人通りの少ない真っ暗な道の一角。
そこにわたしの自慢の屋台はある。
店も大きくないし、来る人(妖怪?)も少ないけど、毎日楽しくやっています。
今日も赤提灯に火を入れて、準備完了。
今日は12月28日。
今年最後の営業日なので、頑張っていこうと思います。
☆☆☆
「ごめんくださーい」
今日の一番手は、妖夢さんと美鈴さん。
何を話していたのか、とても楽しそうな雰囲気だ。
「今日で最後なんですよね? 一年間、お疲れさまでした」
美鈴さんが、座りながら言葉をかけてくれる。
この屋台の椅子は5つ。
無理矢理座れば、2人座ることもできるが、基本的には1人が1つの椅子に座る。
妖夢さんが一番右。その隣に美鈴さんが座った。
「いえいえ。こちらこそ。一年間通っていただいて、ありがとうございました。今日はどうします?」
「そうですねぇ。前は辛い方だったので、今回は辛い方でお願いします」
「美鈴さん、もう雰囲気酔いしてます?」
妖夢さんが呆れたように美鈴さんを見る。
もちろん、「もう酔ったかも?」なんて言っている美鈴さんは酔っていない。
「妖夢さんは、いつも通りレモンハイでいいですか?」
「それでお願いします。あ、でも、ちょっと薄目にしてください。まだ早いので」
「妖夢さんはそんなこと気にしなくて大丈夫じゃないですか?ザルどころか、ワクなんですから」
「十分ザルな美鈴さんが言わないでください。それに、少なくとも文さんよりは弱いです」
「文さんと比較できる時点でワクじゃないですか」
「うっ」
妖夢さんが言葉を詰まらせる。
今回の勝負は美鈴さんの勝ち。
みんなに酔いが入ってくると妖夢さんも強くなるけど、素面の状態では負けてしまう。
妖夢さんが苛められるのは、この店ではいつもの光景だ。
「美鈴さんには熱燗の辛口。徳利が熱くなっているので、気をつけてくださいね。妖夢さんにはレモンハイです。お食事はどうされますか?」
徳利とグラスを置きながら尋ねる。
「妖夢さんは、どうします?」
「まだ早いですし。もう少ししてからにしません?」
「じゃあ、お通し程度にもらいましょうか?」
「美鈴さん、お腹空いているなら気にしないでいいですよ?」
「熱燗だと、ちょっと欲しくなるんですよ。ミスティアさん、そんな感じでお願いします。今日はいつも通りですか?」
「すみません。いつも通りです」
苦笑いしながら鍋を火にかける。
里芋や人参、こんにゃくなどを煮込んだ筑前煮。鶏肉は気になるけど、お客さんが喜んでくれるから、よく作っている。
「こればっかりは、ミスティアさんより上手に作れないんですよねぇ」
妖夢さんがグラスを置きながらため息をつく。
「でも、調味料も、野菜の量も適当ですよ?」
「知ってます。毎回微妙に味が違いますし。それでも、わたしが作るより必ず美味しいんです」
「そ、そんなこと言われても……」
本当に毎回適当に作っているから、返答できない。
小鉢に筑前煮をバランスよく盛り付けて、お箸と一緒に供す。
妖夢さんは箸をとると、里芋を半分に割って口にいれた。
ゆっくりと味わい飲み込む。
「やっぱり、ミスティアさんには勝てないです」
妖夢さんは人参を摘みながら言った。
「でも、妖夢さんも十分料理できるじゃないですか」
美鈴さんが助け舟を出してくれる。
この人は、場の空気を読むのが、本当に上手だ。
「それは、下手ではないですけれども……」
「仕方ないですよ。煮物は慣れですし。咲夜さんも、煮物に関してはまだまだですからね」
「そうなんですか?」
「もちろん上手ですよ? でも、ミスティアさんに比べたら、やっぱりまだまだです」
そこまで言われると恥ずかしい。
これでは完全に誉め殺しだ。
適当に鍋をかき回してごまかす。
幸い、妖夢さんと美鈴さんは、咲夜さんの話題に夢中になっている。
料理のことから、日常のことまで。美鈴さんの話は聞いているだけでも飽きなかった。
しばらく美鈴さんの話に耳を傾けていると、次のお客さんが来た。
「もう、アリスさん勘弁してください!ご、ごめんくださーい」
来たのは、またしても二人組。ただし、なぜか喧嘩中だ。
「文のおかげで霊夢に八つ当たりされたじゃない!」
「もう許してくださいってば!今日はわたしが奢りますから!」
アリスさんと文さん。博麗神社帰りらしい。
おそらく二人は神社で会ったのだろう。
「とりあえず座りましょう、アリスさん。あ、みなさんお騒がせしてすみません」
文さんがペコペコ何度も頭を下げる。
文さんは美鈴さんの隣。その隣にアリスさんが座った。
「もう、今日は徹底的に飲んでやるんだから」
アリスさんはなぜか気合いを入れているが、おそらくそんなに飲めないだろう。
ここに来ると日本酒だが、日本酒にはそんなに強くない。
「お二人とも熱燗でいいですか?」
「いつも通りでお願いします。ついでにお通しもつけてください」
「わたしも同じで」
微妙に頬を膨らましながら注文をするアリスさん。
完全に不機嫌モードらしい。
「博麗神社で何かあったんですか?」
またしても美鈴さんが気を利かせてくれる。
徳利と小鉢を、それぞれの前に置いて、わたしも話を聞くことにした。
ちなみに、文さんは辛口、アリスさんは甘口だ。
「今日は28日でしょ? だから霊夢はいろいろ準備をしてたわけ。門松や鏡餅を飾ったり、大掃除したり。そうしたら、そこにいきなり文が来て」
アリスさんはそこで言葉を切って、横目で文さんを見た。
文さんは誤魔化すように、酒を飲む。
「何をしたんですか?」
妖夢さんがレモンハイを一口飲みながら尋ねる。
「霊夢が集めたゴミを吹き飛ばした」
「「え?」」
妖夢さんと美鈴さんは同時に声を発した。
どうして? なぜ? という表情をしている。
文さんはうなだれて酒を煽っていた。
「だから、今日は大掃除で、丁寧に境内を掃除してたわけ。霊夢が。そうしたら、文がまったく気にせず飛んできたのよ。おかげでゴミは散乱。霊夢は怒る。もう最悪よ」
「アリスさんはどうして博麗神社に? 文さんは取材ですよね?」
またしても妖夢さんが尋ねる。
「わたしは、霊夢にお菓子を届けただけ。それなのに、掃除を手伝わされる羽目になったのよ。しかも文はぜんぜん役に立たないし」
アリスさんは乱暴に酒を注ぎ、飲み干した。
「でもどうして、アリスさんまで掃除を? 文さんがやればいいだけですよね?」
妖夢さんがうなだれている文さんを気にせず、容赦なく言う。ちょっと妖夢さんは毒舌なところがある。
「スペルカード持って脅されたのよ。仕方ないから人形を使ってやったけど。ちなみに文は半分もやらなかったわ」
何十もの人形を操るアリスさんと、文さんでは仕方ないだろう。
まぁ、たしかに文さんが悪いけど。
「はい」
美鈴さんが真っ直ぐに手をあげた。
「どうぞ美鈴さん」
妖夢さんが美鈴さんを指す。
「わたしは、今回の件に関して、文さんが悪いと思います」
「同意です」
「というわけで、文さんは、今夜の会計をすべて持つべきだと思います」
「そ、それは勘弁してください! 特に妖夢さんのを持ったら、破産します!」
文さんが立ち上がって本気で慌てる。
妖夢さんは、「なら、遠慮せずに」と言って、グラスを差し出した。
グラスを受け取って、レモンハイを作る。
美鈴さんは、「冗談ですよ」と言って、笑っていた。
美鈴さんの笑いは妖夢さんに伝わっていき、アリスさんまで伝わる。
天狗が本気で焦っているなんて、ちょっと笑えてしまうのは事実ではあるが。
文さんはため息をつきながらお酒を飲んでいた。
「それにしても、霊夢さんは、なんだかんだ言って、真面目ですよね。ちゃんと28日に準備をしているなんて」
「白玉楼でも、今日飾りましたよ。30日じゃワザとらしいですし」
「28日って、何かあるの?」
アリスさんが、美鈴さんと、妖夢さんの方を向く。
東洋の文化には疎いらしい。
「門松は、28日に飾ることになってるんです。29日は二重苦ですし、31日は一夜飾りと言って、神様を蔑ろにしているみたいに感じる。それにくらべて28日は、漢字の8が末広がりになっていて、縁起が良いとされているんです」
妖夢さんが指で空中に、漢字の8を書く。
「紅魔館では、鏡餅しか飾っていませんけどね。でも、咲夜さんが今日飾っていましたよ」
「へぇー。いろいろあるのねー」
アリスさんが器用に箸を操りながら、相づちをうつ。
昔は掴めなかった里芋も、今では簡単に掴めるようになっていた。
「そろそろ、食事にしませんか?」
美鈴さんたちが来てから1時間ほど。
妖夢さんの言葉に他の3人も頷いた。
「今夜は何になりますかねー?」
文さんもお酒によって蘇ったらしい。
今の時期は八目鰻がとれないので、いろいろな物を出している。
今夜のメインは、脂がのった寒ぶり。
外の世界から入手したものだ。
「今夜は寒ぶりです。とりあえずお刺身にしますね」
三枚におろして、皮を剥いだものを、刺身にしていく。
脂が多いので、量は少な目。
大根のつまの上に5切れずづのせて、山葵と練り芥子を添える。
「芥子ですか?」
一番最初に受け取った文さんが、不思議そうな顔をした。
「脂が多いですからね。山葵もいいですが、芥子も美味しいですよ? どちらも、多めにつけて食べてくださいね」
お客さんと話をしながら、次に出す料理の準備をする。
次は照り焼き。切り身にしたものを、醤油やみりん、酒を混ぜたものに漬ける。
「たしかに芥子も美味しいですね! 熱燗とよく合います」
「脂と芥子の香りが口に残っているところに熱燗を流すと……。極楽です」
美鈴さんと、文さんは、幸せそうにとろけている。
お酒のピッチも上がっているが、この2人なら大丈夫だろう。たぶん。
「わたしは、山葵の方が好きですね。どちらかと言えばですが」
妖夢さんは、最初だけ芥子をつけて、その後は山葵で食べていた。
それにしても、レモンハイに寒ぶりの刺身は合うのだろうか?
「本当に芥子はよく合ってるわね。脂のクドさが無くなる気がする」
アリスさんが芥子をたっぷりとのせながら言った。
その言葉に妖夢さんが、ちょっと意外そうな顔をする。
「あれ、芥子は大丈夫なんですか?」
「芥子は大丈夫みたい。こっちの山葵は苦手だけどね」
アリスさんが苦笑いをする。
「でも、西洋わさびは大丈夫なんですよね?」
漬け終わった寒ぶりに、串を打ちながらアリスさんに話かけた。
あとは、いつも八目鰻を焼いている炭火で焼けば完成だ。
「そっちならね。こっちの山葵は鼻に来るから」
「西洋わさびって、山葵の一種ですか?」
妖夢さんが、とろけている2人の向こうにいるアリスさんに質問する。
目配せで、アリスさんに説明をお願いした。
「西洋わさびは、こっちの山葵より辛い代わりに、そこまで鼻には来ないの。もちろん山葵の一種だけどね」
「同じように魚に使うんですか?」
「どちらかと言うと肉ね。今日の芥子みたいに、脂の多い肉につけたり。あとは、ローストビーフには欠かせないわ」
「山葵にもいろいろあるんですね」
アリスさんの話を聞きながら、寒ぶりを炭火にかける。
僅かにタレが滴り、醤油の焦げる香りを屋台に充満させる。
「いい香りがする」
妖夢さんが、ちょっと乗り出して、調理場を覗き込む。
「タレが焼けますからね。アリスさんも、よく料理をするんですか?」
「わたしの場合は、食事よりもお菓子ね。食事はいらないから」
「良く白玉楼にも、持ってきてくれますよね」
「お菓子は、一人分だけ作るの大変だから。余っちゃうのよ」
妖夢さんとアリスさんの話を聞きながら、調理を進める。
アリスさんは、基本的にはお人よしのいい人だ。
今日は怒っていたけど。
いろんな場所にお菓子を配るなんて、よっぽどお人よしでなければできないと思う。
もちろん、この屋台に来る人や妖怪で悪い人はいない。
本当にいいお客さんに恵まれたと思う。
ほとんど焼きあがった寒ぶりを、もう一度タレにくぐらせて、仕上げの焼きをする。
再び屋台の中に醤油の香りが満ち溢れた。
寒ぶりが焼きあがる間に、はじがみと山椒の準備をする。
はじがみを軽く水で洗い、粉山椒を小皿に少しずつ取り分けた。
「これ、少しかけてみてくださいね。好みですけど」
ちょっと山椒をかけると、しつこさを緩和できる。
山椒を配って、照り焼きを確認すると、ちょうどいい具合に焼きあがっていた。
まな板の上に取り出し、串を抜く。
焼き上がった寒ぶりをお皿にのせて、はじがみを添えた。
「寒ぶりの照り焼きです。熱いので気をつけてください。あ、お酒も用意しますね」
「美味しそうですねー。熱燗とよく合いそう」
「美鈴さん、まだ飲むつもりですか?」
「文さんだって。わたしよりも飲んでいません?」
「わたしは天狗ですから。筋金入りの飲兵衛です。それに、照り焼きにお酒なしなんて、考えられません!」
「あ、わたしにも。せっかく文の奢りなんだから、飲まなくちゃ」
日本酒組みの3人から、空になった徳利を預かる。
すでに文さんと美鈴さんは1升を越えている。
この2人は、言葉は悪いけど異常だ。
アリスさんは4合。
普通はこれでも多いと思う。
「わたしにもお願いしますね」
妖夢さんも、空になったグラスを差し出した。
ちなみに、妖夢さんは数えていない。
自己申告してくれるし、正直面倒くさい。
文さんと同じくらい飲むのだ。
「そういえば、今日は乾杯してませんね」
全員にお酒を配り終えると、突然美鈴さんが言った。
いつも乾杯なんて、していない気がするけど。
「あ、それ良いですね。何の記念にします?」
文さんが顔の高さにお猪口を準備する。完全に酔っぱらいのノリだ。
「文の奢り記念なんてどう? わたし以外にも奢ってあげるんでしょ?」
「もう、勘弁してくださいよ。アリスさんの分はまだしも、妖夢さんの分は嫌です。妖夢さん、どれだけ飲んでるんですか」
「1、2、3……、グラスで12杯くらいですかね?」
ほんのり顔を赤くした妖夢さんが、指を折りながら答えた。
「まぁまぁ、ここは素直に年末なので、忘年会ということで」
美鈴さんがグラスを手に取りながら笑う。
本当に楽しそうな笑顔だ。
「じゃあ、乾杯しましょうか? 音頭は文さんに任せます」
突然文さんに振る美鈴さん。
「私ですか!? えーと、ちょっと待ってくださいね。ここで私に振りますか?」
「じゃあ、文さんが考えている間に。ミスティアさん?」
突然美鈴さんに話しかけられた。
寒ブリのカマに塩を振る手を止める。
「せっかくなので、ミスティアさんも参加しませんか?」
「え、わたしですか!?」
「あ、それいいんじゃない?」
「ミスティアさんのお店ですし!」
美鈴さんの言葉に、アリスさんと妖夢さんが同意する。
「でも、まだ営業中ですよ? さすがにちょっと……」
「大丈夫ですよ。一杯だけですし、万が一の時も、妖夢さんがいるので」
「美鈴さん、それ、どういう意味ですか?」
「今までに空けたグラスの数じゃない?」
「美鈴さんだって、いくつ徳利を空けているんですか?」
「あはは。というわけで、ミスティアさんも、ぜひ参加してください。今年最後ですし」
美鈴さんの言葉に、断るのも申し訳ないと思った。
手を洗って、お猪口に少しだけ熱燗を入れる。
「それじゃあ、文さん」
美鈴さんは、文さんに乾杯の音頭を促した。
文さんが、少し椅子を引いて立ち上がる。
「あ、射命丸文です。えー、今年もいろいろなことがありました。悪いことも少なくなかった気がします。私事ですが、取材に行っただけなのに、針を投げられ、魔砲を撃たれ、魔女や月人によく分からない薬の実験台にされる。なぜ、真実を伝えようとしているだけなのに、こんなことにならなくてはならないのでしょうか?」
「いや、それは文さんの取材方法が……」
「妖夢さん、黙ってください。まぁ、とにかく、いろいろありました。でも、ミスティアさんのお店に来て、お酒を飲み、こんちくしょうな飲兵衛共と話をして笑えば、次の日には良い記憶になっていた気がします。来年も巫女が馬鹿みたいな力を使って働き、ミスティアさんが楽しい店を続けてくれれば、楽しい1年になるでしょう!」
そこで文さんは言葉を切って、笑いかけてくれた。
ほかの3人も、暖かい笑顔をくれる。
それがたまらなく嬉しかった。
「それでは、楽しかった今年に感謝し、来年も楽しい1年になることを祈って……。乾杯!!」
「「「「乾杯!!」」」」
夜の屋台に、お猪口やグラスのぶつかる音が響きわたった。
☆☆☆
すっかり静かになった屋台。
数分前に提灯の火を落とした。
「来年は1月5日からですよね?」
妖夢さんが15杯目のレモンハイを空にする。
アリスさんと文さんは毛布を肩にかけて、静かに寝息を立てていた。
毛布は、潰れた人のために屋台に用意してあるもので、美鈴さんがかけてくれた。
アリスさんは、周りが強すぎただけ。
文さんは、ただの飲み過ぎだと思う。
「あ、そうです。その時期にならないと、材料が手に入らないので」
「みなさん、それは知っているんですか?」
「ここに最近来た人ならば。だから、霊夢さんも、魔理沙さんも、鈴仙さんも知っているはずです。咲夜さんには……」
「帰ったら、わたしが伝えておきます」
「ありがとうございます。でも、全員来たら、屋台に入りきれなくなっちゃいますね。無理矢理1つの椅子に2人座れば、どうにかなりますけど」
美鈴さんが「それもそうですねー」と言って笑う。
夏場は屋台の外に、椅子やテーブルも用意できるが、今の季節では寒すぎる。
「咲夜さんに頼んで、広げてもらいます?」
「でもわたし、このピッタリな感じが好きなんですよね。なぜか安心できるんです」
妖夢さんが、店内を見回す。
屋台の壁には、手書きのメニューが貼ってある。
「それもそうですね。まぁ、集まってしまったら、そのときに考えますか」
美鈴さんの言葉を最後に、なんとなく会話が切れた。
たまに訪れる心地の良い沈黙。
2人の寝息だけが静かに響いている。
わたしは、その心地よい沈黙に身を任せることにした。
今日の屋台はもうおしまい。
寝ている人もいるし、片づけは明日の朝にする。
少しだけ徳利に入れたお酒を持って、空いている椅子に腰掛けた。
明るくなるまで、このままゆっくりしていよう。
来年もまた、楽しい一年になるといいな。
そこにわたしの自慢の屋台はある。
店も大きくないし、来る人(妖怪?)も少ないけど、毎日楽しくやっています。
今日も赤提灯に火を入れて、準備完了。
今日は12月28日。
今年最後の営業日なので、頑張っていこうと思います。
☆☆☆
「ごめんくださーい」
今日の一番手は、妖夢さんと美鈴さん。
何を話していたのか、とても楽しそうな雰囲気だ。
「今日で最後なんですよね? 一年間、お疲れさまでした」
美鈴さんが、座りながら言葉をかけてくれる。
この屋台の椅子は5つ。
無理矢理座れば、2人座ることもできるが、基本的には1人が1つの椅子に座る。
妖夢さんが一番右。その隣に美鈴さんが座った。
「いえいえ。こちらこそ。一年間通っていただいて、ありがとうございました。今日はどうします?」
「そうですねぇ。前は辛い方だったので、今回は辛い方でお願いします」
「美鈴さん、もう雰囲気酔いしてます?」
妖夢さんが呆れたように美鈴さんを見る。
もちろん、「もう酔ったかも?」なんて言っている美鈴さんは酔っていない。
「妖夢さんは、いつも通りレモンハイでいいですか?」
「それでお願いします。あ、でも、ちょっと薄目にしてください。まだ早いので」
「妖夢さんはそんなこと気にしなくて大丈夫じゃないですか?ザルどころか、ワクなんですから」
「十分ザルな美鈴さんが言わないでください。それに、少なくとも文さんよりは弱いです」
「文さんと比較できる時点でワクじゃないですか」
「うっ」
妖夢さんが言葉を詰まらせる。
今回の勝負は美鈴さんの勝ち。
みんなに酔いが入ってくると妖夢さんも強くなるけど、素面の状態では負けてしまう。
妖夢さんが苛められるのは、この店ではいつもの光景だ。
「美鈴さんには熱燗の辛口。徳利が熱くなっているので、気をつけてくださいね。妖夢さんにはレモンハイです。お食事はどうされますか?」
徳利とグラスを置きながら尋ねる。
「妖夢さんは、どうします?」
「まだ早いですし。もう少ししてからにしません?」
「じゃあ、お通し程度にもらいましょうか?」
「美鈴さん、お腹空いているなら気にしないでいいですよ?」
「熱燗だと、ちょっと欲しくなるんですよ。ミスティアさん、そんな感じでお願いします。今日はいつも通りですか?」
「すみません。いつも通りです」
苦笑いしながら鍋を火にかける。
里芋や人参、こんにゃくなどを煮込んだ筑前煮。鶏肉は気になるけど、お客さんが喜んでくれるから、よく作っている。
「こればっかりは、ミスティアさんより上手に作れないんですよねぇ」
妖夢さんがグラスを置きながらため息をつく。
「でも、調味料も、野菜の量も適当ですよ?」
「知ってます。毎回微妙に味が違いますし。それでも、わたしが作るより必ず美味しいんです」
「そ、そんなこと言われても……」
本当に毎回適当に作っているから、返答できない。
小鉢に筑前煮をバランスよく盛り付けて、お箸と一緒に供す。
妖夢さんは箸をとると、里芋を半分に割って口にいれた。
ゆっくりと味わい飲み込む。
「やっぱり、ミスティアさんには勝てないです」
妖夢さんは人参を摘みながら言った。
「でも、妖夢さんも十分料理できるじゃないですか」
美鈴さんが助け舟を出してくれる。
この人は、場の空気を読むのが、本当に上手だ。
「それは、下手ではないですけれども……」
「仕方ないですよ。煮物は慣れですし。咲夜さんも、煮物に関してはまだまだですからね」
「そうなんですか?」
「もちろん上手ですよ? でも、ミスティアさんに比べたら、やっぱりまだまだです」
そこまで言われると恥ずかしい。
これでは完全に誉め殺しだ。
適当に鍋をかき回してごまかす。
幸い、妖夢さんと美鈴さんは、咲夜さんの話題に夢中になっている。
料理のことから、日常のことまで。美鈴さんの話は聞いているだけでも飽きなかった。
しばらく美鈴さんの話に耳を傾けていると、次のお客さんが来た。
「もう、アリスさん勘弁してください!ご、ごめんくださーい」
来たのは、またしても二人組。ただし、なぜか喧嘩中だ。
「文のおかげで霊夢に八つ当たりされたじゃない!」
「もう許してくださいってば!今日はわたしが奢りますから!」
アリスさんと文さん。博麗神社帰りらしい。
おそらく二人は神社で会ったのだろう。
「とりあえず座りましょう、アリスさん。あ、みなさんお騒がせしてすみません」
文さんがペコペコ何度も頭を下げる。
文さんは美鈴さんの隣。その隣にアリスさんが座った。
「もう、今日は徹底的に飲んでやるんだから」
アリスさんはなぜか気合いを入れているが、おそらくそんなに飲めないだろう。
ここに来ると日本酒だが、日本酒にはそんなに強くない。
「お二人とも熱燗でいいですか?」
「いつも通りでお願いします。ついでにお通しもつけてください」
「わたしも同じで」
微妙に頬を膨らましながら注文をするアリスさん。
完全に不機嫌モードらしい。
「博麗神社で何かあったんですか?」
またしても美鈴さんが気を利かせてくれる。
徳利と小鉢を、それぞれの前に置いて、わたしも話を聞くことにした。
ちなみに、文さんは辛口、アリスさんは甘口だ。
「今日は28日でしょ? だから霊夢はいろいろ準備をしてたわけ。門松や鏡餅を飾ったり、大掃除したり。そうしたら、そこにいきなり文が来て」
アリスさんはそこで言葉を切って、横目で文さんを見た。
文さんは誤魔化すように、酒を飲む。
「何をしたんですか?」
妖夢さんがレモンハイを一口飲みながら尋ねる。
「霊夢が集めたゴミを吹き飛ばした」
「「え?」」
妖夢さんと美鈴さんは同時に声を発した。
どうして? なぜ? という表情をしている。
文さんはうなだれて酒を煽っていた。
「だから、今日は大掃除で、丁寧に境内を掃除してたわけ。霊夢が。そうしたら、文がまったく気にせず飛んできたのよ。おかげでゴミは散乱。霊夢は怒る。もう最悪よ」
「アリスさんはどうして博麗神社に? 文さんは取材ですよね?」
またしても妖夢さんが尋ねる。
「わたしは、霊夢にお菓子を届けただけ。それなのに、掃除を手伝わされる羽目になったのよ。しかも文はぜんぜん役に立たないし」
アリスさんは乱暴に酒を注ぎ、飲み干した。
「でもどうして、アリスさんまで掃除を? 文さんがやればいいだけですよね?」
妖夢さんがうなだれている文さんを気にせず、容赦なく言う。ちょっと妖夢さんは毒舌なところがある。
「スペルカード持って脅されたのよ。仕方ないから人形を使ってやったけど。ちなみに文は半分もやらなかったわ」
何十もの人形を操るアリスさんと、文さんでは仕方ないだろう。
まぁ、たしかに文さんが悪いけど。
「はい」
美鈴さんが真っ直ぐに手をあげた。
「どうぞ美鈴さん」
妖夢さんが美鈴さんを指す。
「わたしは、今回の件に関して、文さんが悪いと思います」
「同意です」
「というわけで、文さんは、今夜の会計をすべて持つべきだと思います」
「そ、それは勘弁してください! 特に妖夢さんのを持ったら、破産します!」
文さんが立ち上がって本気で慌てる。
妖夢さんは、「なら、遠慮せずに」と言って、グラスを差し出した。
グラスを受け取って、レモンハイを作る。
美鈴さんは、「冗談ですよ」と言って、笑っていた。
美鈴さんの笑いは妖夢さんに伝わっていき、アリスさんまで伝わる。
天狗が本気で焦っているなんて、ちょっと笑えてしまうのは事実ではあるが。
文さんはため息をつきながらお酒を飲んでいた。
「それにしても、霊夢さんは、なんだかんだ言って、真面目ですよね。ちゃんと28日に準備をしているなんて」
「白玉楼でも、今日飾りましたよ。30日じゃワザとらしいですし」
「28日って、何かあるの?」
アリスさんが、美鈴さんと、妖夢さんの方を向く。
東洋の文化には疎いらしい。
「門松は、28日に飾ることになってるんです。29日は二重苦ですし、31日は一夜飾りと言って、神様を蔑ろにしているみたいに感じる。それにくらべて28日は、漢字の8が末広がりになっていて、縁起が良いとされているんです」
妖夢さんが指で空中に、漢字の8を書く。
「紅魔館では、鏡餅しか飾っていませんけどね。でも、咲夜さんが今日飾っていましたよ」
「へぇー。いろいろあるのねー」
アリスさんが器用に箸を操りながら、相づちをうつ。
昔は掴めなかった里芋も、今では簡単に掴めるようになっていた。
「そろそろ、食事にしませんか?」
美鈴さんたちが来てから1時間ほど。
妖夢さんの言葉に他の3人も頷いた。
「今夜は何になりますかねー?」
文さんもお酒によって蘇ったらしい。
今の時期は八目鰻がとれないので、いろいろな物を出している。
今夜のメインは、脂がのった寒ぶり。
外の世界から入手したものだ。
「今夜は寒ぶりです。とりあえずお刺身にしますね」
三枚におろして、皮を剥いだものを、刺身にしていく。
脂が多いので、量は少な目。
大根のつまの上に5切れずづのせて、山葵と練り芥子を添える。
「芥子ですか?」
一番最初に受け取った文さんが、不思議そうな顔をした。
「脂が多いですからね。山葵もいいですが、芥子も美味しいですよ? どちらも、多めにつけて食べてくださいね」
お客さんと話をしながら、次に出す料理の準備をする。
次は照り焼き。切り身にしたものを、醤油やみりん、酒を混ぜたものに漬ける。
「たしかに芥子も美味しいですね! 熱燗とよく合います」
「脂と芥子の香りが口に残っているところに熱燗を流すと……。極楽です」
美鈴さんと、文さんは、幸せそうにとろけている。
お酒のピッチも上がっているが、この2人なら大丈夫だろう。たぶん。
「わたしは、山葵の方が好きですね。どちらかと言えばですが」
妖夢さんは、最初だけ芥子をつけて、その後は山葵で食べていた。
それにしても、レモンハイに寒ぶりの刺身は合うのだろうか?
「本当に芥子はよく合ってるわね。脂のクドさが無くなる気がする」
アリスさんが芥子をたっぷりとのせながら言った。
その言葉に妖夢さんが、ちょっと意外そうな顔をする。
「あれ、芥子は大丈夫なんですか?」
「芥子は大丈夫みたい。こっちの山葵は苦手だけどね」
アリスさんが苦笑いをする。
「でも、西洋わさびは大丈夫なんですよね?」
漬け終わった寒ぶりに、串を打ちながらアリスさんに話かけた。
あとは、いつも八目鰻を焼いている炭火で焼けば完成だ。
「そっちならね。こっちの山葵は鼻に来るから」
「西洋わさびって、山葵の一種ですか?」
妖夢さんが、とろけている2人の向こうにいるアリスさんに質問する。
目配せで、アリスさんに説明をお願いした。
「西洋わさびは、こっちの山葵より辛い代わりに、そこまで鼻には来ないの。もちろん山葵の一種だけどね」
「同じように魚に使うんですか?」
「どちらかと言うと肉ね。今日の芥子みたいに、脂の多い肉につけたり。あとは、ローストビーフには欠かせないわ」
「山葵にもいろいろあるんですね」
アリスさんの話を聞きながら、寒ぶりを炭火にかける。
僅かにタレが滴り、醤油の焦げる香りを屋台に充満させる。
「いい香りがする」
妖夢さんが、ちょっと乗り出して、調理場を覗き込む。
「タレが焼けますからね。アリスさんも、よく料理をするんですか?」
「わたしの場合は、食事よりもお菓子ね。食事はいらないから」
「良く白玉楼にも、持ってきてくれますよね」
「お菓子は、一人分だけ作るの大変だから。余っちゃうのよ」
妖夢さんとアリスさんの話を聞きながら、調理を進める。
アリスさんは、基本的にはお人よしのいい人だ。
今日は怒っていたけど。
いろんな場所にお菓子を配るなんて、よっぽどお人よしでなければできないと思う。
もちろん、この屋台に来る人や妖怪で悪い人はいない。
本当にいいお客さんに恵まれたと思う。
ほとんど焼きあがった寒ぶりを、もう一度タレにくぐらせて、仕上げの焼きをする。
再び屋台の中に醤油の香りが満ち溢れた。
寒ぶりが焼きあがる間に、はじがみと山椒の準備をする。
はじがみを軽く水で洗い、粉山椒を小皿に少しずつ取り分けた。
「これ、少しかけてみてくださいね。好みですけど」
ちょっと山椒をかけると、しつこさを緩和できる。
山椒を配って、照り焼きを確認すると、ちょうどいい具合に焼きあがっていた。
まな板の上に取り出し、串を抜く。
焼き上がった寒ぶりをお皿にのせて、はじがみを添えた。
「寒ぶりの照り焼きです。熱いので気をつけてください。あ、お酒も用意しますね」
「美味しそうですねー。熱燗とよく合いそう」
「美鈴さん、まだ飲むつもりですか?」
「文さんだって。わたしよりも飲んでいません?」
「わたしは天狗ですから。筋金入りの飲兵衛です。それに、照り焼きにお酒なしなんて、考えられません!」
「あ、わたしにも。せっかく文の奢りなんだから、飲まなくちゃ」
日本酒組みの3人から、空になった徳利を預かる。
すでに文さんと美鈴さんは1升を越えている。
この2人は、言葉は悪いけど異常だ。
アリスさんは4合。
普通はこれでも多いと思う。
「わたしにもお願いしますね」
妖夢さんも、空になったグラスを差し出した。
ちなみに、妖夢さんは数えていない。
自己申告してくれるし、正直面倒くさい。
文さんと同じくらい飲むのだ。
「そういえば、今日は乾杯してませんね」
全員にお酒を配り終えると、突然美鈴さんが言った。
いつも乾杯なんて、していない気がするけど。
「あ、それ良いですね。何の記念にします?」
文さんが顔の高さにお猪口を準備する。完全に酔っぱらいのノリだ。
「文の奢り記念なんてどう? わたし以外にも奢ってあげるんでしょ?」
「もう、勘弁してくださいよ。アリスさんの分はまだしも、妖夢さんの分は嫌です。妖夢さん、どれだけ飲んでるんですか」
「1、2、3……、グラスで12杯くらいですかね?」
ほんのり顔を赤くした妖夢さんが、指を折りながら答えた。
「まぁまぁ、ここは素直に年末なので、忘年会ということで」
美鈴さんがグラスを手に取りながら笑う。
本当に楽しそうな笑顔だ。
「じゃあ、乾杯しましょうか? 音頭は文さんに任せます」
突然文さんに振る美鈴さん。
「私ですか!? えーと、ちょっと待ってくださいね。ここで私に振りますか?」
「じゃあ、文さんが考えている間に。ミスティアさん?」
突然美鈴さんに話しかけられた。
寒ブリのカマに塩を振る手を止める。
「せっかくなので、ミスティアさんも参加しませんか?」
「え、わたしですか!?」
「あ、それいいんじゃない?」
「ミスティアさんのお店ですし!」
美鈴さんの言葉に、アリスさんと妖夢さんが同意する。
「でも、まだ営業中ですよ? さすがにちょっと……」
「大丈夫ですよ。一杯だけですし、万が一の時も、妖夢さんがいるので」
「美鈴さん、それ、どういう意味ですか?」
「今までに空けたグラスの数じゃない?」
「美鈴さんだって、いくつ徳利を空けているんですか?」
「あはは。というわけで、ミスティアさんも、ぜひ参加してください。今年最後ですし」
美鈴さんの言葉に、断るのも申し訳ないと思った。
手を洗って、お猪口に少しだけ熱燗を入れる。
「それじゃあ、文さん」
美鈴さんは、文さんに乾杯の音頭を促した。
文さんが、少し椅子を引いて立ち上がる。
「あ、射命丸文です。えー、今年もいろいろなことがありました。悪いことも少なくなかった気がします。私事ですが、取材に行っただけなのに、針を投げられ、魔砲を撃たれ、魔女や月人によく分からない薬の実験台にされる。なぜ、真実を伝えようとしているだけなのに、こんなことにならなくてはならないのでしょうか?」
「いや、それは文さんの取材方法が……」
「妖夢さん、黙ってください。まぁ、とにかく、いろいろありました。でも、ミスティアさんのお店に来て、お酒を飲み、こんちくしょうな飲兵衛共と話をして笑えば、次の日には良い記憶になっていた気がします。来年も巫女が馬鹿みたいな力を使って働き、ミスティアさんが楽しい店を続けてくれれば、楽しい1年になるでしょう!」
そこで文さんは言葉を切って、笑いかけてくれた。
ほかの3人も、暖かい笑顔をくれる。
それがたまらなく嬉しかった。
「それでは、楽しかった今年に感謝し、来年も楽しい1年になることを祈って……。乾杯!!」
「「「「乾杯!!」」」」
夜の屋台に、お猪口やグラスのぶつかる音が響きわたった。
☆☆☆
すっかり静かになった屋台。
数分前に提灯の火を落とした。
「来年は1月5日からですよね?」
妖夢さんが15杯目のレモンハイを空にする。
アリスさんと文さんは毛布を肩にかけて、静かに寝息を立てていた。
毛布は、潰れた人のために屋台に用意してあるもので、美鈴さんがかけてくれた。
アリスさんは、周りが強すぎただけ。
文さんは、ただの飲み過ぎだと思う。
「あ、そうです。その時期にならないと、材料が手に入らないので」
「みなさん、それは知っているんですか?」
「ここに最近来た人ならば。だから、霊夢さんも、魔理沙さんも、鈴仙さんも知っているはずです。咲夜さんには……」
「帰ったら、わたしが伝えておきます」
「ありがとうございます。でも、全員来たら、屋台に入りきれなくなっちゃいますね。無理矢理1つの椅子に2人座れば、どうにかなりますけど」
美鈴さんが「それもそうですねー」と言って笑う。
夏場は屋台の外に、椅子やテーブルも用意できるが、今の季節では寒すぎる。
「咲夜さんに頼んで、広げてもらいます?」
「でもわたし、このピッタリな感じが好きなんですよね。なぜか安心できるんです」
妖夢さんが、店内を見回す。
屋台の壁には、手書きのメニューが貼ってある。
「それもそうですね。まぁ、集まってしまったら、そのときに考えますか」
美鈴さんの言葉を最後に、なんとなく会話が切れた。
たまに訪れる心地の良い沈黙。
2人の寝息だけが静かに響いている。
わたしは、その心地よい沈黙に身を任せることにした。
今日の屋台はもうおしまい。
寝ている人もいるし、片づけは明日の朝にする。
少しだけ徳利に入れたお酒を持って、空いている椅子に腰掛けた。
明るくなるまで、このままゆっくりしていよう。
来年もまた、楽しい一年になるといいな。
苦労人ででもやっぱりお人好しなところがあるアリスが、とても良かったです。
寒ブリの描写が実に旨そうで涎が出そう。
お通しの雰囲気もさることながら
キャラの個性も素晴らしく
寒ブリの脂の乗りと醤油の風味 そこに交わる日本酒(個人的には純米酒と想像)
酒好きにはたまらない作品です