妖怪の山の奥の奥、天狗しか近づかないカフェーで射命丸文はため息を漏らしていた。
度重なる捏造記事が祟ったのか、それとも捏造する想像力を買われてしまったのか、新聞部門から新設されたテレビドラマ部門に飛ばされてからまもなく一年。かつての花形部署のエース記者の面影は無く、すっかりやつれた烏天狗の姿がそこにはあった。
丸いテーブルに突っ伏すようにして横を見ればウエイトレス天狗の短いスカートがヒラヒラと揺れているのが目に入る。文の数少ない娯楽の一つだ。
昔はパパラッチまがいにスカートの中を追いかけ回ってたけな。
思い出ばかりが蘇る。
文が配属されたのはサスペンスドラマ枠の係だった。
テレビが幻想郷に普及してから2年、東風谷早苗監修の元放送された特撮戦隊シリーズと非想戦士テンソクシリーズは低視聴率で打ち切りが決まった。特撮戦隊シリーズの最終タイトル『星蓮戦隊ミョーレンジャー』は子供達だけでなく大人層を取り込もうとして正体不明の助っ人『ミョーレンブラック』と敵の総帥『宇宙海賊ムラサ』の余分な恋愛シーンを盛込んでしまったがため、一部の熱烈なファンを喜ばせただけでおおごけしてしまった。総監督の早苗は「外の世界でもよくある事だった」と言っていたがそのせいでテレビ事業の主導権は八坂神奈子に渡った。その神奈子が言いだしたのがサスペンスドラマだった。
「先輩!お待たせしましたッ!」
笑顔で駆けてきたのは文の少なくない友人の1人、犬走椛だった。
文が顔をあげると椛は文と同じテーブルに座ってウエイトレス天狗にコーヒーをホットで注文した。
熱いの苦手じゃないんだ……。あ、それは猫か。
ぼんやりとそんな事を思う程に文の思考力は低下していた。
「どうしたんですか?文さん顔色がよくありませんよ」
「あぁ……、大丈夫、最近はいつもこれだから」
そう言って文は自分のすっかり熱を失ったコーヒーを喉に流し込んだ。冷めたコーヒーは予想以上に不愉快で吐き気すら催したが眠気をとってくれる事は無かった。
寝不足の原因は仕事のしすぎであった。特に年度末が近付き文のテレビドラマ部門は多忙を極めていた。半期ごとにやってくる連続ドラマの切り替えだ。
水曜9時枠と木曜8時枠の最終回二時間スペシャルの脚本を書いたと思ったら来期の新シリーズの企画立案、さらに初回15分拡大版の撮影という大仕事が待っていた。ついでに言えば他の曜日にも『巫女猫ホームズ』というタイトルで手を出すという話を小耳に挟んだが、そちらには原作があるらしくノータッチだ。
幸いな事に木曜8時枠の企画はすでに出来上がっている。神奈子肝いりで持ち込んできた『風祝の女』である。
ただし文には不安があった。
主演の東風谷早苗はハチャメチャなキャラクターでドラマ映えするのだが、その明るさが殊サスペンスドラマには向いていなかった。
昨年放送したサスペンス枠の記念すべき最初の連続作品『博麗の巫女の事件簿』は、物珍しさもあり毎週高視聴率を叩きだしていた。が、上層部の意向でライバルキャラとして早苗を登場させてから緩やかな下降を始めてしまう。結局放送終了後に制作サイドの責任とされて上役何人かの首が飛び、その後釜として文が繰り上がり昇格を果たしたのだ。
またも早苗がやらかしてくれれば次に飛ぶ首は文自身だ。
あぁ、でもそしたらこの忙しさからは解放されるかもね。
「あーやーせーんぱーい!」
椛の自分を呼ぶ声に文は陰鬱な思考の海から解放された。
「ああ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「私のコーヒー飲みますか?カフェインは脳の働きを助けてくれるそうですよ」
文の口の中に先程の不愉快な味が蘇る。
「いいえ、遠慮しとく」
「そうですか?」
ちょうど運ばれてきたコーヒーに椛は砂糖をこれでもかという程入れてかき混ぜた。その光景にげんなりとした文は視線を手元の紙に落とす。
『お嬢様刑事』と書かれた簡素な企画書。椛が描いたレミリア・スカーレットの似顔絵が良くできていた。
「どうですか?私の企画」
湯気の立つカップを手のひらで包みながら、椛は期待のこもる眼差しで見つめてきた。
似顔絵しか見ていなかった文は慌てて企画内容の文章に目を通した。
「ん、そこそこ面白いんじゃないですか」
「そこそこって何ですか」
「そこそこはそこそこですよ」
椛は頬を膨らませてカップに口をつけた。
「先輩が何かアイデア欲しいって言ったから考えてきたのに」
どうしても水曜9時枠のドラマのアイデアが出ない文は知人からアイデアを募っていた。椛は誰よりもその申し出に興味を示していた。これまで4作品の企画書が持ち込まれてきたが文のインスピレーションを刺激する物は現れなかった。
どれもありきたりで創造力が欠如している。
以前の文なら冗談半分にそう罵っていただろうが今はそんな気力すら湧かない。
「数撃てば当たるというものでもないし、あんまり面白くないもの放送してもね」
「それもそうですけど……」
「なんせ『是非曲直庁ふたりだけの幻想郷係』の後番組なんだから、視聴者の期待たるやすごいものがありますよ」
「確かにあの番組はすごく面白かったです。私も大好きでした」
「それはありがとう」
「あれって、文先輩が企画も脚本も作ったんですよね」
「そうよ」
「私もあんな面白いお話ができたらなぁ」
『是非曲直庁ふたりだけの幻想郷係』は文が今の地位になってから初めて制作したドラマだった。主演は四季映姫と小野塚小町。是非曲直庁の窓際部署、幻想郷係に左遷された小町と変わり者の上司、映姫が様々な難事件に挑むというドラマだ。幻想郷の成り立ちや普通ならば誰も立ち入らないようなタブーに触れた物語は放送開始直後から話題を集めていた。脚本は3人の分業制で文も3人の内の1人だ。今期まだ放送中であるにもかかわらず来々期シーズン2の制作が決定している。
「あの作品は新聞記者の経験があったから書けたものです」
もしも今後さらにヒットするような事があればいつか自伝でも出そうか。
ふと時計を見ると思ったよりも時間が経っていた事に気付く。
「あぁ椛、悪いんだけどこれから収録があるのよ。行かなくちゃ。とりあえずこの企画書は預かっておくから」
「収録って何のですか」
「ふたりだけの幻想郷係よ」
「本当ですか!見学してもいいですか?」
椛は目を輝かせた。
邪魔さえされなければ見学ぐらいどうということはない。
「いいわよ」
「わぁ!ありがとうございます」
文が席を立つと椛は慌てて残ったコーヒーを飲みほした。
★☆★☆★☆★
この日の撮影は最終回のまさに最後のシーン。映姫と小町が犯人である洩矢諏訪子に推理を話すという場面だ。
「最初に言っておくけど、他の人に犯人教えたりとかしないでくださいよ」
「その辺は大丈夫です」
椛は台本を熱心に読んでいた。
文はこの回の脚本こそ書いたが演出などは全てその道の天狗に完全に任せていた。そんな事にまで手を出したら体がいくつあっても足りない。文は分身することなんてできないのだ。
そう言えば、前に4人に分身するスペルで捜査をかく乱するトリックを使ったなぁ。
昨日放送された回だった。レミリアの迫真の演技が凄まじかった事を記憶している。
もしかして椛はそれを見たからレミリアさんを主演にしたドラマの企画なんか……
傍らの椛はただただ熱心に台本と実際の撮影風景を見比べていた。
文はそれを冷めた目で眺めている。
そんなに面白いだろうか?
少なくとも文はこの現場が嫌いだった。
主演の四季映姫はとにかく口うるさい。現場の雰囲気はいつも険悪だ。椛はそれを知らないからあんなにはしゃいでいられる。
「お疲れ様でした!」
スタッフの1人が声をあげると他のスタッフがそれにつられて拍手をしていた。
どうやら収録が終わったようだ。スタッフが主演の2人に花束を渡していた。これで『是非曲直庁ふたりだけの幻想郷係』の撮影は全て終了という事になる。
この時ばかりは映姫も笑顔だった。
「うわぁ、やっぱり本物の現場は凄いですね!私感動しました」
「そう?」
「そうですよ。映姫さんが笑ってる所なんてドラマじゃ見た事ありません」
「そりゃあそうでしょうね。そういうキャラなんだから」
ドラマと現実の区別がつかなくなるのは大変危険な事だ。
その最たる例が命蓮寺だ。件の特撮『ミョーレンジャー』のせいでヒーローに憧れた多くの子供達が寺の門を叩いたという。しかしテレビの世界と現実は違う。画面の中ではミョーレンパープルだった聖白蓮も実際は修験の世界の者だ。ヒーローになりたいと願う子供達もまさか座禅を組む事になるとは思っても見なかっただろう。
アリス・マーガトロイドも現実と画面のギャップが激しい1人だ。
彼女はサスペンスの女王と呼ばれ、登場すれば8割の確率で犯人となるが、現実で向き合えばとても人当りがよく気立てのいい少女だ。それが画面の向こうでは包丁を持ってうすら笑いを浮かべるのだから世の中はわからない。
反対によく殺されるのはパチュリーとにとりだった。特にパチュリーは登場すれば100%死ぬ。というより死んだ姿でないと登場しない。これはパチュリーの大根役者ぶりが大いに関係していた。おまけに喘息でまともに台詞も読めない。そんな役者を使うために編み出した死人に口なし技法というやつであった。
死人としての演技はすでに円熟の粋に達していた。
ともかく幻想郷のお茶の間はドロドロの愛憎劇を期待しているのだ。
いつの間にか椛は映姫の所に駆けよって何やら話しこんでいた。
一ファンに対するサービスなのか、撮影が終わった安堵からか、映姫はカメラにも現場のスタッフにも見せないような朗らかな顔をしていた。
★☆★☆★☆★
家に帰った文はポストの中を確認した。毎週の放送が終わった後はいつもたくさんの手紙が文のもとに届く。放送翌日のポストのチェックはいつもの事になっていた。
そのうちの1通を開く。
『僕のフランちゃんが殺人なんて起こすわけない!レミフラちゅっちゅ!』
文は黙って手紙を破り裂いた。
実際の撮影現場ではレミリアとフランは決定的に仲が悪かった。撮影中に本当にレミリアを殺してしまうんじゃないのかとヒヤヒヤしたものだ。映姫も揃って場の空気は本当に最悪だった。あんな現場はもう経験したくない。
ポストの横に最近設置した焼却炉にファンレターの類と思われるものを全て放り込む。
と、撮影機材を持った天狗の一団が文の家の前を通るのが見えた。
そう言えばこの近くでロケがあるんだったっけ。
落ち目の道具屋店主のもとに娘を名乗る少女がやってくるというホームドラマだ。タイトルが何だったかは覚えていない。確か企画段階で過去に放送した『おじいちゃんは庭師』の盗作疑惑が持ち上がった作品だ。庭師のもとに孫と名乗る少女が来るという他にも様々な類似点が槍玉に上がっていた。
それでも撮影は挙行するようだ。
焼却炉に火のついたマッチを投げ入れると逃げるように家の中へと入って行った。
文が家に籠って十数分すると呼び鈴を鳴らす者がいた。玄関に出ると椛がニコニコと笑って立っていた。焼却炉からは予想以上に白い煙が出ている。
「先輩!来ちゃいました」
「何のようですか?」
「新しいドラマの企画を考えたんです」
「そう。入って」
期待はしていなかったが無碍に返すわけにもいかない。それにどんな些細なアイデアも取り入れるしかないようにも思えた。どうしても思い浮かばない水曜9時枠は確実に文の精神を蝕んでいた。
「で、今度はどんな話を考えてきたのかしら?」
椛はニッコリ笑って持参した企画書のようなものを文に手渡した。
『七曜魔女の事件簿』
主演:パチュリー・ノーレッジ
安楽椅子探偵形式
「なるほどね」
決して現場を見る事がなくても少ない手掛かりだけで謎を解き明かしてしまう安楽椅子探偵。出不精なパチュリーを事件に絡ませるのには絶好の材料である。となればパチュリーの元に事件を持ち込む役目は差し詰め魔理沙ということになる。
最終回の犯人はアリス。これは自動的に決定する事項だろう
「コンセプト的には面白いんだけどね」
「駄目……なんですか?」
「パチュリーさんは演技ができないんですよ」
「え?そうなんですか」
「死体の役以外でパチュリーさんを見た事ありますか?」
「……ないです」
「まぁ警備隊の椛には分からない事だったから知らなくてもしょうがないんですけどね」
すると馬鹿にされたと思ったのか椛は頬を膨らませた。
「私だってそのうちテレビドラマ部門に行きます」
「あれ?椛、新聞記者に憧れてたんじゃなかったのですか?」
「それは先輩が記者だったからです」
なるほどだから今はテレビドラマか。
正直にこれが左遷人事だとは言いだせなかった。
最も影響力を持ったメディアが新聞からテレビに移り変わっても妖怪の山は依然として旧態のまま新聞を重要と位置付けていた。伝統と言えば聞こえはいいが実態は守矢神社が持ち込んだ技術が気に入らないだけの縄張り争いに他ならない。
文は自分を革新的な天狗だとは思っていたが、遥か昔から新聞記者であったし今でも新聞記者でありたいとも思っていた。今でもたまに自費で出版する文々。新聞は文の意地であった。姫海棠はたてに大きな顔をされるのはたまらなく屈辱だった。
「まぁアイデアは面白かったから次に期待ね」
「本当ですか!やっぱり映姫さんのおかげかな」
「まさか入れ知恵だったんですか?」
「アドバイスだけもらいました。『誰もやった事の無い事をやりなさい』って」
それでまずまずなアイデアが浮かんだんだから大したものだ。
「じゃあ私からもアドバイス。椛は業界の事は詳しくないから誰を主演にするとか考えずにアイデアだけ斬新なものを考えなさい」
「はい!憧れの文先輩からアドバイス貰えるなんてッ!」
椛は喜び勇んで文の家のソファーに座ったまま頭を捻り始めた。
まだ帰る気はないのね……。
文としては正直少し迷惑であった。
椛が文の後を追いかけるようになったのは何時の頃からだろうか。
カメラを片手に記事のネタ探して幻想郷中を飛び回っていた頃はそんな事気にも留めなかった。ただその頃から椛はカメラを買ったり、いつか記者になると豪語していた。文としても悪い気はせずに可愛がっていたが、今の自分に憧れる椛は不愉快極まりなかった。
それでも文は都合のいい存在として椛が後をついてくるのを許した。
いや、それは罪悪感からかもしれない。
文は頭の中で何度も椛を殺していた。もちろん憎いわけではない。サスペンスの脚本作りのためだ。あの時はにとりが椛を殺すという内容の話だった。2人とも嬉々としてその役を演じた。いつもアリスに殺される役だったにとりも意外に殺人者の役がはまっていて視聴者を驚かせた。
『また殺させてくださいね』
冗談めかして笑うにとりの顔が頭から離れない。
それからも椛は文の脳内で何度も殺された。はたてに殺され、早苗に殺され、雛に殺され、秋姉妹に殺され、その全てがボツとなっても決して自分が椛を殺す場面だけは想像しなかった。
とりあえず、もらった企画書を片付けようと机の引き出しを開けた。
企画書を放り込もうとした引き出しはかつてはネガを入れていた引き出しだった。すっかりとドラマの企画書だらけになっていた引き出しを見た文は思わずトイレに駆け込む。
ゲェ、ゲホ、ゲホッ
込み上げてくる物を便器の中に吐きだす。
文々。新聞は自費制作の趣味新聞になってからも発行部数を減らす事は無かった。むしろ喜ばれるようになっていた。だが、読者が求めるのは流行りのサスペンスドラマの脚本家としての文だった。誰もが文に興味を持った。文の書く記事は昔と変わらなかった。皆が求めているのはサスペンスに関する記事でしかないと気付いた時、文は迎合するように記事を書いた。読者は熱狂した。
新聞に寄せられる投書は次第にドラマの感想になって行った。送られてきたファンレターは全て焼いた。
ゴホ、ゴホ、ゲホッ
喉を締め付けられるような苦しさに涙が零れる。
文の脳裏にいつかのアリスが浮かんだ。
文がアリスの所に出演のオファーを出しに行った時彼女は語った。
『パチュリーもにとりも私は殺したくなんかない。本当は殺したくないのに……』
文は聞いていないふりをして台本を渡した。魔理沙を殺すという内容だった。
画面の向こうで、映姫が真相を告げてアリスを非難する時のアリスの涙の演技は今期最高の演技だと高い評価を得た。
コックを捻れば吐きだしたものは流されていった。それと一緒に気分が少しだけ晴れたような気がした。
口を濯いでトイレから出た文を椛がニコニコとしながら待っていた。
「先輩!閃きましたよ閃きました!」
「どんな話?」
「実は探偵役が犯人って話です」
「ペテンじゃないですか」
「殺人を犯した犯人が証拠や動機をねつ造しながら他の人に罪をなすりつけて行くお話です」
「確かに斬新ではあるけれど視聴者が望んでいるのは勧善懲悪。そんな胸糞が悪くなる話誰も望んでいなですよ」
文は自分の嫌悪する部分が自分を塗り潰して行くのを感じた。それなのに何だか悪い気はしない。さっきトイレで吐きだしたからだろうか。
妙に冷静な頭で椛に反論する。
「第一、証拠や動機を捏造するなんて簡単にできる事じゃないですよ。リアリティがありません」
「えーそうですか?でも先輩ならできますよ」
「私なら?」
「だって文先輩今までずっと幻想郷の誰かを誰かに殺させてきたじゃないですか」
あぁ、そうだった。そうだった。
霊夢も魔理沙もレミリアもパチュリーも咲夜も美鈴もチルノもルーミアも妖夢だって紫だって慧音だって鈴仙だってさとりだってこいしだって殺してきた。
アリスに幽々子にルナサに妹紅にフランに藍やにとりやリグルやお燐や一輪や屠自子や
幽香まで殺人犯に仕立て上げてきた。
自分なら可能なんだ。椛が持ち込んできた突拍子のないアイデアも。
文は至って冷静だった。
「ありがとうね……椛」
「……先輩?」
結局椛は文にとっていつまでも都合のいい存在でしかなかった。なんどもなんども殺して来た。それは今も変わらず。
「私にしかできない。私にしか……」
呪詛のように呟きながら椛の首に手をまわす。
文はとうとう初めて椛を殺した。
★☆★☆★☆★
半年後
文は偶々用事があって人間の里に来ていた。
「あれ?文じゃないか」
向かいから歩いてきた霊夢と魔理沙。軽く会釈した。
「どうも」
「ドラマ見たわよ。犯人が罪をなすりつけて行くやつ」
「霊夢さんテレビ買うお金あったんですね」
「相変わらず嫌味な奴ね」
「私の家にまで来て見てたんだぜ。面白いからって」
「わざわざありがとうございます」
「でも最後がちょっとねー」
ピクッと動いた目元に霊夢も魔理沙も気付かない。
「ああ、犯人が捕まらないって結末は私もどうかと思うぜ」
魔理沙も霊夢に同調するように頷く。
「……しょうがないじゃないですか。だってまだ……」
最後の言葉は殆ど消え入りそうで霊夢達には聞こえなかった。
「今何か言った?」
「……いえ、じゃあ私はこれで」
立ち去って行く文を見送りながら霊夢は
「ねえ、文なんかおかしくない?」
「そうか?」
「なんか……やつれたって言うか、何かに追われてるような感じ」
「あいつも今や人気サスペンス脚本家だからな。〆切とか色々追われてるんだろ」
魔理沙は笑った。
度重なる捏造記事が祟ったのか、それとも捏造する想像力を買われてしまったのか、新聞部門から新設されたテレビドラマ部門に飛ばされてからまもなく一年。かつての花形部署のエース記者の面影は無く、すっかりやつれた烏天狗の姿がそこにはあった。
丸いテーブルに突っ伏すようにして横を見ればウエイトレス天狗の短いスカートがヒラヒラと揺れているのが目に入る。文の数少ない娯楽の一つだ。
昔はパパラッチまがいにスカートの中を追いかけ回ってたけな。
思い出ばかりが蘇る。
文が配属されたのはサスペンスドラマ枠の係だった。
テレビが幻想郷に普及してから2年、東風谷早苗監修の元放送された特撮戦隊シリーズと非想戦士テンソクシリーズは低視聴率で打ち切りが決まった。特撮戦隊シリーズの最終タイトル『星蓮戦隊ミョーレンジャー』は子供達だけでなく大人層を取り込もうとして正体不明の助っ人『ミョーレンブラック』と敵の総帥『宇宙海賊ムラサ』の余分な恋愛シーンを盛込んでしまったがため、一部の熱烈なファンを喜ばせただけでおおごけしてしまった。総監督の早苗は「外の世界でもよくある事だった」と言っていたがそのせいでテレビ事業の主導権は八坂神奈子に渡った。その神奈子が言いだしたのがサスペンスドラマだった。
「先輩!お待たせしましたッ!」
笑顔で駆けてきたのは文の少なくない友人の1人、犬走椛だった。
文が顔をあげると椛は文と同じテーブルに座ってウエイトレス天狗にコーヒーをホットで注文した。
熱いの苦手じゃないんだ……。あ、それは猫か。
ぼんやりとそんな事を思う程に文の思考力は低下していた。
「どうしたんですか?文さん顔色がよくありませんよ」
「あぁ……、大丈夫、最近はいつもこれだから」
そう言って文は自分のすっかり熱を失ったコーヒーを喉に流し込んだ。冷めたコーヒーは予想以上に不愉快で吐き気すら催したが眠気をとってくれる事は無かった。
寝不足の原因は仕事のしすぎであった。特に年度末が近付き文のテレビドラマ部門は多忙を極めていた。半期ごとにやってくる連続ドラマの切り替えだ。
水曜9時枠と木曜8時枠の最終回二時間スペシャルの脚本を書いたと思ったら来期の新シリーズの企画立案、さらに初回15分拡大版の撮影という大仕事が待っていた。ついでに言えば他の曜日にも『巫女猫ホームズ』というタイトルで手を出すという話を小耳に挟んだが、そちらには原作があるらしくノータッチだ。
幸いな事に木曜8時枠の企画はすでに出来上がっている。神奈子肝いりで持ち込んできた『風祝の女』である。
ただし文には不安があった。
主演の東風谷早苗はハチャメチャなキャラクターでドラマ映えするのだが、その明るさが殊サスペンスドラマには向いていなかった。
昨年放送したサスペンス枠の記念すべき最初の連続作品『博麗の巫女の事件簿』は、物珍しさもあり毎週高視聴率を叩きだしていた。が、上層部の意向でライバルキャラとして早苗を登場させてから緩やかな下降を始めてしまう。結局放送終了後に制作サイドの責任とされて上役何人かの首が飛び、その後釜として文が繰り上がり昇格を果たしたのだ。
またも早苗がやらかしてくれれば次に飛ぶ首は文自身だ。
あぁ、でもそしたらこの忙しさからは解放されるかもね。
「あーやーせーんぱーい!」
椛の自分を呼ぶ声に文は陰鬱な思考の海から解放された。
「ああ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「私のコーヒー飲みますか?カフェインは脳の働きを助けてくれるそうですよ」
文の口の中に先程の不愉快な味が蘇る。
「いいえ、遠慮しとく」
「そうですか?」
ちょうど運ばれてきたコーヒーに椛は砂糖をこれでもかという程入れてかき混ぜた。その光景にげんなりとした文は視線を手元の紙に落とす。
『お嬢様刑事』と書かれた簡素な企画書。椛が描いたレミリア・スカーレットの似顔絵が良くできていた。
「どうですか?私の企画」
湯気の立つカップを手のひらで包みながら、椛は期待のこもる眼差しで見つめてきた。
似顔絵しか見ていなかった文は慌てて企画内容の文章に目を通した。
「ん、そこそこ面白いんじゃないですか」
「そこそこって何ですか」
「そこそこはそこそこですよ」
椛は頬を膨らませてカップに口をつけた。
「先輩が何かアイデア欲しいって言ったから考えてきたのに」
どうしても水曜9時枠のドラマのアイデアが出ない文は知人からアイデアを募っていた。椛は誰よりもその申し出に興味を示していた。これまで4作品の企画書が持ち込まれてきたが文のインスピレーションを刺激する物は現れなかった。
どれもありきたりで創造力が欠如している。
以前の文なら冗談半分にそう罵っていただろうが今はそんな気力すら湧かない。
「数撃てば当たるというものでもないし、あんまり面白くないもの放送してもね」
「それもそうですけど……」
「なんせ『是非曲直庁ふたりだけの幻想郷係』の後番組なんだから、視聴者の期待たるやすごいものがありますよ」
「確かにあの番組はすごく面白かったです。私も大好きでした」
「それはありがとう」
「あれって、文先輩が企画も脚本も作ったんですよね」
「そうよ」
「私もあんな面白いお話ができたらなぁ」
『是非曲直庁ふたりだけの幻想郷係』は文が今の地位になってから初めて制作したドラマだった。主演は四季映姫と小野塚小町。是非曲直庁の窓際部署、幻想郷係に左遷された小町と変わり者の上司、映姫が様々な難事件に挑むというドラマだ。幻想郷の成り立ちや普通ならば誰も立ち入らないようなタブーに触れた物語は放送開始直後から話題を集めていた。脚本は3人の分業制で文も3人の内の1人だ。今期まだ放送中であるにもかかわらず来々期シーズン2の制作が決定している。
「あの作品は新聞記者の経験があったから書けたものです」
もしも今後さらにヒットするような事があればいつか自伝でも出そうか。
ふと時計を見ると思ったよりも時間が経っていた事に気付く。
「あぁ椛、悪いんだけどこれから収録があるのよ。行かなくちゃ。とりあえずこの企画書は預かっておくから」
「収録って何のですか」
「ふたりだけの幻想郷係よ」
「本当ですか!見学してもいいですか?」
椛は目を輝かせた。
邪魔さえされなければ見学ぐらいどうということはない。
「いいわよ」
「わぁ!ありがとうございます」
文が席を立つと椛は慌てて残ったコーヒーを飲みほした。
★☆★☆★☆★
この日の撮影は最終回のまさに最後のシーン。映姫と小町が犯人である洩矢諏訪子に推理を話すという場面だ。
「最初に言っておくけど、他の人に犯人教えたりとかしないでくださいよ」
「その辺は大丈夫です」
椛は台本を熱心に読んでいた。
文はこの回の脚本こそ書いたが演出などは全てその道の天狗に完全に任せていた。そんな事にまで手を出したら体がいくつあっても足りない。文は分身することなんてできないのだ。
そう言えば、前に4人に分身するスペルで捜査をかく乱するトリックを使ったなぁ。
昨日放送された回だった。レミリアの迫真の演技が凄まじかった事を記憶している。
もしかして椛はそれを見たからレミリアさんを主演にしたドラマの企画なんか……
傍らの椛はただただ熱心に台本と実際の撮影風景を見比べていた。
文はそれを冷めた目で眺めている。
そんなに面白いだろうか?
少なくとも文はこの現場が嫌いだった。
主演の四季映姫はとにかく口うるさい。現場の雰囲気はいつも険悪だ。椛はそれを知らないからあんなにはしゃいでいられる。
「お疲れ様でした!」
スタッフの1人が声をあげると他のスタッフがそれにつられて拍手をしていた。
どうやら収録が終わったようだ。スタッフが主演の2人に花束を渡していた。これで『是非曲直庁ふたりだけの幻想郷係』の撮影は全て終了という事になる。
この時ばかりは映姫も笑顔だった。
「うわぁ、やっぱり本物の現場は凄いですね!私感動しました」
「そう?」
「そうですよ。映姫さんが笑ってる所なんてドラマじゃ見た事ありません」
「そりゃあそうでしょうね。そういうキャラなんだから」
ドラマと現実の区別がつかなくなるのは大変危険な事だ。
その最たる例が命蓮寺だ。件の特撮『ミョーレンジャー』のせいでヒーローに憧れた多くの子供達が寺の門を叩いたという。しかしテレビの世界と現実は違う。画面の中ではミョーレンパープルだった聖白蓮も実際は修験の世界の者だ。ヒーローになりたいと願う子供達もまさか座禅を組む事になるとは思っても見なかっただろう。
アリス・マーガトロイドも現実と画面のギャップが激しい1人だ。
彼女はサスペンスの女王と呼ばれ、登場すれば8割の確率で犯人となるが、現実で向き合えばとても人当りがよく気立てのいい少女だ。それが画面の向こうでは包丁を持ってうすら笑いを浮かべるのだから世の中はわからない。
反対によく殺されるのはパチュリーとにとりだった。特にパチュリーは登場すれば100%死ぬ。というより死んだ姿でないと登場しない。これはパチュリーの大根役者ぶりが大いに関係していた。おまけに喘息でまともに台詞も読めない。そんな役者を使うために編み出した死人に口なし技法というやつであった。
死人としての演技はすでに円熟の粋に達していた。
ともかく幻想郷のお茶の間はドロドロの愛憎劇を期待しているのだ。
いつの間にか椛は映姫の所に駆けよって何やら話しこんでいた。
一ファンに対するサービスなのか、撮影が終わった安堵からか、映姫はカメラにも現場のスタッフにも見せないような朗らかな顔をしていた。
★☆★☆★☆★
家に帰った文はポストの中を確認した。毎週の放送が終わった後はいつもたくさんの手紙が文のもとに届く。放送翌日のポストのチェックはいつもの事になっていた。
そのうちの1通を開く。
『僕のフランちゃんが殺人なんて起こすわけない!レミフラちゅっちゅ!』
文は黙って手紙を破り裂いた。
実際の撮影現場ではレミリアとフランは決定的に仲が悪かった。撮影中に本当にレミリアを殺してしまうんじゃないのかとヒヤヒヤしたものだ。映姫も揃って場の空気は本当に最悪だった。あんな現場はもう経験したくない。
ポストの横に最近設置した焼却炉にファンレターの類と思われるものを全て放り込む。
と、撮影機材を持った天狗の一団が文の家の前を通るのが見えた。
そう言えばこの近くでロケがあるんだったっけ。
落ち目の道具屋店主のもとに娘を名乗る少女がやってくるというホームドラマだ。タイトルが何だったかは覚えていない。確か企画段階で過去に放送した『おじいちゃんは庭師』の盗作疑惑が持ち上がった作品だ。庭師のもとに孫と名乗る少女が来るという他にも様々な類似点が槍玉に上がっていた。
それでも撮影は挙行するようだ。
焼却炉に火のついたマッチを投げ入れると逃げるように家の中へと入って行った。
文が家に籠って十数分すると呼び鈴を鳴らす者がいた。玄関に出ると椛がニコニコと笑って立っていた。焼却炉からは予想以上に白い煙が出ている。
「先輩!来ちゃいました」
「何のようですか?」
「新しいドラマの企画を考えたんです」
「そう。入って」
期待はしていなかったが無碍に返すわけにもいかない。それにどんな些細なアイデアも取り入れるしかないようにも思えた。どうしても思い浮かばない水曜9時枠は確実に文の精神を蝕んでいた。
「で、今度はどんな話を考えてきたのかしら?」
椛はニッコリ笑って持参した企画書のようなものを文に手渡した。
『七曜魔女の事件簿』
主演:パチュリー・ノーレッジ
安楽椅子探偵形式
「なるほどね」
決して現場を見る事がなくても少ない手掛かりだけで謎を解き明かしてしまう安楽椅子探偵。出不精なパチュリーを事件に絡ませるのには絶好の材料である。となればパチュリーの元に事件を持ち込む役目は差し詰め魔理沙ということになる。
最終回の犯人はアリス。これは自動的に決定する事項だろう
「コンセプト的には面白いんだけどね」
「駄目……なんですか?」
「パチュリーさんは演技ができないんですよ」
「え?そうなんですか」
「死体の役以外でパチュリーさんを見た事ありますか?」
「……ないです」
「まぁ警備隊の椛には分からない事だったから知らなくてもしょうがないんですけどね」
すると馬鹿にされたと思ったのか椛は頬を膨らませた。
「私だってそのうちテレビドラマ部門に行きます」
「あれ?椛、新聞記者に憧れてたんじゃなかったのですか?」
「それは先輩が記者だったからです」
なるほどだから今はテレビドラマか。
正直にこれが左遷人事だとは言いだせなかった。
最も影響力を持ったメディアが新聞からテレビに移り変わっても妖怪の山は依然として旧態のまま新聞を重要と位置付けていた。伝統と言えば聞こえはいいが実態は守矢神社が持ち込んだ技術が気に入らないだけの縄張り争いに他ならない。
文は自分を革新的な天狗だとは思っていたが、遥か昔から新聞記者であったし今でも新聞記者でありたいとも思っていた。今でもたまに自費で出版する文々。新聞は文の意地であった。姫海棠はたてに大きな顔をされるのはたまらなく屈辱だった。
「まぁアイデアは面白かったから次に期待ね」
「本当ですか!やっぱり映姫さんのおかげかな」
「まさか入れ知恵だったんですか?」
「アドバイスだけもらいました。『誰もやった事の無い事をやりなさい』って」
それでまずまずなアイデアが浮かんだんだから大したものだ。
「じゃあ私からもアドバイス。椛は業界の事は詳しくないから誰を主演にするとか考えずにアイデアだけ斬新なものを考えなさい」
「はい!憧れの文先輩からアドバイス貰えるなんてッ!」
椛は喜び勇んで文の家のソファーに座ったまま頭を捻り始めた。
まだ帰る気はないのね……。
文としては正直少し迷惑であった。
椛が文の後を追いかけるようになったのは何時の頃からだろうか。
カメラを片手に記事のネタ探して幻想郷中を飛び回っていた頃はそんな事気にも留めなかった。ただその頃から椛はカメラを買ったり、いつか記者になると豪語していた。文としても悪い気はせずに可愛がっていたが、今の自分に憧れる椛は不愉快極まりなかった。
それでも文は都合のいい存在として椛が後をついてくるのを許した。
いや、それは罪悪感からかもしれない。
文は頭の中で何度も椛を殺していた。もちろん憎いわけではない。サスペンスの脚本作りのためだ。あの時はにとりが椛を殺すという内容の話だった。2人とも嬉々としてその役を演じた。いつもアリスに殺される役だったにとりも意外に殺人者の役がはまっていて視聴者を驚かせた。
『また殺させてくださいね』
冗談めかして笑うにとりの顔が頭から離れない。
それからも椛は文の脳内で何度も殺された。はたてに殺され、早苗に殺され、雛に殺され、秋姉妹に殺され、その全てがボツとなっても決して自分が椛を殺す場面だけは想像しなかった。
とりあえず、もらった企画書を片付けようと机の引き出しを開けた。
企画書を放り込もうとした引き出しはかつてはネガを入れていた引き出しだった。すっかりとドラマの企画書だらけになっていた引き出しを見た文は思わずトイレに駆け込む。
ゲェ、ゲホ、ゲホッ
込み上げてくる物を便器の中に吐きだす。
文々。新聞は自費制作の趣味新聞になってからも発行部数を減らす事は無かった。むしろ喜ばれるようになっていた。だが、読者が求めるのは流行りのサスペンスドラマの脚本家としての文だった。誰もが文に興味を持った。文の書く記事は昔と変わらなかった。皆が求めているのはサスペンスに関する記事でしかないと気付いた時、文は迎合するように記事を書いた。読者は熱狂した。
新聞に寄せられる投書は次第にドラマの感想になって行った。送られてきたファンレターは全て焼いた。
ゴホ、ゴホ、ゲホッ
喉を締め付けられるような苦しさに涙が零れる。
文の脳裏にいつかのアリスが浮かんだ。
文がアリスの所に出演のオファーを出しに行った時彼女は語った。
『パチュリーもにとりも私は殺したくなんかない。本当は殺したくないのに……』
文は聞いていないふりをして台本を渡した。魔理沙を殺すという内容だった。
画面の向こうで、映姫が真相を告げてアリスを非難する時のアリスの涙の演技は今期最高の演技だと高い評価を得た。
コックを捻れば吐きだしたものは流されていった。それと一緒に気分が少しだけ晴れたような気がした。
口を濯いでトイレから出た文を椛がニコニコとしながら待っていた。
「先輩!閃きましたよ閃きました!」
「どんな話?」
「実は探偵役が犯人って話です」
「ペテンじゃないですか」
「殺人を犯した犯人が証拠や動機をねつ造しながら他の人に罪をなすりつけて行くお話です」
「確かに斬新ではあるけれど視聴者が望んでいるのは勧善懲悪。そんな胸糞が悪くなる話誰も望んでいなですよ」
文は自分の嫌悪する部分が自分を塗り潰して行くのを感じた。それなのに何だか悪い気はしない。さっきトイレで吐きだしたからだろうか。
妙に冷静な頭で椛に反論する。
「第一、証拠や動機を捏造するなんて簡単にできる事じゃないですよ。リアリティがありません」
「えーそうですか?でも先輩ならできますよ」
「私なら?」
「だって文先輩今までずっと幻想郷の誰かを誰かに殺させてきたじゃないですか」
あぁ、そうだった。そうだった。
霊夢も魔理沙もレミリアもパチュリーも咲夜も美鈴もチルノもルーミアも妖夢だって紫だって慧音だって鈴仙だってさとりだってこいしだって殺してきた。
アリスに幽々子にルナサに妹紅にフランに藍やにとりやリグルやお燐や一輪や屠自子や
幽香まで殺人犯に仕立て上げてきた。
自分なら可能なんだ。椛が持ち込んできた突拍子のないアイデアも。
文は至って冷静だった。
「ありがとうね……椛」
「……先輩?」
結局椛は文にとっていつまでも都合のいい存在でしかなかった。なんどもなんども殺して来た。それは今も変わらず。
「私にしかできない。私にしか……」
呪詛のように呟きながら椛の首に手をまわす。
文はとうとう初めて椛を殺した。
★☆★☆★☆★
半年後
文は偶々用事があって人間の里に来ていた。
「あれ?文じゃないか」
向かいから歩いてきた霊夢と魔理沙。軽く会釈した。
「どうも」
「ドラマ見たわよ。犯人が罪をなすりつけて行くやつ」
「霊夢さんテレビ買うお金あったんですね」
「相変わらず嫌味な奴ね」
「私の家にまで来て見てたんだぜ。面白いからって」
「わざわざありがとうございます」
「でも最後がちょっとねー」
ピクッと動いた目元に霊夢も魔理沙も気付かない。
「ああ、犯人が捕まらないって結末は私もどうかと思うぜ」
魔理沙も霊夢に同調するように頷く。
「……しょうがないじゃないですか。だってまだ……」
最後の言葉は殆ど消え入りそうで霊夢達には聞こえなかった。
「今何か言った?」
「……いえ、じゃあ私はこれで」
立ち去って行く文を見送りながら霊夢は
「ねえ、文なんかおかしくない?」
「そうか?」
「なんか……やつれたって言うか、何かに追われてるような感じ」
「あいつも今や人気サスペンス脚本家だからな。〆切とか色々追われてるんだろ」
魔理沙は笑った。
とくに「四季映姫はとにかく口うるさい。現場の雰囲気はいつも険悪だ。」の所では盛大に吹いてしまいました。実際はそんなことない…よね?
背景もやっつけな一枚絵みたいでペラい。
ドラマと現実が混ざりそうな予感がこわいぜ
まあ不快だろうがなんだろうがやりゃあいいじゃない
別に誰かのために書いているんじゃなし
しかし何が文をここまですり減らしたのか…
もうなにがなんだか分からなくなりますね…
一種のWho done itものとして読みました
ラストは、もう一ひねり欲しかった。
それとも自分に読解力が無かっただけなのか・・・
なるほど。それだと劇中劇中劇ってことになるのか。
そうであったなら確かに100点だな。
なんかそれこそ現実のドラマにありそうな…