博麗神社へ向かう道中、雪が降り始めた。
私は舌打ちをして、マフラーを深く巻く。
朝から雪おこしの風が吹いていたから覚悟はしていたが、なにも移動中に降りだすことはないだろう。
もうほうきを握った手がかじかんできた。
昨日は暖かかったのに、こんな日に空を飛ぶもんじゃないな。
なぜよい日のことを『ハレの日』というかがわかった気がするぜ。
雪は北風に揺られ、ななめに滑っていく。
鉛色の空に、淡くて冷たい色の大地。
枯葉が舞っているのが、見える。
きっと今頃チルノは、友人の妖精たちとはしゃいでいることだろう。
やつらの愉快そうな笑顔を思い出し、雪遊びをしたくなった。
寒いのは苦手だがね。
いやまて、確かに寒いのは苦手でなのだが、昔から雪遊びは割と好きだったりする。
よく変だと言われる。
変だろうか。
雪だるま作って、つららでチャンバラごっこして、雪合戦をしたあたりで手が真っ赤になる。
私はすぐしもやけになるので、毎度その辺でギブアップしてしまう。
そして、ほかの連中が遊ぶのを横目に、神社で霊夢とお茶を飲んで温まるのである。
そういえばもうずっと雪合戦をしてないのを思い出した。
今日の雪が積もったら、みんなを誘って紅魔館あたりで雪合戦をしようか。
あそこの中庭がちょうど良い広さだからだ。
雪かき代わりだと言えば、咲夜や美鈴も了承するだろう。
私は急にわくわくしてきて、ほうきを握る手に力を入れた。
鳥居がもう視界に入っている。
マフラーと帽子が飛ばないように注意して、私はスピードを上げた。
***
神社の境内には、この短時間ですでにうっすら雪が積もっていた。
静かだ。
北風がうるさいはずなのに、なぜかそんな印象を受けた。
神社の隅のほうに集められた落ち葉の山に、うっすら雪が積もっている。
この調子じゃ裏の池は氷が張っていそうだ。
雪を踏み鳴らす、きゅっきゅっという音がやけに響く。
今日は誰もいないのだろうか。
静かな神社はいつもと違う雰囲気を持っていた。
落ち着いた存在感。
これが厳粛ってやつか。
霊夢にはないものだな。
そういえば、中からまったく物音がしないが、どうしたのだろう。
ちょっと気になり、靴を脱ぎ捨てる。
靴下ごしの床がひんやり冷たい。
玄関の戸を開けると、一瞬誰もいないように見えた。
出かけているのかと思ってそのまま部屋に入ると、なるほど。
霊夢は、コタツに半分ほどもぐってすぅすぅと寝ていた。
巫女服のまま何も着ていないところを見ると、こいつ今日は外にも出ていないな。
まったく。
風邪をひかぬよう、毛布を掛けておいてやる。
次に私は、勝手知ったるとばかりに自分用の湯飲みを持ち出し、いつもコタツの上にある茶釜を傾ける。
出た茶は出がらしなうえ冷たくなっていた。
マズイ。
仕方なく、新しい茶を作るため八卦炉とやかんで湯を作ることにした。
やることがない。
暇である。
霊夢を見る。
疲れているのだろうか。
割とうるさかったはずだが、全く起きる気配がない。
ほっぺがほお紅をつけたみたいにほんのり赤くなっている。
寒いのだろうか。
つんつんしてみる。
やわらかい。
ちょっと顔をしかめるのが可愛かった。
あんまりいじめてやるのもかわいそうに思えたので、このくらいにして私もコタツに潜る。
優しい暖かさに包まれた。
やはり寒いのより暖かいのだよな。
コタツに溶けるような感覚に襲われ、ちょっと眠くなった。
霊夢を見る。
規則正しい寝息の音が、子守唄みたいだ。
やかんが湯気でしゅっしゅっと音を立てている。
来るときにはあれほどうるさかった北風ももう吹いていないようだ。
誰もいなくて、しーんとしていて、二人だけで……。
なんだかとても、
「……いい日だな」
おわり
博麗
何でもない日の穏やかな感じが良かったです
すごい
作者さんが無理をしていないし気取ってもいない。安心して読み終えることができる掌編でした。
次回作楽しみにしてます。
細かい描写が冬らしさを感じさせてくれました
ただ気になったのが独白の主体が魔理沙だということが描写から分かりづらいため、感情
移入に引っ掛かりを覚えてしまい素直に物語へ入っていけなかったという点です。
箒で飛んでいると描写されているので考えれば魔理沙だと分かるのですが、考えれば分か
るということは考えなければ分からないということでして、誰なのか考える分、ほんの少
し感情移入に抵抗が発生してしまうのです。
明確に駄目な点というわけではなく実に些細な事なのですが、そういった些細な事に気を
配れているかどうかで感想は大きく変わってきてしまいます。
わざわざこんな粗探しのような感想を書いたのも、期待の裏返しと捉えていただければ幸
いです。
もっとあなたが書く話を読みたいです