春という季節のポカポカした陽気は眠気を誘う様に感じる。
まして今日が夜遅くまで続いた宴会の翌日なのだから尚更だ。
とある用事で神社を訪れたのだが目の前に広がる光景に強くそう感じた。
眼前に広がるのは花見会場となった神社の庭先、多少は片付けられてはいたが
まだまだ酒瓶等が転がっていて昨日の宴会の片付けは終わっていない。
そしてそんな庭先が散らかったままの中、縁側で霊夢が寝ていた。
元々は休憩でもしていたのだろう、座った体制で上半身だけを倒して霊夢は寝ている。
足元には箒が転がり、隣には湯のみと急須が置かれていた、中身はもう冷えているようだった。
今の時間帯はちょうど昼過ぎで日差しは柔らかでポカポカして気持ちがいい。
気を抜いたら霊夢の様に誰でも寝てしまう事だろう。
寝ている猫の寝顔は眠気を誘うというが、どうやらここまで気持ちよさそうに寝ていると巫女でも眠気を誘うようだ。
霊夢の寝顔を見ていて思わず出そうになる欠伸を堪えながら何だか変な事を考えたな、とアリスは思った。
――
アリスが霊夢の元を訪れた理由は、前日の花見と称された宴会で珍しく鬼に絡まれ酒をしこたま飲まされた事で
つい上海の事を神社に忘れて帰ってしまったのが主な原因だ。
上海を忘れた事に気が付いたのは朝起きてからしばらく経過しての事で、本当はすぐにでも迎えに来るつもり
だったのだが酷い頭痛と吐き気からしばらく動けなかった。
そのため迎えにくるのが遅れ、結局お昼過ぎになってしまった。
また、上海を預かっていてもらったお礼として簡単なお菓子を作ってきたのも遅くなった原因である。
ひとまず寝ている霊夢を起こさないようにバケットを縁側に置き上海を探してみるとすぐに見つける事が出来た。
室内の寝室からだろうか、上海が薄いシーツを懸命に運ぼうとしている姿が目に映った。
おそらく寝ている霊夢にシーツをかけてやろうとしているのだろう。
小さな体で一生懸命シーツを運ぼうとする姿は愛らしかった。
上海はこちらの視線に気が付くと嬉しそうに手を振って見せた。
どうやら昨日忘れていった事は怒っていないようで安心した。
霊夢にシーツをかけるのを手伝い終えた後、アリスはこの後どうしょうか考えた。
このまま帰ってもいいのだが、上海を預かってもらっていた恩もある。
それに今だ片付けが終わっていない庭を見るとただお礼としてお菓子を置いていくだけでは気の毒な気がしたし
何より自分はこの庭を散らかした者の一人であり、手伝うのはむしろ当然の様な気がしたので霊夢が寝ている間
片付けを行う事にした。
霊夢は起きる気配がないが昨日は自分が帰る頃はまだ紫やら魔理沙に絡まれていたのだから相当疲れが溜まっている
のだろうと思い、起こすような事はしなかった。
片付けをしている最中にでも起きるだろうから、その時にでも事情を説明すればいいだろう。
アリスはそう思い片付けを始めた。
――
「片付けしてる最中か終わる頃には起きるかと思ったけど、全然起きる気配がないわね……」
日も傾き始めた頃、神社の庭先の掃除は完了した。
途中で起きるだろうと思った霊夢は結局目覚める事なく来た時と変わらず縁側で爆睡していた。
「よっぽど疲れていたのね……」
前日どれ程の量お酒を呑まされていたのだろうか?同情よりも致死量に達しているのではないかと不安を強く感じた。
終始鬼や妖怪や妖怪みたいな人間の相手をしていたのだ不安にならない方がおかしい。
「それにしても」
何故彼女は幻想郷でこんな無防備な姿を晒す事ができるのだろうか?
縁側で無防備に眠る霊夢の寝顔を見てアリスは疑問に思う。
仮もココは幻想郷、それなりのルールは存在するものの人間を襲う妖怪や悪戯好きの妖精が数多くいる。
人を食う妖怪、稀に洒落にならない悪戯をする妖精等、危険性は多様だが人間がこんな無防備にしているのは
幻想郷では普通ありえない。
一応アリスも属す種族である魔法使いも命をとるまではしないが研究のために時には人間を襲う事がある。
そんな存在が今こうして目の前にいるというのに起きる気配もなければ何かで身を守っている感じもしない。
霊夢は見たまんま逆に何らかの罠なんかじゃないのだろうかと思える程無防備なのだ。
「まぁ、私はそんな寝込みを襲うなんて事しないけど……」
何て独り言いながら少しだけ不安になった。
霊夢は異変の時意外はこうしていつも無防備なのだろうか?
霊夢は博麗の巫女、異変と言うルールの中でない限りよほどの馬鹿でもなければこの世界で彼女を本気で襲う様な妖怪はいない。
博麗の巫女はそれほどこの世界にとって重要な存在であり、下手に手を出せば妖怪の賢者、八雲紫を敵に回す事さえある。
だが、それを抜きにしても何よりも霊夢は強い。
強いのだが、実際彼女は見た目も中身も年相応の少女でしかない。
寝ている霊夢の首を見る、細い首だ。両の手を使えば完全に手の中に納まってしまいそうな細い首だ。
これなら妖怪の中でも非力な部類に入る魔女だって簡単に折れる様な気がする。
彼女は確かに強いが、人間である事に変わりはなく肉体的には弱弱しい存在だ。
いかに対魔の力に優れていようとも、ただの人間でしかない霊夢は首を折られれば死ぬ
内臓の一部を失えば死ぬ、血を流しすぎても簡単に死んでしまう。
幻想郷に住む妖怪達は何だかんだで霊夢の事を好んでいる、だから襲おうと思う者は少ないだろう。
霊夢の発する雰囲気が人柄様々な妖怪や人間を彼女の元へ集める、なんと言うか居心地がいいのだ。
無論アリスも彼女の隣の居心地の良さを好んでいる一人である。
だが、幻想郷の中には違う考えを持った者だっている。
勘の鋭い霊夢ならそう言った敵意にすぐに気付くだろうが、もしもの事があれば、と考えると……
「誰かが妖怪の怖さを教えないと駄目かしら?」
霊夢の少し間の抜けた寝顔にアリスは問うてみる。
無論返答はない。
今の自分は何だかおかしい。アリスは理解していた。
頭では理解していたが体は止まる事がなかった。
寝ている霊夢の頭の横に右手を置く、そして左手で顔にかかる髪の毛をかき上げながらそのままゆっくり
霊夢の寝顔を覗き込む。
傍から見れば寝ている霊夢にキスでもしようとしている様に写りそうな姿だ。
そのまま間違っても倒れ込まないように注意しながら顔を近づける。
霊夢の寝息が規則正しく聞こえる位置でも彼女が起きる気配はない。
やはり無防備だなと思いつつ、それを確認してアリスは
「ぎゃおー、食べちゃうぞー」
何てどっかの吸血鬼みたいな事を言ってみる。
大きな声ではなかったからか霊夢は起きなかったようだが、ふと横を見ると上海が両手で目元を押さえていて
何だか落ち着きがない。
押さえてる手を離してこちらを見てはまた押さえてを繰り返していて、何となく擬音を付けると『はわはわ』
と慌てている様な表現が適当な動作をしている。
その動きはなかなか可愛らしかったが、自分は上海にそんな動きを教えただろうか?と疑問にも思った。
そして上海のその姿を見て、冗談のつもりだったが本当にやましい事をしている気分になりすっかり冷めてしまった。
「…………」
冷静になって考えてみると一連の行動はガラじゃないにも程があった。
一体自分は何をしているのだろうか?今この場で霊夢が目を開いたら何て言えばいいのだろう?
変な勘違いをされても言い逃れは出来ないような気がした。
もしかしたら昨日のお酒がまだ残っていたのかもしれない。
それか春の暖かな陽気が自分をおかしくさせたのかもしれない。
どちらにせよ何だかアリスは物凄く恥ずかしくなってきた。
「はぁ……、大丈夫よ上海、本気じゃないから」
それはもしかしたら抑止のために自分に向けた言葉だったのかもしれないが、とりあえず今だ落ち着かない上海を
なだめる様に言い終えた直後だった。
身を起こす前に背後から『カシャ』という耳障りな音が聞こえてきた。
それは聞き慣れた嫌な音だ。
アリスは慌てて振り向く。
そこには想像通りの奴が立っていた。
「文……」
「あ、お気になさらずに続けてください、明日の一面は『まさかの熱愛!?巫女と人形師のいけない午後!!』ってどうでしょう?」
嫌な汗を背に感じた。
「文、貴女は勘違いをしているわ」
「勘違い……?じゃあ『寝ている間に人形師に襲われる巫女』って所ですか?」
「違う!!」
正直間違ってはいない、が未遂だ!だから無罪だ!!
「いえでも『誰かが妖怪の怖さを教えないと駄目かしら?』と言った直後でしたしそういう事なのかと思いましたが?」
聞かれていた。
「アンタ、いつからいたの?」
アリスの声は震えていた、顔が熱くなっていくのが解った。
つまりその台詞を聞いているという事は『ぎゃおー、食べちゃうぞー』まで聞かれていると言う事だ。
ニコっと文が笑顔になった瞬間アリスは動いていた。
一瞬で人形たちを使い逃がさない様に文の周りを包囲する。
普通ならそれで拘束出来るのだが、いかんせん相手が悪かった。
「まぁまぁ明日の新聞お楽しみに!」
速度で天狗に勝てるはずがない。
人形たちの包囲が完了する前に文の姿は上空に移動していた。
「文!ちょっと待ちなさい!!」
アリスの叫びに
「あややややや、捕まえてごらんなさい!」
おどけた様に文は答えてそのままどこかに飛んでいった。
「うわ、無駄に早い!?」
思わず驚いて出遅れてしまったがアリスも慌てて文の後を追う。
二人の姿はあっという間に神社から無くなった。
――
二人がいなくなってから霊夢は身を起こした。
「ん、ふっ、う……」
背伸びを行うと体中からポキポキと骨が鳴る音が聞こえてきた。
やはり変な体勢で寝るのは良くないのだろう。
「シャンハーイ……」
霊夢が起きた事に気が付くと上海は霊夢に話しかけていた。
よほど慌てていたのかお土産のお菓子の入ったバケットと一緒に上海人形がポツンと残されていた。
「また置いていかれたの?」
霊夢が上海に問うと
「オイテカレター」
と返答が来た。
何だか寂しそうな雰囲気を感じたので霊夢は軽く頭を撫でてやった。
撫でると『ナデナデー?イイコー?』と言ってきたので『シーツのお礼』と短く答えといた。
上海は嬉しそうだった。
上海が笑顔になったのを確認してから自分の隣に置かれているバケットの中身を確認する。
中にはクッキーが入っていた。
霊夢はクッキーを一枚取り出して一口口にして呟いた。
「別に襲ってくれてもよかったのに……」
まして今日が夜遅くまで続いた宴会の翌日なのだから尚更だ。
とある用事で神社を訪れたのだが目の前に広がる光景に強くそう感じた。
眼前に広がるのは花見会場となった神社の庭先、多少は片付けられてはいたが
まだまだ酒瓶等が転がっていて昨日の宴会の片付けは終わっていない。
そしてそんな庭先が散らかったままの中、縁側で霊夢が寝ていた。
元々は休憩でもしていたのだろう、座った体制で上半身だけを倒して霊夢は寝ている。
足元には箒が転がり、隣には湯のみと急須が置かれていた、中身はもう冷えているようだった。
今の時間帯はちょうど昼過ぎで日差しは柔らかでポカポカして気持ちがいい。
気を抜いたら霊夢の様に誰でも寝てしまう事だろう。
寝ている猫の寝顔は眠気を誘うというが、どうやらここまで気持ちよさそうに寝ていると巫女でも眠気を誘うようだ。
霊夢の寝顔を見ていて思わず出そうになる欠伸を堪えながら何だか変な事を考えたな、とアリスは思った。
――
アリスが霊夢の元を訪れた理由は、前日の花見と称された宴会で珍しく鬼に絡まれ酒をしこたま飲まされた事で
つい上海の事を神社に忘れて帰ってしまったのが主な原因だ。
上海を忘れた事に気が付いたのは朝起きてからしばらく経過しての事で、本当はすぐにでも迎えに来るつもり
だったのだが酷い頭痛と吐き気からしばらく動けなかった。
そのため迎えにくるのが遅れ、結局お昼過ぎになってしまった。
また、上海を預かっていてもらったお礼として簡単なお菓子を作ってきたのも遅くなった原因である。
ひとまず寝ている霊夢を起こさないようにバケットを縁側に置き上海を探してみるとすぐに見つける事が出来た。
室内の寝室からだろうか、上海が薄いシーツを懸命に運ぼうとしている姿が目に映った。
おそらく寝ている霊夢にシーツをかけてやろうとしているのだろう。
小さな体で一生懸命シーツを運ぼうとする姿は愛らしかった。
上海はこちらの視線に気が付くと嬉しそうに手を振って見せた。
どうやら昨日忘れていった事は怒っていないようで安心した。
霊夢にシーツをかけるのを手伝い終えた後、アリスはこの後どうしょうか考えた。
このまま帰ってもいいのだが、上海を預かってもらっていた恩もある。
それに今だ片付けが終わっていない庭を見るとただお礼としてお菓子を置いていくだけでは気の毒な気がしたし
何より自分はこの庭を散らかした者の一人であり、手伝うのはむしろ当然の様な気がしたので霊夢が寝ている間
片付けを行う事にした。
霊夢は起きる気配がないが昨日は自分が帰る頃はまだ紫やら魔理沙に絡まれていたのだから相当疲れが溜まっている
のだろうと思い、起こすような事はしなかった。
片付けをしている最中にでも起きるだろうから、その時にでも事情を説明すればいいだろう。
アリスはそう思い片付けを始めた。
――
「片付けしてる最中か終わる頃には起きるかと思ったけど、全然起きる気配がないわね……」
日も傾き始めた頃、神社の庭先の掃除は完了した。
途中で起きるだろうと思った霊夢は結局目覚める事なく来た時と変わらず縁側で爆睡していた。
「よっぽど疲れていたのね……」
前日どれ程の量お酒を呑まされていたのだろうか?同情よりも致死量に達しているのではないかと不安を強く感じた。
終始鬼や妖怪や妖怪みたいな人間の相手をしていたのだ不安にならない方がおかしい。
「それにしても」
何故彼女は幻想郷でこんな無防備な姿を晒す事ができるのだろうか?
縁側で無防備に眠る霊夢の寝顔を見てアリスは疑問に思う。
仮もココは幻想郷、それなりのルールは存在するものの人間を襲う妖怪や悪戯好きの妖精が数多くいる。
人を食う妖怪、稀に洒落にならない悪戯をする妖精等、危険性は多様だが人間がこんな無防備にしているのは
幻想郷では普通ありえない。
一応アリスも属す種族である魔法使いも命をとるまではしないが研究のために時には人間を襲う事がある。
そんな存在が今こうして目の前にいるというのに起きる気配もなければ何かで身を守っている感じもしない。
霊夢は見たまんま逆に何らかの罠なんかじゃないのだろうかと思える程無防備なのだ。
「まぁ、私はそんな寝込みを襲うなんて事しないけど……」
何て独り言いながら少しだけ不安になった。
霊夢は異変の時意外はこうしていつも無防備なのだろうか?
霊夢は博麗の巫女、異変と言うルールの中でない限りよほどの馬鹿でもなければこの世界で彼女を本気で襲う様な妖怪はいない。
博麗の巫女はそれほどこの世界にとって重要な存在であり、下手に手を出せば妖怪の賢者、八雲紫を敵に回す事さえある。
だが、それを抜きにしても何よりも霊夢は強い。
強いのだが、実際彼女は見た目も中身も年相応の少女でしかない。
寝ている霊夢の首を見る、細い首だ。両の手を使えば完全に手の中に納まってしまいそうな細い首だ。
これなら妖怪の中でも非力な部類に入る魔女だって簡単に折れる様な気がする。
彼女は確かに強いが、人間である事に変わりはなく肉体的には弱弱しい存在だ。
いかに対魔の力に優れていようとも、ただの人間でしかない霊夢は首を折られれば死ぬ
内臓の一部を失えば死ぬ、血を流しすぎても簡単に死んでしまう。
幻想郷に住む妖怪達は何だかんだで霊夢の事を好んでいる、だから襲おうと思う者は少ないだろう。
霊夢の発する雰囲気が人柄様々な妖怪や人間を彼女の元へ集める、なんと言うか居心地がいいのだ。
無論アリスも彼女の隣の居心地の良さを好んでいる一人である。
だが、幻想郷の中には違う考えを持った者だっている。
勘の鋭い霊夢ならそう言った敵意にすぐに気付くだろうが、もしもの事があれば、と考えると……
「誰かが妖怪の怖さを教えないと駄目かしら?」
霊夢の少し間の抜けた寝顔にアリスは問うてみる。
無論返答はない。
今の自分は何だかおかしい。アリスは理解していた。
頭では理解していたが体は止まる事がなかった。
寝ている霊夢の頭の横に右手を置く、そして左手で顔にかかる髪の毛をかき上げながらそのままゆっくり
霊夢の寝顔を覗き込む。
傍から見れば寝ている霊夢にキスでもしようとしている様に写りそうな姿だ。
そのまま間違っても倒れ込まないように注意しながら顔を近づける。
霊夢の寝息が規則正しく聞こえる位置でも彼女が起きる気配はない。
やはり無防備だなと思いつつ、それを確認してアリスは
「ぎゃおー、食べちゃうぞー」
何てどっかの吸血鬼みたいな事を言ってみる。
大きな声ではなかったからか霊夢は起きなかったようだが、ふと横を見ると上海が両手で目元を押さえていて
何だか落ち着きがない。
押さえてる手を離してこちらを見てはまた押さえてを繰り返していて、何となく擬音を付けると『はわはわ』
と慌てている様な表現が適当な動作をしている。
その動きはなかなか可愛らしかったが、自分は上海にそんな動きを教えただろうか?と疑問にも思った。
そして上海のその姿を見て、冗談のつもりだったが本当にやましい事をしている気分になりすっかり冷めてしまった。
「…………」
冷静になって考えてみると一連の行動はガラじゃないにも程があった。
一体自分は何をしているのだろうか?今この場で霊夢が目を開いたら何て言えばいいのだろう?
変な勘違いをされても言い逃れは出来ないような気がした。
もしかしたら昨日のお酒がまだ残っていたのかもしれない。
それか春の暖かな陽気が自分をおかしくさせたのかもしれない。
どちらにせよ何だかアリスは物凄く恥ずかしくなってきた。
「はぁ……、大丈夫よ上海、本気じゃないから」
それはもしかしたら抑止のために自分に向けた言葉だったのかもしれないが、とりあえず今だ落ち着かない上海を
なだめる様に言い終えた直後だった。
身を起こす前に背後から『カシャ』という耳障りな音が聞こえてきた。
それは聞き慣れた嫌な音だ。
アリスは慌てて振り向く。
そこには想像通りの奴が立っていた。
「文……」
「あ、お気になさらずに続けてください、明日の一面は『まさかの熱愛!?巫女と人形師のいけない午後!!』ってどうでしょう?」
嫌な汗を背に感じた。
「文、貴女は勘違いをしているわ」
「勘違い……?じゃあ『寝ている間に人形師に襲われる巫女』って所ですか?」
「違う!!」
正直間違ってはいない、が未遂だ!だから無罪だ!!
「いえでも『誰かが妖怪の怖さを教えないと駄目かしら?』と言った直後でしたしそういう事なのかと思いましたが?」
聞かれていた。
「アンタ、いつからいたの?」
アリスの声は震えていた、顔が熱くなっていくのが解った。
つまりその台詞を聞いているという事は『ぎゃおー、食べちゃうぞー』まで聞かれていると言う事だ。
ニコっと文が笑顔になった瞬間アリスは動いていた。
一瞬で人形たちを使い逃がさない様に文の周りを包囲する。
普通ならそれで拘束出来るのだが、いかんせん相手が悪かった。
「まぁまぁ明日の新聞お楽しみに!」
速度で天狗に勝てるはずがない。
人形たちの包囲が完了する前に文の姿は上空に移動していた。
「文!ちょっと待ちなさい!!」
アリスの叫びに
「あややややや、捕まえてごらんなさい!」
おどけた様に文は答えてそのままどこかに飛んでいった。
「うわ、無駄に早い!?」
思わず驚いて出遅れてしまったがアリスも慌てて文の後を追う。
二人の姿はあっという間に神社から無くなった。
――
二人がいなくなってから霊夢は身を起こした。
「ん、ふっ、う……」
背伸びを行うと体中からポキポキと骨が鳴る音が聞こえてきた。
やはり変な体勢で寝るのは良くないのだろう。
「シャンハーイ……」
霊夢が起きた事に気が付くと上海は霊夢に話しかけていた。
よほど慌てていたのかお土産のお菓子の入ったバケットと一緒に上海人形がポツンと残されていた。
「また置いていかれたの?」
霊夢が上海に問うと
「オイテカレター」
と返答が来た。
何だか寂しそうな雰囲気を感じたので霊夢は軽く頭を撫でてやった。
撫でると『ナデナデー?イイコー?』と言ってきたので『シーツのお礼』と短く答えといた。
上海は嬉しそうだった。
上海が笑顔になったのを確認してから自分の隣に置かれているバケットの中身を確認する。
中にはクッキーが入っていた。
霊夢はクッキーを一枚取り出して一口口にして呟いた。
「別に襲ってくれてもよかったのに……」
その調子でにともみを。さぁ。
「じゃ私がそのことを教えてあげないとね」と言いながらマガトロ邸を襲撃する霊夢を幻視
レイアリの続きをはよ。お願いします。