Coolier - 新生・東方創想話

喫茶『十六夜』 ~その2~

2011/12/09 18:23:34
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ふーっと息を吐くと、ほんのりと白く霞んで見える。最近ではすっかりと秋の気配が消えて、冬の姿が全面に押し出されて来ている。
こうなると、そろそろ栗を使ったスイーツは作れなくなってくる。冬のスイーツを考えてそろそろ柿や胡桃なんかを多めに仕入れてメニューを変えておかないといけない。

「………そう言えば」

以前まだ秋真っ盛りだった頃、秋が来たことを偉く喜んで居た二人組のお客が来ていた事を思い出した。
お酒が入っていた事も会ったのだろうが、他のお客さんに絡んだり机の上に乗り上げたりと、まるで阪神が優勝して川に飛び込む阪神ファンよろしく盛り上がっていた。当然、然るべき制裁は加えたが、それでも二人は笑っていた。
そんな二人が今の状況を見たらどう思うだろうか?
木々の葉はスッカリと落ち尽くし、息は白く曇り、街行く人々は防寒具を見に纏っている。もう既に、秋の居場所は無い。
あんなに秋が好きだった二人の事だ、今の惨状を嘆いてやけ酒飲んでまた暴れて誰かに怒られて………

「あら、結局変わらないじゃない」

秋だろうと、冬だろうと、たとえ季節が移ろいでも変わらずそこにあるものものある。それがなんだか可笑しくて、咲夜はクスクスと小さく笑う。
と、カランカラーンと簡素なカウベルの音が店内に響き渡り、来客を伝えた。

「いらっしゃい、喫茶十六夜へようこそ」

今日も変わらず、この喫茶店は営業していた。





喫茶十六夜 二杯目





「あーあー今日も疲れたぜー」
「………アンタ今日は休みだからってさっきまで寝てたじゃないの」

寝疲れたんだよ、とあっけらかんと返す金髪の少女とため息を付いて呆れる黒髪の少女の二人組。この店の常連の一人、博麗霊夢と霧雨魔理沙である。

「大体にして休んでていいの? アンタ今研究が大詰めだとか言ってたじゃないの」
「いーのいーの、今は経過を見るだけの作業になってるから。そうとなりゃあんな辛気臭い場所に篭っていられるかってんだよまったく。あーあー娑婆の空気は美味しいなぁ」
「莫迦な事バッカ言ってるんじゃないわよ、たく」

などと軽口を交わし合いながら、二人はカウンターの席に座った。

「よー咲夜ー久しぶり。調子はどうだい?」
「まあまあね。そう言う貴方はどうなの魔理沙?」
「絶好調さ! 最近行き詰まってた部分も要約進展してな。あとは結果を御覧じろってな」

へへーんと得意げに笑ってみせる魔理沙。先程の久しぶりという挨拶から察せるように、魔理沙はここ暫くこのお店に立ち寄って居なかった。
彼女が取り掛かっている研究が、とある点で躓いていた。過去の文献にも例はなく、試行錯誤を重ねながら何度も何度も新しい挑戦をして、そうして新しい結果を残している。彼女は持ち前の努力家根性を活かして、他の研究家が諦める様な内容をこなしていった。

「まあそんな訳で今は腹が減ったから飯だメシー! 私はホットケーキセットで霊夢は………」
「鯖味噌定食一つ」
「………お前なあ、ここは曲がりなりにも喫茶店だぞ? そんなメニューあるわけ」
「あるわよ?」
「あるんだ………」

今から煮込むから時間はかかるんだけどねーと言いながら、咲夜はテキパキと料理を始めた。
ホットケーキと鯖味噌定食、その和洋真逆の料理ではあったが、特に苦戦することもなく手順よく作り上げていき、店内に美味しそうな香りが広がっていった。

「はいお待ちどうさま」
「おーおー相変わらず謎に速くて美味そうだなー。一体どうすりゃこんな風に出来るのか不思議でたまんねーぜ、なあ霊」
「ん~~、何時もながらに美味しいわ」
「食うのはっや!」

霊夢の手を付ける速さに驚きながら、魔理沙も負けじと自分の食事に手をつけた。ナイフとフォークを使ってバニラアイスとメイプルシロップが掛かったホットケーキを切り取る。断面からは出来立ての証の湯気がほわほわと湧き出してきている。
一口大に切り取ったホットケーキを口に運ぶ。何時もながら美味い、ただただそう思う。
外はサクっと中はフワッと仕上がっており、ホットケーキの熱で溶けたバニラアイスがメイプルシロップと融け合って、独特の甘さと風味を醸し出している。
一口食べるとまた一口、また一口と手が自然と動いてしまう。セットで付いている紅茶を飲むと、口の中に広がった甘ったるさをスッキリと洗い流してくれる上に、芳しい香りが口内を優しく包んでくれるのでま一口と手が進んで、最後まで美味しく食べることが出来る。

「ん~、美味かったぜ。流石は咲夜の料理だな」

食べ終えるタイミングを見計らっていたかのように、咲夜は魔理沙に新しい紅茶を淹れた。

「………ご馳走様でした」

と同時に、隣の席で食べていた霊夢も食べ終わったようで、箸を置いて両手を目の前で手を合わせていた。そこに咲夜から淹れたての緑茶を差し出され、霊夢は黙って頷いてからゆっくりとお茶を飲み始めた。
普段の雑な態度からはあまり想像が出来ないが、霊夢はこれで由緒ある家柄の出で躾が行き届いている人間である。食事は静かに綺麗に食べ、食後の感謝も忘れず、相手から受けた恩には礼をもって返す。何処に出しても恥ずかしくない人間である。
時折、照らしあわせて自分が恥ずかしくなる程に。

「あら、いらっしゃ……なんだ、貴方だったのね」

再び来客を告げる為だけに店内に鳴り響いたカウベルに反応をし、咲夜がカウンターから出て応対をする。何かの業者の人間だろうか? と興味を惹かれて振り返ると、そこに居たのは――――――

「んげぇ」
「あら、自分から死に来てくれるなんて殊勝な心がけじゃないの、霧雨魔理沙」

魔理沙が今一番会いたくない人物、風見幽香であった。

「ん~? アンタアイツと何かあったの?」
「ああ、まあちょっとな……」

気まずそうに視線を逸らしながら、やり場のない右手で頬をポリポリと掻く。何か問題があったがそれを話すのは少々憚られる、そんな誰もがするわかりやすい仕草。

「さて、此処じゃ店内を壊しかねないから外に出ましょうよ、魔理沙ちゃん♪」
「ままま待ってって!何度も言ってるけどアレは故意じゃないし今はまだ食事ちゅ……」
「こんな食事なんてどうでもいいのよ。それよりもアンタに然るべき対処をする方が重要……あら、どうしたのかしら?」

席に座っていた魔理沙の首根っこを掴み、ズルズルと出口へと引っ張っていく幽香の前に、咲夜が不機嫌そうな顔で腕を組み出口への道を防いでいた。

「まだ代金を貰ってないし、食事も食べきってないし、一応常連としてのよしみもあるし、今魔理沙を返す訳にはいかなくてね。……それに」

伏せていた目をギロリと、多量の怒気が込められた相手を射抜くような視線で幽香を睨みつけた。

「『こんな食事』って評価には、少しばかり納得がいきませんので」

絶対に私云々関係なくて最後の料理の為だけの私怨だーー!
と内心ツッコミながらも、この危機的状況から咲夜が救ってくれる事を期待して、魔理沙は咲夜を幽香にバレないように応援する事にした。

「……あら、あらあらあら? これはつまり、私喧嘩売られちゃったってこと?」
「売ってきたのはそちらではなくて?」
「あらやだ、最近ちょっとピリピリしててね……このまま此処でしちゃいそうだわ」

まるで空気がピリピリと音を立てているかの様に引き締まった雰囲気が、先程まで麗らかな平和な正午の気配を完全に消し飛ばされていた。
他の客も思わず事の顛末を見守り息を飲み、誰もが音を立ててはいけないという強迫概念に襲われるにまでただならぬ気配で満ち満ちていた。
ジリ、と咲夜が構えながら一歩。ジリ、と幽香もまた構えながら一歩踏み込み、互いの距離を縮めている。
―――――― 一種即発。あと一歩どちらかが近づけば、誰かが何かの物音を立てれば、それが開戦の合図になってしまうと誰もが思っていた。

「…………」
「……………………」
「…………………………………………」
「………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………………………ふー」

鋭い視線が交差する中、咲夜が一つ小さく息を吐いて、全身に力を篭める。
始まる、誰もがそう思い集中して――――――

「咲夜~~、お茶のお代りまだ~?」
「……………………」
「……………………」
「……………………お?」

気の抜けた霊夢の声で空気が一瞬にして緩和された。

「あ……あのな霊夢。お前はもう少し周りの空気って奴をだな」
「五月蝿いわね、アンタには言われたく無いわよ。それより咲夜お茶のお代り。それと栗羊羹追加ね、まだあるんでしょう?」

まるで駄々っ子の様な霊夢の態度に周囲の緊張は一気に緩和され、顛末を見守っていた人々はまたガヤガヤと話しだしたり飲みかけだった茶を再び楽しんだりしていた。

「…………馬鹿らし」

少しの間睨み合っていた二人だが、幽香が大きくため息を付きながら全身の力を緩め、咲夜も力を抜いてやれやれと言いたげなポーズをとっていた。

「はいこれ、今月分のお花よ。大事に活けないと承知しないわよ?」
「ありがとう。心配しなくても大丈夫よ、普段どんな風に扱っているかは知っているでしょう?」

それもそうねと軽く笑いながら、依頼されて持ってきた花束を咲夜に渡した。
咲夜はその内容を確認し、何時もながらの美しさに思わず頬を緩めながら、大切に店の奥に仕舞っていった。

「さて、魔理沙」
「ひゃひぃ!!」

騒ぎも収まり、掴まれていた首元も離されすっかり解放されたと安心しきっていた所に急に呼ばれた魔理沙は、驚いて変な声を出してしまった。

「今すぐ連行したいけれども、見逃してあげる。その代わり、今週中に私の所に来なさいね。もしも来なかった場合は……」
「わわわわかった!行くよ!行きます!行かせていただきます!!!」

上からの威圧する視線にガタガタと震えながら、謎の三段活用を用いながら幽香の指示を受け入れる魔理沙。首は不必要にガクガクと頷いている。
そんな魔理沙を一頻り見て満足したのか、ゆっくりとした動作で振り返り出口へと向かった。

「あら、もう帰るの? 美味しいローズヒップティーが手に入ったから飲んで行かない?」
「生憎と、私は今仕事の途中なのよ。その申し出は今度時間がある時に受けさせて貰うわ」

奥から戻ってきた咲夜の申し出を振り返る事無く断り、ドアノブに手をかけ――――――そこでピタリと止まり

「……今回はアンタの顔を立ててあげる事にするわ、有りがたく思いなさい」

誰にでも無く言葉を残し、店から去って行った。

「……今の、誰に対して言ったのかしら?」
「んなことどうでもいいよ。あ~~~助かった……」

疑問に首を傾げる咲夜と大きく安堵の溜息を付く魔理沙。ただ霊夢だけが変わらず黙ってお茶を啜っていた。








「――――――ってことがあったんだ」

魔理沙が落ち着いた後、霊夢と咲夜はいったい何があったのかを魔理沙に問い詰めた。
曰く、実験の副産物で生まれた溶液の効能が知りたく、植物に効果があるかを試すために花にかけてみた所枯れてしまい、その状況を幽香に見られてしまっていた。幽香からしてみれば、魔理沙が無為に花を枯らしたとしか見え無かったため(実際そうなのではあるが)、花々を愛する花屋の店長として魔理沙に報復する為に忙しい仕事の合間を縫って魔理沙を探していたらしい。因みに魔理沙は実験の為という大義名分を利用して少し離れた場所へ公費で逃げていた。

「そりゃどう考えてもアンタが悪いでしょうが」
「わ、分かってるよ。だから謝るためにさっき約束を……」
「本当に悪いと思っているのなら、逃げずに謝罪に行くものでしょうが」

ハァと呆れたようなため息を漏らす二人に、しゅんと肩を落として小さくなる魔理沙。もう少しいびって涙目にさせて反省の度合いを強くさせたいのだが、如何せんこうも可愛く保護欲を刺激される様な反応をされてしまうと、これ以上突っ込むのに罪悪感を感じてしまう。こういう仕草が意識せずに自然と嫌味なく出来てなくしまう魔理沙は本当に凄いと思う。何の可愛さも面白みも無い自分が嫌になって――――――

「……なによ、私の顔に何かついてる?」
「ふふ。いいえ、何も付いていませんわ」

まるで自分が何を考えていたのかを見透かされていた様な態度に少しむっとして、霊夢は飲みかけのお茶を一気に飲んで席を立った。

「帰りましょう。咲夜お勘定」
「な、なんだよ唐突に……ってもうこんな時間か!! 咲夜こっちもお会計頼むわ!!」

先程までの事なんて何も無かったかのように急にドタバタと騒ぐ魔理沙を見て、咲夜はヤレヤレとため息を付きながら手早く二人の会計を済ませた。

「迷惑かけて済まなかったな咲夜。今度お詫びに人数連れてまた来るよ」
「それはいいから、ちゃんと忘れずに幽香の所に行くのよ? これ以上の迷惑の種はゴメンだから」

わかってるよー! と叫びながら、魔理沙は走り去って行った。霊夢は特に急ぐ必要がないのか、魔理沙が見えなくなるまで見送った後に、踵を返して歩き始めた。

「霊夢」
「なに?」
「ありがとう」
「…………別に」

振り返りもせず、ぶっきら棒な言葉だけを残して霊夢も街角へ消えていった。そんな仕草を見て、咲夜はクスクスと一人笑う。
――――――貴方も十分可愛いわよ
声に出さず、ただ心の中で呟いた。








「ンー……っと」

今日一日の疲れを吹き飛ばそうと体を思いっきり伸ばし、軽く息をついた。
本日の業務も恙無く終了し、後片付けもレジ締めも全て終わったので力を抜いて伸び伸びと寛いでいた。

「……それにしても」

紅茶の香りを楽しみながら、今日起こった出来事を反芻する。
昼に起こった騒動もそうだが、その後も冬の到来に物凄くテンションが上がっているお客さんが、予想通りにテンションダダ下がりの二人を振り回したり、仕事終わりに訪れた幽香が連れの金髪の子供が騒ぎだしたので制裁したりと…………

「本当に、退屈しないわ」

このお店を経営して以来、毎日がとても騒がしい。勿論経営始めて直ぐの起動が乗る前は閑散として閑古鳥が鳴いていたいたが、あの時からは毎日毎日飽きずに騒ぐ人間が集まってくる。
後片付けをする身としては、勿論辛い部分も多々ある。しかし、それでも毎日がとても楽しい。寂しいとか疲れたとか、そういう事を考える隙がない。

「きっと明日も明後日も、騒がしいままなんでしょうね」

静かに笑いながら、残っていた紅茶を飲み干して眠る準備を始めた。









予想通り、冬の勢いは留まる事を知らずで今朝から雪が振っている。外を見れば、寒さに震える大人とは対照的に、早速子供たちが楽しそうに外に出て雪で遊んでいる。
こんな日には寒さを凌ぐ為に、暖かいモノを求めて訪れるお客さんが来る筈だ。今のうちに下準備を進めておかないといけない。

「うー寒い寒い」

などと考えながら準備を進めていると、早速予想通りに暖を求めたお客が来店してきた。

「いらっしゃいませ、喫茶『十六夜』にようこそ」

今日も変わらず、彼女は笑顔で出迎えてる。
凄く久しぶりの投稿となります。
何となくイメージが浮かんだので、以前作った喫茶店のお話しを続けてみました。また続けるかもしれません。

久しぶりということもあって、まとまりのない文章に……
誤字脱字指摘、感想意見、アドバイス等がありましたらよろしくお願いいたします。

12/09 22:14  ご指摘いただいたデフレーションワールドな咲夜さんを修正いたしました
もじゃ
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コメント



0.430簡易評価
1.80奇声を発する程度の能力削除
>疑問に首を傾げる咲夜と大きく安堵の溜息を付く咲夜。
咲夜が二人いる!?
相変わらずの穏やかな空気が流れる良い喫茶店でした
2.100SAKURA削除
ほんわかしていて穏やかないい話だと思いました
7.100名前が正体不明である程度の能力削除
いいねいいね!
11.80幸密領亜削除
前作も今回も楽しく読む事が出来ありがとうございました

少しと言うか世界観が違うだけでこんなにもキャラクターが変わるのかと言う意味で斬新かつ新鮮味があり面白かったです

次回作も楽しみにしております
12.80名前が無い程度の能力削除
霊夢と魔理沙が会計をきちんと支払ったという所がいいと思うよ。
この作品集にはBARのお話がありますが、こちらのカフェも悪くない。ただ、個人的にはカフェで登場人物が思索にふけって、
カフェに入るときと、出ていく時で何か変化がある…。そんなストーリーのほうがもっと好き。

デモ、コノ オハナシ モ ヨカッタヨン!
13.100名前が無い程度の能力削除
誤字?
最近行き詰まってた部分も要約進展してな
要約→漸くorようやく
次回も楽しみにしています。