昼も夜もない、霧に覆われた川の岸辺に座り込む桃色に近い赤毛の死神。
彼女は考えている。たぶん閻魔のことである。
彼女が本気で考える事とは閻魔のことか、はたまた酒場で何を飲むかの時だけであろう。
「うーん、言うべきか。言わざるべきか」
その考えとは何かの悩みらしい。
この死神は簡潔に述べると脳天気である。滅多のことでは悩まない。
何事もお気楽にお気楽に。そんな彼女が額に皺を寄せて、考える。
果たしてそれは無益なことなのか…… それとも……?
『小野塚小町と四季映姫、酒場にて』
「それじゃあ四季様、あたいは先に行ってますから」
「えぇ、先に行って下さい。久しぶりですから、今日はゆっくり飲みましょう」
どうやら死神の仕事はここまでのようである。話しぶりから仕事後は、二人で酒場にでも行くのだろう。そこで死神は何を告白するのだろうか。
彼女は酒場に向かう。そして、零す。
「あの人怒ると長いんだよな…… それでも気になるし…… 聞いてみるか」
まったくもってその通りだ。彼女の職業は閻魔。職業柄、話が長いのはもちろんのこと四季映姫自身も説教好きという、閻魔になるために生まれてきた存在のようなものだ。
そんな彼女に聞くこととは、ひょっとして愛の告白か何かだろうか。
しばらくすると、酒場に着く。席に通され、死神は待つ。四季映姫はまだなのかとそわそわしているのが目に見えてわかる。
「あら、先に飲んでても良かったんですけど。というか、貴方ならもう一人で始めてるのかと思っていましたよ」
閻魔が酒場に到着したときの死神の状態は悶々と悩み、店員に腹痛を心配されるほどだった。
「せっかく、久々なんですし、ね。一緒に、始めたいじゃないですか」
「ふふ、そうですね。それでは注文しましょう」
まるで恋仲が始まったばかりの男女のようなやりとりである。見てるこっちの立場になってくれ。
「「乾杯」」
チン、とグラスを合わせる澄んだ音がなる。死神の飲みっぷりは悩みと共に酒を飲み込んだようにも思えた。
「もう少し、ゆっくりでもいいのですよ。明日は久々にお互い休みなのですから」
「えぇ、そうですね。すいません、あたい、焦っちまって」
酒でも入っていないと打ち明けられないことなのであろうか。死神のペースは早い。
それにつられて、四季映姫のペースも上がっていく。羨ましい。
「それで、四季様。あたい、言いたいことがあって……」
宴もたけなわ、ほど飲んではいないが、死神が口を開いた。いよいよ、彼女の口から打ち明ける時がきたのだ。彼女の性格のことだ、後回しにするより、さっさと行って楽になりたいのだろう。
「なんです、改まって」
四季映姫もほんのりと頬が朱色に染まり、酒が回っているそうだ。告白するにはいいタイミングかも知れない。
「あ、あの、四季様って」
「小町、こういう時では映姫でいいと言っているでしょ」
「あぁ、あ、すいません」
「それで、なんですって?」
二人の甘酸っぱいやりとりが続く。仕事以外では、こんなにも二人の中は良いのだろうか、それとも酒のせいか。どちらにしろこんなに砕けた物言いをする四季映姫は珍しい。
そして、ついに死神がその告白を……
「え、映姫様の髪って、なんで片方だけ長いんですか? い、いや可愛いとは思うんですが、あたい気になっちゃって」
……解散だ。解散解散。脳天気な死神の悩みは、実に脳天気なものだ。
本気になったら負け、という奴だ。
それではそろそろ……「へ、へんですか?!」
ん?
「いや、変じゃないですって。すごい可愛いですって。ただこだわりがあるのかなっておもっただけでさ……」
「そ、そうですか。そんな可愛いと言われるとあれですけど……」
ふむ、四季映姫がこんなに取り乱すのは珍しい。やはりまだ続けましょうか。
四季映姫のプライベートを垣間見るには小野塚小町と飲ませるのがいいということもわかりましたし。
「べ、べつにこだわりとかは無いんですが…… その……」
「は、はい」
「……貴方には!」
「へっ?」
四季映姫が声を荒げる。めったにない光景だ。お酒の力って怖いわね。
「貴方には…… その……でっかい胸があるでしょ?!」
「はえ?」
は?
「私には、その、女っぽいところが…… 余り無いので…… 小さいですし…… 服も閻魔服がほとんどですし…… だから髪だけでも、ちょっとのばそうかな、いやでも急に意識して伸ばすのは恥ずかしいなって…… だからちょっとずつ伸ばしていくうちに、こんな、中途半端に……」
「それ、それだけですか」
「それだけですが……」
「そ、そうですかい……」
「そうです……」
な、なんだこれ、なんだこの茶番。
いやでも、くくっ、あの閻魔が、女っぽさ……くふふ……
あははっは、あはははははははは
―――――――――――
「紫様、突然笑ってどうしたんですか?」
「いや、くくっ、なんでも、ないのよ。うふふっ、ふふふふ……」
「閻魔の弱点をさぐるっていって、なんでそんなに面白いことが……」
「あの閻魔が、ふふっこれからは四季映姫ちゃんて呼んであげましょう……」
「ゆ、紫様、私も気になります。見せてくださいっ」
楽しかったわ。覗きなんて趣味が悪いけど、今回は収穫ありね。
閻魔もなかなか面白いじゃない。こんど説教されそうになったら髪型でも褒めてみようかしら。
完
えいきっきかわいいよえいきっき
俺得ですか、そうですか
えっと…
創想話へようこそ!
確かに映姫さまの髪は謎髪型。自分で切ってるから左右非対称、っていうオチじゃなくて良かったw
とても女性らしい心根の可愛らしい映姫様にとても萌えましたw