「馬鹿、死にたいのか!」
霧雨魔理沙の頭は混乱していた。
何せ紅魔館にやって来るや否や、いきなり妖精メイドに斬りつけられたのだ。
混乱するなと言う方が無理な状況であった。
「聞いてるのかしら、魔理沙」
妖精メイドの斬撃から魔理沙を守ってくれた少女、レミリア・スカーレットが苛立たしげに問いかけてくる。
流石は吸血鬼と言うべきか、自分より大きな魔理沙の身体を軽々と担ぎながら走っているのだから大したものだ。
そもそも何故こうも逃げるように走っているのかがまず疑問ではあるが。
よし、まずは落ち着いて状況を整理してみよう。
魔理沙は残り少ない脳内メモリで現状の把握に努めることにした。
今日は2月14日、幻想郷でも言わずと知れたヴァレンタインデーだ。
毎年何処かしらにチョコをたかりに行く魔理沙だが、今年のターゲットは紅魔館だった。
何せ紅魔館のメイド長、十六夜咲夜はお菓子作りが大の得意だ、彼女のチョコレートケーキに期待しながら魔理沙は紅魔館へと飛んだ。
そして咲夜の居場所を聞こうと思い、ロビーに居た妖精メイドに声を掛けたらこの騒ぎである。
もしあそこでレミリアが首根っこを掴んで引っ張ってくれなければ、魔理沙は今頃三途の川で死神に八つ当たりするハメとなっていたかもしれない。
結論、何がなんだかわからない。
「魔理沙、今日が何の日かわかっているの?」
誰も追ってきていない事を確認すると、レミリアは足を止めて魔理沙を下ろす。
魔理沙を睨むその瞳はいかにも、この世間知らずのぷっぷくぷーめ、とでも言いたそうであった。
とは言え幻想郷において2月14日が何の日かなど、言うなれば一般常識の域である。
何を今更、とばかりに魔理沙はレミリアの問いに答えてみせる。
「何って決まってる。ヴァレンタインデーだろ?」
「レーヴァティンデーよ」
ぽくぽくぽくぽく、ちーん。
魔理沙、一瞬硬直。
「えーと、もう一回頼む。2月14日は?」
「レーヴァティンデーよ」
「いやいや、ヴァレンタインデーだろ?」
「レーヴァティンデーよ」
「よしんば今日がヴァレンタインデーだとしたら」
「レーヴァティンデー、よ」
何処ぞのコントのようなやり取りだが、レミリアの表情は至極真剣である。
確かにちょっと響きは似てる気がするが、最早意味不明な記念日である。
苦笑しか浮かんでこない魔理沙に対して、レミリアは呆れたようにやれやれと首を横に振った。
「レーヴァティンデーはスカーレット家に代々伝わる行事。自分の大切な人にレーヴァティンを突き立てることで、日頃からの想いを伝える日よ」
「OK、絶対に関わりたくないイベントだと言う事は理解した」
予想を遥かに超える阿呆イベントだった。
「愛してます、死ね!」みたいなイメージだろうか。
君と殺しあうRPGもびっくり、参加を促した時点で殺人幇助になりそうな危険度である。
成程、そのような阿呆イベントの真っ最中なら攻撃されるのも無理は……いや、ちょっと待て。
ここで魔理沙の脳裏に一つの疑問が浮かぶ。
「そのレーヴァティンデーとやらで、何で私がメイドに襲われなくちゃいけないんだよ」
魔理沙からすれば、名前も知らないようなモブメイドだ。
愛しい相手を刺し貫くイベントにおいて、襲われる覚えなど無い。
いや待てよ、こちらの覚えがなくとも、あちらには覚えがあるのかもしれない。
はっ、まさか紅魔館に入り浸る私に対して、密かな想いを……?
魔理沙のそんな自意識過剰な論理を、レミリアは一笑に付す。
「ああ、それはアンタが私のチームの一員だと思われたからでしょ」
「チームぅ!? なんで想いを伝えるイベントにチームとかあるんだよ?」
「チーム対抗の方が燃えるって言う理由で御祖父様が」
「お前らの家系は阿呆ばっかりか」
「否定はしない」
認めながらもこの幼女、何故か誇らしげである。
「元々スカーレット家のイベントだからね。主役であるスカーレット家の者が大将になり、他の連中は各自それぞれ自分の好きな方に付く事になっているのよ」
「えーっと、つまり。今だったら、レミリアとフランって訳か?」
「その通り。さっきのメイドはフラン派の妖精だから、自分のチームではないアンタを攻撃したって訳」
勘違いで命を奪われる所であったと言う事実に、魔理沙は心底げんなりとした気分で頬を引き攣らせた。
対してレミリアはと言えば、相変わらずのゴーイングマイウェイ。
魔理沙の疲れた様子など意に介さず、聞いてもいないレーヴァティンデーのルールをドヤ顔で説明している。
しかもそのルールとやらが聞けば聞くほど実に馬鹿らしい。
一つ、攻撃はレーヴァティンでのみ許される。能力の使用も禁止とする。
一つ、一度レーヴァティンでの攻撃を喰らった者はその場で脱落、そのような軟弱者に想いを伝える権利は無い。
一つ、一振りのレーヴァティンで想いを伝えられる相手は一人のみ。二股駄目、ゼッタイ。
一つ、脱落者のレーヴァティンを奪う事は不可。強奪したプレゼントで想いを伝えるなど言語道断。
一つ、大将が脱落した時点で配下の者も脱落。恨むなら無能な大将を恨むべし。
詰まるところ、紅魔館全体で行うチェスのような物である。
聞こえは楽しそうかもしれないが、痛みを伴うってレベルじゃないのが笑えない。
そもそも……。
「レーヴァティンってフランの剣だろ? フラン以外の奴攻撃できないじゃないか」
「我が妹を甘く見るなよ。あの子に掛かれば、大量のレーヴァティンを用意する事など、九九の七の段を暗記するくらい容易い事よ」
「ああ、そう言えばさっきの妖精メイドが持ってたのも……」
「そう、レーヴァティンよ。あの子は毎年この日の為に手作りレーヴァティンを用意し、紅魔館の皆に配ってくれているのさ」
「敵のチーム分も?」
「当然。勝負はフェアでなくてはいけないからね」
「お前持ってないじゃん」
「何処に目がついているのかしら。ほら、ちゃんとさっきから持ってるでしょうが」
差し出されたレミリアの右手を、魔理沙は目をこらすようにして注視する。
成程、確かにレミリアの言うとおり、そこには何か歯の間に挟まった物を取り除くのに最適そうな何かがちょこんと摘まれていた。
端的に言うなら、爪楊枝である。
「これこそが私、レミリア・スカーレットの武器、爪楊枝・オブ・レーヴァティンよ」
「いや、それもうレーヴァティンどころか武器ですらないだろ! お前完全に妹に嵌められてるぞ!」
「騒ぐな、姉としてこの程度のハンデはあって然るべきよ。それに私が爪楊枝なのは毎年の事、別に今年に始まった訳じゃないわ」
落ち着き払った様子でそう言ってのけるレミリア。
一見すると、余裕たっぷりな表情にも見える。
しかし魔理沙の頭の中に吊るされた警鐘は、やたら大きな音で鳴り響いていた。
これは『余裕』ではなく『諦観』ではないか、と。
先程このお嬢様は、全員分のレーヴァティンはフランが用意していると言った。
それはつまり、誰にどのような武器を作るのか、割り振るのかは敵チームであるフランの裁量に掛かっていると言う事だ。
現にレミリアの武器は貫禄の爪楊枝、彼女がその気になれば、敵チームに碌な武器を渡さない事だって出来るのだ。
と言うか、魔理沙がフランの立場なら、確実にそうする。
そして、大将である筈のレミリアが護衛もなしにこんな場所を一人うろついていると言うこの現状。
何処に敵がいるかもわからない状態で出歩くなど大将としては余りに軽率な行為……そんな事をこの吸血鬼が理解していないとは思えない。
それでも彼女がこうして出歩いているのは、そうしなければいけない状況なのでは無いだろうか。
大将自らが危険を犯してでも動きまわらなければいけない、それはつまり……。
「なぁ、お前のチームって……」
「お前の思ってる通り、私一人よ」
「……」
「愛される主人は辛いわ。館の連中が皆、私に気持ちを伝えようとフラン側についてしまうのだから」
魔理沙の目の前には今にも沈みそうな泥船が浮かんでいた。
愛され主人などとのたまっているが、メイド達全員に剣を向けられるその構図はどう見ても恨まれ主人の間違いである。
もっとも、ルール上そうなってしまうのはある意味仕方の無いことなのだが。
何せ武器の供給は完全にフランが握っているのだ、逆らう者には容赦のない爪楊枝が待っている。
好きな方についていいと言われれば、長いものに巻かれるのは当然の成り行きである。
と言うか、魔理沙が妖精メイドの立場なら、確実にそうする。
味方は己のみ、武器は使い捨ての爪楊枝……対する敵軍は大量の兵と強力な武器。
どう考えても勝ち目のない戦であった。
コイツも馬鹿じゃないだろうに、どうしてわざわざこんな勝ち目のない遊びをしてるんだか。
若干の哀れみを覚える魔理沙だが所詮は他人事、それよりもまずはこの場から離れることが先決である。
なんにせよ今レミリアの側に居るのは自殺行為、それだけは確かなのである。
「じゃ、取り込み中みたいだし、私はここで」
そそくさと撤退を敢行する魔理沙。
しかしそうは問屋が卸してもレミリア・スカーレットが卸さない。
逃げ出そうとした魔理沙の肩は、既に吸血鬼の小さな掌でがっちりと掴まれていた。
「まぁ待ちなさい。今日この日、この場で出会ったのも何かの運命だわ。いい機会だし、もう少し見学して行ったらどうかしら。滅多に味わえない貴重な経験よ」
「よし、まずは本音で話しあおうぜ、レミリア・スカーレット」
「肉壁となれ、霧雨魔理沙」
「虫眼鏡で日光集中させてやろうか、ちんちくりん」
暴言を吐き合う二人は、互いにとてもいい笑顔であったと言う。
強引にでも逃げ出そうとする魔理沙だが、レミリアは決して魔理沙から手を離さない。
顔に浮かべた温和な笑みとは対称的な、万力の如き握力でその場に抑えつけられる。
吸血鬼の力に人間が勝てる筈もない。
その事を十二分に理解している魔理沙は、一つため息を吐くと諦めたように全身から力を抜いた。
「あ! あんな所に空飛ぶ納豆が!」
「えっ、何処何処!?」
そしてこの頭脳プレー……否、煩悩プレーである。
まんまと振り返ったレミリアを尻目に、魔理沙は全速力で廊下を駆け抜ける。
目指すは廊下の突き当り、日光を遮断する紅魔館には貴重な、人が通れるだけの大きさをもった窓である。
あそこさえ抜けてしまえばこの不条理な非日常とはサヨナラバイバイと言う訳だ
チョコへの欲望も相まって、更に加速した魔理沙は一気に窓へと突進する。
さよならレーヴァティン、おかえりヴァレンタイン。
「待て! 今そっちは……!」
レミリアの声が聞こえたのと同時、突然強烈な殺気を感じた魔理沙はその場で急停止する。
次の瞬間、魔理沙の目の前の床が大きく抉り取られた。
その余りに強烈な一撃に先程までの希望は一瞬で霧散、頬を引き攣らせながら後ずさることしかできない魔理沙。
恐る恐る視線を上げてみれば、そこに在ったのは良く見知った少女の姿であった。
「今の一撃をかわしましたか。流石、と言っておきましょう」
紅美鈴。
紅魔館の門番にして武術の達人である彼女が、魔理沙の目の前に立ちはだかっていた。
その手には、少女の身には似つかわしくない大刀、青龍偃月刀が握られている。
「おい、レミリア。あれもレーヴァティンなのか?」
「見ればわかるでしょう」
「いや、確かに刀身は紅いけど……アレでいいなら、お前もグングニル使っちゃ駄目なのか?」
「何言ってるの、レーヴァティンとグングニルは似て非なるものよ。カレーライスとハヤシライスくらい違うわ」
何とも微妙な差だった。
詰まる所カレーパンはOKでもハヤシは駄目的なルールらしい。
かなり線引きが微妙な気もするが、そこはスカーレット家のルールらしいのでどうしようもない。
名も知らぬスカーレット家の先祖達を心の中で罵倒しながら、そそくさとレミリアの側へと戻り態勢を立て直す。
対する美鈴はと言えば、決して焦って追ってくるような事はせず、落ち着いた表情を浮かべながら仁王立ちで二人の道を塞いでいる。
「まさか魔理沙さんが援軍としてお嬢様につくとは、流石に予想外でしたね」
「いや、私はただ」
「そう! 彼女は私の忠実な僕よ!」
「てめええええええ!」
掴みかかる魔理沙だが、レミリアは涼しい顔。
美鈴に向けて訴えるような視線を送るも、返ってくるのは強烈な殺気のみ。
どうやら完全にレミリアチームの一員として認識されたようである。
「落ち着け! 私はただチョコを……」
「戯言は無用!」
魔理沙の言い訳を断ち切るように、美鈴は手にしたレーヴァティンの柄を地面に叩きつける。
その轟音と衝撃に、口から出ようとしていた言の葉が詰まる。
「誰が敵になろうと関係有りません。私は例年通りお嬢様に感謝の気持ちを伝えるべく、このレーヴァティンを振るうのみです」
「だーかーらー……」
「諦めなさい。ああなった美鈴はお前の話なんて聞かないわ」
誰のせいだと思ってるんだ、このちんちくりんは。
思い切り睨みつけるもレミリアは相変わらず気にする素振りも見せない。
流石は紅魔館の主というべきか、その表情からはある種の余裕すら感じられる。
よくよく考えてみれば、レミリアは毎年この圧倒的不利な戦を繰り返しているのだ。
何かしらの勝算があるからこそ、現状のルールを受け入れているとは考えられないだろうか。
魔理沙の頭の中に、一抹の希望が浮かぶ。
と言うか、藁でもいいからすがりたい気分であった。
「レミリア、一応聞いておくが最近の戦績は?」
「百から先は覚えていないわ」
「? それは連勝という意味か?」
「もちろん、連敗よ」
「は、ははっ、脅そうったって無駄だぜ。だってフランは最近まで幽閉」
「幽閉なんかより、レーヴァティンデーの方が優先に決まってるでしょう。残念ながら、れっきとした事実よ」
「……まじ?」
「まじ」
「……」
「なに、案ずる事はないさ。その程度じゃ吸血鬼は死なないし、今年こそは勝つとけーねも」
「こんな奴と一緒に居られるか! 私は帰らせてもらう!」
前言撤回、やっぱりこのお嬢ただの馬鹿である。
脱兎の如く美鈴の反対方向に逃げ出そうとするが、身体はその場から動かない。
例の如く、深窓のお嬢様の怪力アームが肩をがっちりと掴んでいた。
「あ! あんな所に空飛ぶ梅干しが!」
「そんな手に誰が引っかかるか、阿呆」
「うおおおおお! 離せ阿呆お嬢ぉおおお!」
「阿呆はお前よ。美鈴がそちらに誘導しているのがわからないの?」
「なに?」
レミリアに言われ、はっとしたように魔理沙は動きを止める。
確かに大将を見つけたにしては、美鈴の動きは余りにも緩慢だ。
レミリアのスピードで逆方向を目指せば、十分に逃げ切ることが出来るだろう。
しかし、もし逃げさせる事こそが美鈴の狙いだったとしたら?
魔理沙はレミリアの指差す先、廊下のT字路部分を注視する。
そしてすぐさま理解した、あの場所が活路などではなく、ただの死地で在るという事を。
「流石はお嬢様、お見通しでしたか」
その死地を守るは十六夜咲夜。
完全にして瀟洒な従者が、幾人もの妖精メイドを引き連れ姿を現した。
手にはレーヴァティンという名のナイフが一本、その紅は離れた位置からでも毒々しいまでの輝きを放っている。
もしあのまま魔理沙がT字路に突っ込んでいたなら、あの紅の刃で串刺しにされていただろう。
ちっ、と面白くなさそうに舌打ちをしながら、魔理沙は咲夜と睨み合う。
「お嬢様につくとは以外だったわ、魔理沙。貴女は勝ち目のない戦いはしない主義だと思っていたけど」
「私こそ以外だったぜ、咲夜。お前は例えどれだけ不利な状況でもオジョウサマにつくと思っていたんだがな」
「わかっていないわね。確かに私が誰よりも敬愛するのはレミリアお嬢様。だからこそ、私の気持ちを……レーヴァティンを向ける相手はお嬢様以外あり得ない」
「フフ、愛され主人は辛いわね」
「とばっちりに巻き込まれる方が辛いっての」
忠誠心あってこその敵対、本来ならば心強い味方である筈の十六夜咲夜は、この日に限っては非常に厄介な敵であった。
能力が使えないとは言え彼女のナイフ捌きはかなりのもの、背後も他のメイド達が埋め尽くしておりとても突破は見込めない。
ならば逆と言いたい所だが美鈴は武術の達人、弾幕ごっこならば怖くもなかった相手も、今は非常に大きな壁として二人の前にそびえ立つ。
前門の虎後門の狼とでも言うべきか、二人は完全に進路を塞がれた形となっていた。
「……どうするよ。完全に囲まれてるじゃないか」
「スカーレット家に代々伝わる霧雨ガードを使えば、私だけは助かるわね」
「私も今スカーレットシュートって言う素敵な技を考えたんだが、一度試してみないか」
「冗談よ。そうムキにならないで頂戴」
危機的状況にも関わらず下らないギャグを飛ばすレミリアに少しばかり殺意を覚えるが、今はそちらの相手している暇はない。
このままではいずれレーヴァティンの餌食となるのは確実なのだ、なんとしてでもこの包囲を抜け出さなければ。
こうなったらルールなんて無視して思いっきりマスタースパークぶっぱなして一気に……などと魔理沙が黒い思考を走らせたその時だった。
肩に乗せられていたレミリアの手が、魔理沙の身体をぐっと引き寄せる。
「助かりたいか、魔理沙」
「なんだ、何か手があるって顔だな」
「フフ、私がただ闇雲に逃げ回っていたと思う?」
「節分では逃げまわってたな、目下百連敗」
「やかましい。助けて欲しければその減らず口を慎みなさい」
「かしこまりましたのぜ、オジョウサマ」
「……何か引っかかるけど、まぁ許してあげるわ」
咳払いを一つすると、レミリアは魔理沙の腰に手を回しひょいと持ち上げる。
「うわ、何するんだよ」
「大人しくしてなさい、舌を噛むわよ」
いかにも何かを仕掛けようと言うレミリアの様子に、待ち構える咲夜や美鈴、メイド達にも緊張が走る。
己の一挙手一投足に注目する彼女達の様子を満足そうに眺めながら、レミリアは大仰にその口を開く。
「咲夜、貴女のメイド達への指揮能力は大したものね。毎年いとも容易く私を誘導し、逃げ場のない袋小路へと追い詰める」
「……お褒めに預かり光栄ですわ」
「けれど、今回に限っては私の方が上手だったわね。貴女達は私を誘い込んだつもりなのかもしれないけれど、逆よ。私がこの場所に貴女達を誘い込んだの」
そこまで口にすると、レミリアは魔理沙を担いだまま廊下の壁に向かって左手を伸ばす。
そして小柄な体躯に似つかわしくない力を込めてぐっと壁を押し込んだ、その時であった。
「なっ!?」
厚い壁である筈のそれは、レミリアの押す力に従うように回転し、大きな音と共に彼女の為の道を開いていく。
回転式の隠し扉、それも作動させるのにかなりの力を必要とする、吸血鬼専用と言っていい代物だった。
レミリアは魔理沙をその扉の向こうへと投げ込むと、皮肉たっぷりの笑みで従者の瞳を覗き込む。
「さようなら、咲夜。フランの首は貰って行くわよ」
「っ、美鈴!」
予想外の事態に呆気に取られていた美鈴が、咲夜の声で我に返る。
すぐさまレミリアのもとへと駆けるが時既に遅し、180度回転を終えた扉は閉じられ、彼女の目の前には壁の裏側が広がっているだけだった。
―――――――――
「いったたたた……」
隠し扉の先は違う部屋に……と思いきや、待っていたのはいきなりの落下だった。
魔理沙は打った尻をさすりながら、眼前に伸びる暗く狭い道を匍匐前進で進んでいく。
扉を開けていきなり下に降りた事を考えても、恐らくこの道は廊下の床下を通っているのだろう。
現にどたどたと慌ただしい足音と振動が、頭上から響きわたってくる。
頭上は騒音、道幅はギリギリ、魔法で灯りをつけてみれば目の前には先を行くレミリアの尻、居心地が悪いってレベルじゃない。
「なぁ、なんだよこの道は。隠し扉って普通他の部屋と繋がってるもんじゃないのか」
「そこが思考の落とし穴なのだよワトソン君。先ほどの隠し扉を目にして、間違いなく咲夜達は壁の裏の部屋を目指すだろう。しかし到着してみればそこに我々の姿は無し、一体奴らは何処に消えたんだって訳さ」
「……はぁ」
「そしてあの扉は私並の力が無いと開ける事は出来ない。美鈴でも開けるのは無理でしょうね。仮に破壊されたとしても、今度は身体の大きさ的に咲夜や美鈴はこの道を通る事が出来ない。……完璧。我ながら完璧な作戦過ぎて寒気すら覚えるわ」
何か幼女が目の前で身悶えしてる、キモイ。
「本来なら私だけが通る予定で掘った穴だけど、ちびで助かったわね、魔理沙」
「やかましいわちび筆頭。と言うか、このトンネルってお前が掘ったのか?」
「ええ、一時期忍者に憧れていた時期があってね。この日の為に少しずつ道を作っていたのよ」
「レミリア、お前って奴は……本当にアホだな」
「黙れアホ筆頭」
アホ同士がアホアホ言い合いってる実にアホらしい光景だった。
まぁしかし、レミリアの戦略のおかげで九死に一生を得たのは事実、敵さんも隠し扉で逃げた連中が、今まさに自分達の真下を這っているとは思いもしないだろう。
そう考えると魔理沙としても、少しばかりレミリアの事を見直したい気分だった。
いや、本当に少しだが。
「まぁ、とにかくこれで連中から見つかる心配は無いって訳だ。後はこのままフランの所まで床下を通って行けば勝てるかもしれないな」
「無理よ。そんな長いトンネルを咲夜に見つからずに掘れる筈がないでしょう。第一フランが何処に陣取っているかだってわからないのに」
「はぁ? さっきお前『フランの首は貰った』って言ってたじゃないか」
「ただのハッタリよ。そう言って姿を消せば、連中は私達の捜索よりフランの護衛に兵を回すでしょう?」
「む……。じゃあ何処に繋がってるんだよ、このトンネル」
その質問を待っていた、とばかりにレミリアは不敵な笑みを浮かべた。
咲夜なら一目で悩殺されかねない程のカリスマフェイスのまま言葉を紡ぎ、魔理沙の疑問に答えてやる。
「この館唯一の協力者のもとへよ」
尚、魔理沙からは角度的に尻しか見えていないのは内緒である。
「ここは……」
トンネルを抜けると、そこは見知った光景だった。
陽の光が入らない薄暗い空間、巨大な無数の本棚、かびたような香の匂い。
間違える筈がない、パチュリーが何時も利用している地下図書館であった。
成程ねぇ、と協力者の正体に確信を持った魔理沙だが、レミリアは気にせずずんずんと歩みを進める。
彼女の視線の先には、予想通りというべきか、いつもの机で本を読むパチュリー・ノーレッジの姿があった。
「来たわね」
読んでいた本を閉じると、レミリアへと向き直るパチュリー。
全く警戒する様子がない所から見ても、レミリアの言う協力者とは彼女の事で間違いないようだった。
遅れてやってきた魔理沙も、手を挙げながら「よっ」と軽く挨拶をする。
「あら、貴女も居たのね。義理レーヴァティン欲しい?」
「全力でいらん」
「彼女は私の僕よ。まぁ、盾くらいには使えるでしょ」
「そんな事を言うのはこの口か、おい」
「はらひらはひ、はへりひふいは(離しさなさい、喋りにくいわ)」
流石は幼女、頬をつねるとよく伸びる。
癖になるつねり心地ではあるが、噛み付かれるのも何なので、言われるがままに手を離してやった。
こほん、と軽く咳払いをすると、レミリアは話を仕切り直す。
「それでだ、パチェ。例の物は」
「ええ、用意してあるわよ」
質問に答えながら、パチュリーは机の引き出しを開け、中から例の物とやらを取り出した。
禍々しいまでの輝きを放つ紅の刀身……レーヴァティンの短刀が二人の目の前に置かれる。
「ふむ、もっと大きな武器の方がよかったけど、爪楊枝よりはマシね」
「なんだ、レミリアのに比べると随分まともな武器をもらってるんだな」
「パチェは表向きはフラン派の一員だもの。親友への友レーヴァティンなら怪しくもないでしょう?」
「実際去年まではフラン側だったしね。今年も例年通りって言ったらすぐに渡してくれたわ」
「成程、それで『協力者』ね」
先程、レミリアは自分のチームは一人だと言っていた。
協力者を頼ると聞いた時、魔理沙としてはそこが引っ掛かっていたのだが、今の話を聞いてようやく理解する事が出来た。
詰まる所、パチュリーは獅子身中の虫なのだ。
フラン派を装い、情報と武器を調達するレミリアのスパイ。
それが今回のレーヴァティンデーにおける、パチュリー・ノーレッジの役割であった。
「フランの位置は?」
「三階の大広間よ。迎え撃つにはうってつけの場所ね」
「だとすると、このルートで行くのが最短かしら」
「待って。さっきまではここでメイド達が待ち伏せを行なっていたわ。咲夜の布陣は流動的だから、既に配置を変えてるかもしれないけど」
「それでも、わざわざ通る必要はない、か。それなら……」
館の見取り図を広げながら、レミリアとパチュリーはフランへと辿り着く為の道筋を考える。
その表情は真剣そのもの、特にレミリアからはこの下らない戦で何としてでも勝利を収めたいと言う気迫が見て取れた。
まぁ、妹には絶対負けたくないという、姉としての意地はわからないでもない。
ならばパチュリーは?
色素の薄い横顔を眺めながら、ふと魔理沙は思う。
どうして彼女はわざわざ危険を犯してまで、有利な筈のフラン派を捨てたのだろう。
自分の武器をレミリアに託し、彼女は一体何を望んでいるのだろう。
そんな魔理沙のわかりやすい心の内を読まれたのか、それとも気付かぬ内に声に出ていたのか。
知識と日陰の少女は見取り図に向いていた視線を魔理沙へと向けると、滅多に見せないような優しい表情で答えを紡ぐ。
「たまには、レミィが気持ちを伝えるのも面白いでしょう?」
「は?」
「この子は不器用だから、こんな日くらいしか素直な気持ちを伝えられないのよ。けれど最近はずっと負け続け。何時もあの子から気持ちを受け取ってばかりで」
「パチェ」
「はいはい、わかったわよ」
レミリアに制され、パチュリーは再び机へと向き直る。
残された魔理沙は口をぽかんと開いたまま、接触不良を起こしていた思考回路を一つ一つ直していく。
余りにも予想外な答えだった。
圧倒的不利な状況でも泣き言一つ言わずにフランに挑み続けるのは、その持ち前の負けず嫌いのせいだと思っていた。
けれど、それは余りに表面的な答えでしかなかったのだ。
不器用な姉が、妹に対して素直になれる唯一の日……それがスカーレット家の伝統、レーヴァティンデー。
そう考えるとなんだ、行動こそ馬鹿らしいが、本質はヴァレンタインデーと何も変わらないではないか。
先程までさっさと帰りたいと思っていた魔理沙の心の中に、この戦いの行く末を見守りたいと言う好奇心が芽生える。
レミリアを手伝いたいとか、そんな殊勝な心がけでは断じてない。
ただこのツンツン姉が、一体どのような顔をして妹に素直な気持ちとやらを伝えるのかを確かめたいという野次馬根性である。
無縁塚や妖怪の山、禁足地ですら嬉々として乗り込む彼女の事、危険と好奇心を天秤にかければ、必ず好奇心が勝つ。
ま、危ないと思ったらすぐに魔法ぶっぱなして逃げればいいか。
誰にも聞こえないくらいに小さな声で呟きながら、魔理沙は机の上に置かれたレーヴァティンをその手に取る。
「仕方ないな。乗りかかった船だ」
「いや、なんでお前が武器を取る。それは私の為に用意してあったものよ」
「お前は爪楊枝があるだろ」
「お前は肉壁でいいでしょうが」
「黙れちんちくりん」
「噛むわよジャリガール」
ある意味息のあった二人の様子に、パチュリーはくすりと薄い笑みを浮かべる。
それは親友に新たな味方が出来た事を喜んでいる表情にも見えた。
魔理沙の参入も正式に決まり、その後はルートに関する簡単な意識合わせ。
三階応接間までの単純な距離よりも、最も敵に遭遇する確率が低いであろう大回りルートを選択する事で合意する。
どうしても運に委ねなければ行けない部分はあるが、それでも先程までの目的地も定まらない状態から比べれば格段の進歩であった。
針の穴のように小さな、けれども確かに存在する勝機を求め、レミリアと魔理沙はレーヴァティンを手に立ち上がる。
パチュリーに関しては、体力的に二人についてこれないだろう事と、そもそも武器が二つしかない事から留守番である。
「私の役目はここまでね。後は貴女達で頑張って」
「ええ、ありがとうパチェ。戦いが終わるまで表向きはフラン派のまま、ここで大人しくしていて」
レミリアの指示に、首を縦に振るパチュリー。
毎年前線にでない彼女としては、後はいつも通りの過ごし方をしていれば怪しまれない。
万が一短剣の件で問い詰められても、武器を寄越すよう脅されたとでも言えばいい。
それが協力してくれた親友を危険な目に合わせない為の、レミリアの配慮であった。
ともあれ、これ以上図書館に用は無い。
魔理沙を引き連れたレミリアは、フランの待つ大広間へと続く道、そのスタート地点である図書館の扉へと手を掛け……。
そして、ぴたりとその動きを止めた。
「レミリア?」
不審に思い声をかける魔理沙だが、レミリアは応えない。
紅に輝く大きな瞳が、見る見る内に細められていく。
「……何時から居た?」
吸血鬼の口から紡がれるのは誰に向けているかもわからぬ質問。
魔理沙とパチュリーは顔を見合わせたまま、揃って首を捻る。
「最初からですよ、お嬢様」
しかし、その質問には答えが返された。
それも誰も居ない筈の背後から。
弾かれたように振り返ってみれば、そこに在ったのは魔理沙もよく知る少女の姿。
「小悪魔……」
パチュリーの使い魔にして、この図書館の司書を努める小悪魔が、本棚の陰から三人を見つめていた。
確認を取るように視線を送るが、パチュリーは焦ったような表情で首を横に振る。
どうやら彼女がこの場所に居たのは、パチュリーとしても計算外であったらしい。
それは即ち、彼女がフラン派の一員……紛れも無い敵である事を意味していた。
恐らく今の今まで本棚に身を隠していたのだろう、それにしても周囲に気を配っていたにも関わらず全く気配を感じないとは。
達人の域にも思える気配遮断術に戦々恐々とする魔理沙とパチュリーに対し、レミリアと小悪魔はあくまで笑みを浮かべながら互いを睨み合う。
「本当はお二人が行くまでは隠れて居たかったのですが、最後の最後で気が緩んでしまうとは私もまだまだですね」
「いやいや、誇っていいわよ小悪魔。何せ今の今まで私に気配を悟られなかったのだから」
「普段からパチュリー様の事を四六時中こっそり見守っていますから。隠密スキルなら咲夜さんにも引けは取りませんよ」
達人と言うか変態の域だった。
一瞬でもビビった私に謝れ、と魔理沙は頬を引き攣らせる。
ちなみにパチュリーは心底うんざりしたような顔をしていた。
しかし隠密スキルの秘訣がなんであれ、彼女が敵である事には変わらない。
魔理沙達は武器を爪楊枝含め二つしか持っていないのだ。
一つの武器で想いを伝える……即ち倒せるのは一人までと言うルールがある以上、こんな所で一つを消費するのは何としてでも避けたい状況だった。
何か策は無いかと考えながら、小悪魔のアクションに対しすぐさま反応できるよう重心を浅く保つ。
対して小悪魔はレミリア派の台所事情を十分に理解しているのだろう、囲まれながらも焦った様子は微塵も無い。
むしろ楽しそうに笑みを浮かべながら、ゆっくりと主であるパチュリーへと振り返る。
「ふふ、嬉しいですよ、パチュリー様。貴女がまさかお嬢様派に付いて下さるとは」
「嬉しい? 何言ってるんだ、お前」
「だって考えても見てください。今まで私とパチュリー様は共に妹様派で味方同士だったんです。つまり私のレーヴァティンを、私の日頃の気持ちをパチュリー様に向ける事は出来なかったんですよ」
しみじみと語りながら、小悪魔は己の武器を封じていた布を解いていく。
「けれど今、パチュリー様は妹様を裏切った。妹様派の私は、裏切り者を倒さなければなりません」
すらりと伸びる刀身は言うなればレイピア。
刺突に優れるで細身のレーヴァティンが、一直線にパチュリーへと向けられる。
そのおぞましいまでの紅の輝きは、ようやく己をぶつける事を許された小悪魔の狂喜を表現しているようにも見えた。
万感の想いを込め、小悪魔は愚直なまでに一途な自らの想いを剣に託す。
「これでようやく、私の想いを貴女に伝えられます!」
小悪魔の足が地面を蹴る。
狙いはただ一人、主であるパチュリー・ノーレッジ。
その胸に紅の刃を突き立てるべく、己の想い人へと一直線に駆ける。
「よせ!」
魔理沙の制止の声が図書館に響き渡るが、そんなものは小悪魔からすれば抑止力にすらならない。
数メートルはあった間合いは一瞬の内に消え去り、鋭い踏み込みから突きの一撃がパチュリーを襲う。
「くっ……!」
脳が危険信号を出すより先に、反射的に身体が動いた。
パチュリーは咄嗟に床に転がり込んで、何とかその初撃をかわす。
ほぼマグレと言っていい回避、刺突に巻き込まれた紫色の髪が数本宙を舞う。
「パチェ!」
「来ないで!」
「なっ」
すぐさま救援に入るべく足に力を込めたレミリアが、救援対象の制止に気圧され動きを止める。
視線の先には、己の使い魔の追撃に対して、地面を這って逃げ続ける親友の無様な姿
しかし彼女の瞳は間違いなく、誇りと希望を失っていなかった。
「彼女の狙いは私よ! 行って、レミィ!」
「馬鹿な! 武器のないお前を置いていけと言うの!?」
「だったらどうします! 二つしかない武器の内一つを、私なんかに使いますか!?」
「……っ」
小悪魔の指摘の通りだった。
まだスタートすらしていない今の段階で二つしかないレーヴァティンを使うこと、それは大将としては愚の愚策。
美鈴、咲夜、そしてフランが敵に回っている以上、二つでも足りないと言えるのに、一つになっては勝ち目は限りなく薄いと言っていい。
当然パチュリーと共に逃げるのも論外だ、今小悪魔が仲間を呼ばないのはパチュリーに対する独占欲に依る所が大きい。
そのパチュリーを連れて逃げれば、彼女は不本意ながらもレミリア達を止める為に仲間を呼ぶだろう。
そうなってしまえば体力のないパチュリーと共に逃げきる事など不可能、結局は完全な共倒れとなってしまう。
彼女達は勝つ事を義務付けられているのだ、さもなくばあの短剣と共に託してくれた、パチュリーの想いまでもが無駄になってしまう。
そんな事は魔理沙もレミリアも十分に理解していた。
十分に理解しているからこそ、レミリアは苦悩するのだ。
親友を見捨てる事も、その想いを裏切る事も、わがままな彼女はどちらも良しとはしたくなかった。
苛立たしげに歯を喰いしばりながら、何か手はないかと頭の中で策を練る。
その時、吸血鬼の頭の上に、ぽんと乗せられる一つの手。
館の主に対してそんな無礼な行為を働く手の持ち主は、言うまでもなく霧雨魔理沙、眉を顰めながら何かを考え込んでいる様子である。
「なぁ、レミリア。確認なんだが、一回レーヴァティンの攻撃を受けたらその場で失格なんだよな」
それはこんな時に相応しくない、余りにも初歩的な質問。
レミリアは苛立ちを隠そうともせずに、ぶっきらぼうに回答する。
「そうよ。何度も同じ事を言わせないで頂戴」
「ああ、悪い悪い。だけどさ……」
「?」
「自分のレーヴァティンを喰らったら、どうなるんだ?」
そう口にしながら、魔理沙はすぐ横に位置する本棚を右手で軽く叩く。
最初は意味がわからずきょとんとするレミリア。
しかし次第に魔理沙の意図を理解しだしたのだろう、これまで固く結ばれていた口元が見る見るうちに緩んでいく。
魔理沙が示唆したのは、二兎を追って二兎を得る、限りなく勝つ可能性の低い賭けだ。
それでも、二人にとっては十分だった。
どこまでも小さく消え入りそうな光かも知れない、それでも光が見えているなら飛び込む以外の手は存在しない。
始めから無理だと諦めて、暗闇に身を起き続けて、一体何が変わるというのか!
それこそが霧雨魔理沙、そしてレミリア・スカーレットと言う無鉄砲な少女達の生き方であった。
瞬時に相棒とアイコンタクトを交わし合うと魔理沙は、図書館の端へと己の主を追い詰める小悪魔へと視線を送る。
手には短剣レーヴァティン、武器としては少々心許無かったが、それでも今は信じる他に手はなかった。
「小悪魔ぁ!」
その大声と共に、霧雨魔理沙は走りだす。
仲間であるパチュリーを助ける為に、敵である小悪魔を倒す為に。
短剣を首の横に構えながら、一直線に小悪魔を目指す。
パチュリーを追うべく魔理沙達に背を向けていた小悪魔としては、不意をつかれた形となった。
「愚かな……!」
すぐさま体勢を整え、襲撃者にレイピア型のレーヴァティンをを向ける小悪魔。
しかし魔理沙にはわかっていた。
あの武器はただの脅し、魔理沙を刺し貫く可能性は限りなく低いと言う事に。
レーヴァティンで倒せる敵は一人、そして小悪魔の狙いは他でもないパチュリーだ。
こんな所で魔理沙如きの為に、消費していい物である筈がない。
そんな己の勘を信じ、魔理沙は一切の躊躇いもなく、小悪魔との間合いへと一気に侵入――――
「え?」
しなかった。
急ブレーキで推進力を殺した魔理沙は、小悪魔の間合いの外で立ち止まる。
レイピアの届かない間合いだ、当然短剣などが届く筈もない。
それどころか一度スピードの死んだ今の態勢からでは、再び小悪魔の間合いに侵入するのは至難の業であった。
勢いに任せて飛び込んでおけば可能性はまだあった物を……今更臆したのか、と小悪魔は思わず首を捻る。
しかし、すぐに気がついた。
不利な筈の魔理沙の表情が何処までも不敵な笑みを浮べている事に。
その瞳が小悪魔ではなく、彼女の背後を見通していると言う事に。
「しまった……!」
弾かれたように振り返るがもう遅い。
既に小悪魔の背後から、パチュリーの姿は影も形も消えていた。
魔理沙の突進は小悪魔を倒す為ではなく、パチュリーを逃がす為の囮だったのだ。
極めて単純、しかし実行されれば対処のしようがない厄介な手である。
「邪魔をしないで下さい!」
吐き捨てながら、小悪魔はターゲットの後を追う。
意識が逸れたのはほんの一瞬、パチュリーの運動能力ではそこまで遠くに逃げる事は不可能だ。
元々図書館の端に近かった事もあり、逃げ道も非常に限られている。
焦りを押し殺すように左手で頭を押さえながら、本棚の影を一列一列調べていく。
そして、捜索を始めてから、丁度五列目を覗こうとしたその時だった。
本棚の裏側から僅かに荒い吐息が聞こえてくるのを、小悪魔は聞き逃さなかった。
物音を立てないように静かに、けれども極めて迅速にその本棚の陰に忍び寄ると、顔だけを出して音の主の姿を確認する。
そこに在ったのは、小悪魔の希望通りの少女、パチュリー・ノーレッジの姿。
安堵に緩みそうになる頬を引き締め、一気に加速しパチュリーの目の前へと躍り出る。
「あっ……!」
「探しましたよ、パチュリー様」
すぐさま逃げ出そうとするパチュリーだが、もう遅い。
小悪魔は一瞬でパチュリーの進路へと先回りし、逃げ道を塞ぐ。
元々の身体能力の差に加えて、既にパチュリーは疲労困憊。
活路を見つけられない彼女は、時間を稼ぐように後ずさることしか出来なかった。
しかし現実は極めて非情、間もなく彼女の背中は本棚へと到達し、パチュリーは完全に八方塞がりの状態に陥ってしまった。
「もう逃がしません」
「小悪魔……!」
「無駄な抵抗はよして下さい。傷口を広げるだけですよ」
半身で重心を浅く保ちながら、小悪魔はレーヴァティンの切っ先をパチュリーへと向ける。
一見冷静なようだが、その実彼女は内心焦っていた。
先程は確実に決めるタイミングを探している内に、魔理沙に邪魔をされてしまった。
今度もぐずぐずしていれば、また何時妨害がやって来るかわからないのだ。
この機会を逃すわけにはいかなかった。
集中力が研ぎ澄まされていき、小悪魔の世界から余計な物が消えて行く。
在るのは己とレーヴァティン、そして己の主であり標的でもあるパチュリーのみ。
目の前の獲物にのみ、意識の全てを集中する。
パチュリーの体力は既に限界だ、体勢からしてもすぐに動き出せる状態ではない。
次の一撃をかわす事などどう見ても到底不可能、決めるならば今であった。
「行きます!」
小悪魔は大きく前に踏み込むと、渾身の力を込めて突きの一撃を繰り出した。
これまでの中で最も鋭い一撃が、パチュリーへと襲いかかる。
大人しく諦めたのか、それとも既に動けないのか、パチュリーは避ける仕草すら見せようとしない。
その一撃は確実に決まるように思われた。
しかし次の瞬間だった、小悪魔の目の前を何かが物凄い速度で横切った。
そう、彼女は焦る余りに最も警戒すべき存在を軽んじた。
レミリア・スカーレット。
吸血鬼の圧倒的な身体能力を持つ彼女が、突きが到達する直前にパチュリーの身体をかっさらっていったのだ。
当然、小悪魔のレーヴァティンは誰もいない空間を貫き……そして勢い余って本棚まで到達する。
バチリ、と電流のような物がレーヴァティンを持つ手に走る。
その電流の正体を、小悪魔は誰よりも理解していた。
日夜図書館で繰り返される弾幕ごっこから貴重な蔵書を守るべく、他ならぬ自分が本棚に張った一種の障壁。
一定の基準よりも強い衝撃をそのまま跳ね返す、反射の魔法。
「しまっ」
気付いた時には遅かった。
甲高い音と共にレーヴァティンが弾かれ、持ち主である自分へと襲いかかる。
とても反応できる距離と速度ではなかった。
一直線に向かってきた剣の柄の直撃を受け、小悪魔はその場で気を失った。
「こりゃ出来過ぎだ、な」
パチュリーとレミリアの無事な姿、そして気絶した小悪魔の姿を見て、魔理沙はぽつりと呟いた。
思わずそんな言葉が出てくるほど、綺麗に嵌った展開だった。
あの時魔理沙が小悪魔に奇襲を掛けたのは、何もパチュリーを逃す為だけではない。
レミリアの動きを悟らせない事こそが、彼女の隠されたミッションだったのだ。
小悪魔の意識が魔理沙に向いたその瞬間、レミリアはパチュリーに向けて一つのサインを送っていた。
本棚を指さしながら、自信に溢れた笑みを浮かべる、たったそれだけのシンプルなサイン。
それだけで、パチュリーは親友の考えを見事に理解したのだ。
後は、全てが上手く行った。
パチュリーはあえて本棚を背負い、小悪魔の正面からの突きを誘発させる。
レミリアは気配を消したまま二人に接近し、最後の最後でパチュリーを救出する。
各々が自分の役割を完璧に理解し、実行に移せたからこその会心の勝利であった。
親友を見捨てずに済んだ事に、レミリアも思わず安堵の溜息を吐く。
しかし戦いはまだ始まったばかり、すぐさま表情を引き締めると、既に祝勝ムードの魔理沙に対して苦言を呈す。
「何を浮かれているの。私達の目的はあくまでフラン。小悪魔程度の相手、圧倒して当然でしょう」
「はっ、さっきまでうーうー唸ってた奴が良く言うぜ」
「……けれどレミィの言う通りよ。本当に大変なのはここから。咲夜や美鈴はこの子よりもずっと強敵だわ」
「そういう事。思わぬ妨害に時間を喰ってしまったわ。ぐずぐずして居てはここにも敵が来るかも知れない。さっさと進むわよ、魔理沙」
「はいはい、わかってるよ。相変わらず人使いの荒い事で」
彼女達にとって、勝利を喜び合っている時間などはない。
本当の目的はまだまだ遥か彼方、進んだ道のずっと先にあるのだから。
魔理沙の返事を待たずに、既に図書館の扉へと歩みを進めているレミリア。
やれやれ、と首を横に振りながらも、大将の後を追う魔理沙。
いがみ合っているようで何処か息の合っている歪なコンビは、部屋を出ていく直前パチュリーに対して振り返る。
「今度こそ、行ってくるわ」
「ええ、行ってらっしゃい。吉報を期待しているわ」
「おう、存分に期待しててくれ」
最後に笑みを浮かべ、二人は扉の向こうへと消えていく。
先程まで図書館を包んでいた喧騒が、一気に静寂へと変わっていく。
それはまるで夢が終わり、現実に引き戻されたような感覚。
最後まで彼女達と共に夢を見続けられないことが、パチュリーには少しだけ寂しく感じられた。
「あら?」
その時だった。
パチュリーは自分の愛用の机に、見慣れない物が置かれている事に気がついた。
可愛らしいリボンで口を閉じられた、小さな小さな袋。
レミィ達の忘れ物かしら、と手に取ってみて、ようやくそれが何かを理解する。
ああ、そう言えば彼女にとっては今日は――――
その何とも予想外な物体に、くすり、と思わず笑みが漏れた。
―――――――――
図書館を出た二人は、周囲に細心の注意を配りながら、フランの待つ三階の大広間を目指す。
紅魔館は咲夜が能力で無理やり広げている館の為、基本的に間取りはでたらめだ。
その滅茶苦茶で複雑な迷路を活かし、目的地まで無傷で辿り着くのが当面の目標である。
そして無数のルートの中から彼女達が選択したのは、パチュリーの情報とこれまでの傾向から、恐らく敵が一番少ないであろうと思われる大回りルート。
「で、だ」
「何よ」
「本当にこのルートなら敵と遭遇しないでフランまで辿りつけるのか?」
「……」
「黙るなよ、オイ」
不安が無いと言えば嘘になる。
彼女達の武器はレミリアのポケットに入った爪楊枝と、魔理沙の懐に隠し持たれた短刀のみ。
フランを除けば一人までしか倒す事の出来ない彼女達にとっては、一度でも見つかってしまえば命取りなのである。
「20%って所かしら」
「見つかる可能性がか?」
「見つからない可能性よ」
「……全然駄目じゃないか」
「それでも上出来よ。数の差がここまで大きい以上、リスクのない勝利なんて有り得ないわ」
確かにレミリアの言う通り。
元々負けて当然の戦なのだ、針の穴のような可能性を手繰っていかなければ勝機は見いだせない。
しかし、まぁ吸血鬼はいいのかも知れないが、人間にとってレーヴァティンで刺されるリスクは余りにも大きすぎる訳で。
どうしようもなくなったら最悪、ブレイジングスカーレットシューティングスターを使うしか無いか。
魔理沙は最悪のパターンを想定し、心の準備を整えておく。
ちなみにブレイジングスカーレットシューティングスターと言うのは、敵に向けてレミリアを蹴飛ばし、彼女が刺されている内にブレイジングスターで窓から逃げ出すと言う恐ろしい技である。
「せめて、咲夜や美鈴にだけは会わないよう祈るか」
「そいつらに関してだけれど……」
何処か勿体ぶったレミリアの口調に、魔理沙は反射的に振り返る。
視線の先のレミリアは顎に手を当て、何かを考えているようだった。
「美鈴については戦わなくてもいい方法を考えたわ。上手く行けば咲夜もどうにか出来るかも」
思わず目が丸くなった。
このルールにおいて、美鈴は間違いなく最も警戒すべき強敵だ、先程少しばかり対峙しただけでもその恐ろしさは十分身に染みている。
そして咲夜は実質、フラン派の兵達をその一手に担うリーダーだ、勿論その戦闘能力においても他のメイド達とは段違いと言っていい。
もしもその二人との戦いを上手く避ける事が出来るのなら、状況は一気に魔理沙達にとって好転する。
「おいおい、いつの間にそんな策を」
「考え付いたのはついさっき。パチェを襲おうとした小悪魔を見てよ」
「はぁ?」
あの暴走司書から一体何を参考にしたと言うのだ、この幼女は。
首を捻る魔理沙だが、あのレミリアが勝算もなくそのような事を言う筈がない。
期待半分、不安半分の状態のまま、レミリアの瞳を覗き込む。
「おいおい、勿体振るなよ。具体的にはどんな手を使うんだ?」
「それは実際に美鈴と遭遇した時に話すわ。今は――――」
その時だった、甲高い笛の音が廊下に鳴り響いた。
次の瞬間、前方の曲がり角から妖精メイド達が姿を表し、二人の進路を塞ぐ。
すぐさま背後へと振り向くが、そちらも既に廊下沿いの部屋から出てきたメイド達が塞いでいる。
一瞬にして廊下の前後を封鎖され、完全に囲まれた形だ。
彼女たちの手には槍型のレーヴァテイン、最早剣でも無いがスカーレット家の基準ではレーヴァティンである。
「この状況をどうにかするのが先ね」
「なんだよ、思いっきり待ち伏せされてるじゃないか!」
「流石は咲夜。あえて警備が手薄な所を作り、誘ったって所かしら」
「感心してる場合か!」
思わずレミリアに掴みかかりそうになるが、騒いだ所で状況は好転しない。
もう見つかってしまった事実はどうやっても変えられないのだ。
変えられるのは、これからどうするかという点である。
がしがしと頭を掻いて、魔理沙は思考を切り替える。
「アイツら、槍使いとしての実力は?」
「正直大した事はないけど、ああも数で壁を作られちゃね。こっちは爪楊枝含んだって二つしか武器が無いっていうのに」
「フランの分を考えたら実質一つ、だな」
「ええ、まずいわね。一本道で両サイドは槍の壁。こっちが倒せるのは一人まで、と来た」
「冷静に解説してる場合か。何か手はないのかよ」
「それを今考えているんでしょうが。アンタも死にたくなければ協力しなさい」
強がってこそいるが、レミリアにも余裕がないのは表情を見れば明らかだった。
ちっ、と舌打ちをしながら魔理沙は頭をフル回転させる。
敵は多勢、バラバラに襲ってくるならばまだ勝機はあるが、彼女達は決して焦らない。
恐らくメイド長の仕込みであろう、三列に並んだ状態で槍の壁を作り、じりじりと魔理沙達へと迫ってくる。
先程のような隠し扉が無い以上、どうにかしてあの壁を突破しなければいけない訳だが、これが中々どうして鉄壁である。
一列目二列目三列目がそれぞれ下段中段上段をカバー、あれでは空を飛んで頭上を抜ける事も不可能と言っていい。
これは思ったよりも早く、ブレイジングスカーレットシューティングスターを使う時が来たのだろうか。
しかしあれはあくまで最後の手段、例えこの場は上手く脱出できても、その後しばらくレミリアストーカーされる事は避けられない。
何か他に手があるのならば、そちらの方が良いに決まっているのだ。
「なぁ、レミリア」
「いい策でも思いついた?」
「もしここで私が降参したら、レーヴァティンで刺されないで済むと思うか?」
「無理でしょうね。そんな都合のいい事をフランや咲夜が許すと思う?」
「そうか……そうだよなぁ」
魔理沙の口から、一つ大きな溜息が漏れる。
「で、頼みのお前は策無しと」
「今はまだ、ね」
メイド達は一歩ずつ確実に魔理沙達へと迫り、状況は刻一刻と悪くなっていく。
最早レミリアが策を思いつくのを待つ余裕は存在しなかった。
手を打つならば今、である。
「んじゃ、まぁ、止むを得ないな」
そう言って魔理沙は、懐から一つの小瓶を取り出した。
中に入ったピンク色の液体が、とぷんと波を打つ。
「? 魔理沙、なによそれは」
「魔法で作った爆薬だよ。これならあの槍の壁もぶっ壊せるだろ」
「っ、お前正気か……?」
いきなり物騒な事を口走る魔理沙に、流石のレミリアも眉をひそめる。
これまで息のあった動きを見せていたメイド達の間にも俄に動揺が走る。
「レーヴァティン以外の攻撃は禁止と言ったでしょう。それはレーヴァティンデーを汚す行為……ひいてはスカーレット家を冒涜する行為よ」
「お前の家の風習なんざ知るか。楽しそうだから少しだけ付き合ってやったが、命が危ないとなれば話は別だ。悪いが早々に退出させてもらうよ」
「魔理沙……!」
「なに、アイツら妖精だし、どうせ死んでも一回休み程度だろ。こちとら限りある生命なんでね」
まるで悪役のような笑みを浮かべながら、爆薬だと言う液体をメイド達に見せつけてやる。
ビクリと槍の壁が反応し、魔理沙達へと向かっていたその歩みが止まる。
ヒソヒソと言うメイド達の相談の声が耳に入ってくる。
内容までは聞き取れないが、大方、瓶の中身が本当に爆薬かどうかを議論しているのだろう。
たとえ、八割方偽物だと思っていたとしても、それが証明できない限り不安は拭えない。
何せ万が一本物だったとしたら、確実に自分達が吹き飛ぶのだから。
リーダーであるメイド長が不在な事で、メイド達は意思決定をする事が出来ずに居た。
そして魔理沙はそんな彼女達にじっくりと考える時間を与えない。
「そら」
チップでも渡すかのような軽い声と共に、前方のメイド達に向けて小瓶が放られる。
山なりの軌道を描くそれが、コンっと言う音を立ててメイド達の足元付近へと着地する。
そして場の緊張感が頂点に達したその瞬間、魔理沙は横にいるレミリアを抱え込みながら、大声で叫んだ
「伏せろ、レミリアッ!」
レミリアを巻き込みながら転がり込み、頭を抑えて地面へとへばりつく魔理沙。
刹那、前方で壁を作っていたメイド達は、悲鳴をあげてその場から逃げ出した。
蜘蛛の子を散らすとはまさにこの事、あれだけ堅固に見えた槍の壁が、一瞬の内に崩壊する。
作戦成功、である。
言うまでも無いが、魔理沙が投げた液体は爆薬などではない。
たまたま持ち歩いていた小瓶を、爆弾だとハッタリをかましただけである。
かなり咄嗟のアドリブだったが、レミリアが上手く合わせてくれた事と、メイド達が臆病かつ余り賢明ではなかった事が功を奏した。
今ならば前方のメイド達は誰もいない、後方の連中も浮き足立っており、すぐさま追ってこれるとは思えない。
レミリアが魔理沙を抱えて逃げれば、彼女達を撒くことは難しくはないだろう。
つまりは、千載一遇の絶好の好機。
魔理沙はすぐさま身体を起こすと 未だに演技を続けるレミリアへと声を掛ける。
「今だ、行くぞレミリアッ」
ぽくぽくぽくぽくちーん。
しかし、しばらく待てども返事が帰ってこない。
「レミリア……?」
不審に思い、軽く頭をつついてやれば、返ってくるのはびくりと大きな反応。
よくよく見てみれば、プライドの高い彼女にとっての最終手段、本当に追いつめられた時しか使わない鉄壁の防御が展開されているではないか。
頭を抱えるてしゃがみ込む例のポーズ、俗に言うカリスマガードと言う奴である。
綺麗に合わせてくれたと思いきや、どうやら綺麗に引っ掛かっていたの間違いらしい。
コイツが大将で本当に大丈夫なんだろうか、今後の展開に不安を募らせる魔理沙だった。
―――――――――
「フフ、私の演技も中々の物だったでしょう」
「ハイハイソーデスネ」
頬を微かに染めながらも強がりを言うレミリアに対して、魔理沙は極めて適当なリアクションを返す。
既に先程のメイド達は綺麗に撒いた。
元々守備が手薄だった筈の道、『壁』さえ超えてしまえば後は楽なものだった。
結果的に魔理沙の策により道は開かれたわけだが、レミリアは少しばかり複雑な表情。
魔理沙にみっともない姿を見られた事が、まだ気になっているようだった。
「それで、あの小瓶は結局何だったのよ」
「ああ、あれはただの香水だよ。何種類かの花の匂いを魔法でブレンドして作ったんだ」
「ぶはっ、香水って、くく。相変わらず乙女チックな奴ねぇ」
「あんな素敵な防御をする奴には負けるよ」
「ぐっ……」
皮肉に対する見事なカウンターに、レミリアは頬を引き攣らせる。
人をからかうのが大好きな魔理沙の事、しばらくはネタにされる事請け合いであった。
「それで、これからどうするよ」
とは言え、今はそんな事をしている場合ではないと、魔理沙も十分理解している。
切り替えるように表情を引き締めると、今後の行動についてレミリアへと問いかける。
普段紅魔館に入り浸っている魔理沙の記憶が正しければ、この先には三階へと続く大きな階段がある筈だ。
今二人が通っている道から、フランの待つ大広間まで向かうには絶好の位置だが、逆に言えばそんな要所を敵が抑えていないとはとても思えなかった。
そんな魔理沙の不安を察したのか、レミリアもまたその表情を真剣な物に戻すと、はっきりと自分のプランを告げる。
「突っ切るわよ、大階段」
「……まじで?」
「まじよ。あそこさえ抜ければ、大広間は目と鼻の先。フランの所まで一気に突っ込む事が出来る」
「しかしなぁ、そんな場所を敵が手薄にしている筈がないだろう」
「その通り。居るわよ、メイド達が束になるよりも厄介な奴が」
非常に厄介な相手などと言う割には、レミリアに迷いの色は一切見られない。
むしろその表情からは一種の余裕すら見て取れた。
まさか……魔理沙の頭の中に、一つの仮説が浮かんでくる。
先程の、レミリアの言葉が脳裏に蘇る。
メイド達が束になるよりも危険な相手、それでいて無傷での突破の可能性をレミリアが見出している相手。
恐らく、この先で待っているのは――――
大階段へと続く最後の曲がり角で、二人はその歩みを止める。
背中を壁に付けながら気付かれぬように階段の方向を覗き込んでみれば、大階段を守護しているのは魔理沙の予想通りの少女だった。
「……美鈴、か」
難敵、紅美鈴。
青龍偃月刀を操る紅髪の少女が、大階段の頂上で侵入者を待ち構えていた。
階段の入口付近については、数人の妖精メイド達が槍を持って固めている。
思ったよりも兵の配置が少ないのは、美鈴に対する信頼故か。
逆に言えば、美鈴さえどうにかすれば、幾らでも突破は可能な状況とも言えた。
他の階段はここよりも多くの敵兵に抑えられているだろう事を考えれば、レミリアがこの階段を選んだのも一理あると言っていい。
「あの子は武器も戦い方も豪快だからねぇ。他の狭い階段には置いておけないのよ」
「それでここに居ると踏んだって訳か。……で、手はあるんだよな?」
美鈴達に聞こえないように極力小さい声で、魔理沙はレミリアに問いかける。
彼女は先程、美鈴と戦わずに済む方法を考えたと言っていた。
正直魔理沙としては半信半疑ではあるが、他に頼れる何かがある訳でもない。
最終的に却下する可能性はあるにせよ、まずは彼女の手とやらを聞いてみようと思ったのだ。
対してレミリアは、問いかけに対して不敵な笑みで返す。
そして返答を待つ魔理沙を尻目に、おもむろに階段からの死角の外へと歩みを進め、美鈴達に対してその姿を晒す。
これには魔理沙も思わず目を丸くした。
「お、おい! レミリア……!?」
何とか止めようと小声で呼びかける魔理沙だが、レミリアは完全無視。
まるで王の凱旋でもあるかの如き堂々たる身振りで、美鈴達の待ち構える階段へと歩みを進める。
「お、お嬢様……?」
「やぁ、美鈴。警備ご苦労。吸血鬼と魔法使いがレーヴァティン背負ってやって来たわよ」
悠然と現れた敵の大将の姿に、流石の美鈴も困惑の色を隠せない。
少数派であるレミリアチームは、本来ならば極力姿を隠し続けて、相手の一瞬の隙を狙わなければいけない立場だ。
それが堂々と正面から姿を現したのだ、困惑するなと言う方が無理と言う物であった。
勿論、戸惑っているのは魔理沙も同じ。
否、策があると期待していた分、こちらの方がショックは大きいと言っていい。
しかも、『吸血鬼と魔法使い』などと言って、さりげなく魔理沙が居る事をバラしてると言う鬼畜ぶり。
結果、周囲を警戒する美鈴と思いっきり目が合ってしまい、さしもの魔理沙も観念するしかない状況へと追い込まれてしまった。
「ええい、くそっ」
悪態をつきながらも、仕方なくレミリアの後に続く魔理沙。
言いたい事は山ほどあったが、今の段階で騒いでも余計立場を危うくするだけ、今はまだレミリアの自信を信じてやる事にする。
まぁ、もし上手く行かなかったらその時は、実りやすいファイナルブレイジングスカーレットシューティングスターダストレヴァリエだが。
などと魔理沙が生贄の捧げ方を熟考していると、不意にホールに先程と同じような笛の音が鳴り響く。
見つかった時点で予想していた事ではあるが、やはり美鈴が援軍を呼んだようだった。
「何を考えているかは知りませんが、そちらのペースに引き込まれるつもりはありませんよ。さて、どうします、お嬢様。すぐに笛の音を聞いたメイド達も駆けつけますが」
「だろうねぇ。私たちはその前に貴女を抜くしかないって訳だ」
「行かせると思いますか?」
腰を軽く落としながら、美鈴は手にしたレーヴァティンを構えて三階への道を塞ぐ。
さすがは門番、こと陣地防衛に関しては、強い自信を持っているようだった。
魔理沙が現在進行形で企てている、サクリファイスレミリア作戦がいよいよ現実味を帯びてくる。
しかしそれでもまだ実行に移そうとしないのは、レミリアがまるで余裕の表情を崩さないからだ。
少なくてもここまでは、彼女にとっては予想通りの展開と言う奴らしい。
「質問よ、美鈴」
「?」
「もし私と魔理沙が二人同時にお前の裏を狙ったら、お前はそのレーヴァティンでどちらを倒す?」
まさかこれが策じゃないだろうな、と魔理沙は思わず引きつった笑みを浮かべる。
確かに美鈴に武器を二つ持っている様子はない、メイド達の頭上を抜いた後二人で突っ込めばどちらか一方は戦闘を回避する事が出来るだろう。
だがしかし、それは余りにもリスクの大きい特攻だ。
大将であるレミリアがやられればその時点で敗北だし、仮にやられるのが魔理沙でも、居場所もバレて咲夜も残っている現状ではその後の不利は否めない。
そもそも特攻を掛けるならば、こんな風に姿を現す前に奇襲を掛ければよかったのだ。
美鈴もレミリアの意図がわからず少々困惑しているようだが、援軍が来るまでの時間稼ぎには丁度いいと思ったのか
一つ息を吐いて気持ちを落ち着かせると、若干冗長な口調で質問に答え始めた。
「勿論私のターゲット、即ち気持ちを伝えるべきはお嬢様……と言いたいところですが、お嬢様の疾さは私では捉えきれるかわかりませんからね。美味しい所をフラン様に譲る為にも、ここは確実に魔理沙さんを叩きますよ」
向けられる闘気に、げっそりと肩を落とす魔理沙。
対称的にレミリアはと言えば、何故か上機嫌に拍手をしだす始末である。
「自分と相手の戦力を冷静に分析する判断力。爪楊枝ではフランに勝てない事を見越し、あの子に手柄を譲る柔軟さ。なるほど、見事な回答よ、美鈴」
「褒めてる場合か、馬鹿」
背後から罵倒してやるも、やはりレミリアは完全無視。
MK5(マジで蹴り倒す5秒前)、頭の中でカウントダウンを始めようとした、その時だった。
レミリアは表情を引き締めると同時にぴたりと拍手を止め、まっすぐに美鈴の瞳を覗き込む。
「だけど、美鈴。お前は本当にそれでいいのかしら?」
「……何が言いたいんですか」
「レーヴァティンデーは自分の本当の気持ちを伝える日よ。お前の相手はこんなエキストラ魔法使いでいいのかしら」
「なるほど、つまり自分を狙え、と?」
「そうじゃない。そういう事を言ってるんじゃない」
静かに、けれどはっきりとレミリアは言葉を紡いでいく。
美鈴の心の奥底に、一歩踏み込んでやるかの如く。
「お前が本当に想いを伝えたいのは、私でも魔理沙でもないだろう?」
「なっ!?」
「フフ、私が気付いていないとでも思っていた?」
それは明らかな動揺だった。
たった一つの質問に、圧倒的優位の筈の美鈴の表情から余裕が消えて行く。
魔理沙の目から見ても今の美鈴は、先程レミリアが姿を現した時よりもずっと狼狽しているように見えた。
しかし流石は要所を任されるだけの存在である、この程度の揺さぶりで浮き足立つことはない。
深呼吸で乱れた心を落ち着けると、戯言に対して理性で言葉を返す。
「何を言うかと思えば。今の私はフラン様の兵。あの方とは同じチームで」
「だから、それをやめろと言っている!」
これまでとは違う、心の扉をこじ開けようとするかの如き、強い意思の宿った声。
強引さと不思議な引力を併せ持つ、まさにレミリア・スカーレットそのもののような言葉であった。
その何処までも『らしい』主の姿に、あの美鈴ですら、気圧され後ずさる。
吸血鬼は誘っているのだ。
どうしようもなく不利で、リスクの大きい戦いに。
悪びれる様子もなく、美鈴を巻き込んでやろうと言うのだ。
かつて二人が初めて出会った時……まるで生まれながらの主であるかの如く、相手の体面や立場など全て無視して手を差し伸べたあの時のように。
「私につけ、美鈴! 咲夜に気持ちを伝える機会をお前にやろう!」
何処までも傲慢に、限りなく無遠慮に。
心の中へと土足で上がりこみ、引きこもったそいつを引き摺り出してやる。
他ならぬ美鈴の想い人に、その気持ちをぶつけてやれと提案する。
それは人妖を堕とす、悪魔の誘惑であった。
咲夜の名前が出た事で、周囲のメイド達はにわかに騒がしくなる。
その場にある複数の視線が、美鈴を驚きと好奇の対象として捉えている。
しかし、最早美鈴にとってそんな事はどうでもよかった。
その場で彼女が重視していたのは、レミリア・スカーレットただ一人。
何としてでも彼女にだけは己の弱みを見せたくない、美鈴は努めて冷静を装い言葉を続けていく。
その唇は微かに震えているようにも見えた。
「そんな見え見えの策に、乗せられる筈がないでしょう」
「ああ、そうだろう。普通は、な! だが私の買った紅美鈴は、そんなつまらない女ではないぞ!」
「……」
気づけば、レミリア達の背後の道は援軍でやってきたメイド達で埋め尽くされていた。
けれど、誰一人敵の大将を前にして攻撃を開始しようとはしない。
レミリアの凄みに圧倒され、ただただその場で槍を構える事しか出来ないでいる。
「なぁ、美鈴、お前は知っているだろう。私が毎年一人でお前らフラン派に挑んでは、串刺しにされ続けている事を。毎度毎度勝ち目の薄い戦いを繰り返して、正直私を愚かだと思った事もあるんじゃないか?」
「それは……」
「でも、それでも私は諦めないよ。誰に愚かと思われようと、何度痛い目にあったとしても、それでも。……自分の気持ちに嘘を吐くよりは余程いい」
「っ」
ホールにレミリアの声のみが響き渡る中、魔理沙はふと思う。
レミリアの美鈴に向けた言葉は、確かに策ではあるのだろう。
しかし、それ以上にそれらの言葉は、彼女の心からの本音ではないのだろうか。
打算で言葉を並べたて、意志の弱い相手を惑わすのではなく。
自分が認めた相手だからこそ、己の心が選んだ道……自分と同じ道を歩んでほしい。
そんな彼女の強い意思を、そのまま言葉にして伝えているだけなのではないか。
そうでなければ彼女の言葉が、この場の誰もを圧倒する程の凄みを持つ筈がない。
「今日はレーヴァティンデーだ! 一年に一度の馬鹿騒ぎの日だ! こんな日まで理性で自分を殺してどうする! 美鈴、私は今もあの子に気持ちを伝えようと馬鹿を繰り返しているぞ!」
レミリアはまっすぐ美鈴の瞳を覗き込む。
強い意志のこもった紅の瞳は、どんな宝石よりも美しい輝きを放っていた。
「お前は、どうする!」
レミリアの言葉は、そこまでだった。
それ以上話を無理やり続けようとはせず、ただただ相手を見据えながらその返答を待つ。
永遠とも思えるような、重苦しい沈黙が周囲を支配する。
それは誰かが動けば崩れる、非常に危うい均衡であった。
こういう時、妖精メイドには自分達で行動を起こすだけの度胸はない。
当然レミリアは美鈴の回答待ちだし、魔理沙も下手に動いて周囲の連中を刺激したくはない。
必然的に、この沈黙を破るのは美鈴であるかと思われた。
「何をしているの、美鈴」
しかし、違った。
その重苦しい静寂を打ち破ったのは、この場に存在した誰でも無かった。
不意に背後から聞こえてきた声に、美鈴は弾かれたように振り返る。
その視線の先に現れたのは―――――
「咲夜さん……」
敵発見の笛が鳴らされてから、何時まで経っても状況の報告が無い事で焦れたのか。
三階の奥の部屋……即ち大広間から出てきた咲夜が、戦況の確認に現れたのだ。
「妹様が待っているわ。早く魔理沙だけでも倒して、お嬢様を広間にお連れしなさい」
メイド達に囲まれている二人を一瞥しながら、咲夜は美鈴に対して指示を出す。
彼女からしてみれば、何故たった二人相手にここまで時間が掛かっているのか、見当もつかないのだろう。
その口調は若干の苛立ちを含んでいるように感じられた。
普段の美鈴なら、このような状態の咲夜に命令されれば、すぐさまそれを達成しようと行動に移していただろう。
だが、今回ばかりはそうはいかないらしい、美鈴は咲夜に対して返事もせずに、レミリアと二人視線を交わしあったまま動かない。
明らかにおかしな美鈴の様子に、思わず咲夜も首をひねる。
「美鈴……?」
名前を呼ばれ、美鈴はゆっくりとした動作で咲夜へと振り返る。
何かが吹っ切れたような表情であった。
覚悟を決めたかのような目であった。
その強い意思の込められた瞳は、愚直なまでに咲夜へと向けられていた。
美鈴はひとつ大きく深呼吸をすると、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
他ならぬ、自分の想い人に向けて。
「すみません、咲夜さん」
「謝罪は後でいいわ。今は―――――え?」
咲夜の目が驚愕に大きく開かれる。
魔理沙に向けられる筈の青龍偃月刀は今、他ならぬ咲夜に対してその刃を向けていた。
「紅美鈴! これよりフラン様派を離れ、お嬢様と共に戦います! 今日ばかりは貴女に刃を向けさせて頂きますよ、咲夜さん!」
「なっ……!?」
「お嬢様、ここは私が! どうか先に進んで下さい!」
美鈴はそう言うと、咲夜に向けてレーヴァティンの刃を振り下ろす。
大振り故、混乱した状態でも難なくかわす咲夜だが、同時に大広間への道を開けた形となってしまう。
好機到来である。
「それでこそ、私の認めた愚か者だ!」
己の心に嘘を吐く事をやめ、二人の道を切り開いた美鈴に対して、レミリアは心からの賞賛を送る。
そして瞬間的に、魔理沙と二人で正面のメイド達の頭上を抜けると、美鈴に守られるようにして咲夜をも軽々突破する。
魔理沙に至っては何もしてない癖に何故か得意げだ。
「と、言う事だ。悪いが通してもらうぜ」
「くっ、待ちなさい、魔理沙!」
すぐさま二人を追おうとする咲夜だが、そうは美鈴が卸さない。
その大きなレーヴァティンを手に、咲夜の行く手を塞ぐ。
「……どういうつもりなのかしら、美鈴」
「咲夜さん。貴女はこの戦い、どちらが有利だとかではなく、純粋にお嬢様に気持ちを伝えたいからこそ、フラン様についているのでしょう?」
「何を当たり前の事を」
「私も、同じ事をしようと思っただけですよ」
わけがわからないという風の咲夜だが、美鈴の眼に迷いは見られない。
少なくとも彼女が本気であると言う事、それだけは嫌というほどに理解できた。
そして、やらなければ確実にやられると言う事も。
予想外の事態に直面した時、気持ちを早く切り替えられるのも優秀な兵の資格。
咲夜はスイッチを入れるように一つ大きく息を吐くと、限りなく冷静な表情でメイド達を一瞥する。
「美鈴は私が殺る。貴女達は二人を追いなさい」
頼りになるメイド長の言葉で、今まで混乱していたメイド達も我に帰る。
すぐさま指示に従おうと階段を上るが、道を塞いでいるのは他ならぬ美鈴、闘気のこもった瞳で射ぬかれぴたりと足が止まる。
いくら美鈴が一人までしか倒せないとしても、臨戦態勢の彼女の間合いを素通りするだけの勇気をメイド達は持ち合わせていなかった。
つまり、メイド達にあの二人を追わせるには、まず美鈴をその場から退けなければ行けないと言う事である。
咲夜は己の武器であるナイフ……レーヴァティンを握る右手に力を込める。
「安心して下さい。咲夜さんは人間ですから、傷が残らないようにさせて頂きますよ」
「何を勝った気でいるのかしら。悪いけど私の方は……本気で殺すわよ」
―――――――――
「とうとう、ここまで来たな」
レミリアと魔理沙はフランの待ちかまえる場所、大広間の扉の目の前で立ち止まる。
もしこの中にフランが居なければ……と言う懸念はない。
扉の中からは禍々しいまでに強力な、紅の霊力が滲み出ていた。
「居るわね」
「ああ」
「余り時間を掛けてると、メイド達が来るわ。一気に行くわよ」
武器は二つとも残っているとは言え、相手が本家レーヴァティンの使い手な以上、不利は否めない。
開幕と同時に一気に突っ込み、相手の心の準備が整う前に勝負をつけるのが最良の手である。
二人顔を見合わせ、一度だけ頷き合う。
ここからが本当の勝負、気合を入れなおして扉に手を掛けた……その時であった。
僅かに開かれた扉の隙間から、紅の閃光が二人の間を切り裂いた。
「ちぃっ!」
すんでの所で床に転がりこみ、事無きを得る魔理沙とレミリア。
閃光が走り去った先へと振り返ってみて思わず戦慄する。
視線の先、廊下の壁には、これまでの物とは比べものにならない程の輝きを放つ、巨大なレーヴァティンが深々と刺さっていた。
それを誰が投げたのかなど、最早考えるまでもない。
大広間の奥には、美しい虹色の翼を持つ紅の少女、フランドール・スカーレットが佇んでいた。
「フラン……」
「ようこそ、お姉さま、そして魔理沙。流石はここまで来ただけの事はあるね。よく今の投擲を躱したじゃない」
「生憎と、しぶとさが売りなんでね」
楽しそうに笑うフランに対して、魔理沙は落ちた帽子を拾い上げながら言葉を返す。
「それよりいいのか? 随分簡単に投げ捨てたみたいだけど、今のお前の武器だろ?」
「ふふ、それを作ってるのは誰だっけー?」
余裕の表情を崩さないまま、悪魔の妹は右手をゆらりと持ち上げる。
刹那、紅の霧のような物がフランの腕へと集まり、巨大な紅剣……レーヴァティンを形作った。
彼女にとってはレーヴァティンなど、霊力の続く限り幾らでも生産する事が可能なのである。
目の前でいとも容易く行われるえげつない行為に、魔理沙の頬が思わず引きつった。
「……おいおい、反則だろ、アレ」
「ま、妖精メイド達がこぞってフラン側につきたくなるのもわかるわよね」
こちらの武器は短剣と爪楊枝、挑むのはアンリミテッド・レーヴァティン・ワークス。
どう考えても割りに合わない勝負であった。
少なくとも正面から挑んだ所で、串刺しにされるのは確実だ、まずは如何にして、上手くフランの間合いの中に踏み込むかが問題である。
しかし、フランは二人にその道筋を探す時間を与えない。
「せっかく苦労してここまで辿り着いたんだもの。存分に私の気持ちを受けとって行ってよね、二人とも」
目付きが変わった。
急激に質の変わったプレッシャーに、二人は思わずびくりと身体を跳ねさせる。
その瞬間だ、フランは地面を強く蹴り、ロケットのような勢いで二人へと突進した。
右手には先程創り上げたレーヴァティン、美しい紅の光跡を残しながら宙を駆ける。
到達と同時に振り下ろされるのは、誰の目から見ても明らかだった。
「よし、今だ! 肉壁になれ魔理沙!」
「なった所で粉微塵だっての!」
馬鹿な掛け合いをしながらも攻撃のタイミングを読んだ魔理沙とレミリアは、それぞれフランの両側へと飛び退き身をかわす。
次の瞬間、モーションすら無く振り下ろされたレーヴァティンが轟音を立てて二人が立っていた地面を抉りとった。
地面に走る強い衝撃に、一旦距離を取ろうとした魔理沙が態勢を崩し尻餅をつく。
今狙われれば仕留められるのは確実、一見して絶体絶命のピンチなように見える。
否、これはレミリアの策の内。
まともに一対一をしてはどうしても不利、倒れた魔理沙を攻撃したその一瞬の隙をついて背後からフランを狙う。
レミリアは爪楊枝を構えながら、フランが魔理沙に意識を向けるのを今か今かと待ち続ける。
だが、どうやらその行動は徒労に終わったらしい。
フランは尻餅をついた魔理沙には一瞥もせずに、自分の右側に位置する姉に向けて横薙ぎの一閃を放つ。
「ちぃっ!」
「残念。そんな手には掛からないよ」
「ええぃ、演技はもっと上手くやりなさい、魔理沙!」
「いやぁ、全然演技じゃなかったんだけどな……こっち来なくてよかった」
魔理沙はと言えば、心臓を押さえながら、だらだら冷や汗。
どうやら転んだのは演技などではなく、ただの素だったらしい。
思わず気が抜けそうになるレミリアだが、フランの猛攻がそれを許さない。
横薙ぎからの袈裟斬り、飛び退いた所を踏み込みからの突き、一つ一つが必殺と思える程の攻撃がレミリアを襲う。
間合いの差はどうしても大きかった。
必死にかわすレミリアに対して、フランは余裕の表情で剣を振り続ける。
剣の技術はそこまでだが、圧倒的な身体能力に裏打ちされたその斬撃は、レミリアの攻め気を尽く斬り落としていく。
このままでは確実なジリ貧、その状況を変える事が出来るとしたら魔理沙しか居なかった。
フランは攻撃を始めてからは一度も魔理沙に振り向かない、その意識の全てを集中しレミリアの動きのみを警戒している。
それは魔理沙程度の攻撃ならば見ていなくても十分かわせるというフランの判断。
つまり必然的に、魔理沙にはレミリアより多くのチャンスが与えられていると言う事だ。
「いやいやいや」
しかし、目の前で繰り広げられるフランの攻勢、レミリアの回避。
とてもじゃないが人間が手を出せるレベルじゃない、うかつに飛び込もうものなら即ミンチの未来が待っている。
魔理沙の理性、そして本能までもがフランに近づくのを拒む。
そうやって魔理沙が臆して何も出来ない内に。
フランの猛攻は更に激しさを増していく。
必死にかわし続けるレミリアを容赦無く追い込んでいく。
「さぁ、どうするの、お姉さま!」
咆哮と共に放たれる鋭い斬り上げを、レミリアはバックステップでかわす。
フランはそれを追うように、持ち上げた剣を一歩踏み込みながら思い切り振り下ろした。
ここだ!
剣の振りが若干大きいのを確認し、これまで逃げに徹してたレミリアは始めて攻勢に出る。
身体を捻りながらレーヴァティンを横にかわすと、一気にフランへと迫り――――そして、驚愕した。
フランの右手には既に、別のレーヴァティンが握られていたのだ。
今の攻撃に用いた剣は手放されており、手にしているのは小回りの効く若干小型のレーヴァティン。
振り下ろしが大きくなったのは囮、レミリアを突っ込ませる事こそがフランの狙いだった。
そう、レミリアは死地に誘われたのだ。
「サヨナラ……ホームランッ!」
「……っ!」
野球のスイングのようなフォームから繰り出される鋭い横薙ぎが、レミリアの首筋を襲う。
必死にブレーキをかけるがもう間に合わない、一直線に突っ込んだその態勢では、とてもその一撃をかわす事など出来はしない。
レミリアは覚悟を決めたかのように、己の歯を喰いしばりながら目を閉じようとした。
その時だった。
閉じられる寸前の視界に、見慣れた白黒の姿が侵入した。
霧雨魔理沙だ。
これまで傍観しか出来なかった魔法使いが、レミリアの襟首を掴み、そのままその小さな身体をひったくる。
必殺に思えたフランのスイングが、大きく空を斬った。
これには流石のフランも驚愕の色を隠せない。
彼女が状況を把握するその前に、魔理沙はレミリアを連れて距離を取る。
「魔理沙!」
「し、し、死ぬかと思った……」
「お前どうして死にかけてまで私を」
「いやお前がやられたら、どう考えても次私殺されるじゃん」
「ああ、うん。もの凄く納得した」
ある意味魔理沙らしい。
仲間の為とかそんなご立派な理由ではなく、ただ自分の保身の為だけの勇気。
そんな物でもこうして誰かを救えるならば上等である。
態勢を立てなおした二人は、身体の埃を払いながら再びフランへと向き直る。
対して一瞬動揺を見せたフランであったが、すぐに気を取り直し小型のレーヴァティンを捨てると、大型のそれを握り直す。
「もー、早く私の愛を受け取ってよ、お姉さま」
「いやぁ、大層妹に想われてるようで」
「お裾分けはしないわよ」
「いらんわ」
そんな軽口を叩き合っている内に、背後から慌ただしい足音が聞こえてくる。
どうやら美鈴を突破した妖精メイド達がこの広間へと迫ってきているらしい。
最早、時間の猶予は残されていなかった。
「状況は極めて不利って訳か」
「今更。そんなの始めからの事でしょう?」
「違いない。本当よく毎年こんな始めから負けてるような戦いを続けられるよ、お前」
「私がやらなければ、誰があの子に気持ちを届ける?」
そう言うレミリアの瞳は、ただ一直線にフランの事を捉えている。
横で眺める魔理沙にも既にわかっていた。
レミリアがこの戦いに賭ける想いを、妹に向けるひたむきなまでの愛情を。
スカーレット家の伝統だとか、姉としての意地だとか、本当はそんな物はどうでもいい。
いつも素直じゃない彼女でも、憚ること無く己の気持ちを表現する事の出来る日。
それが、レーヴァティンデーであると言う事を。
「誰よりも想いを伝えたい相手があの子だった。ただそれだけの事さ」
二人は笑った。
フランが首を傾げる前で、最高に馬鹿な相棒と共に笑いあった。
どちらからともなく、手が差し出される。
この馬鹿らしい戦いの最終幕、その合図を鳴らす為に。
「それじゃあ」
「行くかっ!」
二人の手が重なりあい、気持ちのいい音が大広間に響き渡る。
魔理沙は左、レミリアは右、二人はフランの左右を囲むように別方向へと走りだした。
待ち受けるフランの攻撃は強力無比。
数に勝る以上、二方向からの攻撃は常套手段である。
だがしかし、それは二つの攻撃が共に効果的で無い限り意味を為さない。
フランは余裕の笑みを崩さないまま、姉であり敵大将であるレミリアへと己の意識を集中させる。
先程と同じである。
魔理沙の攻撃など、意識していなくとも防ぐことは容易い。
警戒すべきはあくまでレミリアであるというフランの判断であった。
それこそが魔理沙にとっての勝機。
予想通り自分に対して背中を向けたフランを見て、思わずほくそ笑む。
確かに人間である魔理沙ではフランの間合いに踏み込むなど、逆立ちしても不可能だろう。
しかし人間には人間のやり方と言う物がある。
魔理沙は己の役割を果たすべく、懐から2月14日の象徴を取り出し、フランに向けて思い切り投げつけた。
「フラアアアアアアン!」
大声で少女の名前を呼ぶが、フランは振り返らない。
魔理沙が武器を隠し持っている事など、彼女にとっては計算の内だった。
そして近接戦闘の苦手な彼女が、フランの間合いの外からそれを投げつけてくると言う事も。
まだまだレミリアとの距離は遠い。
今ならばそれを撃ち落としてからでも十分に次の攻撃に備えることが出来る。
そう判断したフランは迎撃を行うべく、ちらりと横目でのみ魔理沙のレーヴァティンを確認し――――
「えっ」
そして気付いた。
魔理沙の投げつけたそれが、レーヴァティンでは無いと言うことに。
それは、可愛らしい包装のされた一つの袋だった。
思わず反射的にレーヴァティンを引き、空いた左手でそれをキャッチする。
透明な袋の外から見えるのは、不細工な茶色い物体がひとつ。
そう、今日は2月14日。
魔理沙からフランへ送る、ヴァレンタインのチョコレートであった。
「ハッピーヴァレンタイン。私の分は確かに届けたぜ」
これまでそんな物を貰った事の無かったフランは、きょとんと目を丸くする。
それはこの戦いが始まってから初めてフランが見せた、明確な隙であった。
「そしてぇ!」
大広間に響き渡る聞きなれた声に、フランははっと我に帰る。
声の主は言うまでもなくレミリア・スカーレット。
魔理沙の作り上げた隙を利用し、一気にフランの懐へと侵入する。
振り向きざまにフランから放たれる横薙ぎ一閃、しかし無理矢理繰り出されたその一撃に鋭さは無かった。
レミリアは地面を滑るように斬撃の下をくぐると、埃を払いながらフランの目の前で立ち上がる。
やられると思ったのだろう、反射的に目を瞑るフラン。
そんな妹の愛らしい姿に、レミリアは優しく微笑みかけ……そして最愛の妹の前髪を持ち上げながら、爪楊枝でおでこをつんとつついたのだった。
「ハッピーレーヴァティン、フラン」
―――――――――
「どうぞ、ガトーショコラですわ」
「よっ、待ってました! 私一番大きいの頼むぜ」
月明かりが差し込む紅魔館の一室にて。
咲夜の運んできたケーキに、魔理沙は一人で盛り上がる。
レーヴァティンを巡る戦いは終わり、今はお待ちかねの打ち上げの時間であった。
先程まで敵対していた少女達も、今はもういつも通り。
魔理沙のマナーのかけらもない行動を肴にしながら、談笑を楽しんでいる。
「あの、咲夜さん。私のは」
「アンタは無しよ。あんな裏切り行為をしておいて、よくそんな図々しい口がきけるわね」
「そ、そんなぁ……」
どうやら一部はいつも通りでは無いようだが。
先程の勇姿は何処へやら、情けなく足元にすがりつく美鈴に対し、咲夜はつーんとそっぽを向く。
咲夜ととってはレーヴァティンデーは、毎年主であるレミリアへの敬愛を伝える為の大事なイベントだ。
結果的にあの美鈴の裏切りによってその機会を失ったのだから、怒るのも無理は無いという物であった。
その事を十分理解している美鈴は体育座りでよよよとしょぼくれる。
咲夜の口から、自然と大きな溜息が漏れた。
「と、言いたい所だけど。今日はレーヴァティンデーだもの。特別に許してあげるわよ」
「咲夜さん……!」
子犬のようにキラキラとした目を向けてくる美鈴。
どうもこういうリアクションをされると弱い、咲夜は気まずそうに頬を掻きながら視線を逸らす。
レーヴァティンデーを経た後も、やはり二人はいつも通りのようであった。
「ううう、千載一遇のチャンスを……私って、ホント馬鹿」
「ねー、パチュリー。どうして小悪魔あんなに落ち込んでるの」
「レーヴァティンデーで想い敗れる娘も多いって事よ」
「?」
パチュリーの身も蓋もない講釈に、フランは可愛らしく首を傾げる。
小悪魔は相変わらず壁に向かいながら、ぶつぶつと何かを呟いている。
まぁ、かなり単純な子だし、後でケーキでも持って行ってあげれば大丈夫か。
使い魔に対するアフターケアを考えながら、咲夜から受け取ったワインをフランに渡してやる。
「むしろ私には、負けた貴女が嬉しそうな事が気になるのだけど」
「えへー、内緒っ」
おでこをさすりながら、満面の笑顔を見せるフラン。
ワインを受け取った手には、パチュリーとお揃いの小さな袋がぶら下がっていた。
「なんつーか、さっきまであんな戦いをしていたとは思えん和やかさだな」
咲夜のケーキを口に運びながら、魔理沙はぽつりと零す。
隣では共に死闘をくぐり抜けた相棒、レミリアが手元のグラスを傾けている。
「レーヴァティンは一瞬の夢……覚めたら待っているのはいつも通りの日常よ」
「なーに、格好つけてるんだか」
「やかましい」
文句を言いながらも、レミリアはグラスに向けた視線を崩さない。
口元にはよく見なければわからないほどに、小さな笑みが浮かんでいる。
「でも、中々どうして楽しかったでしょう。どう? せっかくだし来年も参加してみない?」
「いやー止めとくぜ。こういうのは一回きりで十分だ。今日だけで寿命がどれだけ縮んだかわからんからな」
「……そう」
「なーに、次からは美鈴もお前の側につくだろうし、状況もだいぶ変わるんじゃないか?」
「そうかもしれないわね」
魔理沙の言に同意し、その瞳を細めるレミリア。
その表情は、ほんの少しだけ寂しそうにも見えた。
共に戦ってくれた者を失ってしまうレミリアの気持ちは、魔理沙にも何となく理解出来る。
実際もしも魔理沙がレミリアの立場であったならば、同じような反応をしたであろう。
しかし、魔理沙とて命は惜しいのだ、吸血鬼である彼女とは背負うリスクが違う。
少しばかり申し訳ない気持ちでレミリアの様子を眺めていた……その時だった。
魔理沙は何かに気付いたように手をぽんと叩く。
「ああ、そうだ。渡しそびれてた」
「?」
ごそごそと四次元懐に手を伸ばすと、中から一つの小袋を取り出す魔理沙。
それはフランやパチュリーに渡した袋と同じもの。
紅魔館にチョコをせびるにあたり、形式だけでもお互い様とする為に、魔理沙が用意しておいたチョコレートだった。
すっかりその意味は失われてしまったが、せっかく作ったものをこのまま持ち帰るのは勿体無い。
ぽかんと呆けているレミリアの手に、半ば強制的にチョコの入った小袋を渡してやる。
「私に?」
「ああ、ハッピーヴァレンタイン。レミリア」
渡された袋の中身を軽く確認して、その不細工なチョコレートに思わず吹き出した。
形を笑ったのではない。
魔理沙がレミリア達の為に手作りチョコを作る姿を想像したら、どうにも耐えられなかったのだ。
「あ、笑ったな、お前! これでも結構苦労したんだぜ!」
「いやいや、失礼。ありがたく頂くよ魔理沙」
「むー」
「くっく、悪かったってば。ほら、ワインでもどう、魔理沙?」
「なんだ、お嬢様が直接注いでくれるのか?」
「なに、今日くらいはいいでしょう」
そう言って、魔理沙の空になったグラスにレミリアは瓶を傾ける。
そう、今日はレーヴァティンデー。
一年に一度の、特別な日。
今日くらいは、普段は憎まれ口ばかりの相手に対しても、自分の素直な気持ちを表現してやってもいい。
最高に馬鹿な悪友を前にして、二人共に同じような事を思う。
レミリアはワインを二人に注ぎ終えると、自分の目の高さまでグラスを持ち上げた。
魔理沙もまたグラスを持ち上げ、二人は互いに笑顔で友の顔を見つめ合う。
「ハッピーヴァレンタイン、戦友よ」
紅魔館の一室に、小気味の良い音が響き渡った。
面白かったです
二人とも素敵だと思います
特にお嬢様と美鈴の関係はグッド
最高でした
いや、こうなってよかった!ですな
最高のエンターテイメントでした!
何かそれを思い出した
おもしれぇ
出落ちかとおもったら馬鹿やりつつ熱い作品でびっくり
熱い想いのぶちかまし、見せてもらったぜ!
ハッピーレーヴァティン!!
ただ魔理沙の渡したチョコの中に本命があったのかどうかが気になりますw
ハッピーレーヴァティン!w
だが今からでも遅くはない、後書きの話も……
凄い面白かったww
レミリアと魔理沙のコンビ愉快ですねぇ。
楽しそう、混ざりた・・・いやいや死ねる。
熱くて勢いがあっておもしろかった。
後書きが実現されなくてよかたww
ハッピーレーヴァテイン!
さて、つぎは3/14にスカーレットデーの話を…
九九の七の段って地味に難しかったよね
>>咲夜ととってはレーヴァティンデーは
咲夜にとっては?
面白かった!!
・・・彼女だったらいいのにorz
マリレミはギャグ混じりのシリアスに最適だな
ごめんなさいごめんなさい!あんまり面白くなかったですごめんなさいっ!
自分がおバカなのもありますが、まず相手を倒す=思いを伝えるって公式がどうも理解できなくて。しかも一回こっきりですよね、じゃあ冒頭で魔理沙を攻撃した妖精は魔理沙が好きなのか?もしそれで相手が勘違いしたらどうするのか?そもそも雑魚扱いされている妖精たちの思いはどうなるのか?祖父の代にはもうあったようですが、大将同士が(スカーレット家の者達が)相手に日頃の感謝を伝えようとも思わない殺伐とした関係だったらどうなる?とか。
自分が雑魚の一人だったら配給時はフランについておいて、開始直後に一目散にパチュリーのタマ取りに行きますよ。作品内の小悪魔のように。パチュリー大好きだし相手は能力使えないし。
つまり何が書きたいのかというと、女の子の思いを伝える日に、その行為(好意)をバトルに盛り込んだってところは理解できるんですが、手段ばっかりに重点を置いてその目的があまりに蔑にされているようで読んでいてよく分からなかったんですごめんなさい。
いっそのこと『バレンタインの行事から発生したイベントだが恋愛要素は一切なく完全なバトルもの』だったらまだ理解できたのですが、中途半端に恋愛要素も組み込んでいて非常に混乱しましたごめんなさいごめんなさい。
昨日の深夜に読んで、ずっとモヤモヤし続けて、それでも解決できなかったので書き込ませていただきました。
長文すいませんでした。
カリスマガードおぜうさまは可愛すぎるよ!
あと、あとがきwwwそっちの話も気になりますwww
裏切りすら想いに溢れたものとなるこの構造がまた素晴らしい。
さぁ全力で後書きの話を執筆する作業に戻るんだ。
点が高いのは作者ブランド??
めちゃくちゃおもしろかったです!
こういう作品があるからそそわはやめられない!
レミリアのかっこよさはビシビシ伝わってくるんですが、いかんせん戦闘ごとの文章とテンポが似たような感じだったので勢いは伝わってこないかなと。いやしかし楽しかった
二人ともかっこよかったなぁ
美鈴、来年は想いを伝えられるよう頑張れ
マリレミコンビがいい味出してました。
バレンタインの悲しさがふっとry
やってること意味不明なのに無駄に熱いところとかwwww
何よりも良かったのが、爪楊枝を如何に使うかを私はずっと考えながら読んでいたので、映像的に美しく扱う為だったのが意外というか、綺麗やなーて感じでした。
あとがきwww
祖父の代からとはw
レミリアのような考え方をする方だったんだろうね
遊び心が、余裕があって実にワガママな吸血鬼らしい気がするな
人間の尺度で計るならなぜ暴力? となるかも知れないが、吸血鬼だからこそですね
美鈴と咲夜のバトル詳細が読みたかった。あれば蛇足になってただろうけど
魔理沙って何だかんだ言って素直だと思います
美鈴頑張れ!
面白かったです。
つまり、魔理沙がレミリアの後ろからマスパを打ち込んでレーヴァテインごとフランに叩き込むという戦法も使えないわけだ