「それでさ、物部なんちゃらって奴を軽くのして霊廟の中に入ったんだ」
紅魔館の地下室に霧雨魔理沙の楽しそうな声が響く。
先日参加した異変の顛末に自分の武勇伝を織り交ぜ熱く語っている。
「それでそれで?」
目を輝かして魔理沙の話を聞くのは紅魔館の主の妹、フランドール・スカーレット。
久々に自分の元を訪れた数少ない友人の話を熱心に聞いている。
「霊廟の中は神霊が密集しすぎて満開の星空の中に投げ込まれたような感じなんだ。いやぁ、あの光景は綺麗だったな」
うんうんと相槌を打つフランに魔理沙は上機嫌で続ける。
「神霊やら妖精やらを蹴散らすとやっと出てきた今回の黒幕。えーっと、なんとかの神子って奴だ。確か」
「えー、名前覚えてないの?」
「いやだから神子だって」
「上の名前。何とかじゃわかんないじゃない」
「名前なんて良いじゃんか。とにかくその神子って奴がやたら強くてさ」
「いいないいな、私も闘ってみたいなぁ」
無邪気にはしゃぐフランは椅子から垂らした両足を前後に振る。
「私も霊夢も早苗も妖夢もみんなピチュっちゃってさ、かなり焦ったぜ」
初めて聞く単語に戸惑うフラン。
「え、ピチュ?」
「そうそう、全員見事にピチュったぜー。おっと、ここからが良い所だから聞けって」
フランを遮り話を続ける魔理沙。
「前回の異変の時に早苗に手柄を取られたのを根に持ってたらしくてさ、ピチュった霊夢が急にキレて大変だったんだ。もう辺り構わず夢想封印連発だぜ」
楽しそうな笑顔で話を進める魔理沙。
「本人は否定してるけど、一発目の夢想封印は絶対に早苗を狙ってたと思うんだよなぁ」
「あはは、相変わらず霊夢を怒らせると怖いね。それでその神子って人はどうなったの?」
「キレた霊夢にボコボコにされちまった。珍しいタイプの弾幕使うからもっと戦いたかったんだけどなぁ」
一通り話し終えると魔理沙は用意されたティーカップを手を伸ばす。
フランは聞きそびれた未知の単語の意味を尋ねようと口を開く。
「ねぇ魔理沙、さっき言ってたピチュって――」
フランが首を傾げながら未知の単語を質問したのと同時に二人の間に大量の魔方陣が現れる。
とっさにその場から離れる二人。
魔方陣は火の玉を飛ばし、高圧の水柱を吹き出し、無数のナイフを召喚し、木の葉をまき散らし、土の弾を打ち出す。
魔方陣が現れた後、地下室にパチュリーが怒声と共に現れる。
「魔理沙っ!今日という今日は許さないわ!」
「ちっ、賢者の石か…パチュリーの奴本気で怒ってやがるな」
「悪いなフラン、後日談はまた今度だ」
そう言うと魔理沙は箒に飛び乗り魔方陣から放たれる色鮮やかな弾幕を避けて上昇する。
「逃がさないわ!」
魔方陣を魔理沙の進行方向に移動させるパチュリー。
「すまん、パチュリー。この本、借りてくぜ」
「待ちなさい。それはまだ読み途中なのよ!」
パチュリーの言葉が聞こえていないのか、無視しているのか、懐から取り出した八卦炉を天井に向け、魔力を集める魔理沙。
八卦炉は魔力を圧縮し、眩い光を放ち始める。
「脱出用マスタースパークッ!」
八卦炉から放たれた魔力は巨大な光はパチュリーの放った弾幕を飲み込み天井を貫く。
魔力を光に変換する際に生じる八卦炉の独特な音と天井の一部が崩れる音が土煙と共に地下室に広がる。
光が収まると天井に大きな穴が空いていた。
もちろんそこに魔理沙の姿はなかった。
「あはは、魔理沙の行動は読めないな」
「ゴホッ、ゴホッ、なんて事するのよ…」
楽しそうに笑うフランと土煙を吸い込み咽ているパチュリーの姿があった。
魔理沙が地下室に穴を開けてから二日が過ぎようとしていた。
紅魔館の妖精メイド達が総出で修復作業を行っている。
黙々と働く妖精メイド達を眺めながらフランは難しい顔をしていた。
魔理沙から聞いた単語の意味が未だに解らないでいたのだ。
「うーん。ピチュる。動詞よね…きっと」
「お姉さまなら知ってるかなぁ」
フランは地下室の椅子から飛び降りるとパタパタと羽根をばたつかせながら走り出した。
「おねーさまー、入るよー」
大きな声を出しながらレミリアの寝室へと侵入する。
巨大なベッドで寝ている姉の姿を見つけるとフランはベッドへ潜り込む。
「ねぇねぇ、お姉さま、起きてよ」
「うぅぅフラン、何か用?まだ外が明るくなってそんなに経ってないわよ」
睡眠を邪魔され、少し機嫌の悪いレミリアは目を擦りながら体に抱き着いている妹を剥がす。
「お姉さま、ピチュるって何?」
「相手の弾幕に当たる事よ」
「お姉さまや魔理沙と弾幕ごっこしてる時にそんな言葉聞いたことないよ?」
「厳密に言えば、主に異変解決に参加した者が相手の弾幕に当たった時に使う言葉だからよ」
「異変解決ってのは只の弾幕ごっこじゃないのよ。精神統一をして、意識を集中させ、体の中心に意識の『点』を集めるの。そうすることによって自分の体を数ミリ単位で動かし、弾幕の隙間を抜けたりする事が出来るようになるのよ」
「うん。それで?」
「そしてその『点』に被弾すると音を立てて集中力が一気に壊れるの」
「その音がピチューんって何とも間抜けな音なのよ。その音を聞くと異変解決に参加した者は自暴自棄になったり、しょげたり、キレたりするのよ」
「ふーん、じゃあお姉さまもピチュったことあるんだ?」
「へっ?な、無いわよ」
声は裏返り、顔は引き攣るも平静を装い答えた。
「何年か前に月がおかしいって言って異変解決に行ったじゃない?」
「そうだったかしら?」
「…すっごい目が泳いでるよ。お姉さまピチュった事あるんだね?」
「無いわ」
「嘘」
「無いわよ」
「嘘」
巨大なベッドの上で睨み合う姉妹。
今にも地上でもっとも危険な姉妹喧嘩が始まろうとしている。
本当はピチュったことあるくせに、素直に教えてくれたって良いじゃん!
一回痛い目に合わせてやるんだから!
そんな事を思いレミリアを睨むフラン。
その時フランは気付く。
レミリアのおへその辺りに赤く光る点が見える。
これが意識の『点』なのだろうか…
レミリアに気付かれないよう視線を逸らさないようにフランはその点をそっと自分の手の平に移動させると握り潰した。
「ぎゅっとして…」
気の抜けた音が寝室に響いた。
目の前のレミリアに変化が現れた。
「あーもう!ピチュったわよ。咲夜の忠告も聞かず調子に乗って、前に前にって行ってたら突然横から現れた妖精と激突してピチュったわよ」
「竹林で霊夢にいつぞやの借りを返すとか言ったくせにピチュっておめおめ帰ってきたわよ!」
「ピチュって何が悪いのよ!」
「…」
「…」
二人の間に訪れた沈黙は長かった。
「あ、あの、お姉さま何かごめんなさい」
フランはそう残しレミリアの寝室を逃げるように去って行った。
「なんだか今の感覚、久々に味わったわね…」
勢いよく飛び出していったフランの背中を眺めながらレミリアは呟いたのだった。
ありとあらゆるものを破壊する程度の能力。
フランに与えられた能力である。
力の強い吸血鬼の少女が持つこの能力は、力技だと思われがちだが決してそんな事はない。
フランが意識を集中させると対象物を破壊するための光点が見える。その光点を自らの手のひらに持ってきて握り潰す。
巨大な岩だろうが堅牢な壁だろうがその光点を破壊されると対象物は自らを維持できなくなり破壊されてしまうのだ。
数時間前に起こったレミリアとのやり取りの中で、物質だけが対象の能力だと思っていた自身の能力に相手の意識の『点』も含まれていた事にフランは気付いた。
「プライドの高いお姉さまがあんな風になるなんて。ピチュるって面白いなぁ」
地下室のベッドで寝転がりながら自暴自棄になった姉の姿を思い出し満面の笑みを浮かべる。
「魔理沙と霊夢、咲夜も面白そうだなぁ」
次のターゲットを頭の中で選考していると地下室にまで大きな叫び声が響く。
「この声は魔理沙とパチュリーね」
「あはは、次のターゲットから来てくれるなんて」
ピチュった後のターゲットの豹変ぶりに期待し、スキップで図書館へ向かった。
勢いよく図書館の扉を開けると空間を埋め尽くすほどの火の玉が飛んでいた。
パチュリーのスペルカードだ。
ターゲットの魔理沙は火の玉の間を縫うように飛んでいる。
真剣な二人はフランの登場にも気付かず、弾幕ごっこを続けている。
フランは目を細め、魔理沙の『点』を探す。
「何で私の大切な本を盗むのよ!?」
「人聞きの悪い言い方をするな!私は借りてるだけだ」
「借りたいなら借りたいってちゃんと言いなさいよ!」
そんな二人の会話には耳も貸さずフランは集中して魔理沙の『点』を見つけ出す。
「あった」
しかし、魔理沙は高速で飛び回るので、簡単には『点』を破壊させてくれない。
「ロイヤルフレア見切ったぜ。次は私の番だ!」
その言葉と同時に魔理沙の周囲に魔方陣が浮かび上がり、色とりどりの星をばら撒く。
図書館に魔理沙を中心とした小さくてカラフルな銀河が生成される。
生成された銀河は回転を始め星の配置を変えていく。
「ちょっと!本棚壊したら承知しないわよ!」
「火の玉飛ばす奴に言われたくないぜ」
呪文を唱え星の配置を変えている瞬間、魔理沙の動きが遅くなっているのをフランは見逃さなかった。
足元に転がっていた椅子を拾い上げ盾にすると勢いよく床を蹴り、魔理沙との距離を縮める。
自身の能力が届く距離にまで来ると椅子を放り投げ、右手を伸ばす。
「つーかまーえたっ!」
笑顔のフランは魔理沙の『点』を自らの手のひらに移動させ握り潰す。
レミリアの時と同様に気の抜けた音が響く。
同時に魔理沙が箒から落下し床に叩き付けられる。
慌てて魔理沙を見ると地面に四つん這いになっている。
「私はただ、パチュリーの気を引きたいだけなのに、いつもあいつを怒らせちまう…」
「恥ずかしくて素直になれない。私はなんてダメな奴なんだ…」
今にも泣きだしそうな表情で床に拳を叩き付けながら魔理沙は叫んでいる。
「あれれ?何この展開?」
フランは困惑しながら魔理沙の様子の観察を続けた。
顔を真っ赤にしながらパチュリーは魔理沙のそばに歩み寄る
「あ、ああ、あの、ま、まままま魔理沙?私そんなに怒ってないから、き、気にしないで」
「そそ、そ、それとたまにはゆっくり紅茶でも飲みながら、いいい、い、一緒に読書でもどうかしら…」
「パチュリー…」
「魔理沙…」
フランは今にも抱き合いそうな二人をジト目で見ながらその場を去る。
「もう勝手にやってて」
夜起きて朝寝る。
健康的な吸血鬼の生活スタイルである。
フランは長い間、地下室に幽閉されていたせいで健康的な吸血鬼の生活スタイルとは程遠いサイクルで日々を過ごしていた。
眠いときに眠り、遊びたい時に遊ぶ。それが彼女の生活スタイルだった。
その日フランが目を覚ましたのは昼過ぎ頃。
紅魔館で働く妖精メイド達が掃除や洗濯を終わらせ一息入れている時間である。
「昨日はお姉さまと魔理沙をピチュらせたから、今日は別の人をピチュらせよっと」
着替えを済まし、ベッドからぴょんと飛び降りる。
「さて、お姉さまは寝てるだろうから堂々と外に遊びに行こうかな」
上機嫌で紅魔館のエントランスへと向かう。
「あら、おはようございます」
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜がフランに声をかけてきた。
「おはよー咲夜」
優しい笑顔を浮かべる咲夜は片手に買い物かごを持っていた。
「咲夜、これからお買いもの?」
「はい、お夕飯の買い出しです」
「私も一緒に行く。たまには咲夜とゆっくりお話ししたいし、良いでしょ?」
「わかりました。日が落ちるのが早くなったとはいえ、まだ日の光が強いので日傘をお持ちしますね」
無邪気なフランの笑顔に一瞬ドキッとした咲夜だったがすぐに凛々しい顔に戻った。
紅魔館から人里への道中、フランは咲夜に日傘を差されながら歩いていた。
「そういえば咲夜」
「はい。何でしょうか?」
「咲夜ってピチュるとどうなるの?」
「ピチュるとですか…」
咲夜は右手を口元に運び考える仕草をする。
「特に変化が無いと思いますよ。それに異変解決にはしばらく参加していませんし、覚えていませんわ」
「むー、嘘だったら許さないよ?」
「ええ」
「あーでも咲夜ならピチュっても冷静なままで良そうだよね」
「あら、光栄です」
話が終わるころに丁度、人里の商店街に到着した。
紅魔館の台所を預かる咲夜。
主を飽きさせないためにも毎食の献立は考え抜かれている。
主の好みや栄養のバランス、更には経済的な事も気にしているのだろう。店先で食材を見る咲夜は真剣な表情になっている。
フランは咲夜の腹部辺りから薄らと光る『点』が見えたことに気付く。
更にこの従順なメイドを集中させようとフランは口を開く。
「あーそういえばお姉さまったら海鮮丼が食べたいって言ってたよ」
メイドとは主の要望に全力で応えるものである。
どんな無理難題だろうと挑戦せずに諦めるわけにはいかない。
海のない幻想郷で海鮮丼を食べたいと我儘を言われれば従順な咲夜は全力を挙げてそれに応えようとする。
脳内の膨大な量のレシピ、記憶をフル活動させ、海鮮丼の海鮮に代用できる食材を思い浮かべる。
咲夜は思い浮かんだ食材を求め商店街を歩きまわる。
咲夜の集中力が高まったのだろうか、『点』の光が強まる。
「えへへ、咲夜の『点』みーつけたっ」
フランは咲夜の点を破壊する。
賑やかな商店街に間抜けな音が響く。
さぁ、咲夜はどんな行動に出るのか…
心の中でそんな事を思い悪戯な笑顔を浮かべ咲夜を観察するフラン。
しかし咲夜に変化は見られない。
焦りながらもフランは少し離れて咲夜を観察する。
どれだけ咲夜を眺めても見た目では変化がなかった。
「咲夜ったら本当に変化ないわね…」
買い物を続ける咲夜を残念そうに眺める。
『点』を壊された瞬間だった。
咲夜を強烈な悪寒が襲う。
無意識のうちに時間を止め辺りを見渡す。
久々に味わった独特の感覚に動揺しつつも冷静を装い辺りを見渡す。すると彼女は自分に言い聞かせるように口を開く。
「ここは見慣れた人里の商店街よ。ピチュるわけがないわ」
「そもそも異変も何も起こっていないし。あぁ、きっと体調が悪いのね」
「最近寝不足が続いていたし、急に冷え込むようになってきたし。今日は温かいシチューを作って早く寝よう」
全てが停止した世界で自分を落ち着かせると咲夜は時間を動かす。
「今日はシチューにしますね」
「咲夜の料理は美味しいから何でも良いよ。寒くなってきたから早く帰ろう」
変化のなかった咲夜に興味を失ったフランは口を尖らせている。
「それがこの後神社に寄らないといけないのです」
「神社?霊夢のとこ?」
ターゲットの一人、博麗霊夢に近づくチャンスが訪れ、嬉しさの余り羽根をばたつかせるフラン。
「前にお嬢様が遊びに行ったときにハンカチを忘れたらしくて…」
「じゃあ私が取ってきてあげるよ。咲夜は先に帰っていいよ」
「しかし、妹様お一人で大丈夫ですか?」
「もー!子供じゃないんだから大丈夫だよ。霊夢のところに行ってハンカチを返してもらえばいいんでしょ?任せて」
「わかりました。ではお願いしますね」
シチュー用の食材を買い終えるとフランは咲夜と別れ神社へと向かった。
「しかし咲夜ったら本当に変化無かったなぁ」
悔しそうにそう言うと勢い良く神社へ続く階段を駆け登った。
長い階段を登り終えると這いつくばっている霊夢がいた。
「えーっと…」
予想外の光景に目を擦り、再び目を開く。
やはりそこには紅白の巫女服に包まれた霊夢が確かに這いつくばっていた。
決して倒れているのではない。
サバンナの広大な草原で獲物を狙う肉食動物のように、内から溢れ出る殺気を必死に留め、身を低くしているのだ。
霊夢に気付かれないよう、鳥居に隠れ様子を見る事にした。
よく見ると這いつくばっている霊夢の手には縄が握られている。
その縄の先には木の棒が結び付けてあり、その木の棒は大きな竹かごを支えている。
竹かごの下には米粒が巻いてある。
古典的というか何とも幼稚な罠である。
霊夢を観察していると霊夢から光の『点』が見える。
「今まで一番大きな『点』だ…」
呆れながらも霊夢に気付かれないよう『点』を手のひらに運び握りつぶす。
境内に脱力を誘う音が響く。
その音に驚いたのか数羽の鳩が飛び立っていった。
「あぁぁ、二日振りの夕飯が…」
服に着いた泥を叩きながら霊夢が立ち上がる。
「あーお腹減った」
天を仰ぎ、切ない表情の霊夢が佇む。
霊夢が可哀そうに思い、何も見てない振りをして話しかける。
「霊夢」
「おわっ!」
慌てて手に持っていた縄を背後に隠す霊夢。
「こないだお姉さまが忘れていったハンカチを取りに来たんだけど」
「あぁ、あの悪趣味なハンカチね。待ってなさい、今持ってくるわ」
「うん」
神社の裏から霊夢が戻ってくる。
「あんたが来るなんて珍しいわね」
「うん、たまたま近くを通ったから」
心なしか二人の会話がぎこちない。
そんなぎこちない会話を終わらせたのは霊夢だった。
「それより、あんた見たでしょ?」
殺意の込められた笑顔を向けられ、背筋が凍るフラン。
人生で初めて恐怖というものを味わう。
「な、何を?私知らないよ?」
冷や汗をだらだらと流しながらも何とか笑顔を作り返事をする。
ここで正直に言えば何をされるかわからない…
フランは意識を集中させこの局面を打開する策を考える。
「きゃっ」
後ずさりをしたフランは石畳の凹凸に足を取られ、尻餅をついてしまう。
その瞬間。
ピチューンと脱力感を誘う音が響く。
その音を聞いたフランの脳内は「もうどうでも良い」という感情に占拠されていた。
「見たよ。見ましたよ!貧乏巫女の哀れな姿を。あまりに可哀そうだったから夕食でもご馳走してあげたいくらいくらいよ」
はっと口に手をあて、誤魔化そうと必死に笑顔を作るフラン。
「な、なーんちゃって…」
霊夢は下を向き方を小刻みに肩を震わせながらブツブツと何かを呟く。
やばい。スペルカード?いや、スペルカードで済めば運が良いかもしれない。
「…ます」
「え?」
「頂きます!」
「和食が良いだなんてわがまま言わないわ!ご馳走してくれるなら何でも頂くわ!さっさと紅魔館に行くわよ!」
「は、はい…」
命を拾いをしたフランは大人しく霊夢を紅魔館へと招待する事にした。
「ちょっと霊夢、勝手に人の家に上り込んで夕食に混ざるなんて何なのよ?」
不機嫌そうに霊夢に文句を言うレミリア。
レミリアに目もくれず、料理を平らげていく霊夢。
突然の来訪者に機嫌を損ねたのかレミリアはナイフを握った右手をテーブルへ叩き付ける。
そんなレミリアを諭すフラン。
「まぁまぁお姉さま、たまには霊夢と一緒にご飯食べたって良いじゃない」
「うー、フランがそう言うなら良いけど。って霊夢!何とか言いなさいよ!」
「食べないなら私がもらうわよ?」
美味しそうにシチューを頬張る霊夢を見て苦笑いをするフラン。
ピチュると人は高まっていた集中力が消え、思いもよらぬ行動を取ったり、無気力感に襲われたり、激情したりする。
興味本位や悪戯で人をピチュらせちゃいけないとフランは思った。
夕食を終え地下室に戻ると自身のスペルカードを頭に浮かべる。
「もう少し避けやすいスペルカード考えた方がいいかな…」
メタネタを独自の目線で解釈してストーリーの軸に据える、という発想に脱帽しました。これは新しい。
>>咲夜の忠告も聞かず調子に乗って、前に前にって行ってたら突然横から現れた妖精と激突してピチュったわよ
あるあるw 欲張り過ぎてよくピチュりますよ、永夜抄4面とか特に。
いいアイディアでした
なかなか楽しめました~
上手くいってたのに5面や6面であの音が連続で響き渡ると・・・。
ともあれ、面白いお話でした。
ピチューン。
まさにその通りです。
後半一度ピチュると集中力がきれてしまいますからね…
いや目の付けどころが面白くキャラの変化が面白かったです。
私は設定が面白かったので、できたら他のキャラの次回作も期待しています。
共感してもらえて良かったです。
もっとフランの悪戯がエスカレートしたのが見たかった :)