どこからか桜が舞ってくる、白昼の博麗神社。
その神社の居間には、現在四人の女の子、博麗霊夢、十六夜咲夜、霧雨魔理沙、魂魄妖夢が居る。
彼女達はとても仲が良い。
具体的に述べれば、各々暇を見つけては今みたく博麗神社を訪れる、くらい仲が良い。
そしてなんとなく談笑したり、またなんとなく弾幕ごっこをしたり、ついでになんとなく異変解決をしたりしている。
今日も皆で畳の上にごろりと寝そべり、脱力感たっぷりにごろごろとしながら談笑していた。
「やっぱ畳は落ち着くわねぇ」
「ほんとねぇ、紅魔館も畳に変えようかしら」
「紅魔館に畳は絶対合わないと思うぜ 2時間前まで大図書館に居た私が保証する」
文字通り畳でごろごろしつつ会話をする霊夢達、ごろごろとは無縁そうなあの咲夜までもが、普通にごろごろとしている。
皆とてもゆったりとしていて、心身ともにリラックスしているようだ。
「Zzz……」
ちなみに妖夢はリラックスし過ぎてか、すやすやと寝息を発てて睡眠中。
体を横にして丸くなり、時々「ゆゆこさまぁ~」などと寝言を発するその様は、とても愛らしい、ひたすら愛らしい。
「……なんか、妖夢見てたら私まで眠くなってきた」
「霊夢に同じ、私も眠い」
「咲夜に同じ、私は寝る」
春独特の柔らかい陽射しと、暖かいそよ風が注ぐ博麗神社。
寝るには、絶好のコンディション。
既に爆睡している妖夢だけでなく、霊夢達も春の陽気に呑まれゆっくりとまどろみ始めてきた。
……しかし、
「霊夢さん!!」
神社へやってきた突然の来訪者によって、そのまどろみは掻き消されてしまうのであった。
みんなが倒れてる異変
「妖夢、起きて」
「……ふぇ?」
――声を掛けられ、体を揺すられ、気持ちの良い眠りから目覚めの時を迎える私。
体を起こすと、眼前には咲夜の整った顔が。
どうやら、咲夜が私を起こしてくれたようです。
「……おはようございます、咲夜」
うーん、まだお昼寝を続けたかった気もしますが、せっかく咲夜が起こしてくれたのですから、ここは起きる方向でいきましょう。
「気持ち良く寝てた所をごめんなさい」
「いえいえ、全然大丈夫です」
「まあ1時間くらい寝てたし、もう十分よね」
「はい!」
ま、寝過ぎて夜寝られなくなるのも怖いですし、ちょうど良かった感じですかね。
「それじゃあ妖夢、起きて早速だけど異変解決に向かうわよ、支度して」
「異変……分かりました!」
いきなり異変解決ですか、今回は誰がどんな異変を起こしているのかな。
とにかく、しっかり解決出来るよう気を引き締めなくては。
「魔理沙、早くしなさいよ」
「待て待てミニ八卦炉が見当たらない、紅魔館に忘れたかもしれん」
霊夢と魔理沙も、異変解決に向け着々と出撃準備をしているようですね。
私も準備をしよう……と思いましたが、楼観剣と白楼剣、両方とも起きた時に装備したので特にする事がありませんでした。
「待たせたわね大ちゃん、案内よろしく」
「はい! お願いします霊夢さん!」
……と、いつの間にか神社内に見たことの無い人が居ますね。
いや、人ではなくて妖精になるのかな、背中に透き通った綺麗な羽がありますし。
「あら、妖夢は見たことない?」
「はい……多分初対面です」
「あの妖精、名前を大妖精っていってね、霧の湖周辺に住んでて、たまに紅魔館……というか美鈴の所へ氷精と一緒に遊びに来るの」
「ほぉ、大妖精さん、ですか」
質問した訳でもないのに、咲夜が親切丁寧に大妖精さんの事を教えてくれた。
でもどうして私が大妖精さんを知らない事、咲夜は知っていたのだろう、不思議だな。
「妖夢、考えてる事が顔にですぎ もちろん今も」
……な、なるほど。
表情から人の考えを読み取るなんてさすが咲夜。
でもこれじゃ私が考えている事、咲夜には何でもばれちゃうな。
「咲夜、喋ってないで行くわよ、妖夢も」
「はいはい、じゃ出発ね」
「了解です!」
という事で、大妖精さんに先導され、ホウキに乗って飛翔の魔理沙、普通に飛翔の霊夢、咲夜、私、の順番で隊列を組み、私達は神社を出ます。
なぜこうなっているのかは……よく、分かりませんけど。
「あーごめん妖夢 大妖精の紹介だけで止まってて、詳しい話をしてなかったわね」
あ、また表情を読まれてしまった。
読む相手が咲夜だから良いものの、この勢いでは見ず知らずの方にも読まれてしまいそうですね。
私って、そんなに判りやすいのでしょうか……
「気にしなくていいわ妖夢 それもあなたの魅力の一つだし」
「はい?」
「ふふ、なんでもないわ」
「そ、そうですか」
……時々咲夜は、こう意味の分からない事を言うから困ります。
さらにこれを言う時の咲夜は、なぜかとても幸せそうなので、余計に困ります。
「じゃ改めて、こうなった経緯を説明するわ」
とにもかくにも、私は飛翔中、咲夜から私がお昼寝している間に起きた出来事を聴く事になりました――
少女静聴中……
――咲夜から聴いた事を整理すると……まず、私が寝ている時に大妖精さんが血相を変えて神社を訪れ、
『霊夢さん! チルノちゃんを助けて下さい!』
こんな具合で霊夢に泣きつく。
突然やってきたばかりかさらに泣かれ、どうにも困った霊夢が事情を聞いてみると、
『チルノちゃんが倒れて動かないんです! きっと異変です!』
とのこと。
とても異変とは思えないけど、もし異変だと後々面倒なのでとりあえず現場に行こう、で私達は博麗神社を出発……
「……確かに倒れて動かないわね」
「ピクリともしないぜ」
「なにゆえ美鈴まで一緒に倒れてるのかしら」
そして早くも現場に到着。
ここは咲夜が住む紅魔館の正門前。
門のそばで湖上の氷精「チルノ」さんと、華人小娘「紅美鈴」さんが、二人仲良く地面に俯せで倒れている。
ははあ、確かに倒れて動かないですねチルノさん。
あと美鈴さんも。
「お願いします! チルノちゃんを助けて!」
……いや、まあ、何と言えばいいのか、涙目で必死な大妖精さんには悪いのですが、これ二人して寝ているだけの気がする。
「……大ちゃん、悪いけど一つだけ質問していい?」
「はい?」
なんとも聞きづらそうな霊夢と、それに反応し首をかしげる大妖精さん。
霊夢の雰囲気から察するに、私が今一番気になっている事を質問してくれそう。
「あれってさ、チルノ寝てるだけじゃないの」
そう、これです。
だってチルノさんに美鈴さん、どう見ても地面に俯せで寝ているようにしか
「違います! いくら声をかけても体を揺すっても起きませんでした! ちなみに美鈴さんも!」
「そ、そう……」
……あまりにも真剣な大妖精さん。
本当に寝ているわけではない……のかな。
しかし寝ていないとすると、あれは二人揃って気絶、とかですかね。
「ま、寝てるか寝てないかは置いといて、とりあえず二人を紅魔館に運ぶわよ 魔理沙、チルノをお願い 咲夜、二人を横に出来る部屋を探しといて」
「了解」
「うぃー」
霊夢の指示で、魔理沙はチルノさんの元へ、咲夜は紅魔館へ、また霊夢自身美鈴さんの元へ、それぞれ歩みを進めます。
私は……どうしよう、霊夢を手伝おうかな、霊夢一人で美鈴さん運ぶのは大変そうですもんね。
現に霊夢を見れば、まだ美鈴さんを起こそうとしている段階。
ふらふらと体を大きく揺らしながら、美鈴さんのそばを……ん、ふらふら?
「……霊夢、大丈夫ですか?」
「わ、分かったわ……」
あれ、何か霊夢の様子がおかしいです。
今にも倒れそうな勢いでふらふらと……
“ドサッ”
「霊夢!?」
「霊夢さん!?」
た、倒れちゃいました!
霊夢が倒れちゃいました!
「こ、こいつは強力だ……ぜ」
“ドサッ”
「えぇ!?」
「魔理沙さんも!?」
ま、魔理沙も!?
霊夢に続き魔理沙も倒れちゃいました!
二人とも美鈴さん達と同じように俯せで地面に倒れ動かない状態になってます!
こ、これはいったい、二人に何が起きている……
「妖夢」
「わわっ」
っていつの間にか咲夜に抱っこされていますね、私。
しかも、お姫様抱っこ的な何かで。
時を止めて瞬間的に抱っこしてくれたようですが、なにゆえ私を抱っこしたのか。
「……咲夜?」
「緊急回避よ」
「え?」
「状況をよく観察なさい 霊夢と魔理沙は、美鈴達に近づいたせいで倒れた」
……言われてみれば、霊夢は美鈴さんのそばに行ったら様子がおかしくなり、そして倒れました。
直接見た訳ではないけれど、魔理沙もチルノさんのそばに行ったから倒れた……となるのかな。
「美鈴達に近づくのは危険、だけどあなたは今にも近づきそうな顔をしていた ゆえに、時間停止、からの、お姫様抱っこ、つまり、緊急回避」
な、なるほど、確かに私は霊夢達に駆け寄ろうとしていました。
その私の表情を読んだ上で緊急回避、という訳ですか。
凄すぎてさすがとしか言えません。
私は咲夜に助けられたって事ですね。
「ありがとうです咲夜……ですがなぜ、お姫様抱っこ?」
「あなたによく似合うからよ」
「……」
あぁ、意味が分からないです、咲夜。
ひとまず回避は出来たので、お姫様抱っこから解放されます。
「メイド長さん、近づいたら倒れるんじゃ、チルノちゃん達を永久に助けられませんよ?」
メイド長さんとは、また新鮮な呼び方をしますね大妖精さん。
そういえば大妖精さんは、そばに行かなかったから倒れていませんでしたね。
無事で良かったです。
「それは平気 この異変の元凶を倒せば問題ないから安心して」
「あ、そっか……異変の元凶さえ倒しちゃえば、チルノちゃん達は自動的に助かりますね!」
「そゆこと 早く元凶を倒すわよ、妖夢もそれでいい?」
「はい! 咲夜の仰せのままに、です!」
確かにみんなを助けるには、この異変を解決すればいいだけですね。
間接的ですが、それで霊夢達は助かります。
にしてもこの不思議な異変、誰が何の為に起こしたのだろう。
正直、霊夢が倒れるまで、これが異変だとは思っていませんでしたけど。
「……咲夜、元凶が誰だか分かりますか?」
「分からない……でも、一番可能性があるのは美鈴かしら 倒れてはいるけど、ここ美鈴の住み処だし」
「なるほど」
早くも元凶判明、私はチャキッと楼観剣を持ち構える。
美鈴さんだったのは意外でしたが。
「ちょっと待って妖夢 早く元凶を倒すとは言ったけど、まだ美鈴が元凶って決まった訳ではない、私個人で仮定の段階」
「咲夜が言うならきっと合ってますよ! それに斬れば元凶だって分かるハズ!」
「斬れば元凶と分かる、じゃなく、元凶と分かったから斬る、にして頂戴 一応美鈴は家の門番、意味もなく斬られるのは困る」
「んー……、分かりました」
ふむ、早く解決したかった所ですが、どうやら早過ぎたようです。
あくまでも美鈴さんが元凶なのは仮定の話、まだ事実とは言えません。
それによく考えたら美鈴さんは純粋に強い。
いくら倒れているとはいえ、簡単には斬らせてくれなさそう。
「妖夢はね、人の意見に流されすぎなの もうちょっと自分で考えた方がいいわ」
「す、すみません……」
あれ、気づけばいつの間にかお説教タイム……なんか、幽々子様にお説教されている気分です。
咲夜と幽々子様は全然似てないのに。
「他人の意見をしっかり聴くのは良い事よ でもそのまま流されちゃ駄目、聴いた意見を吸収して頭で吟味し、上手に昇華させて自分の意見を持たなきゃ」
「はい……」
「……まあ、今度からそうしてみてね」
けど、咲夜と幽々子様は、どこか似ています。
……その、外見的な意味ではなくて。
どこが似ているのかと聞かれると、ちょっと答えられませんが。
不思議と咲夜のそばに居ると、幽々子様のそばに居る時みたいに落ち着くのですよね。
「ところで大妖精、チルノを発見する前、あなたはどこで何をしてた?」
「わ、私ですか?」
よく分からない事を考えている間に、咲夜が大妖精さんに何か質問をしていました。
質問する咲夜は得意げな顔、一方大妖精さんはあたふたしながら困り顔。
とりあえず咲夜の事です、きっと何か考えがあっての質問なのでしょう。
私もよく聴いておこう。
「え、えーっと……わ、私は霧の湖の湖岸で、寝てました」
「寝てた……なぜ?」
「ち、チルノちゃんとかくれんぼをしてたのですけど、その……1時間経っても鬼のチルノちゃんがなかなか見つけてくれず……ついウトウトとしちゃって気づいたら……」
「なるほど、それで寝てたわけね」
「はい……あの、これチルノちゃんには内緒に……」
「えぇ、そこは平気よ」
「よ、よかったぁ」
かくれんぼ中に寝るだなんて、大妖精さんはどれだけ放置されていたのかな。
こんなポカポカ陽気ですし、神社での私みたく眠気に襲われたのですね。
「かくれんぼ始めたのはどの位前か覚えてる?」
「んっと、2時間くらい前……でしょうか」
「……ふーん、そう」
……会話が終わると、咲夜は腕を組み真剣な表情で何かを考え始めた。
何か分かったのだろうか。
……大妖精さんがかくれんぼ中に寝ていた、というのはよく分かったのですが。
「ま、という事で妖夢、後の事は頼んだわ あなたなら異変を解決に導けるだろうし」
「えっ!? いきなりどういう意味ですか!?」
あっけらかんとまたまた意味の分からない事を発する咲夜。
ひとまず困った、何か頼まれた。
「この異変、現状ちょっと詰んでるのよね」
「詰んでる……ですか」
「まず元凶が断定不能、異変発生区域もかなり限定されてるし、異変内容は問答無用で倒れるっていう摩訶不思議っぷり、頼みの霊夢は早々に倒れたし、霊夢を救出したくても区域内に入ればこちらも倒れる……」
あー、確かに詰んでいますね。
異変に手が出せない、とも言えます。
しかし、詰んでいるのは分かりましたが、これが先程の頼まれ事とどう関係しているのか。
「この詰み状態を打開する為に、今から私が美鈴のそばへと向かう」
「え……それでは咲夜が倒れてしまいますよ?」
「そうかもね でも、倒れるなら倒れる方がいい」
「さ、咲夜……意味が分からないです」
「そこは自分で考えなさいな」
考えなさいと言われても、何が何だか私にはさっぱりです。
ここで咲夜までも倒れてしまったら、本当に私はどうしたら……とにかく、出来れば咲夜と一緒に居たい、一緒に解決したい。
「ひとまず美鈴のそばに私が行って、私が倒れたら解決可能よ 私が倒れなかったら色々と考え直さなくちゃだけど」
「咲夜が倒れたら……解決、可能」
「……妖夢なら、妖夢ならきっと解決出来る、大丈夫よ」
……咲夜が、私の頭を右手で優しく撫でてくれた。
その右手はとても温かくて、とても気持ち良いです。
……
まったくもう、これは仕方ないですかね。
何か代わりの案を私が持っている訳でもないですし。
「……分かりました 咲夜が倒れた後の事は、私に任せて下さい、絶対解決してみせます!」
「ふふ、ありがと そんな妖夢にヒントをあげる」
「ひ、ヒントですか?」
「大妖精によれば美鈴達は寝てないって話だけど、美鈴達は多分、寝てるだけ」
「寝てる……だけ」
「私が倒れたら、私も含め美鈴達は寝てるだけと思って間違いないわ 私が倒れなかったらこれも考え直すけどね」
「……了解です」
「大妖精、あなたも妖夢と一緒に、この異変を解決して頂戴 助けを求めて神社にやって来たのにこうなって、本当に申し訳ないけど」
「……分かりました」
「じゃ、行ってくるわ」
咲夜が美鈴さんのそばへと歩き出す。
とても姿勢の良い歩き方で、背筋を伸ばし、顔は正面を向き、真っ直ぐ美鈴さんの元へ向かっていく咲夜。
あまりの姿勢の良さに咲夜は倒れないのではと思ったけど、美鈴さん達に近づくにつれ、だんだん足元がおぼつかなくなり、数秒後、
“ドサッ”
と倒れてしまった。
……いや、咲夜のヒントを用いれば、寝てしまったというべきでしょう。
眼前には、咲夜、霊夢、魔理沙、美鈴さん、チルノさんが、地面に俯せでみんなして寝ている、という野生味溢れる光景が拡がっています。
そして残された私達。
紅魔館正門前には、寝ている咲夜達を眺める私と大妖精さん。
「妖夢さん……これからどう行動しますか?」
「えっとですね……とりあえず咲夜が倒れたので、みんなは寝ている事が確定しました」
みんなは寝ている、咲夜が体を張って私達に恵んでくれたこのヒント。
詰みの打開策と咲夜自身言っていたのだから、うまく使えば今回の異変が解決するはず。
「寝ているって所から元凶の正体を考える、という感じで」
「はい! 分かりました妖夢さん!」
「じゃあ頑張りましょう!」
「おー!」
地味にこの場が盛り上がる。
大妖精さんも綺麗な羽をパタパタと動かし、やる気に満ち溢れている。
……さて、どうしたものか。
場を盛り上げたものの、何を考えていいのか分からない。
元凶の正体を考えるとして、手掛かりになる情報は咲夜から貰った、美鈴さん達は寝ていて、近づくと寝てしまう、これだけ。
近づくと寝る、あの周辺だけ睡眠薬とかが散布してあったり……さすがにないですよね。
しかし今思い返せば、なぜ咲夜はヒントだけ私にくれたのでしょう。
ヒントと言わず、咲夜が知っている情報全部を教えてくれれば、すぐに解決したと思うのですが。
「んー、分からないです」
何か、他の手掛かりがないか調べたい所ですが、近づくと私も寝ちゃうのではダメだ。
咲夜がせっかく私を残してくれた意味が無くなります。
それだけは避けなくちゃ、咲夜に合わせる顔がありません。
「妖夢さん」
「あ、はい」
ここで、大妖精さん。
とても真剣です。
「何ですか?」
「ちょっと今までの事を整理してみたのですが……」
整理、ですか。
言い回しからして、ひょっとしたら異変の元凶が分かった……のかも。
「メイド長さんが言っていた、みんなが寝てるだけって事……あれ、改めて考えたら違うような気がするんです」
あれ、全然違った。
しかもよりによって咲夜のヒントを全否定するとは。
「な、なぜそう思ったのですか?」
「チルノちゃん達、本当に起きないんです 体を揺すっても声を掛けても、です」
「それほど熟睡しているのでは……」
「それはありえません! チルノちゃんはどんなに熟睡していても私が声を掛ければ一瞬で目覚めます!」
「そ、そうですか」
「はい! 私が起こしてもチルノちゃんが起きない、つまりチルノちゃんが寝てないって事です!」
……困りました。
大妖精さんの言う通り、チルノさんは寝ている訳ではないような気がしてきました。
おまけにチルノさんが寝てないとなると、美鈴さん達も寝てないと考えるのが妥当になる訳で。
咲夜は寝ていると言ったけど、もし本当に大妖精さんが言うように寝ていなかったら……
さらに大妖精さんはチルノさん達が起きないのをしっかりと確認済み。
寝ているか確認出来てない以上、起きない事を確認し、寝てないとした大妖精さんの方が高い信憑性を持っています。
でも咲夜は寝ていると言ってましたし……
…………あれ?
おかしいです、なにか、おかしいです。
「妖夢さん?」
咲夜は、美鈴さん達が寝ていると言いました。
でもこれ、実際に寝ているか確認は出来ていません。
なぜなら、確認しようとこちらが美鈴さん達に近づけば、こちらも倒れて寝てしまうからです。
一方、大妖精さんはチルノさんが起きない事から、逆に美鈴さん達が寝ていないと言いました。
こちらは咲夜の方と違い、起きない事実を確認済み。
大妖精さんが声を掛けたり体を揺すっても起きなかった事で、確認が取れてます。
「妖夢さん、大丈夫ですか?」
「……あ、大丈夫です ちょっと考え事を……」
「考え事……ですか」
……やはり、おかしいです。
なぜだ、なぜ大妖精さんはチルノさんが寝ていないと確認出来た、なぜチルノさんを起こそうと彼女のそばまで行けたのだろう。
……いや、なぜチルノさんや美鈴さんのそばに行ったのに、大妖精さんは倒れていないのだ。
「大妖精さん!」
「はい!?」
「……え、えーっと、なんでもなかったです」
「……、そうですか」
まだ、まだです。
大妖精さんに聴くのは、まだやめましょう。
もうちょっと、咲夜に言われたように、もうちょっとよく自分で考えてからで。
「あの、突然すみませんでした」
「いえいえ、全然平気ですよ……」
大妖精さんが倒れなかった理由として……
大妖精さんの時だけ異変が作用しなくて、だから倒れなかった、って考えはどうだろう。
……あーでも、これは無理かな。
霊夢、魔理沙、咲夜ってバタバタと倒れているし、大妖精さんだけに異変が作用しない訳がありません。
他に大妖精さんが倒れない理由は……、……
「……妖夢さん」
ま、まさか、大妖精さんが異変の元凶だったり……し、しかし、今回の異変は大妖精さんが自ら霊夢に助けを求めてきた。
異変の元凶ともあろうものが、わざわざ異変解決のプロフェッショナルである霊夢に助けを求めるなど……でも、大妖精さんが元凶と仮定してしまえば、つじつまが合います。
異変の元凶なら、自分が倒れない術を持っているだろうし、わざわざ霊夢に助けを求めたのも、早めに霊夢を美鈴さん達に近づけて倒し、異変を円滑に進めるという作戦かもしれません。
こ、これがもし当たっていた場合、私は今、とても危険な状態なのでは……
「妖夢さん」
ここでまた、大妖精さん。
また怖いくらい真剣です。
「……さっきから、深刻な顔で何を考えているのですか?」
「い、いや、あの、ですね」
ど、どうしよう。
もし万が一本当に大妖精さんが元凶なら、私が感づいた事を悟られてはまずい。
霊夢や咲夜を軽々と倒すくらいです、大妖精さんはとても強く、私では太刀打ち出来ない可能性があります。
ここはどうにかごまかさないと。
「なんでも……なんでもないです」
「本当ですか?」
「ほ、ほんとです」
「……妖夢さん、一人で考えてないで、私にも教えて下さい ここには、私達しか、居ないのですから」
う、俯きながら、ゆらりとこちらに迫ってくる大妖精さん。
早くも私の眼前に……無理ですごまかせないです生命の危険を感じます。
「私も早くチルノちゃん達を助けたいのです!!」
「あ、あれ?」
な、なんと……顔をあげた大妖精さんの瞳には、溢れんばかりの涙が溜まっていました。
「だから、妖夢さんも考えてる事は口に出して下さい! 妖夢さんに何も分からなくても、私は何か分かるかもしれません!」
「大妖精さん……」
そうでした。
大妖精さんはここまで、常にとても真剣でした。
そして、常に御友人であるチルノさんを助けようと必死で色々と考え、色々と行動してきた方です。
大妖精さんが、この異変の元凶な訳がありません。
このようなお方を元凶だと思うだなんて、私はなんて愚かな真似を。
「すみませんでした!」
「え? えー、え?」
「大妖精さんの気持ちも知らずに勝手な事を……本当に申し訳ございません!」
もう勢いよく頭を下げます。
頭の中で考えていた事とはいえ、さすがにこれは謝りたい。
「よ、妖夢さん! 分かりました、分かりましたから顔を上げて下さい!」
「……許していただけるのですか?」
「許すもなにも、そんな頭を下げてまで謝るほどの事じゃないですよ! ただ考えてる事を言って欲しいと言っただけじゃないですか」
「あ……そ、そうでした」
まだ大妖精さんに何も言ってなかった。
大妖精さんにしてみれば、いきなり猛烈に謝罪されたって感じか、そりゃ困惑です。
「考えてた事、お話しますね」
とにかく、先程の考えをすぐさま大妖精さんに話します。
具体的には、
咲夜のヒントと大妖精さんの意見を照らし合わせるとおかしな点があった事、
そこから大妖精さんが美鈴さん達に近づいても倒れていない事、
発展して大妖精さんが元凶ではないかと疑っていた事……これらすべて。
「た、確かに……私、チルノちゃん達に近づいたのに、倒れてない……」
話し終えると、大妖精さんは純粋に驚いていた。
「そうなんです 近づいた者全てが倒れていますが、大妖精さんだけ倒れていないのです 何か、倒れなかった理由とか、心当たりはありませんか?」
「理由と言われましても……なんでかな」
まあ、倒れない理由なんて分かりませんよね。
事実この異変で分かっている所なんて、ほんのごく一部ですし。
せめてなぜ倒れないのか、それくらい分かればなぁ。
「んー、チルノちゃんとかくれんぼを初める、私は隠れる側、隠れてる最中に睡眠……」
大妖精さんの寝てない情報もありましたが、美鈴さん達は咲夜の言う通り寝ているものと、現在私は思っています。
そんな中、大妖精さんは倒れなかった。
つまり大妖精さんは寝なかったという意味。
なぜ寝なかったのだろう。
「そして目が覚める、チルノちゃん発見、そばに近づく、でも私は倒れない……」
目が覚める…………、ん?
美鈴さん達に近づく前、大妖精さんは、寝ていた。
今回の異変は、美鈴さん達に近づくと、寝てしまう……
「あ」
大妖精さんが近づいても寝なかった理由。
もしかして、直前まで寝ていた方は、何かしらの理由で異変の影響を受けない、とかなのでは。
「分かりましたよ大妖精さん!」
「な、何がです?」
「大妖精さんが倒れなかった理由です!」
「本当ですか妖夢さん!」
「はい! おそらくですが、起きたばかりの人は寝ないのだと思います!」
「……?」
あれれ、どういう意味か分からない、という顔を大妖精さんがしている。
「つまりですね、大妖精さんは寝起きだから、美鈴さん達に近づいても寝なかった、という意味です」
「……あ、なるほどそういう事ですか」
「はい だから大妖精さんは倒れなかった……もとい、寝なかったのです」
「……確かにその条件なら私が倒れる事はありませんね!」
「はい!」
やった、大妖精さんが寝ない理由が分かったかもです!
これは大きな進展です!
「これが成り立つなら、妖夢さんも倒れない……いいえ、寝る事はありませんね」
「はい?」
「ほら、私が神社を訪ねた時、妖夢さんお昼寝していたじゃないですか」
あ、本当だ。
よく考えたら私も大妖精さんと同じく、寝起きだった。
「じゃあ妖夢さん、この考えを証明するために、私達で寝ているチルノちゃん達に近づいてみます?」
「そうですね 私の考え通りなら、私達は寝ない……ですからね」
ふむ、自分で言い出した事ですが、いざ近づくとなると……やはりなかなか、怖く思います。
もしかしたら私が勘違いをしている可能性だってあるし、ぼっと二人して倒れたらそれこそもうダメだ……
「え?」
ふと気づくと、大妖精さんが私の両手を握っていました。
「大丈夫です 妖夢さんの考え、私は合っていると思いますよ」
「大妖精さん……?」
「ですから、一緒に行きましょう」
柔らかく微笑む、大妖精さん。
……なぜでしょう、ついさっき会ったばかりなのに、とても安心している私がいます。
「ありがとうございます、では行きましょう!」
私と大妖精さん、手を繋ぎ二人揃って美鈴さん達の元へと歩いてゆく。
その距離はだんだんと縮まってゆき、早くも私達の目の前には俯せで地面に寝る美鈴さんが現れる。
けれども、私達は咲夜の時のようになる事はなく、美鈴さんの真横にしっかりと直立していた。
「……本当に、私の考え通り倒れませんでしたね ちょっと驚きです」
「何を驚いているのですか、妖夢さんの予想通りだったのですから、もっと胸を張っていいのですよ」
「りょ、了解です」
張るほどありませんが、大妖精さんに言われた通り少しだけ胸を張ってみる。
ついでに深呼吸もしてみる。
「……ふぅ」
よし、落ち着きました。
「ふふふっ」
「なんですか?」
「いえ、妖夢さんってチルノちゃんと似てるなぁと思っただけです」
え、幸せそうな顔で何を言っているのだろう。
「チルノさんと……ですか」
「はい、容姿はまったく違いますけどね」
うむむ、大妖精さんも咲夜みたく意味の分からない事をおっしゃる方なのですかね、それはちょっと困りますが。
「コホン、とりあえず美鈴さん達に接近出来たので、ここら辺を色々調べてみましょう」
軽く咳ばらい後、今するべき事の確認をする。
そう、ついに美鈴さん達を調べられる時が来ました。
いやぁ、ここまで長かったです。
私達は寝ないという事実に気づくまで、かなり時間を掛けてしまいました。
まあここまでくれば、後は異変解決一直線、異変の手掛かりを見つけ、流れで一気に解決しちゃいましょう!
見つからなくてもその時はその時です!
「妖夢さん妖夢さん!」
お、大妖精さんが嬉々として私を呼んでいます。
これは手掛かり発見のお知らせかもしれません。
「どうしました?」
「寝ている美鈴さんが右手で何か握ってるみたいです!」
「ほんとですか!?」
「はい! ただ俯せでしかも右手が体の下に入ってるので何か判別が出来ません」
「分かりました 美鈴さんを仰向けにしましょう」
早速ゴロンという具合に私達は美鈴さんを手で転がし仰向けにする。
途端に目をつむり、幸せそうに寝ている美鈴さんが現れる。
えーと、右手は……胸の下にありました。
それにしても美鈴さんは大きい、背も高いし脚も綺麗、さらには髪も綺麗、羨ましいです。
「これですね」
と大妖精さんが美鈴さんの右手を掴み、握っている物を私に見せてくれました。
「あれ、これは……」
握っていた物を見てビックリ、これは魔理沙のミニ八卦炉じゃないですか。
……そういえば神社を出発する前、魔理沙は八卦炉を探していたような。
美鈴さんが持っていたのですね。
「でもどうしてこんな場所に……しかもなにゆえ美鈴さんが」
色々と疑問が沸きますが、ひとまず美鈴さんの右手から八卦炉を回収、何か異変に関係あるか調べてみましょう。
「それ、なんですか?」
「これは魔理沙のミニ八卦炉ですね」
「ああ、魔理沙さんの……がなぜここに?」
「分かりません、ただ異変と関係があるかもしれません」
「そうですね、普段無い物がここにあるのは」
「おぉ、大ちゃんおはよー」
「「え?」」
……突然、辺りに響いた女の子の声、これは聞いた覚えがある。
という事はまさか……
「チルノちゃん!?」
「おはよう大ちゃん!」
なんと、今まで寝ていたチルノさんが、あろう事か起床し、無邪気な笑顔を浮かべ青い瞳でこちらを見ています。
「ついでに大ちゃん見っけた! あたいの勝ちだ!」
「……み、見つかっちゃった」
大妖精さん、展開についていけてないですね、私同様きょとんとしています。
「妖夢さんこれは……」
「すみません、私もまだよく……」
何が起こったのかな、これは。
「あら、ここまで来たのにまだ分かってなかったの?」
「ん~~よく寝た~」
「寝たのはいいが、体の節々が痛いな」
「あ、私起きれた?」
「咲夜!? それにみんなも!」
……チルノさんに続いて、寝ていた他の方々も全員起床。
各々欠伸をしたり体を伸ばして絶賛寝起き状態。
「……ま、妖夢にしては上出来かな」
「まったく、妖夢に任せるなんて危険な事したわね咲夜も」
「一応ヒントは与えたし、結果解決出来てるし、文句は無いでしょ」
「まあそうだけど」
「今回の異変はね、妖夢に解決して欲しかったのよ」
「はぁ、私にはよく分からないけど」
「あー妖夢!! 私の八卦炉……お前が持ってたのか」
うわぁ、ちょっと、混乱って今みたいな状態を言うのか。
様々な事が頭に入り過ぎて処理出来ずパンクしそうなのですけど。
「という事で、もう異変の全容を妖夢に説明しちゃうけどいい?」
「別にいいわよ あと分かってなさそうな魔理沙にも説明しといて」
混乱中ですが、とりあえずこれから異変のネタバレがあるらしいので、再び静聴したいと思います――
少女静聴中……
――はい、では、咲夜から聴いた異変の全容、今から自分なりに整理していきます。
まず、今回の異変の元凶はずばり、魔理沙のミニ八卦炉です。
元凶と呼べるか微妙ですが、ひとまず原因は八卦炉にありました。
……数時間前、魔理沙は紅魔館に居ました。
そして神社に帰る途中、自分でも気づかない内に八卦炉をどこかに落としてしまったそうです。
原因である八卦炉を。
魔理沙が落とした八卦炉は、何の因果か美鈴さんの目の前に墜落。
この時美鈴さんは非常に眠かったらしく、体にある強力な「眠気」を外に放出したいと思っていました。
そこに降ってきた八卦炉。
いつも魔理沙のマスタースパークを見ていた美鈴さん、どうせ放出するならかっこよく放出しよう。
などと意味不明な事を思いつき、見様見真似で八卦炉を手に取り、体内の眠気を八卦炉用いて大放出。
しかし逆に自分の周囲に眠気を拡散させしてしまう形に。
結果的に呼ばれても揺すられても起きない、そんなレベルの強力な睡眠へと誘われてしまい、あえなく爆睡。
また八卦炉を握ったまま寝たので、本人が寝ていても強力な眠気を取り込んでは放出、取り込んでは放出するという作業が続いていた、よって謎の半永久機関が完成。
そのせいで近づいた者を強力に眠らせる事態が発生したらしい。
おかげで、大妖精さんを探し疲れて眠かっただろうチルノさんや、神社で寝る寸前までいっていた咲夜達は、眠気に呑まれ近づいただけで爆睡。
私と大妖精さんが寝なかったのは、既によく寝ていて眠気が皆無だったので、拡散された眠気を受けても寝るまで到らなかった、だそうです。
「……にしても霊夢、早いうちに寝てしまったのに、よく異変の事が分かりましたね」
「自分が寝る瞬間にだいたいの事は分かったわ、寝る瞬間だから結局寝ちゃったけどね」
ちなみに霊夢は、自分でも言っている通り、かなり早い段階から異変の内容をほぼ把握出来ていたらしいです。
「さすが霊夢の勘ね まあ私も自分が寝るちょっと前に全部分かったけど」
咲夜もあの時にはほぼ分かっていたのですか。
ぬぅ、相変わらずこの二人は凄いです。
咲夜のヒントを聴いても全容を把握出来なかった私は、まだまだ未熟……ですね。
「元気出して下さい妖夢さん 実質異変を解決したのは妖夢さんですよ?」
「大妖精の言う通りよ 過程はどうあれ、あなたが今回の異変を解決したの もっと胸を張りなさい」
「は、はい」
特に口に出していないのに、なぜか二人に励まされてしまった。
咲夜に大妖精さん、やっぱりこの二人は似ています。
……まあとりあえず、これで一段落って感じですね。
「よーし大ちゃん!」
おぉ、一段落したのを感じ取ったか、チルノさんが元気いっぱいに呼び掛けました。
「今度は競争だ! あたいを捕まえてごらんよ!」
「え、ちょっと待ってチルノちゃん!」
「あたいは速いぞー!」
さっきまで異変の被害者だったのに、チルノさんはとても元気、早くも視界から消え失せてしまった。
大変だなぁ大妖精さん。
かくれんぼ中にお昼寝しちゃうのも頷けます。
「ま、待ってよー」
大妖精さんもチルノさんを追いかけ、すぐに飛び立ちます。
「あ、忘れてた!」
かと思ったら慌てて振り返り、その後、
「皆さん! チルノちゃんを助けて頂きありがとうございました!」
ペこりと一礼。
つられて私もペこりと一礼。
「いらないわよお礼なんて 私はただ異変解決しただけだし」
「霊夢寝てただけじゃね? 私もそうだが」
「てか魔理沙は八卦炉落として異変発生の手助けしてるからね、確実にお礼は必要ないわ」
「ぐぐ、反論出来ない」
……頭をあげると、大妖精さんとちょうど目が合います。
笑ってくれました。
「では、また!」
大妖精さんはそう言うと、再度チルノさんを追いかけ始め、少しすると私の視界から消えました。
とても良い方でしたね、大妖精さん。
「いや~ありがとうございます妖夢さん」
今度は美鈴さんが頭を下げてきました。
私より背が高い方にそんな事をされると……やはり困ります。
「もう一生寝たままかと思いましたよ~、おかげで目が覚めました!」
「いえいえ、そんな頭を下げるほどの事では……」
「謙遜するなって 今日は妖夢が解決したんだぞ」
「そうそう、ここは素直に喜べばいいじゃない」
「で、ですが、私は咲夜からヒントを貰ったから解決出来たのであって……」
「私はヒントをあげただけ 妖夢はそのヒントを吟味し、自分の意見を持ち行動した……しっかり自分で行動した」
とん、と私の頭に咲夜の手が置かれる。
「よくやったわ、妖夢」
「さ、咲夜……」
そしてやっぱり、撫でられる。
これをやられちゃうとな。
なんかもう、無理ですね。
咲夜はまた幸せそうに微笑んでいるし、とても困ります。
嬉しいですけど、とても困ります。
……でもまあ、ここまで来ました。
咲夜や霊夢にも褒められました。
最後くらいおもいっきし、胸を張ってもいいです……よね?
「……はい! 魂魄妖夢、無事に異変を解決しました!」
長さの割にさくっと読めて、伏線もきれいに回収していますが、ところどころ台詞まわしが不自然なのでこの点数を。
ただ、近付いて起こす以外の解決法を考えようとしなかったり、大ちゃんの発言があからさま過ぎで、妖夢の悩み部分で共感出来なかったのはミステリーものとしては残念。
ミステリーとしてではなく、日常を描いたものとして読ませていただきました