「すいません!すいませーん!」
ドンドン、と木戸が強く叩かれる。
片手で戸を叩き、片手で黒い物を抱えている少女。手が痛むのも忘れて、大慌てで館の住人を呼び起こし続ける。
やがて、木の軋む音と共に戸が僅かに開いた。
「誰……って、貴女は確か」
「はいっ、光の三妖精の頭脳サニーミルクですっ」
悪戯妖精として暴れ回る光の妖精が正体も隠さずに白々しく正面からやってくる。
珍しい事に少し目を丸くしつつも、館の住人・アリスはサニーを館の中へと迎え入れた。
「丁度お茶の準備をしていたから良かったわ。はい、どうぞ」
テーブルにはティーセットが二組、口から湯気の立つティーポットと皿に盛られたクッキーを添えて並べられている。
急な来訪にも関わらずしっかりとしたもてなしを受けて、サニーの顔が少し緩んだ。
「それじゃ、いただきま――じゃなくて!」
クッキーを口に入れそうになった所で、サニーは思い出した様に小脇に抱えていた黒い物をアリスに差し出した。
「お願いです、この子を助けてあげてください!」
「……猫?」
それは、サニーの両手の平より少し大きな、しかし力無く丸まった黒猫。
よく見れば、足の辺りに赤い染みが広く滲んでいた。
「とりあえず、詳しい話は後で聞くわ。先に手当てだけでも済ませておかないと」
アリスはぐったりしたその猫を優しく受け取って、すぐに席を立って隣の部屋に歩いていく。
少しして、サニーの居る部屋に戻って来たアリスの手の中には、足に包帯を巻いた黒猫が抱かれていた。
「お待たせ。もう大丈夫よ」
「ふぉんほうれふか? はりはほうほはいはふ!」
口いっぱいにクッキーを詰め込んで、サニーは飛び上がらんばかりに喜んだ。
待っている間に待ちきれなくなったらしく、皿のクッキーは既に半分以下にまで減っている。
アリスは少し眉を潜めるが、素直に喜ぶサニーを見て、ふうと溜息を吐いただけだった。
「それで、この子はどうしたの? 貴方達が動物を飼う様には見えないのだけど」
アリスもテーブルに付いて、クッキーを一枚齧る。肩に乗った人形が、アリスに続いてうんうんと首を縦に振る。
口いっぱいのクッキーを紅茶で流し込んで、サニーは黒猫についての経緯を話し始めた。
「最初は、アリスさんの人形がまた見たくなって、一人で来てみたんです。ルナもスターも行かないって言って付いて来ないし。
そしたらアリスさんの家の近くで、この子が木の下でぐったりしていたんです。
それも、血が凄く一杯出てて、鳴き声が凄く痛そうで、それで慌ててアリスさんの所に連れて来たんです」
見れば、サニーの服の袖の一部にも、赤い染みが付いている。
悪戯ばかりの妖精も、自然の動物に対してはそれなりの愛情も持つのだろう。
「良かった。この子、大分衰弱してたみたいだから、もう少し遅かったら危なかったかも」
「ええっ!?」
「大丈夫よ。しばらく安静にしていなきゃいけないけど、死んじゃったりはしないわ」
そうアリスが教えると、サニーは緊張が切れたかのように胸をなでおろした。
アリスは立ち上がってサニーの隣に立ち。
「偉いわね。貴方達にそんな思いやりが有ったなんて思わなかったわ」
ふわっとした笑顔を零して、右手で優しくサニーの頭をわしわしと撫で回した。
褒められているのかいないのか、複雑な気分でサニーはアリスに愛でられ続ける。
「あ、あのー……そろそろ良いですか?」
お下げが乱れ始めてようやく、サニーがいやいやとかぶりを振った。
「ああ、ごめんなさいね」
そう言われて、アリスは手を離して椅子に戻る。
少しぼさぼさになってしまった頭を、サニーは一所懸命に撫で繕っていた。
「え、えっと、それじゃあ私はこのへんで……」
少し整った髪を押さえながら、サニーは椅子を立ち、戸の方に歩いて行く。
「あら、もう帰るの?」
「ええとその、用事も済んだ事ですし……」
ぎこちない様子で出て行こうとするサニー。
何かに気付いたか、サニーの背中に向かってアリスが人差し指で小さく円を描く。
途端、サニーのスカートがばさりと捲れ上がった。
「わわっ!」
その中から一体の人形が飛び出て、アリスの腕の中に飛び込んだ。
「せっかく人が感心していたのにもう……」
「ご、ごめんなさいー!」
戦利品を諦めて、サニーはわき目も振らずに館を飛び出していった。
その夜、アリスが研究に一段落付けて寝室に行くと、ベッドには既に先客がいた。
よほど疲れていたのだろうか、見慣れない場所にも関わらず、黒猫は身体を丸めて眠りこけている。
「……」
寝床を占領されているが、アリスは猫を退けることはせず、ぼふっと隣に座って、じっと猫を眺めた。
足に巻かれた包帯には小さな血の跡は有るものの、先ほど以上に広がっている様子は無い。
その無防備な猫の背中に、アリスの手が伸びる。
軽く毛に触れて、目が覚めないのを確認すると、アリスの指先は猫の背中を滑った。
生きている暖かさ、毛皮の肌触りの良さ、生物の柔らかさ。
中々触れる事の出来ない猫の身体を、今は遠慮無く堪能することが出来る。
そう確信して、アリスは
「んん……♪」
一緒に寝転がって、ふわりと猫を抱きしめた。
胸元で感じる猫の体温が、疲れた身体に心地良く染み渡る。
一度抱きしめたら最後、逃げられないようにしっかりと猫の身体を両腕で包み、抱き枕のように頬を摺り寄せるアリス。
流石に違和感を覚えたのか、猫がにゃーんと小さく鳴いた。
「うふふ……にゃーん♪」
それに合わせて、アリスも猫の様に鳴く。
それからも、何度となく猫が鳴き声を上げる度に、アリスも真似をして鳴き声を上げる。
実に幸せそうなアリスを見る者は黒猫の他に誰も居なかった。
「え、えーっと……アリス、さん?」
はずだった。
「――――――」
広がる静寂の中、にゃーん、と猫が鳴く。しかし今度は、アリスは鳴かなかった。
何処からとも無く聞こえてきた声の方に、見覚えの有る姿が一つ、ちょこんと正座している。
「……いつから?」
「ね、猫がベッドの上で丸まって欠伸したくらいから……」
つまり、初めから居たらしい。
「……サニー、貴方どうしてこんな時間にこんな所に居るの」
「その……子猫の様子が気になって、それで来たんですけどノックしてもアリスさんが出て来なくて、でも扉が開いてたから入って」
ころり、アリスがサニーに背を向けるように転がる。
それと同時に寝ていた黒猫の姿が見えなくなったが、サニーは気付かなかったフリをした。
「……」
それきり、アリスは身体を丸めてベッドの中で猫の様に丸まってしまった。
よく見れば、アリスは耳を真っ赤に染めて、小さく震えてさえ居た。
「――♪」
その時、サニーに悪戯心が走る。
「アリスさん、子猫は元気ですか?」
白々しいまでの笑顔で、サニーがアリスに聞く。
「え、ええ元気よ」
それに対して、アリスの返事はとても落ち着きが無く、少し上ずってさえいた。
アリスの返事を聞いて、サニーの思考が確信に満ちる。
「本当ですか? さっき凄く元気無さそうだったんですが」
「そそそそんなこと無いわよ、今はちょっと疲れて寝てるだけよ」
『あのアリスさんが、こんなにも動揺している』
この好機を逃すものか、とばかりにサニーの目が妖しく光った。
「ふーん。それじゃ、ちょっと子猫見せてもらっても良いですか?」
そう言ってすぐに、サニーの足音がアリスのベッドへと近付いて行く。
「い、いいわよほら、ほらっ」
背を向けたままのアリスから、肩越しに丸まった子猫がサニーの方に差し出された。
かなり無理の有る体勢だったのだろう、時折バランスを崩して後に倒れそうになり、顔を見せるものかと踏ん張っている。
ニヤニヤと笑みを浮かべたサニーは、差し出された子猫に目もくれず、その先を見ていた。
「それじゃあ、遠慮なく見せてもらいますね」
そう言ってサニーは、アリスの眼前に滑り込み、寝転がってアリスの顔をまじまじと眺めた。
「――――――ッ!!!!!!?」
「ふふふー♪」
アリスの顔は、紅葉を散らしたように真っ赤だった。
背中の向こうに居たはずのサニーに向けて差し出していた子猫は、胸元に戻して優しく両腕で包み込んでいる。
突然に現れたサニーの笑顔に面食らい、アリスは無防備なままの顔をはっきりと見られてしまっていた。
「ちゃんと良い子にしてるんですね、この子猫」
サニーの小さな手がアリスの胸元に、正確には胸元で眠っている子猫へと伸びる。
そして何度かその頭をなでると、小猫が目を覚ましたのか、少し眠たそうににゃーんと鳴いた。
「……にゃーん♪」
「ぅぁ、ぅ……」
猫撫で声で、サニーも猫の様に鳴く。
しかしその視線は、はっきりとアリスの目を捕らえていた。
「にゃーん♪」
再びサニーが鳴く。
満面の笑顔でアリスに向けられる視線は、全部見ていたよ、というメッセージが籠められていそうなほど、得意気に輝いていた。
すぐ目の前で真っ赤な顔を見つめられて、アリスは観念して顔を俯ける。
「に、にゃーん……」
そして、アリスも鳴いた。
片や、いつも姉の様に接してきた人形師の恥ずかしい一面をしっかりばっちり目に焼き付けられてご満悦な子猫。
片や、いつも世話をかけてきた少女に恥ずかしいところを見られて、羞恥に身体を震わせながら俯く子猫。
そしてその間で、暢気に身体を丸めて気まぐれに鳴く、黒い子猫。
「にゃーにゃにゃー♪」
「にゃー、にゃーん……」
三匹の子猫の合奏は、夜遅くまで続いた。
ドンドン、と木戸が強く叩かれる。
片手で戸を叩き、片手で黒い物を抱えている少女。手が痛むのも忘れて、大慌てで館の住人を呼び起こし続ける。
やがて、木の軋む音と共に戸が僅かに開いた。
「誰……って、貴女は確か」
「はいっ、光の三妖精の頭脳サニーミルクですっ」
悪戯妖精として暴れ回る光の妖精が正体も隠さずに白々しく正面からやってくる。
珍しい事に少し目を丸くしつつも、館の住人・アリスはサニーを館の中へと迎え入れた。
「丁度お茶の準備をしていたから良かったわ。はい、どうぞ」
テーブルにはティーセットが二組、口から湯気の立つティーポットと皿に盛られたクッキーを添えて並べられている。
急な来訪にも関わらずしっかりとしたもてなしを受けて、サニーの顔が少し緩んだ。
「それじゃ、いただきま――じゃなくて!」
クッキーを口に入れそうになった所で、サニーは思い出した様に小脇に抱えていた黒い物をアリスに差し出した。
「お願いです、この子を助けてあげてください!」
「……猫?」
それは、サニーの両手の平より少し大きな、しかし力無く丸まった黒猫。
よく見れば、足の辺りに赤い染みが広く滲んでいた。
「とりあえず、詳しい話は後で聞くわ。先に手当てだけでも済ませておかないと」
アリスはぐったりしたその猫を優しく受け取って、すぐに席を立って隣の部屋に歩いていく。
少しして、サニーの居る部屋に戻って来たアリスの手の中には、足に包帯を巻いた黒猫が抱かれていた。
「お待たせ。もう大丈夫よ」
「ふぉんほうれふか? はりはほうほはいはふ!」
口いっぱいにクッキーを詰め込んで、サニーは飛び上がらんばかりに喜んだ。
待っている間に待ちきれなくなったらしく、皿のクッキーは既に半分以下にまで減っている。
アリスは少し眉を潜めるが、素直に喜ぶサニーを見て、ふうと溜息を吐いただけだった。
「それで、この子はどうしたの? 貴方達が動物を飼う様には見えないのだけど」
アリスもテーブルに付いて、クッキーを一枚齧る。肩に乗った人形が、アリスに続いてうんうんと首を縦に振る。
口いっぱいのクッキーを紅茶で流し込んで、サニーは黒猫についての経緯を話し始めた。
「最初は、アリスさんの人形がまた見たくなって、一人で来てみたんです。ルナもスターも行かないって言って付いて来ないし。
そしたらアリスさんの家の近くで、この子が木の下でぐったりしていたんです。
それも、血が凄く一杯出てて、鳴き声が凄く痛そうで、それで慌ててアリスさんの所に連れて来たんです」
見れば、サニーの服の袖の一部にも、赤い染みが付いている。
悪戯ばかりの妖精も、自然の動物に対してはそれなりの愛情も持つのだろう。
「良かった。この子、大分衰弱してたみたいだから、もう少し遅かったら危なかったかも」
「ええっ!?」
「大丈夫よ。しばらく安静にしていなきゃいけないけど、死んじゃったりはしないわ」
そうアリスが教えると、サニーは緊張が切れたかのように胸をなでおろした。
アリスは立ち上がってサニーの隣に立ち。
「偉いわね。貴方達にそんな思いやりが有ったなんて思わなかったわ」
ふわっとした笑顔を零して、右手で優しくサニーの頭をわしわしと撫で回した。
褒められているのかいないのか、複雑な気分でサニーはアリスに愛でられ続ける。
「あ、あのー……そろそろ良いですか?」
お下げが乱れ始めてようやく、サニーがいやいやとかぶりを振った。
「ああ、ごめんなさいね」
そう言われて、アリスは手を離して椅子に戻る。
少しぼさぼさになってしまった頭を、サニーは一所懸命に撫で繕っていた。
「え、えっと、それじゃあ私はこのへんで……」
少し整った髪を押さえながら、サニーは椅子を立ち、戸の方に歩いて行く。
「あら、もう帰るの?」
「ええとその、用事も済んだ事ですし……」
ぎこちない様子で出て行こうとするサニー。
何かに気付いたか、サニーの背中に向かってアリスが人差し指で小さく円を描く。
途端、サニーのスカートがばさりと捲れ上がった。
「わわっ!」
その中から一体の人形が飛び出て、アリスの腕の中に飛び込んだ。
「せっかく人が感心していたのにもう……」
「ご、ごめんなさいー!」
戦利品を諦めて、サニーはわき目も振らずに館を飛び出していった。
その夜、アリスが研究に一段落付けて寝室に行くと、ベッドには既に先客がいた。
よほど疲れていたのだろうか、見慣れない場所にも関わらず、黒猫は身体を丸めて眠りこけている。
「……」
寝床を占領されているが、アリスは猫を退けることはせず、ぼふっと隣に座って、じっと猫を眺めた。
足に巻かれた包帯には小さな血の跡は有るものの、先ほど以上に広がっている様子は無い。
その無防備な猫の背中に、アリスの手が伸びる。
軽く毛に触れて、目が覚めないのを確認すると、アリスの指先は猫の背中を滑った。
生きている暖かさ、毛皮の肌触りの良さ、生物の柔らかさ。
中々触れる事の出来ない猫の身体を、今は遠慮無く堪能することが出来る。
そう確信して、アリスは
「んん……♪」
一緒に寝転がって、ふわりと猫を抱きしめた。
胸元で感じる猫の体温が、疲れた身体に心地良く染み渡る。
一度抱きしめたら最後、逃げられないようにしっかりと猫の身体を両腕で包み、抱き枕のように頬を摺り寄せるアリス。
流石に違和感を覚えたのか、猫がにゃーんと小さく鳴いた。
「うふふ……にゃーん♪」
それに合わせて、アリスも猫の様に鳴く。
それからも、何度となく猫が鳴き声を上げる度に、アリスも真似をして鳴き声を上げる。
実に幸せそうなアリスを見る者は黒猫の他に誰も居なかった。
「え、えーっと……アリス、さん?」
はずだった。
「――――――」
広がる静寂の中、にゃーん、と猫が鳴く。しかし今度は、アリスは鳴かなかった。
何処からとも無く聞こえてきた声の方に、見覚えの有る姿が一つ、ちょこんと正座している。
「……いつから?」
「ね、猫がベッドの上で丸まって欠伸したくらいから……」
つまり、初めから居たらしい。
「……サニー、貴方どうしてこんな時間にこんな所に居るの」
「その……子猫の様子が気になって、それで来たんですけどノックしてもアリスさんが出て来なくて、でも扉が開いてたから入って」
ころり、アリスがサニーに背を向けるように転がる。
それと同時に寝ていた黒猫の姿が見えなくなったが、サニーは気付かなかったフリをした。
「……」
それきり、アリスは身体を丸めてベッドの中で猫の様に丸まってしまった。
よく見れば、アリスは耳を真っ赤に染めて、小さく震えてさえ居た。
「――♪」
その時、サニーに悪戯心が走る。
「アリスさん、子猫は元気ですか?」
白々しいまでの笑顔で、サニーがアリスに聞く。
「え、ええ元気よ」
それに対して、アリスの返事はとても落ち着きが無く、少し上ずってさえいた。
アリスの返事を聞いて、サニーの思考が確信に満ちる。
「本当ですか? さっき凄く元気無さそうだったんですが」
「そそそそんなこと無いわよ、今はちょっと疲れて寝てるだけよ」
『あのアリスさんが、こんなにも動揺している』
この好機を逃すものか、とばかりにサニーの目が妖しく光った。
「ふーん。それじゃ、ちょっと子猫見せてもらっても良いですか?」
そう言ってすぐに、サニーの足音がアリスのベッドへと近付いて行く。
「い、いいわよほら、ほらっ」
背を向けたままのアリスから、肩越しに丸まった子猫がサニーの方に差し出された。
かなり無理の有る体勢だったのだろう、時折バランスを崩して後に倒れそうになり、顔を見せるものかと踏ん張っている。
ニヤニヤと笑みを浮かべたサニーは、差し出された子猫に目もくれず、その先を見ていた。
「それじゃあ、遠慮なく見せてもらいますね」
そう言ってサニーは、アリスの眼前に滑り込み、寝転がってアリスの顔をまじまじと眺めた。
「――――――ッ!!!!!!?」
「ふふふー♪」
アリスの顔は、紅葉を散らしたように真っ赤だった。
背中の向こうに居たはずのサニーに向けて差し出していた子猫は、胸元に戻して優しく両腕で包み込んでいる。
突然に現れたサニーの笑顔に面食らい、アリスは無防備なままの顔をはっきりと見られてしまっていた。
「ちゃんと良い子にしてるんですね、この子猫」
サニーの小さな手がアリスの胸元に、正確には胸元で眠っている子猫へと伸びる。
そして何度かその頭をなでると、小猫が目を覚ましたのか、少し眠たそうににゃーんと鳴いた。
「……にゃーん♪」
「ぅぁ、ぅ……」
猫撫で声で、サニーも猫の様に鳴く。
しかしその視線は、はっきりとアリスの目を捕らえていた。
「にゃーん♪」
再びサニーが鳴く。
満面の笑顔でアリスに向けられる視線は、全部見ていたよ、というメッセージが籠められていそうなほど、得意気に輝いていた。
すぐ目の前で真っ赤な顔を見つめられて、アリスは観念して顔を俯ける。
「に、にゃーん……」
そして、アリスも鳴いた。
片や、いつも姉の様に接してきた人形師の恥ずかしい一面をしっかりばっちり目に焼き付けられてご満悦な子猫。
片や、いつも世話をかけてきた少女に恥ずかしいところを見られて、羞恥に身体を震わせながら俯く子猫。
そしてその間で、暢気に身体を丸めて気まぐれに鳴く、黒い子猫。
「にゃーにゃにゃー♪」
「にゃー、にゃーん……」
三匹の子猫の合奏は、夜遅くまで続いた。
早く撮ってネガをください!!
次の日はアリス+三月精+猫の合唱ですね
何を覗かれるかわかったもんじゃないですから。
それでアリスがさらに赤面すべき!
読んでて幸せでした。
アリスがかわいい!
かわいい。