周りの草木のあちらこちらから、虫達の楽しげな声が聞こえてくる。
りんりんしゃわしゃわ、何も考えてなさそうな虫の宴会は楽しそうで実によろしい。
涼やかな音色を背景にして、男は夜の道を足取りも軽やかに進んでいた。
街道をすこし逸れた道を往く男のすぐ隣には、半透明の物体がふよふよ浮いて付き従う。
白くて、丸くて、もっちもち。こうして表現してみると、なんだかとっても美味そうだ。
けれどもどっこい食べられぬ。それは道往く男それ自身。ヒトと幽霊の混ざり物、その象徴たる半霊なり。
すん、と小さく吹いた風が彼の白く長く伸びた髪、髭、それから彼の服を軽く撫で付けていった。
今宵はお月様がとても明るく輝いている。湿気もなくて快適、快適。
男が一歩歩く度、腰に帯びた二振りが鍔を合わせて澄み切った音を奏でる。
懐に入れた巾着袋の中身も今日はすこぶる実りが良く、ずっしりと安心感のある重みを伴っている。
ちょっとそれに触れてみれば、中に入った金属質のそれらがチャリチャリと耳を刺激した。
肌に当たる風は優しく、頭の上の空も晴れやか。懐具合も暖かくてその上虫達は至極綺麗に鳴いている。
今日は実に良き日和かな。
自分の近くの色んな場所から聞こえる音楽を聴きながら、魂魄妖忌は上機嫌だった。
流れ者の彼は定職というものを持っていない。
その日その日で御用を聞き、依頼を果たしては報酬を受け取り毎日を生き抜いている。
大概は人に仇なす下級妖怪退治、はたまた遠征する商人の護衛などなど。
そういった仕事をこなして食いつなぐ妖忌の収入は、だいぶんに不安定なものだった。
仕事がある時もない時もある。一気にどかんと来るときもあれば一週間さっぱりの時だってある。
それがちと厄介だと思わないでも無い。それでも彼はこの生き方をやめようとは露ほども思わなかった。
魂魄妖忌の財布の重みは不安定であるが、「一気にどかん」の時のそれは目を見張るものがある。
今日だってちょいと軽く依頼をこなしてみれば、ケタを一つ間違えてやしないかというほどの額が手に入った。
彼にしてみればお茶の子さいさいの仕事であったが、頼み人からするとよほど手を焼いていたらしく喜んで報酬を渡してくれた。
おかげで今の彼の懐は十分に潤っている。しばらくは仕事をこなさずとも食っていける事だろう。
それで今夜はちょっと贅沢をして馴染みの店で一杯いこうというのが、夜道を歩む男の思惑だ。
腰に差した二本の刀が彼を象徴するように、妖忌の生きる道は侍である。
侍とはあくまで生き方の類であって、正式な職業ではない。一昔前ならば武士として主君に仕える事は立派な仕事であったろう。
だが彼が生きるこの幻想郷、もはや侍などという者たちは片手で数えて十分というほどにまで減ってしまった。
彼自身もかつてはあるお屋敷で主君に仕えていたものだが、それももうとっくの昔という奴だ。
チラと顔見せに屋敷へ戻ってみようかと、そういう考えが浮かんだ事もあった。
しかしそれはすぐに打ち消した。自分は彼処を飛び出した身なのだ。他ならぬ自分の意志で。主君に一言の挨拶も無く。
そんな自分が、勝手な都合でのこのこ戻って顔を出せるものか。
そんなことをすれば、それは恥だ。自分だけでなく、相手の方も。
なによりそのようなことをしでかした自分が会えるはずもない。せいぜいで門前払いを食らうのがオチだろう。
そういった思いもあって妖忌は昔仕えた場所に戻ろうとは決してしなかった。
一応は無職という事で、世間体はいささか悪いかもしれない。だがそれがなんだというのか?
妖忌はこの勝手きままな浪人の身というやつを中々に気に入っているし、そうしていて特に重大な不都合もないのだ。
静かなる月の光を背中いっぱいに浴び、妖忌は目的地に急いだ。
四半刻ほどスタスタ歩き、白髪のサムライは自分の行く先に煙が一筋、夜の空に向かってなびいているのを見つけた。
その根元に見える小さな灯りが段々と近付いて来て次第に現実味を帯びてくる。あれぞ、妖忌が求める光。紅く仄かな提灯の灯。
よしよし。ようやく目当ての場所にたどり着きそうだ。魂魄妖忌は独り口元を緩め、歩みを早めた。
もう少しでありつけるぞ。さあ見えてきた見えてきた。今夜の奴さんはどんな具合だろうな。
そら、匂いがここまでただよって来たぞ。なんとも食欲をそそる、良い香りじゃあないか。
こうなるともう猫まっしぐら、いいや妖忌まっしぐら。己の視線を真っ正面からぶつけ、ずんずんと進んでいく。
やっとこさ、今宵の終点に到着して妖忌はほうと息を吐き出す。それからゆったりとした動きで屋台の暖簾をくぐって声を掛けた。
「邪魔をいたす」
「は~い。あ、妖忌の旦那!」
屋台の座席に腰掛けた客に返事をした店の主人は、その客が何者かを知ると頬をほころばせて歓迎した。
蘇芳色の和服に同じ色であつらえた手ぬぐいのかぶり物、前に掛けたエプロンは納戸色。
全体的に渋めの色に身を包んだ屋台の女将のミスティアは、久方ぶりに店を訪れた妖忌に笑いかけた。
「お久しぶりですね。この頃長い事おいでにならないで」
「二ヶ月と少々だ。そう長くもあるまいよ」
「お店にとっては長いんですよぅ。他のトコに浮気なんかされたらと思うと」
ミスティアは拗ねた調子を作って頬を膨らませる。が、こらえきれずにぷっと吹き出した。
妖忌もそれを見て笑みをこぼす。彼女が本気で文句を言っているわけではないということはわかっていた。
彼はここの屋台の結構な常連であるし、彼自身今さら他の店を冷やかしてみようとも思わず。
それに女将のミスティアも客の妖忌も、お互いに会話の呼吸と言うかテンポも把握しているのだし、居心地もいいのだ、この店は。
妖忌は懐から巾着袋を取り出して、どっしり重いそれをカウンターの向こうのミスティアに見せびらかした。
「ちぃと臨時収入があってな。今宵はここで馳走になる」
「お任せあれ。このミスティア・ローレライ、腕によりをかけてお作り致しましょう」
「よろしく頼む。ひとまず一杯貰おうか」
「はいな。熱燗で?」
「うむ」
店に行っても慌てるな。まずは一寸一杯傾けろ。
これが妖忌の信条というか、姿勢というやつだった。酒は嗜み。ゆっくり、じっくり、だ。
ミスティアが酒を温めている間、妖忌は手持ち無沙汰に屋台の中をぐるりと見回した。
おや、あれはなんだろう。妖忌は屋台の柱に無造作に貼付けてある紙を見つけて目を凝らした。
どうやらそれは天狗の書いた新聞記事のようで、この屋台の事が記事にしてあった。
ミスティアが経営するこの八目鰻の屋台は巷でも結構な人気のようで、あちらこちらから妖怪の類がやってくるらしい。
なにを隠そうこの魂魄妖忌も、この屋台の虜になってしまった男の一人というわけである。
初めてここの暖簾をくぐったのは、果たしていつ頃のことだったろうか。
タレの焦げる香りに釣られてふらふらと入った当時は、八目鰻の屋台とは如何なものかと思ったものだ。
しかし口にしてみるとこれが存外大アリで、結局妖忌はここの一、二を争う常連という立ち位置に収まっている。
「はい。熱燗お待ちぃ」
「おお」
目の前にトンと置かれた徳利と猪口を眺め、妖忌は待ちかねたとばかりに手を擦り合わせた。
ほかほかと湯気を立てる酒とは、どこか風情があっていいものだ。
酒は冷たいものから熱いものまで様々な温度で飲めるものだが、中でも特に妖忌は熱燗を好んだ。
夜雀の女将が八目鰻の串焼きを焼き始める中、妖忌は慎重に猪口に酒を注いでそれを口に近づけ流し入れる。
と、何かに気づいて妖忌は声を漏らした。
「む、…」
「どうしました?」
妖忌の言葉に反応したミスティアが手を休める事無く聞き返してくる。
その顔はなんだか笑いを我慢してる様な、そう、いたずらに成功した子供の様な、そんな感じだった。
妖忌はもう一口酒を口に含み、じっくりと味わって疑問を確信に変えてから口を開いた。
「女将よ。この酒、いつもより幾分上等だな」
「どうしてそうお思いに?」
「口当たりが違う。日頃飲みなれているものより、スッとしている感じだ」
「へへ、分かります?旦那が今日は金持ちだって言ってたから、つい」
「それでか。まったく抜け目のないやつ!」
「いやぁ旦那も中々の舌をお持ちで。違いの分かる男っていうのはカッコイイですねぇ」
「おだてて誤魔化そうとしてもそうはいかんぞ。罰としてとびきり美味い鰻を焼いてもらう」
「あいあいさー」
楽しそうに言葉を返す若女将の顔は、やっぱり楽しそうだった。
そんなミスティアの顔を横目で見つつ頬杖をついた魂魄妖忌は、次から財布はみせるまいと決めたそうな。
確かに懐はいつもよりかは余裕があったが、自分の知らないところで代金を上乗せされるのではたまったものではない。
贅沢というのは、もっと自分の好き勝手にやるものなのだ。
かといって、そこまで彼女に憤慨しているわけでもないというのも彼の本音であったりはするのだが。
妖忌の半霊がどこかそわそわと店内の中を彷徨っている。しっくりくる居場所でも探しているのだろうか。
もくもくと煙をあげつつミスティア・ローレライはてきぱき八目鰻を焼いてゆく。
妖忌は思う。鰻に限らず、こういった焼き物の類にはどこかに煙の存在を感じ取っていたいものだ。
煙を眺めながら出来上がるのを今か今かと待ちかねる。食事を待つということに喜びを見いだすのは彼だけではあるまい。
魂魄妖忌はいい具合に暖まった酒を傾ける。が、その彼の前に酒以外のものはない。
何かしらの肴と共に呑む酒ももちろんいいが、本日のめいんでっしゅは鰻、ミスティアが丹誠込めて焼き上げた八目鰻のほうなのだ。
鰻のまえにツマミなど食べようものなら、せっかくの鰻の味が鈍ってしまう。
女将が一所懸命に焼いてくれた八目鰻を食おうというものならば、こちらも襟を正して真摯な姿勢でそれに向き合うべきだろう。
魂魄妖忌はミスティア・ローレライの屋台にいる時、このような信念のもとに酒の肴には新香の一片も食わないのである。
猪口の酒を二杯程空け、そろそろ三杯目かという辺りでミスティアが威勢良く言を発した。
「はい、お待ちどうさま。私特製、八目鰻の串焼きでござ~い」
「おぉ、かたじけない」
ミスティアがたった今焼き上がったばかりの八目鰻を皿にのせて差し出す。
この色!この香り!ああなんとも、見ているだけでみるみるうちに空きっ腹だ。
これよこれよと妖忌ははやる気持ちを抑えながら、早速とばかりにかぶりついた。
が。
「熱っ…!」
「もう、旦那ったら。慌てなくても鰻は逃げないのに」
焼きたての鰻は美味いが、当然ながらアツアツだ。
食欲にすっかり目が眩んでいた妖忌は手痛い反撃を食らい、ミスティアにけらけら笑われた。
妖忌翁、はははと軽く苦笑いと照れ隠しを混ぜた表情を見せ、今度は良く息を吹いて冷ましてから今度こそがぶりとやっつける。
美味い。
コレ以外にいったいなんと表現したものか。
余計な脂を極限まで削ぎ取る手法で焼かれた八目鰻が妖忌の舌の上でゆるりと踊る。
そこへ米の酒をきゅっと絞るように呑めば、この世にこれ以上の極楽はよもあらじ。
「たまらんな、まったく」
「ふふ。旦那の好みの焼き加減でしょ?」
「うむん。こうもどんぴしゃりとやられると、むしろ恐ろしくすらあるわ。いったいどうやっているものか」
「コレですよ、コレコレ」
おおげさな口調でミスティアがいうので、鰻を頬張りつつミスティアの方に目をやる。
彼女はその可愛らしい顔に自慢げな表情を浮かべて、自分の片腕をもう一方でトントンと叩いていた。
なるほど。
妖忌はふっと笑った。
「腕の見せ所、か」
「そうですとも。技術もそうだけどやっぱり客商売ですから、お客の好みだって覚えなきゃです」
「ようやるな。私にはとても出来そうにない」
はふはふと八目鰻を頬張る妖忌にミスティアはにっこりと微笑む。
「いつの時も、お客さんの喜ぶ姿っていうのは嬉しいもんですねぇ」
「そういうものか」
「そうですよ。自分の努力が報われる思いですから」
妖忌と楽しげに歓談しつつも、鰻を焼くミスティアの手は止まらない。
味もそうだが、明るく元気で可愛い女将がいるというのもこの店の人気の一つだろう。
その上夜雀の妖怪である彼女は歌も上手い。妖忌もその歌を聴いた事があるが、確かに人を惹き付けるものがあった。
「私の歌を聴くと、みんな鳥目になっちゃいますけどね」
「それを八目鰻で回復させる算段であろう?八目鰻は鳥目に効くらしいからな」
「流石旦那、良く知っておいでで」
「うんにゃ、さっきそこの新聞で読んだ」
「ありゃりゃ」
種明かしを聞いたミスティアは朗らかに笑った。妖忌も笑って鰻をまたつまんだ。
と、ミスティアがどこからか小さなお猪口を取り出して、妖忌の徳利をひょいと取り上げてそれに注ぎ始めた。
注ぎ終わってしまうと徳利を戻し、妖忌に向かってぱちんとウインク。
「今日は私も呑んじゃいますよぉ」
「呑むのはいいが…それは私の酒なのだが」
「まあまあ。ここは旦那のオゴリってことで」
「ぬかしおるわ。ここは女将の店だろうが」
妖忌の言葉には何も返さず、にこりと笑って猪口を傾けるミスティア。
くいっと一杯やったあとにはまた鰻を焼き始める。
「夜の鳥ぃ♪夜の歌ぁ♪」
高らかに歌いながらゴキゲンで手を動かすミスティアは楽しそうで結構、結構。
夜雀の歌は鳥目になるが、八目鰻を食べていれば困る事もないだろう。ここは一つ、可愛い女将の歌声に耳を傾けようか。
もうもうと上がる煙に妖忌は目を細め、皿に残っていた八目鰻にまたぱくりと食いついた。
「だかられすねぇ……私だって必死に生きてるんですよぅ」
「うむ」
「みんなねぇ…わたしのころをやれバカだのやれ鳥頭だの…なにがバカルテットれすかってんだい」
「うむ」
「あの三人らってねぇ…がんばっててねぇ…ほかのやつらがいうほど頭わるくは…だんな、聞いてるぅ!?」
「うむ」
まずった。
煙はすっかりと出なくなっていた。妖忌の口も入るものがなくてすっかり暇を持て余している。
原因は目の前でしこたま酔っぱらっている夜雀だ。まったくこの女は。
妖忌はまたぐいぐいと酒を呑むミスティアをみながら深く嘆息した。
そういえばそうだった。このミスティア、酒を呑むとスイッチが入ったように人が変わるのだ。
いつもは彼女が酒を呑もうとすると止めるのだが、久しぶりにここに来たのでさっぱり忘れていた。
二ヶ月と少々はそう長くないと先ほどは言ったものだが、果たしてどうだったかな。それとも自分ももうトシか。
最初は。最初は普通だったのだ。ちびちびと酒を呑みつつ鰻を焼いていたただの妖怪女将だったのだ。
だが、ちびちびはやがてぐびぐびへ変わってしまった。ここにいるのは既にして一人の呑んだくれだ。
こうなるともうだめだ。潰れるまで治るまい。妖忌は顔をたいそう顰めた。
「だいたいね、だんなもだんなですよぅ」
と、いきなり愚痴の矛先が自分の方へ向かったので思わず妖忌は姿勢を正した。
「わ、私か」
「このところち~~~っとも顔みせないれさぁ…みすちーさみしかったれすよぉ」
「そうは言っても金がなかったのだ。金がなければ店にも入れないだろうが」
「かねぇ~~~?かねがなんらってんれすかぁ!おとこなら、ツケでもなんれもすりゃあいいじゃないれすか!」
ミスティアがドンドンとカウンターを叩く。
顔を真っ赤に火照らせ、唾を飛ばさんばかりに舌を振るう酔いどれ女将。
色々な意味でそれでいいのか女将よ。ツケで困るのはそちらだぞ。
それともこれからはツケでいいということか?そうなのか?
「だんなのぉ、元ごしゅじんのぉ……え~~と~~~…なんて人れしたっけぇ?」
「幽々子様か」
「そうそう、そのひとがぁ…こともあろうに!わたしを!たべようと!してましたぁ!」
「……あの御方は」
かつての主君の名を聞いて妖忌は懐かしげに思いを馳せた。
そういえば、あの御方は食べる事がお好きな方だった。剣術の稽古の最中も食べる事ばかり…私はその度に雷を落としていたっけな。
私が白玉楼が去った今もお元気でやっているだろうか。そうだ、あそこに置いて来た我が不肖の孫娘も…
「ちょいとぉ、だんなぁ!」
「!?な、なんだ」
そこへミスティアが大声で割り込んで来たので妖忌は思考を中断させられた。
ミスティアは酔っぱらい特有の眼光で妖忌を思いっきり睨みつけている。
「あやまってくらさい」
「は?」
「あやまってくらさいよぉ!あなたのごしゅじんれしょぉ!きょーいくがなってないのはあなたの責任れしょぉ!」
「……いや、もう私は幽々子様にお仕えしては」
「あやまる!」
「……すまぬ」
なにがすまぬだ。
私は一体なにを言っているのだろう。妖忌は心の中でミスティアに訴えかける。
むしろ謝るのはそちらではないか。店主が客を放ったらかしにして。
いいやさ、酔っぱらいに口答えは聞かぬ。言う通りにするが吉だ。そうしなければ凶になるだけだ。
両手をつきカウンターに擦り付けるようにして頭を下げた魂魄妖忌の頭上で、半霊が困ったようにぐるぐると回っていた。
「だんなも!どぉしてあんな人をほったらかしてんれすか!もっときちんときょーいくしてくらさいよぉ!」
「しかしだなその、私はもうあそこに仕える身ではないのだ」
「じゃあもどればいいじゃないれすか!もどってさいきょーいくしてくらさい!」
「そうは言うがな…」
髭を触りながら妖忌は困り果てながら説明した。
今の自分は流れ者であることを悪くないと思うし、戻る気だってさらさら無い。
自分は半ば白玉楼を飛び出して来た様なものだ。一言も言わずに彼処を辞したのだ。
幽々子様も、孫娘も、自分の事を恨んでいるに違いない。今さらどの面下げて戻れというのか。
かつての主君の事を忘れてのうのうと生きている今の自分には戻る資格すら有りはしない。
そうミスティアに言ったのだが。
「かぁ~~~っ!これらからおとこってやつはらめなんれすよぉ」
「…なんだというのだ」
自分の言を否定され、ややムッとした調子で言い返す妖忌。
しかしミスティア臆する事無く、胸を張って朗々と語り始めた。
「そんなころ気にしたってはじまらないんれす!もっとこう、しょうめんからぶつからないと」
「正面?」
「そうれす!まずは会わなきゃらめですってぇ!」
そう言ってぐびぐびと酒を呑む。
ぷはっと息を吐いてからミスティアはまた喋り始めた。
「二人がだんなをうらんでるなんて、そんなわけないじゃないれすか」
「何故だ。私はあれだけ自分勝手な事をしたのだ。恨まれないはずがない」
「誰がきめたんれすかぁ?なんれわかるんれすかぁ?」
「分かるのだ。私には分かる」
「わかりませぇん!ずぇんぜんわかってませぇん!」
段々とミスティアの口調がヒートアッブして来た。
腕をぶんぶんぶんまわし、ずばりと指を妖忌に突きつけてミスティアは宣言した。
「このおくびょうものぉ!!」
「お、臆病?」
そしてこの発言である。
脈絡もなく突然に臆病者の烙印を押されてうろたえる。魂魄妖忌、うろたえる。
虚をつかれた様な顔をした妖忌を前にミスティアはまだまだ喋り続ける。
「だんなはこわいんれす。あの二人が!」
「こわい?」
「そう。こわいから、会いにいかない。こわいから、あそこにもどろうとしない!」
「…いや私は」
「だまって聞く!」
「あい」
反論しようと口を挟んだが、怒鳴られ肩を竦める妖忌。
幾回りも年下であろう少女に怒られる自分の姿をみて、あの御方はなんとおっしゃるだろう。
「こわがっちゃらめれす。ゆーきをもって、あの二人に会いにいかなくちゃ!」
「………」
「なんれだんながあそこを辞めたのかは、みすちーわかりません。れも、戻ろうとしないりゆうはわかります!」
「……私が、二人を怖がっていると?」
「そう!」
「何故そう思うのだ」
妖忌は腕を組んで仏頂面に問うた。
酔っぱらいのミスティアはそれに答えを返す。
「だんなは、きめつけてます。あの二人はじぶんをうらんれる、だからじぶんは戻らない、戻れないんらって。誰に聞いたわけれもないのに!」
「…………」
「ほんとは、だんなは戻りたいんです。あの二人のところに。れも、二人がこわいから、だんなは戻らない」
「…………」
「おこられて追い返されるのもこわい、やさしく迎えられるのもこわい。じぶんが戻ったときの二人のはんのうが、だんなはいちばんこわい」
「…………私は」
「らから、だんなは会わない。じぶんでかってにりゆうをつけて、あの二人に会おうとしない!そんなのずぇったいらめなんれす!」
ミスティアは思いっきり身を乗り出し、その澄んだ瞳で妖気の目を見つめる。
妖忌はそれから目をそらすことが出来ぬ。
何故か。分からない。
「だんなが二人に悪いとおもってるのなら、会ってちゃんとあやまる!はらをわってしっかりはなす!」
「しかし」
「しかしもかかしもなああい!」
ミスティアは腹の底から声を絞り出すようにして叫んだ。
「かぞくでしょう!?あの二人は!かぞくにあっちゃいけないりゆうなんて、あるわけ、ないじゃないれすか!」
ミスティアの口から飛び出たその言葉は不思議と、すとんと妖忌の胸の底へ落ちていった。
妖忌が何も言い返せずにいると、目の前のミスティアのまぶたが段々しぱしぱと瞬き始めた。
身を乗り出した状態でカウンターに寄りかかり、ゆっくりと彼女の姿勢が崩れていく。
「かぞくなんれすから…なかよく……しなきゃれすよぉ…だんなぁ……」
「……………」
「……………」
「…………女将?」
「……………すぴー」
寝たのか。
カウンターに突っ伏した彼女の顔に耳を近づけ、寝息を確認した妖忌は溜め息をついた。
やれやれ。今日の女将は一段と強敵だったな。ミスティアの荒れっぷりを思い返し、苦笑いをこぼす妖忌。
妖忌は座席を立って、暖簾を手で退けて外の様子を眺めた。
女将の絡み酒に付き合っている間、お天道様はとっくにお目覚めになったようだ。
暗かった空は白み始め、東の方からうっすらと光が漏れ出して世界を照らしていた。
知らぬ間に夜も明けてしまったか。徹夜していたとは気づかなんだ。じぶんもまだまだ体力有るじゃないか。
ふふふと独り笑みをこぼす。そして彼女が口走った言葉をも思い出し、ふと、彼の顔が真顔に戻った。
臆病者。家族なんだから、仲良くしなきゃ。
「家族、……」
妖忌は口に出して呟いてみる。それから空を見上げた。
自分はあのとき白玉楼を出た。
それきり幽々子様にも、孫の妖夢にも一度とて顔を合わせてはいない。
そんな自分が今更のこのこと戻って良いのだろうか。それは許される事なのだろうか。
やはり二人は自分を恨んでいるのに違いない。主君への奉仕も、孫への稽古もほっぽり出して消えた自分を。
いや、手ひどく罵られるのならまだ良い。二人が恨み言一つ言わず、暖かく迎え入れてくれたとしたら、自分は耐えられそうにない。
自分の都合で二人を振り回しておいて、自分の都合で戻ってくる莫迦者に。
受け入れられたら、私は素知らぬ顔でまた彼処でのうのうと過ごすだろう。私は情けなくて死んでしまいそうだ。
だから私はいままで……
「いや」
妖忌は誰に聞かせるわけでもなく言う。
そうだ。結局、私はこわかったのだ。女将の言う通り。
自分勝手に行動しておいて、自分が傷つくのがこわかったのだ。
戻ろうと思えばいつでも戻れた。あるときチラと心に浮かんだように。
けれどそれはしなかった。傷つくのがこわい、臆病者だったから。
だから私は戻らなかった。あの二人が、なにより己が傷つくのを恐れて会おうとしなかった。
なんと滑稽な。所詮、たかが酔っぱらいに看過されて否定されてしまう様な浅はかな考えだったのだ。
妖忌は風に吹かれ陽に当てられながら、ミスティアの言葉を良く噛み締めた後にひとつの結論に達した。
────戻ってみるか、たまには。
そうすることで、先方がどう出るかはわからない。
驚かれるかもしれない。怒鳴られるかもしれない。もしかしたら何事もなかったように出迎えてくれるかもしれない。
あちらの反応がどうであれ、自分は惨めなものになるだろう。私は私の心に押しつぶされてしまうかもしれぬ。
だが、とどのつまりそれは自業自得なのだ。勝手気ままに振る舞って、使命を放り出して世間を歩き回った男への罰なのだ。
罪を犯した男は罰を受け入れなくてはならない。全ては私が悪いのだから。
受け入れる。いまある現実を直視して自分が傷つけられることを許す。それが私への……
「おれへの、罰というわけか」
ヒュウと一陣の風が吹き、妖忌は目を細めた。遠くで鳥が鳴いている。
もう朝だな。そうだ、次にいく先は決まったのだ。そうとなれば善は急げだ。
待てよ、二人への手土産に八目鰻を持っていくのはどうだろうか。
幽々子様は本当に食欲旺盛な御方。少しは喜んで頂けるやも知れぬ。
自分の八目鰻が売れるので女将も喜び一石二鳥だ。うむん、我ながらナイスアイデア。
妖忌は屋台へと舞い戻り、早速八目鰻お持ち帰りセットを注文しようとした。
しかし。
「……そうであった」
妖忌は自分の頬をパシンと叩く。遂に自分もボケて来たか。
女将のミスティアは相変わらずさっきと同じ姿勢で寝ていた。
そりゃあ先ほどから何分も経ってないのだからそうに決まっている。
「女将、起きてくれ」
「うにゅぅ……むにゃ」
妖忌はダメ元で声を掛けたが、ミスティアはすやすやと寝息を立てるばかり。
さあ困った。酔っぱらいは中々起きないぞ。はてさて、どうしたものか。目覚めるまで待ったものか。
そういえば、と妖忌は数刻前のミスティアの言葉を思い出す。
「ツケでよいのだったかな」
妖忌はカウンターへ回り込み、作り置きの八目鰻が無いか調べた。
だが結果は芳しくない。焼きたてにこだわるミスティアのことだから、当然と言えば当然であったのだが。
これではツケで持ち出す事も出来ぬ。やはり待つしかないのか。早く白玉楼へ向かいたいというのに。
そわそわと時間が経つのを感じる妖忌は、あの二人の元へと急ごうとする自分の存在をも知って笑いそうになった。
つい昨日までは、顔を見せる事すらも自ら拒んでいたというのに。
この酔っぱらいの言葉一つでこうも変わってしまう程自分は芯が通ってなかったというのか。
屋台の女将風情が、生意気な。
「コイツめ」
侍は、期せずして自分の道を指し示してくれた女将の頭を笑いながらコツンと小突く。
ふにゃぁ、と可愛い声をあげ、ミスティアは幸せそうな顔でまどろんでいた。
りんりんしゃわしゃわ、何も考えてなさそうな虫の宴会は楽しそうで実によろしい。
涼やかな音色を背景にして、男は夜の道を足取りも軽やかに進んでいた。
街道をすこし逸れた道を往く男のすぐ隣には、半透明の物体がふよふよ浮いて付き従う。
白くて、丸くて、もっちもち。こうして表現してみると、なんだかとっても美味そうだ。
けれどもどっこい食べられぬ。それは道往く男それ自身。ヒトと幽霊の混ざり物、その象徴たる半霊なり。
すん、と小さく吹いた風が彼の白く長く伸びた髪、髭、それから彼の服を軽く撫で付けていった。
今宵はお月様がとても明るく輝いている。湿気もなくて快適、快適。
男が一歩歩く度、腰に帯びた二振りが鍔を合わせて澄み切った音を奏でる。
懐に入れた巾着袋の中身も今日はすこぶる実りが良く、ずっしりと安心感のある重みを伴っている。
ちょっとそれに触れてみれば、中に入った金属質のそれらがチャリチャリと耳を刺激した。
肌に当たる風は優しく、頭の上の空も晴れやか。懐具合も暖かくてその上虫達は至極綺麗に鳴いている。
今日は実に良き日和かな。
自分の近くの色んな場所から聞こえる音楽を聴きながら、魂魄妖忌は上機嫌だった。
流れ者の彼は定職というものを持っていない。
その日その日で御用を聞き、依頼を果たしては報酬を受け取り毎日を生き抜いている。
大概は人に仇なす下級妖怪退治、はたまた遠征する商人の護衛などなど。
そういった仕事をこなして食いつなぐ妖忌の収入は、だいぶんに不安定なものだった。
仕事がある時もない時もある。一気にどかんと来るときもあれば一週間さっぱりの時だってある。
それがちと厄介だと思わないでも無い。それでも彼はこの生き方をやめようとは露ほども思わなかった。
魂魄妖忌の財布の重みは不安定であるが、「一気にどかん」の時のそれは目を見張るものがある。
今日だってちょいと軽く依頼をこなしてみれば、ケタを一つ間違えてやしないかというほどの額が手に入った。
彼にしてみればお茶の子さいさいの仕事であったが、頼み人からするとよほど手を焼いていたらしく喜んで報酬を渡してくれた。
おかげで今の彼の懐は十分に潤っている。しばらくは仕事をこなさずとも食っていける事だろう。
それで今夜はちょっと贅沢をして馴染みの店で一杯いこうというのが、夜道を歩む男の思惑だ。
腰に差した二本の刀が彼を象徴するように、妖忌の生きる道は侍である。
侍とはあくまで生き方の類であって、正式な職業ではない。一昔前ならば武士として主君に仕える事は立派な仕事であったろう。
だが彼が生きるこの幻想郷、もはや侍などという者たちは片手で数えて十分というほどにまで減ってしまった。
彼自身もかつてはあるお屋敷で主君に仕えていたものだが、それももうとっくの昔という奴だ。
チラと顔見せに屋敷へ戻ってみようかと、そういう考えが浮かんだ事もあった。
しかしそれはすぐに打ち消した。自分は彼処を飛び出した身なのだ。他ならぬ自分の意志で。主君に一言の挨拶も無く。
そんな自分が、勝手な都合でのこのこ戻って顔を出せるものか。
そんなことをすれば、それは恥だ。自分だけでなく、相手の方も。
なによりそのようなことをしでかした自分が会えるはずもない。せいぜいで門前払いを食らうのがオチだろう。
そういった思いもあって妖忌は昔仕えた場所に戻ろうとは決してしなかった。
一応は無職という事で、世間体はいささか悪いかもしれない。だがそれがなんだというのか?
妖忌はこの勝手きままな浪人の身というやつを中々に気に入っているし、そうしていて特に重大な不都合もないのだ。
静かなる月の光を背中いっぱいに浴び、妖忌は目的地に急いだ。
四半刻ほどスタスタ歩き、白髪のサムライは自分の行く先に煙が一筋、夜の空に向かってなびいているのを見つけた。
その根元に見える小さな灯りが段々と近付いて来て次第に現実味を帯びてくる。あれぞ、妖忌が求める光。紅く仄かな提灯の灯。
よしよし。ようやく目当ての場所にたどり着きそうだ。魂魄妖忌は独り口元を緩め、歩みを早めた。
もう少しでありつけるぞ。さあ見えてきた見えてきた。今夜の奴さんはどんな具合だろうな。
そら、匂いがここまでただよって来たぞ。なんとも食欲をそそる、良い香りじゃあないか。
こうなるともう猫まっしぐら、いいや妖忌まっしぐら。己の視線を真っ正面からぶつけ、ずんずんと進んでいく。
やっとこさ、今宵の終点に到着して妖忌はほうと息を吐き出す。それからゆったりとした動きで屋台の暖簾をくぐって声を掛けた。
「邪魔をいたす」
「は~い。あ、妖忌の旦那!」
屋台の座席に腰掛けた客に返事をした店の主人は、その客が何者かを知ると頬をほころばせて歓迎した。
蘇芳色の和服に同じ色であつらえた手ぬぐいのかぶり物、前に掛けたエプロンは納戸色。
全体的に渋めの色に身を包んだ屋台の女将のミスティアは、久方ぶりに店を訪れた妖忌に笑いかけた。
「お久しぶりですね。この頃長い事おいでにならないで」
「二ヶ月と少々だ。そう長くもあるまいよ」
「お店にとっては長いんですよぅ。他のトコに浮気なんかされたらと思うと」
ミスティアは拗ねた調子を作って頬を膨らませる。が、こらえきれずにぷっと吹き出した。
妖忌もそれを見て笑みをこぼす。彼女が本気で文句を言っているわけではないということはわかっていた。
彼はここの屋台の結構な常連であるし、彼自身今さら他の店を冷やかしてみようとも思わず。
それに女将のミスティアも客の妖忌も、お互いに会話の呼吸と言うかテンポも把握しているのだし、居心地もいいのだ、この店は。
妖忌は懐から巾着袋を取り出して、どっしり重いそれをカウンターの向こうのミスティアに見せびらかした。
「ちぃと臨時収入があってな。今宵はここで馳走になる」
「お任せあれ。このミスティア・ローレライ、腕によりをかけてお作り致しましょう」
「よろしく頼む。ひとまず一杯貰おうか」
「はいな。熱燗で?」
「うむ」
店に行っても慌てるな。まずは一寸一杯傾けろ。
これが妖忌の信条というか、姿勢というやつだった。酒は嗜み。ゆっくり、じっくり、だ。
ミスティアが酒を温めている間、妖忌は手持ち無沙汰に屋台の中をぐるりと見回した。
おや、あれはなんだろう。妖忌は屋台の柱に無造作に貼付けてある紙を見つけて目を凝らした。
どうやらそれは天狗の書いた新聞記事のようで、この屋台の事が記事にしてあった。
ミスティアが経営するこの八目鰻の屋台は巷でも結構な人気のようで、あちらこちらから妖怪の類がやってくるらしい。
なにを隠そうこの魂魄妖忌も、この屋台の虜になってしまった男の一人というわけである。
初めてここの暖簾をくぐったのは、果たしていつ頃のことだったろうか。
タレの焦げる香りに釣られてふらふらと入った当時は、八目鰻の屋台とは如何なものかと思ったものだ。
しかし口にしてみるとこれが存外大アリで、結局妖忌はここの一、二を争う常連という立ち位置に収まっている。
「はい。熱燗お待ちぃ」
「おお」
目の前にトンと置かれた徳利と猪口を眺め、妖忌は待ちかねたとばかりに手を擦り合わせた。
ほかほかと湯気を立てる酒とは、どこか風情があっていいものだ。
酒は冷たいものから熱いものまで様々な温度で飲めるものだが、中でも特に妖忌は熱燗を好んだ。
夜雀の女将が八目鰻の串焼きを焼き始める中、妖忌は慎重に猪口に酒を注いでそれを口に近づけ流し入れる。
と、何かに気づいて妖忌は声を漏らした。
「む、…」
「どうしました?」
妖忌の言葉に反応したミスティアが手を休める事無く聞き返してくる。
その顔はなんだか笑いを我慢してる様な、そう、いたずらに成功した子供の様な、そんな感じだった。
妖忌はもう一口酒を口に含み、じっくりと味わって疑問を確信に変えてから口を開いた。
「女将よ。この酒、いつもより幾分上等だな」
「どうしてそうお思いに?」
「口当たりが違う。日頃飲みなれているものより、スッとしている感じだ」
「へへ、分かります?旦那が今日は金持ちだって言ってたから、つい」
「それでか。まったく抜け目のないやつ!」
「いやぁ旦那も中々の舌をお持ちで。違いの分かる男っていうのはカッコイイですねぇ」
「おだてて誤魔化そうとしてもそうはいかんぞ。罰としてとびきり美味い鰻を焼いてもらう」
「あいあいさー」
楽しそうに言葉を返す若女将の顔は、やっぱり楽しそうだった。
そんなミスティアの顔を横目で見つつ頬杖をついた魂魄妖忌は、次から財布はみせるまいと決めたそうな。
確かに懐はいつもよりかは余裕があったが、自分の知らないところで代金を上乗せされるのではたまったものではない。
贅沢というのは、もっと自分の好き勝手にやるものなのだ。
かといって、そこまで彼女に憤慨しているわけでもないというのも彼の本音であったりはするのだが。
妖忌の半霊がどこかそわそわと店内の中を彷徨っている。しっくりくる居場所でも探しているのだろうか。
もくもくと煙をあげつつミスティア・ローレライはてきぱき八目鰻を焼いてゆく。
妖忌は思う。鰻に限らず、こういった焼き物の類にはどこかに煙の存在を感じ取っていたいものだ。
煙を眺めながら出来上がるのを今か今かと待ちかねる。食事を待つということに喜びを見いだすのは彼だけではあるまい。
魂魄妖忌はいい具合に暖まった酒を傾ける。が、その彼の前に酒以外のものはない。
何かしらの肴と共に呑む酒ももちろんいいが、本日のめいんでっしゅは鰻、ミスティアが丹誠込めて焼き上げた八目鰻のほうなのだ。
鰻のまえにツマミなど食べようものなら、せっかくの鰻の味が鈍ってしまう。
女将が一所懸命に焼いてくれた八目鰻を食おうというものならば、こちらも襟を正して真摯な姿勢でそれに向き合うべきだろう。
魂魄妖忌はミスティア・ローレライの屋台にいる時、このような信念のもとに酒の肴には新香の一片も食わないのである。
猪口の酒を二杯程空け、そろそろ三杯目かという辺りでミスティアが威勢良く言を発した。
「はい、お待ちどうさま。私特製、八目鰻の串焼きでござ~い」
「おぉ、かたじけない」
ミスティアがたった今焼き上がったばかりの八目鰻を皿にのせて差し出す。
この色!この香り!ああなんとも、見ているだけでみるみるうちに空きっ腹だ。
これよこれよと妖忌ははやる気持ちを抑えながら、早速とばかりにかぶりついた。
が。
「熱っ…!」
「もう、旦那ったら。慌てなくても鰻は逃げないのに」
焼きたての鰻は美味いが、当然ながらアツアツだ。
食欲にすっかり目が眩んでいた妖忌は手痛い反撃を食らい、ミスティアにけらけら笑われた。
妖忌翁、はははと軽く苦笑いと照れ隠しを混ぜた表情を見せ、今度は良く息を吹いて冷ましてから今度こそがぶりとやっつける。
美味い。
コレ以外にいったいなんと表現したものか。
余計な脂を極限まで削ぎ取る手法で焼かれた八目鰻が妖忌の舌の上でゆるりと踊る。
そこへ米の酒をきゅっと絞るように呑めば、この世にこれ以上の極楽はよもあらじ。
「たまらんな、まったく」
「ふふ。旦那の好みの焼き加減でしょ?」
「うむん。こうもどんぴしゃりとやられると、むしろ恐ろしくすらあるわ。いったいどうやっているものか」
「コレですよ、コレコレ」
おおげさな口調でミスティアがいうので、鰻を頬張りつつミスティアの方に目をやる。
彼女はその可愛らしい顔に自慢げな表情を浮かべて、自分の片腕をもう一方でトントンと叩いていた。
なるほど。
妖忌はふっと笑った。
「腕の見せ所、か」
「そうですとも。技術もそうだけどやっぱり客商売ですから、お客の好みだって覚えなきゃです」
「ようやるな。私にはとても出来そうにない」
はふはふと八目鰻を頬張る妖忌にミスティアはにっこりと微笑む。
「いつの時も、お客さんの喜ぶ姿っていうのは嬉しいもんですねぇ」
「そういうものか」
「そうですよ。自分の努力が報われる思いですから」
妖忌と楽しげに歓談しつつも、鰻を焼くミスティアの手は止まらない。
味もそうだが、明るく元気で可愛い女将がいるというのもこの店の人気の一つだろう。
その上夜雀の妖怪である彼女は歌も上手い。妖忌もその歌を聴いた事があるが、確かに人を惹き付けるものがあった。
「私の歌を聴くと、みんな鳥目になっちゃいますけどね」
「それを八目鰻で回復させる算段であろう?八目鰻は鳥目に効くらしいからな」
「流石旦那、良く知っておいでで」
「うんにゃ、さっきそこの新聞で読んだ」
「ありゃりゃ」
種明かしを聞いたミスティアは朗らかに笑った。妖忌も笑って鰻をまたつまんだ。
と、ミスティアがどこからか小さなお猪口を取り出して、妖忌の徳利をひょいと取り上げてそれに注ぎ始めた。
注ぎ終わってしまうと徳利を戻し、妖忌に向かってぱちんとウインク。
「今日は私も呑んじゃいますよぉ」
「呑むのはいいが…それは私の酒なのだが」
「まあまあ。ここは旦那のオゴリってことで」
「ぬかしおるわ。ここは女将の店だろうが」
妖忌の言葉には何も返さず、にこりと笑って猪口を傾けるミスティア。
くいっと一杯やったあとにはまた鰻を焼き始める。
「夜の鳥ぃ♪夜の歌ぁ♪」
高らかに歌いながらゴキゲンで手を動かすミスティアは楽しそうで結構、結構。
夜雀の歌は鳥目になるが、八目鰻を食べていれば困る事もないだろう。ここは一つ、可愛い女将の歌声に耳を傾けようか。
もうもうと上がる煙に妖忌は目を細め、皿に残っていた八目鰻にまたぱくりと食いついた。
「だかられすねぇ……私だって必死に生きてるんですよぅ」
「うむ」
「みんなねぇ…わたしのころをやれバカだのやれ鳥頭だの…なにがバカルテットれすかってんだい」
「うむ」
「あの三人らってねぇ…がんばっててねぇ…ほかのやつらがいうほど頭わるくは…だんな、聞いてるぅ!?」
「うむ」
まずった。
煙はすっかりと出なくなっていた。妖忌の口も入るものがなくてすっかり暇を持て余している。
原因は目の前でしこたま酔っぱらっている夜雀だ。まったくこの女は。
妖忌はまたぐいぐいと酒を呑むミスティアをみながら深く嘆息した。
そういえばそうだった。このミスティア、酒を呑むとスイッチが入ったように人が変わるのだ。
いつもは彼女が酒を呑もうとすると止めるのだが、久しぶりにここに来たのでさっぱり忘れていた。
二ヶ月と少々はそう長くないと先ほどは言ったものだが、果たしてどうだったかな。それとも自分ももうトシか。
最初は。最初は普通だったのだ。ちびちびと酒を呑みつつ鰻を焼いていたただの妖怪女将だったのだ。
だが、ちびちびはやがてぐびぐびへ変わってしまった。ここにいるのは既にして一人の呑んだくれだ。
こうなるともうだめだ。潰れるまで治るまい。妖忌は顔をたいそう顰めた。
「だいたいね、だんなもだんなですよぅ」
と、いきなり愚痴の矛先が自分の方へ向かったので思わず妖忌は姿勢を正した。
「わ、私か」
「このところち~~~っとも顔みせないれさぁ…みすちーさみしかったれすよぉ」
「そうは言っても金がなかったのだ。金がなければ店にも入れないだろうが」
「かねぇ~~~?かねがなんらってんれすかぁ!おとこなら、ツケでもなんれもすりゃあいいじゃないれすか!」
ミスティアがドンドンとカウンターを叩く。
顔を真っ赤に火照らせ、唾を飛ばさんばかりに舌を振るう酔いどれ女将。
色々な意味でそれでいいのか女将よ。ツケで困るのはそちらだぞ。
それともこれからはツケでいいということか?そうなのか?
「だんなのぉ、元ごしゅじんのぉ……え~~と~~~…なんて人れしたっけぇ?」
「幽々子様か」
「そうそう、そのひとがぁ…こともあろうに!わたしを!たべようと!してましたぁ!」
「……あの御方は」
かつての主君の名を聞いて妖忌は懐かしげに思いを馳せた。
そういえば、あの御方は食べる事がお好きな方だった。剣術の稽古の最中も食べる事ばかり…私はその度に雷を落としていたっけな。
私が白玉楼が去った今もお元気でやっているだろうか。そうだ、あそこに置いて来た我が不肖の孫娘も…
「ちょいとぉ、だんなぁ!」
「!?な、なんだ」
そこへミスティアが大声で割り込んで来たので妖忌は思考を中断させられた。
ミスティアは酔っぱらい特有の眼光で妖忌を思いっきり睨みつけている。
「あやまってくらさい」
「は?」
「あやまってくらさいよぉ!あなたのごしゅじんれしょぉ!きょーいくがなってないのはあなたの責任れしょぉ!」
「……いや、もう私は幽々子様にお仕えしては」
「あやまる!」
「……すまぬ」
なにがすまぬだ。
私は一体なにを言っているのだろう。妖忌は心の中でミスティアに訴えかける。
むしろ謝るのはそちらではないか。店主が客を放ったらかしにして。
いいやさ、酔っぱらいに口答えは聞かぬ。言う通りにするが吉だ。そうしなければ凶になるだけだ。
両手をつきカウンターに擦り付けるようにして頭を下げた魂魄妖忌の頭上で、半霊が困ったようにぐるぐると回っていた。
「だんなも!どぉしてあんな人をほったらかしてんれすか!もっときちんときょーいくしてくらさいよぉ!」
「しかしだなその、私はもうあそこに仕える身ではないのだ」
「じゃあもどればいいじゃないれすか!もどってさいきょーいくしてくらさい!」
「そうは言うがな…」
髭を触りながら妖忌は困り果てながら説明した。
今の自分は流れ者であることを悪くないと思うし、戻る気だってさらさら無い。
自分は半ば白玉楼を飛び出して来た様なものだ。一言も言わずに彼処を辞したのだ。
幽々子様も、孫娘も、自分の事を恨んでいるに違いない。今さらどの面下げて戻れというのか。
かつての主君の事を忘れてのうのうと生きている今の自分には戻る資格すら有りはしない。
そうミスティアに言ったのだが。
「かぁ~~~っ!これらからおとこってやつはらめなんれすよぉ」
「…なんだというのだ」
自分の言を否定され、ややムッとした調子で言い返す妖忌。
しかしミスティア臆する事無く、胸を張って朗々と語り始めた。
「そんなころ気にしたってはじまらないんれす!もっとこう、しょうめんからぶつからないと」
「正面?」
「そうれす!まずは会わなきゃらめですってぇ!」
そう言ってぐびぐびと酒を呑む。
ぷはっと息を吐いてからミスティアはまた喋り始めた。
「二人がだんなをうらんでるなんて、そんなわけないじゃないれすか」
「何故だ。私はあれだけ自分勝手な事をしたのだ。恨まれないはずがない」
「誰がきめたんれすかぁ?なんれわかるんれすかぁ?」
「分かるのだ。私には分かる」
「わかりませぇん!ずぇんぜんわかってませぇん!」
段々とミスティアの口調がヒートアッブして来た。
腕をぶんぶんぶんまわし、ずばりと指を妖忌に突きつけてミスティアは宣言した。
「このおくびょうものぉ!!」
「お、臆病?」
そしてこの発言である。
脈絡もなく突然に臆病者の烙印を押されてうろたえる。魂魄妖忌、うろたえる。
虚をつかれた様な顔をした妖忌を前にミスティアはまだまだ喋り続ける。
「だんなはこわいんれす。あの二人が!」
「こわい?」
「そう。こわいから、会いにいかない。こわいから、あそこにもどろうとしない!」
「…いや私は」
「だまって聞く!」
「あい」
反論しようと口を挟んだが、怒鳴られ肩を竦める妖忌。
幾回りも年下であろう少女に怒られる自分の姿をみて、あの御方はなんとおっしゃるだろう。
「こわがっちゃらめれす。ゆーきをもって、あの二人に会いにいかなくちゃ!」
「………」
「なんれだんながあそこを辞めたのかは、みすちーわかりません。れも、戻ろうとしないりゆうはわかります!」
「……私が、二人を怖がっていると?」
「そう!」
「何故そう思うのだ」
妖忌は腕を組んで仏頂面に問うた。
酔っぱらいのミスティアはそれに答えを返す。
「だんなは、きめつけてます。あの二人はじぶんをうらんれる、だからじぶんは戻らない、戻れないんらって。誰に聞いたわけれもないのに!」
「…………」
「ほんとは、だんなは戻りたいんです。あの二人のところに。れも、二人がこわいから、だんなは戻らない」
「…………」
「おこられて追い返されるのもこわい、やさしく迎えられるのもこわい。じぶんが戻ったときの二人のはんのうが、だんなはいちばんこわい」
「…………私は」
「らから、だんなは会わない。じぶんでかってにりゆうをつけて、あの二人に会おうとしない!そんなのずぇったいらめなんれす!」
ミスティアは思いっきり身を乗り出し、その澄んだ瞳で妖気の目を見つめる。
妖忌はそれから目をそらすことが出来ぬ。
何故か。分からない。
「だんなが二人に悪いとおもってるのなら、会ってちゃんとあやまる!はらをわってしっかりはなす!」
「しかし」
「しかしもかかしもなああい!」
ミスティアは腹の底から声を絞り出すようにして叫んだ。
「かぞくでしょう!?あの二人は!かぞくにあっちゃいけないりゆうなんて、あるわけ、ないじゃないれすか!」
ミスティアの口から飛び出たその言葉は不思議と、すとんと妖忌の胸の底へ落ちていった。
妖忌が何も言い返せずにいると、目の前のミスティアのまぶたが段々しぱしぱと瞬き始めた。
身を乗り出した状態でカウンターに寄りかかり、ゆっくりと彼女の姿勢が崩れていく。
「かぞくなんれすから…なかよく……しなきゃれすよぉ…だんなぁ……」
「……………」
「……………」
「…………女将?」
「……………すぴー」
寝たのか。
カウンターに突っ伏した彼女の顔に耳を近づけ、寝息を確認した妖忌は溜め息をついた。
やれやれ。今日の女将は一段と強敵だったな。ミスティアの荒れっぷりを思い返し、苦笑いをこぼす妖忌。
妖忌は座席を立って、暖簾を手で退けて外の様子を眺めた。
女将の絡み酒に付き合っている間、お天道様はとっくにお目覚めになったようだ。
暗かった空は白み始め、東の方からうっすらと光が漏れ出して世界を照らしていた。
知らぬ間に夜も明けてしまったか。徹夜していたとは気づかなんだ。じぶんもまだまだ体力有るじゃないか。
ふふふと独り笑みをこぼす。そして彼女が口走った言葉をも思い出し、ふと、彼の顔が真顔に戻った。
臆病者。家族なんだから、仲良くしなきゃ。
「家族、……」
妖忌は口に出して呟いてみる。それから空を見上げた。
自分はあのとき白玉楼を出た。
それきり幽々子様にも、孫の妖夢にも一度とて顔を合わせてはいない。
そんな自分が今更のこのこと戻って良いのだろうか。それは許される事なのだろうか。
やはり二人は自分を恨んでいるのに違いない。主君への奉仕も、孫への稽古もほっぽり出して消えた自分を。
いや、手ひどく罵られるのならまだ良い。二人が恨み言一つ言わず、暖かく迎え入れてくれたとしたら、自分は耐えられそうにない。
自分の都合で二人を振り回しておいて、自分の都合で戻ってくる莫迦者に。
受け入れられたら、私は素知らぬ顔でまた彼処でのうのうと過ごすだろう。私は情けなくて死んでしまいそうだ。
だから私はいままで……
「いや」
妖忌は誰に聞かせるわけでもなく言う。
そうだ。結局、私はこわかったのだ。女将の言う通り。
自分勝手に行動しておいて、自分が傷つくのがこわかったのだ。
戻ろうと思えばいつでも戻れた。あるときチラと心に浮かんだように。
けれどそれはしなかった。傷つくのがこわい、臆病者だったから。
だから私は戻らなかった。あの二人が、なにより己が傷つくのを恐れて会おうとしなかった。
なんと滑稽な。所詮、たかが酔っぱらいに看過されて否定されてしまう様な浅はかな考えだったのだ。
妖忌は風に吹かれ陽に当てられながら、ミスティアの言葉を良く噛み締めた後にひとつの結論に達した。
────戻ってみるか、たまには。
そうすることで、先方がどう出るかはわからない。
驚かれるかもしれない。怒鳴られるかもしれない。もしかしたら何事もなかったように出迎えてくれるかもしれない。
あちらの反応がどうであれ、自分は惨めなものになるだろう。私は私の心に押しつぶされてしまうかもしれぬ。
だが、とどのつまりそれは自業自得なのだ。勝手気ままに振る舞って、使命を放り出して世間を歩き回った男への罰なのだ。
罪を犯した男は罰を受け入れなくてはならない。全ては私が悪いのだから。
受け入れる。いまある現実を直視して自分が傷つけられることを許す。それが私への……
「おれへの、罰というわけか」
ヒュウと一陣の風が吹き、妖忌は目を細めた。遠くで鳥が鳴いている。
もう朝だな。そうだ、次にいく先は決まったのだ。そうとなれば善は急げだ。
待てよ、二人への手土産に八目鰻を持っていくのはどうだろうか。
幽々子様は本当に食欲旺盛な御方。少しは喜んで頂けるやも知れぬ。
自分の八目鰻が売れるので女将も喜び一石二鳥だ。うむん、我ながらナイスアイデア。
妖忌は屋台へと舞い戻り、早速八目鰻お持ち帰りセットを注文しようとした。
しかし。
「……そうであった」
妖忌は自分の頬をパシンと叩く。遂に自分もボケて来たか。
女将のミスティアは相変わらずさっきと同じ姿勢で寝ていた。
そりゃあ先ほどから何分も経ってないのだからそうに決まっている。
「女将、起きてくれ」
「うにゅぅ……むにゃ」
妖忌はダメ元で声を掛けたが、ミスティアはすやすやと寝息を立てるばかり。
さあ困った。酔っぱらいは中々起きないぞ。はてさて、どうしたものか。目覚めるまで待ったものか。
そういえば、と妖忌は数刻前のミスティアの言葉を思い出す。
「ツケでよいのだったかな」
妖忌はカウンターへ回り込み、作り置きの八目鰻が無いか調べた。
だが結果は芳しくない。焼きたてにこだわるミスティアのことだから、当然と言えば当然であったのだが。
これではツケで持ち出す事も出来ぬ。やはり待つしかないのか。早く白玉楼へ向かいたいというのに。
そわそわと時間が経つのを感じる妖忌は、あの二人の元へと急ごうとする自分の存在をも知って笑いそうになった。
つい昨日までは、顔を見せる事すらも自ら拒んでいたというのに。
この酔っぱらいの言葉一つでこうも変わってしまう程自分は芯が通ってなかったというのか。
屋台の女将風情が、生意気な。
「コイツめ」
侍は、期せずして自分の道を指し示してくれた女将の頭を笑いながらコツンと小突く。
ふにゃぁ、と可愛い声をあげ、ミスティアは幸せそうな顔でまどろんでいた。
なんか、小粋な語り口のみすちーって、いいですよね。そして腹が減る。
屋台という場は、力の差あるもの同志が語り合えるよい場所でありたいものですね。
爺さん……w
ビール派だけど熱燗が飲みたくなってきました。
男のダンディズムを感じさせる独特の拘り語りは読んでくれるいてとても小気味良かったです。
されど男は不器用なものですね。おかみとのやりとりがそれを色濃く表現されていて、引き込まれました。
チキショー、おかみ可愛いよおかみ。妖忌さんに斬られていいから席を交換していただきたい。
ダンディーな感じがたまりませんね。
次回作も楽しみに待ってます!!!
百点もってけ!
やばいとです
焼き鳥はないの?(8歳女性)
久しぶりに屋台に行きたくなった(38歳男性)
みすちーが酔ったとこも可愛いなあ(28歳女性)
※感想には個人差がry
ただ、所々妖忌の口調がブレているというかちょっと違和感を覚える所があった気がします。……気のせいな気もします。参考になれば幸いです。
>よしよし。ようやく目当ての場所にたどり着きそうだ
>そら、匂いがここまでただよって来たぞ。
>良い香りじゃあないか
これらの文が素晴らしい。
小学生の頃、教科書で読んだ「モチモチの木」や「ごんぎつね」などの童話を思い出させる文体が
とてもよかったです。妖忌が酒屋に進むにつれてテンションがあがるように、僕も読み進めるにつれてわくわくしました。
「居酒屋」という暖かくて落ち着いた舞台に、とってもぴったりの文体だと思いました。「じっくり味のある雰囲気」がとても出ていたと思いますよ。
気安いおかみさんもGOODでした。
けれども、「じっくり味のある雰囲気」には後半のストーリーがやや蛇足であるのような気がしました。
「酔ったおかみの率直な意見で白玉楼に帰ることを決意する妖忌」というストーリーに繋げなくても良かったかなぁ…。という感じはしました。
「あぁ、おかみさんはきれいだし、うなぎもうまい。よかった。よかった。」で終わらして、その「じっくり味のある雰囲気」、ゆったりした雰囲気を読後に味わいたかったです。
けれども、このSSは最後に、「夜が明けてしまう」。すると昼間の仕事や勉強のために気や神経を引き締めなければいけない。これが私は嫌でした。
居酒屋へわくわくしながら向かう妖忌に共感して、童話のような親しみのある文体を読みながら私はくつろぎたかったのですが、
このSSはそのゆるい雰囲気を後半おかみさんの説教から引き締め始めて、ラストの夜明けと共に妖忌の決意を新たに、気を引きしてめてしまう。
それにつられて私もすこし緊張しました。うーん。それがやっぱり私はつらい!これを読んだのが夜中だからかもしれません(笑)。
ぼんやりゆったりで終わってくれた方が個人的には好きです。
後半はともあれ、前半は最高でした。共感できるところも多く、おかみさんのキャラも気に入りました。おつかれさまでした。