高高度核爆発(こうこうどかくばくはつ、High altitude nuclear explosion, HANE)は、高層大気圏における核爆発。強力な電磁パルス(EMP)を攻撃手段として利用するものである。爆発高度によって分類されるものであり、核兵器の種類や爆発規模などは問わない。
電磁パルスは、ケーブル・アンテナ類に高エネルギーのサージ電流を発生させ、それらに接続された電子機器などに流れる過剰な電流によって、半導体や電子回路に損傷を与えたり、一時的な誤動作を発生させる。
――wikipediaより引用
「うわっ、眩しい」
地底から初めて外に出た地獄鴉はそう呟くと、地底の天井とは比べ物にならないほど高いところにある太陽を見上げた。
その光景を見た河童が問いかける。
「あんた、地底の太陽気取ってるくせに太陽見たことなかったの?」
「話には聞いていたけどね、なにせ地底から出てこられなかったから、見ようにも見られなかったのよ」
「なるほどね。あのでっかいのもあんたと同じ種類のエネルギーよ。もっとも、あんたとは比べ物にならないほどの高エネルギー体だけど」
そう言うと河童は同じく間欠泉から出てきた巫女と魔法使いの下に駆け寄る。
「今晩の宴会の予定だけど……」
「まだお昼にもなってないじゃない。というか、またうちの境内でやる気なの?」
「ああ、温泉もできたしな。宴会にはもってこいの場所だぜ」
『じゃあ私は号外出してからそっちに行くことにします』
巫女の横に浮いている陰陽玉から声が聞こえてきた。どうやら通信機のようだ。
宴会の予定で盛り上がる彼女らに見向きもせず、地獄鴉はまだ太陽を見上げている。
「私より強い……あんなに小さいのに?」
地獄鴉のその一言は誰の耳にも届かなかった。
迷いの竹林の奥深くにひっそりと建っている屋敷がある。この屋敷、少し前までは他者との交流を絶っていたのだが、とある異変を境に少しずつ人々と交流するようになった。人々はこの屋敷のことを『永遠亭』と呼ぶ。そこには不死の姫と不死の従者、それにたくさんの兎が住んでいた。
「しっ、師匠! 粉塵お願いします!」
「永琳、私火事場」
「じゃあ仕方ないですね」
「え? ちょっと、え、あ。……あー、ごめんなさい」
「こいつ相手に落ちるなんて情けないわね鈴仙」
外界との交流ができるようになってから、永遠亭には急激に娯楽が増えた。前は囲碁や将棋などのボードゲーム中心だったが、今では電気を必要とするものが中心になっている。なんでも、香霖堂が独自ルートで入手してくるとか。
炬燵を囲むように四人が座っていた。それぞれの手には携帯ゲーム機がしっかりと握られている。長い黒髪で和服を着た少女、蓬莱山輝夜が、長く白い髪を持った女性、八意永琳に語りかける。
「それにしても、こんなに面白いものがこの世に存在するなんてね。外の世界も捨てたもんじゃないわ」
「そうね。外の世界の人間は娯楽を考えだすのがとても上手だわ」
二人の会話に制服を着たくしゃ耳の兎、鈴仙・優曇華院・イナバが口を挟む。
「次は私がクエスト貼る番ですね。これお願いし」
「鈴仙ちゃんさっきミスしたけど、その責任は取らないの?」
鈴仙に厳しい指摘をしたこの兎は因幡てゐだ。外見だけ見るとこの四人の中で一番幼いように見えるが、実年齢は不死の二人と肩を並べるくらいである。
「じゃあ鈴仙ちゃんが責任とって順番パスらしいんで次私の番ってことウサ」
「そうね、それが妥当だわ。ねぇ鈴仙?」
「……そうですね」
永遠亭は今日も平常運転だった。
「そっちいったわよ。永琳、そろそろお昼だけどご飯どうする?」
「そうね、昨日の残りがあるからそれで済まそうかしら。ちょっと優曇華、頭じゃなくて尻尾切りなさい」
そんなやりとりをしている間に、居間の時計の鐘が十二時を告げる。
「号外でーす! 地底の異変をどこの新聞社よりも速くお伝えしてまーす!」
そんな声とともに新聞が投げ込まれる音がした。もっとも、ゲームが忙しい彼女らは誰も興味を示さない。
ことが起こったのは、新聞が投げ込まれてから少し経った時だ。
突然、四人が手にしている携帯ゲーム機の画面が真っ暗になった。
「あれ? 充電切れたのかしら」
「えっ、輝夜もかしら?」
「永琳のも消えたの?」
「ええそうよ。優曇華とてゐのも切れてるわ」
四人とも狐につままれたような顔をしている。それもそのはず、一機だけならともかく四機同時に壊れるなんて滅多に起こりえない。どう考えても異常である。
輝夜が近くに転がっていたノートパソコンを蓬莱の枝でだぐり寄せる。炬燵から出ないと厳しい距離なのに、意地でも炬燵からでないところが彼女らしい。
「本体の不具合かしらね。ちょっとインターネットで検索して……あれ?」
どうにかノートパソコンをたぐり寄せ、うつ伏せ状態のまま電源ボタンをいじっている。
「輝夜さま、どうかしましたか?」
「パソコンがつかないのよ。さっき充電終わったばかりだから充電切れってことはありえないはずなんだけど、電源すら入らないわ」
「電子機器の不具合……近くに雷でも落ちたのかしら」
永琳の言葉で、輝夜が炬燵からは出ずに這いずりながら障子を開けて外を見る。
「こんな晴天で雷ねぇ。……あれ? ちょっと何あれ」
その言葉を聞いて三人が炬燵から出てきて空を見る。雲ひとつない空には、とても綺麗な輪っかができていた。
「……凄く綺麗ですね」
惚けている鈴仙に輝夜が語りかける。
「綺麗なんて話してる場合じゃないわよ鈴仙。あれ、ひょっとするとEMPかもしれないわ」
「EMP? なんですかそれ?」
「Electromagnetic Pulse 略してEMPよ。要は核爆発とか雷で起こる電磁波のことね。あの衝撃波と天候から察するに高高度核爆発でも起こったんじゃないかしら。でも、一体誰がそんなこと……」
「電磁波のせいで電子機器が止まっちゃったんですか?」
「そうよ。回路が焼き切れるから修復は絶望的だわ。ゲームもノートパソコンも買い直しね、信じたくないけど。」
輝夜が鈴仙に説明をしている間に、永琳は射命丸が放り込んだ新聞を読んでいる。一面には大きく「怨霊止まる! 神を取り込んだ八咫烏」と書かれていた。
「地底に核融合を操る八咫烏がいるそうよ。そいつが原因じゃないかしら」
「ということは本当にあれEMPなのね。……あっ」
何かに気付いた輝夜が目を大きく見開いたまま動かない。
「どうしたんですか、輝夜さま」
「セーブ」
「えっ?」
「セーブデータ、消えたわ」
四人の動きが止まった。
「私の神おま、何百時間かけたセーブデータ……」
喋っているのは輝夜だけだが、怒っているのは輝夜だけではない、ということが各人の目から伝わってくる。
「地底にEMPを起こした張本人がいるのね。博麗神社に湧いた間欠泉から入ればいいのかしら?」
「そうね輝夜。……お昼ご飯は鴉鍋になりそうね」
四人は合計千時間超えするであろうセーブデータの敵を討つために、出かける準備を始めた。
香霖堂では、今日も閑古鳥が鳴いていた。原因としては、取り扱ってるものや立地条件などいろいろ考えられるが何よりも店主に売る気が見られないことだろう。
売る気のない店主、森近霖之助はカウンターに座ってなにかをいじっている。
「こんにちは森近さん。号外ですよ!」
新聞記者の射命丸文がドアベルを鳴らしながら店に入ってくる。
「ああ毎度ご苦労様。今回はどんな内容だい?」
射命丸は新聞をカウンターに置きながら答える。
「間欠泉から悪霊が出てくる異変を以前お伝えしましたよね。あれを解決してきました!」
「ほう、結局原因は?」
「直接的な原因としては猫が地上にあることを知らせるため。間接的な原因としては鴉の暴走ですね」
「その鴉はどうして暴走したんだい?」
「どうやら核の力を取り込んで暴走しちゃったみたいですよ。というか全部新聞に書いたんですが」
「どうせここが最後の配達場所だろう? ふーむ核の力ねぇ。使い方次第で善にも悪にもなるから怖いよ」
「そうですね。とりあえず私らが釘差してきたので大丈夫だと思います。しかし、あの鴉はどうやって核の力を手に入れたんでしょうね」
「君がわからないなら僕にもわからないな。また何かわかったら頼むよ」
「ええわかりました。」
「ところで、それは何です?」
射命丸が霖之助のいじっていたものを指差す。
「これはレジスターと呼ばれるものらしい。お金を管理するものだから商売には持って来いの道具なんだ」
「へぇ、それは便利ですね。動くんですか?」
「この機械は電気を使うんだが、幸いこの前発電機も手に入れたからね。動かすことはできるんだが……」
いつの間にか射命丸はペンと手帳を手にしている。記事にする気満々のようだ。
「今電源を入れよう。……点いたかな? ここの表示を見て欲しいんだ。どうだい、『円』って表示されているだろう。どうもこの機械は『銭』と『厘』には対応していないようなんだ。」
「ほう、それはそれは興味深いですね」
「ああ。もしかしたら、外の世界ではハイパーインフレが起こっていて『円』の価値が暴落しているのかもしれない」
「なるほど、確かにそれなら円しか表示できないのも納得いきます」
「いや、他にも可能性はあるんだ。例えば、この機械が金持ち専用の機械だとか」
射命丸はレジスターの数字入力キーを触っている。
「ふむ、どちらにしろこれだけ桁数が表示できることは異常ですね。とても面白い機械です。今度改めて取材しに来てもいいですか?」
「わかった。いつでも構わないよ。当分手放す気はないからね」
霖之助が笑って答える。
「よくそれで生きていけますよね」
「まぁ、物食べなくても生活に支障はあまりでないからね」
「その気楽さが羨ましいです。じゃあ私はこれで」
射命丸がドアを開け、再びドアベルが鳴る。が、ドアを開けたまま一向に出て行く気配がない。ただじっと外を見ている。
「ああまた。……ってどうしたんだ、外になにかあるのかい」
「なんですかあれ!? 初めて見ました! あ、写真取らなきゃ写真!」
霖之助の質問に微妙な回答をしながら一心不乱に射命丸は写真を撮りだした。先程の言葉とその行動を見ていた霖之助が興味津々で外に出る。
「おお……これは凄いなぁ。一体どうやったらあんな綺麗な衝撃波が生まれるのか興味が湧くよ」
空には、核爆発の衝撃波が広がって行く様が映し出されていた。
「森近さんあれなんだかわかります?」
「あれは多分……うわああああああああああ!」
霖之助が急に香霖堂に飛び込んでレジスターをいじりだした。
「ど、どうしたんですか森近さん! 私の質問の回答もそこそこに」
射命丸の問いかけを無視してレジスターをガチャガチャいじりまわしていた霖之助だったが、やがて諦めたかのように項垂れた。
「……あれはEMPといってね。高高度核爆発で起こる電磁パルスのことなんだが、その電磁パルスがケーブルに高エネルギーの」
「ええわかりました。私には何いってるか理解できません。過程はいいので結果だけ教えてください」
出鼻を挫かれた霖之助が眼鏡を上げなおす。
「つまり、過剰な電流が精密機械に流れ込むことによってこれを壊すんだ。立派な兵器だよ」
「兵器、ですか。あれ、でもこのカメラは動きますよ?」
と言って先程使っていたカメラと出てきた写真を霖之助に見せる。
「そのカメラは電子機器じゃないからね、大丈夫なんだ。それよりも……」
霖之助は店の物を見回す。
「ここらの電子機器はもう使い物にならないだろうね。まぁ元から壊れていたものもあったけど」
「あー、ご愁傷さまです」
「ありがとう。さて、ここで壊れたものを嘆いても何がどうなるって話じゃないからね。その鴉はどこにいるかわかるかい?」
「多分博麗神社だと思いますよ。文句でも言いに行くんですか?」
「いや、文句をいっても利益は生まれないからね。壊れたものの相応の値段を請求しに行こうと思う」
既に霖之助は手帳を取り出して何やら書き込んでいる。
「現実的ですね……記事になりそうなので私もついて行くことにします!」
「ああわかった。じゃあ値段が分かり次第行こうか」
こうして二人は、壊れた電子機器の損害賠償と明日の朝刊のネタのために博麗神社に向かうことにした。
「じゃあ兵装置いてくるよ。宴会の開催場所はいつも通りここかい?」
白黒の服を着た少女、霧雨魔理沙に青い服を着た河童、河城にとりが問いかける。
「ああそうだ。サポートありがとな。博麗神社で待ってるぜ」
「はいはい。それじゃあね」
と言って、背中に背負ってるリュックサックから翼を出してどこかへ飛んで行った。魔理沙が巫女服の少女、博麗霊夢に話しかける。
「さーて、宴会の準備するまえにちょっと休むか」
「そうね。温泉に入ってくるわ。灼熱地獄だったから汗が体にまとわりついて気持ち悪いの」
「いい案だな、私も入るぜ。前と違って怨霊が湧いてこないからゆっくり入れるな。タオル借りるぜ」
と言いながら勝手に棚を開けてタオルを取り出す。どこに何があるか把握しているらしい。
「さとり達はどこ行ったのかしら」
「あいつ橋あたりでへばってたぞ。なんでも久しぶりに動いたから疲れたらしい。後で来るってよ」
「やわねぇ。さっき空がその辺に居なかった?」
「あー、外が珍しいとかそんなこと言ってたから大方どっかその辺飛び回ってんじゃねえの? 腹が減ったらきっと帰ってくるぜ」
魔理沙は既に服を脱ぎ始めている。温泉が待ちきれないようだ。
「またそこらで悪さしなきゃいいんだけどね……さっきあれだけ絞ったから大丈夫だろうとは思うけど」
「流石にあいつもそこまで馬鹿じゃないだろ。早く温泉行こうぜ」
そのまま霊夢は空のこと考えるのを止めて、半裸の魔理沙と共に博麗神社に湧いた温泉へ向かっていった。
彼女らが居なくなって少し後、空間が少し割れた。
「霊夢ー、怨霊止めたんだってー? ってあれ。どこ行ったのかしら」
その隙間から出てきたのは紫色の服を着た女性、八雲紫だ。どうやらどこかで霊夢らの動向を見ていたらしい。
「魔理沙の服が点々と落ちてるわね。この方向は……」
紫は隙間から防水仕様のデジタルカメラを取り出すと、彼女らが入っている温泉の方向を見つめた。
空は、太陽に向かって上昇を続けていた。しかし空気が薄くなるにつれ、空の意識は朦朧としてきた。
彼女は薄れ行く意識の中、太陽に近付けないことに苛立ちを感じていた。
そして、墜ちる前に一矢報いようと、太陽に向けて持てる力を全て使った爆発を起こした。
「どうしてくれんのよ! 私の五百時間かけたセーブデータ!」
「本当に申し訳ありません」
博麗神社の境内には永遠亭の四人と相手の心が読める少女、古明地さとり。それとその側で気絶している地獄鴉の霊烏路空が居た。
「どう責任取るのよ! あのセーブデータには数十時間掛けてようやく入手した神おまがあったのよ!」
「はあ。『気の済むまで私達を痛めつけたい』ですか。痛いのは嫌ですがペットの罪は飼い主である私が取るしかありませんね。どうぞ、お手柔らかに」
さとりは激昂している輝夜に一歩近づく。輝夜がさとりの胸ぐらを掴んだ。
「あんたいい根性してるわね。本当は殺してやろうかと思ってたけど、半殺し程度に止めておいてやるわ」
「ちょっと待ってくれ。君らが痛めつける前に僕の話をさせて欲しいんだが」
輝夜がさとりをいざ殴ろうとしているところに霖之助が割って入ってきた。射命丸がその光景を撮影している。
「危ない危ない、もう少しで話ができなくなるところだったね。やあ初めまして。古明地さとりさん」
輝夜に胸ぐらを掴まれたままさとりが応答する。
「なるほど。『暴力は振るわないけど壊れた電子機器を弁償して欲しい』ですか。そうですね、地霊殿の私の部屋に金庫があるので、ダイヤルを0514に合わせてください。全財産がそこに入っているので、それでどうでしょうか『金庫に入っている金額』ですか。ああ大丈夫です、その額なら足ります」
「ほう、心が読めるというのは本当なんだね。話が早くて助かるよ」
「用は済んだかしら? 香霖堂」
「ああもういいよ、輝夜姫さん」
輝夜は霖之助の言葉に鼻で笑うと、さとりに向かって再び拳を振り上げた。この場に居る誰しもが、さとりは殴られる、と思った時であった。
「ちょっと待ちなさい」
空間が割れて隙間から妖怪が出現した。
「その責任全て私が持たせてもらうわ」
「八雲紫……!? 一体どういうことなの!」
まださとりの胸ぐらを掴み続けている輝夜が声を上げる。
「どういうことも何も、言った通りですわよ。ただし殴られるのは勘弁だけどね」
輝夜はとうとう胸ぐらを離した。苦しかったのかさとりは四つん這いになり咳き込んでいる。
「故障した機器の代替品を提供するということでどうかしら。少なくとも彼女を殴るよりはいい代替案だと思いません?」
「ふ、ふん。そんなことしてもらっても私の神おまが入ったセーブデータは帰ってこないのよ!」
「じゃあいいわ。彼女を痛めつけるといいんじゃない? そんな事しても電子機器は直りませんけどね」
紫は笑っている。輝夜がここで手を打つしかないことを知っているからだ。永琳が輝夜に何か耳打ちをする。
「わかったわよ! それでいいわ」
「ありがとうございます。じゃあ壊れたものをリスト化しておいてくださいね」
「はいはいどうもご苦労様です。帰るわよ!」
輝夜はそう言って鳥居の方に向かって歩き出した。他の三人もそれに続く。
「あー、紫。僕の弁償は」
輝夜たちが去っていくのを眺めていた霖之助が思い出したかのよう問う。
「どうせ流行遅れの品の弁償でしょう? いくらでもしてあげるわ」
「そうか。助かるよ。これが故障したもののリストだ」
そう言って霖之助は紫に紙を手渡す。紫はそれを上から下までざっと見渡すと、その場に作った小さな隙間に紙を放り込んだ。
「それじゃあ僕も帰るよ。店を開けてきてるからね」
「それで、あなたも何か弁償して欲しいんですか?文屋さん」
「いえいえ私はただの野次馬ですので。それじゃここいらで失礼しますね」
そう言うと射命丸は妖怪の山の方角に飛び去って行った。
「さて、古明地さん」
邪魔者が誰も居なくなってから紫はさとりに話しかけた。
「初めまして。八雲紫です」
「初めまして。古明地さとりです。どうしてこのようなことを?」
「いえいえ、私は地底から出てきたあなた方を優しくもてなしたいだけですわ」
「なるほど。『盗撮の証拠がEMPによって消失したからお礼をしたい』ですか。まぁ、どのような理由にしろ私たちを助けてくれたのは事実ですしね。ありがとうございます」
「……この事を喋ったら肩代わりはナシよ」
「ええ、勿論わかっていますとも。私は口が裂けても言いませんので安心して下さい。ただし、そこに隠れている烏天狗が喋るのは管轄外ですけれど」
素早く紫が振り向くが、射命丸は既に遥か彼方であった。彼女が飛び去った時に生じた風が紫の髪を乱す。紫は何も言わず、ただそこに立ち尽くしていた。
翌日の朝刊の一面はEMPの事だったが、二面には紫が盗撮をしたこともしっかりと書かれていたという。
電磁パルスは、ケーブル・アンテナ類に高エネルギーのサージ電流を発生させ、それらに接続された電子機器などに流れる過剰な電流によって、半導体や電子回路に損傷を与えたり、一時的な誤動作を発生させる。
――wikipediaより引用
「うわっ、眩しい」
地底から初めて外に出た地獄鴉はそう呟くと、地底の天井とは比べ物にならないほど高いところにある太陽を見上げた。
その光景を見た河童が問いかける。
「あんた、地底の太陽気取ってるくせに太陽見たことなかったの?」
「話には聞いていたけどね、なにせ地底から出てこられなかったから、見ようにも見られなかったのよ」
「なるほどね。あのでっかいのもあんたと同じ種類のエネルギーよ。もっとも、あんたとは比べ物にならないほどの高エネルギー体だけど」
そう言うと河童は同じく間欠泉から出てきた巫女と魔法使いの下に駆け寄る。
「今晩の宴会の予定だけど……」
「まだお昼にもなってないじゃない。というか、またうちの境内でやる気なの?」
「ああ、温泉もできたしな。宴会にはもってこいの場所だぜ」
『じゃあ私は号外出してからそっちに行くことにします』
巫女の横に浮いている陰陽玉から声が聞こえてきた。どうやら通信機のようだ。
宴会の予定で盛り上がる彼女らに見向きもせず、地獄鴉はまだ太陽を見上げている。
「私より強い……あんなに小さいのに?」
地獄鴉のその一言は誰の耳にも届かなかった。
迷いの竹林の奥深くにひっそりと建っている屋敷がある。この屋敷、少し前までは他者との交流を絶っていたのだが、とある異変を境に少しずつ人々と交流するようになった。人々はこの屋敷のことを『永遠亭』と呼ぶ。そこには不死の姫と不死の従者、それにたくさんの兎が住んでいた。
「しっ、師匠! 粉塵お願いします!」
「永琳、私火事場」
「じゃあ仕方ないですね」
「え? ちょっと、え、あ。……あー、ごめんなさい」
「こいつ相手に落ちるなんて情けないわね鈴仙」
外界との交流ができるようになってから、永遠亭には急激に娯楽が増えた。前は囲碁や将棋などのボードゲーム中心だったが、今では電気を必要とするものが中心になっている。なんでも、香霖堂が独自ルートで入手してくるとか。
炬燵を囲むように四人が座っていた。それぞれの手には携帯ゲーム機がしっかりと握られている。長い黒髪で和服を着た少女、蓬莱山輝夜が、長く白い髪を持った女性、八意永琳に語りかける。
「それにしても、こんなに面白いものがこの世に存在するなんてね。外の世界も捨てたもんじゃないわ」
「そうね。外の世界の人間は娯楽を考えだすのがとても上手だわ」
二人の会話に制服を着たくしゃ耳の兎、鈴仙・優曇華院・イナバが口を挟む。
「次は私がクエスト貼る番ですね。これお願いし」
「鈴仙ちゃんさっきミスしたけど、その責任は取らないの?」
鈴仙に厳しい指摘をしたこの兎は因幡てゐだ。外見だけ見るとこの四人の中で一番幼いように見えるが、実年齢は不死の二人と肩を並べるくらいである。
「じゃあ鈴仙ちゃんが責任とって順番パスらしいんで次私の番ってことウサ」
「そうね、それが妥当だわ。ねぇ鈴仙?」
「……そうですね」
永遠亭は今日も平常運転だった。
「そっちいったわよ。永琳、そろそろお昼だけどご飯どうする?」
「そうね、昨日の残りがあるからそれで済まそうかしら。ちょっと優曇華、頭じゃなくて尻尾切りなさい」
そんなやりとりをしている間に、居間の時計の鐘が十二時を告げる。
「号外でーす! 地底の異変をどこの新聞社よりも速くお伝えしてまーす!」
そんな声とともに新聞が投げ込まれる音がした。もっとも、ゲームが忙しい彼女らは誰も興味を示さない。
ことが起こったのは、新聞が投げ込まれてから少し経った時だ。
突然、四人が手にしている携帯ゲーム機の画面が真っ暗になった。
「あれ? 充電切れたのかしら」
「えっ、輝夜もかしら?」
「永琳のも消えたの?」
「ええそうよ。優曇華とてゐのも切れてるわ」
四人とも狐につままれたような顔をしている。それもそのはず、一機だけならともかく四機同時に壊れるなんて滅多に起こりえない。どう考えても異常である。
輝夜が近くに転がっていたノートパソコンを蓬莱の枝でだぐり寄せる。炬燵から出ないと厳しい距離なのに、意地でも炬燵からでないところが彼女らしい。
「本体の不具合かしらね。ちょっとインターネットで検索して……あれ?」
どうにかノートパソコンをたぐり寄せ、うつ伏せ状態のまま電源ボタンをいじっている。
「輝夜さま、どうかしましたか?」
「パソコンがつかないのよ。さっき充電終わったばかりだから充電切れってことはありえないはずなんだけど、電源すら入らないわ」
「電子機器の不具合……近くに雷でも落ちたのかしら」
永琳の言葉で、輝夜が炬燵からは出ずに這いずりながら障子を開けて外を見る。
「こんな晴天で雷ねぇ。……あれ? ちょっと何あれ」
その言葉を聞いて三人が炬燵から出てきて空を見る。雲ひとつない空には、とても綺麗な輪っかができていた。
「……凄く綺麗ですね」
惚けている鈴仙に輝夜が語りかける。
「綺麗なんて話してる場合じゃないわよ鈴仙。あれ、ひょっとするとEMPかもしれないわ」
「EMP? なんですかそれ?」
「Electromagnetic Pulse 略してEMPよ。要は核爆発とか雷で起こる電磁波のことね。あの衝撃波と天候から察するに高高度核爆発でも起こったんじゃないかしら。でも、一体誰がそんなこと……」
「電磁波のせいで電子機器が止まっちゃったんですか?」
「そうよ。回路が焼き切れるから修復は絶望的だわ。ゲームもノートパソコンも買い直しね、信じたくないけど。」
輝夜が鈴仙に説明をしている間に、永琳は射命丸が放り込んだ新聞を読んでいる。一面には大きく「怨霊止まる! 神を取り込んだ八咫烏」と書かれていた。
「地底に核融合を操る八咫烏がいるそうよ。そいつが原因じゃないかしら」
「ということは本当にあれEMPなのね。……あっ」
何かに気付いた輝夜が目を大きく見開いたまま動かない。
「どうしたんですか、輝夜さま」
「セーブ」
「えっ?」
「セーブデータ、消えたわ」
四人の動きが止まった。
「私の神おま、何百時間かけたセーブデータ……」
喋っているのは輝夜だけだが、怒っているのは輝夜だけではない、ということが各人の目から伝わってくる。
「地底にEMPを起こした張本人がいるのね。博麗神社に湧いた間欠泉から入ればいいのかしら?」
「そうね輝夜。……お昼ご飯は鴉鍋になりそうね」
四人は合計千時間超えするであろうセーブデータの敵を討つために、出かける準備を始めた。
香霖堂では、今日も閑古鳥が鳴いていた。原因としては、取り扱ってるものや立地条件などいろいろ考えられるが何よりも店主に売る気が見られないことだろう。
売る気のない店主、森近霖之助はカウンターに座ってなにかをいじっている。
「こんにちは森近さん。号外ですよ!」
新聞記者の射命丸文がドアベルを鳴らしながら店に入ってくる。
「ああ毎度ご苦労様。今回はどんな内容だい?」
射命丸は新聞をカウンターに置きながら答える。
「間欠泉から悪霊が出てくる異変を以前お伝えしましたよね。あれを解決してきました!」
「ほう、結局原因は?」
「直接的な原因としては猫が地上にあることを知らせるため。間接的な原因としては鴉の暴走ですね」
「その鴉はどうして暴走したんだい?」
「どうやら核の力を取り込んで暴走しちゃったみたいですよ。というか全部新聞に書いたんですが」
「どうせここが最後の配達場所だろう? ふーむ核の力ねぇ。使い方次第で善にも悪にもなるから怖いよ」
「そうですね。とりあえず私らが釘差してきたので大丈夫だと思います。しかし、あの鴉はどうやって核の力を手に入れたんでしょうね」
「君がわからないなら僕にもわからないな。また何かわかったら頼むよ」
「ええわかりました。」
「ところで、それは何です?」
射命丸が霖之助のいじっていたものを指差す。
「これはレジスターと呼ばれるものらしい。お金を管理するものだから商売には持って来いの道具なんだ」
「へぇ、それは便利ですね。動くんですか?」
「この機械は電気を使うんだが、幸いこの前発電機も手に入れたからね。動かすことはできるんだが……」
いつの間にか射命丸はペンと手帳を手にしている。記事にする気満々のようだ。
「今電源を入れよう。……点いたかな? ここの表示を見て欲しいんだ。どうだい、『円』って表示されているだろう。どうもこの機械は『銭』と『厘』には対応していないようなんだ。」
「ほう、それはそれは興味深いですね」
「ああ。もしかしたら、外の世界ではハイパーインフレが起こっていて『円』の価値が暴落しているのかもしれない」
「なるほど、確かにそれなら円しか表示できないのも納得いきます」
「いや、他にも可能性はあるんだ。例えば、この機械が金持ち専用の機械だとか」
射命丸はレジスターの数字入力キーを触っている。
「ふむ、どちらにしろこれだけ桁数が表示できることは異常ですね。とても面白い機械です。今度改めて取材しに来てもいいですか?」
「わかった。いつでも構わないよ。当分手放す気はないからね」
霖之助が笑って答える。
「よくそれで生きていけますよね」
「まぁ、物食べなくても生活に支障はあまりでないからね」
「その気楽さが羨ましいです。じゃあ私はこれで」
射命丸がドアを開け、再びドアベルが鳴る。が、ドアを開けたまま一向に出て行く気配がない。ただじっと外を見ている。
「ああまた。……ってどうしたんだ、外になにかあるのかい」
「なんですかあれ!? 初めて見ました! あ、写真取らなきゃ写真!」
霖之助の質問に微妙な回答をしながら一心不乱に射命丸は写真を撮りだした。先程の言葉とその行動を見ていた霖之助が興味津々で外に出る。
「おお……これは凄いなぁ。一体どうやったらあんな綺麗な衝撃波が生まれるのか興味が湧くよ」
空には、核爆発の衝撃波が広がって行く様が映し出されていた。
「森近さんあれなんだかわかります?」
「あれは多分……うわああああああああああ!」
霖之助が急に香霖堂に飛び込んでレジスターをいじりだした。
「ど、どうしたんですか森近さん! 私の質問の回答もそこそこに」
射命丸の問いかけを無視してレジスターをガチャガチャいじりまわしていた霖之助だったが、やがて諦めたかのように項垂れた。
「……あれはEMPといってね。高高度核爆発で起こる電磁パルスのことなんだが、その電磁パルスがケーブルに高エネルギーの」
「ええわかりました。私には何いってるか理解できません。過程はいいので結果だけ教えてください」
出鼻を挫かれた霖之助が眼鏡を上げなおす。
「つまり、過剰な電流が精密機械に流れ込むことによってこれを壊すんだ。立派な兵器だよ」
「兵器、ですか。あれ、でもこのカメラは動きますよ?」
と言って先程使っていたカメラと出てきた写真を霖之助に見せる。
「そのカメラは電子機器じゃないからね、大丈夫なんだ。それよりも……」
霖之助は店の物を見回す。
「ここらの電子機器はもう使い物にならないだろうね。まぁ元から壊れていたものもあったけど」
「あー、ご愁傷さまです」
「ありがとう。さて、ここで壊れたものを嘆いても何がどうなるって話じゃないからね。その鴉はどこにいるかわかるかい?」
「多分博麗神社だと思いますよ。文句でも言いに行くんですか?」
「いや、文句をいっても利益は生まれないからね。壊れたものの相応の値段を請求しに行こうと思う」
既に霖之助は手帳を取り出して何やら書き込んでいる。
「現実的ですね……記事になりそうなので私もついて行くことにします!」
「ああわかった。じゃあ値段が分かり次第行こうか」
こうして二人は、壊れた電子機器の損害賠償と明日の朝刊のネタのために博麗神社に向かうことにした。
「じゃあ兵装置いてくるよ。宴会の開催場所はいつも通りここかい?」
白黒の服を着た少女、霧雨魔理沙に青い服を着た河童、河城にとりが問いかける。
「ああそうだ。サポートありがとな。博麗神社で待ってるぜ」
「はいはい。それじゃあね」
と言って、背中に背負ってるリュックサックから翼を出してどこかへ飛んで行った。魔理沙が巫女服の少女、博麗霊夢に話しかける。
「さーて、宴会の準備するまえにちょっと休むか」
「そうね。温泉に入ってくるわ。灼熱地獄だったから汗が体にまとわりついて気持ち悪いの」
「いい案だな、私も入るぜ。前と違って怨霊が湧いてこないからゆっくり入れるな。タオル借りるぜ」
と言いながら勝手に棚を開けてタオルを取り出す。どこに何があるか把握しているらしい。
「さとり達はどこ行ったのかしら」
「あいつ橋あたりでへばってたぞ。なんでも久しぶりに動いたから疲れたらしい。後で来るってよ」
「やわねぇ。さっき空がその辺に居なかった?」
「あー、外が珍しいとかそんなこと言ってたから大方どっかその辺飛び回ってんじゃねえの? 腹が減ったらきっと帰ってくるぜ」
魔理沙は既に服を脱ぎ始めている。温泉が待ちきれないようだ。
「またそこらで悪さしなきゃいいんだけどね……さっきあれだけ絞ったから大丈夫だろうとは思うけど」
「流石にあいつもそこまで馬鹿じゃないだろ。早く温泉行こうぜ」
そのまま霊夢は空のこと考えるのを止めて、半裸の魔理沙と共に博麗神社に湧いた温泉へ向かっていった。
彼女らが居なくなって少し後、空間が少し割れた。
「霊夢ー、怨霊止めたんだってー? ってあれ。どこ行ったのかしら」
その隙間から出てきたのは紫色の服を着た女性、八雲紫だ。どうやらどこかで霊夢らの動向を見ていたらしい。
「魔理沙の服が点々と落ちてるわね。この方向は……」
紫は隙間から防水仕様のデジタルカメラを取り出すと、彼女らが入っている温泉の方向を見つめた。
空は、太陽に向かって上昇を続けていた。しかし空気が薄くなるにつれ、空の意識は朦朧としてきた。
彼女は薄れ行く意識の中、太陽に近付けないことに苛立ちを感じていた。
そして、墜ちる前に一矢報いようと、太陽に向けて持てる力を全て使った爆発を起こした。
「どうしてくれんのよ! 私の五百時間かけたセーブデータ!」
「本当に申し訳ありません」
博麗神社の境内には永遠亭の四人と相手の心が読める少女、古明地さとり。それとその側で気絶している地獄鴉の霊烏路空が居た。
「どう責任取るのよ! あのセーブデータには数十時間掛けてようやく入手した神おまがあったのよ!」
「はあ。『気の済むまで私達を痛めつけたい』ですか。痛いのは嫌ですがペットの罪は飼い主である私が取るしかありませんね。どうぞ、お手柔らかに」
さとりは激昂している輝夜に一歩近づく。輝夜がさとりの胸ぐらを掴んだ。
「あんたいい根性してるわね。本当は殺してやろうかと思ってたけど、半殺し程度に止めておいてやるわ」
「ちょっと待ってくれ。君らが痛めつける前に僕の話をさせて欲しいんだが」
輝夜がさとりをいざ殴ろうとしているところに霖之助が割って入ってきた。射命丸がその光景を撮影している。
「危ない危ない、もう少しで話ができなくなるところだったね。やあ初めまして。古明地さとりさん」
輝夜に胸ぐらを掴まれたままさとりが応答する。
「なるほど。『暴力は振るわないけど壊れた電子機器を弁償して欲しい』ですか。そうですね、地霊殿の私の部屋に金庫があるので、ダイヤルを0514に合わせてください。全財産がそこに入っているので、それでどうでしょうか『金庫に入っている金額』ですか。ああ大丈夫です、その額なら足ります」
「ほう、心が読めるというのは本当なんだね。話が早くて助かるよ」
「用は済んだかしら? 香霖堂」
「ああもういいよ、輝夜姫さん」
輝夜は霖之助の言葉に鼻で笑うと、さとりに向かって再び拳を振り上げた。この場に居る誰しもが、さとりは殴られる、と思った時であった。
「ちょっと待ちなさい」
空間が割れて隙間から妖怪が出現した。
「その責任全て私が持たせてもらうわ」
「八雲紫……!? 一体どういうことなの!」
まださとりの胸ぐらを掴み続けている輝夜が声を上げる。
「どういうことも何も、言った通りですわよ。ただし殴られるのは勘弁だけどね」
輝夜はとうとう胸ぐらを離した。苦しかったのかさとりは四つん這いになり咳き込んでいる。
「故障した機器の代替品を提供するということでどうかしら。少なくとも彼女を殴るよりはいい代替案だと思いません?」
「ふ、ふん。そんなことしてもらっても私の神おまが入ったセーブデータは帰ってこないのよ!」
「じゃあいいわ。彼女を痛めつけるといいんじゃない? そんな事しても電子機器は直りませんけどね」
紫は笑っている。輝夜がここで手を打つしかないことを知っているからだ。永琳が輝夜に何か耳打ちをする。
「わかったわよ! それでいいわ」
「ありがとうございます。じゃあ壊れたものをリスト化しておいてくださいね」
「はいはいどうもご苦労様です。帰るわよ!」
輝夜はそう言って鳥居の方に向かって歩き出した。他の三人もそれに続く。
「あー、紫。僕の弁償は」
輝夜たちが去っていくのを眺めていた霖之助が思い出したかのよう問う。
「どうせ流行遅れの品の弁償でしょう? いくらでもしてあげるわ」
「そうか。助かるよ。これが故障したもののリストだ」
そう言って霖之助は紫に紙を手渡す。紫はそれを上から下までざっと見渡すと、その場に作った小さな隙間に紙を放り込んだ。
「それじゃあ僕も帰るよ。店を開けてきてるからね」
「それで、あなたも何か弁償して欲しいんですか?文屋さん」
「いえいえ私はただの野次馬ですので。それじゃここいらで失礼しますね」
そう言うと射命丸は妖怪の山の方角に飛び去って行った。
「さて、古明地さん」
邪魔者が誰も居なくなってから紫はさとりに話しかけた。
「初めまして。八雲紫です」
「初めまして。古明地さとりです。どうしてこのようなことを?」
「いえいえ、私は地底から出てきたあなた方を優しくもてなしたいだけですわ」
「なるほど。『盗撮の証拠がEMPによって消失したからお礼をしたい』ですか。まぁ、どのような理由にしろ私たちを助けてくれたのは事実ですしね。ありがとうございます」
「……この事を喋ったら肩代わりはナシよ」
「ええ、勿論わかっていますとも。私は口が裂けても言いませんので安心して下さい。ただし、そこに隠れている烏天狗が喋るのは管轄外ですけれど」
素早く紫が振り向くが、射命丸は既に遥か彼方であった。彼女が飛び去った時に生じた風が紫の髪を乱す。紫は何も言わず、ただそこに立ち尽くしていた。
翌日の朝刊の一面はEMPの事だったが、二面には紫が盗撮をしたこともしっかりと書かれていたという。
話はあっさりめでなんとも
EMPありきならお空の描写を増やすか、壊れた機械のことで
詰め寄るにしてもしっくりくる理由が欲しかったです
あのゲームというのはまさかCoD!?
文章をとても吟味なされたんだろうな、というのが第一印象。読み手に対する配慮が伝わってくるようで良い感じ。
会話文が多目ではありますが、場面の状況・情景は不足なく把握することが出来ました。
次は俺から見てちょっと弱いと感じた点について。
キャラクタがちと薄い気がする。もう少し地の文で内面描写の補強があるか、
感情の動きをうかがわせる会話文になっていればな、なんて思いました。
森近さんと射命丸さんの遣り取りや、素直なさとりさんなんかは好きなんですけどね。
最後のオチ。これもちょっと淡白かな。
紫様で落とすのであれば、個人的には以下のような描写が欲しかったです。
盗撮に勤しむ紫様→当然のごとく霊夢たちに露見→夢想封印とマスパのツープラトン攻撃待ったなし→
「ウェイトウェイト、これは孔明の罠デデデ」と無駄なあがき→上空でDON! ハイ場面転換、みたいな。
あとはそうですね、ベタベタだけど水橋さんの「呼んだ?」的な登場があれば。パルス!
好き勝手書いて申し訳ありません。
とにかく初投稿、お疲れ様でした。
>「そうですね。とりあえず私らが釘差してきたので大丈夫だと思います →釘刺してきたので、かな?
それと輝夜が二次寄り過ぎなのがなあ。
多少ネタにされるくらいはいいんですが、原作での輝夜の「過去は永遠にやってくるものだから、一秒だって過去のことはどうでもいい」(要約)という台詞が好きな私としては、セーブデータ一つでカリカリする輝夜がやっぱり嫌な感じ。
金庫の暗証番号が0514って、さとりさん妹好き過ぎでしょう。
キャラの性格も自分が考えているのと結構合致してましたし、物語の流れも自然だったと思います。
ただ、少しキャラごとの描写が少ないような気がしますので-10点にしました。
次回作があれば、期待しています。