迷子の女の子を見つけた。
年の頃は七、八歳くらいだろうか。
「…………」
一瞬、見て見ぬふりをしようかとも思った。
ここは人里で、周りには多くの人が行き交っている。
あえて私が声を掛けなくとも、きっと数分後には別の誰かが声を掛けるだろう。
でも。
この子はその数分間を、不安に満ち満ちた心のままで過ごすのかと、そう思ったとき。
私は、その子の手を取っていた。
ガラじゃないな、とは思ったんだけどね。
「お姉ちゃん、お名前なんていうの?」
「アリスよ」
「どこにすんでるの?」
「魔法の森よ」
「なにやってるの?」
「人形作りとか」
「ふーん」
女の子は私の手をぎゅっと握りながら、絶え間無く質問を投げ掛けてくる。
正直、ちょっとめんどくさいとも思う。
別に、子供が嫌いというわけではない。
人里で人形劇をしているとき、子供が笑顔で拍手をしてくれるのは嬉しい。
でも、だからといって必要以上に踏み込みたいとは思わないのだ。
「あ、わたしのおうち」
女の子が指差した一軒家を見て、私はその小さな手を離した。
「あっ」
「じゃあ、バイバイ」
名残惜しそうな子供の視線に気付かないふりをして、私は微笑みながら手を振った。
これでいい。
これでいいのだ。
すぐ後ろから声。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさい。遅かったのね」
ほら、ね。
あの子の今日から、もう私は消えた。
「…………」
顔に張り付けていた笑みを取り去る。
辺りは夕闇。
直に日も沈むだろう。
ふわりと宙を舞う。
「…………」
昔から一人でいるのが好きだったし、馴れ合いは好きじゃない。
宴会の席で馬鹿騒ぎをするより、一人で嗜む程度に飲む方が好きだ。
「…………」
だから私は、これでいい。
悩みなんて無いし、何も感じないもの。
すっかり日が暮れた頃、私は自分の家の前に降り立った。
「……え?」
明かりが、点いている。
「……なんで」
消し忘れ……は、ありえない。
魔力で灯すランプなのだから、私がいないときに点くはずがないのだ。
「……あ」
玄関の結界が解除されていた。
嫌な予感がする。
そしてこの予感は、おそらく当たる。
「よ。遅かったじゃないか」
「…………」
人様のソファに、我が物顔で腰掛けているあなたは一体何様なのよ。
「お客様だぜ」
ああいえば、こういう。
「……どうやって入ったのよ」
「どうって、普通に結界を解除して」
「ピッキングは犯罪よ」
「失敬な。魔法使いとして、ちょっと腕試しをさせてもらったまでだぜ」
ご丁寧に、ランプまで点けちゃって。
「魔力式なんて、燃費悪いぜ。油を燃やせばいいのに」
「それはあなたの魔力が足らないだけ」
「むぅ……」
魔法使いとしては、まだまだ半人前ね。
そんな私の嫌味を気にする風でもなく、魔理沙は言った。
「なあ、アリス」
「なによ」
「この本、貸してくれよ」
「……また? この前もそう言って持って行ったじゃない」
「持って行ったんじゃない。許可を得た上で借りたんだ」
どうせ貸すと言うまで帰らないくせに。
ある意味、脅迫だわ。
「だってしょうがないじゃないか。貸してくれないなら、ここで読むしかないんだから」
「……はあ。まあ、いいわ。でも、なるべくすぐに返してね」
「にひひ、助かるぜ」
嬉しそうに笑って、ごろりとソファに転がる魔理沙。
結局、帰る気は無いらしい。
「ああ、そうだ」
「? なに?」
まだなんかあるの、そう言いかけた私に。
「おかえり、アリス」
「……え?」
「いや、まだ言ってなかったと思ってな」
「…………」
なんでもないことのようにそう言って、魔理沙はまた笑った。
「…………」
昔から一人でいるのが好きだったし、馴れ合いは好きじゃない。
それは今でも、変わらない。
なのに、なぜか。
「……ただいま」
張り付けた覚えのない笑みが、いつの間にか私の顔に浮かんでいた。
了
年の頃は七、八歳くらいだろうか。
「…………」
一瞬、見て見ぬふりをしようかとも思った。
ここは人里で、周りには多くの人が行き交っている。
あえて私が声を掛けなくとも、きっと数分後には別の誰かが声を掛けるだろう。
でも。
この子はその数分間を、不安に満ち満ちた心のままで過ごすのかと、そう思ったとき。
私は、その子の手を取っていた。
ガラじゃないな、とは思ったんだけどね。
「お姉ちゃん、お名前なんていうの?」
「アリスよ」
「どこにすんでるの?」
「魔法の森よ」
「なにやってるの?」
「人形作りとか」
「ふーん」
女の子は私の手をぎゅっと握りながら、絶え間無く質問を投げ掛けてくる。
正直、ちょっとめんどくさいとも思う。
別に、子供が嫌いというわけではない。
人里で人形劇をしているとき、子供が笑顔で拍手をしてくれるのは嬉しい。
でも、だからといって必要以上に踏み込みたいとは思わないのだ。
「あ、わたしのおうち」
女の子が指差した一軒家を見て、私はその小さな手を離した。
「あっ」
「じゃあ、バイバイ」
名残惜しそうな子供の視線に気付かないふりをして、私は微笑みながら手を振った。
これでいい。
これでいいのだ。
すぐ後ろから声。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさい。遅かったのね」
ほら、ね。
あの子の今日から、もう私は消えた。
「…………」
顔に張り付けていた笑みを取り去る。
辺りは夕闇。
直に日も沈むだろう。
ふわりと宙を舞う。
「…………」
昔から一人でいるのが好きだったし、馴れ合いは好きじゃない。
宴会の席で馬鹿騒ぎをするより、一人で嗜む程度に飲む方が好きだ。
「…………」
だから私は、これでいい。
悩みなんて無いし、何も感じないもの。
すっかり日が暮れた頃、私は自分の家の前に降り立った。
「……え?」
明かりが、点いている。
「……なんで」
消し忘れ……は、ありえない。
魔力で灯すランプなのだから、私がいないときに点くはずがないのだ。
「……あ」
玄関の結界が解除されていた。
嫌な予感がする。
そしてこの予感は、おそらく当たる。
「よ。遅かったじゃないか」
「…………」
人様のソファに、我が物顔で腰掛けているあなたは一体何様なのよ。
「お客様だぜ」
ああいえば、こういう。
「……どうやって入ったのよ」
「どうって、普通に結界を解除して」
「ピッキングは犯罪よ」
「失敬な。魔法使いとして、ちょっと腕試しをさせてもらったまでだぜ」
ご丁寧に、ランプまで点けちゃって。
「魔力式なんて、燃費悪いぜ。油を燃やせばいいのに」
「それはあなたの魔力が足らないだけ」
「むぅ……」
魔法使いとしては、まだまだ半人前ね。
そんな私の嫌味を気にする風でもなく、魔理沙は言った。
「なあ、アリス」
「なによ」
「この本、貸してくれよ」
「……また? この前もそう言って持って行ったじゃない」
「持って行ったんじゃない。許可を得た上で借りたんだ」
どうせ貸すと言うまで帰らないくせに。
ある意味、脅迫だわ。
「だってしょうがないじゃないか。貸してくれないなら、ここで読むしかないんだから」
「……はあ。まあ、いいわ。でも、なるべくすぐに返してね」
「にひひ、助かるぜ」
嬉しそうに笑って、ごろりとソファに転がる魔理沙。
結局、帰る気は無いらしい。
「ああ、そうだ」
「? なに?」
まだなんかあるの、そう言いかけた私に。
「おかえり、アリス」
「……え?」
「いや、まだ言ってなかったと思ってな」
「…………」
なんでもないことのようにそう言って、魔理沙はまた笑った。
「…………」
昔から一人でいるのが好きだったし、馴れ合いは好きじゃない。
それは今でも、変わらない。
なのに、なぜか。
「……ただいま」
張り付けた覚えのない笑みが、いつの間にか私の顔に浮かんでいた。
了
「いってらっしゃい」
最後の一文でで心が暖かくなった
ガラガラうがい
さすがに孤独をこじらせすぎだろ
このアリスだったら痴漢に惚れそうw
「おかえり」
最後にこのやりとりしたのいつだったっけ……
お話の何処かに
1.女の子とのやりとりを魔理沙は見ていた。
2.アリスの表情からその内心を察した。
3.先回りして「お帰り」
と、はっきりとでは無くてもこんな感じに匂わせる表現があれば良かったのではないかと思う。
流行った二次設定を使うのが悪いとは言わないが、それを何の説明もないまま前提に置かれてしまうと違和感が激しいのよ。
原作を知っている読者は鼻から無視で、「東方は二次オンリー」な読者だけを対象にやりたいってなら、このままで良いんだろうけどね。
最後の笑顔は自分勝手な輩だらけの幻想郷に溶け込んだが故のモノなのか
いやまてよ、図書館のように強盗・破壊・逃走されるよりは
不法侵入だけで済ませてくれてる悪ガキに対する呆れ混じりの苦笑なのか……。
どうであれ暢気な幻想郷もやはり良いですね。
初めて「永」でこの二人を使った時に魔理沙とアリスの関係はこんな感じかなって思いましたね。
なんだかんだ言いながらも、これからもいつも一緒にいるみたいな雰囲気が良かったです。
魔女たちの友情に、アットホームな嬉しさを感じました。
面白かったです!
いきなり「留守中に忍び込まれてもウェルカム」っていうのは、やっぱり変な気がする。
孤独アリスも傍若無人魔理沙もアリだとは思うけど、半歩引いて客観的に考えるとものすごく不自然だ。