Coolier - 新生・東方創想話

狩る者、狩られる者

2012/02/05 11:58:50
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※1.前作までとの関連性はありません。
※2.当物語に出てくる椛はダブスポ基準です。いわゆるワンコ椛、健気な椛をご所望の方はお気を付けください。
※3.独自設定があります。


 諏訪大社には代々、御頭祭なる奇祭があるのだが、実をいうと早苗はこのお祭りが大の苦手であった。現在こそ生贄とされているのは動物のはく製ではあるものの、昔は本物を利用した祭事である。
 しかしながら、はく製であったとしても、それの頭のみを利用するというのは現代っ子の彼女にとってはすこぶる不気味であったのは間違いないだろう。そのことを両親に話せば、自分たちが口にしている肉も、元はこうしてできていると小一時間ほど説教された苦い記憶がある。
 しかも、最初に聞いたのは小学生の頃だ。好奇心から聞いたのが不幸の始まりで、その日は夢にまで見てしまったのである。小学生は想像力豊かなのであった。
 それ以来、彼女はスプラッタ物が苦手だった。逆に非現実的なアニメーション、特にロボットものにはまったのである。解剖、分解といったものはできればしたくないな、と思っている。そう……思っていたのだが……。

「何故……こんなことに」

 山道を歩きながら彼女は内心頭を抱えていた。事の発端は昨晩。山のお偉いさんを招いての小さな宴会を守矢神社で行った際、大天狗が御頭祭の話題を出したのだ。なんでも幻想郷が隔離される前、外界を旅しておりその際にその祭を目にしたらしい。
 妖怪たちに祭事を通して再度山の妖怪たちに山に対する忠誠心を育みたいとかねてから考えていたらしい。神奈子も信仰を得られるということで快く快諾。御頭祭in妖怪の山第一号として早苗にそのバトンが渡されたのである。
 早苗としてはこの御頭祭、詳しい内容は実をいうと知らない。跡取り娘としてどうなのだという話だが、今はおいておこう。
 ただまぁ、今回は裏の事情もあるので、本来の趣旨からは多少外れるそうだ。完全な神事としないのは、相手が妖怪だからだ。本来妖怪と神は陰と陽、逆の立場である。神事に染めきってしまうと山の勢力のバランスが乱れるのだそうだ。例大祭や御柱祭にしなかったのは、そういった具合がある。御頭祭が劣るとは思っていないが、どうしても前者の方が全国的な知名度が高いのは否めないという天魔の判断なのだろう。真意はあくまでも妖怪たちに『山』に対して忠誠を誓わせるのだ。
 だから今回行われる御頭祭は本来のものとは少々意味合いが違うものになる、と早苗は事前に通告を受けていた。神事は重要なことであり、正直それでいいのかと思うが、何しろ自分の神が了承したのだ。文句は言えない。
 が、早苗の懸念はそこではない。神社のことは最終的には神奈子たちが決めるのであって自分はそれに従えばいいのだ。
 問題は、御頭祭に奉納するのは首である。百歩譲ってそれは良しとしよう。問題はその後の宴会で使わなかった肉をふるまうのだという。つまり、鹿の肉だ。神奈子は良い経験になるとして、首だけでなく解体を行うよう早苗に命じたのである。
 しかしながら、前述のとおり早苗は本来の御頭祭の詳細を先代からのお話程度にしか知らないし、嫌な思い出がある。
 そもそも怖がる以前に、どうやって解体すればいいのかわからないのだ。魚を卸すのはもう手慣れたものだが、それが獣になるとわけが違う。まさか祀り上げる本人に教えてもらうわけにもいかない。結果途方に暮れてしまっていたのだ。
 そんなこんなで、悶々とした気分を振り払うべく気晴らしに山の中を歩いていた。普段歩かない場所を通れば何か案が浮かぶだろうと歩いていると、いつしかとある小川に出た。山の中でも随一の大きさを誇る九天の滝の上流にある支流のひとつ。神社から大分離れてしまったらしい。戻ろうかと思ったが、ふとおかしな光景を目にした。
 その小川は浅く、普段は透き通った色の水が流れているのだがしかし、紅く濁っていた。少し上流に目を向けると……思わぬモノを見つけた。
 猪……だろうか。河原に何か獣が横たわっている。死んでいるらしく、その血が流れているようだ。見知った人物が何やら傍で作業している。上半身裸の背中姿(女性なのかさらしが見える)だが、その白い髪と耳、そして尻尾は良く知る種族だし、傍に置いてある丸い楯と、何よりも特徴的な太い野太刀は良く知る人だと連想できた。

(椛さん?)

 犬走椛。哨戒天狗の白狼はその死体を何やらいじっていた。猪が動くたびに、川に流れる血の量が増える。どうやら仕留めたのは彼女のようだ。流れる血を見るたびに、ドキリと心が跳ねる。
 元々椛とはそれほど仲がいいわけではない。というよりも交流が少ない。新聞記者であるからか、いやそれとも元々の性格からか人懐っこい文と違い、椛は他者と積極的に交流するタイプの妖怪ではない。
 にとり曰く、一人を好むのだそうだ。一匹狼と言う奴だろう。早苗は何度か彼女と言葉を交わしたことがあるが、それはどれも事務的なモノだ。例えば、大天狗からの伝達や納品については全て守矢神社を管轄(監視ともいう)する椛がパイプ役となり神社側に伝えている。その時も彼女は必要なことだけを伝えさっさと帰ってしまう人だった。
 口数が少ないどことなく怖い人、それが彼女の椛に対する感情であった。
 宴会にもあまり出ている記憶はない。上の命令で強制的に参加させられたものくらいだろうか。少なくとも自分から来たという話は聞いたことがない。
 その彼女が猪の死体をいじる姿は、余りにもと不気味だった。邪魔しても悪いだろう、と後ずさりした、その時……小枝を踏んでしまった。
 パキン、と乾いた音が鳴り、早苗が地面を確認するよりも早く、左頬を何かが通過した。そして背後から鈍い音が鳴る。
 髪の毛が切れ何本か地に落ち、ゆっくりと振り返ると、背後の木に短刀が突き刺さっていた。猪の血がこびりついているのか血が滴っている。
 慌てて椛の方を向くと、まだ彼女は背を向けたまま……いや、今まさに立ち上がりこちらに振り返ろうとしていた。あの短刀は背を向けたまま正確に投げてきた、ということか。

「……守矢の巫女か」

 振り向きこちらの姿を確認した椛は無表情だ。その全てを見透かすような冷たい瞳が早苗は苦手だった。

「何か用か。ここは神社からだいぶ離れているだろうに」

 短刀を投げたことを謝ることなく、彼女は歩いてくるのだが、その姿は返り血で真っ赤に染まっている。顔にも血がこびりついており、まるで人を斬って来たかのような姿だ。その姿に若干怯えを覚えながらも早苗は返す。

「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていまして」

 言いながら失礼かなと思ったが、椛はそれを気にすることなく早苗の横を通り過ぎると、木に刺さった短刀を引き抜く。そして早苗を気にすることなく再び猪の元に戻って行った。
 何をしているのだろうとみてみると、どうやらその短刀で解体をしているようだ。傍には桶が何個か置いてあり、そこに内蔵、肉、そして血と分けられていた。胸から何かが込み上げてきて耐えられず、直ぐに目を逸らした。
 食料だという。早苗の質問にも短刀を動かす手は止まらない。あっという間に猪の殆どを解体してしまった。
 懐から手拭いを取り出すと体についた血を拭う。が、だいぶ固まっているようでどうしても皮膚にこびりついていた。

「食糧なら市場で買えばいいと思うんですが」

 妖怪の山にはそこに住む妖怪たちが円滑に食料を手に入れられるよう市場が何個かある。不必要に人間の里に危害を加えないようにという目的が近年の理由ではあるが、元々は山自体が一個の国として存在していたため自給自足できるようにと建てられたのが起源だ。
 早苗も利用している。市場の一角にはこうした猪等の肉も普通に売っていた。
 そういったことから山の中での狩りは制限されている。文曰く、大天狗の許可が必要なのだとか。椛はその許可を得ているのだろう。

「早苗殿は私の種族を知っているだろう?」
「白狼天狗……ですよね?」
「白狼は狩るモノだ。時折こうして狩りに出ねば体が鈍る」

 なるほど、と思う。習い事と同じだ。彼女の場合、定期的にやらねば狼としての矜持を失ってしまうのだろう。椛は解体し終えた猪の入った桶に目を向ける。
 解体を終え、桶を重ね籠の中に入れる。残った死体は山にすむ獣たちが食べてくれるのだとか。

「内臓はモツとして食べることもするが、基本は肥料にした後畑にまく。血は適切な使い方をすれば鍋などの食料としても利用できるのだ。
 必要な分だけ取り、後は市場に売るのだよ。燻製にすれば長く持つ」

 桶の中身の量は相当なもので、その行方を気になっていたところ、背後からそう説明が来た。当の本人は流石に血だらけのまま帰るわけにもいかないのか、衣服を脱ぎ、褌姿になると血の流れていない上流にむかい、飛び込んだ。まだこの時期水は寒いと思うのだが、特にさむがることもなく手拭いでゴシゴシ体を拭っている。

「いつもやってるんですか?」
「冬と、備蓄も尽きたころに。夏場は干物にしないと痛むから、あまりやらんが」

 裸になっている椛の姿は、当然ではあるが初めて見る。だがその体は女性とは思えないほど引き締まっている。太陽の下で生きているため焼けた肌、無駄な肉などない。ただそれ以上に大小の古傷がうっすらとではあるが見て取れた。生々しくもどこか歴史を感じさせるその姿に見とれてしまった。
 どこかへ行く予定もなかったため、了解を取り、近くの岩に座る。女の水浴びなぞ見てもつまらんだろうと椛は言っていたが、別段邪険にする扱いは無いのか、拒絶することもなかった。
 ある程度血を拭うと、椛は川に頭から飛び込んだ。こびりついた血の匂いを落とすのだろう。放り投げていた手拭いを見れば、血で赤く染まりきっていた。
 一分、二分……出てくる様子はない。だが、早苗に慌てた様子もない。人間ならまだしも妖怪の肺活量は伊達ではない。河童は言わずもがな、天狗とて……相当の肺を持っている。
 実際椛が浮上してきたのは十分が経ってからだ。春になったとはいえまだ寒さも残る。小川に手を入れてみたが、凍えるような冷たさはまだ変わらない。なのに椛は息を乱さず、寒がる様子を見せなかった。
 体を拭いたのち、スカートのみ履く。無論それにも血はついているが、流石に褌一丁で帰るわけにはいかないようだ。ちなみに上はさらしのみだ。羞恥心はなく、最低限の節度のみ守っているらしい。少し間違っているような気がしないでもないが。
 籠を背負うとこちらを見てくる。その瞳は何度見ても慣れそうになかった。

「これからどうする? 何か悩み事を抱えているようだったが」
「え? あの……わかりますか?」
「聞いてほしそうな顔をしている」

 慌てて顔に手を当てるが、無論何かがついているわけがない。その挙動がおかしく、普段は無愛想な椛も苦笑していた。

「非番だ。話を聞くだけならば聞けるが」
「あ……えと。では……」

 せっかく話を聞いてくれるというし、あまり会話をしたことがない椛と仲良くなるいいチャンスなので、快く受け入れることにしたのである。


◆  ◆


 仲良くなれるチャンス、と思っていた早苗だが椛の家についてさっそく後悔していた。

(なんなんですかこの家はー!?)

 椛が自室にて着替えをしている間、先に案内された客室で待たされることになった早苗は、この屋敷の余りの広さに驚愕していた。まだ外の世界にいた頃、学校の社会見学で大名屋敷を見学したのだが、それに劣らないくらい広い屋敷だ。
 とてもじゃないが一介の下っ端天狗が住めるような場所じゃない。下宿しているというわけでもなく、まさしく椛がこの屋敷の主となっていた。
 元々謎が多い妖怪ではあるが、実は下っ端天狗というのも嘘で、本当は相当偉い人なんじゃないか、と思ってしまう。
 おかしいのはこれだけ広い屋敷なのに使用人と思われる人があまりにも不足しているという点もある。他にこの屋敷に住んでいるのは彼女の部隊の副長ただ一人だけだそうだ。
 椛曰く彼女と自分でこの屋敷を切り盛りしているのだとか。ちなみにその副長はお茶を持ってきた後、特に話すこともなく出て行ってしまった。仕事があるのだという。
 静かな部屋の中、壁にかかった時計の音だけが鳴り響く。気を紛らわすために周囲を観察すると、流石客室とだけあって色々なものが置いてある。
 けれど部屋から見える庭園を含め景観が壊れることはなく、絶妙なバランスを保っている。埃ひとつないきれいな部屋だった。

 椛が部屋に入ってきたのは5分ほどたってからだろうか。いつもの天狗衣装に身を包んだ彼女は早苗の正面に座る。正座をし、ピンと背を伸ばしたその姿は見事なものでどこか気圧されるところもあった。そのまま湯呑を口に運ぶ。

「あ、あの…広いお屋敷ですね」
「皆言う」

 漆で塗られた茶托に湯呑を置き、まだ手を付けられていない煎餅の入れられた皿をスッと早苗に進めてきた。が、今一食べる雰囲気ではないため固辞した。

「私の屋敷ではない。預かっているだけだ」
「預かっている……ですか?」
「でなければこんな広い屋敷に一介の哨戒天狗が住むことはできん」
「はあ……」
「知らないほうがいいこともある」

 まぁ、それもその通りだ。外の世界でいう社宅、もしくは寮のようなものが山の中にはあり、ほとんどの天狗はそこで生活をしている。
 最も長屋のようなものなので、何だかんだで広い。位により住む人数が決まっており、位が上に行けば個室として住むことが出来る。豪族にもなると、巨大な屋敷を持つことが許される、そういう仕組みだ。だが、椛の住むこの屋敷はその豪族たちが住む以上に大きい。
 椛の言う屋敷を預けた人が一体誰なのかは知らないが、相当偉い人なのは間違いないだろう。
 先ほどからぶっきらぼうな物言いだが、椛は元々口数が少ない人だ。
 そして、悩みがある以上、早苗から話が出ることを望んでいる。世間話は不要、そう言いたいのだろう。
 早苗は、話を切り上げ、事情を説明することにした。
 今度御頭祭をやること。その大事な役目を自分がすること。そして、その神事に自身が忌避感を抱いていること……。
 たどたどしく説明する早苗を、椛は黙って聞いている。その瞳は心の奥底まで見抜くような感覚を覚え、心の底まで吐露するかの如く自然と言葉が出ていくのだ。
 語り終えたのち、早苗は初めて茶に口をつける。どれだけ喋っていただろうか、とっくに温くなっていた。
 椛は腕を組み語らない。目をつぶり、何か考えているようだった。重苦しい時間が流れる。喋りすぎたか、と半ば後悔する中、静かに椛は言った。

「外の世界では、一般的に猟をしない……そうだったな?」
「は、はい。専門的な職業の方が行いまして……私たち一般市民は彼らが生産した商品を買い、消費します」
「社会の問題だな。一つのモノがどのようにしてできるか。知識として知ってはいるが、見てはいない、経験もしていない、故に理解力が不足している。空想と現実の乖離だ。あなたの悩みも大元はそこから来ている」
「そう……なんでしょうか」

 目を開く。その見透かされるような目で椛は早苗を見ると、頷く。そして一枚の煎餅を手に取った。

「例えば。これの原料は米だ。どう作られるか、知ってるか」
「もちろん。田んぼから取れます」
「では、それまでに農家がどのような努力をしていると思う」
「それは……肥料をまいたり、虫から守ったり……ですよね」

 椛は何も言わず、首を振る。足りない、と。何気なく食べていても、この煎餅一枚作るのに、まず米農家の膨大な努力があった、早苗もそれは知っている。だが理解が足りない。どんな思いでモノを作るか、それを知らない、と。

「理解とは、理を解すると書く。だが人は大抵の物事は理解しているようでしていない、ただ知識を蓄えているに過ぎない。意味は分かるか?」
「……知識と理解は違う?」
「理解は知識の先にあるモノ。想像しやすいのは経験か未経験か、という点だ。こちらも、知るか、知らないかに分類できる」
「私はただ『知っている』だけで、経験をしていないから、上辺のモノにしかならず、不十分……ということですか?」
「知識に対して体がついて行っていない。だから上辺のみ知ることで理解したと思い込んでいる。だから怖いのだ」

 何が、とは言ってくれなかった。ただわかる気がする。
 人間には少々厄介なところがある。つまるところ、無駄にスケールの大きい想像になってしまうことだ。
 思い返してもらいたい。例えば、新しいことに挑戦しようとする。あまりにも漠然とした物事故に萎縮してしまう人がいるだろう。それは体験したことがないから恐怖を抱くのだと思う。
 しかし同時にわかってもいるはずだ。例えば先人がすでにそれを行い、大丈夫だと諭していることもわかっている。けれどなぜ恐怖を抱くかといえば、やはり体験していないからだ。
 これが知識と、理解の違いだ。先人たちの言い伝えで知った風にふるまっている、これが知識。理解は自身でそれを体験し、その際に受ける苦痛、恐怖、歓喜、あらゆるモノを受け止めて初めて得られるものだ。
 そういう意味で早苗は理解していない。動物を解体すること、そこから得られる教訓を。
 まだ、決意を固めきれていない表情を浮かべている。無理もない、まだ早苗は若い。それにいきなり重責を負わせるのは聊か荷が重いだろう。このままでは本番を迎えてもきっと失敗してしまう。
 それは嫌だ。失敗は自分にしかないが、祭事となると守矢神社の評価にもかかわる。神々に迷惑はかけられない。けれど、はたして自分にできるだろうか……。こんな、怖がっている自分が、その祭事を。
 決心ができない早苗を見て、何かを思いついたのかおもむろに椛は立ち上がると、早苗を置いて部屋を出て行った。
 ポカンと呆ける早苗を置いて、五分後、戻ってきた彼女の衣装はまた変わっていた。
 いつものスカートではなく袴で、脛のところで硬く縛っている。上はいつもの白い服。腰にはベルトを巻き、巾着が二つと、皮袋、携帯用酒器である赤い瓢箪が一つ下げられ、更には普段は見ない短めの刀を佩いていた。肩には縄を背負っている。ひときわ目立つのが直方体の形の箱。お椀などの道具が入っているらしく、椛はそれをリュックサックのように背負っていた。

「ついてこい」

 それだけ言い残し部屋の外に出て行ってしまった。状況を理解できていない早苗だったが、我に返ると慌ててその後を追うことにした。


◆ ◆


(いったいなぜこうなったのだろう)

 早苗は先を歩く椛の後姿を眺め何度目かになる自問自答をしていた。
 屋敷を後にした二人は守屋神社へ向かった。椛は早苗を置いて、神の二柱を呼び、何やら話をし始めたかと思うと、神奈子たちは難しい顔を浮かべながら早苗の元にやってきてこう言ったのだ。

『学んで来い』

 と。何が、とも何をとも言わなかった。何か必要なものはあるか、と聞かれたが、答えるよりも早く椛が『身一つで十分』と辞退していた。それで終いだ。
 結局何を聞くこともできず、半ば無理やり早苗は椛に連れられ旅に出ることになってしまったのだった。

 神社を後にした椛は淡々と深い森の中に足を踏み入れていた。道中早苗は何度かどこへ向かうのか、と問うたのだが答えることはなくどんどん前に進んでいく。
 彼女の歩く速度は速い。大分整備されているとはいえ、それは普段妖怪たちが通る道や、守矢神社につながる山道だけだ。一歩道を外れれば全く手入れがされていない原生林が生い茂る深い森になる。
 当然、道中には地面から顔を出した木の根元や、大小さまざまな岩が顔を見せているが、椛は悠々と歩く。
 対して早苗は遅い。履きなれた靴を履いてはいるが、この斜面かつ、生い茂った森の中を歩くのは至難の業だ。飛んだ方が早いのだが、それでは前を歩く椛に悪い気がした。自然と歩く椛に若干の羨望を覚えながら、引き離されないよう必死について行く。
 一時間位経ったろうか。屋敷から西の方角へ向かっていたところで突然椛は足を止めた。春先で、標高の高い山であるため本来肌寒いのだが、汗を掻き、肩で息をする早苗には目もくれず、ジッと周囲をうかがう。
 いや、周囲を観察していたのは神社を出てからずっとだ。周囲にやる目の動きもそうだが、些細な音でも拾おうとフサフサの耳がしきりに動いていた。触ってみたいという好奇心を何とか押しつぶし、呼吸を整える。
 十秒ほどそうしていただろうか。何かに気付いた椛はゆっくりと腰を落とし、手ごろな大きさの石を握る。そのままゆっくり立ち上がると、あらぬ方向をじっと見た。つられてみるが、茂みがあるだけで何かあるわけではない。
 瞬間、茂みの奥が揺れる。同時に握っていた石を投げた。スイングの瞬間が見えなかった。不気味な沈黙があたりを漂う中、椛は早苗を置いて茂みの中に入って行った。
 戻ってくるその手にはウサギが一羽。だらんと腕を下げ、動かない。どうやら気絶しているらしい。

「あの……それは!?」

 最後まで言わせることなく、椛は頭と首を持つと回した。鈍い音と共に体が一度痙攣すると、絶命する。絶句する早苗に構わず、椛はソレの首に持ってきていた縄を回し、落ちないようにすると腰に結び付け、戸惑う早苗に目もくれず、先に歩き出す。
 道中何度か声をかけるが一切取り合わない。いよいよもって混乱する早苗だが、それからわずか3分後。再び椛は立ち止まった。
 先ほどと同じように石を拾うと、今度は早苗の方を向き、差し出した。わけがわからないまま、受け取ると、もう片方の手で、東の方角を指差す。

「今夜の食事になる。仕留めろ」

 その声と同時に茂みが揺れ、ウサギが一羽、現れた。あれをやれと? 椛と同じように石を投げろと?
 ウサギはあたりを伺い、鼻を動かしている。まだ気づいている気配はない。早苗は固まっていた。あれを、殺せと? 
 思わず椛を見るが、目は真剣で冷たい。うろたえ、決めきれることも間々ならない中、そんな空気に敏感に反応したウサギは逃げてしまった。
 椛の言うことを果たせなかった、というよりも、殺さずに済んだという思いが強く、たまらずホッとしてしまう。だが慌てて椛を見た。
 が、すでに彼女は隣にはおらず、少し離れたところで木の枝を拾っている。

「野営する。薪を集めろ」

 それだけしか言わなかった。その声には早苗が石を投げれなかったことに対する失望感は一切込められていない。まるで先ほどまでの光景がなかったかのような感覚だった。
 何も言うこともできず、結局言われるがままに薪を拾うのだった。

 その夜。山の中で二人はたき火を囲んでいた。ただでさえ口数が少ない椛だが、たき火をして以降完全に無言である。早苗に対する非難も全くない。その無言の重圧に早苗はただ萎縮するだけであった。
 結局あれから捕えられたのは椛が最初に捕まえた一羽のみで、結局それが晩飯となった。椛は刀でウサギの首を斬り、血を抜くと手際よく毛を剥ぎ、木の枝に刺し、火に充てる。間もなく、油が滲み出し、火に落ち弾けた。
 幻想郷は外の世界と違い、夜空の星がよく見える。逆に大地ではその星と月が明かりとなるため非常に暗い。椛の姿もたき火に紅く照らされてようやく気付けるくらいだ。

「何を思った」

 枝を折り、火に投げ入れながら椛はようやく口を開いた。早苗は何も言えない。胸に去来するのは様々な感情だった。

「何故、言ってくれなかったのですか?」
「言ったところでできたとは思えんがな。それより質問に答えろ」
「……わかりません」

 本当にわからなかった。椛が突然行った行動に対する困惑もそうだし、それを自分にもやれという風に言ってきたのもそうだ。相手はウサギである。小学生の頃は飼育係として学校で飼っていたウサギたちを世話していたものだ。今まで愛玩動物として飼っていたウサギを食用として狩る。百八十度違う方向性に戸惑っていた。
 それだけじゃない。怖かった……それがある。何が、とは言わない。ウサギをこの手で殺すことで何かが失われる……そう思ってしまったら、体が動かなかった。
 椛は言う。今早苗が抱いている感情は狩りに対する忌避感だ。何かを殺す、そのことに対して恐怖を抱いている。
 だがそれは身勝手だ、とあっさりと切り捨てた。驚き、見上げる早苗をその真紅の眼で見透かす。その眼には少なくとも友愛的なものはなく、どちらかというと落胆の感情があった。

「あなたはそれを妖怪に向けられるか?」
「え?」
「妖怪退治、しているのだろう? 博麗の巫女に影響されてかは知らん。芳しくないとも聞いている。しかし……自分から選んだ道だ、違うか?」
「それは、そうですが」
「同じだろう、『殺す』という一点に関しては。それとも何か、まさかとは思うがウサギは『愛らしい』から殺さなかったのか?」
「っ……!?」
「確かに永遠亭にはウサギが多数住んでいる故知人の可能性も無きにしも非ず、わからぬことではない。が、それは余りにも差別的ではないかな?」

 焼いているウサギの皮に次々と油が浮き出ては落ちる。椛は焦げないようひっくり返し、もう片面を焼き、巾着に入っていた塩をはじめとする香辛料で味付けをしていく。
 また、もう一つの皮の袋を開け、串に刺さった餅を取り出すと火にかざした。戦国時代の野戦食である。保存がきくのだ。

「言葉を離す妖獣の方が尊いというのならまだ、わかるがな」
「……ウサギを食べることに忌避感は無いんですね?」
「古代よりウサギは食用として重宝していた。人間も同じだろうが。
 可愛いから殺さないは論外だ。それこそ、食用にされる生き物すべてに対する冒涜になる」

 食べることは三大欲求のうちの一つだ。それはむしろ妖怪よりも人間の方が強い。今椛は人間側に近づき発言している、それは理解できた。
 狼という獣であるがゆえに、食べなければならない。自然の中で生きるためにも。

「椛さんは狩りをするとき、何を考えていますか?」
「そうだな……基本的には何も。知ってのとおり私は白狼、狩る者だ。生きるために狩っている。そこに余計な考えは挟まん」
「そう……ですか」

 何かヒントが得られるかと思い期待したが、落胆する。
 椛はそんな早苗を見ながら、背負っていた箱の中から二つの皿を取り出す。両端が少し反った、笹の葉で作る即席の皿を彷彿とされる逸品である。軽く布で拭い、手元に置いた。
 着々と夕食の準備を進めながら、ただし、と一つ息を吐いた。

「ウサギや鹿、猪は狩りたいと思ってもできないのが現状だ。食事にありつけないことも多々ある。だから、もし抱く感情があるとするならば、それは感謝だろう」
「感謝……ですか」
「ありきたりとは言わんでくれよ。獲物がかからず空腹で彷徨い、ようやく手に入れたエサだ。感情といえば歓喜と感謝位しかあるまい。
 私たちはその辛さをいやというほど知っている。だから今の山では許可なく狩猟することや、必要以上に狩ることも禁止している。動物と共存するためにな。故に、一方的に狩り続けるのはだめだ。絶滅すれば元も子もない」

 噂で聞いたことがある。椛はニホンオオカミを起源とすると。ニホンオオカミはすでに絶滅している。人間の手によって。かつては共存してきた仲だったはずなのに、殺された。狼は生きるために狩りをしていた。人間もそうだ。それが、一方的になり、絶滅した。だから人一倍、狩りに対する想いは強いのかもしれない。
 こんな話も聞いた。密猟で処断された妖怪がいたらしい。規定されている数よりも多く殺したため捕えられた。その数があまりにも多かったため、首をはねられたと聞いている。山という限定された空間だからこそ、こういう事には非常に厳しいのだ。
 しばらく無言のまま、火を眺める。真っ暗な空間でお互いの姿が赤く照らされる。早苗はたき火の炎が好きだった。キャンプファイヤーもそうだが、どことなく安心できるのだ。ただ、今はそんなことを感じられるほどの余裕はない。
 ウサギが焼きあがったのだろう、椛が動く。こんがりきつね色に焼きあがったそれを取り、腰から短刀を抜き、包丁代わりに肉を切り落とし笹の上に載せていく。また膨らんだ餅も置いた。

「食え。食べれるときに食べる。それが生きる上での鉄則だ」

 押し付けられるように渡されたそれを早苗は見る。残念ながら食欲はなかった。
 椛はそんな難しい顔を浮かべている彼女を無視し、一人肉に食らいついた。ピリリと香辛料が効いていて旨い。特に皮が油をまとっているため、椛はここが好きだった。
 動かない早苗に皮袋を放る。中身は水だ。外出、外泊、野宿をする際にはこうして水分となるモノを入れておくのだ。予備に竹の水筒も用意しているが、こちらは荷物の少ない早苗の道中用である。自身は腰の酒の入った瓢箪を取ると、呷る。
 そして餅にもくらいつく。味噌が塗ってあり、それが焦げたところがまた美味い。栄養状態がどうのとか言う者もいるだろうが、くだらない考えだ、と椛は考えていた。
 せっかく料理を出してくれた、食べるべきだろう。油でギラギラ光る指をなめる椛の顔を眺めるが、体が動かなかった。実際に血や内臓といったスプラッタな光景を見て気が動転しているのかもしれない。食欲がわかないのもそうだ。
 手が進まない。猟とは関係ない餅にも手は伸びなかった。そんな彼女に椛は何も言わない。責めもせず、怒る事すらしない。
 まるで自分がいないような扱いを受けていることがたまらなく悲しく、悔しく思う中、夜は更けていくのであった。


 次の日。葉っぱの露が落ち、顔にあたった冷たさで早苗は目を覚ました。
 あの後二人はたき火の傍で寝た。下手に離れた場所で眠るよりも、火の近くで寝た方が安全だという椛の助言だったからだ。
 普段の布団ではなく木の根元という非常に寝辛く、寝袋もない状況で丸くなり、寒さを耐えながら夜を凌いだため、起き上がったとき体の節々が痛かった。
 立ち上がり、伸びをする。骨が鳴る音にこらえながら周囲を見る。椛はいなかった。彼女は昨晩すぐに寝てしまっていた。野営になれているのだろう。
 枕代わりにしていた木の根元に竹の水筒が置かれていた。結局早苗は昨晩から何も口にしなかった。ただ、食欲はわかずとも喉は乾く。カラカラだった喉を潤そうとまるで搾り取るように水を飲み干してしまった。

「起きたか」

 そんな時に背後から声がかかってきたのだから気管に水が入り、むせてしまった。たまらずむせていると背中に何かがふれる。椛の手だと理解できたのはすぐだった。女性でありながら無骨な掌が感じれとれた。

「ご、ごめんなさい」

 飛びつくように水を飲んでいた姿が見られたかもしれない、と思うと羞恥心で顔を真っ赤にするなか、どこ吹く風の椛は対面に座ると集めておいた薪をくべ、火をおこす。

「あの、どちらに?」
「東南に一里行った場所に川がある。魚を取ってきた」

 見れば手には大きな笹の葉に包まれた川魚が二尾入っていた。それを昨晩と同じように短刀でさばき、枝にさし火にかざす。
 魚が捌かれる光景は自身も経験をし、見慣れている光景なのだが……まるで別の世界の光景に見えてしまった。
 結局、それが朝食となった。巾着に残っていた餅と、魚が昨日と同じように並べられる。椛は枝つきの魚にかぶりつくが、早苗はやはり、手が動かない。

「魚はあなたも捌いているだろう。昨日のウサギとは違うはずだが」

 見透かすかのように言ってくる。実際その通りだ。差別するわけではないが、見慣れた食品である。にもかかわらず、手は動かない。
 結局その日の朝食も口に入ることはなかった。料理を作った椛は叱ることもなく、残ったそれらも食べきってしまった。
 料理を残すことこそが冒涜である、そう言葉にせず、行動で示しているかのように。

 山を下りる。火を消すと、椛はそれだけを言ってまた歩き出した。向かう先は言わない。
 森を抜けて街道に出た。普段から歩く道だ。先ほどまでの先の見えない森の中と違い、先が見える。人間の手が加えられた道がどことなく安心感を与えていた。
 しかし椛は早速道から外れ、森の中に入っていく。

「ただ道を歩くだけではつまらないだろう」

 それだけを言って入っていく。何を考えているのかわからない。
 森の中を歩いていく。椛は時折こちらをチラリとみるだけだ。早苗は何を聞いても答えてもらえない、と半ば諦めながらついていくことにした。


◆ ◆


 旅を始めてから五日が経った。二人は様々なところを歩いた。二日目は山を下りた後、博麗神社まで歩き、三日目には魔法の森を抜け、太陽の畑まで。四日目、五日目とまるで幻想郷を一周しているような、そんな旅だ。
 わかったのはこの旅には目的地がないということだ。その日の気分で歩く。何かを見つければそこに行く。
 食事はその場で手に入れたものだ。野草や木の実が基本で、一日に一度動物を狩った。殆どはウサギであり、蛇だ。イノシシなどの大物はまず手に入れられないのだと椛は言う。
 歩きながら食べ物になる植物を見ると、椛はそれを指さし早苗に教える。そして教えるだけ教えると、また歩き出す。それを繰り返すのだ。
 そのせいかこの数日で大分自然のことを理解した気がする。どれが美味しくて、どれがまずいのかわかるようになってしまった。
 一方、早苗は獣の肉にだけは手を付けなかった。最初の三日はウサギの時と同じ気持ち悪さからだ。
 しかし木の実と野草、あとは椛が携行している保存食だけでは腹はたまらない。次第に気持ち悪さは薄れ、空腹が体を支配するようになっていった。
 
 旅を初めて六日目。直に一週間になるその日、大きな湖に出たところで野宿となった。遠くの岸に紅魔館が見える位置だ。
 椛は今晩の食糧を探しに森の中に入ってしまった。
 残された早苗は一人、湖を眺める。なぜ自分はここにいるのだろう。何を得たいのだろう。
 不意におなかが鳴った。いや、ずっとなり続けていたが椛にだけは気づかれたくないという思いから気合で押し込んでいた。彼女がいなくなり、気が抜けたのだ。
 空腹を頭から押しのけようと湖の淵まで行き、水面を眺めた。そこにはとても自分とは思えないひどい顔があった。頬はそげ、顔色も悪い。疲れているのが見て取れた。

 水に手を入れると、映し出された顔は水面を流れる波紋により掻き消えた。まるで自分自身が消えてしまったような、はかない気分に浸ってしまう。それを振り払うかのように水を思い切り顔にかけた。冷たい水だ、何度も、何度もかける。だがその気持ちは消えそうもない。
 濡れた顔を拭き、今度は椛のことを考えた。なぜ、突然旅をしようと考えたのだろう。彼女にも仕事があるはずだ。
 それに、なぜ怒らないのだろうとも思った。彼女は決して早苗に説教はしなかった。かわす言葉も数少なく、必要なことを言うだけだ。それ以外はまるで自分などいないかのように無視している。
 見限られたのだろうか、と思う。情けない姿を晒しつづけてきた。嫌われたとしても仕方がない気がする。けれど彼女は自身が共に行くことを咎めはしない。いっそのこと叱ってくれれば、とまで思ってしまった。
 必要なことしかしゃべらない。言葉のキャッチボールなどない旅だ。最初は自身の情けなさと同時に椛を恨みもした。が、今はそれももうない。
 ふと地面に目を落とすと、手頃な石が落ちていた。拾い手で弄びながら旅の中椛が何度かウサギを打ったのを思い出す。いったいどうやればあんな芸当ができるのだろう。
 その姿を想像しながら、ためしに一つ湖に投げてみた。大きな飛沫を上げて石は湖に吸い込まれた。その光景が心のどこかに火をつけたのか、石を拾っては次々に湖に投げていた。
 
 投げながら思う。なぜこんなことをするのか。いや、そもそもなぜこんな目に合っているのか。
 御頭祭をやろうと言い出した天狗の面々のせいか、今の今まで何も説明をせず、また今も消えている椛か、止めもせずただ送り出した神々か。
 いや、結局は自分なのだ。分かっていたはずだ。動物を狩ればこうなることも、それを我々が日常的に食べることも。だがいざ実際に目に見してみれば、身がすくんだ。
 石を湖に投げ入れる。相変わらず石は一度も水面をはねずに湖に沈んだ。
 ふと、なぜ恐れているのか、と思ってしまった。椛は昔からこういう食事をしている。だから、恐怖など感じていない。
 では自分は? 多分、血や内臓を見たからだ。スプラッタな光景を見て動転している。思えば外の世界でも動物を実際に解体する現場は見ていない。テレビで商品の製作工程を見ることはあっても、血なまぐさい光景は見ていなかった。
 だから気が動転しているのだ。そしてこの恐怖がずっと自身が抱いていた先の見えない恐怖の正体だ。
 では今はどうだろうか、と考えた時、不思議ともう嫌悪感はわかなかった。
 
「……勝手ですね、私って」

 今の感情を純粋にあらわし、吐き捨てる。今は落ち着いていた、自分でも驚くほどに。目にした現実を受け入れ、今までの知識を理解として受け入れた。
 上が求めている、いや自分が乗り越えるべき動物の解体に対する理解はまだ済んでいないと思う。ただ、一つ前に進んだのだろう。少し答えが出た。ただそれに対して何の感慨も浮かばなかった。
 石を投げた。先ほどまで一度も跳ねなかったそれは、3度水面をはね、湖に沈んだ。

 その時、背後の茂みが揺れた。椛だろうか……と、背後を見ると、そこにいたのは、クマ。重たい動きで出てきたクマは早苗に目を向けた。唸っている。腹がすいたのだろう、早苗は格好の獲物だ。
 先ほどから突然の出来事が多いな、とどこかボーっと呆けている早苗だったがすぐに我に返った。いけない、頭がうまく動いていない。
 クマから距離を開けようと後ろに下がる。クマは狙いを定め前に出る。川を背にしていたため逃げ場がなくなっていく。
 ついに、足が水に入った。水が割れる音が鳴ったと同時にクマが突進してくる。
 飛べれば簡単に逃げれる距離だ。けれど丸一日食事をとっていないのが仇になった。体がうまく動かない。横に跳んで逃げるしかなかった。
 無様に転がり立ち上がるが、クマの動きはさらに早い。その鋭利な爪が襲い掛かる。態勢が悪く、うまく動けない。
 ああ、死ぬな……と、自分でも驚くくらい冷静に、どこかで諦めの境地に彼女は足を踏み込んでいた。
 瞬間、突如クマの首に一直線の長い棒のようなものが生えたかと思うと、クマは動きを止め、ドウッと倒れた。早苗は少し呆けたのち、腰が抜けたのかペタンと尻から座り込んでしまった。
 何が起こったのか理解できなかったが、よく見るとクマの首に刀が突き刺さり貫通しているのが分かった。椛の短刀だ。

「無事……のようだな」

 向こう側から椛が現れる。その声には安堵の感情が込められていた。手には多数の木の実が入った籠が持たれていた。片手で刀を抜き、投擲したのだとすぐにわかった。
 椛は早苗に怪我がないか、軽く観察し無事を確かめるとクマの首から刀を抜く。大量の鮮血が流れ辺り一面を血の池に変えた。

「ごめん……なさい」

 肺の空気を精一杯使い、心の底から絞り出した謝罪の声。明らかに自分のミスだった。椛は早苗の不手際を咎めることもせず、ただじっと眺めていた。
 早苗は動悸が激しい胸を押さえながら、未だに血を流すクマを眺め……落ち着いたところで、頭を下げた。

「何故、頭を下げる?」
「死ぬべきではなかった、と思います。殺さずに撃退する方法が有った、と今なら思うのです」
「そうだな。私たちは殺す必要のない動物を殺した」

 食べられる木の実を選別しようと背を向ける椛が頷く。彼女自身もまた、殺す必要性はなかったと感じていた。ただ、早苗を守るためにはあれしか方法がなかったのだ。
 それほどまでに事態は切迫していた。この2人は余りにも達観しているが、よく知る人がこの場に居ればそう言っただろう。

「この近辺にはクマが出るんですか?」
「いや、珍しい。道に迷い、腹をすかせたのだろうよ」

 運が悪かった、椛はそう締めくくった。そう、運が悪かった、クマにとって。彼は純粋に食料がほしく、そこに早苗がいた。けれど、彼は狩りに失敗したのだ。だから、死んだ。
 クマの傍でしゃがみ、手を触れる。靴に血糊がつくが、気にしなかった。昨日までなら気持ち悪がっていただろうが、そんな感情を湧くこと自体が罪悪だと思えてきた。

「わかってはいたことですが、狩りとは自身も狩られるのですね。椛さんがいなければ私は死んでいました。今頃クマの腹の中だったと思います。本当にありがとうございます」
「別にいい。むしろ間に合ってよかった。何かあれば守矢の二柱に顔向けが出来ん」

 選別を終え、椛が立ち上がる。

「場所を変えるか。血の匂いにつられて、獣や妖怪が来るだろう」
「……このクマは、どうします?」
「どうするべきだと思う?」

 自分で決めろ、と椛は言いたいのだろう。流石にこの大きさである、持ち運ぶのは大変だ。だが、捨て置くという選択肢はすでになかった。
 貯まった血だまりを人差し指で触ってみる。ヌメッとした、温い感触。確実に生命が奪われたのだ。決意する。

「食べましょう。それが、礼儀だと思います」
「承知した」

 頷き、椛は早苗を見ずに短刀を抜く。そして動かなくなった体に突き立て、解体を始めた。
 本来は手伝うべきなのだが、クマの解体は思いのほか難しい、という椛の話もあり、近くの手頃な岩に座り、その光景を眺めることにした。手伝えない代わりにこの目にすべてを焼付けよう、と思った。
 昨日までならとてもじゃないが見ていられなかっただろう。気持ち悪く、もしかしたら吐いていたかもしれない。
 義務だと思ったのだ。殺したのは椛だが、原因は間違いなく自分にある。昨晩から食事をとっておけば、殺さなくて済んだのだ。そう思うと目を背けてはならないという使命感が体を包んでいた。罪悪感はすでにない。こういう運命だと割り切れた。そう思えたからこうしてみていられるのだろう。

「流石にすべて二人で食べるのは厳しいですね」
「余った分は分けるとしよう。丁度目の前に格好の館がある」

 そう紅魔館を眺めた。なるほど、悪くない。あそこは妖精メイドを始め数多くの人数が住んでいる。クマ一頭なら簡単に平らげてしまうだろう。

「でも、レミリアさんは食べるでしょうか」
「問題ない。傲慢な吸血鬼だが、自然に対する理解は誰よりもしっかりしている。与えられたもの、献上されたものは無碍にしない。とりわけ自然の生き物の肉なら尚更だ」
「レミリアさんのこと、よく知ってるのですね」
「妖怪の山は彼女らと戦争をしている。その時吐き気が出るほど調べたことだ」

 吸血鬼異変のことだ、とすぐに理解できた。普段はプライドの塊のレミリアはこういったモノよりも高貴なモノを好むと思っていたが……どうやら違うようだ。
 血を抜いた肉を笹でくるみ、紅魔館に渡す分を小分けし、袋に詰めると、ようやく早苗を見た。

「悪いが持っていくのはあなたに任せる。私はその間に野営の準備をしておこう」
「それは構いませんが、良いんですか?」
「その方がいい。それに、あそこの門番を私は好かん」

 そう吐き捨てる。どうやら相当の確執があるらしい。戦争は終わったが、まだ紅魔館に敵対意識を持つ妖怪は多いと、以前大天狗に聞いたことがある。椛ももしかしたらその一人なのかもしれない。
 最も、そういう輩とどこか違う雰囲気を椛は醸し出していたが。

 さすがに一度に全部持っていくわけにもいかないため、小分けが済んだ分を順次持っていくことにした。
 紅魔館は湖の中央から北西寄りに浮かぶ小島のような場所に建っている。陸上から攻めようものなら船で行かねばならず、また、かつて戦争をしており、今でも関係が良好とまでは言えない妖怪の山から最も離れた場所に陣取っている。まさに天然の要塞である。
 過去何度かこの館には来ている。ここには人間のメイドがいるし、図書館には面白い本がたくさんあるからだ。
 出迎えたのは紅美鈴、この館の門番だ。何をするにしても彼女を通さなければ許可は下りない。まぁ、いつも寝ているので素通りなのだが……今日は珍しく起きていた。
 いつも通りの笑顔だが、何かを意識しているような感じだ。多分昨日までの自分では気づけなかっただろう。
 応対をし、事情を話すと快く彼女は引き受けてくれた。やはり人数が多い分食料の消費量も多いらしい。それ以上に、レミリアがこうした獣肉が大好きだという話を聞いて椛の言うとおりだ、と驚いた。
 三往復程度で用を終え、レミリアからの茶会の誘いを丁重に断ったのち、改めて椛の下へ戻る。
 椛はクマの死体から少し離れたところに野営の準備をしていた。石を積み上げた即席の竈の上に、鍋を置いてあった。そしていつの間にか捕えたのだろう、魚をさばいていた。

「どうだった?」

 戻ってきて開口一番、労う言葉よりも先に問われた。少し考える。一晩付き合ってわかったことだが、こういう何気ない会話でも様々なことが図られている。言葉を選びながら率直に感想を述べた。

「奇妙な感覚でした。なんというか、勘ぐられているような」
「まぁそうだろう。私が、妖怪の山の者がここにいるのだ。警戒していてもおかしくはあるまい」
「あの、美鈴さんのこと、お嫌いだと仰ってましたが」
「あなたも気を付けると良い。ああいうのを魔性の女というのだ」

 嫌っている……というよりも警戒しているのか。二人の過去に何があったかは知らないが、頭の片隅に入れておく程度でいいだろう。他人の人付き合いをどうこう言うほど自分は出来てはいない。

 その後、早苗は椛の手伝いをすべく奔走した。といっても椛が殆どやってしまったため、薪を集めたりするだけだったが。
 クマの残った肉は獣にあげ、肉と内臓を選別し、いざ食事をしようという時にはすでに夕暮れの時間帯になっていた。
 クマ鍋をするのだという。クマの肉でだしを取り、そこに集めてきた木の実、野草をふんだんに入れ、臭みを取るために香辛料をたくさん入れたものだという。
 
「最初は汁としてこれを食べる。その後コメを淹れ雑炊にするのだ。米が旨味を吸い取り、よりうまくなる」

 お椀によそい、箸を添えて早苗に渡してくる。
 濁った汁の中に野草と肉が浮いている。この肉が先ほど自分を殺そうとしたクマの肉なのだ。
 嫌悪感も何もなく、冷静に、空腹を訴える本能が箸を持ち、椀を口に近づけようとする。
 ゆっくりと、味わうように口に含み、汁を啜った。
 ……美味しかった、肉の甘みと油が出ている。噛むたびに美味しさが伝わってくる。非常に……美味だった。

「……何を泣いている?」
「えっ?」

 先に椀に口をつけていた椛が肉を頬張りながら声をかけてきた。
 気づかなかったが、確かに視界が滲んでいる。慌てて拭うが、涙は止まりそうになかった。
 不味かったか? という椛の言葉に首を振って否定する。違う、そうじゃない。

「……とっても、美味しいです。ただ……無性に、空しくなりました」

 涙が止まったところで、とつとつと話しだす。自身に腹が立って仕方がなかった。余りにもひどい、と。

「私は、気味悪がっていました。ウサギを殺したことも、それを解体したのも。実際に生き物の新鮮な内臓や血を見て動転していたのだと思います。
 でも、今はそれがない。空腹という欲求のままにクマ鍋を食べ、美味しいと感じてしまう。そんな自分があまりにも浅ましい……と」

 毛嫌いにも近い感情を抱いていたのに、食べてしまえば素直に喜んでしまう。それがあまりにも汚く思えてしまったことが堪らなく嫌だった。
 涙だけでなく、嗚咽交じりの声になる。心の奥底にあるものまで吐き出しているような感覚だった。

「それでいい。初めから内臓や肉を見て喜ぶのであればそいつは猟奇的な変態だ。動物の中でも人間は感受性豊かだ。他の生物が本能に縛られ行動するのに対し、人間は本能に動かされながらも選ぶ権利を持っている。
 大事なのは、その変化だよ、早苗殿」

 ジッと話を聞いていた椛は静かに、それでいて諭すように口を開くとズズッと汁を啜る。
 思えば名前で呼ばれたのはこの二人旅の中でも初めてだったような気がする。

「あなたは理解したのさ。動物が死ねばどうなるか、その一部始終を見たのだ」
「では、この空しさはなんです」
「心がまだ追いついていなかったのだよ。直に慣れる」

 重要なのは、たどり着くこと、椛はそう結論付ける。気持ち悪い、そういう感情を乗り越えることで初めて分かることがあるのだと。

「間違いに気づいた。体がではなく、心が。だから自覚している以上に空しさを感じる。確かに数刻前までのあなたは見ていられないものだった。だが、気づいたろう?
 動物を狩る、食べるということはその逆もあるのだと」

 人間はその持前の能力故に食物連鎖の上位に位置している。クマであっても、サメであっても、人間にしかできない『道具を使う』という行為をすればその上下関係はひっくりかえってしまう。
 外の世界では、いつしか人間が動物を管理するようになっていた。だから必然的に人間たちが動物よりも上位だと、下等生物だと思い込んでいる。
 けれど、それは余りにもおこがましい間違いなのだ。

「自然に感謝するというのはな。単純に恵みを受けるというわけではない。今日まで無事に自身を生かしてくれてありがとう、という意味もあるのだ」
「人間は、自分が思っている以上に生と死の境界があいまいなのですね」
「そうだ。今のあなたは幸いにもそれに気付けた。一種のショック療法になってしまったが、クマに殺されかけたという事実が否応にもわからせた。
 だからな、あえて言おう。あなたは浅ましいと思うべきではない。感謝しろ。狩られずに、生きながらえたという事実に。それが狩られる運命にある者たちへの慰めにもなる」

 いつになく椛は饒舌だ。多分、そうまでして早苗にわからせたかったのかもしれない。
 現人神として生まれ、世俗から若干外れてきた早苗には必要なことだったから。科学から外れ、自然の中で生きざるを得ないこの幻想郷において、それは必要不可欠な要素だ。
 箱から盃を出し、瓢箪に入っている酒を注ぎ、早苗に出してくる。何の意図だろうとそれと椛の顔を見てしまった。

「飲め。それであなたは生き返る」
「え?」
「気づかないのか? 自分の顔に」

 思わず頬に手を当てる。確かに湖で見た自身の顔は別人と思えるくらいにひどいものだった。

「心が体と相反していた。もしその状態が続いていれば遠からずあなたは死んでいたよ。死の領域から抜け出したのだ」

 気づかなかった。自分で思う以上に切迫していたのか。渡された杯にはなみなみと酒が注がれている。恐る恐る口に近づける。一口目は少し。二口目で一息に飲み干した。
 日本酒特有の抜けるような辛さが体を抜ける。普段から飲んでいるそれが今はとても心地よい。
 もう、早苗は泣いていなかった。

「さあ、食べよう。ただしゆっくりとだ」

 胃が久しぶりの肉に驚いているから、という椛の言に従い、口に入れる。
 野草が肉のうまみを吸い取り、若干とろみの付いた汁が体に吸い付くように感じた
 ゆっくりとはいうものの、ついつい箸が進んでしまいあっという間に食べきってしまった。

「急ぐな。まだたくさんあるのだから」

 そういう椛の表情は今まで付き合ってきた中で初めて見る穏やかな顔だった。
 少し恥ずかしかったが、おずおずと椀を渡す。椛は何杯目かになる自分の分と同じようになみなみとよそい、早苗に渡す。
 鍋が半分に減ってからは紅魔館から貰ってきた米を入れた。雑炊にしたそれを口にすると、飛び上るほどおいしかった。
 無性で食らいつき、一息に平らげてしまった。
 自然に感謝しながら、そして今生きる自身の幸運も祈る。狩ること、狩られることがどういうことなのかも身を持って理解した。そのことを心に刻みつけ、この味をかみしめた。


◆  ◆


 さて、自然に感謝というある種祭事に欠かせないことが一体どういう事なのかは身を持って理解をした。早苗に残された課題はあと一つである。
 動物の解体。それに対する嫌悪感をどうするか。
 その課題は思った以上に早く解決した。
 次の日、動物を狩ることになったのだが早苗が自分からやりたいと言い出したのだ。食べる以上、見るだけでなく、かかわりたい、という意向だった。
 ただいきなりはできない。椛はまず石を投げることから教えた。弾幕を使えば簡単だが、自然の道具を使い、狩りをすることが大事だといったからだ。
 最初はなかなか思った方向に届かなかったが、練習を続けて三日。ついに早苗は短距離ではあるが、それをマスターした。
 そして椛の指導の下、ウサギを仕留めた。解体も自分でやると早苗から言い出した。
 実をいうと内心椛は驚いていた。ここまで順応するとは思っていなかったのだ。吹っ切れたように真面目に行うのだ。ある意味、これも彼女の持つ順応力のなせる業なのかもしれない。
 椛の手を借りながら、生まれて初めて解体した。手が血で濡れたがもう気にならなかった。心にはただ、動物に対する感謝だけがあった。

 旅を終え、山に登ってきたのは実に旅を初めて二週間たったころだ。
 今まで何となく見てきた山が、まるで違うものに見えた。畏怖を感じてしまうほどだった。この中で生きているのだということがなんとなく誇りになっていた。
 もう夕刻になるころ。二人は椛の屋敷に到着していた。このまま帰宅してもよかったのだが、椛が一日ゆっくりしてから帰れと言ってきたのだ。
 思えばこの旅でまともに風呂に入っていない。人里によることがまずないため、水浴びをするくらいだった。服も着たきりである。時折洗濯をしたがやはりだいぶ汚い。この姿を神々が見れば卒倒するだろう。
 椛の提案を承諾し、先に風呂をいただくことにした。体を洗い、風呂につかる。今まで冷たい水だったため、こうした熱い湯につかるのは久しぶりだった。文明圏に帰って来たという気がして気が緩む。
 風呂から上がり、椛が事前に用意してくれた着物を着る。白い生地のシンプルなつくりだが、かすかに太陽の香りがした。
 居間に戻ると、すでに夕食の準備が行われていた。彼女が風呂に入っている間に作っていたのだという。その場で思わぬ人物を目にした。その人は驚いているこちらを見るとニコリと笑ってくる。

「あれ、華扇さん」
「こんばんは」

 慌てて挨拶をし、部屋に入る。三つ食事の席が用意されており、そのうちの一つになぜか茨木華扇が座っていた。仙人であり、顔見知りではあるが、なぜここにいるのだろう。
 質問するよりも早く、用意の済んだ椛が盆を持って戻ってきていた。

「友人だ。顔は知ってるだろうから紹介は省くがな」
「はあ」
「椛がここを外している間、管理していたのですよ」

 なんでもずっと空けるわけにもいかなかったため、頼んだのだという。かつて椛が世話になったのだとか。椛がいない間は副長がいるが、彼女も仕事で家を空ける。そういう時に盗人が入ってくるとも限らないため、時折見てもらってたのだそうだ。
 意外な椛の友人関係に驚きながらも、食事は始まった。
 久しぶりのきちんとした食事である。旅の道中豪快な料理を食べていたが、その反面、出されたのは繊細な味付けをされた料理だ。シンプルに一汁三菜。
 メインの魚は干しておいたものを焼いたものだという。他の野菜もすべて椛が自家栽培したものだそうだ。味は京料理に近い味だった。

 三人で旅のことを話しながら食事を終え、椛が風呂に入った頃。
 満腹の余韻に浸る早苗に華扇が居住まいをただし、真面目な表情で話しかけてきた。思わずだらけた表情を引き締め、座布団の上に正座をする。

「狩るもの、狩られるもの、ですか。彼女も酷なことをいう」
「どういう意味ですか?」
「椛もまた、狩られるものの側ですから」

 それは……そうだろう。生きるものすべてが狩るものであり、同時に狩られるものなのだと、早苗は理解したのだから。訝しがる早苗に華扇は続ける。

「旅をしていて、椛をどう思いましたか?」
「どうって……その」
「わからないでしょう。彼女は必要なこと以外言葉にしません。自分の本心を絶対に他人に言おうとしません。なぜだかわかります?」

 確かに、本心らしきものは一度も聞かなかった。かたくなに隠している、そんな感じは時折感じていた。その早苗の表情を肯定と受け取り華扇は続ける。

「彼女はね、一人なのです。彼女には家族もおらず、白狼の仲間もいません」
「それは……どういう?」
「この屋敷、一介の白狼天狗にはあまりにも広いと思いませんか?」

 それは思った。椛は預かっているといっていたが。

「この屋敷の元の持ち主は星熊勇儀です。知っていますね? 今は地下にいる、あの鬼です。椛は彼女の従者としてここで育ちました。家族もおらず、自身を守ってくれる仲間もいない中、生きてきたのです」
「ちょ、ちょっと待ってください。ここが勇儀さんのお屋敷だなんて……それに、家族もいないって」
「知ってのとおり妖怪の山は派閥があります。話は伺いましたが今度お祭りを行うそうですね。それも近年緩んでいる派閥内の結束を強める意図があります。
 山に住むどの妖怪も、どこかしらの派閥に属しています。ですが、椛にはその権利はありませんでした」
「それは……どういう」

 息をのみ、聞く。触れてはいけないような気がしたが、聞かざるを得なかった。華扇は食後のお茶を一口飲み、口を拭った。

「いつの世も派閥をよく思わない者はいます。妖怪の山も一枚岩とは言えません。かつて大規模な反乱がありました。まだ、鬼が山にいたころのことです」

 まだ、勇儀も萃香もいたころの話だ。鬼は基本、おおざっぱなことしか決めないため、細かい部分は次点に位置する天狗が行っていた。
 ただ、天狗はプライドが異常に高い。また支配欲も大きい種族だった。それは同じ天狗内でもランクが決められるほどである。天魔を頂点に大天狗と続いている。問題は烏天狗だった。天狗の中でも多数を誇る彼らは下の妖怪のみならず、天狗にまで傲慢にふるまった。
 その被害を最も受けたのが白狼天狗である。彼らはかつて山の神として信仰されていた狼から派生した天狗である。天狗の中で最も低い地位にいながらも、神性な力を持った、同じ八咫烏という神性を仲間に持つ烏天狗にとってみれば許せない者だった。特に白狼天狗を束ねていた犬走一族はこの国を代表する狼の化身という事もあって、最も純粋な力を持っていた。
 数々の弾圧ののち、ついに白狼天狗が爆発した。それは天狗にとどまらず、虐げられてきた妖怪たち全員に伝わった。
 戦争自体はひと月ほどかかった。思いもよらぬ白狼天狗の力に烏天狗は押され、最後は鬼が仲裁し反乱は鎮圧されたのである。
 この時、反乱を指揮していたのが犬走一族、椛の父親であった。

「もともと犬走一族には『義』という家訓がありました。簡単に言うと人のために戦えという事ですね。だから弾圧は人一倍許せなかったのでしょう。反乱は鎮圧されましたが待遇改善は受け入れられました。ただ、犬走一族は責任を取り、山を去りました。もう、千年以上前のことになります」
「…………」
「犬走一族を恨むものは多くいました。当然ですね、既得権益を奪われたのですから。山一番の派閥の頭領である大天狗の元、裏で壮絶な報復が行われたのです。椛は、その最中に生まれました」
「えっ!? じゃあ椛さんって千歳以上生きてらっしゃるんですか?」
「ええ。射命丸よりも上ですね。さて、結局犬走一族はみな殺されました。運よく、元服の際修行の旅に出ていた椛を除いて。修行を終え戻ってきた彼女は愕然としたでしょう。親も友も死んでいたのですから」

 その頃山ではその大天狗の勢力が巨大になりすぎて反感が強まっていた。鬼が言っても効果がない状況になっていた。その結果、鬼は犬走一族を呼び戻すことにしたのだ。

「でも、皆殺しだったんですよね?」
「鬼も旅の途中で知ったそうです。何とか生き残りを見つけようと探し出したのが椛でした」
「それで……椛さんは山に?」
「紆余曲折ありましたがね。椛は復讐のために山に入りました。ほかの白狼天狗と妖怪たちからは感謝されましたが、それ以上に嫌がらせを受けたのです」
「嫌がらせ……とは」
「要するに椛が爆発するように仕向けたのですよ。『義』という家訓を背負う以上、いつかその不正に立ち上がらなければならない。そうなれば彼らはいくらでも処分できる口実を得られるのです。けれど椛はそれを理解していたからこそ我慢した。だからエスカレートしていったのです。彼女の体の傷を見たと思いますが、戦のほかにもそういうことからついたものもあるのです」
「いじめ、とは最早次元が違いますね」
「そうですね。なんでもありです。暗殺も何百回とありました。けれど椛は我慢し、虎視眈々とその大天狗の首を狙い続けた。皆殺しにかかわった天狗たちを殺しながらね。
 ただどうしても協力者が必要だった。そこに名乗りを上げたのが勇儀です。彼女は椛を従者とすることで守りながら、裏で助けたのですよ」
「そんなことが……それで、復讐は?」
「果たしましたよ。周囲の力を借りてですが、最後は大天狗を自らの手で殺すという偉業も果たして。けれど、その後彼女に残ったのは負の遺産ばかりです」

 はあ、と疲れた顔を浮かべる華扇。彼女もまた、その頃のことを知っていた。
 椛は手を汚しすぎた。それはもう、『義』とは呼べぬまでに。復讐はどう言いつくろっても『義』とは呼べない。確かに古来よりかたき討ちは認められていたが、椛の場合それは余りにも相手の数が多すぎた。
 最初は彼女を羨望していた他の天狗たちも、その異常性に気づき、徐々に近づかなくなった。気づいたころには椛は独りぼっちになっていたのだ。
 『紅狼鬼』いつしかこう呼ばれるようになった。まるで鬼のように、悪事をなす、という意味である。紅とは、敵を殺したときに浴びた返り血で全身が真っ赤に変わったことからつけられた名だ。

「椛は孤独です。彼女を恨むものは依然多い。復讐を終えてもまだ、戦いは続いています。でも、彼女を助けてくれるものはほとんどいません。唯一、彼女のことを知っている者や、彼女の部隊の者だけです。あなたはお会いしてますよね?」
「全員ではありませんが、副長の方には」
「この屋敷に共に住んでいるものですね。椛の闇の部分を長く見てきた天狗で、理解しているからこそ、つき従っています」
「彼らがいれば、孤独というわけでは」
「仲間思いではあります。でも、心の底は、やはり孤独なのですよ。仲間がいても、それはどうしようもないのです」
「気になることがあります。哨戒天狗という事はふつう、白狼天狗の部隊のはず。でも、椛さんの部隊は様々な妖怪の混合でした。副長の方なんか烏天狗ですし」
「妖怪の山という社会から爪弾きにされた者が集っているのですよ。だから椛はまっとうではなく、人付き合いも極端に減っています」

 それでも彼女が孤独なのは周囲のせいではなく、自分のせいだと華扇は結論付けている。敵の大天狗の勢力をほぼ根切りにしたという復讐の報復、その代償にまっとうな人生を捨てたのだ。

「椛はね、白狼です。力の強い天狗の一人です。しかし、彼女はほかの誰よりも、狩るものと狩られるものを理解している。殺すことと殺されることが裏表のカードのようなものだという事も。正直あなたと旅に出て心配していました。でも、実のある旅ができたようで、安心しましたよ」

 想いの全てを吐露したのち、安心したのか胸をなでおろす。何故、彼女はこんなにも早苗と、椛を気にかけるのだろうか。そんな訝しむ目をむける早苗に気づき照れた様子で頬を掻いた。

「あなたも同じだからですよ。椛は知ってほしかったんでしょうね」
「どういう意味です?」
「妖怪の山。妖怪や神々が住んでいる場所。そこに半分は神ではあるが、人間がいます。その状況、どう思います?」

 何が言いたいのかわからず、内心いらだつ。諭すような話し方をする華扇はもったいぶった言い方をするのが欠点だった。

「異常なのですよ、この状況は。いいですか、あなたがこうして普通に暮らしていけるのは二柱のおかげです。言い方は悪くなりますが、彼女たちがいるから、あなたは無事に山で生きていける」
「…………」
「今は安定していますが、幻想郷に来て、信仰を得るまでは正に綱渡りだったはずです。神が死ねば、あなたは独りぼっちになる。いくら特別な力を持っていようと、妖怪の本拠地に一人放られるのです。考えただけで、大変なことになるのは目に見えていますよね?」

 考えてもみなかった。神奈子も、諏訪子も生まれた時からいた。信仰があれば生きられると思い、こうして幻想郷に来た。これで消えることはないと、思っていた。でも、現実は思った以上に切迫していた。今でこそ笑って過ごせているが、一つ間違えれば……。

「気づきましたね。以前のあなたなら途方に暮れていたでしょう。自然の摂理を理解した今だからこそ、色々と考えることが可能になったのです。
 椛は決して何も言いはしませんが、きっとその内心にはそういった思いやりの心があるんでしょうね。あなたには、自分のようにはなってほしくはないと」

 愕然とした。自分は自分の悩みだけで精いっぱいだった。きっと、神奈子たちもどこかではそういうことになることを理解していたのかもしれない。自身の認識が足らなかった……たまらなく恥ずかしくなった。

「説教……とは違いますね、老人のお話程度に思ってください。要するに、こういうことです。それであなたがどうするかはあなたの問題です。私は口出ししませんよ」
「……なぜ、その話を私に?」
「椛の欠点は話しすぎないことです。気づくことこそが重要だと思ってる。そのせいで死んだ者もいます。あなたにはそうなってほしくありません。私の、数少ない友人なのですから」
「あ……」

 椛は早苗のことをどう思っているのか、いよいよ気づくことはできなかったが、嫌っていないという事は何となく理解できた。それだけで、心がどこか満たされた。華扇の言葉もそうだった。だから早苗は正座のまま手を畳につき、頭を下げるという最大限の礼を持って応える。泣きそうになるのをこらえた。
 自分が思っている以上に、色々な人が心配してくれている。ならば、自分はそれに最大限応えねばならない。
 頑張ろう、そう思った。昔から頑張ろうと言い聞かせてきたが、今度のモノは心に刻み込むように、何度も心の中でつぶやいた。
 
 風呂から戻ってきた椛は部屋の奇妙な雰囲気から問いただしたが、二人とも曖昧な笑みを浮かべてはぐらかすのだった。
 その日は屋敷に泊まり、翌日神社に戻った。華扇はすでにおらず、椛に丁寧にお礼を言ったのち、帰宅した。
 早苗が家に帰ると、二人の神が飛びつくように抱き着き、お帰りとねぎらってきた。その顔からは涙がこぼれている。二週間という短い間だったが、寝る間も心配してくれたのだろう。それがとても嬉しく思え、また自宅に帰ったという安心感から三人そろって涙を流したのだった。


◆  ◆


 さて、それからしばらくしたのち、守矢神社で行われた宴会の席でそのイベントは行われた。捕えられたのは一頭の鹿。まだ生きているのか暴れているのを天狗が数人がかりで抑えていた。
 早苗はそのそばで一人、捌くための短刀を両手で持ち、念を込めていた。
 この短刀は椛がこの日のために自身の手で打った特製の刀だった。刃こぼれや折れないよう、三日間寝ずに打ち続け、研いだらしい。
 その用意周到さと、隠れた優しさに感謝しながら、早苗は鹿を見た。
 その瞳はまるで早苗を試しているような、しかし命乞いをしているような黒い瞳だ。
 これを今から殺すのだ。自分が狩ってきたのではない、が、殺すのは自分だ。
 大きく深呼吸をし、もう一度短刀を見た。
 自分の顔を反射されるほどきれいに磨かれたその銀色に輝く刃は、まるでもう一人の自分と向き合っているような感覚を与えてきた。

お前にできるか? やれるのか?

 そう、訴えてくる。その質問に一つずつ、丁寧に答えていく。
 心を整えた後、左手を鹿の首に添える。熱く、命が流れているのがわかる。
 命を奪う、自分たちが食べる。それを決して忘れぬよう。
 そしてそれを食らい、生きる自分や、自然や、神々に、全ての想いを込めて。
 感謝をしながら……刀を、入れた。










 宴会の騒ぎは頂点に達している。それを椛と華扇は離れた場所、一本松の枝に座り眺めていた。騒ぐのが嫌いな椛はいつもこうしている。華扇は、只の見物客だ。

「成功したようですね」
「もとより、心配などしていない」

 安堵の表情を浮かべる華扇に対し、憮然とした表情を浮かべる椛。こう見えて内心では心配しているのだ、と華扇は笑いをこらえていた。

「まったく、素直じゃないですね。何が気に入らないんですか?」
「華扇……早苗殿に私の過去を話しただろう」
「それはね。彼女、知っておくべきでしょう?」
「すべて話したら意味はない」
「無論すべては話していませんが、全く話さないのも意味はないですよ。いつか話すのですから、早い方がいいです」

 まだ早い、というのが椛の結論だ。自身の歴史はあまりにもどす黒い。少なくとも、今宴会で料理をしているあの明るい現人神には似合わない。

「よそう、童子殿。今宵は一人の半人前が少し立派になった。それでいい」
「そうですね。って……その呼び方はやめてくださいと」
「仕返しだ」

 クック、と小さく椛は笑って見せた。華扇も苦笑しながら杯をあおる。
 宴会から離れた木の上で二人はその喧騒を眺めながら持ってきた酒と肴で酒盛りをする。お互い経歴に傷がついたもの同士だ。ああいう明るい場所はどうにも苦手だった。二人は先日話せなかった旅の話、お互いの日常の話を交し合う。

 その視線の先には、新鮮な鹿の肉を使った料理をふるまう、少し成長した若い現人神が笑顔を浮かべる姿があった。



終わり
 何年かぶりです、覚えている方はお久しぶりです、それ以外の方は初めまして。
 長らく創作から離れていましたが、やっとモチベーションが戻ってきたので、とりあえずのリハビリ作。過去作は作者名からたどって下さい。
 今までの美鈴シリーズですが、申し訳ありません、暫く凍結させていただきたいと思います。プロットはできているのですが、納得できるものが書けていないからです。ただ、いずれ完結させたいと思います。作品全削除も考えましたが、今まで感想を下さった方々のコメントが今日の復帰につながっていたので、もう暫く残しておきたいと思います。重ね重ね申し訳ありません。

 さて、今作。テーマは『理解』でした。妖怪の山という環境でただ一人人間である早苗がその異常性に気付けるか、というコンセプトです。椛は会話もなく、設定も作りやすかったので彼女が導き手です。ちなみに、ダブスポ基準、文との仲は最悪です。華扇を出したのは客観的に物事を見れるキャラがほしかったからです。ダブスポ基準、ということもあり天狗衆やにとりは出せませんでした。
 椛は美鈴以上にキャラの幅を広げられそうなので、今後も出していきたいですね。

 では、誤字脱字がございましたら、ご報告お願い致します。

注記)2012年2月9日。誤字修正
長靴はいた黒猫
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コメント



0.1890簡易評価
1.100名前が正体不明である程度の能力削除
お、懐かしい。
3.90名前が無い程度の能力削除
good。
だがら抜き言葉があったので-10点で。
4.90奇声を発する程度の能力削除
色々な考えがあり面白かったです
7.20名前が無い程度の能力削除
椛、というか白狼天狗の設定が名前を借りたオリキャラ無双に見えて
ちょっと受け付けにくかったです
8.100名前が無い程度の能力削除
慣れがいいことかどうか分からないがこの早苗さんはいい方向に転がってくれてよかった。
クマは運が悪かったが、早苗さんの成長という点では早苗は運がよかったのだろう。
助かったことも理解できたことも含めて。
10.80名前が無い程度の能力削除
おお、貴方が復活されるとは!貴方の美鈴シリーズも好きなのでいずれに期待しますね
そして今作も面白かったです
椛のキャラが立っててすんなり頭に入ってきました
13.100名前が無い程度の能力削除
こいつぁ続編を期待しちまうぜぇええ!
15.80名前が無い程度の能力削除
アマゾネスなダブスポ椛は大好きなんでまったく構わないんですが、後半の、華仙が出てからの過去話のあたりで、とってつけたような厨2臭さがちょっと気になりました。
しかし、幻想郷に来たからには、命と向き合うのも一つの試練なんでしょうね。
早苗さんはまた一つ世界が広がった。
18.100名前が無い程度の能力削除
こういう地に足のついた世界観は好みですね。
次回作も期待して待ってます。
20.100名前が無い程度の能力削除
「いただきます」の意味を考えさせられるなぁ。
今回も面白かったです。
次作も楽しみに待たせてもらいます。

美鈴シリーズも気長に待たせてもらいますね。
23.100南条削除
これで、リハビリだと……?
すごく面白かったです。
こんなに長いSS読みきったのは久しぶりです。

話の内容もさることながら吸血鬼異変のことを作品に盛り込む人を始めて見ました。
忘れがちですけどあれ結構大事な設定ですよね。

キャラも立っていてすばらしい作品でした。
30.100名前が無い程度の能力削除
無口な椛……良い!

何にもできない早苗にぎゅんぎゅん感情が昂ってしまいました。
自機組が鹿を捌くのも見てみたいな
31.80名前が無い程度の能力削除
おそらく誤字?
化学から外れ、
>科学から外れ、
紹介天狗という事はふつう、白狼天狗の部隊のはず。
>哨戒天狗という事は~

原作とはかなり外れた感じですがそこは2次という事で割り切って読みましたが、椛の過去の件は んん……という感じもしました。
しかし、現代っ子の早苗さんと椛の違う立場でのやり取りがいい感じでした。
食べ物に対する思いは考えさせられますね。
33.100過剰削除
面白かった
やっぱワンコ椛よりこっちのが好きだ
34.100sas削除
格好良い……
こんな作品がもっと読めるなら過去作品も読まざるを得ないな
35.100名前が無い程度の能力削除
こんな椛もありやな

誤字報告を
「無論すべては離していませんが、
離して→話して
37.100リペヤー削除
「いただきます」って日本独特の慣習らしいですね。そんなことを感じられるお話でした。
こういう椛や妖怪の山の設定は俺得!
42.90名前が無い程度の能力削除
この話の内容も、散々道徳で習って「理解したつもり」になってるものですよねー・・・
普段からここまで考えられる人にはなれそうもない。

とても面白かったです
55.100名前が無い程度の能力削除
椛の設定も練られていて面白かったです。
57.100愚迂多良童子削除
渋いんだけど性根は案外優しい椛さん素敵。
続編では華扇出てこなかったけど、今後はなにかしら絡みがあるのかしらん?