※前回の作品の続きです。そちらを先に読むことをおススメします。
「何で龍神様がいるのよ!?」
「何かが神の逆鱗に触れたか、あるいは………」
「あるいは?」
「……その存在を消されぬためにやっているか」
「存在を……?」
霊夢と紫は、落ちてくる雷を避けながら、龍の所へと向かっていた。
そして移動している中で一つの仮説を立てた。
「……この場合、龍神様の逆鱗に触れたってのが理由のような気がするけど」
「さあ?本当の理由は神のみぞ知るってことだから、分からないわよ?」
そこまで話した時、龍の動きが止まった。
紅魔館の少し手前。見知った人影があった。
「あれは…レミリア?パチュリーとフランドールもいるわね」
「……あら?自慢のメイド長がいないみたいね」
「ホントだ」
「何が目的か知らないが、私の館に手出しはさせない」
怒りをたたえた紅い瞳で龍を睨み、手元に真紅の槍を作り出す。
「スペルカードルールって、龍神様にも通じるのかしら?」
そう言いながらも、様々な属性の魔法を唱え始める。
「……なんだかよく分かんないけど、壊さなきゃならないんだよね?」
全てを破壊する剣を作る。その瞳に狂気の色はない。
三者三様。だが、目的は同じく。
“目の前の敵を倒す”ただそれだけだ。
ジッと三人を見つめていた龍が、口を開く。
『……ただの妖怪風情が、神である我に刃向うとな?……そこにいる妖怪と人間もまとめてかかってくるがよい。そうでなければ、早々にここを立ち去れ』
確かな威厳と重圧を持った声が響く。
その声を聞いた霊夢と紫は、レミリアたちの方へと移動した。
「……異変として捉えているのか?」
「いいえ。今回は“幻想郷の危機”だそうよ」
「随分とスケールがでかいな」
「それだけのことなのよ。龍神様が来るの」
「いいのか?お前は神に仕える巫女だろう?」
「その神様を鎮めるのも、巫女の仕事よ!」
そう言って懐からいくつかの札を取り出す。準備は整った。
『来い』
短く龍が放ったその声が、戦闘開始の合図となった。
「…………」
咲夜は館の中から戦いを見ていた。
次から次へと繰り出される弾幕を、龍は軽々と避けていく。
さっきから何度も何度も館の外に行こうとしたが、レミリアの言葉が鎖となって足を止めてしまう。
一緒に戦えない自分が悔しい。
口にこそ出さないが、そう思っていることが見て取れる。
『そんな程度なのか?』
「………え?」
明らかに馬鹿にした龍の声が聞こえる。
だが、咲夜にはもっと別の響きに聞こえた。
「何故………?」
口から出たのは疑問。一層激しくなる戦いを見ながら呟く。
「何故、あなたは………」
「スピア・ザ・グングニル!!」
レミリアが槍を放つ。
吸血鬼のパワーで投擲されたそれは、ありえない速度で龍に向かう。
『フンッ!』
しかし、龍は造作もないといった様子でその槍を掴み取った。
そして、レミリアの方向へと……投げる!
「………!」
さっき以上のスピードで投げられた槍を、辛うじてかわす。
槍の衝撃で、付近の森はその半分を失った。
「プリンセス・ウンディネ」
静に。しかし、力強く詠唱された魔法。
水のように弾幕が躍る。ハッキリと意志を持って龍に襲い掛かる。
『……龍である我に、水を冠する術で挑むか』
「なっ………!」
直後。龍に向かっていた弾幕が荒れ狂う。
そしてそのまま、パチュリーの所へ怒涛の勢いで迫る。
「くっ………」
何とか結界を張って防御出来たが、強力なはずの結界がその一撃で崩れ去った。
「レーヴァテイン!」
その声は龍の後ろから。巨大な炎が振り下ろされる。
が、龍は慌てる素振りすら見せず―――。
『甘いな』
振向きざまにその口から灼熱の吐息が吐き出される。
拮抗する炎と炎。しかし、
「う、そ……?」
ピキリッと。フランドールの持つそれが音を立てて折れた。
こんな至近距離からの攻撃を避けられるわけがない。
一瞬の先、来るであろう衝撃に目を瞑り………。
「マスタァァァスパァァァァァク!!」
眩しいほどの光が、灼熱の炎を消し去った。
「大丈夫か?フラン」
「ま、りさ……?どう、して…」
「どうしてって……異変ぽかったからな」
ニッと笑って見せる魔理沙。そして真っ直ぐと龍を見て言い放つ。
「さて、ドラゴン退治といきますか!!」
それを聞いた龍は目を細める。
『……懐かしいな。遥か昔に、そんなことを言う馬鹿がいたが、こんな所にもいるとはな。少しは期待してもいいのか?』
「油断してると痛い目見るぜ?」
不敵に笑って見せる魔理沙。そのまま龍よりも高く飛び上がる。
「ドラゴンにはドラゴン、だよな?」
スッとスペルカードを取り出し、高らかに宣言する。
「ドラゴンメテオ!!」
極光が、空を包み込む。
龍の名を冠するその全てが龍へと降り注いだ。
「やったか……?」
衝撃によって生まれた土煙が、少しずつ晴れていく。そこには……。
「なっ……マジかよ!?」
龍はその身に傷一つ付けてはいなかった。
龍の周りには大量の水が浮いていた。見ると、湖の水が全てなくなっていた。
『……うむ。少しはやるようだな。……だが』
「………っ!?」
龍の声が聞こえ、そして気が付く。
上下左右。魔理沙の周りは全て水で囲まれていた。逃げ道は、ない。
『そんな威力では、我に傷を負わせることなど出来ないぞ?』
水とは。その水圧が高ければ高いほど、その威力は上がる。
水圧を上げて打ち出したものは、鉄をも貫くという。
ならば、水を自在に操れる者がそれをやるとどうなるか。
答えは簡単。一瞬にして相手を砕くことが出来る。
例えるなら……そう。水でできたグングニル、といったところだろう。
「……これはマジでやばいぜ」
その時。
「夢想封印・散!!」
と、親友の声が聞こえ。
「無茶しすぎよ」
妖怪の大賢者の隙間へと飲み込まれた。
「……ふう。助かったぜ」
「一人で突っ走りすぎよ」
隙間の先は戦場から少し離れた所だった。
魔理沙と紫、後退してきた霊夢は一度話し合う。
「どうすんのよ。こっちの攻撃ほとんど効かないわよ?」
「どうするって言っても、攻撃するより他、ないでしょうね」
「あの水の盾さえなけりゃ、私の魔法はそれなりにダメージを与えれると思うんだが……」
「ああ、もう!どうすりゃいいのよ!?」
少し自棄になって霊夢が叫んだ時、空気が震えた。
対策を練っていたところに、龍の声が響く。
『さて、そろそろ終幕といこうか。我を楽しませてくれたお礼だ。少しばかり本気を出すとしよう』
「……だから何だ。私はここを引く気はないぞ?」
龍の声に気丈に答えるレミリア。しかし、その顔には疲れの色が見えている。
『………その虚勢が、いつまでもつかな?』
龍が一層高く飛ぶ。そして、
『……その身に受けるがいい。虹の洗礼を!!』
空が虹色に染まる。
虹の中を舞う龍の姿は、戦いの最中であることを忘れさせるほど美しかった。
空を覆っていた虹はやがて無数の弾幕となり、地上へと降り注ぐ。
刹那、幻想郷は虹に包まれた。
ハッキリと見えた虹の弾幕。それを見て確信する。
鎖など、彼女にとってはもう意味をなさなくなった。
彼女は龍へと真っ直ぐに向かっていった。
真紅の槍は砕け、七色の魔法はその色を失い、破壊の剣は折れた。
巫女も魔女も妖怪も、遥か遠くへと飛ばされた。
『………虚しいな』
地上へと降り、龍はポツリと呟く。
森は抉れ、湖は枯れ、大地は砕けた。あるのはただただ紅い館だけ。
「………ねえ」
『…………!』
突如聞こえた声に、龍は辺りを見渡す。
と、いつの間にか目の前に人間がいた。
「何故、あなたは泣いてるの?」
『……我が、泣いているだと?』
龍の言葉に人間は首を縦に振る。
「本当は、こんなことしたくないって、そう思っている」
『………人間よ。何故そう思う?』
龍は殺気を発しながら問い返す。
「……わからない。けど、あなたは確かに泣いている」
だが、龍の殺気なの気にせずに人間は言った。
『……我が怖くないのか?』
「何故あなたを怖がらなくてはならないの?」
『我は龍だ、神なのだ。恐怖の対象であろう?』
「でも、あなたの心は人間でしょ?」
『………っ!』
人間は言った。
たとえ見た目が龍で、その力が神であっても。
心だけは人間だと。当たり前のことのように言った。
龍はそんな人間を見て………殺気を放つのをやめた。
『……人間。そなたと少し話がしたい。構わないか?』
「もちろん。私はあなたと話をするために来たんだもの」
人間が了承したのを見て龍は語りだした。その瞬間、一人と一匹は光に包まれた。
―――昔のことになる。我は、大陸の方にいた龍だった。住んでいた場所からは人間の里が見えたのだが、それはそれは楽しそうにしていた。
仲間の龍たちは人間を“自然を汚す”“争いばかりする野蛮な生き物”と言って憎んでいたが、我は人間たちが好きだった。
そのうち我は、人間たちと話がしたいと思うようになった。しかし、我が姿を現すと皆恐怖し、誰も我と話をしてはくれなかった。
更には、我を退治しようとする者まで現れ始めた。……悲しかった。だが、どうしても人間を嫌いになれなかった。そこで我は考えた。人間として生きることは出来ないかと。
……結果、人の姿になることは出来た。しかし、完全に龍としての力をなくすことは出来ず、“人の姿をした妖怪”となった。
それでも構わなかった。これでやっと、人間たちと話すことが出来るのだと。
『……あの頃は幸せだった。人間たちは私と普通に話し、笑ってくれた。いつまでもそんな日々が続くと思っていた。だが……!』
「また、龍の姿に戻ってしまった」
人間は呟く。龍は目を伏せ、再び語りだす。
『……我はになるために、ある方法を使った』
「ある方法?」
『人としての名を受けることによって、人としての姿を得る……という方法だ』
「名前………」
『……我の人としての名を呼ぶものがいなくなった。我を人として繋ぎ止めていた鎖が、砕かれてしまったのだ』
「……名前を否定されるということは、存在を否定されるということなのね」
『……そう言うことだ』
その時不意に。
人間は龍の首に抱き着いた。
『何を―――』
「―――」
ビクッと、龍の体が大きく震える。
囁くような小さな声は、しっかりと龍に届いた。
『そなた、我の名前を……』
―――呼んでくれるのか?
それは声にはならなかった。龍の瞳から大粒の涙が溢れる。
「そんなに悲しまなくていい。いつだって私が貴女の名前を呼んであげる。貴女の人としての存在を認めるから……」
『我は、まだ、人として生きてもいいのか……?』
「当たり前よ。誰が何と言おうと貴女は人。貴女が何なのかは自分で決めることよ?だから貴女はいつも通りにしてていいの。わかった?」
龍をジッと見つめて言う。龍はそんな人間を見て言った。
『……名前を、存在を認めてもらえるというのは、こんなにも嬉しいことだったのだな』
龍の姿が光に包まれた。“彼女”が目覚めようとしている。
「おやすみなさい。もう一人の―――」
スゥ……と、最後に笑って龍は消えた。
「ふあ………」
大きな欠伸を一つして目が覚める。
空は雲一つなく晴れている。暖かい日差しに包まれて、また眠くなってしまう。
「……また、寝てたのね?」
「さ、咲夜さん……」
また寝ようとした美鈴の所へ凛とした声が響く。
「……おしおきが必要かしらね?」
「や、ちょ、咲夜さん、ナイフだけは……!」
ナイフを構えた咲夜を見て、思わず目を瞑る美鈴。
「………?」
が、いつまで経っても痛みが来ない。
それどころか何か柔らかい感触が伝わってくる。
「さ、咲夜さ……!?」
「黙ってなさい」
ピシャリと言い放つ。
何故だか知らないが、美鈴は咲夜に抱きつかれていた。
「これは罰よ。私の気が済むまでこうしていること」
「それって罰じゃないんじゃ……」
「うるさい」
ギュッと、更に力を込める。
と、美鈴は咲夜が震えてることに気が付いた。
「ねえ……」
「……何でしょうか?」
俯かせていた顔を美鈴に向ける。
「お願いだから、二度と私に何も言わずにどこかに行かないで」
「……よく分かりませんが、それが咲夜さんを悲しませることだというのなら、二度とそのようなことはしません」
「絶対よ?破ったら承知しないから!」
「はい、絶対です!」
その言葉を聞いて、咲夜は満面の笑みを浮かべる。
そしてそっと、美鈴の瞳に手を伸ばす。
「あれ?私、何で泣いて……?」
「いいから」
美鈴の涙を拭き取り、咲夜は思い出したように言った。
「おかえりなさい、美鈴」
一瞬ポカンとしていた美鈴だったが、すぐに笑顔を浮かた。
「ただいまです、咲夜さん!」
皆が目を覚ました時、何を思うだろうか。
目覚めた時、そこにはいつもと同じ時が流れている。
何があったのか知っているのは、一人の人間と一匹の龍だけ。
彼女の夢の跡は、幻想の中へと刻まれた。
技術はこれから鍛えていくとして、作者さんには見所があるんじゃないかな。がんばって!
書く人によって展開も異なってくるし自分は2番煎じとか気にならずに楽しく読ませて頂きました。
でもこの終わりだと結局咲夜さん以外はまた中国と呼んでしまうような…
そこは美鈴や咲夜さんが名前で呼ぶように周りに働きかけていくのかな。
作者様の他の作品も読んでみたいので気長に待ってますね。
誤字報告
フランがレーヴァテインを使う所、
巨大な炎がひ振り下ろされる。
になってますよ。
いい加減中国ネタはげんなりするし、龍神ネタはなぜ美鈴が紅魔館にいるのか理由付けが難しい。
それとこの手の話で思うのは、仮にも主人のレミリアが中国呼ばわりするのに激しく違和感がある。美鈴と聞いて誰のことだかわかるのに中国と呼ぶとか嫌がらせでもしてんのかと思う。
まあこの話だと、普通に名前を呼ばれると話が成り立たないわけだが、唯一名前を呼べるのが咲夜である必然性が弱い。
もうちょっと咲夜と美鈴が親しげな描写があった方が良かったな。そのせいで、最後のシーンがとってつけたような感じがしてしまった。
とりあえず、マスパさえ出しておけば美鈴やパチュリーは楽勝という、「マスパ病」は治した方が良い。厨二臭くて痛々しいから。