その日の幻想郷は、いつもの通りでした。
あちこちで些細な事件が起こり、どこかの誰かが解決して終わる、そんないつも通りな日です。
人間は人間の生活を、妖怪は妖怪の生活を、幽霊は幽霊の生活をしていました。
そんな平和で暢気な幻想郷の一角にあるマヨイガで、橙は洗面器から顔をあげました。
「っぷはぁ!」
と、大きく息を吐き出して、水に濡れた顔をプルプルと震わせます。
橙は自主訓練をしていました。
主である藍さまから言い渡された日々の修行だけでなく、こうやって大嫌いな水に慣れる訓練もしているのです。
今はまだ水に顔を少しつけられる程度ですが、いずれは水に潜ってみたいと目標は大きく持っている橙でした。
「橙~、いる~?」
と、そこへ橙を呼ぶ声がしました。
タオルで顔を拭いていた橙は、慌てて廻りを見渡します。
聞き覚えのある声、この声は……
「紫さま?」
橙の主の主、幻想郷の母である八雲紫さまでした。
「あ、いたいた。こんにちは、橙」
「こんにちは、紫さま。珍しいですね、紫さまが来るなんて」
「ちょっと色々あってねぇ」
紫さまはニッコリと笑いました。
藍さまにとっては厳しい主だけど、橙にとっては優しいおばあちゃんみたいな感じです。
式の品格は主そのものです。
責任がひとつ遠ければ、優しい目で見る事ができるのでしょう。
正に紫さまと橙の関係は、おばあちゃんと孫の関係です。
「何があったんです?」
「現人神と鬼とキョンシーがもめててね。それの仲裁をしてたのよ」
東風谷早苗と伊吹萃香と宮古芳香がもめていたそうです。
いったい何があったのでしょう?
「変わった組み合わせですね。何があったんですか?」
「早苗がね、『キョンシーといえばスイカ頭ですよ! ちょっと萃香さんダイナマイト巻きつけて自爆してきてください』とか言って、萃香にダイナマイト巻きつけて芳香に投げつけたのよ」
「うわぁ、相変わらず馬鹿ですねぇ」
「でしょ? 私は自由の女神になるとか言ってるしね。リバティー島にでも立ってろって話だわ」
橙にはリバティー島が何かは分かりませんでしたが、とりあえず苦笑しておきました。
苦笑は、世の中を渡っていくのに便利です。
とりあえず、苦笑しとけば簡単にコミュニケーションが取れるでしょう。
「まぁ、年齢がバレそうな話はこれぐらいでいいわよね」
ぼそり、と紫さまが呟きました。
残念ながら橙には聞こえません。
「それより、どう? 修行はうまくいってる?」
「あ、はい! 藍さまに言いつけられた日課も毎日やってます!」
自信満々に橙は答えます。
「へ~。日課ってどんな?」
「え~っとですね、腹筋10回、背筋10回、腕立て伏せ5回です」
「…………」
「?」
「あ、え? それだけ?」
「はいっ。あとは自主訓練してます」
「ぬるま湯で首をしめる様な修行ね……」
藍さまのゆとり教育のせいで、紫さまが新しい造語を作ってしまいました。
ぬるま湯では真綿より首がしまりません。
加えて、意味が全く違うものになってしまっております。
若者だけでなく、年長者も言葉が乱れるみたいですね。
「う~ん……ちょっとお仕置きが必要ね。橙!」
「は、はいっ!」
キリっと真面目な顔をした紫さまに、橙は慌てて姿勢を正します。
「今からひとつ、式を操る秘術を授けます」
「え、えぇ!? わ、私にも扱える術なのですか?」
「今の橙では無理でしょう。そうね、尻尾が30本ぐらい必要です」
「それ、藍さまを軽く超えちゃってますよ……?」
「そんな術なので、私の指導の下に製作してもらいます。悪用は厳禁ですよ」
「は、はい! 分かりました!」
橙は再び猫背をビシっと伸ばして、真剣な表情をしました。
そんな式の式を頼もしく思い、自分の式を情けなく思い、紫さまは複雑な表情を浮かべました。
「それでは、早速とりかかりましょう」
「はい! 何をすればいいですか?」
「紙とはさみと書く物を用意してください」
「え?」
「はい、急いで。指導は始まってますよ!」
「は、はい、紫さま!」
「今はわくわくさんと呼びなさい」
「わくわくさん!?」
いつゴロリと呼ばれるか、戦々恐々としながら橙は準備に取り掛かるのでした。
~☆~
「はい、これで完成です」
紫さま……否、わくわくさんの指導の下、それは完成しました。
「わくわくさん、これって……」
「あ、もう紫さまでいいわよ、ポロリ……いえ、橙」
わくわくさんはいつの間にか、紫さまに戻っていました。
橙はいつの間にか、ゴリラじゃなくてコアラの方になってました。
どうせならじゃじゃ丸の方がいいと思う橙でしたが、口には出しません。
「はい、紫さま。で、これって?」
「八雲流秘術『藍さまスイッチ』よ!」
じゃじゃーん、と紫さまは高らかに宣言されました。
おぉ~、と橙も一応あわせておきます。
橙が紫さまの指導の下に作ったのは、一つの箱状のものでした。
四角い箱には一つのレバーに見立てた木の棒と、5つのスイッチが付いています。
スイッチにはそれぞれ『ら』『り』『る』『れ』『ろ』の文字が書いてあります。
ちなみに箱の中身は秘密だそうです。
紫さまがこっそり何かを入れました。
そこを教えないで、何が秘術を授けるだ、とか賢い橙はひとつも思っていません。
「ら、藍さまスイッチ……これってもしかして」
「えぇ、そうよ。式を操る秘術、藍さまスイッチ。これを使えば、橙も自由に藍を動かすことが出来るわ」
「す、凄い……」
ごくり、と橙は喉を鳴らしました。
猫だけに、ゴロゴロと喉が鳴ると思ったら大間違いです。
「ただし!」
「うわぁ、びっくりした」
急にあげた紫さまの大声に、橙の尻尾はしびびびびと震えました。
「あまりにも強力な秘術だから、制限を設けました」
「制限?」
「命令はらりるえおろ……らりるれろの頭文字じゃないとダメです」
大事なところで噛んでしまう紫さまでした。
「それがこのスイッチですね」
「えぇ、そうよ。さすが私の式の式。勘が冴えているわね」
「えへへ~」
橙は嬉しそうに、ニッコリと笑いました。
紫も愛しそうに、ニッコリと笑いました。
「それじゃ、私は帰って寝るわ。修行、がんばってね」
「はい、おやすみなさい、紫さま!」
橙が一礼して、顔をあげた時には、すでに紫さまはスキマの中でした。
右手をヒラヒラとさせて消えていきました。
「うわぁ、やっぱり紫さまもカッコイイな~」
そんな颯爽と去っていく紫さまに、橙は憧れの眼差しを送るのでした。
~☆~
次の日、幻想郷は平和で暢気でした。
とても良い天気で、気持ちの良い日です。
レミリア・スカーレットとケンカしたパチュリー・ノーレッジが家出したぐらいでしょうか。
まだ大きな事件も起こっていません。
そんな平和な幻想郷です。
「っぷはぁ!」
今日も、腹筋背筋腕立て伏せを終えた橙は、自主訓練である水に慣れる修行の真っ最中でした。
まだまだ水の中で目は開けられそうにありません。
百年以内には、何とか達成したいと心に決めている橙でした。
「ちぇーん。ちぇ~~ん」
と、そこで良く知っている声が聞こえて来ました。
「あ、藍さま~」
橙の主である八雲藍です。
今日も結界の維持や綻びの修繕を終え、愛すべき式の元にやって来たのでした。
「あ、橙。外に居たのね。こんにちは」
「はい、藍さま。こんにちは」
お互いにニッコリと笑って挨拶をします。
コミュニケーションの基本ですね。
「昨日、紫さまが修行してくださったんですって? 何か粗相はしなかったでしょうね?」
「はい、大丈夫ですよ。紫さまはとっても優しいですから、余り怒られた事はないです」
「うらやま……こほん、さすがは紫さまです。器が大きいところを私達に示して下さっているのですね。橙も見習うのですよ」
「はい、藍さま!」
と、ここで橙は昨日つくった藍さまスイッチを思い出しました。
「あ、藍さま。少し待っててください」
「ん?」
藍さまは何だろう、と思いました。
橙は藍さまを待たせてはいけないと、大慌てでマヨイガから藍さまスイッチを取ってきました。
「ちぇ、橙!? なにそれ!? なんか禍々しい!」
開口一番、藍さまが驚きの声をあげます。
「昨日、紫さまと一緒につくった『藍さまスイッチ』ですよ」
「藍さまスイッチ!?」
橙にはただの箱にしか見えませんが、さすがは藍さまです。
一目見ただけで、この箱が危険な物と看破されました。
「橙、いいですか、その箱をゆっくり――」
「藍さまスイッチ、おーん♪」
藍さまの言葉も聞かず、橙は藍さまスイッチに付いている木の棒のレバーを引きました。
あぁ!? という、短い悲鳴をあげた藍さまは、その場で直立不動になってしまいます。
まるで地面から生えた置物の様に、固まってしまいました。
「ひぃぃぃ!?」
身体は動かない様ですが、話は出来るみたいです。
良かったですね、藍さま。
「あはは、すご~い。本当に藍さまを操れるんだ~」
橙はにこやかに万歳をしています。
紫さまの指導の下、頑張って作ったのが報われた瞬間です。
「紫さま! 紫さまの仕業ですね! 紫さま出てきて下さい! 紫さまー、紫さまあああぁ!」
藍は直立不動のまま、虚空にむかって叫びます。
ですが、主は出てきません。
きっと深い眠りについていらっしゃるのでしょう。
「藍さまスイッチ、『ら』~」
「ちぇ、ちぇええええん!?」
藍さまが困っているのに、式はキラキラとした瞳で続きを実行します。
鬼畜ですね。
元畜生だから仕方がないのかもしれません。
前鬼さんと後鬼さんが憑いているだけに。
「ら~。『ランキング発表』」
「ランキング発表!?」
いきなり訳の分からない命令がきて、藍さまは大混乱です。
しかし、現実は非常です。
時間は止まらないし、巻き戻りません。
空中に小さなスキマが現れると、そこから1本のマイクが現れました。
藍さまの身体は左手でそれをガッシリと掴むと、高らかに右手をあげます。
「さぁ、『幻想郷で誰が一番可愛いかランキング』! 3位は八雲藍、2位は橙となっております! さぁ、いったい誰が1位の栄光に輝くのでしょうか!? と、ここで2位の橙に話を聞いてみましょう! 橙は誰が1位だと思いますか?」
藍さまはマイクを橙へと向けます。
「う~ん……私より可愛いと言えばあの人かな~」
「お~っと、橙には誰か予想がついている様ですね~。さぁ、それではいよいよ発表です!」
ドゥルルルルルル、とどこからともなくドラムロールが鳴り響きます。
凄いですね、藍さまスイッチ。
「じゃん! 1位は! なんと! 八雲紫! 紫さまです! 2位の橙と108票という圧倒的差をつけて紫さまが優勝です! 幻想郷で一番可愛いのは八雲紫という結果がでましたー!」
わ~わ~きゃ~きゃ~と、人々の歓声がしました。
橙も嬉しそうに手を叩いています。
「いやぁ、やはりというか予想通りの結果でしたね。それでは、第二回幻想郷で一番誰が可愛いのかランキングでお会いしましょう」
「お会いしましょう~」
じゃん、という効果音の後、再び藍さまは直立不動に戻られました。
「なにこれー!? ちょっと橙、スイッチを切りなさい! ていうか、なんで1位が紫さまなんですか!? どう考えても橙が1位でしょう!」
「藍さまスイッチ、『り』~」
「ちぇん! ちぇえええええん!?」
藍さまのツッコミが虚空に消えていくのを知ってか知らずか、橙は次のスイッチを押そうとしてます。
正に、親の心子知らず、ですね。
「り~。『龍神丸を呼ぶ』~」
「龍神丸!?」
驚く藍さまを無視して、またしても空中にスキマが開きました。
そこから1本の剣が出てきます。
それなりに大きなカッコイイ剣を藍さまは両手で掴み、空へと掲げます。
「りゅーじんまるー! って、龍神丸って何!? 誰!?」
自分で呼びかけておいてツッコミをいれる、いわゆるセルフツッコミをする藍さまです。
ただツッコミをいれたところで状況は止まりません。
空がみるみる曇りはじめ、暗雲が立ち込めました。
「おおぉぉぉ!」
そんな空から藍さまの呼びかけに誰かが応えます。
稲光と雷鳴の中、三頭身の巨大ロボットが下りてきました。
白と青と赤のかっこいいロボット、龍神丸です。
「えええぇぇぇぇ!?」
びっくりする藍さまですが、その両手を広げます。
すると、龍神丸の額が緑に輝き、藍さまはそこへ吸い込まれていきました。
龍神丸の中は不思議と広く、まるで宇宙みたいな空間です。
藍さまはそこをゆっくりと下降して、黄金の龍の頭に着地しました。
「ど、どこですかここは!? 何も見えませんよ!?」
「目で見るんじゃない、心の目で見るんだワタ……誰だお前は?」
「や、八雲藍です」
「むぅ。人違いだったか。すまない」
「いえいえ、狐ですけどね」
「あと、年齢がバレるから余り私を呼び出さない方がいいぞ」
「き、肝に命じておきます……」
「うむ。では、さらばだ!」
そういうと、龍神丸は藍さまをおろして、再び空へと帰っていきました。
「……びっくりした。あれは竜神様だったのでしょうか。はっ! それよりも橙、はやくスイッチを――」
「藍さまスイッチ、『る』~」
一息もつかせぬ橙の所業に、藍さまは口をあんぐりと開けるしかありませんでした。
「る~。ルナチャイルドを崇め奉る」
橙の宣言と共に、スキマが開き、簡易的な鳥居が降ってきました。
どーん、という感じで地面に立つと、鳥居の向こうにスキマが現れます。
なんだなんだ、と橙と藍さまが覗き込むと、スキマの向こうに妖精が見えました。
金色の髪に特徴的な縦ロールの妖精、ルナチャイルドです。
ルナチャイルドは文々。新聞を読んでいる様で、なにやら難しい顔をしていました。
「カブ価暴落か~。作りすぎたのかしら?」
文々。新聞では、カブの値段が下がってしまった事を扱っていました。
相変わらず、つまらない内容の様です。
新聞大会で優勝を目指すのは、まだまだ先の様ですね。
と、ここでルナチャイルドが自分の真横にスキマが開いている事に気づきました。
「……」
「やっほ~」
橙がにこやかに手を振る中、その隣では藍さまが平伏してました。
「ははー! 神様仏様ルナチャイルド様! 今日も存在して頂きありがとうございます!」
「え? え? なに、なんなの? ドッキリ!?」
ルナチャイルドはキョロキョロと辺りを見渡しますが、誰もいません。
「今日も可愛らしくいらっしゃいますルナチャイルドさま! あぁルナチャイルドさま! 縦ロールが素敵ですね! 転ぶ姿も素敵ですね! 特徴的な口が素敵すぎますね!」
ははー、と藍さまは土下座の様に平伏し続けました。
「え~、なに、逆に怖い! サニー! スター! なんかお稲荷さんが崇め奉ってくるんだけどー!?」
ルナチャイルドはうろたえながら、スキマから見えない所へ移動しました。
どうやらここはルナチャイルドの部屋の様です。
しばらく橙と藍さまは部屋を眺めていましたが、ルナチャイルドは戻ってきません。
仕方がない、と橙が諦めました。
スキマも閉じて、鳥居もなくなります。
「橙、もういいでしょ? 私が何かしたのなら謝ります。だからスイッチを――」
「藍さまスイッチ、『れ』~」
「えええええ!? ヒトの話は最後まで聞きましょうよ、橙さん!」
ついに藍さまが橙をさん付けで呼びました。
藍さまスイッチの力は素晴らしいです。
ですが、橙は楽しさのあまりそれどころではありません。
次はどんな事をしてもらおうかと、『れ』のスイッチを押しました。
「れ~。霊夢を舐め回す」
「ちぇえええええええええん!? それはいけない! それはだめええええ! ああああああ!?」
藍さまは叫びますが、どうしようもありません。
二人の前に、再びスキマが現れました。
パックリと開いたそこは博麗神社です。
そして、縁側に平和で暢気にお茶を飲んでいる紅白の巫女さんが見えました。
「あら、紫かと思ったら式達じゃない。珍しいわね」
さすが博麗霊夢さんです。
先ほどのルナチャイルドと違って、すぐに気づきました。
「霊夢、逃げろ! 逃げてくれ!」
藍さまは叫びますが、それと同時ぐらいに身体が動きました。
口では嫌だと言いながら、身体は正直だな、というやつです。
逃げろと言いながら迫ってくる九尾の狐に、霊夢さんは混乱するばかりでした。
「なに、何が起こってるの?」
藍さまにガッシリと抱きしめられた霊夢さんは、理解が及びません。
しかし、理解するより早く、ぞわわわわわわと背中が震えました。
藍さまが霊夢さんのほっぺたを舐め上げたのです。
「ちょっ! 藍、なにやってんのよ!?」
「許してくれ! 今の私は何もできない!」
「そう言いながら舐めるんじゃないわよ! そんなのは舐められる魔法使いでやっときなさい!」
霊夢さんは必死に抵抗しますが、華奢な人間の腕では妖怪の力を跳ね返す事ができません。
首筋から頬、顔を押さえに掛かった指までも舐められてしまいます。
段々と唾液にまみれていくのと、妙な感覚に霊夢さんは追い詰められていきます。
「はうんっ」
霊夢さんの抵抗むなしく、耳を舐められた辺りで力が抜けたみたいです。
力が尽きたのでしょうか、それとも弱点だったのでしょうか。
それは誰にも分かりません。
しかし、あとは藍さまの独壇場でした。
しばらくの間、藍さまは霊夢を充分に堪能してしまいました。
筆舌に尽くし難い、とはこの事でしょうか。
縁側に残された、着衣が乱れた霊夢さんがその証拠かもしれません。
もしくは、藍さまの後ろで真っ赤になっている橙がなにより物語っているのかもしれません。
「もう、堪忍しておくれやすぅ……」
京弁ではんなりと霊夢さんは言いました。
そう言われては、もう追撃する訳にはいきません。
「す、すまない霊夢。このお詫びはいずれ……」
藍さまが霊夢さんに謝りますが、返事はありません。
息も絶え絶えの様です。
仕方がない、とスキマを潜って橙と藍さまは元のマヨイガに戻りました。
「ぜぇぜぇ……橙、これ以上のエロスは危ない。色々な意味で危ないので自重してね」
「はい、藍さま」
肩で息を整える藍さまに対して、橙も胸をおさえてふぅふぅと深呼吸をしています。
どうやら相当な刺激があった様ですね。
今晩が心配です。
「よし、ようやく私の話を聞いてくれたな。では、スイッチを――」
「藍さまスイッチ、『ろ』~」
「って、ちぇえええええええええん!?」
ここまで来たら最後まで、とばかりに橙は最後のスイッチを押しました。
まさに鬼畜の所業。
サディスティックに目覚めたのかもしれません。
「ろ~。ロリコンの敵をやっつける」
そう命令した瞬間、藍さまにとてつもないパワーが溢れました。
オーラが渦巻き、立ち上る妖力で服や髪がはためきます。
妲己ちゃんや白面の者もびっくりな力です。
「うおおおおおおおお! かかってこいや都条例!!!」
そう叫ぶと、藍さまは深く腰をおとし、爆ぜる様に画面のこちら側へと飛んで行ってしまいました。
「ええぇ!? 藍さま!? なんで都条例……?」
余りの事に橙はびっくりします。
どうして藍さまが強大な敵に立ち向かっていったのか、理解できません。
しばらく、う~ん、と腕を組み首を傾げていると、ようやく自分がした失敗に気づきました。
「あ~! ロリコンの敵って言っちゃったからか!」
合点がいった、と橙はポンと手を叩きました。
橙は幼女の敵を退治したかったのですが、間違えて幼女の敵の敵と表現してしまったのです。
「日本語って難しいなぁ~」
そうですね。
橙はひとつ賢くなったようです。
八雲の名前を貰える日も、そう遠くはないのかもしれません。
「もういいかな。藍さまスイッチ、オフ~」
橙は木の棒を元の位置に戻しました。
これで藍さまの拘束力も開放されたはずです。
「……あれ?」
ですが、いくら待っても藍さまは帰って来ませんでした。
藍さまスイッチが壊れた訳では無さそうです。
いったい藍さまは何処まで行ってしまったのでしょうか。
都条例を倒すには、とてつもない力が必要です。
もし皆様が藍さまを見かけたら、是非とも力になってあげて下さい。
「紫さまー! 藍さまが帰ってきません!」
果たしてオロオロする橙を紫さまは助けてくれるのでしょうか。
幻想郷は今日も平和で暢気な一日でした。
大きな事件は、まだ起こっていません。
明日もそうなれば、とても素敵な事でしょう。
それでは、良い幻想郷ライフを。
ルナチャイルド好きな自分にとっては「る」の命令がサプライズ!
ああ……ルナチャも藍さまも橙も龍神丸も霊夢も紫様もみーんな可愛いよ。
藍さまスイッチという発想も実に空気をなごませてくれました。
外で藍さまをお見かけしたら「ろ」の命令実行の協力をしたいと思います。
り……燐を舐める
る……ルナを舐める
れ……霊夢を舐める
ろ……ロリ幼女人妖神を舐める
でお願いします
橙の無自覚な鬼畜っぷりがいい。
テンポの良さに笑いが止まりませんでしたw
しかし、ただでさえ妖怪に近いといわれているのに、いきなり信仰萃めたら一足飛びで一気に神様になってしまいそうだ。
無邪気な橙に猫の残忍さを垣間見た気がします。
あと、あんたの早苗ははっちゃけ過ぎだ!
無邪気さと鬼畜さが内包された橙も悪くない…
ああ楽しかったw