Coolier - 新生・東方創想話

白狼、竹林にて蓬莱人に導かれること

2012/02/23 00:38:24
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※この作品は、作品集152『庭師、山にて白狼天狗と相対すること』の設定を引き継いでいます。





 ぐらぐら、ぐにゃぐにゃ。

 目が覚めると、世界が赤く染まっていた。
 見慣れた天井が、色付きの歪んだレンズを通しているかのように、赤く、捩れ、曲がり、反り返って見えた。
 ゆっくりと身を起こすと、正面に見えるは広大な庭園へと続く襖。やはりそれも赤く歪んでいる。
 ぼんやりとした頭で思い出したのは、かつて吸血鬼が起こしたという“紅霧異変”。あれは確か、紅い霧が幻想郷を覆ってしまったというものだったか。
 ――あか……
 もしや、目の前で起きているこの異常な光景は、それに類するものなのだろうか。
 こうしていられない。主人の身を案じた妖夢は慌てて飛び起き、
「ぶっ!」
 布団に足を取られてすっころんだ。





 白玉楼の居間にて。
「……遅いわねえ」
 給仕の幽霊たちが運んでくる朝食を眺めながら幽々子は呟いた。居間にいるのは幽々子と、ゆらゆらと食事の準備を進める給仕の幽霊のみ。いつもならば、自分よりもずっと早くに起きて庭木の剪定をしているはずの従者が、珍しいことに今朝は朝食の時間になっても姿を見せていなかった。
 まだ未熟だが、いつも真面目に仕事をしてくれる良い従者である。たまの寝坊くらいで怒る幽々子ではないけれど、食事くらいは一緒にとりたい。
 幽霊たちに起こしに行かせようかと思ったが、自分が直々に出向いて慌てさせたほうが面白いかと考え直した幽々子は、よっこらしょと立ち上がった。ちょうどその時。
 外からばたばたと足音。
 ここは冥界。死者の住まう地である。死者――人魂の姿である幽霊たちには足がない。現在の白玉楼において、足音を立てられるのは幽々子と、もう一人だけ。
 慌しい足音が近づいてくる。
「ゆっ、幽々子さま!」
 すぱんっ! と勢いよく襖を開けて飛び込んできたのはもちろん、幽々子の従者にして半分生きている少女、魂魄妖夢である。よほど慌てて来たようで、息は荒く、寝間着に抜き身の長刀を携えてという異様な風体だった。
「お早う、妖夢。今朝はゆっくりだったわね」
 座布団に座りなおしながら、幽々子はのんびりと手を振った。
 しかしそんな幽々子とは対称的に、妖夢の赤く上気した顔が歪む。
「あああ、幽々子さま……幽々子さままで赤くてぐにゃぐにゃに……!」
「?」
 がくりと膝を折り、妖夢は悔恨のうめき声を漏らす。ちなみに、ここに至ってようやく、人間と幽霊のハーフたる彼女の半身である大きな霊魂がふらふらと居間に入ってきて、ぽてりとその背に着地した。
 はて、と幽々子は首をかしげる。赤くてぐにゃぐにゃとは何のことか?
 しょっちゅう的外れなことを言う妖夢であるが、今日はまた一段と様子がおかしい。
 格好は言うに及ばず、急いでいたにしてもやたらと息が荒いし、顔も真っ赤だ。いましがた飛んできた半霊もぐったりとしている。そして、いつもの鮮やかな瑠璃色の瞳が、いまはどんよりとよどみ、充血で真っ赤に染まっている。
 ふむこれは、と幽々子は立ち上がった。
「ぐにゃぐにゃなのはあなたの頭じゃないかしら?」
「ゆっ、え?」
「じっとなさい」
 言うが早いか、幽々子は妖夢のそばまで寄るとその額に手を当てた。
「ひゃっ、冷た」
 じんわりと熱が伝わってくる。
 半人半霊である妖夢の体温は常人よりも低い。対して亡霊の体温は人間のそれと変わらない。その幽々子からして熱いと感じさせるとなると、これは間違いなく、
「風邪ね」
 それも、少したちが悪いかもしれない。
「誰がですか?」
「あなたよ。妖夢、これが何本に見える?」
 幽々子は妖夢の眼前に人差し指と中指を立てた左手をかざした。
「うー……ぐにゃぐにゃです……」
「数を答えなさい……」
 幽々子は嘆息した。
 かつての永夜異変。妖夢はその時に対峙した月のウサギ“鈴仙・優曇華院・イナバ”の能力と、本物の“月の狂気”に眼をやられていた。
 曰く『生霊が見える』のだと。
 その時も目が真っ赤に染まっていたが、今回もまた随分と赤い。生霊が見えているわけではないようだが、ほとんど視覚が使い物になっていないようだ。
 まさか、あの時の狂気がまた悪さをしているのだろうか?
「うーん、永遠亭に連れて行ったほうがいいかしら?」
 ただの風邪ならば安静にして寝かせておけば治るだろうが、狂気にやられた眼は医者に見せるより他はない。
 そして恐らく、この幻想郷において狂気の眼を治せる医者はただ一人。“月の頭脳”の二つ名を持つ名医“八意永琳”――
「でも私、あそこの人たち苦手なのよねぇ……」
 頬に手をあてて唸る幽々子の前で、妖夢はふらふらと天井を見上げて驚愕の表情。
「幽々子さま、大変です! 部屋がぐるぐると回っています!」
「それはあなたの目が回ってるの。ほら、早く部屋に戻りなさい」
「ですが、仕事が……」
「病人は休むことが仕事よ。さあ、しっかり働いてちょうだい」
「うー……」
 ぐずる妖夢の半霊をひっつかみ、半人の手を引いて幽々子は居間を出た。抵抗する気力もないのか、妖夢は手を引かれるままにふらふらと幽々子の後に続く。
 ひとまず昼まで様子を見よう。それで改善の兆しが見られないようなら……あまり気は進まないが、永遠亭に行くしかあるまい。
 そんなことを考えながら妖夢の部屋に着くと、まだ敷きっぱなしだった布団の中に半人半霊ともども放り込み、縁側の渡り廊下を漂っていた幽霊にお粥を作るように命じて幽々子は部屋を出る。
「それじゃあ、私は朝ごはんを食べてくるわね。お粥が出来るまであなたは寝ていること。これは命令よ?」
「……はい。申し訳ありません」
 出がけに釘を刺すと、布団から顔を半分だけ覗かせた妖夢は心底申し訳なさそうに言った。
 病気の時くらい仕事のことなど忘れていいのに、と思いつつ幽々子は襖を静かに閉めた。



 ………………



 幽々子が朝食を済ませたころ、ちょうど妖夢のためのお粥が出来上がった。給仕の幽霊たちに労いの言葉をかけてから、幽々子はお粥の盛られた椀と、木匙、そして茶の入った湯のみを盆に載せて妖夢の部屋に向かった。
「妖夢、起きてる?」
 声をかけるが反応はなく。そっと襖を開けて静かに部屋の中を覗き込めば、すよすよと穏やかな寝息を立てる半人が一人。寄り添うように半霊もすぐ近くに転がっていた。
「……あとで暖めなおさないとね」
 微笑みながら妖夢の傍らまで歩き、腰を下ろす。そっと頭を撫でてやると、艶やかな銀髪がさらりと指を流れて。
 さらり、さらり。
 しばし頭を撫でていると、妖夢の顔がふにゃりと緩んだ。風邪を引いているというのに、何ぞいい夢でも見ているのだろうか。
「まだまだ子供ねえ」

 さらり、さらり。

「……あら?」
 どれくらいそうしていただろうか。ふと幽々子は、正門のほうから響く声に気が付いた。来客のようだ。
「……」
 名残惜しげに妖夢の頭から手を離して、幽々子は正門へ向かった。
 縁側から正門へと近づくごとに、声がはっきりと聞こえてくる。
「おはようございまーす! 文々。新聞でーす!」
 妖怪の山の鴉天狗である。新聞記者である彼女は、わざわざ冥界まで新聞を届けにきてくれる。妖夢はあまり良い顔をしないが、娯楽の少ない冥界において新聞は幽々子の楽しみの一つであった。
 と、
「そうだわ」
 閃き、幽々子はぽんと手を打った。
 門扉を開くと案の定、そこにいたのは笑顔の黒髪少女。人里に――いまは黄泉路に――最も近い天狗、射命丸文が新聞を片手に立っていた。
「おはようございます。っと、今日はお嬢様直々にお出迎えとは、光栄ですね」
「お早う、天狗さん。ちょうどいいところに来てくれたわ」
「えっ」
 文の笑顔が露骨に引きつった。










「…………」
 音の無い世界で。
 ただひたすら、自分の高下駄の音だけを聞きながら長い長い階段を登り詰めた少女は、その先にそびえる門扉を前に某然と立ち尽くしていた。
 ――冥界の管理者が住む屋敷だと聞かされていたが、これは……
 左を見る。屋敷を取り囲む塀の果ては裸眼で見えるぎりぎりの彼方にあり。右を見る。やはり果ては遥か彼方に。
「広い、な……」
 ぽつりと呟き、少女は再び門扉に目を向けた。
 ――さて、どうしたものか。
 自慢ではないが、この少女――妖怪の山の白狼天狗、犬走椛はこれまで生きてきて“一人で偉い人の家を訪問する”という経験が少ない。下っ端の哨戒天狗である彼女に、そんな機会なぞなかなか訪れるものではないのだ。
 故に、冥界の管理者の屋敷という“名家”を前にして、椛は緊張していた。
「……兎に角、取り次いでいただかなければ始まらないか」
 身だしなみに問題はないだろうかと自分の姿を見下ろす。
 赤い高下駄、裾に鮮やかな赤い楓模様があしらわれた藍のスカートに、白い脇出しの装束。白い尻尾の毛並みにも乱れは無い。ちなみに、哨戒任務の時に装備している大太刀と盾は、今回は邪魔になるため持ってきていなかった。
 頭の上にちょこんと乗っている八角帽がズレていないことも確認し、ついでに自慢の白髪や獣の耳の毛が乱れていないか軽く撫で。
「……よし」
 ひとしきり身だしなみを確認した椛は、大きく深呼吸をしてからゆっくりと拳を振りかざした。
 どん、どん、どん、どん。
「頼もう! 白玉楼の主、西行寺幽々子殿にお目通り願いたい!」
 声を張り上げ、待つ。
 ――これで良かっただろうか? 不敬はなかっただろうか?
「…………」
 心臓がばくばくと脈打つなか、しばしして。
「いらっしゃい。お待ちしておりましたわ」
 音も無く開いた門扉から顔を覗かせたのは、白い人魂模様があしらわれた空色の着物を身にまとう、桜色の髪の美しい女性だった。人の姿を持っているが、やはり彼女も霊なのだろうか?
「あなたが犬走椛ちゃんね?」
「はい。西行寺幽々子殿にお目通り願いたく存じます」
「幽々子は私よ」
「!」
 まさか当主自らが出迎えてくれるとは思っていなかった椛は、慌てて姿勢を正して深く頭を下げた。
「失礼いたしました。妖怪の山より、射命丸文の代理で参りました、白狼天狗の犬走椛です」
「ええ、新聞記者さんから話は聞いているわ。上がって頂戴」
 やんわりと微笑み、幽々子は屋敷の方へと歩いていく。
「失礼します」
 冥界の管理者と言えば、冥界ではトップの地位を持っているに違いない。当然、そこには厳格なしきたりや作法などが存在し、ほんの僅かな無礼で首が飛んでもおかしくない。
 と、思っていのだが、想像よりもずっと親しみやすそうな女性が主人を務めていることに、椛は少なからず驚いていた。
「名家といっても、即ちどこも厳格であるという考えは早計だったか」
 ほっと息をつきつつ、椛は幽々子の後を追って白玉楼の門をくぐった。





 季節は冬。
 庭に植えられている木々はその葉を散らし、ちらほらと飛び交う人魂と相まって縁側から見える景色はどこか物寂しい。
 幽々子の話では、あの木々もまた霊なのだという。死してなお冥界の四季を彩る役目を負った彼らは、輪廻の輪から外れて永遠にこの地に根付くことを許されているのだと。
 木にしてみれば、幻想郷だろうと冥界だろうと、美しく咲き誇る姿を披露できるならば場所など関係ないのだろうなと思いながら、椛は幽々子の後に続いて白玉楼の縁側を歩く。
「新聞記者さんの代わりで来たのよね?」
「はい。鴉天狗、射命丸文の代理です」
「あなたは彼女の助手なのかしら?」
「違います。あの人は、まあ……知り合いでして……」
「ふぅん?」
 幽々子の問いに椛はやや歯切れ悪く答えた。
 本来、白狼天狗と鴉天狗の関係はあまり良好とは言えない。しかし、例外はどこにでもあるもので、仲の良いものたちも稀にいるのだ。射命丸文と犬走椛は“仲良し”とまでは行かないものの、その距離は他の白狼天狗、鴉天狗たちよりもほんの少しだけ近いという、稀な例外の一つである。
 今回、椛は文の頼みで白玉楼に来ていた。
 本来ならば鴉天狗の頼みなど問答無用で断るところなのだが、如何せん文の頼みであったこと、そしてその内容から椛は承諾を決意した。
 曰く『魂魄さんが体調を崩したらしい』『竹林の診療所に行く必要がある』『診療所までの護送を頼まれた』『しかし自分は取材の予定があるので代わりに行ってきてほしい』とのこと。
 鴉天狗の頼みを聞くことは癪であったが、友人が体調を崩したとあっては行かざるを得なかった。
 友人――魂魄妖夢のことである。
「あなたのことは妖夢からも聞いているわ。とても強いんですって?」
「いえ、そんな……私なんてまだまだです」
「そうね、うちの庭師より腕が立つくらいじゃ、強さの証明としてはいまひとつよね」
「……」
 かつて椛は、西行寺幽々子の命によって妖怪の山に侵入した魂魄妖夢と対峙し、剣を交えたことがあった。それがきっかけで、いまでは文通をし、二人で里に出掛け、山の神社で修行をする間柄である。
「ここよ」
 閑話休題。やがて幽々子は一枚の襖の前で足を止めた。
「妖夢、起きてる?」
 幽々子が中に向かって声をかけると、しばしして「はい」と返答。
 襖を開けた先には、和室の真ん中に敷かれた布団から上半身を起こしてこちらを見る銀髪の少女。赤く充血した目をぼう、とこちらに向けている。足の上には、少女の半身たる半霊がべったりと転がっていた。
「幽々子さま……だけではないですね。お客様ですか?」
 椛を見つめながら妖夢は幽々子に訊ねた。よく見えていないのだろう、眉間にしわを寄せて必死に焦点を合わせようとしているようだ。
 幽々子が人差し指を口許に寄せて椛を見る。
 ――黙っていろということか。
「ええ、そうよ、お客様。誰だか当てて御覧なさい」
「うー……」
 弱々しく唸りながら妖夢は椛を凝視するが、やはり見えていないようで。
 しばしして幽々子に目を向けると、彼女は椛を見て微笑みながら頷いた。
 許可を得た椛はゆっくりと妖夢に近づく。半霊が、様子を窺うかのように椛の周りをくるくると回りだしたが、構わず歩を進め。布団の脇まで行って姿勢を低くし、妖夢と視線を合わせてやって。ここに至ってようやく見えたのか、妖夢は細めていた目を驚愕に見開いた。熱で上気した顔がさらに紅潮していく。
「もっ! ももも椛!? なんで、どうしてここに!?」
 慌てた様子で布団を頭から被りながら妖夢は叫んだ。半霊も心情を表しているのだろうか、でたらめに飛び回りだす。思わず破顔しかかったが、我慢しつつ、椛は腰を落とした。
 鬱陶しかったので手早く半霊の尻尾を引っつかんでから椛は答える。捕まえた半霊がぴちぴちと暴れたが、無視。
「射命丸さんの代理だ。お前を竹林の診療所まで連れて行く」
「竹林の……永遠亭ですか?」
「そうだ。眼をやられているんだろう?」
 落ち着いてきたのか、大人しくなった半霊を妖夢の上に放り投げながら椛は続ける。
「西行寺殿から永遠亭までの護送を依頼されてな」
「それで冥界に……」
 椛の説明に妖夢は得心がいったように呟き、そしてもぞもぞと布団から頭半分だけを出して幽々子に恨めしげな視線を送った。
「幽々子さまぁ……それならそうと言っておいて下さいよ。私、何の準備も出来てませんよ」
「うふふ、ごめんねぇ」
 しかし幽々子は飄々と謝るばかりである。妖夢の文句など全く堪えていないようだ。
「……とりあえず、着替えるので表で待っててもらっていいですか?」
「あら、着替えなら手伝うわよ?」
「え?」
「椛ちゃんも手伝ってくれる?」
「ふむ……わかりました、手伝いましょう」
「ええ!?」
 布団を抱き寄せる妖夢に幽々子はじわりじわりと近づく。両手をわきわきとしながら、
「さあ妖夢、お着替えしましょうねー」
「その手つきは止めていただけませんか!?」
「妖夢、病人なんだから無理しなくていいんだぞ」
「椛まで!?」
 亡霊姫と白狼天狗の魔の手が迫る。

 わき、わき。



 …………



「では、妖夢をお預かりします」
「よろしくお願いね」
「はい」
 幽々子に見送られ、椛と妖夢は白玉楼を発った。二人に着替えさせられた妖夢は、いつもの服装の上に分厚い羽織を着込んで椛におぶられている。楼観剣と白楼剣は羽織の上から背と腰に、半霊は頭の上でへばっている。
「……」
 なお、現在不機嫌中である。
 階段に沿って緩やかに飛行する椛は、ちらりと視線を背後にやりつつ困り顔。
「妖夢、いい加減に機嫌を直してくれ。私も調子に乗って悪かった」
「……椛までああいうことをする人だとは思いませんでした」
「だからすまなかったと……まあ、まだお前は途上だ。これからいくらでも成長するチャンスはぐぇ」
「そーいうフォローはいりません」
 背後から首を絞められ、息が詰まった。ふらふらと飛行が乱れる。
 下は石の階段。落ちれば痛いでは済まないだろう。
「す、すまん妖夢……おぉ、落ちる……」
「またパフェを奢って下さい」
「わかっ、た……奢る……」
「ならいいです」
 腕の力が緩み、椛は大きく息をついた。
「約束ですよ」
「げほっ。……まったく、仕方ないな」
「ふふ」
 背後で妖夢の笑い声を聞きながら、椛は苦笑を浮かべた。
「そういえば、椛は永遠亭の場所を知っているんですか?」
 身を乗り出し、椛の耳元――ヒト型の方だ――に顔を近付けて妖夢は問う。
 椛は少し難しい顔をしながら、
「いや、場所は知らないが、射命丸さんから竹林の案内人の話を聞いている。永遠亭へはその人に道案内を頼めばいいと」
「ああ、妹紅さんのことですね」
「なんだ、知っているのか?」
「はい。前にちょっと、っくしゅん!」
 言いかけて、妖夢は小さなくしゃみを一つ。
「寒いか?」
「……少し」
 小柄な身体が小さく震えていた。裏腹に、熱い吐息が耳をくすぐる。あまりのんびりしてはいられないな、と椛は飛行速度を上げた。
「すぐに永遠亭まで連れて行ってやるから、少し眠るといい」
「……すみません、そうさせてもらいます」
 それきり、二人は口を開かず。
 長い白玉楼の階段を白狼天狗は少女を背負って降っていく。
「……すう」
 やがて妖夢の寝息が耳に入り、椛はさらに速度を上げた。
 気がかりなのは、やはり“月の狂気”。椛は詳しく知らないが、かつてそれに冒された妖夢の眼には、生霊が映るようになったという。治療により、いまはもう問題ないという話だが、身体的には健常な状態でそうなってしまったのだ。もし、抵抗力の落ちているいまの妖夢にまだ“月の狂気”が宿っていて、それが今回の赤い眼に関係しているのだとしたら、その身にどんな影響を及ぼすのかわからない。
 思索に耽っていると、ずるり、と妖夢の頭に乗っていた半霊が落ちそうになり、椛は慌てて速度を落とした。
「危ない危ない」
 間一髪、半霊は妖夢の肩の上で動きを止めた。大切な友人の半身である。丁重に扱わねば。
 ひとまず妖夢の肩で落ち着いた半霊に気をつけながら、椛は一路、永遠亭へ――










 迷いの竹林――
 夜ともなれば、めざましい速度で成長する竹が多く群生する竹林である。竹林という元来からの迷いやすさに加え、その成長速度ゆえ、同じ場所にして一刻としてその景色は留まることなく変化を続け、非常に迷いやすいことからそう呼ばれている。
 もっとも、竹林全体に“ある細工”が施されているため、迷いやすいのはそれらだけが原因ではないということを知るものは少ない。
 椛は上空からざっと竹林を見下ろすが、背の高い竹が邪魔をして地上の様子は窺えない。手っ取り早く永遠亭へ向かえればと思ったのだが、やはり横着は出来ないようだ。
 人里寄りの竹林の入り口に、椛は静かに降り立った。背の妖夢は変わらず寝息を立てている。いや、心なしか息遣いが荒くなっているような……。気のせいだと思いたいが、油断は出来ない。一刻も早く永遠亭へ行かなければ。
 周囲を見回しながら、徒歩で竹林へと踏み入る。
「竹林の入り口辺りに居を構えているという話だったが、さて……」
 ざっと見た限りでは、住処のようなものは見えず。椛はくん、と鼻を利かせた。
「……ふむ」
 竹や野生動物の匂いに混じって微かに香るこれは、焼き魚の匂い。少し遅めの昼食、といったところか。
「こっちだな」
 椛は匂いのもとへと歩を進める。

 さく、さく。

 落ち葉を踏みしめながら進むと、やがて視界が開けた。
 竹が一本も生えていない更地にぽつんと建っているのは、小さな平屋。程よく苔むした壁が竹林の風景と合っている。
 くん、ともう一度だけ確認し、焼き魚の匂いがあの家から漂っていることを確信した椛は、玄関と思しき戸に向かって歩き出した。
 年季の入った木製の引き戸の横に、同じく年季の入った表札がかけられている。そこには素っ気無い書体で“藤原”と書きなぐられていた。ここに間違いなさそうだ。
 椛は引き戸の前で深呼吸を一つ。背の妖夢がずり落ちないように気をつけながら右手を振り上げ、
 どん、どん、どん、どん。
「頼もう! 藤原妹紅殿に道案内を依頼したい!」
『……開いてるから入ってー』
 中から女性の声。少しくぐもって聞こえたのは、何か頬張りながら喋っているからだろうか。
「失礼する」
 がらりと引き戸を開く。見た目のわりにスムーズに戸が動いたことに小さく驚きつつ、椛は屋内を覗き込んだ。
 畳の床に、小さめの炊事場、大きめの箪笥が一つ。部屋の隅には布団が畳んで重なっている。見栄えなどは無視して、生活に必要なものだけを配置したような部屋。どうやら、あまり見てくれにこだわらないタイプのようだ。玄関の引き戸が見た目に反してスムーズに動いたことにも納得がいった。
 そして部屋の中央、囲炉裏の前で胡坐をかいて、串に刺した焼き魚をかじる少女が一人。
 紋様の描かれた札が何枚も貼り付けられた赤いもんぺに、無地の白いシャツ。光を内包しているかのような月白の髪は、座っているためはっきりとはわからないが、腰の位置よりも更に長そうだ。
「すぐ食べちゃうから、上がって待ってて」
「食事中に済まない」
「気にしないでいいわ」
 ちらりとこちらを見て言うと、少女は焼き魚をはぐりとかじった。
 椛は高下駄を脱いで囲炉裏の前へ。囲炉裏の中では赤々とした炭がパチパチと爆ぜていて、ほのかな温かみが身体を包んだ。
 囲炉裏を挟んで少女の向かいに腰を下ろすと、少女は咀嚼していた魚を飲み込んでから口を開いた。
「もぐ……それで、あなたは?」
「私は犬走椛。妖怪の山の白狼天狗だ。あなたが藤原妹紅殿で相違ないだろうか」
「ええ、そうよ。私が妹紅。道案内の依頼って話だけど、わざわざ私の所まで来たってことは、永遠亭までかしら?」
「ああ。友人が風邪をこじらせてしまってな」
 妖夢の姿が見えるように体を傾けながら答えると、その顔を見た妹紅が驚いた表情を浮かべた。
「なんだ、誰かと思ったら冥界の庭師じゃないの」
「知り合いだったのか」
「ええ、前にちょっとね」
 そういえば、妖夢も同じようなことを言っていたか。
 ふむ、と難しい顔をしながら妹紅は視線を椛に戻した
「ということは“狂気”絡みかしら?」
「……ああ。確証はないらしいが、充血が酷くて、歩くのもままならないようだ。だから、念のために診てもらうことになった」
「ふうん。それじゃあ、あまりのんびりはしていられないわね」
 呟き、妹紅は残った魚の身をがつがつと平らげると、骨と串を囲炉裏の中に放り込んでから立ち上がった。
「行きましょう。永遠亭までの水先案内、請け負ったわ」
「感謝する、藤原殿」
 玄関へと歩いていく妹紅に続いて椛も立ち上がった。
「“妹紅”でいいわ。堅苦しいのは苦手なの」
「……了解した、妹紅」
 応える椛に、にっと妹紅は笑いかけると、戸を開いて出て行った。びゅうと冷たい風が屋内に潜り込んでくる。
 暖かい室内にいたおかげか、妖夢の寝息は先ほどよりも幾分か穏やかになっていた。しかし、永遠亭に向かうためにはいま一度、この冷たい風にその身を晒さなければならない。
「すまない、妖夢。もう少しだけ辛抱してくれ」
 妖夢はむにゅむにゅと緩んだ寝顔を椛に返していた。



 …………



 さく、さく。

 再び落ち葉を踏みしめながら、妖夢を背負った椛は妹紅の案内で竹林を行く。ちなみに、半霊は落とすといけないので、左手で尻尾の部分をしっかとつかんで運んでいる。力なくぷらぷらと揺れる様はどこか切ない。
 隣を歩く妹紅の足取りに迷いはなく。さすが、竹林の案内を生業としているだけあって、その姿は実に頼もしい。
 道すがら、妹紅は椛をまじまじと見ながら感慨深げに呟いた。
「それにしても……あの天狗以外に、山の外で活動する天狗がいるとは思わなかったわ」
「射命丸さんのことか」
「ええ。知り合い?」
「……まあ、そんなところだ」
 そろそろこの手のやり取りにも飽きてきたなと思う椛である。

 さく、さく。

 右へ左へ。時折ぐるりと周囲を見回して位置を確認しながら、妹紅の案内で奥へ、奥へ。
 いまどの辺りを歩いているのか、椛には既にわからなくなっていた。見回せど、視界に入るのは竹、竹、竹……
 しかし鼻を利かせると、妹紅の家の方角がわかった。迷いの竹林と言っても、嗅覚を狂わせることは出来ないようだ。これならば、一度でも永遠亭に辿り着くことが出来れば、次からは道案内なしで行けるだろう。
 と――
「止まって」
「……ああ」
 ――なるほど、伊達に里の外で暮らしているわけではないようだな。
 気付いたのは同時だったようである。妹紅は油断なく周囲に視線を走らせ、椛も気配を探る。
 風が吹き、ざわざわと竹を騒がせて。それに混じって漂うにおいは……
 一、二、三……まだいる
「囲まれているな」
 周囲から刺すような視線。あるいは殺気。
「当たり前のことだけど、この竹林には野生の動物や妖怪もいる。中にはこうやって徒党を組む程度には頭のいいやつらもいるわ。
 でも安心して。こういう時のために私がいるんだから」
「頼もしいな」
 もんぺのポケットに手を突っ込んだまま、妹紅は一歩前に出て声を張り上げた。
「隠れても無駄よ! 出てきなさい!」
 さて、こちらの言葉が通じるだろうか。あるいは素直に出てきてくれるだろうかと考えていると、以外にもあっさりと“そいつら”は姿を現してくれた。
「……」
 ぐるる、と唸り声をあげながら三人を取り囲んでいるのは、狼の群れ。その数、七頭。毛色は様々、灰のもの、茶のもの、白のもの。緑がかかった灰色という珍しい毛並みの種もいる。
「うーん、ちょっと数が多いね。倒せないこともないけど……まだ道は長いし、出来るだけ武器は温存しておきたいわね。あんた、狼なら言葉は通じるんじゃないの? あいつらを説得してみてよ」
「ふむ、やってみよう」
 まがりなりにも白狼天狗――狼の名を冠する椛である。同族との意思疎通は不可能ではない。
 妹紅と入れ替わりで前に出た椛は、臆すことなく、腕を組んで狼たちを睥睨する。
 ぐるるるる……
「……なるほど」
 やはり、明確な自意識があるわけではなく、本能に依って行動しているようだ。その唸り声から読み取れるのは“警戒”と“敵意”と、そして“食欲”。どうやら、ナワバリに侵入してきた椛たちを喰って腹の足しにでもしようと考えているらしい。
 しかし無論、大人しく喰われてやるつもりなどない。自意識が薄い相手にはあまり効果は期待できないだろうなと思いつつ、椛は狼たちに向かって“説得”を開始した。
 言葉に、狼にも理解できるように意思を乗せて、椛は声高に言う。
「お前たちに構っている暇はない。命が惜しいものは下がれ!」
「おっ、おい!?」
 狼たちが色めきだす。
 唸り声はやがてけたたましい吠え声へと変じ、椛の、妖夢の、妹紅の全身を叩いた。
「馬鹿! なんで煽るようなことを言った!?」
 慌てて詰め寄ってくる妹紅。その相貌を静かに見返し、
「格下を相手にへりくだる必要はないだろう」
 いけしゃあしゃあと答えた。
「へりくだるとかそういう話じゃない! お前は“説得”をなんだと思ってるんだ!? あれは“説得”じゃなくて“挑発”って言うんだよ!」
 びっ、と指を突きつけながら怒鳴る妹紅の剣幕に、椛はたじろく。
「む……いや、しかし如何なる時でも我ら天狗は尊厳を失ってはならなくてだな……そも、妖怪とは精神に依って存在しているのだ。この程度の手合いに頭でも下げてみろ、死んでしまうかもしれないではないか」
「……天狗が負けず嫌いの意地っ張りだってことはよくわかったわ……」
 しどろもどろに弁解する椛に妹紅はため息をついた。そして狼たちを見回す。かなりご立腹のようである。
「で、どうするの? こいつら、退く気なんてないみたいだけど」
「うむ」
 椛の説得を――いや挑発を――受けた狼たちはいまにも襲い掛からんばかりに吠え立て続けている。
 しかし椛は動じることなく。無論、椛とて説得に失敗した場合のことは考えてある。
「問題ない」
 気を取り直した椛は、狼たちの敵意を一身に受けながらも動じることなく尊大に見回し、
「一声で済む」
 すぅぅぅ、と大きく息を吸い、天を仰いで――

 ろおおおォォォォォ――……!!

 咆哮が、天に突き刺さった。
 大気の震えが幾本もの竹を揺らし、狼たちは堰を切ったように尻尾を巻いて逃げ出した。ついでに至近距離で咆哮を受けた妹紅は尻餅をついた。
 如何なる時でも、天狗は尊厳を失ってはならない。決して格下相手にへりくだることなく、説得が駄目ならば力の差を分からせて下がってもらうまでだ。
「……うむ」
 静寂の戻った竹林をしばし眺め、満足げにうなずいて椛は妹紅の方へ向き直った。
「さて、先を急ごうか……どうした?」
「~~どうしたもこうしたもあるか!」
 眉をひそめて問う椛に、妹紅は跳ね起きながら怒鳴った。その勢いのまま、耳を押さえながら椛に詰め寄る。
「やるならやると言え! 鼓膜が破れるかと思ったぞ!」
「す、すまない……」
「大体お前たち天狗は――」
「……んぅ?」
 椛の咆哮か、それとも妹紅の怒鳴り声が原因か、たじろぐ椛の背から小さな声。
 重たげに瞼をうっすらと開き、目覚めた妖夢はきょろきょろと辺りを見回した。
「うー……ここは……?」
「目が覚めたか。気分はどうだ?」
 肩越しに妖夢を見て椛が問う。妖夢はぼんやりと赤い瞳を椛に向けて、辛そうに息を吐きながら答えた。
「……辛いです……」
「そうか……」
 吐息は熱く、頬は紅潮し、眼の充血も収まっていない。その身が小さく震えているのが背中越しにも分かる。やはり、病人にこの寒さは毒だ。のんびりしていては更に悪化してしまう。
 椛は妹紅に向き直り、焦燥もあらわに問いかけた。
「妹紅、永遠亭まではあとどれくらいかかるだろうか?」
「そうね……」
 妹紅は天を仰ぎ、ぐるりと周囲を見回して、
「あと二刻ほど歩けば、といったところかしら」
「だ、そうだ。すまないが、もう少しだけ頑張ってくれ」
「はい。……って、そこにいるのは妹紅さんなんですか?」
 妖夢は目を細めて妹紅を見るが、やはり見えていないようで。その顔を妹紅は物珍しげに覗きこんだ。
「おー、本当に赤いわね」
「あ、妹紅さんだ。お久しぶりです」
「久しぶり」
「妹紅、挨拶はそれくらいで、案内を」
「そうね。妖夢、もうすぐ永遠亭に着くから、それまで辛抱してね」
「はい。お願いします」
 狼たちを退けた一行は、一路、永遠亭へ――



 …………



 ざむ、ざむ。

 頬に熱い吐息を感じながら、妹紅の道案内を受けて椛は永遠亭を目指す。
 竹林は深みを増し、日の光をかなり遮るようになってきた。これほど密生しているのならば、上空から永遠亭を発見できないことも頷ける。
 しかし……
「……」
 ある程度は景色の変化を感じられた先ほどまでと違って、ここしばらくは同じ景色の連なりが続いており――少なくとも、椛にはそう見えた――本当に永遠亭へと近づいているのか椛は不安で仕方がなかった。
 再び眠りについた妖夢は、額に汗を滲ませながら時折「さむい、さむい」とうわごとのように呟いていて。その様子に、焦燥感が募る。
「妹紅、永遠亭は――?」
 この問いは果たして何度目だろうか。
 前を行く妹紅はうんざりとした顔でこちらを見る。
「焦らない。ちゃんと向かっているわ」
「しかし……」
「くどい! 焦っても道のりは短くならない。心配なのはわかるけど、もう少し落ち着きなさい」
「……すまない」
 一喝され、椛は押し黙った。
 わかっている。妹紅も急いでくれていることくらい。明らかに早過ぎるペースで歩くこちらに合わせて、文句の一つも言わずに先導してくれているのだ。
 そのことには感謝している。しかし、だからといって焦燥感が消えることはなく。
 妖夢の身に宿った狂気が、衰弱しているその身を蝕んでいるのではないか? 実はもう取り返しのつかないところまできているのでは?
 細く、浅く、熱い吐息が焦燥感に拍車をかける。
「……あなたはもっと冷静なタイプだと思っていたけれど」
「ああ、私もそう思っていた」
 よほど表に出ていたのか、ため息交じりの妹紅の言葉を受けて、椛は自制の効かない己を恥じた。
 これまで、友人と言えば他の白狼天狗や河童ばかりだった。妖怪である彼女らは、多少の病気や怪我で死に至ることはない。それこそ、腕の一本が吹っ飛ぼうとも、数日後にはけろっと復活するくらいだ。
 しかし、妖夢は妖怪ではない。人間と幽霊のハーフという、生きているのか死んでいるのかも分からないような存在。肉体の頑強さはもちろん、病気に対する抵抗力も妖怪に比べればかなり低いだろう。
 更に彼女は“月の狂気”という、椛にとっては未知の力を抱え込んでいる。
 初めての、天狗、河童以外の友人。大切な友人。心配するなと言うほうが無理な相談なのだ。

 がさり。

「!」
 唐突に視界が開けた。
 竹の連なりはその数を減じ、黄色い大地がむき出しになった一本道が椛の眼前に延びていた。起伏は少なく、雑草がほとんど生えていない様子から、何者かの手によって作り出された道であることは明らか。
 曲がりくねっているせいで果ては見えないが、この道の先に……
「やっと抜けたわね。ここから先は一本道。私のことはいいから、早く連れて行ってあげなさい」
 この道の先に永遠亭があることは間違いなかった。
「すまない! 感謝する!」
 妹紅に礼を述べ、椛は駆けた。
 一歩、二歩、三歩。地を蹴って宙に浮き、空を翔る。地を走るほうが速いのだが、あまり揺らしては妖夢の身体に障ってしまうだろう。
「……椛?」
 ごうごうと耳元で風が唸るなか、微かに聞こえた自分の名を呼ぶ声。
 振り向けば、重たげな瞼の下から赤い瞳を覗かせた少女の顔。
「起きたか。もうすぐ着くからな」
「……はい」
 思わず表情をほころばせながら言うと、妖夢も笑みを返してくれた。しかし次の瞬間、
「止まって!!」
「!?」
 弾かれるように発せられた妖夢の叫びに、椛は慌てて急停止した。
 びっ!
 その眼前を、緑の妖弾が通り抜ける。
 椛は着地して弾幕の現れた竹やぶを睨み据え。
「なんだ!?」
「これは……またきます! 左前!」
 妖夢の指差す竹やぶの奥から更に弾幕。後ろに跳んで回避し周囲のにおいを探ると、辺りに立ち込めるは獣臭さ。
 椛の背でぐるりと視線を巡らせていた妖夢が三度警告の声をあげる。
「次は右後ろ、それと左から!」
 真上に高く跳躍。弾幕を回避し、着地した椛は周囲に鋭く視線を巡らせながら、
「妖夢、どこから弾幕がくるのか分かるのか?」
「“何か”が……見えるんです。よく分からないんですけど……」
「……“何か”?」
 まさかそれは。
 振り向けば、そこには煌々と輝く紅い瞳を周囲に向ける妖夢の姿。上気した顔と、荒い息。そして紅い瞳で周囲を見回しながら、
「生霊とは、違う“何か”……気配? のような……? あれ? そういえば、眼が見えます! 赤いですけど。でも何で……?」
「待て妖夢!」
 いまの妖夢に眼を使わせてはいけない。その鮮やかな紅は、椛には危険なものに見えた。
 どうやら妖夢自身にも、自分に見えているものが何なのか分かっていないようだ。生霊ではないようだが、どちらにしろ得体の知れないものが見えていることには変わりないだろう。
 さりげなく視力が回復しかけていることは喜ぶべきなのだが、あいにく、そういう状況ではない。
「いまは考えなくてもいい。それよりも……」
 妖夢のことは医者に診せればわかることだろう。それよりも解決しなければならないことがある。
 椛は周囲に向けて声を張り上げた。“やつら”にもわかるよう、言葉に意思をのせて。
「いつまで隠れているつもりだ?」
 ぐるる……
 椛の言葉に応えるように、前方左の竹やぶから緑がかかった灰の毛を持つ狼が、のそりと姿を現した。
「狼!?」
「やはりお前たちか」
 数刻前に椛たちを襲った狼だろう。あんなに珍しい毛色の狼はそういない。何より、椛はあの狼のにおいを覚えていた。
「気をつけろ、まだいるぞ」
 妖夢に告げる間に、“緑灰”がうおん、と一声。すると周囲から更に六頭の狼が姿を現した。やはり先ほど椛が退散させた群だ。弾幕を放てるところを見るに、どうやらこの狼たちはただの狼ではなく、妖怪への成り上がりを始めている身のようである。
 しかし何故また立ちはだかるのか。いかに力を得ているとは言え、彼我の実力差は先ほど実感しただろうに。
 ぐるる……
「……?」
 狼たちの唸り声。内包する感情はやはり“敵意”と“食欲”。そして……
「なんだ、この余裕は……?」
 まるで『お前たちはもう終わりだ』とでも言いたげな唸り声。何を根拠にこいつらはこんなにも強気なのか、椛は図りかねていた。
 ――妙な雰囲気だな……
 椛はいつでも動けるように腰を落とす。
 狼たちの配置は背後に四頭、正面に三頭。左右はそびえる竹に阻まれ、簡単に通ることはできそうにない。空が開いているが、高く飛びすぎれば竹林から出てしまい、永遠亭への道を見失ってしまうかもしれない。かといって低く飛びすぎれば、狼たちのいい的だ。逃げ道はない。弾幕を撃ってこないのは唯一の救いだった。互いの位置上、同士討ちを避けるためだろう。
 しかし、この程度の包囲網であれば突破することは容易い。元より相手は格下。よほど油断をしない限りは打ち倒す自信が椛にはあった。
 だがいまは、
「椛、挟み撃ちです」
「ああ」
 病人を背負っている。
 不安げにこちらを見つめる妖夢に小さくうなずきかけ、椛は正面の三頭をにらみつけた。
「妖夢、少し耳を塞いでいろ」
「は、はい!」
 首に回されていた腕が離れた。
 椛は先ほどと同じように息を大きく吸い込み……

 ガオオオオォォゥゥゥゥゥ!!

「!?」
 放とうとした咆哮は、ざらついた別の咆哮に圧し止められた。
 声量もさることながら、同時に放出された妖気に圧され椛は一歩、二歩と後ずさった。
「わっわわっ!?」
 背で妖夢が慌ててしがみついてきたが、椛にそれを気にする余裕はなく、咆哮の放たれた竹やぶを警戒する。
「なるほど……」
 狼たちが漂わせていた余裕の正体がわかった。
 ごぅるるるる……
 腹に響く低い唸り声を上げながら竹やぶから現れたのも、やはり狼。しかし、今度のやつは他の狼たちよりも格が高い。
 毛色は漆黒。体躯は他よりもかなり大きい。身にまとう気配には、他の狼たちを遥かに凌駕する妖気のにおい。
 ――やつがこの群の長か。
「あんなに大きな狼が……」
 妖夢の狼狽した声。さて、と低く唸る椛の表情も硬い。
「……さすがに振り切れないか」
「どうするんですか?」
 退路は無し。となれば、手は一つ。
「……妖夢、楼観剣を貸してくれ」
「ろっ……戦う気ですか?」
「それしか手がない。できれば穏便に済ませたかったのだが……」
 あの“漆黒”がいる限り、いくら椛が威嚇をしたところで誰も逃げはしないだろう。沈痛な面持ちで椛はうめく。
 椛とて狼の眷属。格の差はあれど、同じ種の仲間を傷つけるような真似はしたくはなかった。
 だが向こうはお構いなしである。いくら椛が慈悲深かろうと、自分に牙を向けるものまでは慈しめない。
「……無茶は、しないでくださいね」
「ああ」
 とは言ったものの、人ひとりを庇いながらの戦いである。多少の無理はせざるを得ないだろう。
 背後でがちゃがちゃと鞘のぶつかる音が響く。背から楼観剣を外すことに苦戦しているのだろう。
 やがて静かになり、椛の眼前に長刀が差し出された。
「どうぞ」
「すまない」
 差し出された楼観剣を受け取り、代わりに持っていた半霊を妖夢に返してから、椛は狼の群を睨み据える。
 楼観剣を鞘から抜き放ち、
「……ほう」
 その妖気に、感嘆の吐息を漏らした。
 ――成る程。妖怪が鍛えたという謳いは伊達ではないということか。
 まとう妖気が刀身によく馴染んでいる。これならば、実体剣でありながら幽霊を斬ることが出来るという話にも頷ける。
 しかしやはり長い。使い手が小柄だから余計に長く見えているのだろうと思っていたが、自分で持ってみてもやはり長い。妖夢はこれをよく扱うものだと椛は感心した。片手で大太刀をぶん回すことも大概ではあるのだが、それが常となっている椛がその事実に気付くことはない。
 と、いつまでも楼観剣に見とれている場合ではなかった。椛は左手で妖夢の身体を支えつつ右手に持った楼観剣を構え、唸り声を上げながらじりじりと近づいてくる正面の狼たちと対峙する。いつもの大太刀と比べてかなり細く、頼りない気がするが、何とかするしかない。
 と、背後の妖夢がずるずると椛の背を降りてゆく。
「妖夢?」
「私も戦います」
「待て、お前は」
「牽制くらいは出来ます。椛の足手まといにはなりたくないんです」
「……」
 冗談ではない。
 既に足は地に着いているようだが、妖夢はすがるように椛の背に寄りかかっていた。立っていることも辛いだろうに、無理をして。
 ちらりと背後に目を向ければ、椛の背に自らの背を預け、息を荒らげながらも白楼剣を抜く妖夢の姿。
 歯を食いしばり、紅い瞳を狼たちに向けて。
 ――……無碍には出来ない。
 が、
「妖夢、大人しくしていてくれ」
「でも」
「友、故に言わせてもらう。……足手まといだ」
「!」
 妖夢の表情が歪む。胸が痛んだが、言葉を止めるわけにはいかない。
 放っておけば、あの時のように妖夢はまた無理をする。無理をして、いつか取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。
 ――そんなことは、御免だ。
 相手は狼。病人の振り回す剣を避けられないほど馬鹿ではない。いまの妖夢がやつらにに立ち向かうことは、無謀でしかなかった。
「大人しくしていてくれ。そのほうが戦いやすい」
「……そんな」
 ひどく沈んだ鼻声。妖夢はもそもそと椛の背によじ登り、ぎゅ、とその背に顔を押し付け、
「そんな、冷たい言い方……ないじゃないですか……」
「よ、妖夢?」
「私だって、一生懸命……い、いっしょう……」
 背ですすり泣きを始めた妖夢に、椛は慌てた。予想以上に傷つけてしまったようだ。
「いやっ、ちょ、妖夢、その、すまない、あの、私は」
「もういいです。足手まといでっ、ひ、役立たずの私は……椛の背中で子泣き爺にでも、うく、なっていれば、いいんだわ……」
「ちょ……」
 完全にへそを曲げてしまった。
「妖夢……あの」
「私が邪魔なんでしょう? 面倒ごとを押し付けられてさぞ迷惑でしょう。ここでじっとしてますからさっさとやっちゃってください」
「違う、そんなことは」
 うおん!
「!」
 弁解をしようとした椛の言葉を遮って、狼が吠えた。
 ――ああ、もう、それどころではないというのに。
 思わず悪態を吐きたくなったが、忘れてはいけない。窮地なのである。
 椛たちの進路と退路を塞いだ狼たちは、ぐるると唸り声を上げながら徐々ににその包囲を狭めてきている。
「ち……」
 小さく舌打ちし、椛は背に目を向けた。妖夢は椛の背に顔を押し付けたまま、その表情を窺うことはできない。
 ――駄目だ、いまは目の前のことに集中しなければ。
 頭を振って雑念を振り払い、椛はじりじりと包囲を狭めてくる狼たちをぐるりと見回した。
 ――狙うは一点。
 頭を潰す。
 だが、他の狼たちが徐々に椛たちを追い詰めているにもかかわらず、長たる“漆黒”は動かず、二人の向かう先である道の真ん中に鎮座したまま動かない。やつを倒せば、他の狼たちは逃げていくだろうが、無論、向こうもそれを理解しているからこそ動かないのだろう。“漆黒”に近づくためには、まず正面の三頭を捌く必要がある。
 背には機嫌を損ねた病人が一人。こちらの得物はいつもと勝手の違う長刀が一振り。
「……よぅ、…………」
 かけようとした言葉は詰まってしまい。暗澹とした気持ちが胸に広がってゆく。
 ――……嫌われてしまっただろうか……?
 胸が苦しい。四肢に思うように力が入らない。その存在を精神に依存する妖怪にとって、死活問題とも言えるほど動揺している。
 だが、やらねば。
 ――どう思われようと、いまはただ、護る。
 大きく深呼吸し、雑念を頭から締め出して、
「――行くぞ」
 静かに呟き、“漆黒”に向かって一歩を踏み出しかけた、その時、
「妖夢! 椛!」
 背後から二人の名を呼ぶ声。
 振り返れば、こちらに駆けてくる妹紅の姿があった。
「二人とも下がれぇ!」
 声を張り上げながら、妹紅が一枚の符を投げ放つ。
 彼女の声をきっかけに、“漆黒”以外の狼たちがけたたましく吠えながら椛たちに襲い掛かってきた。
 もはや猶予はない。
 出鼻を挫かれながらも、椛は転進して妹紅のほうへと駆け出した。迎え撃つは四頭の狼。
 殺意とよだれを撒き散らしながら、一番近くにいた一頭が跳躍する。鋭い牙と爪をむき出しにして、こちらの喉元を目指し、
 ごうん!
 しかし、その殺意が届くことはなく。
 狼の背に直撃した符が爆発。その身を大きく吹っ飛ばした。
 妹紅は更に三枚の符を取り出し、それぞれを残りの狼に向かって放った。符は炎をまとい、赤い閃光となって狼たちに飛来する。
 ごうごうん!
 二頭が被弾。先の一頭と同じ末路を辿った。
 符をかわした最後の一頭が椛に迫る。地を駆け、低い姿勢から鋭い矢のように突進して爪を振りかざした。
 しかし、
 ガッ!
 刃を返し、振り払った楼観剣の峰に横面をはたかれて、竹林の中へと吹っ飛んでいく。
 こちらに駆け寄る妹紅は、髪の毛をまとめていた符の一枚を取り外して、椛の背後、“漆黒”を含む残りの四頭に向かって放った。炎をまとって飛びゆく符は、しかし今度は先ほどのものよりも大きい。
 頭大ほどにまで大きくなった火球は椛とすれ違い、狼たちへと飛んでいく。
 おんッ! と鋭く発せられた“漆黒”の警告を受け、狼たちはそれぞれ飛び退いて火球の着弾ポイントから素早く退避した。
 ぽっかりと開いた道の真ん中に火球が着弾し、

 ガオン!!

 先ほどの、単体に撃ち込んでいた符とは比較にならないほどの爆発。熱風が椛のいるところにまで吹きすさび、その白髪を、白き衣を激しくなびかせた。随分と物騒なもので髪の毛を結っていたものである。
「二人とも、大丈夫か!?」
「ああ……問題ない」
「……」
 息を切らせながら妹紅が椛たちと合流する。
 妹紅は安堵のため息を漏らし、次いで妖夢の様子に気が付いて眉をひそめた。妖夢は椛の背に顔をうずめたまま、動かない。
「おい、妖夢、大丈夫か?……何があった?」
「ん、いや、……うむ……」
「……?」
 ばつの悪い表情を浮かべながら、椛はしどろもどろ。その様子を妹紅はじとりと見つめ。
「……一つだけお節介。思っていることはちゃんと言ったほうがいいわよ」
「……何故そんなことを」
「さて、なんでかしらね」
 椛は不思議そうに眺めるが、妹紅はこれ以上なにかを言うつもりはないらしい。面倒くさそうにひらひらと手を振りなら椛に背を向けて歩き出す。
 ――思っていることを……?
「さて、残っているのはあいつだけね」
 妹紅の言葉に気を取り直して道の先に目をやれば、黒々と焼け焦げた大地。そして爆発に巻き込まれて累々と横たわる狼たちの姿。“漆黒”の警告で離れていたおかげで、命を落としているものはいないようである。
 唯一爆発から完全に逃れていたのは――
 ぐるるるる……!!
 包囲の最奥で待機していた“漆黒”のみ。仲間をやられて、たいそう腹を立てているようだ。身を屈め、いまにも襲い掛かってきそうだった。
「あなたはここで待ってて。私が――」
「いや……」
 符を取り出しながら歩く妹紅の言葉を遮って、椛は騒然とした様子で呟いた。
 “漆黒”が大きく息を吸っている。あれは突進のための姿勢ではない。あれは……!
「私も行く。立ち止まることはできない」
「それってどういう……?」

 ガロオオオォォォォォォォ!!

 天を仰いで“漆黒”の咆哮。
 大気を震わせ、椛たちの身体を震わせる大音量のそれは、同時に“やつら”をも奮わせる。
 ぐ……ぐるる、ぐる……
 かすかな唸り声。それらは徐々に数を増してゆき。
「ちょ、ちょっと……冗談でしょ?」
 妹紅が声を震わせながら周囲を見回す。
 先ほど倒した狼たち。“漆黒”の咆哮によって喝を入れられたそいつらが、意識を取り戻し始めたのだ。
 そして“漆黒”が大地を震わせながら突進。再び前門も後門も狼に閉ざされ、更にそれらが迫ってきている。
 ――どちらも閉ざされているのなら、進むべき扉をこじ開けるが最良!
「走るぞ!」
 椛が走りながら叫ぶのと同時に、背後の竹林からさらに四頭の狼が飛び出してきた。
「ちょっと! まだ出てくるの!?」
 状況を理解した妹紅も慌てて走り出す。
 椛たちと“漆黒”との距離がぐんぐんと縮まってゆく。
「妹紅! 援護を!」
「おう!」
 妖夢を落とさないよう左手で支えつつ、右手に携えた楼観剣を構え、椛は猛然と“漆黒”に立ち向かう。
「妖夢! しっかり掴まっていろ!」
「……」
 何も言わぬまま、ぎゅ、と椛にしがみつく力が強まった。
 ――……いまは、それでいい。
 妹紅の言うとおり、あとでゆっくり話そうと思いつつ、椛は地を這うように走る。その背後で妹紅が三枚の符を“漆黒”に投げ放った。
 炎をまとい、三条の閃光となって飛び行く符を“漆黒”は横に飛んでかわす。そして“漆黒”は間合いに飛び込んだ椛に向かって鋭い爪を振り上げて、
「うおお!」
 がギッ!
 楼観剣と“漆黒”の爪がかみ合う。
 力は互角。なるほど、と椛は“漆黒”の力に感心した。片腕とは言え、力が低下しているとは言え、白狼天狗の腕力と拮抗しているのだ。これは称賛に値する。
 だが、いまは悠長に感心している場合ではない。
 “漆黒”は爪で椛を押さえつけたまま、大口を開いて喰いつきにかかる。このサイズでは、ひとかじりで身体の半分は持っていかれてしまうだろうか。
 椛は“漆黒”の爪を弾き返して後退。眼前でガキンッ、と上下の牙が悔恨の音をあげた。
 そこへ、
 ごうん!
 妹紅の放った符が“漆黒”の額に直撃。
 悲鳴を上げてのたうつ“漆黒”を横目に、椛は楼観剣を鞘に納めて左手へ持ち替えながら右手を妹紅に差し出して、
「掴まれ!」
 背後の狼たちはすぐ近くにまで迫ってきている。やつらの相手をしていては、いずれ“漆黒”も復活してしまうだろう。
 ――離脱するなら、いま!
「振り落とされるなよ!」
 妹紅の手をしっかと掴むと、椛は全速力で駆け出した。まだ爆発のダメージが回復し切っていないのだろう、おぼつかない足取りで椛を迎え撃とうとした正面の狼たちはするりとかわし、すぐ背後まで迫っていた狼たちを置き去りにぐんぐんと加速する。
 景色が高速で流れ、耳元で轟々と風が唸り。
 人を二人も抱えているとは言え、天狗の脚力である。その速さとはそこらの妖怪とは違う。
 椛はちらりと背後に目をやった。妹紅は右手にしがみついている。顔は見えないが、妖夢も椛の首に腕を回してしっかりと掴まっている。
 狼たちとの距離は見る間に離れてゆき。早々に復活した“漆黒”も追ってきているが、その速さは五分か、僅かにこちらが速いくらいだ。
 ――これなら逃げ切れる。
 そう、思った矢先である。

 がさり。

 すぐ脇の竹やぶが揺れて、

 ぶぢ、ぼぎん。

「うぅ!?」
 飛び出した影は、鈍く、耳障りな音とくぐもった呻き声とともに妹紅を掻っ攫っていった。
「妹紅!?」
 右腕に不意の衝撃を受けた椛は、たたらを踏みながらも転倒せずに足を止めた。そして慌てて振り向けば、地に這い蹲る妹紅の姿。その右腕には、一頭の狼が鋭い牙を食い込ませていた。
「妹紅!」
「来るな!!」
 助けに向かおうと転進しかけた椛を、妹紅は声を張り上げて止めた。
 妹紅は、右腕に喰いついて離れない狼の脇腹に、符を叩き付けて弾き飛ばしながら続ける。
「私のことはいい! お前は永遠亭へ行け!」
「っ! だが!」
「私は! 死なない!」
 だらりと力なく垂れた右腕からおびただしい量の血を流しながら妹紅は叫ぶ。その顔は血の気を失い、その姿からは既に死の匂いが濃厚に漂っている。ここで見捨ててしまえば、その末路は想像に難くない。
 ――置いて行けと言うのか。ここまで道案内してくれた者を……!?
「……椛、行きましょう」
「妖夢……?」
 二の足を踏む椛の背で、いつの間にか顔を上げていた妖夢が紅い瞳を妹紅に向けて言った。
「妹紅さんは死にません」
「いやしかし……」
 あの傷である。骨は噛み砕かれ、出血は多量。じっとしていても、いずれは失血死してしまうだろう。
 彼女もいますぐ治療しなければ……
「ですから、あの人は……いえ、あの人は“死ねない”んです」
「……“死ねない”?」
 しばし思案した妖夢の口から出た言葉。そのニュアンスに、椛は首を傾げた。
「だから、早く永遠亭へ行ってください。“足手まとい”がいては、戦いづらいのでしょう?」
「うっ……」
「別に、ここに放り捨てて行ってもいいですけど」
「ぐっ……」
 険のある言葉を残して、妖夢は再び椛の背に顔を押し付けてしまった。
「……」
「椛! 何をしている!?」
 ごうん!
 何度目かともわからぬ爆発に、沈みかけた思考から椛は我に返った。見れば、妹紅は追いついてきた狼との戦いを始めていた。
 距離を取りながら符を放ち、飛びかかってきた狼からは身をかわし、妹紅は立ち回る。
「早く行け!」
「あ……応!」
 応え、椛は慌てて踵を返した。妖夢と妹紅がここまで言うのだ。きっと大丈夫なのだろう。
「すぐに戻る! 何とかもたせろ!」
「出来るだけ早く頼む!」
 かくて、椛は全速力で駆け出す。この道の先にあるであろう永遠亭を目指して。





 うねる一本道を、妖夢を背負った椛は全力で飛ぶ。永遠亭はまだ見えず。妖夢は相変わらず椛の背に顔を押し付けていて、その表情は見えない。
「……妖夢」
「……」
 飛びながら、椛は背の妖夢に言葉を投げかける。
「さっきは辛い物言いをしてすまなかった」
「……」
 ――言わなきゃ伝わらない、か。
 自分の言葉を顧みて、なるほど冷たい言い方になっていたともみじは深く反省した。
 だからいま、きちんと話そう。自分の思いを。
「妖夢、私は……」
 少しだけ躊躇ってから、椛は言葉を紡ぐ。
「私は、お前に親愛の情を抱いている」
「……!」
 身の丈に合わぬ長刀を携え、まだ未熟ながらも良い素質を持った剣士。初めて妖怪の山で対峙し、剣を交えたその時に、椛は妖夢に“興味”を抱いた。
「お前に出会えたから、私は山の外に目を向けることが出来た。妖夢、お前のおかげで、私の世界は広がったんだ」
 山で生まれて、山で育って、山のために戦って。“妖怪の山”が全てで、これまで山の外を知ろうとしなかった椛にとって、妖夢と過ごす時間はいつも新鮮で。
「私は、お前と一緒にもっと色々なものを見てみたい、聞いてみたい、触れてみたい。そして……」
 椛は願う。一人の剣士として。
「そして、またいつか、私はお前と戦いたい」
「!」
「お前はまだ弱いけど、それでもいつかは天狗と対等に渡り合うことが出来ると……まぐれでも偶然でもなく、その剣は必ず天狗に届くと、私は信じている」
 天狗は、幻想郷でも高位に位置する妖怪である。その天狗に比肩し得る力を付けるには、いかに“剣術を扱う程度の能力”を持つ妖夢とて、百年やそこらでは足りないだろう。
 百年……長い年月である。しかし長命な天狗ならば、百年程度は待てぬものでもない。白狼天狗として生きて幾星霜、退屈を潰す方法は幾多も学んできた。剣を振り、書を紐解き、将棋をうち……
 他の天狗から見れば、椛の行為はただの気まぐれ。妖夢との交流もまた、先に挙げた暇つぶしの一つだと思うかもしれない。しかし椛にとって妖夢とは、暇つぶしのそれではない。
 “興味”を抱き、交流を経て、椛の中で芽生えた想いは“親愛”となった。
「射命丸さんから、西行寺殿から頼まれたからだけではない。私は、私の意志でこの依頼を受けた。お前は、私にとって大切な友達だから」
「……」
「だから、辛いときは無理をしないで私を頼ってくれ。手の届く限り、私はお前の力になる。私は友達を失いたくない……」
「…………椛」
 きゅ、と椛を抱き締める力が少し強まった。
「ごめんなさい。私のわがままで困らせてしまいました」
「……いや……気にしなくていい」
「悔しかったんです。戦わなきゃいけないのに、戦えないことが。だから、あんな子供じみたことを……」
「なら、次に同じ思いをしないように努力すればいい。その思いは、必ずお前の力になるだろう」
「……はい。ありがとうございます」
「……ああ」
 寒空の下、冷たい空気を切り裂いて飛行している最中であったが、椛の心はじんわりと暖かくなっていた。胸の苦しさも、いまはもう消え去っている。
 ――よかった。本当に……
 やがて大きな曲がり角を曲がりきったところで、視界に一軒の建物が見えた。
「あれか」
 竹林の中にひっそりと佇む、白玉楼とはまた違った趣の大きな日本家屋。
「ここが、永遠亭……」
 入り口に辿り着いた椛は、見上げて呟く。
「椛、ここでいいです。早く妹紅さんのところに戻ってください」
 もそもそと椛の背から下りて、妖夢は頼りない足取りで永遠亭の戸口まで歩いていった。
 引き戸を開き、中に入る前に妖夢は振り返る。瞳は紅く、目元も赤く腫れていたが、苦しげながらもその表情は柔らかな笑顔で。
「あとはお願いします」
「……ああ。もう少しだけ借りるぞ」
「はい」
 楼観剣を握り締め、椛は踵を返してもと来た道を力強く駆け出した。





 背後から飛び掛ってきた一頭を身を屈めてやり過ごし、すれ違いざまに符を腹に貼り付ける。
 一撃をかわされた狼は素早く転進。その瞬間、
 パァン!
 腹に貼り付けられた符が破裂し、その身を跳ねさせて気を失った。
「はぁ……まったく、きりがないわね」
 息を切らせながら、妹紅はぼやいた。
 最大火力で応じれば、連中を全滅させることは容易いだろう。しかし、今回の依頼人は白狼天狗。姿かたちは違えど、狼の仲間である。その手前、妹紅は狼たちの命を奪うことを躊躇っていた。
 これまでに気を失わせた狼は、最初に妹紅に喰いついてきたものを合わせて五頭。残りはまだ八頭。
 うぉん!
 “漆黒”の指示――だろうか?――を受け、次の一頭が妹紅に襲い掛かる。横手から足を狙って鋭く駆ける一頭を藤原妹紅はギリギリでかわしつつ、その腹を蹴り飛ばした。げう、と悲鳴を上げながら狼は飛ぶが、転倒することなく身を捻って着地する。
 さらに“漆黒”が一声。
 “漆黒”に号令に応えて、狼たちは間断なく妹紅に襲い掛かり、確実に傷を負わせ、体力を失わせてくる。
 最初に喰いつかれた右腕は全く動かず。牙はなんとか避けきっているが、爪による攻撃が幾度となくその身をかすり、小さな裂傷が積み重なってきていた。
 右腕はもとより、全身につけられたの裂傷が痛む。血液を失い過ぎて視界は霞み、意識が混濁し始めていた。
 いっそ死んでしまったほうが楽だろうか、などと思いもするが、死ぬのはあまり好きではない。
 ふらつく頭で考えるのは、永遠亭に向かった妖夢たちのこと。
 あの白狼天狗――犬走椛が一緒なのだから心配はいらないと思うが、しかし先ほどの二人は少し様子がおかしかった。
 ――まあ、大体想像はつくけど。
 妹紅も永く生きている身である。短い時間ではあるが椛と共に行動して、彼女がどういった人物であるか、ある程度は理解したつもりである。
 椛は見るからに口下手そうだから、どうせ思っていることを伝えきれず、妖夢に誤解でもされてしまったのだろうと妹紅は考えていた。
 気になって、ちらりと永遠亭のほうへ目を向けると、道の彼方に白い人影が見えた。
「戻ってきたか!」
 椛だ。無事に妖夢を永遠亭へと送り届けてきたようである。手にした楼観剣は既に抜き放ち、こちらへと駆けてきている。
 少しでも休むことが出来れば、ある程度は回復できる。迫ってきていた一頭に符を叩きつけてから、妹紅は椛と合流すべく踵を返した。
 次の瞬間、
「っ!?」
 ふ、と頭上に影が差す。
 見上げれば、闇のように黒く野太い前足と、凶悪な輝きを放つ鋭い爪が、
 ――これはッ、無理……!
 迫る。





「妹紅!!」
 こちらに気付いた妹紅が、転進した瞬間、“漆黒”が動いた。
 刹那に最高速へと達した“漆黒”は、一瞬のうちに妹紅を射程内に収めてその前足を振りかざす。
 そして、
 どがァ!
 地面を砕くほどの一撃を妹紅に叩き込んだ。妹紅は直前で気が付いたようだったが、時既に遅し。為す術もなく地面に叩きつけられてしまった。
 うおん!
 そのまま腕を上げず、妹紅を押さえつけたまま“漆黒”は吠える。
 動けぬ妹紅に狼たちが殺到した。
「待て! やめろ!!」

 ぐちゃ、ばギ、ぐぢ、ぶぢん……

 伸ばした手は届かず。椛はその場に立ち尽くす。
 目の前で貪られていく。かつて命ある人の形だったものが。
「…………ッ!」
 骨を砕き、肉を裂き、食い千切る音の中で狼たちが上げるは、歓喜の声と舌鼓。
「ぐ、ヴうゥゥゥ……!」
 目の当たりにした椛が上げるは憎悪の唸り。
 楼観剣をひゅんと一振りし、椛は一歩を踏み出した。
 短い間だが。依頼人と案内人という、ただそれだけの関係だったが、それでも彼女は命を懸けてくれた。肩を並べて、妖夢のために戦ってくれた。
 “天狗の友”を殺めたやつらを、許すことは出来ない。
 故に、
「もはや同族とて、容赦はなしだ!!」
 吠えて椛は、白き風となる。牙を剥いて駆けるその様は、まさに野獣。白狼天狗の速さは、鴉天狗に及ばぬまでも幻想郷で最高位に位置する。“魂魄妖夢の護送”という枷を解かれた椛は最高速を以って“漆黒”を目指した。
 構えた白刃は返さない。友を殺めた罪は“死”をもって償ってもらうつもりだった。
 取り巻きの狼はもとより、“漆黒”さえも反応できぬ速度で椛は駆け、いま、己が間合いに踏み込んで――
 ごぉおう!
「!?」
 突如、目の前で立ち昇った火柱に、慌てて後ろに跳ぶ。
「な、なんだ!?」
 ――何もないところから、炎?……いや。
 火柱は、妹紅の亡骸を中心として立ち昇っていた。
 ――“死”をトリガーとして発動する、自身に仕掛けた罠だろうか?
 だとするならば、効果は絶大だった。
 妹紅の肉を貪っていた狼たちは、みな一様に舌を焼かれ、身を焼かれて蜘蛛の子を散らすかのように逃げ出していった。残っているのは“漆黒”と、他の数頭のみ。しかし、残っている狼たちの心中も穏やかではない。
 尻尾を巻き、逃げ腰になりながら狼たちは火柱に向かって吠え立てる。“漆黒”もまた大きく後退し、焼けた舌をだらしなく口から垂らしながら火柱を睨みつけて唸る。尻尾こそ巻いていないものの、その声からは大きな動揺の気配。
 狼たちの咆哮をバックグラウンドに炎は猛り、やがて収束して人の形となった。
「……まったく、来るのが遅いから一回死んじゃったじゃない」
 炎の中から現れたのは、怪我をする前と全く変わらぬ様子の藤原妹紅。狼たちに喰い散らかされてしまった筈の彼女が、もんぺのポケットに両手を突っ込んで悠然と立っている。
 椛は眼を瞠り、口をぱくぱくとさせながら、
「なんっ……どうして……!?」
「どうしてもこうしても……って」
 亜然とする椛の様子に、妹紅は眉をひそめた。
「あなた……もしかして、私のこと何も知らなかったの?」
「ち、竹林の案内人としか」
「あー、それなら仕方ないか。驚かせちゃったわね」
「お前は……妹紅、お前は何者なんだ?」
 椛の問いに、妹紅は笑みを浮かべる。それは、少し寂しげな、自嘲の笑み。
 ぼう、と小さな炎を手のひらの上に出現させた妹紅は、それを静かに見つめながら言う。
「私は蓬莱人。かつて蓬莱の薬を飲んで、輪廻の輪から外れた不老不死の身となった……化け物よ」










「ただの風邪です」
 病室の一角、ベッドの脇に置かれた椅子に腰掛けた女性は開口一番、そう言った。
「え」
「は、ただの風邪……ですか……?」
 それに対して呆けたように言葉を返す、半人半霊と白狼天狗。
 あのあと――妹紅が復活してから、狼たちを蹴散らすのは早かった。
 突然の炎に怯えきった狼たちだったが、尻を叩くような“漆黒”の叱咤で妹紅ともみじに襲い掛かった。しかし、転生によって全快した妹紅と、妖夢との対話によって精神の均衡を取り戻した椛に敵うはずもなく。
 “漆黒”には多少てこずらされたが、やはり他の狼たちと同じ末路を辿り。ただしこいつに関しては、椛が天狗でありながら鬼のような形相で何度も頭を楼観剣の峰で殴っていた。不老不死とはいえ、友を喰らった報いである。
 “漆黒”は二度と椛と妹紅に手を出すことはないだろう。彼女たちに手を出すとただでは済まないことは、今回の一件で身に染みたはずだ。
 狼たちを掃討した二人は永遠亭へと行き、兎の耳を頂く少女の案内でいま、病室に入ったところだった。
 ちなみに、妹紅は病室に向かう途中で『ちょっと挨拶してくる』と言い残してふらりとどこかへ行ってしまった。妹紅は永遠亭のことをよく知っているのだろうか。
 ――先ほどから聞こえてくる爆発音は、なんだろうな……?
 彼方で微かに聞こえる爆発音。妹紅が使っていた符の爆発に似ているが……
 浮かんだ疑問の答えが出る前に、銀髪をゆったりとみつあみに結った女性――“月の頭脳”八意永琳がこちらの疑問に答えた。
「“眼”の心配をしているのですね。それはこれから説明しましょう。とにかく座りなさい」
 永琳は、妖夢の寝ているベッドの向かい側の椅子を指差す。
「失礼します」
「まず、“月の狂気”がまた活性化してしまったのは完全にこちらの落ち度でした。ごめんなさい」
 眼を伏せ、永琳は静かに頭を下げた。
「今夜は満月。妖怪が、そして狂気が最も活発になる夜です。病気によって抵抗力の落ちた身体では、抑えきれなかったのでしょう。以前に作った薬では効能が弱く、完全に狂気を消し切れていなかったようです」
「そうだったんですか……」
 顔を上げた永琳は、真っ直ぐ妖夢の瞳を見つめ、
「少し時間をください。今度こそ、完全に狂気を消し去る薬を作ってみせましょう」
「お願いします」
「……作れるのですか?」
 きっぱりと言い切るその言葉に、椛は疑問を投げかける。一度ミスをしているのだ。そう簡単に信用してよいものだろうか。
「そうですね。疑問に思うのも無理はありません。ですが、言い訳になってしまうでしょうが、前回の薬が正しく作れなかったのは向こうにも原因があるのですよ」
「ほう?」
 椛の疑いのまなざしを正面から受け止めながら永琳は続ける。
「あの時、私は何度も白玉楼まで赴いて、魂魄さんの状態を確認しながら処方する薬のレシピを考えていました。しかし……」
 永琳はじとりと妖夢に目を向けて、
「その度にあそこの主人――西行寺幽々子が私を殺そうとするのですよ。白玉楼専属の医者に仕立て上げるために」
「…………そうだったのか?」
「……あはは」
「笑い事ではありません。そのせいで、きちんとした診察ができなくて今回の事態に陥ったのですよ?」
「はい、ごめんなさい……」
 これには妖夢もしょんぼりと頭を下げた。気が付けば、すっかり形勢が逆転している。
 ――本当にあの主人は、何かと妖夢を困らせているのだな。
 椛は同情とも憐憫ともつかぬ瞳をどんよりと妖夢に向けた。
「とにかく。薬は作りますが、それには少し時間が要ります。後で狂気を抑制する薬を渡すので、また狂気が活性化するようなことがあれば、それを服用してください」
「わかりました」
 頷く妖夢に、永琳は満足げな表情を見せ、次に病室の戸口で待機していた少女に目を向けながら、
「では次に、あなたの眼に何が見えているのか、それを確かめてみましょう。ウドンゲ、こっちにきて弾幕構え」
「え? は、はい!」
 長い兎の耳を頂いた少女――鈴仙・優曇華院・イナバは、長い菫色の髪をなびかせながら慌ててベッドの前まで移動し、ポーズをとる。
 半身を引いて、人差し指と親指を立てた右手をつきつける構えは、なかなか様になっていはいたが、
「……なんで私に向けてるの。危ないじゃない」
「ゴメンナサイっ」
 永琳の放った弾幕に撃たれ、額を撫でながら構えなおす様はいささか情けなかった。
 白い壁に向かって、先ほどと同じポーズをとった少女を示しながら永琳は言う。
「準備はいいかしら?」
「はい。いつでも撃てます」
「ではそのまま待機。さて、魂魄さん。ウドンゲの指先をよくみてごらんなさい」
「は、はい……」
 妖夢は鈴仙の指先に、永琳の治療を受けて瑠璃色に戻ったの瞳を向けた。
「“よく”見なさい」
「はい」
 じ、と見つめる。
 やがて、
「! 眼が……!」
 その瞳が、鮮やかな紅色に染まった。
「魂魄さん、ウドンゲの指先から何か見えるかしら?」
「赤い……もや? のようなものが、見えます」
「わかりました。ウドンゲ、撃ち方止め」
「ぷはっ」
 命令を受け、鈴仙は大きく息をつきながら構えを解いた。
 永琳は脱力した鈴仙を示し、
「今度はどうかしら?」
「……特に何も」
「はい、分かりました。楽にして結構です」
 ふう、と小さく息を吐いて妖夢は視線を降ろした。その眼は徐々に赤みを失って、瑠璃色へと戻っていく。
「ご苦労様。もう行っていいわよ」
「はーい。それじゃあ妖夢、またね」
「うん」
 ひらひらと手を振りながら退室する鈴仙に応じてから、妖夢は永琳に向き直る。
「それで……永琳さん、これは……?」
「あら、まだわからないのかしら?」
「うっ……」
 未だに気付かぬ妖夢の様子に、永琳は呆れ顔。
 うんうんと唸って考える妖夢を見かねて、椛は口を開いた。
「妖力、ですか?」
「え?」
「あら、どうしてそう思うのですか?」
 永琳は面白そうに眼を細めて椛を見る。さて、合っているだろうかと思いながら、椛は続きを紡ぐ。
「……妖夢は、構えた兎の指先から“もや”が見えたと言い、構えを解いた姿からは何も見えないと言った。
 そして先ほど、狼たちに襲われた時には『“何か”が見える』と言って、弾幕の撃たれる場所を事前に察知していた。
 私は“月の狂気”について何も知らないが、その力によって生き霊が見えたというのなら、何かの拍子で妖力が見えてしまうこともあるのではないか。そう考えた」
 その理屈ならば、狼たちの発する妖力から、その弾幕が放たれる位置を言い当てたことにも納得がいくのだが。
「これで、合っているでしょうか」
「よく分かったわね。事例がないので確証はありませんが、私も同じ見解です」
「予想に過ぎませんでしたけどね」
「椛、凄いです!」
「いや妖夢、お前は自分で気付くべきだ」
 椛は称賛に苦笑を返し、絶賛にため息。
 と、視線を厳しくし、永琳は妖夢の額に指先を突きつけながら言う。
「いちおう言っておきますけど、その力は非常に危険です。自らの意思で操ろうなどとは考えてはいけませんよ。
 その力は狂気。容易に制御のできる力ではありません。暴走してしまえば、どうなるかは私にもわかりませんから」
「は、はい……」
 妖視の能力。確かに、こと戦闘においては非常に有用な力となるだろう。未来視とまではいかないまでも、妖力の流れを“視る”ことで、相手の次の一手を読みやすくなる。
 だが、永琳の言うとおり、これは“月の狂気”を身に宿すことで得られた力だ。少女が扱うには危険すぎる。
「先ほど飲んでいただいた薬には、解熱の他に狂気を抑える成分も含まれています。その眼もいずれは収まるでしょう」
「そうですか……ありがとうございます」
「何を残念そうにしているんだ」
「はい、ではお話はここまで。今夜はここで休んでいきなさい。私は診察室にいるので、何かあったら声をかけてください」
 椅子から立ち上がり、銀の髪をなびかせて退室する永琳を見送って。
「話は終わった?」
 入れ替わりで妹紅が入ってきた。しかし、服のいたるところが煤で汚れ、額から血を流し、頬にも擦り傷がある。ひどい有様だった。
「妹紅、ボロボロじゃないか。何があった?」
「言ったでしょ? 挨拶。ここの連中とは知り合いでね」
「随分と派手な音が聞こえていたが」
「ド派手にかましてやったわ。フジヤマヴォルケイノ」
 どこかで借りたのか、持っていた手ぬぐいで顔についた血やら煤やらを拭いながら、妹紅はからからと笑う。
「……まあ、ほどほどにな」
「妖夢、もう眼は大丈夫なの?」
「はい。薬をいただいたのでひとまずは」
「ふーん。ちょっと失礼」
 妹紅はベッドの傍らに立つと、妖夢の額に手を当てた。やがて眉間に皺を寄せ、
「んー? なんだ、まだ熱は下がってないじゃないか。寝てなきゃ駄目じゃない」
「そ、そんなことないですよ?」
「嘘言わない。無理して起きてないでさっさと寝なさい」
「あうっ」
「はい、さっさと寝た寝た」
 額を押され、あえなくベッドに倒されてしまった妖夢の上に、妹紅はテキパキと布団をかけて。
「それじゃ、私は帰るわね」
「なら、外まで付き合おう」
 んー、と伸びをしてから部屋の外へと歩き出した妹紅を追って、椛も席を立った。改めて礼を言いたいこともある。
「妹紅さん、今日はありがとうございました」
「困ったことがあったら、またいつでも言って頂戴」
「妖夢、すぐに戻るから寝ていろよ」
 部屋を出て行く妹紅の後を椛は追った。





「……もう、大丈夫みたいね」
 永遠亭の玄関口まできたとこで、妹紅は椛の表情を窺いながら言った。
 さて、いまの自分はどんな表情をしているのかと考えながら、椛は軽く頭を下げて、
「ああ。貴方のおかげだ。ありがとう」
「私はちょっとお節介を焼いただけよ」
 しばし椛の顔を見つめた妹紅は、やがて満足そうに頷いた。
「貴方も、困ったことがあったらいつでも来なさい。何年でも、何百年でも、私はいるから」
「……ああ」
 やんわりと微笑みながら言う妹紅の表情には、少しだけ憂いの色が見えて。
 藤原妹紅――老いる事も死ぬ事も無い程度の能力をもつ、不老不死の少女。その姿は、蓬莱の薬を飲んだ時から何ひとつ変わっていないという。人でありながら、人と違う時間を生きる少女。たとえ死に至るほど肉体を損傷しても、すぐさま復活する、妖怪さえも凌駕する生命。
 彼女が何故、人里から離れた竹林に住んでいるのか分かった気がする。
 人里で暮らしていれば、いつか誰かが気付く。彼女が“異質”であることに。
 幻想郷では、多少死ななかったところで誰も驚きはしないだろうが、いまでも人目を避けるようにひっそりと暮らしているのは、外での生活の名残か。
 ここに来るまでの人生は、ただただ孤独だったはず。
 だからだろうか。
「酒を呑む相手に困ったら、頼らせてもらおう」
 そんな冗談じみた言葉が口をついて出てきてしまったのは。
「……あははっ。そうね、酌み交わす相手がいないのは困るわね」
「だろう?」
 顔を見合わせ、笑みを交わし。
 不老不死の妹紅にとっては、椛との交流もまた永遠のほんのひとかけらに過ぎないだろう。
 ――だが、それでも構わない。肩を並べて戦った仲なのだから。
 その終わらない生の中に、少し風変わりな天狗の“友人”がいてもいいだろう。
「それじゃあ、“また”」
「ああ。“また”会おう」
 手を振り、再会を約束して。
 去り行く蓬莱の人の形を見送りながら、次に会うときまでに美味い酒を手に入れておかなければと椛は考えていた。





 永遠亭の廊下を歩きながら、さて、と椛は考える。
 ひとまず、依頼の半分は達成した。あとは明日、白玉楼へ連れ帰って終わりなのだが……
「まさか泊りがけになるとは思わなかったな」
 ――一度、白玉楼に戻って西行寺殿に伝えたほうが良いだろうか?
 陽は落ちかかっているが、全力で飛べば行って報告して帰って、夜明けまでには戻ってこられるだろう。
「妖夢」
 声をかけつつ病室の扉を開き、
「……すう」
 聞こえた静かな寝息に言葉が途切れた。
「…………」
 椛は足音を立てないように気をつけながら扉を閉めて、
「…………ふむ」
 ベッドの傍らに置かれた椅子に腰掛け、その寝顔を見つめ。
 少女は自身の半身を抱き締め、すよすよと眠りこけている。
 その銀髪に、椛はそっと手を添えて。
 さらり、さらり。
 細く、艶やかな銀髪が指を流れる。
「…………まあ、いいか」
 むにゅむにゅと緩んだ笑みを見せる少女の頭を撫でながら、椛は微笑を浮かべて呟いた。



 …………



 しん――

 真夜中の永遠亭。その病室の一角で。
「……んぅ」
 ごそりと身じろぎをして、ベッドで眠っていた妖夢は眼を覚ました。
 身を起こして、妖夢は室内を見回す。永琳の薬を飲んだおかげだろうか、いくらか気分がスッキリしている。
 閉め切られた室内は暗く、窓から煌々と差し込む月明かりだけが唯一の光源だった。
 白い天井、白い壁、ほんのり白い半霊。
 そして、白い狼少女。
「椛……」
 白狼天狗の少女は、目を閉じ、椅子に座ったまま毛布にくるまっている。
「…………椛?」
 小さく声をかけてみる。
「…………」
 反応は、ない。
 凛としたその横顔は、一見すると眠っている、それとも瞑想しているだけなのか判別ができないが、声をかけても反応がないところをみると、どうやら眠っているようである。
 ――いまなら、言ってもいいかな。
「……白狼天狗、犬走椛」
 意を決し、身体を椛の方へと向けてぴしりと正座をした妖夢は、その精悍な横顔を見つめながら言う。
「私は、白玉楼の庭師として、幽々子様の護衛として……そして、貴方の、友達として、更なる精進をここに誓います。いつか、あなたと対等に剣を交えることができるように」
 遠い遠い、天狗の領域。
 でも、椛はそこに届くと言ってくれた。その思いに、応えねばならない。
 思いを吐き出し、妖夢は微笑む。
「だから、それまで待っていてくださいね」
 白狼天狗は身じろぎひとつせず、ただ静かに少女の独白を受け止めていた。
「……」
 ――やっぱり、眠っているよね?
 再確認してから、妖夢は静かに椛の方へと身体を近付けて。
「……」
 そ、とベッドの縁から椛の頭に手を伸ばす。
 さらり。
 少女の手を、白髪が流れる。
 妖夢のそれと比べると、少し太くてしっかりしているけれど、それでいてしなやかな、雪のような純白。哨戒任務によって、長く雨風にさらされているだろうに、その触り心地には傷みを感じない。
「髪の毛まで鍛えられてるなんて、やっぱり椛はすごい」

 さらり、さらり。

 感心しつつ、白狼天狗の髪の感触を楽しんだ妖夢は、やがてこくりと喉を鳴らして別の部位へと手を伸ばす。一度、触ってみたかったところ。
「昼間のお返しです」
 小さく呟き、
 ――起こさないように、そーっと……
 ふわり。
「お……おぉ……!」
 思わず声が出てしまった。
 椛の、狼の耳を覆う毛は、これまで触ってきたどんな動物の毛よりもやわらかく、どんな織物よりも滑らかで。
 ――こっ、これは……!
 手を離せない。いつまでも触っていたい。それほどの心地良さ。

 ふわふわなでなでくいくいさわさわ……

「……ン」
「!?」
 上がった声と、ぴくんと揺れる耳。妖夢は慌てて布団に潜りこんだ。
 ――やり過ぎた!
 椛に背を向け、眠ったフリをしながら様子を窺う。
「…………」
「…………」
 動きは……ない。
 ――お、起きてない?
 安堵の息をついて、妖夢は固く眼を閉じた。これ以上起きていると、また触りたくなってしまう。
 妖夢は、右手に残った感触を忘れないように念じながら、再び眠りについた。



 …………



「待たないぞ」





「私も強くなる。でないと、すぐに追いつかれてしまうかもしれないからな」










「それと、触るのは構わんが、もう少し丁寧に触ってくれ。くすぐったくて堪らん」





   了
妖夢パワーアッププラン:死神式
 内なる狂気を克服してみよう!

 結論:危ないのでやめましょう。

 というわけで、全体では4作目、続き物としては3作目。鞘の花です。
 執筆のペースを上げることが目下の目標です。
 
 では、ここまで読んでくださってありがとうございました。
 いつか、また、どこかで。

2012/02/23
 ・誤字を修正しました。

2012/02/25
 ・誤字を修正しました。
 ・一部の表現を修正しました。

2012/03/15
 ・こっそり誤字を修正しました。

2012/09/17
 ・分類タグに『斬り捨て御免と千里眼』を追加しました。
 ・概要を記載しました。

2012/09/18
 ・分類タグを修正しました。
  斬り捨て御免と千里眼 → 切り捨て御免と千里眼
鞘の花
http://twitter.com/Medal_of_Greed
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コメント



0.830簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
>妹紅はが尻餅をついた
妹紅は?
この二人はお互いに尊敬し合ってる所が良いですよね
2.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
続きも楽しみにしてます。
3.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです!
4.100名前が正体不明である程度の能力削除
楽しかった。
12.100とーなす削除
もみじもみもみ。
白狼と庭師シリーズ、楽しみに待ってました。やはりこの二人はいいね。面白かったです。
鞘の花さんの作品はとても丁寧で読みやすいです。
13.無評価鞘の花削除
この度は作品を読んでいただき、ありがとうございます!

>> 奇声を発する程度の能力さん
誤字の指摘ありがとうございます。修正させていただきました。

お互い、自分の持っていないものを相手に感じていて、だから惹かれあう。
そんな二人だったらいいなと思いながら書いてます。

>> 2
ありがとうございます!
これからも頑張ります!

>> 3
ありがとうございます!

>>名前が正体不明である程度の能力さん
ありがとうございます!

>> とーなすさん
もみもみ。
うおーう、待っていてくださったとは光栄です!
執筆ペースを上げたいと願いつつ、これからもゆったり丁寧に書かせていただきます。
15.90コチドリ削除
俺はかねがね思っていた。魂魄妖夢とは半人半霊、即ち彼女の魅力を十全に引き出すには、
半霊ちゃんの描写も怠ってはいけないのではないのかと。

翻ってこの作品の妖夢。いいっすねぇ、半人と半霊がお互いを高め合っている。
いわゆる可愛らしさのミックスアップ。ふよふよ抱き枕は譲れない。わかってらっしゃる作者様。
未熟さ故のけなげさや微笑ましいわがままも標準装備。隙がないぜ作者様。

四角四面、不器用で口下手、そこはかとない脳筋臭を漂わせる椛も良し。
ゲストである妹紅にもきちんと見せ場が用意されているし奥行きも感じられる。うむ、この白髪トリオは良いものだ。
あ、髪といえば、さきのように白髪で一括りにしてしまう俺にとって、和のテイストで表現される
キャラごとの細やかな描写はとても好ましいものです。
そしてその細やかさは髪だけにとどまらず作品全体に及んでいるとも感じます。

正直派手ではない。派手ではないんだけど真面目で安定したつくり。
好きですよ、こういう物語。
17.無評価鞘の花削除
>> コチドリさん
読んでいただいてありがとうございます!

私は、妖夢の半霊は、妖夢の心を表す鏡だと思うのですよ。
体調が悪ければ併せてぐったりするし、慌てれば落ち着きなく動き回ったり。
そういう、妖夢とは切っても切れない存在ですから、適度に存在をアピールさせていました。
半霊も大切な妖夢の半身ですからっ。

キャラクターの描写にあたって、今回は三人とも髪の色が白系だったので、服装だけでなく、その辺りにも違いを出せればと思いました。
妖夢は銀髪として、椛も妹紅も白髪。でもその質はやっぱり二人とも違うんじゃないかなと。
作中にも書いたとおり、椛の白は雪のような純白。妹紅の白は月明かりのような、淡い白なのかな、というイメージ。

誤字、表現の指摘ありがとうございます。
誤字はすぐに修正を、表現に関しては読み返して適切に修正させていただきます。
20.90名前が無い程度の能力削除
人物の性格付けが丁寧なのも素晴らしい。
幅広い経験を持つがゆえに柔軟な妹紅に対し、枠組みの中で生きてきたから考えの狭い椛と若い妖夢との対比とか、眼を見張るものがありました。

ただ、妖夢が拗ねるあたりの描写でちょっと緊張感が削がれてしまったかな、という点が気になりました。
椛の精神に傷をつけたかったのかと思われますが、どちらかというと身体に傷をつけた方が手に汗握れたかもしれません。
そしてこれは個人的なわがままですが、永夜抄のオプションよろしく半幽霊からバックショットを撃って椛の背を守る描写を見たかった。

とはいえ、充分に物語を堪能させてもらいました。ありがとうございました。
21.無評価鞘の花削除
>> 20
感想、ご指摘ありがとうございます!

> 人物の性格付けが丁寧なのも素晴らしい。
ありがとうございます。
幻想郷の少女たちはみんな個性的で、大切な魅力のひとつですから、きちんとかき分けが出来ていたようで安心しました。

> ただ、妖夢が拗ねるあたりの描写でちょっと緊張感が削がれてしまったかな、という点が気になりました。
うむむ、確かに。
改めて読み返してみると、あの場面において妖夢が拗ね始めたあたりから周囲の状況が完全に空気になっているように感じられました。
意図してはいなかったのですが、緊張感の削がれる展開が割り込んでしまったのはミスでした。
今後の創作の参考にさせていただきます。

>個人的なわがまま
その展開は妖夢が全快状態の時に……!
22.100名前が無い程度の能力削除
狂気の瞳か…
23.無評価鞘の花削除
>> 22
コメントありがとうございます!
狂気の瞳なのです。危ないですね。
24.100名前が無い程度の能力削除
もみじもふもふ。
25.無評価鞘の花削除
>>24
コメントありがとうございます。
もふもふ。
30.100名前が無い程度の能力削除
 続いて読ませて頂きました。今回は尺も伸びてボリュームも増しましたね。
 ひとつめのお話の戦闘描写と、ふたつめのお話の妖夢と椛の繋がりの話。
 今回はそのふたつが合わさって描かれていて、両方の面で楽しませて頂きました。

 シリーズとしての筋も発展が見られたと云いますか、妖夢の妖視の能力の解釈には
 新鮮さを感じると同時に、原作の設定を活かした新たな可能性をも感じましたね。
 相方が千里眼の能力を持つ椛なので、それはなおさらのことだと思います。
 これが次、もしくはさらに後のお話でどう活かされてゆくのか、とても楽しみです。

 妹紅の描写にも親しみを覚えました。原作では阿求が妖怪との知り合いが増える
 ことで転生の辛さも和らいだということでしたが、この妹紅におきましても
 同じことが云えるのかもしれませんね。永遠に咲く桜のように美しさを保ち続ける
 椛を始めとした妖怪達の存在は、妹紅にとっても好い影響を与えてくれるかも。
 ……寿命ということを考えると、そういえば椛と妖夢は、ううん、気になりますね。

 読ませて頂き、ありがとうございます。次のお話へレッツゴー!