先ほどまで降っていた雨が止み、雲の切れ目から日差しが降り注いでくる。
そしてこの香霖堂には濡れたような風が吹き込んでくる。
雨が降っている間、僕は晴耕雨読に則って読書に勤しんでいた。まあいつも通りである。
ふと、窓から空を見ると七色の虹がきれいに架かっていた。虹、か。虹は龍神の通り道を示しているのだったかな……
僕はぼうっと虹を眺めていると、お得意様の顔が浮かんだ。そう言えば最近は来ていないな……前はよく買い物に来ていたというのに。
僕がそんなことを考えていると
カランカラン。
ドアベルが鳴り、誰かが来たようだ。僕は入口に目を向けてそれが誰か確認した。
「こんにちは、霖之助さん」
「いらっしゃい。久しぶりだね、アリス」
客はアリスだった。ちょうど思い出していた所だったし、タイミングがいいな。
「ええ、最近ちょっと研究で忙しくてね」
そう言って微笑を浮かべるアリス。
「ほう、人形の……なんだったかな?」
「自立人形の作成よ、なかなか難しいのよねえ」
はあ、とため息をつくアリス。まあ、やろうとしていることからしたら難しいのは当然の事だ。
「だが研究しがいがあるだろう?」
「まあ、ね」
なら苦労なんて大したものでは無い。僕もいろいろと作ってきているからそこらへんの事はよく知っている。
「それで今日は何か入り用で?」
「布と糸ね。いつものはある?」
「ああ、それなら仕入れてあるよ。ちょっと待っていてくれ」
アリスに待ってもらい商品を探し、それを持ってきてみると、アリスは商品棚を興味深そうにみている。何か琴線に触れるものがあったのだろうか?
「待たせたね、これでいいかな?確認してくれ」
「……ええ、これでいいわ。おいくら?」
「そうだね。いつも世話になっているから……これくらいかな」
「あら、サービスしてくれるのね。じゃあ、はい」
「……確かに」
お代を頂き、値段通りであることを確認してそれをカウンターにしまう。ふむ……これで道具の修理の機材が新調できるかな……
「そう言えば霖之助さん」
「なんだい?」
何か話があるのだろうか?彼女の話はなかなか興味深い話が多いから是非聞かせて欲しいが。
「私、自立人形を作ることを目指しているじゃない」
「そうだね」
「それなんだけど、なかなか最近進展が無くて……」
「……最近来なかったのはそのせいか」
「そうなのよ……それでお願いがあるの」
「……なんだい?」
もうだいたい何が言いたいのかはわかった。
「霖之助さんの意見を聞きたくて」
「……僕は魔法なんて触り程度しか知らないから何も言えないよ」
「魔法とかじゃなくて……霖之助さんの考えを聞きたいのよ。何かヒントがあるかもしれないから…お願いできないかしら」
こちらをじっと見つめて頼み込んできた。ふむ……話を聞きたいと。僕の考えを聞きたいと。
……よし。
「わかった。では話させてもらおうか」
「本当?ありがとう!」
嬉しそうに笑うアリス。僕としては話を聞いてもらえるし、語る事が出来るから正直いい事ずくめなわけだが。
「ええと……自立人形の作成が目的だったね。自分の意思を持ち自分の意志で動く……つまりは人形に心を持たせると考えていいのかな」
「ええ、そうね」
「なら、僕はその人形を人に触れさせるといいと思うよ」
「人に触れさせる?どういうこと?」
意味がわからないというような表情をしている。彼女なら多分わかるだろうと思ったが……仕方ない。しっかりと解説しなくてはな。
「君は多々良小傘やメディスン・メランコリーという妖怪を知っているかな?」
「ええ、知っているわ。それで?」
「彼女らは捨てられた人形、忘れられた傘が妖怪となったものだ。彼女らは道具であったが心を持つ事で妖怪になったのだろう。そして道具が妖怪となるには例外無く人が大きく関わっているんだ。人に大切にされたり、捨てられたりね。」
「でもそれじゃあ妖怪になるだけで私の目的には関係がないんじゃない?」
「そうだね。でも、心が道具に宿るという所では同じだろう」
「む……」
顎に手をやり考え込んでいるアリス。結論はこれからだからしっかり聞いていてくれよ。
「それに道具は頻繁に使っていると馴染んでくるだろう?」
「そうね。使い慣れたものと新しいものじゃ全然違うものね」
「これと同様に人の心に触れる事で心を持たせる魔法との親和性が上がって作成が楽になるんじゃないか、と思うよ」
「なるほど……」
しきりに頷き納得しているアリス。これでなにか掴めると嬉しいのだが。
「そういえばアリス」
「なにかしら?」
「布を持ってくる時になにか気にしていたが……何か気になるものでも?」
「ああ……ちょっとこれが気になったの」
そう言って見ていたものを僕に渡してきた。この商品は……
「七色石だね。君にピッタリじゃないか?」
「七色の人形使いだからね、思わず見てしまったのよ。これは何なの?」
チャンス。これはさらに買ってもらえる機会だな……
「これは不死の人々が使っていたとされるものでね……」
「ふうん。どうやって使うの?」
「それはこうやってね……ほら」
「わあ……綺麗ね」
僕が七色石を床に投げると、カシャンと澄んだ音を立ててその場で蒼く光り出した。
アリスはその輝きに目を奪われているようだった。
「この音と光を利用して高さを測ったりするためのものらしいよ。あとは飾りにしたり、倒した相手への弔いであったりとかもするらしいね」
「そんな風に使われているのね……でも綺麗」
「ああ、名前の通り七色ある上に八色目もあるという事だよ。気に入ってもらえたかな?」
「そうね。結構使えそうだしいくつか買ってみようかしら」
よし!
「じゃあいくつぐらいかな?一応十個セットでこれくらいだが」
「あら、安いわね……なら四十個くらい頂くわ」
「はい。ありがとうございます」
さらに商品を買ってもらえた。ううむ……こんなに買ってもらえるとは……今夜は酒でも飲んでしまおうかな。
「霖之助さん、今日は話を聞かせてもらってありがとう。おかげで少し浮かんできたわ」
「そうか、それは良かった。結果がでたら教えてくれよ?」
「そうね、一番に教えてあげるわ」
楽しそうに微笑んでいる。それは楽しみだ、まあすぐには成功しないだろうが……それもいいだろう。
「ああ、そうだ」
「なんだい?」
「実は今度里の祭りで人形劇を頼まれているのよ」
「ほう」
「それで引き受けようかなって」
「いいねぇ、面白そうじゃないか」
「それでなんだけど、霖之助さん、見に来てくれないかしら」
「ふむ……」
人形劇か……里に向かうのは面倒だがどうせ霊夢と魔理沙に引っ張られるだろうしそのついでに見に行ってもいいかな。
「ああ、わかった。楽しみにしているよ」
「……ええ!楽しみにしていてね!」
おお、祭りはまだ先なのに……やる気十分といったところか。
「じゃあ今日はこれで失礼するわね」
「ああ、ありがとうございました」
「絶対に見に来てね?忘れないようにね」
「分かっているよ」
何回も確認してアリスは帰っていった。
僕は閉じていた本を開いてまた読書に取り掛かる事にした。まだ夜までは時間がある。店じまいにするには速すぎるだろう。
そうして本を読みつつ彼女との会話を思い出していた。祭りの人形劇、自立人形の作成についての結果……やれやれまた、楽しみが増えてしまったな。困ってしまうよ。
そんな風に考えて僕はまた本の世界へともぐっていった。
そしてこの香霖堂には濡れたような風が吹き込んでくる。
雨が降っている間、僕は晴耕雨読に則って読書に勤しんでいた。まあいつも通りである。
ふと、窓から空を見ると七色の虹がきれいに架かっていた。虹、か。虹は龍神の通り道を示しているのだったかな……
僕はぼうっと虹を眺めていると、お得意様の顔が浮かんだ。そう言えば最近は来ていないな……前はよく買い物に来ていたというのに。
僕がそんなことを考えていると
カランカラン。
ドアベルが鳴り、誰かが来たようだ。僕は入口に目を向けてそれが誰か確認した。
「こんにちは、霖之助さん」
「いらっしゃい。久しぶりだね、アリス」
客はアリスだった。ちょうど思い出していた所だったし、タイミングがいいな。
「ええ、最近ちょっと研究で忙しくてね」
そう言って微笑を浮かべるアリス。
「ほう、人形の……なんだったかな?」
「自立人形の作成よ、なかなか難しいのよねえ」
はあ、とため息をつくアリス。まあ、やろうとしていることからしたら難しいのは当然の事だ。
「だが研究しがいがあるだろう?」
「まあ、ね」
なら苦労なんて大したものでは無い。僕もいろいろと作ってきているからそこらへんの事はよく知っている。
「それで今日は何か入り用で?」
「布と糸ね。いつものはある?」
「ああ、それなら仕入れてあるよ。ちょっと待っていてくれ」
アリスに待ってもらい商品を探し、それを持ってきてみると、アリスは商品棚を興味深そうにみている。何か琴線に触れるものがあったのだろうか?
「待たせたね、これでいいかな?確認してくれ」
「……ええ、これでいいわ。おいくら?」
「そうだね。いつも世話になっているから……これくらいかな」
「あら、サービスしてくれるのね。じゃあ、はい」
「……確かに」
お代を頂き、値段通りであることを確認してそれをカウンターにしまう。ふむ……これで道具の修理の機材が新調できるかな……
「そう言えば霖之助さん」
「なんだい?」
何か話があるのだろうか?彼女の話はなかなか興味深い話が多いから是非聞かせて欲しいが。
「私、自立人形を作ることを目指しているじゃない」
「そうだね」
「それなんだけど、なかなか最近進展が無くて……」
「……最近来なかったのはそのせいか」
「そうなのよ……それでお願いがあるの」
「……なんだい?」
もうだいたい何が言いたいのかはわかった。
「霖之助さんの意見を聞きたくて」
「……僕は魔法なんて触り程度しか知らないから何も言えないよ」
「魔法とかじゃなくて……霖之助さんの考えを聞きたいのよ。何かヒントがあるかもしれないから…お願いできないかしら」
こちらをじっと見つめて頼み込んできた。ふむ……話を聞きたいと。僕の考えを聞きたいと。
……よし。
「わかった。では話させてもらおうか」
「本当?ありがとう!」
嬉しそうに笑うアリス。僕としては話を聞いてもらえるし、語る事が出来るから正直いい事ずくめなわけだが。
「ええと……自立人形の作成が目的だったね。自分の意思を持ち自分の意志で動く……つまりは人形に心を持たせると考えていいのかな」
「ええ、そうね」
「なら、僕はその人形を人に触れさせるといいと思うよ」
「人に触れさせる?どういうこと?」
意味がわからないというような表情をしている。彼女なら多分わかるだろうと思ったが……仕方ない。しっかりと解説しなくてはな。
「君は多々良小傘やメディスン・メランコリーという妖怪を知っているかな?」
「ええ、知っているわ。それで?」
「彼女らは捨てられた人形、忘れられた傘が妖怪となったものだ。彼女らは道具であったが心を持つ事で妖怪になったのだろう。そして道具が妖怪となるには例外無く人が大きく関わっているんだ。人に大切にされたり、捨てられたりね。」
「でもそれじゃあ妖怪になるだけで私の目的には関係がないんじゃない?」
「そうだね。でも、心が道具に宿るという所では同じだろう」
「む……」
顎に手をやり考え込んでいるアリス。結論はこれからだからしっかり聞いていてくれよ。
「それに道具は頻繁に使っていると馴染んでくるだろう?」
「そうね。使い慣れたものと新しいものじゃ全然違うものね」
「これと同様に人の心に触れる事で心を持たせる魔法との親和性が上がって作成が楽になるんじゃないか、と思うよ」
「なるほど……」
しきりに頷き納得しているアリス。これでなにか掴めると嬉しいのだが。
「そういえばアリス」
「なにかしら?」
「布を持ってくる時になにか気にしていたが……何か気になるものでも?」
「ああ……ちょっとこれが気になったの」
そう言って見ていたものを僕に渡してきた。この商品は……
「七色石だね。君にピッタリじゃないか?」
「七色の人形使いだからね、思わず見てしまったのよ。これは何なの?」
チャンス。これはさらに買ってもらえる機会だな……
「これは不死の人々が使っていたとされるものでね……」
「ふうん。どうやって使うの?」
「それはこうやってね……ほら」
「わあ……綺麗ね」
僕が七色石を床に投げると、カシャンと澄んだ音を立ててその場で蒼く光り出した。
アリスはその輝きに目を奪われているようだった。
「この音と光を利用して高さを測ったりするためのものらしいよ。あとは飾りにしたり、倒した相手への弔いであったりとかもするらしいね」
「そんな風に使われているのね……でも綺麗」
「ああ、名前の通り七色ある上に八色目もあるという事だよ。気に入ってもらえたかな?」
「そうね。結構使えそうだしいくつか買ってみようかしら」
よし!
「じゃあいくつぐらいかな?一応十個セットでこれくらいだが」
「あら、安いわね……なら四十個くらい頂くわ」
「はい。ありがとうございます」
さらに商品を買ってもらえた。ううむ……こんなに買ってもらえるとは……今夜は酒でも飲んでしまおうかな。
「霖之助さん、今日は話を聞かせてもらってありがとう。おかげで少し浮かんできたわ」
「そうか、それは良かった。結果がでたら教えてくれよ?」
「そうね、一番に教えてあげるわ」
楽しそうに微笑んでいる。それは楽しみだ、まあすぐには成功しないだろうが……それもいいだろう。
「ああ、そうだ」
「なんだい?」
「実は今度里の祭りで人形劇を頼まれているのよ」
「ほう」
「それで引き受けようかなって」
「いいねぇ、面白そうじゃないか」
「それでなんだけど、霖之助さん、見に来てくれないかしら」
「ふむ……」
人形劇か……里に向かうのは面倒だがどうせ霊夢と魔理沙に引っ張られるだろうしそのついでに見に行ってもいいかな。
「ああ、わかった。楽しみにしているよ」
「……ええ!楽しみにしていてね!」
おお、祭りはまだ先なのに……やる気十分といったところか。
「じゃあ今日はこれで失礼するわね」
「ああ、ありがとうございました」
「絶対に見に来てね?忘れないようにね」
「分かっているよ」
何回も確認してアリスは帰っていった。
僕は閉じていた本を開いてまた読書に取り掛かる事にした。まだ夜までは時間がある。店じまいにするには速すぎるだろう。
そうして本を読みつつ彼女との会話を思い出していた。祭りの人形劇、自立人形の作成についての結果……やれやれまた、楽しみが増えてしまったな。困ってしまうよ。
そんな風に考えて僕はまた本の世界へともぐっていった。
次はもう少し容量を増やしてくれると嬉しいです。
アリ霖もっと増えれ!
ちょっとあっさりだった気もするけど和めました