―――朝。人里では一日を始める準備を、妖精達は悪戯の準備を、そして妖怪達は各々の一日を過ごす為の準備を始める時間。
そしてあたい―――火焔猫燐も、それに違わずに今日の分の仕事の準備をしていた。……はずだった。
そのはずだったんだ。それなのになんであたいは地上に向かって飛んでいるのだろうか?
しかも隣には能天気な『地底の太陽』を連れて、だ。
……なぜこんな事になったのか。事の発端は昨日の晩、一日の仕事を終えてからの事だ。
「お燐! おりーーん!」
今日の分の仕事を終えてから地霊殿に戻ろうとしたあたいに、元気なよく通る声が届いた。
「お空? あんたも仕事終わったのかい?」
「うん。さっき終わったところだよー」
声の主は灼熱地獄の管理を任されているバカラス……もとい、霊烏路 空である。ちなみにあたい達はお空って呼んでる。
いつぞやの間欠泉騒ぎの時に退治されてからは、威力が大きすぎた能力の方もすっかり落ち着いている様だった。
「どうしたの? あたいに用があるんでしょ?」
「そうそう。私、灼熱地獄の炎を見てて思ったんだけどさ……」
お空が急に何かを言い出す時は決まって面倒なことが起きる。付き合わされるこっちの身にもなってもらいたいもんだよ。
なんてことを考えていてもお構いなしにお空は目的を告げる。
「地上に太陽を見に行こう!」
「いいわよ。さとり様に許可をもらってから……はぁっ!?」
―――こんな感じで地上に行くことになってしまったのだ。
なんであたいが……はぁ……。
でももう決まっちゃった事だし、何よりお空を一人で行かせたくは無い。また面倒事に巻き込ませたくない、っていうのが本音なんだけど……。
ちなみにあたい達はまだ地上に出たばかり。この辺りで一旦立ち止まって話をしておこうかな。
「ところでお空」
「にゅ? なぁに?」
「何で急に太陽なんて調べようと思ったのよ?」
地霊殿を出てからずっと気になってた事をぶつけてみた。
「うーんとね、灼熱地獄の炎を見てたって事は言ったでしょ? その時にふと私が『地底の太陽』って呼ばれてるのを思い出してね。あ、この呼び方はさとり様に教えてもらったんだよー」
ニパーと笑って嬉しそうに報告するお空。
まぁた話がずれてるよ。話し始めるとすぐこれだ。こうなった時はいつもあたいが軌道修正をしてあげている。
「それで、地底の太陽がどうしたんだい?」
「おっと。それでね、地底の太陽が私でしょ? なら、地上の太陽はどんなものなのかな、って思ったからなんだ」
……そういう事か。またしょうもない事からわけのわからない所に話が飛んだ訳か。
お空にはこういう所がある。それでいてすぐに話を忘れるから、他の鳥頭と違って面倒なのだ。
「ふぅ~ん。なるほどねぇ。それじゃあ、何処に向かうつもりなの?」
「うーん、とね。これから博麗神社に行って、霊夢に話を聞こうと思ってるんだ」
「わかった。博麗神社だね」
何はともあれ、目的を果たしてさっさと帰ろうと思う。
……しかし地底に帰る頃には、あたいはこう考えていた事を後悔する事になるのだった。
――――――――――早朝 博麗神社・境内――――――――――
博麗神社についてみると、まだ早朝だと言うのに楽園の腋……素敵な巫女は、せっせと境内の掃除に励んでいた。
賽銭箱の前には皆さんご存知、普通の魔法使いの姿まである。
「おはようございます、お姉さん方」
「おはよーございまーす!」
「あら、あんた達がこんな朝早くにやってくるなんて、いろんな意味で珍しいじゃない」
「お、なんだお前たち。また異変でも企んでるのか? だとしたら私だけに教えろよ!」
神社に居た二人―――霊夢さんと魔理沙さんはいつもと変わらない様子だった。
あたい達は簡単に事情を説明して、話を聞かせてくれるように頼んでみた。
「いいわよ。どうせ参拝客なんて来ないだろうし、良い暇つぶしになりそうだわ」
「ありがとうございます」
ちなみにここまではほとんどあたいが交渉している。一番の当事者は魔理沙さんと何やら怪しい話で盛り上がっていた。
「ちょっと、お空。なんの話をしてるのさ」
と、お空に話を聞かせようと問いかけると、魔理沙さんが振り返って答えた。
「いやぁ、少しばかりこいつの核の力で地上侵略をば……」
「をば、じゃないわよ魔理沙! この前死ぬほど暑い思いをして止めたばっかりでしょう!?」
「嘘だぜ」
ガスンッ! と鈍い音が魔理沙さんの頭から響く。
「まったく……冗談でもそういう事言うのはやめなさいよね!」
「何も殴るこた無いだろうに……」
「もう一発いくわy「ごめんなさい」
なんだかここに来る度にこんな漫才を見ている気がする。お空は楽しそうに見てるし、もぅ……。
「……お空」
「うん?」
「目的は?」
「あ」
やっぱり忘れてたか。こんなんでも、普段の仕事はしっかりやれてるみたいだから驚きだ。
……何はともあれ、二人が落ち着いたら話を聞こうか。
二人が落ち着いた頃を見計らって声を掛ける。
「それじゃあ、改めてお二人に聞きたいんですが。お二人は太陽ってどんなものだと思いますか?」
「そうねぇ。私は人間や妖怪、全ての者を分け隔て無く見守る神様の様な存在だと思ってるわ」
「神様……ですか」
先に答えてくれたのは霊夢さんの方だった。
「年明けの神事や太陽の動きからしてもそうだと感じるのよ。ある神事では明けの明星と太陽が戦い、その年の運勢を占うというものがあるの。太陽が勝てば人間の、明けの明星が勝てば妖怪の年になると言われているわ。それを神様に見たてているということね。」
(神様か……。そういえば、八咫烏も太陽の神様だったっけ? )
「それから太陽の動きに関してだけど、太陽は東から昇って西へと沈んでいくでしょう? 夜は太陽ではなく月が辺りを照らしているけど、月だって太陽の光を反射して輝いているの。つまり、」
「お……っと、霊夢。その先は私に言わせてくれないか?」
今まであたい達と同じように聞いていた魔理沙さんが、霊夢さんの言葉を引き継ぐ。
「神事の事はよく知らなかったが、その後は私も同じ考えだと思うからな。……つまりはこういう事だ。昼間は直接私達を見守ってくれる太陽。夕方になれば西の空へと沈んでしまうが、姿の見えない夜中でも太陽は私達に光を届けてくれる。そして朝になれば、東の空からまた私達の前に姿を現す。そんな、いつも私達のそばに居てくれるような所が神様の様だ。と言いたかったんだろう?」
と、魔理沙さんが誇らしげに胸を張って霊夢さんを見て言う。
「ま、その通りね。現在の生活も、太陽を中心に考えられているというのもあるしね」
なるほど。生活の基盤となっている親しみやすいものを絶対の存在と結びつけて考えてるって事……なのかな?
「うにゅにゅ……」
「参考になったかしら?」
「うーん。まだよくわからない所もあるけど。二人ともありがと! 」
「なら良かったぜ」
と、どうやらお空なりに理解することが出来たらしい。顔も満足そうに笑っていた。
「よし、じゃあそろそろ」
「うん。次の人だね!」
……これで終わりじゃなかった様だ。
「二人共、他に太陽に詳しい人とか居ないかな?」
「そうねぇ。太陽……」
「霊夢。太陽と言えば向日葵じゃないか?」
「そう言えばそうね。あんた達」
「「はい?」」
「ここからは少し離れるんだけど、人里の向こうの山を超えたあたりにある向日葵畑に行ってみたら? 」
「向日葵畑……ですか」
何やら魔理沙さんが笑っている気がして嫌な予感がたっぷりだが、お空は行く気満々のようだ。
「それじゃお二人共、ありがとうございました」
「おう。気 を つ け て な」
最後の魔理沙さんの言い方が気になったが行ってみる事にしよう。
二人が飛んで行く姿を見送りながら魔理沙に声を掛ける。
「それにしても、あんたからあいつに合わせるだなんて……どういうつもりなの?」
すると魔理沙は満面の笑みを浮かべて振り返った。
「だって、その方が面白そうだろ?」
「……あんた、あいつに負けない位のドSね」
「いや。私はただ、私が楽しめそうな事をやるだけだ」
そう言った顔もやっぱり、心底楽しそうに笑っていた。
――――――――――午前中 向日葵畑・上空――――――――――
霊夢さん達に言われた通りに向日葵畑にやってきた。
向日葵畑はなかなかの面積で、端から端まで行くのには結構な時間がかかりそうなほどだ。
「霊夢達はここに来れば話が聞けるって言ってたよね」
「うん。確かにそうだけど……」
お空は相変わらずな様子だけど、あたいは博麗神社を出てからずっと気になっていた。
最後の魔理沙さんの言葉は何だったのかという心配を他所に、お空は地上に降りようとして高度を下げる。
「……あ、ちょっとお空!」
「止 ま り な さ い !」
「「―――ッ!?」」
お空がもう少しで花畑に降り立つ、といった所で誰かに止められた。
あんまり声が大きかったからか、お空は慌ててあたいの所まで戻って来ている。
「あなた達……何をしにきたの?」
声のした方を見ると、赤いチェックの服装に緑の髪をしたお姉さんがいた。すごい形相であたい達に向けて傘を構えている。
……すごく……怖いです。
「どっ、どうしよう~!?」
「あたいだって怖いわよ! ちょ、引っ付くな!」
「はぁ……あなた達」
「「ひゃいっ!」」
あたいとお空は同時に上ずった返事をしてしまった。それでも謎のお姉さんは傘を構えたまま続ける。
「もう一度だけ聞くわ。ここに何をしに来たの?」
どうやらあたい達の目的が知りたいみたいだ。
素直に答えた方が良さそう、とお空とアイコンタクトをして答える事にする。
「えっと、あたい達は太陽に詳しい人を探しています。それで魔理沙さんが向日葵畑に行けば会えると言ってたので……」
「魔理沙が? ……あぁ、この時期だからという事ね。いいわよ、ついて来て」
そう言うと傘を持っていた手を下げて、私達を花畑の中心へと案内してくれた。
あたい達は、中心に降り立って辺りを見渡す。
そこは辺り一面が向日葵に囲まれていて……、
「うわぁ……!」
「綺麗だねぇ……」
本当に綺麗な所だった。
「そう言ってもらえると私も嬉しいわ。ここは、空の青、向日葵の黄色、茎の緑の三つ色が層になって見える、私のお気に入りの場所なのよ」
そう言ったお姉さんの顔は本当に嬉しそうだった。自分の好きなものが褒められるのはあたいも好きだ。
……でもこのお姉さんからは言い知れぬ不安感を感じる、と一人で考え込んでいるとお姉さんの方から話しかけてくれた。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私は風見 幽香。他の連中からは『四季のフラワーマスター』とかって呼ばれたりしてるわ」
「えと、あたいは火焔猫燐。こっちのは霊烏路 空です」
「よろしく!」
元気よくシュバッ! と手を挙げるお空。全く、元気だけはいいんだから……もぅ。
で、それからはやっぱりあたいが一人で説明をして話を聞かせてもらえる事になった。
しばらく話をしていると、お互いに警戒心が少しづつだが薄れてきた。……気がした。
あたいがそう思っていても、幽香さんは先程から楽しそうに話をしてくれている。
っと、そろそろ本題に入ってもらおう。
「……太陽ね。二人がなんて言ったかはわからないけど……私は、私達に恵みを与えてくれるものだと思うわ」
「恵み、ですか」
「ええ。太陽の光にはエネルギーがあるわよね。光のエネルギーや熱のエネルギー、という意味もあるけど、何より花に一番大事なものだと思うからね。日光があれば花は元気に育つ事ができるし、向日葵は太陽に向かって綺麗に咲く事ができる。」
「ふむふむ。」
真剣な顔でしきりに頷いてはいるが……本当にわかってるんだろうか。
わかっている様でも理解はしていない、なんて事が多々あるから困ったもんだ。
「向日葵だけじゃなく、他の植物だってそうよ? 大地からの栄養だけでは育つ事はできない。でも太陽の光を浴びる事で、光合成を行い栄養を作り出す。そうする事で、強く、より美しく生きる事ができるの。芋や野菜とかも日光があった方が美味しいし、栄養もたっぷり詰まった良いものができるしね。その太陽の恵みを、私達も様々な形で受けていると思うからよ」
「ヘぇ~。太陽にはそんな役割もあるんですね」
説明している時の幽香さんの顔は、とても生き生きしてる様に見えた。
きっと、あたい達が思っているよりも植物が好きなんだろう。
出会った時に怒っていたのは、あたい達が向日葵を傷つけてしまうと思ったからなのかもしれない。
「ま、これはあくまでも私個人としての意見だけど。……参考になったかしら?」
「はい! ありがとーございました!」
「そう。なら良かったわ」
そう言った幽香さんは、本当に嬉しそうだった。確かに優しそうな人だけど、まだ少し何かが引っかかってしまう。
……いつまでもこんな事を考えていては幽香さんに失礼だ。早いとこ次の場所に行った方がいいだろう。
「それじゃそろそろあたい達は行く事にします」
「あら。もっとここにいても良いのよ?」
「いえ、お空がたくさんの人に聞きたいって言うんで」
(本当は他の意味もあるんだけど……)
「そっか。なら、また聞きたくなったらここに来なさい。しばらくはここにいるつもりだから、お茶でも用意して待ってるわ」
「なら、その時はお邪魔させてもらいます」
そう言って次の目的地を聞く為にお空に声を掛けようとすると、幽香さんは思い出したように言う。
「そうそう。帰る時は花に傷をつけない様に気をつけてね。もしそんな事をしたら……」
「―――ッ!!」
笑顔のまましゃべっていた幽香さんだったが、その笑顔の裏から漂う並々ならぬ重圧感に怯んでしまう。
お空は、何があったかわかっていない表情であたいを見ている。
……今まで感じていた不安の正体はこれだったの?
「ともあれ二人共、帰りにはくれぐれも、気 を つ け て ね ?」
「はーい」
「……はい」
やっぱり最後の言葉に違和感と言うか、不安を感じてしまう。
そんなあたいを他所に、お空は次の目的地を決めたらしく宙に浮く。
「それじゃ、さよーならー!」
と、お空が幽香さんに手を振ると、幽香さんも手を振り返してくれた。
向日葵畑を離れてすぐに、お空に次の目的地を聞く。
「それで? 次はどこへ向かうのよ?」
「うーん……まだ決めてないんだけど、人がたくさんいそうなとこ!」
「ふぅん……なら、人里にでも行ってみようか」
「うん!」
と、いつもの能天気なお空を見て、あたいの気も少し晴れる。
お空は幽香さんを何とも思ってないようだけど、それならそれで良い。
お空に余計な心配をかけさせたくはないからね。
「お燐ー? 早く行こうよー」
「あっ、うん。わかったよ」
うん。やっぱりお空にはいつも笑っていて欲しい。その方があたいも笑っていられる。
そんな事を思いながら、人里へと飛んで行った。
――――――――――正午 人里・下町――――――――――
「よし、着いたねー!」
「もうお昼だけどね」
話題の太陽は、今やあたい達の真上でさんさんと輝いている。人里に来たは良いが、お昼時というのもあって人が多い。
お空の考えはあながち間違ってもいなかったのかも。これだけ人が多ければ、何人かは太陽に詳しい人がいるだろう。
……とは言っても、誰に聞けば良いのだろうか?
「ねぇ、お空。どこに行こうか?」
「……あー。決めてなかったね」
どうしよう、と二人で悩んでいる所に聞き慣れぬ声が届いた。
「あら、貴女達は……」
「はい?」
振り返ると、見知らぬ二人組が話しかけてきた。
一人はあたい達より背が高くて、いわゆるメイド服を着てる。
もう一人は背が低くて、晴れだというのに傘をさしている。
「貴女達は確か……地底の妖怪ね?」
……え? あたい達、この人達とは初対面のはずなんだけど……何で知ってるの?
「お嬢様。話が唐突すぎですよ」
「あら、確かにそうか」
「咲夜ふぁーん、何はあったんでふか?」
どういう訳か全く理解できていない所に、今度は緑のチャイナ服に緑の帽子をかぶった人が、お団子を頬張りながら近づいてきた。
どうやら知り合いらしい。
その人に向かって咲夜と呼ばれたメイドさんが呆れ口調で言う。
「美鈴、あなたはいったい何をしているのかしら?」
「お団子を食べへまふ。美味しいでふよ」
「お嬢様をほったらかして?」
「……ごくん」
「もういいわよ、咲夜。それよりも……」
と、漫才を切り上げてこちらに向き直るお嬢様(らしい)。こっちから理由を聞いてみようか。
「あの、なんであたい達の事を知っているんですか?」
「あぁ、その事なら簡単な事。直接ではないけど貴女達を見たからよ」
「見た? どーゆーこと?」
「以前の間欠泉騒ぎの時に、地底に霊夢と魔理沙が向かったでしょ? その時の一部始終を、うちの魔法使いに見せてもらったという事よ」
「あー、その人多分わかる! 魔理沙と話してた、パチュリーって人?」
「正解。あれでも、昔から優秀な魔法使いなの」
「少しは図書館から出てきて欲しいですけどね」
「咲夜、それは言わないであげて」
「……わかりましたから、そんなお顔をなさらないでください。お嬢様」
「ならいいわ」
……うん。なんだか悪い人達じゃなさそうだね。
「ねぇねぇ、お燐。この人達にも話を聞いてもいいかな?」
「いいけど、まずは自己紹介でしょ」
自己紹介を済ませて、話も聞かせてもらえる事になった。
ちなみにあたい達は、さっき美鈴さんが食べていたお団子屋さんにいる。
……なんかお空と美鈴さんはやたらと仲良くなってる。それをあたいと咲夜さんが同じ様にして見て溜息をつく。
……あ、咲夜さんとは仲良くなれそうな気がする。
「それで、話は太陽についてだった?」
「はい。思っている事を話していただけたらと」
「そうね……。はっきり言えばあれは天敵よ。私はさっきも言った通り吸血鬼。闇に生きる種族であり、それ故に光を苦手とする一族。簡単に言えば日光が弱点って事よ。私達吸血鬼は、日光に当たると気化してしまう。だからこそ霧で隠そうとしたのだけれど……」
「それって、紅魔異変って奴ですか?」
「そう。でも、霊夢達に阻止されちゃったけどね。おかげで次の目的が出来た……。今度は小細工無しであの憎き太陽を超越してやる! そしてこの幻想郷を思うままに闊歩してやる!」
両手を大きく広げて語るレミリアさんに、咲夜さんが心配そうに言う。
「お嬢様。いくらお嬢様と言えど、それは流石に無理では……」
「あら、誰が無理だなんて決めたの? この私が出来ない事と言ったら……上手く血が吸えない事だけよ」
「……あれ? お嬢様ってニンニクとかダメじゃなかっ「「黙りなさい」」すみません」
……これは聞かなかった事にしておこうか。だって二人の笑顔が怖いし。流石にお空も顔が引きつってるし。
「話を戻して……。私にとっては乗り越えるべき壁って所ね、あの火の玉は」
「意外ですね。もっと嫌っていると思っていました」
「苦手ではあるけど、認めていないわけじゃない。そういう咲夜はどうなの?」
「私ですか……。私としては紅茶や野菜が美味しくできるので、好きか嫌いかで言ったら好きですね」
「あ、私も太陽好きですよー。日光って、暖かくて気持ち良いんですよねー。お昼寝の時にはもう最高なんです。……あ゛」
「美鈴? あなたの仕事のどこに昼寝をする時間なんてあったのかしら?」
「や、あの、咲夜さん? これは言葉の綾というもので」
……やー、優しい笑顔がこんなにも恐怖を感じるものだったとは。しかも幽香さんとは違う恐怖だ。
と、ここでレミリアさんが少し不機嫌そうになって言った。
「あら、それじゃ二人は私の天敵を肯定するって事?」
「「いえいえ、これはあくまでも個人としての意見ですから」」
咲夜さんと美鈴さんが見事にハモる。二人共心なしか……いや、メチャメチャ楽しそうだ。
「貴女達、あまり主君をからかわない方がいいわよ」
「そうよ、美鈴」
「ちょ、咲夜さんひどい……」
そんな様子を見ていたお空が、あたいが思っていた事と同じ事を言った。
「なんだか三人共楽しそうだねー」
「あら。嬉しい事を言ってくれるわね。確かに咲夜達といると退屈しないけど」
「もー。お嬢様ってば素直じゃないですねー!」
「美鈴、貴女はいつも館の外でしょ?」
「うぅ……お嬢様までひどいですよー」
そんな風に言っている顔も笑顔だった。仲良き事は美しきかな、ってね。
「あ、そうだ。レミリアさん」
「何?」
「この辺りで他に話を聞けそうな人っていますかね?」
「そうねぇ。咲夜、心当たりとかない?」
「それなら、寺子屋に行ってみたらどうでしょう」
「寺子屋?」
「しばらくまっすぐ行って、右手にある結構大きめの建物の事よ。里の子供達に勉強を教えている所ね」
「上白沢 慧音という女性に聞けば、他の事も聞けるはずです」
「ありがとーございます!」
「いいのよ。こっちとしても楽しめたし」
さてと、と言って立ち上がるレミリアさん達。
……あ、そういえば。
「そういえば、レミリアさん達はどうして里に来てたんですか?」
「んー? それは霊夢さんの所に行くのに手ぶらじゃ可哀想だからとかなんとかでお土産を買もがっ!?」
「ど、どうせならお茶に合うものを持って行こうとしただけ! ほんとうなのよ!」
「わ、わかりました! わかりましたって!」
レミリアさんが焦っている。なぜかはわからないが、こんなレミリアさんもアリな気がする。
後ろでは、暴露した美鈴さんが咲夜さんに羽交い締めにさ「ちょっと! 咲夜さん!? その関節はそっちには曲がらな……ッアーーー!!」
……何もなかった。あたい達は何も見ていない。
やけに嫌な音がした気がするけど、きっと気のせいだろう。
「うわー、痛そ……」
「そ、それじゃあたい達はもう行きますね」
「そ、そう。また会ったらその時はよろしく頼むわ」
「こちらこそ。それでは」
「さよならー!」
あたい達はレミリアさん達と別れて、寺子屋に向けて歩き出した……けど、
―――くるるるぅ~~
そこであたい達のお腹が揃って鳴った。
「……お腹減ったね」
「うん……何か食べてこうか」
「うん!」
……まずは昼食を取る事にしようか。寺子屋に行くのはその後だ。
――――――――――夕方 上空――――――――――
……レミリアさん達と別れてからは、慧音さんから天体としての話を聞く事ができた。
その後も何人かに話を聞いて回る事ができた。早苗さんは、外の世界では「発電」だかってのに使ってるって言ってたかな。
あ、そういえば香霖堂って所で「たいよおおおおお!!」って喋る、向日葵みたいな人形も見つけたっけ。
「お空の急な思いつきで沢山の話を聞いてきたけどさ。一つの物に対してもいろんな解釈があるんだねぇ」
朝からこんな夕暮れまで聞いて回った話を思い出しながら呟くと、
「うん。今まで思いもしなかった事とかも聞けたから楽しかったね!」
と、屈託のない笑顔で言ってくる。
そうは言ってもこいつの事じゃ、もう四割方……いや、いい意味だった話しか覚えてないかもしれない。
下手をすればその話すら忘れている場合だってある。そういう奴なんだ……。
まぁ、あたいが後で教えてあげれば済む事だけどね。
「うにゅ~……」
少し呆れている間に当の本人は何やら小難しい顔をして唸っている。
「どうしたんだい?」
「ねぇお燐。結局、太陽って皆にとってはどんな物なんだろ? お燐はわかった?」
……こいつはまたそんな事言ってるのか。今までの話を聞いてれば答えなんてとっくに出てるだろうに。
ま、お空らしいと言えばらしいんだけど。
半ば飽きれながら、半ば安心しながらも教えてやろうかと思った。けれど、いつも甘やかしてばっかだとお互いの為に良くないだろう。
そう考えたあたいは、ここはあえて答えを教えてあげないことにした。
「答えならとっくに出てるんじゃないかい?」
「うん? う~ん……。出てるには出てるんだけど、お燐の意見も聞きたかったなぁ~、なんて」
「……目が泳いでるよ?」
「そ、そんなことないよ!」
とは言え、実際にお空の目は泳いでなんていなかった。その目はしっかりとした眼差しだったが、恥ずかしさもあるようだった。
「今更何を恥ずかしがることなんてあるのさ。あたいとあんたの付き合いだろ?」
「ぁ! ……うん! そうだね!」
全くこの娘は。言っててこっちが恥ずかしくなっちゃうじゃないか。
……それは一旦置いといて、あたいはお空の言葉を待つ。
お空はあたいが勝手に頬を赤くしていたのを不思議そうに見ていたけど、真剣に言葉を聞こうとすると真面目な表情で話してくれた。
「皆はさ、普段は意識してないって言ってたけどそれぞれの思ったことを聞かせてくれたよね? でもそれは、普段から太陽を意識してるって事だよね。もっと言えば、太陽は必ずあるものだっていう認識になると思うんだ。」
……正直驚いた。お空があの話を聞いてここまで真剣に考えていたなんて思いもしなかった。
それだけ太陽に対する思い入れがあったということなんだろう。
「でもね? 私、ずっと考えてたんだ。地上に暮らす人達にとっては当たり前の事だけど、地下に暮らす私達にとってはどういう意味なんだろうって」
そこまで言ってからお空は口を閉じた。まだ言葉を自分の中でまとめているんだろうか。
あたいは黙って次の言葉を待った。
「ん~……。うまく言えないんだけど、私にとってはお燐やさとり様達の事なのかなって思ったんだ」
「へぇっ!?」
いきなりの事で意味が全くわからない。
それどころか、何かものすごいことを言われてしまった気がしてこっちがあたふたしてしまう。
「ちょ、ちょっとお空? それってどういう……」
「うにゅ? そのままの意味だよ?」
その後のお空の話をまとめるとこういうことらしい。
太陽とはどんな時でもあって当然のもの。そして、無くてはならない大切なもの。
つまりは自分の周りの大切な人たちの事なのだ、と。
「だからね? 皆が私にとっての太陽だから、私は皆にとっての太陽になりたいなって思ったんだ!」
「お空……あんたってやつはぁ~!!」
「にゅ!? お、お燐?」
あたいはお空を唐突に抱きしめていた。
お空の言葉を聞いた瞬間、泣きそうになった。抱きしめたのは今の自分の顔を見られたくなかったからだ。
この娘は自分達の事をこんなにも考えていてくれたのか。
いつも能天気で調子に乗りやすかった奴だけど、自分を大切だと言ってくれた。
そう考えると言葉なんて浮かんで来なかった。
只々、思いを伝えるだけしかできなかった。
「あんた、そんな事考えててくれたんだね」
「当たり前じゃん。家族なんだから」
「そっか……」
「だからこれからもずーっと、ずーーーっっと、皆で一緒にいようね? 」
「……ヴん」
もう人に見せられないような顔になっているのだろう。でも、そんな事を考えている余裕なんて今のあたいの中には無かった。
お空の言ってくれた『家族』という言葉が何よりも嬉しかった。
「もぉ~。お燐ったら大げさなんだから」
そう言って頭を撫でてくれたその手は、いつも、どんな時でも一緒に居た事を感じさせてくれた。
お空から離れて、あたい達はお互いの顔を見つめて向かい合う。
「……お空」
「うん? なぁに?」
「……ありがとね」
「うん、こちらこそ!」
そう言ったあの娘の顔は沈んで行く太陽に照らされて赤く染まっていた。
きっと、あたいの顔はそれ以上に赤くなっていただろう。
「―――もう日が沈んじゃうね」
「え? あぁ、そうだね」
「うん。それじゃあ!」
お空は左手をあたいに突き出して続けた。
「もう帰ろっか!」
「そう、だね。さとり様達も待ってるだろうからね」
お空の左手を、自分の右手で掴んで答える。
……思えばこの手にいつから助けられていただろう。そんな事も忘れてしまうほど永く、近くに居た相棒を見つめる。
ふり回される事も多いけど、やっぱり一番近くに居てやりたいと思う。
しばらく前に地下は太陽が無い事だけが欠点だ、なんて言っていたが取り消すしかないだろう。
「……ずっとそばにいたんだもんね」
「お燐? どしたの?」
「何でもないよ、早く行こう!」
照れ隠しも含めてお空を引っ張って飛んで行く。
今のあたいは、早くこの話をさとり様とこいし様に伝えたいという思いでいっぱいだった。
―――――――――Return to Loving Family...
そしてあたい―――火焔猫燐も、それに違わずに今日の分の仕事の準備をしていた。……はずだった。
そのはずだったんだ。それなのになんであたいは地上に向かって飛んでいるのだろうか?
しかも隣には能天気な『地底の太陽』を連れて、だ。
……なぜこんな事になったのか。事の発端は昨日の晩、一日の仕事を終えてからの事だ。
「お燐! おりーーん!」
今日の分の仕事を終えてから地霊殿に戻ろうとしたあたいに、元気なよく通る声が届いた。
「お空? あんたも仕事終わったのかい?」
「うん。さっき終わったところだよー」
声の主は灼熱地獄の管理を任されているバカラス……もとい、霊烏路 空である。ちなみにあたい達はお空って呼んでる。
いつぞやの間欠泉騒ぎの時に退治されてからは、威力が大きすぎた能力の方もすっかり落ち着いている様だった。
「どうしたの? あたいに用があるんでしょ?」
「そうそう。私、灼熱地獄の炎を見てて思ったんだけどさ……」
お空が急に何かを言い出す時は決まって面倒なことが起きる。付き合わされるこっちの身にもなってもらいたいもんだよ。
なんてことを考えていてもお構いなしにお空は目的を告げる。
「地上に太陽を見に行こう!」
「いいわよ。さとり様に許可をもらってから……はぁっ!?」
―――こんな感じで地上に行くことになってしまったのだ。
なんであたいが……はぁ……。
でももう決まっちゃった事だし、何よりお空を一人で行かせたくは無い。また面倒事に巻き込ませたくない、っていうのが本音なんだけど……。
ちなみにあたい達はまだ地上に出たばかり。この辺りで一旦立ち止まって話をしておこうかな。
「ところでお空」
「にゅ? なぁに?」
「何で急に太陽なんて調べようと思ったのよ?」
地霊殿を出てからずっと気になってた事をぶつけてみた。
「うーんとね、灼熱地獄の炎を見てたって事は言ったでしょ? その時にふと私が『地底の太陽』って呼ばれてるのを思い出してね。あ、この呼び方はさとり様に教えてもらったんだよー」
ニパーと笑って嬉しそうに報告するお空。
まぁた話がずれてるよ。話し始めるとすぐこれだ。こうなった時はいつもあたいが軌道修正をしてあげている。
「それで、地底の太陽がどうしたんだい?」
「おっと。それでね、地底の太陽が私でしょ? なら、地上の太陽はどんなものなのかな、って思ったからなんだ」
……そういう事か。またしょうもない事からわけのわからない所に話が飛んだ訳か。
お空にはこういう所がある。それでいてすぐに話を忘れるから、他の鳥頭と違って面倒なのだ。
「ふぅ~ん。なるほどねぇ。それじゃあ、何処に向かうつもりなの?」
「うーん、とね。これから博麗神社に行って、霊夢に話を聞こうと思ってるんだ」
「わかった。博麗神社だね」
何はともあれ、目的を果たしてさっさと帰ろうと思う。
……しかし地底に帰る頃には、あたいはこう考えていた事を後悔する事になるのだった。
――――――――――早朝 博麗神社・境内――――――――――
博麗神社についてみると、まだ早朝だと言うのに楽園の腋……素敵な巫女は、せっせと境内の掃除に励んでいた。
賽銭箱の前には皆さんご存知、普通の魔法使いの姿まである。
「おはようございます、お姉さん方」
「おはよーございまーす!」
「あら、あんた達がこんな朝早くにやってくるなんて、いろんな意味で珍しいじゃない」
「お、なんだお前たち。また異変でも企んでるのか? だとしたら私だけに教えろよ!」
神社に居た二人―――霊夢さんと魔理沙さんはいつもと変わらない様子だった。
あたい達は簡単に事情を説明して、話を聞かせてくれるように頼んでみた。
「いいわよ。どうせ参拝客なんて来ないだろうし、良い暇つぶしになりそうだわ」
「ありがとうございます」
ちなみにここまではほとんどあたいが交渉している。一番の当事者は魔理沙さんと何やら怪しい話で盛り上がっていた。
「ちょっと、お空。なんの話をしてるのさ」
と、お空に話を聞かせようと問いかけると、魔理沙さんが振り返って答えた。
「いやぁ、少しばかりこいつの核の力で地上侵略をば……」
「をば、じゃないわよ魔理沙! この前死ぬほど暑い思いをして止めたばっかりでしょう!?」
「嘘だぜ」
ガスンッ! と鈍い音が魔理沙さんの頭から響く。
「まったく……冗談でもそういう事言うのはやめなさいよね!」
「何も殴るこた無いだろうに……」
「もう一発いくわy「ごめんなさい」
なんだかここに来る度にこんな漫才を見ている気がする。お空は楽しそうに見てるし、もぅ……。
「……お空」
「うん?」
「目的は?」
「あ」
やっぱり忘れてたか。こんなんでも、普段の仕事はしっかりやれてるみたいだから驚きだ。
……何はともあれ、二人が落ち着いたら話を聞こうか。
二人が落ち着いた頃を見計らって声を掛ける。
「それじゃあ、改めてお二人に聞きたいんですが。お二人は太陽ってどんなものだと思いますか?」
「そうねぇ。私は人間や妖怪、全ての者を分け隔て無く見守る神様の様な存在だと思ってるわ」
「神様……ですか」
先に答えてくれたのは霊夢さんの方だった。
「年明けの神事や太陽の動きからしてもそうだと感じるのよ。ある神事では明けの明星と太陽が戦い、その年の運勢を占うというものがあるの。太陽が勝てば人間の、明けの明星が勝てば妖怪の年になると言われているわ。それを神様に見たてているということね。」
(神様か……。そういえば、八咫烏も太陽の神様だったっけ? )
「それから太陽の動きに関してだけど、太陽は東から昇って西へと沈んでいくでしょう? 夜は太陽ではなく月が辺りを照らしているけど、月だって太陽の光を反射して輝いているの。つまり、」
「お……っと、霊夢。その先は私に言わせてくれないか?」
今まであたい達と同じように聞いていた魔理沙さんが、霊夢さんの言葉を引き継ぐ。
「神事の事はよく知らなかったが、その後は私も同じ考えだと思うからな。……つまりはこういう事だ。昼間は直接私達を見守ってくれる太陽。夕方になれば西の空へと沈んでしまうが、姿の見えない夜中でも太陽は私達に光を届けてくれる。そして朝になれば、東の空からまた私達の前に姿を現す。そんな、いつも私達のそばに居てくれるような所が神様の様だ。と言いたかったんだろう?」
と、魔理沙さんが誇らしげに胸を張って霊夢さんを見て言う。
「ま、その通りね。現在の生活も、太陽を中心に考えられているというのもあるしね」
なるほど。生活の基盤となっている親しみやすいものを絶対の存在と結びつけて考えてるって事……なのかな?
「うにゅにゅ……」
「参考になったかしら?」
「うーん。まだよくわからない所もあるけど。二人ともありがと! 」
「なら良かったぜ」
と、どうやらお空なりに理解することが出来たらしい。顔も満足そうに笑っていた。
「よし、じゃあそろそろ」
「うん。次の人だね!」
……これで終わりじゃなかった様だ。
「二人共、他に太陽に詳しい人とか居ないかな?」
「そうねぇ。太陽……」
「霊夢。太陽と言えば向日葵じゃないか?」
「そう言えばそうね。あんた達」
「「はい?」」
「ここからは少し離れるんだけど、人里の向こうの山を超えたあたりにある向日葵畑に行ってみたら? 」
「向日葵畑……ですか」
何やら魔理沙さんが笑っている気がして嫌な予感がたっぷりだが、お空は行く気満々のようだ。
「それじゃお二人共、ありがとうございました」
「おう。気 を つ け て な」
最後の魔理沙さんの言い方が気になったが行ってみる事にしよう。
二人が飛んで行く姿を見送りながら魔理沙に声を掛ける。
「それにしても、あんたからあいつに合わせるだなんて……どういうつもりなの?」
すると魔理沙は満面の笑みを浮かべて振り返った。
「だって、その方が面白そうだろ?」
「……あんた、あいつに負けない位のドSね」
「いや。私はただ、私が楽しめそうな事をやるだけだ」
そう言った顔もやっぱり、心底楽しそうに笑っていた。
――――――――――午前中 向日葵畑・上空――――――――――
霊夢さん達に言われた通りに向日葵畑にやってきた。
向日葵畑はなかなかの面積で、端から端まで行くのには結構な時間がかかりそうなほどだ。
「霊夢達はここに来れば話が聞けるって言ってたよね」
「うん。確かにそうだけど……」
お空は相変わらずな様子だけど、あたいは博麗神社を出てからずっと気になっていた。
最後の魔理沙さんの言葉は何だったのかという心配を他所に、お空は地上に降りようとして高度を下げる。
「……あ、ちょっとお空!」
「止 ま り な さ い !」
「「―――ッ!?」」
お空がもう少しで花畑に降り立つ、といった所で誰かに止められた。
あんまり声が大きかったからか、お空は慌ててあたいの所まで戻って来ている。
「あなた達……何をしにきたの?」
声のした方を見ると、赤いチェックの服装に緑の髪をしたお姉さんがいた。すごい形相であたい達に向けて傘を構えている。
……すごく……怖いです。
「どっ、どうしよう~!?」
「あたいだって怖いわよ! ちょ、引っ付くな!」
「はぁ……あなた達」
「「ひゃいっ!」」
あたいとお空は同時に上ずった返事をしてしまった。それでも謎のお姉さんは傘を構えたまま続ける。
「もう一度だけ聞くわ。ここに何をしに来たの?」
どうやらあたい達の目的が知りたいみたいだ。
素直に答えた方が良さそう、とお空とアイコンタクトをして答える事にする。
「えっと、あたい達は太陽に詳しい人を探しています。それで魔理沙さんが向日葵畑に行けば会えると言ってたので……」
「魔理沙が? ……あぁ、この時期だからという事ね。いいわよ、ついて来て」
そう言うと傘を持っていた手を下げて、私達を花畑の中心へと案内してくれた。
あたい達は、中心に降り立って辺りを見渡す。
そこは辺り一面が向日葵に囲まれていて……、
「うわぁ……!」
「綺麗だねぇ……」
本当に綺麗な所だった。
「そう言ってもらえると私も嬉しいわ。ここは、空の青、向日葵の黄色、茎の緑の三つ色が層になって見える、私のお気に入りの場所なのよ」
そう言ったお姉さんの顔は本当に嬉しそうだった。自分の好きなものが褒められるのはあたいも好きだ。
……でもこのお姉さんからは言い知れぬ不安感を感じる、と一人で考え込んでいるとお姉さんの方から話しかけてくれた。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私は風見 幽香。他の連中からは『四季のフラワーマスター』とかって呼ばれたりしてるわ」
「えと、あたいは火焔猫燐。こっちのは霊烏路 空です」
「よろしく!」
元気よくシュバッ! と手を挙げるお空。全く、元気だけはいいんだから……もぅ。
で、それからはやっぱりあたいが一人で説明をして話を聞かせてもらえる事になった。
しばらく話をしていると、お互いに警戒心が少しづつだが薄れてきた。……気がした。
あたいがそう思っていても、幽香さんは先程から楽しそうに話をしてくれている。
っと、そろそろ本題に入ってもらおう。
「……太陽ね。二人がなんて言ったかはわからないけど……私は、私達に恵みを与えてくれるものだと思うわ」
「恵み、ですか」
「ええ。太陽の光にはエネルギーがあるわよね。光のエネルギーや熱のエネルギー、という意味もあるけど、何より花に一番大事なものだと思うからね。日光があれば花は元気に育つ事ができるし、向日葵は太陽に向かって綺麗に咲く事ができる。」
「ふむふむ。」
真剣な顔でしきりに頷いてはいるが……本当にわかってるんだろうか。
わかっている様でも理解はしていない、なんて事が多々あるから困ったもんだ。
「向日葵だけじゃなく、他の植物だってそうよ? 大地からの栄養だけでは育つ事はできない。でも太陽の光を浴びる事で、光合成を行い栄養を作り出す。そうする事で、強く、より美しく生きる事ができるの。芋や野菜とかも日光があった方が美味しいし、栄養もたっぷり詰まった良いものができるしね。その太陽の恵みを、私達も様々な形で受けていると思うからよ」
「ヘぇ~。太陽にはそんな役割もあるんですね」
説明している時の幽香さんの顔は、とても生き生きしてる様に見えた。
きっと、あたい達が思っているよりも植物が好きなんだろう。
出会った時に怒っていたのは、あたい達が向日葵を傷つけてしまうと思ったからなのかもしれない。
「ま、これはあくまでも私個人としての意見だけど。……参考になったかしら?」
「はい! ありがとーございました!」
「そう。なら良かったわ」
そう言った幽香さんは、本当に嬉しそうだった。確かに優しそうな人だけど、まだ少し何かが引っかかってしまう。
……いつまでもこんな事を考えていては幽香さんに失礼だ。早いとこ次の場所に行った方がいいだろう。
「それじゃそろそろあたい達は行く事にします」
「あら。もっとここにいても良いのよ?」
「いえ、お空がたくさんの人に聞きたいって言うんで」
(本当は他の意味もあるんだけど……)
「そっか。なら、また聞きたくなったらここに来なさい。しばらくはここにいるつもりだから、お茶でも用意して待ってるわ」
「なら、その時はお邪魔させてもらいます」
そう言って次の目的地を聞く為にお空に声を掛けようとすると、幽香さんは思い出したように言う。
「そうそう。帰る時は花に傷をつけない様に気をつけてね。もしそんな事をしたら……」
「―――ッ!!」
笑顔のまましゃべっていた幽香さんだったが、その笑顔の裏から漂う並々ならぬ重圧感に怯んでしまう。
お空は、何があったかわかっていない表情であたいを見ている。
……今まで感じていた不安の正体はこれだったの?
「ともあれ二人共、帰りにはくれぐれも、気 を つ け て ね ?」
「はーい」
「……はい」
やっぱり最後の言葉に違和感と言うか、不安を感じてしまう。
そんなあたいを他所に、お空は次の目的地を決めたらしく宙に浮く。
「それじゃ、さよーならー!」
と、お空が幽香さんに手を振ると、幽香さんも手を振り返してくれた。
向日葵畑を離れてすぐに、お空に次の目的地を聞く。
「それで? 次はどこへ向かうのよ?」
「うーん……まだ決めてないんだけど、人がたくさんいそうなとこ!」
「ふぅん……なら、人里にでも行ってみようか」
「うん!」
と、いつもの能天気なお空を見て、あたいの気も少し晴れる。
お空は幽香さんを何とも思ってないようだけど、それならそれで良い。
お空に余計な心配をかけさせたくはないからね。
「お燐ー? 早く行こうよー」
「あっ、うん。わかったよ」
うん。やっぱりお空にはいつも笑っていて欲しい。その方があたいも笑っていられる。
そんな事を思いながら、人里へと飛んで行った。
――――――――――正午 人里・下町――――――――――
「よし、着いたねー!」
「もうお昼だけどね」
話題の太陽は、今やあたい達の真上でさんさんと輝いている。人里に来たは良いが、お昼時というのもあって人が多い。
お空の考えはあながち間違ってもいなかったのかも。これだけ人が多ければ、何人かは太陽に詳しい人がいるだろう。
……とは言っても、誰に聞けば良いのだろうか?
「ねぇ、お空。どこに行こうか?」
「……あー。決めてなかったね」
どうしよう、と二人で悩んでいる所に聞き慣れぬ声が届いた。
「あら、貴女達は……」
「はい?」
振り返ると、見知らぬ二人組が話しかけてきた。
一人はあたい達より背が高くて、いわゆるメイド服を着てる。
もう一人は背が低くて、晴れだというのに傘をさしている。
「貴女達は確か……地底の妖怪ね?」
……え? あたい達、この人達とは初対面のはずなんだけど……何で知ってるの?
「お嬢様。話が唐突すぎですよ」
「あら、確かにそうか」
「咲夜ふぁーん、何はあったんでふか?」
どういう訳か全く理解できていない所に、今度は緑のチャイナ服に緑の帽子をかぶった人が、お団子を頬張りながら近づいてきた。
どうやら知り合いらしい。
その人に向かって咲夜と呼ばれたメイドさんが呆れ口調で言う。
「美鈴、あなたはいったい何をしているのかしら?」
「お団子を食べへまふ。美味しいでふよ」
「お嬢様をほったらかして?」
「……ごくん」
「もういいわよ、咲夜。それよりも……」
と、漫才を切り上げてこちらに向き直るお嬢様(らしい)。こっちから理由を聞いてみようか。
「あの、なんであたい達の事を知っているんですか?」
「あぁ、その事なら簡単な事。直接ではないけど貴女達を見たからよ」
「見た? どーゆーこと?」
「以前の間欠泉騒ぎの時に、地底に霊夢と魔理沙が向かったでしょ? その時の一部始終を、うちの魔法使いに見せてもらったという事よ」
「あー、その人多分わかる! 魔理沙と話してた、パチュリーって人?」
「正解。あれでも、昔から優秀な魔法使いなの」
「少しは図書館から出てきて欲しいですけどね」
「咲夜、それは言わないであげて」
「……わかりましたから、そんなお顔をなさらないでください。お嬢様」
「ならいいわ」
……うん。なんだか悪い人達じゃなさそうだね。
「ねぇねぇ、お燐。この人達にも話を聞いてもいいかな?」
「いいけど、まずは自己紹介でしょ」
自己紹介を済ませて、話も聞かせてもらえる事になった。
ちなみにあたい達は、さっき美鈴さんが食べていたお団子屋さんにいる。
……なんかお空と美鈴さんはやたらと仲良くなってる。それをあたいと咲夜さんが同じ様にして見て溜息をつく。
……あ、咲夜さんとは仲良くなれそうな気がする。
「それで、話は太陽についてだった?」
「はい。思っている事を話していただけたらと」
「そうね……。はっきり言えばあれは天敵よ。私はさっきも言った通り吸血鬼。闇に生きる種族であり、それ故に光を苦手とする一族。簡単に言えば日光が弱点って事よ。私達吸血鬼は、日光に当たると気化してしまう。だからこそ霧で隠そうとしたのだけれど……」
「それって、紅魔異変って奴ですか?」
「そう。でも、霊夢達に阻止されちゃったけどね。おかげで次の目的が出来た……。今度は小細工無しであの憎き太陽を超越してやる! そしてこの幻想郷を思うままに闊歩してやる!」
両手を大きく広げて語るレミリアさんに、咲夜さんが心配そうに言う。
「お嬢様。いくらお嬢様と言えど、それは流石に無理では……」
「あら、誰が無理だなんて決めたの? この私が出来ない事と言ったら……上手く血が吸えない事だけよ」
「……あれ? お嬢様ってニンニクとかダメじゃなかっ「「黙りなさい」」すみません」
……これは聞かなかった事にしておこうか。だって二人の笑顔が怖いし。流石にお空も顔が引きつってるし。
「話を戻して……。私にとっては乗り越えるべき壁って所ね、あの火の玉は」
「意外ですね。もっと嫌っていると思っていました」
「苦手ではあるけど、認めていないわけじゃない。そういう咲夜はどうなの?」
「私ですか……。私としては紅茶や野菜が美味しくできるので、好きか嫌いかで言ったら好きですね」
「あ、私も太陽好きですよー。日光って、暖かくて気持ち良いんですよねー。お昼寝の時にはもう最高なんです。……あ゛」
「美鈴? あなたの仕事のどこに昼寝をする時間なんてあったのかしら?」
「や、あの、咲夜さん? これは言葉の綾というもので」
……やー、優しい笑顔がこんなにも恐怖を感じるものだったとは。しかも幽香さんとは違う恐怖だ。
と、ここでレミリアさんが少し不機嫌そうになって言った。
「あら、それじゃ二人は私の天敵を肯定するって事?」
「「いえいえ、これはあくまでも個人としての意見ですから」」
咲夜さんと美鈴さんが見事にハモる。二人共心なしか……いや、メチャメチャ楽しそうだ。
「貴女達、あまり主君をからかわない方がいいわよ」
「そうよ、美鈴」
「ちょ、咲夜さんひどい……」
そんな様子を見ていたお空が、あたいが思っていた事と同じ事を言った。
「なんだか三人共楽しそうだねー」
「あら。嬉しい事を言ってくれるわね。確かに咲夜達といると退屈しないけど」
「もー。お嬢様ってば素直じゃないですねー!」
「美鈴、貴女はいつも館の外でしょ?」
「うぅ……お嬢様までひどいですよー」
そんな風に言っている顔も笑顔だった。仲良き事は美しきかな、ってね。
「あ、そうだ。レミリアさん」
「何?」
「この辺りで他に話を聞けそうな人っていますかね?」
「そうねぇ。咲夜、心当たりとかない?」
「それなら、寺子屋に行ってみたらどうでしょう」
「寺子屋?」
「しばらくまっすぐ行って、右手にある結構大きめの建物の事よ。里の子供達に勉強を教えている所ね」
「上白沢 慧音という女性に聞けば、他の事も聞けるはずです」
「ありがとーございます!」
「いいのよ。こっちとしても楽しめたし」
さてと、と言って立ち上がるレミリアさん達。
……あ、そういえば。
「そういえば、レミリアさん達はどうして里に来てたんですか?」
「んー? それは霊夢さんの所に行くのに手ぶらじゃ可哀想だからとかなんとかでお土産を買もがっ!?」
「ど、どうせならお茶に合うものを持って行こうとしただけ! ほんとうなのよ!」
「わ、わかりました! わかりましたって!」
レミリアさんが焦っている。なぜかはわからないが、こんなレミリアさんもアリな気がする。
後ろでは、暴露した美鈴さんが咲夜さんに羽交い締めにさ「ちょっと! 咲夜さん!? その関節はそっちには曲がらな……ッアーーー!!」
……何もなかった。あたい達は何も見ていない。
やけに嫌な音がした気がするけど、きっと気のせいだろう。
「うわー、痛そ……」
「そ、それじゃあたい達はもう行きますね」
「そ、そう。また会ったらその時はよろしく頼むわ」
「こちらこそ。それでは」
「さよならー!」
あたい達はレミリアさん達と別れて、寺子屋に向けて歩き出した……けど、
―――くるるるぅ~~
そこであたい達のお腹が揃って鳴った。
「……お腹減ったね」
「うん……何か食べてこうか」
「うん!」
……まずは昼食を取る事にしようか。寺子屋に行くのはその後だ。
――――――――――夕方 上空――――――――――
……レミリアさん達と別れてからは、慧音さんから天体としての話を聞く事ができた。
その後も何人かに話を聞いて回る事ができた。早苗さんは、外の世界では「発電」だかってのに使ってるって言ってたかな。
あ、そういえば香霖堂って所で「たいよおおおおお!!」って喋る、向日葵みたいな人形も見つけたっけ。
「お空の急な思いつきで沢山の話を聞いてきたけどさ。一つの物に対してもいろんな解釈があるんだねぇ」
朝からこんな夕暮れまで聞いて回った話を思い出しながら呟くと、
「うん。今まで思いもしなかった事とかも聞けたから楽しかったね!」
と、屈託のない笑顔で言ってくる。
そうは言ってもこいつの事じゃ、もう四割方……いや、いい意味だった話しか覚えてないかもしれない。
下手をすればその話すら忘れている場合だってある。そういう奴なんだ……。
まぁ、あたいが後で教えてあげれば済む事だけどね。
「うにゅ~……」
少し呆れている間に当の本人は何やら小難しい顔をして唸っている。
「どうしたんだい?」
「ねぇお燐。結局、太陽って皆にとってはどんな物なんだろ? お燐はわかった?」
……こいつはまたそんな事言ってるのか。今までの話を聞いてれば答えなんてとっくに出てるだろうに。
ま、お空らしいと言えばらしいんだけど。
半ば飽きれながら、半ば安心しながらも教えてやろうかと思った。けれど、いつも甘やかしてばっかだとお互いの為に良くないだろう。
そう考えたあたいは、ここはあえて答えを教えてあげないことにした。
「答えならとっくに出てるんじゃないかい?」
「うん? う~ん……。出てるには出てるんだけど、お燐の意見も聞きたかったなぁ~、なんて」
「……目が泳いでるよ?」
「そ、そんなことないよ!」
とは言え、実際にお空の目は泳いでなんていなかった。その目はしっかりとした眼差しだったが、恥ずかしさもあるようだった。
「今更何を恥ずかしがることなんてあるのさ。あたいとあんたの付き合いだろ?」
「ぁ! ……うん! そうだね!」
全くこの娘は。言っててこっちが恥ずかしくなっちゃうじゃないか。
……それは一旦置いといて、あたいはお空の言葉を待つ。
お空はあたいが勝手に頬を赤くしていたのを不思議そうに見ていたけど、真剣に言葉を聞こうとすると真面目な表情で話してくれた。
「皆はさ、普段は意識してないって言ってたけどそれぞれの思ったことを聞かせてくれたよね? でもそれは、普段から太陽を意識してるって事だよね。もっと言えば、太陽は必ずあるものだっていう認識になると思うんだ。」
……正直驚いた。お空があの話を聞いてここまで真剣に考えていたなんて思いもしなかった。
それだけ太陽に対する思い入れがあったということなんだろう。
「でもね? 私、ずっと考えてたんだ。地上に暮らす人達にとっては当たり前の事だけど、地下に暮らす私達にとってはどういう意味なんだろうって」
そこまで言ってからお空は口を閉じた。まだ言葉を自分の中でまとめているんだろうか。
あたいは黙って次の言葉を待った。
「ん~……。うまく言えないんだけど、私にとってはお燐やさとり様達の事なのかなって思ったんだ」
「へぇっ!?」
いきなりの事で意味が全くわからない。
それどころか、何かものすごいことを言われてしまった気がしてこっちがあたふたしてしまう。
「ちょ、ちょっとお空? それってどういう……」
「うにゅ? そのままの意味だよ?」
その後のお空の話をまとめるとこういうことらしい。
太陽とはどんな時でもあって当然のもの。そして、無くてはならない大切なもの。
つまりは自分の周りの大切な人たちの事なのだ、と。
「だからね? 皆が私にとっての太陽だから、私は皆にとっての太陽になりたいなって思ったんだ!」
「お空……あんたってやつはぁ~!!」
「にゅ!? お、お燐?」
あたいはお空を唐突に抱きしめていた。
お空の言葉を聞いた瞬間、泣きそうになった。抱きしめたのは今の自分の顔を見られたくなかったからだ。
この娘は自分達の事をこんなにも考えていてくれたのか。
いつも能天気で調子に乗りやすかった奴だけど、自分を大切だと言ってくれた。
そう考えると言葉なんて浮かんで来なかった。
只々、思いを伝えるだけしかできなかった。
「あんた、そんな事考えててくれたんだね」
「当たり前じゃん。家族なんだから」
「そっか……」
「だからこれからもずーっと、ずーーーっっと、皆で一緒にいようね? 」
「……ヴん」
もう人に見せられないような顔になっているのだろう。でも、そんな事を考えている余裕なんて今のあたいの中には無かった。
お空の言ってくれた『家族』という言葉が何よりも嬉しかった。
「もぉ~。お燐ったら大げさなんだから」
そう言って頭を撫でてくれたその手は、いつも、どんな時でも一緒に居た事を感じさせてくれた。
お空から離れて、あたい達はお互いの顔を見つめて向かい合う。
「……お空」
「うん? なぁに?」
「……ありがとね」
「うん、こちらこそ!」
そう言ったあの娘の顔は沈んで行く太陽に照らされて赤く染まっていた。
きっと、あたいの顔はそれ以上に赤くなっていただろう。
「―――もう日が沈んじゃうね」
「え? あぁ、そうだね」
「うん。それじゃあ!」
お空は左手をあたいに突き出して続けた。
「もう帰ろっか!」
「そう、だね。さとり様達も待ってるだろうからね」
お空の左手を、自分の右手で掴んで答える。
……思えばこの手にいつから助けられていただろう。そんな事も忘れてしまうほど永く、近くに居た相棒を見つめる。
ふり回される事も多いけど、やっぱり一番近くに居てやりたいと思う。
しばらく前に地下は太陽が無い事だけが欠点だ、なんて言っていたが取り消すしかないだろう。
「……ずっとそばにいたんだもんね」
「お燐? どしたの?」
「何でもないよ、早く行こう!」
照れ隠しも含めてお空を引っ張って飛んで行く。
今のあたいは、早くこの話をさとり様とこいし様に伝えたいという思いでいっぱいだった。
―――――――――Return to Loving Family...
おてんこ様…幻想郷にいたのかwwwwwww
私にとって太陽とは…
そうですね、宵闇の彼女の意見に賛成しますか。
俺もいつか、あんな風にでっかい男になりたいんだ……。
それはいいとして。
歩き始めたばかりの太陽娘・うにゅほがバカワイイほんわか話でした。
これからもっと元気一杯に育ってくれると、お燐も楽しいでしょうね。
そんな楽しいお話でした。おつです。
太陽万歳!
太陽と密な関係のキャラクターって
思っていた以上に多いんだなあ、と考えさせられました