「太陽はねぇ。やたら眩しいし、闇は掃われるし、力は湧いてこないし、いいことないよ」
「やっぱ月でしょ。太陽見ながら酒呑むより月見ながら酒呑んだほうが風情があるし。まあ地底には月はないけど」
「太陽?別に私は野菜食べなくても生きてけるし、必要ないわ」
あやかしがみのそんざいしょうめい
ぷろろーぐ!
間欠泉地下センターで一柱、今日も霊烏路空は湯を沸かす。
間欠泉地下センターなんていったって特別に何かすごい装置があるわけじゃない。
施設内にあるのは、電気を発生させる為の発電機やらタービンやら、水を循環させるポンプや復水器などありきたりな発電装置のみ。
残りはただ広いだけの何もない空間である。そもそも核融合は未だ科学でどうこう出来る問題ではないのだ。
つまるところ、間欠泉地下センターとはお空の能力をコピーし、またお空が効率よく力を発揮できる為の神殿にすぎない。
「私、なにやってるんだろ」
はあ、とお空はセンターの中心でため息をつく。
残念ながら未だ地下と地上には大規模な送電線路が整備されておらず、発電した電気は間欠泉センターと守矢神社の照明にしか使われていない。
だから今はただ、いつか来るかもしれない本格稼働日を想定して僅かな発電を行うのみだ。
ついでに言えば廃熱設備も整っていない為(と言うか周囲は溶岩の海だし)、最大出力での連続稼動など夢のまた夢である。
「こんなことしてて、誰かが幸せになるのかしら」
山の神様はお空に言った。これはみんなに希望を与え、幸せにする力であると。
だから当初はこの力を振るって地上を第二の灼熱地獄にしてしまえば、私たちは地底で狭い思いをしなくてすむ。
そう、思ったのに。
気付けば地上へ赴く前に鬼のような赤い巫女が現れて、あれよという間にお空は退治されてしまった。
最初は地上で流行っているというスペルカードルールで戦って、劣勢になったからつい最後には本気を出してしまったが、それでも究極の巫女とやらには敵わなかった。
なるほどこれが究極か、アルティメットかと平伏し、この力の使い方について教えを請うたお空への返答は簡潔だった。
「はん、全てを焼き、溶かしつくす?馬鹿じゃないの。お天道様ってのはね、全てを照らすためにあるのよ」
それだけをお空に語って巫女はそのまま地上へ帰ってしまった。実際は他にもなんかぶつぶつと、
「太陽が燃えてるとかほんと馬鹿ねー」『いや霊夢、燃えてるのは本当よ、距離があるからあったかいだけで』「え、ほんとに?うわー」『馬鹿丸出しね』「うるさい」
なんて独り言を言っていたけどお空の記憶には残らなかった。
そうかなるほど、全てを照らすのか。
そう思って今度は地下を照らしてみたら今度は苦情が殺到した。
曰く、闇が掃われる。曰く、酒が不味くなる。曰く、ピーマン嫌い。
どうやら地下の妖怪連中は陽光に照らされるのは好きではないようだった。究極と言えど当てにならないものだ。
しかしあれは違う、これも駄目。ならばと意を決したお空がさとりに尋ねてみても、嬉しそうな顔で「責任とかは気にしなくていいから、貴女のやりたいようにやりなさい」としか言ってくれない。
明らかに何か知ってそうな顔なのに何も助言してくれないとは。さとり様は意地悪だ、とお空は腹を立てた。
しかしまあ、さとりに聞いても駄目。結局どうすればいいのか分からない。
膝を抱えてドナドナしていたお空の前に現れたのは山の神様の使者であるという奇跡の巫女とやらだった。究極やら奇跡やらいろんな巫女がいるものだ。
「その力の正しい使い方を教えてさしあげましょう!」
奇跡の巫女は自身満々にそう言った。
そして指示されたのがお空が今やってるこれである。
稼動から数ヶ月。今のところ誰からも苦情は来ない。でも、流石のお空にもわかる。今のお空はただのストーブ。発電装置はただのヤカンだ。
こんなことやってて誰かが幸せになるなら既に世界は喜びに満ち満ちている。奇跡の巫女は阿呆に違いない。お空がそう思っていたところ、
―――――CAUTION!CAUTION!CAUTION!―――――
ブザーが響く。どうやら誰かがセンターに入ってきたようだ。空は力の解放をやめ、発電施設内の冷却を開始する。
しばらくすると「入室禁」の表示が「入室可」へと切り替わり、自動ドアが開かれた。設計者の趣味なのかこの施設はこういうところだけは無駄に工夫されているのだ。
その開いたドアから姿を現したのは彼女とほぼ同期、さとりのペットの中でも古株で、お空の一番の親友である火車の妖怪。
ベルベットのような毛並みを人型時は三つ編みにし、深緑のドレスを纏った姿があまりにも猫車とミスマッチな少女、火焔猫燐だった。
とはいえ流石に施設内まで猫車は持ち込んではいないようで、今日はなにやら丸めた紙を手にしている。
「やっほーお空、せいが出るねぇ。センターの排熱がすごいから燃料の投入がいらないくらいだよ!」
「そうかしら?現出力は最大時の0.1%程度なんだけど」
「へー、やっぱ神様の力ってすごいんだねぇ。ま、それはともかくこっちに戻ってこないの?今の放熱担当はちょっとどんくさくってさ」
熱が篭ってしょうがないわけよ、とばつが悪そうに燐は語る。それは同僚への文句が言いたいのではなく、お空の復職を願っているのだとお空は理解した。
今だって他のペット達と離れ、一人センターに篭っているお空を心配して様子を見に来てくれたに違いない。
友人の温かい心遣いにお空の胸は痛む。
「やっぱり、もう少し頑張ってみたいの」
まだこの施設が稼動し始めてから一年と経っていない。だから、もしかしたらまだ幸せに手が届く距離まで到達していないだけかもしれない。
この力が本当にみんなを幸せにする力なら、頑張れば頑張っただけ私もお燐もさとり様もこいし様ももっともっと幸せになれるはずだ。
これは先行投資、後で幸せボンガボンガと思えば、こんな誰もいない設備で一人働くのだって何てことない。
お空の表情を読み取り、お燐はそれ以上お空を勧誘するのをやめる。好意だって相手を苦しめることがあるのだということを、お燐は主達を見ていて良く知っていた。
「そっか、じゃあ、頑張れ!あ、後ちょっと古いけどこれ地上の新聞ね。山の神様のことが載ってたよ」
「新聞かぁ。ほとんど読んだ事ないけど、ありがとうお燐。えっと…何これ。常温核融合?」
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ほんぺん!
暦は師走。幻想郷はわりと師走でも雪が降る。昨日は結構な降雪があり、マフラーと外套を纏った霊夢は参道の雪かきに追われていた。
雪かきは面倒な作業だが、やらねば神社が埋もれてしまう。霊夢自身は飛行できるから問題ないとは言え、やらねば参拝客が来れなくなってしまう。
未だ霊夢はお賽銭を得る夢を諦めきれずにいるのである。一度で良いから、お賽銭に満たされた賽銭箱を見てみたい。
こういう時は風を巻き起こせる早苗や、高熱の魔法が使える魔理沙が羨ましい。積もった雪を前にそんなことを考えながら霊夢はせっせと参道の雪をどかしていく。
ぐうたら巫女などと揶揄される彼女であったが、人里はなれた神社で独り暮らしをしている以上、同年代の里の連中に比べればはるかにやることは多いのだ。
突如、じりりりりりりんと博麗神社に耳障りな音が響いた。社務所からである。
はいはい今出ますわよ、と霊夢は境内の雪かきをやめて社務所へと戻る。
安物の手袋を脱ぎ、かじかんだ手に息を吐きかけつつ小箪笥の上に置かれていた陰陽玉を手に取ってスイッチを押す。一年ほど前に地底に潜ったときに使用していた陰陽玉である。
その一つを地霊殿においてきてあるのだ。スイッチ一つで地霊殿につながり、しかも心を読まれない。
おまけに霊力を込めれば相手側にショットも送り込める、実に便利な道具であった。まあ当然その逆も出来るのだが。
「私だ。なによ、さとり。また問題事?」
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
ショットは飛んでこなかったが謎の大音量が聞こえてきた。少なくともさとりの声ではない。
「な、何事っ?」
「う゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ん!!っく、あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
どうやらそれは泣き声のようであった。
この陰陽玉は声しか繋がらない。だから霊夢には対向側で何が起きているのかさっぱり分からない。
…だが、どうせまた問題事に違いあるまい。霊夢の勘がそう告げているが、いきなり切るのも後味が悪い。
「ちょっと、何事なの?あんた誰?」
「っぐ、えぐ、ああああああああああああ!」
「泣いてちゃわかんないわよ。あんた誰?」
「ああああああああああああん!!」
「夢想封印」
電話より先に霊夢のもろい堪忍袋の緒のほうがさくっと切れた。
ドォン!と陰陽玉から何かが吹っ飛んだ音が聞こえてくる。続いてガタンと陰陽玉が地に落ちる音。
霊夢は何事もなかったかのようにスイッチを押して通話を終了した。
だが陰陽玉を小箪笥の上の結界付き小座布団の上に戻して再び雪かきに戻ろうとすると、またしてもじりりりりり、と陰陽玉が音をたてる。
「あーもーなんなのよ!次夢想封印 瞬でいくわよ!?」
「うおお!ちょ、ちょっと待った!お姉さんかい?」
「ん、その呼び方、さてはストーカー猫ね」
「火焔猫燐、お燐って呼んでくれっていっつも言ってるのに!」
「よしお燐、50字以内で何が起こったか説明しろ」
「えーと、相方が常温核融合の記事を見て、踏みにじられたって怒って泣いてる。奇跡はもう信用できないって」
「…さっきのはバカガラスか。それで私にどうしろと?そもそもさとりはどうしたのよ?」
なにが放し飼いが一番だ。人様に迷惑をかけるのを一番とは言わない。
霊夢は放任主義で飼い主としての自覚のないさとりに怒りを燃やす。
「さとり様は今上司の閻魔のさらに上司ところに旧地獄の年次報告書を提出しに行ってる。多分宴会込みで二、三日は戻らないと思うんだけど」
「あいつが宴会に参加するとはね」
「付き合いだって。さとり様も大変だよね。でも、第三の目を恐れない閻魔達との交流は嫌いじゃないのかも」
「へえ、まあ、さとりのことは理解した。それで私にどうしろと?」
「えーと、地底には神様に詳しい奴ってあんまりいないんだよ。鬼は結構詳しいみたいだけど関わりたくないし」
猫のアルコール漬けは御免だぁよ、とお燐はため息をつく。
「ねーお願いだよお姉さん、人助け、いや神助けと思ってさ。このとおり!」
霊夢は嘆息する。地底のいざこざには関わりたくないが、あのバカガラスの火力は異常だ。これで放置して幻想郷が核の炎に包まれてはたまらない。
「…分かったわよ。とりあえずそっちのバカガラス引っ張ってうちに来なさい」
「そーしたいところだけど、あたいさとり様に留守を頼まれちゃって。ちょっと地霊殿から離れられないんだ」
「なに、あんたアニマル軍団の幹部なの?」
「いやいや、ペットの中に上下関係はないよ。ただこの前の怨霊の件以降、さとり様のお声があたいにかかることが多くなったかな、良くも悪くも」
成る程。こいつは確かに結構力のある妖怪だが、それよりもその狡い頭がさとりの気を引いたのだろう、と霊夢は推測した。
妖獣というのは結構直情的な輩が多い。そういった連中を手玉に取れる分、さとりからすれば使い勝手が良いに違いない。
「そ。…じゃあ、そのバカガラスにあんたが今もってる陰陽玉持たせて、うちに来るように伝えなさい」
「え、それじゃ通信できなくなっちゃわない?」
「仕方ないでしょ。萃香―ああ、鬼の四天王ね―に聞いたんだけど、基本地底から地上に妖怪が上がって来るのは概ね禁止しない方針になったけど、物騒な妖怪に関しては鬼が管理してるんだってさ。地上侵略をたくらんだあいつはそれに引っかかる。単独での移動は許可されないのよ」
地底の妖怪が地上への害意を抱いていないことが分かったとはいえ、未だ地上と地底の垣根は高い。そこに地底の妖怪が地上で悪さを働いたら面倒なことになる。
それを防ぐ為に一応鬼が危険と判断した妖怪に関しては通行を管理しているのである。
まあ、鷹揚な鬼のやることなのでかなりのザルなのだが。
ちなみに未だ怨霊を管理する限り地上妖怪が地底に手を出さないという約束は生きているので、地上妖怪は地底には入らないことになっている。
異文化コミュニケーションは建前とかいろいろ大変なのだ。
「あーじゃあお空は前科持ち扱いか。…まあ事実だから仕方ないけどね」
「とりあえずその陰陽玉が通行証代わりになるわ。今のそいつに隠密行動なんてできそうにないし、仕方ないでしょう。こっちの状況が確認できなくなるのは諦めなさい」
「ん、分かった。お空はほんといい奴なんだ、忘れっぽいけど。よろしく頼むよ、お姉さん」
それだけ言うと、お燐側でスイッチを切ったのだろう。ツーッ、ツーッという音しか聞こえなくなった。
陰陽玉を小座布団の上に戻して霊夢は頭を振った。
師走である。永琳が走り回るほど忙しいのだ。そんなときに何でこう、面倒事ばかり起きるのだろうか。
ああ、だから永琳すら走り回るのか。
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「来たか」
妖気が一つ、神社の結界に引っかかった。時刻は夕方6時を回ったところだ。冬なのであたりは既に真っ暗である。
霊夢は湯飲みを炬燵の上に置き、やって来た妖怪を玄関で出迎える。
既に怒りと悲しみはおさまったのか、それとももう忘れたのか、霊烏路空は特に取り乱した様子もなく静々と神社を訪れた。
おそらく地獄鴉本来の姿なのだろう。ごっつい第三の足は無く、胸に浮き上がった紅玉も見当たらない。どうやら八咫烏の力は出し入れ自在のようだった。
やれやれこの様子なら少しは大丈夫かと霊夢は内心で安堵のため息をついた。
「妖怪の山の在り処を教えて」
だがお空の第一声はこれである。全然大丈夫じゃなかった。
開口一番目にそれか。聞いてどうする。超長距離砲撃か、そうだろう。
この第一種臨界不測兵器め、と霊夢は心の中で毒づいた。
「駄目よ」
「ならこの神社を焼くわよ」
「やってみろ。出来ると思うならね」
鼻で笑う霊夢の挑発にお空は激昂し、八咫烏の力を解放した。胸部中央から赤い球体が露出し、外套が星空で彩られる。
左足は分解の足に、右足は融合の足に、そして右腕は無骨な第三の足へと変貌し、第三の足の狙いが霊夢へと定められた。
「太陽神、招来」
だが次の瞬間には第三の足を三等分するかのように二つの方形結界が生まれ、第三の足へ八咫烏の力を伝える神経があっさりとカットされていた。
「ロックされた!?」
「貴方が力を借りている八咫烏っていうのは」
霊夢は慈愛に満ちた後光を纏いながら口を開く。
「天照大神の使いにして従属神。そして私は降神によりその天照大神の力を借りることができる」
「う、うう…」
「天照大神の力を持ってすれば、上位権限で八咫烏の力を封印することぐらいわけないわ」
「ううう…」
「人に対して脅しをかける。貴方のその力の使い方を、天照大神が見咎めた。もはや貴方は私に対して力を行使できない」
お空はペタンと尻をつく。そのまま八咫烏の足は消滅し、胸の紅玉もお空の中へと戻っていった。お空の中に溶け込み、一心同体となった八咫烏の側面が逆らう事をやめたのだ。
霊夢は静かにお空に近づく。そして圧倒されうなだれたる空の喉から顎を人差し指でつつっ、となぞって上を向かせ、さらに上からお空の顔を覗き込んでくる。
お空の地獄鴉の側面もまた敗北を認めた。天照大神の気配にではない。天照大神の慈愛に満ちた後光を纏ってもなお、消すことのできない霊夢の気配にである。
殺気も、敵意も無い。だというのにお空は霊夢の気配と表情を捕食者のそれとして捉える。おそらく霊夢が老衰で倒れるまで、お空は霊夢を狩ることなどできないのだろう。そう鳥獣の本性が理解してしまった。
…まあ、すぐ忘れるだろうが。
「ご、ごめんなさい!すみませんでした!食べないでください究極の巫女様!」
「食うか!…違うでしょう?やりなおし!」
「?」
「人に会ったときの第一声は?」
「こ、こんにちわ!お久しぶりです!」
「…こんばんは、久しぶりね。えーと、お空?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふーん、なるほど」
「ひどいでしょう?私はみんなの幸せのために努力したのに、あいつらは私をもう用済みって捨てたのよ!」
バンバンとお空は炬燵の板を両手で叩いて霊夢に訴える。
炬燵にあたり、片肘をついてみかんを口に放りこみながら霊夢はお空の話に耳を傾けていた。
まあ確かに非効率な地下核融合炉は廃止するかもって早苗が言ってたっけ、と霊夢は思い出す。
だがそれはもう半年近くも前の話である。
「でもまあその常温核融合なら失敗したわよ?」
「え?」
「いやあいつ等曰く大成功らしいけど、実際には水がちょっと熱くなる程度。あんたの火力にゃまったく及ばないわ。だから地下核融合炉はこれからも存続。頑張って湯を沸かしなさい」
「そ、そうなんだ」
「まあそれは置いておくとして、あんたにはこれからやらなきゃいけないことがあるわ」
お空は首をかしげる。どうやら、見捨てられた、踏みにじられたと思ったのはお空の早とちりだったようだ。
ならば既にお空が地上ですべきことはもう無いはずなのだが、霊夢は一体何をさせるつもりなんだろうか?
「なに?霊夢」
「あんたは一体何がしたいのよ?」
「何がって?」
「あんたの目的をあんたが理解してないと、これからも延々とあいつらに振り回されるわよ」
「だから、私の目的はみんなの幸せだって」
さも当然といわんばかりにお空は語る。
それを聞いて霊夢はため息をついた。みかんの最後の一欠けを口に放り込む。
「ふん、神奈子の受け売りか。まあ、それはいいでしょう。で、そのみんなって言うのは?」
「え、えーと、私と、お燐と、さとり様と、こいし様と…」
「もういい、あんたの勘違いがよく分かった」
霊夢はみかんの最後の一欠けを飲み込んで、お空に向き直る。
「あんたが地下で発電した電気とやらは、神奈子の信仰獲得に使われるだけ。地底に見返りなんてないわよ?」
「そんな!私は騙されてたの?」
「神奈子としては多分騙したつもりなんてないんでしょう。あんたの力で妖怪の山は潤うって話しだし、ほら神奈子の周りのみんなは幸せになる。ただその幸せの中に地底が入っていないだけ」
まあ、お湯を沸かすぐらいしか有効利用できなさそうな力でどれだけみんなが幸せになるのか分からないけど、と霊夢は付け足す。
「ずるい。みんな幸せって言ってたのに!」
「ずるくない。認識が違うだけ。あんただってみんなの中に神奈子や私を入れてなかったでしょう?」
「う」
「それにあんたは分不相応の力をいとも容易く手に入れた。本来そんな簡単に神の力なんて飲み込めない。それが出来たのは神奈子の手助けがあったから。だったらあんたは少なくともその力を手に入れたお礼を神奈子にしなきゃいけない」
「そんな…」
だがそれは、お空からしてみれば騙されたも同然である。
地底では何の役にも立たない力を与えられ、そしてその見返りに地上への協力を強要される。
どこから見ても悪質な詐欺以外の何物でもなかった。
「神奈子をかばうつもりはないけどね。肉体のない神霊っていうのは信仰が得られないと消えてしまうのよ。だからあいつがやったことはあんたに分かりやすいように言えば餌集め。それって早い者、強い者勝ちでしょう?」
「…うん」
お空は野良妖怪だったときを思い出す。
日々の食料は自力で手に入れる。強いものだけが生き残り、弱いものは淘汰される。弱肉強食、それが世界の真理。お空もそうやって生き延びてきた。
「あ!」
「何?」
「じゃあ、私もその信仰とやらを集めないと消えてしまうの?」
お空は焦る。信仰?なにそれ?おいしいの?どうしよう。早く集めないと。
「さっき言ったでしょう?肉体のない神霊は、って。あんたは地獄鴉としての肉体があるじゃない。それに八咫烏は別に自力で信仰を集める必要はない」
「え、なんで?」
「八咫烏は天照大神の従属神だから。さっきみたいに主神には歯向かえない代わりに、ちゃんと従属してれば主神の信仰の一部がまわってくる」
「????」
「…つまりあんたが色々ぶっ壊したりぶっ殺したりしない限り、信仰は勝手に手に入るって事」
「そうなんだ!すごい!」
でも信仰ってなんだろう?とお空は首をかしげる。
頭を抑えて霊夢は本日何度目になるか分からないため息をつく。流石に疲れてきた。
もういい、身の安全はとりあえず置いておこう。ほーしゃのーとやらも短時間なら大丈夫だろう。
「……ごめんちょっと話をスムーズにしたいから八咫烏の力を呼び出してくれる?」
「?いいけど、…はい、これでいいかしら?」
瞬く間にお空はいつもの三本脚へと姿へと変える。第三の足には未だロックがかかったままである。
「ねえ霊夢、このロックはいつ外してくれるの?」
「あんたが地下に帰るときに外してあげるわ。さて、これで少し会話が楽になるわね」
「なんでこれで話がスムーズになるのかしら?」
「気付いてないの?八咫烏の能力があんたに上乗せされるってことは、霊力体力だけでなく属性や知力も上乗せされるって事よ。さっきの私も慈愛に満ち満ちていたでしょう?」
「え?」
「え?」
「…そうですね」
「何よその間は」
まあいいや、と霊夢は身を乗り出す。
「さて、念のためにもう一度聞くわ。さあ、あんたの望みは何?」
「…やっぱり私の望みはお燐や、さとり様や、こいし様や、私の幸せ。ああ、あと相談に乗ってくれてる霊夢の幸せもおまけで願ってあげる」
「そりゃどうも。ただ、困ったわね…」
「なにが?」
「神の力ってその殆どが人間の為にあるのよ。基本的には妖怪は神を信仰しないからね。実も蓋もない言い方だけど、餌をくれない連中にお礼をする必要もないでしょう」
「確かに、その通りね」
「加えてあんた自身も神だけど妖怪だし。妖神の力でどうやれば妖怪が幸せになるかなんて、正直人間の私にはどう助言していいかわかんないわ。どうもあんたには地下で不要な助言をしたみたいだしね」
悪かったわね、と霊夢は悪ぶれもせずに呟く。
お空も本日二回目のため息をつく。困ったものだ。
はたして、この力でどうやったら自分たちは地底で幸せになれるのだろうか?
それともこんな力に頼るのはやめて地獄鴉の力だけで人並み…いや妖並みのささやかな幸せを求めるべきなのだろうか?
だがそれじゃ山の神様に利用されるだけで終わってしまう。それはあまりにも悔しいじゃないか。
「うーん…」
「よし」
霊夢が何か思いついたように炬燵から立ち上がり、押入れの中を漁る。
その後振り向いた霊夢が手に持っていたのはお空がお燐に渡され、持ってきた陰陽玉と同じものだった。
「どうするのかしら?」
「餅は餅屋、ってね」
「?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「で、私のところに来たと」
「霊烏路空です。お空って呼んでくださいな。妖怪にして神様な雛に助言をもらうように霊夢に言われてきたの」
そこは妖怪の山の麓。鬱蒼とした木々が生い茂る林の中。普段なら光も差さず不気味さを覚えるほどの樹海も、
視界を白く染める雪によって普段よりも若干落ち着いた印象を受ける。時刻は夜の八時を回ったところだ。
そんな林の中、陰陽玉を二つ周囲に浮かべた地獄鴉の来訪に神秘流し雛、鍵山雛は頭を抱えた。
師走の人里は何かと物入りで忙しい。人が大勢動けば厄も増える。
だから厄神たる雛もまた、この季節はわりと忙しいのだった。
「はぁ、しかも初対面の相手に呼び捨てとは。人にモノを尋ねるなら礼儀ぐらい身につけておいたほうがいいわよ」
「だって雛なんでしょ?私はもう成鳥だから私のほうが格上じゃない?」
「あのね、私は名前が雛なだけで雛鳥じゃないわ。それに貴方の話からすると妖神としては私のほうが年上よ?」
そうか、年上か。年上の相手はどう呼ぶんだったっけ?とお空は自分の主達を思い出す。
確かこいし様はさとり様の事を…
「えーと、お姉ちゃん?」
「!」
「ちがった?」
「いや、違わないけど、そうね、もうちょっと丁寧に。お姉様。はいどうぞ」
「お姉様」
「!!…頭に私の名前をつけて、さん、はい!」
「雛お姉様?」
雛の笑顔がぱっと花開く。
「ええ!!ええ!!良くってよお空さん!!」
『何やってんだあんた』
「ひゅい!」
不意に陰陽玉から響いてきた声に雛は思わず我に帰った。
「え、えーと、もしかしてふもとの神社の博麗霊夢さん?」
『ええそう。あんた何遊んでんのよ、早く相談に乗ってあげて』
鍵山雛はその場に崩れ落ちる。この世は煉獄に違いあるまい。
聞かれていた。なんということだ。清純可憐で通っていた雛のイメージは一瞬にして崩れ去ってしまった。
目の前の地獄鴉がいけないのだ。無垢な瞳で「お姉ちゃん」などといわれればそりゃ誰だって堕ちてしまうではないか。
ああ、ああ、龍神よ。幻想郷の最高神よ。貴方は何故この哀れな流し雛に斯様な試練をお与えになられるのか!
「どうしたの雛お姉様?」
鍵山雛は即座に立ち上がり天を仰いだ。素晴らしい、この世は天国である。
ああ、いいやもう。清純可憐?そんなものはどうでもよろしい。
この胸を駆け巡る熱い衝動よりも大事な物があるだろうか?否、断じて否である。
ああ、ああ、素晴らしきかな幻想郷。遍く者は見るがよい。これぞ我が愛、我が生き様である!
「ええ、なんでもないのお空さん。それで、妖神の生き方だったかしら?」
「うん、そう」
「うーん、貴方は後天的に神を取り込んだって言ったかしら?だとすると助言になるかは分からないわね。私は生まれながらに妖怪にして神だから」
「それでもいいから。雛お姉様はどのように生きているの?」
貴女を愛でる為に生きているのよ!
なんて内心はおくびにも出さず雛は応える。
「厄を萃め、山に返す。公神として人間の幸福を維持し、私神として人間の幸福を祈り、暇なときは妖怪として人間を襲って厄の恐ろしさを知らしめると共に人が山へ踏み入らないようにする。こんなとこかしら?」
『へー、なんだかんだで人間の為になる方向で完結してるのね』
「ま、これでも厄神様だからね」
「????」
首をかしげる姿もまた、小鳥のように可愛らしい。
雛の理性が融かされていく。正気本能メルトダウンだ。
『お空、八咫烏化』
「はーい、もう一回お願いしますわ、雛お姉様?」
なんと、いつのまにやら雰囲気が大人びておる!それに神性すら感じる。ああそうだ神だったっけ、だがこれも良い。一粒で二度美味しいじゃないか!!
ははは、今や世界の全てがこの鍵山雛を中心として廻っている。私が廻らずとも世界が私のために螺旋を描いて幸を送り込んでくる。
幸福の全てが今ここにあるのだと確信する!さあ、喝采せよ!はい拍手ー!パチパチパチ!!!!
「厄を萃め、山に返す。公神として人間の幸福を維持し、私神として人間の幸福を祈り、暇なときは妖怪として人間を襲って厄の恐ろしさを知らしめると共に人が山へ踏み入らないようにする。…分かった?」
「ええ、雛お姉様は人間寄りなのね」
何を馬鹿な。私は貴女寄りよ。貴女にお姉様と呼ばれ貴女の愛を享受する為に生きているの。
だがしかし目の前の少女の、なんと神々しいことか。この神様Eyeには色鮮やかな後光が見えるわ。
「これが無垢なる輝きというものかしら」
『いいえ、多分ガンマ線かなんかじゃないかしら、って天照大神は言っているわ』
おっといけない、声にもれていたようね。注意しなければ。
しかし眼魔閃とは何かしら?ルナティックブラスト?テリブルスーヴニール?訳が分からないわ。
「参考になったかしら?」
「雛お姉様。厄ってなんですか?良くない物というのは分かるけど、何故それがなくなると幸せになれるの?私にも処分できるかしら?」
「厄というのはね」
なんと健気な。厄神でもないのに厄を祓おうというの?駄目よお空さん。貴方はそんなものに手を出しては。
そんなものは私に任せておきなさい。穢れや災いなんて、この鍵山雛が全て受け入れてみせるわ!!
そうとも、私はこのような穢れなき瞳を護るために神様として生を受けたのよ!八幡神よ、わたしの生き方は間違っていなかった!
なんて美しき日々。なんて美しき世界。なんて美しき鍵山雛!ブラヴォー!!!さあ来なさい、全ての厄よ。この鍵山雛が全て吸い上げてあげるわ!
「災難や不幸を引き寄せる元。マイナスの運気。負に引っ張る力がなくなれば自然と人の運気は正へと傾くでしょう?だから厄がなくなれば人は幸せになれる、そして」
いかんいかん。ちょっとはお姉さんぽいことも言わないとね。
「貴方には無理ね。私は護る神、貴方は与える神よ。私はあらゆる不幸を防げるけど、人の生まれ持った運気以上の幸せをもたらせない。けど貴方は違う。災厄は防げないけど幸を与えられる。与えるものを間違えれば誰も幸せにできないけれど、うまく噛み合えば世界を幸福で満たすことができるの。だからよく考えなければいけないわ」
「…そうなの。ありがとう雛お姉様」
『ご苦労様、雛。あとエジプトのトートさんっていう外の神様から通信が入ったから読み上げるわね。「そろそろ地の文を返してはいかがかね?」だってさ。なにこれ?』
そう、残念ね。侵食異世界鍵山ワールドはここで終わりかしら。
それでは、無垢なる太陽の子に祝福あれ!
◆ ◆ ◆
『どう、お空。参考になった?』
「ええ、ありがとう雛お姉様」
「どういたしまして。この後はどうするの?」
雛が名残惜しそうに訊ねる。
『ふむ、じゃあ次は神様らしい神様を見に行きましょうか。こちらから要求しなくても延々と与えてくれる神様のところへ。次はお姉ちゃんなんて言ったら怒られるわよ。あと敬語忘れるな』
「ああ、あそこ…」
『雛も来る?道中のお目付け役がいてくれると助かるんだけど。こっからは姿形は見えないし』
「そうですね。せっかくお知り合いになったんですから、雛お姉様も一緒に」
「あそこはちょっと…それに厄集めをあまりサボるわけにもいかないしね。ま、ちょっとペース上げて頑張るから、戻ってきて、気が向いたらまた声でもかけて頂戴」
『うまく逃げたな。まあ、責める気は起きないけど』
「それはどうも」
お空は八咫烏の力を収め、羽を広げて浮き上がる。
『じゃ、行くわよ』
「お空さん、頑張ってね」
「ありがとう!雛お姉様!」
「ああんもう、こっちのお空さんもやっぱりたまらないわね!」
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「で、私のところへいらっしゃったと」
「霊烏路空です。お空って呼んでくださいな。人が幸せになるための助言を与える閻魔様に話を聞くよう、霊夢に言われてきました」
そこは彼岸。三途の川を越えた先にして新地獄の一丁目。
サボっていた小町を見つけ、口止め料代わりに三途の川の往復渡しを約束させることで、お空は苦も無く三途の川を越え新地獄の裁判所にたどり着くことができた。
時刻は夜の11時を回ったところだ。
陰陽玉を二つ周囲に浮かべた地獄鴉の来訪に、現在業務中である幻想郷の最高裁判長、四季映姫・ヤマザナドゥは頭を抱えた。
冬至を迎え、寒さが本格的になるこの時期は人も妖怪も自然死が増える。
だから地獄の裁判長たる映姫もまた、この季節はわりと忙しいのだった。
「お空さん、少しお待ちなさい。もう少しで交代の時間ですので」
「わかりました」
お空は一旦法廷を退室する。
壁によりかかって足をぶらぶらさせていると、部屋の前の長椅子の上に浮んでいた霊魂たちがスペースを開けてくれた。
どうやら座らせてくれるらしい。とりあえず腰を下ろす。
「ありがとう」
幽霊達は体を振るわせる。何か言ったのかもしれないがお空には幽霊の声は聞き取れなかった。
お燐なら分かったのかな、と首をかしげる。
『お空』
「なに?霊夢」
『お腹減ってない?』
「うーん、ちょっと減ってる。さっきの道の屋台でなんか買っとけばよかったかな?今から行ってこようか」
『やめときなさい。買い食いに出てる間に映姫が戻ってきたら面倒よ。…なら今のうちに八咫烏化しておきなさい。その状態なら腹減らないはずだから』
「はーい、…よっと。でもなんで空腹感がまぎれるのかしら?」
『言ったでしょう。神様の餌は信仰だって』
「ああ、天照様の信仰が頂けるんだったかしら」
『偉いわ。よく覚えていたわね』
「でもなんで空腹を気にするの?」
お空はまたしても首をかしげる。ちょっと話を聞きに来ただけなのだから、話を聞いたらさっき見かけた屋台に戻って買い食いすればよい。
そう考えていたお空に霊夢は釘を刺す。
『残念ながら閻魔の話は長いのよ。いい?今のあんたでも全部理解しようなんて思うな。必要なとこだけ記憶しなさい。あと、閻魔との会話中は私との会話は禁止。いないものと思いなさい。この陰陽玉は巫女からのただの自由行動許可証。いいわね?』
「?ええ、分かったわ」
本当に分かっているのか?そもそも何が必要か判断できるのか?と霊夢は少し心配になったが、すぐにその不安を振り払う。
こいつは馬鹿だが根は真面目だ。おそらく閻魔の逆鱗に触れることはないだろう。ならば後はなるようになるだけだ。
そこまで霊夢が考えたところで法廷の扉が開く音がした。四季映姫が姿を現したのだ。どうやら交代の時間になったようだ。
「お待たせしました。お空さん、でしたね。控え室がありますのでそこに移動しましょう」
「ええ、お願いします」
◆ ◆ ◆
「さて、私の話を聞きたいとは近年まれに見る良識を持つ妖怪のようですね。それで、聞きたいこととはなんですか」
「ええと、私は現在妖怪であり、また神である存在として妖怪に幸せをもたらしたいと考えています。ですがどう行動すれば妖怪に幸せをもたらせるのか分かりません。そこで閻魔様の教えを参考にしたいと思い、このたび伺った次第であります」
お空はこっそり霊夢に言われて作成したカンニングペーパーを読み上げる。ちょっと敬語の表現がおかしいのはまあ、ご愛嬌だろう。
映姫も特には突っ込まない。
「成る程、妖怪でもあり、また神でもあるという立場に戸惑っているのですね。私に話を聞きに来たことは賢明であるといえます。まったく、最近の若い者ときたら閻魔の教えを邪険にしてばかり。こちらが一人でも地獄に落ちる者が少なくなるように努力しているというのにそれを理解せず、判らぬと逃げ、無意味な安寧の日々に逃げ込む。実に嘆かわしい!」
「え、ええと」
「…コホン、すみませんこちらの話でした。では、まず正しい妖怪のあり方から説明いたしましょう。次に正しい神のあり方、そしてテストケースを交えて貴方にとって参考となる生き方を説明したのち、貴方が積める善行について語ります。よろしいですね?」
「はい、よろしくお願いします」
お空は佇まいを直し、霊夢に言われたとおり一礼する。
それを満足そうに見つめ、四季映姫は口を開いた。
「それではまず、正しい妖怪のあり方ですが、そもそも妖怪というものは……」
――少女説明中――
「という訳です。判りましたか?」
その映姫の締めくくりに、お空は実に申し訳なさげな表情を浮かべて口を開く。
「あの、映姫様、ちょっと難しくて判りませんでした。もう一度、もう少し簡単にお願いできますか?」
「いいでしょう。何処からですか?」
「妖怪が何故恐れられなければいけないか、からです」
映姫は歯噛みした。それってほとんど一番最初ではないか!
だが相手は神とはいえ鳥の妖怪だ。ミスティアもそうだったが、鳥の妖怪はさほど賢くなく、またいまいち物覚えが悪い。相手が礼儀正しかったためにそれを失念していたのは映姫の失態でもある。
「わかりました。それでは再度説明いたしましょう」
もう少しやさしい言葉遣いを心がけるよう、映姫は決心し、口を開く。
「よろしいですか?そもそも何故妖怪が恐れられなければならないかというと、人と妖怪のあり方として…」
――少女説明中――
「という訳です。判りましたか?」
その映姫の締めくくりに、お空は実に申し訳なさげな表情を浮かべて口を開く。
「あの、映姫様、ちょっと長すぎて覚えられませんでした。もう一度、もう少し簡潔にお願いできますか?」
「いいでしょう。何処からですか?」
「妖怪が人間を襲う際に気をつけなければいけない点、からです」
映姫は歯噛みした。それってほとんど一番最初ではないか!
流石に映姫もこれには腹を立て、お空を睨み付ける。
だが、睨まれたお空は心底真面目な表情で恐縮している。
その表情を見た映姫ははっとして自戒する。
(私としたことが、真摯に教えを請うものに対し怒りを向けるなんて何たる迂闊!それでもお前は閻魔のつもりか!)
「わかりました。それでは再度説明いたしましょう」
映姫は決心する。簡単に、しかしなるべく短くお空に諭さねばならない!
◆ ◆ ◆
映姫の説明は十二時間に渡って続いた。
十二時間延々と映姫が説明を継続していたわけではない。
その間にかれこれ10回以上は映姫の説明は一応完結を迎えている。
「あの、映姫様…」
「いいでしょう、何処からですか?」
「その、神様はなぜ信仰を獲得しなければいけないか、から…」
ようやく1/3か。だが良い、前進している。何も問題はない!と映姫は自身を納得させる。
この時点でお空がすべて理解するまで最低36時間が必要ということになる。12時間交代制の閻魔にとって問題大有りなのだが、今の映姫にはそれを判断する余裕はない。
不意に、控え室にコンコンコンとノックの音が響く。十二時間が経過し、交替を知らせに職員がやってきたのだ。
血走った目をお空に向ける映姫に、控えめに入ってきた下っ端鬼が恐る恐る声をかける。
「あのー、四季様。そろそろ交代の時間ですが」
「有給」
「はい?」
「まだ説教の途中です!有給をとると伝えなさい!」
「わ、わかりました」
映姫に殺意を向けられた(と解釈した)鬼はほうほうの体で引き下がった。
闖入者を追い出し、映姫はお空のほうへと向き直る。
「いいですか、そもそもなぜ神に信仰が必要かと言うと、人間が地上で生活するにあたり…」
――少女説明中――
「という訳です。判りましたか?」
その映姫の締めくくりに、お空は実に申し訳なさげな表情を浮かべて口を開く。
「あの…」
「いいでしょう。何処からですか?」
「妖怪が何故恐れられなければいけないか、からです」
さっきの鬼の横槍が入ったからか?一番最初に戻ってるじゃないか!!!
(ふふ、はは、あはははははははははは!!!!!!!!)
映姫は己を嘲笑する。
なんということだ。これまで映姫は幻想郷の最高裁判長をきっちり務めてきたという自信があった。
だが目の前の現実を見るがいい!今の映姫には救いを求めて手を伸ばしてきた哀れな妖神一体に真理を伝えることすらできない。
別に彼女が特別愚かという訳ではないのだろう。それに彼女の瞳を見よ。正しき道を歩むべく、映姫の教えを心待ちにしているではないか!
その穢れなき瞳に対し、この四季映姫・ヤマザナドゥは何も与えてやることができないのだ!
心に響く言葉とは、意識しなくても、筆記しなくても、放っておいても心に染み込むものだ。それに引き換え、映姫の言葉はちょっとした横槍で吹っ飛んでしまうほど軽いのだろう。
そんな様でよく最高裁判長を名乗れたものだ!
恥を知るがいい四季映姫よ。貴様はただ自己満足に終始していた愚か者だッ!!
根が真面目な映姫はすさまじい勢いで自罰のスパイラルに落ち込んでいく。相手を考えれば誰がどう見ても映姫がそこまで反省する必要はないのだが、他ならぬ映姫自信がそれを許容しない。
頑固一徹石頭。お地蔵様から閻魔へと昇格した映姫の意思は石の様に固く、他人にも己にも妥協を許さなかった。
いっそ無知もまた罪と切り捨てられれば良かったのだが、映姫はそこまで冷徹にもなれなかった。ならばもはや映姫には己を責めるしかない。
「あの、映姫様…」
「Aum ha ha ha vismaye svaahaa!」
「あ、あの、閻魔様…」
四季映姫・ヤマザナドゥはくわっと目を見開いて席を蹴って立ち、天を仰いで虚空に訴える。
「私を閻魔と呼ぶな!!!私は度し難い愚か者だった!!!私は誰一人幸せにすることができない無能だった!!!私はヒーロー気取りの、ただの道化だったのです!さあ、私を笑い、罵るがよい!!!」
「え、えーっと、どうしよう…」
映姫の目は既にお空の姿を映していない。ただ怪しく目を光らせ、虚空に対してぶつぶつと語りかけているだけだ。
「説教を!ただの説教ではもはや足りない!誰ぞ、この私に一心不乱の大説教を!」
その異様な光景にお空は恐怖し、もはや話しかけることも席を立つこともできない。
だが次の瞬間、半開きになっていた扉から誰かが侵入し、映姫に向かって鎌をぶん投げる!
「ああっとてがすべったーーー!すいません四季様ーーーーーー!!!」
そのわざとらしい一撃はあっさりと映姫の意識を刈り取り、夢の世界へと送り込んだ。
後にはそれをやった張本人と声も出せないお空が残るばかりである。
闖入者、小野塚小町は倒れ伏す閻魔を抱え上げた後「いやーやっちまったよ」なんてわざとらしく顔をしかめただけで何事もなかったかのようにお空へと語りかけてきた。
「やれやれ、お説教タイムお疲れ様。明日は忘年会だってのに四季様もよくやるよ」
「あう、こまっちゃん、ごめんなさい」
「ま、気にすることないさ。放っとけば目覚めたときにはリセットかかってケロッとしてるよ」
「え、本当?」
「うん、四季様頭が固いからねぇ。確か今回で通算20回目くらいだったかな?ま、日常茶飯事じゃないけど稀にはあることだからあんま気にするな」
「…」
「ただ四季様がこうなるって事は、あんた真面目だけど頭が弱いってことだからそこは反省したほうがいいかもね」
「むむむ、だからこうやって教えを請いに来ましたのに」
「それ以前の問題さね」
『ねえ』
控え室に入って初めて霊夢が眠そうな声を発する。多分映姫の大声で目が覚めたばかりなのだろう。
小町を脅して三途の渡しを取り付けたのは霊夢なのでいまさら小町は驚かない。
時刻は昼の十二時過ぎ。こんな時間まで寝ているとは何たるぐうたら巫女かと自分の事を棚に上げて呆れるのみだ。
「うん、なんだい霊夢?」
『そうやって毎回リセットかけてるからあいついつまで経っても話が小難しいまんまなんじゃない?私が言うのもなんだけど、経験は積み重ねたほうがいいと思うわ』
苦渋を舐めさせられても常に前を向いて飛ぶ友人の目を思い出して、霊夢が口を挟む。
「ま、あんたの言うことも一理あるけどね」
小町はため息をつく。
「でもそれは変わっていくって事だろう?変わらないから四季様は常にぶれることなく正しい裁きをできる。そうは思わないかい?」
『まあ、確かに』
「まあそれにこれも四季様の個性のひとつと思えばいい。神にだって神格じゃない人格があってもいいじゃないか」
『私としてはもっとおおらかな人格になって欲しいわ。口うるさいったらありゃしない』
「あはは、違いない。…さて帰りの船は同僚に用意してもらっているから、ここはあたいに任せてとりあえず帰っちゃいな、新神さん。勉強するしないはその後だ」
「…うん、じゃあこれで失礼します。閻魔様によろしくお伝えくださいな」
「あいよ、任された!」
◆ ◆ ◆
お空は八咫烏の力を収め、裁判所を後にする。
『参考になった?』
「…よく分からなかった」
『なら十分参考になったわね』
なにが?とお空は首をかしげる。
『どんなにありがたい施しも、受け側がちゃんと受け取れる物じゃなきゃ意味がないって事』
「ああ!雛お姉様が言っていた、「与えるものを間違えれば誰も幸せにできない」ってやつ!」
『そういうこと。よく覚えてたわね。ただ言っとくけと映姫の言うことは間違ってるんじゃなくて全て正しい。でも、あいつの言うことを理解し、言われたとおり行動できるかはまた別の話ってこと』
「難しいね」
お空はため息をつく。正しいものを与えてもなお、相手を幸せに出来ないこともあるのだ。
これが分かっただけでも儲け物だ、ととりあえず霊夢は映姫に感謝した。映姫の説教の内容にはまったく感謝してないので、映姫が聞いたら怒るだろう。
『相手を幸せにする贈り物ってのは難しいのよ。さ、次に行くわよ。次は成功例。商売敵だけど、あんたの勉強にゃちょうどいいわ』
「あ、待って霊夢、屋台で買い食いしたい!」
『…それはちゃんと覚えていたか。ふむ、帰ってきて神社の石段の雪を溶かしてくれるなら別に急がなくていいわ』
「やった!」
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「で、我々を訪ねていらっしゃったと」
「霊烏路空です。お空って呼んでくださいな。妖怪にして仏神な寅丸さんに助言を請うように霊夢に言われてきたの」
そこは霊験あらたか命蓮寺。時刻は夕方4時を回ったところだ。
陰陽玉を二つ周囲に浮かべた地獄鴉の来訪に、現在業務中である毘沙門天の代理、寅丸星は頭を抱えた。
冬至を控え、寒さが本格的になるこの時期は人も妖怪も自然死が増える。
もともと幻想郷の墓地があった近く――というかある意味真上――に命蓮寺が建立されたこともあり、神社に葬式を依頼していたもののほとんどが里に近いこちらに流れている。
また、名も無き妖怪達の供養も率先して白蓮が行っているため、命蓮寺はわりと忙しいのだ。
妖怪でありながら、毘沙門天の代理である星の仏としての格は白蓮を上回る。
故に本来は守護神、そして福の神である天部とはいえ、星もまた供養等の仏事に借り出されているのである。
「で、寅さん」
「それって私の事ですか。事ですよね…」
「寅さんの生き様を教えてください。お願いします」
霊夢に言われたとおり礼儀正しく頭を下げる。地獄鴉時にも敬語にそれなりに慣れてきたようだ。
寅丸星はどっか抜けてるところもあるが誠実で真面目な妖怪である。故に忙しかろうとなんだろうと礼儀正しく依頼されると無碍にする事はできないのだった。
「私の生き方ですか。私は毘沙門天の代理として生きています。まあ、それが全てですね」
「人間の味方ですか」
「教えを受け入れるものであれば妖怪の味方もします。…まあ、仏教の考えを受け入れる妖怪は少ないですが」
「では、妖怪を助ける神は正しいでしょうか」
お空は己の疑念を星にぶつける。
だが揺ぎ無い信念を基に星はそれに応える。
「私はそれもまた正義であると認識しています」
「寅さんは正義なんですね」
「ええ、私が正義です」
「では、仏神である寅さんが正義なら、神道の神の私は悪ですか?」
「今貴女を照らしているこの毘沙門天の宝塔の光は正義ある者を照らす。ならば貴女もまた正義なのでしょう」
「寅さんも正義で、私も正義なのですか」
「対立する者達の必ずしも片方が正義であり、片方が悪であるとは言えません」
「では、私たちは正義なんですね」
「ええ、私達が正義です。ジャスティスです」
「ジャスティスですか」
「ええ、アブソリュートジャスティスです」
「アルティメットジャスティスですね」
「むしろアルティメットブディストです」
がしっ、と友情クロスを結ぶ。二柱は今や魂で結ばれていた。
二柱の会話を聞き、呆れたように霊夢が空に声をかける。
『おいお空、あんたがここへ来た理由は正誤を確認する為じゃないでしょうに』
「…ああ!!」
思い出した。つい空気に飲まれてしまったが、お空は神の力で妖怪を幸せにする方法を探していたのだ。
正義執行はとりあえず二の次である。
「ちなみに寅さんは与える神ではなく、護る神ですか?」
雛の言を思い出し、改めてお空は星に訊ねる。
護る神であればあまり参考にはならないかもしれない。
「そのどちらでもあります。私は守護戦神でもあり、福の神でもありますので」
その回答にお空は喜んだ。妖怪にして、人だけでなく妖怪にも与える神。まさしくお空の目差すものである。
「福の神とは何を与えるのですか?」
「財産です。金銀財宝といえば聞こえが悪いですが、要は仏の教えを信じ、日々真面目に生きるものに財産を保障するということになります」
「????」
『お空、八咫烏化』
「はーい。よっ、と。では妖怪も財宝を貰って喜びますか?」
その瞬間、寅丸星は凍りついた。
「え、ええと、どうでしょう。低級妖怪なら光物を喜ぶかもしれないですが…」
「上級妖怪は財宝では喜ばないのでしょうか?」
「…」
「鬼は沢山の宝を持っています。上級妖怪も財宝が好きなのではないのでしょうか?」
「鬼が宝を集めるのは、己に人間の意識を向けさせ、そして己を退治した人間にその努力を讃え、与える為です。己が宝を欲しているわけではありません」
「では鬼を含めて上級妖怪は宝に興味がないのですね」
星の背中を冷や汗がだらだらと流れる。自身の愚かさに気がついてしまった。
この目の前の純真な八咫烏は、この先間違いなく素朴な疑問を口にするだろう。
「…おおむね」
「では寅様は仏に従事する上級妖怪に何をお与えになるのかしら?」
「…それは…」
「神は信仰の見返りに何を与えれば、妖怪に喜んでもらえるのでしょう?」
「…分かりません」
正直に星は答える。根っからして真面目な星に嘘や誤魔化しなど出来ようはずも無い。
ゆえにお空は混乱した。はて、目の前の毘沙門天の代理は妖怪にも与える神ではなかったのか?
「?では、寅様は何を与えるかも分からずに、ただ妖怪にも信仰を募っていたのでしょうか?」
『あ、こら!』
「…あ、ああ…あああ」
霊夢が止めるが一足遅かった。
悪気は無い。ただ思いついたままを口にしただけだった。
だがしかしその言葉は覚悟していてもなお、棘の付いた錐のごとく星の心へと突き刺さりその内側をかき混ぜた。
「ああ…そのとおり。私は愚か者です。聖の教えに感銘を受け、妖怪にも仏の道を説いていたというのに。私は、何も理解していなかった…」
『ほ、ほら、別に護り神でもあるんでしょう?なら守ってやればいいじゃない』
霊夢は舌打ちする。成功例として安牌だと思っていたのに、やっぱりこいつはうっかりタイガーだったか。冬だからって面倒くさがらないで穣子あたりにしときゃよかった!
後悔するももはや致し方なく、そのまま没落タイガーをなだめにまわるものの目の前の虎は聞く耳持たず吼え始める。
「上級妖怪に私ごときの守護が必要ですか!?それに私は毘沙門天の代理なのです!!!毘沙門天は北方守護の神であり、福の神でもある!!そのどちらも私がそれを体現できなければ、毘沙門天の名は地に落ちてしまう!!!ああ、なんて私は愚かだったのか!!聖の願いを己の願いと勘違いし、何も分からぬまま真言を垂れ流していたにすぎない!!私は毘沙門天の代理にふさわしくない!!私は、正義ではなかった…」
『…はぁ、真面目な奴ってのはこれだから』
霊夢は呆れたようにため息をつく。
どうしてこういう真面目な奴は100点の次が99点でなく0点だと思うのだろう。
お空もまた霊夢に続き、友情クロスを結んだ同胞を慰めようと口を開く。
「で、ですが寅様。宝塔の光は未だ貴女を照らしています。ならば貴女は未だ正義なのではないでしょうか?」
「いえ、きっと宝塔の気の迷いなのでしょう。仏の教えの何たるかを理解していなかった私が、正義であるはずありません」
お空の慰めにも星は耳を貸さないが、それでもお空は諦めない。なったばかりだろうがなんだろうが、友人は助けるものだ。
「ですが、その宝塔は毘沙門天…様のものなのでしょう?毘沙門天様とはそんな間違いを犯す方なのでしょうか?」
『すげえ、とどめさしやがった』
お空は、そんな偉いやつが間違えるはずが無い、だから星は未だ正義である。と言ったつもりだった。
だが悩める星にはそれは「貴様は毘沙門天を信じていないのか」としか捉えられなかった。
お空の一言で星は絶望したかのように崩れ落ち、畳を涙でしとどに濡らす。
言葉というのは難しいものである。与えるものを間違えれば誰も幸せにできない。時には、間違っていない言葉であっても。
「ナズーリン!ナズーリンは何処にありや?」
絶望する星は信頼する部下の名を呼ぶ。
それ以前に星の叫びを聞きつけていたのだろう。すぐにナズーリンは顔を出した。
「なんだい、御主人。少し声が大きいよ、廊下にまで声が響いている。ちょっと落ち着きたまえ。後それどころじゃなくてね…」
「ナズーリン、私は修行の旅に出ます。しばらく毘沙門天の代理をお願いします」
「…はい?」
「私は毘沙門天の代理としてふさわしくなかった。私は今一度この身を野にさらし、この不甲斐なき心を鍛えなおさねばなりません」
星の目には涙と炎が浮かんでいた。決意を秘めた瞳である。
その異様な圧力に思わずナズーリンは後ずさった。
「ちょ、ちょっと待ちたまえ御主人、いくらなんでもいきなりそれは無いだろう?もうちょっと順序だてて事を説明…」
「未熟ゆえ修行する。これ以上の理由はないでしょう。では後は任せましたナズーリン」
「ええ、ちょっと、今からかい?少し落ち着こうよ御主人!急いては事を仕損じるよ?っていうか残りの業務はどうするんだい?…まさか、私に全部やれと言うんじゃないだろうね?」
「…この不信神者に葬られても誰も成仏できますまい。では後は頼みましたナズーリン」
それだけ語ると星はそのまま客間を後にしてしまった。続いて玄関の開く音がする。虎らしく、実に迅速な行動である。
後には呆然としたナズーリンとお空が立ちすくむだけだ。
ため息をついてナズーリンはお空の顔を見る。その苦労が刻まれた表情に思わずお空は手を合わせた。
「…できれば一体何があったのか、説明して欲しいんだが…」
――少女説明中――
『ってわけ』
「なるほど。神は己を信仰する妖怪に何を与えるべきか、か。難しいね」
『よし同士ナズーリン、賢将の腕の見せ所だ。いや脳かな?とにかく知恵を出せ』
「同士さんも毘沙門天の関係者なのかしら?」
「まあ、ね。私は毘沙門天の使いにすぎないけどね」
「では、私と同じね。私も天照大神の使いですから。ぜひお話を伺いたいですわ」
お空が顔をほころばせる。その笑顔を眩しそうに見つめ、ナズーリンは再度ため息をついた。
「そうは言ってもね…ただどうやらこちらもちょっと考えなきゃいけないようだし、この場での助言は難しいよ」
「考える…って、宝を貰って妖怪が喜ばないのは明白ではないのですか?これ以上何を考えると?」
「そうだね、たとえば間接的利生という奴さ」
「?」
「つまり、財宝が役に立たないなら、それを売り払ってお金に換えて、別のものに買い変えて与えてもいい。直接財宝を渡す必要もないだろう?まあこれはちょっと俗すぎるけどね」
「『なるほど』」
確かに。神の力が直接幸を与える必要もない。間接的にご利益があり、それが神の力によるものと分かれば結果としては問題なさそうである。
お空も霊夢も納得した。なんだかんだで賢将である。
『さすが賢将。やるわね』
「いや、この程度で褒め称えられるとなんか逆に後ろめたいな。君達ももう少し知恵をひねったらどうだい?」
『ふん、熟考なんて考えるのが得意な奴がやればいい。巫女に必要なのは知恵じゃなくて直感よ』
「怠惰、と言いたいが確かにそれもまた事実だね。餅は餅屋か」
そういうこと、と霊夢は舌弁なめらかな鼠の言を遮った。説教なんて一柱で十分だ。
『じゃあ私たちはそろそろ帰るわ、虎に火ぃつけちゃって悪かったわね』
「いやいや、こちらとしても在り方を考え直すいいきっかけになったよ。とりあえず御主人に関しては気にしなくていいさ」
『いいの?何処行ったかもわからないのよ?』
「私のロッドで捉えられない者は無いよ」
ナズーリンは自信に満ちた声で、陰陽玉の向こうの霊夢に語りかける。
『ああ、そうだったわね。失念してたわ』
「探すのは慣れているからね…失踪者の捜索くらいわけは無いってそうだった!!まずいよ霊夢」
星の暴走ですっかり記憶が飛んでしまったナズーリンはようやく己が主人に伝えるはずだった情報を思い出した。
『なに?』
「小耳に挟んだんだが、人里で迷子になったかもしれない子がいるらしい。山付近に正月飾り用の松を取りに行って、まだ戻ってないとか」
『なんだと?』
この雪景色の中で迷子だと?洒落にならない。ただいま夕方6時、既に夜の帳が下りている。
加えて冬は飢えた妖怪も多数うろついている。一息ついてる状況じゃないだろう。
何でこう面倒が続くのだ?雛がサボっているせいに違いない、と陰陽玉の向こうの霊夢は絶対幸福空間、炬燵から這い出しながら腹を立てる。
「まだそうと決まった訳じゃないんだけどね。聖に伝えた後、私は一旦人里へ向かって真偽を確認して、事実ならダウジングに必要な情報を回してもらうつもりだけど、君達は念のため一足先に山へ向かってくれないか?そう上までは登っていないはずだが」
『了解。行くわよお空。人助けだけど文句言うな』
「ええ、分かったわ。霊夢には手伝ってもらったし、お礼しないとね」
「十才前後の男女の兄妹だそうだ」
「ラジャー!霊夢、まずはどうするのかしら?」
『山ならちょうどいい、雛を巻き込むわよ。行け!』
人手は命蓮寺が何とかするのであれば霊夢達に求められるのは迅速さだ。故にあまり寄り道するわけにもいかない。使える奴は使わせてもらう。
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「ごめんなさい雛お姉様」
「何を言ってるの、人助けは私の仕事でもあるの。お空さんが謝る必要はないわ。で、まずはどうするの?霊夢」
そこは妖怪の山の麓。白い雪景色で、怪しい光を纏う赤いドレスはすぐ見つかった。
だがしかし上空から軽く辺りを見回してみても、人間の子供など見つかるはずも無い。
賢い子供であれば木のうろにでも身を隠しているだろうし、そうでなくても見晴らしの良いところにぽつんと居たりはしまい。
それぐらいは里の外に出る以上、子供といえど心得ているはずだ。
故に、霊夢は考える。本当に迷子になったのか、なってないかは考えても仕方ない。妖怪を牽制し、救出の意図を相手に伝えるには?
まずは明かりだ。妖怪は明かりを灯さない。罠として明かりを用いる狡猾な妖怪もいるが、そこまで考えても仕方ない。
『よしお空、マナーモードを解除する。人工太陽作って打ち上げて。あんたたちは妖怪だから明かりは不要だろうけど、雑魚妖怪の牽制になる』
「地上の空気は不純物が多すぎる。うまく出来るか分からないわ。それに…」
「それに?」
「いいの?ついでに山の神社に向かって砲撃するかもしれないわよ?」
その質問に霊夢は答えず、次の瞬間にはお空の第三の足への神経を遮断していた霊夢の方形結界が解除される。
「これは練習。私はあんたを信じるわ」
霊夢は落ち着いた声で語る。
「だからあんたはその「みんなを幸せにする力」で私にご利益を授けてごらんなさい」
成る程、物は言い様とはいえなんとずるい言い方だ、と昨日と今日でちょっと賢くなったお空は笑う。
だがしかしお空だって神様だ。そんなふうに言われちゃ裏切れやしない!
「雛お姉様、一足先に捜索に向かってもらえますか?」
「ええ、お空さんもがんばって」
「勿論です!」
二柱は互いに顔を見合わせて笑い、雛は地上へ、お空は上空へと移動する。
◆ ◆ ◆
「真空空間の確保完了。ヘルズトカマク構築、出力32%で安定。高温プラズマ封入済」
さあ、地上では初の核融合だ。
今日は私も捜索に加わらなきゃいけないから、自分自身を中核にはできない分さらに難易度も高くなる。ならば比較的簡単な方の反応を採用しよう。
「中性粒子ビーム照射及びECH開始。内部温度上昇中、現在の規格化ベータ値5.2」
地上でもうまくやれるかしら?失敗したら辺りは火の海だ。幻想郷の管理人に怒られるかも。
あれ?霊夢が管理人で、その霊夢が私を信じてるんだから、怒られるなんてやっぱりありえない。おお、なんて素晴らしい三段論法。
「ブレークイーブン、臨界プラズマ条件突破。ブランケット負荷、全て規格内。トリチウム、順調に生成中」
なんか気分がいい。失敗なんてありえない。少なくとも一人は今、私を信仰してくれている。胸の内に宿るか細い一つの灯火がある。
天照大神への信仰ではない、霊烏路空への信仰。胸の奥が暖かい、実に幸せな気分。
山の神様達はこれが欲しいのね。成る程これじゃ仕方ない、怨むのはやめてあげましょう。
「エネルギー増倍率なおも上昇中、自己点火条件突破まで推定20秒」
この信仰の力でみんなを幸せにして、そして更なる信仰を得る。あらなんて素晴らしい仕組み。
なるほどだから信仰の取り合いになるのね。じゃあこれからは山の神様達は競争相手かしら。
「自己点火条件突破、人工太陽として再構築」
いえ、やっぱり競争はやめて、私は地底の神様になりましょう。地底のみんなを幸せにして、信仰してもらって、それで私も幸せに。
あれ?というかその方法を昨日今日と探していたんじゃなかったかしら?もうちょっと賢くならないとだめかしらね。
「人工太陽形成、サブタレイニアン・サン!!」
成功だ!練習、終わり!!
◆ ◆ ◆
『うまくいったようね。こっちからも見えてる、って言うかすっかり昼間ね。お疲れ様、お空』
「ふふーん」
『じゃ、悪いけど迷子の捜索に移ってくれる?』
「あ、そうだった。これで終わりじゃなかったわね」
おいおい、と霊夢はため息をつく。
『ねえお空、あの太陽ってどれくらい持つの?』
「んー、放っておけば延々と燃え続けるんだけど、いろんな物を吸い込んでいくと不純物が増えてエネルギー増倍率が飛躍的に下がっていくから…」
『あんた自分の能力に関することなら難しい用語も使えるのね…あんたの言ってることが理解できないとなんか口惜しいわ』
「神様ですからー!…たぶん不純物の排出が追いつかなくなって消滅するのは半日くらいかな」
『ん、そんだけ持てば十分すぎるわね。雛からの発見の合図は無い?』
「うん、まだ」
特に取り決めはしてないが、見つければ弾幕なり何なりで発見を知らせてくるだろう。
お空は辺りを見回す。しかし特に変化は無い。いや変化はある。眩しい。すごく眩しい。
なんと、外から見るとこんな眩しいのかとお空はため息をつく。
「霊夢、眩しい」
『まあ、神とはいえ妖怪のあんたには眩しいかもね』
「うーん、やっぱりこの力で妖怪を幸せにはできないのかなぁ…」
『同士が言っていたでしょ。間接的な手段を考えなさい。…それよりあんたちゃんと探してる?』
「探してるってば!霊夢こそ人任せでずるいわ!」
『私も今そっちに移動中よ。私の飛行速度じゃもうちょっとかかるわね』
「!まって霊夢、なんかすごい妖気が近づいてくる!勇儀ぐらいの奴!」
『何だって?うわ、こっからでも分かるわ。このイカれた妖気は花馬鹿ね…お空!森から出て上空に上がりなさい!』
言われるがまま即座に上昇したお空の行く先を一体の妖怪が遮る。
白いブラウス。紅白チェックのスカートとベスト。その手には優雅な刺繍を施した日傘。
「貴方の力は見せてもらったわ。楽しい夜になりそうね」
大妖怪、風見幽香は久方ぶりの好適手たりえる相手を見下ろし、無邪気な少女のような笑みを浮かべた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「霊烏路空です。お空って呼んでくださいな。どなたか知りませんが私は現在迷子の捜索中なので、できれば協力していただきたいのですが」
「風見幽香よ、好きに呼びなさい」
「じゃあお幽で」
「…その発想は無かったわ。まあいい、迷子なんてほうっておいて私に付き合いなさいな?お空。そのほうがずっと楽しいわ」
「弾幕ごっこですか?」
「私達の素晴らしい出会いを遊びで終わりにしてしまうなんてもったいないわ。もっと深くまで理解し合いましょう、ね?」
霊夢と同じ――しかしこちらは殺意を放つ――捕食者の気配を浮かべた大妖怪の妨害に、絶賛迷子捜索中の霊烏路空は頭を抱えた。
鍵山雛からの合図は無い。まだ迷子を見つけてはいないのだろう。霊夢も未だこちらへたどり着いてはいない。
人工太陽が輝く今、そうそう凍死する事も無いだろうが、周囲の妖怪による危機が完全に去ったわけではない。
霊夢の信仰に応える為にも、迷子を見つけなくちゃいけないのに。霊烏路空は、忙しいのである。
「私は妖怪ですが。なのにあなたは私を襲うのかしら?」
「相手が人間だろうが妖怪だろうが関係ないわ。強ければ差別はしない主義なの」
「そういうのは鬼とやってください」
強敵と書いて戦友と読む鬼達だったらさぞ喜ぶだろう。
私なんかとやりあうよりはそっちのほうがよっぽどお互いの為になるわ、とお空は提案する。
だが、幽香はおどけた様に顔をしかめてその提案を棄却した。
「ふん、あんな現実に嫌気が差して地底に逃げ込んだ敗走主義者なんかに興味はないわ。こっちから願い下げよ」
「私も地底の住人ですが」
「貴女地獄鴉でしょう?地底生まれの地底育ちに罪はないわ」
ああ言えばこう言う。発言内容が本気かどうかは分からないが、どうやらお空の邪魔をすることは決定事項のようだ。
「…はあ、やるしかないのかしら」
「理解が早いのはいいことね」
幽香はクスリと笑う。柔らかな笑みのはずなのに、お空にはそれは狙いを定めた猛禽のようにしか見えない。
「一撃で、決着をつけてやる!」
お空はさらに上空へと舞い上がる。
幽香は追ってこない。それどころか地上に降りて桁外れの妖気を放ちながらお空を待ち構える。
その溢れんばかりの妖気のせいで、幽香の周辺の空気が陽炎のように揺らぎ始めた。
「そんなわけだから、後よろしく。…ごめん霊夢、練習、失敗みたい」
『試験会場に暴徒乱入は流石にノーカンよ。あんたは頑張ったわ。迷子は私たちで見つけるから、悪いけどそいつの足止めよろしく。…ごにょごにょ』
「…ふむふむほうほう、わかった、やってみる!―――さぁ、いっくぞおおおおおおお!!!!!」
黒翼を翻し、お空は幽香へ向かって加速する。落下するのではない。下へ下へと飛行する。それと同時にお空の全身が白光に包まれる。
高熱を放つプラズマが、飛翔するお空から離れることなく追従する。そのプラズマは密度を上げて、ついにはお空の姿を覆い隠す。
自らを巨大な白い炎で包み、幽香を融解するべくお空は巨星となって舞い降りる。その間も白い火球は膨張しつづけ、表面が赤みを帯びてゆく。
人工太陽には及ばないものの、大気圏内にあるべからざる超高熱。さあ、その圧倒的熱量の奔流で目の前の妖怪を葬り去れ!
「ウォウォウォー!レーッドジャイアントー!!!!!!」
だがその灼熱を纏って舞い降りるお空へと眩い閃光が走る。
マスタースパークにも似た、しかし桁違いの妖気を放つその閃光は巨星となって幽香を押し潰さんとするお空を打ち抜くべしと輝きを増す。
だがしかしお空の纏う高密度のプラズマがそれを許さない。砲弾となって飛ぶお空と、幽香の放つ砲撃は互いに喰らいあい、拮抗……しない!
「ウォウォウォーーーーーーーーー!!!」
「ふん、やるわね。そうでなくちゃ」
じりじりと、お空が閃光を押し返してゆく。そう、そうでなくては!久方ぶりの全力戦闘だ。あっさり勝てるようじゃ面白くない!
幽香は砲撃を停止する。自身をさえぎるものがなくなった巨星が速度を上げて幽香に迫りくる。灼熱のソラが、落ちて来る。
「ウォウォウォーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
だが、読みが甘い。幽香は笑う。すさまじい高熱だ。だが、あの程度の熱量では無傷とはいかないものの幽香を溶け落とせるはずもない。
花を操る妖怪ゆえか、強敵との戦いを糧に現状に留まることなく延々と成長と変化を続ける風見幽香は伊達ではないのだ!
圧倒的熱量に耐えつつ核熱の内側へ踏み込んで、懐に潜り込み土手っ腹を抉り抜く!風見幽香にはそれが出来るのだ。
お空が迫る。高熱を纏って。それを幽香は心待ちにする。
「さあ、来なさい!」
「ォォォォォォォォォオオオオオオーーーーーと同時に地獄極楽メルトダウン!」
「んなっ!」
だが幽香が日傘を構えた次の瞬間、幽香の足元の地面に火種が生まれ、その火種は瞬く間に幽香の周囲の地面を融解し、蒸発させる。
その高熱は一瞬で消滅したが、足場を奪われた幽香はよろめきバランスを崩してしまう。
飛んでいれば、何てことない攻撃であった。だが花を操る妖怪ゆえか、幽香は地に足つけた戦いを好んでいた。それを完全に逆手に取られてしまった。
そこに巨弾となったお空が舞い降りて圧倒的な火力と圧力で幽香を地面に縫い付ける!
「ウォウォウォーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「くっ、この!」
腹這いの状態で地面に押し付けられた幽香は身動きが取れない。幽香自身は焼け落ちないものの、周囲の地面はそうはいかない。
相手に背を向けたままずぶずぶと融解、蒸発していく地面の下へ下へと沈んでいく。
ただのお馬鹿さんだと思って油断した!思わず幽香は歯噛みするが、この状況からではなす術も無い。
相手は幽香の背中を狙い放題。完全に戦闘の主導権はお空の手の内にある。だというのに!!!
「あーー、合図だー!雛お姉様ー、今まいりまーーーーーす!」
不意に何かを目にしたお空はあっさりと攻撃をやめ、幽香のことなど忘れてしまったかのようにそのまま飛び去って行ってしまった。
後にはドロドロに融解したクレーターにうつ伏せになった幽香がただ一体、ポツネンと残されるばかりである。
陽炎が立ち昇る。お空の高熱のせいではない。高熱で揺らぐ空気をさらに捻じ曲げるほどの妖気を放ちながら、風見幽香は立ち上がる。
無視された。己が圧倒的有利な状況から、この私を無視した。鴉ごときに無視された。
「ふ、ふふ、ふふふふふふふ…」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
弾幕が打ち上がったあたりにお空は舞い降りる。
そこにはなるほど十歳前後の男女の兄妹と鍵山雛、そして博麗霊夢が待機していた。
「お疲れ様です、雛お姉様!あと霊夢、久しぶりね!」
「どういたしまして。多分貴方の太陽のおかげよ、お空さん」
「久しぶりって言うのも変ね。無事で何より、お空」
三者は顔を見合わせて笑うが、あたりにはすすり泣く声が響いている。
さっきから延々と兄妹の妹のほうが涙をこぼし続けているのである。
「どうしたの?」
「さっきまで低級妖怪に囲まれていたみたいでね。雛が追っ払ったんだけど、怯えちゃってて泣き止んでくれないのよ」
霊夢がため息をつく。
「あーごめん姉ちゃん達。こいつ泣き出すとなかなか泣き止まなくてさ…ほら、命の恩人なんだからさ、泣き止んで礼くらい言えよ!」
「ひっく、ひっく、うぅ、え゛え゛」
兄のほうはわりと余裕綽々で妹を小突くが、妹はまったく泣き止むそぶりを見せない。
三者、今度は困ったように顔をあわせる。
お空は生きた人間の子なんて初めてだ。
雛はそもそも帯びた厄のせいで人間に近づけない。
そして霊夢は絶望的なまでに子供の相手が下手だった。
「ほ、ほら、泣き止んで?」
霊夢が作り笑いを浮かべて近づく。
だが。
「うぇええええええええええん!」
「巫女のねーちゃん、それ、もしかして笑ってるつもりなのか…」
「ヤクイわね」
「般若だ、鬼がおられる…霊夢、もしかして笑えないの?」
「五月蝿い!私だって楽しけりゃ笑えるわよ!」
霊夢は赤面して地団太を踏む。
その通り。霊夢は愉しんでいるときは実に楽しそうに笑う。酒を飲んでいるとき。緑茶を飲んでいるとき。魔理沙らと弾幕ごっこを繰り広げているとき。
だがその一方で、感情に逆らって表情を作るのは絶望的に下手だった。
「良くも悪くも、嘘が下手なのね。本当に鬼みたいね、貴方」
「ほっとけ」
霊夢はそっぽを向く。だがしかし、どうしたものか。
泣く子にゃ勝てぬとはよく言ったものだ。
◆ ◆ ◆
「ふん、なんていう烏合の衆」
「五月蝿いわね、じゃああんた何とかできんの?」
呆れたような表情を浮かべて舞い降りた風見幽香に霊夢が食って掛かる。
だが、幽香はその霊夢を鼻で笑い飛ばし、お空に命令する。
「出来るわよ。そこのヌケサク鳥。雪を溶かして地面を露出させなさい」
「?」
「お空さん、言われた通りにしてあげて」
「はーい、ふぁいあ!」
お空が軽く力を解放すると、兄妹と霊夢達の間、1m四方程度の雪がボシュッと蒸発し、地面が露出する。
「さあ、お嬢さん。この地面をよく見ていなさい?」
幽香がやわらかく語りかける。
そして少女が泣きながらも地面に目を向けたその瞬間、幽香の傘が地面を小突く。それと同時に地面からぴょこりと緑の新芽が複数顔を出した。
「「おお?」」
少年とお空が驚きの声を上げる。
そんな二人を尻目に、それらの芽はするすると発育し、瞬く間に色鮮やかな花をつける。
「わあ…」
少女もまた溜息をもらす。
それらの花を幽香は千切り、どこから出したかリボンで束ねて花束へと変え、しゃがんで少女へと手渡す。
「はい、お嬢さん」
「あ、ありがとう!」
少女は幽香へと笑顔を向ける。
その少女に微笑み返して幽香は立ち上がり、ふわりとスカートを翻して霊夢達に振り向いて悪魔のような表情を浮かべる。言外に、このド低脳共がと嘲笑っていた。
憤懣やるかたなさげな霊夢と雛の表情を見て、幽香は僅かに溜飲を下げるが、真に嘲笑ってやりたかった相手は残念なことに尊敬の目で幽香を見つめている。
「凄い!」
「確かにすげー、姉ちゃん花の神様か?」
「いいえ、妖怪よ」
その返答に妹は身をこわばらせるが、兄のほうはどこか納得したような表情でうなずく。
「あ、やっぱり」
「何よそのやっぱりって」
「だって母ちゃん言ってたもん。人並みはずれた美人は大概妖怪だって。ここにいる全員…全員……」
少年はそこで言葉を切った。自分が言葉を間違えた事を理解したのだ。隣から紅白のオーラが上がっている。
「へえ、なら私は美人で妖怪なのかしら?それとも不細工なんで人間なのかしら?好きなほうを選びなさい…どっちを選んでもあんたに未来は無いけどね!」
「うわぁ!神様巫女様霊夢様お助けあれ!」
「はぁ、まあいいわ」
霊夢はため息をついた。疲れたからではない。人影が目に入ったからである。
どうやらナズーリンと白蓮を筆頭に、村の自警団が捜索に来たようだ。何はともあれ迷子問題は一安心である。
◆ ◆ ◆
兄妹が何度も礼を言いながら人間達のほうへと駆け去って行くのを見届けて、雛がほっとしたようにため息をつく。
「さて、一件落着かしら」
「ええ、そうね。………では、死ぃねぇええええええええええええ!!!!!」
「遅い。吹っ飛べ」
まるで二重人格か何かのようにいきなり幽香の表情が悪鬼羅刹のそれへと変わり、お空に迫る。
だがそれを予測していたかのように霊夢の傍に輝く光弾が生まれ、その光弾は狙い過たずにお空に傘の先端を突き立てんとしていた幽香を速射で吹き飛ばした。
「ほら、ボーっとしてないであんたたちも迎撃準備!こいつが善意で人間の子の面倒を見るわけ無いわ。あれはただ暴れるのに邪魔な人間を追っ払いたかっただけ、そうでしょう?幽香」
「ちぇっ、付合いが長いとあっさり手の内を読まれるわね」
悪ぶれもせずに幽香はニタリと笑う。
その幽香に緊張を維持しつつも、親しげに霊夢が話しかける。
「でも、ま、邪魔者がいなくなるまで待っててくれてありがと。あんたの相手は疲れるから嫌だけど、そういう律儀なところは嫌いじゃないわ」
一瞬、毒気を抜かれたかのように幽香は面食らう。だが次の瞬間には再び獰猛な笑みを浮かべていた。
「そう、ならばせいぜい私を楽しませて頂戴。私を無視してくれた罪は重いわよ!」
「見目麗しいのに残念な方ね。マイリトルシスターを狙った罪のほうが重くてよ?」
「あ、さっきの続き?三人がかりでいいの?なら負けないわ!」
雛もお空も遅れて迎撃体制をとる。
三対一。楽勝ムードを漂わせるお空に霊夢は釘を刺す。
「油断するな、お空。こいつは並の鬼以上の難物よ。私にとっちゃ鬼縛陣が通らない分だけ鬼よりたちが悪いわ。私が防御、あんたが攻撃、雛はあいつと付かず離れずを維持してあいつをヤク漬けになさい。いいわね?」
「「了解!」」
弾幕ごっこだろうが実戦だろうが、経験と一瞬の機微が勝敗を左右する。それを良く知っているお空と雛は敵と旧知と語る霊夢の指示を迷うことなく受け入れた。
「ああ、みんな良い顔ね。やはり素敵な夜になったわね。さあ、いらっしゃい!」
「よしお空、異変解決よ。今回の夜なのに昼な異変は冬だと言うのに無理矢理花を咲かせようとしたお馬鹿な妖怪が偽者の太陽を作ったことが原因。それを巫女の命を受けた太陽の子たるあんたが退治した。それが公式設定。いいわね?ブン屋に聞かれたらそう応えなさい。覚えた?」
「アイアイマム!」
「こらちょっと、なによそれ!私何も悪いことしてないじゃない!」
あーあー、きこえなーい。
「さあお空、出撃。パートナー妖怪は雛。サポート人間は私。いきなり目の前にラスボスよ。抜かるな!」
「チーム名はどうしようかしら?」
割とノリノリで雛が訊ねる。
「うーん、じゃ、迷惑の禍神チームで」
「おお、なんかかっこいい!」
「…まあお空さんが気に入ったのならそれでいいわ。頑張りましょう!」
「あんたら徹底して私を悪人に仕立て上げるつもりね。ええもう何でもいいから始めましょうよ?ね?」
上手くいった。相手は化物、こいつの空気で戦わせるものか、と霊夢は内心で息を吐く。
そして若干引き気味の幽香を叩き落すべく、霊夢達三者は初っ端からのラストステージへと身を投じた。パワーアップ?エクステンド?知ったことか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「勝ったーーーーーーーーー!!」
「はあ、残念。負けちゃったわね」
「疲れた。とんでもなく疲れたわ」
「だからこいつの相手は嫌なのよ」
みんな、大の字になってからっからに乾いた地面に横たわる。異様なタフさを誇る幽香を三人がかりでうぃんうぃんと全てを吸い込む人工太陽に落とし込んで、辛くも勝利である。
幽香という不純物を吸い込んだ人工太陽は予定より早く消滅し、幻想郷は再度夜の帳に包まれた。多分時刻は夜の九時ごろだろう。
冬の星空が荒い息を吐く彼女達をやさしく包んでいる。一昨日雪を降らせた雲は影も形も無い。快晴の星空だ。
お空は疲労で維持しきれなくなった八咫烏の力を解除して、さっきまで死闘を繰り広げていた相手に問いかける。
戦闘中も、ずっと聞いてみたかったのだ。
「お幽」
「何かしら頭空っぽのお空さん」
そのあからさまな挑発を無視してお空は質問する。
「なぜあの女の子は笑ったのでしょう?」
「あんたとんでもないお馬鹿ね。真に美しく咲き誇る花を前にして悲しみを維持できる奴なんていないわ」
「あらゆる人間はですか?」
「あんた桁外れのお馬鹿ね。あらゆる存在が、よ」
「妖怪もですか?」
「当然」
「私もですか」
「当たり前ね」
「貴方もですか」
「愚問よ」
「そうですか…」
お空は考え込む。確かに、幽香が咲かせたあの花は美しかった。
芽が出た瞬間からお空は驚き、そして花から目が離せなかった。
「お幽」
「何かしら底無しのお馬鹿さん」
「私にも花は育てられますか?」
「…栄養と水と太陽を忘れなければ、誰だって出来るわよ」
「そうですか」
そうなのか、ならばそうしよう。それを、やってみたい。お空は熱っぽい吐息を漏らす。
地底には花は咲いていない。日光が無いからだ。それを誰も気にしない。
だが、ひとたび花が咲いたのならば、地底のみんなはどう反応するだろうか?
幽香の言が正しいのなら、花は笑顔を生み、そして笑顔は幸せを生むはずだ。
…私にも、地底に幸せをもたらす手段があるのだ。お空は嬉しくなる。
目標が出来た。それだけで途端にお空の世界は輝き始める。生まれ変わったように魂の奥で何かが吼えている。
地上焼却よりも小さな夢のはずなのに、その夢がもたらす期待感は比べものにならない。
既にお空の心の中はお花畑だ。いちめんの花畑、見渡す限りの花畑だ。その中で幽香が佇んでいる。
あれ、何でお幽がいるの?「私は花のあるところなら何処にだって現れるわ」へーそーなのか。
とにかくお花畑だ。すごいすごい、お花パワーだ。お花パワーで地底を蹂躙しつくすのだ!
四肢を大地に投げ出したまま、お空は大空へ向かって叫ぶ。
「うおーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「「やかましい!」」
同じく寝っ転がったままの霊夢と幽香にぶん殴られる。その一撃でお空は我に帰った。いかんいかん暴走しすぎた。まずは一輪、一輪からだ。雲居ではない。
最初に花を咲かせられたら、その一輪はお燐にあげよう。さっきの、お幽みたいにかっこよく。
ドレスが似合うお燐には、花もきっと似合うはずだ。喜んでくれたら、嬉しいな。
お空は今度は叫び声を上げることなく、夢を擁いて静かに微笑んだ。
「さて、次は何処に行こうかしらね?」
「もういいの。やるべきことは見つかったから。ありがとう霊夢」
「…そ。それは何よりだわ」
「聞かないの?」
「あとで結果だけ見せてもらう。八咫烏の化身じゃない、霊烏路空という神様になれたらこの信者一号に報告に来なさい。楽しみにしてるわ」
巫女は偉そうに神に言い放ち、んーっ、と軽く伸びをして起き上がる。残る三者もそれに続いた。
「さ、帰りましょうか、鍋の準備したままだったわ。雛と幽香も来なさい。四人ならちょうどいいわ」
「うーん、まあせっかくだしいただこうかしら。どこをどう見ても厄に潰されなさそうな面子だし」
「そうね、負けた悔しさは肉にぶつけましょうか。でも霊夢、この面子だと貴方少し悲しくならない?主に胸の辺りが」
「ちきしょう!まだ育つわよ!」
霊夢が泣いている。こんなときこそ花を咲かせてなぐさめるべきなんじゃないの?しかしお幽は動かない。なんでだろ?
でも、うん、多分深い意味があるんだろう。お空はそう納得する。
それにまずは鍋だ。冬は鍋に限る。おこたで鍋、ブラヴォー鍋。鍋万歳!
「ね、霊夢!何鍋?」
「鳥団子鍋」
「おのれ!」
「冗談、牡丹鍋よ。昨日良い猪を仕留めたのよ」
雛が呆れたような視線を霊夢に向ける。
「貴方は本当に巫女なの?」
「なによ、言っとくけど捌いたのは里の肉屋よ。私もそこまで豪胆じゃないわ。それに…」
それに何だ。100歩譲って倒すのはいい。霊夢なら霊撃ズドンで終わりだ。
だが猪担いで肉屋に持ち込んでる時点で巫女、いや少女として異常なのよ!と雛は呆れる。
「私より優れた巫女がどこにいるのよ?」
「「「………」」」
妖怪たちは三者三様、顔を見合わせて沈黙し、そして笑いをかみ殺す。奢って貰う身であるのだから、霊夢を不機嫌にさせるのも不味かろう。
今日が神様お空の誕生日。人と、妖と、人のための妖神と、妖のための妖神で、花咲く鍋を囲んで祝福だ。
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「聞いたかい?地霊殿の連中が針の山地獄跡の権益を買い取ったらしいよ」
「へー、あんな棘しかない所を手に入れてどうするんだろうね?」
「さあ?お役所さんのすることはよく分からないよ」
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種を蒔く。
芽は出ない。
お幽が私を殺しに来た。
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土壌を改良して種を蒔く。
芽が出た。
芽は大きく育つことはなく、ヘタって枯れて地面に消えた。
お幽が私を殺しに来た。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
種を蒔く。
水もやる。
芽が出た。
芽はまあまあ育ったけれど、根っこが腐って倒れて枯れた。
お幽が私を殺しに来た。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
種を蒔く。
水も適度にやる。
芽が出た。
芽は大きく育ち、蕾をつけたけど、中を覗いたら花を咲かせずにそのまま散った。
お幽が私を殺しに来た。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
種を蒔く。
水も適度にやる。
芽が出た。
芽は大きくなって、蕾をつけて、花が開いた。
花を摘み取って、お燐の髪に飾る。花と笑顔を咲かせたお燐は、とってもとっても可愛かった。
お幽が私を殺しに来たけど、何もしないで帰っていった。
◆ ◆ ◆
今日も私は種を蒔く。
みんなを笑顔にする種を。
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えぴろーぐ!
およそ半世紀。人間には長く、妖怪には短い年月が経過した。
かつて少女であった霊夢は成長し、成熟し、そして年老いて引退した。
博麗の巫女は既に紫が拾い、霊夢の弟子となった少女が引き継いでいる。早苗の孫と二人、妖怪退治も様になってきた。
新たな巫女達の実力を測るため、第二次紅霧異変を起こしたレミリアにも何とか勝利して若い世代が絶賛売出し中である。
霊夢はと言えば、そんな二人を眺めつつこれまでに知り合った連中のところを訪ねてはお茶をせびるだけの毎日であった。
年甲斐も無く無茶な妖怪退治なんかやっちゃって以降、日常生活に支障は無いとはいえ思うように体が動かないのだ。
咲夜や早苗らと三人、博麗老人倶楽部などと揶揄されるようになってから既に久しい。一人現役な咲夜は若干御不満の御様子だが。
今は如月。暦の上では春真っ只中である。だがあたりは雪景色。地底だと言うのに雪景色。
そんな旧地獄街道を幻想郷が誇る、年老いてなお人外認定が解除されない人間組が往く。
「久方ぶりの地底ね。前に潜ったのは20年以上前だわ」
「なんだ、お前は久しぶりなのか?私はまめに来てたぜ?洞窟探索は気分転換にちょうどいいからな」
「私も地底は久しぶり。ふむ、軒先にプランターやら鉢植えがあるわね。さっきまでの薔薇もそうだけど、冬なのにどこで咲かせてるのかしら?」
「それも気になりますがまずは雪です、なぜ雪が降っているのでしょうか?何度見ても納得できません。と言うか許せません」
「そんな常識に囚われていては負けですよ?冬なんだから雪は降る。そんなもんですよ」
黒髪よりも白髪が増えた髪を後ろで一つに束ね、ちゃんと袖のついた白衣と緋袴に身を包んだ引退巫女、博麗霊夢は懐かしむように呟いた。
若返りの秘術を使い、初めて地底に潜ったときと変わらぬ姿の霧雨魔理沙は相槌を打つ。
60をとうに越したはずなのに30代前半程度にしか見えないお局様メイド、十六夜咲夜は物珍しそうな表情を隠しもせず、追随する。
浅葱色の装束に身を包んだ剣客、若返りもせず若さを維持し続けている魂魄妖夢は理解できないとばかりに首を振る。
何故?と思った瞬間が負けなのです、とあらゆる常識を投げ捨てた奇跡の引退風祝、東風谷早苗は悟ったかのように語る。
◆ ◆ ◆
かつて霊夢が語った言葉を、お空は忘れてはいなかった。霊夢が齢60を超えてようやく、お空から連絡が来たのである。結果を見せるから、旧地獄で宴会をやろうと。
未だ地上と地下の妖怪達の交流はそこまで盛んではない。そのため地下に向かうのは人間だけだが、偶には人間だけでの宴会も良かろう、と魔理沙が言うので人間連中みんなに声をかけたのだ。
先に若い連中は宴会の準備の為に目的地に向かっている。霊夢達老人組は後発だ。
ちなみに魔理沙と妖夢は老人の護衛と言う名目の準備サボタージュである。
さっきから彼女らの周囲には「ママー、あの人たち誰?」「しっ、指差しちゃいけません、退治されるわよ!」等といった会話が飛び交っている。
しかしそんな会話など何処吹く風、日常茶飯事である為五人は誰も気に留めない。
「で、地霊殿まで行けばいいんだったっけ?」
「ああ、そこからはさとりが案内してくれることになっている」
「何処へ案内してくれるのかしら?楽しみだわ」
「咲夜さん、一応ここは旧地獄ですよ?摩訶鉢特摩地獄とか赤光潰斬波雷精地獄に連れて行かれるかも」
「甘いです妖夢さん。あくまで旧です、どのように進化していてもおかしくありませんて!いちめんのなのはなとか!」
このゴレンジャーの行く先に恐怖も緊張もありはしない。五人が揃えば、今も昔もそれは変わらない。これからも、それは変わらない。
だが、そんな連中にも驚きはある。
「うわ、地霊殿が薔薇に沈んでるわ」
「さっきまでもそうだったが、改めてローズ地獄だな」
「あら面白そう。紅魔館も美鈴にああさせようかしら」
「でもあれじゃあ窓も開きませんよね」
「実用性などメルヘンの前では塵にも等しい。素晴らしいところですね地霊殿!皆さんだって、一回くらいこういう館に住んでみたいと思ったことあったでしょう?」
霊夢と魔理沙は、妖夢と咲夜は顔を見合わせる。
「一度もなかったわね」
「そういう夢が似合う人間になろうと努力したことはあった」
「まあ、一度は夢見たわね」
「私も…薔薇ではないですが」
「わ、若い頃から枯れてたんですね霊夢さん」
なんだかんだで来る途中もローズ地獄だった。
黒谷ヤマメの巣はオレンジの薔薇で装飾されていた。わりと見事なオブジェになっていたので、五人が褒め称えるとヤマメは「獲物がかからなくなったのが唯一の問題ね」と笑った。そりゃそうだ。
水橋パルスィは髪と洞窟の壁に黄色の薔薇を飾っていた。あまりに似合っていたので五人で「妬ましいわね」と責め続けたら顔を真っ赤にして襲ってきた。当然返り討ちにした。
星熊勇儀の周囲には白い薔薇が咲いていた。「似合わねー!」って転げまわったら本気の大江山嵐が飛んできた。鬼をからかうもんじゃない。
そして行き着く先がこの地霊殿だ。
近くまで来るとまさに圧巻。地霊殿が赤と青の薔薇に埋め尽くされている。と言うより薔薇の中にかろうじて地霊殿の入り口がある。
その入り口の前で普段は地霊殿の最奥に咲いている棘付きの薔薇、古明地姉妹が一同を出迎えるために待ちぼうけていた。
「おそいわ!」
「いらっしゃい皆さん、地霊殿へようこそ。…ふむ、なかなかに驚かれたようですね。でもまだまだこれからです。それでは宴会会場へご案内しますね」
「先に入って行った若い連中は?」
「先に酒盛りを始めてるわよ。私たち早く行きましょ!」
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「どうかしら!」
「…へえ」
「凄いな、これは」
「雪中梅。なんとも趣があるわね」
「冥界の桜とはまた違った美しさですね。華やかさよりも、こう、密やかさと力強さを感じるような」
「…本当に、ここは既に地獄ではないのですね…なんて素晴らしい」
こいしに先導されて辿り着いた宴会場。そこはかつて針の山地獄と呼ばれた場所であった。
いまだ焔を抱く灼熱地獄跡と異なり、かつて存在した針という針は全て姿を消して、その地獄としての光景は見る影も無くなっている。
針の代わりに今、針の山地獄跡を埋め尽くすように覆っているのは美しい花を満開にした梅の木林。その光景に続いて、淡く優しい梅の微香が鼻をくすぐる。
先ほどまでの華やかなローズ地獄とは180°趣を変え、しめやかな美を放つプラム地獄に、五人は一瞬で心を奪われる。
「ふふ、気に入っていただけたようですね。私も鼻が高いです。…さあ、こちらへどうぞ」
さとりが五人の心を見回して嬉しそうに語る。
さとりとこいしに言われるがままついて行った先には、「博麗老人倶楽部ご一行様」と書かれた立て札が立っていた。
どうやら一等地の様で、頭上には覆いかぶさるほどの花をつけた枝が屋根のように広がっている。
そしてその下では、準備のために先に地底に潜った連中が既に出来上がっていた。
「お、霊夢達、来たわね!遅かったじゃない」
「悪いわね、先に始めちゃったわよ」
「おや、強い人間せい揃いだね。本能が疼くよ!お邪魔させてもらってるけど硬いこと言わないでおくれ!」
「まあせっかくなんで私も参席させてもらっているよ」
「梅の花がここまで咲き誇っているのを見るのは初めてです。素晴らしいですね」
「ええ、われらの時代には梅は自生の物がごく少数でしたな」
「ほら、火を用意するから早く座って。ちょっと寒いでしょ?」
「さ、お師匠様も皆さんもこちらへ」
天子と永琳にお燐に慧音。神子に布都に妹紅、そして霊夢の弟子たる次の博麗の巫女が霊夢達を出迎える。
気にしてないわ、と霊夢は永琳に語りかけて霊夢は弟子の隣に腰掛けた。
魔理沙達もめいめいに腰を下ろすと、周囲に妹紅が火種を浮かべる。
趣があるとはいえ雪景色。人間にゃ、しかも老婆にゃ寒いものは寒い。霊夢と咲夜、早苗はほっと一息つく。
「しっかし、大盛況じゃないか」
魔理沙が感心したように語る。辺りを見回すと、酒宴を開いているのは霊夢達だけではなかった。あちらこちらで旧地獄街道の鬼達や、地底の住人達がめいめいに杯を手に花見を楽しんでいる。
その誰もが笑みを浮かべており、つまらなそうな顔をしたものなど一人もいない。まあ飲みすぎて苦しそうな顔をした馬鹿はちらほらいるが。
早苗がきょろきょろと周囲を見回して訊ねる。
「あれ?うちの愚孫と輝夜さんはどうしたんですか?」
「あそこ」
妹紅が指差した先で、東風谷の三代目と輝夜が弾幕ごっこを繰り広げていた。
「あいつら揃いも揃って…」
弾幕ごっこより先に花見を楽しんだらどうか、そう言おうとして霊夢は口を噤む。
若い頃は霊夢達もそうだった。じっとしてなどいられないのだ。多分それが若さなのだろう。そう霊夢は思う。
それに、花咲く夜空を背景に繰り広げられる弾幕ごっこは、おもわず息をのむほどに美しい。
その光景に見とれていた霊夢の頭上に影が差した。上から誰かが舞い降りてきたのだ。…誰か?言うまでも無い。
「あ、霊夢だ、霊夢達がいるよ。白髪だけど霊夢よね?こんにちわ、久しぶりね!」
「こんばんは、久しぶり、お空。一応半年振りだけどね。空飛んで何してたの?」
「ええと、パトロールって言うの?枝を折る奴がいたら火達磨にしろってお幽が言ってたから!」
「…言っとくが実践すんなよ」
ん?とお空は首をかしげる。変わらないな、と霊夢は苦笑をもらした。
「まあ、それはさておきすごいじゃないお空、たいしたものね。ここまでやるとは思わなかったわ」
「ふふーん、まあ当然!あ、さっき巫女に聞いたけど霊夢達も神社で花、育ててるんだって?何育ててるの?」
霊夢と新たな巫女は顔を見合わせて、微笑む。
「色々考えたけど、牡丹にしたわ。花をつけるのは当分先ね」
「そう!ふふ、私よりも綺麗な花を咲かせられるかしら?」
「競うつもりは無いわよ。合祀してあげるから、あんたのご利益を頂戴。うちにも美しい花が咲くように」
はっとして、お空は霊夢の顔を見る。
「!勿論!霊夢は私の信者第一号ですものね!任せて!」
「あーやっぱ霊夢が第一号だったんだ。あたいが第二号だからもしやと思ったてたけど、やっぱり」
「私は第三号です。まあ、私はお空の心を読んだので知ってましたが」
「え、私第四号?不吉すぎるわ」
お燐がちょっと悔しげに笑う。
さとりはにこやかに笑う。
こいしは言葉とは裏腹に笑う。
何だこいつら笑ってばっかだな、と霊夢は呆れる。だがまあ、これがこのバカガラスのご利益なのかもしれない。
だって呆れながらも霊夢も笑っているし。
だが肝心のお空はちょっとさびしそうだ。それに気付いた霊夢は声をかける。
「どうしたのよ?」
「うん、お幽は毎年様子を見に来てくれるからいいんだけど。…雛お姉様にも私の成果を見て欲しいなって」
「まあ、あいつは厄集めって言う神としての仕事があるからあんまり山を留守に出来ないしね。来たくないから来ないんじゃないわよ」
「分かってるわ。でも、やっぱり見て欲しい。…ねえ霊夢、もし雛お姉様がこの山を見たら、凄いわねって言ってくれるかしら?」
だがそんなお空のシリアスな空気をぶち壊すかのように、突如ハイテンションな声が地底に響き渡る。
『勿論ですとも!素晴らしいわマイリトルシスター!喝采せずにおられるものか。はい拍手ーーー!!パチパチパチ!!』
侵食異世界鍵山ワールドに冒された雛の声が地底に木霊する。
驚くお空に霊夢は老いた顔をニヤリと歪めてお空に懐から取り出した陰陽玉を手渡した。声はそこから聞こえてきているようだ。
「本当に雛お姉様ですか?こんにちわ!お久しぶりです!」
『こんばんは、お空さん。それとそんな残念そうな顔をしないで。この神様Eyeには一面の梅花の海と、あなたの顔がちゃんと見えているわ!…ああ、驚いた顔もまた素敵ね!』
「どうして?この玉は声だけしか繋がらないはずでは?」
「『フフフ』」
霊夢と雛が声をそろえて笑う。その含んだような笑みにお空は頬を膨らませる。
「忘れたのお空?私は神様をこの身に降ろすことが出来るのよ」
「あ!」
『ふふ、そういう事。だから霊夢の見ている景色、霊夢が聞いている音、霊夢がかいだ香りは全て私にも届いているの。ただ霊夢の声帯を使ってしゃべると霊夢が怒るから声だけはこちらで、ね?』
「なるほど!」
『では改めて、凄いわお空さん。地底にこれだけの花を咲かせるのには苦労したのでしょう?でも、その苦労は報われているはず。あなたの周りに咲く笑顔がそれを物語っているわ。貴女は、とても素敵な神様になったのね』
「ありがとう雛お姉様!でも雛お姉様もとても素敵ですわ!」
『はうっ!…さすがお空さん。今のはテンプルに来たわ。っく、これ以上満開の花を背景に笑うお空さんを見ていると意識が飛んでしまいそうね』
なんとなく拍手と喝采の声援が聞こえるような気がする。今頃妖怪の山は鍵山ワールドに侵食されているに違いない。
っていうか陰陽玉から万歳した人型弾幕が飛び出しては、空へと舞い上がり花火となって消えていく。地味にすげえ。
『ふふ、でもこれだけは真面目に聞いておかないとね』
「なにかしら?雛お姉様」
霊夢が、雛の表情でお空を見る。
陰陽玉からではなく、霊夢の口が問いかける。
「『お空さん、あなた、神になって、幸せ?』」
お燐を見る。あたいはお空と一緒に花を育てるのは楽しいよ、と彼女は笑う。
さとりを見る。地霊殿にもぽつぽつと客がやってくるようになりました、と彼女は笑う。
こいしを見る。家に帰ってくるとき、次に何が咲いてるか想像する楽しみができたわ、と彼女は笑う。
「ええ、雛お姉様。霊夢。私はとっても幸せですわ」
お空は霊夢に、そして霊夢の向こう側にいる雛に、これ以上は無いという顔で笑いかけた。
『ブラヴォー!美しきかな!!無垢なる雛鳥、太陽の子は翼を広げて大空へと羽ばたいていった!喝采せよ!』
パチパチパチと霊夢が手を叩く。イタいけど少しこの鍵山ワールドに付き合ってやるとするか。
「『喝采せよ!!』」
なんだか楽しくなってきたこいしも唱和して手を叩く。
「「『喝采せよ!!!』」」
ちょっと離れて会話していた為、内容をまったく理解していない魔理沙も面白そうだから唱和して手を叩く。
「「「『喝采せよ!!!!』」」」
鍵山ワールドが順調に地底を侵食していく。誰もがノリで唱和して手を叩く。
人も。
仙人も。
天人も。
月人も。
妖怪も。
鬼も。
声をそろえて手を打ち鳴らす。
《喝采せよ!》
『喝采せよ!地底の太陽に栄光あれ!』
《栄光あれ!》
ふはは、侵食完了だ。梅林が拍手で埋め尽くされる。大半は何に喝采しているのかまったく理解していない。お空だって理解してない。
だが、心を病んだものに喝采はできない。喝采できること、それ自体が幸せの証明だ。
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ぴちゅーん!あ、被弾した。
喝采しながら輝夜の弾幕を避けていた早苗の孫が、同じく喝采せよーと叫びなら輝夜の放つ光壁の如き弾幕を避け損ねたようだ。
喝采を続ける輝夜を尻目に、とぼとぼと東風谷の三代目が戻ってきて、頭を抱えて崩れ落ちた。
「風符、敗れたり!地上の風など月まで届かぬ!ってね。喝采せよ!」
「喝采、出来るかぁー!うおお負けたー!鬼すら退治した、この私が、この私がぁああ嗚呼!」
「いやいや、一枚天井相手によくねばったよ、三代目、東風谷…早月だったっけ?…輝夜あんた大人気ないわね、ちったー手加減したらどうなのよ」
「あらもこたん、手加減なんて一人前以下にする物よ?真面目に相手しなきゃ失礼じゃない。そんなことも分からないのかなー?」
「よし燃え尽きろ」
後ろで相変わらずいちゃついている妹紅達に呆れた表情を浮かべたまま、布都と魔理沙が立ち上がる。
ああ、こいつらもまだ若いんだな。霊夢は咲夜と顔を見合わせて、笑う。
「よし、じゃあ次だ、誰がやる?誰もいなきゃわたしと布都がやるぜ?」
「はいはい私!パトロールは飽きちゃったわ。派手に一発暴れましょうか!」
「では私が。東風谷さんのリベンジです!」
「むう、では道教の力を地底に披露するのはこの次であるな」
「よし、次は地獄の神様と博麗の巫女だ!!お前ら、どっちに賭ける!?」
魔理沙が喝采の空気を利用して周囲の妖怪たちも巻き込んだ馬鹿騒ぎに変える。こいつはこういう事やらせるとほんと上手い。
巫女だ!バカガラス!バカガラスじゃなくって八咫烏!巫女に月世界無濾過を賭けるぜ!うおお、レアだ!じゃあ私は神様に!
周囲に叫び声が響き渡る。その声に押されるかのようにお空は宙へと浮かび上がる。
「よし、雛。お空のサポートしてやりなさい」
『あら、良いのかしら?』
「当然。…言っとくけど、うちの遅咲きの麒麟児、次の巫女は強いわよ?」
『成る程。では迷惑の禍神チーム、半世紀ぶりの復活ね。お空さん、頑張りましょ!』
「ええ!雛お姉様!でもそのチーム名は酷くないですか?」
『…それは半世紀前に気付いて欲しかったわ』
うなだれたような声を放つ陰陽玉を引き連れてお空は天井近くまで上昇していく。
遅れて立ち上がった己の弟子たる巫女を霊夢は呼び止めた。
「麟」
「「はい?」」
博麗の巫女と、火焔猫燐が霊夢のほうを向く。
「ああお燐、あんたじゃない。…で、どっちで行く?霊符?花符?」
「えっと、せっかくなので、花符で」
「ふん、空気を読んだわね。あいつは一発一発がでかいけどびびるな。花符だとちょっと不利だけどかいくぐれば勝機はある。勝ってきなさい。いや、それよりも、楽しんできなさい」
「はい!」
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「真空空間の確保完了。ヘルズトカマク構築、出力23%で安定。高温プラズマ封入済」
ふふ、命知らずね。
遅れて浮かび上がってきた博麗の巫女を見下ろし、お空はほくそ笑む。
「中性粒子ビーム照射及びECH開始。内部温度上昇中、現在の規格化ベータ値7.3」
この地底に広がる花を美しいと思った時点で、だれもが既にお空の信者である。
だってほら、みんなが笑顔だ。それはお空への信仰へと変化し、お空の力として還元される。
目の前の巫女とて例外ではない。相手に協力しながら戦う時点で、もう敗北確定。お空の勝ち!
加えて今日は、雛お姉様のサポートまである。これでどうやって負けるというのか。
「ブレークイーブン、臨界プラズマ条件突破。ブランケット負荷、全て規格内。トリチウム、順調に生成中」
今のお空は完全無敵。信仰パワーを一身に集め、さらなる花を咲かせる地底の太陽神だ。
信仰あふれるこの場所で、お空が落とされることなどあるはずもない。
「エネルギー増倍率なおも上昇中、自己点火条件突破まで推定5秒」
これが妖のための神たるお空の力。この笑顔をもたらす力でいつか地底への偏見もしがらみも消し去って。地底と地上の交流を盛んにして。
今度は雛お姉様も、お幽も、こまっちゃんも、閻魔様も、寅さんも、同士も、霊夢も一緒に。
数多の花に囲まれて、みんなで一緒にフュージョンしましょ!
「自己点火条件突破、人工太陽として再構築」
さあ、地底に花を咲かせましょう。花咲く土地ではないけれど。
地獄に花を咲かせましょう。華の旧都を彩りましょう。
みんなに笑顔を咲かせましょう。嫌われ者にも祝福を。
私の力で咲かせましょう。地底に昇るはお空の太陽!
「人工太陽形成、サブタレイニアン・サン!!」
「「「「「「「「馬鹿お空!せっかくの満開の花が吸い込まれちまうだろうが!!!!!」」」」」」」」
おしまい!
素晴らしいの一言です
あなたの書く東方キャラクターたちは、実によく生きている。
また、次回も楽しみにしています。
喝采せよ!!
全編通して大好きなお話でした。
キャラがそれぞれしっかりしていて魅力的。(お空おくうおくうoku^jふぁづfhぐあh!!)
加えて、数十年後の話がついてるのに死にネタではなく楽しげに終わる。
そして最後の麟ちゃんでニヤリ。素晴らしいといか言いようがない。
こんな素敵なご利益をもらってしまったからには、信仰を捧げざるを得ません。
博麗の遅咲きの麒麟児「麟」に東風谷三世「早月」。
やっぱり名前は紅魔郷没キャラの「冴月麟」からですかね?
博麗老人倶楽部も絡めたこの二人メインの話もみてみたいです。
とりあえず、思い浮かんだのはこの言葉でした。
皆、個性が溢れ出ている上に、わりとすらすらと話が進んでいて楽しかったです。
お姉様な雛が最高でした。
螺子のはずれ具合とか。
あとあと、健気なお空も読んでいて応援してしまってました。
そういや、確かに「土壌を改良」って書いてあったなぁ……<おまけ
すり合わせというかバランス取りは本当に難しいですね。
接点の無さそうなキャラの絡ませ方がうまいなあ。
素晴らしい
上の方に書かれていますが、どのキャラも本当に活き活きしていて素晴らしかったです
花を枯らす度に地底に来る幽香がツボりました
かっこよかった、かわいかった、もう面白かったです。あと雛があんな性格とは新鮮でよかったなぁ。
真摯に自身のあり方を探し求めるお空の姿が良かった。
細かなところの「その後」が気になりつつ、これが良い。
お空かわいい。霊夢かわいい。みんな名指ししたくなる魅力がございました。
パーフェクトに面白かったです!
枯れ木、もとい地底に花を咲かせましょー
雛は…うん、そのままの君でいてください
ただその一言
キャラの役目がはっきりしてていいね。これは喝采!
あと雛様自重
こうやってスッキリ終わるのは、やっぱり気持ちいいね。
喝采した!!
あと雛様いいぞ、もっとやれ。いや、やって下さいww
とても素敵な作品を有難う!
壮絶に微笑みながらドツいてくるお幽さんマジお幽。
他にも、霊夢特有の『らしさ』が感じられて良かったです。
お空の神様キャリアは着実に積み上がっていってるなぁ。
きちんとした知識に裏打ちされていて、とても良かったです。
ささやかながら、私もお空に信仰を。
最高に一言、喝采せよ‼︎
作者様の仰るように大きな山はない物語ですが、それでも最後まで飽きずに読ませる力がありました
雛お姉さまかわいいなあ