「マミゾウさん見かけなかった?」
一輪がぬえに聞く。
「庭で子供たちと遊んでいるの見たよ。」
「いなかったのよ。」
「じゃあどこだろ。」
「マミゾウさんなら響子や化け猫の子達と縁側で寝てたよ」
通りかかったナズーリンが答える。
「あの人は自由だね」
「そうでもないぞ、外の知識とか金銭感覚がすごい、おかげで寺の無駄な支払がだいぶ減った、ご主人がいるからこの寺はお金には困らないが、無駄は無くした方がいいからな。」
そんなことが話されている中、二つ岩マミゾウは縁側の日向で昼寝をしていた、尻尾は一緒に遊んだぬえや妖怪の子に占領されている。こういう光景は外の世界では昔はありふれていたものだが今は無いものだった。とても懐かしく、心地いい。しかし、ずっといるわけにもいかない。帰るところは外にあるのだから。
そんなことを寝ながら思っていると。
「マミゾウさんの尻尾気持ち好い・・・藍様みたい。」
化け猫の子供がむにゃむにゃと心地よくまどろんでいる。
「藍様というのはお前の親か何かか?」
問いかけると猫の子も答える。
「藍様は橙を式にしてくださってるんです。」
「そうか確か、橙と言ったな?」
「はい…」
「お前は用事があるのではないか?」
「!!」
その言葉で一気に橙の意識が覚醒する。
「あーそうだった、お使い頼まれてたんだ!」
橙は慌てた様子で門をかけていく。
「うーむ、あまりにも気持ちよさそうだったから起こさないでいたが、悪い事をしたのう…」
橙が買い物を済ませ紫の住処に着いたのはすっかり夜遅くだった。
「藍様申し訳ありません遅くなってしまいました。」
「いいんだよ、橙、今日はもう遅いから泊まっていくといい。」
「ありがとうございます。」
「それでだな…」
「そうでしたね」
そう言うと橙はひょこと藍の膝に乗る。
「藍様あったかいです。」
「そうかそうか。んッ…これは…」
藍は橙の帽子に何かの毛がついているのを見た。それは狐が最も嫌う連中…
(狸・・・だな。)
「藍さまー、あの、尻尾枕…いいでしょうか?」
「橙…」
「なんですか藍様?」
「今日どこで遊んできた?」
冷え切った声で藍が橙に問いかける。
「ふぇ…どうしたんですか?藍様…」
いつもと変わらない表情だが誰が見てもその感情は分かった
それは怒りだった。
「マミゾウさん、お客さまですよ。」
「わしに?だれじゃろ。」
門に行くと橙とももう一人キツネの尾をもつ女性が立っていた。その尾の数は9本と妖獣の最高位である九尾のキツネであることを物語っている。
「おお、橙ではないか、また来てくれてうれしいよ、そちらは?」
「藍・・様です。」
「あなたがマミゾウ殿ですね。」
「そうだが。」
「よくも橙をかどわかしてくれましたね。」
「何を言うておる。」
「橙から聞きましたよ、幼い子供や小さい妖怪たちを尻尾で釣って一緒に寝たって。いやらしい、これだからタヌキは…」
「橙はなんと言ったのじゃ?」
「「マミゾウさんの尻尾を枕にお昼寝をしました」…と。」
「一緒に昼寝をしたと聞いてそんな考えに至るお主の方がいやらしいのう。」
「そんなことはどうでもいい!あなたに決闘を申し込む!」
「それは構わんが、いいのか、決闘を申し込んだ側が返り討ちにあったら赤っ恥じゃぞ。」
わざと挑発するように言う。
「それは私に勝ってから言いなさい。」
「勝負はなんじゃ、弾幕か?化け勝負か?」
「狐と狸の決闘は狐狸十番勝負と稲荷様と隠神刑部の協定で決まってます。」
「わしも相手が狐なら受けざるを得ないのう。」
「日時は追って使いを出します、審判は公平な方を出します。いいですね。」
「公平な方というのは?」
「・・・それは当日になればわかる事です。」
「というわけじゃ」
「狐狸十番勝負とはなんですか?」
お寺に戻りみんなの前で説明する。
「昔から狸と狐はお互いをいがみ合っておる。小競り合いは日常茶飯事だが時には刃傷沙汰になることもある。力のあるもの同士が戦えばなおさらな。お互いが疲弊した時に他の勢力に襲われればお互いが滅びてしまう。だから最強の狸と狐の神が、「力があるものが戦うときは力ではなく美しさを競おう」と決めたのじゃ。ただの美しさではなく妖力の象徴、尻尾の、な。」
「でもそれって意味なくありません?だまし討ちとか出来そうですし。」
「格上の神様が決めた事じゃ、逆らう輩なんぞいやせんよ。そもそも十番勝負を受けないという事は始めから負けているという事じゃ。妖力が高ければどんな輩でも美しい尻尾を持っているものじゃからな。」
「はぁ・・・そうですか。」
「なんにせよ勝負を受けた以上負けるわけにはいかん。」
「ぬえを呼んで特訓かの・・・」
それからぬえは本気のマミゾウと戦い二日でリタイヤし、マミゾウは面倒見のいい命蓮寺の面々と特訓と尻尾のケアの日々が続いた。
その日の夜、紫の屋敷で藍は土下座をしていた。
「申し訳ありません、しかし、これは私の戦いなのです。」
「ふ-ん、いつからあなたはそんなに偉くなったのかしら?」
八雲紫が持っていた傘でぺしぺしと藍をはたく。
「怒りのまま勝手に決闘を申し込んで、しかもそれが勘違いだったけど引くに引けなくなった・・・と?」
「…その通りです……」
「しかも、絶対に間違えない人に審判をしてほしいから呼んでくれと?」
「その…通りです…」
「私がその人が苦手なのを知っていて?」
「後からどんなお叱りも受けます、でもどうかこれだけは。」
「あなたの軽率な行動が幻想郷を揺るがすのかもしれないのよ、分かってる?」
「返す言葉もありません……」
「いいわ、あなたはもう私の式じゃないわ。」
「それはどういう…」
「式を外すからあなたは八雲藍ではなく一匹の妖狐として戦いなさい。」
「紫様・・・ありがとうございます!八雲の名は決して汚させません!」
「ところで、どうやって戦うの?相撲?」
「そうでした、尻尾の大きさ・色・形・艶・もふもふ感・毛並み・力強さ・温かさ・魅力・技巧の十番勝負です。」
その日から、紫は精力的に活動し、八雲家は会場の手配から審査員まで迅速に整えていった。
「紫、この二人、なんでスペルカード使わないの?」
特等席で霊夢が聞く、容認させがてら「いく?」と聞いたら「行く」と言ったのでそのまま連れてきたのだ、これで巫女の乱入でうやむやという事態は避けられる。
「伝統の不殺の決闘方法で戦いたいんですって、マミゾウのほうはまだ幻想郷に居ついたばっかりで不慣れだし。」
「あんなに強かったのに?」
そういって神霊廟での1件を思い出す、「妖怪の切り札」として呼ばれたマミゾウは結局間に合わなかったがなかなかの実力だった。
「まぁいんじゃないの?藍に内容教えてもらったけどあれは他にはまねできないわ、流行らない。」
「まぁ私は妖怪がつぶし合いをする分には文句ないけど。」
そういってお重にはしをつける。
「がんばってくださいね。」
「狐と狸の喧嘩か、見物だぜ。」
決闘の当日、命蓮寺の御堂はちょっとした騒ぎになっていた。
観客は会場の持ち主である白蓮を始め、命蓮寺の面々や霊夢等、暇な連中が集まっている。
しかし、審判である四季映姫・ヤマザナドゥは不機嫌だった。
「全く、せっかくの休日にこんなところに呼び出して。」
「いいじゃないですか、普段からお世話になっている閻魔さまに精一杯の慰労をと思って招待しましたのに。」
「何が慰労ですか、決闘の審判なんてごめんです。」
「じゃあなんでいらっしゃったのですか?」
「それは・・・」
ちょっと口ごもって言う。
「あなたが…「もふもふの尻尾祭りです」なんて言うから・・・」
「それは事実ですわよ、あれを御覧になってください。」
紫が指さすと会場を挟んでマミゾウと藍が向かい合っていた。
マミゾウの大きなタヌキ尻尾と藍の9本のキツネ尻尾が臨戦態勢になっている。
「あれを審査するのですか?」
「そうです。」
「触るのですか?」
「そうです。」
「枕にしたり顔をうずめても?」
「勝負にそんなものがあったような気がしますわ。」
「あの子たちの尻尾や耳は?」
映姫は二人の応援に来ていた幽谷響子と橙を指さす。
「交渉次第という所です。」
「紫・・・」
幻想郷の閻魔である四季映姫・ヤマザナドゥは知らぬうちに握手を求めていた。
時間となり、ついに決闘が始まった。
尻尾の大きさは本数が違うので一本だけの長さを測ることになりマミゾウの勝ち、色もマミゾウが勝ち、形はマミゾウ、艶ともふもふ感は途中で審査員が寝てしまうというハプニングがあったが藍が勝ち、毛並みは藍が勝ったが、力強さ、温かさはマミゾウが勝った。魅力の勝負は、人里から赤ちゃんを借りてきて尻尾を振るとどっちに向かうかというものだったが藍が勝った。
こうして5対4とマミゾウがリードし最後の勝負「技巧」となった。
最初は「思ってたのと違う」とげんなりしていた観客も種族の誇りをかけて戦っている二人を見てしだいに盛り上がっていった。
技巧勝負は手押し相撲のように尻尾だけを使って台に乗った相手を落としたら勝ちというものだったが。この勝負だけは妖力を使っても良いので目を見張る攻防となった。
数に勝る藍が上下からマミゾウを狙うもマミゾウは尻尾自体を化けさせ鋼や酸、炎で防御する。
「これほどとは!」
「どうした、届いておらんぞ。」
マミゾウが尻尾で横一文字に薙ぎ払うと藍は尻尾5本で防御し、残りで床の四方にスパイクのように突き立て固定し防御する。それでも尻尾を通して体に衝撃が響く。
「これなら…」
防御した尻尾で反撃しようと尻尾を振り上げるが感覚がない、最大の隙を与えるのを承知で異変が起きた尻尾を見ると、尻尾がなかった、まるで千切れたように防御した当たりがなくなっていた。
「うわああ!!!」
「どうした、そんなに慌てて?」
マミゾウは悠然と見ている。
「あなた・・・化かしましたね?」
「なんのことだか、そうれ、どんどん行くぞ。」
いくら幻覚だと分かっていても千切れた尻尾は動かない。
藍の戦力は半分以下となってしまった。
しばらく打ち合いが続いたが目に見えて藍が不利になったのが分かる。
(まずい、もう一回あれが来たら負けてしまう。)
その一撃は残りの尻尾を総動員すれば耐えることはできる、しかしその一撃は藍を落とすためでなく化かす隙を出させるための一撃だった、先ほどから尻尾は全く動かない、周りからはだらんと垂れさがって見えるのだろう。
9本の時でさえマミゾウに触れなかったのだ、これ以上減らされると勝ち目がなくなる。
「藍さまーがんばってー!」
「負けたら承知しないわよー」
(橙や紫の応援が聞こえる。紫様はこの幻想郷を守るお方、橙は私の式だ、二人とも私を信頼している・・・私が負けたら紫さまの名も橙も汚してしまう…)
「私は・・・負けられん…」
「なに!?」
「私は負けるわけにはいかんのだ―!!」
藍は残りの尻尾を振りかざす。防御を捨て上下左右の四方向からマミゾウを狙う。
「通じんわ!」
マミゾウは円を描くように尻尾を回し、そのことごとくをブロックする。
そしてもう一度薙ぎ払うように尻尾を藍に向ける。
はじかれた藍の尻尾は相打ち狙いで進むことも防御するために戻ることも出来ない半端な位置で止まっていた。
ばんっ
マミゾウの尻尾が藍のわき腹に直撃する。
「ぐぅっ!」
藍はそのまま観客の方に吹き飛ばされた。
壁に直撃する所を、マミゾウ側の観客席にいた白蓮が飛んで抱きとめる。
どう見ても間に合わなかったが紫がスキマで強引に届かせたらしく、すぐ横にはスキマが開き橙と紫が顔を出していた。
橙はもう泣いてばかりで藍に抱きついている。
紫もいつもの余裕はないようだった。
「藍、負けてしまったけどあなたは明日からも私の式よ。」
紫はねぎらいの言葉をかけるが。それは間違いだ、なぜなら―
「勝者、八雲藍!!」
四季映姫の勝ち名乗りが会場に響いた。
紫が会場に目を向けるとマミゾウもこけていた。
「まさか動かなくなった尻尾の毛でひもを作るとわ、やるのう。」
決闘の後そのまま御堂は宴会会場となった。対戦者二人を中心に勝手に料理や酒を持ち込み、勝手に騒いでいる。
「はい、動かなくても術自体は使えるかもとずっと作業させたんですよ、誰にも気づかれないように最初にあけた穴から毛を逃がして外で糸にしたあと、窓から再び入りあなたと私の足に結ばせる。準備できたら、わざとあの攻撃に当たり私は吹き飛ぶ。」
「あれは防げんかった。」
「完全な不意打ちですからね、後はさっきの衝撃で私が吹き飛ぶ時間と糸が持つ時間、あなたが転ぶ時間の相対を計算で出して後者の時間の方が早ければ完了です。」
「計算か、じゃあわしのほうが早かったり紐に気づいたら?」
「私の負けでした。」
「はは…お主気に入ったぞ!」
そう言って藍の背中をバンバン叩く。
「仲良くする気はないが、酒くらいは一緒に飲んでやろう。」
と藍に酒を注ぐ。
「そうですか……」
「そう言えば引き分けですけどその場合どうなるんですか?」
響子が問いかける。
「その時は問題を水に流して宴会だ、お互いに誇りも失わず、誰も欠けなかったわけだからな。後でまたケンカすればいい。」
「そですか…」
「かわいいみみですねー」
「ひゃう!」
かぷっと響子の耳に映姫が甘噛みする。かなり酔っているようだ。見ると猫に化けている橙を小脇に抱え耳のあたりを撫でてテクニシャンぶりを発揮している。
「あなたたちもぉきなさぁい、もふもふたりなぁい…そのためにわざわざきたんだからぁ」
「私のわがままで来てもらったようなものですしね、相手しますよ。」
「そうか、閻魔さまの覚えを良くするのも悪くないかの。」
こうして「狐狸決闘事件」は幕を閉じた、新しい住人となった二つ岩マミゾウは広く知られるようになりお寺は繁盛し博麗神社が金貸しのまねごとをして失敗するのは別の話。
藍
>一匹の妖孤
妖狐
>博霊神社
博麗神社
二人の尻尾モフりてえ…
惜しむらくはもっとねっとりと尻尾の魅力を語って欲しかった。せっかくやるのだから。需要はあると思います。次回に期待
でも本物のタヌキのしっぽは意外と短いんですよね