私の事情を考えない吸血娘は、今日も彼女は私の元へとやってくる。
「こんばんは、霊夢。良い夜ね」
七色に輝く翼を背に、私に笑みを向ける悪魔はしかし、その笑みは何処か曇って見えた。
「何かあったの?」
「今日は霊夢の所に泊めて頂戴」
靴を縁側に脱ぎ捨て、寝室にいる私の胸に顔を埋めた少女はポツリと言葉を零した。
どうにも面倒事になりそうだと、私は密かに息を吐いた。
私はフランドール・スカーレットに好かれている。そう断定する訳は彼女自身が私を好きだと口にするところにある。
ほぼ毎日のように、私の所へやってきてはストレートに私のことが好きだと言われれば、否が応にもその気持ちは理解できようというものだ。
そしてそんな彼女を憎からず思っているからこそ、私はこうして突然押し掛けた彼女に寝床を提供して朝まで添い寝をするという行為までしているということだ。
私の隣で身体を丸めて眠るフランドールの頭を撫でる。
結局この少女は私の所へやってきた理由を何も語らずにいる。
本来であれば起こしてでも理由を問いただす必要があるのだけれど……。
そこまで考えて、玉石を踏む音が外から聞こえた。どうやら来客らしい。
フランドールを起こさないように起き上がって、部屋の襖を開く。
縁側に出ると、そこに立っていたのはレミリアと朝の日差しを遮るために彼女に日傘を差す咲夜だった。
「おはよう霊夢。あなたから起きてきてくれて嬉しいわ。起こす手間が省けた」
「あんたが来たって事はフランドールが私の所に押し掛けたことと何か関係があるのかしら?」
私の言葉にレミリアはやっぱりと言うように、息を吐き出した。
「あの娘はここにいるようね」
「何があったのか聞かせてもらえるかしら?」
レミリアの表情が少しだけ曇る。
「……フランと喧嘩したのよ」
「はあ?」
「私と喧嘩して、あの娘が家を飛び出したのよ。館の外でフランの知っている場所なんてそう多くはないし、最近はあなたの所へよく遊びに顔を出しているようだからここに来てみたのだけれど、どうやら当たりだったみたいね」
「つまり私はあんた達の姉妹喧嘩に巻き込まれたってわけ?」
呆れて溜息も出てこない。
「……お姉様……?」
静かな怒りの篭った声が私の耳を刺激する。見れば、襖を開いたフランドールがレミリアを睨みつけていた。
「フラン、これ以上霊夢に迷惑をかけるんじゃない。帰るわよ」
「いや」
はっきりとした拒絶の言葉。
「私は紅魔館には帰らない」
「フラン、いい加減にしなさい」
怒気を孕んだ底冷えする声がレミリアから発せられる。
さすが夜の王といったところか、彼女の膨大な妖気が場を支配する。私へと向けられたものではないけれど、自然と身体が何時でも応戦できるようにと力が入る。咲夜も平静を装っているようだけれど、額の冷や汗を見る限り、やはり緊張は隠せないようだ。
気圧されるようにフランドールが一歩下がる。
「いやだ、私は帰らない!」
絞り出すような叫びに暫く妹を睨んでいた紅魔館の主は、その意思を理解したのか妖気を収めて深々と溜息を吐いた。
「解ったわ。だったら、三日だけ好きにしなさい。三日経ったら無理やりにでも連れ帰るわ」
「はあっ?」
何言ってんのこいつ?
さっさと連れ帰れと私が文句を言う前に、レミリアは思いもよらない行動に出た。
「霊夢、お願い。フランドールをしばらくここに置いてやって頂戴」
レミリアが私に頭を下げた。プライドの塊のこいつが人間である私に頭を下げたのだ。何も言えない私と、驚いた表情の咲夜とフランドールの様子から見てもやはり珍しいのだろう。
頭を上げたレミリアの目は、曲げられそうのない意志が込められていた。
「私達のことにあなたを巻き込んでしまってごめんなさい、霊夢」
「……わかった、三日だけよ。それ以上はダメだから、覚えておきなさい」
「恩にきるわ」
問答は無意味と諦め、承諾した私にレミリアはもう一度頭を下げた。
「それから、あなたには選択をしてもらうことになると思う。その時は考えておいて頂戴」
踵を返す前に、近づいて私にだけ聞こえるような声で囁くと、彼女は咲夜をを連れて空へと翼を広げて、紅魔館へと帰っていった。
後には、去り際の言葉の意味が解らず、ため息を一つ零す私と、レミリアの背中に向けて舌を出すフランドールが残された。
「へえ、それでフランドールがここでせっせと働いているわけか」
その日の夕方、夕飯を集りに博麗神社にやってきた魔理沙は私の話を聞いて、ちゃぶ台の上から縁側に持ってきた煎餅を齧りつつ頷いた。
「ここに泊まる以上は色々やってもらわないとね」
「紅魔館じゃ、小悪魔が心配そうにしていたぞ。パチュリーや美鈴はいつも通りといったところだったな。まあ、信頼されてるって事じゃないか? 良かったじゃないか霊夢」
「全面的に押しつけられただけのような気もするけどね」
肩をすくめる。
「霊夢、夕飯作るの手伝う」
ちゃぶ台を拭いていたフランドールが台布巾を片手に私の所へとやってくる。
「それじゃ、準備をしようかしらね」
「そうだ、土産に森で採ってきたキノコを持ってきたんだぜ」
魔理沙の帽子の中から出てきたのは色とりどりのキノコ達だ。しかも結構な量がある。
「……ちゃんと食べられる代物なんでしょうね」
「それは保証するぜ」
親指を立てて歯を見せるように笑みを向ける魔理沙。
若干不安だけれど、ありがたく使わせてもらいましょう。
「うう、霊夢に殴られた……」
行灯の明かりに照らされた部屋で、ちゃぶ台に置かれたキノコづくしの夕飯を三人で囲みつつ、フランドールは頭を抑えつつ味噌汁をすすっている。
「火が弱いからって釜戸にレーヴァテイン突っ込むからでしょう」
レーヴァテインの火力で釜戸の火を強くしようとしていたフランドールの頭を、それに気がついた私が頭を殴って止めたのだ。火事でも起こされたらたまらない。当然の対処だ。
「ははは、お前らは親子みたいだな」
「違うよ魔理沙。私は霊夢の恋人なんだから」
私たちの様子に笑う魔理沙に、フランドールは頬を膨らませる。
本当にこいつは私の何がいいのか事あるごとに自身を私の恋人だと公言している。正直勘弁して欲しいわ。
「いやあ、愛されているな霊夢」
「私の愛は無限大よ」
胸を張るフランドールと生暖かい、明らかに面白がっているであろう視線と笑みを向けてくる魔理沙。
とりあえず魔理沙は陰陽玉をチラつかせて黙らせておいた。
「ごちそうさん。また来るな」
「はいはい、じゃあね」
夕食を済ませると日の沈んだ空を箒に股がり飛んでいく魔理沙を見送って、私は自室へと戻る。
「あ、魔理沙はもう帰ったの?」
そこではフランドールがちゃぶ台を前にお茶を啜っていた。
彼女の隣に腰を下ろして差し出されたお茶を啜って、ちゃぶ台の上の煎餅に手を伸ばす。
「帰ったわ。まあ、あいつのことだから明後日あたりにでもまた来るんじゃないかしら」
「ふふふ、これで今日はもう霊夢とふたりっきりってことね」
「馬鹿なこと言ってないで、お風呂でも入ってきちゃいなさい」
擦り寄ってくるフランドールを手で押し返す。
「じゃあ、霊夢も一緒に入ろうよ」
「私は後で一人で入るわ。だから先に入ってきなさい」
残念そうな顔をして、フランドールは立ち上がって風呂場へと向かう。
ここ博麗神社の風呂は間欠泉を利用しているので、いちいち薪を使って沸かす必要が無いため結構助かっている。
脱衣所に向かう軽い足音を聞きながら、煎餅を口に銜えてパキリと半分に割る。その一枚を食べてから、お茶を啜る。
フランドールはここに泊まることになって、喜んでいるのだろう。仕事も積極的に手伝うので、私としても泊めることは構わないのだが、こうなった肝心の原因を私はまだ彼女から聞けていない。フランドール自身も今はまだ話す気が無い様だ。とはいえこのままというわけにはいかないのだから、早めに彼女から聞き出す必要がある。
そこまで考えてから、タオルを渡しておくことを忘れたのを思い出して、持って行ってやるかと、私は腰を上げるのだった。
「おはよう、霊夢」
「……こんな朝っぱらから神社の境内の掃き掃除をしている吸血鬼って、随分と不思議な光景ね」
私の寝ていた布団の隣にフランドールの姿が無く、何をしているのかと起き出してみれば、境内にその姿があった。
「あんた、巫女服何処から持って来たのよ。それに日傘射してないけど平気なわけ?」
「今日は曇り空だから少しくらいは平気よ。この服は霊夢の部屋で見付けたの。どう、似合う?」
鉛色の雲の下、石畳の上に立ち箒を手にして私の予備の巫女服を着たフランドールは、笑みを向ける。けれど、服の着方はめちゃくちゃで、丈の合わない緋袴は引き摺っている状態で、襦袢は帯がきちんと締められていないため、前がほとんどはだけてしまっていた。サラシもしていないのだから危ないことこの上ない。
「まったく、勝手に持ち出して……。ちょっと来なさい」
そんなあられもない彼女の姿に、溜息を吐いてから手を引いて私の部屋に戻す。それから部屋の押し入れに仕舞っていた古い巫女服を引っ張り出して、フランドールに着せてやった。
「おー、ぴったり」
「私が昔来ていた巫女服よ。サイズは問題無いみたいね」
嬉しそうにはしゃぐ彼女の襦袢の背中側には、もう私は着ることは無いからと、鋏を入れて翼を出せるようにしておいた。
「これで霊夢と一緒ね」
「脇は出てないけどね」
フランドールが今着ているのは、私が普段着ている巫女服ではなく、至って普通の巫女服だ。それでも、少女は気に入った様で、部屋の中でクルクルとはしゃぎ廻っている。
その姿をのんびりと眺めていると、開け放した襖の外で空が光った。それから一拍遅れて雷鳴が轟いた。そして直ぐに激しい雨が降り始める。
「急に降ってきたわね……」
襖を閉めると、雷と雨の激しい音が幾分静かになる。
「仕方ないわね。今日は一日のんびりしてましょう」
「さんせいー」
私の提案に、フランドールも手を揚げて同意した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
激しい雨の音が、窓の少ない紅魔館において館内で響いていた。
靴底が石を叩く音が廊下に響く。
メイド妖精達が手に持った燭台から、壁に等間隔で設けられた燭台に火を移していく。
その灯に照らされ、オレンジ色に染まる通路を咲夜は歩いている。
やがて彼女は一つの扉の前で立ち止まる。部屋の主に合わせて他の部屋の扉より一回り小さく作られたマホガニー製の扉を軽く叩く。
「入りなさい」
室内からの声に、咲夜は扉と同様に少々低い位置にあるドアノブを捻って入室する。
「起きていらしたのですね。お嬢様」
「……寝れないわ」
赤いカーペットの敷き詰められた広々とした部屋の壁に、不自然に開いた大きな穴は、今は応急処置として、遮光シートが貼られている。それは、レミリアとフランドールの喧嘩の結果であり、壁を殴りつけて開けたこの穴からフランドールは外に飛び出していったのである。
穴を横目に、美鈴に手伝わせれば明日には修理は終えられそうだ、と考えつつ咲夜は部屋の中央に置かれたベッドへと向かう。その体格に不釣り合いなキングサイズのベッドの上で胡座をかいて、燭台の灯りに照らされた部屋の主、レミリアは眠たげに咲夜に視線を向けた。
本来であれば既に眠る用意をしているはずの主に、咲夜は思うことを口にする。
「フランドールお嬢様が気に掛かりますか?」
「そうね。私達の喧嘩の原因があれだから、余計に心配なのよ」
「何でしたら、私が霊夢の所まで行ってフランドールお嬢様を無理矢理にでも連れ帰って……」
「余計な事はしなくていい」
咲夜の言葉を遮る様にレミリアは告げる。静かな、ハッキリと聞こえた言葉に、咲夜はすぐさま頭を下げた。
「差し出がましいことを言いました。失礼いたしました」
「……これは、あの娘達にとって、ちょうど良い機会なのかもしれない。霊夢には悪いけれど、フランにとって必要なことなのよ」
そう言って、彼女は静かに息を吐き出して、咲夜の姿を少しだけ眺める。
「とにかく、今は私達は待つしか無いわ。答えはあの娘達が出さなくちゃならないのだから」
レミリアの瞳は、かつてあった出来事を懐かしんでいるように咲夜には見えた。
「咲夜、ちょっとこっちに来てしゃがんで」
手招きに歩み寄った咲夜の頭を主はゆっくりと撫でた。まるでその存在を慈しむように。
「あの、お嬢様?」
「あなたは、あなたでいて頂戴」
分からないといった表情の咲夜に、レミリアはそう言って、しばらく彼女の頭をなで続けた後、ベッドへと潜り込んだ。
「あなたと少し話せて良かったわ。おやすみ、咲夜」
「……はい、おやすみなさいませお嬢様」
背を向ける小さな主に、咲夜はゆっくりと頭を下げた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
気が付くと私はフランドールに押し倒されて、馬乗りされていた。
さて、どうしてこうなっているのかと思い出してみるが、残念ながら、少し前まで私は寝ていたため、こんな事になっている状況把握が出来なかった。何故寝ていたのかは、人間は夜寝るものだ。としか言いようが無い。
夜になって、寝る用意をして私の布団の隣にフランドールの布団を敷いて、私は床に入った。それから、何かの気配に目を覚ましてみればこれである。
眠る前までは降っていたのだが既に雨は止んでいるのか、締め切られた襖の外は夜の静寂のみがあった。
「フランドール、どういうつもり?」
思った以上に響いた私の言葉に、行灯の灯りに照らされ、牙を剥いていたフランドールはハッと我に返ったように目を見開いた。それから開いていた口を閉じて、私の上から下りる。
「ご、ごめん」
そう言って、私の隣で正座をして頭を下げる彼女の頭を軽く叩く。
「あんたねえ、謝るくらいなら最初からするんじゃ無いわよ」
ただ無言で、フランドールは俯いている。
「私の血を吸おうとしたでしょう」
小さな肩が震える。
「……さっきの様子からして無意識かもしれないけど。もう一度聞くわ。どういうつもり?」
しばらくの沈黙の後、フランドールはようやく口を開いた。
「私は霊夢が好き」
「知っているわ。あんたいつも公言しているじゃない」
「だけどさ、霊夢はどうなの?」
「……私はよく分からないわね」
分からない。それが私の素直な心境だ。
誰かを好きになるということが分からない。
「私が嫌い?」
「……嫌いではないわね。そうでなければ、こうしてあんたを泊めたりなんてしていないわ」
「私は霊夢と一緒の時間を生きていたいの」
ああ、なるほど。フランドールは吸血鬼。つまりは妖怪だ。私は人間であり、その両者の寿命には大きな開きがある。
「あんたは、私を眷属にしようとした」
少女が小さく頷く。
寿命の差を埋めるには、どちらか一方をもう一方と同じ存在にすればいい。妖怪が人間に。或いは人間が妖怪に。
妖怪が人間になるのはとても難しい。人間に近しい存在になることは出来ても完全に人間になることは出来ないと言っていい。ならば、もう一つの方法を取ればいい。人間を妖怪にするのだ。つまりは吸血鬼である彼女が手っ取り早く人間を妖怪にするには血を吸い尽くして、眷属にすれば良い。
「どうしてそんなことを……」
「好きなひととずっと一緒に居たいって思うのは悪いこと?」
「だから、こんな事をしたと」
馬鹿なことをするものだ。と私は内心溜息を吐いた。
「私は人間以外になるつもりなんて無いわ」
「なんで!? 妖怪になれば寿命だってずっと伸びるし、病気にもならなくなる。そう簡単に死ぬことなんて無くなるんだよ?」
声を荒げるフランドールに、私はきっぱりと言い放つ。
「私は人間であり博麗の巫女よ。幻想郷の要を預かる身として、それを放棄することは出来ないわ」
私の言葉に曲げるつもりの無い意志をを感じたのか、フランドールは黙って俯くと涙を零した。
どうにも私はフランドールの涙には弱いらしい。この少女が泣いていると落ち着かなくなるのだ。
頭を掻いて、私は小さな身体を抱きしめる。思い付いたのは結局それしか無かったからだ。
「泣き止みなさい。フランドール」
「……うん」
しゃくり上げながら、どうにか泣き止んだフランドールは、更に赤くなった目で私を見据えた。
「……私に、お姉様はだめだって言ったの」
「うん?」
「霊夢を眷属にすれば一緒に居られるって言った私の言葉をお姉様は真っ向から否定したの。それはあなたが勝手に決めることじゃないって」
「それで、あんたは紅魔館を飛び出してきたと」
フランドールは頷く。
本人の意志は関係無しに、本当に勝手なことだ。
「私は一生人間よ。だから、私はあんたを置いていくのよ」
人間としての生を全うし、人間として老いて死んでいく。それが博麗としての責任だと私は考えている。
「……霊夢は私が嫌い?」
「そんな事はないわよ。あんたのことは好きよ。これだけ好意を向けられて嫌いなんて言えないじゃない」
溜息混じりの私の言葉に、フランドールは泣きそうな顔で笑った。
「……そしたら、キスしてほしいの」
赤く染まった頬と寂しさの篭った瞳が私を見据える。
「そうすれば、私は耐えられると思うから」
それはきっと、この少女なりの決着の着け方なのだろう。
「それで、あんたの気が済むなら」
瞼を閉じたフランドールの唇にキスをする。
柔らかな感触。直ぐに離す。離した所で、今度は強引に押付けられた。弾みで牙に触れた唇を浅く切った。口の端から流れた血を、フランドールが舌で舐め取る。吸血鬼としての本能を覗かせた恍惚とした表情は一瞬。熱く甘い吐息と共に名残惜しそうに唇が離れて、潤んだ赤い瞳が私を捉える。
「霊夢が好き。誰にも渡したくないくらい私は霊夢が好き」
「私は……そうね、私もきっとフランドールのことが好きなんだと思うわ」
これが愛情なのかは判断できないけれど、これから少しずつ確認していこうと思う。
嬉しそうに、恥ずかしそうにフランドールが笑う。
その姿は見た目相応の少女のようで、微笑ましく思う。
「うん、霊夢のその言葉が聞けただけで、私は満足だわ」
私の背中に腕を回して、私の胸元に顔を埋める。
「ありがとう、霊夢。明日、紅魔館に帰るわ」
「そう、ちゃんとレミリアに謝りなさいよ」
「うん」
それから私は、頷いた頭を、この小さな吸血鬼が満足して眠るまで撫でてやった。
結局その後、何か変わったことといえばレミリアとフランドールの仲が少し良くなったくらいだろう。相変わらず神社にはフランドールはやってくるし、わざわざ追い出すようなことはしない。
――そういえばもう一つ変わったことがあった。フランドールが以前ほど私に愛情表現をしなくなったことだ。
ただまあ、代わりに私にやたら触ってくることが多くなったことは記しておく。何処とは言わないけれど。
END
「こんばんは、霊夢。良い夜ね」
七色に輝く翼を背に、私に笑みを向ける悪魔はしかし、その笑みは何処か曇って見えた。
「何かあったの?」
「今日は霊夢の所に泊めて頂戴」
靴を縁側に脱ぎ捨て、寝室にいる私の胸に顔を埋めた少女はポツリと言葉を零した。
どうにも面倒事になりそうだと、私は密かに息を吐いた。
私はフランドール・スカーレットに好かれている。そう断定する訳は彼女自身が私を好きだと口にするところにある。
ほぼ毎日のように、私の所へやってきてはストレートに私のことが好きだと言われれば、否が応にもその気持ちは理解できようというものだ。
そしてそんな彼女を憎からず思っているからこそ、私はこうして突然押し掛けた彼女に寝床を提供して朝まで添い寝をするという行為までしているということだ。
私の隣で身体を丸めて眠るフランドールの頭を撫でる。
結局この少女は私の所へやってきた理由を何も語らずにいる。
本来であれば起こしてでも理由を問いただす必要があるのだけれど……。
そこまで考えて、玉石を踏む音が外から聞こえた。どうやら来客らしい。
フランドールを起こさないように起き上がって、部屋の襖を開く。
縁側に出ると、そこに立っていたのはレミリアと朝の日差しを遮るために彼女に日傘を差す咲夜だった。
「おはよう霊夢。あなたから起きてきてくれて嬉しいわ。起こす手間が省けた」
「あんたが来たって事はフランドールが私の所に押し掛けたことと何か関係があるのかしら?」
私の言葉にレミリアはやっぱりと言うように、息を吐き出した。
「あの娘はここにいるようね」
「何があったのか聞かせてもらえるかしら?」
レミリアの表情が少しだけ曇る。
「……フランと喧嘩したのよ」
「はあ?」
「私と喧嘩して、あの娘が家を飛び出したのよ。館の外でフランの知っている場所なんてそう多くはないし、最近はあなたの所へよく遊びに顔を出しているようだからここに来てみたのだけれど、どうやら当たりだったみたいね」
「つまり私はあんた達の姉妹喧嘩に巻き込まれたってわけ?」
呆れて溜息も出てこない。
「……お姉様……?」
静かな怒りの篭った声が私の耳を刺激する。見れば、襖を開いたフランドールがレミリアを睨みつけていた。
「フラン、これ以上霊夢に迷惑をかけるんじゃない。帰るわよ」
「いや」
はっきりとした拒絶の言葉。
「私は紅魔館には帰らない」
「フラン、いい加減にしなさい」
怒気を孕んだ底冷えする声がレミリアから発せられる。
さすが夜の王といったところか、彼女の膨大な妖気が場を支配する。私へと向けられたものではないけれど、自然と身体が何時でも応戦できるようにと力が入る。咲夜も平静を装っているようだけれど、額の冷や汗を見る限り、やはり緊張は隠せないようだ。
気圧されるようにフランドールが一歩下がる。
「いやだ、私は帰らない!」
絞り出すような叫びに暫く妹を睨んでいた紅魔館の主は、その意思を理解したのか妖気を収めて深々と溜息を吐いた。
「解ったわ。だったら、三日だけ好きにしなさい。三日経ったら無理やりにでも連れ帰るわ」
「はあっ?」
何言ってんのこいつ?
さっさと連れ帰れと私が文句を言う前に、レミリアは思いもよらない行動に出た。
「霊夢、お願い。フランドールをしばらくここに置いてやって頂戴」
レミリアが私に頭を下げた。プライドの塊のこいつが人間である私に頭を下げたのだ。何も言えない私と、驚いた表情の咲夜とフランドールの様子から見てもやはり珍しいのだろう。
頭を上げたレミリアの目は、曲げられそうのない意志が込められていた。
「私達のことにあなたを巻き込んでしまってごめんなさい、霊夢」
「……わかった、三日だけよ。それ以上はダメだから、覚えておきなさい」
「恩にきるわ」
問答は無意味と諦め、承諾した私にレミリアはもう一度頭を下げた。
「それから、あなたには選択をしてもらうことになると思う。その時は考えておいて頂戴」
踵を返す前に、近づいて私にだけ聞こえるような声で囁くと、彼女は咲夜をを連れて空へと翼を広げて、紅魔館へと帰っていった。
後には、去り際の言葉の意味が解らず、ため息を一つ零す私と、レミリアの背中に向けて舌を出すフランドールが残された。
「へえ、それでフランドールがここでせっせと働いているわけか」
その日の夕方、夕飯を集りに博麗神社にやってきた魔理沙は私の話を聞いて、ちゃぶ台の上から縁側に持ってきた煎餅を齧りつつ頷いた。
「ここに泊まる以上は色々やってもらわないとね」
「紅魔館じゃ、小悪魔が心配そうにしていたぞ。パチュリーや美鈴はいつも通りといったところだったな。まあ、信頼されてるって事じゃないか? 良かったじゃないか霊夢」
「全面的に押しつけられただけのような気もするけどね」
肩をすくめる。
「霊夢、夕飯作るの手伝う」
ちゃぶ台を拭いていたフランドールが台布巾を片手に私の所へとやってくる。
「それじゃ、準備をしようかしらね」
「そうだ、土産に森で採ってきたキノコを持ってきたんだぜ」
魔理沙の帽子の中から出てきたのは色とりどりのキノコ達だ。しかも結構な量がある。
「……ちゃんと食べられる代物なんでしょうね」
「それは保証するぜ」
親指を立てて歯を見せるように笑みを向ける魔理沙。
若干不安だけれど、ありがたく使わせてもらいましょう。
「うう、霊夢に殴られた……」
行灯の明かりに照らされた部屋で、ちゃぶ台に置かれたキノコづくしの夕飯を三人で囲みつつ、フランドールは頭を抑えつつ味噌汁をすすっている。
「火が弱いからって釜戸にレーヴァテイン突っ込むからでしょう」
レーヴァテインの火力で釜戸の火を強くしようとしていたフランドールの頭を、それに気がついた私が頭を殴って止めたのだ。火事でも起こされたらたまらない。当然の対処だ。
「ははは、お前らは親子みたいだな」
「違うよ魔理沙。私は霊夢の恋人なんだから」
私たちの様子に笑う魔理沙に、フランドールは頬を膨らませる。
本当にこいつは私の何がいいのか事あるごとに自身を私の恋人だと公言している。正直勘弁して欲しいわ。
「いやあ、愛されているな霊夢」
「私の愛は無限大よ」
胸を張るフランドールと生暖かい、明らかに面白がっているであろう視線と笑みを向けてくる魔理沙。
とりあえず魔理沙は陰陽玉をチラつかせて黙らせておいた。
「ごちそうさん。また来るな」
「はいはい、じゃあね」
夕食を済ませると日の沈んだ空を箒に股がり飛んでいく魔理沙を見送って、私は自室へと戻る。
「あ、魔理沙はもう帰ったの?」
そこではフランドールがちゃぶ台を前にお茶を啜っていた。
彼女の隣に腰を下ろして差し出されたお茶を啜って、ちゃぶ台の上の煎餅に手を伸ばす。
「帰ったわ。まあ、あいつのことだから明後日あたりにでもまた来るんじゃないかしら」
「ふふふ、これで今日はもう霊夢とふたりっきりってことね」
「馬鹿なこと言ってないで、お風呂でも入ってきちゃいなさい」
擦り寄ってくるフランドールを手で押し返す。
「じゃあ、霊夢も一緒に入ろうよ」
「私は後で一人で入るわ。だから先に入ってきなさい」
残念そうな顔をして、フランドールは立ち上がって風呂場へと向かう。
ここ博麗神社の風呂は間欠泉を利用しているので、いちいち薪を使って沸かす必要が無いため結構助かっている。
脱衣所に向かう軽い足音を聞きながら、煎餅を口に銜えてパキリと半分に割る。その一枚を食べてから、お茶を啜る。
フランドールはここに泊まることになって、喜んでいるのだろう。仕事も積極的に手伝うので、私としても泊めることは構わないのだが、こうなった肝心の原因を私はまだ彼女から聞けていない。フランドール自身も今はまだ話す気が無い様だ。とはいえこのままというわけにはいかないのだから、早めに彼女から聞き出す必要がある。
そこまで考えてから、タオルを渡しておくことを忘れたのを思い出して、持って行ってやるかと、私は腰を上げるのだった。
「おはよう、霊夢」
「……こんな朝っぱらから神社の境内の掃き掃除をしている吸血鬼って、随分と不思議な光景ね」
私の寝ていた布団の隣にフランドールの姿が無く、何をしているのかと起き出してみれば、境内にその姿があった。
「あんた、巫女服何処から持って来たのよ。それに日傘射してないけど平気なわけ?」
「今日は曇り空だから少しくらいは平気よ。この服は霊夢の部屋で見付けたの。どう、似合う?」
鉛色の雲の下、石畳の上に立ち箒を手にして私の予備の巫女服を着たフランドールは、笑みを向ける。けれど、服の着方はめちゃくちゃで、丈の合わない緋袴は引き摺っている状態で、襦袢は帯がきちんと締められていないため、前がほとんどはだけてしまっていた。サラシもしていないのだから危ないことこの上ない。
「まったく、勝手に持ち出して……。ちょっと来なさい」
そんなあられもない彼女の姿に、溜息を吐いてから手を引いて私の部屋に戻す。それから部屋の押し入れに仕舞っていた古い巫女服を引っ張り出して、フランドールに着せてやった。
「おー、ぴったり」
「私が昔来ていた巫女服よ。サイズは問題無いみたいね」
嬉しそうにはしゃぐ彼女の襦袢の背中側には、もう私は着ることは無いからと、鋏を入れて翼を出せるようにしておいた。
「これで霊夢と一緒ね」
「脇は出てないけどね」
フランドールが今着ているのは、私が普段着ている巫女服ではなく、至って普通の巫女服だ。それでも、少女は気に入った様で、部屋の中でクルクルとはしゃぎ廻っている。
その姿をのんびりと眺めていると、開け放した襖の外で空が光った。それから一拍遅れて雷鳴が轟いた。そして直ぐに激しい雨が降り始める。
「急に降ってきたわね……」
襖を閉めると、雷と雨の激しい音が幾分静かになる。
「仕方ないわね。今日は一日のんびりしてましょう」
「さんせいー」
私の提案に、フランドールも手を揚げて同意した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
激しい雨の音が、窓の少ない紅魔館において館内で響いていた。
靴底が石を叩く音が廊下に響く。
メイド妖精達が手に持った燭台から、壁に等間隔で設けられた燭台に火を移していく。
その灯に照らされ、オレンジ色に染まる通路を咲夜は歩いている。
やがて彼女は一つの扉の前で立ち止まる。部屋の主に合わせて他の部屋の扉より一回り小さく作られたマホガニー製の扉を軽く叩く。
「入りなさい」
室内からの声に、咲夜は扉と同様に少々低い位置にあるドアノブを捻って入室する。
「起きていらしたのですね。お嬢様」
「……寝れないわ」
赤いカーペットの敷き詰められた広々とした部屋の壁に、不自然に開いた大きな穴は、今は応急処置として、遮光シートが貼られている。それは、レミリアとフランドールの喧嘩の結果であり、壁を殴りつけて開けたこの穴からフランドールは外に飛び出していったのである。
穴を横目に、美鈴に手伝わせれば明日には修理は終えられそうだ、と考えつつ咲夜は部屋の中央に置かれたベッドへと向かう。その体格に不釣り合いなキングサイズのベッドの上で胡座をかいて、燭台の灯りに照らされた部屋の主、レミリアは眠たげに咲夜に視線を向けた。
本来であれば既に眠る用意をしているはずの主に、咲夜は思うことを口にする。
「フランドールお嬢様が気に掛かりますか?」
「そうね。私達の喧嘩の原因があれだから、余計に心配なのよ」
「何でしたら、私が霊夢の所まで行ってフランドールお嬢様を無理矢理にでも連れ帰って……」
「余計な事はしなくていい」
咲夜の言葉を遮る様にレミリアは告げる。静かな、ハッキリと聞こえた言葉に、咲夜はすぐさま頭を下げた。
「差し出がましいことを言いました。失礼いたしました」
「……これは、あの娘達にとって、ちょうど良い機会なのかもしれない。霊夢には悪いけれど、フランにとって必要なことなのよ」
そう言って、彼女は静かに息を吐き出して、咲夜の姿を少しだけ眺める。
「とにかく、今は私達は待つしか無いわ。答えはあの娘達が出さなくちゃならないのだから」
レミリアの瞳は、かつてあった出来事を懐かしんでいるように咲夜には見えた。
「咲夜、ちょっとこっちに来てしゃがんで」
手招きに歩み寄った咲夜の頭を主はゆっくりと撫でた。まるでその存在を慈しむように。
「あの、お嬢様?」
「あなたは、あなたでいて頂戴」
分からないといった表情の咲夜に、レミリアはそう言って、しばらく彼女の頭をなで続けた後、ベッドへと潜り込んだ。
「あなたと少し話せて良かったわ。おやすみ、咲夜」
「……はい、おやすみなさいませお嬢様」
背を向ける小さな主に、咲夜はゆっくりと頭を下げた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
気が付くと私はフランドールに押し倒されて、馬乗りされていた。
さて、どうしてこうなっているのかと思い出してみるが、残念ながら、少し前まで私は寝ていたため、こんな事になっている状況把握が出来なかった。何故寝ていたのかは、人間は夜寝るものだ。としか言いようが無い。
夜になって、寝る用意をして私の布団の隣にフランドールの布団を敷いて、私は床に入った。それから、何かの気配に目を覚ましてみればこれである。
眠る前までは降っていたのだが既に雨は止んでいるのか、締め切られた襖の外は夜の静寂のみがあった。
「フランドール、どういうつもり?」
思った以上に響いた私の言葉に、行灯の灯りに照らされ、牙を剥いていたフランドールはハッと我に返ったように目を見開いた。それから開いていた口を閉じて、私の上から下りる。
「ご、ごめん」
そう言って、私の隣で正座をして頭を下げる彼女の頭を軽く叩く。
「あんたねえ、謝るくらいなら最初からするんじゃ無いわよ」
ただ無言で、フランドールは俯いている。
「私の血を吸おうとしたでしょう」
小さな肩が震える。
「……さっきの様子からして無意識かもしれないけど。もう一度聞くわ。どういうつもり?」
しばらくの沈黙の後、フランドールはようやく口を開いた。
「私は霊夢が好き」
「知っているわ。あんたいつも公言しているじゃない」
「だけどさ、霊夢はどうなの?」
「……私はよく分からないわね」
分からない。それが私の素直な心境だ。
誰かを好きになるということが分からない。
「私が嫌い?」
「……嫌いではないわね。そうでなければ、こうしてあんたを泊めたりなんてしていないわ」
「私は霊夢と一緒の時間を生きていたいの」
ああ、なるほど。フランドールは吸血鬼。つまりは妖怪だ。私は人間であり、その両者の寿命には大きな開きがある。
「あんたは、私を眷属にしようとした」
少女が小さく頷く。
寿命の差を埋めるには、どちらか一方をもう一方と同じ存在にすればいい。妖怪が人間に。或いは人間が妖怪に。
妖怪が人間になるのはとても難しい。人間に近しい存在になることは出来ても完全に人間になることは出来ないと言っていい。ならば、もう一つの方法を取ればいい。人間を妖怪にするのだ。つまりは吸血鬼である彼女が手っ取り早く人間を妖怪にするには血を吸い尽くして、眷属にすれば良い。
「どうしてそんなことを……」
「好きなひととずっと一緒に居たいって思うのは悪いこと?」
「だから、こんな事をしたと」
馬鹿なことをするものだ。と私は内心溜息を吐いた。
「私は人間以外になるつもりなんて無いわ」
「なんで!? 妖怪になれば寿命だってずっと伸びるし、病気にもならなくなる。そう簡単に死ぬことなんて無くなるんだよ?」
声を荒げるフランドールに、私はきっぱりと言い放つ。
「私は人間であり博麗の巫女よ。幻想郷の要を預かる身として、それを放棄することは出来ないわ」
私の言葉に曲げるつもりの無い意志をを感じたのか、フランドールは黙って俯くと涙を零した。
どうにも私はフランドールの涙には弱いらしい。この少女が泣いていると落ち着かなくなるのだ。
頭を掻いて、私は小さな身体を抱きしめる。思い付いたのは結局それしか無かったからだ。
「泣き止みなさい。フランドール」
「……うん」
しゃくり上げながら、どうにか泣き止んだフランドールは、更に赤くなった目で私を見据えた。
「……私に、お姉様はだめだって言ったの」
「うん?」
「霊夢を眷属にすれば一緒に居られるって言った私の言葉をお姉様は真っ向から否定したの。それはあなたが勝手に決めることじゃないって」
「それで、あんたは紅魔館を飛び出してきたと」
フランドールは頷く。
本人の意志は関係無しに、本当に勝手なことだ。
「私は一生人間よ。だから、私はあんたを置いていくのよ」
人間としての生を全うし、人間として老いて死んでいく。それが博麗としての責任だと私は考えている。
「……霊夢は私が嫌い?」
「そんな事はないわよ。あんたのことは好きよ。これだけ好意を向けられて嫌いなんて言えないじゃない」
溜息混じりの私の言葉に、フランドールは泣きそうな顔で笑った。
「……そしたら、キスしてほしいの」
赤く染まった頬と寂しさの篭った瞳が私を見据える。
「そうすれば、私は耐えられると思うから」
それはきっと、この少女なりの決着の着け方なのだろう。
「それで、あんたの気が済むなら」
瞼を閉じたフランドールの唇にキスをする。
柔らかな感触。直ぐに離す。離した所で、今度は強引に押付けられた。弾みで牙に触れた唇を浅く切った。口の端から流れた血を、フランドールが舌で舐め取る。吸血鬼としての本能を覗かせた恍惚とした表情は一瞬。熱く甘い吐息と共に名残惜しそうに唇が離れて、潤んだ赤い瞳が私を捉える。
「霊夢が好き。誰にも渡したくないくらい私は霊夢が好き」
「私は……そうね、私もきっとフランドールのことが好きなんだと思うわ」
これが愛情なのかは判断できないけれど、これから少しずつ確認していこうと思う。
嬉しそうに、恥ずかしそうにフランドールが笑う。
その姿は見た目相応の少女のようで、微笑ましく思う。
「うん、霊夢のその言葉が聞けただけで、私は満足だわ」
私の背中に腕を回して、私の胸元に顔を埋める。
「ありがとう、霊夢。明日、紅魔館に帰るわ」
「そう、ちゃんとレミリアに謝りなさいよ」
「うん」
それから私は、頷いた頭を、この小さな吸血鬼が満足して眠るまで撫でてやった。
結局その後、何か変わったことといえばレミリアとフランドールの仲が少し良くなったくらいだろう。相変わらず神社にはフランドールはやってくるし、わざわざ追い出すようなことはしない。
――そういえばもう一つ変わったことがあった。フランドールが以前ほど私に愛情表現をしなくなったことだ。
ただまあ、代わりに私にやたら触ってくることが多くなったことは記しておく。何処とは言わないけれど。
END
なんだか霊夢がフランを抑えるために嘘こいたようにも思えるのが悲しい
そんなことはないんでしょうけれども
エロスが大分削られてあるせいかちょっと短かった気がします。
私なんか巫女服フランですでに鼻血ものでした。
タイトルが微妙なのと最初のほうが冗長なのとは欠点かなと感じました。
「解ったわ。だったら、三日だけ~」あたりから読む目が集中し始めました。
読者が増えて欲しい一編。