Coolier - 新生・東方創想話

夢とキノコのミネストローネ

2012/03/03 07:39:49
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 木々がガサガサと音を立て、枯葉が風に運ばれ舞い散る。

 辺り一面には禍々しい瘴気。

 ここは、人間も魔物も寄り付かない魔法の森。

 そんな静寂に包まれた森の奥で、アリス・マーガトロイドは暮らしている。

 彼女もまた、森の寝息に包まれて静かに眠っていた。





















 Through the Looking-Glass, and What Alice Found There












「熱い……」

 今は冬だというのに、部屋は異常に暖かかった。
 暖炉の炊きすぎだろうか?
 それとも今日は特別暖かい日なんだろうか?
 昨日と一昨日は凍えるくらい寒かったというのに。

 そんなことを考えながら、アリスはベッドの中で猫のように丸くなっていた。
 先ほどから、どうも寝つきが悪い。
 目が覚めては眠り、目が覚めては眠りの繰り返しだ。
 アリスはもう自分が何度それを繰り返したか分からなかった。

「……今は、一体どちらなのかしら」

 思わず独り言を呟く。
 ここでアリスは、自分がとても喉が渇いているのに気付いた。
 というのも、自分の口からでた言葉がまるでお婆さんのようなしゃがれ声だったからだ。
 もしかして、暖かいものでも飲めばそのままぐっすりと眠れるかもしれない。
 そうだ、ホットミルクでも作ってくればいい。
 そう思ったアリスは、台所へ向かうため寝ぼけた体を起こそうとする――しかし起きたばっかりのせいだろうか、体がうまく言うことを聞いてくれない。
 それでもアリスは、懸命に上半身を起こそうと試みる。


「ようアリス、トイレか?」
「――なっ」

 不意に声が聞こえたと思うと、そこには黒と白の衣装で身を包んだ少女が立っていた。
 パーマがかった金髪に、大きなつばを持つ黒い帽子。
 彼女の名前は霧雨魔理沙。
 彼女もまた魔法の森に住む数少ない住人であり、アリスとは少なからず面識がある。

「あんた、いつの間に……ていうか、何しに来たのよ?」
「何しにって、もちろん――」

 魔理沙の両手には、大きなカゴ――
 それと、八角形の香炉のようなものが握られていた。
 これは魔理沙いわく「ミニ八卦炉」といって、小さいながら驚くべき火力をもつマジックアイテムだ。
 どこぞやの古道具屋が開発したものらしいが、山一つくらいは焼き払える力を持つ。

「この前のお礼に一発、お見舞いしてやろうと思ってな」
「ななな――」

 そう言って魔理沙はミニ八卦炉を手にしたまま、ゆっくりとアリスの方へ近づいていった。
 アリスは戸惑いつつも体を起こそうと手を動かす。

「――おっと、動くなよ? 動いたらお前の身にも良くないぜ?」
「っ……」

 アリスのベッドの真横までやってきた魔理沙。
 そしてそのまま近くの椅子に腰かける。

 何をされるのかと不安げに見つめるアリス。
 そんなアリスを横目に、魔理沙は何をするのかと思いきや、持っていたカゴの中を探り始める。
 取り出したのは、色とりどりのキノコ。
 赤、青、黄緑――。
 奇妙な色をしたキノコたちは、いかにも自分が毒を持ってると主張しているかのようである。
 魔理沙はその中からいくつか慎重に選ぶと、それをナイフで刻み始めた。

「な、なにをしてるのかしら?」
「いいから、喋るな」

 その次に魔理沙は、カゴの中から液体の入ったビンを取り出し、粉になったキノコを加え混ぜ始めた。
 慎重に、慎重に液体をかき混ぜる。
 魔理沙が一回かき混ぜる度に、液体の色が、赤、青――と変化していく。

「よし、できたぜ」

 ビンの中の液体は、最終的に紫色に落ち着いたようだ。
 魔理沙はその奇妙な紫色の液体をアリスの前に掲げて言った。

「これを飲め」
「の、飲めってこんな得体のしれない物を……」
「おいおい、お前は自分の体がどうなってもいいのか?」

 魔理沙の手には、相変わらずミニ八卦炉が握られている。

「くっ……こ、これを飲んだら一体どうなるのかしら?」
「そうだなぁ。おそらく、当分は体がいうことをきかなくなるだろうな」
「当分って…………むぐぅ!」

 魔理沙はアリスの口に思いきりその液体を注ぎ込んだ。
 あまりに唐突だったため、アリスは思わずそれを一気に飲み干してしまった。

「ごくごく……っぷはぁ……」
「どうだ、気分は?」
「……えっと、なんだか頭がクラクラ――」
「クラクラして?」
「それから、ちょっと気持ちいい感じ――」
「ふふふ、どうやら成功みたいだぜ」












                                          Down the Rabbit-Hole...?












「アリス、いるかしら?」

 そう言って玄関の前に立っているのは赤と白で身を包んだ少女。
 巫女服姿の彼女の名前は、博麗霊夢。
 彼女もまた、アリスと面識のある人間の一人だ。
 霊夢はアリスの答えを聞く間もなく、そのままドアを開けてずかずかと中まで入ってきた。
 部屋の奥までたどり着くと、アリスがベッドの中でうずくまっているのを発見する。

「なんだ、いるじゃないの」
「ってあなたねぇ、いなかった場合はどうするのよ?」
「結局アンタはいたんだから、いなかった場合なんて考える必要ないじゃない?」

 わりと投げやりである。
 どうして私の周りにはこんなに適当な人間が多いのかしら、とため息をつくアリス。
 それでも、知らない間に勝手に部屋の中まで入ってくるような白黒の魔法使いよりは、いくらかマシであるのだが。

「……それで、何の用かしら?」
「何って――いやね、アンタが動けないって噂を耳にしたのよ」

 なるほど確かにその通りで、アリスはいま魔理沙の薬のお陰で一歩も動けない状態だった。
 いや、一歩どころか指先さえ動かすことができない。
 それはまるで自分の体が自分のものではないかのような感覚である。

「ははーん、なるほど。自分の体が自分のものじゃないかのような感覚だって?」
「ちょっと、心の声を読まないでくれる?」
「それなら今は何されたって無抵抗ってわけね!」

 そう言って霊夢は、アリスの側までやってきた。
 今度は何をされるのだろうか、アリスはまたもや不安げに霊夢を見る。
 霊夢は、どこからか紅白の衣装を取り出した。
 
 ――よく見るとそれは、霊夢が普段身につけている巫女服のように見える。

「な、なにかしらそれは――ってきゃ」

 次の瞬間、霊夢はアリスが入っていたベッドから毛布をはぎ取った。

「ちょ、ちょっと……!」
「さぁアリス、この服を着るのよ」
「え、な、なんでこんな恥ずかしい服を!?」
「恥ずかしい? 私は毎日この服を着ているっていうのに」
「だ、だってこんな脇の見えるような衣装……」
「どこが脇の見える衣装よ、ほら早く服を脱いで」
「ちょ、やめて……脱がさないで……!」

 口だけで抵抗するアリスだが、もちろん体は動かないので霊夢にされるがままである。
 霊夢はアリスの寝巻のボタンを外し、丁寧に服を脱がせていった。

「あらあら、口ではこんなにに抵抗しているのに体は素直ね」
「……って、どこのオヤジよあなたは! だから体は動かないんだってば!」

 そんなやり取りをしながらも霊夢はどんどんアリスの服を脱がせていく。
 全部脱がせ終えた霊夢は、それを丁寧に畳んで机の上に置いた。
 それから今度は先ほどの紅白の衣装を持って、服を着せる作業に取りかかろうとする。

「おや、これは……」
「な、なによ……」

 恥ずかしそうに目を伏せながらアリスが尋ねる。
 今やアリスの顔は真っ赤である。

「これは……穢れ。アリス、あなた……体が穢れているわ!」
「ちょ、どういう意味よ!」
「早急に浄化しないといけないわね――動かないで、じっとして!」
「言われなくてもじっとしてるわよ」

 霊夢の手には、いつの間にか、白い布きれのようなものが握られていた。
 あれは確か、大幣(おおぬさ)と言ってお祓いをする時の道具だったかしら、とアリスは心の中で思う。
 霊夢はそれを強く握りしめると、アリスの体めがけて振り下ろした。

「ええい、やぁ!」

 霊夢の持つ白い布が、アリスの体に何度も当たる。

「汝の穢れを――祓いたまえ」

 アリスの体のあらゆる箇所に、白い布が振り下ろされる。
 何度も、何度も。
 それは体をこするように。

「穢れを――――」




「……って、ああ、もう! なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないのよ!」












                        A Mad Tea-Party.











 霊夢のお祓いはしばらく続き、それが終わると霊夢はアリスに紅白の衣装を着させた。
 霊夢はアリスの姿に満足すると、ようやく帰ったようだ。

「結局、着ることになるとは……」

 そう言って、自分の着ている服を見る。
 それにしても、霊夢は何しに来たのだろうか? 本当に自分に巫女服を着させるためだけに来たのだろうか?
 彼女の真意は一体なんだろう。
 アリスがそんなことを考えていたとき、

 ――コンコン

 扉の叩く音が聞こえた。またもや来客のようだ。
 今日は本当に来客が多い。
 普段ならこんな珍しいことはないのに……。

「はい、どなた? 今ちょっと動けないので――」

 ――ガチャ

「ふ~ん、ここがアリスの家ね。なんだか人形ばかりで奇妙なところね」

 そう言って入ってきたのは、小さな矮躯に大きな翼をもつ紅の少女、レミリア・スカーレット。
 紅魔館に住む、吸血鬼の少女だ。
 彼女はキョロキョロしながら部屋の中へ入ってきた。

「あんたは、咲夜のとこの吸血鬼」
「ノン、ノン――」

 そう言ってレミリアは指を振る。

「咲夜のとこにいるのが私、じゃなくて私のところにいるのが咲夜。おわかり?」
「いや、どっちでもいいわ」
「例えるなら、私がカレーで咲夜が福神漬。おわかり?」
「何でカレーで例えるの」
「もちろんカレーは甘口よ」
「意味分からん」

「あらお嬢様、福神漬はカレーに添えるために生まれた訳ではありませんわ」

 そう言ってレミリアの背後から出てきたのは、メイド服姿の少女だ。
 彼女は十六夜咲夜。
 レミリアと同じく紅魔館に住む人間である。

「……で、あなたたちは何しに来たの?」

 アリスがいかにも訝しげな表情で尋ねる。

「あらアリス、あなたずいぶん可愛らしい服を着てるわね」

 質問は無視して、咲夜がアリスの服を見て言った。

「こ、これは……」
「ホントね、なんか博麗の巫女が着てそうだわ」

 レミリアもアリスの方を見ると、にやりと笑いながら言った。
 咲夜とレミリアがアリスのベッドの側までやってくる。

 咲夜が動けないアリスを覗き込んで言った。

「私とお嬢様が来たのは、もちろん魔理沙や霊夢と一緒よ」

 魔理沙や霊夢と一緒……?
 そもそもあの二人が何をしにやってきたのか、アリスには分からなかった。
 魔理沙はアリスに、なにか不思議な液体を飲ませにやってきた。
 霊夢はアリスに、お祓いをした上で巫女服を着させて帰っていった。
 では咲夜とレミリアは、一体何をしにやってきたのだろうか。

「台所、借りるわよ」

 そう言って咲夜はナイフを手にする。
 咲夜の前には、気付かない間にたくさんの野菜が置かれていた。
 トマト、たまねぎ、じゃがいも、ニンジン、キャベツ、セロリ、ズッキーニ――――
 咲夜はナイフを手にすると、野菜たちを切り始める。

 踊るように、ナイフが舞う。

 すると、野菜たちが歌い始める。




 すてきなスープ、よりどり緑
 熱いお鍋にたっぷりと
 みんな飲まずにはいられない
 こんやのスープ、すてきなスープ!
 こんやのスープ、すてきなスープ!

 すーてきなスーープ、
 すーてきなスーープ、
 こんやの スープは
 すてきすてきすてきなスープ!




 アリスはとうとう頭がおかしくなったんじゃないかと自分を疑い始めた。
 目の前では、色とりどりの野菜たちが金切り声で歌をうたっている。
 その横で咲夜が、歌う野菜たちをつかんでは切り刻み、つかんでは切り刻み。
 こうしてナイフと野菜が宙に舞う。

 それらは歌い、踊り続ける。

「ほら、まだまだ足りないわよ!」

 そう言ってレミリアが加わり、野菜たちの踊りはさらにエスカレートする。

 ナイフが舞い、

 野菜が舞い、

 吸血鬼が舞う。




 すてきなスープ、これさえあれば
 肉や魚も 必要ない
 なぁにはなくても、すてきなスープ!
 なぁにはなくても、すてきなスープ!
 少しだけでも 飲みたいな

 すーてきなスーープ、
 すーてきなスーープ、
 すてきすてきすてきなスープ!




 あたり一面に強烈な匂いが漂う。
 アリスは頭がクラクラしてきた。
 咲夜とレミリアは相変わらず踊っている。


 アリスは二人に気付かれないよう、そっと目を閉じた。












 Which Dreamed It?












 次にアリスが目を覚ましたとき、周りはとても静かだった。

 ――自分は何をしていたんだろう。

 アリスは今までのことを思い出そうとする。

 ――そうだ、確か私は風邪で寝込んでいたはずだ。
 ――それから、魔理沙が「この前のお礼だ」
 ――とか言ってお見舞いにきてくれたんだっけ。

 アリスは上半身を起こす。
 頭も痛くないし、ずいぶんと楽になったようだ。
 そばの机をみると、空になったビンがひとつと、色とりどりのキノコがいくつか。
 これはおそらく、魔理沙が調合してくれた風邪薬だろう。
 効き目が強いので、これを飲んだらしばらくは自由に動けなくなるはず。
 今は動けるということは、もうほとんど具合は良くなった証拠だ。

 アリスはベッドから出て、立ち上がる。
 まだ少しふらつくが、問題ない。

「あら……?」

 アリスはふと鏡を見る。
 鏡には、熱で少し赤くなった自分の顔と、紅白の衣装に身を包んだ姿が目に映った。
 これは、霊夢がいつも寝るときに身につけているパジャマだ。
 わざわざ持ってきてくれて、着替えさせてくれたのだろうか。
 体がベタベタしてないことを考えると、もしかしたらタオルで汗を拭いてくれたのかもしれない。

 それからアリスはどこからか良い匂いが漂っていることに気がつく。
 嗅覚も戻ってきたようだ。
 台所へ行くと、美味しそうなスープが作り置きしてあった。
 スプーンですくって、一口味見してみる。

「美味しい……」

 お腹が空いていたアリスにとって、スープはとびきり美味しく感じた。
 こんなことをしてくれるのは、きっと咲夜に違いない。
 それに、この味。
 こんなに美味しくスープを作れるのは、彼女しかいない。
 レミリアと一緒に様子を見に来てくれたんだろうか。




 それから――――




「……あらあら」

 部屋の奥にある肘掛椅子。
 そこに彼女はいた。
 すうすうと寝息を立てながら、気持ち良さそうに眠っている。

「こんなところで寝てたら風邪がうつるわよ、魔理沙」

 声をかけてみるものの、当の本人は幸せそうに眠るばかりである。

「私のお見舞いに来たあと、そのまま眠ってしまったのね……」

 アリスはそっと彼女に優しくタオルケットをかけてあげた。
 魔理沙は全く起きる気配がないようだ。

「う…ん……みんなが……踊って……」

「え、なに?」

 魔理沙が何か言ったみたいだ。
 どうやら寝言のようだが、何を言ったのかはよく聞き取れなかった。




 でもきっと、こんな幸せそうな顔をしているんだから、素敵な夢に違いない。



 アリスはそう思った。
なぜか突然書きたくなったので投稿させていただきます。
ほとんどのネタは「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」からです、念の為。
kfe
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コメント



0.570簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
夢を見たのはアリスと魔理沙どちらなんだろう
良いお話でした
3.80名前が無い程度の能力削除
夢落ちか・・・
4.90奇声を発する程度の能力削除
雰囲気が良く面白かったです
7.100名前が無い程度の能力削除
みんな優しいですね
「この前のお礼だ」と魔理沙が言っていて咲夜さんとお嬢様が「魔理沙や霊夢と同じ」と言ったってことは霊夢も同じ、つまり何かのお礼でお見舞いを?
もしかしてこれ以前にそれぞれが病気になるとアリスが見舞いに行って似たようなことをしてたとかかな?
9.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
魔理沙はなぜその夢を見ているのか……
12.100名前が無い程度の能力削除
おかわり!
17.100お嬢様削除
おもしろかったです!雰囲気も何だか不思議で独特って感じで。あとレミリィの喋り方がかっこよかったです。  お嬢様