Coolier - 新生・東方創想話

キラリ切られ奇なり

2011/12/03 13:56:17
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今年も幾多の桜が花を咲かせた。
春。冥界中で桜が開花した。薄紅色の花弁が時折強くなる風に散らされ、軟らかく宙を舞う姿は命のように鮮やかで軽やか。太陽はまだ東の地平から昇る途中で、幻想郷であればまだ人々が目覚めるより早い時間帯。朝日が花びらを優しく照らす。
冥界に暮らすは一人の亡霊と一人の半妖、そして意思も判断も自らは示すことのできない無数の霊。実質、二人だけがこの世界に存在する意識。
その半妖である魂魄妖夢の朝は早い。
亡霊こと西行寺幽々子の従者として、彼女の目覚めるより先に支度を終わらせなければならない。
二人の暮らす白玉楼は広大な庭を持ち、多数の桜が植えられている。この時期になると散った桜の花が庭掃除にかける負担を大きくする。いくら早朝に掃除をしようと日中も花は散るからと諦め怠っていては直ぐに地面を覆うほど積もり、縁側からの景色を悪くしてしまう。だからといって散り積もる量を見越し手抜かりのある掃除をしてしまうのは妖夢の横着さからくるものではく、幽々子との主従という一言だけでは纏めることのできない長い付き合いによるものだ。
従者は竹箒を手に庭に散った花弁を掃き一箇所に集め、払い終わろうとしていた。手馴れたもので、庭掃きに掛ける時間もそう長くはない。
吐く息はまだ白いが、初春の肌寒さは長年の鍛練で感じることはない。
ゆっくりと伸びをし、掃いてきた庭を見る。掃き終えた場所にまた積もり出しているのは致し方ない。
緩やかに流れる風と、そこに身を投げ出し舞う桜に妖夢は思わず「綺麗だな」とつぶやいた。梢から離れ地へと落ちる僅かな時間、桜は一段と輝きを増す。人間と同じだ。
そこへカツンカツンと石段を登る音が見とれる彼女を現実へ帰らせた。
浮かび上がるのは疑問。まだ早朝だというのに誰が訪れるというのか。ましてや冥界は幻想郷より離れた位置にあり、訪れる者は白玉楼の二人と交流のある者くらいで滅多に来客はない。尤も妖夢はこんなに朝早くから訪ねてくる失礼かつ寝起きのいい知り合いを知らない。
誰かという考えは必然的に限られてくる。
門のほうへと視線を送り、不審者に備えて家屋へ愛刀を取りに戻るか、主人へと事を伝えるべきか、はたまた目を離した隙に侵入される可能性を見越して右手に握り締めている箒で迎え撃つべきかと思考が逡巡する。
結局、決断をくだせないまま白玉楼への客人は門をくぐり妖夢の前に姿をさらしていた。
その姿は妖夢がもっとも予期しなかった人物。
故に思考は停止し、かけるべき声は見つからず、駆け寄ることもできない。
凛々しく厳格な姿は妖夢の師であり祖父、
魂魄妖忌、その人であった。
どれだけ思い続けただろう、どれだけ待ち続けたであろう、師として祖父として生きるために守るために教えてほしいことが沢山あった。しかしいざ目の前に現れると立ち尽くす事しかできない。
「ただいま」と声をかけた妖忌に対して妖夢は一瞬遅れて「おかえりなさい」と呆然と返す。そしてすぐに後悔した。もっと言うべきことがあっただろうと。

「大きくなったな、妖夢」

笑顔で微笑み、右手で孫娘の頭を撫でる妖忌。
その手は昔と同じく、剣技で鍛え上げられざらざらと痛く、でも温もりのある優しい撫でかたの、大きい大人の手をしていた。
目に浮かぶのは、涙。祖父の息遣い、におい、どれもが幼かった頃の記憶を呼び覚まさせるに十分な要素。随分と昔に忘れ去っていた記憶。

「もう、居なくならない…?」

それは弟子、ではなく孫娘としての願い。
決して西行寺幽々子と二人だけで暮らしてきた日々に不満があった訳ではない、しかし妖忌が白玉楼から姿を消した事実は妖夢の中で幽々子に対する責務となって不安感を増長させ一人、苦悶する時も多々あった。

「ああ」

もうお前に辛い思いをさせることはない、と妖忌は妖夢を抱き寄せる。師ではなく、祖父として。
妖忌の思いは口に出さずとも妖夢の心へ伝わった。だから妖夢も強く抱き返す。
平穏な日々、平穏な日常。その願望だけが妖夢の中にあった。



「おかえりなさい」

足早に箒を片付け、幽々子へ報告すべく主屋へ戻った妖夢と妖忌は玄関で声をかけられる。
声の主は、西行寺幽々子。普段なら眠っている時間、幽々子が起きている事実に妖夢は少し戸惑い「おはようございます。幽々子様」と型にはまった挨拶を返す。そこで幽々子の言葉は妖夢ではなく、妖忌へ掛けられていた事に気づいた。
主は笑っていた。
それは妖夢が仕えてきた中で尤も裏のない笑み。純粋で透き通った笑顔は美しいとさえ思える。どこまでも冷たく、暖かい。

「少し待たせてしまい、申し訳ありません」

妖忌の幽々子への言葉は幼い頃の記憶と変わらず落ち着いたものだった。

「思っていたより早かったわね」

それは数千年という時間、幻想郷で存在し続けてきた幽々子にとって数十年などほんの僅かである事の証明。

「妖夢だけでは心配でしたから」

と、妖忌は妖夢の頭はぽんぽんと軽く叩く。
それは事実を隠すための冗談であると妖夢は認識した。厳格な印象をうち崩す顔の綻びが妖忌にあったからだ。それが何によるものかは今の妖夢にはわからない。けれども妖夢の存在ありきではなく妖忌の意思が理由であると表情から読み取れた。
もちろん、この事を本人に尋ねる気は毛頭ない。分からないのは未熟さ故か、と妖夢は心の中で呟く。
師と主人。二人を居間へと促し、妖夢は3人分のお茶を淹れに台所へ向かう。
三客の湯呑。ひとつはこの日のため、ずっと保管していた妖忌のもの。
戸棚から茶菓子を取り出し、沸かした湯と茶葉をいれた急須と共に居間へと運ぶ。
そこには妖忌の消えた数十年の変容を肴に談笑する二人。それは妖夢の思い描いていた『家族』の姿だった。
弾幕も、スペルカードもここにはない――人も、妖怪さえ。
そして平穏と感じられる世界がここにはある。
もう望むものはなにもない。
切るべきモノが何であるか。
切り開くべき未来が何処であるのか。
守るべき者が誰であるのか。
それらは全て、心の歪みが生み出した迷い。
そう、数十年迷い続けてきた。
自分の未熟さ、思慮のなさに祖父が見限ったのではないかと。
だからこれまで二口の刀を手にあらゆる物を切り続けてきた――――
そうすることで迷いさえも断ち切ることができると考えていたから――いや、迷う事を忘れようとしていたから。
刀は素直だ。
握っている間は他の何事も考えずにすむ。
迷いを断つ、白楼剣を持つ者に迷いがあったとは皮肉なものだと苦笑する。
灯台下暗し、自分自身のことが一番理解できないものだ。

「お待たせしました」

幽々子の脇に膝を置き、自分が最後となるように湯呑を置く。
静かに揺れる水面の中に1本の茶柱が立っているのを見つけ、妖夢は自然と笑みが溢れた。




多くの桜の花は散り、枝に新緑が芽生えはじめた。
庭の掃除が楽になるのは嬉しいが、美しいモノが消失するのは心寂しいものがある。
僅かに残った桜の花も二三日もすれば散り、葉を茂らせるだろう。
一閃。妖夢の刀が虚空を裂き、生み出された衝撃が空気を震わせ地に落ちた薄紅色の花弁を宙に舞い上がらせる。
手に持つのはこれまで幾度となく共に切り抜いてきた二口ではなく、木刀。黒ずんだ色合いは年季を感じさせるが、妖忌が以前より鍛錬のため持っていたという理由だけで妖夢自身、思い入れがあるわけではない。
息が乱れる。服の中でかいた汗が肌を蒸し、心地悪い。
どうしてこんなに必死に刀を振っているのだろう。
陽は地平線から顔を見せたばかりで、冥界の死気が肌を冷やす。
妖忌の帰還は妖夢の心に安心を与えてくれたはずだ。だが―――
自分のことにも関わらず客観的な認識。確証のない不安感。心ここに在らず。ぼんやりと宙に浮いた思考。意思は鮮明であるのに心が対応しきれていない。
こんな気持ちを抱くことなど今まであっただろうか―――いや、こんな曖昧な思考状態で刀に意識を集中できないなど初めての事だ。
その起点、理由が何か分かっている。しかし、認めることは出来るはずがない。
故に―――切る。
考えることから逃げるように。
しかし、振るという単純な動作は行動に反して別の想いを巡らせる。
結局、何もできず、変われない。
この冥界に存在しようがしまいが、その違和は拭えない。
木刀はしなり、風を切る音が空に消える。

「いい太刀筋ね」

後方よりかけられる声に意識を移す。
縁側から見つめていたのは――

「幽々子様…」

生気を感じさせぬ眼差し、その視線は妖夢ではなく別の何かを見つめるかのように儚い。冷たく見透かされているような幻想を抱く。

「でも、」

「迷いがある」

ですよね、と妖夢は被せて応える。

「ええ、分かっているのね」

「自分の事は自分が一番わかりますよ」

木刀を握る手の力を弱める。充血した手のひら。紅く、熱い、命の流動。

「でもその迷いが何なのか、わからない。まだまだ未熟ですよね」

妖夢は笑う。苦笑い。気取らない強がり。
幽々子は笑う。微笑み。子どもを安心させるために大人は笑う。

「そうやって押し込めるのは、好きじゃないわね」

「え」

「未熟なのは表情のほうじゃないかしら」

「すみません」

「謝ることじゃないわ。これは、あなたの問題でしょう」

「私の問題…」

妖夢は考える。言葉にする、というのはその想いに実態をもたせるということだ。
疑念は実態を持つことで確証となる。口にするとはそれだけ責任の伴う行為。
しかし、此の儘心の中に閉じ込めて置いても解決は見えない、幽々子になら話していいのではないかという甘え。主従以上、家族未満の信頼関係。
ふら、と身体を幽々子のもとへ寄せる。

「私にはわからないんです」

幽々子の肌。服越しにも柔らかさが伝わる。冷たくもあたたかい。

「わからない?」

「師匠が帰ってきたことは嬉しかった」

ですが、と妖夢は続ける。

「それが蟠りとなっているんです。ずっと、ずっと待ち望んでいた事なのに」

何も変わらないことが―――
明確な変化を望んでいたわけではない。之までの、妖忌の居なかった日々と変わらないことが―――逆に妖忌が妖夢の中で違和となっているように感じる。
妖忌が消えてから歳相応に甘える事を忘れた身体は二人の距離を縮めるには余りにも幼い。

「不安なのね」

背筋に当たる手の感触が冷たく心地よい。
幽々子の目線の先には空。風になびく髪と幽霊は桜色で幽玄。

「不安…なんでしょうか」

「その答えは妖夢と同じだと思うわ」

「そう、ですよね」

「自分の事は自分が一番わかっているんでしょう?」

「はい」

確認するまでもない事。幽々子に否定されることで得られる安心に期待していたが現実はそう甘くはない。
目を瞑る。桜の甘い香りが鼻腔を侵す。

「まだそんなに悩むことなんてないわ」

幽々子は妖夢を撫でる。

「若いんだもの。悩めるだけの時間は残っているわ」

それにあなたには―――と幽々子の撫でる手が止まる。

「やるべきことも残っている」

もう一人で歩きだすための手は差し伸べたわ、と幽々子の線の細く白い指が妖夢の肌を撫でる。
やるべきこと。その考えに妖夢は何も答えることができなかった。




多くの桜の花は散り、枝に新緑が芽生えはじめた。
庭の掃除が楽になるのは嬉しいが、美しいモノが消失するのは心寂しいものがある。
僅かに残った桜の花も二三日もすれば散り、葉を茂らせるだろう。
一閃。妖夢の刀が虚空を裂き、生み出された衝撃が空気を震わせ地に落ちた薄紅色の花弁を宙に舞い上がらせる。
手に持つのはこれまで幾度となく共に切り抜いてきた二口ではなく、木刀。黒ずんだ色合いは年季を感じさせるが、妖忌が以前より鍛錬のため持っていたという理由だけで妖夢自身、思い入れがあるわけではない。
息が乱れる。服の中でかいた汗が肌を蒸し、心地悪い。
どうしてこんなに必死に刀を振っているのだろう。
陽は地平線から顔を見せたばかりで、冥界の死気が肌を冷やす。
妖忌の帰還は妖夢の心に安心を与えてくれたはずだ。だが―――
自分のことにも関わらず客観的な認識。確証のない不安感。心ここに在らず。ぼんやりと宙に浮いた思考。意思は鮮明であるのに心が対応しきれていない。
こんな気持ちを抱くことなど今まであっただろうか―――いや、こんな曖昧な思考状態で刀に意識を集中できないなど初めての事だ。
その起点、理由が何か分かっている。しかし、認めることは出来るはずがない。
故に―――切る。
考えることから逃げるように。
しかし、振るという単純な動作は行動に反して別の想いを巡らせる。
結局、何もできず、変われない。
この冥界に存在しようがしまいが、その違和は拭えない。
木刀はしなり、風を切る音が空に消える。

「いい太刀筋だな」

門のほうから発せられた声に意識を移す。
そこに居たのは――

「魔理沙…」

久しぶりだな、と挨拶がわりに片手をあげ笑顔を向けてくる黒白の魔法使い。
違和感を抱く。

「その服は…?」

村で見かける人間と同じ簡素な衣服。特徴的だった帽子も髪を束ねていたリボンも丈の長い黒いスカートも身に付けていない姿は新鮮に思える。

「ああ、そのことも含めて話にきたんだぜ」

お前がずっと幻想郷に来てないからこうやって会いに来たんだぜ、と魔理沙は言いながら笑う。寂しさと喜びの混じった笑み。
幻想郷か―――
久しくその名を聞いてなかったように思える。一体いつから私は冥界から出なかっただろうかと妖夢は考え、答えに至る。

「最後にあったのは神霊が現れた時以来だっけ?」

「そういえば…そうだな。何年ぶりだ」

「幻想郷にはあれ以降行ってなかった」

「え、じゃあほんとに数年ぶりかよ」

「魔理沙は変わったね、大人になった」

背が伸び、童顔から細い線の顔つきとなり魔理沙は少女から女性へと成長していた。
少し見ない間、成長が著しいとは人間は珍しい生き物だと思う。

「そういう妖夢は変わらないな」

足から頭まで見られるのは少し恥ずかしい。それは魔理沙も同じだろうからおあいこか。

「まあ妖怪と人間じゃ成長の速さが違うか」と魔理沙は言う。

「博麗の巫女は元気かにしてる?」

「異変のたびに嫌でもあいつがピンピンしてるとこをみてたぜ」

「相変わらずね」

「相変わらず、だったな」

もう私とは関係のない事になったけどな、と魔理沙は告げた。

「私は魔法使いをやめたんだ。その…お別れを言いに来た」

「え?」

一瞬、何を言われたのか脳の処理ができなかった。

「実家が道具屋だって事は昔、話したよな?」

首肯。

「子供の頃はずっと家の奥で人目から隠れるように暮らして―――暮らさせられていた。父さんは私に家を継がせたくなかったんだろうな。病弱で女だなんて道具屋にとって不利益を生み出させかねない要因だからな。差別だなんだと言っても商売の第一目標は利益だろ。力仕事だってあるしな。長年の経歴を私が原因で傷を付けるのは互いに嫌だった、だから家を飛び出して一人、魔法使いになろうと思ったのさ。それが私に出来たせめてもの反抗。幼かったからな、ちょうど魔法使いに憧れをもってたころだったし」

肉親との別れ、形こそ違っていても魔理沙も私と同じだと妖夢は思った。

「それも最近のこと?」

「十五年くらい前…お前からしたら最近になるのか」

「うん」

半人半霊と言っても十割が人間である生き物より寿命は長い。

「羨ましいな、長寿って」

「そうかな?」

「そうだぜ」

考えたこともなかった。
死だけはどんな生活を送ろうと万人に平等に訪れる。それが今か未来かの違いしかない。
その程度の認識。西行寺幽々子という亡者の毒に侵され続けてきたから、死という概念を希薄に捉えるようになったのかもしれない。

「一週間前に母さんから連絡があったんだ。『父さんが病床に臥した』ってな。もう長くはもたないらしい。だから私とまた暮らしたい…って一方的に言われたよ。私が家を飛び出してすぐに年の近い男の子を養子にしたくせにここにきて突然親らしい事をされてもな…」

十五年間何もしてくれなかったくせによ、と苛立ちと悲哀を含んだ声をかつて魔法使いであった少女は絞り出す。

「だけど…」

魔理沙の口元が弧の字を描く。

「やっぱり家族なんだな。嬉しかったよ、一緒に暮らすって言われたらさ」

照れた言い回し。頬が紅く染まっているのが傍目からもわかる。
魔理沙もずっと迷い続けていた。そして偶然にも同じタイミングで肉親と久しい再会を遂げる。それは妖夢の中に親近感を生んだ。

「嬉しいんだね」

「ああ」

魔理沙は笑っている。素直な混じり気のない笑みにつられて妖夢も嬉しい気分になる。

「だから、お別れになっちゃうんだ」

「ああ」

それは妖夢にはどうしようもない事実。魔理沙は人間として生きることを選んだ。その時点で彼女は妖怪と人間の捕食と退治の関係に身を投げ出したということ。『魔法使い』と『ニンゲン』は違う。

「もう私には弾幕もスペルもない。ただの道具屋さ」

妖怪と人間が寄り合うことは幻想の理に反する。

「それで――」

いいの、という疑問を妖夢は飲み込んだ。魔理沙は既に決意している。それを妖夢が引き止めたいだけ、個人のエゴでしかない。幸せを奪うことなどできはしない。

「幸運を祈るよ。魔理沙に会えて嬉しかった」

妖夢は右手を差し出す。

「私もだぜ」

魔理沙はその手を握り返す。そういえば、一度は剣を交え、何度か異変を共に解決したり宴会で話したりする仲であったのに、こうして手に触れる事は初めてだなと思う。生きている、人の熱さ。少し湿った感触があった。
幽々子にも魔理沙のことを報告すべく、彼女に粗茶と茶菓子を遣り居間で待たせ寝室へ呼びにいく。

「幽々子様、いらっしゃいますか」

襖越しに声をかけるが返事はない。

「幽々子様…?」

沈黙。襖へと手をかける。心の中に浮かぶのは焦燥。部屋の中からは死気も生気も感じられない。普段なら起きているはずのない時刻。
だから妖夢はゆっくりと襖を開く。
そこには―――誰も居ない。
静かすぎる部屋。
臺や掛け軸が床を彩る中、ぽつんと中央に敷かれた布団に目が止まる。
掛け布団が乱れていることもなく、綺麗に整えられている。手を触れても幽々子の温もりはそこにない。

「幽々子様」

足がふらつく。自分の身体とは思えない。
きっと自分が剣技を研いている間に起きて、白玉楼のどこかへ向かわれたんだ、と自分に言い聞かさなければ身体を動かすこともできなくなっていたであろう。
白玉楼は広くも作りは単調で、土間、台所、洗面所、考えられる場所全てを簡単に見て回ることができた。
が―――彼女はどこにも居ない。
どうして、何処に、なぜ。
理由も目的も原因もわからない。
ただ
幽々子が
いないという
現実。
妖夢には堪えられない。
喪失感。之までの日々が只、忘れ去られるだけの記憶となってしまう恐怖。胸を締め付けられる感覚を必死に深呼吸をして紛らわせる。
妖忌に助けを求めようにも、彼は三日前から村里へ子供たちに剣術の指導を行うため出かけており、ここには居ない。
魔理沙。駄目だ。これは冥界の――妖夢自身の問題であり、偶々居合わせただけの彼女に手助けを借りるなど出来る訳がない。
縁側へと足を進める。もちろん、ここにもいない。
しかし、そこから見る庭の景色に先ほどまでとのズレを感じた。
鮮やかさがある。
それは散る桜の花弁が増えている…から。
違う。薄紅色の桜。日光に照らされ妖光を放つ。
異質さ。これまで見てきた冥界の桜とは明らかに違っていた。
花弁一枚一枚に宿る妖力。それが異質さの正体であり、本質的に幽々子のモノと近い印象を受けた。
手を伸ばし触れる。
軽く手のひらに舞い落ちた筈が、触れると同時に消滅した。もう手には何も残っていない。
只の桜ではない。そのことが意味するは一つ。
西行妖。
永い永い時間の中、人の命を吸い妖力を蓄えてきた―――故に幽々子の亡骸で封印され決して咲くことのなかった妖怪桜。
何度も耳にしたその言葉を再び心の中で反芻する。
かつて魂魄妖夢は西行寺幽々子の命により『春』を蒐集していた。
西行妖の開花。幽々子の願い。
何故咲くことがないのか、何故幽々子は開花を望むのか考えることなく、言われるまま『春』を集めていた妖夢。
『春』を集める。それは幻想郷の『春』を奪うということ。
自分の行為が多大な影響を与えるとは考えてなかった。
そしてもう一つ、自分の考えの至らなさを呪う事象。
西行妖の開花は妖怪桜を囲む結界の解放を意味する。解放―――封印が解かれるとは西行妖に下ろされた錠を消し去るということだ。
つまり――西行妖の開花と西行寺幽々子の霊的消滅は同義。
博麗の巫女、黒白の魔法使い、白銀のメイド。たかが人間と侮っていた人間たちによって『春』を集めることは失敗に終わった。
幽々子が何故自ら消えゆくことを選んだのか。
妖夢にはわからない。だが、三人のニンゲンたちの前に立ちふさがった幽々子は自らの願いを叶える気などないように思えた。もちろん、本人に問う機会も気も無かったから妖夢の認識である。
ならば、と妖夢は宿した僅かな妖力だけを残し実態を消滅させた花の為開いた右の拳を強く握る。その動きで風が生まれ妖艶な妖怪桜の花弁が四方へ不規則に揺れる。
行こう。目指すは西行妖。冥界の最深部、幽々子の眠る場所。

「何処に行くつもりだい」

それは開け放たれた襖の奥から聞こえる――霧雨魔理沙の声。
振り返る。後方に立ちこちらを伺っている事は気づいていた。
居間で別れた時と同じ格好。しかし、それだけで妖夢を騙す事はできない。

「邪魔をするな」

でないと切る、妖夢の言葉に魔理沙―――いや、魔理沙の姿と声を真似たソレは笑う。

「刀もなしに切れるのかい」

魔理沙の両手に握られた刀、右の白楼剣と左の楼観剣、二口の鞘をぶつけ鈍い音が響く。
もう妖夢に武器はないという彼女の余裕が気配でわかる。
だが果たして――

「本当に、そうかな」

口元を歪め、妖夢は駆ける。突然の行動に戸惑いつつもソレも妖夢の後を追う。
早く、早くと脳が身体に信号を送る。振り返らずとも勢いの伴う地を蹴る足音で後ろとの距離は把握できる。西行妖、耳にしたことはあっても目にしたことのない妖怪桜までの道のりは、空に散らばる花弁がその妖力をもって教えてくれる。
裸足の足を砂利が刺激する感覚。草履や靴を履いていては感じることのなかった痛み。生きている証。
身体が火照る。息が上がる。
冥界の深層へ進み、世界は暗く塗り替えられる。すでに視覚はあてにならず、頼れるのは西行妖の放つ妖力のみ。見えないゴールまで、あと少しと言い聞かせ働かせる四肢。それが限界を迎えるよりも先に目標が闇を切り開いた。
薄紅と紫、混じり合い淡い輝きを放つ巨大な桜。人の心を惑わし、死を誘う。美しさと破滅を連想させる妖怪桜。
だが、妖夢は見とれる事なく視線をその下へ向けていた。
眠るように倒れている幽々子。息が切れつつあることも忘れて駆け寄り、そして気づいた。
それは西行妖の見せる幻影であり、幻影の中にある実体は二口の刀。
気づいて直ぐに考えを変え、両の手で一口ずつ駆け抜けざまに手にし、妖怪桜を差にするように身体を反転させた。魔理沙の形をしたモノを待ち構える。先程まで乱れていた呼吸も、全力疾走で酷使した全身も、僅かな時間で回復している。半人半霊といえど半分は幽霊である。
右手に握るは長刀、妖怪の鍛えし生と死の概念を超えた幽霊さえも消滅させる楼観剣。
左手に握るは短刀、魂魄家に代々伝わりしヒトの迷いを断つ白楼剣。
もはや身体の一部とも言えるほど馴染んだ刀の冷たい感触が掌を伝わる。
両の刀も紫の輝きを放つ。幽々子の妖力。彼女の残した想いを妖夢は受け取った。幻想から顕現した二刀。
ソレは妖夢に遅れ、闇の中より姿を表す。
距離は約三十メートル、飛びかかれば数歩の位置。

「ひとつだけ聞いておきたいことがある」

妖夢は動くではなく、問う。

「本物の魔理沙はどこへ行った」

「それを私に答えろと?」

ソレは口を歪ませる。

「無理にとは言わないさ」

今の妖夢には魔理沙と同じ姿形をした目の前の物体に嫌悪感しか抱かない。外枠だけ真似たところで人の本質は変わらない。だから妖夢は純粋さの欠片もないソレの存在に気づくことが出来た。

「切れば分かる」

「恐ろしい半人だ」

先に踏み込んだのは相手だった。
妖夢は必然的に楼観剣で二刀を受け止める。刀が同じなら、技量が勝敗を決するとはこの戦いでは言い難い。妖夢の刀は幽々子の妖力が宿っており、ソレの刀には―――

「ひとつだけ教えてやるよ。夢は幻想よりも奇なりってね」

二刀を楼観剣で去なし、白楼剣で一撃を入れる算段を立てていた妖夢は、力負けした。
魔理沙という剣術を習っていない初心者の姿に先入観を抱いたことも起因する―――動きはただ乱雑に剣を振り回すだけの初心者であるが、一つ一つの斬撃が重い。幽々子の力を含んだ刀であっても扱う者の肉体的力の差は相手に分がある。本当に、それだけか。
夢。これは夢だ。
何度も何度も振り翳される刀を前に防戦を強いられる。腰を据え、待ち構えているのに相手の力に押され、少しずつ後退る。

「どうしたどうした。先刻までの威勢は!」

切羽詰まり、言葉を返すこともできない。
少しでも隙ができれば―――隙はある。ソレはまともに剣を扱ってなどいない。隙だらけの動き。乱雑。刀とは只振り回せばいいというものではない。そもそも剣に慣れていないのならば別の手段で妖夢に攻撃を仕掛けるほうが自身への危険も少ない。それはつまり

「なるほどね」

身を数歩分引いた妖夢は一言口にする。
夢。帰還した妖忌。魔理沙の姿をした物体。消えた幽々子と開花した西行妖。そして残された楼観剣と白楼剣。
もっと早くに気づくべきだった。

「私はまんまとあなたに呑まれていたわけね」

ソレは切ることをやめ、動きを止めた。

「切る必要なんかないんでしょう。武器になりさえすればなんでも」

この世界であなたにはそれで十分なんでしょ、と妖夢は言う。

「ああ、そうさ」

ソレは認める。
ここは妖夢の世界でもあり、ソレの世界でもある。
妖夢の夢。五感を刺激する現実味を帯びた夢。未だ覚めることのない。

「君が西行寺幽々子にいらぬ入れ知恵をされたから私は君の夢に侵入した。魔法使いの彼女が君の夢に現れたおかげでこんな姿をしているけれど君を欺けなかったのは残念だね。だけど私は夢を修正しなければならないのさ」

幽々子の入れ知恵。既視感だけの確証のない夢で言われた言葉と記憶。
デジャビュ。
やるべきこと。
手は差し伸べた。
これもまた夢。
同じ、夢。
過去の幽々子だけが―――幻想。

「私はこの夢を終わらせる」

覚めない夢なんてない。
白楼剣を鞘に収め、妖夢は楼観剣に力と想いを込める。

「できるのかな、君に」

ソレも刀を構え直す。
先に動くは妖夢。
距離を縮め薙ぐ。
しかし、寸でのところで身を後ろに下げ躱される。
それでも切る、斬る、伐る。
間髪置かぬ斬撃で相手に反撃の間をつくらない。
だが、一撃も当たらず、掠ることもない。
ただ、無為に体力だけが削がれていく。
ソレは刀を振りかざさない。
妖夢の剣を避けるだけ。
斬ると避けるでは体力の消費も圧倒的に違いがでて、勝敗を大きく左右する。
一撃。
一瞬の事。
妖夢の身体が宙を舞う。
辛うじて楼観剣で防いだものの、その一撃は早くて重い。
手が震え、刀も震える。
地に倒れ伏す身体。髪を掴まれ、ソレと顔を見つめ合う。
魔理沙であり、魔理沙でないモノ。胸の奥に湧くのは吐くことの許されなかった怒り。
身体的な能力の差ではない、ここは『夢』。
だから『幻想』という存在が幾ら強力なものであろうと、この世界は幻想ではない。

「何度試そうと、君が私に太刀打ちできないのはそういう事さ幽々子が身を呈して渡した君への鍵も無駄に終わったようだね」

ふぅ、と安心の溜息を吐き、妖夢の瞳を侮蔑と怒りの混じった歪んだ目で見据える。
まだ、妖夢の瞳には輝きが灯っている。それが気に食わないように。

「言ったわよね」

妖夢は穏やかに言い放つ。諦めなど心にないしっかりとした口調。

―――夢は幻想よりも奇なり、って

刹那、横薙ぎの風が肌をすり抜けた。
崩れ落ちるは夢の化身。上半と下半、分断された身体は動くことも叶わない。
妖夢は支えを失い倒れた身体を起こす。
崩れ落ちた姿が魔理沙から変わることなく、散りゆく桜吹雪に埋もれ身を染めてゆく。
ソレは既に動く様子もなく口を開くこともない。呆気のない幕引きはソレの過信に起因する。
終わった―――だが、まだ終わらない。
切り裂いた妖忌を見遣る。これまでと変わらぬ従容たる面持ち。妖夢の記憶が思い描く理想の姿。
ここはソレの夢である以前に、妖夢の夢。妖夢の願いは叶って然るべき世界であり、それを今叶えたということ。

「まだまだ、未熟だな」

変わらぬ落ち着いた口調だが目元が笑っている事に妖夢は気づいている。これも夢、妖夢が願った事だと分かっている。それでも嬉しさが胸に込み上がる。

「帰ってくるときまでにはもっと腕を上げていますよ」

―――だから待っています。

言葉が伝わるわけではないが、痛みも匂いも息遣いもどれもが現実めいたここでは自然と口から言葉が出た。
妖忌の手が肩に触れられる。刀で鍛え上げられた厚い皮膚と半人の体温が布越しに伝わる。このまま、祖父の手を掴みこの場に残るという考えが浮かび上がり、即座に振り払う。
別れは辛いものであるが、この別れは永遠ではない。希望のある別れ。そして今、妖夢を待つ者がいるという覚悟が彼女の心を引き締める。もう後ろは振り返らない。

「師匠。魂魄妖夢―――いきます」

師の息遣いは消えた。妖夢は幻想の、紅くとも紫とも見える妖力で覆われた二刀を天高く振りかざし―――斬る。
夢は覚めるから『夢』という。



桜が舞う。白玉楼の庭はいつになく落ちた花弁に埋もれていた。ただの桜。西行妖を見た今、美しいという感情はわかない。何日、何十日と手の付けられていない風景。一歩一歩、歩く度に生まれる風で花弁は舞い上がる。
まず向かうべき場所は一つ。
足元に桜を纏わらせたまま幽々子の寝室の襖をゆっくりと開く。主人である亡霊は眠りについていた。覚めることのない夢の中に囚われたまま。幽々子が消えず、この場にいるという安心感。彼女の助けで妖夢はここにいる。ならばやるべき事はただ一つ。
―――行こう。
妖夢は飛ぶ。
目指す先は幻想郷。
この異変を終わらせるために。
幻想郷へ向かうということは必然的に冥界と幻想郷を結ぶ石段を通らねばならない。その石段を見下ろす。来るものを威圧するかの如く長く、高く築き上げられてきた。身体を鍛えるため何度も駆け下りた駆け登ったことを思い出す。もう笑って思い出せるほど遠い過去。一段一段が過去と未来を積み重ね、歴史をつくる。
多くの歴史の重なりを越え、幻想が雲の向こう、姿を表す。
懐かしさが浮かぶよりも先にこちらの世界が夢なのではないかと疑うほどの静寂が目前に広がる。妖精たちのいる魔法の森も、天狗たちの暮らす妖怪の山も、月人の潜む迷いの竹林も、人間が協同し築いてきた人間の里も、そしてそれらを包み込むこの空にもヒトの気配が存在しない。作り物めいた景色に幻想郷が箱庭であると認識させられる。狭く閉鎖的な世界。ヒトの営みはなくとも風は吹き、川は流れ、陽は落ちる。余分なモノが全て抜け落ちた今、どんな瑣末なことも聴覚、視覚を刺激する要素となり幻想郷の別の顔と対面する。
どこまでも、静かだ。
正確にはヒトが生み出す雑音がない。無でなければ音は存在する。木、水、風。これではこの幻想のほうがよっぽど夢らしい。
妖夢は進む、この異変を起こした妖怪の元へ夢ではない幻想の中を飛ぶ。
肌を撫でる風は冷たさを残しまだ春の残り香を感じさせる。静かに、風を揺らす音だけが聞こえる。
幻想郷の狭い空の中、それは直ぐに見つかった。
右は紅く直線的で左は白く生物的な羽。
髪も同様に紅白のコントラスト。
生と死を司る二色。
特徴的な自然的でない色合いは嫌でも目に付く。
ただ一人、空に浮かんでいる。
今の妖夢と同じ、孤独。
だが瞬刻でそれも終わる。
妖夢は友、そして主人の元へ。
妖怪は永遠と続くであろう常闇の中へ。
妖夢の心に迷いなどなく、夢を終わらせるという至って純粋な思考が支配していた。
だから―――

一閃。

―――夢は、覚める。



異変の終焉に八雲紫は笑う。
妖怪の起こす異変を人間が解決する、シンプルでそれゆえに終わることなきルーチン。
元凶はなにか、妖怪でも賢者でもなく幻想の意思。幻想郷の確立と同時に人間と妖怪の関係も一つの方向に定められた。喰い、喰われ。退治し、退治される。
いつまでも、いつの時代も紫は見つめ続けてきて変わることのない関係に一種の諦めのような感情も生まれ始めたのが事実だ。終わりも始まりも今となっては果てしない。
だからちょっとした遊び心を抱くのは仕方のない事だという自覚もある。
大きすぎる力を持つ妖怪が起こす異変は現実にも影響を及ぼすため、解決は現実と幻想を隔てる博麗大結界の管理者である博麗の巫女が人間として解決に尽力する。
だが、もし博麗の巫女の力なく異変を解決したらどうなるか。
幻想に対する無益な戯れ。
そのために博麗の巫女には他の人妖たちと同じく異変の影響を受けてもらい、旧友である幽々子の従者が人間の中で扱いやすく妖怪と渡り合える力を持つ為解決に動いてもらった。
しかし、予想はついていたが巫女の協力なく解決したからといって何かが変わることは無かった。
所詮、一妖怪に幻想の意思などわかるはずもなく、博麗の巫女の介入は解決の必要条件というわけではない収穫があった事だけでも喜ぶべきかと不服ながらも納得するしかない。

幻想は夢よりも奇なり。

例えこの幻想郷を作り出した賢者といえど幻想という存在については知らぬことは多い。
だから八雲紫は幻想郷を愛してゆける。




魂魄妖夢は断続的に振り続ける雪に見とれ、寒さに身を縮めながら人里で買い物のために幾つかの商店を渡り歩いていた。異変以来に訪れた幻想郷は活気が溢れている。
異変が異変であったことにも気づかず知ることもないであろう人間たちは年越しが迫っているからか人通りが多く妙に浮かれた雰囲気を感じさせる。妖夢自身も雪は珍しくこういう場でなければ触れてはしゃぎたいという思いがある。
年明けまで備蓄できる量の野菜、肉類など冥界では揃えられない食材を買い揃え、あとは粟や米を手に入れれば白玉楼へ戻り広大な屋敷の掃除を手伝わなければならない。幽々子が掃除は一人で任せて年越し用の食べ物を買ってきてと言ってはいたものの主人に労働を強いるのは心苦しくなにより一人でどうにか出来るほどの広さではない。
手早く買い物を済ませてしまおうと歩を早めたとき人ごみの中で見つけた。
金色の髪は服装こそ他の人間たちと同じであろうと目立つ。

「魔理沙」

突然かけられた声に魔理沙はびくりと身体を震わせながら妖夢へと振り向く。その両手には荷物を胸いっぱい抱いている。
妖夢は自分が彼女と会うのは久しはずなのに懐かしいと感じないのは夢であった時と姿が変わらないからと気づき驚く。

「久しぶりね…その格好は?」

うん?と疑問混じりの戸惑いを見せる魔理沙。

「前にも話した記憶があるが…いや、お前と最後に会ったのはそれよりも随分前だったから違うのか」

魔理沙自身が混乱の内にあるような物言い。
もしやと思い妖夢は異変の夢の中で聞いた魔理沙の事を話すと魔理沙は驚いたように口を開け、異変の中で聞いたことだと話すと少し考えた後に納得した。

「私も全く同じ夢を見たぜ」

だけど、と言葉を続ける。

「おかしな話、居間でお前から待たされていたところからの記憶が無いんだよなぁ。それまでは現実よりも鮮明に覚えてるのに…」

「それは―――」それは夢に飲まれたからだとは妖夢は言わなかった。
魔理沙も言葉の続きを気にする素振りは見せずに「年末だし忙しいだろ。また時間があるときにでもゆっくり話そう」と言ってきたので別れた。

妖夢はそのまま白玉楼へと戻り、まだ買い物が済んでいないことを思い出した。
ちょっと妖夢ちゃんを虐めたくなっただけです。
森矢司
http://www.pixiv.net/member.php?id=303044
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コメント



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1.100奇声を発する程度の能力削除
美しくて素晴らしいお話でした
5.100名前が正体不明である程度の能力削除
足りない妖夢。