
「気分がいいついでに、新しい人形製作にでも取りかかってみましょうかね」
「へえ、やっと人形を。でも自律人形じゃなくて?」
「ええと、自律人形の方は、そのうち……」アリスは目を逸らした。「そうだわ、爆風ではなく硬素材の破片でのダメージを狙ったフラググレネード人形なんていいんじゃないかしら!炸裂地点ギリギリで回避できればカスリ点がものすごいことになるわよ」
メディスンはアリスの頭に向かって持っていた人形を投げつけた。
「あいたっ」
なんだ、これは爆発しないのか、とメディスンは残念に思った。
「なにをするのよ、もう」額を押さえてアリスが呻いた。
「こっちのセリフだわ、あんたは人形をなんだと思っているのよ!」
「失敬な。私は七色の人形遣いよ?当然、私は人形を愛しているわ」
「アリスの愛は歪みすぎて悪ふざけにしか見えない」
「ふむ、褒め言葉と受け取ってもいいのかしら」
「……あー、もう、いいよ、それで」
メディスンは諦めたように溜息を吐いた。もうこんなヤツの相手をするのはゴメンだと思った。
「あら、どこへ行くの?もうお昼の用意が出来てるわよ」
「えっ、いつの間に」
「食べるでしょう」
「……うん」
それから昼食にアリス手作りのハンバーグステーキを食べた。とてもおいしかったので、メディスンは「人形遣いとしては正直ダメダメに違いないけど、まともに料理ができるうちは好きにさせていいや」と開き直り半分に思った。それから付け合わせに苦手な野菜が多すぎると文句を言った。
「そうだ、そういえば最近デザートを食べていなかったわ。ねえ、用意しておいてよ」
「注文が多いわね。ま、いいわ。七色の人形遣いに不可能は無い」
「もう七色の料理人とかでもいいと思うよ、私は」
それを聞くとアリスは顔を輝かせ、今のは失言だったかとメディスンは後悔した。でも食後の桜桃シャーベットはおいしかった。
「メディ!私は漫画家になるわ!」
メディスンは手に持っていた漫画本と駆け下りてきたアリスとを見比べ、「そう」と呟いた。
それからひとしきり考え、咀嚼したビスケットを飲み下し、「正気?」とアリスの顔めがけて言い放った。
「もちろん正気だわ」
そう言ったアリスの表情は、メディスンには頭のおかしい病人に見えた。「私は七色の漫画家になります」
「ふうん、飽きたらその時すぐに教えてね」
「なぜ?」
「アリスが妙な事をやりだした時、何日でやめるか予想するのをマイブームにするの。一緒に始めましょう」
「失礼な」
言葉の意味を理解してアリスは渋面を見せたが、しかし次には余裕ありげに微笑んでメディスンに言った。
「私は大真面目よ。三日坊主などにはならない」
「だといいけど」メディスンはそう言ってまた自室へ引き返すアリスの背を見送った。
三時間後、メディスンは未だに晩御飯の用意を始めないアリスにしびれを切らし、階段を上って扉を叩いた。
「アリス、なにやってるの?」
幾ら呼びかけても反応は無い。一度何かに集中してしまうと時間も周りも忘れて没頭するのがアリスの悪い癖だ。メディスンは諦めて引き返し、お湯を沸かしてカップラーメンに注いだ。
「またいきなり、なんで漫画なのかしら」
砂時計をひっくり返して暇を持て余す間、メディスンはアリスの奇行の理由について少しばかり考えてみたが、どうやら答えは浮かばなかった。
翌日の朝、目覚めたメディスンはリビングに向かうと、ソファに伏して眠るアリスの姿を見つけた。
「うわっ。ちゃんと部屋で寝ればいいのに」
メディスンは自分がアリスのベッドを占領していたことを棚に上げた。そしてシャワーも浴びていないのか昨日見たままの服を皺にして静かに寝息をたてるアリスを起こしてやろうと近寄った。
床に投げ出された右手の辺りに紙の束が散らかっているのが見えたが、メディスンはとりあえずそれを無視し、アリスの耳元で声を出したり頭をはたいたりしてみた。
「おーい、起きなさいよお」
何度か耳を引っ張られ、ようやくアリスは顔を上げた。
「うーん?」
「おはよう」
「……ん」
ソファの継ぎ目の痕を頬に残した間抜けな顔でアリスは挨拶を返した。一息ついて起きあがり、無理な体勢が祟って痛む身体のあちこちを曲げ伸ばしている。
「えーと、どうしたんだったかしら。ああ、完成したからメディに見せようと下に降りて、そのままここで眠ってしまったのね」
アリスは丁寧に足元に散らばった紙をまとめ直し、きっちり揃えてメディスンに差し出した。
「なにこれ」
「昨日書いた漫画よ。七色の漫画家アリス・マーガトロイドの記念すべき第一歩といったところね」
メディスンの見慣れた本の形にはなっていなかったが、なるほどそれの中身は漫画と言っても間違いはなかった。
短い時間によくやるなあと呆れて声も出ず、うっかりそのまま受け取ってしまう。
「私に読めって?」
「是非感想を聞きたいわ」
寝起きであることも忘れてアリスはメディスンを期待の眼差しで見つめる。ひょいと渡してくれたが、なかなか枚数があり立ったまま気楽に読めるようなものではなさそうだ。
「とりあえずシャワー浴びてきたら?髪の毛すごいことになってる」
アリスは頷くと、人形をその場に浮かせて浴室へ向かった。魔力を込められた人形達はひとりでにキッチンを飛びまわり朝食を準備している。受け取った漫画を一旦テーブルの脇に置いて、メディスンはそれを見守った。
「さあ、早く読んで感想を聞かせて頂戴。さあさあ」
人形達の焼いたはちみつバターのパンケーキを食べ終わるやいなや待ち切れぬ調子で催促され、メディスンはちょっぴりうんざりしながらアリスの漫画を手に取った。
あんまり放っておくとうるさいのでとっとと済ませてしまうことにし、しばらくは紙がめくられる音だけが家の中で静かに響いていた。
最後の一枚を読み終えると、メディスンはふうと息を吐き目を瞬かせた。じっとメディスンの前で様子を窺っていたアリスがたまらず口を開く。
「で……どうだった」
「うーん」
メディスンはあまりこういった批評には慣れていない。アリスの家に沢山置いてある本を読んだって「おもしろかった」か「いまいちだった」くらいの言葉しか思い浮かばないのだ。
しかしアリス渾身の一作に対してまでおざなりな感想を投げるわけにはいかなかったので、メディスンはなんとか思ったことを具体的にしようと努力した。
そして一枚目に置かれている表紙を再度見て、「絵は上手よね、アリスは」と言った。
「ええ、そうでしょうとも」
どうやらアリスも絵には自信を持っていたらしく、謙遜することなく頷いた。表紙はもちろん、中身の人物から背景まで手ぬかりなく凝った書き込みがされている。短時間にここまで仕上げた事に対しては素直に賞賛も出た。
「でもさあ」メディスンは何枚かページを続けざまにめくった。
「やたらに絵が綺麗過ぎるせいで、読んでて疲れるのよね」
一番最初に思ったことはそれだった。
「あとセリフがぎちぎちで読みにくい。それとコマ割りが雑でどっち行けばいいのかわからない。ついでに話自体もなんだか意味わかんないしキャラクターがむかつく。おまけにこのヒロインが私そっくりなのは嫌がらせかなにか?全体的に言ったら正直つまんないです」
頑張ってみたら意外と出たのでメディスンは自分に驚いた。褒めるところが『絵が上手』くらいしかないこの作品にはもっと驚いた。アリスは打ちのめされていた。
「あー、でも、ほら。絵は上手だしこの短い時間でこれを書けたんだから、続ければきっと」
メディスンは『このヘボマンガに取られた私の時間を返せよ!』と言いたい気分ではあったが、初めての作品でこれならなかなかいいんじゃないかなと思ったのも事実だった。
「だからさ、アリス……」
「やめる」
「え?」
「やめるわ。私に漫画家は向いていなかったのよ」
言うが早いかアリスはメディスンの手にあった紙束をひったくり、破いて丸めてくずかごに放り込んでしまった。
「ちょっとお、まだ一日も経っていないわよ」
「飽きたからやめるんじゃないの。私に漫画家は無理だとわかったからこそやめるのよ」
その後アリスは漫画のことなどなかったかのように振舞い、メディスンもわざわざ蒸し返してやることも無いかと思ったので何も言わなかった。
ただ一度呆れたように溜息を吐いて、今となっては何の価値も無い紙切れの入ったくずかごを眺め、ちょっと言いすぎてしまったかなと後悔した。何しろ本当に絵だけは上手だったのだ。
その翌日。メディスンがソファに座って本を読みながら紅茶で喉を潤していると、階上から忙しげな足音とアリスの声が響いた。
「メディ!私は小説家になるわ!」
メディスンは読んでいた文庫本と駆け下りてきたアリスとを見比べ、「はあ」と呟いた。
それからちょっとばかり考え、紅茶の最後の一口を飲み干し、「またあ?」と胡散臭げに言い放った。
「今度ばかりは成功するわ」
そう言ったアリスの表情は、メディスンには精神を病んだ閉鎖病棟患者に見えた。「私は七色の小説家になります」
「ふうん、どうでもいいけど晩御飯はちゃんと用意しておいてね」
「カップラーメンがあるじゃない、信頼の魔界産カップラーメンが」
「一昨日食べちゃったわ」
「最近出た新味がそっちの棚に入ってるわよ」
メディスンが言われた棚を開けてみると、幻想郷ではまず手に入らないであろう様々なインスタント食品がぎっしり詰まっていた。
「本当だ」
「そういうわけだから」アリスはそれだけ言って自室へ向かった。今度はじっくり時間をかけて書いて欲しいものだとメディスンは思った。
三時間後、メディスンはやかんを火にかけて棚の中を物色した。
「ストロベリージャム味カップラーメン?あたまおかしいんじゃないの」
なんだかロクな物がないなと目を動かしていると、開いた戸の内側に紙が張り付けてあるのを見つけた。
“こういうのはたまに食べるからいいんだ、そんな何度もインスタントなんて嫌だと駄々をこねそうなあなたのために、カレーを作り置きしてあります”
鼻につく言い回しに眉をひそめながらも冷蔵庫を開けてみると、鍋が一帯を占領しているのが目立った。ハニートースト味カップラーメンよりはましだろうと思い、やかんを退かして火にかけ温めた。いつの間に作っていたのかは気にしない事にした。
ぐつぐつと鍋が煮え立ち、キッチンにカレーのよい香りが漂う頃になってからメディスンはようやくそれに気付いた。
「あいつ、ご飯を炊き忘れている」
翌日の朝、目覚めたメディスンはリビングに向かうと、ソファに横になって眠るアリスの姿を見つけた。
「ひょっとしてもう書いたのかしら」
とにかく起こしてやろうと近寄ると、またも床に投げ出された左手の辺りに紙の束が散らかっているのが見えた。メディスンは「うわあ」と顔をしかめて呟き、アリスの頭を数度叩いた。
「い、いたたた。あんまり強く叩かなくても起きるわよ」
何度かすぱんすぱんと小気味よい音を響かせてから、慌てたようにアリスは顔を上げた。
「なに?これは」
メディスンは足元の紙束を睨みつけた。アリスは笑みを浮かべた。
「私ほどの小説家にもなれば、一日と経たずに作品を書きあげることなどたやすいわ」
「小説家としては昨日始めたばっかのど素人じゃあないの?アリスは」
「一流はね、生まれた時から一流なのよ。例えば私の事よ」
わけのわからないことを言って起きあがり、アリスはシャワーを浴びて髪を乾かして朝食を作った。その席でメディスンは、ふと昨夜のことを思い出して文句を言った。
「アリス、昨日はお米を炊き忘れてたでしょ」
「あ、そうだったかもしれないわ。ごめんなさい」
「もう、しっかりしてよ。結局またカップラーメンを食べたのよ」
「え、何?カレーラーメン?」
「……その手があった」
変な匂いとケミカルな味と三分四十秒という微妙すぎる待ち時間を強要するけったいなラーメンも、スープを捨ててカレーに沈めてしまえばおいしかったかもしれないとメディスンは思った。しかし、ちょっと考えて、やっぱりそれはないなと考えを改めた。
朝食を食べ終えると、早速アリスはメディスンに書きたての小説の束を押し付けた。
「うへえ。なんだかめまいのする文字数」
メディスンはもう少し時間をおいてから読みたいと思ったが、そんな言い訳に聞く耳を持つアリスではない。ごね続ければ文字通り椅子に縛り付けて無理矢理にでも読ませようとするに違いなかったので、しぶしぶ紙を広げて文字を追った。
漫画のように流し読みもできないし、元々メディスンはそれほど文字だけの本は読まない。なんとか最後まで読み終え時計を見ると、すでに正午も近かった。
「お疲れね。そこまでの量じゃなかったと思うけど」
「んー、あんまり慣れてないし」
アリスはメディスンの前に腰を下ろすと、神妙に口を開いた。「それで、感想のほうは」
漫画を書いた時の反省を汲み、どんな酷評でも甘んじて受け入れようという謙虚な姿勢がそこにあった。メディスンも、ならばこちらだって遠慮しないで言いたい放題言ってやろうと思った。
メディスンは最初のページの数行を目で追い、「けっこう文章は読みやすいわよね」と言った。
アリスは「そうでしょうとも」と頷いた。本を読み慣れていない人々にも手に取ってもらおうと考えたのか、難解な言い回しなどは少なくメディスンでも辞書の力をほとんど借りずに読み進めることが出来た。
「でもさあ」メディスンは途中を無視して最後のページを開いた。
「正直話の中身は意味不明なのよね」
結局そういう感想になってしまった。
「読みやすいのにわけわかんないっていうのも器用なダメっぷりよね。結局これ主人公はどうなったの?死んだの?生きてるの?永遠に俺達の心の中で生きてるの?それともあいつはきっと生きてるさ的な感じで死んでるの?そもそもこの本の主人公はいったい誰だったのよ!」
読んでて頭がおかしくなりそうだったとメディスンは一言呟いた。アリスは深く考え込んでいた。
「……誰だったのかしらね」
「ほら、もう、勢いだけで書いてしまうからそうなる!」
メディスンは頭を抱えた。人に見せる前にまず一度自分で通して読んでみようとしなかったのかと詰め寄りそうになった。
しかし、人形劇の脚本などで書き慣れてはいるのか、文章自体は読みやすかったのだ。
「……まあ、でも、ストーリーさえ直せばきっと読めるようになるんじゃないの。何を目指してるかはしらないけど頑張ってみれば」
「やめる」
「は?」
「やめるわ。私には小説家も向いていなかったのよ」
アリスはそう言ってメディスンの手にあった紙束をひったくり、ちぎって裂いてくずかごに放り込んでしまった。
「そんなことばかり言ってると何にもできなくなるわよ」
「できないものを無理に続けていたって仕方がないわ」
アリスは肩を竦めて立ち上がり、仕込みの途中だった料理を完成させるためにキッチンへ戻っていった。
できないということはないだろうと思ったが、メディスンは何も言わなかった。どうせまたすぐに別の何かをやりたがるに違いなかったのだ。
その翌日。メディスンが机に本を広げながらうつらうつらと舟を漕いでいると、階上から届いたアリスの声で目を覚ました。
「メディ!私は画家になるわ!」
メディスンは広げていた花の画集とアリスとを見比べ、「ああ」と呟いた。
それから本を閉じて立ち上がると、「今度はそれなんだ」と言った。
「ふふふ、今度こそはね、自分でも『来た』と思うのよ」
そう言ったアリスの表情は、メディスンには脳をやられた薬物中毒者に見えた。「私は七色の画家になります」
「ふうん、まあ漫画や小説よりは向いてるんじゃないの」
「そうね、ああいう俗っぽいのはこの都会派たる私にはふさわしくなかったものね」
「ちょっとなにをいっているのか……」
「こればかりは私も本気で臨むわよ。それじゃあちょっと出かけてくるわね」
アリスはその足で玄関に向かった。風景画でも描くのかと思い、メディスンはそれを見送った。そして、絵なら作品を見るために取られる時間も少なく済むなと嬉しく思った。
二時間後、アリスは手ぶらで戻ってきた。
「おかえり。早かったね」
「ええ、まだ準備段階だから。道具はあるし、これから描き始めるわ」
はて、とメディスンは疑問に思った。道具もあるなら何の準備をしていたのだろう。ただの散歩か。
アリスは懐から小さな袋を取り出した。
「それは?」
「芸術家の必需品と言えるものね」
袋の中にはまたいくつもの小さな袋が入っていて、アリスはそれらを一つ一つ改めた。メディスンはそれを横で見ているうち、顔を引き攣らせた。
「このカラフルな色彩で安心感を与える錠剤を飲み、香り高い葉を詰めたパイプを吸い、食感が苦手なら粉末にしてもいいキノコをあぶって食し、素敵な雰囲気作りに貢献してくれるアロマを焚いて、仕上げにどことなく予防接種的な注射を一本ぷすりといれてできあがり。
するとあら不思議、そこに見えるのは間違いなくこの世界の真理だわ。それをこの眼で確かめ、他の誰にも真似できない絵を描きあげるのよ」
「だー!」
メディスンはそれらまとめて全部を掴んで、トイレにぶち込んで流してしまった。
「あー!な、何をするの。高かったのに!」
「ええい、うるさい。そんなに薬が飲みたければ精神安定剤でも飲んでいなさい」
メディスンはこんなこともあろうかと薬箱に睡眠薬を仕込んでいたのだ。それをさっと取り出してアリスの口にねじこんだ。効果はてきめんで、少しと経たずにアリスは眠りに落ちた。こうしてアリスの画家になる夢は潰えた。
「しまった、ちょっと効き目が強すぎたわ。今日の夕飯どうしよう」
メディスンは永遠亭に行き、永琳に「馬鹿につける薬はないのだからあんなものを渡さないでください」と文句を言った。
「まあ、あなたが止めてくれるだろうと思っていたからね」
「だったら最初から渡さないでよお」
「せっかくのお客様だもの。儲けさせてもらったわ、ほほほ」
アリスの財布がへこむだけならまあいいかと思って、話を打ち切った。ついでに晩御飯をごちそうになった。寝床も借りて、ぐっすり眠った。
朝になり、ちゃっかり朝食まで頂いてから永遠亭を後にしたメディスンがアリスの家に戻ると、ソファに腰掛け腕を組むアリスの姿があった。
アリスは言った。「二度寝していたら、夢を見たのよ」
「はあ」
「私が画家として大成して、幻想郷を飛び出し世界を股に掛けて活躍する夢だったわ。でも……結局夢だったのね」
立ち上がって伸びをすると、アリスは自分に言い聞かせるように静かな声で呟いた。「画家になるのは諦めるわ」
「まだなにもしていないじゃない」
「何をしたのか、するのか、しようとしたのか、そんなこと、今となってはどうでもいいことよ」
そして意味のわからない言葉で締めて、俯き加減に部屋の掃除を始めた。
まともな方法でアリスが描いた絵ならきっとなかなかのものだっただろうにと、メディスンは残念に思った。
その翌日。メディスンがサターンパッドを握りしめAB炙りの必要性について頭を悩ませていると、階上から慌しげな足音とアリスの声が響いた。
「メディ!私はシューティングゲームを作るわ!」
メディスンの操るシルバーガン1号機は被弾し爆発した。「わー!繋がってるときに話しかけないでよ、まったく……」
それからサターンの電源を落としてメディスンは言った。「よっぽどのことでもない限り、今時シューティングゲームなんて作っても売れないらしいわよ」
「売れる売れないの問題ではないの。愛があるから作るのよ」
そう言ったアリスの表情は、メディスンには現実から目をそむける懐古主義者に見えた。「私は七色のシューターになります」
「シューターだとプレイヤーのほうになっちゃうんじゃないの」
「あら、一プレイヤーとしての姿勢を忘れた作者に面白いゲームは作れないわ」
「はあ。そういうもんなんだ」
「どうでもよさそうね、メディ……」
だって実際にどうでもいいしとは言わなかったが、メディスンはアリスに胡乱な眼差しを向けた。
「何から何まで一人でできちゃいそうではあるから、確かにゲームはぴったりかもしれないけどさあ」
「けど、なによ?」
「アリスの作るシューティングって、オプションの細かーい制御とか、暗記必須の初見殺し攻勢とか、やたらとっつきにくい稼ぎシステムとか、いいはいいんだけど浮いてる音楽とか、演出が派手すぎて画面が見にくくなったりとか、むつかしくてワケわかんないシナリオとか……そういうのばっかりになりそうだもの。シンプルが一番よ」
どうやら思うところがあったようで、アリスはその言葉に深く頷くとゆっくり階段を上り姿を消した。
三時間後、突然マーガトロイド亭を大きな破裂音と揺れが襲った。
「あー!」
騒音自体はすぐに収まったが、メディスンの操る自機は爆散し海の藻屑と消えた。「抱え落ちした。もうだめだ」
ゲームオーバーになる前に電源を切って、文句を言ってやろうとアリスの部屋の扉を開けた。
「ちょっと、今のはいったいなんなの?……うわあ」
メディスンを迎えたのは、あちこちに何かの残骸が散らばった悲惨な部屋と真っ黒焦げになったアリスだった。
「ああ、メディ……」アリスは咳き込みながら口を開いた。「実はね、ボムについて考えていたのだけど」
「はあ」メディスンは呆気にとられた表情で言った。「ボム……ボム?あのボム?」
アリスは頷いた。「どんなボムにしようか迷って、だったら実物を作って試してみたら早いかな、と」
そしたら誤爆してしまったのだとアリスは言う。
メディスンは呆れた様子で顔をそむけた。「なんで実物を作ろうなんて発想が生まれるの?しっかりしてよ、まったく」それから扉を閉めようとした。
「あ、待って」
「なによ?」
「縦スクロール視点と横スクロール視点、どっちがいいかしら。今でも迷ってるのよ」
「右ナナメ後方。ビューポイント視点」アリスは嫌そうな顔をした。「だったら自分で決めてよね」
「ボムを入れるなら、やっぱり縦かしら」
メディスンは扉を閉めた。
数分後、またも大きな破裂音と揺れに襲われメディスンは抱え落ちした。
この調子ではまともなゲームは期待できそうにないぞと思い、メディスンは溜息を吐いた。それからゲームはやめてカレーを温め炊きたてのご飯と一緒においしく食べた。
翌日の朝、目覚めたメディスンはリビングを見渡した。そこには誰もいなかった。
「まだ部屋にいるのかしら」
メディスンが天井を見上げてアリスを呼びに行くべきか迷っていると、玄関扉の開く音がした。振り向いたメディスンは全身を土と煤と焦げ跡で汚したアリスの姿を見た。
「いったいどうしたの?」
また何か爆発させたかと訝しむメディスンを無視してアリスは「おはよう。早速で悪いけど一緒に来てちょうだい」とだけ言い、また玄関へ戻って行った。
仕方が無いのでメディスンはその後を追った。
「こっちよ、こっち」
アリスは玄関を出ると壁伝いに家の裏へと向かい、メディスンを急かした。小走りに並んだメディスンはアリスの顔も見ずにぶつぶつ文句を言った。
「なんだってのよ、も、う?」
アリスの家の裏に突如現れた物体を目の当たりにしてメディスンは閉口した。アリスは『自分でも不可解だ』と言わんばかりの表情をしながらその前に立った。
「シューティングゲームを作っていたはずが、なぜやらSTGの自機的なものを作りあげてしまったわ」
そして唖然としているメディスンをよそに淡々と説明を始めた。
「G2-4、高空機動試作戦闘爆撃機『ゴリアテジェネレーション』よ。もちろん数多の例にならって単機での敵陣突貫作戦への運用を前提に作られているわ。キャッチコピーは『全ての弾幕ごっこを過去にする』」
これは元々ゲーム用に考えたキャッチコピーなんだけど、とアリスはどうでもいいことを付け足した。
「メディの助言に従って、操作は8方向レバー+2ボタンの単純なものにしたわ。低速移動も無しのセミオートショットと速攻性のボンバーね。連射装置も付けると3ボタンになるかしら」
「ちょっと待って、待って、アリス。私はそんなチュートリアルを聞きたいんじゃないのよ」
「このあとシンプル故に深いスコア倍率システムの説明が……」
メディスンはとめどなく続く言葉を一旦切らせて、ひたすら深呼吸を繰り返した。
アリスはその間にさっとゴリアテに飛び乗るとヘルメットを被りゴーグルとベルトを身に着け、キャノピーを閉じた。
「そうね、説明するより、実際に見てもらったほうが早いわよね」
そういう問題ではないとメディスンは声を張り上げたが、どうやら届いていないようだ。
アリスの声はスピーカーを通して辺りに響き、朝靄の中にいた鳥や動物や妖精や普通の魔法使いなどの森の住民達を驚かせた。
ゴリアテは二対のバーニアを吹かせ熱風を撒き散らす。騒音に耳を塞いだ。このまま前進を始めるとアリスの家に衝突するのではとメディスンは危惧したが、どういう理屈か加速もせずにそのままふわりと浮き上がった。
「やっぱり母艦も作るべきだったかしら。これは個人的な意見だけど、やっぱり出撃シーンは欲しいわよね。いやでもあんまり長いとイライラするし、かといって飛ばせるようにしちゃうとBGMとズレが起きるし……」
スピーカー越しに一方的な独り言をぶつけるアリスの機体は上昇を続け、空を仰がなければ見えないほどになった。メディスンはそれでも懸命に叫び続けたが、うなりを上げるエンジン音にかき消されてしまった。
ゴリアテは空に浮かんだままくるりと方向転換し、ノイズ混じりの声がメディスンに届いた。
「メディ。ちょっと弾幕ごっこをやってみましょうよ!」
アリスはなんてことない調子でそう言って、エンジンを更に吹かせて宙返りをしたり、向きと高度を固定したまま前後左右にカクカク動いたりして遊んでいる。メディスンは叫んだ。
「絶対に嫌よ!」
しかし聞こえていないようだ。
ゴリアテの両翼には立派なガトリング砲が備え付けられている。アリスが魔道戦闘機用に開発した20mm凝縮魔力弾機銃である。そんなものに撃たれてはたまらないので、メディスンは森に隠れながらの地道な対空弾幕で戦うことに決めた。
「ああもう、なんだってこんなことに」
走りながら曖昧に狙いをつけて、木々の合間から弾幕を放つ。アリスは森の中から放たれた第一波に機敏に反応し、距離を取ろうと更なる上昇を始めた。
しかし、避けきれなかった米弾の一発がゴリアテの尾翼を捕らえた。するとゴリアテは派手なエフェクトと共に大きく耳をつんざくような効果音を響かせ、爆散した。
「えっ……えっ?」
思わずメディスンは足を止めた。いくら目を凝らしてみようが、空の中にはもうゴリアテの影も形も無かった。
メディスンはしばらくその場に立ちつくした。そのうち枝葉を掻き分け何かが目の前に落ちてきた。黒コゲになったアリスだった。
「あ、アリス!」
メディスンが揺り起こすと、アリスはぐったりしたまま重々しく口を開いた。
「しまった……当たり判定の調節をしていなかったわ。それに残機もなかったし……」
「そういう問題なの!?ねえ、アリス!」
「メディ。私には、シューティングゲームを作ることもやはり……無理だったみたいね……」
アリスはよろめきながらも起きあがった。メディスンは手を貸そうとしたが、アリスは首を振ってそれを断り、覚束ない足取りで一人で家に向かい歩いて行った。
メディスンは目の端に何かが映ったような気がして振り返った。アリスの倒れていた場所に丁度あったそれを拾い上げると、真っ二つになった一枚のCD-ロムであることが分かった。
アリスの服から落ちたもののようだった。表にサインペンでタイトルらしき文字を書いていたようだが、溶けて読めなくなっていた。
割れて二度と読みこめなくなったデータディスクをメディスンはしばし悲しげな眼で見つめていたが、それから丁重に扱うでもなくポケットにしまうとアリスを追って歩きだした。
家に戻り、傷の手当てをし、ボロボロになった服を修繕し、遅めの朝食兼早めの昼食を取って、落ちつき無く部屋の中をうろうろと歩き回ってから、アリスは椅子に座りテーブルに肘をついて頭を抱えた。
「もうだめだわ。何もやる気が起きない。私はだめな妖怪くずれだった」
腕の間からぼそぼそと呻くような声が聞こえた。四度夢に破れ、とうとうアリスの心は折れてしまったようだ。
もうこうなったら森のお菓子屋さんとして生きていく他無いなどとぶつぶつ言っている。
メディスンはそれを横目で眺めると、溜息を吐いて紅茶のカップを手に取った。どうせまたすぐに立ち直ってよからぬことを始めるに違いないと決めつけていたが、どうやら今回は勝手が違うようにも思えた。
「ああ、もうだめだわ。おしまいよ。私には才能がなかった。何をやっても長続きしない。だったらもういいかもしれない。このまま他の妖怪同様に自堕落に過ごすのも楽しいかもしれない。魔界に帰って、なにもかも忘れて甘えて過ごすのもいいかもしれない。それとも、夢子さんの元でメイドの勉強をもう一度始めてみようかしら。ああ、あれやってこれやってと言われるがままに無心で働き続けるのは、ある意味とても楽なことかもしれない……」
「なんかいろいろ言ってるけどさあ」メディスンは紅茶のカップを置き、アリスのぼやきを無視して言った。「自律人形を作るっていうのはどうしたのよ?」
アリスは突然椅子を蹴って立ち上がった。メディスンは椅子に座ったままぎくりとのけぞりひっくり返って頭を打った。
「そうよ」深く自分の心に言い聞かせるように呟いた。「私は人形遣いだったのよ」
そしてぐるりと部屋の中の人形達を見渡した。メディスンは頭を押さえ悶絶していた。
「私は自律人形を作りたかったのよ!」
拳を握りしめ、天井に向かって喉を振り絞り叫んだ。メディスンは頭をさすり起きあがった。
「でも、なにをやったって駄目だった。もうどうしていいのかわからない。だから私は諦めたのよ……人形のことは忘れて、新しい道を見つけるはずだったのに」
アリスはまた深く椅子に腰かけて、項垂れた。「結局それもみんな駄目だったわ」
スランプ。ここ最近アリスの奇行の理由はこの一語で全ての説明がつくのだった。しかしメディスンは「アリスがおかしいのは元からだったよなあ」と思っていた。
「自律人形の研究が上手くいかないのなんていつものことだったじゃない」メディスンはアリスを慰めるつもりで口を開いた。「なんで今になってそんな荒れてるのよ?」
アリスはかぶりを振った。
「もうほんとうに詰みの状態なのよ。にっちもさっちもいかなくなってしまった……いったいなんなの、自律人形って?」
メディスンは答えに詰まった。
「そもそも人形が勝手に動くってどういう理屈なわけよ?心ってなに?生きてるとは?私が魔法使いになったのは自律人形のために何か意味があったのかしら!あー、もううんざりだわ!」
アリスは椅子を吹っ飛ばして立ち上がり、タンスの角に頭突きをかまし、すぐ横の窓を蹴り破って、近くの人形を一体むんずと掴むと振りかぶって鋭いサイドスローでそこから投げ放ち、爆発と共に向かいに立っている木の一本を粉々にした。
珍しく本気で頭にきている様子のアリスに、メディスンはようやく事の重大さを理解した。このままでは本当に人形遣いをやめてしまうかもしれない。
しかしゼエゼエと息を荒げるアリスにどう声をかければいいかもわからず、メディスンはしばらく黙っていた。そのうちアリスはふらふらと窓際を離れると床の上に仰向けにひっくり返り、見るともなく天井を見つめ、ぼそぼそ喋り始めた。
「もう、どうしようっていうのよ……?」
メディスンはその横にしゃがみこんだ。アリスの声は途切れがちになりながらも続いた。
「私にはやるべきことがあるのよ。幻想郷はいいところだけど、日々を自堕落好き勝手に生きるぐーたら妖怪の仲間入りなんてするもんですか……」
好き放題にやってる筆頭の奴が何を言うかとメディスンは思ったが、今は黙っていることにした。
「疲れているのよ……少し休んだら」
「休んでいる暇なんてないわ。だって私は、私は……そうよ、人形遣いなのよ。だから、だから……自律人形を作らないといけないの。でも、どうすればいいのか……」
アリスはそのままメディスンに背を向けるように転がった。
「やっぱり、私には人形遣い以外の道なんて無いんだわ……でもそうしたら……だったら私は、これからどうすればいいのよ……?」
「別に焦る必要はないんじゃないの、もっとゆっくり、時間をかけて完成するようにしたって……」
それからしばらくアリスは何も喋らなかった。メディスンも黙っていた。
ゆっくりと傾く陽射しが部屋を照らし始めて、ようやくまたころりと転がってアリスは顔を見せた。
「少し落ちついた?」
「ええ……」
アリスは立ち上がると服のあちこちを丹念に手ではたいた。
「おでこ、アザになってるわよ」
「あら、なんだか痛いと思った」
タンスに強くぶつけ過ぎてしまったのだ。アリスはハンカチを濡らすと額に当てた。
「それで、冷静になったついでに考えてみたのよ。自律人形を生み出す方法を」
「ふうん?」
「そう、つまり……私が人形の女の子と結婚して子供を産んだ場合、単純に考えればその子は自律人形であるはずなのでは、ということなのよ」
「……うん?」
打ちどころが悪かったのではないかとメディスンは心配になった。
「ん、あれ、これは。自分でもほとんどやけくそに近い、思いつきに浮かんだ考えだったけど……これって、ひょっとしてものすごい革新的なアイデアなんじゃないかしら」
「ええと、アリス、そのう、どこからなんてツッコんだらいいのか……やっぱり疲れてるのよ。眠ったほうがいいわ」
メディスンは服をつまんでベッドに引っ張ってやろうとしたが、アリスは最早他人の話を聞ける状態ではなかった。
「これよ!これだわ!」
先程までの陰鬱な気配を微塵も残さず吹き飛ばし、今のアリスは意気満ち溢れた創作者の鑑である。今にも走り出して玄関を飛び出んばかりであり、実際そうした。
「メディ!ちょっと出かけてくるわね……朝帰りの可能性もなきにしもあらずと思っておいてね!」
それだけ言って家を駆け出し森を飛び出し、夕焼けの彼方へと消えていった。
メディスンは何か言う暇も与えられず呆然としたままその背を見送った。それから考えたのは壊れた玄関ドアの修理のことに今日の夕食のこと、「いくら言ってもアリスが私の事を自律人形だとは信じてくれてなくてよかった」ということだった。
そのうち『幻想郷にも自律人形なんていません』と気付けばすぐに戻ってくるだろうと思っていたメディスンの意に反して、アリスは夜になっても帰ってこなかった。
「まさかほんとに相手を見つけて?いやいや、まさかあ」
メディスンはそう気楽に考えて、カップラーメンを食べたり漫画を読んだりシューティングゲームをやったりして時間を潰していたが、それでもまだ帰ってこないとなるといよいよ心配で落ちつかなくなってきた。
「……やっぱり、探しに行こう」
アリスが脅迫や誘拐や婦女暴行その他の罪で三途の川送りにされる前になんとか止めてやらねばとメディスンは思った。
今でさえアリスの生活、及び趣味活動の大半はグレーゾーンを果敢に踏み越えてしまっているのに、現行犯で何かやらかしでもすれば釈明の余地なく一巻の終わりである。
無残に蹴破られたドアをそのままにして、メディスンは外に出た。陽が落ちてから幾分過ぎ、当然辺りは真っ暗だ。
ただでさえ夜間の一人歩きは気が進まないものであるのに、それが森の中となると尚更だったが、メディスンは「夜の森が怖いだなんて、子供じゃあるまいし」と自分に言い聞かせてアリスの家に背を向けた。
動く人影を見れば弾を撃たずにいられない類のわんぱく妖精達をあしらいつつ、先へ進む。
「暗くて見づらいそんなとき、作ってよかったホーミング弾っと……そういえばアリスのやつ、ホーミングレーザーは大好きなくせになぜだか自動追尾弾を異様なほど毛嫌いしてたわね……でも誘導ミサイルとかは好きそう。わけわかんない」
それからメディスンは夜闇を歩く不安を誤魔化すように独り言をつぶやき続けたが、だいたいどれも途中からアリスへの文句になった。
のろのろと魔法の森を歩くメディスンは、遠目に木々の合間から漏れる光があることに気付いた。一体それが何なのか見当もつかなかったが、魔法の森と呼ばれているくらいだし光る花を咲かせる木くらいはあっても不思議じゃないなとメディスンは思った。
気にしないのが一番、それよりアリスのことだと頭を振ったが、メディスンは自分でも気付かぬうちにその光の方へと向かって歩く道を変えてしまっていた。
近付くにつれてその光源はいくつかの木に取りつけてられて、一方に向けて何かを照らしていることがわかった。その何かというのは二つあってどうやら人の形をしているようであり、ついでにもっとはっきり言うならそのうち一つはアリスだった。
「なあにをしているのよ、アレは?」
明るいランプに照らされながら突っ立ってぼんやりしているアリスに、メディスンははっきり相手の顔が見えるくらいまで近づくと声をかけた。
「アリス。こんなところでなにしてるのよ」
「ん。あら、メディ」アリスはゆっくりと振り向いた。「今日は鈴蘭畑に戻るのかしら」
「わざわざ探しに来てやったんじゃないの。こんな森のはじっこでぼーっとしてるくらいなら早く帰ってくればよかったのに」
それからメディスンはアリスの隣に立つ人の背丈ほどの物体を見て、「で、なんなの。これ」と言った。
アリスは腕を組み大仰に頷いた。「それを話すと長くなるわ」
「じゃあ、いい」
「……短くするから聞いてくれると嬉しいわ」
アリスは一つ咳払いをして、語り始めた。
「私はこれ以上はないであろう自律人形を生み出すための革新的アイデアを胸に森を走っていたのだけど……ほんの少し時間をおいてちょっと冷静になった頭でもう一度考え直してみたの。そうしたら、両手じゃ抱えきれないほどの問題がわんさと溢れてきたわ」
そうだろうね、とメディスンは呟いた。
「私はものすごく落胆して、歩く気力も失せてこのあたりでぼんやりしていたの。そしてここの木に寄りかかった時、またしても突然思い至ったわ。『そうだ、彫刻家になろう』と」
「なんでいきなり彫刻家なわけよ?いや、それを言ったら今までのぜんぶそうだけど」
「さあ、そのあたりはひらめきの神様にでも聞いてちょうだい。……で、その場にあった道具をなんとかやりくりして作り上げたのがこの『一分の七スケール木彫り上海人形』よ。七色の彫刻家デビュー作としてはなかなかの出来であると自負しているわ」
メディスンは自分の背丈より大きなその木造彫刻をよく眺めてみた。言われてみればアリスがよく連れ回す上海人形に似ていなくもないような気がしてくるが、アリスの人形どれも同じに見えるので自信がない。しかし装飾の細かさはもちろん手触りもただの木とはわからないほど滑らかで、とても家を飛び出した勢いで作った物とは思えなかった。
「確かによくできてる」
「でしょう?」
「でも、『イチブンノナナ』ってくどい言いまわしのネーミングはどうかと思うわ」
「……だったら『七倍木彫り上海人形』とでも呼べばいいじゃない」
拗ねたような口調でそう返したアリスは「それはどうでもいいのよ」と気を取り直し、メディスンに尋ねた。「で、私は彫刻家としてやっていけると思う?」
「うーん、やっていけなくはないと思うけどさあ」
「けど?」
「あんまりやってることが変わってないんじゃないかしら、人形遣いの時と」
「確かに」アリスは言われて初めて気付いたような顔をした。「これでは作る人形の材質が変わっただけと言えなくもない」
「それじゃあ」メディスンは答えのわかりきった質問をした。「これから人形っぽくない彫刻でも作るのかしら」
アリスは首を振った。
「やめるわ。私には彫刻家なんて向いていなかったのよ。もう帰りましょう」そう言って後片付けを始めた。
「ああ、そう。だろうと思った。この木彫りシャンハイはどうするの」
「んー、捨てるには惜しい気がするし、持って帰ろうかしら」
アリスは人形を山ほど取りだして木彫りの上海を囲み、持ち上げさせた。
それを見てメディスンは言った。
「ねえ、その彫刻を人形みたいに動かして持って行けばいいんじゃないの。なんでわざわざ」
アリスは肩を竦めた。「ばかねえ、ただの彫像が動くわけないじゃない」
「……えっ、今なんて?」
二人はランプを持った人形の後について、夜の森を並んで歩いた。
「やっぱり、人形遣いよりは向いてるような気がするわ。彫刻家のほうが」
ランプの光を頼りにせずともアリスの家の輪郭がかろうじて見えるようになった頃、アリスは人形に運ばせている自作の彫刻を見ながらふいに言った。
「まだ未練が残っていたの?」メディスンは目を丸くした。「諦めのよさまで失くしたら、もうアリスに褒めるとこなんて残ってないじゃない」
「ひどい言われよう。一つもってことは無いでしょう……」
「例えば?」
「顔とか。スタイルとか。あと、顔とか」
「あんまりそういうこと自分で言うと嫌われるわよ、アリス」
メディスンはアリスの顔を見ずにそれだけ言って先に家に入ろうとしたが、玄関の前で足を引っかけ転びそうになり悪態をついた。
「うわっ。なんなのよ」
蹴り飛ばしてしまった何かを探して暗闇の中目を凝らして見ると、出がけにアリスが壊してそのままの玄関ドアのようだった。
「あら、そういえばほったらかしだったわね」
アリスはランプに再び明かりを点けると人形を操り、倉庫に置いてある予備の扉を取り付け残骸を片づけた。何度もこなしてきた仕事なだけに手慣れたものだった。
メディスンは足元の木片の一つを拾い上げると言った。
「やっぱりアリスには人形遣いのほうが向いてるわよ」
「そうなのかしら」
「ほら、彫刻家なら扉にできるのはせいぜい模様なんかを彫ることくらいだけど、人形遣いならこうやって簡単に修理したり新しい扉を作ったりできるじゃない。こっちのほうが絶対いいって」
しかし口にしてから果たしてこれは本当に人形遣いの仕事の内なのだろうか、とメディスンは自分の言葉にちょっとどころではない疑問を持ったが、アリスは「言われてみればそうかもしれない」と納得した様子なので気にしないことにした。
「つまりこの一分の七スケール木彫り上海人形が、七色の彫刻家アリス・マーガトロイドの初作品にして遺作になるというわけね。そう考えると捨てちゃった漫画や小説も勿体なく思えてきたわ」
「いや、あれは本当につまらなかったから別にいらないんじゃないかな」
「……そう。メディがそう言うならきっとそうなんでしょうね」
気落ちした様子でアリスは家の中へと木彫り上海を運び入れた。
「どこに置くのよ、これ」
「ううん、とりあえず玄関で。奥に入れる前にはちゃんと綺麗にしないといけないし」
それから二人は家に入ろうとしたが、扉をくぐるとすぐに鉢合わせる一分の七スケール木彫り上海人形はかなり通行の妨げになった。
その翌日。メディスンがソファに座って何をするでもなくぼんやりしていると、階上から慌しげな足音とアリスの声が響いた。
「メディ!私はやっぱり人形遣いになるわ!」
メディスンは億劫そうに視線を向けると言った。「もうなってるじゃない」
アリスは頷いた。「それはまあ、そうだけど。これからは改めて人形遣いとしての道を究めようと思ったとか、そういう意味よ」
「だったら別にいちいち言いに来なくてもいいよお」
メディスンは面倒臭げな口調を隠そうともしなかったが、やはりアリスは人の話を聞かなかった。
「言葉にしないと伝わらない想いってあるわよね」
「あー、はいはい」
それからアリスは楽しげに鼻歌を口ずさみながら針と布を持って人形に着せる服の製作を始めた。
その様子を黙って眺めるメディスンは、「これでしばらくは大人しくなってくれるといいけど」なんてありえないことを願った。
「せめて二つ三つくらいに趣味は絞るべきだわ。ただでさえ人形遣いだ魔法使いだとわけわかんないのに」
そしてこれからは遊んでばかりいないで、もっと世のため人のため私のためになる実益重視のことをやるべきだと思った。人形とか、人形とか、料理とか、人形とかだ。
それから数十分後、メディスンは飲み物を取りに一旦席を離れた。喉を潤し、渡したコップを洗ってくれた人形にお礼を言ってリビングへと戻ると、針を筆に持ち替えたアリスが真っ白のカンバスを前に立っていた。
「『人形遣いとしての道を究める』とかなんとか言ってからいくらも経ってないわよ!」
メディスンは憤慨した。数分前の自分はやはりバカだったと思った。
「気分転換よ、気分転換。人形遣いたるもの絵の一つも描けなければならないわ。メディ、モデルになってくれないかしら」
「えっ、絶対嫌だ」
「つれないわね、まったく」
アリスはそれだけ聞くと大きな肩かけ鞄に道具をまとめ、カンバスを人形に運ばせて家を出ていこうとした。
「どこいくの?」
「誰か暇そうな奴でも探しに行くわ。なんとなく人物画の気分なの」
「ふうん。いってらっしゃい」
メディスンはぷらぷらと手を振って見送った。アリスはそれに振り向くと「夕方くらいにはうあいたっ」と意味のわからない事を言った。
それからドタドタと転げたような慌しい音がした。目を逸らした合間に玄関に置きっぱなしの木彫り上海とぶつかったらしかった。
アリスは先刻言った通り夕方頃に戻ってきた。
「あれっ、絵を描いてきたんじゃないの」
出がけには持っていたはずの大きな白いカンバスがどこにも見えないのを訝って、メディスンは尋ねた。
アリスは疲れ切った様子で肩を落として、「いろいろあってね」と言った。
「はあ。いろいろ」
「ええ。いろいろ」
メディスンは言った。
「どうせ、外に出たはいいけど急にやる気無くなって面倒になったからやめたとかそんなんでしょう」
アリスは目に見えて狼狽し、声を詰まらせた。「な、なぜそれを……」
「ゴミを外にポイ捨てしてはないでしょうね?あの絵を描くやつのことよ」
「カンバス?それなら弾幕ごっこに使ったらコナゴナに壊れちゃったわ」
「……なるほど。いろいろあったっていうのはほんとらしい」
アリスは鞄を投げ出し人形に運ばせ、ソファに腰を下ろした。それから新たに取りだした人形を操って紅茶を淹れさせた。
「やっぱり絵はシラフで描けるものじゃないわね。難しいわ」
「だからって、また変なクスリに手を出したりしないでよ」メディスンもアリスの向かいに座った。
「あー、ええ、それはもう。それに私、どちらかといえば自分で使うよりも仕入れてサバくほうが性に合ってるのよね」
「……やらないでよ?」
メディスンはそれを横目に睨んだ。
「ふ、私は都会派なのよ」
妙な言葉で誤魔化して、アリスは立ち上がった。
カップを片付け、キッチンのあちこちをうろついたり冷蔵庫を開け閉めしたりと忙しく動いているアリスが言った。
「しかし、まだ私の中に発散しきれなかった創作意欲が燻っている気がする。今日のディナーは気合入れるわよ」
「わあい、一生燻ったまんまでいてくれたらいいのに」
しかしあまりにも気合を入れすぎた為か、和洋中からデザートまでの様々な皿はテーブル一つに載せきれないほどの数にまで及んだ。
何に取り憑かれているのかアリスは「ちょっと作りすぎかしら」などと言いながらも包丁を握る手を休めない。メディスンの必死の制止も人形を操るアリスの手数にはまったく歯が立たなかった。
「ふう、材料を全部使い切ってしまったわ。気合が入りすぎるのも困りものね」
「……うっわあ」
そして出来上がったのは文字通りの山だった。アリスは全く反省の様子を見せずやりきった表情すらしている。
当然二人だけで食べきれるはずもなく、アリスは人形を使って森に住む妖精や妖怪や普通の魔法使いなどを片っ端から拉致し、連れてきたそばから無理矢理に料理を口に突っ込んでなんとか全ての皿を空けた。食事が暴力になることもあるのかと客人達は戦慄した。
皿の山を切り倒す作業に少なからず協力して最早喋る気力すら残っていないメディスンは、「そういえば私の身体には胃袋その他の器官は無いはずだけど大丈夫なんだろうか」などと考えながら、てきぱきと大量の洗い物を片付けるアリスの背中を眺めていた。
カレーの海に溺れ、スパゲティの竜巻に呑まれ、揚げ物の山に埋もれ、煮えたぎる味噌汁と極寒シャーベットの地獄を潜り抜け、迫る緑黄色野菜兵団を魚の小骨ランチャーでなぎ倒し、果物航空艦隊の種爆弾攻撃をピッツァ・シールドで耐え忍び、ツナ=フレーク大佐率いる缶詰・レトルト・インスタント連合との全面戦争を目前に控えたその時、天ぷら油に滑って転んで杏仁豆腐の崩れた豆腐の角に頭をぶつけて死ぬ、という一連の意味不明な悪夢からメディスンは目覚めた。
「ふっ、この程度。アリスのやることなすことのほうがよっぽど意味わかんないわよ」
自分の見た夢に対して妙な勝利意識を抱きながら、メディスンは着替えてリビングへと向かった。
昨夜は皿の数々でぎちぎちだったテーブルに、今度はソフト素材の人形が山になって積み重ねられていた。その向こうにかろうじてアリスの姿が見えた。
「おはよう。今日は遅かったのね」足音で気付いたのか、まともに顔も見えないままアリスが声をかけた。
「え、今何時」メディスンは時計を探した。「……もうすぐお昼じゃない。起こしてよ」
「私も夢中になっちゃって」言いながらまた一つ人形を重ねた。
メディスンは一見無造作に積まれただけの人形の山を眺めた。人形遣いなのだから人形を作ってもおかしくはないけれど、なんとなく変に思った。
「どうしたのよ、こんなにむちゃくちゃ作って」
「もちろん、壊すためよ」
「……今なんて?」
自分が寝ぼけているだけだろうと思い、聞き返すとアリスは言った。
「盛大にバクハツさせるために作っているのよ。目標二百体」そしてまた一つ人形を重ねた。
以前からメディスンは思っていたことがある。こいつ、ほんとうは人形がキライなんじゃないだろうか。
「あのさー、前から言ってるんだけどさー、なんだって人形を爆弾代わりにしてるわけよ?人形遣いなんでしょう。それに、これからは人形遣いの道を究めるだとか言ってたでしょう。もっと人形を大事にしてくれてもいいじゃない」
メディスンが至極もっともなことを言うと、アリスは口を尖らせた。
「ただの人形遣いではないわ。七色の人形遣いよ」それに、と加えた。「人形を大事にしていないわけではない」
『七色』の部分は自分で言ってるだけじゃないかとメディスンは思った。「だったら爆発させるのやめてよ」
「それはできないわ。なぜなら私は七色の人形遣いだから」
話にならなかった。何を言ってるのかもメディスンにはわからなかった。
「破壊なくして何かを生み出すことはできない。悲しい現実よね」
「作った後に壊してどうするのよ」
「あら、芸術は爆発よ。つまり爆発、破壊こそが創造の究極であるとみた」
「それを言ったら何でも許されると思ったら大間違いだ!」
しかしいろいろ言ったところで、メディスンは目前の人形達を助けるつもりにはなれなかった。流石に腹の中に火薬を詰めた相手と友達にはなれない。
ただ黙って、一つまた一つと積み重ねられてゆく人形を見守るだけだ。
食欲が湧かなかったので、メディスンは昼食に一つのカップラーメンをアリスと分けて食べた。最近カップ麺ばかり食べているような気がした。
両手で人形を作りながら箸を人形に持たせ麺を口へ運ぶなんて行儀の悪いことをやっていたアリスは、今しがた完成させた人形を山のてっぺんに置くと大きく伸びをして言った。
「うん、まだ目標の数の半分ほどだけど、これくらいにしておきましょうかね」
それから玄関に向かって歩き出すと、テーブルの上の人形達も山の上から続々と並んで飛び立った。どことなく作りの粗い爆弾人形達が文句も言えずにアリスの後を追うその光景はメディスンにとって直視に堪えないものだったが、それでも見届けるくらいはと思いついて行くことにした。
魔法の森を抜け数分ばかり歩き、アリスとメディスンと百体の人形達一行は小高い丘の上に立った。アリスはまばらな雲の散らばる青空を見上げ、「うん、素晴らしい爆発日和だわ」とふざけたことを言った。
糸を通じて指令を受けた人形達はアリスとメディスンの前に整列し、後は爆発の時を待つばかりとなった。
「さて、先陣を切るのは誰にしようかしら」並んだ人形の一団を見回すと、首を捻ってアリスは考えた。メディスンにはどれも同じに見えたのでなんでもいいんじゃないかと思った。
人形達の集団のほぼ中心に浮かんでいた一体の人形が、丸い手を高く揚げた。
「うむ、その心意気やよし」
メディスンはアリスの自作自演の茶番を冷めた目で眺めた。「自分で挙げさせたくせに」
アリスはそれを聞き流し、指を空へと向け声を張った。
「出撃!」
アリスの声を受けて一体の人形が空へ向かった。鳥よりも速く、山よりも高く、ただひたすら遠くへ遠くへと飛ぶ人形の姿はだんだんと小さくなり、やがて晴天の中に一瞬だけ輝く星となった。わずかな音も届かなかった。
アリスとメディスンと九十九体の人形達は雲の合間に彼の人形の残した痕跡を探したが、空は何一つ変わっていなかった。
ふう、とアリスは一つ息を吐いた。
「なんか、もう満足してしまったわ」
未だ九十九もの人形が所在なさげに佇んでいた。「どうするのよ、じゃあ」とメディスンは言った。
「そうね、ええと。うん」
満足したというよりは“なんか面倒くさくなった”とでも言いたげな風情でアリスは人形達をまとめて浮かせ、掲げた右手の指を「ぱちり」と鳴らした。
その音がメディスンの耳に入ってから一拍置いて、九十九もの人形はまとめて粉微塵になった。風にたなびく煙を手で払い、「さあ、帰りましょうか」とアリスは背を向けた。
あまりにも無残な結末を迎えた人形達の事は考えまいと頭を振って、メディスンはアリスを追いかけた。それから「わざわざ指パッチンした意味はあったのだろうか、いやない」と自分でもどうでもいいとわかるようなことを一人呟いた。
翌日もそのまた翌日もアリスは自律人形の完成を目指す傍らで大真面目に滅茶苦茶をやり、相変わらずの悪質な趣味掛け持ち癖に改善の兆しは見られなかった。おまけに肝心の人形遣いとしてはこれっぽちも進歩していないように思えた。
メディスンは片手にアリスの人形を弄びながら言った。
「ねえ、そんなことばかりしているからいつまでたっても自律人形ができないんじゃないの?」
扉が開いたままの工房部屋の奥でひっきりなしに手を動かしていたアリスが、道具を置き作業を終えると人ひとり分ほどの丈のある物体を抱えて飛び出してきた。
「ようやく完成したわ、有線誘導ロケットアームと胸部ミサイルランチャ、その他光学兵器もろもろを搭載した進化彫刻人形!対侵略拠点防衛木造機『一分の七スケール木彫り上海人形戦闘仕様改良型』よ!」
見た目には違いがわからずメディスンは首を傾げたが、あまり深く話を聞くと間違いなく長くなりそうだったのでやめた。そしてわざわざここで説明してもらわなくてもそのうち知る羽目になるのはわかりきっていた。
「ふーっ、きっちり一仕事終えた後は気分がいいわね。……そういえば、さっき何か言わなかった?」
「いや、なんでも」
木彫り上海は再度玄関に配置された。扉の前に堂々と立つ木像を眺めて満足そうにアリスは頷いた。ど真ん中に置かれているのにあまり通行の邪魔にならないのは、人形達があくせく働いて玄関前の廊下を広く作り直したからだ。そのためにメディスンの部屋が少し狭くなった。
「気分がいいついでに、新しい人形製作にでも取りかかってみましょうかね」
「へえ、やっと人形を。でも自律人形じゃなくて?」
「ええと、自律人形の方は、そのうち……」アリスは目を逸らした。「そうだわ、爆風ではなく硬素材の破片でのダメージを狙ったフラググレネード人形なんていいんじゃないかしら!炸裂地点ギリギリで回避できればカスリ点がものすごいことになるわよ」
メディスンはアリスの頭に向かって持っていた人形を投げつけた。
「あいたっ」
なんだ、これは爆発しないのか、とメディスンは残念に思った。
「なにをするのよ、もう」額を押さえてアリスが呻いた。
「こっちのセリフだわ、あんたは人形をなんだと思っているのよ!」
「失敬な。私は七色の人形遣いよ?当然、私は人形を愛しているわ」
「アリスの愛は歪みすぎて悪ふざけにしか見えない」
「ふむ、褒め言葉と受け取ってもいいのかしら」
「……あー、もう、いいよ、それで」
メディスンは諦めたように溜息を吐いた。もうこんなヤツの相手をするのはゴメンだと思った。
「あら、どこへ行くの?もうお昼の用意が出来てるわよ」
「えっ、いつの間に」
「食べるでしょう」
「……うん」
それから昼食にアリス手作りのハンバーグステーキを食べた。とてもおいしかったので、メディスンは「人形遣いとしては正直ダメダメに違いないけど、まともに料理ができるうちは好きにさせていいや」と開き直り半分に思った。それから付け合わせに苦手な野菜が多すぎると文句を言った。
「そうだ、そういえば最近デザートを食べていなかったわ。ねえ、用意しておいてよ」
「注文が多いわね。ま、いいわ。七色の人形遣いに不可能は無い」
「もう七色の料理人とかでもいいと思うよ、私は」
それを聞くとアリスは顔を輝かせ、今のは失言だったかとメディスンは後悔した。でも食後の桜桃シャーベットはおいしかった。
このアリスは絵本を作ればかなりいい線いくんじゃないだろうか…。
メディがこのまま仙人にでもなってしまうんじゃないかw
でも餌付けされてるうちは安心かな?
>>カレーの海に溺れ~という一連の意味不明な悪夢からメディスンは目覚めた。
「ふっ、この程度。アリスのやることなすことのほうがよっぽど意味わかんないわよ」
貴方のアリス像をよく表してるかと(ry
相変わらずの感じで面白かったです
何も考えずに手癖で書いてそう
このはっちゃげたアリスが好きな人は楽しく読めるんだろうけど
それ以外の人が読むにはキツイ
説明もなしにメディとアリスが同棲してる辺り新規さんお断りなんじゃないかと思った
楽しく読ませて貰いました。終始ニヤニヤしながら。
最後の昼食は、さりげなくフラグ回避したって事で良いんですかね?
自分の中のメディスンのイメージがツッコミ役になったのは間違いなくほんまぐろさんの影響です
ただ、あまりに一本調子過ぎて最後の方がだれてきました。
ずっとテンションが高いままでは疲れるので少しぐらい休憩が欲しいかな、と
突拍子もないアリスさんとツッコミメディの関係が、とても心地よく読めました。
面白かったです!
アリスが日々楽しんで生きているのはすぐに分かるけど、メディの方もまんざらではなくなってきてるような……。
いいえ、あなたの書くアリスはこれでよいのです。
きっと、神的な何かからのお告げだったのでしょう。
にしても、アリスにとってメディスンはいったい何なのか。
そしてまともに見えてその実どうしても残念に思えて仕方のないメディがかわいいったらありゃあしませんね!
なんか不思議な感じでした
結局、繰り返しに終始してしまった感じ。
これからも新作、期待してます!。